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早稲田大学大学院アジア太平洋研究科岩村研究室 事業再生調査プロジェクト報告書 No.3 ダイエーの事業再生 2007 年 3 月 赤平 英明(アジア太平洋研究科修士課程1年) 善行(商学研究科修士課程2年) 白髭 攝子(アジア太平洋研究科修士課程2年) 麗 (アジア太平洋研究科修士課程1年) (法学研究科修士課程2年) (以上、アイウエオ順) マークの意味 http://www.bunka.go.jp/jiyuriyo/ 私の研究室ではゼミ活動の一環として、2006 年の春から夏にかけ、産業再生機構の事業再生の 実態調査を行いました。調査は原則として公表資料によるものとし、産業再生機構を含む関係者 へのヒアリングを併用しました。公式の文書による調査ではなく、あくまでも純粋の外部者としての 立場と制約の下で、公表された資料および報道などをベースに行った調査ですので、事実関係の 認識については一定の限界はありますが、それでも資料的価値は高いと判断しましたので、研究 指導に当たった岩村の責任で研究報告書を公表するものです。 (早稲田大学アジア太平洋研究科教授 岩村充)

ダイエーの事業再生 2007年3月 - …早稲田大学大学院アジア太平洋研究科岩村研究室 事業再生調査プロジェクト報告書No.3 ダイエーの事業再生

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Page 1: ダイエーの事業再生 2007年3月 - …早稲田大学大学院アジア太平洋研究科岩村研究室 事業再生調査プロジェクト報告書No.3 ダイエーの事業再生

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科岩村研究室

事業再生調査プロジェクト報告書 No.3

ダイエーの事業再生

2007 年 3 月

赤平 英明(アジア太平洋研究科修士課程1年)

岡 善行(商学研究科修士課程2年)

白髭 攝子(アジア太平洋研究科修士課程2年)

李 麗 (アジア太平洋研究科修士課程1年)

蘭 蘭 (法学研究科修士課程2年)

(以上、アイウエオ順)

マークの意味 http://www.bunka.go.jp/jiyuriyo/

私の研究室ではゼミ活動の一環として、2006 年の春から夏にかけ、産業再生機構の事業再生の

実態調査を行いました。調査は原則として公表資料によるものとし、産業再生機構を含む関係者

へのヒアリングを併用しました。公式の文書による調査ではなく、あくまでも純粋の外部者としての

立場と制約の下で、公表された資料および報道などをベースに行った調査ですので、事実関係の

認識については一定の限界はありますが、それでも資料的価値は高いと判断しましたので、研究

指導に当たった岩村の責任で研究報告書を公表するものです。

(早稲田大学アジア太平洋研究科教授 岩村充)

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目次

はじめに ..................................................................................................................................... 3

第 1 章 ダイエーが再生機構支援にいたるまでの経緯 ............................................................... 4

第 1 節 ダイエーの経営不振 ...................................................................................................... 4 第 1 項 スーパーマーケットと GMS ..................................................................................... 4 第 2 項 ダイエーの沿革 ......................................................................................................... 5 第 3 項 ダイエー経営不振の要因 .......................................................................................... 6

第 2 節 自力再生断念の経緯 ...................................................................................................... 9

第 2 章 事業再生スキーム ........................................................................................................ 16

第 1 節 事業再生スキームの概観............................................................................................. 16 第 1 項 総論 ......................................................................................................................... 16 第 2 項 私的再建手続 .......................................................................................................... 16 第 3 項 事業再生手続におけるスポンサーについて ........................................................... 19

第 2 節 ダイエーの再建計画へのアプローチ .......................................................................... 20 第 1 項 総論 ......................................................................................................................... 20 第 2 項 再生機構の支援決定と再生の事業計画 ................................................................... 20 第 3 項 再生のためのスポンサー選定 ................................................................................. 23

第 3 節 産業再生機構・スポンサー支援下での事業再生 ........................................................ 24 第 1 項 新経営陣 .................................................................................................................. 24 第 2 項 2006年2月期の再建の道のり .......................................................................... 24

第 3 章 財務状況・事業状況の評価 .......................................................................................... 26

第 1 節 比率分析 ...................................................................................................................... 26 第 2 節 キャッシュフロー分析 ................................................................................................ 30 第 3 節 評価 ............................................................................................................................. 31

おわりに ................................................................................................................................... 32

付論:日本の商慣行と商習慣 ................................................................................................... 33

第 1 節 商慣習 ......................................................................................................................... 33 第 1 項 日本の商習慣の特徴 ................................................................................................ 33 第 2 項 継続的取引の機能 ................................................................................................... 33

第 2 節 商慣行 ......................................................................................................................... 35 第 1 項 選択的な流通経路政策(系列店制度) ................................................................... 35

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ii

第 2 項 建値制 ..................................................................................................................... 36 第 3 項 返品制 ..................................................................................................................... 38 第 4 項 リベート制 .............................................................................................................. 41 第 5 項 流通サービスの重視 ................................................................................................ 43 第 6 項 まとめ ..................................................................................................................... 43

第 3 節 小売業の特色 ............................................................................................................... 44 第 4 節 大手総合スーパー5 社の戦略の比較 ........................................................................... 46

参考文献 ................................................................................................................................... 48

付録 .......................................................................................................................................... 49

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はじめに

2006 年 9 月、産業再生機構によるダイエー支援は産業再生機構が保有するダイエー株式

の丸紅への売却を以って一旦終了した。その後、筆頭株主となった丸紅は新たなスポンサ

ーとして小売業のノウハウを持つイオンを招聘、ダイエーは事実上イオンの傘下で再生を

継続することとなった。

ダイエーの経営危機が表面化したのは 1998 年である。同年 2月期の同社単体の経常損益

が 250 億円の赤字、連結の経常損益が 90 億円の赤字という上場来初めての出来事であった。

これを受け、ダイエーは経営再建へ向けて本格的な取り組みをスタートさせる。

しかし、課題であった有利子負債の圧縮が遅々として進まず、業績低迷や財務内容の悪

化を背景に、社債や CP の格付が低下し、資金繰りに困窮する。

その後も度重なるトップの交代、再建計画の練り直しが行われるものの、市場からの評

価は芳しくなく、2004 年 10 月再生機構入りを選択するに至った。

再生機構入りしてからの、再生事業計画の基本方針は、4つの窮境原因の解消、すなわち

「自社保有方式」「全国展開への拘り」「事業多角化・拡大路線」及び「低価格路線への過

度の依存」の解消であった。

2006 年 2 月期にはリストラはほぼ完了、3-5月期にはダイエー単体営業黒字を確保した

ことから、2006 年 7 月に再生機構は当初の予定を約 1 年繰り上げて保有株式を丸紅に売却

することを決定した。

その後、丸紅は本業を軌道に乗せるため、小売ノウハウのある同業他社であるイオンを

パートナーとして選択、ダイエーはイオンの資本参加を受け入れることとなった。

ダイエーの再生は未だ途上であるが、産業再生機構が手がけた案件の中でも、ダイエー

案件はバブル崩壊以降、衰退しつつあった GMS という業態をどのようにソフトランディン

グさせるかという点で、特に大きな問題を抱えていたと考えられる。

当レポートは、ダイエーの産業再生機構下における事業再生についてその経緯を整理す

ることを目的として書かれたものである。

当レポートは、本論 3 章と付論 1 つの構成となっている。第 1 章では、ダイエーが再生

機構支援を受入れるまでの経緯を時系列で整理すると共に、ダイエーが経営不振に至った

理由について考察を行い、第 2 章では、産業再生機構下での一般的な事業再生スキームに

ついて制度的な面での考察・ダイエーの事業再生スキームについての整理を行い、第 3 章

では、ダイエーが再生機構入りする前と後の財務面からの評価を行った。付論では日本の

商習慣と商慣行についての考察を行っている。

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第1章 ダイエーが再生機構支援にいたるまでの経緯

第1節 ダイエーの経営不振

第1項 スーパーマーケットと GMS

スーパーマーケットは総合食品を取り扱うワンストップショッピング、セルフサービス

及び広い売り場を特徴として 1930 年代にアメリカで開発された業態である。日本における

スーパーマーケット第一号店は 1953 年 12 月に東京青山に開店した紀伊国屋だとされてい

る1。スーパーマーケットは戦後の高度成長・大量消費時代の到来により消費者の支持を受

け、急速に店舗数を拡大していった。当初スーパーマーケットは 100~200m2前後の売り場

面積のものが大半であったが、一部のスーパーマーケットは取扱品目数の増加と共に一店

舗あたりの売り場面積を拡大させていった。

その中でも特に規模が大きくなったものは GMS(ゼネラル・マーチャンダイジング・スト

アの頭文字による、日本語では総合スーパー)と呼ばれている。GMS の代表格であったダイ

エーは 1972 年に売上高で三越を追い抜き小売業のトップに立ち GMS の台頭を示すこととな

った。

GMS の台頭は一方で中小零細小売業にとっては脅威であったため、中小小売業者の適正な

事業機会の確保を目的として 1974 年 3 月に大規模小売店舗法2(大店法)が施行された。こ

の規制により、500 ㎡超の店舗の出店は規制されたが、むしろ既存 GMS 各社にとってこの期

間の他の GMS の新規参入が制限されたことから、独占利潤を享受し、高い利益率を確保す

ることができた。

1980 年代に入ると GMS や大手スーパーの業績に新たな要因が影響を与えるようになる。

ひとつは消費者のニーズが多様化・個性化したといわれる市場環境の変化である3。購買行

動にこだわりを見せるようになった消費者は一度に大量仕入れと販売を行うスーパーの商

品に満足しなくなりその結果顧客離れの現象が生じた。もうひとつの要因は店舗の巨大化

や重装備化に伴い固定費の上昇がスーパーの業績に重く圧し掛かるようになってきたこと

である4。これらの要因のため GMS や大手スーパーの業績はそれ以前ほどの成長を見せなく

なった。

業績鈍化へ対応するためにスーパー各社は「業務改革」を行い、商品の「量」から「質」

へ重きを転換するとともに、小売部門での売上げ不振を補うために多角化路線を推進して

いくようになるのである5。多角化の例を挙げると、82 年の西友ストアーによる西友ファイ

1 金融財政事情研究会『業種別審査事典 第 8巻』(金融財政事情研究会,2004) 2 大店法の目的は消費者利益の保護に配慮しつつ、周辺中小小売業の事業活動機会の適正確保(需給調整)

をするというものである。店舗面積 500 ㎡超の店舗を対象、出店には審査を通過することが求められた。 3 金融財政事情研究会・前掲注 1 4 金融財政事情研究会・前掲注 1 5 金融財政事情研究会・前掲注 1

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ナンス設立といった金融業への参入、88 年にダイエーによる南海ホークス球団の買収、90

年のイトーヨーカ堂による米サウスランド社の買収(セブンイレブンを支配下においた)、

92 年のダイエーによるリクルートへの資本参加といった具合に様々な分野に向けての試み

がなされたのである。

大店法時代は長期にわたったが、競争抑制の問題点や外国からの参入許可を求める圧力

もあり政策は転換される。出店規制は 91 年頃から徐々に緩和され、2000 年 6 月の大規模小

売店舗立地法(大店立地法6)施行をもって政策転換が完結した。90 年代後半以降は規制緩

和の影響でスーパーの大量出店が推進されるようになる。ところがその結果スーパーマー

ケット業界は過当競争となり、販売効率は急激な悪化をたどり、その結果破綻や店舗閉鎖

に追い込まれるケースが少なくなかったのである。97 年のヤオハン、00 年の長崎屋、01 年

のマイカル、壽屋、02 年のニコニコ堂など経営破たんが相次いで起きた。そして、ダイエ

ーもかつての小売業トップの地位から凋落し、二度にわたる金融支援と自主再建への取り

組みにもかかわらず、産業再生機構の支援を仰ぐことになったのである。

第2項 ダイエーの沿革

ダイエーは、1957 年に「主婦の店・ダイエー」1 号店が中内社長によって大阪・千林駅

前にオープンした。中内社長の「売上げは全てを癒す」という言葉のもと拡大路線を推進、

次々と店舗を増やして急成長を遂げた。72 年には東証第一部上場を果たし、同年 8 月期売

上げで三越百貨店を抜き、創業わずか 15 年で日本 大の小売業の地位に登り詰める。80 年

には小売業初の売上高 1 兆円を達成。それ以降収益源として小売業以外の分野にも目を向

け始め、プランタン銀座の設立、南海ホークス球団の買収とそれに伴うドーム球場経営や

ホテル事業、リクルートへの資本参加など、多角化路線の推進に力を入れた。94 年 3 月に

はダイエー、忠実屋、ユニードダイエー、ダイナハの 4 社合併を成し遂げる。これにより

総店舗数約 360 店、売上高 2兆 6000 億円規模の全国チェーンが実現したのである。

しかし、消費者の嗜好の変化や大手小売業過剰店舗時代の過当競争、店舗重装備化によ

る固定費の増大などを背景にダイエーの業績は徐々に悪化、98 年 2 月期には上場して以来

初の経常赤字に陥るのである。

これを受けてダイエーは再建に取り組みはじめた。再建計画を策定し二度にわたる金融

支援を受けながら財務の建て直しと収益性の回復に向けて様々な試みを行った。しかし業

績回復は叶わないまま再建計画 終年度の 05 年 2 月期を迎え、次の計画策定に臨もうとし

たものの経済環境も過去 2 回の金融支援要請時とは激変しており、金融再生プログラムの

対応に追われるメインバンクは、もはや民間だけの力によるダイエーの再建は無理と判断

し、それまでの態度を転換した。その結果ダイエーは産業再生機構に支援を要請し再建を

機構に委ねることになったのである。

6 大店立地法の目的は周辺地域の生活環境の保持にある。店舗面積が 1000m2以上の店舗出店に際しては届

出を行い審査を受ける必要がある。大店法よりも対象店舗の店舗面積範囲が拡大された。

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第3項 ダイエー経営不振の要因

本項では、ダイエーが借入過多により債務超過に陥ってしまった理由と、収益性の低下

原因について考察を加える。

ダイエーが債務超過に陥ってしまった原因としてよく挙げられているのが、土地本位戦

略の失敗である。土地本位戦略とは、新規出店の際に店舗の土地と建物を自社で保有する

ことで、その含み益を担保に銀行から融資を受けて事業を拡大するという手法である。こ

の土地本位戦略の結果、積極的な新規店舗の出店に伴い負債が増加していったが、バブル

の崩壊により地価が暴落したことで、一気に債務超過に陥ってしまったというのである7。

しかし、この説明には疑問も残る。もし上記の説明の通りであれば、 大で 2兆 6000 億円

にも上った有利子負債を担保するだけの土地や店舗をダイエーが持っていたことになる。

しかし、1990 年 2 月期の有形固定資産合計額を見ると連結で 2700 億円弱に過ぎない。単体

では 1145 億円である。10 年後の 2000 年 2 月期の単体の数値にしても 2696 億円である。こ

れではとてもダイエーの保有する土地や他店舗の担保価値を基に銀行が融資を行っていた

とは考えにくい。

むしろ銀行は、店舗などの不動産の担保価値よりも、安定して且つ巨大な事業キャッシ

ュフローが見込めるダイエーという事業体そのものを見込んで資金提供を行っていたと考

える方が自然である。

即ち、ダイエーという一大事業体が営業を続ける限り、その営業活動を通じて多額のキ

ャッシュフローが生みだされることになるはずであり、このキャッシュフローから計算さ

れた企業価値も巨大なものになる為、その企業価値を見込んで銀行は融資を行っていたと

考えられるのである。

ダイエーが規模拡大を続けた 80 年代から 90 年代後半にかけての安定した事業キャッシ

ュフローを支えていた要因として、GMS 各社が現在の倍以上という高い利益率を計上してい

たことが挙げられる。

GMS 各社が高い利益を計上できた一つの原因として考えられるのが、大店法の施行である。

大店法は零細・中小小売店を保護するために 500 ㎡以上の店舗出店を規制する法律である。

一見すると、比較的店舗面積の大きい GMS にとって不利な規制のようにもとれるが、実際

は同法が市場参入規制として機能した結果、競争が抑制され、既存 GMS は独占利潤を享受

することができたのである。

図表 1及び図表 2は 70 年代以降のダイエー、イトーヨーカ堂及びジャスコ(現イオン)

の売上高及び売上高営業利益率の推移である。

7 日本経済新聞社編『ドキュメント ダイエー落城』1頁(日本経済新聞社,2004)

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7

図表1:ダイエー・イトーヨーカ堂・ジャスコ(イオン)の売上高推移比較

売上高推移比較

0.0500,000.0

1,000,000.01,500,000.02,000,000.02,500,000.03,000,000.0

1972

1975

1978

1981

1984

1987

1990

1993

1996

1999

2002

2005

年度

売上

高 ダイエー

イトーヨーカ堂

ジャスコ・イオン

各社財務諸表より作成

図表2:ダイエー・イトーヨーカ堂・ジャスコ(イオン)の売上高営業利益率推移比較

売上高営業利益率比較

-2.00%

0.00%

2.00%

4.00%

6.00%

8.00%

197 2

1 974

1 976

1 978

1980

1 982

1984

1986

1 988

1990

1 992

1 994

1 996

1 998

2 000

2002

2004

2 006

年度

売上

高営

業利

益率

ダイエー

イトーヨーカ堂

ジャスコ・イオン

各社財務諸表より作成

このグラフから、大店法が強化されていた 80 年代から 90 年代前半にかけて GMS 各社の

利益率は上昇していることがわかる。ダイエーに関していえば、現在の倍以上の 3%前後の

利益率を出しており、銀行にとっても良好な融資先であった。

加えて、中内功社長という戦後日本で有数のカリスマ性を備えた実業家に対する格別な

信用により、巨額の融資を受けることを可能にしたものと考えられる。

こうして得た巨額の資金を、ダイエーは新規出店資金と共に既存店舗の保持や改装のた

めのメンテナンス費用に加え、事業多角化資金として使ってきた。

80 年代から 90 年代にかけてのダイエーの事業多角化は、高島屋やマルエツ株の取得、銀

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座プランタンの設立等の小売業及びその周辺事業だけでなく、88 年には南海ホークスを、

92 年にはリクルートを傘下に収めるなど小売業以外の事業への多角化を積極的に行ってき

た。

結果として、ダイエーの全方向的な多角化は、傘下に赤字事業を多く抱え込むことにな

り、その処理に多額の出費を余儀なくされることとなってしまったのである。

この点、イオンやイトーヨーカ堂が小売関連事業を中心に多角化を進めてきたのと方向

性を異にするものであり、そのことが明暗を分けたと考えられる。

実際、GMS 事業自体の収益性を比較してみると、ダイエーだけが悪いということは無いと

いうことがわかる。

90 年代に入り大店法による出店規制が緩和されると GMS 間の出店競争が激化、バブルが

崩壊し GMS のただ安いだけの品揃えでは消費者を満足させることが難しくなる一方で、ユ

ニクロやヤマダ電機、紳士服専門店チェーンの青山商事などの商品力に優れた専門店出身

の新興ディスカウンターが台頭してきたことにより GMS は苦戦を強いられていた。図表2

の営業利益率推移グラフを見ても、90 年代半ばからの GMS の利益率低下は明らかである。

これは、ダイエーに限らずイトーヨーカ堂やイオン他の GMS も同様である。図表3はダイ

エー、イトーヨーカ堂、及び、イオンの効率性を 70 年代から追ってみたものである。効率

性の指標としては店舗面積 1㎡あたり売上高を用いた。

図表3:ダイエー・イトーヨカ堂・ジャスコ(イオン)の効率性比較

効率性比較

0500

1,0001,5002,0002,500

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

年度

1m

2当

たり

期間

売上

高(

千円

ダイエー

イトーヨーカ堂

ジャスコ・イオン

各社財務諸表より作成

ここでみると 80 年代から 90 年代初期に至るまではダイエーとイトーヨーカ堂は店舗 1

㎡あたりの売上高においてほとんど差が見られない。90 年代以降はヨーカ堂のほうが上回

るようになるが、低下傾向を見せるという点では同様である。むしろ、イオンとの比較で

見れば、効率性の面では未だにダイエーよりも低い水準である。このように、効率性の面

でダイエー、イトーヨーカ堂、イオンの間に大きな違いがあった、若しくはダイエーが大

きく劣っていたとはいえないのである。

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9

第2節 自力再生断念の経緯

本節はダイエーの業績悪化が表面化してから再生機構に支援申請するに至るまでの経緯

について日本経済新聞社出版の「ドキュメント ダイエー落城」などを参考にまとめたも

のである。ダイエーによる自主再建への挑戦と挫折の過程をなぞりながら、ダイエーの抱

えていた問題点や企業再生の様々な課題について見ていくことにする。

図表4:ダイエーの業績推移

業績推移 単位:百万円97年度2月期98年度2月期99年度2月期00年度2月期01年度2月期02年度2月期03年度2月期04年度2月期

売上高(単体) 2,434,776 2,402,762 2,276,916 2,141,034 1,915,795 1,665,572 1,498,848 1,375,837売上高(連結) 2,918,013 2,921,944 2,797,628 2,622,647 2,608,733 2,237,444 1,957,947 1,752,032営業利益(単体) 2,521 -16,937 11,944 11,547 12,257 21,722 15,573 13,730営業利益(連結) 44,528 23,606 39,002 34,805 45,890 44,289 40,773 51,655経常利益(単体) 591 -25,828 1,036 1,147 2,044 14,121 14,528 16,645経常利益(連結) 10,155 -9,750 11,093 -33,163 1,043 1,520 12,786 31,500有利子負債総額(単体) 654,472 692,972 649,589 657,994 829,568 882,191 837,680 980,407有利子負債総額(連結) 1,425,306 1,300,771 1,223,735 1,159,661 2,564,087 2,139,354 1,644,381 1,638,354

ダイエー財務諸表より作成

① 経営危機の表面化と再建取組みの開始

ダイエーの経営危機が表面化したのは 1988 年である。同年 2月期のダイエー単体の経常

損益が 258 億円の赤字、連結の経常損益が 97 億円の赤字という結果という上場以降初めて

の出来事が起きていた。しかし、前年の 1997 年 2 月期もわずか 6億円の黒字(単体)とい

う結果で、実質 2年連続の業績不振だったといえる。

これを受けダイエーは経営再建へ向けての本格的な取り組みを始める。従来新規出店に

向けられていた資金を既存店舗の改装資金へ振り向け、それまでタブーとされていた赤字

店舗の閉鎖、本部経費の圧縮といった再建計画の基本方針が立てられた。しかし、業績不

振の根本的な要因は本業である事業そのものの収益性低下であった。2年前までは約 500 億

円の利益を出していた部門がほとんど利益の出ない事業に変わってしまっていた。こうし

た本業の立て直しと同時に膨れ上がったグループ企業の有利子負債の削減も重要な経営課

題と認識されていた。ダイエーは 02 年 2 月期までに外部への事業・資産売却を通じて有利

子負債を 1兆円削減する再建計画を公表した。内訳は以下の通りである。

図表5:ダイエーの有利子負債圧縮計画(単位:億円)

事業・遊休不動産売却 2,600

ローソン株式公開 4,000

その他グループ企業の株式公開 800

債権・保証金の流動化 600

外部調達による投資資金の抑制 700

グループ資金の一元化 900

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② 鳥羽氏による再建経緯

初にこの財務改善路線を指揮したのは中内社長に顧問として迎えられた鳥羽薫である。

元味の素の社長で、「財務のプロ」と評価された人物であった。鳥羽はまずグループの消費

者金融会社ディックファイナンスを米国の金融会社に売却し 800 億円の資金獲得に成功す

る。鳥羽はさらにアラモアナ・ショッピングセンター、銀座のビルといった資産の売却計

画を次々と打ち出した。不採算店舗の閉鎖にも着手し、売上げ至上主義からの脱却と小さ

くとも利益のとれる体質への転換を図ったのである。

しかし消費不況のため収益は一向に改善せず、ついに 1999 年 2 月期の業績予想下方修正

という事態となる。これにより中内は社長を退任、鳥羽が社長に昇格する。鳥羽はリスト

ラをさらに進めようとしたがうまくいかず、1997 年 12 月に策定された再建計画の修正を 3

回も繰り返す事態となった。ついに、鳥羽は有利子負債を圧縮するため、虎の子のローソ

ンの株式と、リクルート株式の一部を売却して約 2700 億円の負債返済原資を調達せざるを

えなくなっていた。

こうした中、中内と鳥羽との関係は決して良好なものではなかった。会長の座に退いた

ものの中内は相変わらず経営に関して強い影響力を保持しており、さらに中内ファミリー

企業の存在がダイエーの財務改善の障害となっていた。2001 年 2 月から導入される新連結

会計制度は株式の保有割合ではなく実質の支配力基準で子会社かどうか判定されるという

ものであった。この制度をダイエーグループに当てはめると債務超過となっている多くの

中内ファミリー企業を連結対象に含むため 1780 億円の債務超過に陥ってしまう。中内ファ

ミリーとのしがらみを整理していくことが必要であった。

しかし、2000 年 10 月初旬に、鳥羽はダイエーオーエムシー株式の不透明な取引を指摘さ

れ辞任に追い込まれる。鳥羽と亀裂を深めていた中内はかばうことをせず、鳥羽は再建の

途中でダイエーを去ることとなった。

③ 高木社長就任

鳥羽の後任としてリクルートへ転出していた高木邦夫がダイエーに呼びもどされた。高

木は 80 年代に連結赤字に陥ったグループを立て直した「V革」メンバーの一人である。そ

の後もダイエーのM&A事業で活躍し、92 年からリクルートに出向、99 年には正式に移籍

していた。中内は 2000 年 10 月に代表権を返上し、高木を中心とする新経営陣に経営を譲

る姿勢を表明した。高木は 2001 年 2 月までに新再建計画を策定し、同年 5月の株主総会で

社長に就くことになった。

しかし市場はダイエーの先行きを不安視し株価の下落は続いていた。社債の格付けが見

直された結果、CPの発行も困難になったダイエーは、主力行の融資に頼って急場をしの

いでいた。高木は新再建計画の策定を年明けから年内に前倒し、グループの退職給付会計

の積み立て不足に対しローソン株の信託拠出を充てるなど、市場へのアピール策を次々と

打ち出した。しかしダイエーの株価低迷は変わらなかった。

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11

④ 最初の金融支援と再建計画フェニックスプラン

ここにきて主力行によるはじめての金融支援策が検討される。ダイエーが債務超過に陥

らないためには 1000 億円規模の資本増強が必要だと見られていた。しかし、主力行が支援

しては独占禁止法の 5%ルール8に抵触してしまうため、議決権がない優先株式をダイエーが

発行し主力四行が引き受ける案で計 1200 億円が支援されることになった。

この金融支援を柱とする再建計画「フェニックスプラン」が 2000 年 11 月に発表された。

計画の骨子は以下の通りである。

図表6:ダイエーの修正再建3ヵ年計画(フェニックスプラン)の骨子

人事 ○ 経営陣の大幅刷新、高木邦夫顧問が 2001 年 1 月末に社長就任

○ ダイエー本体とグループ合わせて 4000 人を削減

連結対象 ○ DHCグループ企業及びDREグループ企業をダイエー本体の連

結対象に

資本・財務対策 ○ 主力4行に対し総額 1200 億円の優先株の引受要請

○ 主力 4行に対しコミットメントライン95000 億円の設定要請

営業対策 ○ 赤字店舗 32 店の閉鎖

○ 300 億円を投じて既存店舗を改装

○ 自主開発商品の強化

出典:「ドキュメント ダイエー落城」

「ドキュメント ダイエー落城」の記述によれば、高木は側近を旧知の人材で固め、中

内の影響力排除に努めたとされる。さらに衣料品の 9 割引販売や、長期間売れ残っていた

家電製品など在庫 20 億円分の廃棄処分を行った。しかしながら依然として厳しい状況が続

き、2月末にはすでにコミットメントライン 5000 億円枠のうち 3000 億円をCPに替わる資

金調達や店舗閉鎖などで使ってしまっており、キャッシュフローベースでの収益回復が急

務であった。

⑤ 元気 500 作戦

ダイエーは 2001 年 2 月に、社員を元気付けるための「元気 500 作戦」を打ち出す。2002

年 2 月期の利益目標額として 500 億円という数値が提示され、目標達成に向けて新製品開

発や店舗改装、販売手法の見直しなどが行われた。再建が軌道に乗れば従業員に優先的に

報いるとの公約も出された。しかし、同時に余剰人員削減のための希望退職が募集される

と 1000 人が即時に応募した。社員が激減した職場で人心を立て直すのは困難である。高木

8 5%ルールは独占禁止法で金融機関の保有株式の上限を規制している制度のこと。金融機関が、企業が発

行する総株式数の(原則)5%(生命保険会社の場合は 10%)を超えて取得することを禁じている。 9 コミットメントラインとは銀行が取引をしている企業に対して定めた融資枠である。銀行と取引先の企

業があらかじめ融資の上限枠を協議しておき、この融資の枠内でなら一定期間いつでも審査を必要とせず

に銀行が企業に資金を提供することを保証する制度である。

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12

はニコニコ堂からダイエーに復帰していた平山副社長と共に全国をまわり、店長や従業員、

パート主婦との直接対話等で奮起をよびかけた。

財務改善では 2002 年 2 月期に有利子負債を 3200 億円減らす計画に向けて 20 年間保有さ

れていた高島屋株が売却された。

⑥ 市場の不信

2001 年 9 月にマイカルが破綻し、競争緩和を見込んでイトーヨーカ堂などの株価は上昇

したが、ダイエー株は逆に急落した。市場は「マイカルの次はダイエー」という認識を示

したのである。21 日にダイエーが今期業績予想の下方修正を発表すると、格付会社ムーデ

ィーズが無担保長期債の格付を引き下げ、株価はさらに急落した。ダイエーは主力行によ

る全面支援を強調して、ムーディーズに抗議文を送り、市場の信用不安を打ち消そうとし

た。しかし新生銀行など一部の金融機関が債務弁済を迫るなど事態は改善しなかった。

相変わらず資金繰りの綱渡り状態は続き 11月にはついにコミットメントラインの借入枠

余裕が 400 億円まで減少、収益は依然回復を見せず、商品仕入・店舗刷新などによる営業

改革も効を奏さなかった。上場来 安値を更新し続けるダイエーに対し、ついに取引先ま

でが動揺を見せ始め一部の卸売業者が取引条件を厳格化した結果、資金繰りが更に困難と

なり、ダイエー主導での再建策を進めることが難しくなってきていた。株価は一時 69 円ま

で下げた。

12 月初旬にUFJ銀行が三井住友銀行、みずほコーポレート銀行とダイエーに対して再

建計画の前倒しについて協議を行うことを提案した。しかし計画の前倒しを行えば一気に

業績が悪化し、ダイエー向け債権が不良債権化するのではないかという懸念が他を躊躇さ

せ、協議に進展しなかった。その間にも市場の反応はさらに厳しくなった。

⑦ 政府の意図

ところが 2001 年 12 月半ばになると政府が「ダイエーを破綻させてはいけない」という

意図を示すようになる。ダイエーが破綻すれば日本経済への打撃は甚大である。構造改革

を標榜する小泉内閣としても景気や雇用情勢の悪化は回避したいという危機感を抱いてい

たのである。

こうした政府の意向もあり、ダイエーは主力行の金融支援によって法的整理を避ける方

向へと動き出した。経済産業省は「企業再生のモデルケースに」という思惑から、企業再

建を税制面で優遇する産業活力再生特別措置法10(産業再生法)の適用申請をダイエーに促

した。一方、UFJ、三井住友、みずほの主力各行は再建協議を本格化し、不採算店舗の

閉鎖、資産売却などで生じるダイエーの損失、必要な金融支援について協議を行った。ダ

イエーに対する官邸の関心は高く、それに従い金融庁は主力行に支援策のとりまとめを通

常国会の召集前日の 2002 年 1 月 20 日までに行うように指示した。

10 産業活力再生特別措置法とは、企業のリストラや M&A を促進することを目的に、不採算部門からの撤退

などの事業再構築計画を所管官庁に提出して認定を受ければ、国の支援や税制上の優遇措置を受けること

ができる制度。03 年 3月までの時限立法であったが、制度改正を経て 2年間延長された。

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⑧ 新三ヵ年計画と二度目の金融支援

2002 年 1 月 18 日に主力行による二度目の金融支援も含めた新三ヵ年計画が発表された。

骨子は①主力行による債権放棄を含めた 4200 億円の金融支援、②業績不振の 60 店舗閉鎖、

③普通株式の 50%減資、④3 万 2 千人いる正社員のうち 6 千人の削減、というものであっ

た。しかし本業の収益力強化策については決め手がなく、市場の支持を得られずにダイエ

ー株価は下がり続けた。金融庁は主力行に計画の見直しを求めた。

見直しの結果、当初の計画では 3000 億円の債権放棄が提示されていたが、さらに 1000

億円の支援額として上積みするために、債権のうち 2300 億円を株式化し、その上 1700 億

円の債券放棄を行うことが決められた。さらに主力行が保有するダイエーの優先株を全額

減資、一般株主が保有する 520 億円の普通株は 99%減資して 5 億円にまで減らすことが盛

り込まれた。しかし市場の厳しい反応は変わらなかった。

新三ヵ年計画初年度の 2003 年 2 月期決算は満足のいくものではなかった。単体売上高は

前期比 10%減の 1兆 4988 億円でイオンに抜かれ総合スーパーの首位から転落した。単体経

常利益は 145 億円で目標の 200 億円に届かなかった。連結有利子負債も目標値が従来計画

より 150 億円増の 9150 億円と下方修正された。

⑨ 再建計画の不調

初年度の不調を受けて再建計画の見直しが再度行われた。ダイエーとマルエツとオーエ

ムシーの三社統合案も出された。しかしダイエーとの統合となるとオーエムシーの準主力

銀行である東京三菱銀行が融資を引き上げるであろうことと、オーエムシーの格付けも下

がり資金調達に困難をきたす恐れがあるということでこの案は否決された。

マルエツとの統合も協議された。規模の小さいマルエツを存続会社にして合併し、合併

差益11の 570 億円をリストラ減資に充てようとしたのである。しかしマルエツ、丸紅、みず

ほコーポレート銀行の強硬な反対にあってこの案も否決された。

営業力増強のためにグループの食品スーパー、マルエツのノウハウも取り入れることも

行われた。営業改革やダイエーホークスのリーグ優勝などの結果、2004 年 2 月期の決算は

目標を達成した。単体の経常利益は前期比 15%増の 166 億円で目標を 6 億円上回った。し

かし本業の儲けを示す単体営業利益は 137 億円と 12%減少しており、営業力回復は十分で

はなかった。連結有利子負債額は 1 兆 638 億円となり目標より 149 億円多く減少した。返

済原資となったのは本業で稼いだ 460 億円と福岡のホテル、ドーム球場売却など事業売却

で得た 840 億円であった。いわゆる福岡事業売却と並行して球団ダイエーホークスの処遇

も検討されたが、球団の売却問題は他の資産売却とは異なり、プロ野球機構の意向にも拘

束され思うように進まなかった。結局産業再生機構入りが決まった後にソフトバンクへの

売却が決まるまでダイエーは球団を手放すことは出来なかったのである。

再建計画の 終年度にあたる 2005 年 2 月期の重要課題は大型店対策であった。しかし、

11 合併差益とは、会社の合併にあたり、被合併会社の純資産額が合併会社の増加資本金および合併交付金

を超える場合、その超過額をいう。

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ダイエーは過剰債務の返済がまず優先され、ヨーカ堂やイオンに比べると設備投資額も抑

えざるを得なかった。旗艦店である目黒区の碑文谷店が 6 月に改装オープンし、高価格帯

の品揃えを厚くするなど様々な工夫がこらされたものの、既存店売上高は目標に達するこ

とはなく 2004 年 8 月中間期決算も厳しい結果に終わることとなった。

⑩ 銀行による再生機構活用の方針

2004 年 8 月初めに主力三行よりダイエーに再生機構活用の方針が伝えられた。銀行が産

業再生機構活用による再生に傾いたのは、金融再生プログラムに基づき 2005 年 3 月末まで

に不良債権比率を 3%台に低下させるという公約があったためであると考えられる。

8 月上旬には当時の竹中金融相による「先送り型では何ら解決にならない」との発言もあ

り、抜本再生に失敗した過去 2 回のような民間主導の再建策は 早認められないであろう

というムードが銀行間に漂っていた。

ダイエーは、銀行にとって不良債権・企業の過剰債務問題の象徴であり、すでに二度に

わたり総額 5200 億円規模の金融融資を行っていることから、これ以上の金融支援を行うた

めには、ダイエー再建の確実性が示されることが必要条件であった。銀行にしてみれば、

確実な再建策が示されない以上、再生機構を活用することで、債権放棄等多少の痛みは伴

うものの、ダイエー向け債権の全部が不良債権化することは回避したいという思惑が強く

働いていたものと考えられる。

しかし高木社長はあくまで自主再建にこだわっていた。ただし銀行の意向も無視できず、

9 月半ばからは民間スポンサー候補だけでなく再生機構の資産査定も同時に受け入れてい

た。複数の関係者による同時並行的な査定というのは異例であったが、少なくとも表面的

にはダイエーが再生機構にも協力する姿勢を示した格好であった。

⑪ 自主再建断念

だが、再生機構は 10 月 6 日ダイエーに対し再生機構の活用を前提に資産査定を再生機構

に一本化するように通達した。機構への回答期限は 10 月 13 日であった。この間、主力銀

行は高木社長の説得を試みたが、高木社長は 10 月 18 日に予定している民間スポンサー候

補の入札を見て民間か再生機構かを判断したいとの主張を続けていた。その後ろ盾には経

済産業省があったといわれている。経産省は過去の金融支援実施時に産業再生法の適用で

ダイエーを支援している。2002 年秋にダイエーが政策投資銀行の出資を得て信用危機を回

避したときも経済産業省が手助けしたとされている。さらに 10 月 13 日に高木社長と経済

産業省幹部との秘密会談がもたれていたとの情報もあった。だが 13 日の午前、経済産業省

に対し首相官邸から「過度の介入はやめるように」との指示が伝えられた。さらに監査法

人のトーマツがダイエーに対し 15 日に発表予定の中間決算について、産業再生機構を活用

しない場合、ダイエーの存続可能性に問題ありということで中間決算を承認できない旨を

伝えてきた。決算の発表が遅れれば信用不安を招きかねない。ここに至ってダイエーはつ

いに産業再生機構の支援を受けることを決断したのである。

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再生機構に支援を申請した 2日後、10 月 15 日に発表された中間決算では、単体経常利益

が前年同期比 22%増の 62 億円にとどまり、期初計画の 70 億円を達成できていなかった。

⑫ 産業再生機構による支援決定

2004 年 10 月 13 日にダイエーの産業再生機構への支援申請を受けて、250 名あまりの資

産査定大部隊によるデューデリジェンスが実施され、12 月 28 日に産業再生機構の支援決定

が正式に発表された。支援決定についての機構の考え方によれば、ダイエーは小売業とし

て再生可能なコア事業を保有しており、財務リストラクチャリング及び事業面の改革を行

うことで抜本的な収益改善ひいては事業の再生が可能であるとの判断が示されたことにな

る12。

産業再生機構は、ダイエーが抱える問題点として、自社保有方式による大量出店、全国

展開、事業多角化を積極的に進めすぎたこと、さらに地価下落による多額の含み損を抱え

て財務基盤が非常に弱ってしまったこと、消費者ニーズの変化への対応力が不十分であっ

たこと等を挙げている13。巨額債務の軽減とコア事業である小売業の抜本的な収益力の回復

が不可欠な急務とされた。

次章においては、産業再生機構下における事業再生スキームの概観、及び、産業再生機

構によるダイエー支援の詳細について整理を行う。

12 産業再生機構ホームページ、『株式会社ダイエー等に対する支援決定について』より 13 産業再生機構ホームページ、株式会社ダイエーについて『事業再生計画の概要」より

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第2章 事業再生スキーム

第1節 事業再生スキームの概観

第1項 総論

90 年代後半から日本の経済は長期不況に陥り、バブル景気に支えられてきた実質的に「体

質の弱い14」企業が続々と破綻に至った。しかし、倒産企業であっても、収益性の優れた事

業部門があれば事業価値が認められるはずである。企業のバランスシートの悪化が金融機

関の不良債権問題につながるため、収益性の優れた事業部門を有する窮境企業に対して、

直ちに清算して解散させるより、破綻企業に再挑戦の道を用意したほうが、より経済合理

性に合致すると考えられる。こうした急増する企業倒産を迅速、適切かつ経済的に処理す

るため、民事再生法や会社更生法といった法的手続きが大きな役割を果たしている。

倒産や破綻処理のための法的手続きには「破産手続」、「特別清算手続」、「民事再生手続」

と「会社更生手続」がある。このほかに、法的手続きによらずに、集団的に資産負債を処

理し、再建計画案をたて、窮境企業を再建させることを「私的整理」という15。

近時、早期事業再生のために、法的再建手続に入る前の窮境企業の事業再生の重要性が

高まっている。法的整理手続を選択することによる企業価値の劣化・毀損といった現象が、

私的整理手続においては回避できると考えられるからである。

「私的再建手続」に関して、さらに、一般の私的整理、私的整理に関するガイドライン

に基づく手続、株式会社産業再生機構法に基づく手続に分けることができる。

以下において、私的再建手続の全体像を概観しながら、特に産業再生機構による事業再

生計画の特徴について検討を行いたい。さらに、産業再生機構法の下で行われた事業再生

におけるスポンサーに関する諸問題を整理する。

第2項 私的再建手続

① 一般の私的整理

一般の私的整理は、②で説明する「私的整理に関するガイドラインに基づく手続」によ

らない私的整理のことを指す。法定の手続によらないという意味で「任意整理」とも言わ

れる。私的整理には定められた手続が基本的に存在しない。そのため、事業の再建に関し

14 高木新二郎氏によれば、企業が破綻に至ったのは、様々な原因が考えられるという。「放漫経営、過当競

争、経営者の人材不足、売上不振、需要の減退、資産の目減り、過剰債務、景気低迷、設備投資過剰、連

鎖倒産」などをあげていた。90 年代前半のバブル崩壊については、「日本中が被害を受けたのだから、そ

れを個別企業の倒産・破綻の原因だとすることはできない」と述べた。高木新二郎『事業再生――会社が

破綻する前に――』2頁(岩波新書、2006) 15 高木・前掲注 14、172 頁

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て、債務者が債権者との任意の話し合いによって進められる。

法的再建手続に比べ、一般の私的整理手続は法に拘束されないだけに、迅速、かつ低コ

ストで柔軟的な再建を図ることができる。その反面、私的整理は債務者が債権者との任意

の交渉による個別和解という性格から、再建計画が成立するためには債権者の全員一致が

必要である。また、債権者だけが有利な条件で合意するなど、手続きの透明性・債権者間

の公平性を担保することが難しいという欠点が挙げられる。さらに、債権者の数が多数に

上るような場合には、強制的な法的依拠が存在しないため、話し合いがまとまらず、メイ

ンバンクに過分な負担をかけてしまう点が依然として解消できていない16。

② 私的整理に関するガイドラインに基づく手続

「私的整理に関するガイドライン」は、経済産業省が企業の早期迅速再生ならびに企業

の過剰債務に陥ることを未然に防止するため、「企業・産業再生に関する基本指針」に基づ

いて定めた協定である。

本ガイドラインは法的拘束力のないいわゆる「紳士協定」である。私的整理ガイドライ

ンに基づく再建手続は、債務者と多数の金融機関等債権者が関わって進める再建型の私的

整理手続を想定している。そのため「私的整理」の全部を対象としていない。本ガイドラ

インは「紳士協定」とはいえ、全銀協などの協力の下に締結されたものであることから、

金融機関に対する事実上の強制力は大きい。私的整理に関するガイドラインに基づいて再

建を図る場合であっても、一般の私的整理による再建で起こしている、いわゆる「メイン

寄せ」といった事態を回避できていないままである。

③ 産業再生機構法に基づく手続

産業再生機構法は、株式会社産業再生機構設立のための法律である。2003 年 4 月 2 日に

成立し、4月 10 日に施行された。同年 5月に産業再生機構は業務を開始した。

株式会社産業再生機構(Industrial Revitalization Corporation of Japan)(以下「機

構」と略称)は日本経済の再活性化を目指し、金融機関の不良債権処理の加速化に併せ、

企業・産業の再生に取り組むための新たな組織である。機構は株式会社として設立されて

いるが、それ自体として事業を営む存在ではなく、国を出資者とする一種のファンド的な

存在である。機構の事業再生ファンドとしての「強み」は、その圧倒的な資金力を背景と

した金融機関との交渉能力・調整能力にあり、機構はこれらの「強み」を活かして、不振

企業向けの債権を「市場価額」で買い取って、必要な場合に応じて資金や人材を投入して

再建を支援することを主たる業務としている。

産業再生機構法において、産業再生機構は「金融機関等の不良債権の処理の促進による

信用秩序の維持を図るため、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者

16 西村ときわ法律事務所編『ファイナンス法大全アップデート』(商事法務、2006)812 頁

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に対し、金融機関等が有する債権の買取り等を通じてその事業の再生を支援することを目

的とする株式会社とする」と定められている(産業再生機構法第1条)。その他、産業再生

委員会を設置して支援の是非を決定することや、債権の買い取り期間は 長 3 ヶ月とする

こと、買い取った債権は 3年以内の売却を目指すことなどが定められている。

図表7:産業再生機構の業務範囲17

1. 産業再生機構法第 23 条第 1項の対象事業者に対して、金融機関等が有する債権の買取

り、又は同項の対象事業者に対して金融機関等が有する貸付債権の信託の引受け(以

下「債権買取り等」という。)

2. 債権買取り等を行った債権に係る債務者に対し、a.資金の貸付け、b.金融機関等から

の資金の借入れに係る債務の保証、c.出資を行う。

3. 債権の管理及び譲渡その他の処分(債権者としての権利の行使に関する一切の裁判上

又は裁判外の行為を含む。)

4. 出資に係る持分の譲渡その他の処分

5. 前各号に掲げる業務に関連して必要な交渉及び調査

6. 同法第 23 条第 1項の対象事業者に対する助言

7. 前各号に掲げる業務に附帯する業務

8. 前各号に掲げるもののほか、機構の目的を達成するために必要な業務18

産業再生機構法の第 22 条において、再生支援決定についての規定がおかれている。主務

大臣は、事業所管大臣の意見を聴いて、事業の再生支援や、債権買取り等に当たって従う

べき基準(支援基準)を定め、公表する。この基準には、改正産業再生法の認定の基準と

なる生産性向上や財務健全化に関する数値基準を含めることとしている19。

◎支援決定から買取り決定までの大まかな流れ20

ア、事業者は、一以上の金融機関等(メインバンクを想定)と連名で、機構に対し、債

権買取り等による事業の再生支援を申し込むことできる。申し込みの際には、再生可能性

の高さを判断するための再生計画の添付を求めている。

イ、機構は、支援基準に従って、申し込みがあった事業者の事業の再生支援をするかど

うかを決定する。

ウ、機構は、事業の再生可能性が高いと判断するときは、支援を決定し、事業者に係る

債権を保有している非メインバンク等に、機構が支援決定を行った旨を通知し、債権買取

りの申し込みをするか、対象事業者の再生計画に同意するか、いずれかの回答を一定期間

17 産業再生機構法第 19 条 1項より 18 これを営もうとするときは、あらかじめ、主務大臣の認可を受けなければならない(産業再生機構法第

19 条 2項) 19 産業再生機構「産業再生機構法案およびその施行に伴う整備法案の概要」NBL、755 号(2003)9 頁 20 産業再生機構・前掲注 19、9頁参照

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19

内( 長 3ヶ月)におこなうよう求める。

エ、再生に必要な債権額に達するだけの回答が集まったときは、一括して委員会による

買い取り決定を行う。買い取りは 2005 年 3 月 31 日までに申し込まれたものに限定してい

る。

オ、回答が集まらなかったり、一時停止21の要請に反した回収による再生に必要な債権額

に達しないときは、機構は支援決定を撤回する。

第3項 事業再生手続におけるスポンサーについて

① スポンサーの定義

一般的に、再建会社に対して、事業再生のために資金や人材の援助を行う者(企業)の

ことを意味するが、多様なスポンサーが存在するため、厳密に定義することは難しい。ス

ポンサーは企業再建に際して不可欠な存在となっている。たとえば、企業の買収者として

利益を追求し、投資家としての 大のリターンを求める投資ファンドもスポンサーとして

考えられている22。

② スポンサーの選定方法

スポンサー選定には主に、「相対交渉方式」(相手方との交渉によって契約条件を決定す

る方式)、と「入札方式」の 2 通りがある。後者についてさらに a.公開入札方式と b.指名

入札方式(入札者を指定する入札)がある。

相対交渉方式は、一般的にスポンサー選定を迅速に行うことができ、また秘密保持の面

においても優れている。これに対し、入札方式は自由競争状態における価格・条件の提示

が、理論的に適正価格を反映しているため、公平性・透明性を確保する方法として優れて

いる23。

③ スポンサーの責任

再建企業のスポンサーに選定されれば、一定の法的責任と社会的責任を負うと解される。

法的責任としては、スポンサー会社が事業再生に失敗した際に、スポンサー会社の投下

した資本や貸付金を回収できなくなるといったリスクを負担する責任である。しかしなが

ら、この際に、スポンサー会社が、前述した投下資金を超えた義務を負うべきか、またス

21 機構が支援決定を行う際に、必要に応じ、回答期限までの間、関係金融機関等に対し、対象事業者から

再建の回収等をしないこと(一時停止)を要請することとなっている。これは、私的整理に関するガイド

ラインに基づいて行われてきている「一時停止」を初めて法律上位置づけたものである。 22 西村ときわ法律事務所編・前掲注 16、968 頁 23 西村ときわ法律事務所編・前掲注 16、971 頁「これに対し、入札方式が必ずしも、透明性・公平性が確

保されているわけではないという批判もある。伊藤眞他『事業再生におけるスポンサー選定等をめぐる諸

問題(上)』銀行法務21、619 号(2003)7 頁」

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20

ポンサーの貸付金が他の一般債権者の債権に劣後させるべき義務があるかについては、必

ずしもコンセンサスが得られているわけではない24。

第2節 ダイエーの再建計画へのアプローチ

第1項 総論

これまで、ダイエーグループは「自社保有(自前)方式」、「全国展開へのこだわり」、「事

業多角化・拡大路線」、「低価格路線への過度の依存」といった4つの特色を推し進めるこ

とで大きく成長した。その反面、これらにこだわりすぎて金融面、財務面で行き詰まって、

危機に瀕した場面に陥った。

当初は、自力による再建も図られていたが、主力三行(UFJ 銀行、みずほコーポレート、

三井住友銀行)の強い要請を受けて、産業再生機構の活用を受諾するに至った。産業再生

機構は、弁護士や公認会計士など約 250 人体制で編成した特別チーム25で資産査定作業に着

手し 2004 年 12 月 28 日に、産業再生機構によるダイエーへの支援決定が正式に行われた。

そこで、産業再生機構はダイエーの抱える「自社保有(自前)方式」、「全国展開へのこ

だわり」、「事業多角化・拡大路線」、及び「低価格路線への過度の依存」の4つの窮境原因

の解消を掲げ、同時に、組織・人事体制を見直し、スポンサーと連携して再建を進める方

針をとった。ダイエー支援決定までに産業再生機構に持ち込まれたケースのほとんどにお

いて、コア事業と非コア事業を整理する再建方針がとられていたが、ダイエーの再建計画

の基本方針では、「スポンサーとの連携」が謳われている。

以下では、ダイエーの事業再生計画の内容とスポンサーの選定について検討を行う。

第2項 再生機構の支援決定と再生の事業計画

① 事業計画等の概要

産業再生機構がダイエー再生のためにどのようなことを行おうとしていたかは本論文に

24この点に関して、実務家の間では「株主有限責任の原則からすれば、スポンサーは投下した株式価値を超

えてさらに追加の負担をすべきではない。また法的整理手続きにおける債権者平等の原則から、その保有

する債権を他の一般債権者に劣後させるべき法的義務は基本的には存在しないといわざるをえない。もっ

とも、スポンサーとして名乗りを上げ、経営者を派遣するなどとして、事業の再建手続きに深く関与した

スポンサーが、再建に失敗した際に、他の債権者と同様の権利を主張したり、追加負担を拒否することに

は、実際には困難なことが多い。再建に失敗することや、失敗により他人に迷惑をかけるということにな

れば、スポンサーとしての社会的評価の下落につながるが、これは、あくまで社会的責任の問題にすぎず、

法的責任の問題とはならない。」という議論もなされている。西村ときわ法律事務所編・前掲注 16、972 頁

25 産業再生機構の人員構成として、産業再生委員会と執行部に分けることができる。産業再生委員会は、

委員長を含め 7人で構成され、政府や銀行界の利益代表者は入っておらず、有識者がすべて独立した個人

の立場で参加されている。執行部は CEO、COO 以下は、大半のスタッフを民間から直接採用し、金融の専門

家だけでなく、経営、会計法務など、幅広い分野から一流のプロフェッショナルである。

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21

おいて重要な事項であるので、機構がホームページ上で正式に発表している事業再生計画

から抜粋しておく。

ア.事業計画

①、基本方針

「自社保有方式」、「全国展開へのこだわり」、「事業多角化・拡大路線」、「低価格路線

への過度の依存」の 4 つの窮境原因を解消する。同時に、組織・人事体制を見直し、

スポンサーとの連携の下で再生を進める。

②、事業ポートフォリオの再編

ダイエーグループは、小売事業、金融事業、不動産事業、その他事業 4 つに分類でき

る事業を営んでいるが、コア事業である小売事業とのシナジー効果の有無と収益性に

より、保有事業、非保有事業の分類を行う。

③、保有事業の基本方針

「自社保有方式」、「全国展開へのこだわり」等からの脱却を基本方針とする。不採算

店からの撤退、不採算カテゴリーの自前売り場の縮小、それに伴う余剰スペースへの

外部テナント招聘などを行う。また、SAM 業態を書くとした積極的な新規出店を首都

圏・近畿圏において行う。加えて、GMS 業態に対する大規模改装投資や、情報システム

投資を行う。

④、非保有事業の基本方針

非保有事業については可能な限り売却を試みる等、グループ価値の低下を回避する方

針である。この結果、グループ子会社・関係会社の相当数を整理統合する。

⑤、組織運営体制の変革

長期にわたる人事リストラ等の影響で低下した従業員の活力を取り戻し、全従業員の

ベクトルが顧客満足度の向上に集約される組織運営体制への変革を図る。具体的には

本社スリム化による現場主導型のフラットな組織体制を構築するほか、社内外を問わ

ずに意欲ある有能な若手を経営幹部層に登用する。

⑥、数値計画

平成 20 年 2 月期において、連結ベース((株)オーエムシーカード・(株)55 ステーシ

ョンを除く)で、営業収益 1兆 4,800 億円、営業利益 400 億円を見込む。

イ.企業組織再編(ストラクチャー)

ダイエーにつき、スポンサー600 億円超、産業再生機構 500 億円(うち債務の株式化(DES)

400 億円、払込 100 億円)の計 1,100 億円超の出資を行うことにより、スポンサー及び産業

再生機構がそれぞれ 1/3 ずつ議決権を取得し、両者の経営関与のもとダイエーグループに

おける「選択と集中」を実現する。

ウ.金融支援の概要

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22

①、債権放棄

関係金融機関等に対し、債権放棄 4,050 億円を要請する。

②、優先株式の消却

主力三行が保有するダイエーの優先株式 1,920 億円(約 82.8%)を消却する。(なお、

消却の対象としない D 種優先株式 400 億円は、普通株式に強制転換された後、ほかの

普通株式と同様に 10 対 1 の株式併合を実施し、併せて大幅な増資が行われることによ

り希薄化される。)

さらに、ダイエー再生における目標値も、支援基準適合性の項目の中に挙げられている

ので、こちらも抜粋しておく。これらの目標は当初、2008 年 2 月末時点までに産業再生機

構の支援を受けることで達成すべき基準として提示されたことになる。

ア.生産性向上基準

ダイエーグループは、本事業再生計画の遂行によって、従業員一人当たり付加価値額が

6%以上向上するほか、自己資本登記純利益率も 2%ポイント以上向上することとなる。

イ.財務健全化基準

ダイエーグループは、本事業再生計画の遂行によって、遊離し負債のキャッシュフロー

に対する比率は 10 倍以内となり、かつ、経常収入は経常支出を上回ることとなる。

以上に述べた再建計画はこれまでのダイエーを全面的に否定し、解体した上でライバル

企業に買い取らせる計画ともみえる。2006 年 7 月 28 日に、丸紅は産業再生機構が保有する

ダイエー株の全体(発行済み株式の 33.67%)を取得したことによって、ダイエーの産業再

生機構を活用した再建スキームが終わりを告げた。

② 債権の買い取りについて

支援決定の次の作業は、再生機構による金融機関の債権の買い取りである。買い取り申

し込み期間は 2004 年 12 月 28 日から 2005 年 2 月 28 日までとされた。この期間は、法第 24

条第 1 項に基づき、関係金融機関等に対し、債権の回収その他債権者としての権利行使を

行わないよう要請がなされた。

また、一般債権の取り扱いについては、再生機構の企業支援において、金融機関が対象

事業者に対して有する貸付金等につき金融支援の依頼が行われるにすぎず、その他の一般

の債権については、何ら影響がないということが明確にされている。事業再生において、

再建が決まっても営業を継続するために、仕入先との取引が滞りなく行われることは非常

に重要であり、一般の債権者からの信用を失わないことが不可欠である。その意味で、債

権取り扱いにおいて明確な区別をつけることが、事業再生の過程においては重要なポイン

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23

トのひとつなのである。

③ 支援決定後の金融支援

産業再生機構は 2005 年 2 月 28 日、ダイエーに対する法第 25 条第 1項に規定する買い取

り決定を行った。「買い取り決定」とは必要な関係金融機関と機構との間で、①関係金融機

関から機構への時価での債権の売却、②関係金融機関における金融支援(債権放棄を行い

残債を引き続き保有したり、債務の株式化(DES)を行ったりすること)のいずれかについ

ての合意が整い、対象事業者の事業再生計画を予定どおり進められることが確実になった

時点で機構が行う決定のことである。

買い取り決定に係る金額等の前提は以下のとおりである。

○対象事業者の債権の元本総額 1,020,562 百万円(A)

○買取り(上記①)に係る債権の元本額 394,336 百万円(B)

○関係金融機関等において金融支援(上記②)

等が行われる再建の元本額 626,225 百万円(A-B)

金融支援額

①債権放棄 債権放棄額 4,050 億円

②優先株式の消却 優先株式 1,920 億円を償却

(上記の数字は買い取り決定時のものであり、実際の買い取り実行までの間に変更があり

得る)

第3項 再生のためのスポンサー選定

再生機構はダイエーの資産査定を踏まえて、主力行などによる金融支援や新たな再建策

を盛り込んだ事業再生計画をまとめ、支援決定を下した。それとともに、約 30 の取引金融

機関に対して債権放棄などの金融支援を要請し、産業再生機構とともにダイエー再生を支

えるスポンサー企業の公募を開始した。

当初、スポンサーの公募に関しては、ダイエーが自主再建策に沿って絞り込んだ3つの

グループが名乗りを上げた。高木社長は、中川経産相に再生機構を活用する方針を伝えた

際、「機構に対して民間ビッダー26に配慮をお願いする」と要請したが、それ以外の企業も

参加できる体制であった。

2004 年 12 月 7 日にはスポンサー企業の第一次入札が行われ、イトーヨーカ堂、イオン、

米ウォルマート・ストアーズなど小売業大手をはじめとする約十社・グループが応札した。

スポンサー企業は 2005 年 3 月までに機構によって選ばれることになっていた。

26 入札準備を進めてきたスポンサー候補のこと。

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24

後の入札である 3 次入札締め切りの 2005 年 2 月 28 日には、大手商社の丸紅、大手ス

ーパーのイオン、投資ファンドのキアコン(東京)をそれぞれ軸とする 3陣営が応札した。

支援企業に選ばれるためには、ダイエー、産業再生機構、主力三行が策定した事業再生計

画に沿って、新たな小売モデルを提案できることが条件であった。入札の価格は 600 億円

以上の提示が必要とされ、再生機構は3陣営が示した再建策や提示金額などを比較し、支

援企業をひとつに絞ることになっていた。丸紅はダイエーグループの食品スーパー、マル

エツの大株主でありダイエーと関係が深いことから有力視されていた。イオンは、京セラ

とともに企業再建の実績をアピールしていた。キアコンは伊藤忠商事などと組み、従来の

スーパー経営にとらわれない発想を強調していた。

ダイエーは 2005 年 3 月 7日、スポンサーに丸紅と投資会社のアドバンテッジパートナー

ズ(AP)のグループが決まったと正式に発表した。再生機構は、ダイエー再建では主要事

業を GMS から食品スーパー主体に移行させる狙いがあり、 終的に丸紅の商品供給力と傘

下の東武ストアとマルエツのチェーン店活用が必要と判断したといわれている。

第3節 産業再生機構・スポンサー支援下での事業再生

第1項 新経営陣

ダイエーは産業再生機構・スポンサーの支援のもと、2005 年 4 月より再建への取り組み

を本格化する。

まずは、ダイエーから 2人(取締役経営企画本部長高橋義昭氏(49)、中前圭司氏(46))、

再生機構から 2 人(マネージングディレクターの大西正一郎氏(41)、松岡真宏氏(37))

の合計 4 人の取締役でスタートし、このうちダイエーの高橋義昭氏(49)が代表権をもつ

社長代行に就任した。(年齢はいずれも就任時点、以下同じ)

さらに、6月にはアドバンテッジパートナーズの招聘により、会長兼 高経営責任者(C

EO)にはビー・エム・ダブリュー東京前社長の林文子氏(58)、社長兼 高執行責任者(C

OO)に日本ヒューレット・パッカード(HP)の樋口泰行社長(47)が就任する。

いずれも、異業種出身の2人のトップのもとで抜本的な経営改革を急ぐことになった。

第2項 2006年2月期の再建の道のり

再建の道のりは、「自社保有方式(自前方式)」、「全国展開へのこだわり」、「事業多角化・

拡大路線」、「低価格路線への過度の依存」といった 4つの窮境原因を解消から始まる。

2004 年末に 53 店舗の店舗閉鎖の計画を示したが、2006 年 2 月期には対象店舗の入れ替

えはあったものの、店舗数では計画通りの 53 店舗の閉鎖を完了し、翌 2006 年 5 月に本社

機能の移転完了に伴い、54 店目となるダイエーナウ芝公園店(東京・港)を閉鎖した。地

元商店街、地元政治家の反対がある中での短期間での店舗閉鎖は、公的な使命の下に設立

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25

された再生機構の関わりの成果として十分に評価できるが、それをもってしても、当初計

画通りの店舗を閉鎖できなかったようだ。

しかしながら、「全国展開のこだわり」から脱却し、ダイエーが重点地域とする首都圏(78

店舗)、近畿(74 店舗)、九州(39 店舗)に経営資源を集中できる体制となった。

存続店舗においては、当初計画 30 店に 5店上乗せし、35 店の店舗改装を終えた。ここで

は直営していたスポーツ用品、大型家具、100 円ショップを順次閉鎖し、提携したイオン系

ドラッグストアの CFS コーポレーション他、100 円ショップのダイソー、電器店のミドリ電

化等の外部テナントを誘致している。

一方で、首都圏・近畿圏で小型食品スーパーを 5 年間で約 100 店設ける積極的な計画を

打ち出したが、2005 年 10 月には 5 年間で 60 店舗に下方修正した。ダイエー再建の柱とな

る食品スーパーの出店であったが、計画の進捗に遅れが生じ始め、出店コストも予想以上

に膨らむとの予想により判断したと考えられる。

また、非中核事業のリストラも急ピッチで進めてきた。株式、不動産の売却の他、カー

用品販売、奈良ドリームランドの事業遊園地事業、大阪新歌舞伎座、牛丼チェーンの神戸

らんぷ亭の事業売却も進めた。 しかしながら、撤退予定であった地方都市の百貨店事業は売却先が見つからず、黒字店

に集約した上で、事業を存続することになった。 以上のようにリストラを中心とした初年度の取り組みとしては、多少の計画修正はあっ

たものの、概ね完了した。

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26

第3章 財務状況・事業状況の評価

産業再生機構によるダイエー支援は 2006 年 9 月に保有するダイエー株式の丸紅への売却

を以って一旦終了した。その後、筆頭株主となった丸紅は新たなスポンサーとして小売業

のノウハウを持つイオンを招聘、事実上ダイエーはイオングループの傘下で再生を目指す

こととなった。

産業再生機構は、当初事業再生計画の概要の中で、3年以内のリファイナンス(=再生機

構の本案件からのイグジット)の可能性があることを示唆していたが、実際の再生機構に

よる代―株式の売却は買い取り決定のわずか 1年 5ヵ月後であった。

産業再生機構は、ダイエー案件からのイグジットを決めた理由として、「再生に一定の目

処がたった」27ということを挙げているが、再生機構が売却を決定した 2006 年 7 月末現在

においては、未だ再生途上であったとの見方が多い。

そこで、本節ではダイエーが再生機構入りした 2005 年 2 月期と直近期である 2006 年 2

月期決算について、支援企業であるイオンとの比較を中心にして、財務状況・事業状況の

評価を行うことで、本案件における産業再生機構支援について財務的側面からの評価を行

う。

第1節 比率分析

① 【総合力】

図表8:ダイエーとイオンのROE/ROA比較

Feb-05 Feb-06 Feb-05 Feb-06<総合>ROE - 366.82% - 11.17% 4.42% -6.75%ROA -26.30% 27.82% 54.12% 2.32% 1.02% -1.30%

ダイエー イオン増減 増減

各社財務諸表より作成

<ダイエー>収益性の改善により ROA が大幅改善

① ROE:ダイエーは、2005 年 2 月期に、普通株式 10 株を 1株に株式併合したこと、及

び 2006 年 2 月期に株式併合、資本減少並びに資本減少による無償強制消却を行って

いることから、2005 年 2 月期には株主資本がマイナスに、2006 年は辛うじてプラス

になったが、当期利益対比極めて株主資本の水準が低くなっているために、正しく

ROE を求めることが出来ない。

② ROA:一方 ROA は、大幅に増加している。この要因を ROA の分解により分析すると

27 産業再生機構ホームページ、「株式会社ダイエー株式譲渡について」2006 年 7 月 28 日より

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27

(収益性)(効率性)ROA=売上高

当期利益総資産売上高 ×

となり、それぞれの要因による寄与率は、効率性(+0.18)、収益性(+51)となって

いる。従って、2006 年 2 月期の ROA の改善は、特に収益性が向上したことに起因し

たことによるものであったことが分かる。

<イオン>収益性、効率性、財務レバレッジ共微減、ROE、ROA 共に低下

① ROE:イオンの 2006 年 2 月期の ROE は 2005 年 2 月期対比減少している。この要因を

ROE の分解により分析すると

(財務レバレッジ)(効率性)(収益性)ROE=株主資本

総資産

総資産

売上高

売上高

当期利益 ××

となり、それぞれの要因の寄与率を求めると、収益性(▲0.8)、効率性(▲0.01)、

財務レバレッジ(▲0.02)となっている。従って、2006 年 2 月期の ROE の低下は、

特に収益性の低下によるものであることがわかる。

② ROA: ROE の分解からもわかるように、収益性、効率性共に低下していることか

ら、ROA も低下(▲1.3)している。

② 【収益性】

図表9:ダイエーとイオンの収益性比較

Feb-05 Feb-06 Feb-05 Feb-06<収益性>売上高総利益率 37.04% 37.27% 0.23% 33.68% 34.64% 0.96%売上高営業利益率 2.31% 2.66% 0.35% 3.50% 3.75% 0.25%売上高経常利益率 0.40% 1.45% 1.05% 3.72% 3.97% 0.25%売上高当期利益率 -27.88% 24.66% 52.54% 1.48% 0.65% -0.83%

ダイエー イオン増減 増減

各社財務諸表より作成

<ダイエー>本業の収益性改善は途上

ダイエーは 2006 年 2 月期に大幅に収益改善している。債務免除益を除いて、利益率の改

善を比較したところ、特に売上高経常利益率の改善が顕著であった。この要因を分析する

と、①小売事業自体は減収減益でダイエー単体では赤字に転落しているが、金融事業や専

門店子会社の業績が好調であった為、連結では増益となっていること、及び②2005 年 2 月

期の特殊要因として、持分法適用関連会社において、減損会計基準の早期適用したこと等

による投資損失(営業外損失)を計上していたこと、によるものであることが分かる。以

上から、ダイエーは 2006 年 3 月期に 53 店舗の不採算店の閉鎖を完了させたが、収益改善

効果が今のところ数字に表れてきておらず、本格的な収益改善は途上であると考えられる。

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28

<イオン>同業他社比一足早く収益改善。 高益更新。

図表10:GMS各社売上高利益率推移(GMS単体決算ベース)

イオンは、2006 年 2 月期に当期利益

では収益減少となっているが、経常利

益段階迄では前期比収益増加となって

おり、連結営業収益、連結営業利益、

及び連結経常利益はいずれも 6 期連続

で過去 高を更新している。この要因

を分析すると、①GMS 事業及び金融サ

ービス事業が好調であったこと、②特

殊要因として、減損会計の早期適用に

よる減損損失を計上したこと、によるものであることが分かる。

GMS 単体で見た場合、各社共にここ数年一貫して利益率が低下傾向にあった(図表 10)。

特にダイエー・西友は売上高営業利益率がマイナスとなっており GMS 事業自体がグループ

利益を圧迫していることがわかる。

しかしながら、イオンは GMS 各社の中で唯一 GMS 単体での売上高営業利益率が改善して

いる。

③ 【効率性】

図表11:ダイエーとイオンの効率性比較

Feb-05 Feb-06 Feb-05 Feb-06<効率性>売上債権回転期間 31.98 32.01 0.03 16.86 19.31 2.45在庫回転期間 16.53 14.25 -2.28 24.14 23.66 -0.48仕入債務回転期間 24.08 22.70 -1.38 42.00 40.51 -1.49

ダイエー イオン増減 増減

各社財務諸表より作成

<ダイエー>在庫削減により効率性改善

ダイエーは、2006 年 2 月期に店舗の閉鎖及び在庫一掃セールを行ったことにより、不良

在庫を削減。在庫回転期間が約 2 日減少している。一方、仕入れ債務回転期間は約 1.5 日

減少しているが、信用不安の高まった 2001 年以降、仕入債務回転期間は従前の 27 日から

22 日に減少、過去 5 年の平均(22.46 日)並みであるが、再生途中であることもあり依然

業種平均と比較して 10 日ほど短くなっている。

<イオン>クレジットカードの新発により売掛金増加

-1

0

1

2

3

4

5

1994

/02

1996

/02

1998

/02

2000

/02

2002

/02

2004

/02

2006

/02

売上高営業利益率ダイエー

売上高営業利益率イオン

売上高営業利益率 IY

売上高営業利益率西友

売上高営業利益率マイカル

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29

イオンは、2006 年 2 月期に売上債権回転期間が約 2.5 日延びている。しかし、イオン単

体での売上債権回転期間は減少しており、一方で売掛金の内訳を見るとクレジット会社宛

の売掛金が増加している。ショッピングセンターの新設や、イオンカルフールカードの発

行により、新規に 80 万枚(既存発行枚数の 6%)のカードを発行していることから、イオン

クレジットがクレジット会社宛に立替払いしている売掛金が一時的に増加しているものと

考えられる。

④ 【安全性】

図表12:ダイエーとイオンの安全性比較

Feb-05 Feb-06 Feb-05 Feb-06<安全性>流動比率 55.59% 156.00% 100.41% 118.70% 129.61% 10.91%当座比率 25.68% 69.44% 43.76% 47.67% 52.15% 4.48%自己資本比率 -25.33% 8.38% 33.71% 22.97% 23.09% 0.12%インタレストカバレッジレシオ 2.835 2.877 0.04 21.499 25.61 4.11

ダイエー イオン増減 増減

各社財務諸表より作成

<ダイエー>有利子負債の圧縮により流動比率大幅増加

ダイエーは 2006 年 2 月期に流動比率が大幅に増加しているが、これは有利子負債の圧縮

によるものである。流動比率は 100%から 150%あれば十分であるとされるため、ひとまず安

全圏に入ったといえる。しかしながら、自己資本比率は大幅に利益改善したことで、プラ

スに転じているものの一桁台であり、安全性には未だ不安が残る。

<イオン>比較的安定している

イオンも 2006 年 2 月期に流動比率が 10.91%増加している。イオン単体での流動比率は殆

ど変化していないことから、流動資産、特にクレジット会社向けの売掛金が増加したこと

によるものであると考えられる。自己資本比率は GMS 業界の中では、イトーヨーカ堂

(44.45%)に次いで業界二位の水準であり比較的安定している。

⑤ 【成長性】

図表13:ダイエーとイオンの成長性比較

Feb-05 Feb-06 Feb-05 Feb-06<成長性>売上高成長率 -8.02% -8.65% -0.64% 18.32% 5.59% -12.73%総資産成長率 -28% -17.43% 10.98% 5.47% 6.42% 0.94%

ダイエー イオン増減 増減

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30

各社財務諸表より作成

<ダイエー>売上回復の兆しはまだ無い

2006 年 2 月期は、①やや景気は改善しつつあったが、消費に結びつくほどの本格的な回

復はまだであること、②店舗の閉鎖により小売事業が減収となったこと、により引き続き

売上高は前年同期比マイナスとなっている。

<イオン>引き続き増収増益基調

図表14:GMS各社の売上高伸び率推移(GMS単体決算ベース)

一方イオンは1998年2月

期以降、一貫して増収を継

続している。特にイオンは

他の GMS と異なり金融部門

だけでなく、本業の小売事

業も良好で、他の GMS 単体

の売上高伸び率が軒並みマ

イナスとなっている中唯一

増収を続けている。売上高

販管比率を比較すると、ダ

イエーと比べて 3%高く、業

界平均と比較しても 1%から 2%程度高くなっていることから、販促や広告に注力しているこ

とが小売事業堅調の理由であると推測される。

第2節 キャッシュフロー分析

<ダイエー>

営業活動による CF:2006 年 2 月期の当期利益は前期比大幅増加であったものの、営業活動

による CF は前期比▲21,359 百万円となっている。要因としては、①前期の損失の大半は固

定資産減損損失であったのに対し、2006 年 2 月期は利益の大半が債務免除益や有価証券売

却益であり、営業 CF に寄与しないこと、②事業再構築引当金の減少(▲216,620 百万円)

や自社保有店舗閉鎖に伴う預かり金の返還(▲17,945 百万円)が発生したこと、が挙げら

れる。

投資活動による CF:2006 年 2 月期の投資活動による CF は大幅に改善(+106,536 百万円)

している。要因としては、投資有価証券の売却収入(+59,212 百万円)、テナント店舗閉鎖

に伴う差入保証金の返還(+11,247 百万円)、有形固定資産の売却収入(+16,208 百万円)

等、リストラや資産処分によるものが主である。

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

1994

/02

1996

/02

1998

/02

2000

/02

2002

/02

2004

/02

2006

/02

売上高伸び率 ダイエー

売上高伸び率 イオン

売上高伸び率 IY

売上高伸び率 西友

売上高伸び率 マイカル

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31

財務活動による CF:2006 年 2 月期の財務活動による CF は、有利子負債の圧縮(▲190,663

百万円)に伴い、大幅マイナス(▲126,747 百万円)となった。

CF 総合:2006 年 2 月期は資産処分によりに生み出された余剰 CF を有利子負債の圧縮に充

てることで有利子負債 CF 倍率を低下させることに注力し、財務内容の改善を図ったという

ことがいえる。

<イオン>

営業活動による CF:2006 年 2 月期の営業活動による CF は、前期比倍増(+67,965 百万円)

しているが、主な要因は減損適用前における利益の増加(+46,756 百万円)である。

投資活動による CF:2006 年 2 月期の投資活動による CF は、前期比やや増加(+41,603 百

万円)しているが、主な要因は店舗出店に伴う固定資産取得費の増加(+24,365 百万円)

である。

財務活動による CF:2006 年 2 月期の財務活動による CF は、前期比やや減少(▲14,002 百

万円)であるが、主な要因は長期借入金の返済増加(▲33,151 百万円)である。

CF 総合:2006 年 2 月期は、利益の増加により生み出された余剰 CF を有利子負債の圧縮と

出店資金に充てることで、財務の健全化と事業拡大を図ったということがいえる。

第3節 評価

以上の、ダイエーとイオンの財務状況の比較評価から、ダイエーは①債務免除と資本注

入による大幅な財務改善、②店舗リストラ・在庫処分による一定の収益効率改善、はみら

れるものの、一方で①GMS 業界全体が低成長若しくはマイナス成長の中、特にダイエーは

GMS 中でも 低の水準であることから成長性に不安があること、②OMC などの関連企業の収

益の寄与率が高く、債務免除駅を除けば GMS 単体では赤字であり、本業の収益改善は見ら

れないこと、からダイエーのリアルビジネス面での事業再生は未だ途上であり、今後本業

の黒字化をいかに進めるかという大きな課題を残しているということがいえる。

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32

おわりに

以上、産業再生機構によるダイエー再建について、経緯、スキーム、及び財務・事業評

価の面から整理・分析を加えてきたが、これらを通じて、ダイエーはリアルビジネス面に

おいては尚課題があるように見受けられるものの、業績面では他の GMS 各社と比較しても

極端に悪い水準ではなくなったということがわかる。

このことから産業再生機構が、ダイエーの 4 つの窮境原因の解消、すなわち「自社保有

方式」「全国展開への拘り」「事業多角化・拡大路線」及び「低価格路線への過度の依存」

の解消を通じて、①非中核事業の売却、②店舗設備の大規模なリストラ、③債務免除・資

本注入、による財務健全化を一気に推し進めたことで、ダイエーを「普通の GMS」並みにし

たということは言えそうである。

産業再生機構が上記再建プロセスを適切に行えた要因の一つとして、産業再生機構法に

よる営業性債権の保護と、公的機関としての高い信用力を背景として、信用不安を回避し、

ダイエーの営業継続性を確保できたことが挙げられる。

小売業の事業再生においては、その事業特性上営業継続性の確保が必須である。この点

米国においては、米国破産法第 11 章(いわゆる「チャプターイレブン」)により、適用企業

の事業継続に向けた運転資金確保(いわゆる「DIP(Debtor In Possession)ファイナンス28」)

のための制度が整備されている。

例えば、かつてダイエーとも提携関係にあった米国の大型小売チェーン K マートの事業

再生においては、チャプターイレブンの申し立てと同時に総額 20 億ドルのコミットメント

ライン29が確保されており、営業の継続性確保の為に DIP ファイナンスが有効に活用されて

いる。

しかしながら、日本においては十分な DIP 法制度が存在していないため、事業再生にお

ける営業継続性の確保をいかにして行うかが大きな課題となっている。

産業再生機構が解散した今、事業再生の主たる担い手は民間の事業再生ファンドへと移

りつつある。公的機関としての高い信用力を背景としてきた産業再生機構と比べ、信用力

に欠ける民間の事業再生ファンドにとって、再生企業の営業継続性の確保の手段として DIP

法制度に対する関心は高い。

従って、今後の日本の事業再生分野、とりわけ小売業の事業再生において、DIP 法制度に

関する議論は更に重要度を増していくことが予想され、産業再生機構解散後の日本の事業

再生ビジネスの姿を考える上においても、重要なファクターになると考えられる。 28 DIP ファイナンスとは、法律的倒産手続きの中でも、仕入先等の安定的な取引を継続するための運転資

金を確保するための資金調達をいう。チャプターイレブンにおいては、DIP は、裁判所の許可を得ること

なく無担保で借り入れることができ、その借入債務は優先権のある共益債権として、他の債務に優先して

弁済される等、十分な運転資金を確保するための制度が設けられている。 29 尚、貸し手には、JP モルガン証券、フリート証券のアレンジのもと、クレディ・スイス・ファースト・

ボストン、フリート・リテール・ファイナンス、GE キャピタル、JP モルガン・チェース銀行が名を連ねて

いる。

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33

付論:日本の商慣行と商習慣

日本の商慣行といえば、二つの意味合いで語られることが多い。即ち、一つは、返品、

リベート、建値、並びに系列店舗制度など個々の事柄を指すか、ないしは、それらを総称

する場合である。二つ目は、個々の事柄を指すよりも、その基盤ともみなしうるような商

取引の基本特性について語る場合である。両者を区別するために、前者を「商慣行」、後者

を「商慣習」と呼んで区別されている。

第1節 商慣習

第1項 日本の商習慣の特徴

日本の商慣習には次のような特徴がある。

イ)取引を開始する際にも、その後の関係においても、取引条件と共に個人的「信用」が

重視される。

ロ)一旦企業の取引関係ができると、それがひとつの慣行となって「長期継続的な取引関

係」が維持されるのが一般的である。

ハ)取引に際して契約書が作成されていない場合があるほか、契約書が作成されていても、

契約書に取引条件のすべてが明記されていない場合があり、商取引の交渉過程における

意見交換と、その後の状況等を考慮に入れて、契約の解釈が行なわれる。

つまり、日本の「商慣習」の基本特性を要約すると、「取引当事者間の信頼関係を前提に、

取引条件に関して必ずしも契約書に明示されない暗黙の契約をもとにした長期継続的な取

引を重視する傾向にある」ということである。30

日本の商慣習は「暗黙契約」や「あいまいな契約」で海外からよく批判される。しかし

ながら、こうした日本独自の商慣行は、以下に述べるような経済的機能を持っており、取

引にともなう各種の問題への対応の結果生み出された慣習であると考えることができるの

である。

第2項 継続的取引の機能

日本の商慣行のベースをなす継続的取引の機能として上げられるのは、①取引関係の継

続により形成される相互理解や取引関連的な知識の蓄積による合意形成のためのコミュニ

ケーションコストの節減、②取引関係の継続が生み出す関係特定的な資産による、取引契

約の「事後的拘束力」の自律的な確保である。

即ち、取引関係の継続性は、取引契約に伴う事前的合意形成と事後的拘束力の確保とい

う点で、意思決定共同化の基盤を与えているとみなしうるのである。

30 丸山雅祥編『日本の流通システム』 (経済企画庁経済研究所,1991) 43 頁

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34

取引とは、当事者間のコミュニケーションを通じた相互作用に、その本質がある。取引

を進める上で、コミュニケーションの円滑化が果たす役割には大きなものがある。取引の

成立に先立つ交渉過程で、取引当事者の間のコミュニケーションが要求される。しかし、

取引が匿名的で逐次的におこなわれるという疎遠な関係のもとでは、あるいは取引の初期

の段階では、こうしたコミュニケーションコストは極めて高いものとなろう。

しかし、取引関係は本来、取引の結果について問題がないかぎり継続される傾向を持っ

ている。その際、取引関係を継続する過程で、両者の取引に関連する知識や相互理解が蓄

積され、それが取引関連的な無形資産の性格をもち、両者の追加的な取引に利用されるこ

とによって、コミュニケーションコストをはじめとする取引費用の節約を生み出している。

取引の継続性は、このような意味から取引費用の節約に作用するとともに、相互の了解

された事項についてはコミュニケーションを省略したかたちをとることによって、当事者

以外から見たときに契約内容があいまいであるという「あいまい契約」の形態を導いてい

る面がある。

さらに取引条件の合意事項が、その通りに履行されるかどうかという問題もある。違反

に対する対抗措置として も普遍的なものは「取引関係の解消」である。この場合、取引

関係の継続によって得られる利益が、違反によって得られる一時的利益よりも大きい限り、

同意内容は「自己拘束的」となる。囚人のディレンマの状況の理論が示すように、当事者

間で取引が無限に繰り返される状況では、将来収益の割引因子が大きく将来利得に重きを

置く主体の継続的取引関係は、契約の自己拘束性を保証する。

さらに、取引の継続を通じて獲得される、取引関連的な知識の内で、取引当事者間にお

いてのみ大きな価値を持ち、他の相手との取引関係への転用可能性が低いという意味で「関

係特定的」な資産が重きを成している場合、取引関係の解消によって、その資産価値がゼ

ロとなることを防止しようとして、取引条件の合意事項が履行される傾向がある。違反に

よる取引関係の解消には、このような関係特定的な取引関連的資産の放棄という代償が伴

うという点にも留意すべきであろう。31

このように継続的な取引関係は、取引契約の円滑化の手だてとなり、取引主体の間の協

調を安定的に維持するための基盤となっているといえよう。

次に、取引相手を選別する際の問題を検討しよう。契約の事後的拘束力の確保は、時間

的視野の長い、将来収益を重視する主体との間の継続的な取引関係によって保証される。

問題は、このような主体を如何にして識別するかという点である。当該主体が自己の事業

活動に関して抜き差しならない状況にある場合には、当該主体の時間的視野は長期におよ

ぶと考えられる。事業活動に必要となる各種の埋没原価の存在は、当該主体が事業から撤

退することへの「退出障壁」となり、事業へのコミットメントの程度を示すシグナルとな

る。

通常、製造業者と小売業者間の継続的取引を前提とした関係の開設にあたって、双方が、

取引相手の「信用」や「評判」を重視し、事業活動にコミットしているような主体を取引

31 丸山・前掲注 30、44~45 頁

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35

相手に選ぼうとする傾向は、こうした観点から理解できるものと思われる。信用を重視す

る日本の商取引の特性は、このような角度から理解することもできよう。

また、取引関係の継続性は、需要不確実性への取引上の対応として機能している。不確

実性への対応という点では、(1)不確実性それ自体を減らそうとする能動的対応と、(2)残存

する危険の分担にむけた受動的対応の面がある。(1)の面では、情報授受の面での通信上ノ

イズの削減(情報の信頼性の確保)が問題となるが、系列店制などの製造業者と流通業者

との継続的取引関係が、交わされる情報の信頼性の確保に一役買っている。(2)の面では、

逐次的で匿名的な取引関係のもとでは、取引当事者間で危険分担契約を締結するための前

提条件をみたすことがそもそも困難であるのに対し、取引関係の継続によって生み出され

る相互理解や共通知識の形成によって、事前の合意形成のための基盤を形成することで、

取引当事者間での危険分担契約締結の機会を提供している。そのように考えれば「返品制」

や「リベート制」を販売にともなう危険分担のための手だてとしてとらえることができ、

継続的な取引関係をベースとする日本の商慣習と適合的に理解しうることになる。32

第2節 商慣行

日本の商慣行は先に述べたように取引上で重要な経済的機能を持っていると考えられる

が、一方で問題点をかかえていることも事実である。

従来から指摘されてきた問題点として、第1に、競争制限的な制度の問題がある。「再販

売価格維持」(法定ならびに指定再販商品の独禁法の適用除外という規制のあり方を含む)

や「建値制」などによる価格競争の回避、また、「専売店制」や長期的な取引関係により生

じる排他的取引慣行が競争原理を阻害する取引風土を醸成している。

第2に、支配・従属関係の形成による問題がある。「不当な返品」や「不当なリベート」

といった優越的地位の濫用となるような不当な取引条件の拘束や、支配企業による従属企

業の意思決定の束縛が、「系列店制」に見られるような、系列店の主体性の喪失・経営活力

の減退を導き、結果として非効率な零細店舗の温存につながっている。

第3に、垂直的な地域・顧客制限による問題がある。「テリトリー制」や「専売店制」と

いった消費者の選択機会を制限する制度の存在が、消費者利益の毀損につながっている。

以下では、商慣行のプラスの側面と、とりわけ価格競争の側面からみたマイナス面を検

討しよう。33

第1項 選択的な流通経路政策(系列店制度)

流通系列化というとき2つの意味合いを込めて語られる。1つは、流通系列化を行為類

型からとらえるもので、その場合、垂直的取引制限のかたまりを意味することになる。2

32 丸山・前掲注 30、45 頁 33 丸山・前掲注 30、46 頁

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36

つめは、流通系列化を取引様式ないしは、メーカーのチャネル政策という観点からながめ

る見方である。この場合、流通系列化は「代理・特約店制」や「専売店制」のように、メ

ーカーが自社製品の販売店舗を組織化し、販路を特定化する「選択的なチャネル政策」を

意味している。34

何故、メーカーは選択的な流通経路政策を採用するのであろうか。

メーカーは製品施策上、(1)差別化製品の存在、(2)買回り品の存在、(3)製品多様化政策の

展開、といった事象に直面している。このとき、(1)がもたらす継起的独占、(2)に伴う販売

促進活動に関する外部性、(3)のため基礎をなす顧客ニ一ズに関する情報収集、を目的とし

て、製造業者と流通業者間に販売政策に関する意思決定共同化(垂直的協調)の誘因が存

在しているのであり、メーカーが選択的な流通経路政策を採用するのには、こうした垂直

的協調を実施するための基盤として、選択的な流通経路政策を機能させているからである

と考えられる。

しかしながら選択的な流通経路政策もメリットばかりではない。仮に選択的な流通経路

政策の実施過程における意思決定の共同化が、競争制限的な協調行為に利用された場合、

消費者利潤の毀損につながる可能性が高いからである。

このように製造業者と流通業者の垂直的な協調は、2面性を持っているといえよう。即

ち、プラスの側面としては、市場の失敗に対する取引上の対応として垂直的な協調が行わ

れ、それが、製造業者と流通業者、更には消費者を含めて社会的な余剰を増大するように

作用する場合である。

一方マイナスの側面としては、垂直的協調が、競争制限的な協調として利用され、製造

業者と流通業者という当事者にとっては好ましい結果を導くものの、消費者や他の競争企

業にとってマイナスの影響を与える場合である。35

ある局面では、前者の好ましい効果が支配するが、与えられた局面によっては、後者の

ように社会的に好ましくない側面があらわれる。したがって、選択的な流通経路政策、あ

るいは、それが支持する意思決定共同化に対する見方は、このような2つの側面からなが

める必要がある。

第2項 建値制

日本では、メーカーが末端小売価格に関して希望小売価格を設定し、それを基準に小売

業者への出荷価格、卸売業者への出荷価格を交渉するという「建値制」が採られている。

建値制をメーカーが指定する希望小売価格と理解するならば、こうした制度は、米国にも

存在し、日本に固有のものではないが、日本のほうが広範囲にわたっていると指摘されて

いる。

小売段階の建値(希望小売価格)を、メーカーによる小売上限価格規制であると理解す

るならば、それは、製品差別化を伴う商品に関する継起的独占の問題への対応策であると

34 丸山・前掲注 30、50 頁 35 同上

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37

みなすこともできる。

消費者には、特定ブランドに固執するタイプの消費者と、ブランドにこだわらないタイ

プの消費者が存在する。また、小売価格を探索し、安い価格の店舗で購入しようとする価

格意識的なタイプの消費者と、そうではないタイプの消費者が存在する。これらを類型化

すると、消費者は、イ)ブランドに固執し、価格意識的である消費者、ロ)ブランドに固

執するが、価格意識的ではない消費者、ハ)ブランドにこだわらず、価格意識的な消費者、

ニ)ブランドにこだわらず、価格意識的でもない消費者に類別される。ここで問題となる

のは、ロ)のタイプの消費者の存在である。このような消費者に対して、ブランドを確立

しているメーカーは、製品差別化を背景とした価格支配力をもつため、当該製品について

地域的独占力のある小売業者も、間接的に価格支配力をもつことになる。仮に希望小売価

格が設定されていないとすると、小売価格は、メーカーの独占的マージンに加えて小売業

者の独占的マージンをも付加したものとなってしまう。

図を使って説明しよう。いま、上記ロ)のタイプの消費者の需要曲線が、DD線で表さ

れ、小売業者の平均可変費用はメーカーからの仕入れ価格のみであるとすると、メーカー

に対する小売業者の派生需要曲線(発注曲線)は、dd曲線となる。メーカーの直面する

需要曲線は、dd曲線であるから、これをもとにメーカーは、自己の利潤を 大化する出

荷価格を決定する。いま、メーカーの平均(=限界)費用が一定で、c とすると、出荷価格

は、 pm に決定される。このとき、こうした出荷価格(小売業者からみると仕入れ価格)

をベースとして、小売業者は、自己の利潤を 大化するように小売価格を決定する。結果

としてpd という小売価格が設定される。

図表15

出典:「日本の流通システム」丸山雅祥編 経済企画庁経済研究所 1991年5月 p51

このとき、製造業者の利潤は、四角形pm ABcの面積で示され、小売業者の利潤は、四角

形pd EA pm の面積で示される。しかし、もし小売価格がp * に設定されるならば、製造業

者と小売業者の利潤の合計額は四角形p * FGcの面積となり、より大きくすることができる。

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38

つまり、小売価格が自律的に設定されることで、両者の利潤を 大化する水準より高い価

格設定がなされてしまうことになる。仮に、製造業者が希望小売価格をp * の水準に設定し

たとすれば、 p * という小売価格が消費者に提示されることになる。即ち希望小売価格と

いう建値が、小売上限価格規制としてはたらくことで、結果として小売価格を低下させる

のである。これにより製造業者と小売業者の利潤の合計は高まり、消費者にとっても小売

価格の低下が消費者余剰の増加をもたらすことから、経済合理性の観点からは、希望小売

価格の設定はプラスに機能すると考えられるのである。36

建値制は、こうした機能を持っているため、それが一概に問題ばかりであるというわけ

ではない。しかし、建値制は、以上のような小売「上限」価格規制という面ではなく、以

下にのべるような返品制やリベート制とあいまって、小売価格の「下限」規制という性格

をもち、小売価格の硬直性を導く危険性がある。

建値制と類似するものに「再販売価格維持」がある。再販売価格維持とは、卸売業者が

小売業者に販売する価格、あるいは小売業者が消費者に販売価格を製造業者が指示し、そ

れを守らせようとするものである。再販売価格維持行為は、他の垂直的地域・顧客制限と

共に、垂直的取引制限のひとつである。わが国では、再販売価格維持行為は、同一のブラ

ンドを扱う販売業者間の価格競争を制限するため、不公正な取引方法の一行為類型である

[再販売価格の拘束]に該当するものとして、一部の法定商品(著作物)、指定再販商品

についての適用除外という留保事項を別にすれば、独占禁止法により原則的に禁止されて

いる。1953年の独占禁止法改正以後、公正取引委員会が再販許容商品として指定した商品

は、化粧品、染毛料、医薬品、家庭用石鹸・洗剤、歯磨き、雑酒、キャラメル、写真機、

および既製襟付きワイシャツの9品目であったが、1974年9月から、再販指定商品が縮小さ

れ、税抜き1000円以下の化粧品と、国民の健康に関連の深い家庭用の医薬品にかぎって再

販が許容されている。再販売価格維持の経済的な理由について、多くの見解がある。(A)

小売段階の自律的な価格カルテルの発現形態であると理解する仮説、(B)製造業者間の出

荷価格カルテルに実効性を付与するための手段であるという理解、(C)自社商品が廉売の

「おとり商品」に利用され、小売価格の低下が商品イメージの低下につながり、ひいては

自社商品の需要量の減少を導くことを避けようとして行なわれるという仮説、(D)「継起的

独占」の問題に対する対処の一手段としての理解、(E)小売段階の品質管理、品質保証・

アフター・サービスといった販売上の付随サービスに伴う外部効果に注目した理解等、多

様な説明が存在する。37

第3項 返品制

日本ではアパレル製品、書籍、医薬品を典型として、加工食品はじめ日用品雑貨の分野

を含む広い範囲にわたって返品制度が見られる。欧米では、売れ残ったという理由から、

商品が返品されるケースはきわめて稀である。この点、日本においては、継続的取引を重

36 丸山・前掲注 30、51 頁 37 丸山・前掲注 30、52 頁

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39

視する商慣行が背景にあり、一般的に各種取引契約にはあらかじめ返品をはじめとする危

険分担の手だてが織り込まれている。そのため、欧米には殆ど存在しない返品制度が幅広

い製品分野にわたって広まっていると考えられるのである。

この点をみるために、日本の流通段階における取引契約の形態を検討しよう。38

以下では、説明の便宜上、売手を製造業者(あるいは卸売業者)、買手を小売業者とし、

両者の取引契約について見ていこう。取引契約の代表は、買い取り契約と委託販売契約で

ある。「買い取り契約」とは、需要状況が確定する前に、流通業者が再販売を目的として製

品の買い取りを契約するものである。

他方、「委託販売契約」では、製品の所有権の移転という売買関係は存在せず、製品の所

有権を留保したまま、販売業務を流通業者に委託するにとどまるものとなる。

さらに、両者の中間型として、売手が商品の管理を行いながら、流通業者による販売が

実現した時点で、その分についてのみ、流通業者に商品の所有権が移転し、商品の買い取

り契約が事後的に成立するという「消化仕入」(「売上仕入」ともいう)契約がある。

買い取り契約において、返品が一切不可能なケース(通常、これを「完全買取契約」と

呼ぶ)では、買手が売れ残りの危険を全面的に負担することになる。

逆に、小売価格での買戻しを条件とした「返品条件つき契約」では、製造業者(あるい

は卸売業者)が全面的に危険を負担することになる。

さらに、委託販売において、製造業者が販売量から独立な一定の手数料を小売業者に支

払う契約では、製造業者が全面的に危険を負担することになる。39

このように製造業者と流通業者間の取引条件が、ありうべき需要状況に依存しない契約

形態をとる場合、買い取り契約、委託販売契約の如何にかかわらず、取引の一方の当事者

が危険を全面的に負担することになる。

他方、両者間の取引契約が、需要状況の確定する前に、おのおのの需要状況に応じた取

引条件のとりきめを行っている場合、取引当事者間で危険分担がなされることになる。

まず、買い取り契約において売れ残りの返品が出荷価格(流通業者の立場からみれば仕

入価格)で行なわれる場合を考えてみよう。このような返品条件つき契約では、売れ残り

在庫を製造業者が出荷価格ですべて引きとることになる。だからといって流通業者が需要

不確実性から開放されているわけではない。というのは、流通業者の売上高は、需要の不

確実性を反映して、事前には不確実であり、流通業者の危険負担が残存するからである。

実は、委託販売契約と買い取り契約の中間型をとる「消化仕入(売上仕入)契約」は、

形態面では返品が出荷価格で行なわれる買い取り契約と全く同等であると理解できよう。

それゆえ、消化仕入(売上仕入)契約の場合にも、流通業者の危険負担が存在する。

さらに、委託販売契約において、製造業者が販売量に応じた手数料を支払うときには、

流通業者の収入は不確実となり、需要状況の不確実性にともなう危険負担が必要となる。

後に、買い取り契約において、返品条件が売れ残り数量に依存するという一般的ケー

38 丸山・前掲注 30、52 頁 39 同上

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40

スでは、製造業者と流通業者が共に危険負担を行なうことは明らかであろう。また、完全

買い取り契約において、需要状況に応じたリベートの支払い契約が行なわれている状況で

は、製造業者と流通業者が共に危険負担を行なうことになる。

通常、買い取り契約は買手の危険負担、委託販売契約や消化仕入(売上仕入)契約は売

手の危険負担であると考えられることが多いが、以上で見たように、これは誤った認識で

ある。

もともと、流通業者の介在する間接流通システムは、需要変動にともなう危険分担の発

現形態であるとみなすことができる。流通業者の社会的品揃えが、危険のプーリングによ

る総体的危険の削減機能をもつことから、流通業者に危険を負担する余地が生まれ、製造

業者が独立の流通業者との売買契約を介した間接流通を選択することによって、自ら負う

べき危険の一部を軽減しているといえるからである。しかし、完全買い取り契約が、製造

業者と流通業者との取引にとって も好ましいわけではない。

何故ならば、流通業者への過度な危険負担の要請は、流通業者の危険回避的行動を通じ

て製造業者に対する発注が過小となるため、製造業者にとって、完全買い取り契約のもと

で流通業者への危険の一方的な転嫁が常に好ましいというわけではないからである。

売れ残りの返品をみとめた返品条件つきの取引契約を結び、製造業者(あるいは卸売業

者)が危険の一部を分担することによって、小売店舗に自社製品を置きやすくなる。そう

すれば、日用品のように、製品の露出機会を高めることで販売の拡大につながることもあ

る。

また、小売店舗の品揃えが充実することは、消費者にとっても便利なことである。しか

しこの場合、消費者への便宜の提供とは裏腹に、売手は販売に伴う危険を負担しなければ

ならない。返品制は、製造業者と流通業者の間における、こうした危険の分担メカニズム

である。

返品制によって支えられる医薬品についての常備薬の役割は、この点で意味を持つであ

ろう。また、百貨店の幅広い品揃えは、委託販売や返品条件つき契約といった仕入れ方法

によって支えられている。

また、地域的な需給のミスマッチを返品制によって解消しうる面や、返品制に応じるこ

とによって、小売店の売り場の設計、品揃えなどについてイニシアティヴがとれることな

ど、売り手にとってメリットがあると指摘されることもある。

しかし、返品制に問題がないわけではない。日本では売れ残りを廉売処分して、売り切

ってしまわず、売手に返品する場合があるのは、なぜなのだろうか。また、このような状

況で、売手が売れ残りの返品を受けいれるのは、どうしてなのだろうか。これまで返品制

を、危険分担という観点からながめ、その機能を見てきたが、もうひとつの側面があるよ

うに思われる。

この点については、日本の商慣行とされる「建値制」と関連しているのではないだろう

か。建値制のもとでは、小売の実売価格が、希望小売価格を大きく下回っては、取引の標

準や参考としての希望小売価格の意味がなくなってしまう。それゆえ、メーカーが建値制

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41

を維持しようとすると、売手は返品を受けいれることになり、逆に、返品制度のもとで、

価格維持がはかられているのではないかと考えられる。

日本の商慣行のもとでは、継続的な取引関係をベースとした製造業者と流通業者間の意

思決定共同化が、競争制限的な協調行為に利用される面も否定できない。とりわけ、上で

みたような「返品制度」と「建値制」があいまって、小売段階での価格競争の回避ないし

は、小売価格の硬直性につながりうる面があると考えられるのである。40

第4項 リベート制

日本の商慣行は重要な経済的機能を有する一方で、不透明で公正さに欠けると諸外国に

批判され「両刃の剣」の性質を持っている。商取引におけるリベートの受渡しは、日本の

商慣行の一つとして古くから広く行われている。

「独占禁止ガイドライン」においては、リベートは「メーカーが仕切り価格(販売価格)

とは別に、取引先の流通業者に対して制度的に、あるいは個別の取引ごとに支払う金銭」

と定義している。41

つまり、メーカー(売り手)と卸や小売店など流通業者(買い手)との商取引が成立し

た後になって、一定条件を満たした買い手に対して売り手から支払われる割戻金のことで

ある。厳密に言えば、買い手が商品の代金を支払うにあたって、その一部を割り引く「デ

ィスカウント」とは異なり、商取引後に売り手から買い手に返却される商品代金の一部と

いう点で特徴がある。

ただ、日本では「ディスカウント」や「アローワンス」(現金決済など決済手段に応じて

支払われるリベート)の意味も含めてという場合が多い。

類似の商慣行としてメーカーが流通業者からマージンの全部または一部を徴収し、これ

を一定期間保管した後に支配戻すという「払込制」がある。また商品を百個買えば特別に

同じ商品十個を付けるというような添付販売や、別の商品をおまけにつける(接待や商品

券なども含む)行為なども日常の中でリベートと呼ばれることがある。

リベートは一般的にはメーカーから直接にあるいは卸などの中間業者を介して小売店に

支払われるが、その目的には販売促進目的、奨励的目的、統制管理目的の三つがあるとい

われている。そしてその仕組みからリベートを分類すると、「数量リベート」、「占有率リベ

ート」、「累進リベート」、「忠誠度リベート」などに分けられる。

まず、「数量リベート」とはメーカーないしは卸が定めた一定の数量を超えた取引が行わ

れた場合には、一定の額のリベートが小売業者に支払われるというものである。このリベー

トシステムのもとでは、大量仕入れを行いうる量販店の仕入れ価格が事実上低くなると言

う効果が生じる。

次に、「占有率リベート」とは販売業者の取扱額のうち、特定メーカーの取引額の多寡に

応じて支給されるものである。小売店としては、多額のリベートを得るには、ある特定のメ

40 丸山・前掲注 30、52 頁 41 柴田章平編著『独占禁止法の解説』(大成出版社,1994)

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42

ーカーの商品の取り扱い率を高める必要があるため、そのメーカーの事実上の専売店にな

るとの判断を行うこともあり、この場合には、メーカーからすれば専売店化のための手段

ということになる。

さらに、「累進リベート」とは特定メーカーの販売額の多寡に応じて累進的にその支払額

が増やされるリベートのことであり、これも占有率リベートと並んで、専売店化の手段と

して用いられることがある。

後に、「忠誠度リベート」とは、例えば価格水準の維持、メーカーが推奨する販売方法

の採用等のメーカーの販売政策に対する忠誠度に応じて支払われるリベートのことである。42

リベートは様々の目的で支払われ、価格の一要素として市場の実態に即した価格形成を

促進するという側面もあるため、リベートの供与自体は直ちに独占禁止法上に問題になら

ない。たとえば、数量リベートの支給である。リベートを原資として仕入価格を割り込む

価格での販売を導き、建値(希望小売価格)と実売価格との極端なギャップを生み出すこ

とにもなる。建値制は、小売価格の「上限」を規制するものだと理解すれば、それ自体は

問題ではない。

ただし、比較対象価格としての希望小売価格が実売価格と大きく掛け離れ、それらを併

記される「二重価格表示」が、値引き販売の手段として利用される際、実売価格との間の

大きなギャップは、見かけ上の安売り強調として景品表示法上の不当表示になるおそれが

ある。43

また、流通業者の事業活動を制限することになると、独占禁止法上問題になる。例えば、

メーカーが流通業者に対し示した価格どおりの価格で販売しない際にリベートを削減する

場合や、リベートを交渉手段として流通業者の販売価格(再販売価格)、競争品の取り扱い、

販売地域、取引先などについて制限を行った場合である。再販売価格の拘束については原

則違法である。また、他の制限についても有力なメーカーによって行われた場合、流通業

者の競争品の取扱いを著しく制限することとなり、新規参入者や既存の競争者にとって代

替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがあることから不公正な取引

方法に該当する。44

そして、流通業者がいくらで販売するか、競争品を取り扱っているかどうかによってリ

ベートを差別的に供与する行為それ自体も、流通業者に対する違法な制限と同様の機能を

持つ場合には、不公正な取引方法に該当する。

日本におけるリベートは、複雑さと種類の豊富さという点から、取引当事者にとってさ

え、その全貌を把握することが容易ではない状況にあるといわれている。こうしたリベー

トの不明瞭さが、小売業者による独自の合理的な利益計算にもとづく価格設定を困難とし、

ひいては、メーカーの指定する希望小売価格での安易な販売を促しているとするならば、

42 樋口剛著『これからどうなる商慣行』(日本経済新聞社,1991) 43 丸山・前掲注 30、54 頁

44 コタベ/ウエィラ―著 鈴木武訳『日本の反競争的商慣行』(同文舘出版社,2000)

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43

価格形成メカニズムの障害となり、小売段階での価格競争を抑制することになる。

リベートについて、批判の声が多いのは事実であるが、全くもって不合理であるとは言

いきれない。例えば「数量リベート」、「貢献リベート」などのリベートは販売促進へのイ

ンセンティヴを与えることを目的としているので、メーカーにせよ、小売店にせよ、高い

利益率を確保ができる。また、「累進リベート」が提供されている場合、購入者に対して小

さなロット・サイズの注文の頻度を減らし、大きなロット・サイズの注文への変更を促す

ように作用するため、売り手にとって注文を処理する経費をはじめ販売費用の節約の効果

がある。また、「決済リベート」をはじめ取引条件の実効性を確保するための手段として利

用されたり、危険分担のために事後的な利潤分配の手だてとして利用されたりという側面

もある。45

第5項 流通サービスの重視

日本の小売は、米国に比べ、とりわけ「低価格志向」という面で業態ヴァラエティの多

様化が進んでおらず、必ずしも消費者の選択の幅が広いとはいえない。家電製品はじめ日

用品についても、ディスカント・ストアの成長が注目されるが、一般的にはどの小売業態

も流通サービスの充実に努める傾向があり、それが「もの」の販売と抱き合わされて、販

売価格に反映されている面がある。

買い手にとっては、どこまでが「もの」の価格で、どこからが「流通サービス」への対

価なのかが明かではないし、買い手とくに消費者は多様であって、ときによって、また、

人によって、流通サービスを必要とする場合も、必要としない場合もある。

「もの」の購入と「サービス」の購入とを分離して選択することができるならば、消費

者にとっても選択の幅が広がることから、より好ましいであろう。従って、流通サービス

をカットし低価格を徹底して訴求する小売業態が一方にあって、他方に、充分な流通サー

ビスを提供する小売業態が存在し、消費者が自由にそれらの店舗を使いわけることができ

るような環境にあることが望ましいと考えられる。

また「もの」の値段と「付随サービス」の値段とが明らかにされ、消費者が選択できる

ならば、小売段階での価格競争が促進される効果も期待できる。

前節において述べたように建値制があるがゆえに、希望小売価格からどれだけ割引をし

ているかが消費者に明示され、建値が小売段階での価格競争の手段として使われている面

もある。しかし反面では、流通サービスの競争に傾斜しがちな日本の傾向は、価格競争の

自由度が建値制によって制約されているがゆえに生み出されていると考えることもできよ

う。46

第6項 まとめ

以上、継続的な取引関係をはじめとする日本の商取引の基本特性(商慣習)の経済的機

45 丸山・前掲注 30、55 頁 46 丸山・前掲注 30、56~57 頁

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44

能を検討した。それは、コミュニケーションコストをはじめ取引費用の節約などを通じて、

取引の円滑化に作用し、製造業者と流通業者の意思決定共同化ないしは垂直的な協調のた

めの基盤となっている。こうして導かれる垂直的な協調は、市場の失敗への私的な対応と

して、消費者を含めた社会的厚生を高める側面を持っている。

しかしながら、継続的な取引関係をベースとする選択的な流通経路政策のもとで、製造

業者と流通業者の垂直的な協調が、競争制限的な協調行為に利用される面がないわけでは

ない。日本の商慣習は、このように「両刃の剣」である。こうした二面性をもって評価す

ることが必要である。

第3節 小売業の特色

昭和 30 年代から、スーパーは低価格訴求を軸に消費者の支持を受け、商品総合化、多舗

化、店舗大型により急成長を遂げたが、昭和 50 年代後半から大手スーパーの業績の鈍化傾

向が見られるようになった。スーパーの業績が鈍化した理由として、①消費者ニーズの多

様化・個性化などの市場環境の変化による商品回転率の低下、②店舗巨大化と伴う固定費

の上昇が挙げられる。そのため、スーパー各社は「業務改革」を行い、これまでの価格重

視・量重視の品揃えから質重視の品揃えへ方針転換するとともに、薄利となったスーパー

事業以外での利益確保を目指し、多角化路線を推進していくようになった。

店舗規模が巨大化したとはいえ、世界基準で見れば日本の GMS は、イトーヨーカドーが

16 位(売上高ベース、2001 年度)、イオンが 20 位(同 2001 年度)に入っているに過ぎない。

これはトップのウォルマートに比べ、約 1/10 程度の売上規模である。

日本で店舗の巨大化が進まなかった一つの要因として考えられるのが、大規模小売店舗

法、いわゆる大店法による出店規制である。

大規模店舗の出店規制の歴史は、1956 年の百貨店法施行から 2000 年の大規模小売店舗法

(以下は大店法と称する)、大店法の廃止、そして大規模小売店舗立地法(以下は大店立地

法と称する)の施行までの主に 5つの時代に分けられる。

1. 1956 年~1973 年 百貨店法期

2. 1974 年~1981 年 大店法導入期

3. 1982 年~1990 年 規制強化期

4. 1991 年~2000 年 規制緩和期

5. 2001 年以降 大店立地法期

図表 16 に見られるように、大店法導入期においては店舗の届出数は増加しており、規制

強化期の 80 年代に入ってようやく、届出が大幅に抑えられるようになった。その後、90 年

代に入り規制緩和の流れから届出が再び急増している。

大店法は「消費者の利益の保護に配慮しつつ、大規模小売店舗における小売業の事業活

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45

動を調整することにより、その周辺の中小小売業の事業活動機会を適正に確保し、小売業

の正常な発展を図り、もって国民経済の健全な進展に資することを目的とする」。と定めて

いる。即ち、中小、零細小売店の事業機会を確保するために作られたものであるが、一方

でこうした保護政策により、中小小売店の競争意識も低下してしまった。

そこで 2001 年に大店立地法が施行することになった。これにより、大店法に規定される

店舗面積は 500m2から 1000m2になり、第一種、第二種の種別区分も種別区分なしに変更に

なった。更に目的も「まちづくりを活性化する」ことになった。そのため、全体的個人需

要の伸び悩みや価格低下のため、小売業全体の事務所数と販売額の減少が続いている。

図表16に小売業売場面積によって、1000㎡以上(第一種大規模小売店舗)と1000㎡未満

(第二種大規模小売店舗)に分けた店舗届出数の推移をグラフで示す。このグラフから、

全体的な事業所届出数が1995年をピークをとして減少しつつある一方で1000m2超の大型店

の事業所届出数の減少はそれほどでもなく、1000m2未満の事業所届出数の減少が著しいこと

がわかる。

即ち、1995年以降、店舗の大型化は更に進展しているという事実がこのグラフから読み

取れる。

図表16:大規模小売店舗届出数の推移

経済産業省「大規模小売店舗の届出状況」に基づき作成

注 1:建物内の店舗面積合計が 3000m2(東京都特別区・政令指定都市 6000m2)以上のもの

ただし、1992 年 1 月 30 日以前の届出については、同 1500m2(同 3000m2)以上のも

の47

47 南方建明著『日本の小売業と流通政策』(中央経済社,2004)、11 頁

0500

1,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0004,5005,000

1974

1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

大店法導入期 規制強化期 規制緩和期

年度

店舗

合計

第二種大規模小売店舗

第一種大規模小売店舗

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46

注 2: 建物内の店舗面積合計が 3000m2(東京都特別区・政令指定都市 6000m2)未満のもの。

ただし、1992 年 1 月 30 日以前の届出については、同 1500m2(同 3000m2)未満のも

の48

大型小売店:従業員 50 名以上の百貨店およびスーパーをいう。百貨店は、日本標準産業分

類の百貨店のうちスーパーに該当しない事業所で、かつ売り場面積が特別区および政令指

定都市で 3000 ㎡以上、その他の地域で 1500 ㎡以上の事業所をいう。スーパーは売り場面

積の 50%以上についてセルフサービス方式を採用し、かつ売場面積が 1500 ㎡以上の事業所

をいう49

第4節 大手総合スーパー5 社の戦略の比較

日本の大型セルフサービス店は、「大衆百貨店」の性格を持つ総合スーパーとして発展し

てきた。現在の大手総合スーパーは内食材料が中心である企業(ダイエー、西友、イオン

など)と、衣料品が中心である企業(イトーヨーカドー、マイカルなど)に分けられる。

90 年代とくにバブル経済崩壊後、大手総合スーパーは大店法緩和期を背景に激増してい

る。一方、駅前立地の比較的小規模小売店がモータリゼーションや消費者ニーズの多様化

に対応できず、店舗の閉鎖も相次いでいる。大手スーパーはこのような店舗を積極的にス

クラップし、替わってモータリゼーションに適応できる郊外立地型の開発を進めたのであ

る。90 年代後半、大手スーパーの出店戦略では幾分駅前立地や都心部への回帰が志向され

る。しかし、近年、①「まちの郊外化」、②「モータリゼーションの進展」、③「郊外住居

者の増加」、④「公共施設の郊外移転」、⑤「中心部の事業所数、従業者数の減少」のため、

出店の大勢は依然として郊外立地型に傾斜している。

また、近年大手スーパーの出店および業態開発戦略において、「GMS 業態を重視する」タ

イプと「GMS 業態と決別する」タイプに分かられる。

前者の代表はダイエーである。90 年代を通し、ダイエーは「ハイパーマート」の形で展

開しており、1997 年 2 月決算時経常赤字が 100 億円を超え、本業の業績が悪化させた。そ

の結果、ダイエーは 1997 年 8 月までに 38 店の GMS を改装し、ふたたび GMS 業態に経営資

源を集中させている。

後者の代表はマイカルと西友である。マイカルは 90 年代に入って、成長が鈍化している

GMS 業態の展開を取りやめ、百貨店と専門店の中間(ビブレ)、百貨店と GMS の中間(サテ

イ)の出店する方針に切り換えた。また、西友は食品スーパーに大型専門店を組み合わせ

た SC 業態の「リヴィン」の開発を推進している。

そして、GMS 業態を放棄するまでに至らないが、新業態の開発に力を注いでいるスーパー

もある。たとえば、ジャスコ(現イオン)はケーヨーと提携しホームセンターを展開した

48 南方・前掲注 47、11 頁 49 金融財政事情研究会・前掲注 1

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47

り、メガマートやマックスバッリューの出店を進めたりしている。又、イトーヨーカドー

も新業態でアリオモールに出店している。

いずれにせよ、今日の大手スーパーは多角化路線から転向し、資本蓄積を図ろうとして

いる傾向が見て取れる。

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参考文献

[1] 日本経済新聞社編,『ドキュメント ダイエー落城』,日本経済新聞社,2004

[2] 金融財政事情研究会,『業種別審査事典 第 8 巻』,金融財政事情研究会,2004

[3] 高木新二郎,『事業再生――会社が破綻する前に――』,岩波新書,2006

[4] 西村ときわ法律事務所編,『ファイナンス法大全アップデート』,商事法務,2006

[5] 伊藤眞他,『事業再生におけるスポンサー選定等をめぐる諸問題(上)』,銀行法務 21

619 号,2003

[6] アドバンテッジパートナーズ・プレスリリース,http://www.advantagegroup.co.jp/,2005.3.7-2006.7.28

[7] ダイエー2006 年 2 月期短信,http://www.daiei.co.jp/corporate/ir/index.html

[8] ダイエー・ニュースリリース,http://www.daiei.co.jp/,2004.12.28—2006.11.10

[9] 丸紅・ニュースリリース,http://www.marubeni.co.jp/,2005.3.7-2007.3.9

[10] イオン・ニュースリリース,http://www.aeon.co.jp/,-2006.10.13-2007.3.9

[11] 産業再生機構資料,『産業再生機構法案およびその施行に伴う整備法案の概要』NB

L,755 号,2003

[12] 産業再生機構資料, http://www.ircj.co.jp/,2004.12.28-2006.11.10.

[13] 週刊東洋経済,2006.7.1,2006.8.12

[14] 丸山雅祥編,『日本の流通システム」,経済企画庁経済研究所,1991

[15] 柴田章平編著,『独占禁止法の解説』,大成出版社,1994

[16] 樋口剛著,『これからどうなる商慣行』,日本経済新聞社,1991

[17] コタベ/ウエィラ―著 鈴木武訳,『日本の反競争的商慣行』,同文舘出版社,2000

[18] 南方建明,『日本の小売業と流通政策』,中央経済社,2004

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付録

ダイエー年表(1957年~2007年3月)

年 月 日 出来事 注記 社長

1957 薬品メーカー株式会社「大栄薬品工業」設立 中内

大阪・千林駅前に「主婦の店・ダイエー」1 号店オープン

1962 商号を株式会社「主婦の店・ダイエー」とする

1964 1 一徳スーパーを買収して東京に進出

1970 年商 1000 億円突破、社名を「ダイエー」に変更

1971 大阪証券取引所第二部に上場

1972 東京証券取引所第一部に上場/八月期売り上げで小売

業日本一を達成

1974 9 米 JC ペニーと業務提携

1980 小売業初の売上高 1 兆円を達成

3 仏オ・プランタンが業務提携、翌年 3 月に神戸に 1 号店を

開業

5 シジシージャパンが業務提携

6 米 K マートと業務提携

1981 1 高島屋株 10%を取得、筆頭株主に

8 十字屋を傘下に

1983 8 プランタン銀座を設立

1991 3 マルエツ株の TOB を実施

1994 3 ダイエー、忠実屋、ユニードダイエー、ダイナハの 4 社が

合併し、新ダイエーに

1995 1 17 阪神大震災発生 ①発生当日から近畿 71 店舗で営業

②キャンペーン展開

初の赤字決算(損失 256 億円)

4 28 シーホークホテル&リゾート オープン

1996 3 1 丸紅(株)と共同出資で(株)ディー・エム・ガスステーショ

ンを設立

28 なんばオリエンタルホテル オープン

1997 2 ヤオハンジャパン(現マックスバリュ当会)から 16 店を買

1997 4 18 カンパニー制度導入

5 15 ヤオハン、16 店舗をセイフーへ譲渡

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12 17 (株)ダイエーホールディングコーポレーション(DOMC)

設立

1998 1 21 GMS を地域別の 7 カンパニーに分割

4 3 ダイエーホームページ「d'club(ディーダッシュクラブ)」を

開設

30 ディックファイナンス社を米国ゼネラル・グロース・プロパ

ティーズ者に 800 億円で売却

30 ほっかほっか亭株式を(株)プレナスに 83 億円で売却

8 5 (株)ダイエーフォート(後に(株)ダイエーフォト)が店頭登

録銘柄として株式公開

1999 1 20 中内が代表取締役会長、鳥羽が代表取締役社長に就任 鳥羽

3 25 ダイエーグループ「再生 3 か年計画」(旧)を発表

4 21 執行役員制度を導入

5 4 アラモアナショッピングセンター売却(約 927 億円)を発表

7 19 ~8 月 1 日 希望退職者受付 (応募者 802 名)

9 25 ダイエーホークス、パリーグ優勝 26~29 日「ホークス優

勝セール」開催

10 28 ダイエーホークス、日本シリーズ優勝 29~11月1日セー

ル開催

2000 1 17 ローソンの発行済み株式の 20%を三菱商事に売却。三

菱商事が筆頭株主に。

1 丸紅がダイエー株の 5%を取得

2 25 リクルート株を売却 (約 1000 億円)

7 26 ローソン株式を東証一部上場

10 3 鳥羽社長のDOMC株取引疑惑が発覚

5 倫理委員会委員長の佐々木博茂副社長、辞表提出

7 ダイエーホークス、パリーグ優勝

10 中内代表取締役最高顧問、鳥羽社長辞任決定

11 佐々木副社長、辞表撤回

13 取締役会で中内顧問、代表権返上 中内潤氏、取締役

から退く

28 ダイエーホークス、日本シリーズ準優勝

11 24 「新・再生3か年計画」(フェニックスプラン)を発表

12 18 高木新体制を発表

12 第一回目の金融支援 優先株で 1200 億円融資

2001 1 10 新経営戦略を発表。CVCへの転換など店舗改装に 300

億円投入を予定。 カテゴリー・バリュー・センター

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30 臨時株主総会で中内氏が取締役を退任、名誉職ファウン

ダーに就任。高木邦夫氏が社長 高木

平山氏が副社長に就任。

2 ローソンの発行済み株式の8%を三菱商事に売却

3 希望退職者 1000 人を募集

7 17 プランタン銀座を持つ高島屋株の発行済み株式の4%を

売却(グループで持つ高島屋株を売却)

8 24 グループ保有のローソン株 1515 万 2500 株(発行済み株

式総数の 14.1%)をUBSW

証券に約 584 億円で売却したと発表

9 東京証券所の株価が上場来初めて 100 円割れ

10 2003 年 2 月期以降の 5 年間で 7500 億円の有利子負債

削減計画を表明

12 20 子会社のオレンジページを 84 億 5000 万円でJR東日本

に売却

2002 1 11 銀座OMCビルを不動産ファンドのダヴィンチ・アドバイザ

ーズ 96 億円で売却

1 18 中内氏、退職金辞退とダイエーホークスなどグループ企

業の役職返上

2 27 新三ヵ年計画を発表。主力三行から 5200 億円の金融支

援。雨貝会長、平山、佐々木 第二回目の金融支援

両副社長が同日付で代表権を返上。副社長は専務に、

三人の常務は取締役に降格

3 19 産業再生法の適用を経産省に申請。2002 年 2 月期決算

を発表。不採算の 60 店舗閉鎖

などリストラ損失が膨らみ、連結最終損益は 3325 億円の

赤字。連結売上高は

2 兆 4989 億円と前年から 14%減少

5 30 百貨店子会社、プランタン銀座の保有全株式を読売新聞

社に 40 億円で売却

9 1 組織再編で平山専務が勤めてきた営業統括を廃止、高

木社長が営業部門も直接管理する体制に。

10 17 日本政策投資銀行がダイエーの主力取引銀行三行と共

同で 600 億円規模の再建ファンドのアドバイザーに就任。

10 18 2002 年中間期決算で単独経常利益が前年同期の 1.5 倍

の 91 億円に。

2003 1 15 新浦安オリエンタルホテルなど4ホテルをゴールドマンサ

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ックスグループに売却

1 27 総合家電販売から撤退すると発表

3 31 平山氏、退社

4 4 高木新二郎氏、産業再生機構の産業再生委員長に就任

18 2005 年までの再建計画の利益目標を下方修正。2003 年

2 月期は単独経常利益が前期比 3%増の 145 億円で、

目標の 200 億円に届かず。

5 21 経産省、ダイエーの新再建計画を承認

11 4 10 月の既存店売上高が約三割増と 14 ヶ月ぶりに前年実

績を上回る。ダイエーホークスのリーグ優勝セール貢献

12 2 福岡事業のうち球場・ホテルを米ファンドのコロニー・キャ

ピタルに売却決定

2004 4 2004 年 2 月期の単独経常利益が前期比 14%増の 165

億円となり、計画の 160 億円という目標を達成。

8 10 主力三行が産業再生機構を活用する方針をダイエーに

伝える

18 ウォルマート、ダイエーの再建支援検討を表明

24 UFJの沖原頭取が「産業再生機構の活用が再建を確実

にする道筋」と言明

29 高木社長、主力三行に再生機構を使わない独自再建案

を主張

31 八月の既存店売上高が前年同月比 6%減少。六ヶ月連

続で目標下回る

再建のスポンサーとして、リップルウッド・HD、サーベラス

グループなどが名乗り

9 1 仕入れ部門と販売部門の組織を再編。外部の専門店や

メーカーをテナントに誘致するための専門チーム発足

3 主力三行が新しい再建計画のためのダイエーの資産査

定でダイエーと合意

? ダイエーの新再建計画案の見直しを主力三行が要求

10 中川経産相が「まず再生機構ありきではない」と発言

15

再生機構がダイエーの資産査定に着手。一方ゴールドマ

ンサックスなど民間の投資銀行とファンドによる査定もス

タート

10 6 再生機構より、民間のDD中止と機構への一本化を求め

られる 回答期限 10 月 12 日

8 UFJ銀行、検査忌避の疑いで東京地検特捜部の家宅捜

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索を受ける

8 UFJの沖原頭取は高木社長に再生機構を活用するよう

要請

9 監査法人が八月中間決算で企業存続可能性を承認でき

ない可能性を示唆

10 経産相中川と高木社長の会談、「民間ベースは民間で」

を確認

11 臨時取締役会が主力銀行に対してゼロ回答を決定

12 再生機構が資産査定打ち切り

13 ダイエーが再建のため再生機構の活用を受け入れる

15 2004 年 8 月中間期決算発表。単独経常利益は前年同期

比 22%増の 62 億円となるが、計画の 70 億円を下回る

連結ベースの売上高は前年同期比 6%減の 9350 億円。

高木社長、辞任を表明

22 臨時取締役会で蓮見常務の社長就任を発表。高木社長

は代表権のない取締役会長に。 蓮見

11 10 月の既存店売上高が前年同月比売上高で 23%の大

幅減収

12 ソフトバンクと球団売却で基本合意

30

再生機構が公募しているスポンサー企業にイオン・京セ

ラ連合、イトーヨーカ堂・三井物産・三井不動産連合など

が名乗り

12 28 再生機構がダイエーの支援決定

2005 3 機構による支援企業買い取り決定期限

3 支援企業に丸紅とアドバンテッジパートナーズが決定

3 30 臨時株主総会 高橋義昭氏(ダイエー)ら 4 人を取締役に

選任 現経営陣は総退陣 新資本構成決議

林文子氏を CEO 含みで顧問に

4 4 食品スーパーを今期数店出店、本格出店は来期以降

一年程度期間限定で「アドバイザー」も迎え入れ

5 再建策まとめ 食品スーパーはミニ店舗で 全体の売り

場総面積の 1 割に外務専門店誘致

14 次期社長(COO)、日本HPの樋口泰行氏に

16 05 年 2 月期連結決算最終損益 5111 億円赤字 GMS 不

振、減損損失、事業再構築の引当金

5 10 事業再構築計画明らかに 従業員24%削減、3年で4300

人 産業再生法の認定を受ける

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19 リクルート株式を 550 億円で売却 農林中金・あおぞら銀

4%ずつ アドバンテッジ 1% 最大の資産売却を終える

26 株主総会で樋口泰行氏と林文子氏が取締役に。それぞ

れ社長と会長に就任 樋口・林

6 11 食品鮮度向上へ直属の専門チームを発足、社長直属の

組織

12 7 月からシステム刷新、大型システム投資 本格的な店

舗への投資を再開 発注・管理システムに 40 億円

26 来春の採用 2.3 倍 200 人 高卒者に限定

7 3 不動産 106 物件を売却、店舗跡地やホテル周辺地 総額

200 億円に

16 05 年 3-5 月期連結業績、経常利益 46 億円 売上高前

年同期比 8%減少 OMCカード営業収益伸ばす

8 30 加工食品 700 億円分の取引先を 10 月メドに国分と菱食

に変更 物流の効率化をねらう

31 大阪や兵庫など 9 店舗を当日閉鎖 機構支援開始以降

初めて

9 1 「新鮮宣言」野菜の鮮度向上を約束

1 百貨店事業継続 有力売却先見つからず

7 11 月に一般社員から希望退職、1500 人規模で人員削減

する方針

9 イオン系ドラッグストア大手、CFSコーポレーションと医

療・化粧品部門の店舗運営について業務提携

19 創業者中内功氏死去

30 閉鎖 54 店舗確定 首都圏・近畿・九州の 3 地域に存続店

の 9 割を集中

30 リニューアルオープンの千里中央店 目玉の総菜が顧客

に好評

10 9 月の既存売上高が前年同月比 7%減

1 カー用品 6 店舗を営業譲渡 譲渡額は数億円

6 総菜の品質向上プロジェクトチーム発足 食品部門強化

策第二段

8 5 年で 100 店としていた小型食品スーパーの出店計画を

60 店程度に抑制 コスト拡大を回避

14 丸井から店長経験者を向かえ、テナント管理などノウハ

ウを カード事業も提携検討

17 05 年 8 月中間決算 売上高、営業利益で目標達成も 既

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存店売上高 7%減 営業CF268 億円赤字

17 新事業計画、子会社 60 社に集約、ロゴも刷新

21 遊園地「奈良ドリームランド」を運営する子会社ドリームパ

ークを不動産会社の点ラッシュに売却

24 閉鎖店の売却第 1 号、広島店、米ファンドのスター・キャ

ピタルに 自社物件 閉鎖 54 店のうち第一号

11 10 大卒の採用を 07 年度再開 7 日から募集の希望退職者

1268 人応じる

15 管理職賞与 3 割減、役員報酬 4-5 割返上 人件費削減

18 10 月の既存店売上高、前年同月比 10%減

全国6箇所に研修所 調理や鮮度管理、パート・アルバイ

トの技能向上のために

30 神戸のハーバーランド店を閉店 13 年の歴史に幕 計 14

店舗閉鎖、前年度末から約 2 割現象、210 店となる

12 ロゴマークを 30 年ぶりに刷新 「d」のマーク」

子会社の牛丼チェーン、神戸ランプ亭を営業譲渡 外食

事業の売却完了

ハワイ州の子会社をドン・キに売却すると発表、海外小売

から撤退

10 世田谷に新型の食品スーパー「フーディアム」の一号店

を開業 コンビニとスーパーの両方の特徴を取り込む

大阪新歌舞伎座を売却すると発表、ほか閉鎖した三店舗

を営業譲渡

日本 HP より川西正晃氏を 1 月 1 日付で総務人事担当執

行役員として招くと発表

06 年 3 月より新プライベートブランド商品を発売すると発

表 高級ブランド高価格帯

2006 1 ダイエー株、07 年 3 月までに丸紅・アドバンテッジパート

ナーズが買い取る方向で調整

07 年 2 月期の単体売上高が 28 年ぶりに 1 兆円を割り込

むのが確実となった

丸紅の以降で 06 年 3 月よりマルエツへの商品供給を停

止することを決定 グループ内調達の適正化 売上高↓

影響

外資から経営幹部 財務や人事など

2 1 組織スリム化 6本部に再編

3 組織再編、GMS と SM(食品スーパー)業態別調達を廃止

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正社員 1 割を社外出向、夏季賞与 2-3 割カットなどコス

ト抑制策 人件費の圧縮 財務の健全化

ホテル跡地、土地売却で連結 66 億円、単体で 34 億円の

特別利益を計上

3 パチンコ事業を売却へ方針転換

06 年 2 月期単独経常損益が 30 億円の赤字 単独、前期

8 期ぶり

存続させる208店すべてを改装計画 直営部分を縮小、

外部の専門店 賃料収入 売り場面積の直営部分を7

7%から67%

相次ぐ追加リストラ パチンコ事業売却、八百人をグルー

プ各社に出向 銀行の債務者区分悪化 全社員賞与カッ

4 7月に不動産関連の連結子会社11社の吸収合併を行う

ことを発表

6 3

「医療モール」併設 小児科・眼科誘致で集客力工場、不

採算売り場転換 家賃収入&集客力向上に結びつくテナ

ント誘致

7 28 丸紅、産業再生機構保有のダイエー株式 33%取得を発表

8 23 ダイエー社長に丸紅出身の西見氏就任が内定

29 丸紅、ダイエー株売却へ向けイオン等と交渉開始

10 5 イオン、ダイエー支援先として優先交渉権獲得

西身氏、ダイエー新社長に就任 西見

2007 3 9 イオン、ダイエーと提携最終合意

以 上