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サーフェイスデザインの デザイン原板開発事例 繁昌 孝二*、辻野 栄一**、平山 敏文*** The Design Sample Board Development Example of the Surface DesignKoji HANJO*Eiichi TSUJINO**, Toshihumi HIRAYAMA*** In the Industrial Design Department in the Tokyo Campus of Polytechnic University, design development is tackled in joint research with a company. Various techniques and natural materials such as plants, animals, minerals and industrial sources were used in order to develop new surface designs such as color, pattern and texture in the fields of the interior design of construction, furniture, and automobiles. Furthermore, in order to heighten the presentation effect, the simulation of the use image of a new surface design was performed using the computer. In this paper, the technique of the design development and its result are reported. KeywordsSurface Design, Various Materials, Various Techniques, Design Sample Board, Simulation はじめに 東京校産業デザイン科では、10 年以上にわた り毎年企業からの依頼により、共同研究としての デザイン開発を行ってきた。その主な目的は、① デザイン面での企業支援と②企業が抱えている 実践的なデザイン開発課題を学生に体験させる ためである。昨年度はそのような共同研究として 「サーフェイスデザインのデザイン原板開発」に 取り組んだ。 サーフェイスデザインとは、1970 年代にアメ リカのテキスタイルデザイン分野で使われ出し た用語であるが、今や建築物の内外装デザイン、 家具や家電製品の製品デザイン、自動車のインテ リアデザイン等幅広い分野で使われるようにな っている。これらの分野の多くのモノの表面には 塗装・印刷・フィルム貼り等、様々な加工技術が 施されたサーフェイスデザインが存在する。私た ちは様々なサーフェイスデザインを有する工業 製品に囲まれ、その製品の表層を見たり、触れた りして生活している。 多くの工業製品のサーフェイス(表層)には① テクスチャー(肌合い、風合い)、②パターン(模 様)、③カラー(色彩)があり、サーフェイスデ ザインが製品イメージに大きな変化を与えてい る。そして、そのサーフェイスデザインには自然 を様式化したもの、伝統的なもの、抽象的なもの 等多くの種類がある。その中には、加飾塗装の技 法による手作業でデザイン原板を制作したもの も少なくない。今回はそのような加飾塗装の技法 を基本にしつつ、入手可能な各種材料(木材、金 属、合成樹脂、布、紙、ガラス、革、砂、花びら や木の葉、手芸材料等)を制約なく自由に使い、 さらに表現技法も加飾塗装の技法に加えて、様々 な表現技法を模索しながら、新奇性のある美しい サーフェイスデザインの開発を行うこととし、そ のデザイン原板を制作することとした。 サーフェイスデザインの開発技法 2.1 加飾塗装によるサーフェイスデザイン 職業能力開発総合大学校紀要 42 号(2013 3 月) Bull. Polytechnic University No.42, March 2013 105

サーフェイスデザインの デザイン原板開発事例 · 3.4 コンセプトメイキング 企業側の前提講義や市場調査で得た知識を参 考にして、デザインするサーフェイスデザインの

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Page 1: サーフェイスデザインの デザイン原板開発事例 · 3.4 コンセプトメイキング 企業側の前提講義や市場調査で得た知識を参 考にして、デザインするサーフェイスデザインの

サーフェイスデザインの

デザイン原板開発事例

繁昌 孝二*、辻野 栄一**、平山 敏文***

The Design Sample Board Development Example

of the Surface Design.

Koji HANJO*,Eiichi TSUJINO**, Toshihumi HIRAYAMA***

In the Industrial Design Department in the Tokyo Campus of Polytechnic University, design development

is tackled in joint research with a company. Various techniques and natural materials such as plants, animals, minerals and industrial sources were used in order to develop new surface designs such as color, pattern and texture in the fields of the interior design of construction, furniture, and automobiles. Furthermore, in order to heighten the presentation effect, the simulation of the use image of a new surface design was performed using the computer. In this paper, the technique of the design development and its result are reported.

Keywords:Surface Design, Various Materials, Various Techniques, Design Sample Board, Simulation

1 はじめに

東京校産業デザイン科では、10 年以上にわた

り毎年企業からの依頼により、共同研究としての

デザイン開発を行ってきた。その主な目的は、①

デザイン面での企業支援と②企業が抱えている

実践的なデザイン開発課題を学生に体験させる

ためである。昨年度はそのような共同研究として

「サーフェイスデザインのデザイン原板開発」に

取り組んだ。

サーフェイスデザインとは、1970 年代にアメ

リカのテキスタイルデザイン分野で使われ出し

た用語であるが、今や建築物の内外装デザイン、

家具や家電製品の製品デザイン、自動車のインテ

リアデザイン等幅広い分野で使われるようにな

っている。これらの分野の多くのモノの表面には

塗装・印刷・フィルム貼り等、様々な加工技術が

施されたサーフェイスデザインが存在する。私た

ちは様々なサーフェイスデザインを有する工業

製品に囲まれ、その製品の表層を見たり、触れた

りして生活している。

多くの工業製品のサーフェイス(表層)には①

テクスチャー(肌合い、風合い)、②パターン(模

様)、③カラー(色彩)があり、サーフェイスデ

ザインが製品イメージに大きな変化を与えてい

る。そして、そのサーフェイスデザインには自然

を様式化したもの、伝統的なもの、抽象的なもの

等多くの種類がある。その中には、加飾塗装の技

法による手作業でデザイン原板を制作したもの

も少なくない。今回はそのような加飾塗装の技法

を基本にしつつ、入手可能な各種材料(木材、金

属、合成樹脂、布、紙、ガラス、革、砂、花びら

や木の葉、手芸材料等)を制約なく自由に使い、

さらに表現技法も加飾塗装の技法に加えて、様々

な表現技法を模索しながら、新奇性のある美しい

サーフェイスデザインの開発を行うこととし、そ

のデザイン原板を制作することとした。

2 サーフェイスデザインの開発技法

2.1 加飾塗装によるサーフェイスデザイン

職業能力開発総合大学校紀要 第 42 号(2013 年 3 月) Bull. Polytechnic University No.42, March 2013

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現在、工業製品の中で住宅、商業建築の内装、

車両内装、家具等まで幅広く使用されている化粧

板や壁紙、床材等のデザインの中には、漆塗りの

加飾技法や変わり塗り技法に代表されるような

加飾塗装を活用したものがある。その技法例を紹

介する。

使用する道具 作業の様子 凹凸模様の作成 完成状態

図1.加飾塗装技法例

上記のように加飾塗装を利用したものは、次のよう

な流れで新たなサーフェイスデザインとして製

品化されていく。

加飾塗装等によるデザイン原板の制作

カメラ撮影又はスキャナー入力

画像処理

印刷・加工等

化粧版(ポリエステル化粧版、メラミン化粧版)、化粧紙、

壁紙、塩化ビニルシート、オレフィンシート、転写紙等

建築内装材料、家具材料、車両材料、

弱電機器材料、雑貨材料等

図2.サーフェイスデザインの製品化への流れ

サーフェイスデザインと工業製品との関わり

はオリジナルデザインの原板制作から始まる。デ

ザイナーや職人が加飾塗装等によりデザイン原

板を制作し、それをデジタルカメラやスキャナー

によりパソコンに入力して製品イメージに合わ

せてカラー、パターンサイズ、レイアウト等の修

正を画像処理で行う。その後紙やフィルム等に印

刷し基材に貼り合わせたり、転写したりして家具

や扉や床に使用されるのである。

今回は、そのような流れを前提にサーフェイス

デザインの開発に取り組むこととした。

2.2 デザインイメージについて

工業製品等のデザインイメージとテクスチャ

ー(肌合い、風合い)、パターン(模様)及びカ

ラー(色彩)の関係について説明する。

テクスチャー(肌合い、風合い)は、製品イメ

ージに大変重要な要素で、私達は工業製品を見た

り・触れたりすることにより、艶がある・滑らか

な・深みがある・ざらざらした等の感覚用語を用

いて表面状態を表現しながら、付加価値のあるも

のづくりを目指している。

パターン(模様)も製品イメージを膨らませ

る上で重要な要素で、新しいパターンを付加する

ことによって製品イメージを大きく変化させら

れる。

カラー(色彩)は、特に製品イメージを大き

く変化させる。カラー(色彩)そのもの固有のイ

メージは、古くから宗教や国の違い、あるいは生

活環境等により大きい影響を受けてきた。

製品等もののイメージはこれらの要素を組み

合わせることによって大きく変化を与えること

ができる。例えば、同じパターンやカラーでも、

テクスチュアを増すと本物感や高級感が備わっ

たりする。また、同じテクスチュアやパターンで

もカラーによって、warm~cool 感や hard~soft

感等見る人のイメージも大きく異なり、そこで過

ごす人の視知覚心理や快適性等にも変化をもた

らす。

3 デザイン開発プロセス

3.1 開発方針等の検討

企業側から依頼のあった共同研究テーマ「サー

フェイスデザインのデザイン原板開発」を具体的

に進めるにあたり、企業側と教員2名で開発プロ

セス、作業方法、完成物の在り方等の開発方針に

ついて打ち合わせを数回にわたり行った。その主

な内容は次のとおりである。

職業能力開発総合大学校紀要 第 42 号

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(1) 具体的な作業は、2011 年度後期、東京校専

門課程産業デザイン科2年生(19名)の総合制

作実習(12単位中の6単位)とプロダクトデザ

イン実習(4単位)の合計10単位を活用して取

り組む。

(2) 塗装材料に限らず、身の回りのあらゆる材料

を自由に使用し、自由な表現技法で、新しいサー

フェイスデザインを考えそのデザイン原板を制

作する。

(3) 最終的なデザイン原板は、300×400×9mm

のシナ合板に制作する。

(4) 住空間における壁紙や建材から、車のインテ

リア、家電製品等のプロダクト製品まで幅広い中

で、使用場所や製品を設定しデザインを考える。

(5) 制作したデザイン原板は、スキャナーで取り

込み、使用状況のシミュレーションを行う。

3.2 前提講義

具体的な作業を授業の中で進めるに当たり、最

初の授業の際に、企業側から学生に対し上記の

「3・1 デザイン方針等の検討」の内容のほか、

サーフェイスデザインの意義、使われ方の現状、

デザイン板の制作方法、制作上の注意事項等につ

いて説明が行われた。

3.3 市場調査

サーフェイスデザインの現状を知るために、住

宅機器メーカー及び住宅建材メーカーの合同の

総合ショールームを見学に行った。また、壁紙等

のカタログを集め、デザインの傾向やバリエーシ

ョン等について現状把握を行った。その主な内容

を次に示す。

(1) 壁紙材については、淡彩色ベージュ系の定番

的なものから、色鮮やかなビビッド系、茶褐色や

黒っぽいダーク系のものまで色彩的に非常に幅

広くある。

(2) 壁紙材については、平坦な紙質的なものから、

織布的なもの、木質的なもの、珪藻土的なもの、

合成皮革のもの、漆調のもの、金属箔的なもの、

スパンコールを使用したもの等、素材感を感じる

デザインが多数ある。

(3) 壁紙材については、一般家庭で長年使用され

ている定番的なデザインのものから、高級飲食店

等の商業施設で使用されるような高級感あるも

のも多数ある。

(4) 一般的に、抽象模様、布目模様、左官仕上げ

模様等が多いが、植物模様、石目模様、空模様等

自然をモチーフにした模様も比較的ある。

(5) 日本人の生活様式の洋風化に伴い、建材全般

的に、和風な印象のものより洋風な印象の物の方

が多い。

3.4 コンセプトメイキング

企業側の前提講義や市場調査で得た知識を参

考にして、デザインするサーフェイスデザインの

基本方針(使用場所、使用の主対象者、デザイン

の特徴等)を、学生個々に設定した。教員サイド

としてはデザインのバリエーションを広げるた

めにコンセプトがなるべく学生間で似たものに

偏らないように指導した。そのコンセプト例を次

に示す。

・鉄錆の模様を和の空間向けに使用したサーフェ

イスデザイン

・動物の革を使用し、落着きと高級感のある大人

向けの空間づくりのためのサーフェイスデザイ

・プロダクト製品を対象にし、綿素材を活かした

柔らかい印象のサーフェイスデザイン

・癒しの居住空間を演出する若葉色のサーフェイ

スデザイン

・貝殻粉とスパンコールを使用し、宇宙を感じさ

せる商業施設向けのサーフェイスデザイン

・棕櫚縄のナチュラルな素材感を活かし、アジア

ンティスト模様の落ち着きある空間づくりのた

めのサーフェイスデザイン

3.5 デザイン原板の試作

今回のサーフェイスデザインの開発研究では、

様々な素材、様々な器工具、様々な表現方法を駆

使し、デザイン原板を制作することとなった。手

仕事で実素材を使用してのものづくり体験が少

ない学生にとっては、計画通りに実際のものを作

ることは非常に難しく、デザインコンセプトのデ

ザイン方針やイメージどおりにはなかなかスム

ーズにはいかず、一定の完成度の物ができるまで

にはかなりの時間を要した。通常のデザインワー

クのように頭で考えアイデアスケッチを行うこ

と以上に、実際に手を動かしながら試行錯誤でや

ってみることが重要となった。そのため、まずは

小サイズで試作作業を行い、各種素材の活用方法、

繁昌・辻野・平山:サーフェイスデザインのデザイン原板開発事例

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制作方法等を研究しながらデザイン原板の試作

を行った。

図2.試作作業風景

今回デザイン原板を制作するのに使用した材

料、器工具及び技法の主なものを表1に示す。

表1.デザイン原板の作成に使用した材料等

使

塗料関係(ラッカー塗料、カシュー漆塗料、ウレタン塗料等)

その他樹脂関係(水性絵具、封入樹脂、木工ボンド、プラスチ

ックス板、発泡スチロール、スポンジ、セロハンフィルム等)、

木材(シナ合板、パーティクルボード、木粉等)、金属(鋼板、

ステンレス板、銅板、アルミホイル、金属箔、金属粉)、革(ダ

チョウ、羊)、布類(麻布、麻紐、木綿布、毛糸)、色ガラス、

ろうそく、クレヨン、ビーズ、スパンコール、紙類(ケント紙、

和紙、色紙、アートペーパー、段ボール等)、砂、木の葉、花

びら、種子・実、輪ゴム、調味料(塩、醤油、小麦粉等)等

使

エアスプレーガン(小型、タイルコートガン)、刷毛、ヘラ、

タンポ、ローラー(羊毛、紐、ゴム)、金属ブラシ、筆、スポ

ンジ、布、金槌、金網、茶漉し、はんだゴテ、ガスコンロ、ガ

スバーナー、彫刻刀、すだれ、シリコンマット、鉛筆削り、

ハサミ、カッター、スパッタリング網とブラシ、定規類等

吹付け、刷毛塗り、ローラー塗り、スパッタリング、タンポ塗

り、スタンピング、マスキング、粉蒔き、貼る、重ねる、圧縮

型取り、マーブリング、封入樹脂で固める、染める、滲ませる、

編む、焼く、描く、溶かす、透かす、彫る、砕く、ひび割れ等

これらの使用材料や器工具は、学校側で教材と

して準備したものと学生個々が自分のデザイン

方針に合わせて持ち寄ったものがある。そして、

後者の場合の方が学生自身自主的かつスムーズ

に作業進められるケースが比較的多いと感じた。

また、このような機会を通してデザインやもの

づくりに携わる学生を育てることにおいて、日常

の身の回りで目にするものを常にものづくりの

視点で見る習慣を身につけさせておくことの重

要性を改めて感じた。

3.6 中間プレゼンテーション

学生個々に、企業側に対し試作品のプレゼンテ

ーションを行い、本番のデザイン原板制作に向け

ての指示や助言を頂いた。その主な内容は、次の

とおりである。

(1) 天地左右がないような模様が望ましい。

(2) 単色で仕上げるより、複数の色彩を活用した

色変化のある模様がよい。

(3) ソリッドカラーだけでなく、メタリックカラ

ーのバリエーションも増やすとよい。

(4) 住空間では真っ黒は使いにくいので、グレイ

等の他の色彩に置き換える。

(5) 具象的なものはなるべく避け、抽象的な模様

にする。

(6) 不安定なもの(毛糸、花弁、葉っぱ等)は、

封入樹脂で固める。

(7) 立体感が強すぎるものは、ある程度凹凸を減

らす。

3.7 デザイン原板の制作

試作での経験や中間プレゼンテーションでの

助言をもとに、デザイン原板を制作した。そして、

試作段階よりさらに実際に様々な素材、様々な器

工具、様々な表現技法を駆使して手作業で制作し

た。また一つのデザインにおいて、完成度が低け

れば何回も作り直す。また、単なる色彩構成や平

面構成として捉えるのでなく、素材感や肌触り感

等も考慮する。試作段階より制作する面積も大き

くなるので,斑等なく仕上げなくてはいけないの

で難易度は上がった。

図3.デザイン原板の制作風景

今回、新しいサーフェイスデザインのデザイン

原板を制作するために、表現技法の使用について

は、各学生2種類以上を課したことにより、結果

として19名の学生全体で延べ40種類以上の

表現技法が行われ、全部で95枚のデザイン原板

が制作できた。その中には、学生が自ら考え出し

た表現技法もある。そして既成概念にとらわれな

い若者の発想もあり、新鮮で幅広いバリエーショ

ンのデザインが得られた。

今回のデザイン原板の中で、企業側が引き続き

デザイン開発を継続しているものもあるが、それ

らを除いて完成度が高く表現技法の異なるもの

職業能力開発総合大学校紀要 第 42 号

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の完成作品例を一部紹介する。

・例1 食材や調味料等をガスバーナーで焼いて

デザイン制作

水で溶かした小麦粉を鋼板上に流し込み、その

後、ガスバーナーで焼きこげをつけて模様等をつ

くる。質感や色彩的には面白いものができるが、

長期保存は難しい。

図4.鋼板上で小麦粉を焼いて制作した作品例

・例2 木材をはんだごてで焼いてデザイン制作

制作に時間はかかるが、機械的ではない手仕事

の良さを感じる模様やテクスチュアが得られた。

また、樹種の違いによっても仕上がりの雰囲気は

変わってくる。目立った斑がないように焼いてい

くことが重要である。

図5.木材をハンダゴテで焼いて制作した作品例

・例3 アルミホイルを活用してデザイン制作

塗料が乾かないうちに、くしゃくしゃにしたア

ルミホイルで上から押え、塗料が半乾きになるま

で放置し凹凸模様をつくる。別な色を重ねていく

とマーブリング的な色彩の模様も得られ等、さら

なる展開が期待できる。

図6.アルミホイルを活用して制作した作品例

・例4 たんぽを使用してデザイン制作

重ね塗りする水性塗料の各色をたんぽで叩き

ながら塗布し模様をつくる。スポンジ等の他の物

を使用してもよい。程よい斑と色の組み合わせで

は、面白いものができる。最終的にシルバーメタ

リック塗料を透けるようにエアスプレー塗装す

ると全体的に優しい感じできれいな色調が得ら

れた。

図7.たんぽを使用して制作した作品例

・例5 動物の本革を使用してデザイン制作

ダチョウ(エミュー)の革を染料で染めてから、

さらに筆で色付け等もしていく。平坦な革より、

表面にテクスチュアがあるものが面白い。

図8.動物の本革を活用して制作した作品例

・例6 ガラスの割れ模様を活用しデザイン制作

ガラスの下に別な色彩模様を描き、その上に割

れの入ったガラスを置く。その割れ目に別な色を

流し込む。下の色彩模様が後から流し込む色で溶

けない組み合わせが必要である。

図9.ガラスの割れ模様を活用して制作した作品例

・例7 綿を活用しデザイン制作

事前に数色の染料で綿を染め、乾いてから細か

くちぎって板上に木工ボンドで接着する。乾燥時

は荷重を均等に加えながらクリア塗料を浸み込

ませて固める。綿を用いることによって柔らかい

印象のデザインができた。

繁昌・辻野・平山:サーフェイスデザインのデザイン原板開発事例

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図 10.綿を着色・圧縮して制作した作品例

・例8 クレヨンとベビーパウダーの組合せを利

用してデザイン制作

クレヨンで模様を付けてから、ベビーパウダー

を摺り込むと独特の質感と色彩が得られる。その

ままの色調と質感で定着することが課題である。

図 11.ベビーパウダーを使用して制作した作品例

・例9 セロハンフィルムを活用しデザイン制作

セロハンテープの透明感と色調を利用し、重な

り具合をうまく計算して行っていくときれいに

仕上がる。

図 12.セロハンフィルムを活用して制作した作品例

・例 10 花びらや木の葉を活用しデザイン制作

木の葉は、そのまま敷き並べてもよいし、細か

くちぎってから敷き並べてもよい。また、染料な

どで自由に色替えしても面白い。

図 13.落ち葉を活用して制作した作品例

完成作品の全体的な傾向として、次のようなこ

とがあげられる。まず、学生が取り組んだサーフ

ェイスデザインは、自然のもの等素材感を活かし

たものが多く制作された。次に、用途が限定され

にくい淡彩色のベージュ系より比較的濃彩色の

物が多く制作された。そして、商品化にとって重

要な要素の一つである天地左右の方向性がない

ものが、主に制作された。

これらは、企業側の要望や教員側の指導もある

が、学生がよりオリジナリティのあるサーフェイ

スデザインを追求したためであろう。そして19

名の学生の力によって、一人や少人数のデザイナ

ーでは、考え付かない幅広いバリエーションのデ

ザインが制作できた。また、従来の加飾塗装を基

にしたサーフェイスデザインとは、明らかに異な

る新しい表現のデザインも多く制作できた。高校

で美術やデザインを専攻した学生らは、美術やデ

ザインの表現技法をもとにさらにアレンジを加

えたりしたことも理由にある。最終的なデザイン

原板は、試作段階よりも、はるかに完成度が上が

り、学生の達成感や満足度も上がった。

3.8 シミュレーション作業及び

プレゼンテーションペーパーの制作

コンセプトをより明確化すると共に、デザイン

のプレゼンテーション効果を高めるために、学生

個々に制作したそれぞれのサーフェイスデザイ

ンの使用状況を、パソコン(ソフト:フォトショ

ップ&イラストレーター)上でシミュレーション

した。シミュレーションにあたって今回、色彩は

基本的にデザイン原板のそのままの色彩とし、カ

ラーバリエーションを提示する場合のみ、シミュ

レーション上の色替えを行った。

図 14.シミュレーション作業風景

また、最終プレゼンテーションに向け、シミ

ュレーション画像を活用して,各デザイン原板

一枚につき、A3サイズ一枚のプレゼンテーシ

ョンペーパーを制作した。ここでは、シミュレ

職業能力開発総合大学校紀要 第 42 号

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Page 7: サーフェイスデザインの デザイン原板開発事例 · 3.4 コンセプトメイキング 企業側の前提講義や市場調査で得た知識を参 考にして、デザインするサーフェイスデザインの

ーションの使用場所や製品の内容等が異なり完

成度が高いものの中からプレゼンテーションペ

ーパーの作品例を一部紹介する、

・例1 デザイン原板の図5をもとに、喫茶店や

バー等のカウンター材としての使用をはじめ、そ

の他チェスト、郵便ポスト、カメラ等のプロダク

ト製品に使用したシミュレーションのプレゼン

テーションペーパー。

図 15 プレゼンテーションペーパー例1

・例2 デザイン原板の図9をもとに、レストラ

ン等の商業施設内の間仕切り材に使用したイメ

ージのプレゼンテーションペーパー。

図 16.プレゼンテーションペーパー例 2

・例3 デザイン原板の図 10 を使用して一般家庭

の照明カバーの素材に使用したイメージのプレ

ゼンテーションペーパー。この作品では、カラー

バリエーションの表現として、シミュレーション

上デザイン原板の色替えを行った。

図 17.プレゼンテーションペーパー例 3

ものづくり経験の少ない学生にとって、デザイ

ン原板制作段階だけでは、製品としての使用イメ

ージが十分に把握できない面があり、シミュレー

ション作業及びプレゼンテーションペーパーの

制作は、実際の使用状況を実感させることができ、

デザイン教育訓練として極めて有効であった。

また、シミュレーションすることによって、デ

ザイン原板のカラー(色彩)の在り方やパターン

(模様)の大きさ等、改善案が生まれたり、新た

なデザイン案が生まれたりすることにもつなが

った。

3.9 最終プレゼンテーション

企業側に対して学生個々にデザイン原板5枚

と使用状況をシミュレーションしたプレゼンテ

ーションペーパーを使用して最終プレゼンテー

ションを行った。

企業側から個々のデザインに対する講評、商品

化する場合の注意事項等についてコメントを頂

いた。

図 18.最終プレゼンテーション風景

企業側から頂いた講評の主な内容を次に示す。

繁昌・辻野・平山:サーフェイスデザインのデザイン原板開発事例

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(1) 学生さんが苦労しながらも頑張って制作し

たことが良く伝わる。

(2) 商品化に向けて進めたいデザインも沢山あ

る。

(3) 自分達企業側で考えつかない若者ならでは

のユニークなデザインもある。

(4) 30cm×40cm の広い面積に、より斑が無いよ

うにもっと几帳面にかつ粘り強く制作した方が

良いものもある。

そして、最終プレゼンテーションでの講評及び

その後の意見交換を通じて、企業側が評価の高い

作品には、次のような傾向が見られた。

(1) デザイン原板を制作するのに使用した材料

は、人工的な素材より植物等の自然素材を活用し

たもの、あるいは金属が経時変化で酸化する等自

然現象的な模様のもの。

(2)上下左右の方向性がなく、どのような方向に

も配置できるもの、あるいは連続して配置しやす

いもの。

(3) 使用場所や使用対象者が幅広く量産が見込

めそうなもの。

(4) 遠目に見ると模様が主張し過ぎないが、近く

で見ると素材感、テクスチュア、模様等が個性的

に表現されているもの。

(5) 模様の斑が目立たず、模様の大きさも大き過

ぎず、遠目に見ると無地に近い印象のもの。

4 まとめ

本研究では、加飾塗装の技法を基本にしつつ、

各種材料を用いて、様々な表現技法を模索しなが

ら、サーフェイスデザインのデザイン原板開発を

試みた。その結果明らかになった主な点をまとめ

ると次の通りである

(1) サーフェイスデザインのデザイン原板開発

において、学生自らが新たに考案した表現技法も

含めて40種類以上の表現技法が用いられ、95

枚の幅広いバリエーションに及ぶデザイン原板

を得た。

(2) 表現技法は、蒔いたり貼ったりして固める方

法、塗装や染めの技法的工夫による方法、独自の

型材を活用して模様を作る等美術やデザインの

表現技法をアレンジした方法等、様々な方法が用

いられた。また使用材料には、自然界のもの、工

業材料、それらを合わせた複合的なものの活用が

見られた。

(3)色調の在り方、模様の斑、テクスチュアの強

弱加減等について、制作しながら見直しをしたの

で、一定の完成度のものが多く出来上がった。学

生は、粘り強く几帳面に作業し完成させることで

いかに完成度が異なるかということを体感でき

た。

(4) ものづくり経験の少ない学生にとって、時間

をかけ各種素材や各種技法を使用し、作りこみな

がらデザイン開発を行うことは、デザインを高め、

新しい可能性を見出すのに有用である。

(5) デザインやものづくりに携わる学生を育て

ることにおいて、日常の身の回りで目にするもの

を常にものづくりの視点で見る習慣を身につけ

させておくことが重要である。

(6) ものづくり経験の少ない学生にとって、デザ

イン原板制作に加えて、製品としての使用イメー

ジを実感することのできるシミュレーション作

業及びプレゼンテーションペーパーの制作は、デ

ザイン分野の教育訓練として有効である。

(7) サーフェイスデザインのデザイン原板開発

において、オリジナリティを追求することは重要

な事ではあるが、パターン(模様)やカラー(色

彩)によりデザインが主張し過ぎると、使用場所

や使用対象者が限定され、量産が見込みにくく、

企業による商品化が進みにくい。

参考文献

(1)平山敏文、塗装工学 40、2005、日本塗装

技術協会

(2)平山敏文、工業塗装 NO.212、2008、塗料

報知新聞社

職業能力開発総合大学校紀要 第 42 号

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