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1. はじめに 大山ダムは、大分県日田市大山町の筑後川水系 大山川(筑後川本川)に流入する支川赤石川に建 設された重力式コンクリートダムで、洪水調節、 既得取水の安定化・河川環境の保全、新規利水(水 道用水)を目的とした多目的ダムです。 大山ダムでは、平成6年10月に有識者等から なる「大山ダム環境対策懇談会」を設置し、環境 調査や影響評価、保全対策の検討・実施等に関す る指導・助言を受けてきました。 環境影響評価法に基づく環境影響評価について は、対象外でしたが、環境影響評価の制度に準じ て動植物の現地調査、環境への影響の予測、保全 対策の検討などを実施し、その結果を、平成19 年4月に「大山ダムにおける環境保全の取り組 み」(環境レポート)として公表し、その方針に 基づき、環境保全対策を実施してきました。 ダム等管理フォローアップ制度に基づき、平成 21年度に「大山ダムモニタリング部会」を設立し、 委員の指導・助言を受けながらモニタリング調査を 実施し、最終年となる平成26年度に、モニタリング 調査結果の評価をとりまとめたので報告します。 2. 大山ダムにおける環境保全への取り組み 次の環境保全対策を実施しました。 ① 希少猛禽類(クマタカ等) 生態系の上位性に位置するクマタカの生息に配 慮しながら工事を実施し、並行して繁殖状況の把 握に努めました。 ② ブチサンショウウオ 工事により改変される沢の環境を復元するとと もに、改変区域内に生息する幼生を影響が及ばな い沢の上流へ移殖しました。 ③ オオムラサキ 幼虫の食樹であるエノキの移植・植栽を行うと ともに、改変区域内に生息する幼虫を改変されな いエノキ生育地や新たに植栽されるエノキ生育地 に移殖を行いました。   ④ 植物の重要な種 イワヤナギ シダ、ギンバ イソウ等の植 物について は、直接改変 を受ける個体 の移植または 播種を行いま した。 ⑤ 水質対策 富栄養化対策として曝気循環設備及び選択取水 設備を設置しました。また、温水放流対策として、 流入水バイパスを設置しました。 オオムラサキ成虫 植物の移植 16 •水とともに 水がささえる豊かな社会 大山ダム環境保全と モニタリング調査結果について

大山ダム環境保全と モニタリング調査結果について3.モニタリング調査の基本方針 モニタリング調査については、次の基本方針を もとに、各調査項目の課題の有無や改善策の必要

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Page 1: 大山ダム環境保全と モニタリング調査結果について3.モニタリング調査の基本方針 モニタリング調査については、次の基本方針を もとに、各調査項目の課題の有無や改善策の必要

1. はじめに

大山ダムは、大分県日田市大山町の筑後川水系大山川(筑後川本川)に流入する支川赤石川に建設された重力式コンクリートダムで、洪水調節、既得取水の安定化・河川環境の保全、新規利水(水道用水)を目的とした多目的ダムです。大山ダムでは、平成6年10月に有識者等からなる「大山ダム環境対策懇談会」を設置し、環境調査や影響評価、保全対策の検討・実施等に関する指導・助言を受けてきました。環境影響評価法に基づく環境影響評価については、対象外でしたが、環境影響評価の制度に準じて動植物の現地調査、環境への影響の予測、保全対策の検討などを実施し、その結果を、平成19年4月に「大山ダムにおける環境保全の取り組み」(環境レポート)として公表し、その方針に基づき、環境保全対策を実施してきました。ダム等管理フォローアップ制度に基づき、平成21年度に「大山ダムモニタリング部会」を設立し、委員の指導・助言を受けながらモニタリング調査を実施し、最終年となる平成26年度に、モニタリング調査結果の評価をとりまとめたので報告します。

2. 大山ダムにおける環境保全への取り組み

次の環境保全対策を実施しました。① 希少猛禽類(クマタカ等)生態系の上位性に位置するクマタカの生息に配慮しながら工事を実施し、並行して繁殖状況の把握に努めました。② ブチサンショウウオ工事により改変される沢の環境を復元するとと

もに、改変区域内に生息する幼生を影響が及ばない沢の上流へ移殖しました。③ オオムラサキ幼虫の食樹であるエノキの移植・植栽を行うとともに、改変区域内に生息する幼虫を改変されないエノキ生育地や新たに植栽されるエノキ生育地に移殖を行いました。  

④ 植物の重要な種イワヤナギシダ、ギンバイソウ等の植物 に つ い ては、直接改変を受ける個体の移植または播種を行いました。⑤ 水質対策富栄養化対策として曝気循環設備及び選択取水設備を設置しました。また、温水放流対策として、流入水バイパスを設置しました。

オオムラサキ成虫

植物の移植

16•水とともに 水がささえる豊かな社会

大山ダム環境保全とモニタリング調査結果について

Page 2: 大山ダム環境保全と モニタリング調査結果について3.モニタリング調査の基本方針 モニタリング調査については、次の基本方針を もとに、各調査項目の課題の有無や改善策の必要

3. モニタリング調査の基本方針

モニタリング調査については、次の基本方針をもとに、各調査項目の課題の有無や改善策の必要性の検討を行い実施しました。① 環境保全対策の効果の確認これまでに実施してきた様々な環境保全対策についてモニタリングを行い、その効果について確認を行う。②‌ ‌貯水池の出現(試験湛水開始後)による環境変  化の把握主に貯水池やその周辺、下流河川を対象とした現況調査を行い、貯水池の出現による環境変化の有無や程度について把握する。

4. モニタリング調査結果の評価

モニタリング調査結果の評価については、次に示すとおりです。① 環境保全対策の効果の確認に係る項目希少猛禽類は、建設期間中、試験湛水中及び管理開始後でも繁殖に成功しており、ブチサンショウウオ及びオオムラサキは湛水後も継続してダム周辺で確認されたことから、これらの生息環境は維持されているものと考えられる。植物の重要な種は、移植した植物が概ね継続して生育していることから、移植先において定着したものと考えられる。水質については、貯水池内においてアオコ等の水質障害は発生していないこと、流入水バイパス

による緩和効果があったことから、現時点では、曝気設備、選択取水設備及び流入水バイパスによる水質保全対策の効果があったものと考えられる。② 貯水池の出現による環境変化の把握に係る項目河川の環境、貯水池の環境、貯水池周辺の環境については、現時点では、ダム運用に伴う変化は顕著には認められない。③ 事業の効果に係る項目洪水調節については、ダム下流域の洪水被害の軽減に寄与していると考えられる。また、利水補給については、ダムからの補給により、河川環境の保全及び既得取水の安定化と新規利水者への用水供給に寄与しているものと考えられる。④ 地域社会への影響に係る項目観光客数等へのダム建設事業の影響については、現時点ではみられないと考えられる。また、大山ダムが観光資源の一つとして、地域の活性化に寄与する可能性があると考えられる。

5. おわりに

大山ダムでは環境レポートを公表し、有識者等の指導・助言を得ながら、環境レポートの方針に基づき、環境保全へ取り組んで参りました。モニタリング部会の委員の皆様においては、大山ダム環境対策懇談会から約20年にわたりご指導・ご助言を頂いたことに、この場を借りて厚くお礼申し上げます。今後も環境保全対策施設を有効活用し、モニタリング調査からフォローアップ調査に移行しますが、環境へ配慮した管理を行っていきます。

クマタカ(平成26年幼鳥)

曝気循環設備

トピックス•17