Title 外来種亜種ヤエヤマイシガメの多良間島における定着及び島内分布に関する報告

Author(s) 嶋津, 信彦; 河内, 紀浩

Citation Fauna Ryukyuana, 36: 13-17

Issue Date 2017-05-31

URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/38801

Rights

Fauna Ryukyuana ISSN 2187-6657 http://w3.u-ryukyu.ac.jp/naruse/lab/Fauna_Ryukyuana.html

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外来種亜種ヤエヤマイシガメの多良間島における定着及び島内分布に関する報告

嶋津信彦 1,2･河内紀浩 3

1 しまづ外来魚研究所 (shimadzu1984@gmail.com) 2〒905-1415 沖縄県国頭村浜 521 株式会社島嶼生物研究所

3〒900‒0015 沖縄県那覇市久茂地 3‒21‒1 國場ビル 4F 八千代エンジニヤリング株式会社

要旨. 多良間島における外来種亜種ヤエヤマイシガメの生息状況を把握するため, 2016年 9月25–30 日に同島の水辺 18 地点にトラップを設置した. 結果, 北部の住宅地域周辺から本亜種の成体 14 (雌 13, 雄 1), 幼体 3, 計 17個体が採集された. 性比は，著しく雌に偏っていた．背甲長は，141.9 ± 27.6 (95–207) mm (平均 ± 標準偏差 (最小–最大)) であった．体サイズは，雌の背甲長の範囲において西表島の大型の在来

集団と同等であった. これらの記録は, 多良間島における同外来種の定着と高い繁殖能力に

よる分布拡大の可能性を示唆する.

はじめに 多良間島は, 宮古島の西方約 67 km, 石垣島の北東約 35 km に位置し, 面積 19.75 km2, 周囲19.0 km の有人島である (多良間村 2013). 陸棲･陸水棲のカメ目 Testudinesは, 同島に自然分布しないが, イシガメ科 Geoemydidae のミナミイシガメ亜種ヤエヤマイシガメ Mauremys mutica kami, セ マ ル ハ コ ガ メ Cuora flavomarginataおよびヌマガメ科 Emydidaeのアカミミガメ Trachemys scripta の外来性カメ類 3種亜種の移入分布が知られる (多良間村 2013). しかし, 同島侵入後の島内分布や個体群サイズといった詳細情報はほぼない. ヤエヤマイシガメは, 夜行性の半水棲カメ類であり, 八重山諸島の石垣島, 西表島および与那国島に自然分布する一方, 沖縄島や宮古島など琉球諸島の多くの島に導入され定着している (矢部･服田 , 1996; Yasukawa et al. 1996; 安川 2007; 藤田･笹井 2014)．多良間島の本亜種は, 遅くとも 2009年に生息が確認されており, 1980 年代後半以降に定着したとの情報もある (沖縄県文化環境部自然保護課 2009). しかし, 島内分布や形態観察などの採集個体に基づく記録は, 2015 年に採集された種ミナミイシガメの 1 例のみである (青柳 2016). 今回, 多良間島においてヤエヤマイシガメの捕獲調査を実施したため, 本亜種の

島内分布と採集個体の性比や体サイズについ

て報告する.

材料と方法

2016年 9月 25–30日に多良間島 (沖縄県宮古郡多良間村) の池や水路など 18 地点 (図 1) で各1 回, カニ網 (タカミヤ社製, CS-102, 長さ 66 cm, 幅 45 cm, 高さ 23 cm) を 1個ずつ設置した. いずれも日中の午後に設置して翌日午前に回

収した (表 1). 各カニ網には誘引餌の冷凍サンマ 2 分の 1 個体, 採集動物の溺死防止用に空気を封入した 600 ml ペットボトル 2 本を入れた. 調査中に目視確認されたヤエヤマイシガメに

ついては, 素手で可能な限り採集し, 位置と個体数を記録した. 採集個体は全て, 定規を用いて背甲長と腹甲長を 1 mm 単位で計測した. 本種では雌雄とも成熟サイズが 12 cm前後と推定されており, また, 雄成体の腹甲中央部が大きく凹む個体が多いとされる (例えば, 矢部･服

図 1. 多良間島においてトラップを設置した 18地点 (Pts. 1–18)．図中に示された●はヤエヤマイシガメが採集された場所を，○は採集されなかった場所を示す. Fig. 1. A map of 18 trap points on Tarama Island (Pts. 1–18). Closed circles represent the sites where Yaeyama yellow pond turtles were collected, whereas no turtles were collected from open circle sites.

14 [Report] Shimadzu & Kawauchi: Distribution of the Yaeyama yellow pond turtle in Tarama Island

in Tarama

表 1. 多良間島におけるトラップ設置地点の座標 (JGD2000) とトラップ設置期間. Table 1. The coordinates (JGD2000) of bait trap points and periods of the traps set on Tarama Island.

地点 Point

環境 Environment

北緯 (°) North latitude

東経 (°) East longitude

トラップ設置期間 Setting period of trap

1 池 Pond 24.666866 124.678348 2016.9.25–26 2 水路 Channel 24.668317 124.679648 2016.9.29–30 3 池 Pond 24.666049 124.690270 2016.9.29–30 4 池 Pond 24.666682 124.690563 2016.9.29–30 5 水路 Channel 24.669866 124.696197 2016.9.28–29 6 水路 Channel 24.670919 124.697700 2016.9.28–29 7 水路 Channel 24.670952 124.698263 2016.9.28–29 8 水路 Channel 24.670976 124.699523 2016.9.28–29 9 水路 Channel 24.670966 124.710649 2016.9.29–30 10 水路 Channel 24.670652 124.711582 2016.9.28–29 11 水路 Channel 24.670344 124.712507 2016.9.28–29 12 水路 Channel 24.669733 124.714294 2016.9.29–30 13 水路 Channel 24.667526 124.718579 2016.9.29–30 14 池 Pond 24.654163 124.721750 2016.9.25–26 15 池 Pond 24.641148 124.710627 2016.9.25–26 16 池 Pond 24.644300 124.700802 2016.9.25–26 17 水路 Channel 24.643415 124.699952 2016.9.25–26 18 池 Pond 24.640663 124.689901 2016.9.25–26

田 1996; Yasukawa et al. 1996; 太田ら 2004; 安川 2007). したがって, 背甲長 12 cm 以上の個体では復甲の形状から性を判別し, 12 cm 未満では性別不明の幼体とした. 性比の偏りについては, 期待値 1:1, 有意水準 1%で二項検定を行った. 本種の甲羅の色彩は著しい個体差がみられる (安川, 2007). したがって, 今後の比較資料としてすべての採集個体の腹甲をデジタル

カメラ (オリンパス社製, Stylus TG–4 Tough) で記録した (付録 1). データ収集後, 多良間村役場職員の指導の下で雌 1個体、雄 1個体をのぞく採集個体を島内で殺処分し埋めた. 生残 2 個体は, 第一著者宅へ持ち帰り、現在も飼育中である.

結果

ヤエヤマイシガメは, 6地点からカニ網で 15個体, 素手で 2 個体, 計 17 個体が採集された. 捕獲できなかったものの, これらの他に Pt. 8で 2個体を目視で確認した (図 1). 島の北に位置する住宅地周辺に集中して分布していた. 一方, 島の東部・南部にも同様にカニ網を設置したに

も関わらず, 南部 Pt. 15 は水草が繁茂し, カワスズメ属 Oreochromis spp.が採集されるなど恒常的に水があり, 生息適地と推測されたが本亜種は確認されなかった. その他のカメ類は, 今回の調査では見つからなかった. 採集個体は,

雌 13, 雄 1, 幼体 3 個体であり, 性比が雌に有意に偏っていた (表 2; 二項検定, p < 0.01). 背甲長は, 全体 (n = 17) で 141.9 ± 27.6 (95–207) mm (平均 ± 標準偏差 (最小–最大)) であり, 雌 (n = 13) では 149.5 ± 21.6 (125–207) mm, 雄では167 mm, 幼体 (n = 3) では 100.7 ± 6.0 (95–107) mm であった. 最大個体の雌は, 次に大きい雌個体より 40 mmも大きかった. 採集された雄は, 第 1 椎甲板と肩甲板のシームが変形しており, 青柳 (2016) が写真で報告した雄とは別個体であると判断された(付録 1, No. 1). 幼体は, いずれも同じ水路内の Pts. 6, 8 から確認された. 腹甲の色彩は, 採集個体の多くで甲板ごとの暗色斑が他の甲板の斑とは繋がらず, 亜種ヤエヤマイシガメの特徴 (Yasukawa et al. 1996; 安川 2007) とよく一致した. 一方で一部の個体では, 基亜種の多くで見られるように暗色斑が繋が

ったり (付録 1, No. 4, 8, 13; Yasukawa et al. 1996; 安川 2007), 色素が沈着して不鮮明であったりした (No. 1, 2, 17).

考察

多良間島におけるヤエヤマイシガメの分布は, 南部にも生息適地と推測される水辺があるが, 北部に限定されており, 青柳 (2016) の 1 例も今回 3 個体が採集された Pt. 2 の近くから報告されている. 多良間島の集団は, 雌と幼体がそ

Fauna Ryukyuana, 36: 13–17.

15 [報告]嶋津•河内:多良間島におけるヤエヤマイシガメの分布状況

息地

表 2. 多良間島で採集されたヤエヤマイシガメの性別及び体サイズの測定値. Table 2. Measurements of Yaeyama yellow pond turtles collected from Tarama Island.

No. 採集年月日 Collection date

地点 Point

採集方法 Collection method

性 Sex

背甲長 (mm) Carapace length

腹甲長 (mm) Plastrum length

1 2016.9.30 2 カニ網 Traps Male 167 134 2 2016.9.30 2 カニ網 Traps Female 164 144 3 2016.9.30 2 カニ網 Traps Female 130 114 4 2016.9.29 5 カニ網 Traps Female 207 167 5 2016.9.29 5 カニ網 Traps Female 149 130 6 2016.9.29 5 カニ網 Traps Female 130 116 7 2016.9.29 5 カニ網 Traps Female 125 106 8 2016.9.29 6 カニ網 Traps Female 152 125 9 2016.9.29 6 カニ網 Traps Unknown 95 83 10 2016.9.28 7 素手 Catching Female 167 143 11 2016.9.29 8 カニ網 Traps Female 150 132 12 2016.9.29 8 カニ網 Traps Female 140 123 13 2016.9.29 8 カニ網 Traps Female 140 124 14 2016.9.29 8 カニ網 Traps Female 135 116 15 2016.9.29 8 カニ網 Traps Unknown 107 95 16 2016.9.29 8 カニ網 Traps Unknown 100 86 17 2016.9.28 10 素手 Catching Female 155 131

れぞれ複数, 雄が青柳 (2016) も含め少なくとも 2 個体確認されたことから, すでに本亜種の繁殖集団が形成され, 定着した状態にある可能性が高い. 今回採集された背甲長 207 mm の雌は , これまでに報告されている種最大個体の219 mm の雄に次ぐ大きさであり, 雌では種最大個体である (安川 2007; 高橋･藤井 2012). 導入初期に未利用の餌資源を利用し著しく大

型化した個体かもしれない. なお本種の体サイズは, 性差がないか, 雄の方が雌よりやや大きいとされる (例えば, Yasukawa et al. 1996; 太田ら 2004; 安川 2007). 西表島の同亜種は, 生息密度が低い個体群では成長が速くなり, 大型化する傾向があるという (矢部 1995). 多良間島の集団は, 雌において西表島で体サイズが大きいとされる背甲長の区間が 125–175 mmである集団 (矢部･服田 1996) と同程度の大きさであり, 全体としても比較的大型といえる. 本種の移入個体群において体サイズが大型化したり、

性比が雌に偏ったりすることは, 阿嘉島の集団でも報告されている (矢部･服田 1996). このような集団はより多くの次世代 (卵) を残すことができ, 今後の個体数増加に有利と考えられる. 南部には本亜種の生息に適した環境も存在す

ることから, 多良間島の集団は, 生息密度の上昇とともに徐々に現在, 生息密度の低い, または生息していない南部にも生息地を拡大する

と考えられる.

謝辞

多良間村教育委員会の本村和也教育課長には, 多良間島における陸生･陸水生カメ類の分布情

報を提供していただいた. 同委員会社会教育係の桃原薫氏には加えて採集個体の収容･処分に

協力していただいた. 本誌編集委員と査読者の皆様には改稿にあたり多くの重要なご指摘を

いただいた. ここに記してお礼申し上げる. 本調査は, 沖縄県環境部自然保護課の外来種対策事業の一環として行われた.

引用文献

青柳克, 2016. 多良間島からのミナミイシガメの初記録. Akamata, 26: 33–34.

藤田喜久･笹井隆秀, 2014. 宮古島に定着したヤエヤマイシガメによるミヤコサワガニの捕

食. 沖縄生物学会誌, 52: 53–58. 太田英利･藤井亮･岡本卓･疋田努, 2004. 八重山諸島波照間島の外来性爬虫類に関する新知

見およびこれまでに同島から報告された爬

虫類の記録に関するコメント. 爬虫両棲類学会報, 2004(2): 128–137.

沖縄県文化環境部自然保護課, 2009. 県立自然公園新規指定調査 (宮古郡多良間村) 報告書. 沖縄県文化環境部自然保護課.

高橋亮雄･藤井亮, 2012. 沖縄島中部から発見された最大背甲長 221 mmのヤエヤマイシガメ.

16 [Report] Shimadzu & Kawauchi: Distribution of the Yaeyama yellow pond turtle in Tarama Island

in Tarama

Akamata, 23: 25–28. 多良間村, 2013. 多良間島自然観察ガイドブック. 多良間村役場観光振興課, 多良間.

矢部隆, 1995. 西表産ミナミイシガメに見られる個体群間における個体群構造の違いにつ

いて. 爬虫両生類学雑誌, 16 (2): 70. 矢部隆･服田昌之, 1996. 慶良間列島阿嘉島に帰化したミナミイシガメについて. みどりいし, 7: 25–27.

安川雄一郎, 2007. イシガメ属その近縁属の分類と自然史, 前編. クリーパー, 39: 18–44.

Yasukawa Y., H. Ota, & J.B. Iverson, 1996. Geographic variation and sexual size dimorphism in Mauremys mutica (Cantor, 1842) (Reptilia: Bataguridae), with description of a new subspecies from the southern Ryukyus, Japan. Zoological Science, 13: 303–317.

A report on the establishment and distribution of an introduced population of the Yaeyama yellow pond turtle, Mauremys mutica kami, on Tarama Island. Nobuhiko Shimadzu1, 2 & Norihiro Kawauchi3

1Shimadzu Alien Fishes Laboratory (shimadzu1984@gmail.com)

2Islands Wildlife Laboratory Co., Ltd., 521 Hama, Kunigami, Okinawa 905–1415, Japan

3Yachiyo Engineering Co., Ltd., 4F Kokuba Building, 3–21–1 Kumoji, Naha, Okinawa 900–0015, Japan

Abstract. To investigate the inhabiting status of the invasive Yaeyama yellow pond turtle, Mauremys mutica kami, at Tarama Island, bait traps were set at 18 locations in the waterfront of the island during September 25–30, 2016. A total of 17 individuals, including 14 adults (13 females, 1 male) and 3 juveniles, were collected from near a residential area at the northern part of this island. The sex ratio was strongly female-biased. The mean ± SD carapace length was 141.9 ± 27.6 mm (range: 95–207 mm). The carapace lengths of the females from Tarama Island was similar to those of the native population from Iriomote Island, which is considered relatively large in terms of their mean carapace length. These results suggest that this invasive turtle has already been naturalized and will possibly expand its distribution with their high fecundity within Tarama Island.

投稿日: 2016年 1月 5日 受理日: 2017年 5月 3日 発行日: 2017年 5月 31日

Fauna Ryukyuana, 36: 13–17.

17 [報告]嶋津•河内:多良間島におけるヤエヤマイシガメの分布状況

息地

附録 1. 多良間島で採集されたヤエヤマイシガメの腹甲, 及び雄個体の背甲. 写真番号は表 2と共通. Appendix 1. Plastrum and male carapaces of Yaeyama yellow pond turtles collected from Tarama Island. The numbers correspond to those in Table 2.