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茨城県教育委員会学校体育研究推進校 運動の楽しさや喜びを味わい,生き生きと活動する児童の育成 (サブテーマ) わかる・できる・かかわる学習活動を通して 取手市立戸頭東小学校 取手市教育委員会 研究概要 研究主題 運動の楽しさや喜びを味わい,生き生きと活動する児童の育成 副主題 わかる・できる・かかわる学習活動を通して 研究主題及び副主題設定の理由 ◎教育の今日的課題から ◎本校の教育目標から ◎本校児童の実態から 学習指導要領改訂の 「かしこい子ども」 (体育学習において) 基本的なねらい -ステップアッププラン- ・基礎的な運動技能を十分 教育基本法改正の理念 考え,聞き,話し合う活 に身に付けていない児童 を踏まえた「生きる力」 動の充実 が多い。 の育成 ・ゲームの楽しさは感じら 知識・技能の習得と思 課題解決的な体育学習 れているが,「できた」 考力・判断力・表現力等 という達成感や成就感を の育成のバランス重視 「心豊かな子ども」 味わう運動経験が少ない。 豊かな心と健やかな体 -ウォームハートプラン- ・身体能力を十分活かしき の育成 よさを認め合い,協力す れていない児童がいる。 る学級集団 (日常生活において) 体育科改訂の趣旨 ・学年が上がるにつれて, 学校段階の接続及び発 学級経営を基盤とする 戸外で体を動かす遊びよ 達の段階に応じた指導内 体育学習 りも室内での遊びを好む 容の体系化 傾向がある。 コミュニケーション能 「たくましい子ども」 平成19年度 力の育成 -パワーアッププラン- 新体力テスト結果 互いに話し合う活動な 計画的・継続的な体力づ (A+Bの割合) どを通した論理的思考力 くり 34.2% の育成 ・県平均より低い結果 運動の特性や魅力に応 確実な技能の定着を 平成20年度 じた基礎的な身体能力や 目指す体育学習 新体力テスト結果 知識を身に付け,生涯に (A+Bの割合) わたって運動に親しむこ 44.4% とができること ・県平均を上回る結果

運動の楽しさや喜びを味わい,生き生きと活動する児童の育成 · 力の育成 -パワーアッププラン- 新体力テスト結果 ③ 互いに話し合う活動な

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茨城県教育委員会学校体育研究推進校

主 題 運動の楽しさや喜びを味わい,生き生きと活動する児童の育成

(サブテーマ) - わかる・できる・かかわる学習活動を通して -

取手市立戸頭東小学校

取手市教育委員会

Ⅰ 研究概要

1 研究主題

運動の楽しさや喜びを味わい,生き生きと活動する児童の育成

副主題

- わかる・できる・かかわる学習活動を通して -

2 研究主題及び副主題設定の理由

◎教育の今日的課題から ◎本校の教育目標から ◎本校児童の実態から

1 学習指導要領改訂の 「かしこい子ども」 (体育学習において)

基本的なねらい -ステップアッププラン- ・基礎的な運動技能を十分

① 教育基本法改正の理念 考え,聞き,話し合う活 に身に付けていない児童

を踏まえた「生きる力」 動の充実 が多い。

の育成 ・ゲームの楽しさは感じら

② 知識・技能の習得と思 課題解決的な体育学習 れているが,「できた」

考力・判断力・表現力等 という達成感や成就感を

の育成のバランス重視 「心豊かな子ども」 味わう運動経験が少ない。

③ 豊かな心と健やかな体 -ウォームハートプラン- ・身体能力を十分活かしき

の育成 よさを認め合い,協力す れていない児童がいる。

る学級集団 (日常生活において)

2 体育科改訂の趣旨 ・学年が上がるにつれて,

① 学校段階の接続及び発 学級経営を基盤とする 戸外で体を動かす遊びよ

達の段階に応じた指導内 体育学習 りも室内での遊びを好む

容の体系化 傾向がある。

② コミュニケーション能 「たくましい子ども」 平成19年度

力の育成 -パワーアッププラン- 新体力テスト結果

③ 互いに話し合う活動な 計画的・継続的な体力づ (A+Bの割合)

どを通した論理的思考力 くり 34.2%

の育成 ・県平均より低い結果

④ 運動の特性や魅力に応 確実な技能の定着を 平成20年度

じた基礎的な身体能力や 目指す体育学習 新体力テスト結果

知識を身に付け,生涯に (A+Bの割合)

わたって運動に親しむこ 44.4%

とができること ・県平均を上回る結果

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3 研究のねらい

体育の授業や業間運動において,運動の楽しさや喜びを実感できる学習過程や場の

設定,指導方法の工夫を通して,仲間とかかわり合いながら基礎的・基本的な身体能

力を主体的に習得・活用しようとする意欲と態度を身に付けた児童を育成する。

4 研究仮説

<仮説Ⅰ>

課題解決に向けた学習過程の改善と教師が適切な言葉かけ(発問・助言・励まし)

を行い,児童が「動いて考える」・「考えて動く」体育学習を実践していけば,工夫し

て運動し技能を身に付ける楽しさや喜びを味わうことができるであろう。

<仮説Ⅱ>

認め教え合ったり,励まし助け合ったりする活動を体育学習の中に位置付けていけば,

仲間とのかかわり合いを通して自尊感情が高まり,主体的に運動しようとする態度が

身に付くであろう。

<仮説Ⅲ>

学校生活の中で,意図的・計画的に運動する機会を提供し,運動に親しめる環境を

整備すれば,運動の日常化を促進することができるであろう。

5 基本的な考え方

で き る

巧みに ( 技 能 習 得 ) 安定して

力強く 組み合わせて

持続して 確実に

動きのこつが 認め合い

行い方が 教え合い

ルールが 助け合い

めあてが 励まし合い

わ か る か か わ る

よさが ( 認 識 ) (社 会 的 行 動 力) 競い合い

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Ⅱ 研究の実践

1 授業研究部の取組

(1)「わかる」ための学習過程やICTの活用

「わかる」体育学習を実現するためには,学習課題

をしっかりととらえさせ,児童の思考活動を促進しな

ければならない。児童が学習課題を視覚を通してイメ

ージ化しやすいように,図やイラストを用いた課題提

示を行った。また,単に「どうすればよいでしょうか?」

「上手に○○しよう。」などという抽象的な学習課題

ではなく,より具体性のある学習課題を設定するよう

にした。例えば,「かかえ込み跳びを跳ぶ瞬間の視線は, (思考を促す学習課題の提示)

A・B・Cのどこを見たらよいか?」という課題を提示

し,児童に予想を発表させ,そのように考える理由を引

き出すようにした。次に,予想を検証する試しの運動を

行うことで児童は体感的に多くのことに気付くことがで

きた。そうした気付きを言葉で説明させることで運動の

こつを学級全体で共有できるようにした。また,ゲーム

の学習ではタスクゲームや工夫したルールを数種類用意

し,自分たちのチームの課題に応じたものを選択させる

ことで,学習の複線化と児童の主体性を保証するように

した。

ICTの活用では,スポーツミラー(運動フォーム

を遅延再生や分解写真で見ることができるソフト)を (スポーツミラーで自分の動き

活用し,自己の動きを客観的にとらえられるようにし を確認する児童)

た。児童は,自分が頭で理解している運動と実際の体

の動きの違いに気付き,即時評価することによって新たな課題を発見することができた。ま

た,「自分がどの程度よくできているか。」自分自身で判断するメタ認知能力を高め,自分

の動きを「わかる」学習を進める上でも大変効果があった。

(2)パワーアップタイム

運動のアナロゴン(類似の運動遊び)の実施と体力

テストの結果から浮かび上がった体力面の課題を解決

するために,毎時間の授業にパワーアップタイムを位

置付けた。運動のアナロゴンとは,運動の基礎感覚を

養う類似の運動遊びを意味する。パワーアップタイム

は,主運動の前に5~10分程の時間を確保し,サー

キットトレーニング形式や児童の自主選択形式で運動

を行う時間である。運動のアナロゴン(類似の運動遊 (楽しみながら投運動の基礎

び)を楽しんで行いながら,無意識のうちに運動経験 感覚を高めるバトンロケット)

の不足を補ったり,夢中になって運動に親しみ体力の

向上を目指したりしていた。運動の内容は,主運動と

の関連や児童の興味・関心をふまえながら,筋力・持久力・瞬発力・敏捷性・巧緻性・投力

などのバランスを考慮し,教師の明確なねらいのもとで決定した。

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(3)「動いて考える」・「考えて動く」時間と場の設定

児童が「動いて考える」・「考えて動く」時間を十分に保証するためには,効果的・能率

的に運動に取り組める場の設定が重要である。そのために,マネジメント場面(移動・待機

・準備)やインストラクション場面(説明・指示)を極力少なくする工夫を行った。例えば,

整列・移動や話を聞く態度などの学習規律をしっかり身に付けさせることで,説明や指示が

児童に短時間で確実に理解されるようになり,運動学習と思考活動の時間が確保できるよう

になった。

(運動量を確保するための場の設定)

(学習の見通しをもたせるための

掲示資料)

(4)TT(ティーム・ティーチング)や外部指導者との連携

児童の個人差に対応し,教師の専門性や特性を活

かした学習活動を展開するために,TTや外部指導

者を迎えた授業を積極的に行った。TTでは,学級

担任の授業に特別支援学級の担任がサポートとして

加わったり,中学校保健体育科教諭との連携を進め

たりした。指導者相互の共通理解を図るための打ち

合わせ時間の確保が難しかったが,多面的な児童理

解と習熟度に応じた適切な指導を行うことができた。

外部指導者を迎えた授業では,体つくり運動や器

械運動,水泳の領域で専門的な指導を受けた。市の (スポーツ指導員によるストレッ

スポーツ指導員によるストレッチ運動の学習では, チ運動の学習)

多くの児童が体ほぐし運動のねらいに気付き,基礎

的な運動の行い方を身に付けることができた。

(5)学習形態の工夫

学習内容や運動の特性を考慮しながら,ねらいに応じてペアやグループでの学習活動を行

った。また,等質や異質グループを意図的に編成することで,教え合いや励まし合いが活発

になり,課題解決に向けた協同的な学習を進めることができた。

等質グループでは,自分たちの運動能力に適した場で基礎技能の習得と習熟に取り組んだ。

また,異質グループでは,技能差のある児童が混在することによって,動きのこつを教え合

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ったり,グループ内で助け合ったりする姿が見られた。こうしたお互いの存在を認め,励ま

し合う学習活動の積み重ねが,「失敗しても笑われたりしない。」,「苦手な自分を応援して

くれる友達がいる。」という安心感に結び付き,自分の弱さや欠点なども含め自己の存在を

肯定的に受けとめる自尊感情を高めることにつながった。この信頼関係と自尊感情を基盤と

して,自信をもって生き生きと運動に取り組む児童が増えてきた。

(身体的な接触を通したかかわり) (協力し合うことでのかかわり)

(6)コミュニケーションを意識した学習活動

自己の課題解決に向けて意欲を持続し

ていくには,自分を受け入れてくれる仲 (体育学習におけるかかわり合い系統表)

間の存在が大きい。児童相互がかかわり

合うことを通して,コミュニケーション

能力を系統的・段階的に高められるよう

に,体育学習における「かかわり合い」

系統表を作成した。この系統表は,「か

かわり合い」という抽象的な概念を児童

の具体の姿に置き換え,実際の学習指導

に活かす目的で作成した。その際,「か

かわり合い」の具体の姿を「技能向上」

と「仲間意識の育成」という2つの視点

からとらえた。

例えば,ゲームの「技能向上」レベルⅠ段階では,「ルールを守ってゲームを楽しむ」こ

とを到達目標としている。これがレベルⅡ段階になると「作戦を立てる」となり,レベルⅢ

段階では「自分のチームの特徴に応じた作戦」と段階的により高度なかかわり合いを目指し

ている。

児童相互のかかわり合いの発達は,単に年齢差によるものだけではなく,学年・学級の雰

囲気や集団を構成するメンバーによっても大きく左右されるものである。そこで,教師が学

級の実態を把握し,目指す児童の姿を明確にして指導にあたるための手がかりとして「かか

わり合い」系統表を活用した。

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3 体力づくり研究部の取組

体力づくりは,体育の授業だけでなく元気っ子タイム(業間運動)やチャレンジタイム(基礎

学力・基礎体力を伸ばす時間),縦割り活動の時間や体育的な行事などでも行ってきた。本校だ

けに限らず,運動する子どもとそうでない子どもの二極化の傾向や子どもの体力低下傾向が問題

となっている。運動する機会を意図的に提供することで,体力を向上させたり,人とのかかわり

の中で運動する楽しさを味わわせたりしてきた。さらに,運動の環境を整備することで,運動へ

の親しみを育て,将来の体力向上につながる運動の日常化を図ってきた。

(1)運動する機会の提供

週2回(持久走時は週3回),業間休みに,学年の発達段階を考慮したサーキットトレー

ニング及び体育的行事と関連した持久走や縄跳びを実施し,楽しみながら運動に親しむとと

もに,定期的に継続することによって運動の日常化を図ってきた。

(ア)元気っ子タイム(業間運動)でのサーキットトレーニング

体力テストの結果から,低・中・高学年ブロックごとに分かれ運動内容を検討し,本校

の児童の体力の課題を解決できるような運動をそれぞれトレーニングの中に組み入れた。

そして,全児童が校庭を効率よく活用できるよう遊具や器具の使い方を工夫したり,特別

な道具を使わずにいろいろな動きができる内容を取り入れたりして,体力の向上を目指し

てきた。さらに,それぞれの動きのポイントを掲示し正確に取り組めるようにしてきた。

(イ)縦割り班活動

縦割り班で鬼ごっこなどの遊びに取り組んだ。高学年の児童が,低学年の児童に遊びの

行い方を教えながら,遊びの中で走ったり跳んだりし体力の向上を図ってきた。楽しさを

感じられた遊びについては,休み時間などに進んで行うようになってきた。

(子とり鬼) (しっぽとり鬼)

(2)運動に親しむ環境の整備

(ア)運動環境の整備

(可動式バスケットゴール) (登り棒のクラクション)

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(イ)体力づくりへの意識を高める環境

体育コーナーを設置し,元気っ子タイムの流れや動きのポイントを掲示した。また,各

学級の授業の様子を知らせたり,一輪車の乗り方などを掲示したりして体力づくりへの意

識の向上を図った。

運動への意欲を高めるための掲示

(授業の様子の掲示) (体力テストの結果掲示) (体力づくりに 関する

話題を提供する掲示)

4 調査研究部の取組

調査研究部では,体育学習に関する児童の変容を把握・分析することによって研究の方向性や

成果を確認するため,意識調査及び実態調査を実施した。

<体育学習に関するアンケート調査>

Q1 体育の時間は楽しいですか?

「ふつう」,「あまり楽しくない」,「ぜんぜん楽しくない」と思っている児童が減ってきた。

授業の導入でパワーアップの運動を取り入れ多様な動きをする場を工夫したことで,楽しんで授

業に取り組めるようになったことがうかがえる。さらに,主運動では個別の目標をもたせ,一人

一人の能力に応じた学習過程を工夫したことで運動が苦手と感じていた児童も達成感を味わうこ

とができるようになったと考えられる。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

平成19年度

平成20年度

平成21年度

とても楽しい

まあまあ楽しい

ふつう

あまり楽しくない

ぜんぜん楽しくない

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Q2 体育の授業では,うまくなるためのこつがわかりましたか。

「ややわかった」児童が増え,「あまりわからなかった」児童が減り,「わからなかった」児

童がいなくなった。適切な発問を工夫し,授業の中で技のこつを考えさせ試していくことで,児

童が自らのこつをつかむことができるようになってきたと考えられる。

Q3 体育の時間は好きですか。

体育の時間が好きな児童が増えてきた。好きになった理由として,低学年では,「動くと気持

ちがよい」,「いろいろな運動をやるのが楽しい」という回答が多く見られ,学習への満足感が

うかがえる。中学年では,「みんなとやるのが楽しい」,「パワーアップの運動が楽しい」など,

友だちとのかかわりや学習活動が楽しいと感じるようになっている。さらに,高学年では「目標

を達成すると気持ちがよい」,「応援し合うことできる」,「先生のアドバイスがうれしい」など

達成感や人間関係に深く踏み込んだ回答が見られる。学年が進むにつれ,かかわり合って運動す

る楽しさを感じられるようになってきたと考える。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

平成19年度

平成20年度

平成21年度

とてもすき

まあまあすき

どちらでもない

あまりすきではない

きらい

0% 20% 40% 60% 80% 100%

平成20年度5年生

平成21年度5年生わかった

ややわかった

あまりわからなかった

わからなかった

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<体力テストの結果から>

(A+Bの段階の割合)-(D+Eの段階の割合)

平成21年度 67.8%-10.3%=57.5%

平成20年度 44.4%-21.9%=22.5%

平成19年度 34.2%-29.7%= 4.5%

【結果と考察】

・(A+B)-(D+E)が,平成21年度に,33.6%の上昇が見られた。

・平成21年度は,平成20年度と比較すると,Aの人数が約2.5倍に増え,D・Eの人数が

約1/2になり,特にEの人数が減少した。

Ⅲ 研究の成果と今後の課題

<仮説Ⅰについて>

これまでの体育学習では,技能の習得と運動量の確保を優先するあまりに学習課題やその解

決に向けた活動は,教師から児童へと与えられる傾向が強かった。そこで,児童の思考活動を

促進する観点から,教師の発問や助言を再検討することに取り組んだ。その結果,教師主導に

よる教え込み型の授業から,児童主体の課題解決型の授業へと質的な転換が図られた。体育の

授業場面での児童の発言が多くなり,学習課題の解決に向けて試行錯誤したり工夫したりする

姿が多く見られるようになってきた。特に,共通課題を提示しての基礎・基本の習得と習熟の

段階では,単に運動するだけでなく,「課題解決に向けた運動」→「教師の発問」→「運動に

対する思考活動」→「気付きの言語化と共有」→「思考を経た課題解決に向けた運動」という

学習の流れができてきた。「気付きの言語化と共有」では,一人の児童が気付いた運動のこつ

(わかったこと)をみんなのものにする時間を確保するようにした。こうした学習の流れを重

視することで,体育学習においても他教科と同様に「気付いたこと(わかったこと)を自分の

言葉で表現したり,自分の考え(わかったこと)を仲間と交流したりする」言語を媒介とした

思考活動が充実できたと考える。

また,本校ではパワーアップタイムを全学年すべての体育授業で継続的に実践してきた。パ

ワーアップタイムは単なる反復練習ではなく,運動のアナロゴン(類似の運動遊び)に取り組

む時間である。児童は,遊びを通して運動の基礎感覚を高めてきた。パワーアップタイムの内

容は,教師が主運動に関連する下位運動から抽出した運動遊びの中から児童に選択させて行う

ようにした。児童が無意識に夢中になって取り組む動きの中に,教師の意図する活動が自然に

0% 50% 100%

平成19年度

平成20年度

平成21年度 A

B

C

D

E

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含まれるよう配慮した。パワーアップタイムを継続することは地道な取組であるが,こうした

日々の授業における継続が「先生,いつの間にかできるようになったよ。」という児童の声に

結び付いたものと考える。

<仮説Ⅱについて>

体育学習は,友達の体を支えたり補助したりする身体的なかかわり合いや一緒に準備・片付

けをしたりする協働的なかかわり合いの場が多い。こうした様々な場面で,認め教え合ったり,

励まし助け合ったりする活動を意図的に位置付けて学習を進めてきたところ,児童相互の言葉

かけが活発になり,双方向的な教え合い活動が見られるようになってきた。また,ゲームの学

習においてもフェアプレーの精神や協力しようとする気持ち,責任感が高まってきた。仲間や

教師に受け入れられているという安心感が,苦手意識を克服し意欲的に運動に取り組む姿勢へ

と結び付いていったものと考える。また,体育の授業で身に付けた学習規律が他教科や学校生

活全体へと転移し,落ち着いて行動する児童が増えてきた。さらに,体育学習を通じて自己の

よさや可能性に気付いたり,友達との信頼感を強めたりしたことによって自尊感情が高まり,

良好な人間関係の構築にも一定の成果が現れたものと考える。

<仮説Ⅲについて>

学校の教育活動全体を通じて行う体育活動については,主に業間運動と縦割り班活動の遊び

を中心に行った。運動する子どもとそうでない子どもの二極化の傾向や体力の低下傾向に対処

するために学校生活の中で運動に親しむ時間を確保するようにした。その結果,運動に親しむ

ための人的・物的環境が整い,外遊びを好む児童が増えてきた。業間運動では,体力テストの

結果から本校の課題として明らかになった跳躍力や投げる力を楽しみながら強化できるよう,

運動のアナロゴン(類似の運動遊び)を積極的に取り入れた。それらを継続したところ,体力

テストの結果で大きな改善が見られた。また,伝承遊びや鬼ごっこなどの運動経験が蓄積され,

それらが体育学習の中でも活用されるようになってきた。

<今後の課題>

・新学習指導要領を受けて,運動領域の系統性をおさえるために学校独自の運動技能系統表を

作成した。それらを年間指導計画とどのように関連付けていくべきか研究を進めたい。また,

2学年にわたって指導する内容をどのように配当していくべきか,検討を加えたい。

・楽しみながら体力を向上させる運動のアナロゴンについての研究を進め,類似の運動遊びを

各運動領域ごとに整理するとともに,業間運動や縦割り活動の遊びの中に取り入れていきた

い。

・各学年で取り上げる「体つくり運動」について,授業1単位時間の有効な使い方や似通った

動きつくりのとらえ方,系統性を意識した難易度の設定などについて研究を継続していきた

い。