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県立高校改革実施計画Ⅰ期(2016年度~2019年度) 教育課程研究開発校「新たな学習評価に係る研究」研究成果物 平成31年3月 神奈川県立鶴見高等学校 ルーブリックを活用した 学習評価ハンドブック

ルーブリックを活用した 学習評価ハンドブック...ルーブリックを活用した学習評価Q&A 基礎編① Q そもそもルーブリックとは何ですか?

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県立高校改革実施計画Ⅰ期(2016年度~2019年度)教育課程研究開発校「新たな学習評価に係る研究」研究成果物

平成31年3月

神奈川県立鶴見高等学校

ルーブリックを活用した学習評価ハンドブック

ルーブリックを活用した学習評価 Q&A 基礎編①

Q そもそもルーブリックとは何ですか?

A ルーブリック(rubric)とは、ラテン語のルビカ(rubrica:朱書きという意味)を語源とした言葉で、学習到達度を示す評価基準を観点と尺度からなる表として示したものです。 主に、パフォーマンス課題を評価するために使われています。

レポートや実技試験などで、事前に評価基準を決めて、評価することです。次に、公開研究授業での本校美術科指導案から具体例を示します。

【ルーブリックの例】芸術(美術)のレリーフの作成

Q ルーブリックを使うメリットは何ですか?

A 授業を行う前に評価基準を生徒に示せば、授業の目標が明確になり、生徒が次の段階へと学びを深めることが期待できます。また、生徒や保護者に対して、どのような基準で評価したのかを説明することができ、評価の信頼性・妥当性を高める効果があります。

上のように、提出された課題をいくつかの段階に分類して評価します。ここでは、S~Cの4段階とし、全生徒が達成をめざす目標(評価規準)をB段階に設定しています。学校の実態や課題設定に応じて柔軟に対応することもできます。具体的な基準を事前に生徒に示すことで、生徒が

「主体的」に課題に取組むなどの変化が生まれ、先生が対話的な学びへの工夫をするようになるなどの変化も期待できます。

ルーブリックとは?

S A B(規準) C

木の厚みをうまく利用しながら立体的な表現に工夫がみられ、仕上げも丁寧に手が入っており、作品として1つの世界観が成立している。

木の厚みをうまく利用しながら立体的な表現に工夫がみられ、仕上がりも丁寧に手が入っている。

木の厚みを利用しながら立体的な表現をしようとしており、作品として完成させることができている。

作品を完成させ提出することができた。

この欄には、B段階に向けた具体的な手

立ても記載する。

Q 毎時間4つの観点すべてで、ルーブリックを使用して評価しなければならないのですか?

A ペーパーテストで評価可能な事柄に対して無理にルーブリックを使う必要はありません。レポート課題などの思考・判断・表現、発表活動などの表現、実技テストなどの技能に対して必要に応じて、活用しやすい観点で使えばよいのです。また、すべての時間で使う必要はありません。単元の中で、生徒が

活動する場面や提出されたレポートなどルーブリック評価が有効だと思われるところで使えばよいのです。

ルーブリックで何を測る?

ルーブリックを活用した学習評価 Q&A 基礎編②

知識・技能は、定期試験などのペーパーテストで測ることができます。それだけでは、生徒の持つ力すべてを測ることは不可能です。「氷山の下に隠れている様々な能力を測る」のがルーブリックです。また、生徒を励まし、目標

を示す形成的な評価と総括的な評価を組合わせることにより資質・能力の伸長も期待できます。

評価規準はどうやって作成する?

~評価規準を作成するにあたっての参考資料~

国立教育政策研究所のウェブページに「評価規準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料」があります。新旧2つの版がありますが、どちらも各教科各科目の単元について評価規準の具体例が出ています。この資料などを参考に、各校の目標や実態に合わせた単元の評価規準が作成できます。

Q ルーブリックは単元ごとに1つの場面で使用すれば良いと言われたが、手間もかかるし、なかなか文章が思いつかないのですが…

A 同じ科目を担当している先生方で教材やルーブリックを共有していきましょう。そうすれば、組織的な授業改善につながり、労力も軽減されます。また、ルーブリックを作成するときに、単元の目標

に立ち返ることも大切です。

次に示すのは鶴見高校数学科で作成した指導案の一部です。単元の目標や評価規準から、毎時の活動が導かれています。

ルーブリックを活用した学習評価 Q&A 基礎編③

数学の場合

三角関数の加法定理に関心を持つとともに,よさを認識し,それらの事象の考察に加法定理を活用して判断しようとする。

校内研修の工夫

Q 生徒の発表活動で、ルーブリックを使ったのですが、生徒一人ひとりの活動を見取るのがとても大変でした。

A ルーブリックは作品・課題などの成果物を評価するときには使いやすいのですが、活動そのものを見取るときには工夫が必要です。

たとえば、基準が書かれている「ルーブリックシート」を生徒全員に配付し、活動を相互評価させ、お互いにシートを交換させるなど、相互評価によって生徒を励まし、次の目標をあたえる形成的評価に使用するなどの使い方があります。また、A・Bの2段階のみに基準を設定して見取っている先生もいるようです。更なる工夫を私たちみんなで考えていきましょう。

Q ルーブリックを作ったのですが、評価項目が多くなりすぎて、なんだかわかりにくくなってしまいました。

A 目の前にいる生徒に話しかけ、アドバイスする気持ちでルーブリックの文章を考えてみると良いと思います。

鶴見高校では、研修会などの発表の一部に寸劇も用いています。次の例は、最初にルーブリックを作成したときに陥りやすい事柄を演じたものです。

Aさん:次の授業は「山月記」か。ルーブリックの基準を考えないとなぁ。B評価が規準になるわけだから、S評価をどうしようかな。やっぱり「能力を過信した者の末路をどのように描いているかを正確に理解している。」は外せないよね。あとは「漢文調の文章が持つリズムと格調を鑑賞できている。」それから「登場人物の人柄

を正確に把握している」も入れてと…ん?生徒に配るプリントに書いた評価基準がごちゃごちゃしちゃって…字が小さすぎて読めない!!

Bさん:そもそもルーブリックの評価基準をプリントに印刷するのは何のためだか考えたことがある?これは生徒たちに目標を与えるためにあるの。目の前の課題に対して自分はどこま

でできるか、それによってそれぞれが挑戦すべき目標を定めるの。だから、あれもこれも詰め込んでしまっては生徒が何を目標にしていいかわからな

くなってしまうわ。

ルーブリックを活用した学習評価 Q&A 実践編

7下 手立てなどを記入する欄○次のステップへ向かうには、どのような活動が必要であるかという手立てを考えておくことも、より良いルーブリック作成の助けとなる。

鶴見高校の研究授業では、本時の指導案ではなく単元の指導計画を作成して取り組んでいます。さらに、単元全体の評価規準、ルーブリックを作成し、同じ科目の担当者で共通にするようにしています。同じ単元の授業であれば何度でも利用できますし、すべての観点をどのように評価しているのかも分かります。

全体の関連性を意識して記入していく。

7上 ルーブリックを記入する欄○評価基準(B)は少し高めに設定が効果的。○抽象的な文言はさけて、できるだけ具体的な文言とする。○「自分は何ができたか」という生徒自身の視点で作成する。○たくさんの事柄を書き込まず、ねらいを絞って簡潔に作成する。

5 評価規準○「評価規準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料」など参照。○ルーブリックで評価するのは一つの観点で良い。

6 単元の指導計画○各時間一行程度で簡潔に記載する。○どの時間にルーブリックと関係深い授業を行うか明記する。

ルーブリックを活用した学習評価 学習指導案例

教科名

鶴見高校の研究の取組

Q ルーブリックについては理解できたけれど、勤務校の先生方全員に知ってもらい、活用してもらうにはどうしたら良いのでしょうか?

A まずは、研究授業についてお話します。鶴見高校では、全教科の一科目以上で、その科目を担当する全教員が

研究授業を行っています。この取組により、同じ科目を持つ教員同士で、お互いに相談を重ねな

がら単元の指導計画を作成します。負担を減らしながら、組織的な授業改善に取組んでいます。研究授業では「本時の指導案」は作成していません。

鶴見高校では、大学の先生を講師に招いての研修会を年2回実施するとともに、適宜校内研修も行いました。校内外の研修では、寸劇を取り入れ、敷居を低くする工夫も行いました。

取組 春 夏 秋 冬

平成28年度 ○校内研修会(3回)

○講演会講師:静岡大学益川弘如先生

○公開研究授業 ○公開授業○講演会講師:静岡大学益川弘如先生

平成29年度 ○校内研修会(2回)

○校内研修会(1回)

○公開研究授業(3日間)○講演会講師:専修大学望月俊男先生

○公開授業○ワークショップ講師:専修大学望月俊男先生

平成30年度 ○校内研修会(1回)

○校内研修会(1回)

○公開研究授業(2日間)○講演会講師:専修大学望月俊男先生

○公開授業○講演会講師:専修大学望月俊男先生

予算の主な使い道

平成28年度 付箋、用紙、画板など授業関連、講師謝礼、学習成果発表会関連

平成29年度 イーゼル(三脚)など学習成果発表会・生徒作品展示関係、講師謝礼

平成30年度 講師謝礼、パンフレット作成

ルーブリックを活用した学習評価 Q&A 普及編

神奈川県立鶴見高等学校では、平成28年度より3年間、県立高校改革(Ⅰ期)指定事業「教育課程研究開発校(新たな学習評価に係る研究)」として、ルーブリック評価の実践を通じてさまざまな教育活動を行ってきました。このリーフレットはその実践から学んだことをまとめたものです。

Q ルーブリックを活用して生徒または、生徒と先生の関係に何か変化はありましたか?

平成28年度には「生徒による授業評価」の「生徒主体の授業の工夫」の項目がほとんどの教科で上昇しました。

学年単位の活動では、外国語科が中心となり英文の演説を暗誦するコンクール、「総合的な学習の時間」での「架空のNPO法人を作ろう」などの全学年生徒による発表会で、ルーブリックを使用した評価が行われています。地区ごとに行われる学習成果発表会では、複数のグループに

よるポスターセッションで参加をするなど、ルーブリックを活用した授業実践は、学校全体の活動に様々な影響を及ぼしています。

ルーブリックを活用した学習評価 Q&A 成果編

おわりに

平成30年3月に公示された次期高等学校学習指導要領において「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」が示され、また、「どのように評価するか」については、平成31年1月現在、中央教育審議会初等中等教育審議会教育課程部会「児童生徒の学習評価に関するワーキンググループ」で児童生徒の学習評価の在り方が議論されています。その議論の中では、「評価の観点」については、成績付けのための評価だけでなく、指

導の改善に生かす評価においても重要な役割があることが改めて示され、学力3要素に合わせて「知識・技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の観点で評価を行うことと整理されています。さらには、高等学校指導要録の様式の見直しも議論されており、評定だけではなく、観

点別学習状況の評価を記載することが検討されており、ペーパーテストでは測りにくい「思考力・判断力・表現力等」や「主体的に学習に取り組む態度」の評価の信頼性・妥当性を高めるために、パフォーマンス評価としてのルーブリックが注目されています。こうした中、本校が指定された教育課程研究開発校「新たな学習評価に係る研究」によ

る3年間の研究成果をまとめ、ルーブリックの活用のノウハウを広めることとしました。本リーフレットが多くの学校の学習評価の改善に少しでも役立ちましたら幸いです。