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第13章 オーディオアンプ この章ではオーディオアンプを取り上げますが、オーディオマニアの人達が製作するような音 質を追及したオーディオアンプではありません。あくまでラジオの音声を聞くための、トランジ スタラジオ用の小型スピーカをドライブするオーディオアンプです。このようなオーディオアン プではありますが、電子回路の習得には重要な基本的なものです。 ●スピーカについて 図13-1にスピーカの構造を示します。磁石と磁性体でボイスコイルと直交する磁界を作ります この状態でボイスコイルに電流を流すと、有名なフレミングの法則に従って、ボイスコイルに力 がかかります。この力により、ボイスコイルと一体になっている振動板(コーン)が、この図で上 下に振動します。この構造のスピーカは、磁石が固定されボイスコイルが動きますので、ダイナ ミック型とよばれています。現代、ほぼすべてのスピーカは、このダイナミック型です。 スピーカの等価回路はどうなっているのでしょうか。以下それについて考えます。スピーカと は電気エネルギを機械的エネルギに変換するものです。この等価回路を考えるとき、直流モータ 図13-2 の等価回路が大いに参考になります。まず、直流モータの等価回路を見ることにします。 に直流モータの等価回路を示します。モータに電源をつなぐとモータが回転しますが、モータが 回転しますと、発電機となって電機子には逆起電圧が発生します。もし、摩擦等の機械的な損失 が全くないとすれば、この逆起電圧と電源電圧が同じになるところまで回転して平衡に達します このときに電機子電流は になります。ここで、モータに負荷をつなぐと回転数が低下し、逆起電 0 圧が低下します。そうすると、電源電圧と逆起電圧の差で電流が流れます。その電流を としま Ia すと、 は電機子の抵抗で消費する電力で、これは熱になります。注目したいのは となる RaIa V Ia R 電力です。この電力は摩擦を無視すれば、モータのトルク×回転数、すなわち機械的エネルギに 一致します。摩擦等の機械的な損失があれば、それらを含めた機械的エネルギとなります。この ようにして、電気エネルギと機械的エネルギの変換が で表されているのがわかります。 図13-2 スピーカも電気エネルギを音という機械的エネルギに変換するものです。ですから のよ 図13-2 うな等価回路となります。ここで、スピーカの等価回路を に示します。 は純粋な電気要 図13-3 L,R 素です。スピーカの場合はコーンが振動することにより、ボイスコイルに逆起電圧が発生します がその逆起電圧です。 × がスピーカの機械的エネルギ、つまり機械的な出力です。 V I V R R -1-

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第13章 オーディオアンプ

この章ではオーディオアンプを取り上げますが、オーディオマニアの人達が製作するような音

質を追及したオーディオアンプではありません。あくまでラジオの音声を聞くための、トランジ

スタラジオ用の小型スピーカをドライブするオーディオアンプです。このようなオーディオアン

プではありますが、電子回路の習得には重要な基本的なものです。

●スピーカについて

。図13-1にスピーカの構造を示します。磁石と磁性体でボイスコイルと直交する磁界を作ります

この状態でボイスコイルに電流を流すと、有名なフレミングの法則に従って、ボイスコイルに力

がかかります。この力により、ボイスコイルと一体になっている振動板(コーン)が、この図で上

下に振動します。この構造のスピーカは、磁石が固定されボイスコイルが動きますので、ダイナ

ミック型とよばれています。現代、ほぼすべてのスピーカは、このダイナミック型です。

スピーカの等価回路はどうなっているのでしょうか。以下それについて考えます。スピーカと

は電気エネルギを機械的エネルギに変換するものです。この等価回路を考えるとき、直流モータ

図13-2の等価回路が大いに参考になります。まず、直流モータの等価回路を見ることにします。

に直流モータの等価回路を示します。モータに電源をつなぐとモータが回転しますが、モータが

回転しますと、発電機となって電機子には逆起電圧が発生します。もし、摩擦等の機械的な損失

。が全くないとすれば、この逆起電圧と電源電圧が同じになるところまで回転して平衡に達します

このときに電機子電流は になります。ここで、モータに負荷をつなぐと回転数が低下し、逆起電0

圧が低下します。そうすると、電源電圧と逆起電圧の差で電流が流れます。その電流を としまIa

すと、 は電機子の抵抗で消費する電力で、これは熱になります。注目したいのは となるRaIa V IaR

電力です。この電力は摩擦を無視すれば、モータのトルク×回転数、すなわち機械的エネルギに

一致します。摩擦等の機械的な損失があれば、それらを含めた機械的エネルギとなります。この

ようにして、電気エネルギと機械的エネルギの変換が で表されているのがわかります。図13-2

スピーカも電気エネルギを音という機械的エネルギに変換するものです。ですから のよ図13-2

うな等価回路となります。ここで、スピーカの等価回路を に示します。 は純粋な電気要図13-3 L,R

。素です。スピーカの場合はコーンが振動することにより、ボイスコイルに逆起電圧が発生します

がその逆起電圧です。 × がスピーカの機械的エネルギ、つまり機械的な出力です。V I VR R

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ここで、理想的な場合を考えます。 を とします。またコーンを振動するのにエネルギを要L,R 0

しないとします。さらに、このスピーカを真空の中に置き、音のエネルギが発生しないものとし

ます。そうすると、逆起電圧と駆動電源の電圧が同じになるようにコーンが振動します。もちろ

ん、そのときは電流 は になります。ここでこのスピーカを空気中に出します。そのときは空気I 0

が負荷となり、コーンが振動しにくくなります。ですから逆起電圧 が より小さくなり、その差V VR

。で電流 が流れ、 × というエネルギが消費されます。このエネルギが音のエネルギになりますI V IR

以上では、コーンを振動するのにエネルギを要しないとしましたが、現実的にはこれは不可能

ですので、 × にはコーンを振動するのに必要なエネルギも含まれます。このエネルギは 終的V IR

には熱となります。さらに、コーンには慣性質量がありますので急には動きませんし、またバネ

のようにエネルギを一時的に蓄積する要素もあります。これらの要素により、 と の位相が違っV VR

てきます。ですから、ボイスコイルのインダクタンス を としても、電流 と電源電圧 の位相がL 0 I V

違ってきます。

。ここで逆起電圧 を、同じ電圧になる電気要素に置き換えます。その回路を に示しますVR 図13-4

は機械的エネルギの出力を表す要素であり、ここに流れる電流×電圧は機械的エネルギの出力Rm

と同じになります。 は一時的にエネルギを溜める要素であり、例えばコーンのバネ要素がこれLm

に相当します。 も同じく一時的にエネルギを溜める要素で、コーンの慣性質量がこれに相当しCm

ます。

結局スピーカの等価回路は のような複雑がものとなります。 は、ある周波数で共振図13-4 Lm,Cm

しますので、この周波数ではスピーカのインピーダンスは大きくなります。このような回路です

から、スピーカのインピーダンスを簡単に表すのは困難です。かつては、共振周波数以上で一番

小さくなるインピーダンスを公称インピーダンスとしていました。今は各メーカーが独自に規定

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しているようです。

今回使用するスピーカを に示します。トランジスタラジオ用の小型スピーカです。イ写真13-1

ンピーダンスは Ωです。この Ωは では、ほぼボイスコイルの抵抗 に相当します。他の要8 8 R図13-4

素はすべてこの値に比べ無視できます。ですから、このスピーカの抵抗をマルチメータの抵抗レ

ンジで測定しても、ほぼ Ωになります。 初にスピーカの等価回路を詳しく述べましたが、何の8

ことはなく、このような小型スピーカではボイスコイルの抵抗 だけになります。逆にいえば、こR

のような小型のスピーカは非常に効率が悪く、ボイスコイルの抵抗 で、ほぼすべてのエネルギをR

消費しています。ですから全機械的エネルギは、スピーカに注入した全エネルギの内のごく僅か

なものになります。さらに音のエネルギは全機械的エネルギのほんの僅かですから、スピーカに

注入したエネルギのごくごく僅かなエネルギを音に変換していることになります。

使用した小型スピーカ写真13-1

図11-17 図12今回のオーディオアンプの検討では、入力信号として トランジスタ自励ミキサーと

の を用いた アンプの組み合わせを代表として使用します。この組み合わせで、音声出力-13 IFT IF

のトリマ(ボリューム)を 大にします。そうすると、 局の検波出力は より となりまC 580mV表12-1

50 290mV 30す。変調度を %として、音声信号のピーク値は になります。ここでは簡単になるように

とします。実効値は√ で割れば求まります。このときの出力インピーダンスは約 Ωとな0mV 2 2.3k

ります。これは、コンデンサ μ を介して抵抗を負荷とし、出力値が半分になる値を出力イン100 F

ピーダンスとして実測した値です。このときにコンデンサ μ を介することが必要です。直接100 F

に抵抗を負荷にすると、 特性に影響を与え、正確な出力インピーダンスが求まりません。AGC

今回用いたスピーカでは の電圧でドライブすれば、静かな家の中では十分な音量になりま0.4V

す。電流ドライブでは です。高級なスピーカでは電圧ドライブが前提ですが、今回のような50mA

小型スピーカでは、電圧ドライブでも電流ドライブでも全く同じ音になります。このときの電力

は × Ω となります。0.28V 0.28V/8 =10mW

以上のことをまとめると となります。今回製作するオーディオアンプは、この図を満た図13-5

すようなゲインであればよいことになります。必要な電圧ゲインは 倍です。しかし、0.4V/0.3V=1.3

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入力の有効電力が × ( × Ω) μ ですので、電力ゲインは μ 倍0.21V 0.21V/ 4 2300 =4.8 W 10mW/4.8 W=2100

必要です。なお、必要な電圧ゲインは 倍と非常に小さいですが、これは 局を聞くときの限界1.3 C

の値です。いろいろな余裕を考慮すると、もっと必要です。

●一石アンプ

一石アンプとしては、電流出力と電圧出力があります。前者はコレクタ共通回路であり、後者

はエミッタフォロアです。以下これらのアンプを検討します。なお、以下で検討する一石アンプ

はゲインが不十分であり、また消費電流が多く実用性が全くありませんので、長期の使用を考慮

していません。あくまで検討用です。ですから、長期の使用を目的とする製作はしないでくださ

い。

・電流出力アンプ(コレクタ共通回路)

でマグネチックイヤホンのドライブ方法を示しました。スピーカのドライブも全く同じ図3-31

です。ここでも も簡単な( )の方法で検討します。この方法ではスピーカに直流電流が流れるこc

とに注意が必要です。その回路を に示します。抵抗 は の信号の出力インピーダン図13-6 図13-5R1

スのために挿入しました。入力信号はオーディオ信号発生器の信号ですが、 の信号と同じ図13-5

値に設定します。 は のバイアス電流をいろいろと変化させるためのものです。使用したトVR1 Tr1

2SC1815 Y hFE 200 VBE=0.75Vランジスタは (ランク )で、直流電流増幅率 は約 のものです。ですから、

として(コレクタ電流が大きいので も大きくなります。)、 を の値で割った電VBE 6-0.75=5.25V VR1

hFE=200 VR流に、 を掛けた値が、ほぼコレクタ電流となります。なお、このコレクタ電流の調整は

の値を 大にしてから、徐々に小さくしていきます。誤って をショートしたり、小さい値に1 VR1

しすぎると、大きなコレクタ電流が流れ非常に危険ですので、注意して を調整する必要がありVR1

ます。

ここでお断りがあります。それはコレクタ電流やエミッタ電圧を、バイアス(直流)にも、信号

(交流)にも使用します。紛らわしいときは明確にしますが、単に「コレクタ電流」や「エミッタ

電圧」としている場合は、どちらの方かを文脈で判断してください。

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まず、コレクタ電流を としたときの波形を に示します。なお、このデータを取ると15mA 図13-7

き、スピーカではピーと大変うるさいので、スピーカの替わりに純抵抗の Ωを接続しています。8

以降でも波形を取るときは、すべて Ωの純抵抗におきかえています。厳密にはスピーカと純抵抗8

では波形が異なるのですが、今回の小型スピーカでは、ほぼ同じ波形になります。コレクタ電流

はこの Ω抵抗の両端の電圧から算出しています。 では Ω抵抗両端の電圧が になるよう8 15mA 8 120mV

に、 を調整します。VR1

(上:コレクタ、下:入力信号)図13-7 コレクタ電流15mA

コレクタ電流が のときの信号のコレクタ電流を求めてみます。ベースに加わる信号は、簡15mA

易ラジオの増幅回路で扱ってきたような小信号ではありませんので、 は一定にはならなくなりhie

。ます(正確には が定義できない)。しかし、だいたいの値は小信号の を用いて計算できますhie hie

15mA re re=26/15=1.7 hfe=170 hie=コレクタ電流が のときの内部エミッタ抵抗 は Ωです。 を用いて、

× Ωとなります。ですから、ベース電流は ( ) となり、求める信号1.7 170=290 0.3/ 2.2+0.29 =0.12mA

のコレクタ電流は × となります。このコレクタ電流に Ωを掛けた × が信0.12 170=20mA 8 8 20=160mV

号のピーク値になります。

ここで を見てみます。プラスの周期では で信号が飽和しています。 Ω両端の直流図13-7 120mV 8

。電圧は、前述したように ですので、コレクタ電圧(直流)は、 から 下がった電圧です120mV 6V 120mV

ですから、プラスの周期では電源電圧の までしか上がることができませんので、 で信号が6V 120mV

飽和してしまうのです。では、マイナスの周期はどうでしょうか。だいたい くらいです。計180mV

算値より少し大きくなっていますが、これは が大きく変わるためです。ちなみに としてhie hie=0

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計算すると、信号のピーク値は となり、実測値に近くなります。185mV

次にコレクタ電流を に上げてみます。 Ω両端の直流電圧は、 になりますので、プラ25mA 8 200mV

スの周期での飽和はなくなるはずです。このときの波形を に示します。確かに の歪図13-8 図13-7

みはなくなっています。また、プラスとマイナスの振幅がほとんど同じになっているのがわかり

ます。プラスとマイナスでは が大きく変わるのに、それらの振幅がほとんど同じなのはなぜでhie

しょうか。それは に比べ、入力に挿入している抵抗 が大きいからです。つまりトランジスタhie R1

図3を、ほぼ定電流でドライブしているからです。大振幅の信号で の変化を受けない回路としてre

を紹介しましたが、このように定電流に近いドライブをしても、大振幅の信号で の変化を受-35 re

けない回路となるのがわかります。ちなみに出力信号の振幅は、 として計算した に近hie=0 185mV

い値になっています。 として計算するのは、定電流として計算していることです。またこれhie=0

は、 の説明で が に比べ無視できるときの式を示しましたが、この式で計算してい図3-43 re Ri/hfe

ることにもなります。

(上:コレクタ、下:入力信号)図13-8 コレクタ電流25mA

ではコレクタ電流を に上げてみるとどうなるでしょうか。その波形を に示します。50mA 図13-9

とほとんど変わらないのがわかります。つまり、ほぼ定電流のドライブになっていますの図13-8

で、 変化の影響がないのがわかります。ただ少々わかりずらいのですが、 では よre 図13-9 図13-8

りも出力の振幅が小さくなっています。これはコレクタ電流が ~ になってくると、トラン40 50mA

ジスタ の が低下し始めるからです。2SC1815 hfe

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(上:コレクタ、下:入力信号)図13-9 コレクタ電流50mA

ここで の条件で、実際にミキサーと アンプ(以降ラジオ信号とします。)、およびスピ図13-8 IF

ーカをつないで音声を聞いてみます。 の入力インピーダンスは低いので、 アンプの出力図13-6 IF

トリマを 大にすると、検波回路の平滑回路が十分に動作できず、 信号がスピーカに漏れてきIF

ます。ですから アンプの出力トリマを少しだけ絞りました。結果ですが、まあまあ聞こえますIF

が、やはり音が小さすぎます。真夜中に静かな部屋では聞くことができるといったところでしょ

うか。

の回路でもう少し大きい音にするにはどうすればよいでしょうか。 の大きいトランジ図13-6 hfe

スタを使うのも一つの方法です。しかし、この方法ではコレクタ電流(直流)をもっと大きくする

必要がでてきます。スピーカにもこの電流を流しているので、これ以上コレクタ電流を大きくし

たくはありません。さらに で を大きくすると、 が大きくなり内部エミッタ抵抗の影図13-6 hfe hie

響がでてきます。そこで、出力トランスを用いて、もう少し大きい音にしてみます。出力トラン

スを用いると、スピーカに直流が流れませんし、コレクタ電流(直流)も小さく、かつ音を大きく

することができます。

に出力トランスを用いた回路を示します。用いた出力トランス の直流抵抗(1次の図13-10 ST-32

30 15mA赤白間)は Ωです。この間の電圧でコレクタ電流を調整します。 にコレクタ電流を図13-11

450mV 8流したときの波形を示します。出力トランス赤白間の電圧は です。この波形もスピーカを

Ωの純抵抗に替えています。この波形は歪みが発生しない範囲で、 大の振幅になるように入力

を調整したものです。ラジオ信号では出力を小さくすると、出力インピーダンスが小さくなるの

ですが、ここでは を一定にしています。R1

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(上: Ω両端、下:入力信号)図13-11 コレクタ電流15mA 8

のときのトランスの 次側、すなわち のコレクタ信号は約 になります。 の図13-11 図13-111 Tr1 3V

出力は約 ですから、トランスの巻き数比 を掛けて、 のコレクタ信号は × にな0.45V 6 Tr1 0.45 6=2.7V

るはずですが、実測はこのように少し大きくなります。これはトランス 次の抵抗分のためと思わ1

れます。 のコレクタ電圧(直流)は、前述したように から 下がったところです。 の信Tr1 6V 450mV Tr1

号のコレクタ電圧はこの点を中心にして、約± で振れていることになります。 と違いコ3V 図13-6

3V+0.イルが負荷ですから、電源電圧より大きく振れることになります。ただ、マイナスの振幅は

ですから、あと で になってしまいます。トランジスタの の 低値を とすれ45V=3.45V 2.55V 0V VBE 1V

ば、あと の余裕があるだけです。ですから の出力は、あと僅かしか大きくできない1.55V 図13-11

ことがわかります。このようにトランスを用いると出力を大きくできるのですが、 次の電圧が高1

くなる分、電源電圧も大きくする必要があるのがわかります。実はこのために、 では中間図13-10

1 5V 2 5V/12=0.4タップを用いています。もし、中間タップを用いないと、 次で に振れても、 次では

しか振れないことになってしまいます。2V

Tr1 3V Tr1 hieの信号のコレクタ電圧の実測は約 と述べましたが、これを計算で求めてみます。 の

を無視して、ベース電流は Ω です。 は の入力信号です。 Ωをトラ0.22V/2.2k =0.1mA 0.22V 8図13-11

1 8 6 6=290 hfe 0.1ンスの 次に換算すると Ω× × Ωですので、ベース電流× にこの抵抗を掛けた値、

× × が のコレクタ電圧になります。実測の に比べ随分大きくなりました。この170 0.29=4.9V Tr1 3V

理由はトランスの 次のインダクタンスが十分大きくないからです。 をみると、入力と出1 図13-11

力の位相が完全に °でないのですが、これはトランスの 次のインダクタンスが十分大きくな180 1

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いことの証拠でもあります。なお、トランスの 次のインダクタンスが十分大きくない理由は、ト1

ランスに流している直流電流が大きいため、トランスの磁性体が磁気飽和を起こしインダクタン

スが小さくなっているためと思われます。

では 流しましたが、これより少なくするとプラスの周期で歪みが発生します。では、図13-11 15mA

大きくするとどうなるでしょうか。単純には、もう少し大きな入力にでき、したがってより大き

な出力が得られそうですが、実際は逆にこのままの入力でも歪んできます。トランスに流す直流

電流をこれ以上大きくすると、トランスの磁性体が磁気飽和を起こしインダクタンスが小さくな

る効果がさらに大きくなってしまうからです。ですから の条件がもっとも大きな出力が得図13-11

られる条件です。

ここで、実際にラジオ信号をつなぎ音声を聞いてみます。 より電圧ゲインが約 倍あり図13-11 2

ますので、 の条件を十分満たしています。ですから、静かな家の中では十分な音量のラジ図13-5

。オになります。ただ、これは私の感覚ですので、十分ではないと感じる人がいるかもしれません

・電圧出力アンプ(エミッタフォロア)

では、必要な電圧ゲインは小さく、主に電力ゲインが必要です。ですから電圧ゲインが図13-5

ほぼ のエミッタフォロアでも、電力ゲインがありますので のアンプとして使用できます。1 図13-5

以下、一石のエミッタフォロアを検討します。

電流出力アンプでスピーカをドライブする方法は でした。エミッタフォロアでも同じ方図3-31

法があります。 にその方法を示します。今回はより簡単な( )の方法で検討します。ただ図13-12 b

し、この方法は 変化の影響を強く受けますので、あくまで検討用です。VBE

に検討した回路を示します。 で Ω両端の電圧を調整してコレクタ電流を変化させま図13-13 VR1 8

、す。 とは逆で、 を Ωにしてから徐々に大きくしてコレクタ電流の調整をします。なお図13-6 VR1 0

、 はもう少し小さい方がベース電圧が安定してよいのですが、そうすると入力信号に、よりR2 VR1

影響を与えますので、この定数にしています。

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に のコレクタ電流を流したときの波形を示します。このときのエミッタ電圧(直流)図13-14 8mA

は です。ですから、 ではマイナスの周期で、だいたいこのくらいの電圧で飽和してい64mV 図13-13

ます。この飽和しているところは、 になっています。0V

(上: Ω両端、下:入力信号)図13-14 コレクタ電流8mA 8

以上の飽和はコレクタ電流をもっと流せばなくなります。 に 流したときの波形を示図13-15 20mA

します。確かに歪みはなくなっています。ただ、エミッタフォロアは電圧ゲインがほぼ ですが、1

随分出力が小さくなっています。この原因を考えます。 Ωには の信号電流が流れて8 100mV/8=12mA

います。このとき として のベース電流が流れています。ですから、 のhfe=170 12mA/170=0.07mA R1

2.2k 0.07mA=150mV 300mV-150両端には Ω× の電圧降下が発生しています。このためにベース電圧は

になってしまいます。 の出力はこれよりさらに小さいですが、これは にも電mV=150mV VR1図13-15

流が流れてしまうからです。

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(上: Ω両端、下:入力信号)図13-15 コレクタ電流20mA 8

の出力では、スピーカから確かに音が出ますが、さすがに小さすぎます。 の出図13-15 図13-15

力が小さくなる原因はベース電流が無視できないからでした。そこでトランジスタをダーリント

ン接続にして を大きくし、ベース電流を小さくしてみます。その回路を に示します。hfe 図13-16

ベース電流が小さくなるので、 を大きくしています。なお、この回路の の調整は必ず ΩにR2 VR1 0

してから、徐々に大きくしてください。 が大きくなりすぎると大電流が流れ危険ですので、十VR1

分注意してください。さらにトランジスタが温まると電流も増えますので、実験は短時間で終了

してください。

Tr2 40mA R1図13-16 図13-17の回路で のコレクタ電流を にしたときの波形を に示します。これでも

の電圧降下や への電流がありますので、出力は入力信号よりは小さくなってしまいます。しかVR1

し、 に比べ出力が約 倍になります。この出力は電流出力アンプの とほぼ同じです図13-15 図13-82

ので、音量もほぼ同じになります。

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(上: Ω両端、下:入力信号)図13-17 Tr2コレクタ電流40mA 8

ところで、電流出力アンプでは のように出力トランスを用いて出力を大きくすることが図13-10

できました。電圧出力であるエミッタフォロアでも出力トランスを用いて出力を大きくすること

ができるでしょうか。その回路を に示します。トランスの直流抵抗が小さいためエミッタ図13-18

R4,C2 Ro Ro=rに直接は接続できませんので が必要です。エミッタフォロアの出力インピーダンス は

でしたから、スピーカのインピーダンス Ωが、この出力インピーダンスと同じになる巻e+R1/hfe 8

re Ro=2.き数比にすれば 大の出力が得られます。実際の回路である の場合、 は無視して、図13-13

Ω Ωです。この値は、ほぼスピーカの Ωですから、このようにトランスを使用しても2k /170=13 8

出力は大きくはなりません。では、もし がもっと小さかったならトランス使用で出力を大きくRo

できるかといえば、現実的には、あまり期待できません。それはトランスでスピーカのインピー

ダンスを下げることになるのですが、そうすると、トランスの抵抗も無視できなくなってくるか

らです。

●ニ石アンプ

一石アンプでは電圧ゲインがやはり不足でした。そこでトランジスタをもう一つ追加してニ石

アンプにしたいと思います。これには 終のスピーカをドライブする回路を電流出力にするか、

電圧出力にするかで、いろいろな形式が考えられます。まず、電流出力にした場合を に示図13-19

します。( )は電流出力で、( )は電圧出力で 終トランジスタをドライブする方法です。( )は二a b a

つのトランジスタが共に電流出力になっており 適な方法です。( )は入力信号の出力インピーダb

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ンスを小さくしてから、電流出力アンプをドライブする方法です。これでも電圧ゲインを大きく

できます。しかし、 終のトランジスタを定電流ドライブしなくなりますので、歪みが大きくな

ります。つまり 終のトランジスタを小さい出力インピーダンスの信号でドライブすることにな

り、 終のトランジスタの内部エミッタ抵抗 の影響を受けやすくなります。この( )の回路は図re b

において、 にダーリントン接続したトランジスタを使用したものと同じものです。13-6 Tr1

には 終のトランジスタを電圧出力にしたときを示します。( )はまず信号の電圧を大図13-20 a

きくしてからエミッタフォロアをドライブする方法であり、これも 適な方法です。( )はエミッb

タフォロアのみですから電圧ゲインを大きくできません。この回路は と同じものです。図13-16

以上、ニ石にするには と の方法があるのがわかりました。ただし、出力を図13-19(a) 図13-20(a)

大きくするには 終のトランジスタのコレクタ電流(直流)も大きくする必要があります。どちら

、の回路もこの電流がスピーカに流れますので、この電流は大きくしたくはありません。ところが

図13-19(a) 図13では出力トランスを使用して、この電流を抑えることができます。ですから今回は

のみを実際に検討したいと思います。-19(a)

の構成の具体的な例を に示します。 の出力トランスを用いたものより、図13-19(a) 図13-21 図13-10

より大きな出力にしたいので、出力トランスを巻き数比の小さな に変更しています。この回ST-45

路では電圧ゲインが大きくなるので、ラジオ信号をつなぐときは アンプの出力を下げることにIF

なりますが、このときはラジオ信号の出力インピーダンスも下がります。ですから は Ωと小R1 470

さくしています。 の赤緑間の直流抵抗は Ωです。この抵抗を利用して、 の赤緑間のST-45 17 ST-45

電圧により、 のコレクタ電流(直流)を調整します。 には約 のコレクタ電流(直流)を流Tr2 Tr1 1.1mA

しています。ですから、 両端の電圧は約 になっています。 は電流が大きくなりますのでR4 2.5V Tr2

に変更しています。 の 大コレクタ電流は ですが、 は であり、2SC2001 2SC1815 150mA 2SC2001 700mA

くらいのコレクタ電流(直流)では の低下はありません。用いた の です。な50mA hfe 2SC2001 hFE=180

お、この回路も検討のみの回路であり、長期使用時の安定性を考慮していませんので、長期使用

を目的とした製作はしないでください。

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(上: Ω両端、下:入力信号)図13-22 コレクタ電流45mA 8

に のコレクタ電流を 流したときの波形を示します。入力信号にはノイズが目立図13-22 Tr2 45mA

ちますが、これはレンジが低い電圧のために発生するオシロスコープのノイズであり、信号源の

ノイズではありません。ところで、 では ぐらいの直流電流でトランスの磁性体が磁気図13-10 20mA

飽和を起こしましたが、 では巻き数が小さいらしく、この電流でもこの磁気飽和はありませSt-45

ん。ただし、インダクタンスは多少は小さくなっているものと思われます。

出力を見ると、あまり歪みが目立ちません。 は大信号でドライブされていますから歪みが出Tr2

そうですが、なぜこんなに歪みが小さいのでしょうか。そこで のベース電圧波形を見てみます。Tr2

Tr1 Tr2 Tr2 Tr図13-23に のコレクタ波形、 のコレクタ波形を示します。この図から、 のベース波形(

のコレクタ波形)は随分歪んでいるのがわかります。以下この理由を考えます。 の出力は電流1 Tr1

ですが、この電流はすべて のベースに流れます。 の入力抵抗に比べ は非常に大きいのでTr2 Tr2 R4

無視できて、 の出力電流は、ほぼすべて のベースに流れるからです。 の入力抵抗( にTr1 Tr2 Tr2 hie

相当)はコレクタ電流によって大きく変化します。ですから、この図のようにベース電圧は大きく

歪むことになります。電圧はこのように歪んでいますが、電流は歪んでおらず、したがってコレ

クタ電圧波形は歪んでいないのです。

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(上: コレクタ、下: コレクタ)図13-23 各コレクタ波形 Tr2 Tr1

、図13-22から電圧ゲインは 倍になっています。これを計算で求めてみます。まず600mV/10mV=60

Tr1 hie Tr1 4k 10のコレクタ電流(信号)を求めます。 ( は小信号)は Ωです。ですから、ベース電流は

Ω μ です。これに を掛けた が求めるコレクタ電流となります。このmV/4.47k =2.2 A hfe=170 0.37mA

Tr2 8 1 120 Tr2 hfe=15電流がすべて のベース電流になるとします。 Ωを 次に換算して Ωですから、 の

すると、コレクタ電圧は × × となります。 Ω両端では です。実0 0.37 150 0.12=6.7V 8 6.7/3.9=1.7V

に計算では電圧ゲインは 倍となってしまいます。実測では 倍ですから随分大きくな1700/10=170 60

ってしまいました。

計算と実測の違いを以下考えます。

まずコレクタ電圧が計算では ですが、 では約 になっています。ここで随分違って1. 6.7V 3V図13-23

います。これは のインダクタンスが十分大きくないからです。事実、 を見ると位ST-45 図13-23

相が °ではありません。このために のコレクタ電圧は計算よりかなり小さくなると思わ180 Tr2

れます。

のコレクタ電圧 を使用すると、 Ω両端は となるはずですが、実測は2. 3V 8 3000/3.9=770mV図13-23

より です。これは でも同じことが起こりましたが、トランスの抵抗分が原図13-22 図13-10600mV

因と思われます。

のコレクタ電流がすべて のベースに流れるとしましたが、多少は も影響します。3.Tr1 Tr2 R4

にも入力信号が流れますので、電圧ゲインは小さくなります。4.R2,R3

以上の原因により計算値は実測より大幅に大きくなったと考えられます。

の波形は歪みの起こらない範囲での 大の出力です。 にもっと大きな入力のと図13-22 図13-24

きの波形を示します。このように入力が大きくなると大きな歪が発生します。実は、このような

大きな入力でなくても、入力波形の違いによっても歪みが発生します。 に の信号を図13-25 330Hz

入力したものを示します。これは、トランス の特性が主な原因です。 は方形波を入ST-45 図13-26

力したものです。この歪みもトランスの特性のためです。トランスでは高い周波数で大きなイン

ダクタンスになりますので、このように立ち上がりや立下りが強調されてしまいます。

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(上:出力、下:入力)図13-24 入力が大きくなったときの歪み

(上:出力、下:入力)図13-25 入力330Hzのときの歪み

(上:出力、下:入力)図13-26 入力方形波のときの歪み

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、図13-21の回路は電圧ゲインが実測で 倍ほどありました。実際には 倍もあれば十分ですので60 3

以下では負帰還をかけて電圧ゲインを落とすことにします。逆にいえば電圧ゲインが 倍と十分60

あるので、負帰還をかけられるともいえます。オーディオアンプでは、負帰還はいろいろな特性

を改善するために非常に重要な手段です。

Tr1,Tr2 R5 VR1回路を に示します。 は直結しています。 が負帰還をかけている抵抗です。図13-27

は の直流バイアスをかけるための抵抗です。 ではトランスの極性(・で示される)を全Tr1 図13-21

く気にせずに使いましたが、この回路では負帰還になるように注意する必要があります。 は発C4

振防止用のコンデンサです。電圧ゲインを小さくしますので、 は Ωを使用しています。R1 2.2k

ではコンデンサ で二つのトランジスタを結合しましたが、ここでは直結します。オー図13-21 C3

ディオアンプではこのような直結がよく使用されます。直結すると のバイアスの変動が のTr1 Tr2

Tr2 VR1バイアスに影響を与えます。ですから、 のバイアスを安定化する方法が必要です。それが

で、 のバイアスを のエミッタからかけます。今回は のコレクタ電流を とします。そTr1 Tr2 Tr2 42mA

うすると、 両端電圧は となります。この電圧で をバイアスするわけです。こうすると、R6 1.4V Tr1

Tr2 Tr1 Tr1例えば のコレクタ電流が大きくなると、 のベース電圧が大きくなります。そうすると、

のコレクタ電圧が下がり、 のコレクタ電流が下がります。つまり、 のコレクタ電流の変化Tr2 Tr2

を抑えます。実は、 のコレクタ電圧と のエミッタ電圧は同相ですので、この動作は のTr1 Tr2 図3-3

自己バイアスと同じ動作です。なお、 は信号に対して以上の効果をなくすためのバイパスコンC3

デンサです。 エミッタの出力インピーダンスは小さいので、このように大きい容量が必要です。Tr2

を調整して 両端の電圧を にするのですが、まず、 を にして徐々に大きくします。VR1 R6 1.4V VR1 0

を大きくすると のエミッタ電圧が下がり、よって のコレクタ電圧が上がり のエミッVR1 Tr1 Tr1 Tr2

タ電圧が上がります。ただ、このようになるためには、 の値が 適でなければなりません。例R2

えば の値が大きいと、 のエミッタ電圧は まで上がることができません。ですから、 はR2 Tr2 1.4V R2

のときの のエミッタ電圧が より、ほんの少し小さくなるような値を選ぶ必要がありVR1=0 Tr2 1.4V

ます。さらに、実際に のエミッタ電圧が になったときの の値が Ωより大きくなる必Tr2 1.4V VR1 10k

要があります。 の値が小さいと、入力信号がこの抵抗に流れてしまうからです。図の の定数VR1 R2

では は約 Ωとなります。また、そのときの各部の直流電圧は図の四角で囲んだ値となりまVR1 40k

す。

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次に負帰還についてです。 で正帰還をかけたときの図を示しました。この図では入力と帰図9-1

還信号が+になっていますが、 にすると、負帰還の図になります。出力 は × ( β)と- Vo Vo=Vi A/ 1+A

なりますが、 が十分大きいと = βとなってゲイン に関係がなくなります。ですから、 がA Vo Vi/ A A

歪んでいても、それに関係しなくなりますので歪みが改善されるというわけです。

以上は一般的な議論ですが、ここでは で負帰還の効果を考えます。 は では図13-28 図13-27R1,R2

、 に相当します。出力 の出力インピーダンスは Ωと小さいので無視しています。各電流、R4 R5 vo 8

電圧の方向を図のように決めると以下の関係が得られます。

( )式は大雑把に考えても求まります。 が大きいと入力と が釣り合うところで出力が止ま13-1 A v1

ります。つまり、 × ( )です。これは( )式です。vi=vo R1/ R1+R2 13-1

では、 はどのくらいになるでしょうか。 Ωを 次に換算して Ωですから、 の とA 8 1 120 Tr2 hfe=150

すると、 × Ωとなります。 では計算値と実測では随分ちがいましたのA=150 120/3.9=4.6k 図13-21

で、それを考慮して になるとしても Ωです。一方、 の は Ω、 Ωです1/3 A=1.5k R4,R5 100 220図13-27

から、これらより は十分大きいとしてよいことになります。以上により、 の電圧ゲインA 図13-27

は( ) ( ) 倍となるのがわかります。R4+R5 /R4= 100+220 /100=3.2

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(上: Ω両端、下:入力信号)図13-29 負帰還アンプの波形 8

実際の波形を に示します。図より電圧ゲインは 倍ですから、だいたい計図13-29 600mV/200mV=3

図13-28 図13-算通りです。ところで、電圧ゲインの計算に用いた の は のベース電圧ですが、vi Tr1

29 Tr1の下の波形は入力信号です。これらを同じ値としてよいのでしょうか。実は、負帰還のため

の入力インピーダンスは非常に大きい値になっています。そのために入力信号とベース電圧はほ

ぼ同じとしてよいのです。以下これについて説明します。

より入力インピーダンスを計算すると、以下となります。図13-28

ここで、 、 Ω、 Ω、 Ωを代入すると、入力インピーダンス Ωとhfe=170 A=1.5k R1=100 R2=220 =80k

なり、非常に大きくなるのがわかります。これは負帰還により、 のコレクタ電流(信号)が小さTr1

くなり、よってベース電流が小さくなるためです。

以上、 における の働きについて説明しましたが、 がなぜ必要なのか気になら図13-27 R4,R5 R3,C2

なかったでしょうか。前述したように のバイアスは の自己バイアスと同じものです。でVR1 図3-3

すから、 がなくても、全く問題なく動作します。ただしこの場合、 は ΩぐらいになR3,C2 VR1 150k

りますので、 Ωのトリマに変更が必要です。このバイアスに を追加してエミッタ抵抗の値200k R3

を大きくすると、 の電流帰還バイアスの効果を付け加えられます。そうすると、 の の図3-4 Tr1 hFE

変化に対して、より影響の受けないバイアスとなります。 は信号に対して の負帰還をなくすC3 R3

るためのバイパスコンデンサです。では、 で を Ω、 を Ωにしたらどうでしょうか。R3=0 R4 780 R5 1.5k

これでも負帰還の効果は同じです。しかし、 の は より十分小さい必要があり、この図13-28 R1,R2 A

条件を満たさなくなってしまいます。

図13-21ここで負帰還をかけたことによる歪みの軽減について見ることにします。負帰還のない

ではトランスの特性により、 や の歪みが発生しました。まず、 に の図13-25 図13-26 図13-30 330Hz

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入力のときを示します。確かに歪みがなくなっています。さらに位相が完全に °になっているの0

がわかります。 では複雑な波形を入力しました。これも歪みがなく、完全にトランスの特図13-31

性を吸収しているのがわかります。

の入力(上:出力、下:入力)図13-30 330Hz

(上:出力、下:入力)図13-31 複雑な入力

以上のように、この負帰還のアンプでは歪みが軽減されますので、 のアンプより随分音図13-21

がよくなるはずですが、実際にラジオ音声を聞いてみると、あまり変わりません。これはラジオ

音声では周波数帯域が狭いのと、スピーカが小型で性能が決してよいとはいえないからです。

負帰還アンプはよいことばかりではありません。帰還がかかっていますので発振という問題が

発生します。信号では確かに負帰還ですが、高い周波数では正帰還になってしまう可能性がある

からです。簡易ラジオでの発振はトランジスタ一石で起こる発振でしたが、こちらは複数のトラ

ンジスタ回路で起こる発振です。複数のトランジスタ回路では、位相が変化する箇所が複数個存

在します。ですから、 で示したような発振のメカニズムになります。つまり高い周波数で、図4-2(b)

位相が変化する箇所でのトータルの位相変化が °に達すると発振してしまうわけです。では、180

の回路で、位相が変化する箇所とはどこでしょうか。まずは です。トランジスタ図13-27 Tr1,Tr2

にはミラー効果等のコンデンサが入力に入っていますので、高い周波数では、ここで位相が変化

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します。この二つのみですと、位相変化のトータルが °に達しませんので発振は起こりません。180

もう一つはトランスです。このトランスは、あくまで低周波用です。周波数が高くなると、巻き

線間の容量が効いてきて位相が変化します。ただ、この動作を完全に理解するのは困難です。

以上の三つの個所での位相変化により、 の回路は何も対策しないと約 で強烈に発図13-27 1.4MHz

振します。ただし発振の検討には正式に使用するスピーカを接続しておく必要があります。 Ωの8

純抵抗では発振が弱くなります。このような発振には以下の対策が有効です。

発振している高い周波数でのゲインを下げる。1.

発振している周波数で、位相が進む要素をどこかに付ける。2.

今回の場合は発振周波数が と非常に高いので の方法が簡単です。ということで、発振対1.4MHz 1.

策に付けたものが のコンデンサです。 のインピーダンスは では Ω、 では ΩでC4 C4 1kHz 7.2k 1.4MHz 5

す。ですから音声信号にはほとんど影響を与えずに、 を小さくできるのがわかります。1.4MHz

では、このコンデンサをトランスの 次に換算した μ × × μ を、スピーカに2 0.022 F 3.9 3.9=0.33 F

並列に付けても可能でしょうか。実はこのときには数 で強烈に発振します。これはトラン100kHz

スが完全に密結合でないのが原因です。とにかく低周波トランスは厄介なものです。この原因を

で説明します。( )は低周波での正常な動作を示します。 は確かに逆位相になります。図13-32 a v1,v2

( )は 次に大きな容量のコンデンサを付けたときです。図では、このコンデンサを 次に換算してb 2 1

います。トランスが完全な密結合でないときは、漏れインダクタンス が直列に入ります。周波数L

vc vL 1が高くなると、図のベクトル関係となります。ここで、コンデンサの容量が大きいので と が

°位相が異なること、および周波数が高いとしていますので、 次の電圧 はほぼ と等しくな80 1 v1 vL

ることが重要です。そうすると、正常時には逆相だった が、同相になってしまいます。何と、v1,v2

負帰還の配線が正帰還の配線に変わってしまいます。

後に以上の検討した基板を に示します。なお、この基板で一石、ニ石のすべての回写真13-2

路を検討しました。

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写真13-2 図13-27の検討している基板

●プッシュプルアンプ

前項の一石、ニ石アンプの弱点は出力が小さいのに必要なコレクタ電流が大変大きいことでし

た。コレクタ電流が大きいことは、必要な電力が大きいことです。そこで の回路の各電力図13-10

を求めてみたいと思います。 にこの回路のコレクタ電圧、コレクタ電流を示します。 は図13-33 Io

直流(バイアス)のコレクタ電流であり、 、 は信号の電圧、電流です。vm im

平均の電力は瞬時の電力、つまり瞬時の(電圧×電流)を 周期で積分して、それを 周期で割れ1 1

ば求まります。 の各電力は以下のようになります。図13-33

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、必要な全電力は一定であり、 、つまり音声信号がないときも消費されています。このときim=0

この電力はトランジスタで消費されていて、すべて熱になります。例えば では で図13-10 Ic=15mA

したから、 × が信号がないときもトランジスタで消費されています。厳密には、トラ6V 15mA=90mW

ンスの抵抗でも消費されていますが、ここでは議論を簡単にするためにトランスの直流抵抗を Ω0

としています。前項の一石、ニ石アンプの検討では言及しませんでしたが、このトランジスタの

、消費電力は、使用するトランジスタに規定されるコレクタ損失より小さい必要があります。通常

余裕をみて規定値の半分ぐらいで使用するのが望ましいといえます。ちなみに、 のコレク2SC1815

タ損失は で、 は です。0.4W 2SC2001 0.6W

以上のように、前項で検討した一石、ニ石アンプは音声信号がないときも消費電力が大きいこ

とが大きな問題です。確かに、これらを検討しているときは、常に直流のコレクタ電流を気にし

ていました。出力をさらに大きくしたいときは、この問題は致命的となります。そこで登場する

のがプッシュプルアンプです。なお以降では、プッシュプルアンプを アンプとします。 アンPP PP

プでは信号の正の周期と負の周期を別々のトランジスタでドライブすることにより、信号がない

ときのコレクタ電流を極力なくそうとするものです。ちなみに、この アンプに対して、前項でPP

検討した一石、ニ石アンプはシングルアンプとよばれます。

に を アンプにした回路を示します。トランジスタを 個使用します。この回路図13-34 図13-33 PP 2

では出力の正の周期は によって、負の周期は によって出力されます。このようにするためTr1 Tr2

には、図に示すように、各トランジスタを位相の反転した信号でドライブする必要があります。

このようにトランジスタを 個使用することにより、必要な期間のみトランジスタを動作させます2

ので、信号がないときにはコレクタ電流が にできるわけです。0

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図13ところで、トランジスタは が 以下になると全く電流が流れませんでした。ですからVBE 0.6V

の回路でも、この電圧分のバイアスは必要です。このバイアスを に示します。このよ-34 図13-35

うに、ぎりぎりトランジスタが働くようなバイアスを 級バイアスとよんでいます。ちなみに、今B

まで用いてきた常にトランジスタが能動状態にあるようなバイアスは、 級バイアスとよんでいまA

す。なお、この 級バイアスで、少し電流を大きくしたものは 級とよばれることがあるのですが、B AB

この本ではこれも 級としています。B

今までの 級バイアスで信号が大きくなると、トランジスタの入力インピーダンスとして、小信A

号用の が使用できなくなりました。ですが、例えばゲインの計算には、 を用いて、だいたhie hie

いの目安を得ることができました。しかし、 級になると、いよいよこの計算もできなくなります。B

これは を見れば納得できます。図では、歪みのない出力波形を描いていますが、実際は先図13-35

、端の尖った歪みがでるのは明らかです。このように図の曲線に沿って出力が変わるわけですから

のような線形の計算はできなくなるわけです。あえて を使うとすれば、信号の 大コレクhie hie

タ電流の半分での を使用するという方法もあるでしょうが、かなり実際の値と異なる計算結果hie

になってしまいます。

では、 級バイアスでの、例えば電圧ゲインはどう計算すればよいのでしょうか。それは、回路B

をこの計算がし易いように構成するばよいということになります。少々妙な論理ですが、電圧ゲ

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インの計算ができないような回路は非常に歪みが大きいことを意味しています。ですから、定電

流ドライブとか、エミッタに小さな抵抗を入れて、極力、 の曲線の影響をなくす回路にす図13-35

るべきなのです。こうすれば波形歪みが少なくなり、結果として電圧ゲイン等の計算も簡単にで

きるようになります。

の 級バイアスをした回路を に示します。トランジスタの書き方を変えています図13-34 図13-36B

ので、 とは違うイメージですが全く同じものです。この図の が 級バイアスを与えるダ図13-34 D1 B

イオードです。このダイオードの両端電圧は くらいなので、ちょうど を 級バイアス0.6V Tr1,Tr2 B

できるわけです。さらに の は温度で変化しますが、ダイオードも同じ変化をしますのTr1,Tr2 VBE

で、ちょうど打ち消すことができます。ここではダイオードを使っていますが、このダイオード

図11-26の替わりにコレクタとベースを接続したトランジスタ(ダイオードになる。)を考えると、

( )で示したカレントミラーになっているのがわかります。つまり、 に流す電流とほぼ同じコレb D1

Tr1,Tr2 R1 D1クタ電流が に流れるのがわかります。また、 には大きな電圧がかかっていますので、

D1 Tr1,Tr2の順方向電圧が温度で変化しても、 の電流はあまり変化しません。これは温度によって

のバイアス電流(コレクタ電流)もあまり変化しないことを意味しています。なお、このように 級B

バイアスをしたときに流れるトランジスタのバイアス電流は、アイドリング電流とよばれます。

どのくらいのアイドリング電流を流すかは、ある歪みの発生に関わってきますので重要な事柄で

すが、これは具体的な アンプの製作で説明します。PP

の は位相反転させた信号を作り出すものです。このようにトランスを用いると位相反図13-36 T1

転が容易にできます。逆にトランスを用いないと位相反転をするのが非常に困難になります。一

度どうすればよいか考えてみたらいかがでしょうか。容易でないのがすぐにわかると思います。

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の のコレクタ電圧とコレクタ電流を に示します。ここでは簡単にするために図13-36 図13-37Tr1

アイドリング電流を にしています。この図を用いて各電力を求めたものを以下に示します。これ0

らは の電力であり、全体の電力は 倍になることに注意が必要です。Tr1 2

im=0 0 0シングルアンプと比べ も重要なことは、 、すなわち信号の電流が のときは、全電力が

0になるということです。ただし厳密にはアイドリング電流が流れていますので、実際には完全に

、にはなりません。もう一つ注意していただきたいのは、トランジスタの消費電力です。もちろん

のときは です。注意が必要なのは、ある で 大になるということです。その と、そのとim=0 0 im im

きの 大のトランジスタの消費電力は以下となります。

の アンプでは出力にトランスが必要でした。低周波トランスは何かと厄介なものです図13-36 PP

ので、トランスを必要としない回路が欲しくなります。その回路を に示します。スピーカ図13-38

PPの一端はグラウンドに接続され、シングルエンドの出力になるので、シングルエンディッド・

SEPP OTLアンプとよばれます。以降 アンプとよぶことにします。出力トランスを使用しないので、

(アウトプットトランスレス)回路ともよばれます。

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この回路ではコンデンサ の両端電圧が電源になります。ですから、その電圧は になるよC1 Vcc/2

うにする必要があります。また、十分大きな容量が必要です。そのときの各トランジスタの動作

電源は のようになります。ここで、 の電源は の両端電圧であり、 は元の電源で図13-39 Vcc/2 C1 Vcc

す。( )は( )と全く同じ回路となります。一見すると、 と の動作は違うように見えるのでb a Tr1 Tr2

すが、このように全く同じ動作をします。 で アンプの各電力を計算しましたが、同じ計図13-37 PP

算をこの回路で行うとすれば、電源電圧として を使う必要があります。Vcc/2

の アンプでは、依然として各トランジスタを位相反転した信号でドライブする必要図13-38 SEPP

があります。出力トランスを不要にしたのですから、この反転に のようなトランスを使用図13-36

したくはありません。ですから、反転を必要としない回路が欲しくなります。幸いにしてトラン

、ジスタには と という二つのタイプがあります。この二つのタイプをうまく組み合わせるとNPN PNP

位相反転した信号の不要な回路を構成することができます。その回路を に示します。各特図13-40

性がほぼ同じで、タイプの違うトランジスタをコンプリメンタリー(相補)トランジスタとよびま

すので、これらの回路はコンプリメンタリー アンプとよばれます。この本では単に アンSEPP SEPP

プとよぶことにします。

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( )は電圧出力、つまりエミッタフォロアでスピーカをドライブするものです。入力信号の正のa

周期では が、負の周期では が動作します。一方、( )は電流出力、つまりエミッタ共通回路Tr1 Tr2 b

でスピーカをドライブします。入力信号の正の周期では が、負の周期では が動作します。Tr2 Tr1

ところで( )の回路は、 のエミッタ抵抗を トランジスタに置きかえたものと考えるこa PNP図13-12(a)

とができます。ですから、出力のコンデンサは のようにトランジスタの動作電源と考える図13-39

必要はありません。

a Tr1 Vここで、両方式での 大出力電圧を考えます。まず( )の正の出力ですが、 のベース電圧が

になったときに 大になり、 となります。このときの は、コレクタ電流が大きいのcc Vcc-VBE VBE

で ぐらいになります。ですから、正の 大出力は より ぐらい小さくなります。ただし実際1V Vcc 1V

の回路では、ベース電圧を にまで上げることはできず、 ぐらいまでしか上げることがでVcc Vcc-1V

きません。結局 より くらい下がったところが正の 大出力となります。以上は正の出力で考Vcc 2V

えましたが、負の出力でも同様です。ですから、( )の出力は正では くらいまでしか上がa Vcc-2.0V

2.0V Vcc=6V 2.0V 4.0Vらず、負では くらいまでしか下がらないことになります。例えば の出力は ~

くらいになります。 が中心ですので、 が出力信号のピーク値になります。3V 1.0V

一方( )の 大出力はどうなるでしょうか。( )の正の 大出力は のベース電圧が下がったとb b Tr1

きに得られます。ですから( )と違い、十分 をドライブすることができます。このとき、 のa Tr1 Tr1

は 飽和電圧という電圧まで小さくなることができます。この 飽和電圧は ~ といVCE VCE VCE 0.1V 0.2V

う非常に小さい電圧です。 に十分ベース電流を流すと、コレクタにプラスの、ベースにマイナTr1

スの電荷が蓄積され、コレクタ電圧がベース電圧よりも高くなる現象が起こります。この現象の

ために、 の は ~ という小さな値になることができるのです。( )の ではベースTr1 VCB 0.1V 0.2V a Tr1

電圧が になったとき、コレクタとベースが同じ電位ですので、決してこの現象は起こりません。Vcc

なお、 が働く負の出力でも同様に、 の は 飽和電圧である ~ という非常に小Tr2 Tr2 VCE VCE 0.1V 0.2V

さい値まで下がることができます。以上のように( )の出力は、ほぼ から電源電圧まで動作できb 0V

るのです。ちなみに アンプで「レール・ツー・レール」とよばれる、ほぼ から電源電圧までOP 0V

動作できるタイプは、大抵はこの( )の構成になっています。b

以上述べたように電源電圧の利用度という点では圧倒的に( )が有利ですが、実際の回路を構成b

するのは非常にむずかしくなります。以下、このことについて説明します。 では 級バイ図13-40 B

図13-アスを考えていませんので、 級バイアスを考えることにします。まず( )の回路からです。B a

に 級バイアスをかけたものを示します。41 B

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が に 級バイアスをかけるダイオードです。 と同じように、これらのダイD1,D2 Tr1,Tr2 B 図13-36

オードをコレクタとベースを接続したトランジスタで置きかえると、 と はカレントD1,D2 Tr1,Tr2

ミラーと考えることができます。ですから、図の と はほぼ同じ電流であり、さらに温度変I0 I1,I2

I1 I2 I1=化も補償されることがわかります。ここで、 と が同じになる必要があるのですが、これは

になるように のエミッタ電圧が自動的に上下します。例えば が大きいときはエミッタI2 Tr1,Tr2 I1

電圧が上がり、よって が小さく が大きくなるように働き、必ず になります。また、出力I1 I2 I1=I2

であるエミッタ電圧は になる必要があるのですが、これは の調整により容易に実現できまVcc/2 R1

す。この は の と同じ働きです。この の回路は、ほぼ実際の回路です。このよR1 VR1図13-27 図13-41

うに の回路は電源電圧の利用度が悪いのですが、実現は実に簡単です。図13-40(a)

次に の回路に 級バイアスをかけた回路の一例を に示します。 、 が 級バ図13-40(b) 図13-42B D1 D2 B

イアスをかけるダイオードです。この回路もカレントミラーと考えることができます。 はTr3,TR4

一見すると の回路のようですが、エミッタを で固定していますのでエミッタ共通回図13-41 Vcc/2

D3,D4 Tr3,Tr4 I0 I3,路になります。この と もカレントミラーと考えることができます。ですから と

さらに は、ほぼ同じ電流ですので、 のアイドリング電流である は で調整でI4 I1,I2 Tr1,Tr2 I1,I2 I0

きるのがわかります。

この回路の動作ですが、例えば信号の正の周期では、 がエミッタ共通回路として働きます。Tr3

もちろん、このとき は動作しません。その のコレクタ電流(信号)で のカレントミラTr4 Tr3 D1,Tr1

ー回路をドライブしますので、 のコレクタ電流が のコレクタ電流となります。つまり はTr3 Tr1 Tr1

電流増幅していないことになります。

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以上のように で基本動作はしますが、問題点がいろいろとあり、実際に動作する回路に図13-42

するのは非常に困難です。その問題点を以下に列挙します。

1.I0 I3 I1 I1 I0 I1 I0 I4 I2→ → とニ段階で を制御するので、 と がかなり違ってしまいます。また → →

も同じですから、 終の と がかなり違ってしまいます。ですから、 と を同じにするたI1 I2 I1 I2

めの制御ループが必要ですが、これがなかなか大変です。

出力を に制御するループも必要ですが、これもなかなか大変です。2. Vcc/2

はカレントミラーですので、このままでは の を 飽和電圧にできません。ですか3.D1,Tr1 Tr1 VCE VCE

ら に直列に抵抗を入れるなどして、大きいドライブ電流では の を 飽和電圧になるよD1 Tr1 VCE VCE

うにしないと、この構成にした意味がなくなります。しかし、こうすると と のバランスがI3 I1

くずれてしまいます。

のために の電源が必要ですが、これを作るのも大変です。4.Tr3,Tr4 Vcc/2

図13-42 図13-36 図13-以降では、 の構成は断念して、 の出力トランスを用いた アンプ、およびPP

の アンプを具体的に製作します。一石、ニ石のシングルアンプでは実用性がなく、あくま41 SEPP

で検討用として製作したのですが、以降で製作する アンプは長期使用を目的としたものになりPP

ます。

●出力トランスを用いたPPアンプ

に出力トランスを用いた アンプの基本構成を示しましたが、ここではこの アンプを図13-36 PP PP

実際に製作します。かつての 石スーパーラジオでは、ほとんどこの構成の アンプが使われてい6 PP

ました。いわば古典的な回路です。実際に製作したものを に、その回路図を に示写真13-3 図13-43

します。以降で製作するアンプも同様ですが、前章で製作した アンプに接続できるようにコネIF

。クタを付けています。 は の に相当するもので、トランジスタによるダイオードですTr2 D1図13-36

ですから と 、 はカレントミラーとなります。かつては、ここにバリスターという、このTr2 Tr3 Tr4

回路専用のダイオードが使われていましたが、このバリスターの入手は困難です。しかし、トラ

ンジスタが安価になった今では、なにもバリスターを使用しなくてもトランジスタを使用すれば

よいわけです。なんといっても、 のアイドリング電流の温度補償には同じトランジスタをTr3,Tr4

使うのがベストです。 ~ はアイドリング電流安定用であり、後で説明します。 はドライバR6 R8 Tr1

トランス のドライブ用です。この回路では電圧ゲインが高すぎますので、 にバイパスコンST-23 R4

デンサを付けていません。もっと電圧ゲインを高くしたいなら、ここにバイパスコンデンサを付

けてください。 の大電流によって電源電圧が変動する可能性がありますが、 はこのTr3,Tr4 R1,C1

電源電圧変動による電圧帰還を防止するフィルタです。念のために付けたもので、必ず必要なも

のではありません。

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写真13-3 製作したトランス式PPアンプ

のアイドリング電流について説明します。 によって のダイオードに電流を流しまTr3,Tr4 R5 Tr2

すが、この電流は の順方向電圧を として、( ) Ω となります。実際にTr2 0.65V 6V-0.65V /10k =0.54mA

両端の実測電圧は ですので、 Ω となります。 は とカレントミR6 5.3mV 5.3mV/10 =0.53mA Tr3,Tr4 Tr2

ラー回路となっていますので、 のコレクタ電流もほぼ同じとなります。実測では 両Tr3,Tr4 R7,R8

端電圧が、 、 ですので、確かにこのようになっています。 はこのようにカ5.6mV 5.3mV Tr2,Tr3,Tr4

、レントミラーとなっていますので、極力密着して配置する必要があります。密着して配置すると

例えば が発熱しても も同じ温度になりますので、 のアイドリング電流が異常に大きくなTr3 Tr2 Tr3

ることがありません。

もし が全く同じトランジスタで、かつ完全に密着されていれば、エミッタに入れたTr2,Tr3,Tr4

抵抗 は不要です。ですが実際には、各トランジスタの 特性が多少なりとも違いまR6,R7,R8 VBE-Ic

すし、また温度も違ってきます。そうするとコレクタ電流に差が生じますが、これらの抵抗によ

り、この差を小さく抑えることができます。例えば のコレクタ電流だけが異常に大きかったとTr3

します。そうすると、 両端の電圧も大きくなりなりますが、これはベース電流を減らし、よっR8

てコレクタ電流を減らすように働きます。ところで、この回路では電流が小さいので、まず起こ

らないのですが、トランジスタの熱暴走という現象があります。これは例えば、 のコレクタ電Tr3

流→ が温まる→ の が大きくなる→コレクタ電流が増す→ がますます温まる、といっTr3 Tr3 hFE Tr3

た正帰還で が異常に発熱して壊れる現象です。この回路のように があると、この現象も抑えTr3 R8

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られます。この抵抗は大きい程、以上の効果が大きくなりますが、ここでの電圧降下の分だけ信

号電圧が小さくなりますので、むやみに大きくできません。

に示す の入力信号をつないだときの出力波形を に示します。 と同じ図13-43 図13-44 図13-211kHz

く、このアンプの電圧ゲインは大きいので、入力信号の出力インピーダンス は ΩにしていまRo 470

す。 には、このときの と のコレクタ電圧波形を示します。 は半分の周期しか働図13-45 Tr1 Tr3 Tr3

いていないので、 のコレクタ電圧波形は半波整流のような波形になるのではと思ってしまいまTr3

すが、トランスで のコレクタと結合しているので、このような全波の波形となります。 のTr4 Tr3

コレクタ電圧(ピーク値)は約 ですので、だいたい、これくらいが 大の出力です。4V

(上: Ω両端、下:入力信号)図13-44 出力波形 8

各コレクタ電圧波形(上: 、下: )図13-45 Tr3 Tr1

950mV/110mV=8.6 Tr1図13-44より電圧ゲインは 倍になります。これを計算で求めてみます。まず

のコレクタ電流(信号)を求めます。 の入力インピーダンスは高いので、ベース電圧はほぼ入力Tr1

R4 Tr1 110m信号電圧です。このベース電圧が、ほぼ の両端電圧になりますので、 のコレクタ電流は

Ω となります。ちなみに直流のコレクタ電流は、この電流より十分大きい に設V/1k =0.11mA 0.7mA

定しています。このコレクタ電流がトランス を介して、 のベース電流になります。ですT1 Tr3,Tr4

から、 を歪みの小さくなる定電流ドライブをしていることになります。 は同じ回Tr3,Tr4 Tr3,Tr4

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Tr3 Tr3 8 3.9 3.9=120 Tr3路ですので、ここでは で考えます。 のコレクタ抵抗は Ω× × Ωですから、

のコレクタ電圧は × × × Ω となります。ここで× はトランス の巻き数比が0.11mA 2 200 120 =5.3V 2 T1

のためです。また、 は ですが、 級バイアスですので直流の電流増幅率 を使用しま1:0.5 200 hFE B hFE

した。 Ω両端では です。ですから計算での電圧ゲインは 倍となりま8 5.3V/3.9=1.4V 1.4V/110mV=13

す。以上の計算ではトランスでの損失を全く考慮していませんので、このように実測の 倍に比8.6

べ随分大きくなります。なお には、 や のように信号間の位相差が認められ図13-44 図13-11 図13-23

ません。これはトランスに流している直流電流が小さいために、トランスのインダクタンスが低

下することがないためと思われます。

ところで を見ると、 のコレクタ電圧は、上がなまった波形になっています。これは図13-45 Tr1

電流が大きくなると、 の入力抵抗が小さくなるためです。 級バイアスなので、この入力Tr3,Tr4 B

抵抗は非線形の抵抗です。なお、電圧がこのように歪んでいますが、電流は歪んでいないのは、

re=0 Tr3 hFE R8図13-21のときと同じです。ここで、 として の入力インピーダンスを計算すると、 ×

=200 10 =2.0k B hFE Tr1× Ω Ωです。ここでも 級バイアスですので直流の電流増幅率 を使用します。

T1 2 2.0k 2 2=8.0k Tのコレクタの負荷は、トランス の巻き数比の 乗を掛けて、 Ω× × Ωとなります。

のコレクタ電圧は、これにコレクタ電流 を掛けて、 Ω× となります。r1 0.11mA 8.0k 0.11mA=880mV

この計算結果は、だいたい と同じになりましたが、あくまで参考的な計算です 。図13-45 。

以上、アイドリング電流が のときの波形について述べましたが、この電流を小さくすると0.5mA

どうなるでしょうか。 に のドライブ電流を示します。ここで はアイドリング電流で図13-46 Tr3 Id

す。 のベース電流 は図のように流れますが、このとき実際は が小さくなります。ですから、Tr3 ib Id

は より必ず大きい必要があります。 の 大値は前述したように × でしたかId ib ib 0.11mA 2=0.22mA

ら、 はこれより大きくしておかなくてはなりません。Id

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図13-47 アイドリング電流0.1mAのときの出力波形

(上:出力、下:入力信号)

実際に を大きくして を にしたときの出力波形を に示します。このようにアイR5 Id 0.1mA 図13-47

ドリング電流を より小さくすると、ピークが鈍った波形となってしまいます。ですから、0.22mA

では余裕をみて に設定したのです。図13-43 0.5mA

では、 で 、 の直列回路にバイパスコンデンサを付ければよいのでは、と思ってし図13-46 Tr2 R6

まいますが、これはできません。 級バイアスなので、 、 の直列回路には、半波整流のようB Tr2 R6

に一方向の電流しか流れていませんので、バイパスコンデンサには直流電圧が発生してしまいま

す。そして、この直流電圧が信号の強弱で変化するので、正常な動作ができなくなってしまうの

です。このことは、 についてもいえることです。 を大きくしてバイパスコンデンサをR7,R8 R7,R8

付けたくなりますが、これは絶対にできません。

では、 級バイアス電圧を小さくして、アイドリング電流を完全に にするとどうなるでしょうB 0

か。 は Ωのままで、 を Ωに置きかえてみます。こうすると のベース電圧(直R5 10k TR2 470 Tr3,Tr4

流)は約 となります。ですから、アイドリング電流は完全に になります。このときの出力波0.3V 0

形を に示します。このように 級バイアス電圧を小さくすると、当然のことながらトラン図13-48 B

ジスタの動作しないところが発生します。これをクロスオーバ歪みとよんでいます。今回は 級バB

イアスの設定に同じトランジスタを用いましたので、このクロスオーバ歪みは非常に発生しにく

いのですが、 に実際のダイオードを使うときは十分注意する必要があります。Tr2

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(上:出力、下:入力信号)図13-48 クロスオーバ歪み

後に重要な注意があります。今回は検討しやすいように抵抗等に ソケットを使用していまIC

T1 Trす。ですから、部品の接触の信頼性がやや低下しています。 の回路において、 の黒→図13-43

2 Tr2 R6 Tr3,Tr4のベース・コレクタ→ のエミッタ→ →グラウンドの配線の内、どの個所が外れても

に非常に大きいコレクタ電流が流れてしまいます。長期使用をする場合、以上の個所はソケット

の使用は止めて、必ず直接半田付けをするようにお願いします。

●SEPPアンプ

。ここでは の アンプを実際に製作します。実際に製作した回路を に示します図13-41 図13-49SEPP

と比べ、あまり変わったところはありません。 のダイオードはトランジスタによ図13-41 図13-41

るダイオードに置きかえています。これは前項のトランス式 アンプのときと同じです。各トラPP

、ンジスタのエミッタに入れた抵抗 ~ は、トランス式 アンプのときと同じ働きです。ただしR2 R5 PP

のコレクタ電流が大きいので、このように小さい値しか使用できません。スピーカをドラTr4,Tr5

イブするトランジスタは と、そのコンプリメンタリーである にしています。これは2SC2001 2SA952

コレクタ電流(信号)が ~ に達するからです。ヒューズについては後で説明します。100mA 200mA

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まず、アイドリング電流について説明します。 で入力信号がないときの出力電圧( の中VR1 R4,R5

点)を に調整します。そのときの 両端電圧は、 の として、 にな3.0V R1 Tr4 VBE=0.65V 3V-0.65V=2.35V

ります。ですから、 に流れる電流は となります。 と はカレントミTr2,Tr3 2.35V/R1 Tr2,Tr3 Tr4,Tr5

ラーですので、この電流は のアイドリング電流になります。このとき、温度も同じにするTr4,Tr5

ために、 と 、 と を密着させる必要があります。これはトランス式 アンプと同じでTr2 Tr4 Tr3 Tr5 PP

す。

R1=1k Tr4,Tr5 2.35mA R3 4.Ωでは、 のアイドリング電流が計算で となります。実測では 両端電圧は

6mV R5 5.1mV Tr2,Tr3 2.3mA Tr4,Tr5 2.5mA、 両端電圧が ですから、 の電流は 、 のアイドリング電流は

となり、だいたい計算と同じです。このときの出力波形を に示します。このように出力波図13-50

形は歪んだものとなります。 Ωではどうでしょうか。このときの のアイドリング電R1=470 Tr4,Tr5

流は計算で です。実測では の電流は 、 のアイドリング電流は とで4.6mA Tr2,Tr3 5.0mA Tr4,Tr5 5.6mA

した。このときの出力波形を に示します。多少歪みは改善されました。図13-51

(上: Ω両端、下:入力信号)図13-50 R1=1kΩのときの出力波形 8

(上: Ω両端、下:入力信号)図13-51 R1=470Ωのときの出力波形 8

、図13-51の電圧ゲインは略 倍です。これを計算してみます。 は小信号とみなして1V/35mV=29 Tr1

hie=0.88k re=26/5=5.2 hfe=170 =35mV/ 470+880 8Ωです。 Ω、 として計算しました。ベース電圧 ( )×

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で、コレクタ電圧は × となります。ただし、これは のベース電流を80=23mV 23mV 470/5.2=2.1V Tr4

考えていないときです。つまり、 の が無限大であればこうなります。 はエミッタフォロTr4 hFE Tr4

アなので、入力インピーダンスは Ω× として大きな誤差にはなりません。ただし、 Ωはス10 hFE 10

ピーカの Ω です。厳密には 級バイアスで動作しているので正確ではありませんが、エミッタ8 +R4 B

フォロアの場合 変化の影響は少ないので、このように考えても大きな誤差になりません。使用VBE

した の は ですので、入力インピーダンスは Ωとなります。そうすると、 の2SC2001 hFE 260 2.6k Tr1

負荷は Ωと Ωの並列となるので、 Ωとなります。これでもう一度 のコレクタ電圧を470 2.6k 400 Tr1

計算すると、 となります。このとき Ω の両端電圧もだいたいこの電圧になるので、 Ω両1.8V 8 +R4 8

1.8/10 8=1.4V 1.0V VR1端の電圧は × となります。実測では なので、随分大きくなりました。これは

の帰還を考えていないからです。この影響は の電圧帰還回路で説明しました。この計算は図3-33

厄介なので省略しますが、 の帰還を考えると からさらに小さくなり、実測値に近づきます。VR1 1.4V

ここで の歪みの原因を考えます。実は、この歪みは に示した大振幅の信号を入力図13-50 図3-24

したときの歪みと同じものです。つまり、バイアス電流が少ないので、信号によって内部エミッ

re Ro 10kタ抵抗 が大きく変化するためです。試しに、入力信号の出力インピーダンス を大きくして

Ωにしてみます。もちろん、 は Ωです。このときは をほぼ定電流ドライブしますので、以R1 1k Tr1

上の歪みは出ないはずです。結果を に示します。確かに に比べ歪みは大幅に改善図13-52 図13-50

されました。このとき当然、入力信号は大きくなっています。

(上: Ω両端、下:入力信号)図13-52 定電流ドライブ 8

以上ではアイドリング電流を増減して出力波形の変化を調べましたが、完全にアイドリング電

流を にしたらどうなるでしょうか。例えば、 のベース間をショートします。このベース0 Tr4,Tr5

電圧を とすれば、エミッタ電圧が から の間、 は全く動作できません。エVB VB-0.6V VB+0.6 Tr4,Tr5

ミッタ電圧が 以下に下がって、やっと が、 以上に上がって、やっと が働きまVB-0.6V Tr4 VB+0.6 Tr5

す。また、 のみをショートしても、同じように の働けない電圧範囲がでてきます。たTr3 Tr4,Tr5

だし、ベース間をショートするよりは の働けない電圧範囲が狭くはなります。以上のときTr4,Tr5

の波形には、 と同じようなクロスオーバー歪みが発生します。図13-48

では、 のどれかをオープンにしたらどうなるでしょうか。こうすると大変なことTr2,R2,R3,Tr3

、になります。この場合、 のコレクタ電流がすべて のベース電流になります。ですからTr1 Tr4,Tr5

Tr4,Tr5 Tr1 hFE Tr1 =2.のコレクタ電流は のコレクタ電流の 倍となってしまいます。 のコレクタ電流

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、 の とすれば、 のコレクタ電流は に達します。 それぞれ5mA Tr4,Tr5 hFE=200 Tr4,Tr5 500mA Tr4,Tr5

の消費電力は × になります。 では、すぐにトランジスタが壊れませんが、時間3V 500mA=1.5W 1.5W

。が経つと確実にトランジスタが壊れ、さらに電流が増え、やがて燃焼する可能性が大となります

つまり、火災が起こるかもしれない非常に危険な状態となるわけです。今回は、検討しやすいよ

うに ソケットを用いていますので、 のどれかがオープンになってしまう可能性がIC Tr2,R2,R3,Tr3

250mA 200m高くなります。このために、今回は のヒューズ(小型のリードタイプ)を用いています。

A Tr4,Tr5 Tr4,Tでもかまいません。なにせ よりヒューズの方が高価なのですから、このヒューズは

r5 Tr2,R2,R3,Tを守るものではありません。火災という 悪の結果を防ぐものです。なお検討後、

r3 Tr2,Tr3を確実に半田付けするのであれば、このヒューズは不要ですが、検討することによって

が劣化していることも十分考えられるし、また半田付けに不具合があるかもしれませんので、ヒ

ューズを入れておくことを強くお薦めします。

の回路の 大出力はだいたい (ピーク値)ぐらいでした。この値を大きくする方法にブ図13-49 1V

ートストラップという手法があります。ブートストラップ( )を辞書で調べると、(編みbootstrap

上げ靴の)つまみ皮とあります。底無し沼に落ちたある人物が、まず自分の足を沼から出し、自分

のブートストラップを引っ張って沼から脱出したそうです。ここから 「自分で何とかする」とい、

う意味が生まれたという説があります。電子回路では、いろいろなところで、いろいろな種類の

ブートストラップという手法が使われますが、すべて自分の出力を帰還して目的とする動作をさ

せるものであり、まさに底無し沼に落ちた人物の逸話のような動作になります。

このブートストラップの手法を用いた回路を に示します。 がこの目的のコンデンサで図13-53 C3

す。以降では、ブートストラップコンデンサとよぶことにします。

ブートストラップコンデンサの原理を に示します。ここで は電圧ゲインが 以下で、入図13-54 K 1

力インピーダンスが無限大のアンプとします。そうすると、図に示しますように出力が非常に大

きくなるのがわかります。この原理では、 の両端電圧が変化しないとしていますので、 の時C C,R2

定数は信号に比べ十分大きい必要があります。なお、この図の は では です。R2 R6図13-53

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の実際の出力波形を に示します。 に比べ入力信号が小さくなっています。図13-53 図13-55 図13-50

、つまり電圧ゲインが増加しているのがわかります。思ったより電圧ゲインが大きくならないのは

の負荷が Ωと小さく、理想的なエミッタフォロアになっていないからです。ちなみに、Tr4,Tr5 10

の負荷を Ωにすると、ブートストラップコンデンサを付けると、付けないときに比べTr4,Tr5 100

約 倍ぐらい電圧ゲインが増加します。ところで、 に比べ随分歪みもよくなっています。3 図13-50

これは入力が小さくなった分、 で説明した の歪みが小さくなるためです。図13-50 Tr1

図13-55 ブートストラップコンデンサ有りの出力波形

(上: Ω両端、下:入力信号)8

以上ブートストラップコンデンサで電圧ゲインが増加することがわかりました。しかし、ブー

トストラップコンデンサのよいところは、実はこの電圧ゲインが増加することではありません。

それは、出力の 大電圧が大きくなることなのです。 を見ると、 と の交点は より大図13-54 R2 C Vcc

図1きくなるのがわかります。これはエミッタフォロアのドライブ電圧の増加を意味しています。

では 大出力が くらいでしたが、 では くらいに上昇します。 の説3-49 1.0V 1.3V図13-53 図13-40(a)

明で、この回路の弱点は 大出力が小さくなることであると説明しましたが、ブートストラップ

コンデンサを付けることにより、多少この弱点は解消されます。

後に の 大消費電力を( )式で計算しておきます。 、 Ωを代入すると、Tr4,Tr5 13-2 Vcc=3V R=10

。91mW 2SC2001 2SA952 600mWとなります。 、 の 大コレクタ損失は ですので、全く問題はありません

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●負帰還SEPPアンプ

や の回路では明らかな歪みがありました。しかし、実際にこれらのアンプでラ図13-49 図13-53

ジオ信号を聞くと、あまり歪みは感じません。それは、ラジオ信号の音声帯域が狭く、かつ使用

しているスピーカが小型のためです。ですから、これらのアンプの歪みをよくする必要がないと

もいえるのですが、ここは電子回路の勉強のために、負帰還をかけて、より歪みのないアンプを

製作したいと思います。

負帰還のために の回路に差動増幅回路を追加することにします。その回路を に図13-53 図13-56

示します。 が追加した差動増幅回路です。 、 で負帰還をかけています。例えば入力Tr6,Tr7 R12 R13

が正の周期では、 のコレクタ電流が減り、その結果、出力( と の中点)が大きくなりますが、Tr6 R4 R5

R12,R13 Tr7 Tr7 Tr6その電圧が で に帰還されます。そうすると、 のコレクタ電流が減りますので、

のコレクタ電流が増すことになります。つまり、負帰還になるわけです。 は のバイアス電R12 Tr1

。流を安定にする役目も兼ねています。 は負帰還をかけることに起因する発振現象の防止用ですC6

Tr6 0.21m図13-57に差動増幅回路のバイアス電流を示します。 のコレクタ電流は図に示すように

です。この電流は のベースを十分ドライブできる値であればよいのですが、ある程度流さなA Tr1

いと差動増幅回路の電圧ゲインが小さくなってしまいます。そこで、 の値で 適な値に設定しR11

。ます。 のコレクタ電流が ですから、 のコレクタ電流も にする必要がありますTr6 0.21mA Tr7 0.21mA

結局、合計のコレクタ電流は となります。 はこの電流になるように調整します。図に示0.42mA VR1

しますように、 と にかかる電圧は ですので、 Ωが の値となVR1 R10 2.35V 2.35V/0.42mA=5.6k VR1+R10

ります。

実際の の調整は、 のベース電圧が同じになるようにします。 によって のベVR1 Tr6,Tr7 R8,R9 Tr6

ース電圧が になっていますが、 のベース電圧も になるようにするわけです。なお、 を3V Tr7 3V VR1

Tr7 R8=R9=10k R動かしても のベース電圧は緩やかにしか変化しませんので、調整は簡単です。 Ω、

Ωのときの調整後の値は、各ベース電圧は で、出力( の中点)の電圧は でし12=22k 2.95V R4,R5 2.92V

た。 で電圧降下しますので出力の電圧は多少小さくなります。R12

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、この差動増幅回路の逆相の電圧ゲインを求めてみます。差動増幅回路の電圧ゲインについては

Tr1 1.9k Tr1 re=26/図11-24で説明しました。 の入力インピダンスは約 Ωです。 の内部エミッタ抵抗

Ω、 として計算しました。この抵抗と との並列抵抗は Ωになります。 の2.3=11 hfe=170 R11 1.2k Tr6

内部エミッタ抵抗 Ωですから、求める電圧ゲインは Ω Ω 倍となりまre=26/0.21=124 1.2k /124 =9.7

す。ただし、入力はシングルエンドで加えているので、この半分の 倍となります。一方、同相4.8

の電圧ゲインは の入力インピダンスと との並列抵抗である Ωを( )× で割ったTr1 R11 1.2k VR1+R10 2

値なので、 Ω ( × ) Ω 倍となり、まあまあ満足できる小さい値になります。1.2k / 5.6 2 k =0.1

以上の定数での 終の回路を に、製作したものを に示します。なお、この基板図13-58 写真13-4

で前項の負帰還なしの アンプも検討しました。 は発振防止用のコンデンサです。このコンSEPP C6

1000pデンサがなくても発振しないのですが、 も厳しい条件である、スピーカの替わりに

のコンデンサを付けると約 で強く発振します。このときにでも発振しないように、このコンF 4MHz

デンサを付けています。

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写真13-4 製作した負帰還SEPPアンプ

負帰還をかけないときの裸の電圧ゲインは、差動増幅回路が 倍、 回路が約 倍ですから4.8 SEPP 50

トータル 倍となります。ですから裸の電圧ゲインは十分といえます。この回路の負帰還をかけ240

たときを アンプ風に書くと、 となります。この図より負帰還をかけたときの電圧ゲインOP 図13-59

は( ) となるのがわかります。実際の値を代入すると 倍となります。R12+R13 /R13 11

実際の波形を に示します。電圧ゲインは 倍で計算通りです。歪みも全図13-60 1.5V/130mV=11.5

くなく、ラジオのアンプとしては申し分がありません。試しに のような複雑なバースト波図13-61

を入力してみましたが、この場合も歪みのない出力が得られました。

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図13-60 負帰還SEPPアンプの電圧波形

(上: Ω両端、下:入力信号)8

(上: Ω両端、下:入力信号)図13-61 バースト波の入力 8

ふじひら・ゆうじ

ワールド・ウェブ・ブックス「ラジオで学ぶ電子回路」第 章 再生・超再生ラジオRF 9

C Yuji Fujihira 2009( )

http://www.rf-world.jp/