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「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011 流体科学 62 FBR 炉心崩壊熱の自然循環除熱に係る熱流動特性の評価 -相似則を考慮した縮尺模型水流動試験による検討- 背 景 高速増殖炉(FBR)の 1 次系は冷却材の温度上昇度が大きいことから、出力運転時には一定の自然循環力 が作用している。この自然循環力を用いて原子炉トリップ後の炉心崩壊熱除去が可能であることは、実験炉 「常陽」の試験などで明らかとなっている。外部動力に頼らず自然循環力だけで崩壊熱が除去できれば、原 子炉事故時の安全性は大きく向上する。国が推進する高速増殖炉サイクル実用化研究(FaCT)プロジェクト では革新技術として、このように完全に自然循環だけで炉心崩壊熱を除去する方式を採用することとしてい る。 目 的 FBR 実用炉の自然循環炉心崩壊熱除去運転における熱流動上の課題を摘出する。又これを克服する為の対 策を立案する。これらの検討に基づき、FBR 実用炉における自然循環崩壊熱除去運転の成立を目指す。 主な成果 1.各過渡事象の熱流動挙動 FBR 実用炉の 1/10 縮尺装置(図 1)を用いて、熱流動上の相似則を考慮した自然循環崩壊熱除去の水流動 試験を行った。FBR 実用炉の全過渡事象を系統的に分類して抽出された代表的な 5 つの事象を対象として、 定格運転から原子炉トリップを経て自然循環崩壊熱除去運転に至る過渡状態を模擬し、以下を明らかにした。 (1)代表事象の模擬試験結果を実機条件に換算し、実機解析結果と比較したところ、外部電源喪失事故、2 次系ナトリウム漏えい事故等の主要事象において、両者の過渡変化挙動がほぼ一致した(図2、図3)。 これは、自然循環のみによる流動にもかかわらず 1 次系の流量が比較的多く、1 次系で乱流状態が維 持されたことから、相似性(模擬性)が向上していることに起因しているものと推察される。 (2)原子炉トリップ後の自然循環除熱では定格時の 3%程度の流れが 1 次系で発生し、炉心崩壊熱(2%以下 程度)にほぼ相応することから、これまでの動的機器(ポンプ)による強制循環除熱運転に較べて、 1 次系各部の温度変化は非常に穏やかなものとなる。 2.熱流動上の課題の検討と対策の提案 試験結果に基づき、自然循環崩壊熱除去運転での熱流動上の課題を摘出し、その対策を提案した。 (1)1 次系で自然循環が発達する過程では、1 次系コールドレグの並列配管部においては流れが不安定とな って、逆位相振動や逆流が起こる。これを防止するには、2本の配管をまとめて単管とするのが良い。 (2)炉容器下部プレナムでは、高温流体の流入によって温度成層が発生する。この成層界面では入口ノズ ルの流れが作用して温度振動が起こる。この防止には、入口ノズルの位置を下げるのが有効である。 (3)FBR(実用炉)の崩壊熱除去系は 1 次系炉心補助冷却系(PRACS 注 1) )と直接炉心補助冷却系(DRACS 注 2) )により構成されている。自然循環除熱時に PRACSは 1次系の自然循環を促進させる。一方、DRACS は炉心出口の高温流を直接的に冷却できるものの、炉上部構造に熱疲労を与える。よって、DRACS は PRACS が使えない時に自動起動し、通常の原子炉トリップでは運転員の判断で起動するのが良い。 なお、本研究は、三菱 FBR システムズ(株)からの受託研究として実施したものである。 今後の展開 試験装置の実現象に対する模擬性を改善した上で、さらに広範囲の過渡事象に対して試験を行う。 主担当者 地球工学研究所 特別嘱託 古賀 智成 関連報告書 (報告書名の後に記載されているアルファベットと数字は、電力中央研究所報告の報告書番号です) ・FBR 自然循環崩壊熱除去における熱流動現象の検討-FBR 実用炉における原子炉トリップ事象の水流動相 似試験-〔N10009〕 注 1)Primary Reactor Auxiliary Cooling System の略で崩壊熱を除去する熱交換器を中間熱交換器の上部プレナムに設置する方式 注 2)Direct Reactor Auxiliary Cooling System の略で崩壊熱を除去する熱交換器を原子炉容器の上部プレナムに設置する方式

FBR炉心崩壊熱の自然循環除熱に係る熱流動特性の評価 -相似則を ... · 2017. 4. 3. · Title: 2010年度版我孫子地区研究概要 Author (財)電力中央研究所

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Page 1: FBR炉心崩壊熱の自然循環除熱に係る熱流動特性の評価 -相似則を ... · 2017. 4. 3. · Title: 2010年度版我孫子地区研究概要 Author (財)電力中央研究所

「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011

流体科学 62

FBR 炉心崩壊熱の自然循環除熱に係る熱流動特性の評価

-相似則を考慮した縮尺模型水流動試験による検討- 背 景 高速増殖炉(FBR)の 1 次系は冷却材の温度上昇度が大きいことから、出力運転時には一定の自然循環力

が作用している。この自然循環力を用いて原子炉トリップ後の炉心崩壊熱除去が可能であることは、実験炉

「常陽」の試験などで明らかとなっている。外部動力に頼らず自然循環力だけで崩壊熱が除去できれば、原

子炉事故時の安全性は大きく向上する。国が推進する高速増殖炉サイクル実用化研究(FaCT)プロジェクト

では革新技術として、このように完全に自然循環だけで炉心崩壊熱を除去する方式を採用することとしてい

る。

目 的 FBR 実用炉の自然循環炉心崩壊熱除去運転における熱流動上の課題を摘出する。又これを克服する為の対

策を立案する。これらの検討に基づき、FBR 実用炉における自然循環崩壊熱除去運転の成立を目指す。

主な成果 1.各過渡事象の熱流動挙動

FBR 実用炉の 1/10 縮尺装置(図 1)を用いて、熱流動上の相似則を考慮した自然循環崩壊熱除去の水流動

試験を行った。FBR 実用炉の全過渡事象を系統的に分類して抽出された代表的な 5 つの事象を対象として、

定格運転から原子炉トリップを経て自然循環崩壊熱除去運転に至る過渡状態を模擬し、以下を明らかにした。

(1)代表事象の模擬試験結果を実機条件に換算し、実機解析結果と比較したところ、外部電源喪失事故、2

次系ナトリウム漏えい事故等の主要事象において、両者の過渡変化挙動がほぼ一致した(図 2、図 3)。

これは、自然循環のみによる流動にもかかわらず 1次系の流量が比較的多く、1次系で乱流状態が維

持されたことから、相似性(模擬性)が向上していることに起因しているものと推察される。

(2)原子炉トリップ後の自然循環除熱では定格時の 3%程度の流れが 1次系で発生し、炉心崩壊熱(2%以下

程度)にほぼ相応することから、これまでの動的機器(ポンプ)による強制循環除熱運転に較べて、

1次系各部の温度変化は非常に穏やかなものとなる。

2.熱流動上の課題の検討と対策の提案

試験結果に基づき、自然循環崩壊熱除去運転での熱流動上の課題を摘出し、その対策を提案した。

(1)1次系で自然循環が発達する過程では、1次系コールドレグの並列配管部においては流れが不安定とな

って、逆位相振動や逆流が起こる。これを防止するには、2本の配管をまとめて単管とするのが良い。

(2)炉容器下部プレナムでは、高温流体の流入によって温度成層が発生する。この成層界面では入口ノズ

ルの流れが作用して温度振動が起こる。この防止には、入口ノズルの位置を下げるのが有効である。

(3)FBR(実用炉)の崩壊熱除去系は 1次系炉心補助冷却系(PRACS 注 1))と直接炉心補助冷却系(DRACS 注 2))により構成されている。自然循環除熱時に PRACS は 1 次系の自然循環を促進させる。一方、DRACS

は炉心出口の高温流を直接的に冷却できるものの、炉上部構造に熱疲労を与える。よって、DRACS は

PRACS が使えない時に自動起動し、通常の原子炉トリップでは運転員の判断で起動するのが良い。

なお、本研究は、三菱 FBR システムズ(株)からの受託研究として実施したものである。

今後の展開 試験装置の実現象に対する模擬性を改善した上で、さらに広範囲の過渡事象に対して試験を行う。

主担当者

地球工学研究所 特別嘱託 古賀 智成

関連報告書 (報告書名の後に記載されているアルファベットと数字は、電力中央研究所報告の報告書番号です)

・FBR 自然循環崩壊熱除去における熱流動現象の検討-FBR 実用炉における原子炉トリップ事象の水流動相

似試験-〔N10009〕

注 1)Primary Reactor Auxiliary Cooling System の略で崩壊熱を除去する熱交換器を中間熱交換器の上部プレナムに設置する方式

注 2)Direct Reactor Auxiliary Cooling System の略で崩壊熱を除去する熱交換器を原子炉容器の上部プレナムに設置する方式

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「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011

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0 2000 4000 6000 8000 10000 120000.2

0.3

0.4

0.5

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1次系コールドレグ流量A1 (FE11-2A1) 1次系コールドレグ流量A2 (FE11-2A2) 1次系コールドレグ流量B1 (FE11-2B1) 1次系コールドレグ流量B2 (FE11-2B2)

流量(m3 /h)

経過時間(秒)

0

1

2

3

4

5

6

7

0 2000 4000 6000 8000 10000時間(秒)

流量

 (%)

1次冷却系流量(Aループ)

(水試験結果) (実機解析結果)

図 2 1 次系流量変化の比較(外部電源喪失事故模擬)

流量とその過渡変化の傾向が試験と解析で良く合っている。

2000 4000 6000 8000 10000 12000-1.0

-0.5

0.0

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1次系Aループ流量 1次系Bループ流量

流量(

m3/h)

経過時間(秒)

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2

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10

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1次系Aループ流量1次系Bループ流量

相対流量

(%(実

流量/定

格流量))

時間(秒)

(水試験結果) (実機解析結果)

図 3 1 次系流量変化の比較(2次系ナトリウム漏洩事故模擬)

2次系ナトリウム漏洩事故を想定した1次系Aループと健全なBループの流量変化挙

動を時刻歴として示している。水試験結果と実機の解析結果は良く一致している。

図 1 水流動試験装置

FBR 実用炉(150 万 kWe)の 1次系を 1/10 縮尺で模擬した模型であり、流れの可視化を行うため大

部分は透明なアクリルで製作されている。通常は断熱のため、断熱材で覆い試験を行う。

原子炉容器(φ1.1m×H2.0m)

中間熱交換器(φ0.6m×H1.6m)

ホットレグ配管

コールドレグ配管

相対流量(%(実流量/定

格流量))