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昭 和30年4月20日 1 横 濱 港 の海水 か ら分 離 せ られ た大 腸 菌群 に就 い て 本 丈 の要 旨は,昭 和26年5月 第5同 公 衆衛 生學 会 に於 い て 口演 した. 第1章 第2章 實 験方法 第1節 海水中の大腸菌群MPN検 査法 第2節 海水 中の大腸 菌群検 索方法 第3節 魚類 の大腸 菌群検 索方法 第3章 實験成績 第1節 横濱港の海水中の大腸菌群MPN及 び衛生 學的検査成績 第2節 海水 中の大腸 菌群 の生物學的性状 第3節 魚類の大腸菌群の生物學的性状 第4章 第1節 潟 水の自然淨化 第2節 海水中の大腸菌群と魚類の大腸菌群 第3節 海水の大腸菌群MPN 第5章 第1章 大 腸 菌 群 の 分 類 に 就 い て はEscherich以 來,生 物 學 的性 状 に よ る多 くの分 類 が試 られ た.次 いで Parrの 提 唱(1936)以 來,Imvic Systemに るColi-Aerogenesの 分類の簡易化が試 られ るに 至 り,Bargeyの 分 類(1939)に 於 て も,Escheri- chiacoli,E.freundii(Citrobacter),Aeroba- cteraerogenes,A.cloacaeの4群 に大 別 され る に 至 つ た.(岡 本,志 村,辻2)よ り引 用). 然 る に近 年,Kauffmann等 の抗原溝造に關す る廣 範 な研 究 は遂 に,大 腸菌 群 に於 て も抗 原 構 造 に よ る分 類 を完 成 し よ う とす るに 至 つ た観 が あ る (福 見3)). 一方所謂水質検査に於ける大腸菌群検査に就い て は,水 道協会協定上水検査法及び同下水検査法 並 に 日本 藥 局 方 常水 判 定 標 準 に よつ て 遠 藤 赤 変 菌 を検 査 す る他,厚 生 省 編 衛 生 検 査 指 針4)に よつ て なされている。 尚 そ め菌 数 算 定 法 に就 い て は,MPN法 が廣 く 行われるようになつた(八 田5)). 横 濱 港 の任 意 の6ヵ 私 共 は横 濱 港 の海 水 の大 腸 群 の 検 査 を行 つ てM PNを 計 算 した.こ の 間 の2~3の 問題 に就 て報 告 す る. 第2章 賓験方法 第1節 横 濱 港 の 海 水 の大 腸 菌 群MPN槍 1.採 水方 法 横 濱 港 の下 記6カ 所 を任 意 に選 定 して,採 水場 所 と定 め,ハ イロー ト氏採水器類似の採水器を用 い て,海 面 より約1米 の所 か ら採水 した. (1)南 桟橋入 口の海上保安鷹等の舟艇のけい 留 場 に あ る下 水 の開 口. (2)内 防 波 堤 の燈台 間 で,堀 川の川 口よ り約 1,000米.(1)の 下 水 口 よ り約1,300米.堀 川の 水 は主 と して 内 防波 堤 及 び陸 岸 に沿 つ て(2)の 向 に流 れ る と云 わ れ る. (3)外 防 波 堤 の 燈臺 間.(1)か ら約2,500米 (4)港 外 の 浮 燈臺 附 近.(1)か ら約3,500米

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昭和30年4月20日 1

横濱港の海水か ら分離せ られた大腸菌群に就いて

横 濱 検 疫 所

岡 本 亨 吉

本 丈の要 旨は,昭 和26年5月 第5同 公 衆衛生學 会 に於 いて口演 した.

目 次

第1章 緒 言

第2章 實験方法

第1節 海水中の大腸菌群MPN検 査法

第2節 海水中の大腸菌群検索方法

第3節 魚類の大腸菌群検索方法

第3章 實験成績

第1節 横濱港の海水中の大腸菌群MPN及 び衛生

學的検査成績

第2節 海水中の大腸菌群の生物學的性状

第3節 魚類の大腸菌群の生物學的性状

第4章 考 察

第1節 潟水の自然淨化

第2節 海水中の大腸菌群と魚類の大腸菌群

第3節 海水の大腸菌群MPN

第5章 結 論

第1章 緒 言

大 腸 菌群 の分 類 に就 い て はEscherich以 來,生

物 學 的性 状 に よ る多 くの分 類 が試 られ た.次 い で

Parrの 提 唱(1936)以 來,Imvic Systemに よ

るColi-Aerogenesの 分 類 の 簡 易 化 が試 られ るに

至 り,Bargeyの 分 類(1939)に 於 て も,Escheri-

chiacoli,E.freundii(Citrobacter),Aeroba-

cteraerogenes,A.cloacaeの4群 に大 別 され る

に至 つ た.(岡 本,志 村,辻2)よ り引用).

然 る に近 年,Kauffmann等 の抗 原溝 造 に 關 す

る廣 範 な研 究 は遂 に,大 腸菌 群 に於 て も抗 原 構 造

に よ る分 類 を完 成 し よ う とす るに 至 つ た観 が あ る

(福 見3)).

一方 所 謂 水 質検 査 に於 け る 大 腸 菌 群 検 査 に就 い

て は,水 道 協 会 協 定 上水 検 査 法 及 び同 下 水 検 査 法

並 に 日本 藥 局 方 常水 判 定 標 準 に よつ て 遠 藤 赤 変 菌

を検 査 す る他,厚 生 省 編 衛 生 検 査 指 針4)に よつ て

なされている。

尚そめ菌数算定法に就いては,MPN法 が廣 く

行われるようになつた(八 田5)).

横濱港 の任意 の6ヵ 所

私共は横濱港の海水の大腸群の検査 を行つてM

PNを 計算 した.こ の間の2~3の 問題 に就て報

告する.

第2章 賓験方法

第1節 横濱港の海水の大腸菌群MPN槍 査

1.採 水方法

横濱港の下記6カ 所 を任意に選定して,採 水場

所 と定め,ハ イロー ト氏採水器類似の採水器を用

いて,海 面 より約1米 の所から採水 した.

(1)南 桟橋入 口の海上保安鷹等の舟艇のけい

留場にある下水の開 口.

(2)内 防波堤の燈台間で,堀 川の川口より約

1,000米.(1)の 下水口より約1,300米.堀 川の

水は主 として 内防波堤及び陸岸に沿つて(2)の 方

向に流れると云われる.

(3)外 防波堤の燈臺間.(1)か ら約2,500米

(4)港 外の浮燈臺附近.(1)か ら約3,500米

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2 日本傳染病學会雑誌 第29巻 第1號

この附近一帯には入港する船 舶が假泊 して待機

する場所である.

(5)第3区 の略 と中央.内 防波堤 と外防波堤

の間.貨 物船数変 が投錨 しているのが常である.

(6)山 の内岸壁の中央市場下で,帷 子川の開

口附近.

(附)横 濱港の海流に就いては こ定のコース

を定めることは困難であると云われている.

2.検 査方法

昭和25年8月 から,同26年2月 までの間に19回,

上記のように 採水した海水を検査室に送附 して,

凡て,約6時 間以内に検査に移 された.

氣温 と水温は採水時の温度を記録 した.

PHは比色法により,標 示藥はMRを 用いた.

NaC1の 定量は クロールイオンか ら換算 した.

KMnO4消 費量の定量はKubel法13)に よつた.

MPNはMcCrayHopkins等 のMPN表5)に よ

つた.

第2節 海水中の大腸菌群の検索方法

MPN検 査のために乳糖加ペプ トン水に37℃

24-48時 間培養 した際,酸 とガスの産生が見られ

た培養 を遠藤平板に分離培養 し,大 腸菌群 と思わ

れる集落を鉤菌 してBGLB培 地に移植する.B

GLB培 地に於て酸 とガスとを産生する菌につい

て生物學的性状を検査 した.

第3節 魚類の大腸菌群検索方法

横濱近郊の魚浦(芝 町)沿 岸で 地曳網で捕獲 さ

れた小魚を直ちに検査室に送附 して 約3時 間以内

に,総 排泄腔から又は腸管からその内容 を白金耳

で採取 し第2節 と同様の方法で大腸菌群の検索 に

努めた.手 指による汚染 を可及的に避けるに努め

た.

第3章 實験成績

第1節 横濱港海水の大腸菌群MPN及 び衛生

學的検査成績

検査の成績は第1表 に示す通 りである.

NaC1は 海水100cc中 に含まれるクロールイオ

ンを硝酸銀液 で滴定 して得た数値からNaC1の 量

に換算した.

KMmO4消 費量は海水100cc中 に含 まれる有機

物を酸化するために消費 したKMnO4の 量で示 し

た.

第2節 海水中の大腸菌群の生物學的性状

人獣に由來し,下 水によつて海水中に排泄せ ら

れる大腸菌群の他に,魚 類に由來する大腸菌群が

あるかも知れない とゆう想像 のもとに,海 水 とい

う特殊な環境に生活する大腸菌群の特徴 を知るた

めに第2章 第2節 の方法によつて分離せられた菌

に就いて,一 般的な方法によつてその生物學的性

状を槍した.

その成績は第2表 その1及 びその2に 表記する

通 りである.こ の成績は日を改めて2同 實施 され

第1表

pH平 均7.79NaCl平 均2287mg/100ccKMnO4平 均.36.42mg/100ccMPN平 均36個/100cc

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昭 和30年4月20日 3

た が,表 の成 績 に変 化 は なか つ た.

表 示 の よ う に,ImvicSystemに よ るEsche-

richiaColiは1株 も分 離 され な かつ た.

Aerobacter aerogenesに 属 す る も のはNo.6

No.24の2株.

中間I型 に属 す る もの がNo.2,No.4の2

株.そ の他 は 凡 てそ の他 の 中間 型 に属 す る もの で

あつ た.

表 に よつ て,稍 と著 明 と思 わ れ る所 見 を摘 録 す

る な らば,

(1)凡 ての 株 はLactose,Glucose,Maltose,

Galactose,Mannitを 分 解 し,BGLB培 地 で酸

(と ガ ス と)を 産 生 す る.

(2)凡 て の株 は,Gram陰 性 で,尿 素 を分 解

せ ず,MR試 験 は 陰 性 で あつ た.

(3)Indolを 産 生 しない 菌 株 は2株(No.7

No.24)で あ る.

(4)VP試 験 は1株(No.24)を 除 い て凡 て

陰 性.

(5)Citrate培 地 に於 て は1株(No.27)を

除 い て凡 て発 育 しな い.

(6)Gelatin液 化 能 は1株(No.27)を 除 い

て 凡 て 陰 性.

(7)Inosit分 解 能 は(No.7),(No.9)を 除

い て凡 て陰 性.

(8)Xylose分 解 株 も亦 少 く,No.39,No.40

を除 い て凡 て陰 性.

(9)運 動 が認 め られ な い もの が3株(No.27

No.32,No.39)で あつ た.

(10)Mannose,Saccharose,Inulin,Dulcit

の分 解 株 と非 分 解 株 は 約 相 半 す る.

第3節 魚 類 の大 腸 菌 群 の生物 學 的 性 状

芝 町 沿 岸 で網 に よつ て 捕 獲 せ られ た小 魚 か ら検

索 し得 る 大 腸 菌 群 に就 い て,主 と して,Imvic

Systemの 検査 を行 つ た成 績 は 第3表 の 通 りで あ

つ た.

表 に示 され た よ う に,Coli-Aerogenesを 保 有 す

る魚 は極 め て少 か つ た.又 魚 よ り分 離 せ られ る場

合 に於 て も,1匹 か ら,僅 々1種 類 しか分 離 せ ら

れ なか つ た.

「ぼ ら」に於 て は9匹 中2匹 か ら,Indol産 生 能 と

運 動 に於 て互 に他 と異 る1株 ず つ分 離 され た.運

第2表 その1

桿菌

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4 日本傳染病學会雑誌 第29巻 第1號

第2表 その2

動 を示 さない1株 はIndolを 産生する點等に於て

海水中か ら分離せ られた運動を示 さない菌 と異つ

ている.

「せいご」に於ては12匹 中4匹 より1種 ずつ分離

され,そ の中1株 はキシローズ,ガ ラクトーズを

分解 しない點 に於て,他 と異 るか,他 の3株 は検

査 した範園では同一種であつた.こ れら4株 共凡

てIndolを 産生 し,Citrate培 地には発育 しなか

つた.

「このしろ」に於ては25匹 中3匹 から各々1株 ず

つ分離せられた.こ の3株 共Indo1を 産生 しな

いが,Citrate培 地に発育する點に於て,「せいご」

から分離 されたものと對蹠的である.

第4章 考 察

第1節 海水の自然浄化に就いて

海水の自然浄化に就いては,一 般に老えられる

ように,見 かけの浄化例えば稀釋,沈 澱等 と,實

際の浄化例えば 日光,酸 化,生 存競争等が考 えら

れる6).

而 して,海 水による下水の浄化作用は河川に較

第3表

菌株番號 中先 の数字 は魚 の番號

後 の番號 は同一魚 よ り分離せ られた菌株 の番號

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昭 和30年4月20日 5

べて弱い.そ の理 由の一つは,海 水中の酸素含有

量 が少いためであるとされた7).

.ちなみに100ccの 海水 中の有機物酸化に要した

駅厳mO4は 平均36.42mgで あつた.

今本實験に於て分離せ られた大腸菌群をImvic

Systemに よつて分類するならば,第4表 の通 り

になる.

表に示 される通 り,海 水及び魚 より分離せ られ

た菌は殆んど凡てその他の中間型に属する事が一

揖瞭然である.

この事は,1)次 節に論 じられるように,本 實験

の検索方法のために,Coli群 を検出しないのか,

12)事 實海水中にはColi群 が存在 しない 一 下水

4)開 口の水の検査に於ても同様であるから,下 水

中で読に死滅 しているためであると思われる.一般に下水中にはColi群 が多数存在するもの

と考えられているの と著 しく異つた成績を得た事

になる.又 はColi群 はAerobacterに 先立つて

浄化 されるものであろうか.

何れにしてもMPNそ のものには相違はない.

而 して,各 地點 のMPNの すう勢を見るに,MP

Nは 陸岸を離れるに從つて減少する事が明かであ

る.之 は主 として稀釋 による減少であろうと思わ

れ る.即 ち,

採水地點(1)(6)(2)(5)(3)(4)

100ccの

MPN12.8406.7541.347540226180

(1)を100とす れ ば

1005210411

又福島8)は 大阪港海底の海泥,海 水の大腸菌群

汚 染に就いて報告 したが,そ の成績によれば分離

された菌の細菌學的分類は 明かにされていないが

川 口から遠ざかるに從つて大腸菌群数が減少する

と報告している.後 項の點 に就いては私共の實験

も亦同じ結論を與 えるが,尚 その大腸菌群の分類

がなされるならば,上 記のような浄化の仕方に就

い て比較されるべきであると考 える.

第2節 海 水中の大腸菌群 と魚類の大腸菌群

本實験に於て分離せ られた菌は前節に表示 され

光 ように殆んど凡てその他の中間型 に属する.術

検索の當初に於てLactose Peptone水 中で多種

の菌が平等な発育をするとは限 らず,そ の中Coli

群が比較的速に死滅する事があるのではなかろう

か9).

第4表

又山口10)は淀川分流堂島川で投網で捕獲 された

魚類か ら分離せ られた大腸菌群に就いて論 じ,大

腸菌群は魚類から多数分離せ られ,且 つ生物學的

性状に於て,人 獣鳥のそれと鑑別 しようと試みた

が不可能である事を述べた.

之に反 して,私 共の實験に於ては一 甚だ少数

例なので結論は 今後の研究に俟たなければならな

いが一一 比較的清澄な芝町沿岸の地曳網で捕獲 さ

れた魚か らの大腸菌群の槍出率及び種類が甚だ少

いだ けで なく,検 出 せられた 大腸菌群が悉 く,

ImvicSystem分 類上,そ の他の中間型に属 し,

且つ魚によつて保有する菌の種類が近似する如 く

である.

こゝに於て,村 瀬11),大 林12)等の大腸菌1群の移

植に關する研究を思い併せ るならば,山 口の分離

した大腸菌群 も亦,そ れ らによつて汚染せ られた

川水中の菌 を一過性に保有 したものでなかつたろ

うかと考え,又 魚類は個有の大腸菌を保有 しない

のではないかと推察せ られる.又,魚 の種類によ

つて検出される大腸菌群の種類が異 る如 くである

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6 日本傳染病學会雑誌 第29巻 第1號

のも亦,村 瀬等の研究 と關係があるのではなかろ

うか.

第3節 海水の大腸菌群MPNに 就いて

岡本,志 村,辻2)は 水質検査に於ける遠藤赤変

菌数自口ち大腸菌群数 と見る事の 不適當である事に

留意 して,人 糞便,下 水より分離せ られる遠藤赤

変菌の分類 を試みた.主 としてColiとAerogenes

とのImvicSystemに よる分離に重點 を置いて

いる如 くである.

糞便,下 水 を遠藤平板に分離培養 して分離せ ら

れた菌株445株 は次表のように分類せられる事を

述べた.

余等の實験に於て海水より分離せられた菌株は

殆んど凡てIntermediateで あつた事は既述の通

りである.

ColiとAerobocterと の混合培養に於て,La-

ctosepeptone水 中で酸 とガスとが産生 された上

Coliが 死滅 しても,Aerobacterが 生残 してBG

LB培 地に於て陽性成績 を與えるであろうから,

MPNは 確認試験 によつて 修正されなければなら

ない場合は起 らないが,こ の結果Coliを 分離す

る事なくAerobacterの みを得る事があるのに注

意 しなければならないであろう.

又Coliが 下水中で速かに死滅するために本實

験に於てはIntermediateの みしか得 られなかつ

たのであるならば,海 水の大腸菌群MPNは 主

として,Aerobacterに よるものとなり,且 つ,

Aerobacterが 人以外に 由來するものが多い と考

えられるか ら,海 水の大腸菌群MPNは 衛生學的

意義に於て,そ の価値 を減ずるのではなかろうか.

大腸菌群MPNは 人類由來の大腸菌群による汚

染の指標 として考按 されたものである.

若 し魚類が大腸菌群 を湶有 し,海 水中に排泄す

るものであるならば,大 腸菌群MPN槍 査を海水

検査に應用する場合,上 記考按の意義は殆んどな

くなるとい うべ きである.

然 るに本實験に於て,魚 類は大腸菌群を保有 し

ないと推測 されるので,上 記の考慮は要 しないと

思われる事を附記する.

第5章 結 論

昭智25年8月 から26年2月 まで,横 濱港の海水

の細菌學的及び衛生學的検査 を行つて,次 の結論

を得た.

1.海 水の大腸菌群MPNは,下 水 口,川 口を

離れるに從つて減少する.

2.海 水 を乳糖加ペプトン水に移植して24~4&

時間で酸 とガスとを産生 した培養から遠藤平板に

分離培養 して,大腸菌群21株 を得た中,Imviご 系に

よるEscherichiaは1株 も得 られず,中 問型2株.

Aerogenes2株,そ の他の中間型17株 であつた.

3.魚 の腸内容からの大腸菌群の槍出率は低か

つた.

4.魚 の腸内容から分離 した大腸菌群は凡て.

Imvic系 によるその他の中間型であつた.

5.人 糞による下水の大腸菌群汚染が下水中で

浄化 され,海 水中にはAerobacter及 び中間型が

残存すると考えられる結果を得た.然 るにAero-

bacterは 一般に人以外に由來するものが多いと考

えられているから,本 實験のように海水中にEs

cherichiaを 含 まない場合のMPNは その価値が

少 い と云 わ な け れ ば な らな い.

稿 を終 るに臨み,終 始 御指導御鞭撻 を賜つ た故小林榮

三所長に衷心 よ り感謝 し,御 校閲 を賜つ た豫 防衛生研 究

所 安東清部 長に深 謝致 します.

文 献

1) 岡 本 啓, 志村 武 男, 辻 達 彦: 糞 便 並 び に下 水 よ

り分 離 され た 謂 所 遠 藤 赤 変 菌 の分 類 學 的 研 究, 厚 生

科 學Vo1. 2, p. 13, 昭16. -3)福 見 秀 雄: 最 近 腸 内

細 菌 學 瞥 見, 日本 医 事新 報1391, 3427, 昭25-12-13.-4)厚 生 省: 衛 生 槍 査 指 針 , 1950. -5) 八 田貞 義:

水 の衛 生 細 菌 學, 公 衆 衛 生 學, Vol. 4,No. 3, p.3-129, 昭23-7-25. -6) 廣 瀬 孝 六 郎: 古 屋 芳 雄 監 修 公

衆 衛 生 學. -7) 戸 田正 三: 本 邦 都 市 の下 水 及 び 汚 物

處 理 と魚 介 衛 生, 國 民 衛 生 Vol. 14, No. 1,昭12-1.-8)福 島 発 経: 大 阪 港 海 底 に 於 け る泥 土 及 び 海 水

の大 腸 菌 汚 染 に就 い て, 國 民 衛 生Vol. 16, No. 9-10

昭14-10-30. -9) 松 本 一 郎:2種 腸 内細 菌 を混 合 培

養 せ し時 の 糖 類 分 解 並 び に 瓦斯 産 生 作 用 に 就 い て,

慶應 医 學, Vol. 11, No. 4, 昭6-4-15.-10)山 口静

夫: 各 種 大 腸 菌属 の生 物 學 的 研 究, 國 民衛 生, Vol.

3, No. 4, 大 正11年. -11) 村 瀬 渉: 大 腸 菌 の腸 内

移 植 に 關す る實 験 的研 究, 細 菌 學 雑 誌, 451, 昭 和

8年9月. -12) 大 林 静 男: 拮 抗 作 用 よ り出登 せ る

腸 内細 菌(大 腸 菌 及 び 腸 内病 原 菌)の 腸 内増 殖 の能

否 に 關 す る研 究,細 菌 學 雑 誌, 545, 546, 547, 昭16-7-9.