20
1 (作成:江澤良孝) テンソルとは、簡単な表現では 「複数の成分をもち、空間の座標変換に対して、いくつかのベクトルの成分の積に 対応した変換をうけるもの」 である。別の表現では 7) 「テンソルとは、ベクトルからスカラーへの多重線形関数である」 「ベクトルを独立変数にもち、かつそのベクトルをスカラーに変換する関数のことをテンソルとい う」 個のベクトルからスカラーを生成する線形作用が 階のテンソルである」 この表現で2階のテンソルを表すと、 「2階のテンソルは、二つのベクトルを独立変数にもつ関数で、二つのベクトルをスカラーに変 換するものである」 と定義できる。 テンソル積を使った定義では、 ベクトルを独立変数にもち、スカラーを吐き出す関数であり、その階数に等しい個数のベクトル のテンソル積による結合からできているひと組の基底ベクトルを{ , , }とすると、2階のテンソルは、ふた組の基底ベクトルを考え てつぎのように書く = 線形性を使った定義を以下に示す。 (テンソルの定義1) 2階のテンソルの定義 「任意のベクトルに対して、ベクトル()対応させる対応Tについて 線形性 ( + ) = () + () (1) が任意の数の a,b と任意のベクトル, に対して成立するときTを2階テンソルという」 別の書き方では、式(1)の代わりに、任意のベクトル, , 、任意のスカラーに対して ( + , ) = (, ) + (, ) (, ) = (, ) (, + ) = (, ) + (, ) (, ) = (, ) という4つの式で書ける。 3階のテンソルでは、式(1)の代わりに、任意のベクトル, , , 、任意のスカラーに対して ( + , , ) = (, , ) + (, , )

テンソル - BIGLOBEyyhome/Note/tensor.pdf1 (作成:江澤良孝) テンソルとは、簡単な表現では 「複数の成分をもち、空間の座標変換に対して、いくつかのベクトルの成分の積に

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Page 1: テンソル - BIGLOBEyyhome/Note/tensor.pdf1 (作成:江澤良孝) テンソルとは、簡単な表現では 「複数の成分をもち、空間の座標変換に対して、いくつかのベクトルの成分の積に

1

(作成:江澤良孝)

テンソルとは、簡単な表現では

「複数の成分をもち、空間の座標変換に対して、いくつかのベクトルの成分の積に

対応した変換をうけるもの」

である。別の表現では 7)

「テンソルとは、ベクトルからスカラーへの多重線形関数である」

「ベクトルを独立変数にもち、かつそのベクトルをスカラーに変換する関数のことをテンソルとい

う」

「 個のベクトルからスカラーを生成する線形作用が 階のテンソルである」

この表現で2階のテンソルを表すと、

「2階のテンソルAは、二つのベクトルを独立変数にもつ関数で、二つのベクトルをスカラーに変

換するものである」

と定義できる。

テンソル積を使った定義では、

「ベクトルを独立変数にもち、スカラーを吐き出す関数であり、その階数に等しい個数のベクトル

のテンソル積による結合からできている」

ひと組の基底ベクトルを{𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑}とすると、2階のテンソル𝑨は、ふた組の基底ベクトルを考えてつぎのように書く

𝑨 = 𝐴𝑖𝑗𝒆𝒊 ⊗ 𝒆𝒋

線形性を使った定義を以下に示す。

(テンソルの定義1) 2階のテンソルの定義

「任意のベクトル𝒙に対して、ベクトル𝑻(𝒙)を対応させる対応Tについて

線形性

𝑻(𝑎𝒙 + 𝑏𝒚) = 𝑎𝑻(𝒙) + 𝑏𝑻(𝒚) (1)

が任意の数の a,bと任意のベクトル𝒙, 𝒚に対して成立するときTを2階テンソルという」

別の書き方では、式(1)の代わりに、任意のベクトル𝒙, 𝒚, 𝒘、任意のスカラー𝑘に対して

𝑻(𝒙 + 𝑤, 𝒚) = 𝑻(𝒙, 𝒚) + 𝑻(𝒘, 𝒚)

𝑻(𝑘𝒙, 𝒚) = 𝑘𝑻(𝒙, 𝒚)

𝑻(𝒙, 𝒚 + 𝒘) = 𝑻(𝒙, 𝒚) + 𝑻(𝒙, 𝒘)

𝑻(𝒙, 𝑘𝒚) = 𝑘𝑻(𝒙, 𝒚)

という4つの式で書ける。

3階のテンソルでは、式(1)の代わりに、任意のベクトル𝒙, 𝒚, 𝒛, 𝒘、任意のスカラー𝑘に対して

𝑻(𝒙 + 𝑤, 𝒚, 𝒛) = 𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒛) + 𝑻(𝒘, 𝒚, 𝒛)

Page 2: テンソル - BIGLOBEyyhome/Note/tensor.pdf1 (作成:江澤良孝) テンソルとは、簡単な表現では 「複数の成分をもち、空間の座標変換に対して、いくつかのベクトルの成分の積に

2

𝑻(𝑘𝒙, 𝒚, 𝒛) = 𝑘𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒛)

𝑻(𝒙, 𝒚 + 𝒘, 𝒛) = 𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒛) + 𝑻(𝒙, 𝒘, 𝒛)

𝑻(𝒙, 𝑘𝒚, 𝒛) = 𝑘𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒛)

𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒛 + 𝒘) = 𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒛) + 𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒘)

𝑻(𝒙, 𝒚, 𝑘𝒛) = 𝑘𝑻(𝒙, 𝒚, 𝒛)

n階のテンソルはこの延長で定義できる。

テンソル積

3

2

1

a

a

a

a

3

2

1

b

b

b

b

とするとテンソル積は

332313

322212

312111

bababa

bababa

bababa

babaLT

外積は

321

321

321

bbb

aaa

eee

ba

( ie

は直交する単位基底ベクトル)

内積は

iibababa cos

トレースは

n

i

iiAA1

)(tr (対角項の和)

テンソルのスカラー積は

ijij

T BABAtrBA )(:

ベクトル変換

直交座標 に対する成分を ix 、直交座標 に対する成分を ixとすると、ベクトル成分の変換式

3

1j

jiji xax

と書ける。これを単にベクトル変換という。

行列を使ってかくと

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3

3

2

1

333231

232221

131211

3

2

1

x

x

x

aaa

aaa

aaa

x

x

x

ここに、

333231

232221

131211

aaa

aaa

aaa

A

を座標変換の行列という。

テンソル変換

テンソルTの成分は座標変換にともなって次のように変換される

t

ijij ATAT

すなわち

kljikij TaaT

この成分の変換式を「テンソル変換」という。

(説明)

テンソルをTとして、xを任意のベクトルとし、

)(xy T

とする。ここで直交座標 に対する成分を ii yx , 、直交座標 に対する成分を ii yx , とす

ると

3

2

1

3

2

1

x

x

x

T

y

y

y

ij (1)、

3

2

1

3

2

1

x

x

x

T

y

y

y

ij (2)

他方、ベクトル変換によって

3

2

1

3

2

1

x

x

x

A

x

x

x

3

2

1

3

2

1

y

y

y

A

y

y

y

式(2)に代入すると

3

2

1

3

2

1

x

x

x

AT

y

y

y

A ij

3

2

1

1

3

2

1

x

x

x

ATA

y

y

y

ij (3)

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4

式(1)と比較して

ATAT ijij 1

これから

1 ATAT ijij

tAA 1だから

t

ijij ATAT (説明終わり)

(テンソルの定義2) 2階のテンソルの定義

ある量Xは、直交座標系を設定すると、その成分とよばれる9個の数の組 ijX で表されるとする。

座標変換にともなってXの成分 ijX がテンソル変換 kljikij TaaT をうけるとき、量Xをテンソル

という。

テンソルの商法則

ある量Xがあって、直交座標系を設定すると、その成分とよばれる9個の数の組 ijX が定まるとす

る。また、任意のベクトル xの成分を ix とし、

jiji xXY

とする。このとき、直交座標系の変換にともなって iY がベクトル変換をうけるならば、 ijX はテンソル

変換をうける。つまり量Xはテンソルである。

(例)

応力と表面力ベクトルの関係は

3

2

1

333231

232221

131211

3

2

1

n

n

n

TTT

TTT

TTT

t

t

tT

ここに、 n は法線方向外向き単位ベクトルである。当然ながら任意の単位ベクトル in に対して

jiji nT は常にベクトルの成分である。したがって、テンソルの商法則から ij は2階のテンソル

である。

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5

反変と共変

共変の定義:

ある座標系から別の座標系に変換する際、直接変換によって変換される対象を「共変」と呼ぶ。

※ 直接変換行列:ある座標系から別の座標系に変換する際、基底ベクトルの座標変換と同じ

ようにベクトル変換する行列のこと

基底ベクトル𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑の座標変換は、たとえば

{

𝒆𝟏′

𝒆𝟐′

𝒆𝟑′

} = [

𝛼11 𝛼1

2 𝛼13

𝛼21 𝛼2

2 𝛼23

𝛼31 𝛼3

2 𝛼33

] {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

}

= [𝜶] {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

} (1)

「基底ベクトルの変換」は、正確には「もとの座標系(回転していない座標)の基底ベクトルを、

新しい座標系(回転した座標)の基底ベクトルに変換するときの表現」

一方、「ベクトル成分の変換」は、「同じベクトルを新旧の異なる座標軸でみたときの、ベクトル

成分の変化」を表現したもの。

反変の定義:

ある座標系から別の座標系に変換する際、逆変換によって変換される対象を「反変」と呼ぶ。

※ 逆変換行列:直接変換行列の逆行列

ひとつのベクトル𝒙の基底{𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑}と{𝒆𝟏′ , 𝒆𝟐

′ , 𝒆𝟑′ }に関する反変成分をそれぞれ

{𝑥1

𝑥2

𝑥3

}、{𝑥1′

𝑥2′

𝑥3′

}とすると

𝒙 = 𝑥1𝒆𝟏 + 𝑥2𝒆𝟐 + 𝑥3𝒆𝟑 = 𝒙𝟏′𝒆𝟏′ + 𝑥2′𝒆𝟐

′ + 𝑥3′𝒆𝟑′

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6

= {𝑥1, 𝑥2, 𝑥3} {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

} = {𝑥1′, 𝑥2′, 𝑥3′} {

𝒆𝟏′

𝒆𝟐′

𝒆𝟑′

}

式(1)を代入して

{𝑥1, 𝑥2, 𝑥3} {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

} = {𝑥1′, 𝑥2′, 𝑥3′}[𝛼] {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

}

これから

{𝑥1

𝑥2

𝑥3

} = [𝜶]𝒕 {𝑥1′

𝑥2′

𝑥3′

}

したがって

{𝑥1′

𝑥2′

𝑥3′

} = ([𝜶]𝒕)−𝟏 {𝑥1

𝑥2

𝑥3

} (2)

これがベクトルの反変成分の変換式である。この式から、仮に αの成分がすべて k倍になったら𝒙は

1/kになることが分かる。すなわち、反対に変化する。これが「反変」の言葉の由来である。

例として、式(1)において

[𝜶] = 𝑘[𝑹]

と設定してみる。ここに[𝑅]はベクトルの回転座標変換である。[𝑅]は直交行列であるので、式(2)は

この場合

{𝑥1′

𝑥2′

𝑥3′

} =𝟏

𝒌[𝑹] {

𝑥1

𝑥2

𝑥3

}

となる。ベクトルの反変成分は1/kになっている。ちなみに、[𝑅]はテンソルではない。

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7

共変成分に関しては以下の通り。

ひとつのベクトル𝒙の基底{𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑}と{𝒆𝟏′ , 𝒆𝟐

′ , 𝒆𝟑′ }に関する共変成分をそれぞれ

{𝑥1, 𝑥2, 𝑥3}、{𝑥1′ , 𝑥2

′ , 𝑥3′ }とすると

𝑥𝑖′ = 𝒙 ∙ 𝒆𝒊

式(1)を代入して

𝑥𝑖′ = 𝒙 ∙ (𝛼𝑖

1𝒆𝟏 + 𝛼𝑖2𝒆𝟐 + 𝛼𝑖

3𝒆𝟑)

= 𝛼𝑖1(𝒙 ∙ 𝒆𝟏) + 𝛼𝑖

2(𝒙 ∙ 𝒆𝟐) + 𝛼𝑖3(𝒙 ∙ 𝒆𝟑)

= 𝛼𝑖1𝑥1 + 𝛼𝑖

2𝑥2 + 𝛼𝑖3𝑥3

したがって

{

𝑥1′

𝑥2′

𝑥3′} = [𝜶] {

𝑥1

𝑥2

𝑥3

} (3)

これがベクトルの共変成分の変換式である。

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8

以上をまとめると

共変ベクトルの成分の変換を

{

𝒙𝟏′

𝒙𝟐′

𝒙𝟑′

} = [𝑨] {

𝒙𝟏

𝒙𝟐

𝒙𝟑

} (4)

反変ベクトルの成分の変換を

{𝑥1′

𝑥2′

𝑥3′

} = [𝑩] {𝑥1

𝑥2

𝑥3

} (5)

とすると

[𝑨]𝒕 = [𝑩]−𝟏 (6)

の関係がある。

式(4)の代わりに,共変ベクトルの成分の変換を

{𝒙𝟏′ , 𝒙𝟐

′ , 𝒙𝟑′ } = {𝒙𝟏, 𝒙𝟐, 𝒙𝟑}[𝑨] (7)

とすると

[𝑨] = [𝑩]−𝟏 (8)

の関係になる。

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基底ベクトル

双対基底とは

ふたつの基底(𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)、(𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)が次の関係を満たすとき。この二つの基底

は「双対である」といい、これらを「双対基底」という。

𝑒𝑖 ∙ 𝑒𝑗 = 𝛿𝑖𝑗

双対基底ベクトル𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑は、もとの基底ベクトル𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑を使って

𝒆𝟏 =𝒆𝟐×𝒆𝟑

𝒆𝟏∙(𝒆𝟐×𝒆𝟑) , 𝒆𝟐 =

𝒆𝟑×𝒆𝟏

𝒆𝟏∙(𝒆𝟐×𝒆𝟑) , 𝒆𝟑 =

𝒆𝟏×𝒆𝟐

𝒆𝟏∙(𝒆𝟐×𝒆𝟑),

また

𝒆𝟏 =𝒆𝟐×𝒆𝟑

𝒆𝟏∙(𝒆𝟐×𝒆𝟑) , 𝒆𝟐 =

𝒆𝟑×𝒆𝟏

𝒆𝟏∙(𝒆𝟐×𝒆𝟑) , 𝒆𝟑 =

𝒆𝟏×𝒆𝟐

𝒆𝟏∙(𝒆𝟐×𝒆𝟑)

このようにして求めたベクトルは「双対基底」になっている。ここに分母はもとの基底ベクトル

の 3重積。すなわち、3つのベクトルで作った並行六面体の体積である。

反変成分と共変基底ベクトルを使うと

𝑨 = 𝐴1𝒆𝟏 + 𝐴2𝒆𝟐 + 𝐴3𝒆𝟑

(A1, A2, A3)は、共変基底(𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)に関する反変成分である.

共変成分は、共変基底ベクトルを使って

𝐴1 = 𝐴 ∙ 𝒆𝟏, 𝐴2 = 𝐴 ∙ 𝒆𝟐, 𝐴3 = 𝐴 ∙ 𝒆𝟑

から求まる。

この共変成分と反変基底ベクトルを使うと

𝑨 = 𝐴1𝒆𝟏 + 𝐴2𝒆𝟐 + 𝐴3𝒆𝟑

(A1, A2, A3)は反変基底(𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)に関する共変成分である.

ちなみに、反変成分は、反変基底ベクトルを使って

𝐴1 = 𝐴 ∙ 𝒆𝟏, 𝐴2 = 𝐴 ∙ 𝒆𝟐, 𝐴3 = 𝐴 ∙ 𝒆𝟑

でも求まる。

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10

基底を使ったテンソルの定義 4)

ベクトル Aは次のように書けた

𝑨 = 𝐴1𝒆𝟏 + 𝐴2𝒆𝟐 + 𝐴3𝒆𝟑

ベクトルの基底(正確には共変基底)(𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)をふたつ組み合わせて作った基底𝒆𝒊⨂𝒆𝒋を考

えると次のような表現ができる。ここに⨂はテンソル積である。

𝑇 = 𝑇11(𝒆𝟏⨂𝒆𝟏) + 𝑇12(𝒆𝟏⨂𝒆𝟐) + 𝑇13(𝒆𝟏⨂𝒆𝟑)

+𝑇21(𝒆𝟐⨂𝒆𝟏) + 𝑇22(𝒆𝟐⨂𝒆𝟐) + 𝑇23(𝒆𝟐⨂𝒆𝟑)

+𝑇31(𝒆𝟑⨂𝒆𝟏) + 𝑇32(𝒆𝟑⨂𝒆𝟐) + 𝑇33(𝒆𝟑⨂𝒆𝟑)

係数だけをまとめると

(𝑇11 𝑇12 𝑇13

𝑇21 𝑇22 𝑇23

𝑇31 𝑇32 𝑇33

)

これは2階のテンソルの成分(正確には2階の反変テンソルの成分)である。

ベクトルの基底(𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)を三つ組み合わせると 3階のテンソルになる。

さらに一般的に書くと

�̅� = 𝑇𝑖1𝑖2⋯𝑖𝑛(𝒆𝒊𝟏⨂𝒆𝒊𝟐

⨂ ⋯ ⨂𝒆𝒊𝒏)

これから

𝑽をベクトルとして、𝑻 = 𝑽𝟏⨂𝑽𝟐⨂ ⋯ ⨂𝑽𝐧

を n階テンソルと定義できる

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ふたつの基底,ひとつは共変基底 (𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)、もうひとつはその反変基底

(𝒆𝟏, 𝒆𝟐, 𝒆𝟑)を選ぶ.この二つの基底を組み合わせて基底𝒆𝒊⨂𝒆𝒋を作ると,次のような表現がで

きる。ここに⨂はテンソル積である。

𝑇 = 𝑇 11 (𝒆𝟏⨂𝒆𝟏) + 𝑇 2

1 (𝒆𝟏⨂𝒆𝟐) + 𝑇 31 (𝒆𝟏⨂𝒆𝟑)

+𝑇 12 (𝒆𝟐⨂𝒆𝟏) + 𝑇 2

2 (𝒆𝟐⨂𝒆𝟐) + 𝑇 32 (𝒆𝟐⨂𝒆𝟑)

+𝑇 13 (𝒆𝟑⨂𝒆𝟏) + 𝑇 2

3 (𝒆𝟑⨂𝒆𝟐) + 𝑇 33 (𝒆𝟑⨂𝒆𝟑)

これは1階反変・1階共変テンソルの空間である。このようなテンソルを混合テンソルという.

さらに一般化すると,n次元線形空間Vにおいて

𝑇 𝑘⋯𝑙𝑖⋯𝑗

𝒆𝒊 ⊗ ⋯ ⊗ 𝒆𝒋 ⊗ 𝒆𝒌 ⊗ ⋯ ⊗ 𝒆𝒍

は,r階反変・s階共変テンソル空間の(r,s)テンソルといい,テンソル空間を𝑇 𝑠𝑟 (𝑉)と表す.

ここに,𝑇 𝑘⋯𝑙𝑖⋯𝑗

はテンソルの成分である.

線形写像を使った定義(2階のテンソル)

定義:2階のテンソルとは、ベクトルからベクトルへの線形写像である

この意味でのテンソルを Tと表すと

𝒗 = 𝑇(𝒖) テンソルの成分は

𝑇𝑖𝑗 = 𝒆𝒊 ∙ 𝑇(𝒆𝒋)

ここに、

𝑇(𝒆𝒊) = ∑ 𝒆𝒋𝑇𝑗𝑖3𝑗=1

r個

s個

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12

なお、線形写像とは、下記の関係を満たす写像である。

𝑇(𝒖 + 𝒗) = 𝑇(𝒖) + 𝑇(𝒗)

𝑇(𝑐𝒖) = 𝑐𝑇(𝒖)

座標転換によるテンソルの定義(テンソルの古典的定義)5)

ベクトルは、ベクトルの回転座標変換を𝑅𝑖𝑗(直交行列で表される)とすると、

そのテンソル成分が

𝑣𝑖′ = ∑ 𝑅𝑖𝑗𝑣𝑗

3𝑗=1

のように変換されるものである。

2階のテンソルは、同じ座標変換に対して、そのテンソル成分が

𝑇𝑖𝑗′ = ∑ 𝑅𝑖𝑘𝑅𝑗𝑙𝑇𝑘𝑙

3𝑘,𝑙=1

のように変換されるものである。

3階のテンソルは、同じ座標変換に対して、そのテンソル成分が

𝑇𝑖𝑗𝑘′ = ∑ 𝑅𝑖𝑙𝑅𝑗𝑚𝑅𝑘𝑛𝑇𝑙𝑚𝑛

3𝑙,𝑚,𝑛=1

のように変換されるものである。

以下、高階のテンソルも同様である。

注意:行列(𝑅𝑖𝑗)はテンソルではない。

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13

応力

物体内部の仮想表面上にとった微小な面素𝑑𝑠(変形後)に作用する力(ベクトル)が𝑑𝒇𝑛であるとす

る。応力ベクトル𝒕𝒏は、変形後の配置に基づいて考えると

𝒕𝑛 =𝑑𝒇𝒏

𝑑𝑠 (9)

微小四面体(Cauchyの四面体)を想定する

応力ベクトル𝒕𝒏を𝑥1面に働く応力ベクトル𝒕𝟏と、𝑥2面に働く応力ベクトル𝒕𝟐と、𝑥3面に働く応力

ベクトル𝒕𝟑に分解すると

𝒕𝒏𝑑𝑠 = 𝒕𝟏𝑑𝑠1 + 𝒕𝟐𝑑𝑠2 + 𝒕𝟑𝑑𝑠3 (10)

∴ 𝒕𝒏 = 𝒕𝟏𝑑𝑠1𝑑𝑠

+ 𝒕𝟐𝑑𝑠2𝑑𝑠

+ 𝒕𝟑𝑑𝑠3𝑑𝑠

(11)

ところで、斜面 dsの外向きの単位法線ベクトルをnとすると

𝒏 = {𝑛1 𝑛2 𝑛3} {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

}

であり、

𝑛1 =𝑑𝑠1

𝑑𝑠 , 𝑛2 =

𝑑𝑠2

𝑑𝑠 , 𝑛3 =

𝑑𝑠3

𝑑𝑠 (12)

となるので、式(11)と(12)から

𝒕𝒏 = 𝑛1𝒕𝟏 + 𝑛2𝒕𝟐 + 𝑛3𝒕𝟑 (13)

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14

∴ 𝒕𝒏 = {𝒕𝟏 𝒕𝟐 𝒕𝟑} {

𝑛1𝑛2𝑛3

} (14)

ここに、直交デカルト座標系の基底ベクトルを𝒆𝒋とすると,応力ベクトル𝒕𝟏, 𝒕𝟐, 𝒕𝟑は

{

𝒕𝟏

𝒕𝟐

𝒕𝟑

} = [

𝑇11 𝑇12 𝑇13

𝑇21 𝑇22 𝑇23

𝑇31 𝑇32 𝑇33

] {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

} (15)

と表せる.

𝑇𝑖𝑖(iについて和をとらない)を垂直応力、𝑇𝑖𝑗 ji をせん断応力と呼ぶ。上記のT は

真応力(別名:Cauchy応力)とも呼ばれる。これは対称になる。𝑇𝑖𝑗は𝑥𝑖面に働く𝑥𝑗方向の応力であ

る.

式(15)を式(14)に代入すると

𝒕𝒏 = {𝒆𝟏 𝒆𝟐 𝒆𝟑} [

𝑇11 𝑇12 𝑇13

𝑇21 𝑇22 𝑇23

𝑇31 𝑇32 𝑇33

]

𝑇

{

𝑛1

𝑛2

𝑛3

} (16)

ところで、応力ベクトルを基底ベクトルで分解すると

𝒕𝒏 = {𝑡𝑛1 𝑡𝑛2 𝑡𝑛3} {

𝒆𝟏

𝒆𝟐

𝒆𝟑

} (17)

∴ 𝒕𝒏 = {𝒆𝟏 𝒆𝟐 𝒆𝟑} {

𝑡𝑛1𝑡𝑛2𝑡𝑛3

} (18)

式(16)と(18)から

{

𝑡𝑛1𝑡𝑛2𝑡𝑛3

} = [

𝑇11 𝑇12 𝑇13

𝑇21 𝑇22 𝑇23

𝑇31 𝑇32 𝑇33

]

𝑇

{

𝑛1𝑛2𝑛3

} (16)

式(9)を考慮すると

{𝑑𝑓𝑛} = [𝑇]𝑇{𝑛}𝑑𝑠

これを Cauchyの公式という。

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15

微小な面素 dsが変形前は dSであったとすると応力ベクトルは

nnn fdS

dtt 00

(17)

変形前の外向きの単位法線ベクトルをNとして

NttT

nn 00

{𝑑𝑓𝑛} = [Π]𝑇{𝑁}𝑑𝑆 (1

8)

この応力Πは公称応力(別名:第1Piola-Kirchhoff応力テンソル)と呼ばれる。

公称応力Πと Cauchy応力T との関係は

FJ

T1

(19)

ここに、Fは変形勾配テンソルで, J は体積変化率である.

変形前後の位置ベクトルの変化を

𝒙 = 𝑿 + 𝒖

とすると、変形勾配テンソルは

[𝐹] ≡𝜕𝒙

𝜕𝑿=

𝜕𝑥𝑖

𝜕𝑋𝑗𝒆𝒊 ⊗ 𝒆𝒋 = (𝛿𝑖𝑗 +

𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑋𝑗) 𝒆𝒊 ⊗ 𝒆𝒋

と定義される。このとき、

{𝑑𝑥1} = [𝐹]{𝑑𝑋1} {𝑑𝑥2} = [𝐹]{𝑑𝑋2} {𝑑𝑥3} = [𝐹]{𝑑𝑋3}

FdV

dvJ det (20)

式(19)から、このΠは明らかに対称ではないことが分かる。

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ndf を ndfF1

と変換し、変形前の面素 dSに作用させた応力ベクトル

nnnn tFfFdS

dtt

~11

11

(21)

を用いて

NSttT

nn 11

[𝐹]−1{𝑑𝑓𝑛} = [𝑆]𝑇{𝑁}𝑑𝑆 (22)

から応力Sを定義する。この応力Sは第2Piola-Kirchhoff応力テンソルと呼ばれる。

第2Piola-Kirchhoff応力Sと Cauchy応力T との関係は

TFSFJ

T1

(23)

これから第2Piola-Kirchhoff応力テンソルSは剛体回転のもとで不変であることを証明できる。

また、明らかに対称である。

体積変化率 FdVdvJ det を用いて、Cauchy応力T から

[�̂�] ≡ 𝐽[𝑇] (24)

を定義する。このT̂ は、単に Kirchhoff応力テンソルと呼ばれる。

ntと 0nt

は向きが同じで大きさだけが異なる.また, 0nt

と 1nt

の関係は,基準配置で 1nt

の向きにあ

った線素 Xdが,現在配置で 0nt

と同じ向きの線素 xd

になった関係と同等である.また,第2Piola-

Kirchhoff応力テンソルは剛体回転のもとで不変である.

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応力の釣り合い式

単位体積当たりの物体力のx方向、y方向、z方向の成分を xF 、 yF 、 zF とする。

x軸方向のつりあいを考えると

dxdydxdzdydz zxyxx

dxdydzz

dxdzdyy

dydzdxx

zxzx

yx

yxx

x

0 dxdydzFx

両辺を dxdydzで割れば

0

x

zxyxx Fzyx

同様にしてy方向、z方向のつりあいを考えて

0

y

zyyxyF

zyx

0

z

zyzxz Fzyx

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モーメントのつりあいも考える。ただし、ここでは応力の微小変化は無視することにする。

z軸周りのモーメントでは

2222

dxdxdy

dydxdy

dxdxdz

dydydz zyzxyx

2222

dxdxdy

dydxdy

dxdxdz

dydydz zyzxyx

0 dydxdzdxdydz yxxy

これより

yxxy

x軸周りのモーメントでは

zyyz

y軸周りのモーメントでは

xzzx

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参考文献

1.http://mizuishi.html.xdomain.jp/physics/physics_top.html (2017年 6月 15日参照)

2.ダニエル・フライシュ著、「物理のためのベクトルとテンソル」、岩波書店(2013)

3.石原繁著、「テンソル・その応用」、共立出版(昭和52年)

4.http://hooktail.sub.jp/vectoranalysis/TensorConcept/ (2017年 6月 15日参照)

5.http://dyna.geo.kyushu-u.ac.jp/~yoshida/japanese/lecture/math-exercise/vector-analysis-v-2-1.pdf

6.http://eman-physics.net/relativity/tensor.html

7.岡部朋永著、「ベクトル解析からはじめる固体力学入門」、コロナ社(2013)

8.岡部朋永著、「テンソル解析からはじめる応用固体力学」、コロナ社(2015)