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120 日本消化器がん検診学会雑誌 Vol.56 2, Mar. 2018 原 著 大腸がん検診における便潜血陽性者の精密検査としての 大腸CT検査の診断精度 馬嶋健一郎 1) 藤原 正則 2) 和田 亮一 3) 村木 洋介 1) 光島 3) 1)亀田メディカルセンター 健康管理科 2)亀田メディカルセンター幕張 診療放射線部 3)亀田メディカルセンター幕張 消化器科 〔要 旨〕 便潜血検査(fecal occult blood test:FOBT)陽性者に施行した大腸CT検査の診断精度を全大腸内 視鏡検査を標準として検証した。当施設の任意型検診において,FOBT陽性者に対し同日に大腸CT検 査と全大腸内視鏡検査を施行した120名を対象とした。前処置法は 3 %となるようにガストログラフイ を混合したニフレック 液を使用した。大腸CT検査における患者ごとの感度,特異度は, 6 mm以 上の病変で感度85.7%(30/35),特異度95.3%(81/85),10mm以上の病変で感度100%(17/17),特異 度98.1%(101/103)であった。FOBT陽性者に対する精密検査として大腸CT検査の精度は良好であり, 精検法となり得ると考えられる。 大腸 CT 検査便潜血検査前処置法診断精度全大腸内視鏡検査 キーワード はじめに 本邦において大腸癌死亡は癌死亡数における第 二位で年間約 5 万人にも達しており 1) ,大腸がん 検診が現状では十分な効果を発揮できていない点 が憂慮されている。その原因は,検診受診率が目 標値の50%を下回っている事もあるが 2)〜4) ,精検 受診率が55.4% 5) と低迷している点が大きな要因 のひとつであると考えられる。現在の厚生労働省 指針において精検法の第 1 選択は全大腸内視鏡検 査(total colonoscopy:TCS),それを行う事が 困難な場合はS状結腸鏡と注腸造影検査を実施と されている 6) 。一般的に精検法としてTCSが行わ れるが,苦しい検査という負のイメージが精検受 診率の低迷と関係している可能性がある。一方, 近年広く利用されてきている大腸CT検査は内視 鏡より苦痛度が少なく 7),8) ,日本消化器がん検診 学会からはエビデンスに基づいた考察のもとに精 検法の一つとして取り入れる事が提案されてい 9) 。大腸CT検査は,本邦の研究も含めて複数の 大規模研究で優れた精度を有する事が証明されて いる 10)〜13) 。この事が精検法導入提案の柱となっ ているが,便潜血検査(fecal occult blood test: FOBT)陽性者に対象を限定した場合の大腸CT 検査の精度検証研究報告は少ない。今回の検討は 精検法として大腸CT検査が妥当かを検討するた め,FOBT陽性者に対する大腸CT検査の精度を 検証する事を目的とした。 対象と方法 亀田メディカルセンター幕張では,人間ドック の大腸CT検査受診者に対し,大腸CT検査と FOBTを併せて行っている。FOBT陽性だった場 合は,CT検査の結果に関わらず内視鏡検査も同 日全例追加施行する方針とし,該当者の約 9 割が TCSを受けている。今回の検討結果は,FOBT陽 性者に対し大腸CT検査およびTCSを同日に施行

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日本消化器がん検診学会雑誌

Vol.56(2), Mar. 2018

原 著

大腸がん検診における便潜血陽性者の精密検査としての大腸CT検査の診断精度

馬嶋健一郎1),藤原 正則2),和田 亮一3),村木 洋介1),光島  徹3)

1)亀田メディカルセンター 健康管理科2)亀田メディカルセンター幕張 診療放射線部3)亀田メディカルセンター幕張 消化器科

〔要 旨〕 便潜血検査(fecal occult blood test:FOBT)陽性者に施行した大腸CT検査の診断精度を全大腸内視鏡検査を標準として検証した。当施設の任意型検診において,FOBT陽性者に対し同日に大腸CT検査と全大腸内視鏡検査を施行した120名を対象とした。前処置法は 3 %となるようにガストログラフインⓇを混合したニフレックⓇ液を使用した。大腸CT検査における患者ごとの感度,特異度は, 6 mm以上の病変で感度85.7%(30/35),特異度95.3%(81/85),10mm以上の病変で感度100%(17/17),特異度98.1%(101/103)であった。FOBT陽性者に対する精密検査として大腸CT検査の精度は良好であり,精検法となり得ると考えられる。

大腸CT検査,便潜血検査,前処置法,診断精度,全大腸内視鏡検査キーワード

はじめに 本邦において大腸癌死亡は癌死亡数における第二位で年間約 5 万人にも達しており1),大腸がん検診が現状では十分な効果を発揮できていない点が憂慮されている。その原因は,検診受診率が目標値の50%を下回っている事もあるが2)〜4),精検受診率が55.4%5)と低迷している点が大きな要因のひとつであると考えられる。現在の厚生労働省指針において精検法の第 1 選択は全大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS),それを行う事が困難な場合はS状結腸鏡と注腸造影検査を実施とされている6)。一般的に精検法としてTCSが行われるが,苦しい検査という負のイメージが精検受診率の低迷と関係している可能性がある。一方,近年広く利用されてきている大腸CT検査は内視鏡より苦痛度が少なく7),8),日本消化器がん検診学会からはエビデンスに基づいた考察のもとに精検法の一つとして取り入れる事が提案されてい

る9)。大腸CT検査は,本邦の研究も含めて複数の大規模研究で優れた精度を有する事が証明されている10)〜13)。この事が精検法導入提案の柱となっているが,便潜血検査(fecal occult blood test:FOBT)陽性者に対象を限定した場合の大腸CT検査の精度検証研究報告は少ない。今回の検討は精検法として大腸CT検査が妥当かを検討するため,FOBT陽性者に対する大腸CT検査の精度を検証する事を目的とした。

対象と方法 亀田メディカルセンター幕張では,人間ドックの大腸CT検査受診者に対し,大腸CT検査とFOBTを併せて行っている。FOBT陽性だった場合は,CT検査の結果に関わらず内視鏡検査も同日全例追加施行する方針とし,該当者の約 9 割がTCSを受けている。今回の検討結果は,FOBT陽性者に対し大腸CT検査およびTCSを同日に施行

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し得たものである。FOBTは 2 日法を基本とし試薬OC-ヘモディアオートSʻ栄研’ を用いOCセンサー ioで測定,カットオフ値は100ng/mlとしている。便検体採取は原則としてドック受診当日および前日の便とし,即日検査室にて測定を行った。対象者は2010年 7 月〜 2015年11月に亀田メディ

カルセンター幕張の人間ドックにおいて,大腸CT検査とFOBTを受けた受診者のうち,FOBT陽性にて大腸CT検査とTCSを同日施行された120名(男性92名,女性28名,平均年齢55歳)である。対象者抽出の詳細は図 1 に示す。主要な評価項目として患者ごとの 6 mm以上,10mm以上の病変

図 1 対象者の抽出詳細FOBT:fecal occult blood testTCS:total colonoscopy3 %ニフC法:ガストログラフイン 3 %の洗腸・造影剤(ニフレック+contrast agent)

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における感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率を算出した。副次評価項目としてポリープごとの6 mm以上,10mm以上の病変の感度,陽性的中率を算出,病変形態別の感度も算出した。なお,6 mm以上のポリープごとの解析においては内視鏡レポートにて 6 〜 9 mm大の病変のポリープ位置や数が正確に把握できないものが 2 症例あり,このポリープ分は除外して算出した。病変の存在は,大腸CT一次読影の結果を把握したうえで行ったTCSの結果を標準とし,病変のマッチングは患者ごとポリープごと解析ともに,同一か隣接する領域で明らかに違う位置と判断されない場合,サイズは50%以内の違いまでを同一病変とした10)〜13)。 前処置法は我々が報告した既報14)のごとく,ニフレックⓇの固形成分に水溶性造影剤であるガストログラフインⓇ60mlと水を加えて全量2000mlとしたガストログラフイン 3 %の洗腸・造影剤(ニフレック+contrast agent:以下 3 %ニフC法)を使用した。また 3 日前よりセンノシドを 2 錠ずつ内服し,検査食使用や低残渣食の指導は特に行わなかった。鎮痙剤は2013年まではブチルスコポラミンを使用していたがその後は使用せず実施した。腸管拡張は2013年まではCO2手動注入,その後は自動注入器で行い,体位は 2 体位を撮影した。使用したCT撮影装置は64列マルチスライスCT

(Aquilion 64,東芝メディカルシステムズ,大田原)で,ワークステーションはAZE Virtual Place 風神Ⓡ(AZE,東京)を用いて解析した。撮像条件は管電圧120kV,管電流は固定電圧,自動露出機構,逐次近似法導入と時期により変化しており,それぞれ100mA,auto exposure control SD=20,auto exposure control SD=28およびSD=35(スライス厚はいずれも1.0mm),ガントリ回転速度

0.5rot/sec,コリーメーション1.0mm,FOV320 mm,ピッチファクタ0.844(ヘリカルピッチ27.0)で撮像した。技師は撮影,画像構築,一次読影を行うが,この工程は同一または複数の技師が関わっていた。読影方法は内視鏡類似像とMPR(multi planar reconstruction)像を用いた。一次読影は 7 名の担当技師が分担し,読影のトレーニングは,施設における大腸CT検査開始時は先進施設見学やハンズオンに参加し,その後は200例のトレーニング症例で行う事を基本とした。二次読影は消化管診療に精通した医師 3 名(トレーニング症例でのトレーニングは行っていない)が大腸内視鏡結果とは独立して行った。 2 名の医師は消化器診療歴が20年以上あり,残りの 1名は5,000例以上の大腸CT読影経験があり,トレーニング症例の制作を担当していた。本研究は後ろ向きの観察研究のため本研究固有のインフォームドコンセントは実施していないが,全対象者に検診結果の研究利用について包括的な書面同意を行った。データ使用に関しては,個人情報の利用目的を施設内に掲示し個人情報保護を尊重して倫理面に配慮した。

結果 標準となるTCSで同定した患者ごとの病変は,病変なし45例, 6 mm未満の病変がある者40例,6 mm以上35例,10mm以上17例であった(表 1 )。発見病変の形態および部位を表 2 に示した。大腸CT検査の診断精度としての患者ごとにおける感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率は, 6 mm以上の病変で85.7%(30/35),95.3%(81/85),88.2%(30/34),94.2%(81/86)であり,10mm以上の病変においては100%(17/17),98.1%

(101/103),89.5%(17/19),100%(101/101)で

表 1 全大腸内視鏡検査で同定した病変の分布(患者ごと)

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あった(表 3 )。ポリープごとの感度は 6 mm以上の病変で64.8%(35/54),10mm以上で82.6%

(19/23)であり,陽性的中率は 6 mm以上の病変で83.3%(35/42),10mm以上で90.5%(19/21)であった(表 4 )。形態別の感度は 6 mm以上の病変でⅠp 73.3%(11/15),Ⅰs・Ⅰsp 71.9%

(23/32),Ⅱa 14.3%( 1 / 7 ),10mm以上の病変でⅠp 90.9%(10/11),Ⅰs・Ⅰsp 80.0%( 8 /10),Ⅱa 50.0%( 1 / 2 )であった(表 4 )。Ⅱa病変については感度が低く,図 2 aに偽陰性となった平

坦型のM癌病変の例を示す。この症例は同一受診者に 2 つの癌病変が存在し,図 2 bのM癌病変は大腸CTで指摘できていたが,図 2 aに示した平坦病変は後方視的にみても指摘が難しかった。

考察 今回,我々はFOBT陽性者に行った大腸CT検査の診断精度について検討し,癌の存在および今後の癌の発生においてリスクの高いと考えられる10mm以上の病変において,患者ごとの感度は

表 2 全大腸内視鏡検査で同定した病変分布(ポリープごと)

表 3 大腸CT検査の診断精度(患者ごと)

表 4 大腸CT検査の診断精度(ポリープごと)

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100%,特異度98.1%と優れており, 6 mm以上の病変でも感度85.7%,特異度95.3%と良好であった。また,穿孔など問題となる合併症は認めなかった。このようなFOBT陽性者に限定した場合の大腸CT検査精度の報告は多くはないが,以下のような報告がある。患者ごとの感度・特異度について,海外からは表 5 に示すようにLiedenbaum15),Regge12),Sali16),Heresbach17)からの報告があり,腺腫および癌(Reggeのみadvanced neoplasia)に対する感度は 6 mm以上で85%を超え,10mm以上では90%を超えている。また,特異度は50%台から90%台と報告されている。2014年に以上 4本の研究についてシステマティックレビューもされており,メタアナリシスによる 6 mm以上の腺腫および癌における感度は89%,特異度は75%と報告されている18)。本邦からも歌野19),満崎ら20)

が良好な精度を報告している。これらの報告から,感度はおしなべて良好であると考えられる。一方で特異度はばらつきがあり,研究方法の違いが反映しているものと考えられる。例えば特異度52%のSaliの報告はタギングを用いておらず,70%のLiedenbaumの報告は下剤なしの検討である。タギングを行うなど方法に注意をすれば,特異度も担保する事が可能と考えられる。我々が行った今回の検討はタギングを行うなどを含め推奨される標準的な方法9)で行った結果,優れた精度を示した。以上の事から,大腸CT検査は高い感度,特異度が達成でき,FOBT陽性者への精検法になり得ると考えられる。ただし高い精度を担保するためにはタギング使用,十分な読影はトレーニング,3 D画像に内視鏡類似像を用いるなど推奨された標準方法9)で行う必要がある事に留意すべきで

表 5 便潜血検査陽性者に対する大腸CT検査の診断精度報告(患者ごとの感度・特異度)

図 2 同一受診者に 2つの癌(深達度M)が存在した症例の内視鏡像

aは大腸CT偽陰性病変,bは大腸CT真陽性であった。

a b

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ある。 FOBTによる大腸がん検診の問題点である精検受診率の低さは,内視鏡検査の苦痛がひとつの要因と思われる21),22)。消化器がん検診全国集計の資料から読み取ると,FOBT陽性で精密検査を行った者の3.8%に癌が発見されている5)。その病変の大きさは10mmを超えるものが約 3 / 4 を占めており,今回の検討では10mm以上の病変の患者別感度が100%であった。また,残り約 1 / 4 の10mm以下の癌についても,多くは 6 mm以上であると推測され,今回の検討から 6 − 9 mmの病変の患者別感度を算出すると72%(13/18)であった。以上の事から,大腸CT検査はFOBT陽性者への精検法として高い精度があると考えられ,内視鏡検査を避けている受診者に対して有用であると思われる。大腸CT検査を代替の精検法として使用できる体制を構築し,検診対象者や要精検対象者に大腸CT検査という精検法の選択肢もある事を広く流布する事で精検受診率を高める事が期待できる。また,精検法導入に関しては検査のキャパシティも重要である。厚生労働省の公表によると2016年 6 月ひと月の大腸CT件数は3,100例となっており,2012年から比較すると約 5 倍の伸び率である23)。一方,TCS件数は同調査で2012年 6月分199,634件,2016年 6 月分234,021件であり,絶対数は多いが伸び率はわずかである。検査のキャパシティを推定するのは難しいが,本邦の16列以上のCT保有台数は9,300台で自動炭酸ガス送気装置は約1,100台が市販されている24)事から考えると,今後も十分に検査数増加が見込める可能性があり大腸CTは精検方法に導入可能と考える。一方で,TCSの余剰なキャパシティはあまりないであろうと推測される。 現在の代替案であるS状結腸鏡と注腸造影検査の組み合わせと大腸CT検査の優先順位をどうするかについては,直接比較した調査報告はないと考えられる。参考となる報告として,有症状者にける大腸CTと注腸造影検査の病変発見率を比較したランダム化比較試験があり25),大腸CTにおける癌および10mm以上ポリープをあわせた病変

の発見能は注腸造影検査より優れていると報告されている。また,大腸CTとS状結腸鏡との診断精度を比較した報告において大腸CTはより優れた精度を示している26)。注腸造影検査の苦痛度が高い事も加味すると27),第 2 選択として大腸CTを用いるのが多くの施設で実際的と考えられる。 一方で,今回の検討において患者ごとの10mm以上病変の感度は100%であったが,ポリープごとの解析では10mm以上23病変中 4 病変が偽陰性であった。大腸CTで大きな病変を一つ指摘すれば内視鏡を行う事になり他の病変もほとんどが内視鏡で発見されるので,患者ごとの解析は実際的と考えられ有用な指標と考えるが,今回のポリープごと解析からくみ取れるのは,決して大腸CTは完全ではなく10mm以上病変でも偽陰性が起こりえる事である。形態別感度については,本邦における既報の精度検証研究13),19)と同様,平坦型病変において低かった。平坦型病変の診断は大腸CT検査における限界の一つと考えられ,これも認識しておく必要がある。 今回の前処置は,我々が以前報告した 3 %ニフC法を使用している14)。通常容量の前処置法は,本邦初の大規模な精度検証で使用されたPEG-C

(polyethylene glycol-electrolyte lavage solution and contrast-medium bowel preparation solution)法13)が有名であり精度検証済みの前処置といえる。PEG-C法はpolyethylen glycol電解質液を1620ml内服後,残りの380mlにタギングを行うためのガストログラフインⓇ20mlを混ぜて内服する方法である。造影剤によるタギングは大腸CT検査の精度を担保するのに重要と考えられ28),29),PEG-C法では造影剤が大腸に到達するタイミングをインジゴカルミンでチェックするなどの工夫が提案されている30)。今回の研究に用いた3 %ニフC法は最初からガストログラフインⓇを混合し全量を飲用するため,制作が簡単かつ撮影タイミングを計る必要がないシンプルさが利点である。前処置法は大腸CT検査の精度に関わる重要な点であり,今回の検討結果から 3 %ニフC法による前処置は十分な精度がある方法と考えら

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れた。 今回の検討の限界のひとつは,ポリープのサイズ計測が内視鏡による目視での推測による例が多い事であり,厳密に全例メジャー鉗子や生検鉗子と比較して計測したものと比べると多少誤差がある可能性はあるが,目視測定も日常診療において信頼できる方法であり31),許容できるものと考えられる。また,大腸CTとTCSの病変マッチングについてはある程度の幅を許容する方法であるが,既報の大規模精度検証試験に準じた方法である10)〜13)。さらに場所のマッチングについては,同一か隣接する領域でも明らかに違う位置と判断できた場合は非同一とするより厳密な方法をとった。サイズマッチングについては50%までの幅を許容しているが,内視鏡下ポリープ計測は50%までの誤差はまれではなくこのマッチングは妥当と考えられている32)。なお本研究のマッチングでは真陽性としたポリープの約 8 割が大きさ25%以内の違いにおさまっていたが,最大で10mm以上病変で−33%(CT10mm,TCS15mm)から+40%

(CT25.2mm,TCS18mm), 6 mm 以 上 10mm 未満病変では−50%(CT3.5mm,TCS 7 mm)から+ 8 %(CT6.5mm,TCS 6 mm)までの幅があった。次の限界としては,病理検査がすべては把握できなかったため,腺腫や癌ではなくポリープ全体としての算出となっている点であるが,FOBT陽性者を対象とした既報16)を参考にするとポリープ全体と,腺腫および癌での集計結果は類似しており,大筋は変わらないと推測される。このような限界はあるが,FOBTによる大腸がん検診の精検法に大腸CT検査が果たす役目が期待される中で,今回の検討は貴重であると考えここに報告した。

結語 FOBT陽性者において患者ごとの10mm以上の病変における感度は100%,特異度は98.1%であった。精検法として大腸CT検査の精度は良好であり,精検法となり得ると考えられる。

 この検討の主旨は,第55回日本消化器がん検診学会総会パネルディスカッション「大腸がん検診の精度におけるCTコロノグラフィーの位置付け」で発表した。

本論文内容に関連する著者の利益相反 :なし

文  献1 ) 厚生労働省.平成27年(2015)人口動態統計

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[2017.01.24]2 ) 厚生労働省.がん対策推進基本計画(第 2 期)

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[2017.06.23]3 ) 厚生労働省.平成27年度地域保健・健康増進

事業報告の概況.結果の概要 健康増進編.2017,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin /hw/c-hoken/15/dl/kekka2.pdf [2017.06.23]

4 ) 厚生労働省.平成28年国民生活基礎調査の概況.世帯員の健康状況.2017,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/04.pdf[2017.09.19]

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■原著■ 大腸がん検診における便潜血陽性者の精密検査としての大腸CT検査の診断精度128

日本消化器がん検診学会雑誌

Vol.56(2), Mar. 2018

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論文受付 平成29年 6 月30日同 受 理 平成29年11月29日

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Journal of Gastrointestinal Cancer Screening

Vol.56(2), Mar. 2018

Diagnostic accuracy of computed tomography colonography in patients with a positive fecal occult blood test

Kenichiro MAJIMA1), Masanori FUJIWARA2), Ryouichi WADA3),Yosuke MURAKI1) and Toru MITSUSHIMA3)

1) Department of Health Management, Kameda Medical Center2) Radiology Unit, Kameda Medical Center Makuhari3) Department of Gastroenterology, Kameda Medical Center Makuhari

This study aimed to investigate the diagnostic accuracy of computed tomography (CT) colonography com-pared with that of colonoscopy for patients with positive fecal occult blood test results. During a routine health check-up, 120 participants who had positive fecal occult blood test underwent CT colonography and colonoscopy on the same day. For bowel preparation and tagging, we used 2000 mL of polyethylene glycol solution (Niflec) containing 60 mL of diatrizoate meglumine and diatrizoate sodium solution (Gastrografin). For each patient, sensitivity and specificity of CT colonography for polyps of ≥6 mm were 85.7% (30/35) and 95.3% (81/85), respectively. For polyps of ≥10 mm, they were 100% (17/17) and 98.1% (101/103), re-spectively. CT colonography demonstrated reliable accuracy in the examination of patients with positive fe-cal occult blood test. These results indicate that CT colonography can be used for detailed examination of these patients.

Keywords : CT colonography, fecal occult blood test, bowel preparation, accuracy control, colonoscopy