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ノートテイク講座テキスト 聴覚障害の基礎知識、情報保障とは 1.聴覚障害の基礎知識 2.聴覚障害者のコミュニケーション 3.情報保障とは ノートテイクの基本 1.ノートテイクとは? 2.ノートテイクの書き方のポイント 10 交代、メモの方法 20 1.交代の目的 21 2.交代のタイミング 21 3.ルーズリーフの使い方 23 4.メモのポイント 24 「記録」について 27 1.「記録」とは? 28 2.「記録」の基本的な書き方 28 授業の形態に合わせたノートテイク 31 1.授業の資料への対応 32 2.授業場面に応じたノートテイクの方法 37 通訳環境整備 39 早稲田大学 障がい学生支援室

ノートテイク講座テキスト - Waseda University · は伝わった信号を処理し、「音」として認識します。 外耳から中耳までを「伝音系」、内耳から奥を「感

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ノートテイク講座テキスト

聴覚障害の基礎知識、情報保障とは 1

1.聴覚障害の基礎知識 2

2.聴覚障害者のコミュニケーション 3

3.情報保障とは 4

ノートテイクの基本 7

1.ノートテイクとは? 8

2.ノートテイクの書き方のポイント 10

交代、メモの方法 20

1.交代の目的 21

2.交代のタイミング 21

3.ルーズリーフの使い方 23

4.メモのポイント 24

「記録」について 27

1.「記録」とは? 28

2.「記録」の基本的な書き方 28

授業の形態に合わせたノートテイク 31

1.授業の資料への対応 32

2.授業場面に応じたノートテイクの方法 37

3.通訳環境の整備 39

早稲田大学 障がい学生支援室

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聴覚障害の基礎知識

情報保障とは

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2

1.聴覚障害の基礎知識

聴覚障害とは

図1は、聴覚の仕組みを示したものです。

空気の振動である音は、耳介から、外耳道、鼓膜、

耳小骨を通って、内耳へと伝えられます。さらに、内

耳にある蝸牛という器官で、振動が電気信号に変換さ

れ、それが聴神経を通じて大脳へと伝わります。大脳

は伝わった信号を処理し、「音」として認識します。

外耳から中耳までを「伝音系」、内耳から奥を「感

音系」といい、このどこかに機能的な障害があること

で、聞こえない、あるいは聞こえにくい状態が生じま

す。

聴覚障害の分類

伝音系に障害がある場合を「伝音性難聴」、感音系に障害がある場合を、「感音性難聴」と

いいます。また、伝音性難聴と感音性難聴が合併した、「混合性難聴」もあります。それぞ

れ、次のような一般的特徴があります。

【伝音性難聴の特徴】

・音が小さく、こもったように聞こえる。

・一般に聴力レベルは 70dB を超えない程度であるとされ、比較的軽度である場合が多い。

・音を大きくすることである程度聞き取りやすくなるため、音を増幅する補聴器の装用効果

が高いとされる1

【感音性難聴の特徴】

・音が歪んで聞こえたり、途切れて聞こえたりする。

・音自体を認識できても、音声として聞き分けることが難しい。

・補聴器の装用効果に個人差が大きく、音を増幅しても、音声として聞き取ることが難しい。

聴力レベルと聞こえの目安

聴力レベルは、その人がどのぐらいの大きさの音なら聞き取れるかという目安です。デシ

ベル(dB)という単位で表し、値が大きくなるほど大きな音ということになります。ただ、

これはあくまでも目安で、同じ聴力レベルの人でも、聞こえの状態には個人差があります。

1 補聴器の装用効果には個人差がある。また、周囲の雑音が多いと聞き取りにくくなるなど、環境に

よっても聞き取りやすさが変わる。

図1

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図2 聴力レベルと聞こえの目安

2.聴覚障がい者のコミュニケーション

コミュニケーション手段とその特徴

聴覚障がい者が用いるコミュニケーション手段には、手話、聴覚口話、筆談などがありま

す。使用するコミュニケーション手段は人によって様々で、多くの場合、場面や話す相手に

よって複数の手段を使い分けたり、組み合わせたりしています。

【手話】

視覚的な言語2であり、重要なコミュニケーション手段の一つです。ただし、聴覚障がい

者がすべて手話を用いるわけではなく、日常的に手話を用いている人、まったく手話がわか

らない人、手話を理解できるが、公の場では使いたくないという人など、さまざまです。「聴

覚障がい者=手話」と最初から思いこむのではなく、本人がどのようなコミュニケーション

手段を用いるのかをまず理解することが重要です。

【聴覚口話】

音声と視覚的情報を総合的に用いるコミュニケーション手段で、残存聴力を活用して聞き

取った音声、相手の口元の動きの読み取り、話の文脈などから話の内容を総合的に判断して

2

手話は世界共通ではない。音声言語とは異なる独自の文法や語彙体系を持つ視覚的諸言語としての手

話が世界各地に分布し、世界中で 100 を超える手話言語が話されていることが知られている。また、

音声言語の文法にのっとって、手話単語を表わしていく日本語対応手話や、signed English などを用

いる人もいる。

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理解し、音声で話します。

1対1の会話で有効な場合でも、複数人での会話になると読み取りが難しくなりがちです。

同音異義語や口形が似ている単語を区別すること、また、暗いところでのやり取りや離れた

相手とのコミュニケーションには限界があります。聴力や口元を読むことによる理解の程度

にも個人差があるため、相手が理解しているかどうか確認しながら話すことが重要です。

コミュニケーションにおける留意点

3.情報保障とは

情報保障の目的

情報保障とは、聴覚障がい学生が他の学生と同質・同量の情報を得て、その場に参加でき

るようにするための活動のことをいいます。情報保障の目的は、大きく分けると以下の2つ

です。

情報保障の目的

情報の伝達

・・・授業の内容を確実に聴覚障がい学生に伝える。

「場」の共有

・・・聴覚障がい学生が、他の学生と共に授業に参加できるように環境を整える。

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【情報の伝達】

大学の授業では、ゼミや講義形式など様々な授業形態があり、授業によって学生の数や教

室の規模、教材も異なります。

先生の講義、休講や試験内容の連絡、学生の発

言、質問などの音声情報、テキスト、配布資料、

板書、パワーポイント、映像教材などの視覚情

報・・・。教室には多くの情報があふれています。し

かし視覚のみでえられる情報は、これらの情報の

ごく一部です。聴覚障がい学生は、聞き取った一

部の音声と視覚的情報を総合して内容を判断して

います。しかし、まったくサポートがない状態で

講義内容や、教室内の状況をすべて把握するのは

困難です。

大学の授業では、内容が専門的になり、テキストどおりに授業が進むとは限りません。高

校までのように、友人の協力や、教科書や参考書を使っての独習だけでは対応が難しくなり

がちです。聴覚障がい学生が授業の内容を確実に理解するためには、情報保障のサポートが

不可欠といえます。

【場の共有】

授業中には、先生の冗談や雑談、教室内の雑音など、一見授業の本筋とは関係ないよ

うな音声情報も多くあります。しかし、これらの情報が得られないことで、授業の雰囲

気が共有できず、疎外感を感じてしまうことがあります。また、質問に気づくのが遅れ

たり、状況がわからず質問するタイミングがはかれないなどの状況も生じてきます。

雑談や笑い声も、学生が授業に参加するうえで重要な情報の一部です。聴覚障がい学

生が、他の学生と同様に授業に参加するために、その場での音声情報を伝える情報保障

が必要です。

情報保障の手段

情報保障の手段には、次のようなものがあります。

【ノートテイク】

2名のノートテイカーが聴覚障がい学生の両隣に座って、先生の話や学生の発言などの音

声情報を交替で書き取っていく方法です。待機中のノートテイカーはメモや修正を行いフォ

ローします。

【パソコンテイク(一人入力)】

ノートテイクをパソコンで行う方法です。2名のパソコンテイカーが15分程度で交替し

情報保障とは・・・

1.

・・・・

・・・・

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ながら、音声情報を要約してパソコンに入力します。ノートテイクと同じく、待機者が適宜

メモや修正等を行います。

【パソコン通訳(連係入力)】

2名のパソコン通訳者が、音声情報を連係してパソコンに入力する方法です。2名が同時

に入力するため、基本的に待機者のメモ等はありません。

【手話通訳】

手話通訳者が、授業の内容や学生の発言など、その場の音声情報を手話で伝えます。手話

を使用する聴覚障がい学生にとって、リアルタイムに近い情報を得ることができ、ゼミなど

に適しています。

【記録】

1名の記録者が講義の本筋を中心にキーワードや概念、ポイントを書き、普通のノートに

近いものを作成します。「聞く」ことに集中したい難聴の学生や、手話通訳を利用するため

にノートが取れない学生に有効です。

図3 それぞれの情報保障手段の特徴

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ノートテイクの基本

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1.ノートテイクとは?

ノートテイクは「文字による情報保障」

ノートテイクは、文字による情報保障です。「情報の伝達」と「場の共有」という2つ

の目的があります。「情報の伝達」のためには話のポイントを正確に書くこと、「場の共有」

のためには「今」話されていることを書くことが大切です。しかし一般的に、書く速さは

話す速さの5分の1程度と言われています。ノートテイクの際に、話の全てを書き取るこ

とはできません。そのため、話を「要約して書く」ことが必要になりますが、ノートテイ

クにおける「要約して書く」という作業は、「話のポイントだけを記録して、ノートや授

業の記録を作る」のではなく、短い時間の中で書ける量になるように「話の内容を整えて

文章にする」という作業です。

ノートテイクは、まず講義を

聞き、話の筋や要点を理解、記

憶をし、その内容を、時間に応

じて書ける量に要約して、書く

という流れの作業を行ってい

ます。ただ、「話の筋や要点を

理解して要約する」と言っても、

「理解できるまで手を止めて

話をじっと聞いていて、理解で

きたところで書き始めて、書き終わったら、またじっと話を聞いて、理解できたところで

書き始める」、ということではありません。

ノートテイクは「今」話されていることを書くものです。話をじっと聞いて、話のポイ

ントが完全にわかるまで手を止めていると、「今」話されていることが書けません。手を

止めずに、聞きながら書くことを続けます。9ページのルーズリーフがノートテイクの例

です。話の内容を記録する「ノート」を取るものではなく、その場の情報を書いて伝える

という「通訳」の性格を持ったものです。自分が普段取っているノートのような書き方、

例えば、箇条書きや図式化した書き方をするのではなく、きちんとした文の形で書きます。

◆ノートテイクの目的

情報の伝達 ⇒ 話のポイントを正確に書く

場の共有 ⇒ 「今」話されていることを書く

話のポイントだけを記録して「授業の記録」を作るのではない

先生や学生の話などを、書ける量に整えて文章にする

■「理解できるまで、じっと聞く」⇒「理解できたっ!」⇒「要約して書く」

ということではない

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■基本的にノートテイクは「文」で書く。

【ノートテイクの例】

支援室のサービス

○ノートテイク

○手話通訳

○パソコンテイク

○パソコン通訳

○記録

感音性難聴

⇒音がゆがんで聞こえる

補聴器

⇒あまり有効ではない

(理由)ゆがんだ音を拡大

してしまう。

箇条書き

図式化

ノートテイクでは、基本的に箇条書き

や構造図のような書き方はあまり使い

ません。

下の例のように、「文」の形で書いてい

きます。

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2.ノートテイクの書き方のポイント

ノートテイクをする際のポイントですが、ノートテイクは、自分ではなく、利用学生が

読んで、その場の情報を得るためのものです。そのため、「読みやすく」、「忠実に」、「遅

れずに」書くことがポイントになります。ここでは、これらのポイントをふまえたノート

テイクの書き方をご説明します。

「読みやすく」

ノートテイクは自分以外の人が読むものです。「読みやすく」書くことを心掛けます。

「読みやすく」書くためには、見やすい表記をする、意味や語の切れ目がわかりやすいよ

うに書く、書くときの姿勢に気をつけるということがポイントになります。

見やすい表記を心がける(p.11 参照)

最初に見やすい表記の方法について説明します。まず、ルーズリーフには、「講義名、

ページ番号、日付」を書きます。ノートテイクをしたルーズリーフは、授業終了後には利

用学生に渡しますので、ルーズリーフの順番がわからなくならないようにしておきます。

また、ノートテイクは1行おきに書きます。行をつめて書いてしまうと、ルーズリーフ

が文字で埋まってしまい、読みにくくなります。1行空けて書くことによって、空間がで

き、読みやすくなります。後で説明しますが、空いたスペースを利用して、間違いを訂正

したり、略号を作ったりすることなどもできます。

それから、無理に右端までつめて書かず、きりの良いところで改行し、適度な余白を作

ることで、紙面がすっきりします。

ノートテイクの時は、大きく、濃く、はっきりとした字を書きます。利用学生は、ノー

トテイカーの隣の席に座ってノートテイクを読みます。そのことを意識し、字が小さくな

ったり、薄くなったりしないように気をつけましょう。ルーズリーフの罫線いっぱいに書

くくらいの文字の大きさでちょうど良いと思います。ノートテイクの際、筆記用具は黒の

ボールペンを使います。支援室でも、ノートテイカーの皆さんに使っていただくために、

いろいろな種類のボールペンを用意しています。

◆ノートテイクは、自分以外の人にその場の情報を伝える「通訳」

「自分以外の人」が読む 「読みやすく」

「通訳」としての性格がある 「忠実に」

「その場の情報」を保障する 「遅れずに」

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■適度な余白と、はっきりとした文字で、見やすい紙面に

・「講義名、ページ番号、日付」 ルーズリーフの順番をわかりやすく

・1行おきに書く

・適度な余白を作る

・字は大きく、濃く、はっきり

・黒のボールペン

読みやすい字 ≠ きれいな字

読みやすいかどうかの基準は利用学生

大きく、はっきりとした字とした字で、できるだけ多くの情報を

ノートテイク講座で初めて練習をする人の多くが、自分のノートテイクに対して、「字

が汚い」という感想を持ちます。しかし、ノートテイクは「字がきれいか、汚いか」では

なく、利用学生にとって読みやすいかどうかということが最も大切です。自分では「汚い

な」と思っても、利用学生が「読める」と言ってくれるのであれば、気にする必要はあり

ません。字の読みやすさについて尋ねることを、利用学生とのコミュニケーションのきっ

かけにするのもいいでしょう。

講義の情報(講義名、日付)を書き、

ページ数を振る。

1行おきに書く

適度な余白を作る。

すっきりとした紙面に

隣の席から読みやすく

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意味や語の切れ目がわかりやすいように(p.13 参照)

読みやすいノートテイクを書くためには、見た目をすっきりさせるだけでなく、意味を

取りやすいように書くことも重要です。たとえば、p.13 の「庭には鶏がいる。裏庭には

鶏がいる。」という例文を見てください。よくある早口言葉です。漢字かな交じりで書く

と、問題なく読むことができますが、ノートテイクでは画数の多い漢字を書くと時間がか

かって、大変です。

そこで、ノートテイクでは、画数の多い漢字を仮名で書きます。ただ、例のようにひら

がなだけで書くとどうでしょう。早口言葉なので同じ文字が多く、より一層読みづらいと

いう面はありますが、単語の切れ目がわかりづらく、意味を取りづらいということがわか

るのではないでしょうか。

そのため、ノートテイクでは、画数の多い漢字はカタカナで書きます。さらに、カタカ

ナの下に線を引いて、「本当は漢字で書いたほうがいいんだけど、カタカナで書いた」と

いうことを示します。こうすることで、単語の切れ目がわかりやすくなります。

分かち書きも効果的です。ひらがなばかりになってしまった場合でも、分かち書きをし

てあると、読みやすくなります。また、意味を取りやすくするためにも、「、」や「。」な

どの句読点はきちんと打ちましょう。

具体例を見てみましょう。p.6 の上の例では、漢字で「隣」、「座る」と書かずにひらが

なで書いていますが、分かち書きをすることで、語の切れ目がわかりやすくなっています。

下はカタカナを使った例です。もともとカタカナで表記する「リアルタイム」という語に

は、下線を引いていません。

その他に、わかりやすく書くためには、「泣き別れ」を避ける、記号をやたらと使わな

いということが大切です。「泣き別れ」というのは、語の途中で改行してしまうことです。

特に、初めて目にするような専門用語の途中で改行されていると、意味をとりづらくなっ

てしまいます。

p.6 の例では、「口話」という語の途中で改行されて、「口」と「話」に分かれてしまっ

ています。このような場合は、「口話」という語の最初から、次の行に書くようにします。

先程もお話ししたように、早めに改行すると、適度な余白ができて、読みやすくなるとい

うこともあります。

また、記号は書いた人以外の人が見ると、意味がわからないことがあります。さらに、

記号を多用すると、「その場」の情報を保障するノートテイクではなく、自分の記録のた

めのいわゆる普通のノートに近いものを書いてしまいがちです。

p.13 の例では、矢印が使われていますが、特に矢印を使わなくても、「伝音性難聴は」

という形で書けば、ほとんど同じ分量で書けます。後で説明しますが、特に矢印などは、

ノートテイクでは、速く書くための工夫として使いますので、あまり他の目的で使わない

ほうがよいでしょう。

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■意味のまとまりや語の切れ目がわかりやすいように書く

【読み取りやすい書き方の例】

【避けてほしい書き方】

庭には鶏がいる。裏庭には鶏がいる。

何の苦もなく読める。でも、ノートテイクの時に「鶏」や「裏庭」のような画数の多い

漢字は時間がかかって、書くのが大変……

にわにはにわとりがいる。うらにわにはにわとりがいる。

速く書けるように、ひらがなだけで書いてみる。「にわ」「には」「にわ」「にわ」……

語の切れ目がわかりづらく、読みにくい……

ニワにはニワトリがいる。ウラニワにはニワトリがいる。

そこで、ノートテイクでは、時間の都合で漢字を書けない(書かない)場合、カタカナで

書いて、下線を引く。

にわには にわとりがいる。うらにわには、にわとりがいる。

カタカナを使わない場合も、分かち書きをしたり、句読点をきちんと打つことで、読みや

すくなる。

「隣」、「座」を書かずにひらがな

で書いているが、分かち書きして

いることで、意味は取りやすい。

カタカナで書き、下線を引いてい

ることで、「ジョウホウ(情報)」

という語を読み取りやすい。

「リアルタイム」はもともとカタ

カナで書くので、下線は引いてい

ない。

分かち書き

カタカナの活用

「泣き別れ」(語の途中で改行す

ること)を避ける。

人によって、記号で表す意味が違

うこともあるので、やたらと記号

を使いすぎないようにする。

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書く姿勢に気をつける

ノートテイクは、隣の席に座っている利用学

生が読むものです。ルーズリーフを抱え込んで

書いたりすることのないよう、利用学生が読み

やすい位置に紙を置くように心がけます。ただ

し、あまりにも無理な体勢で書く必要はありま

せん。

「忠実に」

次に「忠実に」というポイントですが、ノートテイクは、その場の情報を保障する「通

訳」としての性格を持つものです。しかし、時間が限られていて、話の内容全てを書くこ

とはできません。ここで言う「忠実に」というのは、「一言一句違えずに」ということで

はありません。話し手の意図や話の内容に対して「忠実に」書くことを心掛け、書ける量

に要約する際に話し手の意図や内容が変わらないように気をつけます。

ノートテイクでは、時間の制約から文末を省略することも多いですが、話の内容として

文末の違いが重要になることも多くあります。「今の話なのか、過去の話なのか」、「事実

なのか、先生の考えなのか、他人の説の引用なのか」というような点に注意して文末を書

くことで、話の内容に忠実なノートテイクにすることができます。

特に、その話が事実として言われていることなのか、話し手自身の考えなのか、他人の

説の引用なのかということは、大学の授業では大きな意味のある違いです。こういったこ

とに気をつけて、ノートテイクをするようにしましょう。

できるだけ多くの内容を書けることはいいことですが、言いよどみや言い間違い、主述

のねじれなどを含んだ「話しことば」を、そのまま全部書くと、利用学生にとっては読み

にくいものとなります。利用学生は、この内容を「聞く」のではなく、「読む」のだとい

うことを念頭において、ノートテイクをするようにします。

ノートテイクは、時間的な制約の中で書いています。そのため、優先順位の低い情報か

ら省略せざるを得ません。また、「聞き漏らした」、「話に追いつけなかった」などの理由

で、書ききれない情報も出てくると思います。

そのような状況で、最低限、この授業の中で何が話されているのかということは落とさ

ないようにします。「何が」、「どうした」ということが伝わるようにすることをまず考え

ます。その中でも特に「何が」の部分が大切です。

授業が終わった後で、わからなかった部分を先生に聞こうと思っても、授業中に「何が」

話されていたのかという情報がないと質問もなかなかできません。

また、勝手に情報の取捨選択をしないようにします。実際には、ノートテイカーが判断

して、優先順位の低い情報から省略していくわけですが、話されている内容が授業の脇道

にそれた雑談だからと言って、余裕があるのに手を止めてしまって書かないでいるという

■利用学生が隣から読めるような姿勢で書く

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ことはしないようにします。

書き間違った場合は、すばやく、簡単に修正をして、正しい内容をその上や下の 1行空

きの部分に書きます。どこをどう直したのか、訂正箇所と、訂正した後の内容がわかりや

すいように直します。

初めて聞くことばなどで、自分が聞き取った内容に自信がない場合は、「?」などを使

って、不確かである旨を明示します。正しい漢字が思いつかない場合は、無理に推測して

漢字を書くのではなく、カタカナにしておくとよいでしょう。聞き漏らした情報があった

場合は、大きく「○」を書いてスペースを空けておく場合もあります。「何か情報はあっ

たけど、聞き取れなかった」ということを示すことで、利用学生が授業後に教員に質問し

て確認することができます。

■話し手の意図や話の内容に対して「忠実に」書く

・文末を大切に

「今」の話か、「過去」の話か。

「事実」か、「先生の考え」か、「他人の説の引用」か。

~です。/ ~だ。

~だと思います。/ ~と考えています。/

~だと言われています。/ ~だそうです。

・「読むことば」としてわかりやすく

・「何が」「どうした(どうだ)」を中心に 授業で話されている話題や「話の

まとまり」がわかるように

・余裕があるからと言って手を止めない 勝手に情報の取捨選択をしない

■間違いや不確かな情報は、素早く、わかりやすく、修正・明示する

訂正は素早く簡単に

聞き取った内容に自信がない場合は、その旨を明示する

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「遅れずに」

次に「遅れずに」というポイントについてお話しします。利用学生が「今」「その場」

で話されている内容を把握するため、ノートテイクはできるだけ遅れずに書けるようにす

ることが必要です。そのために、できるだけ速く書けるような工夫をします。

略字や略語を使うと、速く書くのに役立ちます。下記のような、一般的に使用されてい

る略字や略語は、特に断らずに使ってもかまいません。ただ、どんな略字や略語を知って

いるかというのは、人によって違います。自分が書いた略字や略語が利用学生に通じてい

るかどうか、確認するようにしてください。

■一般的な略字・略語を使う

【略字】

【略語】

パソコン ⇒ PC 第二次世界大戦 ⇒ W.W.Ⅱ

※利用学生に通じているかどうか確認する

また、講義に繰り返し出てきそうだと考えられる語については、略号を作ります。講義

のタイトルやレジュメなどから、よく出てきそうだと予想される語は、授業が始まる前に

略号を決めておき、ルーズリーフの上の空いているところなど、利用学生が見てわかる場

所に書いておきます。

授業が始まってから、よく出てくることがわかった語の場合は、その場で略号を決めて

使います。最初はそのまま書き、その次から略号にします。最初に書いた語の一部に○を

付けるか、あるいは、上下の空いたスペースに略号を作ります。略号を作る語には下線を

引き、どの語に対して略号を作ったのかがわかるようにしておきます。同じ略号を複数の

語に対して使わないように気をつけましょう。p.18 の例では、「聴覚障がい」を「チシ」

で表すと決めたので、「聴覚障がい学生」は「チシ学生」と書いています。

かな書きをすると、その分、漢字で書いた時と比べると、意味の取りやすさは下がりま

す。「遅れずに」書くことと、「読みやすく」書くことのバランスが大切です。先程説明し

たように、かな書きをしたら下線を引くことで、読みやすくすることができます。

一部だけ漢字を残しておくのも効果的です。「鏡台」のように、画数が多い字が1文字

だけであれば、その画数が多い字だけをカタカナにする方法もあります。そうすることで、

同音異義語との区別がしやすくなることがあります。

また、「○○的」、「○○区」など、漢字3文字で、「2文字+1文字」のような構成にな

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っている場合は、最後の 1 文字を漢字にすると分かりやすくなります。特に、カタカナに

したときに4文字になるような語の場合は、意味の切れ目を間違えにくくなります。

短い間に、同じことばが繰り返された場合は、矢印を使って、2 回目は同じことばを書

かないという工夫をします。この場合は、どこからどこまでが繰り返されていることばな

のかをきちんと下線で明示します。矢印の先にも下線を引いておくと、そのことばが繰り

返される場所がわかりやすくなります。

ただし、繰り返されている場所が遠く離れていると、元をたどりにくくなります。また、

複数のことばの繰り返しを矢印で示すと、矢印が混線する可能性があります。そうすると、

とてもわかりにくいものになってしまいますので、矢印が交差しないように気をつけてく

ださい。

繰り返しになりますが、「遅れずに」書くためには、優先順位の低い情報から省かなけ

ればなりません。しかし、それらは最初から「省いてもいい情報」なのではありません。

「デス・マス」といった先生の話し方の雰囲気が伝わるような情報は、授業の開始直後な

どの余裕のある時は、残すと授業の雰囲気が伝わります。

先生から学生への質問は、もっとも即時性が求められる情報です。すぐに書かなければ、

利用学生が質問に答えることができません。先生の話よりも遅れて書いている時に質問が

あったら、その時点で書いている部分を中断して、質問を先にルーズリーフの空いている

ところなどに書きます。

利用学生個人に向けられた質問であれば、「自分が質問されている」ということが利用

学生にわかるように書きます。

先生の話や学生の発言の他に、学生の私語や携帯電話の着信音などの雑音も必要に応じ

て伝えます。教室内でどんなことが起きているのかということは、授業の臨場感を味わう

うえでも、大切な情報です。

特に、雑音に対して、先生や学生が反応しているような場合、例えば、携帯電話の着信

音が鳴ったことや学生の私語に対して先生が怒った、注意したというような場合には、先

生が反応している理由を伝えます。

■教室で起こっていることが把握できるように

= 学生の私語、携帯電話の着信音……

先生、学生が反応する

教室内の音

???

なぜ、皆が騒いでいるんだろう

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■同じ情報量を短く書ける書き方を選ぶ

略字 / 略語 / 略号 / かな書き / 矢印 /……

■略号

【略号のポイント】

・略号が、どの語を示しているのか、利用学生に見えるように示す

・同じ略号を、複数の語に対して使わないように気をつける

【略号の作り方】

・前もって作る

・その場で作る

よく出てきそうな語は、あらかじめ略号を決めておく。

文字に○を付ける

空いたスペースに

作る

「チシ=聴覚障がい」なのか、「チシ=聴覚障がい学生」なのか、

混乱しないように、略号で示す範囲に下線を引く。

「チシ=聴覚障がい」としたので、

「聴覚障がい学生」を「チシ学生」と表している。

一度、略号を作ったら、その後は略号を使う。

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■かな書き

【かな書きのポイント】

・「遅れずに」と「読みやすく」のバランスが大切

・語の一部を漢字のままにすることで、わかりやすくすることもできる

■矢印

【矢印のポイント】

・あまりに離れた場所を結ぶことはしない

・複数の矢印が交差しないようにする

■先生からの質問

かな書きをしたら、下線を引く。

もともとカタカナで書く語には、下線を引かない。

最後の1文字を漢字にしておく。

◆漢字の一部を残す例

「鏡台」 ⇒ 「キョウ台」 ※「兄弟」と区別がつきやすい。

「墨田区」 ⇒ 「スミダ区」 ※「スミダク」だと、ぱっと見た時に「スミ/ダク」ととってしま

う可能性がある分、読みにくい。

1回目はきちんと書く

2回目はその語が入る

場所だけ明示する

先生からの質問のように、すぐに反応しな

くてはいけない情報は優先的に書きます。

利用学生が指名されている場合は、「タナ

カさんはどう思う?」のように、利用学生

自身が指名されていることがわかるよう

に書きます。

質問を優先的に書く

書いているところを中断

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交代、メモの方法

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1.交代の目的

ノートテイカーの負担軽減

ノートテイクは聞きながら書き続けるという集中力を必要とする作業です。これを、90

分続けるとなると、負担が大きくなります。そこで、基本的には、一つの授業を二人一組

で担当し、交代でノートテイクをします。一人がノートテイクをしている間、もう一人の

ノートテイカーは待機して、手を休めます。ただ、完全に休んでしまうのではなく、先生

の話には注意を向けておくようにしましょう。また、コーディネートの都合上、一人で担

当することになる場合もありますが、そのときには、二人で担当するときよりも話を要約

して、要約率を高めたノートテイクにしてください。

連携による質の確保

「負担軽減」とは別に、「質の確保」も二人一組でノートテイクをする理由の一つです。

待機中のノートテイカーがフォローすることで、ノートテイクの質を確保できます。例え

ば、先生が教科書やレジュメを読んでいる場合に、どこを読んでいるのかを示すというの

もフォローの一つです。

待機中に自分のノートテイクの間違いを修正したり、漢字をかな書きした部分に漢字を

書き足したりするのもよいでしょう。また、待機中のノートテイカーはフォローのために

メモをとります。メモについては、「4.メモのポイント」で詳しくご説明します。

2.交代のタイミング

◆ノートテイクは「二人一組」で行う。

・ノートテイカーの負担軽減

・連携による質の確保 ⇒ 教科書やレジュメを参照した場合のサポート

待機中に自分のノートテイクの修正をする

メモによるノートテイクのフォロー

◆ルーズリーフ1枚ごとに交代。

◆ペアのノートテイカーが、3/4程度書き終わったら、交代の準備を始める。

⇒情報が抜け落ちないように。

◆交代した後に、ルーズリーフをすぐに伏せたりしない。

⇒読む人のことを考える。

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情報が抜け落ちないように交代する

二人でノートテイクをする場合、ルーズリーフ 1 枚ごとに交代します。ただ、ペアのノ

ートテイカーが、1枚のルーズリーフを完全に書き終わるまで待ってから交代すると、交

代のときに情報が抜け落ちてしまう可能性が高くなります。

そこで、ペアのノートテイカーがルーズリーフのだいたい4分の3程度を書き終わった

ら、いつでも書き始められるようにして、早めに交代の準備をしておきます。ルーズリー

フを用意し、書き始めるタイミングを探しながら、話を聞くようにします。

交代して自分が書き始める場合は、書き始めやすい、話のきりが良いところになったら、

書き始めてかまいません。特にペアの人に「交代します」などと告げる必要はありません。

早めに話のきりが良いところを探し始めて、書き始められるポイントが見つかったら、勝

手に書き始めます。

その結果、交代前のノートテイクの終わりの部分と、交代後のノートテイクの最初の部

分で内容が重複するかもしれませんが、重なるぶんにはまったく問題はありません。情報

の漏れをカバーできるので、むしろ良いことだと言えます。

ルーズリーフを1枚書き終わって交代した後、ルーズリーフをすぐに伏せたりしないよ

うにしてください。ノートテイカーが書いた部分をすぐに利用学生が読んでいるとは限り

ません。書き終わったら、書き終わったルーズリーフは利用学生に渡して、ノートテイク

のフォローにまわりましょう。

■情報が落ちないように交代する

■交代した後は……

○書き終わったルーズリーフをすぐに伏せない

○書き終わったルーズリーフは利用学生に渡す

⇒書き終わったら、速やかにペアのフォローへ

情ホには、NTや

PCテイク、PCツウヤク、

キロク、手話ツウヤク

などが

3/4程度

ペアのノートテイカーが

3/4程度書き終わったら交代の準備を始める

◆いつでも書き始められるように準備

・ルーズリーフを用意する

・書き始めるタイミングを探しながら

話を聞く

書き始める

◆きりが良いポイントで

◆ペアに声をかける必要なし

(自分のタイミングで)

◆ペアのノートテイクと

多少重なってもよい

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3.ルーズリーフの使い方

「メモ⇒裏返して、ノートテイク」

ルーズリーフは、授業が終わった後に、

書いた順番で組めるように使います。二

人が交代で書いているので、それぞれが

ルーズリーフを「表、裏」、「表、裏」と

いう順番で使ってしまうと、1ページの

裏に3ページ、2ページの裏に4ページ

がきてしまいます。

そこで、ルーズリーフを右側に穴がく

るように置いた面だけをノートテイクに

使うようにします。左側に穴がくる面は

フォローのためのメモに使います。ノー

トテイクの各ページとそのときに書かれ

たメモが見開きになるようにします。今、

説明したような形になるようにするため

のルーズリーフの使い方を、右側の図に

沿って説明します。

A、Bという二人のノートテイカーが

交代でノートテイクをするとします。A

が先にノートテイクをする場合、Aは右

側に穴がくるようにルーズリーフを置い

て、ノートテイクをします。そのとき、

Bは左側に穴がくるようにルーズリーフ

を置いて、メモを書きます。

Aが1枚目のノートテイクを書き終わ

りそうになったら、Bはメモを裏返して、

2枚目のノートテイクを始めます。Aは

◆授業が終わった後に、書いた順番で組めるように

◆「右側に穴がくる面」にノートテイク

「左側に穴がくる面」にメモ

◆ノートテイクの各ページと、そのときに書かれたメモが見開きになるようにする

■見開きになるようにルーズリーフを使う

NT

3枚目

NT

1枚目

NT

1枚目

メモ

1枚目

テイカー A テイカー B

NT

2枚目

裏返す

メモ

2枚目

NTが終わった紙は

利用学生に渡す

新しい紙に

メモをする

利用学生

NT

3枚目

裏返す

メモ

3枚目

新しい紙に

メモをする

NT

2枚目

渡す

NTNTメメメメ

メモ

3枚目NT

3枚目

組んだ時に見開きになる!

渡す

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書き終わったルーズリーフを利用学生のほうに置き、新しいルーズリーフに2枚目のメモ

を書きます。

次に、Bが2枚目のノートテイクを書き終わりそうになったら、Aはメモを裏返して3

枚目のノートテイクを始めます。Bは書き終わったルーズリーフを利用学生のほうに置き、

新しいルーズリーフに3枚目のメモを書きます。

3枚目以降も同様に、「メモを裏返してノートテイクを始める」、「ノートテイクし終わ

ったら、新しいルーズリーフにメモを書く」という使い方の繰り返しです。

この使い方を繰り返していくと、授業が終わったときにルーズリーフを書いた順番通り

にまとめることができます。少し複雑で、最初のうちは戸惑うかもしれませんが、ノート

テイクを続けていくうちに慣れていってもらえればと思います。

4.メモのポイント

メモはあくまでも「ノートテイクのフォロー」

先程ご説明したように、待機中のノートテイカーはノートテイクのフォローをします。

そのフォローの方法の一つが「メモを書く」ということです。ノートテイクとは違い、メ

モの場合は手を止めずに書き続ける必要はありません。待機中は、先生の話は聞きながら、

次のノートテイクに備えて、手を休めることも必要です。メモはあくまでも、ノートテイ

クのフォロー役だと考えてください。

基本的には、授業のポイント、その中でも特に、ノートテイクの際に書き漏らしがちな

部分を中心に書きます。自分がノートテイクをしているときに、書き漏らしやすいのはど

んな情報か、考えてみるといいでしょう。

また、テストの日時や、休講、補講、教室変更の情報など、授業に関連する重要な情報

については、確実に伝える必要があるので、万が一に備えてメモをしておきます。

ノートテイクは、手を止めずに、話されている内容をひたすら書き続けるため、授業の

中で対応しにくい内容もあります。そういった部分のフォローもメモの役割です。ノート

テイクのときに対応しづらい内容としては、次のページに挙げたようなものがあります。

◆待機中は、ペアのノートテイカーのフォローをする

⇒必要に応じて、メモをとる。(※常にメモをしなければいけないわけではない)

◆メモのポイント

・ノートテイクが書き漏らしがちな部分を補う

・伝わらないと困る情報をメモしておく

←テストの日時/休講・補講/教室変更 など

・ノートテイクで対応しにくい部分のフォロー

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言い換えや要約ができない内容や視覚的な説明にはノートテイクは対応しづらいもので

す。

他の表現に置き換えようがない内容

他の表現に置き換えようがない内容とは、数字や固有名詞、ことわざ、格言などのよう

に、言い換えや要約をすることができないものです。これらの表現はそのまま間違えずに

書かなければなりませんが、時間的に余裕のないノートテイクでは書ききれないことも考

えられます。このような内容はメモに書いておくことで、後で確認をすることができます。

ノートテイクを担当しているときも、これらの内容には特に意識をして、間違えずに書け

るようにしましょう。

要約することができない内容

また、先生が教科書や資料を読み上げている場合は、言いよどみも少なくなりますし、

要約することができないので、ノートテイクは追いついていくことがなかなかできません。

待機中のノートテイカーは、先生がどこを読んでいるのかがわかるように、ページ番号を

メモして利用学生に見せたり、レジュメなどの読んでいる部分を指し示したりして、今ど

こを読んでいるのかを利用学生が把握できるようにします。

ただ、先生が教科書を読み始めるところまでの話を、ノートテイクを担当している人が

まだ書いていないこともありますし、利用学生の読むペースを考える必要もあります。無

理に利用学生の視線を誘導しないようにしましょう。利用学生がすぐに教科書を読める状

況ではないようだったら、読まれた箇所をメモしておいて、利用学生が教科書を読むタイ

ミングになったときに、その箇所を伝えるようにするとよいでしょう。

■ノートテイクが対応しにくい内容

他の表現に置き換えようがない

要約することができない

文章で表しにくい

数字、固有名詞、ことわざ・格言

教科書・資料の引用、読み上げ

板書の図、パワーポイント

⇒ 正確にメモしておく

⇒ 教科書のページ番号などをメモ

参照箇所を利用学生に教える

⇒ 図を簡単に写して、説明を書い

ておく

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文章で表しにくい内容

ノートテイクは文章で書いていきますので、図やグラフの説明には対応しにくい部分が

あります。特に、先生が図を指し示しながら、「ここはこうで」、「そこはこうなっていて」

というように説明を加えるような話し方をしている場合は書きにくくなります。そのよう

な時に、図を簡単に写して、図の中で先生からの説明があった部分にその説明を書き加え

ておくと、ノートテイクのフォローになります。

利用学生のニーズに合わせたメモの書き方を

ここまでご説明したことが、基本的なメモの書き方です。基本的に、授業中はノートテ

イクを見て内容を把握するという利用学生が多いです。ノートテイクを見ていて、わから

なかった場所、ノートテイクが書き漏らしている部分をメモで確認するということが多い

ようです。しかし、利用学生によってメモに対するニーズも違ってきますので、現場に行

ったら、利用学生のニーズを確認するようにしましょう。

また、語学は授業の進め方にさまざまなものがあり、ノートテイクもいろいろな工夫が

必要になります。そのようなときに、メモを活用して、ノートテイカー二人で連携すると

効果的です。例えば、予習してきた訳を学生が発表し、それを先生が直しながら説明を加

えるという形で進めていく授業の場合、話の流れや説明はノートテイクに書き、メモに先

生が話す正しい訳を書くというような役割分担をしていることもあります。

それぞれの授業の進め方に応じた工夫ができるよう、利用学生やペアのノートテイカー

と常に相談をするようにしましょう。

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「記録」について

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1.「記録」とは?

利用学生の代わりにノートをまとめる

支援室では、二人一組で行うノートテイクとは別に、90 分間一人で担当する「記録」

というサービスも提供しています。

「記録」は、ノートテイクとは違い、先生が話している内容を文章で書き取っていくも

のではありません。基本的には、普段自分が授業を受けているときに書くような「ノート」

を作ります。このサービスは、何らかの理由があって、自分でノートをとることができな

い聴覚障がい学生が主に利用します。

たとえば、手話通訳を利用している学生の場合、授業中は手話通訳をずっと見ているた

め、なかなかノートをとることができません。

また、障害の程度が軽い学生の場合は、残存聴力を活かして、先生の話を聴いて授業を

受けていることがあります。ただ、残存聴力を活用するには、とても集中力が必要ですし、

先生の口元を見ることも必要です。そのため、ノートをとる余裕がありません。また、先

生の声質や話し方によっては、90 分の中で声が聞き取りにくい箇所も出てきます。記録

は、そのようなときの内容の確認にもなります。

2.「記録」の基本的な書き方

丁寧な「ノート」を作る

基本的に「記録」は自分のノートのように書き、重要だと思われるポイントやキーワー

ドを中心に整理します。ただ、ノートとは言っても、「記録」は他人が見るものですので、

◆「記録」の目的

何らかの理由で、ノートを取れない利用学生の代わりにノートをまとめる

<ノートを取れない理由>

・手話通訳を見ている

・残存聴力を活用して授業を受けている など

◆重要なことやキーワードを中心に整理する。

◆他人が見たときに、授業の内容がつかめるように書く。

◆板書やスライドに先生の説明を加える。

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他人が見たときに、授業の内容がつかめるように書きます。自分のノートを書く場合、重

要なポイントであっても、すでに知っていることは書かない、あるいは、後で思い出せる

ようにキーワードだけ羅列するというようなことがあると思いますが、記録の場合は、自

分のノートより丁寧に、授業で取り上げられた話題やその説明をまとめていきます。

また、先生が板書を書いたり、スライドを提示したりしながら、説明をしていた場合に、

板書やスライドを写して、そこに説明を書き加えるというようなこともします。

利用学生のニーズに合わせた書き方をする

「記録」に対する利用学生のニーズは、サービスを利用する目的によって、少しずつ異

なり、それに応じて、「記録」の書き方も変わってきます。ここでは、個別の例をいくつ

かご紹介します。

ゼミ形式の授業

ゼミのように、学生の発言も多く、参加者間のやり取りが多い形態の授業では、手話通

訳との併用で「記録」を利用することがよくあります。その場合、授業中に確認のために

「記録」を見ることもありますし、授業後に「記録」を見ながら話の流れを確認すること

もあります。

そこで、話されていた内容だけでなく、「誰が」「どんな内容」を話していたのかという、

発言者やディスカッションの流れも重要な情報となります。この場合の記録は、発言者が

誰なのかということも書き、議事録のようにまとめるとニーズに合ったものになります

語学の授業

語学の授業も、「記録」を利用する学生が多い授業です。できるだけ先生の話を自分で

聴き、その内容の確認や、聞き漏らしのフォローなどに「記録」を利用するという形が多

いです。語学は、授業ごとに進め方も違いますので、それぞれの授業に合った形で「記録」

を書きます。

語学の場合、利用学生のニーズによっては、必ずしもノートのようにまとめる形になら

ないこともあります。そのあたりの書き方については柔軟に対応してください。例えば、

利用学生が先生の説明は聞き取れても、先生が口頭で言う訳をすべて聞いて書き取ること

はできないという場合、先生の全訳を中心に「記録」を書きます。

また、先生の話は聞き取れても、学生の発言が聞き取りづらいという場合には学生の発

言を中心に書くこともありますし、外国語の発音を知りたいというときにカタカナで発音

を書くこともあります。利用学生のニーズを確認しながら、進めてください。

ただし、「先生の話も学生の話も書いてほしい」など、その場の多くの情報を保障して

ほしいというような要望が利用学生から出た場合は、「記録」よりもノートテイクのほう

がニーズに合っている可能性がありますので、支援室までご連絡ください。

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■利用学生のニーズに合わせた書き方をする

例)ゼミ形式の授業の場合 ⇒ 「議事録」風

◆誰がどの内容を話したのかを書く

例)語学の場合 ⇒ 授業の目的に合わせて、柔軟に書き方を変える

◆先生の全訳を書く

◆利用学生にとって、他の学生の発言が聞き取りづらい場合は、学生の発言を中心

に書く

◆発音をカタカナで書く

など

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授業の形態に合わせた

ノートテイク

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授業には、先生の話以外にもいろいろな要素があります。ここでは、授業の形態ごとの

ノートテイクの方法について、ご説明します。利用学生の意見なども参考に、書き方の工

夫などをご説明しますが、実際の授業の形態は本当にさまざまなものがありますので、利

用学生の要望をよく聞きながら、それぞれの授業に合った工夫をするようにしてください。

1.授業の資料への対応

授業の中で先生は、話すだけではなく、いろいろな教材を使います。先生によって、使

う教材の種類も違います。ノートテイクを担当することになったら、早めに先生の授業の

進め方を把握しましょう。

板書

板書は基本的に利用学生が自分で写すので、ノートテイクに板書の内容を写す必要はあ

りません。先生が話している内容をノートテイクするようにします。

ただ、利用学生がルーズリーフに目を落として、ずっとノートテイクを読んでいる場合

は、板書に気付かないこともありますので、「(板書)」のような形で板書があることを明

示します。そうすることで、利用学生が板書に目を向け、自分で板書を写すこともできま

すし、ノートテイクの文章と板書とのつながりもわかりやすくなります。

また、板書中に先生が黙っていた場合、ノートテイクに書くことがなくなり、手を止め

ることもあります。ノートテイカーの手が止まっていると、利用学生は不安になるもので

す。そのときに板書中であることを明示することで、「話についていけなくなって手が止

まっているのではなく、先生が黙っているから手を止めているのだ」と伝えることにもな

ります。板書の時点でノートテイクが大幅に遅れている場合は、板書中に先生が黙ってい

ても、ノートテイクを書き続けて、遅れている分を取り戻すようにしましょう。

先生が、板書の一部を指差しながら、「ここは」、「そこは」というように指示表現を使

って話をした場合、それをそのままノートテイクしてしまうと、指示表現が指し示してい

る内容がわかりません。板書の場合は、先生が書いたものを消してしまうこともあるので、

できるだけ指示内容に直して書くようにします。

ノートテイカーもルーズリーフに目を落として、一所懸命書いていますので、板書に気

「授業の資料」=板書、パワーポイント、レジュメ、教科書、ビデオ……

◆資料のどこを話しているのか、ノートテイクと資料のつながりがわかるように

◆資料に書いてあることを活用して、少ない文字数で書く工夫をする

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付かないこともあるかと思います。そのようなことも考えて、待機中のノートテイカーも

メモによるフォローなどを考えてみましょう。

図やグラフの説明の場合、どこを説明しているのかということを、具体的に書こうとす

ると、多くの字数が必要になります。このような場合、ノートテイクに必要な部分だけ板

書を写して、活用することで速く書けるように工夫することもあります。

例えば、p.35 の場合、先生が板書に書いた表のある一つのマスを指して、そのマスに

ついて説明しています。そのマスの場所を指示表現を使わず、具体的に書こうとすると「パ

ソコンで、二人交代のものは」というようになり、先生が言った「ここ」よりもだいぶ長

くなってしまいます。こういった説明の仕方が一箇所だけならいいですが、さらに他のマ

スについても「ここ」、「そこ」というような形で指し示しながら説明されると、指示され

たすべての場所を具体的な表現に置き換えながら書いていくのは大変です。そこで、必要

最低限だけ表の枠を写し、番号を振ることで、わかりやすく書くことができます。番号を

振ったら、その番号を使って文章を書いていきます。この例のように、視覚的な情報があ

っても、ノートテイクの基本通りに文章で書きます。文章を書くために有効な視覚的情報

を、必要最低限の範囲で写すという考え方です。

パワーポイントのスライド

パワーポイントや OHC などのスライドが用いられる授業も多いと思います。そのような

場合でも、基本的な対応の仕方は板書のときと同じです。スライドに書かれている内容を

書き写す必要はありません。しかし、パワーポイントのスライドの場合、板書とは違い、

「先生が書いている間」がないため、あまりノートテイクに余裕ができません。スライド

を印刷した資料を先生からもらい、それも活用しながら、ノートテイクを進めます。印刷

資料のスライドごとに番号を振り、その番号を使って、「1は、~」、「2は、~」という

ように書く工夫もできます。印刷資料なしにスライドが使われることがあった場合は、先

生に印刷資料の提供をお願いするか、支援室に連絡してください。支援室でも、学期の始

めなどにスライドの印刷資料を提供してくれるよう、先生方に連絡しています。

また、図やグラフがスライドに出た場合には、図やグラフとノートテイクのつながりが

わかるように留意してノートテイクをします。p.36 の例では、2枚のスライドに順番に

図が出ているので、どちらの図の説明かがわかるようにノートテイクをしています。

レジュメ

レジュメが配られた場合は、ノートテイカーの分ももらい、活用するようにします。レ

ジュメには、授業の構成が書かれています。レジュメが配られたら、ノートテイクの前に

目を通し、授業の内容を前もって把握するようにします。繰り返し使われそうなことばが

あれば、前もって略号を作るなどの工夫をしておきましょう。

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また、レジュメがある授業でノートテイクをする場合は、レジュメのどの部分を今話し

ているのかということを意識しながら、ノートテイクをします。レジュメにふられている

番号や記号を利用する方法もあります。ただ、レジュメに同じ番号が複数あることもあり

ますので、利用学生が混乱しないように気をつけます。

先生がレジュメの記述を参照した場合は、その参照箇所をきちんと書くようにします。

レジュメに書かれていることを活かして、その最初の何文字かと最後の何文字かを書くこ

とで省略するのも有効な方法です。

教科書

授業中に先生が教科書を読んだり、教科書の参照箇所を指示したりした場合には、その

ページ数や読んでいる箇所がわかるような書き方をします。教科書の場合も、レジュメと

同じような書き方をすることができます。

待機中のノートテイカーは、参照されているページの番号をメモしたり、読まれている

箇所を利用学生に教えるなどしてフォローします。そのときは、利用学生がノートテイク

や教科書を読むペースに配慮するようにしましょう。

映像、音声教材

ビデオなどの音声教材や映像教材は、内容がまとまっていて無駄がなく、なかなかノー

トテイクでは追いつくことが難しいものです。支援室では、ビデオなどの音声教材を使用

する際には、内容をまとめた資料を提供するなどの配慮を、聴覚障がい学生が受講する授

業を担当している先生方にお願いしています。また、支援室では文字起こしのサービスも

提供しています。使用する予定の教材を前もって提供してもらえれば、文字起こしをして、

使用当日に利用学生に提供することができます。

授業中に頻繁に音声教材が用いられている場合、また、今後音声教材が用いられること

がわかった場合などは支援室まで連絡してください。支援室から先生に連絡をして、配慮

を依頼します。

それでも、音声教材のノートテイクをしなければならなくなった場合には、音声のすべ

てを書くことはできませんので、「最低限、ナレーションは書く」というように、利用学

生と相談のうえ、利用学生のニーズに合わせて、優先的に書く情報を決めておきます。

また、ノートテイカー二人で、ナレーションの担当と、映像中に出ている人物の発言担

当というように役割を分担して、二人で書いていくというような工夫をすることもできま

す。どちらにしても、利用学生とペアのノートテイカーと相談のうえ、次善策を考えまし

ょう。

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■授業の資料への対応

<板書> ・基本的には書き写す必要はない

・「(板書)」と明示し、ノートテイクと板書のつながりをわかりやすくする

・板書に書いてあることを活用して、速く書く工夫をする

<パワーポイントのスライド> ・原則は板書と同じ

・どのスライドの説明かわかるように

「ここ」「そこ」などの指示表

現は、指示されている内容

に直して書く。

板書の情報を利用できるよ

うであれば、必要な部分だ

け写して活用する。

スライドを印刷した資料を活

用して、どのスライドの説明

かわかりやすく書く。

どの図の説明かがわかるよ

うに書く。

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<レジュメ> ・テイカーの分ももらって活用する

・前もって目を通し、略号を作るなど工夫をする

<教科書> ・参照したページがわかるようにする

・前もって目を通し、略号を作るなど工夫をする

<映像、音声教材> ・最低限、書く内容を利用学生と相談して決める

・「『ナレーション』と『画面に映っている人の話』」というよ

うに、ノートテイカー二人で役割分担する

※映像、音声教材が多用されて対応が困難な場合は、支援室に報告してください。

レジュメの記号を活用する。

同じ記号を違う意味に使っ

て混乱しないように。

レジュメに書いてあることを

先生が読んだときには、最

初と最後の数文字ずつを書

いて、途中を省略することで

速く書ける。

<板書、スライド、教科書な

どに対しても使える工夫>

先生が教科書を読んだとき

は、すべてを書くのは難しい

ので、最低限、参照したペー

ジは書くようにする。

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2.授業場面に応じたノートテイクの方法

先生からの質問

基本的な書き方のところでも説明しましたが、先生からの質問はすぐに書かなければな

らない情報です。その時点で書いているところを中断して、ルーズリーフの空いていると

ころなどに優先的に書きます。

また、先生がよく質問をするようなら、「わかりましたか」、「質問ありますか」などの

定型的な質問をあらかじめ書いたカードを用意しておく、質問は待機中の人がメモをして

利用学生に見せる、など、前もって対応の方法を決めておくとよいでしょう。

利用学生が指名された場合は、「○○さんはどう思う」というような形で、利用学生の

名前を明示するなどして、利用学生が指名されていることがわかるように書きます。利用

学生と合意の上であれば、肩をたたいて教えるなどの方法でもかまいません。質問内容を

できるだけ速く、正しく利用学生に伝えるようにします。

学生の発言

授業中は先生だけでなく、学生が発言することもあります。まず、発言者が変わる場合

には、発言者を書いた後に「/(スラッシュ)」を書いて、発言者が変わったことを示し

ます。発言者の名前がわからないこともあるかと思いますが、最低限、話しているのが先

生なのか学生なのかは区別するようにしてください。「学生/~」、「先生/~」や、「S/

~」、「T/~」などと書きます。

学生の発言も、先生の話と同様に書いていきますが、学生の発言は、声が小さかったり、

内容がまとまっていなかったりということがよくありますので、そういったときにどうす

るかはあらかじめ、利用学生と相談しておきます。学生の発言内容を先生が復唱している

ような場合には、先生の話を書き漏らさないようにすることに重点を置いても良いでしょ

う。先生と学生のやり取りがある場合には、工夫が必要です。

その他にも、ディスカッションがある授業などの場合には、発言者によって書く担当を

分けるなど、ノートテイカー二人で協力して工夫の仕方を決めておきます。

◆利用学生のニーズも聞き、相談して対応の方法を決めておく

◆利用学生が受講者として行動できるように

⇒すぐに反応しなければならない情報は優先的に書く

◆利用学生のニーズ、授業の目的を考えて書き方、書く内容を決める

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先生からの指示

授業中に何かするように先生から指示があった場合には、すぐにやらなければならない

ことであれば、質問があったときと同様に優先的に書きます。同じような指示が繰り返し

あるような場合には、その指示をカードにして準備しておくことも工夫の一つです。

出欠確認

学生の名前を一人ひとり呼びながら出席をとっている場合は、受講生全員の名前をすべ

て書き取っていくことはできないと思いますので、利用学生の名前が呼ばれたときに、す

ぐに書いて、利用学生が返事をできるようにします。ただ、「青山さん、赤井さん、……

田中さん、……」のように最初の何人かだけ、呼ばれた順番で名前を書いておくと、出席

をとっている感じが伝わります。利用学生が呼ばれたときに肩をたたいて教えるなど、対

応をあらかじめ決めておくことも一つの方法です。

また、先生に出席の取り方を工夫してもらってもよいでしょう。そういった先生への依

頼は、利用学生と一緒に行ってください。直接頼みにくい場合は、支援室に相談してくだ

さい。

語学

語学は、講読、会話など、いろいろな授業の形態があります。授業の目的と、利用学生

のニーズを考えて、書き方を工夫しましょう。利用学生が正しい訳を知りたいのか、発音

の書き方をどうするか、学生の発言をどのように書くかなど、細かく決めておくとよいと

思います。それに合わせて、優先すべき情報を確認しておきましょう。また、訳は待機中

の人がメモに書くなど、メモの活用も考えます。

■利用学生のニーズと授業の目的に合わせて書き方を決めておく

例)◆先生が言う正しい訳を中心に書く。

◆発音をカタカナで書く。

◆学生の発言はわかる範囲で書く。

など

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3.通訳環境の整備

ノートテイクの際には、利用学生のニーズを聞くことは必要ですが、逆に、ノートテイ

カーとしての意見、要望を利用学生に伝えることも大切です。ノートテイカーの分の資料

ももらってほしいなど、必要なことは伝えるようにしましょう。そのために、普段からコ

ミュニケーションをとるようにするとよいでしょう。

また、ノートテイクには先生を始めとした周囲の協力も不可欠です。重要なことは繰り

返し話してほしい、もう少し大きな声で話してほしい、パワーポイントを印刷した資料が

ほしい、といった要望を周囲に伝え、より良い通訳環境を整える努力をします。

ただし、先生に配慮をお願いしたりするときは、ノートテイカーだけで行動するのでは

なく、利用学生とも相談をするようにしましょう。

現場で困っていることは支援室にも報告してください。支援室が現場の状況を把握でき

ますし、ノートテイカーからは直接先生に要望を伝えづらい場合や、現場では解決しきれ

ないことがあった場合に、支援室が対応することができます。

◆利用学生のニーズを聞く。

◆利用学生にノートテイカーとしての意見を伝える。

◆先生に配慮を依頼する。

◆支援室にこまめに報告をする。

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2011.9.2 改訂