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(3) 平成29年6月1日 第42号 57 sustainable 使使20 24 使使使40 45 西15 圡野 研治 教授 柿崎 隆夫 教授 芸術学部 工学部 障害児の音楽療法を実践 つちの・けんじ 昭和53年国立音楽大声楽科卒。同年より埼玉県内の特別支援学校に音楽教諭と して23年間勤務し、障害児の音楽指導や音楽療法の実践研究を行う。その業績 に対し、第2回音楽教育振興賞、下總晥一音楽賞等を受賞。その後、昭和音楽大 助教授などを務め、平成19年に本学芸術学部音楽学科准教授。22年4月から同 教授。日本音楽療法学会常任理事。日本演奏連盟会員。認定音楽療法士。著書に 「心ひらくピアノ―自閉症児と音楽療法士との14年」(春秋社)、「障害児の音楽 療法 声・身体・コミュニケーション」(春秋社)などがある。東京都出身。61歳。 心身障害回復や生活の質向上目指す 事例研究で新しい可能性切り開く サステナブルシステムの発信基地として かきざき・たかお 昭和54年東北大大学院工学研究科博士課程前期 修了。同年日本電信電話公社(現NTT)入社。マサチ ューセッツ工科大客員研究員、NTTヒューマンイン タフェース研究所研究部長、NTT理事、同研究開発 部門R&D統括チーフプロデューサーなどを経て現 職。工学博士、本学工学部工学研究所次長。秋田県 出身。 “ロハスの工学”をベースに 持続可能な社会環境を構築 2015年9月、音楽学科音楽教育コースの合宿で(軽 井沢セミナーハウス) 2012年6月、リオデジャネイロで開催 された国連持続可能な開発会議「Rio +20」で基調講演を行う柿崎教授

サステナブルシステムの発信基地として · に対し、第2回音楽教育振興賞、下總晥一音楽賞等を受賞。その後、昭和音楽大 助教授などを務め、平成19年に本学芸術学部音楽学科准教授。22年4月から同

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Page 1: サステナブルシステムの発信基地として · に対し、第2回音楽教育振興賞、下總晥一音楽賞等を受賞。その後、昭和音楽大 助教授などを務め、平成19年に本学芸術学部音楽学科准教授。22年4月から同

日 本 大 学 広 報 特 別 版(3) 平成29年6月1日 第42号

 

NTT研究開発本部の

チーフプロデューサーと

して、サービスに関する

研究統括とインターネッ

トサービス事業に取り組

んでいた柿崎隆夫教授が、

本学に転身したのは

2010年。57歳の時だっ

た。それ以前の実績を振

り返ると「磁気ディスク装

置」「知能ロボットシステ

ム」、さらに「映像通信サ

ービス事業」の研究開発

など枚挙にいとまがない。

まさに技術とビジネスと

の橋渡しを担う、常に時

代の最先端を突き進む企

業戦士だった。

3本柱の研究テーマ

 「機械工学科 

サステ

ナブルシステムスデザイ

ン研究室」――。ここが現

在の柿崎教授の活動拠点

だ。サステナブル

(sustainable

)とは「持続

可能であるさま」を表す。

では、その指標となるも

のは…。従来のコンセン

サス例としては、環境、経

済、そして社会の3要素

が主要な指標であり、そ

れぞれについてより定量

的な尺度が設けられるケ

ースが多いという。「た

だ、そのような方法論も

確定したものではありま

せん。従って、大局的な視

野からのアプローチとと

もに、我々としては一つ

でも有益な実例を積み重

ね工学的手法を編み出し

ていく必要があります」

 

かつて米国や欧州が他

国に先駆けて環境汚染や

エネルギー枯渇問題を取

り上げ、社会的な運動に

まで発展させてきたが、

いまや我が国が率先して

高齢化、エネルギー、地

方の行く末などの問題に

取り組まざるを得なくな

った。振り返って、工学

部が掲げている〝ロハス

の工学〟、すなわち「人

類と地球とが共存共栄で

きる持続可能なライフス

タイルの追求」も、実は

それらの問題克服に向け

た取り組みと歩を一にす

る。工学研究所次長でも

ある柿崎教授は現在、そ

の統括・推進役とし

て粉骨砕身している

のである。

 「それらの…」と

述べた通り、サステ

ナブルシステムの構

築のために掲げてい

る研究テーマは一つ

ではない。チームで

は「『ロボットシステム』

『人間の動作分析』『再生

可能エネルギー利用』を

3本柱として、それぞれ

武藤伸洋教授と遠藤央助

教、そして小熊正人特任

教授という専門家を中心

に全方位的に取り組んで

いる」という。

持続可能な社会の実現

 

まず、「ロボット」に

関わる研究ではセンシン

グやネットワークによる

IOT(モノのインター

ネット)を駆使し、湖沼

や住環境モニタリングの

ためのフィールドロボテ

ィクスの研究を進めてい

る。また、高齢者や障害

者の家庭での生活支援を

目的としたケアロボティ

クスについても研究を重

ねているところだ。次に

「人間の動作分析」に関

わる研究では、ロボティ

クスをベースにセンシン

グやネットワークを駆使

し、機械と人間の相互作

用を円滑にするための技

術開発を進めている。例

えば、医療ミスというの

は、いわゆる本人が意図

しないヒューマンエラー

によって生じるものだ

が、そうしたトラブルを

未然に防ぐために、人間

の動作パターンを解析し

危機管理、そして臨床工

学技士教育をもサポート

するという研究だ。

 

さらに「再生可能エネ

ルギー利用」の研究にお

いては、従来の工法より

浅い浅部地中熱利用シス

テム(地表から5~20㍍

の浅い地下土壌の熱を利

用)を導入し、地中熱交

換器、ヒートポンプそし

て宅内機器までを統合的

に開発、低価格の地中熱

利用システム実現を目指

している。

「東日本大震災以降、

福島県では多くの新しい

産学官連携プロジェクト

が動き出しています。平

成24年に採択された文科

省地域イノベーション戦

略支援プログラムもその

一つ。3本柱に共通の課

題は、ロハスの工学をベ

ースに各分野の研究を連

携させ、持続可能な社会

に役立つ技術や成果に結

びつけていくことで

す」。企業で磨き上げら

れたプロデュース感覚と

飽くなき探求心とを併せ

持つ柿崎教授にかかる期

待は今後ますます大きく

なってくる。

音楽療法は、音楽の持

つさまざまな効用を使

い、心身障害の回復や生

活の質向上などを目指

す。𡈽野研治教授は、障

害児を対象に学部内で音

楽療法を施しながら、将

来音楽療法士を希望する

学生を指導している。地

方のビハーラ(仏教的ホ

スピス)で演奏を披露し

たり、バリトン歌手とし

てリサイタルを開くこと

も。世界の音楽療法士が

日本に大集合する、今年

7月の世界音楽療法士大

会では講演もする。

療法の構造を明確に

𡈽野教授によると、障

害児の音楽療法は「音楽

を介して障害児の抱える

社会的ハンディキャップ

を軽減させ、少しでも社

会生活が営みやすくなる

ように援助することであ

る」という。

音楽療法の治療構造を

明確にしておくことが重

要で、まず音楽療法士が

依頼者・クライエント(音

楽療法を受ける人)の障

害・家族構成・生育歴・

発達の状況・音の好みな

どを把握し、クライエン

トとのセッションを通し

て、状態像を的確に捉え

る必要がある。

さらに、音楽療法の目

標を設定し、保護者にも

確認する。音楽療法セッ

ション(音楽活動)での

クライエントの様子を詳

細に記録し、行動の変容

などについて考察する。

セッションの様子や行動

の意味を保護者に分かり

やすく伝える。自らのセ

ッションを振り返り、整

理することが最も重要で

あるという。

子どもに合った音

実際の音楽療法は現在

毎週1回、学部内のセッ

ションルームで、学生と

共に行われる。対象は身

体障害や発達障害を抱え

る子ども4人。保護者に

連れられ、代わる代わる

やってくる子どもたちに

対し、𡈽野教授は表情や

仕草などをよく観

察した上で、子ど

もに合った音や音

楽を提供する。

音は自らの声、

歌、楽器など。特

に声を使う際は、

子どもを不安にさ

せないよう、どの

ようなトーンやピ

ッチにするかをき

ちんと考える。歌

や楽器は既成曲を使うこ

ともあれば、その場で考

えて即興音楽で行うこと

も多い。時間は1人に対

し40~45分間。終了後は

毎回、セッション全体を

振り返り、新たな課題を

探して次に生かす。

障害児とは別に毎週1

回、都内の高齢者施設へ

音楽療法士である講師と

学生を派遣し、身体障害

や認知症のお年寄りにセ

ッションを施す。

セッションを続ける中

で、クライエントの認

知、身体運動、情緒、対

人関係が統合され組織化

される。外界をどのよう

に受け止め自己表出して

いるのかを、丁寧に考察

することが発達促進につ

ながる。問題行動も、そ

の意味をしっかりと検討

する。

𡈽野教授はこうした事

例研究を積み重ねて、音

楽療法の新しい可能性を

切り開こうとしている。

出会いが重要

𡈽野教授は本来、国立

音楽大学を卒業したバリ

トン歌手。幼い頃から音

楽が好きでNHKの児童

合唱団にも在籍した。今

でも呼吸トレーニングを

欠かさない。これは「音

楽療法は音との出会いが

とても重要。アルヴァン

の言葉である、音楽療法

士は、プロの音楽家でな

ければならない」ためだ。

2カ月に1度は、新潟

県長岡市の長岡西病院に

あるビハーラの音楽会へ

も出向く。末期患者の心

理的ケアをする臨床宗教

師らが同席する中、音楽

療法士であり声楽家とし

て、患者らと一緒に歌謡

曲や唱歌などを歌う。患

者や家族の反応をつぶさ

に観察し、会話を交わ

し、研究に反映させる。

今年7月4~8日、つ

くば国際会議場で開催さ

れる日本初の「第15回世

界音楽療法大会」で、𡈽

野教授はプレセミナーで

「宇佐川理論に基づいた

発達障がい児のための音

楽療法︱日本で発展し体

系化されたアプローチ

︱」との演題で講演する

予定だ。

圡野 研治 教授

柿崎 隆夫 教授

芸術学部

工学部

障害児の音楽療法を実践

つちの・けんじ昭和53年国立音楽大声楽科卒。同年より埼玉県内の特別支援学校に音楽教諭として23年間勤務し、障害児の音楽指導や音楽療法の実践研究を行う。その業績に対し、第2回音楽教育振興賞、下總晥一音楽賞等を受賞。その後、昭和音楽大助教授などを務め、平成19年に本学芸術学部音楽学科准教授。22年4月から同教授。日本音楽療法学会常任理事。日本演奏連盟会員。認定音楽療法士。著書に「心ひらくピアノ―自閉症児と音楽療法士との14年」(春秋社)、「障害児の音楽療法 声・身体・コミュニケーション」(春秋社)などがある。東京都出身。61歳。

心身障害回復や生活の質向上目指す事例研究で新しい可能性切り開く

サステナブルシステムの発信基地として

かきざき・たかお昭和54年東北大大学院工学研究科博士課程前期修了。同年日本電信電話公社(現NTT)入社。マサチューセッツ工科大客員研究員、NTTヒューマンインタフェース研究所研究部長、NTT理事、同研究開発部門R&D統括チーフプロデューサーなどを経て現職。工学博士、本学工学部工学研究所次長。秋田県出身。

“ロハスの工学”をベースに持続可能な社会環境を構築

2015年9月、音楽学科音楽教育コースの合宿で(軽井沢セミナーハウス)

2012年6月、リオデジャネイロで開催された国連持続可能な開発会議「Rio+20」で基調講演を行う柿崎教授