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第7回 大阪市北ブロック新人症例発表会 会期 平成 28 年 1 月 24 日(日) 会場 大阪コロナホテル 主催 公益社団法人 大阪府理学療法士会 大阪市北ブロック

大阪市北ブロック新人症例発表会 · 22.運動器 転倒により右大腿骨転子部骨折を受傷した一症例 ~再転倒予防を目指して~ 大阪回生病院

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Page 1: 大阪市北ブロック新人症例発表会 · 22.運動器 転倒により右大腿骨転子部骨折を受傷した一症例 ~再転倒予防を目指して~ 大阪回生病院

第 7回

大阪市北ブロック新人症例発表会

会期 平成 28年 1月 24日(日)

会場 大阪コロナホテル

主催 公益社団法人 大阪府理学療法士会 大阪市北ブロック

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症例発表する意義について

大阪市北ブロックでは学術技能を研鑽し、区域における理学療法技術の普及向上を図ると共に、区民の保健・

医療・福祉の発展に寄与することを大きな目的としております。

平成 27 年で理学療法士は 13 万人を越えております。平成 24 年から 27 年までは毎年 9000 から 10000 人の

理学療法士が誕生しております。日本理学療法士協会の会員数の年齢別推移では 40 代以下の会員数が約 80000

人登録されております。今後は単に組織でルーチン業務を淡々とこなすだけで生き残るのが厳しい状況になって

きております。

我々が生き残るには何をすればよいのでしょうか。理学療法士にはマネージメント能力も含めて総合的な能力

がサービスに必要です。世間のニードに対応するには、何かに特化していないと必要とされなくなります。我々

は学術集団です。学術とは原理と応用・技術を含めた学問といった意味があります。我々の仕事は患者様の基本

動作を良くすることです。最近の学会では「EBMが。。。」などと良く耳にします。しかし、EBMはあくまで統

計上の平均値になります。また、一般的な統計データから得られたクリティカルパスも同様です。大事なのはパ

スから逸脱した症例をいかに社会参加させられるかではないでしょうか。また、EBM に出てくる評価方法を無

理やり適応しない症例で評価するのでしょうか。これらの議論は大阪市北ブロックの新人症例発表会の場で行え

ると幸いです。

大阪市北ブロックの新人症例発表会では、新人の先生方の学会発表の第一歩と位置付けても良いですが、研究

の要素を持った症例報告も期待しております。そのためには、発表者と聴講者がより良い議論を提供できる場を

作る最善の努力をさせて頂きます。新人症例発表会の意義は参加者全員が得られた利益を持ち帰ることで患者様

へ還元することです。

大阪市北ブロック 新人症例発表会 大会長

大阪市北ブロック ブロック長

山下 彰

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会場案内(大阪コロナホテル)

JR線新大阪駅 東口出口

東口北側西淡路1丁目方面の階段を降り、右手方向へ歩いて 200m。

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タイムスケジュール

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演題プログラム

10:00~11:20 第1セクション(会場:200A号室) 座長 彩りの都デイサービスセンター 岸 哲史

1.神経系 右MCA・ACA梗塞により重度左片麻痺と高次脳機能障害を呈し、歩行獲得に難渋した症例

JCHO大阪病院 古賀 智希 P.6

2.神経系 Pusher現象を呈した患者に体性感覚と視覚で垂直を認知させた訓練を実施した結果,移乗介助量が軽減した一症例

関西電力病院 崎田 佳希 P.7

3.神経系 左橋梗塞にて右片麻痺を呈し、歩行障害となった症例に対して、立脚後期の改善に取り組んだ一症例

森ノ宮病院 井上 綾 P.8

4.神経系 アテローム血栓性脳梗塞を発症した症例

北野病院 鹿島 愛香 P.9

5.神経系 右ヒラメ筋の痙縮に対し, Phenol Blockを施注した右片麻痺患者の1症例

関西電力病院 掛谷 佳昭 P.10

6.神経系 心原性脳梗塞により高次脳機能障害を呈した症例~課題指向型アプローチによるADL向上を目指して~

名取病院 川﨑 さくら P.11

10:00~11:20 第2セクション(会場:200BC号室) 座長 大阪医療福祉専門学校 菊地 淳

7. 運動器 上腕骨近位端骨折を呈した症例の肩関節屈曲ROM制限の原因について

牧病院 山下 耕平 P.12

8.運動器 肩関節腱板断裂に対して保存的に治療し痛みが消失した一症例

行岡病院 今泉 孝典 P.13

9.運動器 華道教室復帰を目指し治療を展開した人工股関節置換術後の一症例

大阪回生病院 森山 僚 P.14

10.運動器 両側同時全人工股関節置換術施行後、腰椎前弯の増強に着目し歩容の改善を図った一症例

JCHO大阪病院 吉岡 早紀 P.15

11.運動器 ACL再建術後遺症患者のパフォーマンス向上の試み

大阪回生病院 宮崎 喬平 P.16

12.運動器 上肢課題を取り入れた歩行練習により歩容が改善し歩行速度の向上を認めた症例について

大阪暁明館病院 中園 拓歩 P.17

11:30~12:40 第3セクション(会場:200A号室) 座長 北野病院 本田 憲胤

13.神経系 髄膜腫後、左運動野皮質下微小出血により右片麻痺を呈し、麻痺側足部内反軽減による立位バランス向上により歩行の安

定性が改善した一症例 ボバース記念病院 中村 和由 P.18

14.神経系 右後頭葉脳梗塞により視野障害を呈した症例~簡便化した視野刺激反復法を用いた結果~

名取病院 宇井 比呂 P.19

15.神経系 右橋出血後、左片麻痺と運動失調症を呈し、右方向転換時における麻痺側下肢の支持性向上を目標とした一症例

ボバース記念病院 佐藤 怜奈 P.20

16.神経系 パーキンソン病患者に対する運動療法の経験~投薬調整による入退院を繰り返している症例~

JCHO大阪病院 内田 直祐 P.21

17.神経系 重度痙性麻痺を呈し自己体動困難となった頸椎症性脊髄症患者に対する運動療法の一考察

医誠会病院 山田 真理子 P.22

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11:30~12:40 第4セクション(会場:200BC号室) 座長 中之島いわき病院 森本 鉄也

18.運動器 TKA術前介入よりTrendelenburg歩行の軽減がみられた一症例

千船病院 佐々木 宏樹 P.23

19.運動器 人工膝関節置換術後の可動域不良例に対する自転車エルゴメータ運動を主体とした理学療法の経験

関西電力病院 中川 達裕 P.24

20.運動器 両側性高位脱臼性股関節症により左人工股関節全置換術を施行された症例 ~全荷重時の跛行軽減を目指して~

北野病院 大泉 湧 P.25

21.運動器 左THA術後の股関節伸展制限に着目した一症例

牧病院 竹田 数馬 P.26

22.運動器 転倒により右大腿骨転子部骨折を受傷した一症例 ~再転倒予防を目指して~

大阪回生病院 姜 承燁 P.27

13:50~15:00 第5セクション(会場:200A号室) 座長 牧老人保健施設 溝邊 大輔

23. ADL 歩行と洗濯物干し動作の獲得を目指した大腿骨頸部内側骨折の一症例

大阪回生病院 巖田 将人 P.28

24. ADL 慢性期脳卒中左片麻痺患者に対し、屋内T字杖歩行自立を目標とした症例報告

ボバース記念病院 和田 壮太 P.29

25. ADL 動的な立位バランスの向上を図り、トイレ動作における下衣着脱動作が自立した一症例

大阪暁明館病院 大倉 郁弥 P.30

26. ADL 認知機能が著しく低下した大腿骨頸部骨折患者を担当した一例

城東中央病院 衣川 百子 P.31

27. ADL 自己効力感向上が自宅復帰に繋がった一症例~E-SASより退院後の生活を見据えて~

東大阪病院 江口 紗千 P.32

13:50~15:00 第6セクション(会場:200BC号室) 座長 JCHO 大阪病院 安福 祐一

28.運動器 TKA術後患者の歩行効率改善を目指した一症例~変形に至った経緯に着目して~

大阪回生病院 太田 尚吾 P.33

29.運動器 肩関節拘縮を呈し結髪動作に制限をきたした一症例~肩甲胸郭関節に着目して~

東大阪病院 松野 慎 P.34

30.運動器 上前方リーチ獲得を目指した肩関節周囲炎の一症例

大阪回生病院 柴 大樹 P.35

31.神経系 肩の安静時痛に改善を認めた脳血管障害左片麻痺一症例における2種の運動療法の効果

ボバース記念病院 櫛引 翔太 P.36

32.循環器 冠動脈バイパス術後にバイパスの閉塞をきたした症例に対する理学療法の経験

北野病院 辻本 実奈美 P.37

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右 MCA・ACA 梗塞により重度左片麻痺と高次脳機能障

害を呈し、歩行獲得に難渋した症例

JCHO大阪病院 古賀智希

【はじめに】今回、重度左片麻痺に加え、遂行機能障

害・注意障害・見当識障害を呈し、基本動作遂行困難

な症例に対して、高次脳機能障害、及び異常筋緊張の

改善、随意性の向上を図り、介助歩行可能まで至った

経験をしたので報告する。尚、本症例には発表の趣旨

を説明し、同意を得た。

【症例紹介】50代男性。診断名は、右前大脳動脈(以

下 ACA)A1、中大脳動脈(以下 MCA)M2梗塞。独居で

ADL自立、2日間連絡が取れず、背臥位で倒れている状

態で発見、当院救急搬送された。既往歴は脳梗塞(25

年前、詳細不明)、うつ病。飲酒・喫煙歴あり。入院翌

日より脳卒中ケアユニットにて理学療法開始。

【初期評価(入院8日目)】意識レベル(Glasgow Come

Scale:以下GCS)E4V4M6、自発性乏しく、日中臥床時

間が長い。Mini Mental State Examination (以下MMSE)

15/30 点、前頭葉機能検査(Frontal assessment

battery:以下FAB)5/18点で、注意・動作の持続が困

難。Brunnstrom recovery stage test(以下 BRS)は

左上下肢・手指Ⅱ、感覚機能は深部・表在共に左上下

肢に中等度鈍麻。筋緊張は腹部で著明に低下、左上腕

二頭筋軽度亢進(Modified Ashworth Scale以下MAS:

1+)、左ハムストリング・頸部屈筋群中等度亢進(MAS:

2)、左足間代出現、Trunk Control Test(以下 TCT)

は24点。端座位姿勢は頸部右回旋、体幹屈曲・左後方

回旋、骨盤後傾・左後方回旋位、右半身の過剰努力に

よる pushingあり、左側の転倒傾向を呈し、中等度介

助を要した。立位姿勢でも同様に上肢での pushingに

よる左側の転倒傾向あり、左右股・膝関節軽度屈曲位、

左足関節内反・底屈位で、中等度介助を要した。

【治療プログラム・経過】痙縮筋に対して、持続伸張

を実施し、寝返り・起居動作の中で、頚部・体幹の筋

緊張改善を図った。座位・立位練習では、身体の位置

関係の再学習と右側への重心移動を目的に、鏡による

視覚的な姿勢修正を行った。同時に、座位では右手掌

をベッドに沿わせたリーチ動作を行い、立位では左下

肢長下肢装具装着下で右側の壁や手すりを利用し、接

地面を増やすことで精神的安心感を与え、体性感覚入

力を行った。入院12日目に右上肢 Pushingは消失し、

端座位保持自立となった。その後、座位姿勢改善に向

け、リーチ動作にて座位バランス練習を行った。立位

練習時は、麻痺側股関節を徒手的に伸展方向にコント

ロールし、股関節動的支持機構を働かせながら、体幹

の抗重力伸展活動、左下肢伸筋筋出力向上を図った。

その上で、早期から歩行練習を開始し、徐々に立位で

の下肢伸筋筋出力向上がみられ、入院 35日目に装具を

シューホーンブレースに変更した。また、理学療法介

入時刻を統一し、訓練内容を症例本人と事前に話し合

って組み立て、自発性の改善・意欲向上を図った。

【最終評価(入院44日目)】GCSは E4V5M6、MMSE23点、

FAB11点に向上し、自発運動が増えた。BRSは立位で左

殿筋群・大腿四頭筋の随意収縮が触知可能となり下肢

Ⅱ~Ⅲ、感覚機能では関節位置覚で中等度鈍麻から軽

度鈍麻まで変化した。筋緊張は左頸部 MAS1、左ハムス

トリングス MAS1+、左足間代残存、腹部の低緊張改善

し、TCT37 点に向上。端座位姿勢は頸部右回旋、体幹

屈曲・左後方回旋、骨盤後傾・左後方回旋位が軽減し

た。立位姿勢は左右股・膝関節軽度屈曲位が軽減し、

近位監視レベルに至った。歩行は左遊脚期の下肢振り

出し・立脚期の膝折れに対し、中等度介助を要した。

【考察】運動を遂行する際の自身の運動プログラムは

頭頂葉に保存されている身体図式と照合される 1)ため、

本症例は動作時の体性感覚入力を促して、空間と身体

の位置関係を再学習することで、身体軸の修正が可能

となった。また前頭葉機能障害による自発性・意欲低

下が著明であったため、基本動作を中心にアプローチ

し神経筋再教育を行い、課題特異的な訓練を反復して

達成することで内発的動機付けの向上、機能改善を図

った。しかし、理学・作業療法時間以外の自発的な活

動性に乏しく、運動学習の場面の減少から、歩行の大

きな介助量軽減に至らなかったと考える。

【参考文献】1)高草木 薫:脳の可逆性と理学療法:

理学療法学第37巻第8号575-582頁2010年

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Pusher 現象を呈した患者に体性感覚と視覚で垂直を

認知させた訓練を実施した結果,移乗介助量が軽減し

た一症例

関西電力病院 崎田 佳希

【はじめに】Pusher現象を呈する症例では,座位保持

や移乗の際に介助量が増大することが知られている.

また Pusher現象に半側無視が併発することが多く,そ

の場合の機能予後は不良となる1).今回,右片麻痺お

よび Pusher現象,右半側無視を呈し,移乗動作に重度

介助を要していた患者の理学療法を経験した.体性感

覚および視覚を用いて垂直を認知させることを目的に,

長下肢装具(以下,KAFO)を使用して,非麻痺側体幹・

骨盤を壁またはベッドに近づけるようにし,姿勢を正

中位に矯正させ,立位・歩行練習を実施した.結果,

Pusher現象,半側無視が改善し,移乗動作の介助量が

軽減したため報告する.

【説明と同意】症例に本発表の趣旨を口頭で説明し,

同意を得た.

【症例紹介】70歳代女性,利き手は左,診断名はくも

膜下出血であり,発症同日に左中大脳動脈クリッピン

グ術を施行された.2 日後に脳血管攣縮により左中大

脳動脈領域に脳梗塞を合併した.その後,頭蓋内圧亢進

していたため開頭外減圧療法を施行された.発症から

14 週目に回復期病棟へ入棟した.併存症は高血圧症,

両膝変形性関節症であった.病前 ADLは自立していた.

【初期評価(発症から14週目)】Japan Coma Scaleは

1,Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA)は右上肢26/66

下肢 16/34 であり,右上下肢の感覚検査において表在

は軽度鈍麻,深部は中等度鈍麻であった.Manual

Muscle Testing(以下,MMT)では股屈曲 2/4(右/左),

膝伸展 3/4,足背屈 3/4,体幹屈曲 2 であった.

Behavioural inattention test(以下,BIT)は通常検

査98/146,行動検査24/81であった.Pusher現象の評

価である Scale for Contraversive Pushing (以下,

SCP)は 3.75 であった.Functional Independence

Measure(以下,FIM)は 41/126(運動 22,認知 19)

であり,移乗は全介助となっていた.立位姿勢では,

Pusher現象を認め,体幹が麻痺側後方に倒れる危険性

があった.また立位保持介助下で非麻痺側下肢支持で

の方向転換を促すが,さらにPusher現象が強く見られ

ていた.

【治療プログラム】右 KAFO(ダイヤルロック式:膝関

節屈曲 15°固定,足関節背屈 10°固定)を使用.壁

またはベッドを参照点に非麻痺側体幹・骨盤を正中位

に矯正させ立位・歩行練習を実施した.

【最終評価(発症から 22 週目)】FMA は右上肢 28/66

下肢17/34となり,MMTは股屈曲3/4(右/左),膝伸展

3/5,足背屈3/4,体幹屈曲2となった.BIT通常検査

125/146,行動検査55/81となり,SCPは1.0となった.

FIMは52/126(運動33,認知19)となり,移乗動作は

最小介助となった.立位姿勢において Pusher現象はほ

とんど見られなくなり,方向転換では殿部に触れる程

度の介助で体幹・麻痺側下肢の回転が可能となった.

【考察】本症例の移乗動作では立位保持および方向転

換の際,Pusher 現象のため重度介助を要していた.

KarnathらはPusher現象には,視覚的垂直認知と,身

体的垂直認知の差異が関与することが示唆しており2),

本症例では右半側無視により視覚的,身体的垂直認知

の歪みが生じPusher現象を呈していると考えた.これ

らの差異を解消するため,身体的垂直認知に対し KAFO

を用いた麻痺側への荷重,視覚的垂直認知に対して壁

を用いた立位・歩行練習を実施した.結果,右半側無

視が改善し,立位保持および方向転換に伴う非麻痺側

上下肢でのPusher現象が改善し,移乗動作の介助量が

軽減した.

【結語】Pusher現象に対する KAFO 及び壁などの参照

点を利用したアプローチは,Pusher 現象を改善させ,

移乗介助量を軽減させることに有効であることが示唆

された.

【参考文献】1)網本 和ら:半側空間無視および Pusher

現象を有する患者への理学療法士の関わり:理学療法

31巻 5号,467-475.2014

2) Karnathら:Understanding and Treating“Pusher

Syndrome”: Physical Therapy . Vol 83 No 12. 2003

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左橋梗塞にて右片麻痺を呈し歩行障害となった症例

に対して、立脚後期の改善に取り組んだ一症例

森之宮病院 井上 綾

【はじめに】今回、左橋梗塞により、右片麻痺を呈し

た患者に対し、右立脚後期を獲得することで歩容の改

善が得られた症例を経験したため、これを報告する。

【症例紹介】70 代男性で、左橋梗塞による右片麻痺、

構音・嚥下障害を呈していた。発症 1ヶ月後、リハビ

リテーション目的で当院に転院し、理学療法開始とな

る。MMSEは 30点で、コミュニケーションは良好。ニ

ードは歩行の獲得であった。発症後 66 日目から約 3

週間の評価・治療を行った。症例には本発表の趣旨を

書面にて説明し、同意を得た。

【初期評価(発症66日目)】ADLは起居動作・移乗動作

は自立、移動は車椅子自走自立であった。運動機能は

Fugl-Meyer Assessment(F/M)は上肢 44/66 点、下肢

14/34 点であった。背臥位で股・膝関節の自動的な屈

伸運動は可能も、随意的な足関節背屈運動は行えなか

った。さらに長短母趾屈筋や小趾外転筋、掌側・背側

骨間筋は短縮し、足底からの固有感覚情報に乏しい状

況であった。表在感覚では右踵部に軽度の感覚鈍麻が

見られたが深部感覚は良好であった。Range of

Motion(ROM)は右足関節背屈に可動域制限を認め、右

0°/左20°であった。

歩行は独歩見守り〜軽介助にて可能で、10m 歩行は

51秒、46歩であった。右立脚初期では、踵接地が消失

し前外側支持となることで、立脚中期にかけて殿筋

群・近位ハムストリングス・下腿三頭筋が不活性のた

め、前方への推進力に乏しかった。右立脚中期〜後期

にかけては、足関節内反位での支持となることで右下

肢への重心移動が不十分で、右体幹の抗重力伸展活動

の乏しさと右足関節の可動域制限により右骨盤後方回

旋、右股関節は屈曲、右膝関節過伸展、右足関節底屈

位での代償運動を引き起こしていた。それにより股関

節は伸展位へ切り替わらず、立脚後期に移行できなか

ったため介助を要した。

【治療プログラム】右立脚後期における体幹の抗重力

伸展活動を維持した中で骨盤の前後方回旋中間位、股

関節伸展・内転、足関節背屈位での支持を促すために、

体幹から介入し、末梢に向かってアプローチを図った。

【最終評価(発症84日目)】F/Mは上肢 46/66点、下肢

18/34 点であった。筋力・感覚検査で著明な変化はみ

られなかった。右足関節の ROMは 5°と可動域に改善

が見られた。さらに足関節内反を伴いながらも足関節

背屈の随意運動を得られるようになった。

歩行は独歩見守りにて可能で、10m歩行は30秒、29

歩であった。右立脚初期〜中期にかけて大殿筋・近位

ハムストリングスの活性化により、前方への推進力が

得られやすくなった。さらに足関節背屈可動域右立脚

後期における体幹の抗重力伸展活動の向上、大臀筋・

ハムストリングスの活性化により、右骨盤の後方回旋

軽減、右股関節伸展・内転、足関節背屈位での支持が

得られやすくなったことで、右下肢へ重心移動を行う

ことができるようになり、立脚後期が改善された。

【考察】大槻は「姿勢制御と運動制御を改善するため

には適切な感覚入力が必須となる。資格はもちろん、

特に固有受容感覚を重要とする」と述べている 1)。本

症例は立脚初期〜中期にかけて、大殿筋・近位ハムス

トリングス・下腿三頭筋の低緊張に加え、足部内在筋

の短縮により屈曲・内反方向へ引かれているため、姿

勢制御における足部内在筋への固有感覚入力が乏しく、

足底に対して体幹の抗重力方向への活動が不十分であ

った。治療では立脚後期の獲得に向けて、座位にて坐

骨に対する体幹の抗重力伸展活動の活性化と右足関節

の可動性改善・足部内在筋の賦活を図り、その後立位

にて足底に対する体幹の抗重力伸展活動を高めつつ、

股関節周囲筋の活性化を図った。その結果、右足関節

背屈、右股関節伸展・内転、右骨盤中間位での支持が

可能になり、立脚後期の改善につながった。それによ

り右立脚期〜遊脚期への移行がスムーズに行えるよう

になり、歩行速度の上昇につながった。

今後の課題としては、依然として体幹や下肢の支持

力の弱さは残存しており、かつ肩甲帯周囲筋の粘弾性

低下により立脚後期に肩甲帯の後退が著明となるため

改善が必要である。

【参考文献】大槻利夫:ボバースコンセプトの変遷と

今後.PTジャーナル.第45巻.第 7号.551-559.2011

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アテローム血栓性脳梗塞を発症した症例

北野病院 鹿島愛香

1、はじめに

今回、アテローム血栓性脳梗塞を発症した患者様に

対し、歩行の重心位置や関節角度、姿勢に着目してア

プローチした結果、歩容の改善を認めたため、発表に

関する同意を得た上で報告する。

2、症例紹介

68歳の男性。現病歴として、2015/8/15早朝に突然

左下肢の動かしにくさを自覚。8/17の4時半自宅で転

倒し当院に救急搬送される。BAD タイプのアテローム

血栓性脳梗塞と診断され、当日入院。8/18より理学療

法開始。併存症として右椎骨動脈瘤、既往歴としてう

つ病、統合失調症、高血圧がある。

3、初期評価(2015/8/18)

意識レベル:清明、Br.stage:左下肢Ⅳ、ミンガッ

チーニ徴候:左下肢下垂、感覚(位置覚):左下肢鈍麻、

MMT(右/左):股屈曲 5/4 膝伸展 4/4- 足背屈 4/4-、

触診:左大殿筋・腹筋群の筋緊張低下、歩行動作:支

持物なしで見守り~軽介助。点滴棒支持では自力で可

能。全歩行周期にかけて頭頸部や体幹の屈曲を認める。

左踵接地認めない。左初期接地~左立脚中期にかけて

左股関節が屈曲位のままであり、身体重心の上方移動

を認めない。体幹は立脚肢より前方に位置している。

4、治療プログラム

触診により左大殿筋・腹筋群の筋緊張低下を認める

ことや、歩行動作より全歩行周期にかけて頭頸部や体

幹の屈曲を認めること、左初期接地~左立脚中期にか

けて左股関節の伸展を認めず屈曲位であることから、

大殿筋と腹筋群の筋緊張低下が問題点であると考えた。

大殿筋や腹筋群の筋緊張の改善を図るため、膝立ちや

ブリッジ運動を反復して実施した。

5、最終評価(2015/9/7)

意識レベル:清明、Br.stage:左下肢Ⅵ、ミンガッ

チーニ徴候:左下肢軽度下垂、感覚(位置覚):左下肢

軽度鈍麻、MMT(右/左):股屈曲5/4 膝伸展5/4 足背

屈 5/4、触診:初期評価時と比較して左大殿筋・腹筋

群の筋緊張改善、歩行動作:独歩見守り。全歩行周期

にかけて初期評価より頭頸部や体幹の屈曲が軽減。左

踵接地軽度出現。左初期接地~左立脚中期にかけて左

股関節が伸展し、体幹が立脚肢上に位置する。

6、考察

アテローム血栓性脳梗塞の患者様の歩容に改善を認

めた。その中でも、麻痺側立脚中期の重心位置や関節

角度、姿勢に着目した。

石井 1)によると、歩行動作の初期接地~立脚中期に

かけて、身体重心は股関節が伸展して上方へ移動する。

股関節は屈曲20°~30°から0°まで伸展し、重心は

最高到達点に達する。体幹は立脚肢上に位置する。

本症例の左初期接地~左立脚中期にかけて、頭頸

部・体幹の屈曲や、左股関節が屈曲位のままであり、

身体重心の上方移動を認めず体幹が立脚肢より前方に

位置していることが正常な歩行動作から逸脱している

と考える。改善するためには股関節の伸展モーメント

が必要であり、大殿筋へのアプローチが必要であると

考えた。また、触診により腹筋群の筋緊張の低下を認

めたことより、腹筋群に対してのアプローチも必要で

あると考え、膝立ちやブリッジ運動を実施した。

膝立ちに関して中村ら 2)は、膝立ち位は立位と比較

して身体重心が前方に位置し大殿筋の筋活動が高くな

ると報告している。藤原ら 3)は、膝立ち位により抗重

力位における腹筋群の賦活を促し体幹の安定性が向上

したことで股関節周囲の単関節筋群の筋出力向上を認

めたと報告している。ブリッジ運動に関して岩月ら 4)

は、ブリッジ運動は大殿筋を賦活すると報告している。

本症例も、膝立ちやブリッジ運動により大殿筋や腹

筋群が賦活し、歩行時の股関節伸展が出現して身体重

心の上方移動を認め、体幹屈曲位も改善したと考える。

7、文献

1)石井慎一郎:動作分析 臨床活用講座 バイオメカ

ニクスに基づく臨床推論の実践:MEDICAL VIEW

2)中村香織ら:膝立ち位における筋活動の特性-立位・

骨盤傾斜との比較-:理学療法基礎系 21-733

3)藤原亜希子ら:膝立ち位アプローチにより体幹の安

定性が向上し歩行時痛が消失した症例:理学療法群馬

23:22-27.2012

4)岩月宏泰、木山喬博、室賀辰夫:ブリッジ運動の運

動学的解析:運動生理3(4).243-246.1988

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右ヒラメ筋の痙縮に対し, Phenol Blockを施注した

右片麻痺患者の 1症例

関西電力病院 リハビリテーション科 掛谷佳昭

【はじめに】脳卒中ガイドラインでは痙縮に対する治

療法として神経ブロックが有効とされている. 過去の

報告では Phenol Block(以下, PB)施注群はボツリヌ

ス毒素(以下,BTX)施注群と比して効果の持続期間が

短いと言われている. 今回, 左被殻出血を発症し右片

麻痺を呈した症例を担当した. 右足関節底屈筋の痙縮

により歩行障害が生じていたため, 右ヒラメ筋に対し

PB を施注した. 施注後, 階段昇降練習を中心に理学

療法介入した結果, 施注4週後BTXと同等の効果が得

られ, 歩行能力が向上し屋内歩行自立となり自宅退院

に至ったので報告する.

【症例紹介】50歳代女性で診断名は左被殻出血である.

発症同日に開頭血腫除去術を施行し, 第 46 病日に当

院回復期病棟転院となる. 転院時, Fugl-Meyer

Assessment(以下, FMA)が下肢運動機能 3/34点, 感

覚1/12点でADLは全介助であった. その後, 理学療法

を介入し, 第 176 病日時点で FMA 下肢運動機能 8/34

点, 感覚 6/12点まで改善し, T-cane とプラスティッ

ク短下肢装具を使用し歩行可能となった. しかし, 歩

行時に Foot clonusを生じることから歩行の安定性が

低下し介助を要していた.病前ADLは全自立であった.

【説明と同意】症例とその家族に本発表の趣旨を説明

し口頭にて同意を得た.

【施注前評価(第176病日)】FMAは下肢運動機能8/34

点, 感覚 6/12 点であった. 右膝蓋腱反射, 右アキレ

ス腱反射(以下, ATR)は亢進し, 右Foot clonus陽性

であった. 感覚は右表在, 深部とも中等度鈍麻, 筋緊

張は Modified Ashworth Scale(以下, MAS)右足関節

背屈2であった. 10m歩行は35.3秒34歩, 歩行率57.6

steps/min, 歩行速度0.28 m/sec, 重複歩距離58.4 cm

であった. Functional Independence Measure(以下,

FIM)は95/126点で移動は車イスを使用していた.

【経過】PB施注前,1%Xylocaine注射液の施注を行い,

筋緊張低下による歩行時の支持性低下がないことを確

認した上でPB施注となった. PB施注後, ATRが減弱し,

Foot clonusは陰性となり, 足関節背屈の MASは 1と

低下を認めた.

【治療プログラム】麻痺側足関節背屈持続伸張, 起

立・歩行練習, 階段昇降練習, ADL動作練習

【最終評価(第 206 病日)】FMA は下肢運動機能 8/34

点, 感覚 6/12 点であった. 反射は右 ATR 正常, 右

Foot clonus陰性となり, 筋緊張はMAS右足関節背屈1

に低下を認めた. 10m歩行は28.7秒31歩, 歩行率64.8

steps/min, 歩行速度0.34 m/sec, 重複歩距離64.4 cm

に向上した. FIMは95/126点と変化しなかったが, 移

動方法が歩行となり屋内歩行が自立した.

【考察】PBは筋緊張低下の即時効果はあるが, BTXと

比較してその持続期間は短い. 本症例は施注後より階

段昇降練習を中心に実施した結果, 施注4週後, 筋緊

張の亢進なく歩行能力の向上を認めた. BTX 施注前と

施注4週後の歩行能力を比較した報告¹⁾と本症例を比

較すると歩行率, 歩行速度, 重複歩距離において BTX

施注4週後と同等の改善を認めた. Sakamoto²⁾らは中

等度負荷による立位での非麻痺側運動が麻痺側の筋緊

張を低下させることを報告している. 加えて, Alison

³⁾らは脳卒中片麻痺患者における階段昇降は非麻痺側

に対する中等度の抵抗運動であると報告しており, PB

施注後の階段昇降練習が PB の持続期間の延長と歩行

能力を向上させた要因の一つであったと考える. 以上

のことから, PB施注後に併用療法として階段昇降練習

等の非麻痺側下肢に対する運動療法を実施することは

BTXと同等の歩行能力の改善を図れる可能性がある.

【引用文献】

1).藤田和樹, 他:慢性期脳卒中片麻痺患者に対する

下肢ボツリヌス療法後の立位および歩行パラメータの

変化. 理学療法学. 30(3):439-443, 2015

2).Keiko Sakamoto, 他 : Immediate Effects of

Unaffected Arm Exercise in Poststroke Patients with

Spastic Upper Limb Hemiparesis. Cerebrovasc Dis

2014;37:123–127

3).Alison C. Novak, 他: Strength and Aerobic

Requirements During Stair Ambulation in Persons

With Chronic Stroke and Healthy Adults. Arch Phys

Med Rehabil Vol 93, April 2012

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心原性脳梗塞により高次脳機能障害を呈した症例

~課題指向型アプローチによるADL向上を目指して~

名取病院 リハビリテーション科 川﨑 さくら

【はじめに】今回右中大脳動脈、後大脳動脈領域での

心原性脳梗塞を発症し、更に同領域に出血性梗塞を呈

した症例を担当した。本症例は重度の高次脳機能障害

及び全失語が認められ、更に感覚障害や注意の分配、

転換、選択性の低下等が認められた。そのため左半身

の管理が不十分であり、歩行時等において左半身が壁

やドア等にぶつかってしまう状態であった。そこで今

回、課題指向型アプローチを行うことで左側への注意

を促し、ADLが向上したためここに報告する。

【説明と同意】家族には本発表の趣旨を説明し、書面

にて同意を得た。

【症例紹介】H27年3月心原性脳梗塞及び出血性梗塞

を発症し、同年5月に頭蓋骨形成術施行。左片麻痺、

重度の高次脳機能障害及び全失語を呈する。家族はト

イレまでの移動とトイレ内動作の自立を望まれており、

自宅退院には左側への注意力とADLの向上が必要であ

る。

【初期評価(8月29日~9月1日)】主訴:聴取困難 BRS-

t:左上肢Ⅴ左下肢Ⅴ 感覚(表在・深部):精査不可能

も中等度~重度鈍麻 バランステスト:FR 0cm、片脚立

位 右5秒 左実施不可能、BBS40/56点 注意:TMT-A

実施不可能 探索:4~5/10枚 歩 行:左側をぶつけて

しまうため接触介助必要。また病棟内では車椅子移動

全介助。 トイレ動作:下衣操作介助要。 更衣:上衣と

下衣の識別不可。袖や裾の左右認識不可。また下衣操

作においても介助要。 整容:準備等の一部に介助要。

FIM:50点

【治療プログラム(9月7日~10月4日)】左側の壁に

本症例の趣味であったパチンコのイラストを複数枚貼

り、それらを見ながらの左側への注意を促すよう歩行

を行った。更にトイレ時、自宅では左開きのドアであ

るためまずは難易度を上げるため衝立を代用し、その

後ドアを使用して訓練を行った。

【最終評価(10月5日~10月8日)】主訴:聴取困難

BRS-t:左上肢Ⅴ左下肢Ⅴ 感覚(表在・深部):精査

不可能も中等度鈍麻 バランステスト: FR18.5cm、片

脚立位 右11秒 左3秒、BBS46/56点 注意:TMT-A実

施不可能 探索:8~10/10枚 歩行:病棟内独歩にて移

動自立 トイレ動作:自立 更衣:自立 整容:自立 FIM:

103点

【考察】課題指向型アプローチを実施した結果、左側

に対する注意力の向上が認められた。それに伴い病棟

内のADL向上が得られた。

まず左側の壁に本症例の趣味であったパチンコのイ

ラストを複数枚貼り、それらを見ながらの左側への注

意を促すよう歩行を行った。これはシステム理論に基

づいており、個体はある特定の環境の中で遂行されて

いる課題の要求に合わせようとし、課題と環境要求と

が適合するとされている²⁾。本症例の場合、左側を見

るような環境下にて行ったため、この運動課題に合わ

せて自己組織化機構が働いたことで左側を見るといっ

た環境適応が生じたと考えた。また本症例は口頭指示

が困難であるため、趣味を利用することで能動的に行

えるよう実施した。

次に左開きドアの開閉訓練であるが、これは運動学

習に基づいていると考えた。運動学習の過程では転移

性、動機付け、行動変化、保持が重要な要素とされて

いる³⁾。そこで自宅環境と同様に行ったことでの類似

性転移、無意識的な動機付け、衝立から行うことで難

易度を下げ繰り返し行いその都度フィードバックを行

った。またフィードバックに関してはぶつかることで

一連の動作が止まってしまい、自動的に左側への注意

が誘導されることで視覚での内在的フィードバックが

可能となった。外在的フィードバックでは表情での教

示を行った。その後保持が認められたため、運動学習

により行動がスキル化されたと考えた。

【参考文献】

1) 原寛美:脳卒中理学療法の理論と技術 メジカル

ビュー社

2) 諸橋勇:課題指向型アプローチに基づく歩行トレ

ーニング 理学療法29巻7号2012

3) 塩見泰蔵:脳卒中に対する課題指向型アプローチ

の概要 理学療法27巻12号2010

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上腕骨近位端骨折を呈した症例の肩関節屈曲ROM制限

の原因について

牧病院 山下 耕平

【はじめに】今回、上腕骨近位端骨折を呈した症例に

対し、筋機能と肩屈曲可動域制限との関係を調査した。

肩屈曲主動作筋の三角筋前部・中部・後部線維(以下、

三角筋群)、肩甲骨上方回旋筋の僧帽筋・前鋸筋(以

下、肩甲骨周囲筋群)、臼蓋骨頭リズムに作用する棘

上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋(以下、腱板筋群)

の3群を中心に徒手療法を行い、治療前後に ROM改善

について考察し、若干の知見を得たため報告する。な

お、症例には研究の趣旨を説明し同意を得た。

【対象症例】50代男性、左上腕骨近位端骨折で、プレ

ート固定されている。X 線画像にて上腕骨頭の内反偏

移がみられる(図1)。

介入当初からセルフケアは自立されていた。

【治療方法】上記3群に対して徒手療法を行った。治

療の順番による影響を考慮し、3 群を組み合わせた 6

通りの治療順序で実施した。各群を最初に介入する機

会のデータを 100%とし、治療前後 ROM平均値と改善

度を以下の表に表している(表1)。

ROMは臥位にて、自他動運動で測定を行った。

【結果】自動運動では腱板筋群に最も改善がみられ、

107%の改善度で、ROMは7.5°増大した。また、肩甲

骨周囲筋群は 104%の改善度で 5°増大がみられた。

三角筋群は著変が見られなかった。また、他動での ROM

に著変は見られなかった。

(A:自動ROM B:他動ROM ROM平均値:治療前/後)

【考察】今回、本症例に対し徒手療法を行った結果、

治療後の自動ROM改善がみられた。徒手療法により筋

の収縮が促され、自動運動が改善したと考える。

腱板筋において、徒手療法によって腱板筋の収縮が

向上したことで、上腕骨頭は関節窩に引きつけられ固

定性が向上し、肩関節運動を円滑に行うことが出来た

と考える。

また、肩甲骨周囲筋群治療後、若干の自動 ROMが向

上したことについて、僧帽筋・前鋸筋の収縮向上によ

って、肩屈曲時の肩甲骨上方回旋が行われたため ROM

が改善したと考える。

三角筋においては上腕骨が屈曲する際、腱板筋によ

る上腕骨頭の関節窩への固定性低下により三角筋の機

能が十分に発揮されないため、著変がなかったと考え

る。

他動ROMについては、本症例における ROM制限の因

子として肩屈曲に関わる筋群の拮抗筋へのアプローチ

が少なかったため、著変がみられなかったと考える。

X 線画像から、上腕骨頭の内反偏移によって骨アラ

イメント不良であることから、ROM 制限が残存してい

ると考える。

【おわりに】本症例における肩屈曲 ROM制限について、

骨折による上腕骨頭のアライメントにより ROMが制限

されているが、今回の研究により腱板筋機能低下によ

る肩関節包内運動の逸脱が自動ROM制限に関与してい

ることが示唆された。

また、肩関節屈曲に作用する筋の相互的な作用を踏

まえて介入することの必要性・重要性を学んだ。

腱板筋群

肩甲骨

周囲筋群 三角筋群

A 115.0°/122.5°

107.0%

113.7°/118.7°

104.0%

113.7°/115.0°

101.0%

B 122.0°/126.2°

103.0%

122.5°/125.0°

102.0%

121.2°/125.0°

103.0%

(図1)術後X線画像

(表1)治療前後ROM平均値と改善度

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肩関節腱板断裂に対して保存的に治療し痛みが消失し

た一症例 行岡病院 今泉孝典

【はじめに】今回、肩関節挙上及び外転時にインピン

ジメントによる痛みの訴えが強かった症例を経験した

のでここに報告する。

【症例紹介】70代男性、無職。診断名は右肩腱板断裂

(棘上筋腱中断裂)Goutallier分類Stage2、主訴は「半

年前から肩を動かすと引っかかって痛い」であった。

【説明と同意】症例には本発表の趣旨を説明し同意を

得た。

【初期評価】関節可動域(他動)は肩屈曲 170°、外転

160°であり、自動では屈曲120°、外転90°、であ

った。自動運動で屈曲120°位でNRS7、外転90°位

でNRS7.5の痛みがあった。1st外旋は40°、2nd外

旋70°、3rd内旋0°であった。肩屈曲・外転筋力に

ついては MMT3 レベルで抵抗を加えると痛みが出現

した。棘上筋テスト陽性、elbow push testにて前鋸筋、

left off testにて肩甲下筋の筋力低下を認めた。インピ

ンジメントテストはNeer、Hawkinsともに陽性であ

った。大胸筋、小胸筋、棘下筋、広背筋などに特に強

い圧痛を認めた。上腕骨頭は前方に偏位し、肩甲骨は

挙上及び外転、前傾位であり、アライメントに左右差

が認められた。また自動での肩挙上及び外転時、肩甲

骨の上方回旋が著明であった。JOAスコアは55.5/100

点であり日常生活動作の評価項目では「結帯動作」「上

着を着る」などに減点が見られた。我々が実施してい

る僧帽筋下部の筋力評価では、重錘負荷なしで 10 回

が限界であった。

【治療プラグラム】週 1~2 回の外来フォローを約 4

ヶ月間実施した。治療内容は肩後面筋の tightness に

対しては主に3rd内旋のストレッチング、肩前面筋(大

胸筋・小胸筋)に対してはダイレクトストレッチを行

った。肩甲胸郭関節のモビライゼーションを行った後

に、肩甲骨周囲筋の筋力強化を図った。僧帽筋下部に

対しては肩甲骨内側及び下角に直接徒手で抵抗を加え

て行った。痛みが軽減してからは、腱板筋のトレーニ

ングを段階的に実施した。

【最終評価】関節可動域 (他動)は 肩屈曲 170°外転

170°、1st外旋60°、2nd外旋90°、3rd内旋10°

と向上し、自動運動での痛みは消失した。筋力につい

ては MMT4レベルまで改善した。インピンジメント

テストは陽性のままであったが、その際に生じる疼痛

は軽減した。初期評価時に見られていた筋の圧痛も軽

減し、上腕骨頭の前方偏位や肩甲骨外転などのアライ

メント異常は、初期に比べ改善が見られたが、肩甲骨

の挙上と過度の上方回旋の代償は残存している。(図

1)。JOA スコアは 92/100 点となり、疼痛、筋力、機

能面すべての項目で点数が向上し、初期評価時では不

可だった「結帯動作」「上着を着る」の項目は、疼痛な

しで動作が獲得できた。など痛みなく可能となった。

また僧帽筋下部の筋力評価では、重錘負荷500gで30

回可能となり、Shoulder36(V1.3)では、ほぼ全ての項

目で動作可能までに改善した。

【考察】棘上筋の内方ベクトルと三角筋の外方ベクト

ルにより安定した肩関節の外転運動が行われる1)が、

棘上筋が断裂すると内方及び下方へのベクトルが失わ

れ骨頭は上方に偏位し、肩峰下でインピンジメントが

生じる。本症例は痛みが長期化していることと、肩関

節3rd 内旋が0°と制限が見られていることから、後

面筋や後下方の関節包は短縮していることも骨頭の下

方への滑りを阻害してインピンジメントを起こしてい

る原因と考えた。また骨頭は内旋位を呈しており、小

胸筋に強い圧痛が認められたことから肩甲骨は前傾し

ていることも痛みの原因であると考えた。これらの問

題点に対して、まず tightness を改善させることから

始め、その後、肩甲骨のmobilityを引き出し、軽い負

荷から腱板筋のトレーニングを行った結果、骨頭が動

作時、求心位を保持できるようになり痛みが消失し、

ADL動作を、スムーズな動作が再獲得出来たと考えた。

図1 最終評価

<左:屈曲90°右:外転時の肩甲骨のアライメント>

【引用文献】1)林典雄(監修):肩関節拘縮の評価と運動療法.2014

(運動と医学の出版社)

:脊柱

:肩甲骨

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14

図1レントゲン写真(左:術前,右:術後)

満足度 遂行度

図2カナダ作業遂行測定(左:遂行度,右:満足度)

華道教室復帰を目指し治療を展開した人工股関節置

換術後の一症例

大阪回生病院 森山 僚

【はじめに】今回,右人工股関節全置換術(以下:THA)

を施行した症例を経験した.華道教室講師に就き職場

で階段昇降が必要であった.問題点を考察し治療を展

開することで,動作が改善し華道教室開催の実現,QOL

向上が得られたので報告する.

【症例紹介】発表の趣旨に同意を得た70代女性.両側

変形性股関節症.右側のみ THA 施行(図 1).既往歴は両

側臼蓋形成不全(幼少時),左副腎腫瘍摘出手術(20 年

前)であった.

【評価】《初期評価:術後 90-100 日,最終評価:術後

152-165 日》(初期→最終の順で記載)カナダ作業遂行

測定(遂行度・満足度の順で記載)は,「華道に参加でき

る」(8・8→10・10)「華道準備時にバケツを持って安

全に歩ける」(7・7→10・10)「綺麗な昇段動作ができ

る」 (5・5→10・10)(図2).SF36v2TM下位尺度を用いた

QOL 評価では,身体機能(14→21),全体的健康観(23→

25),社会生活機能(5→8),精神日常役割機能(11→12)

の 4項目が改善した.関節可動域(Rt/Lt単位:°)は股

関節屈曲 85/60→85/65,伸展 -5/0→ 5/0.徒手筋力検

査は股関節屈曲 3/2→3/2,伸展 3/3→4/4,内転 3/2→

3/2,外転 4/4→4/4.初期評価時の昇段動作では右体重

受容期に体幹右側屈.右引き上げ期に左膝関節屈曲を

用いた体幹後傾,骨盤右後方回旋が出現した(図 3).最

終評価時では上記2つの相の代償動作が軽減した.

【治療】初期は両側股関節屈筋群に徒手療法,右殿筋群

の筋出力を促通.その後,問題点を再考し体幹伸展位保

持を促した上で右股関節伸展機能に着目した治療を展

開した.

【考察】本症例の階段昇段動作が困難になっていた要

因として以下を挙げる.手術侵襲と長期に渡る臼蓋形

成不全のため,骨頭を求心位保持しようと右股関節内

転筋を過剰に収縮させていた.そのため,右股関節外転

筋の遠心性収縮での筋出力低下が考えられる.さらに,

右股関節伸展可動域制限と左股関節屈曲可動域制限の

ため遊脚下肢を昇段する際,身体重心を後方移動させ

るcounter-weightの戦略を使用していると考えた.し

かし治療を継続するも,代償動作は残存した.そこで問

題点を再考し,20 年前の左副腎腫瘍摘出手術による体

幹機能低下に着目した.体幹機能低下が両側股関節の

機能低下を助長させていると考えた.開放手術による

疼痛回避姿勢や筋・皮膚の癒着により,日常的に右股関

節屈曲位をとり,右脊柱起立筋の過活動が生じている

と考えた.脊柱起立筋が過活動することで,椎体の回旋

方向への運動が減少する.そのため,骨盤右後方回旋の

代償を上部体幹が行い,骨盤との分離した運動を行い

づらくなる.それらが体幹伸展位保持を作れない悪循

環に陥っていると考えた.その後,体幹伸展位保持した

状態で股関節の選択的な運動を試みた結果,代償動作

が軽減した.活動が改善し,華道教室開催ができたこと

が参加に繋がり,QOL向上に至ったと考えた.

【おわりに】問題点は現疾患に限らず既往歴にも存在

し,効果の検証を行い治療を改変していく事を学んだ.

カナダ作業遂行測定(重要度順に記載)

①華道に参加できる.

②華道準備時にバケツを持って安全に歩ける.

③綺麗な昇段動作ができる.

図3 昇段動作(左:初期,右:最終 A:右体重受容期 B:右引き上げ期)

A A B B

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両側同時全人工股関節置換術施行後、腰椎前弯の増強

に着目し歩容の改善を図った一症例

JCHO 大阪病院 吉岡早紀

【はじめに】両側変形性股関節症に対し両側同時全人

工股関節置換術(以下 THA)を施行した症例について

腰椎前弯の増強に着目し、アプローチを行い改善がみ

られたため報告する。なお、本症例には発表の趣旨を

説明し書面にて同意を得た。

【症例紹介】60歳代後半、女性。5年前より起立時に

両股関節痛が出現しその後増悪した。両側変形性股関

節症の診断にて当院で後外側アプローチの両側同時

THA を施行された。独居で入院前は独歩で移動してい

た。

【初期評価(術前)】日本整形外科学会股関節機能判定

基準(以下股関節JOA):合計31点、Barthel Index100

点、関節可動域測定(以下 ROM-t、右/左、単位°で表

記、他動的に測定):股関節屈曲 70/70、伸展0/0、内

転 10/10、外転 10/10。徒手筋力検査(以下 MMT、右/

左で表記)股関節屈曲 4-/4-、伸展 4+/4+、外転3/4+、

腹直筋 5、腹斜筋5/5。下肢長(右/左で表記、単位は

㎝):棘果長 70.5/72.5、臍果長 82.5/81.5。疼痛

(Numeric Rating Scale 以下 NRS):両股関節運動時

痛9、荷重時痛9、夜間時痛3、両膝荷重時痛 4、腰痛

9。静止立位アライメント:骨盤前傾・左回旋位、腰椎

前弯増大。股関節正面x線画像での最大縦径(L)と骨

盤腔の最大横径(T)の比率(以下 L/T)は0.75。骨盤

傾斜角:9.65°、歩行:腰背部筋の筋緊張亢進し、腰

椎前弯増強認めた。右立脚期trendelenburg歩行であ

った。両立脚中期~後期にかけて立脚側への骨盤回

旋認めた。両下肢振り出しの際に股関節屈曲不十分

であった。10m速歩:独歩で 16.31秒。Time Up and

Go test(以下 TUG):独歩で 18.12秒。Thomas test

変法:陽性。

【治療プログラム・経過】静止立位アライメントから

認めていた腰椎前弯の増強に着目しアプローチした。

股関節伸展ROM制限および大殿筋筋力低下に対して、

腸腰筋の持続伸張、大腿直筋の収縮・弛緩を用いた股

関節伸展の他動的な関節可動域訓練(以下 ROM-ex)お

よび股関節伸展運動を行った。腰椎前弯増強に対して

立位とベッド上での股関節周囲筋の筋力増強訓練は腹

横筋エクササイズとして腹部引き込み運動(以下ドロ

ーイン)で腹横筋の収縮を用いながら実施した。術後

15日には、杖歩行時の腰椎前弯増強が軽減した。術後

16日からは右立脚期のtrenderenburg跛行の軽減を認

めた。術後 29日には独歩でも 1~2m腰椎前弯増強せ

ずに歩行可能であった。

【最終評価(術後 30日目)】股関節 JOA:合計82点。

Barthel Index100 点。ROM-t:股関節屈曲 95/90、

伸展 5/10、内転 5/15、外転 20/20。MMT:股関節屈

曲 5/5-、伸展 5-/5-、外転 5/5、腹直筋 5、腹斜筋

5/5。下肢長:棘果長 71.5/72.0、臍果長 84.0/84.0。

疼痛:右膝疼痛+。静止立位アライメント:骨盤前傾・

左回旋位、腰椎前弯増強を認めていたが初期評価時に

比較し軽減を認めた。L/Tは0.7。骨盤傾斜角12.9°。

歩行:右立脚期の trendelenburg歩行の軽減および両

下肢振り出しの際に股関節屈曲改善認めた。両立脚

中期~後期にかけて立脚側への骨盤回旋認めた。独

歩では歩行距離延長と共に腰背部筋緊張亢進し、腰椎

前弯増強みとめた。10m速歩:独歩で 9.59秒。TUG:

独歩で11.61秒。

【考察】本症例は術前より静止立位アライメントで腰

椎前弯の増強が認められていた。腸腰筋・大腿直筋の

短縮により、両股関節伸展の関節可動域制限が生じ、

腰椎前弯が増強していると考えた。腸腰筋・大腿直筋

の伸張と大殿筋の収縮を促す為に、股関節伸展 ROM-ex

と共に股関節伸展運動を行った。

また、腹横筋には一般的に姿勢保持作用と腹圧上昇作

用がある。ドローインを行いながら股関節周囲筋の筋

力増強訓練を行うことで体幹の姿勢保持機能を高め、

股関節周囲筋の筋の再教育になったと考える。腹横筋

の作用により腹圧が高まることで腰背部筋の緊張が軽

減し、歩行中の腰椎前弯が軽減したと考える。また、

ベッド上と立位で行うことで静止立位や歩行時の腰椎

前弯の軽減に繋がったと考える。さらに、股関節伸展

ROM の拡大と大殿筋・中殿筋の筋力増強に伴って歩幅

が拡大し、10m速歩が改善したと考える。

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ACL 再建術後遺症患者のパフォーマンス向上の試み

Key Words:

前十字靭帯損傷、膝関節屈筋群、スポーツ動作

大阪回生病院 リハビリテ-ションセンタ-

宮崎 喬平

【はじめに】10年前に半腱様筋腱を用いた左 ACL再建

術を施行した症例を経験した。残存する膝関節屈筋群

と足関節戦略に着目した治療を展開し、跳躍や切り返

し動作に改善が認められた為、考察を加え報告する。

【症例紹介】本発表について説明を行い同意を得た 30

歳代男性。趣味のフットサル参加時に出現する左膝関

節の慢性的な脱力感、疼痛、恐怖心にて、積極的なプ

レーが制限されていた。

【評価:初期→最終】関節可動域に顕著な異常はなし。

左膝関節の疼痛と脱力感の NRSは 5→2/10。Isoforce

GT-380(オージー技研)にて測定した左膝関節の最大

等速性筋力/体重(Nm/kg)は伸展 1.96→2.66・屈曲

0.74→1.64。競技特性より、運動を垂直成分と水平成

分に分解した評価を施行。片脚垂直跳びは右 27→

34cm・左17→32cm。反復横跳びでは、低重心で強く蹴

る事が可能となった。また、降段動作の体重受容相で

は、左踵の急激な落下と左膝関節の過屈曲が軽減。カ

ナダ作業遂行測定では、「恐怖心なく跳躍できる」・「恐

怖心なく切り返せる」等の項目が挙がり、各々の遂行

度/満足度が 2/2→7/5・3/3→8/7と有意に向上した。

【治療プログラム】膝関節屈筋群に対する徒手療法、

足部・足関節の Mobilization、及び、腓腹筋・薄筋・

ハムストリングスの協調的筋活動を促通する運動療

法を中心に行った。

【考察】ACL再建術後の後遺症である不安定性の評価

と治療では、単純な筋力の増減や高強度の動作に着目

する傾向があるが、機能解剖学的に考えると出力の大

きさよりも筋の協調性が重要であると考えられる。ま

た、自立したADLの中にも、高強度な運動のパフォー

マンスに関わる重要な手掛かりは隠されており、本症

例では、残存する膝関節屈筋群の協調的筋活動と階段

動作にみられた足関節戦略を改善する事がパフォーマ

ンス改善に繋がったと考えられる。

<評価>

片脚垂直跳び(初期:17cm → 最終:32cm)

反復横跳び(低重心で強く蹴る事が可能となった)

階段降段(自立ADLの評価)

<治療>

徒手療法 足部・足関節のMobilization

膝関節屈筋群の協調性促通運動

初期

最終

初期

最終

最終(左

体重受容相)

初期(左

体重受容相)

初期(右

体重受容相)

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上肢課題を取り入れた歩行練習により歩容が改善し

歩行速度の向上を認めた症例について

大阪暁明館病院 中園 拓歩

【はじめに】右脛骨顆間隆起剥離骨折を受傷した症例

に対し上肢課題を使用した歩行練習を行った。結果と

して歩行速度の向上を認めたため、報告する。なお、

症例には本発表の主旨を説明し同意を得た。

【症例紹介】74歳、女性。20年前に左視床出血を発症、

腰部脊柱管狭窄症により2年前に TH9~L1、L2~S1椎

体固定術を施術。受傷前は屋内伝い歩き自立、屋外杖

歩行はシューホーン装着で自立、簡単な家事も行って

いた。今回、屋外歩行中に転倒し右脛骨顆間隆起剥離

骨折を受傷、観血的プレート固定術を施術。術後 4週

目より回復期病棟へ転棟(発表者の介入開始)、15kg荷

重開始し、8週目に全荷重(43kg)開始した。

【A:初期評価(術後4週目、15kg荷重)】※右/左

Brunnstrom recovery stage(以下 BRS)は右上肢Ⅵ、

手指Ⅵ、下肢Ⅵ。感覚は右L5~S1神経領域で表在・深

部感覚共に中等度鈍麻し、母趾・小趾は消失していた。

関節可動域(以下 ROM)は右足関節背屈 5°、徒手筋力

検査(以下MMT)は股関節外転2/3、外旋2/3、膝関節屈

曲2/3、伸展3/4、足関節背屈2/4。脊柱円背、左凸の

側弯のアライメント不良を生じていた。平行棒内部分

荷重歩行では右立脚期に右足関節底屈位で足尖部のみ

で接地していた。

【B:中間評価(術後8週目、全荷重開始)】

荷重は 15.0kg/28.0kg。Functional Reach Test(以

下FRT)は右16.2cm、10m歩行(杖、シューホーン装着)

は25.6秒(42歩) であった。歩行は右荷重応答期~立

脚中期(以下、LR~MSt)に体幹・骨盤の前傾、右回旋、

膝ロッキング、トレンデレンブルグ徴候を認めた。動

作中の体幹・股関節の抗重力伸展活動を意識させると

上肢・肩甲帯の過剰努力となりふらつきが増加した。

【C:最終評価(全荷重開始から4週目)】

MMT は股関節外転 3/4、外旋 4/5、膝関節屈曲 4/5、

伸展 4/5、足関節背屈2/4。荷重は 21.0kg/22.0kg。FRT

は右 18.1cm、10m歩行(杖、シューホーン装着)は20.13

秒(35歩)であった。立位にて右踵部への荷重が可能と

なり足底全面で接地可能となった。右 LR~MStでの骨

盤前傾・トレンデレンブルグ徴候は修正され右立脚期

は延長し、歩行速度が向上していた。

【治療プログラム】A-B 間は右足底感覚入力と下肢筋

力増強を中心に行い、荷重量の増加に応じて立ち上が

り練習、ステップ練習、歩行練習へと移行した。B-C

間で独歩可能となった時点で、上肢課題を与えた練習

を行った。課題として1kg重錘を両上肢で把持した状

態で歩行練習やリーチ動作を行い、重錘の重さや移動

距離は動作の安定性に応じて変更した。課題の遂行に

意識を向けることで上肢・肩甲帯の過剰努力は軽減し、

体幹の抗重力伸展活動が持続する様子が観察された。

【考察】本症例は右LR~MStにおいて右膝をロッキン

グし体幹前傾、骨盤前傾・右回旋により股関節屈曲を

強めた状態で重心移動を行っていた。右股関節伸展

筋・外転筋の十分なモーメントが得られず、体幹の抗

重力伸展活動も乏しかった為、左下肢を振り出す際に

骨盤が崩れることで、右立脚期は短縮し歩行効率は低

下していたと考える。そこで重錘把持という課題に意

識を向け、その背景で行われる姿勢バランス制御から

意識を外した。それにより上肢・肩甲帯の過剰努力を

抑え、ふらつきを軽減した状態で、無意識下での予測

的姿勢制御による体幹の抗重力伸展活動と股関節伸

展・外転モーメントの発揮を促した。介入当初からの

股関節伸展・外転筋の筋力増強に加え、足底全面での

接地により支持基底面を拡大し、また足底感覚入力を

行うことで右下肢支持による姿勢制御を行う為の条件

を整えた。さらに、課題を反復し無意識下の学習(暗示

的学習)1)が進むことで持続的な体幹の姿勢制御に加

え、適切なタイミングで股関節伸展モーメントが発揮

されたと考える。また、課題の難易度を変更し、様々

な条件下で課題を繰り返すことで成功体験となり強化

学習に繋がったと考える。結果、右 LR~MStにおいて

骨盤前傾・トレンデレンブルグ徴候が修正された状態

で立脚中期・後期への移行が可能となり、股関節伸展

による推進力が得られやすくなったことで、立脚期が

延長、歩行速度が向上し、歩行効率が向上したと考え

る。

【参考文献】1)潮見泰蔵:脳卒中患者に対する課題指

向型トレーニング,p139~140,東京,2015

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髄膜腫発症後、左運動野皮質下微小出血により右片麻

痺を呈し、麻痺側足部内反軽減による立位バランス向

上により歩行の安定性が改善した一症例

ボバース記念病院 中村 和由

【はじめに】脳卒中右片麻痺により歩行時に麻痺側足

部内反による引っ掛かりが生じ、麻痺側へバランスを

崩しやすく見守りが必要な症例を経験した。脳卒中片

麻痺患者のバランスに関して、簡便なバランス検査と

歩行自立の関係を検討した報告は多い。しかしながら

諸家の報告では、立位バランスの改善が歩容改善と関

連付けられた運動療法の介入効果を比較検討した報告

はない。そこで本症例では、立位動的バランスを改善

させることで、足部内反を軽減し、歩行安定性を向上

させることを目的に運動療法Aと Bを実施した。その

結果、歩行の安定性が改善したので報告する。

【症例紹介】60歳代女性。髄膜腫発症後、腫瘍摘出術

施行。術後左運動野皮質下に微小出血発症。発症 21

日経過後、リハビリテーション目的で当院へ入院。介

入期間は 125病日から計10日間。感覚は表在・固有共

に良好。起居動作自立。右上肢の随意性は良好で、セ

ルフケアは両上肢にて自立。歩行は T字杖と軟性短下

肢装具にて見守り。初回の歩行は、全歩行周期に腰椎

前弯と体幹左側屈が観られ、右Mid stance(以下MSt)

から Terminal stance(以下TSt)に右股関節伸展と足

関節背屈が低下していた。その後、右 Initial swing(以

下ISw)からMid swing(以下MSw)に骨盤を右挙上する

ことで下肢を振り出し右足部内反が強まっていた。右

足部の内反増強の主要問題は、両側腹斜筋、多裂筋の

低緊張により体幹中枢部が不安定となり、右股関節伸

展活動が低下していると考えた。その結果、右立脚期

に十分な股関節伸展と足関節背屈が得られず、遊脚期

の蹴り出しが不十分となり、代償的に骨盤を挙上し足

部の内反が増強すると仮説した。

【方法】体幹中枢部に対する介入方法の違いより、単

一症例検討をA-Bデザインと設定した。治療 Aは下肢

の運動に伴う下肢・体幹筋の活性化を行う方法。治療

Bは主要問題となる体幹筋の直接的な活性化を行う方

法とした。A期B期共に介入期間をそれぞれ 5日間と

した。評価項目は、Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)

下肢項目、右足関節 Range of motion(以下ROM)、体幹・

右下肢姿勢筋緊張検査(MSt~TSt)、右足関節底屈筋

Modified Ashworth Scale(以下MAS)、Berg Balance

Scale(以下BBS) 、Functional Reach Test(以下FRT)、

10m最大歩行テストを各期開始時・終了時に測定した。

【結果】

治療AではMStからTStの股関節伸展と足関節背屈が

向上し、その後のISwからMSwの骨盤の右回旋が促さ

れ歩幅が拡大した。また、右足部内反の出現が軽減し

たことで、T字杖と装具にて病棟内歩行が自立となっ

た。しかし、装具を使用しない場面では右足部内反に

よりバランスを崩す場面がみられた。治療 BではTSt

の腰椎前弯と体幹左側屈が軽減した。また、TStの股

関節伸展が向上し、ISwからMSwの骨盤の右挙上と右

足部内反がA-B期移行期より軽減した。その結果、屋

内において装具を使用しない場面であっても引っ掛か

りが消失し歩行の安定性が向上した。FRTは、初期と

比較し股関節屈曲による体幹の前傾が出現しリーチ距

離が向上した。また、B期終了時では体幹の伸展を伴

う前傾が可能となった。その他、表を参照。

【考察】治療Aでは、右股関節の伸展活動が促され、

右下肢安定性が向上しFRTが向上した。結果的に、右

TStの股関節伸展と足関節背屈が向上し、振り出しが

改善したことで右足部内反が軽減した。しかし、腰椎

前弯と体幹左側屈の代償パターンが残存し、装具を使

用しない場面では右足部内反による引っ掛かりが観ら

れた。治療Bでは、両側の腹斜筋と多裂筋の活性化に

より、持続的に体幹が安定したことで FRTは体幹の伸

展を伴うことで向上した。また、歩行では右下肢への

荷重が増大しTStの十分な蹴り出しが促され、装具を

使用しない場面においても引っ掛かりは消失した。

表:A期開始時、A-B期移行期、B期終了時評価

A期開始時 A-B期移行期 B期終了時FMA(下肢項目) 17 /34 19/34 21/34ROM(膝関節伸展位右足関節背屈) 0° 5° 5°MAS (右足関節底屈筋) 1+ 1+ 1姿勢筋緊張検査(MSt~TSt)両側多裂筋 中等度 低緊張 軽度 低緊張 軽度 低緊張両側内腹斜筋 中等度 低緊張 軽度 低緊張 軽度 低緊張両側脊柱起立筋 高緊張 高緊張 軽度 高緊張右大臀筋・中殿筋 中等度 低緊張 軽度 低緊張 軽度 低緊張右ハムストリングス 中等度 低緊張 軽度 低緊張 軽度 低緊張右ヒラメ筋 過緊張 軽度 過緊張 軽度 過緊張右腓腹筋 中等度 低緊張 軽度 低緊張 軽度 低緊張BBS 37/56点 42/56点 43/56点FRT 20cm 23.5cm 26cm10m最大歩行テスト 27秒 30歩 22秒 28歩 19秒 27歩

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右後頭葉脳梗塞により視野障害を呈した症例

~簡便化した視野刺激反復法を用いた結果~

名取病院 リハビリテーション科 宇井 比呂

【はじめに】右後頭葉脳梗塞により視野障害を呈した

症例を担当した。視野障害によりバランス能力が低下、

恐怖心の訴えが強くリハビリテーションを拒否してい

た。視野障害に対するアプローチを行うことで恐怖心

が軽減し、動作能力が向上したためここに報告する。

【症例紹介】平成24年2月右前頭葉アテローム脳梗

塞により左片麻痺を呈する。退院後、居室からトイレ

までの距離(7m)の歩行・跨ぎ動作を杖で自立してい

た。平成 26年9月転倒し左大腿骨骨折、人工骨頭置換

術施行。その後は自宅で寝たきりの生活を行っていた。

平成 27年4月2日右後頭葉に再梗塞が見つかる。家族

は骨折前のADLを望まれており、自宅退院には①立位

保持の安定②杖歩行・跨ぎ動作見守りが必要である。

【説明と同意】症例には本発表の趣旨を書面にて同意

を得た。

【初期評価】主訴:怖い・見えへん BRS-t:左上肢

Ⅱ左下肢Ⅲ感覚:表在10/10左半身疼痛フェイススケ

ール 4 視覚:左・下方視野欠損(中央より左へ-8.85cm)

バランステスト:立ち直り反応頭頚部右(+)左(-)そ

の他の評価拒否 立位:手すり使用し見守り。支持物な

しの立位は拒否。 歩行:杖で接触介助。進行方向右に

逸れる。

【治療プログラム】バランス練習(立位でのリーチ動

作など)、歩行の反復練習を考案。拒否が強く実施困難。

視野障害からの恐怖心を軽減するため、視覚的アプロ

ーチとして①環境設定②機能的アプローチを行った。

①床に赤テープを張り進行方向を示し、注視させなが

ら歩行練習を行った。②視野刺激反復法¹⁾を実施した。

視野刺激反復法とは視野欠損部に反復刺激を行うもの

である。まず方眼紙を上下左右二等分し、その交点を

固視点とする。患者に固視点を注視させ、セラピスト

は方眼紙を左側から指でなぞる。セラピストの指を刺

激点とし、患者に刺激点が見えた時点で手を上げさせ

る。刺激点を3cm間隔で上方へ移動させる。視野刺激

反復法を 1ヶ月間実施した。

【最終評価】BRS-t:左上肢Ⅱ左下肢Ⅲ 感覚:表在

10/10左半身疼痛フェイススケール 4 視覚:左視野欠

損(中央より左へ10.6cm) バランステスト:立ち直

り反応頭頚部右(+)左(-)FR17.5cm 立位:支持物なし

で見守り。上肢挙上などの内乱にも対応可。歩行:杖

で見守り。進行方向逸れることなく 10m可。

【考察】視野刺激反復法を実施した結果、視野が拡大

し恐怖心の訴えが無くなった。それに伴いリハビリテ

ーションに対する拒否が軽減し、動作能力の向上が認

められた。下園らは視野欠損境界領域の同一点を反復

刺激することで効果的に視覚路の再建、強化がなされ

た²⁾と報告している。本症例においても同様に視覚路

の再建・強化がなされ視野が拡大したと考えた。

脳卒中後立位バランス保持の感覚運動機能は視覚

系への依存が高まる³⁾とされている。視覚障害軽減に

よりバランス能力が向上し、立位・歩行の安定性が向

上したと考える。また転倒恐怖感がバランス能力と歩

行速度の調和に関連する⁴⁾とのことから立位・歩行の

安定性向上により恐怖心が軽減したと考えた。

視覚機能へのアプローチを行い視野障害の改善が

確認されたことで、理学療法を進める上で視覚機能へ

のアプローチも重要であることが示唆された。しかし

現在の研究では、視覚刺激の部位や回数・期間などの

細かな条件設定はなされていない。また固視持続が必

要であることや課題に対する理解が必要であり、対象

者が限られるという問題点がある。今後視野障害を呈

した症例に対し治療を行い、細かな条件設定や簡便な

治療方法などを検討したい。

【引用文献】1)又吉達 山口健:脳卒中後の視野障害

に対するリハビリテーションの新たな試み.沖縄県医

師会 沖縄県医師会報,8 号, 2008 2) 下園由理香:コ

ンピューター化視野訓練装置による視覚反復刺激によ

って四分盲が改善した脳卒中の 1 例.日本リハビリテ

ーション医学会誌,44:613-619,2007 3) 佐直信彦 中

村隆一:脳卒中片麻痺患者の立位バランスの決定因子.

リハビリテーション医学,vol.30 No.6, 1993 4)樋口由

美:虚弱高齢者における転倒恐怖感と歩行・バランス能

力との関連.J Rehabil Health Sci1:18-22, 2003

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右橋出血後、左片麻痺と運動失調症を呈し、右方向転

換時における麻痺側下肢の支持性向上を目標とした

一症例

ボバース記念病院 佐藤 伶奈

【はじめに】右橋出血後、左片麻痺と運動失調症を呈

した患者に対し右方向転換時の麻痺側(以下左)立脚中

期~後期(以下 MSt~TSt)の支持性向上や動的な左骨

盤前方回旋の獲得により病棟内独歩自立に至った症例

を経験したので報告する。

【症例紹介】79歳男性。右橋出血(左片麻痺・運動失

調症)を呈し、発症から43日後リハビリテーション目

的で当院へ転院となる。当院リハビリ施行期間は発症

から 44日後~197日後である。発症から 44日後~147

日後は主に歩行時の左下肢の支持性向上を目的に介入

を行い、病棟内歩行器歩行が自立した。147 日後以降

は右方向転換時の左下肢の支持に伴った左骨盤の動的

安定に伴う独歩自立と設定した。

【方法】発症から153日後以降から2週間毎に初期、 中

間、 最終評価を実施した。 ADL評価としてFIM、片麻

痺機能評価法としてFugl-Meyer Assessment(以下FMA)、

運動失調症検査としてScale for the assessment and

rating of ataxia (以下 SARA)、バランス機能評価と

して Berg Balance Scale (以下BBS)、体幹機能評価と

して Trunk Impairment Scale (以下 TIS)、歩行機能評

価として 10m歩行速度と歩数、Timed Up and Go(以下

TUG)、関節可動域検査(以下 ROM-T)、姿勢筋緊張検査

(触診)を用いた。対象者に本発表の趣旨を説明し、

同意を得た上で実施した。

【結果】初期評価時ADLは病棟内 U字型歩行器歩行自

立レベル、独歩は軽介助~近位見守りレベルであった。

直線歩行は安定していたが右方向転換時の左下肢支持

の際に左骨盤が後方回旋し左股関節屈曲・内転・外旋

位となり左後方への転倒リスクを認めた。また姿勢筋

緊張より両側腹部と左殿筋群の低緊張を認めたため、

治療目標を左 MSt~左 TStの支持性向上と動的な左骨

盤前方回旋の獲得とした。治療では背臥位でボトムア

ップや座位で骨盤の前後傾運動により両側腹部と左殿

筋群の活性化を促した。また体幹の抗重力伸展活動と

左下肢の支持性向上を目的に、立位で左下肢を治療台

へ乗せ、前後への体重移動を行うことで左殿筋群と体

幹の同時収縮を促した。中間評価では右方向転換時の

左 MSt~左 TStで見られていた左骨盤後方回旋や左股

関節屈曲が減少し独歩が見守りで可能となった。しか

し体幹屈曲の著明な改善は見られず、右方向転換時に

体幹の回旋が乏しいため、新たに寝返りや起き上がり

動作の中で左胸郭の前方回旋を促し、左片脚立位で右

下肢の空間での操作により動的な左下肢の支持性向上

を図った。最終評価では左TStで体幹と骨盤の回旋が

見られ病棟内独歩自立に至った。評価項目では SARA、

BBS、TUG等で改善が見られた。

表:初期評価・中間評価・最終評価の各検査結果

【考察】初期評価時、体幹への治療により右方向転換

時の左立脚期で左内腹斜筋による遠心性制御が改善し

たことで左下肢の支持性が向上し、中間評価時には病

棟内独歩が見守りで可能になったと考える。 櫻井らは

健常者において方向転換の際に体幹伸展と進行方向と

同方向への回旋が起こる 1)と報告しており、本症例で

は中間評価以降、体幹と骨盤の回旋への治療で右方向

転換時の左下肢に対する左骨盤の前方回旋が改善し、

右下肢への円滑な重心移動が可能となり病棟内独歩が

自立したと考える。独歩は自立したが残存問題は 2つ

存在し、1 つ目は体幹・股関節屈曲による固定したパ

ターンから十分に脱却できず、体幹伸展位、左股関節

伸展・外転・外旋位での十分な支持には至っていない

点である。2 つ目は右方向転換時での左立脚期は改善

したが、右回りでの左遊脚期では失調症による左下肢

の空間での制御が不十分であり、過度な左下肢の拳上

や股関節内転が出現することが課題である。

【引用文献】1)櫻井好美・他:歩行関連動作のバイオ

メカニクス、PTジャーナル、第47巻、第6号、527-530 、

2013

初期評価 中間評価 最終評価FIM 106/126点 107/126点 108/126点FMA     (下肢項目) 23/34点 23/34点 26/34点SARA 6.5点 6.5点 5.5点BBS 34/56点 36/56点 40/56点TIS 11/23点 13/23点 13/23点10M歩行 6’13秒/15歩 6’07秒/14歩 6’00秒/13歩TUG     (右回り)  11”16秒/21歩10”85秒/17歩10’65秒/16歩        (左回り) 11”31秒/21歩11”34秒/18歩11’16秒/16歩姿勢筋緊張 (触診:左立脚期)  左内腹斜筋 中等度低緊張 軽度低緊張 軽度低緊張 右内腹斜筋 中等度低緊張 中等度低緊張 軽度低緊張 左腹横筋 中等度低緊張 軽度低緊張 軽度低緊張 右腹横筋 中等度低緊張 中等度低緊張 軽度低緊張 左ハムストリングス 中等度低緊張 軽度低緊張 軽度低緊張 左大・中殿筋 中等度低緊張 軽度低緊張 軽度低緊張

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21

パーキンソン病患者に対する運動療法の経験

-投薬調整による入退院を繰り返している症例-

JCHO大阪病院 内田直祐

【はじめに】近年、パーキンソン病(PD)患者に対す

る理学療法において、動作の大きさに焦点を当てた理

学療法プログラムが注目されている。今回、PDの長期

罹患により投薬調整のために入退院を繰り返している

症例に対し、動作の大きさに焦点を当てた運動療法を

実施する経験を得たためこれに報告する。尚、症例に

は発表の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。

【症例紹介】70代女性、20年前から左上下肢の動きに

くさを自覚し当院受診、PDの診断を受け当院外来にて

診察を受けていたが、2013年頃から投薬調整のため入

退院を繰り返すようになる。今回、不随意運動の増悪

と幻覚出現のため、投薬調整目的に当院入院となり、

翌日から理学療法介入となった。

【初期評価(入院2日目)】Hoehn-Yahr重症度分類(H-Y

分類):Ⅳ、Mini Mental State Examination(MMSE):

30/30、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale

(UPDRS):67点(精神症状:7点、ADL:23点、運動

機能:24点、治療の合併症状:13点)、筋緊張:四肢

では Modified Ashworth Scale(MAS):0、体幹は立位・

座位共に姿勢保持ができず低緊張であった。姿勢反射

として立位では前方、側方はステッピング反応、立ち

直り反応ともに消失し、後方への外乱で突進現象が見

られた。粗大筋力では MMTで体幹屈曲:5、体幹伸展:

2相当であった。関節可動域(ROM)は体幹伸展:-30

度、股関節伸展:-5/-5度(Rt/Lt)、膝関節伸展:-10/-10

度であった。10m歩行:17.5秒、Timed up and Go Test

(TUGT):14.1秒、歩行はT-cane歩行で歩幅は30cm、

体幹前傾増強、上肢の振りは消失し小刻み歩行であっ

た。方向転換時や障害物を避ける際にすくみ足が見ら

れていた。不随意運動時間は一日 120-180分であり、

不動時間は一日180-240分であった。

【治療プログラム】投薬調整と並行し、運動療法とし

て、座位では両肩可動域全域の運動及び体幹屈曲、伸

展、回旋を伴った運動を行い、立位では下肢の振り出

しと同時に上肢・体幹の運動を実施した。全ての動作

において、体幹の伸展を促しながら大きく動くことを

指導した。

【最終評価(入院21日目)】H-Y分類:Ⅳ、UPDRS:48

点(精神:3点、ADL:15点、運動:21点、治療:9

点)、筋緊張、姿勢反射に変化なし。筋力にも変化はな

かった。ROMは股関節伸展が0/0度(Rt/Lt)と改善が

見られたが、他は変化なし。10m歩行:14.4秒、TUGT:

13.8秒、歩行はT-cane歩行で歩幅は 37.5cm、小刻み

歩行はやや改善したが体幹前傾や上肢の振りの消失に

変化は見られなかった。方向転換時、障害物を避ける

際のすくみ足歩行も不動時のみの出現となった。不随

意運動時間は1日30-60分、不動時間は 1日60-120

分と改善が見られ、入院22日目で退院となった。

【考察】坂元らの報告 1)によると、動作の大きさに焦

点を当てた運動療法を実施したことで UPDRSは改善す

るとされている。本症例においても、UPDRSは68点か

ら48点へと改善し、特にUPDRSの運動機能項目におい

て動作緩徐の項目は中等度の動作緩徐から軽度に改善

がみられている。動作緩徐と歩幅が改善したことによ

って歩行効率が向上し、10m歩行、TUGTともに改善し

たものと考える。PDの運動障害である無動や動作緩徐

は、補足運動野・運動前野の活動低下により、随意運

動時の皮質運動野の機能低下を生じた結果であるとい

われている 2)。本症例では運動の大きさを意識させる

ことにより、上記運動野の活動が増加し、動作緩徐の

改善につながったものと考えられる。

【おわりに】PDに対して運動の大きさに焦点化した理

学療法プログラムは有効な手段であり、簡単な動作の

組み合わせであるため理解が得られやすく、自主練習

としても導入しやすかった。今後はバランス能力を定

量的に評価し治療プログラムに加えることによってよ

り効率的な運動療法の提供ができるものと考える。

【参考文献】

1)坂元千佳子ほか:LSVT®BIGによるパーキンソン病患

者のリハビリテーション.メディカルリハビリテーシ

ョン,135,61-65.2011

2)山口明:パーキンソン病のリハビリテーショ

ン.Journal of clinical rehabilitation,Vol.11

No.12 ,1116-1122,2002

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重度痙性麻痺を呈し自己体動困難となった頸椎症性

脊髄症患者に対する運動療法の一考察

医誠会病院 山田 真理子

【はじめに】今回、長期にわたる痙性の進行により自

己体動困難となった症例を担当し、社会復帰するにあ

たり歩行の獲得を目標に介入した。その中で正しい動

作を反復し学習する重要性を認識したので、考察を加

えここに報告する。なお、症例には発表の主旨を説明

し、同意を得た。

【症例紹介】30歳代男性。母親と 2人暮らし。平成24

年に頚椎症性脊髄症に対し、他院にて頸椎後方固定術

(C2/3/4)を施行。平成26年11月より手指の巧緻運動

障害、右下肢の強張り等を自覚。その後、徐々に歩行

障害が進行し、平成 27年3月に外出した際、転倒し自

己体動困難となり他院へ救急搬送される。頸椎の後弯

変形が著明の為、5月に当院へ手術目的で転院。入院 2

日後にハローリングを装着。ハローリング装着 3日後

に前後同時固定術(C3/4,4/5,5/6)と後方固定術

(C1/2,2/3,6/7,C7/T1)を施行。医療関係の仕事をして

おり、復職願望が強い。

【初期評価(術後12日目)】術前同様、痙性は強く筋緊

張は亢進しておりMAS3。動作時には MAS4まで亢進を

認めた。筋力は概ねMMT4~5保持されていた。下肢の

深部感覚は中等度鈍麻を認めた。座位では左側への荷

重偏倚を認め、両下肢ともに屈筋パターンとなり骨盤

が後傾していた。体幹は左側腹筋群の収縮が乏しく、

右の肩甲帯は外転・外旋位を認め、体幹右側屈位であ

った。立ち上がり動作全相において体幹・両下肢とも

に伸展筋群の高緊張を認めた。また、体幹前傾相で十

分な下腿の前傾が不十分なまま臀部離床相へと移行し、

上肢を挙上する為、後方へ重心が残存し後方へ姿勢の

崩れを認めた。姿勢の自己修正は困難であった。離床

開始後、介助下での歩行を実施したが上肢屈曲位、下

肢伸展位と全身の筋緊張亢進を認めた。振り出しを介

助するも痙性歩行を認めた。立脚期では両下肢ともに

重心の前方移動を介助すると膝折れを認め、10m歩行

は困難であった。痙性の助長、転倒リスクの高さより

現段階では訓練可能レベルではないと判断した。JOA

スコア 4.5点であった。

【中間評価(術後19日目)】ハローリングからフィラデ

ルフィラカラーへ変更。筋緊張の軽減を認めるもその

他著明な改善は認めず。立ち上がり時の足関節底屈は

残存しており臀部離床時に介助を要する状態であった。

痙性を助長すると考え、歩行訓練は未実施とした。JOA

スコアも前回同様変化を認めなかった。

【治療プログラム】下肢の深部感覚低下・体幹の

Stabilityの低下・下肢の筋緊張の亢進上記 3つに着

目し介入した。内容として、座位姿勢において体幹

Stability賦活・立ち上がりを用いた神経筋再教育・

足底接地を目的とした足関節背屈位での下肢伸展運

動・片脚支持獲得を目的とした重心移動を実施した。

【最終評価】自己にて筋緊張調整が可能となり MAS2

となった。それに伴い下肢の可動域の改善と分離運動

を認めた。また、座位姿勢の崩れは軽減し、立ち上が

り時の後方への不安定性は大幅な改善を認めた。歩行

は右片松葉杖歩行が10m以上近位監視下で可能となっ

た。10m歩行の結果は20.43秒、30歩であった。JOA

スコア12点となった。

【考察】Handaらによると頸椎性脊髄症患者の予後予

測因子として術前JOAスコアが12点以下の群は予後が

不良であるといわれているが、本症例は歩行獲得を達

成した。二瓶らによると痙性に対して主動作筋と拮抗

筋の交互運動を実施することで痙性抑制につながると

いう。そこで、立ち上がりや歩行訓練は有力であると

考えた。またBennettによると、神経筋再教育とは骨

格筋の随意運動の発達、または回復を目的とした運動

療法の方法とされている。治療対象に脊髄の中枢神経

障害が含まれる為、本症例に対し有力な介入方法であ

ると考えた。治療する際には簡単な動作から複雑な動

作へと段階を踏み、介入する必要がある。難易度が高

い場合、他の固定筋が活動してしまいそこで、正しい

動作の獲得が阻害されてしまうからである。したがっ

て、歩行訓練を実施する前に立ち上がり動作の中での

神経筋再教育を試みた。このように動作は異なるが収

縮するタイミング・活動様式を正しく学習することは

非常に重要であると考える。運動難易度を下げ、反復

する事が歩行獲得へ繋がったと考える。

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TKA術前介入より Trendelenburg歩行の軽減がみられ

た一症例

千船病院 佐々木 宏樹

【はじめに】Trendelenburg歩行を呈している右変形

性膝関節症の患者に対し、術前から歩容に着目して理

学療法を行った。その結果、退院時に術前より改善を

認めたため報告する。

【症例紹介】50 代後半の女性。身長 157.5cm、体重

84.6kg、BMI 34.1。11年前より当院受診し、X-P に

て両側変形性膝関節症と診断され1年前に左人工膝関

節全置換術(以下TKA)を施行。今年に右TKA施行

し、その約1ヶ月前より外来理学療法を開始した。既

往歴に糖尿病があり、股関節疾患はみられない。

【説明と同意】症例には本発表の趣旨を説明し、同意

を得た。

【初期評価(手術 43 日前)】FTA は右 186.9°、左

176.6°であった。疼痛は歩行時に右膝関節内側部に

みられ、数値的評価スケール(以下NRS)で 5/10 で

あった。関節可動域(以下ROM、右/左)は膝関節屈

曲 125°/120°、伸展 0°/0°であった。徒手筋力検

査(以下 MMT、右/左)は股関節外転 4/4、股関節屈

曲位での外転 5/5、股関節内転 5/5、股関節伸展 5/5、

膝関節伸展 5/5 であり、ハンドヘルドダイナモメータ

ー(以下HHD)は股関節外転筋力右0.046kgf/kg、左

0.050kgf/kg、膝関節伸展筋力右 0.295kgf/kg、左

0.258kgf/kgであった。歩容は右立脚初期に膝Lateral

Thrust、右立脚中期~後期に遊脚側への骨盤傾斜がみ

られた。10m最大歩行速度は7.98秒、Timed up and

go test(以下TUG)は8.45秒であった。片脚立位は

右9.86秒、左11.36秒であった。

【治療プログラム】外来理学療法は膝関節へのアプロ

ーチのほか、股関節外転筋力増強運動を中心に週1回

2 単位実施した。自主トレーニングにおいても股関節

外転筋力増強運動を指導した。

【中間評価(手術 7 日前)】疼痛は歩行時に右膝関節

内側部にみられ、NRS で 2/10 と軽減した。ROM、

MMT は変化ないが HHD は股関節外転筋力右

0.078kgf/kg、左0.081kgf/kgと向上し、膝関節伸展筋

力右0.252kgf/kg、0.227kgf/kgであった。歩容は右立

脚初期の膝Lateral Thrustは残存、右立脚中期~後期

の遊脚側への骨盤傾斜の軽減がみられた。10m最大歩

行速度は6.58秒、TUGは7.73 秒と向上がみられた。

片脚立位は右 20.70 秒、左 30 秒以上可能と向上がみ

られた。

【最終評価(術後23日目、退院時)】FTAは右175.1°

であった。疼痛は歩行時に右膝関節周囲にみられ、

NRS で 3/10 であった。ROM は膝関節屈曲 120°

/120°、伸展 0°/0°であった。MMT は股関節外転

4/4、膝関節伸展4/5で、その他は変化なかった。HHD

は股関節外転筋力右0.121kgf/kg、左0.136kgf/kgと向

上し、膝関節伸展筋力右0.201kgf/kg、左0.278kgf/kg

と右膝関節伸展筋力は術前の約68%まで改善した。歩

容は右立脚初期の膝 lateral Thrustは改善、右立脚中

期~後期の遊脚側への骨盤傾斜の軽減がみられた。10

m最大歩行速度は7.78秒、TUGは8.97秒であった。

片脚立位は右15.97秒、左30秒以上可能であった。

【考察】本症例では長期間の内反変形により股関節外

転筋力低下が生じ、右立脚中期~後期に遊脚側への骨

盤傾斜がみられ、Trendelenburg 歩行となっていた。

それにより膝関節内反ストレスが増加し、膝関節内側

部の疼痛が増加したと考えた。変形性膝関節症ガイド

ライン 1)では術前理学療法は術後運動機能改善に有効

であると報告している。また、津村ら 2)は股関節外転

筋を強化することで内側型OAの症状が軽快すること

が期待できると述べている。本症例も約1ケ月の術前

介入で股関節外転筋力の向上がみられ、右立脚中期~

後期の遊脚側への骨盤傾斜の軽減、膝関節内反ストレ

ス軽減による疼痛軽減がみられた。一方、退院時の右

膝関節伸展筋力は術前の約 68%であり、歩行速度・

TUG の改善は不十分であった。しかしながら、術前

より着目していた股関節外転筋力は向上しており

Trendelenburg歩行の軽減がみられた。

【参考文献】

1)変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン

2)津村弘・他:股関節外転筋力増強訓練の有効性と

限界.臨床スポーツ医学,28(6),625-628.2011

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24

人工膝関節置換術後の可動域不良例に対する自転車

エルゴメータ運動を主体とした理学療法の経験

関西電力病院 リハビリテーション科 中川達裕

【はじめに】一般的に,人工膝関節置換術(以下 TKA)

後の膝屈曲角度は 120°以上が excellent,90°以下

が poor とされており,TKA 術後の屈曲可動域は,約

110°が平均とされている.さらに,術後 2週目で90°

に満たない症例では,術前の可動域を獲得する可能性

が低いとされている.今回,術後 3週目において,屈

曲可動域 90°と獲得可動域不良な症例を担当した.本

症例に対し,自転車エルゴメータ運動を積極的に実施

した結果,炎症反応と疼痛が軽減し,膝関節可動域の

改善を認めたため,経過を報告する.

【症例紹介】1 年前より右変形性膝関節症との診断を

受けた 70歳代男性.併存症に糖尿病,脂質異常症があ

った.病前 ADL は自立,術前の膝関節可動域は屈曲

120°,伸展-10°であった.術中所見としては,コン

ポーネントにScorpioPSが使用された.術後翌日より

理学療法開始が開始され,術後3週目に可動域と歩容

の改善のために当院回復期リハビリテーション病棟に

転院となった.

【説明と同意】尚,この発表を行うにあたり,患者に

は,口頭にて同意と承認を得た.

【初期評価(術後 3週目)】右膝内側に安静時 VAS3,

運動時 VAS5程度の疼痛があり,右膝関節可動域は屈曲

90°,伸展‐10°,足関節背屈‐5°であった.炎症

所見として,右膝関節周囲に熱感,発赤が残存してお

り,周径は膝蓋骨上で(右/左)37.0cm/34.5cmと腫脹

を認めた.MMTは右膝周囲筋が4,左は5であった.Timed

Up & Go Test(以下 TUG)は 17.70 秒,歩行は杖使用

にて自立であり,10m 歩行は 12.55 秒であった.

Functional Independence Measure(以下FIM)は123

点(下衣の更衣,歩行,階段昇降での減点),QOLの評

価である Western Ontario and McMaster Universities

Osteoarthritis Index(以下 WOMAC)は 45/96点であ

った.

【治療プログラム】アイシング,自転車エルゴメータ

運動(20W/30 分),下肢ストレッチ,下肢筋力強化練

習,階段昇降練習を5回/週,5週間実施した.

【最終評価(術後8週目)】安静時 VAS0,運動時VAS3

と疼痛は軽減し,関節可動域は膝関節屈曲 125°,伸

展‐5°,足関節背屈0°となった.熱感,発赤は消失

し,周径は膝蓋骨上で36.0cm/34.5cmと腫脹の改善を

認めた.MMT は左右膝関節周囲筋ともに 5レベルであ

った.TUGは8.3秒,歩行は独歩自立となり,10m歩行

は7.03秒と改善した.FIMは125点(階段昇降のみ減

点),WOMACは20/96点と改善した.

【考察】本症例は,TKA術後 3週目において膝関節屈

曲可動域が90°であり,術前の可動域の獲得は困難で

ある可能性があった.しかし,5 週間の訓練の結果,

屈曲可動域は 125°まで改善し,術前の可動域を獲得

し,平均以上の治療成績となった.本症例の可動域制

限の原因としては,炎症反応の遷延化により腫脹,疼

痛が残存し,膝周囲筋に防御収縮が発生していたため

と考えられた.この点に対し,自転車エルゴメータを

用いて,疼痛自制内で,筋収縮と自動運動による可動

域運動を実施した.下肢骨折術後の症例に対し,自転

車エルゴメータ運動などによる血流量の改善が組織修

復につながったとの報告があり,また TKA術後症例に

対しては,自動可動域運動の有用性が述べてられてい

る.つまり,自転車エルゴメータ運動による自動可動

域運動によって,下肢筋ポンプ作用が循環動態に影響

を与え,腫脹や疼痛,防御収縮が緩和され,可動域の

改善につながったと考える.また,このことにより歩

行機能の向上やADL,QOLの改善がもたらされたと考え

られる.

TKA 術後の運動療法では,他動可動域運動に比べ,

自動可動域運動が推奨されており,炎症反応や疼痛,

防御収縮により可動域の獲得が遷延化している場合は,

自転車エルゴメータ運動を用いた自動可動域運動は有

効であることが示唆された.

【参考文献】

龍順之助 他:人工膝関節置換術後の可動域を左右す

る因子.日関外誌Ⅷ (2),109-116,1994.

福島浩史 他:人工膝関節置換術後の可動域練習方法

の違いが膝関節可動性と疼痛に及ぼす影響.理学療法

学25 (2),245-249,2010.

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25

両側性高位脱臼性股関節症により左人工股関節全置

換術を施行された症例 ~全荷重時の跛行軽減を目

指して~

北野病院 大泉 湧

【はじめに】

通常の人工股関節全置換術(以下、THA)で補正可能な

脚長は 4㎝が限界と言われている 1)。高位脱臼性股関

節症は骨頭が臼蓋から上方に脱臼し、通常の股関節よ

り高い位置で関節を形成している。そのため従来の

THA では神経麻痺などの合併症が高頻度で出現するた

め手術適応外となっていた 2)。しかし、近年では高位

脱臼性股関節症に対し、骨切り併用 THAが施行されて

いる。今回、両側性高位脱臼性股関節症により左 THA

を施行された症例を担当させていただく機会を得た。

特に前額面上の跛行軽減のために介入を行ったため、

ここに報告する。

【症例紹介】

本症例は60代女性主婦であり、両側性原発性股関節

症で 2013 年から両股関節部痛あり、左 THA を目的に

7/7入院。既往歴に先天性股関節脱臼、27年前のバイ

ク事故による両下肢創外固定がある。術式は Dall’s

direct lateral approach であり、全荷重時の跛行の

軽減を目的に介入を行った。尚、発表に際し本症例に

は同意を得た。

【術前評価】

左右両側とも股関節全可動域に制限を認め、筋力も

ほぼ全方向低下を認めた。脚長差は左下肢が 1.5㎝延

長を認め、術前の歩行に関しては独歩であり左立脚期

Duchenne歩行著明であった。問題点として高位脱臼に

よる筋萎縮や拘縮・手術侵襲による大殿筋や外旋筋の

筋スパズムによる関節可動域制限や、疼痛による筋出

力の低下などが挙げられた。

【治療プログラム】

術後2週目までは完全免荷であり、術後 3週目より

1/3荷重が可能となり、その後2週起きに1/2、2/3荷

重開始となった。新たに形成された股関節の安定化を

図るために内外旋筋の筋力強化や協調トレーニングを

中心とし、手術侵襲により筋出力の低下を認めた腸腰

筋や高位脱臼により萎縮を認めた中殿筋のトレーニン

グを術後2週目より開始した。立位では 1/3荷重開始

となった時点で、積極的に立位・松葉杖歩行を行った。

【最終評価 術後42日目】

脚長差はほぼ改善し、術後疼痛に関しては術後 1週

間でほぼ消失しており、最終評価時は疼痛は認めなか

った。また、可動域・筋力ともに向上を認めた。2/3

荷重時の直立姿勢において左下肢に体重をかけようと

体幹の左側屈、股関節戦略で代償している動作が見受

けられた。歩行に関しても左立脚期、体幹左側屈の状

態での歩行であった。また荷重量upに伴う新たな跛行

の出現は認めなかった。2/3荷重の時点で退院となり、

PT介入終了となった。

【考察】

高度な高位脱臼性股関節症患者では、術前より下肢

筋力の低下や脚長差による跛行がみられる1)。本症例

においても術前股関節周囲の筋力低下や Duchenne 歩

行が出現していた。本症例において術前より外旋筋群

の萎縮、手術侵襲による腸腰筋剥離が問題点として挙

げられ、股関節運動時の回転軸の形成が不十分である

ことが考えられた。石井 2)は、身体運動を行う際の機

能解剖学的要求より、関節の回転運動軸の形成と動的

安定化に関わる要求が必要とされており、股関節の回

転軸は、腸腰筋と閉鎖筋によって形成されていると報

告している。これらの筋力強化により骨頭の安定化が

図られることで、より強い中殿筋の活動が行え、荷重

量増加時も新たな跛行の出現を防ぐことが出来たと考

える。

本症例は松葉杖歩行にて2/3荷重の段階で退院され

ており、全荷重の段階の歩行が確認できていないこと

や、右下肢・体幹の問題を十分に評価できていないこ

とが課題として挙げられた。

【文献】

1) 清兼清彦他: 骨切り併用人工股関節置換術を施行

した症例.理学療法福井 12(3): 55-59, 2008.

2) 河野俊介他:両側高位脱臼股症例の歩行時動揺性

に関する 3 次元動作解析.整形外科と災害外

科,62(3): 589-591, 2013.

3) 石井慎一郎:総論.理学療法,23(9):1282・1293,

2006

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左THA術後の股関節伸展制限に着目した一症例

牧病院 竹田数馬

【はじめに】今回、左変形性股関節症に対し、THA を

施行された患者を担当した。術後、股関節伸展可動域

制限に着目し評価、治療を行ったためここに報告する。

【症例紹介】60歳代男性。診断名は左変形性股関節症

で左 THAを前側方アプローチにて施行。主訴は左遊脚

初期の左股関節痛であった。

【説明と同意】本症例に本発表の趣旨を説明し、口頭

にて同意を得た。

【経過】10年前より歩行開始時に左股関節の疼痛が生

じ、1年前より疼痛が増強したため手術の運びとなる。

【入院前活動量】職業は警備、交通誘導員で週5日、8

時間勤務であった。仕事内容は主に車の誘導で長時間

の立位と誘導時の歩行が必要であった。また、趣味と

して 2時間の散歩を行っていた。

【術前評価】疼痛(以下 NRS)は術創部、左中殿筋、大

腿筋膜張筋、大腿直筋に伸長時痛 3/10。関節可動域(以

下 ROM、右/左、単位°)は股関節屈曲 120/100、伸展

15/-10、膝関節伸展0/-5。徒手筋力検査(以下MMT、右

/左)は股関節伸展5/2、外転5/3、膝関節伸展5/2。棘

果長(以下SMD、右/左、単位cm)は81.0/79.0。転子果

長(以下TMD、右/左、単位cm)は 76.0/76.0。左sharp

角は 51°。左CE角は55°。歩容(以下独歩)は左立脚

中期から骨盤前傾、腰椎前弯位が増強し、左立脚後期

の短縮が見られた。

【初期評価(術後 3 日目)】NRS は術創部、左中殿筋、

大腿筋膜張筋、大腿直筋に伸張時痛 3/10。ROM(左)は

股関節屈曲 75°、伸展-20°、膝関節伸展-10°。

MMT(左)は股関節伸展2、外転2。SMDは81.0/83.0。TMD

は 76.0/76.0。独歩は左立脚中期の短縮、立脚後期の

消失が生じ、また、術前評価時と比べ左立脚初期から

中期にかけて膝関節屈曲角度が増加していた。

【最終評価(術後18日目)】NRSは左中殿筋、大腿直筋、

大内転筋に伸張時痛2/10、大腿筋膜張筋、中殿筋に荷

重時痛 2。ROM(左)は股関節屈曲 85°、伸展0°、左膝

関節伸展 0°。MMT(左)は股関節伸展 4、外転 4、膝関

節伸展 5。独歩は左立脚中期が延長し、立脚後期が出

現した。また、初期評価時と比べ左立脚初期から中期

にかけて膝関節屈曲角度が減少した。

【治療プログラム】術後の脚延長による左股関節伸展

制限と術前の歩容に対するリハビリテーションを行っ

た。術後の脚延長に対しては、腸腰筋、大腿直筋のス

トレッチを行った。術前の歩容に対するアプローチと

して座位、膝立ち位での側方リーチ、ステップ ex、立

位での上方リーチを行った。

【考察】本症例は臼蓋形成不全があり、術前より左股

関節可動域制限、左立脚後期の短縮が見られた。また、

手術後においてもそれらの増悪が見られた。一般的に、

臼蓋形成不全では骨頭の前方部分の被覆が不十分にな

りやすく、骨盤を前傾し、相対的に股関節を屈曲、内

旋位することで被覆率を増大させ、股関節の安定化を

図る 1)と言われている。本症例においても、長期にわ

たる経過や活動量の多さにより、左股関節伸展制限を

呈した。加えて手術による脚延長で柔軟性が低下した

ことが、術後3日目において、さらなる左股関節伸展

制限を招いたと考えられる。そのため、術後早期より

脚延長による筋の柔軟性の増加に加え、術前の歩容の

改善といった2つの目的に対して治療プログラムを実

施した。それらにより、左股関節伸展角度に伴う、左

立脚後期の増加による歩行の実用性の向上が見られた。

【おわりに】今回の症例を担当することにより、術後

だけでなく、術前の生活の影響を加味した上で介入し

ていく重要性を感じた。また、本症例は左股関節伸展

制限が残存しており、改善が見込めるのか評価しつつ、

介入していく必要性がある。

【参考文献】

1)林 典雄,他(編):関節機能解剖学に基づく整形外

科運動療法ナビゲーション-下肢,株式会社メジカル

ビュー,2014.

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転倒により右大腿骨転子部骨折を受傷した一症例

~再転倒予防を目指して~

大阪回生病院 姜 承燁

【はじめに】今回、転倒により三度骨折した症例を担

当した。転倒原因を考察しアプローチを実施した結果、

若干の改善が得られたため報告する。

【症例紹介】発表の趣旨を説明し同意を得た 80歳代女

性。右大腿骨転子部骨折を受傷し右γ‐nail施行。20

年前に橋梗塞、両上腕骨近位端骨折の既往あり(図1)。

娘と二人暮らし(娘健康状態:不良)。

【理学療法評価(初期受傷後21日目、最終 35日目】(初

期→最終、Rt/Lt)関節可動域測定は股関節伸展-10°

/-10°→-10°/-10°。徒手筋力検査は股関節外転

2P/4→3/4。10m 歩行(秒・歩数)107・51→38・32。二

重課題(課題:計算と歩行100-7を実施)は課題遂行不

可→48 秒。ロンベルグ率(総軌跡長・矩形面積単位:

㎠)1.26・3.34→1.06・1.24(図2)。立位姿勢は、頸部

過伸展、体幹屈曲、骨盤後傾位 (図3)、歩行では、デ

ュシェンヌ歩行、両上肢の固定や方向転換時の頭頚部

と体幹の固定 (図4)を呈していたが、最終では改善が

得られた。

【治療プログラム(図 5)】固有感覚入力を目的とした

足内在筋の伸張。胸椎部を伸展させ骨盤前後傾と歩行

の誘導。アーチパットを挿入。

【考察】ロンベルグ率の結果より、視覚優位で頭頚部・

上肢・体幹を固定した姿勢戦略をとっていたと推察し

た。足底からの固有感覚入力を試み治療展開したこと

で姿勢戦略の改善が得られ、方向転換時の姿勢・動作

改善及び二重課題の達成に繋がったと考える。

【おわりに】日常生活において活動範囲が広く、転倒

に至った要因を分析し治療する必要があった。注意配

分や二重課題は転倒との関連性が報告されており、そ

れらの改善は再転倒予防に繋がると考えた。

図1:股関節・上腕骨レントゲ

ン画像、脳コンピューター断

層画像

図4:独歩(点線)、方向転換(直線)(左:初期、右:最終)

図3:立位姿勢

図5:治療プログラム

左上段:足底の固有感覚入力を促通

右上段:広背筋、頭頸部筋を伸張性向上

下段:胸椎、体幹伸展を伸展した中での動作誘導

開眼 閉眼

総軌跡長 76.7→64.7 96.9→68.7

矩形面積 14.7→7.1 49.4→8.8

※初期→最終、単位(㎠)

図2:重心動揺検査

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歩行と洗濯物干し動作の獲得を目指した大腿骨頸部

内側骨折の一症例

大阪回生病院 巖田将人

【はじめに】今回、左大腿骨頸部内側骨折を受傷し、

人工骨頭置換術を施行した症例を担当した。入院前よ

り本人・家族の転倒不安で日常生活関連動作(以下、

IADL)が制限されていた。受傷後、更なるIADL低下に

至ると考え、歩行と洗濯物干し動作の共通要素に着目

し治療した結果、若干の改善が得られたため報告する。

【症例紹介】本発表の趣旨を説明し同意を得た 70歳代

後半女性。左大腿骨頸部内側骨折を受傷。30年前に腰

椎圧迫骨折、5年前に右下腿の閉塞性動脈硬化症(以下、

PAD)を発症。移動は屋内車椅子、洗濯物干しはヘルパ

ーに依頼していた。

【理学療法評価(初期→最終)】関節可動域測定(Rt/Lt)

股関節伸展 0/-5→5/0。徒手筋力検査股関節伸展 3/2

→4/4、外転3/2→4/4。足底触覚検査 5/10→変化なし。

TUG-t(右回り・左回り) 54.7 秒・58.8秒→23.2秒・

25.1秒。歩行左 Mstにて左上肢の外転反応、右 ICで

骨盤右偏移(図 1)、洗濯物干し動作は右上肢でのリー

チの際に右側への重心移動と股関節伸展の不足が観察

されたが最終では改善した。(図 2) 退院後は洗濯物干

しをヘルパー監視下で実施可能となり、SF-36v2(図3)

の項目においても改善を認めた。

【治療プログラム(図 4)】固有感覚入力を目的とし右

足内在筋の伸張を実施。立ち座り、ステップ動作にて

股関節伸展活動を促通した。

【考察】歩行と洗濯物干し動作には殿筋の筋活動が重

要である。本症例は右PADによる感覚低下と、受傷に

よる筋損傷で両側殿筋出力が困難であった。右足底か

らの感覚入力を行い、立ち座り・ステップ動作の中で左

股関節伸展可動域拡大と両側殿筋の筋出力向上を図っ

た結果、両動作の改善が得られた。基本動作と IADL

の構成要素を治療することで退院後の廃用症候群を予

防できる活動につながったと考える。

図2 洗濯物干し(左:初期、右:最終)

図1 歩行(上:初期、下:最終)

図3 健康関連QOL(SF36v2)

図4 治療プログラム

左:右足底の固有感覚入力 中央:立ち座りの中での両下肢遠心性収縮

右:ステップ動作にて左股関節伸展活動

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慢性期脳卒中左片麻痺患者に対し、屋内 T字杖歩行自

立を目標とした症例報告

ボバース記念病院 和田 壮太

【はじめに】慢性期脳卒中左片麻痺を呈した患者に対

し、主要問題点を左立脚中期から後期の支持性低下と

評価し、治療を行うことで屋内T字杖歩行自立に至っ

た症例を経験したので報告する。

【症例紹介】70歳代男性。18年前に右被殻出血を発症

し、屋外歩行は自立していた。今回、嘔吐による2~3

週間の臥床に伴う廃用のため歩行困難となり入院とな

った。入院時の Functional Independence Measure(以

下、FIM)は103点、移動は車椅子自走、トランスファ

ーは自立、T字杖歩行は中等度介助であった。入院か

ら1ヶ月半までの期間は、左立脚初期から中期の支持

性向上に対し治療することで屋内 T字杖歩行が軽介助

で可能となった。

【方法】入院1ヶ月半後からの評価・治療について 1

ヶ月間の経過を報告する。症例及び症例家族には本発

表の趣旨を説明し、同意を得た。評価項目は、ADLを

FIM、麻痺側機能評価をFugl-Meyer Assessment(以下

FMA)、体幹機能評価をTrunk Impairment Scale(以下

TIS)、筋緊張検査をModified Ashworth Scale(以下

MAS)及び触診、バランス機能評価を Berg Balance

Scale(以下BBS)、Functional reach test(以下FR)、

関節可動域(以下ROM)の測定を行った。

【初期評価=入院1ヶ月半時】主訴は「入院前のように

自由に歩きたい」であった。T字杖歩行は軽介助レベ

ル。左立脚中期から後期に体幹右側屈、左骨盤後方回

旋、左股関節屈曲、左足関節底屈・内反を認め、左後

側方への転倒リスクがみられた。このため、治療目標

を左立脚中期から後期の支持性向上に設定した。評価

では左内腹斜筋、左大殿筋、左ハムストリングスの低

緊張、左足関節背屈・外反 ROM制限、左股関節伸展 ROM

制限を認めた(表参照)。歩行介助の中で左立脚時の左

骨盤の前方回旋を促すことで支持性の改善を認めたこ

とから、主要問題点を左骨盤前方回旋と左股関節伸展

の保持に必要な左内腹斜筋、左殿筋群の筋緊張低下に

設定した。

【治療】治療介入初期は内腹斜筋の低緊張改善を目的

にブリッジ動作、寝返り動作の中で左骨盤の前方回旋

を促した。歩行時における左骨盤後方回旋の改善に伴

い左足関節背屈、外反のROM改善を図った。同時に座

位、立位で左右への重心移動や立位で麻痺側後方ステ

ップ位での支持練習を行った。

【最終評価=入院2ヶ月半時】T字杖歩行では左立脚中

期から後期の体幹右側屈、左骨盤後方回旋が軽減し、

屋内T字杖歩行が自立した。また短距離独歩が可能と

なった。測定項目ではTIS、BBS、筋緊張改善を認めた。

表:初期評価、最終評価

【考察】本症例は18年前に右被殻出血を発症し、歩行

は自立していたが、嘔吐による 2~3週間の臥床に伴う

廃用性筋萎縮により歩行困難となった。臥床による廃

用の影響として1週間で10~15%の筋力低下が起こる

と報告されており 1)、左大腿四頭筋や左腹斜筋群を中

心とした近位部に筋緊張低下を認めていた。歩行獲得

に向けて問題点を明確化するために左立脚中期~後期

の支持性低下を主要問題点に設定した。治療では、左

内腹斜筋、殿筋群の低緊張改善に焦点を当てることで、

左下肢の支持性が向上し、T字杖歩行が自立したと考

える。健常人において立脚中期に内腹斜筋の筋活動が

ピークに達すると報告されており 2)、TISやBBSの結

果からも体幹やバランス機能の改善を認めることから、

歩行自立に至ったと考える。今後の課題としては左上

肢と非麻痺側が歩行に及ぼす影響について考察を深め

ていきたい。

【参考文献】1)上田敏他編集:リハビリテーション基礎

医学,医学書院,東京,2010,p203-205

2)鈴木敏明他監修:The Center of the Body,アイペッ

ク,東京,2013,p172-173

初期評価 最終評価FMA(上肢) 25/66点 26/66点FMA(下肢) 22/48点 24/48点BBS 31/56点 36/56点FR 24cm 26cmFIM 104/126点 105/126点ROM(左股関節伸展) 0 0   (左足関節背屈) 0 0   (左足関節外反) 5 5TIS 13/23点 15/23点MAS(左足関節背屈) 0 0筋緊張検査(立位:触診)  左外腹斜筋 中等度低緊張 軽度低緊張  左内腹斜筋 中等度低緊張 軽度低緊張  左大・中殿筋 中等度低緊張 軽度低緊張  左ハムストリングス 中等度低緊張 軽度低緊張  左大腿四頭筋 中等度低緊張 軽度低緊張

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動的な立位バランスの向上を図り、トイレ動作におけ

る下衣着脱動作が自立した一症例

大阪暁明館病院 大倉郁弥

【はじめに】

頚髄症(C3~C6)および腰部脊柱管狭窄症(L4/L5、

L5/S1)により、両上下肢に重度の感覚障害を呈し、椎

弓形成術(C3~C6)を施行した症例に対して、トイレ動

作獲得のため下衣着脱時の動的な立位バランスの向上

に着目した。症例には発表の趣旨を説明し同意を得た。

【症例紹介】

70代女性。14年前より両上下肢に痺れが出現し徐々

に悪化した。半年前から両手の痺れ・手指運動障害お

よび下肢全体の痺れがあり、5 月初旬当院整形外科を

初診し、5 月中旬に椎弓形成術を施術される。手術以

前から感覚障害の訴えあり、術後も継続している。本

人の主訴としてトイレ動作自立を強く希望されていた。

【初期評価】(術後24日~30日) ※以下右/左で示す

下肢筋力は徒手筋力テスト(以下 MMT)にて、股関節

は屈曲 3/4、伸展 3/4、外転 2/2、内転 2/2 である。膝

関節伸展は 4/4、足関節は背屈 3/4、底屈 2+/2+、足

趾屈曲3/4である。関節可動域(以下ROM)は膝関節伸

展 0°/-5°、足関節背屈 0°/0°である。表在感覚は

L4 ~S1領域にかけて重度鈍麻である。四肢全域に痺

れの訴えが強い。深部感覚は両下肢とも軽度鈍麻であ

る。立位保持は22.0秒可能だが、ふらつきがあり恐怖

心が大きい。骨盤後傾位で、体幹右回旋位である。

Functional Reach Test(以下FRT)は6cm可能で、足

底は全面接地されており、骨盤後傾位である。前後の

ふらつきがみられ転倒リスクは高い。体重は 48kg で

静止立位時での荷重量は右 15kg 左 33kg である。

Berg Balance Scale(以下BBS)は14/56点である。ト

イレ動作では、下衣着脱時は動的な立位姿勢保持が困

難であり、手すりを把持してもらい、全介助する必要

がある。

【治療アプローチ】

立位での踵上げの反復運動にて、重心前方移動と下

腿三頭筋の筋力増強を試みた。しかし前足部への荷重

が困難であるため、踵部に1cmの板を当て、前足部へ

の荷重を促した。また、踵を降ろす速度を遅くし、下

腿三頭筋の遠心性収縮を促した。続いて足趾屈筋の筋

力向上のため、タオルギャザーを実施した。また片脚

ブリッジ、起立・着座練習にて、股関節周囲筋への筋

力増強を図った。動作練習ではリーチ練習、トイレ動

作練習を実施した。

【最終評価】(術後52日~58日) ※変化点のみ記載

MMT では、股関節屈曲 4/4、伸展 4/4、外転 4/4、

内転 3/4 となり、膝関節伸展は 5/5 となった。足関節

底屈3/3、足趾屈曲4/4となった。ROMは足関節背屈

10°/10°となった。立位保持は 45.0 秒可能となり、

恐怖心が軽減した。初期評価時と比較して骨盤の後傾

が軽減している。FRTは10cm可能で、踵部が離地さ

れ、前足部での荷重が可能となった。前後のふらつき

も軽減した。体重は 45.0kg となり静止立位時での荷

重は右20kg 左25kgである。BBSは29/56点である。

トイレ動作は、膝関節屈伸と股関節内外転を伴った、

両上肢を使用した下衣着脱動作が可能となり自立とな

った。

【考察】

本症例はトイレ動作の自立に向けて、下衣着脱時の

膝関節屈伸に伴う重心の制御が必要であった。まず下

衣着脱の際に必要な底屈モーメントを獲得するため、

下腿三頭筋の筋力増強を実施した。また重心の前後制

御に必要な足趾屈筋群の筋力低下も認められたため、

筋力増強を実施し、足部での立位姿勢の制御を促した。

さらに股関節伸展モーメントの獲得のため、起立・着

座練習を行い、大殿筋の筋力増強を行った。しかし本

症例には下衣着脱動作の獲得において重心の前後移動

の制御のみでは不十分であり、より効率的な動作の遂

行のために股関節内外転による側方の制御が必要であ

ると考えた。そこで片脚ブリッジにて中殿筋を強化し、

股関節内外転による重心の側方制御も図った。FRTが

6cmから10cmに改善したように、立位の動的安定性

が向上した。股関節周囲筋と足関節周囲筋の筋力増強

により、下衣着脱時に必要な内的な足関節底屈モーメ

ントと股関節伸展モーメントが十分に働き、さらに股

関節内外転による側方への重心制御が可能となり、下

衣着脱動作が自立となった。その結果トイレ動作の自

立へと繋がったと考えられる。

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認知機能が著しく低下した大腿骨頸部骨折患者を担

当した一例

城東中央病院 衣川百子

【はじめに】今回、入院前より認知機能の低下があり、

理学療法の実施に工夫を要した左大腿骨頸部骨折の症

例を経験したため、これを報告する。

【症例紹介】80 歳代女性、身長 145cm、体重 47.4kg、

BMI22.5。長女様と2人暮らし。介護度は要介護2。

受傷前は屋内を手引き歩行または伝い歩きで移動し、排

泄などのADL 動作は自立。4 月 30 日に自宅の玄関先で

転倒し、受傷より 1 週間後に当院へ入院。左大腿骨頸部

骨折と診断され、5月14日に人工骨頭置換術施行。翌日

より PT 介入、1週間後に OT 介入となった。本症例、

家族様のHopeは自宅退院であった。

【説明と同意】症例の家族様に本発表の趣旨を説明し同

意を得た。

【初期評価】(5月15日~6月1日)

N 式老年者用精神状態尺度(MN スケール)は 11 点

と重度認知症と判定。基本的動作は、指示理解をされて

も移乗は重度介助、歩行は伝い歩きが中等度介助を要し

た。歩容は骨盤が常時左側下制し、膝折れがみられてお

り、左立脚期の短縮が生じて揃え型歩行であった。

ROM-T では左股関節屈曲 95°、伸展 0°で左股関節前

面部に疼痛があり、腸腰筋の短縮により大腿骨頭と関節

窩の位置関係が変わり、骨とうが前方へ位置することで

股関節屈曲時にインピンジメントを生じて疼痛が出現し

ていた。歩行訓練中には腰部の疼痛がみられ、脊柱起立

筋の過剰収縮による動作時の疼痛が出現していた。両下

肢筋力では右股関節屈曲以外は MMT2 レベルであった

が、右側と比較して左側の収縮は弱い状態であった。特

に、中殿筋、大殿筋に関して収縮の弱さが著明にみられ

た。

【治療経過】本症例は術後より理学療法介入し離床を図

ったが、独語が多く情動失禁がみられ、指示が入りにく

い状態であり治療・訓練に難渋した。動作の促しに工夫

が必要と考え、介入方法について OT と相談した。回想

法やバリデーション療法の考えより、過去の体験を聴き、

共感し、傾聴することで感情を落ち着かせ不穏な状態の

軽減を試みた。実施したところ指示が入りやすくなった

が、注意散漫であることが多く、動作の遂行は困難なこ

とがあった。

三好によると、動作を促す際に目標物に向かって歩く

などの目的があると、介助なくもしくは介助量が軽減し

動作を遂行できるとあった。本症例の訴えを傾聴し、目

的のある声掛けを行うと自発的な動作がみられるように

なり動作訓練を中心に取り組むことができた。歩行訓練

では目標物を設置することで注意が集中し動作の遂行が

可能となった。また、骨盤を水平位に保持するよう介助

し、重心の誘導を行い左下肢への荷重を促すことで歩容

の改善がみられ、それに伴い可動域の改善、疼痛の軽減

がみられた。

【最終評価】(初期評価から8週間後)

MN スケールは 15 点と軽度の改善がみられ、独語や

情動失禁の頻度は軽減した。ROM-T は左股関節屈曲

100°となり、疼痛がみられなくなった。両下肢筋力は

MMT3 レベルとなった。疼痛は歩行訓練中、脊柱起立

筋の過剰収縮により疼痛は継続してみられたが、基本的

動作は指示が入りやすくなり介助量が軽減した。寝返

り~起居が近位監視、起立が近位監視、立位が近位監視

~軽介助、移乗が軽介助~中等度介助、歩行においては

伝い歩きが軽介助となった。

【考察】今回、認知機能が低下されている患者に対して、

動作訓練時の介入方法を他部門からのアドバイスや文献

を参考にし、回想法やバリデーション療法の考えを取り

入れ訓練を行った。その為、情動面が落ち着き、指示が

入りやすくなったことで、大殿筋、中殿筋の筋力発揮を

動作訓練で促すことができたと考えられる。また、アラ

イメントの改善に伴い可動域の改善、疼痛の軽減が得ら

れ、8 週間後には移乗動作、歩行動作の安全性が向上し

Hopeであった自宅退院が実現した。本症例では訴えを傾

聴し、動作遂行時に「自宅退院」を目標に声かけを統一

したことで、動作を通して Impairmentsの改善がみられ

たと考える。

今回の症例を通して、認知機能や疼痛の検査と評価、

認知面を考慮した治療・訓練を実施すること、不穏時や

注意の持続方法などについて自宅生活での家族様への退

院指導の課題が残った。

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自己効力感向上が自宅復帰に繋がった一症例

~E-SASより退院後の生活を見据えて~

医療法人社団 有隣会 東大阪病院 江口紗千

はじめに 転倒に対する恐怖心が強く退院後の生活

に不安を抱いている症例に着目した。機能的アプロー

チに加え、退院後の生活を見据えた客観的評価として

Elderly Status Assessment Set(以下E-SAS)を用いて

関わったことにより、自己効力感の向上に伴い運動機

能が改善され、自宅復帰に繋がったことを報告する。

症例紹介 A氏 80代女性

【疾患名】右大腿骨転子部骨折

【現病歴】術日 3 日前の早朝に自宅寝室にて転倒。X

日に観血的骨接合術(SYNTHES社 PFNA)を施行。術後 5

週目に当院転入。

理学療法評価 *術後5週目から 1週間

【身体機能面】NRS:0/10(安静時、動作時)、MMSE:29

点。ROMは股関節伸展R:0(5)、L:0(5)、足関節背屈(膝

伸展位)R:0(0)、L:0(5)*()内はpassive。MMTは大殿筋

R:2、L:3、中殿筋R:2、L:3、大腿四頭筋 R:3、L:3、下腿

三頭筋 R:2、L:3。

【動作能力】FBS42点、10m歩行 26秒、TUG26.5秒。

歩行器歩行にて、右MStにトレンデレンブルグ徴候と

時折膝折れが出現。右Ts~PSwに踵離地の前に右膝関

節屈曲し、左 ICが先行する*独歩困難。ADL は院内車

椅子自走、入浴はリフト浴、その他は自立。

【E-SAS】*頂点から右回り

生活空間:90点、ころばない

自信:14点、自宅入浴動作能

力:7点、TUG:26.5秒、連続

歩行距離:2点(10~50m未満)、

人とのつながり:12点

治療プログラム E-SASより生活空間が90/120点と高

値であったことから、元の活動範囲を目標に外出機会

の継続が必要であると考えた。そこで、移動能力の安

全性向上、連続歩行距離の向上と転倒に対する恐怖心

の軽減を中心に介入した。初期の歩行について、右下

肢に荷重した際の膝折れに対する転倒恐怖心が動作能

力を抑制し、歩速低下させている要因と考えた。膝折

れの要因として、中殿筋、大殿筋、大腿四頭筋、下腿

三頭筋の筋力低下を挙げ筋力トレーニングを行った。

また、速度低下の要因としてフォアフットロッカーの

機能低下を挙げ、両足関節背屈ROM-Ex、ステップ練習

を行った。転倒に対する恐怖心について、E-SAS より

ころばない自信が14/40点と低値であったことから、

リハビリ中の恐怖心を点数化し自己評価を促した。ま

た、他患者と関わるきっかけを作り、他者から評価を

得られやすいよう環境面にも配慮した。

理学療法評価 *術後15週目から 3日間

【身体機能面】ROMは股関節伸展 R:5(5)、L:5(5)、足

関節背屈R:5(5)、L:5(5) )*()内は passive。MMTは大

殿筋R:4、L:5、中殿筋R:4、L:5、大腿四頭筋 R:4、L:5、

下腿三頭筋R:5、L:5。

【動作能力】FBS46点、10m歩行17.5秒、TUG18.6秒。

独歩にて、右MStでのトレンデレンブルグ徴候は軽減。

右TSt~PSwに右膝関節屈曲せず踵離地する。ADLは院

内杖歩行自立、屋外杖歩行1時間獲得、入浴自立。

【E-SAS】ころばない自信:28

点、自宅入浴動作能力:10点、

TUG:18.6秒、連続歩行距離:

5点(1~5km未満) **生活空間、

人とのつながりは入院前評価

の為変化なし

考察 歩行に関して、初期評価時の歩行器歩行で見ら

れたトレンデレンブルグ徴候と膝折れが最終評価時の

独歩においても改善を認めた。この要因として、他者

との関わりを持つことで恐怖心に対する自己評価と他

者評価の差異を認識し、自己評価が修正され、自己効

力感が向上したと考える。それにより、院内での日中

活動量が増え、下肢筋力が向上し歩容改善に繋がった

と考える。また、E-SAS より移動能力の改善を認め、

元の活動範囲の獲得に至ったが、今回 E-SASを用いた

ことによる関わりが退院後の生活にどのように反映す

るのか今後検討していく必要がある。

まとめ 今回E-SASを用いた介入により、漠然とした

不安を細分化し、一番の問題点を A氏とセラピスト間

で共有することができた。また、潜在的な NEEDSに介

入したことが今回の結果に至ったと考える。

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TKA術後患者の歩行効率改善を目指した一症例

~変形に至った経緯に着目して~

大阪回生病院 太田尚吾

【諸言】

今回、人工膝関節置換術(以下TKA)を施行した右変形

性膝関節症患者を担当した。右 TKA 後に生じた右大

腿四頭筋の収縮不全は早期に改善されたが、術前から

の左足部剛性低下により歩行効率の低下を認めた症例

を担当した。足部機能に着目し治療展開した結果、改

善が得られたので報告する。

【症例紹介】

本発表に同意を得た80代女性。3年前左TKAを施行。

3 年前までは頻回にヒールの高い靴を着用し、現在左

外反母趾と両偏平足が認められている。

【経過・理学療法評価:術後12日→20日】

創部痛 NRS5→2/10、関節可動域測定(単位°)右膝関

節屈曲90→120、伸展-5→0、徒手筋力検査:右大腿

四頭筋3→5、両下腿三頭筋2+→3。右下腿三頭筋の過

緊張が残存。歩行では左MSt~TStでの右側への急激

な重心移動(図1)が起こるこにより右 IC~LR におい

て右膝関節過伸展(図2)の問題点が残存した。足部機能

の評価により Leg Heel Alignment が外反右 10°左

15°、内側縦アーチ高が右3.0cm/2.5cm、

左3.0cm/2.0cm(非荷重下/荷重下)を認めた。

【理学療法と結果】

術後早期より右大腿四頭筋・下腿三頭筋の収縮不全に

対し筋徒手療法を実施し、その後筋出力を促通。また

アーチパッド装着下で左TStを意識して右下肢への荷

重受け渡し練習を行った(図 3)。術後 30 日での結果、

COP の軌跡が修正され、歩行時での代償動作と PCI

の改善が得られた。(図4・図5)

【考察】

本症例は両側扁平足を呈し、脛骨が外転することによ

り膝内側部への力学的負荷が繰り返され変形に至った

と推察した。そのため、術侵襲により損傷を受けた部

位の改善は得られたが、足部の剛性は保てないため、

右 MSt に移行できず膝関節の過伸展が出現したと考

えた。TKA は変形の治療する整形外科的手術である。

しかし、術後も変形に至った原因が治療されなければ

根本原因は解決しない。歩行動作の改善を目指すうえ

で、変形に至った原因を評価し、治療を展開する必要

があると考えた。

(図1 左MSt~TS:急激な右側への重心移動)

(図2 右 IC~LR:右膝関節過伸展)

(図3 治療内容)

(図4 PCI(Physiological Cost Index):単位beat/m)

(図5 COPの軌跡)

PCI

(術後12日)

(アーチパッドなし)

0.15

0.06

(アーチパッド) (母趾荷重訓練)

beat/m

(術後30日)

(アーチパッドあり)

(術後12日)

(アーチパッドなし)

(術後30日)

(アーチパッドあり)

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肩関節拘縮を呈し結髪動作に制限をきたした一症例

~肩甲胸郭関節に着目して~

医療法人社団 有隣会 東大阪病院 松野 慎

【はじめに】転倒後、左肩関節拘縮を呈した患者に対

し肩甲胸郭関節を中心に介入し、結髪動作が可能とな

った症例を経験したため、報告する。

【症例紹介】40歳代女性、事務職、左肩関節拘縮、平

成X年A月に転倒し、顔面と左肩を打撲。その後動作

時痛出現。可動域制限が生じ、半年経過しても可動域、

疼痛が変化ないため、受傷後10か月後に当院受診。

【説明と同意】症例には本発表の趣旨を説明し、書面

にて同意を得た。

【初期評価(受傷後10か月)】主訴:手が上がるよう

になり、日常に支障がでないようにしてほしい。日本

整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA

score)57/100点。整形外科的検査:Sulcus sign(-)、

Apprehension test(-)、 Neer test(+) 、 Speed’s

test(+)。安静時痛(-)。肩関節屈曲・外転時上腕二頭

筋長頭部に疼痛(+)(VAS=20mm)。触診にて左僧帽筋

上部の筋緊張高い。[ROM]左肩関節屈曲 105°、外転

90°、1st外旋 15°、1st内旋 35°、2nd外旋 15°、

2nd 内旋 20°、水平内転 100°、End feel は hard

capsular。[MMT]右肩 5、左肩関節屈曲 3・外転 3・外

旋3・内旋3・肩甲骨内転3・上方回旋3。[姿勢]左肩

甲骨挙上(肩甲骨下角右に比べ 1.5横指上)・外転(肩

甲骨下角右に比べ1横指外)・上方回旋位。[動作]肩屈

曲:肩軽度外転、体幹伸展代償行う。初期時から肩甲

骨挙上し、肩甲骨上方回旋が減少している。肩外転:

shrug sign(+)。水平内転位、体幹伸展・側屈代償行

う。70-90°にて肩峰下周囲に疼痛の訴え(+)。結髪:

後頭部に左手が届かず、また頭上にて左手を保持不可。

肩甲骨内転運動が減少し、肩甲骨挙上にて代償動作行

うも動作不可。

【治療プログラム】介入初期は肩甲上腕関節の1st内

旋・1st外旋・屈曲運動のROMex、Active assist運動

中心に実施。しかし、介入後3週経過しても可動域改

善が少ないため、肩甲骨アライメントを整えた状態(壁、

四つ這いにて肩甲骨内転のCKC運動で前鋸筋・菱形筋

群・僧帽筋下部を促通)で肩甲上腕関節運動を促すと、

可動域改善が大きくなったため、肩甲胸郭関節→肩甲

上腕関節の順に施行。

【最終評価(受傷後1年1か月)】主訴:重い物を頭上

に上げたい。JOA score90/100 点。整形外科的検査:

全て(-)。動作時痛(-)(VAS=0mm)。左僧帽筋上部筋

緊張正常。[ROM]左肩関節屈曲130°、外転110°、1st

外旋25°、1st内旋50°、2nd外旋20°、2nd内旋30°、

水平内転 120°。[MMT]右肩 5、左肩関節屈曲 4・外転

4・外旋 3+・内旋3・肩甲骨内転4・上方回旋4 [姿勢]

左肩甲骨挙上(肩甲骨下角右に比べ 0.5横指上)・外転

(肩甲骨下角右に比べ0.5横指外)。[動作]肩屈曲:初

期時の肩甲骨挙上が減少し、肩甲骨上方回旋が増加し

た。肩外転:初期時の肩甲骨挙上・外転減少した。結

髪:頭上にて左手を保持可能となり、動作可能となっ

た。肩甲骨内転運動が増加し、肩甲骨挙上の代償動作

が減少した。

図1:初期結髪動作 図2:最終結髪動作

【考察】本症例は、肩甲骨のアライメント不良と肩関

節全方向の可動域制限を呈し、結髪動作が不可能とな

った。今回、肩甲胸郭関節へ先にアプローチを行い、

その後肩甲上腕関節に対し理学療法を行った。その結

果、結髪動作が可能となる可動域改善に繋がった。こ

れら可動域改善につながったのは、肩甲骨と姿勢のア

ライメントが改善し、肩甲骨上方回旋の Force couple

が協調的に作用し、肩甲上腕リズムの乱れが整い、肩

甲骨と上腕骨が協調した運動が可能となったと考える。

特に、僧帽筋上部の過剰な筋収縮が抑制され、前鋸筋・

菱形筋群・僧帽筋下部の筋収縮を促せたと考える。さ

らに、肩甲骨のアライメントが整い、腱板機能が向上

したと考えられる。

今回、肩甲胸郭関節にアプローチし肩甲骨アライメ

ントを整えた状態で肩甲上腕関節の運動を行い、結髪

動作が可能となった。

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上前方リーチ動作の獲得を目指した肩関節周囲炎の

1症例

大阪回生病院 柴 大樹

【諸言】

今回、不良姿勢により肩関節可動域制限と動作時痛を

呈したと思われる肩関節周囲炎症例を経験した。上前

方リーチ動作の獲得に向け胸郭・肩甲骨に着目し治療

を展開した結果、若干の改善を得たため報告する。

【症例紹介】

発表に同意を得た80代前半の男性。X日、右肩関節周

囲炎と診断され X+3日より理学療法開始。demandと

して「頭上の棚に物を置く動作ができる」を聴取した。

【初期評価(X+7日)】

徒手筋力検査(以下MMT、右/左):三角筋前部線維 3/5、

大小菱形筋・僧帽筋中部下部線維 3/4、前鋸筋3/4。関

節可動域測定(以下 ROM-t、右/左、単位°):肩関節

屈曲120/175(自動挙上(図1)110/170)、2nd外旋45/60、

3rd内旋0/10。Neerテスト:陽性。動作時痛:NRS6/10。

筋緊張検査(触察):腹筋群・前鋸筋、棘下筋・小円筋、

大胸筋・大円筋・広背筋過緊張。姿勢観察:座位は頭

部前方突出、胸椎屈曲位、肩甲骨外転位(右>左)、肋

間短縮位(右>左)であった(図 2)。動作観察:上前

方リーチ動作は左上肢優位に活動し、胸椎屈曲位で右

肩甲骨挙上・上方回旋での代償がみられた(図3)。

【治療】

治療には温熱療法、筋徒手療法、ストレッチ、治療的

誘導を用いた。胸郭に対しては腹筋群・前鋸筋・広背

筋の伸張性改善、僧帽筋中部下部線維・大小菱形筋の

筋出力向上を図った。また、肩関節に対しては主に棘

下筋・小円筋の伸張性改善を実施した。

【最終評価(X+21日)】

MMT:三角筋前部線維4/5、大小菱形筋・僧帽筋中部下

部線維 4/4、前鋸筋 4/4。ROM-t:肩関節屈曲 135/175

(自動挙上130/170)、2nd外旋60/60、3rd内旋5/10。

Neer テスト:陰性。動作時痛:NRS2/10。筋緊張検査

(触察):該当筋の過緊張軽減。姿勢観察:座位時の胸

椎屈曲が軽減し、肩甲骨外転が減少。動作観察:右肋

間・腋窩の開きがみられ、左右対称に近いリーチ動作

となった。

【考察】

上前方リーチ動作には肩関節屈曲可動域と、胸椎伸

展・肩甲骨内転の筋活動が必要と考える。本症例は、

座位姿勢より胸椎屈曲位・右側優位な肩甲骨外転位を

呈し、右肩関節への力学的負荷がかかりやすい状態に

あった。これにより棘下筋・小円筋の過緊張を生じさ

せ肩関節(肩峰下)の動作時痛を生じさせていた。ま

た、右肋間・腋窩部の筋の伸張性低下が肩甲骨の可動

性を低下させ上前方へのリーチ動作を阻害していたと

推察した。

図 1 肩関節自動挙上(左:X+7 日、右:X+21 日)

図2 姿勢アライメント(上:X+7日、下:X+21日)

図3 上前方リーチ(上:X+7日、下:X+21日)

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肩の安静時痛に改善を認めた脳血管障害左片麻痺一

症例における 2種の運動療法の効果

ボバース記念病院 櫛引 翔太

【目的】今回、肩関節に強い安静痛を認めた脳血管障

害左片麻痺者を経験した。脳血管障害片麻痺患者の肩

関節可動域制限および疼痛に対しては関節可動域練習

が有効であると報告されている 1)。しかしながら、諸

家の報告では多くの症例で観察される姿勢制御の問題

と関連付けられた運動療法の介入効果を比較検討した

報告は散見されない。そこで本症例では、姿勢制御を

背景に端坐位姿勢を改善し肩の安静時痛を軽減すべく、

Aと Bの 2種の治療を行ったところ、治療 Aにおいて

肩関節の疼痛の軽減を経験したため報告する。

【方法および評価と治療】対象者は 66歳、男性、脳出

血(左片麻痺)後遺症者で右頭頂側頭葉にかけて病変

を認めた。介入期間は117病日(入院後78病日)から

計28日間実施した。基本動作は起居動作自立、立ち上

がり・移乗は軽介助、セルフケアは非麻痺側上肢を使

用し自立。またアームレストに上肢を保持することは

不可能であり麻痺側上肢の管理は困難であった。介入

初期の安静時の端坐位姿勢は骨盤・胸郭が左後方回旋

しており、左翼状肩甲が見られ内転・下方回旋し肩関

節は内旋位であった。麻痺側上肢の拳上動作は肩甲帯

の過剰な拳上と体幹右側屈を伴い屈曲 10°であった。

安静時に上腕三頭筋起始部、上腕二頭筋起始部を中心

とした領域に痛みを訴えており、speed test、Neer test

陽性、肘屈曲でのストレステストにて上腕三頭筋に伸

張時痛を認めた。手指の随意性は軽度屈伸が可能であ

った。安静時の肩関節痛を引きおこす問題点は回旋筋

腱板、三角筋、前鋸筋の低緊張から肩甲上腕関節の静

的アライメントの崩れが考えられた。また両側腹斜筋

群、両殿筋群重度低緊張から体幹の抗重力伸展活動が

低下し、非麻痺側上肢の過剰努力によって左骨盤・胸

郭の後方回旋、左肩甲帯の後退を助長し左広背筋の短

縮が肩関節を内旋し肩の痛みが出現していると仮説し

た。方法は2種の運動療法で構成する ABデザインとし

た。介入内容は治療Aが体幹の姿勢制御と肩関節周囲

の骨・筋のアライメント修正・促通を行う治療(7日)、

治療 Bが体幹の姿勢制御と手指、手に感覚入力を行い

手指、手の随意性を促すことで肩関節周囲筋群を促通

する治療(7 日)とした。評価方法は上肢の深部腱反

射、肘屈筋群のModified Ashworth Scale(以下MAS)、

麻痺上肢・体幹の姿勢筋緊張、表在・深部感覚を評価

し、肩関節の機能検査は肩関節屈曲 ROM を各期開始

時・終了時に測定した。痛みの効果判定は numerical

rating scale (以下 NRS)は介入期間毎に計測した。

症例及び家族には本発表の趣旨を説明し、同意を得た。

【結果】介入初期と比較し、端坐位姿勢は骨盤・胸郭

の左後方回旋が軽減し左翼状肩甲の改善が見られ、肩

関節の内旋が軽減した。また骨盤の後退が軽減するこ

とで体幹の抗重力伸展活動が見られるようになり上肢

を膝上で保持することが可能となった。NRSの結果はA

期から A-B期移行時で 7点から 4点、A-B期移行時か

らB期までに4点から3点となった。その他、表参照。

表:A期開始時、A-B移行期、B期終了時評価

【考察】治療Aでは、骨盤・体幹のアライメントが整

うことで広背筋のアライメントの修正が可能となった。

肩関節周囲筋群の粘弾性向上と三角筋後部線維、前鋸

筋を活性化すことで肩甲上腕関節のアライメント改善

し安静時の疼痛が軽減、可動域の向上に繋がったと考

えた。治療Bでは、自動介助運動を中心に手指の運動

を中心に行うことで肩関節周囲筋群を促通したが肩甲

帯での代償動作が出現し筋収縮が促せず疼痛の変化は

大きく見られなかった。介入の結果、端坐位姿勢が改

善することで食事動作時にアームレストに上肢を保持

することが可能となり、麻痺側の上肢の管理意識が向

上し日常生活の機能的変化にもつながったと考えた。

【引用文献】 1)園田茂他編集:脳卒中治療ガイドライ

ン2015,協和企画,東京,2015,p299-300

A期開始時 A-B移行期 B期終了時

FMA(上肢項目) 15/66 15/66 15/66

ROM(肩関節屈曲) 60° 80° 90°

NRS(上腕三頭筋・上腕二頭筋) 7 4 3

深部腱反射(上腕三頭筋・上腕二頭筋)) +++ +++ +++

表在感覚(手掌) 6/10 8/10 8/10

位置覚・運動画(手指・手関節) 6/10 6/10 6/10

MAS(肘関節) 1+ 1+ 1+

姿勢筋緊張検査(端坐位:触診)

左広背筋 中等度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張

左前鋸筋 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張

左三角筋前部線維 高緊張 中等度高緊張 中等度高緊張

左三角筋後部線維 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張

左上腕二頭筋 高緊張 高緊張 中等度高緊張

左上腕三頭筋 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張

両側内腹斜筋 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張

両側大臀筋 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張

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冠動脈バイパス術後にバイパスの閉塞をきたした症

例に対する理学療法の経験

北野病院 リハビリテーションセンター 辻本実奈美

【はじめに】冠動脈バイパス術施行後のバイパスの完

全閉塞に対し経皮的冠動脈インターベンションが施行

された症例に対し、術直後から厳重なリスク管理を継

続し有害事象なく運動耐容能を改善することができた

ため報告する。なお、本報告にあたり対象者には十分

な説明を行い、同意を得た。

【症例紹介】60 代歳男性、身長 157.8cm、体重 54kg、

BMI21.9、診断名:ST 上昇型心筋梗塞、既往歴:緑内

障。冠危険因子:喫煙歴あり、家族歴なし。健康診断

において高血圧・脂質異常症・糖尿病の指摘はあった

が生活習慣の是正により入院時の各検査値の値は正常

範囲内にコントロールされていた。意識消失・呂律困

難・下肢脱力を認め、当院に緊急搬送された。冠動脈

造影検査により重症三枝病変確認され、入院 2日目よ

り術前評価実施。入院7日目に冠動脈バイパス術施行

された。

【初期評価】本症例は入院前より運動習慣があり毎日

12~13Kmを7Km/hのペースで走っていた。術前の歩行

速度は 0.71m/sであった。

【治療プログラム・経過】American Association of

Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitationの基

準を用いてリスクの層別化を行った。安静時左室駆出

率>50%、重篤な心室不整脈なし、処置後の虚血症状や

徴候はみられず、低リスクと判断した。心機能に関し

て、虚血は心電図変化と胸部症状、不整脈は心電図、

ポンプ能は血圧をモニタリングしリスク管理を行っ

た。当センターにて使用している離床基準を基に、

PCPS・IABP離脱し、NIPPVがweaning中となった術後

2日目より離床開始。術後4日目:CCU内100m歩行。

術後 5日目:6分間歩行にて 340m歩行。術後 6日目

よりリハビリ室にてエルゴメーター実施。エルゴメー

ターは、年齢を基に算出した最大心拍数の 50~70%、

修正Borg scale:4(ややきつい)を越えない強度で

実施。術後11日目の冠動脈造影検査において右冠動

脈へのバイパスが閉塞していることが確認された。術

後15日目に経皮的冠動脈インターベンション施行さ

れるが、#2 近位の狭窄・動脈硬化強く他院にて治療

行う方針となった。経皮的冠動脈インターベンション

施行時に迷走神経反射・右冠状動脈の一過性虚血によ

ると考えられる意識消失・血圧低下が生じ、一時 CCU

管理となった。IABP やノルアドレナリン使用されて

いたため、術後早期と同様に離床基準に基づき術後

17 日目より理学療法再開、医師による安静度の指示

に従いリスク管理を行いながら退院まで理学療法を

継続した。術後17日目:CCU内50m歩行。術後18日

目:病棟廊下100m歩行。

【最終評価】術後21日目:普通歩行にて 6分間歩行試

験実施し、歩行距離は 430m であった。安藤の報告 1)

を参考に運動耐容能を算出し、3.4Mets の運動耐容能

を確認することができた。

【考察・まとめ】心筋虚血が生じた際、狭心症などの

自覚症状に先行して心電図変化が生じる 2)。また、AT

を基準にした運動療法は代謝性アシドーシスの亢進や

血中カテコラミンの著しい増加など、心筋に悪影響を

与える内分泌系の変化が生じにくい 3)。本症例は術後

バイパスの閉塞をきたしたが、自覚症状だけでなく心

電図にて心筋虚血のモニタリングを行いながら、AT以

下での強度で運動を継続し、有害事象なく運動耐容能

を改善することができた。また、CCU 管理後も再度離

床基準に基づき理学療法再開し、医師による安静度指

示に従い、運動負荷の設定を行った事で、未治療の狭

窄が残存する状態で、虚血症状なく運動耐容能の確認

を行うことができた。

【参考文献】

1)安藤守秀:呼吸機能検査の基準値とその使い方、今後

の課題,第30巻12号,1060‐1066,2011

2)聖マリアンナ医科大学リハビリテーション部:理学療法

リスク管理マニュアル(第3版),p73‐74,三輪書店,2014

3)居村茂幸:呼吸・心臓リハビリテーション:p191,羊土

社,2010

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第 7回大阪市北ブロック新人症例発表会 準備委員一覧

大 会 長 山下 彰

準備委員長 山下 修平

総務係 平沢 良和 原田 宏隆

演題係(査読・演者・抄録集) 堀北 裕明 前川 明久

演題係(座長) 山根 好史

広報係 佐伯 訓明

(順不同)

編集後記

今年度は32演題と過去最多の演題数で大阪市北ブロック新人症例発表会を開催させて頂くこととなりました。

今回の抄録集に掲載する32演題の抄録を作り上げるには、発表される方はもちろん、それを指導された方、査読され

た方、約1年かけて準備した新人症例発表会の準備委員、様々な方々の力の集約により抄録集を作成することが出来まし

た。大阪市北ブロック会員皆様には誠に感謝致しております。

今後も大阪市北ブロック新人症例発表会を会員全体で盛り上げ継続し、更に発展していくことを願っています。

これからも大阪市北ブロック活動に対するご指導・ご協力のほどよろしくお願い致します。

(佐伯 訓明)

大阪市北ブロック新人症例発表会抄録集 vol.7

平成28年1月発行

発 行 公益社団法人 大阪府理学療法士会 大阪市北ブロック

発行責任者 第7回大阪市北ブロック新人症例発表会