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Infection Control Team 抗菌薬の適正使用 平成25年度 モーニングカンファレンス 2013/05/23 松山赤十字病院 ICT (腎臓内科) 岡 英明 スライド請求先:[email protected]

抗菌薬の適正使用 - Japanese Red Cross Society...抗菌薬のよくある間違いⅡ ③「CRPが下がり止まったので、別の抗菌薬に変更しよう」 ・効果判定はやはり臓器症状を重視する

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Infection Control Team

抗菌薬の適正使用

平成25年度 モーニングカンファレンス

2013/05/23

松山赤十字病院 ICT

(腎臓内科) 岡 英明

スライド請求先:[email protected]

抗菌薬のよくある間違いⅠ

①「発熱、WBC上昇、CRP高値だから取り敢えず抗菌薬を投与しよう」

②「解熱してCRPも下がっているので今の抗菌薬を続けよう」

・例えるなら、「腫瘍マーカーが高いから取り敢えず抗癌剤を投与しよう」と同じ

・感受性が判明したら、より狭域でより安価な抗菌薬にde-escalationを

・心筋梗塞、薬剤熱、手術侵襲、血腫の吸収熱、DVTなどでも起こりうる

・効果判定は臓器症状を、より重視する(肺炎なら喀痰量、酸素化、意識、脈拍etc.)

抗菌薬のよくある間違いⅡ

③「CRPが下がり止まったので、別の抗菌薬に変更しよう」

・効果判定はやはり臓器症状を重視する

・悪化してなければ改善とも捉えられる。CRPにはタイムラグあり

・推奨治療期間を満たしたら検査の正常化(CRPやC-Xp)を待たず治療終了を考慮

・変更するのは、新たな感染症の発生を疑って培養を提出してから

④「MICが一番低い抗菌薬を選択しよう」

・MICは低い方が良いが、異なる抗菌薬同士で比較するのは無意味

・組織移行性も考慮する

・移行が問題になるfocusは髄膜炎・眼内炎・前立腺炎・膿瘍etc.

抗菌薬適正使用の効果

耐性菌の減少

目前の患者の予後改善 将来の患者の予後改善

医療費の削減

適切な感染症診断

感染症診断の3本柱

感染臓器

(例)「腸球菌」による「自己弁」の「感染性心内膜炎」 「MRSA」による「透析患者」の「シャント感染」 「風邪ウイルス」による「元気な若者」の「上気道炎」

患者背景 (基礎疾患, 重症度, 腎機能)

微生物

3つが揃えば ・治療薬 ・投与量 ・治療期間 が自ずと決まる

推奨される標準的な治療期間

※最短14日に短縮可能な条件: ①非糖尿病 ②非免疫抑制状態 ③カテーテル抜去済 ④血管内に人工物無し

⑤エコーで心内膜炎・血栓性静脈炎が否定的 ⑥治療開始72時間以内に解熱・血培陰性化 ⑦播種性の感染症(膿瘍etc.)無し

Clin Infect Dis 2011; 52: 1232-1240 サンフォード感染症治療ガイド より引用改変

但し・・・ • 血流障害 • 尿路通過障害 • 気管支閉塞 • 膿瘍 • 人工物 • 免疫不全 etc. の存在下では 治療期間を延長

【症例】 73歳 男性

【既往歴】 ASO・AAAに対してFFバイパス・Yグラフト置換術後

【病歴】 2011年11月膵臓手術を施行。周術期にはCV管理。

術後SSI(非MRSA)を生じたが軽快し12月退院。

12月末に発熱・嘔吐のため再入院し、血培でMRSA(+)。

推奨期間が守られなかった難治例

1/1

2/6

VCM

VCM

VCM

CT; focus不明、心エコー; IE否定

CT; focus不明

2/17

1/17

MRSA(+)

MRSA(+)

再入院

3/5

VCM

VCM

退院後39℃台の発熱を認め他院に入院。 5月上旬に亡くなられた、とのこと。

心エコー; IE否定

3/29

MRSA(+)

3/9

Op

3/7 回診 ⇒ 状態が許せば経食道心エコーを。鑑別はIE, 血栓性静脈炎, グラフト感染。

推奨治療はVCM 6~8週間±リファジン®(RFP)。代替薬はザイボックス®(LZD)単剤。

残念ながら VCM3週間 で治療中止され、4月上旬に退院。

何故、短期間で3回(4回?)も繰り返したのか?

実は、IEが潜在?

投与量が不十分? ⇒ TDMを施行し、VCM トラフ 15~22μg/mlをキープ。 目標の10(15)~20を達成しており投与量は十分!

投与期間が不足?

(13日, 10日, 21日)

⇒ 黄ブ菌は創部や異物(カテ、人工血管、人工弁)に定着し易く、消え難い。 Focus不明=IEや骨髄炎などを想定し、最低4~6wは治療。

青木眞, レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版. 医学書院. 2012

Clin Infect Dis 2011; 52: 1232-40

⇒ 経胸壁心エコーの感度は46~62%と低い! 経食道心エコーでも92~93%。

“Role of echocardiography in infective endocarditis” UpToDate 2012

・敗血症の起因菌 ①MRSA 22.0% ②大腸菌14.0% ③肺炎桿菌 11.8% ④MSSA 9.7% ⑤緑膿菌 9.2% ⑥エンテロバクタ属 7.4% ⑦肺炎球菌 6.0% 日本集中治療医学会 第1回Sepsis Registry調査(2007.10-12)

・死亡のオッズ比

①MRSA 2.7 ②真菌(非カンジダ) 2.66 ③カンジダ 2.32

④MSSA 1.9 ⑤緑膿菌 1.6 ⑥混合感染 1.69

Crit Care Med 2006; 34: 2588-2595

黄色ブドウ球菌菌血症は最も怖い! (SAB;Staphylococcus aureus bacteremia)

臨床的に重要な細菌分類

嫌気性菌

横隔膜より上 → ペプトストレプトコッカス、フソバクテリウム, 他

横隔膜より下 → バクテロイデス・フラジリス

・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生

GPR GNC コリネバクテリウム

リステリア

(→ 食中毒, 髄膜炎)

ナイセリア(淋菌, 髄膜炎菌)

モラクセラ・カタラーリス

・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生

GNR

腸内細菌群 → E.coli, クレブシエラ, 他

ブドウ糖非発酵菌

→ 緑膿菌, マルトフィリア, 他

GPC ブドウ球菌 → コアグラーゼ試験

陽性 = 黄ブ菌(MSSA,MRSA)

陰性 = CNS(表ブ菌,S.lugdunensis,他)

連鎖球菌 → 肺炎球菌

溶連菌, 腸球菌

その他 耐性が強い

PC感受性

+

-

PC ・

CLDM感 受 性

-~+

+

各菌に対する抗菌薬選択(=Definitive therapy)

嫌気性菌

横隔膜より上

横隔膜より下

GNR

腸内細菌群 E.coli, クレブシエラ,他・・・ESBL産生(‐),ESBL産生(+)

ブドウ糖非発酵菌 緑膿菌, マルトフィリア

GPC ブドウ球菌 MSSA

MRSA

MR-CNS

連鎖球菌 肺炎球菌 ⇒ PSSP, PISP, PRSP

溶連菌

腸球菌 ⇒ E. faecalis, E. faecium

CEZ(1世代)

VCM

ペニシリン系

PCG大量(12~2400万U)

CTRX, LVFX, VCM ペニシリン系,CLDM

Β-ラクタマーゼ配合ペニシリン系

CMZ(2世代),カルバペネム系

1~3世代,他

PIPC, CAZ(3世代),4世代,カルバペネム系

ST, MINO

カルバペネム系(CMZが有効なことも)

Empiric therapy と de-escalation (definitive therapy)

Empiric therapy時の抗菌薬選択のポイント ①敗血症性ショックになっていないか?

②最近の抗菌薬暴露、長期入院や施設入所がないか?

③過去の培養結果がないか?

ショック状態で初期治療が外れると予後不良。⇒培養採取後に直ぐ治療開始。 ESBL産生GNRや緑膿菌のカバーを考慮。

耐性の強い緑膿菌やMRSAのカバーを考慮。

緑膿菌は一度使った薬に耐性を獲得し易いので、同じ薬剤は避ける。 MRSA保菌or感染の既往があれば抗MRSA薬を考慮。

カンジダが複数箇所から検出されていれば抗真菌薬を考慮。

重要なのは以下の判断!! ・急いでempiric therapyが必要か? ・グラム染色の結果を確認してからでも遅くないのでは?

④上記が無ければ、安易に緑膿菌をカバーしない!

何でもエンピリックに広域抗菌薬、ではダメ

⇒ ICU関連の感染症疑い患者195人中、真の感染症(=培養陽性)は20%のみ

⇒ 非感染者(80%)の内、4日以上エンピリック治療を受けた患者は死亡率が高かった (オッズ比3.8だが多変量解析では有意差なし)

Antibiotic management of suspected nosocomial ICU-acquired infection: Does prolonged

empiric therapy improve outcome?

Intensive care medicine. 2007 33(8):1369-78

Aggressive versus conservative initiation of antimicrobial treatment in critically ill surgical

patients with suspected intensive-care-unit-acquired infection: a quasi-experimental, before and

after observational cohort study.

The Lancet infectious diseases. 2012 12(10):774-80

⇒ ゾシン+VCMによるaggressive治療(平均12hで開始 & de-escalationあり)は、培養結果判明後に開始する

conservative治療(平均22hで開始)よりも死亡率が高い(27%vs13%;p=0.015)

⇒ Septic shock患者(MAP≦60)に限ってもaggressive群が死亡率が高い(66%vs26%;p=0.0004)

抗菌薬投与量の問題

・日本の保険適応用量はPK-PD理論に基づいていない (ものが多い)

・海外の推奨量の50~70%と少ない ものが多い(特にβラクタム薬)

(一回投与量・投与回数ともに)

量が不足

治療期間の長期化

耐性菌出現

治療失敗

推奨投与量は サンフォードや 『GFR-抗菌薬投与量』の表 etc.を参照

効果の高い経口抗菌薬 (=静注薬との効果の差が少ない)

経口抗菌薬 バイオアベイラビリティ

サワシリン®、オーグメンチン® 90% (CVA:60%)

第1世代経口セフェム(当院採用なし) 99%

シプロキサン®クラビット®、アベロックス® 70~99% *

ミノマイシン® 93~95%

フラジール® 100%

バクタ® 98%

ダラシン® 90%

ザイボックス® 100%

*制酸剤(Mg、Ca、Al)や鉄剤(Fe)により著明に吸収が低下

割愛

よくある外来感染症 外来感染症 頻度の高い起因微生物

急性中耳炎 ウイルス,肺炎球菌

急性副鼻腔炎 ウイルス,肺炎球菌

急性咽頭炎 ウイルス,A群溶連菌

気管支炎 ウイルス,肺炎球菌,百日咳

肺炎 肺炎球菌,マイコプラズマ, 口腔内連鎖球菌(誤嚥)

尿路感染症 大腸菌

急性下痢症 ウイルス,サルモネラ,カンピロバクター

皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎) 黄色ブドウ球菌,A群溶連菌

動物咬傷(ヒト,ネコ,イヌ) 皮膚常在菌,口腔内常在菌,パスツレラ

割愛

外来感染症の経口薬治療 外来感染症 1st choice 2nd choice

急性中耳炎 AMPC AMPC/CVA, ST, 2nd-Cef, MCs

急性副鼻腔炎 AMPC ST, AMPC/CVA, 2nd-Cef

咽頭炎(溶連菌) AMPC* MCs, 1st-Cef, CLDM

気管支炎** AMPC, TCs MCs, NQs, ST, 2nd-Cef

肺炎 AMPC, 2nd~3rd-Cef

±MCs or NQs

AMPC/CVA, 2nd~3rd-Cef, TCs

尿路感染症 NQs AMPC, ST, 1st~2nd-Cef

皮膚軟部組織感染症

(蜂窩織炎) 1st-Cef MCs, 3rd-Cef, AMPC/CVA

動物咬傷(ヒト,ネコ,イヌ) AMPC/CVA 2nd-Cef, TCs

* EBVの咽頭炎(伝染性単核球症)では皮疹に注意。PCGでは出ない。 ** 慢性呼吸器疾患の既往や百日咳(疑)の場合を除き抗菌薬不要。

赤字は吸収率の高い薬剤

割愛

抗菌薬だけじゃない!感染症治療のトライアングル

病原菌

患者 医師

毒素

耐性化

膿瘍

バイオフィルム

敗血症 免疫力

細菌叢 =microbiome

抗菌薬 外科的処置

経腸栄養

probiotics

bacterial translocation

抗菌薬が感染症を増やす?

・無症候性細菌尿に抗菌薬を投与すると尿路感染症が増える

・単純性膀胱炎を長期間治療(7日以上)すると再発が増える

・有効な抗菌薬を投与中に発熱やWBC/CRP上昇が見られたら…

偽膜性腸炎(CDAD;clostridium difficile associated diarrhea)もしくは薬剤熱を疑う!

JAMA internal medicine 2013; 173: 62-68

Clin Infect Dis 2012;55: 771–777

若い女性で。無治療では大腸菌が減り、腸球菌の定着が増える ⇒ 防御機構?

しばしば経験してしまう有害事象 ・電解質異常

・出血傾向

・皮疹(機序不明)

抗菌薬全般→腸内細菌叢を乱しVit.K吸収阻害

ファンギゾン®、アムビゾーム®)→低K,低Mg バクタ®→高K ペニシリンG®→高K (1.7mEq/100万U)

CMZ®・セフォン®→PT合成阻害でPT-INR↑ ワーファリン内服中の出血リスク ■抗菌薬全体:2.01 ■アゾール系:4.57 ■マクロライド:1.86 ■キノロン:1.69 ■ST合剤:2.70 ■ペニシリン:1.92 ■セフェム:2.45 *オッズ比

ビクシリン®単独で7.5% → アロプリノール(サロベール®)との併用で22.4% (スルバシリン®) 類似薬の尿酸降下薬の*フェブリク®でも経験あり

知っておきたい稀な有害事象 フロモックス®・メイアクト®等による乳幼児の低血糖・痙攣 ;ピボキシル基が関与した低カルニチン血症。2012年度までに38例。

ニューキノロンによるアキレス腱障害 ;頻度 0.14-0.4%高齢・腎不全・ステロイド・リウマチ・DM等がリスク因子。

セフィローム®による偽胆石症 ;大量投与で。0~19%で症状あり。中止のみで自然消失

症例 44歳男性;脳出血

ファーストシン®(4世代) メロペン®

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0

10

20

4月4日 4月7日 4月10日 4月13日 4月16日

CRP WBC

血腫除去Op

(mg/dl) (/μl)

さて、どう考えるか?

• Focusはどこか?

•本当に細菌感染症か?

•起炎菌は何か?

・プロカルシトニンは陰性

・血液培養は陰性、その他培養は未検査

・造影CTでdetect出来ない

・臓器症状・身体所見に乏しい

・肝胆道系酵素の上昇はあるが・・・

・最初はCZOP無効でMEPM有効の菌?

・そしてMEPM無効の菌に交代?

【鑑別】 感染症; ・胆管炎 ・CDAD ・その他感染症(TB, 真菌, SSI-髄膜炎等)

非感染症; ・薬剤熱 ・術後侵襲 ・脳出血

0

5000

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15000

20000

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25

4月4日 4月7日 4月10日 4月13日 4月16日 4月19日 4月22日 4月25日

CRP WBC

ファーストシン メロペン® メロペン®とアレビアチン®を中止 アレビアチン®

【 診断 】 脳出血⁺術後侵襲

薬剤熱

(mg/dl) (/μl)

Take home message

① 感染症ではfocusと起炎菌を意識する

;臓器症状とグラム染色(塗抹)で治療方針はかなり絞られる

② 抗菌薬は 「狭く」 「十分な量を」 「推奨される期間」 投与する

③ 抗菌薬投与中の発熱、CRP/WBC上昇は感染症悪化ではない

;意外に多いCDADと薬剤熱。「メロペン®無効」の原因は限られる

④ ブ菌は楽観視しない

;黄ブ菌は最も危険。表ブ菌も意外にしつこい

スライド請求先:[email protected]