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カラー高速複合機用定着装置の開発 1. はじめに 原稿複写,プリンタ,FAX および スキャン機能等を有するカラー複合機 の高速化がプリントショップ等の印刷 業界向けだけでなくオフィス向けにも 上市されはじめている.本稿では,カ ラートナー(粉体)を溶融し,用紙等 に定着させるための 省エネに配慮し た環境型の STF (注1) 定着装置(図 1) を紹介する. 2. 原理 複写機の原理については本稿では詳 しく述べないが(概略を知りたい方は, 日 本 機 械 学 会 誌 2005-11 Vol.108 No.1044 (竹原 修 氏) を参照),カラー 定着について簡単に解説すると,カ ラー画像は 4 色(シアン / マゼンタ / イエロー/ ブラック)のトナーを重ね て,用紙上に定着させる(図 2:写真 は 3 色重ねの断面)ため,モノクロに 比べて大きな熱量を必要とする.接触 する被加熱体側(本定着装置では定着 ベルト)の温度を高くするだけでは限 界があるため,用紙との接触(ニップ) 幅を広くしたり,加圧ローラ側にも熱 源を用いたりして,用紙に付与する熱 量を確保している. 3. 課題とその対応 定着装置はカラー複合機全体の使用 電力量の 80%を占めるユニットであ り,定着電力の削減=装置の省電力と なるため,各メーカによる省電力技術 開発はトナーを含めた定着周辺部に集 中している.また,電力使用の大部分 は待機時に消費されるため,ウォーミ ングアップ時間を短くすることで, ユーザに負担なく待機時の電力削減を 行うことが可能となるため,「ウォー ミングアップ時間短縮=省エネ」とい う訴求効果となる.ここでは三つのト レードオフ課題とその対応について述 べる. 3.1  カラー高速化と省エネ (ウォーミングアップ時間短縮) 一般的に,ウォーミングアップ時間 短縮するには,被加熱体の熱容量を小 さくすることが基本となる.ただし, 熱容量を小さくすると,用紙が定着部 を通過するときに,被加熱体の温度低 下が著しく,4 色のトナーを溶融・定 着するカラー機では高速化すると供給 する熱量が用紙へ移動する熱量に追い つかなくなる課題が生じる.したがっ て,カラー高速機での省電力化におい ては,被加熱体の低熱量化と,電力を いかに効率よく伝達するかがポイント となる.そこで,被加熱体として,表 面に弾性層および離型層を有する数十 μm の厚さの Ni 電鋳製ベルトを用い, 上 記 定 着 ベ ル ト を IH(Induction Heating)加熱する直接加熱方式を採 用することで,課題を克服した. 3.2 省エネと温度制御 上述のとおり,被加熱体の低熱容量 化は省エネに対して必須の要件である が,印刷される用紙は多種多様で,幅 の狭い用紙を印刷する場合には,被加 熱体端部の温度が蓄積されてオーバー ヒート状態となり,所定の温度に戻る までの待ち時間(ウエイト)が発生す る不具合が生じる.そこで,IH 加熱 用コイルを 2 分割し,中央部と端部の 温度をモニタして,所定のデューティ 比で交互に加熱することで,被加熱体 の温度を均一に保っている. 3.3 省エネと画質(光沢性) カラーユースにおける「光沢性」と いう指標は,とくに写真画像を扱う ユーザにおいてはとくに重要となる. 光沢性は付与される温度との依存性が 高く,「温度差=光沢ムラ」として画 像にあらわれやすい(図 3).具体的 には被加熱体周期の光沢ムラとなる. そこで,前述の被加熱体である定着ベ ルト内部に熱容量を有したローラ(サ テライトローラ)を配設,さらにサテ ライトローラの熱容量を最適化するこ とで,上記画像劣化の課題とウォーミ ングアップ時間の短縮の両立を図るこ とができた. 4. おわりに カラー高速複合機用の省エネと画質 を両立できる STF 定着技術を確立し, 東 芝 テ ッ ク( 株 )e-STUDIO 5520C/ 6520C/6530C シリーズに搭載してい る.今後,さらなる省電力化による地 球環境保全(CO2 削減)とユーザの利 便性を兼ね備えた装置ならびにシステ ムが必要になるを考えている. (原稿受付 2008 年 9 月 24 日) 〔菊地和彦 東芝テック(株)〕 図 1 STF 定着器構成 STF定着器 サテライトローラ 定着ベルト 定着ローラ ツインIHコイルユニット 加圧ローラ 図1 図 2 カラー画像断面 シアン マゼンタ イエロー 用紙 図 3 温度による光沢ムラ 光沢差 定着ベルト1周分の距離 (注1)「STF」は,Satellite Thermal capacity roller within Fuser belt の略 日本機械学会誌 2009. 1 Vol. 112 No. 1082 53 ─53─

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カラー高速複合機用定着装置の開発

1. はじめに 原稿複写,プリンタ,FAX およびスキャン機能等を有するカラー複合機の高速化がプリントショップ等の印刷業界向けだけでなくオフィス向けにも上市されはじめている.本稿では,カラートナー(粉体)を溶融し,用紙等に定着させるための 省エネに配慮した環境型の STF(注1)定着装置(図 1)を紹介する.2. 原理 複写機の原理については本稿では詳しく述べないが(概略を知りたい方は,日 本 機 械 学 会 誌 2005-11 Vol.108 No.1044 (竹原 修 氏) を参照),カラー定着について簡単に解説すると,カラー画像は 4 色(シアン / マゼンタ /イエロー/ ブラック)のトナーを重ねて,用紙上に定着させる(図 2:写真は 3 色重ねの断面)ため,モノクロに比べて大きな熱量を必要とする.接触する被加熱体側(本定着装置では定着ベルト)の温度を高くするだけでは限界があるため,用紙との接触(ニップ)幅を広くしたり,加圧ローラ側にも熱源を用いたりして,用紙に付与する熱量を確保している.3. 課題とその対応 定着装置はカラー複合機全体の使用電力量の 80%を占めるユニットであり,定着電力の削減=装置の省電力となるため,各メーカによる省電力技術開発はトナーを含めた定着周辺部に集中している.また,電力使用の大部分は待機時に消費されるため,ウォーミングアップ時間を短くすることで,ユーザに負担なく待機時の電力削減を行うことが可能となるため,「ウォーミングアップ時間短縮=省エネ」という訴求効果となる.ここでは三つのトレードオフ課題とその対応について述べる.

 3.1 �カ ラ ー 高 速 化 と 省 エ ネ(ウォーミングアップ時間短縮)

 一般的に,ウォーミングアップ時間短縮するには,被加熱体の熱容量を小さくすることが基本となる.ただし,熱容量を小さくすると,用紙が定着部を通過するときに,被加熱体の温度低下が著しく,4 色のトナーを溶融・定着するカラー機では高速化すると供給する熱量が用紙へ移動する熱量に追いつかなくなる課題が生じる.したがって,カラー高速機での省電力化においては,被加熱体の低熱量化と,電力をいかに効率よく伝達するかがポイントとなる.そこで,被加熱体として,表面に弾性層および離型層を有する数十μmの厚さのNi電鋳製ベルトを用い,上 記 定 着 ベ ル ト を IH(Induction Heating)加熱する直接加熱方式を採用することで,課題を克服した. 3.2 省エネと温度制御 上述のとおり,被加熱体の低熱容量化は省エネに対して必須の要件であるが,印刷される用紙は多種多様で,幅の狭い用紙を印刷する場合には,被加熱体端部の温度が蓄積されてオーバーヒート状態となり,所定の温度に戻るまでの待ち時間(ウエイト)が発生する不具合が生じる.そこで,IH 加熱用コイルを 2 分割し,中央部と端部の温度をモニタして,所定のデューティ比で交互に加熱することで,被加熱体の温度を均一に保っている. 3.3 省エネと画質(光沢性) カラーユースにおける「光沢性」という指標は,とくに写真画像を扱うユーザにおいてはとくに重要となる.光沢性は付与される温度との依存性が高く,「温度差=光沢ムラ」として画像にあらわれやすい(図 3).具体的には被加熱体周期の光沢ムラとなる.そこで,前述の被加熱体である定着ベルト内部に熱容量を有したローラ(サテライトローラ)を配設,さらにサテ

ライトローラの熱容量を最適化することで,上記画像劣化の課題とウォーミングアップ時間の短縮の両立を図ることができた.4. おわりに カラー高速複合機用の省エネと画質を両立できる STF 定着技術を確立し,東芝テック(株)e-STUDIO 5520C/ 6520C/6530C シリーズに搭載している.今後,さらなる省電力化による地球環境保全(CO2 削減)とユーザの利便性を兼ね備えた装置ならびにシステムが必要になるを考えている.

(原稿受付 2008 年 9 月 24 日)

〔菊地和彦 東芝テック(株)〕

図 1 STF 定着器構成

STF定着器

サテライトローラ定着ベルト定着ローラ

ツインIHコイルユニット 加圧ローラ

図1

図 2 カラー画像断面

シアン

マゼンタ

イエロー

用紙

図 3 温度による光沢ムラ

光沢差

定着ベルト1周分の距離

(注 1)「STF」 は,Satellite Thermal capacity roller within Fuser belt の略

日本機械学会誌 2009. 1 Vol. 112 No.1082 53

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