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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年) テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発 (旧:超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発) Research and development program on key technology in terahertz frequency bands 研究代表者 加々見 日本電信電話株式会社 Osamu Kagami Nippon Telegraph and Telephone Corporation 研究分担者 矢板 松崎 秀昭 小杉 敏彦 濱田 裕史 エルムタワキル アミン 田島 卓郎 杉山 弘樹 味戸 克裕 児玉 野坂 秀之 古谷 彰教 直紀 †† 中舍 安宏 †† 川野 陽一 †† 鈴木 俊秀 高橋 †† 牧山 剛三 †† 佐藤 †† 松村 宏志 †† 祥一 †† 笠松 章史 ††† 藤井 勝巳 ††† 関根 徳彦 ††† 渡邊 一世 ††† 小川 博世 ††† 福永 ††† 寳迫 ††† Makoto Yaita Hideaki Matsuzaki Toshihiko Kosugi Hiroshi Hamada Amine El Moutaouakil Takuro Tajima Hiroki Sugiyama Katsuhiro Ajito Satoshi Kodama Hideyuki Nosaka Akinori Furuya Naoki Hara †† Yasuhiro Nakasha †† Yoichi Kawano †† Toshihide Suzuki †† Tsuyoshi Takahashi †† Kozo Makiyama †† Masaru Sato †† Hiroshi Matsumura †† Shoichi Shiba †† Akifumi Kasamatsu ††† Katsumi Fujii ††† Norihiko Sekine ††† Issei Watanabe ††† Hiroyo Ogawa ††† Kaori Fukunaga ††† Iwao Hosako ††† 日本電信電話株式会社 †† 富士通株式会社 ††† 国立研究開発法人情報通信研究機構 Nippon Telegraph and Telephone Corporation †† Fujitsu Limited ††† National Institute of Information and Communications Technology 研究期間 平成 23 年度~平成 27 年度 概要 本研究開発では、300GHz 帯のテラヘルツ波を用いて、毎秒数十ギガビット(20-40Gbps)級の超高速伝送を可能とす る無線通信の基盤技術を確立した。具体的には、300GHz 帯のテラヘルツ波による、伝送速度 20Gbps、伝送距離 1m 伝送を実現する要素技術開発を実施し、試験用無線システムを構築、データダウンロード実証実験によりその動作を確認 した。 Abstract In this research, we have developed multi-tens gigabit wireless communication technology using 300-GHz band. Specifically, the data transmission of 20 gigabits per second over 1m distance at low bit error rate was confirmed using the developed Tx and Rx modules. Moreover, a content-downloading experiment using these modules was successfully demonstrated. 1.まえがき テラヘルツ波帯(100 GHz 10 THz)を利用する無 線はテラヘルツ無線として知られ、その広い帯域を利用す ることにより、将来の数十 Gbps から 1 Tbps 以上の近距 離高速無線通信の実現が期待されている。テラヘルツ無線 の用途としては、本研究開発で検討を行う近接データダウ ンロード(キオスクモデル)をはじめ、デバイス間通信、 データセンタ内ラック間通信、携帯電話ネットワーク用通 信などが想定され、現在、IEEE802.15.3d において標準 化が進められている。 これまで、テラヘルツ無線の研究開発は主に光デバイス を用いてテラヘルツ波を発生させる方式で行われてきた。 しかし、実用化に向けては半導体デバイスによる集積回路 IC)化が望まれる。 本研究開発は、産業的に未利用である 275 GHz 以上の 周波数帯の無線通信へ適用を目指し、300 GHz 帯のテラ ヘルツ無線を半導体デバイスの集積回路により実現する ための、半導体デバイス技術、集積回路技術、アンテナ技 術、モジュール実装技術、評価技術等について要素技術を 確立することを目的としている。 半導体デバイスとしては、超高速デバイスとして知られ るインジウムりん(InP )高電子移動度トランジスタ HEMT)の高速化、高耐圧化の検討を行った。無線用 回路としては、簡易な Amplitude Shift KeyingASK変復調方式を用いて 20 Gbps で動作させることとし、 300 GHz 帯において最大出力 10 mW の増幅器を開発するこ ととした。モジュールは、受信機をスマートフォンへ実装 することを想定してアンテナ一体型で 1 cc サイズを目標 に小型化の検討を行った。また、作製した送信機、受信機 を評価するための、300 GHz 帯における評価技術や伝搬 の検討も行った。これらの結果を総合して、送信機、受信 機による伝搬実験ならびに近接データダウンロード実験 によりその動作を確認した。さらに、より高周波側の 340GHz 帯について、デバイス、回路技術についても基本 検討を行った。 2.研究内容及び成果 2.1 超高周波帯送信技術 2.1.1 超高周波帯デバイス技術 55

テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発 (旧:超高周波搬 …...InP HEMT高周波特性評価結果 表 2.1.1-2 InP HEMT の性能向上結果 ゲート長

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発

(旧:超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発)

Research and development program on key technology in terahertz frequency bands

研究代表者

加々見 修 日本電信電話株式会社

Osamu Kagami Nippon Telegraph and Telephone Corporation

研究分担者

矢板 信† 松崎 秀昭† 小杉 敏彦† 濱田 裕史† エルムタワキル アミン† 田島 卓郎† 杉山 弘樹†

味戸 克裕† 児玉 聡† 野坂 秀之† 古谷 彰教† 原 直紀†† 中舍 安宏†† 川野 陽一†† 鈴木 俊秀†

† 高橋 剛†† 牧山 剛三†† 佐藤 優†† 松村 宏志†† 芝 祥一†† 笠松 章史††† 藤井 勝巳†††

関根 徳彦††† 渡邊 一世††† 小川 博世††† 福永 香††† 寳迫 巌†††

Makoto Yaita† Hideaki Matsuzaki† Toshihiko Kosugi† Hiroshi Hamada† Amine El Moutaouakil† Takuro Tajima† Hiroki Sugiyama† Katsuhiro Ajito† Satoshi Kodama† Hideyuki Nosaka†

Akinori Furuya† Naoki Hara†† Yasuhiro Nakasha†† Yoichi Kawano†† Toshihide Suzuki††

Tsuyoshi Takahashi†† Kozo Makiyama†† Masaru Sato†† Hiroshi Matsumura†† Shoichi Shiba††

Akifumi Kasamatsu††† Katsumi Fujii††† Norihiko Sekine††† Issei Watanabe††† Hiroyo Ogawa††† Kaori Fukunaga††† Iwao Hosako†††

†日本電信電話株式会社 ††富士通株式会社 †††国立研究開発法人情報通信研究機構 †Nippon Telegraph and Telephone Corporation ††Fujitsu Limited

†††National Institute of Information and Communications Technology

研究期間 平成 23 年度~平成 27 年度

概要

本研究開発では、300GHz 帯のテラヘルツ波を用いて、毎秒数十ギガビット(20-40Gbps)級の超高速伝送を可能とす

る無線通信の基盤技術を確立した。具体的には、300GHz 帯のテラヘルツ波による、伝送速度 20Gbps、伝送距離 1m の

伝送を実現する要素技術開発を実施し、試験用無線システムを構築、データダウンロード実証実験によりその動作を確認

した。

Abstract In this research, we have developed multi-tens gigabit wireless communication technology using 300-GHz band.

Specifically, the data transmission of 20 gigabits per second over 1m distance at low bit error rate was confirmed using the developed Tx and Rx modules. Moreover, a content-downloading experiment using these modules was successfully demonstrated. 1.まえがき

テラヘルツ波帯(100 GHz ~ 10 THz)を利用する無

線はテラヘルツ無線として知られ、その広い帯域を利用す

ることにより、将来の数十 Gbps から 1 Tbps 以上の近距

離高速無線通信の実現が期待されている。テラヘルツ無線

の用途としては、本研究開発で検討を行う近接データダウ

ンロード(キオスクモデル)をはじめ、デバイス間通信、

データセンタ内ラック間通信、携帯電話ネットワーク用通

信などが想定され、現在、IEEE802.15.3d において標準

化が進められている。 これまで、テラヘルツ無線の研究開発は主に光デバイス

を用いてテラヘルツ波を発生させる方式で行われてきた。

しかし、実用化に向けては半導体デバイスによる集積回路

(IC)化が望まれる。 本研究開発は、産業的に未利用である 275 GHz 以上の

周波数帯の無線通信へ適用を目指し、300 GHz 帯のテラ

ヘルツ無線を半導体デバイスの集積回路により実現する

ための、半導体デバイス技術、集積回路技術、アンテナ技

術、モジュール実装技術、評価技術等について要素技術を

確立することを目的としている。 半導体デバイスとしては、超高速デバイスとして知られ

るインジウムりん(InP)高電子移動度トランジスタ

(HEMT)の高速化、高耐圧化の検討を行った。無線用

回路としては、簡易な Amplitude Shift Keying(ASK)

変復調方式を用いて 20 Gbps で動作させることとし、300 GHz 帯において最大出力 10 mW の増幅器を開発するこ

ととした。モジュールは、受信機をスマートフォンへ実装

することを想定してアンテナ一体型で 1 cc サイズを目標

に小型化の検討を行った。また、作製した送信機、受信機

を評価するための、300 GHz 帯における評価技術や伝搬

の検討も行った。これらの結果を総合して、送信機、受信

機による伝搬実験ならびに近接データダウンロード実験

によりその動作を確認した。さらに、より高周波側の

340GHz 帯について、デバイス、回路技術についても基本

検討を行った。

2.研究内容及び成果 2.1 超高周波帯送信技術

2.1.1 超高周波帯デバイス技術

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Page 2: テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発 (旧:超高周波搬 …...InP HEMT高周波特性評価結果 表 2.1.1-2 InP HEMT の性能向上結果 ゲート長

電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

量産性に優れた Metal Organic Vapor Phase Epitaxy(MOVPE)法を用いて、超高周波動作・大出力動作に適

した HEMT 構造のチャネル層構成を検討した。構造最適

化と結晶高品質化を進め、InAs/InGaAs 複合チャネル

HEMT 構造を MOVPE 法で初めて作製可能とし、従来技

術を上回る最高水準の移動度(19,000 cm2/Vs)を達成し

た(図 2.1.1-1)。移動度向上は HEMT 高速化に寄与する

ものである。またインパクトイオン化の抑制を目指した新

たな HEMT チャネル層構成を考案した(図 2.1.1-2)。本

チャネル層構成は回路の高出力化に寄与するものである。

図 2.1.1-1 MOVPE 成長 InAs/InGaAs 複合チャネル

HEMT 構造の電子移動度

図 2.1.1-2 新規考案したインパクトイオン化の低減構造

HEMT の大出力動作と高度動作の実現に向けて、デバ

イス構造・作製工程の改善を行い、一般には極めて困難な

高耐圧化と高出力化の両立を達成した(図 2.1.1-3)。表

2.1.1-1 に示す通り、高周波特性(fT)を犠牲にせず、オ

ン耐圧(BVON), オフ耐圧(BVOFF)が大幅に向上する

結果を得た。InP を材料とした HEMT にて、従来技術を

上回る優れた耐圧特性を実現した。

図 2.1.1-3 高耐圧構造 HEMT の電気特性

表 2.1.1-1 高耐圧構造と従来構造 HEMT の特性比較

HEMT 高周波性能向上にむけては、50 nm 級のゲート

長を安定的に実現できるリソグラフィー技術や寄生容

量・抵抗成分の抑制を含む素子作製技術の開発を 5 年間に

わたって実施した結果、受託研究成果として設計ゲート長

36 nm(ゲート物理長 50 nm)の HEMT にて最大発振周

波数(fmax)1 THz 以上を実現(図 2.1.1-4)、デバイス

性能向上に関する目標を達成した。表 2.1.1-2 には、ゲー

ト長ともに、fmax について本受託事業開始当初性能と最

終到達性能をまとめた。尚、S パラメータ測定は、ゲート

幅 20 µm × 2 finger の素子について行い、fmax は抽出し

た等価回路パラメータから計算されるユニラテラルゲイ

ン(Ug)と最大安定/有能利得(MSG/MAG)から求め

た。一般に極めて広帯域なデバイスについては、その等価

回路パラメータの抽出やそれを用いた fmaxの見積もりに

は誤差が生じやすい。ここでは、特性を過大評価すること

のないよう、等価回路パラメータから算出される k 値の

周波数依存性や各 S パラメータの周波数依存性と、これ

らの実測値との整合性を比較確認するなどして慎重に

fmax の見積もりを行った。

図 2.1.1-4 InP HEMT 高周波特性評価結果

表 2.1.1-2 InP HEMT の性能向上結果

ゲート長 fmax

開始当初 80 nm ~650 GHz

最終結果 50 nm > 1THz

2.1.2 超高周波パッシブ回路技術 300 GHz 帯ならびに 340 GHz 帯 IC の安定動作実現に

むけ、IC 内での高周波信号の基板内共振を抑制する技術

を要素技術の立ち上げから検討を行い、実際に IC への適

用が可能な裏面加工技術を確立した。具体的には 50 µmまでの InP 基板の薄層化技術と InP 基板の表面に形成し

た ICのグランドと同電位を保つことができる InP基板貫

通ヴィア(グランドヴィア)を形成する技術を確立した(図

2.1.2-1)。表面に IC を形成済みの InP 基板に対して本加

工技術を適用し、50 µm 以下まで InP 基板を薄層化し、

グランドヴィアをエッジ間隔 50 μm以下で形成した後、

損傷なくチップ化することに成功した(図 2.1.2-2)。本加

工技術は 300 GHz 帯ならびに 340 GHz 帯 IC の高出力・

安定動作に寄与するものである。

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

図 2.1.2-1 InP 基板の裏面加工フロー

図 2.1.2-2 グランドヴィア形成済み IC

IC の高出力化やモジュール作製技術の高度化に向けて、

配線損失、寄生成分や素子サイズに起因した分布定数的効

果等を抑制するための集積技術並びに実装負荷低減技術

を検討した。具体的には、電流容量に対する要求から線幅

拡大の必要がある DC 配線を、IC を形成する基板表面に

加えて、裏面側でも形成可能とする裏面配線技術と、裏面

に形成した DC 配線部のみを絶縁膜被覆することでグラ

ウンドとの電気的絶縁を確保する裏面パッシベーション

技術を、世界で初めて確立した(図 2.1.2-3)。裏面配線技

術は素子集積度や IC 設計時のレイアウト自由度の向上、

IC 高出力化に、裏面パッシベーション技術はモジュール

作製時の IC 実装負荷低減に寄与するものである。

図 2.1.2-3 裏面配線形成済み IC チップ(上)と 裏面 DC 配線上に絶縁膜を形成したチップ(下)

2.1.3 超高周波大信号アンプ技術

300 GHz 帯 10 mW 送信回路ミリ波モジュール化へ向

けた、回路構成法検討、デバイスモデリング・パラメータ

抽出検討、アンプ回路設計、変調回路設計、逓倍器回路設

計、導波管モジュール設計を行い、20 Gbps(最大 36 Gbps)の送信導波管モジュールを完成した。裏面配線プ

ロセスの導入による、大電流バイアス回路の裏面化により、

高周波パワー密度が高く効率的なアンプ回路を完成した。

モジュール化においてはリッジカプラーを用いる導波管

変換機構により、高周波損失が少なく、実装のためにアン

テナ等の特別なチップエリアを必要としない実装技術を

実現した。本モジュールを用いて、300 GHz 帯で 10 mWの出力を達成した。

340 GHz 集積回路については、WR3.5 導波管アンプモ

ジュールへ実装した(図 2.1.3-1)。その結果、導波管モジ

ュールの単体利得として 10 dB、導波管モジュール 2 台を

縦続接続した場合の付随利得 14.5 dB、340 GHz 出力電力

として 1.5 mW を達成した(図 2.1.3-2)。この時のアンプ

モジュールの付随利得は小信号利得とほぼ同等であり、

1.5 mW よりさらに高出力を取り出すマージンがあった。

図 2.1.3-1 完成した導波管モジュールと測定系概要

図 2.1.3-2 340 GHz 出力 1.5 mW 達成

2.1.4 超高周波変調回路技術

300 GHz 帯変調回路においては、まず各種の変調回路

案を検討し、周波数分散の少なく動作周波数帯域の広い分

布型変調回路に決定した。300 GHz 変調回路とレベル補

正用の 300 GHz 帯アンプを混載した変調器集積回路を作

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

製した(図 2.1.2-3(上))。本回路は、back-to-back 試験

において最大 36 Gbps で動作し、20 Gbps で動作させる

近接データダウンロードシステムへ適応可能であること

を確認した。 340 GHz 帯変調器については、15 dBc 以上のオンオフ

比が得られ(図 2.1.4-1、図 2.1.4-2)、変調指数が十分で

あることを確認した。本変調回路においてベースバンド変

調速度はキャリア周波数に依存しない回路構成であるこ

とから、340 GHz 帯で 20 Gbps の高速変調が可能と判断

した。

図 2.1.4-1 340 GHz 帯アンプ付変調回路

図 2.1.4-2 340 GHz 帯アンプ付変調回路オンオフ測定

2.2 超高周波帯受信技術

2.2.1 低雑音デバイス技術

275-370 GHzのテラヘルツ波帯で20-40 Gbpsの伝送速

度を有する無線システムにおいて、受信機を電子デバイス

で実現するため、高い電子移動度を有し低雑音デバイスと

して知られる InP HEMT の超高周波化を進め、受信 ICに適用した。当初計画に従って、結晶構造およびデバイス

形成プロセスの最適化を行った。具体的には、低ドレイン

コンダクタンスを維持しつつ 2 S/mm 以上の相互コンダ

クタンスを有するダブルドープ結晶構造と、ゲートドレイ

ン間がゲートソース間より離れたオフセットゲート構造、

ソースドレイン間距離の最適化により、ゲート長 75 nmの InP HEMT において、fT =250 GHz/fmax =1.3 THz を

実現した(図 2.2.1-1)。本研究開発開始時点(fmax =0.5 GHz)から 2.6 倍の高性能化を達成した(図 2.2.1-2)。

図 2.2.1-1 開発した InP HEMT の特性

図 2.2.1-2 InP HEMT 高周波化の到達点(年次推移)

2.2.2 低雑音アンプ技術

275-370 GHzのテラヘルツ波帯で20-40 Gbpsの伝送速

度を有する無線システムの受信機を実現するため、利得

20 dB 以上、雑音指数 10 dB 以下で周波数帯域が 30 GHz以上の低雑音アンプの開発を進め、受信 IC に適用した。

当初計画に従って、超高周波帯における増幅回路設計技術、

雑音評価技術を確立した。具体的には、精度の高い設計を

実現するオンウェハマルチライン Thru-Reflect-Line (TRL)校正技術の導入、正帰還を積極活用し広帯域に亘

り高利得を得るゲート接地増幅器技術の開発、y ファクタ

法による高確度雑音評価技術の確立により、300 GHz 帯

ならびに 340 GHz 帯において、利得 20 dB 以上、雑音指

数 10 dB 以下、周波数帯域 30 GHz 以上の最終目標性能

を有する低雑音アンプを実現した(図 2.2.2-1、図 2.2.2-2)。これにより、低雑音アンプ技術を確立した。

図 2.2.2-1 開発した InP HEMT 低雑音アンプ(上)と回

路構成(下)

40GHz

利得20dB

NF10dB

図 2.2.2-2 340 GHz 級低雑音アンプの特性例

2.2.3 復調回路技術

275-370 GHzのテラヘルツ波帯で20-40 Gbpsの伝送速

度を有する無線システムの受信機を実現するため、20 Gbps 超 ASK 信号の復調回路の開発を進め、受信 IC に適

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

用した。当初計画に従い、InP HEMT のゲートショット

キー特性を利用した包絡線検波回路と後段の差動型ポス

トアンプを開発した。更に、これらを前節で述べた低雑音

アンプとともに1チップに集積し受信 IC を作製した(図

2.2.3-1)。低雑音アンプと包絡線検波器の接続部における

インピーダンス整合を最適化した結果、300 GHz 帯受信

IC において、275-310 GHz の広い周波数帯で 40 kV/W を

超える検波感度が得られた(図 2.2.3-2)。この受信 IC を

1 cc 受信モジュールに搭載したところ目標受信性能を達

成した。また、340 GHz 帯受信 IC においても、6 kV/W以上の検波感度が 335-365 GHz の広帯域で得られ、20 Gbps 級データ受信の見通しを得た。これらの結果より、

本研究開発におけるテラヘルツ波受信技術を確立できた。

図 2.2.3-1 開発した InP HEMT 受信 IC(上)

と回路構成(下)

310300290280270 320

120

80

40

0

周波数(GHz)

検波

感度

(V/

mW)

35 GHz以上

H27年度試作2(段間整合最適化)

H27年度試作1(段間整合不十分)

図 2.2.3-2 300 GHz 級受信 IC の受信検波感度特性

2.3 高周波アンテナ技術 キオスク筐体に携帯端末を接触させデータを携帯端末

に転送するキオスクモデルにおいて、20-40 Gbps 伝送に

適用する送信/受信アンテナ技術の確立を目的に研究開

発を進めた。 図 2.3-1、図 2.3-2 にアンテナ利得と写真を示す。300 GHz 帯送信アンテナとしては、金属製ダイアゴナルホー

ンアンテナを分割成型することにより、中心周波数 300 GHz、比帯域 13 %(40 GHz)においてアンテナ利得 30 dBi以上を実現した。また、受信アンテナとしては、金属製矩

形 ホ ー ン ア ン テ ナ と Low Temperature Co-fired Ceramics (LTCC)製矩形ホーンアンテナで、中心周波

数 300 GHz、比帯域 13 %(40 GHz)においてアンテナ

利得 15 dBi 以上を実現した。受信アンテナのサイズはそ

れぞれ 1 cc 以下であり,キオスクモデルにおける携帯端

末に収納可能なサイズで目標利得を実現した。 次に 340 GHz 帯送信アンテナとしては、上記金属製ホ

ーンアンテナが、340 GHz 帯においても 30 dBi 以上の利

得が得られること、受信アンテナとしては、金属製ホーン

アンテナにより 15 dBi 以上が得られることを確認した

(図 2.3-1、図 2.3-2 中)。受信アンテナは、モジュール

と一体形成の可能な金属製ホーンアンテナを採用した。

20

22

24

26

28

30

32

34

36

220 270 320 370 420 470

Act

ual G

ain

[dB

i]

Frequency [GHz]

NTT-S NTT-SNTT-L NTT-L

利得>31dBi

340GHz

10 cm

二次試作(分割成型)

31.6dBi@ 300GHz

標準ホーンアンテナ

二次試作金属ホーンアンテナ

図 2.3-1 金属製送信アンテナ利得と写真

図 2.3-2 受信アンテナの利得と写真(上:金属製受信ア

ンテナ、中:金属製受信アンテナ(340 GHz 帯)、下:LTCC製受信アンテナ)

また、送信アンテナと受信アンテナの交差偏波特性評価系

を構築して評価を実施した。金属製送受信アンテナの組合せ

で 25 dB 以上の交叉偏波レベルを確認し、300 GHz 帯にお

ける直交偏波を用いた 20 Gbps×2 ch による 40 Gbps 伝送

へ適用できることを確認した。以上から 20 Gbps 伝送および

直交偏波多重方式による 40 Gbps 伝送におけるシステム要

求値をほぼ満足する結果が得られ、本研究開発項目の目標

を達成した。

図 2.3-3 送信アンテナと受信アンテナの交差偏波特性

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

2.4 モジュール技術

2.4.1 送信モジュール 300 GHz 帯送信モジュールは、要素回路毎に製作した

チップを導波管のインタフェースを有する金属パッケー

ジに実装し、各パッケージ間およびアンテナを直接接続し

固定できる小型アセンブリモジュールとして製作した。本

モジュールにおける各パッケージ間の接続部で設計通り

の低損失特性が得られることを確認した。 本モジュールで必要な8種類のDC電圧を自動で設定順

に印加できる小型 DC 電源を開発し、スイッチを入れるこ

とにより、簡単に送信モジュールを動作させられるように

した。

小型DC電源

導波管接続一体化パッケージ

アンテナ

60 mm

図 2.4.1-1 送信モジュールと小型 DC 電源

本送信モジュールと小型 DC 電源を用いて 300 GHz 帯

20 Gbps の ASK 変調波を発生させ、リファレンス受信機

により 20 Gbps の良好なアイパタンが得られることを確

認し、300 GHz 級モジュール技術を実現した。

2.4.2 受信モジュール

本研究開発が対象とする 275-370 GHz のテラヘルツ波

帯で 20-40 Gbps の伝送速度を有する無線システムでは、

小型可搬端末用受信機として容積 1 cc 以下のモジュール

小型化が要求される。そこで、当初計画に従い、テラヘル

ツ帯で初となるフリップチップ実装技術を確立するとと

もに、小型化をにらんで、アンテナを受信モジュールに一

体成型する構造を開発した(図 2.4.2-1)。その結果、アン

テナから受信 IC までの接続損失を 3 dB 以下に抑制する

と同時に、容積 0.75 cc(10 mm×15 mm×0.5 mm)の

小型化を達成した。更に、キオスク型データ伝送実験に備

え、スマートフォンを模した小型筐体を作製し、受信モジ

ュールを搭載した(図 2.4.2-2)。試作した受信モジュール

を総合伝送実験に適用したところ目標の伝送特性を達成

し、300 GHz 級受信モジュール技術を確立できた。

アンテナ

ポリイミド基板

筐体金属

バンプ

貫通ビア

受信IC

テラヘル

ツ波

導波管変換

出力端子へ

図 2.4.2-1 アンテナ一体成型フリップチップ実装モジュ

ールの断面構造

アンテナ出力端子部

フリップチップ実装InP HEMT受信IC

IF出力

アンテナ部

図 2.4.2-2 1 cc 受信モジュールと受信 IC(上)、及びデ

モ用受信機(下)

2.5 超広帯域データ送受信技術

300 GHz 帯無線による 20 Gbps 級誤り訂正付きデータ

ダウンロードを実現するために、以下のように研究開発を

進めた。 市販の PC を 2 台用いて、1 台(サーバー)にデータを

格納し、もう1台(端末)にデータを転送する構成とし、

この間に 300 GHz 帯無線を用いることとした。PC の入

出力インタフェースとしては、10 ギガビットイーサを 2本用い、外部で多重して 20 Gbps のデータ伝送速度とし

た。 無線部で発生する誤りへの対応として、前方誤り訂正

(FEC)を用いることとした。無線部で発生する誤りの

原因としては、送受信機間での電波の多重反射による干渉

が想定される。誤り訂正方式を検討するに当たり、多重反

射環境下における誤りについて、低密度パリティ検査

(LDPC)符号とリードソロモン(RS)符号の誤り訂正

方式のコードレートを変えてその有効性をモンテカルロ

計算により検証した。コードレートとしては、RS(255,223)符号の実データに対する伝送データ量

(223/255=0.875)を基準として、LDPC 符号について

も同じコードレートを用いた。図 2.5-1 に、干渉の原因と

なる反射信号量が-16dB の際の計算結果を示す。本図より、

同じコードレート 0.875 であれば、最も誤り訂正能力の高

いのは、LDPC 符号軟判定(soft)復号の場合であり、次

が RS 符号、そして LDPC 符号硬判定(hard)復号とな

った。また、反射減衰量を-14dB とすると、コードレート

0.875 の際、LDPC 符号軟判定復号が最も性能がよいもの

の、RS 符号と LDPC 符号硬判定復号が同様の結果を示し

た。LDPC 符号の軟判定復号は 20 Gbps という高速で動

作させるのが難しい。このため、反射減衰量を-14 dB 以

下に抑制する構造を検討することとして、回路規模の小さ

い RS 方式を選定した。 10 ギガビットイーサ 2 本の多重・分離と RS 誤り訂正

機能を具備した FEC 装置を試作し、300 GHz 帯無線機と

サーバーと接続して、20 Gbps 級誤り訂正付きデータダウ

ンロード系を構築(図 2.5-2)した。 本ダウンロード系において、無線部を有線ケーブルで直

結しダウンロード速度を検証した。この結果、誤り訂正な

しで 17 Gbps 程度の高速ダウンロードができることを確

認した。伝送速度が 20 Gbps とならないのは、ダウンロ

ードに伴う PC 内の処理が原因で無線部ではない。これに

より、300 GHz 帯無線による 20 Gbps 級誤り訂正付きデ

ータダウンロード技術を実現した。

60

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

図 2.5-1 RS 符号と LDPC 符号の誤り訂正特性

PC(サーバ)

PC(端末)

MUXFECEnc

FEC装置(Tx)

無線送信機

無線受信機

DMUX

FECDec

FEC装置(Rx)

300GHz帯無線

20Gbpsデータ

10GbE×2

10GbE×2

20Gbpsデータ

図 2.5-2 誤り訂正付きデータダウンロード系

2.6 伝搬・干渉検討

300 GHz 帯の伝搬・干渉検討のため、300 GHz 帯におい

てレイトレース法(イメージング法)による伝搬特性解析

(シミュレーション)ができるツールを整備した。これを

用い、衝立モデル、2波モデル、アンテナの手ぶれ(図

2.6-1)や軸ずれ(図 2.6-2)の影響、簡易アンテナケース

モデル等の様々なモデルケースにおいて伝搬特性測定と

シミュレーションを行い、シミュレーションと実測の間に

大きな誤差は無く、シミュレーションが有効に機能するこ

とを示した。

図 2.6-1 手ぶれ影響の評価

図 2.6-2 軸ずれ影響の評価

さらに、アンテナ間距離特性および壁面との距離特性を評

価し、図 2.6-3 に示すように、金属板を配置したモデルで

は 10 cm以上壁面から離すことにより反射波の影響が 0.5

dB 以下となることを示した。

図 2.6-3 金属壁面影響の距離依存性

2.7 総合伝送実験

2.7.1 20 Gbps 1 m 伝送実験

作製した300 GHz帯送信モジュールと300 GHz帯受信

モジュールを組合せ、伝送実験を実施した。なお、伝送実

験では、受信モジュールのアンテナを 25 dBi へと変更し

て実施した。 図 2.7.1-1 に伝送距離を変化させた場合に得られたビッ

トエラーレート(BER)特性を示す。伝送距離 1 m を越

えても FEC リミット以下の BER 値を得ることができ、

300 GHz 帯による 20 Gbps で 1 m を越える伝送が可能で

あることを確認した。

1.E-121.E-091.E-061.E-031.E+00

500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500

BER

Tx-Rx間距離 [mm]

伝搬距離とBER

FECリミット(Reed-Solomon)

20Gbps 1m 伝送

図 2.7.1-1 300GHz 帯無線による 20Gbps 伝送

2.7.2 2 多重による 40 Gbps 伝送実験

20 Gbps 伝送試験に用いた送信モジュールおよび受信

モジュールを 2 系統構築し、直交偏波による 40 Gbps 伝

送の評価を進めた。送受信アンテナの交叉偏波識別度及び

20 Gbps 伝送試験結果から水平偏波及び垂直偏波を用い

た 40 Gbps 偏波多重伝送条件を導出した。検討結果に基

づき、2 系統のモジュール間距離 160 mm で構築した偏波

多重化実験系における伝送試験を実施し、偏波間干渉の影

響も無く各偏波それぞれアイパタンの開口を確認し、20 Gbps×2 ch で 40 Gbps の伝送を確認した(図 2.7-2-1)。キオスク筐体に携帯端末を接触させる利用モデルを想定

して、伝送容量拡大とコンパクトな受信領域の両立に向け

た直交偏波による多重方式の妥当性を確認することがで

きた。

Txモジュール(H)

Rxモジュール(V)

Txモジュール(V)

Rxモジュール(H)

25dBi-Horn

V偏波 (200mV/div)

H偏波(50mV/div)

図 2.7.2-1 垂直偏波(V)と水平偏波(H)による偏波多重化

伝送実験系(左)と伝送後波形(右)

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2.7.3 近接データダウンロード実験

デモンストレーション用に作製するキオスク筐体の構

造に反映させるため、キオスクモデルについてレイトレー

ス法による電波伝搬シミュレーションを実施し、アンテナ

角度、窓角度、窓厚、送受信間距離など様々な条件を検討

した。例として、図 2.7.3-1 に筐体の電波が透過する部分

の窓の取り付け角度を変化させたときの受信レベルの検

討結果を示す。

Rx

Tx30cm

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

0 10 20 30 40 500度に対

する受

信レベル

差[d

B]

窓角度(=アンテナ相対角度) [deg.]

TME-planeTEH-plane

図 2.7.3-1 キオスク伝搬シミュレーション

上記シミュレーションを基にキオスク筐体の設計を行

い、300 GHz 帯送信モジュールを組込んだ情報キオスク

端末を実現した。また、受信機としては、スマートフォン

サイズの筐体に 300 GHz 帯受信モジュールを組込み実現

した。これらを用いてキオスクモデルによる近接データダ

ウンロード実験を行い、物理速度 20 Gbps、実データ伝送

速度として 16 Gbps(FEC 込)を越える高速データダウ

ンロード動作を実証した。

送信モジュール

小型DC電源

傾斜窓板(10度)

PC

情報キオスク端末

図 2.7.3-2 情報キオスク端末

図 2.7.3-3 近接データダウンロード実験

2.8 超高周波帯計測技術

2.8.1 広帯域周波数評価技術 300 GHz 帯の無線を評価するためには、スペクトラム

測定が必要となる。このため、広帯域測定と高感度測定の

2つの側面から検討を行った。広帯域測定には、超高速フ

ォトダイオードを用いるホモダイン検波方式について検

討した。この結果、200-400 GHz までの周波数評価系を

実現し、300 GHz 帯におけるスプリアス測定などに適用

できることを確認した。また、高感度測定としては、電気

ミキサを利用する方式について検討し、導波管による帯域

制限はあるものの高感度測定ができ、変調波評価などに適

用できることを確認した。これにより、200-400 GHz ま

での周波数特性を評価できることを確認した。 2.8.2 モジュール型送受信機の特性計測技術

300 GHz 帯の無線局(実験試験局)の開設に必要な試

験項目を明らかにし、実際に、模擬送信機を使って、300 GHz±20 GHz(280-320 GHz)を使用した実験試験局を

国内で初めて開設した。設備の写真と免許状を図 2.8.2-1に示す。この無線設備は、図 2.8.2-2 に示すように市販の

信号発生器と逓倍器、標準ゲインホーンから構成され、無

変調信号発射時の等価等方放射電力(EIRP)は約 10 dBm、

無変調信号の他、AM 変調、ASK 変調の発射も可能な(発

射を免許された)無線設備であり、図 2.8.2-3 のような占

有帯幅の測定、不要輻射、スプリアス発射の試験を行なっ

た上で免許された。

図 2.8.2-1 送信設備(上)と免許状(下)

音声マイク(A3Eのとき)

逓倍器 18逓倍アジレント・テクノロジー社Model:S03MS-AGSN:120118-1

空中線電力31.6μW(-15 dBm)

EIRP 10.0 mW(10 dBm)

280~320GHz

15.556~17.778GHz

標準ゲインホーン 25dBiRadio Meter Physics GmbhModel:FH-SG-325-25SN:10003

信号発生器アジレント・テクノロジー社Model:E8267DSN:US48450011

内蔵信号源AM 変調周波数

最大 1 MHzASK シンボルレート

最大 50 Msample/s

送信機系

図 2.8.2-2 送信機系統

測定データの例

10 MHz

図 2.8.2-3 送信データの例

また、標準ゲインホーンアンテナの動作利得の較正が可

能な計測システムを WR03 帯(220-330 GHz)及び WR02(330-500 GHz)について構築し、図 2.8.2-4 に示すよう

に較正技術を確立した。2.3節において試作したホーン

アンテナの動作利得を較正、また、300 GHz 帯の無線局

を開局する際に使用した標準ゲインホーンの較正を行な

うなど、確立した較正技術を研究開発に展開した。また、

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

偏波多重通信を可能にするために円偏波ホーンアンテナ

の利得、偏波特性の較正方法を検討し較正システムを構築、

WR03 帯(220-320 GHz)における較正技術を確立した。

図 2.8.2-4 ホーンアンテナの較正

2.8.3 計測装置及び計測環境の評価技術 300 GHz については測定の再現性、ばらつきなどが明

らかになっていないため、既存の測定装置及び測定設備・

環境について調査し、線形性・再現性を評価する手法につ

いての理論的検討を行った。 実施した検討の一つの例として、図 2.8.3-1 のようにネ

ットワークアナライザにより測定周辺に用いる導波管部

品類を詳細に測定し、個体差や着脱作業などによる測定値

のばらつきを評価した。測定手順によっては、60 GHz 帯

程度の周波数に比べ 300 GHz 帯での測定ばらつきが顕在

化するケースがあることが示された。

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

220 230 240 250 260 270 280 290 300 310 320 330

S11

MA

G (d

B)

Frequency (GHz)

図 2.8.3-1 着脱作業等の操作や部品個体差による測定ば

らつきの評価

評価した吸収体評価系

-100

-80

-60

-40

-20

0

220 230 240 250 260 270 280 290 300 310 320 330

Atte

nuat

ion

dB

Frequency GHz

入射・反射角45°

CV-3F MWP-10B TK AN-72吸収体の種類

図 2.8.3-2 電波吸収材料の反射吸収率の評価

また、図 2.8.3-2 のように材質、厚さ、形状等の異なる

5種類の電波吸収材料を入手し、その 300 GHz 帯での S

パラメータ特性を測定し、反射吸収率を評価した。電波吸

収材料を図 2.8.3-3 のようにキオスク筐体内壁に適用し、

伝送特性への影響を評価した。キオスクモデルのような短

距離で見通し対向の条件では、筐体内壁の吸収体有無によ

る変化はみられないことを確認した。

吸収体無し 吸収体有り

図 2.8.3-3 キオスク筐体内部の吸収体有無の影響評価

3.今後の研究成果の展開 今後は、無線出力の向上を目指してデバイス性能の向上

とそのための回路技術の研究開発を継続して進めていく。

また、テラヘルツ無線の標準化を目指した IEEE 802.15.3d における活動、および 300 GHz 帯の電波割当

を目指した ITU-R における活動を継続して進める。

4.むすび

本研究開発により、300 GHz 帯のテラヘルツ無線を実

現するための要素技術である、化合物半導体デバイス技術、

集積回路技術、アンテナ技術、モジュール実装技術、評価

技術について検討を行い、300 GHz 帯無線機を実現した。

本無線機を用いて、20 Gbps の伝送速度で 1 m 超の伝

送が可能であることを示すとともに、データ送受信技術と

組合せて 16 Gbps(FEC 込)を越える近接データダウン

ロード動作を実証し、300 GHz 帯無線の有効性を示した。

さらに、340GHz 帯について、デバイス、回路技術につい

て基本検討を行い、より高周波側利用の可能性を示した。 本研究開発で生み出したテラヘルツ無線の要素技術は、

近接データダウンロード以外の他の用途の無線通信にも

適用が可能である。さらにはテラヘルツ波帯を用いるイメ

ージングやセンシング技術、テラヘルツ波帯測定器などの

計測技術の小型化へも寄与するものと期待される。

【査読付き誌上発表論文】

[1] 田島卓郎、ソンホジン、味戸克裕、矢板信、久々津

直哉(NTT)、“300-GHz Step-profiled Corrugated Horn Antennas Integrated in LTCC”、IEEE Transactions on Antennas and Propagation(平成 26 年 8 月 20 日)

[2] 登坂俊英、藤井勝巳、福永香、笠松章史(NICT)、“Development of Complex Relative Permittivity Measurement System based on Free-space in 220-330 GHz Range”, IEEE Transaction on Terahertz Science and Technology, Vol. 5, No. 1, pp. 102-109(平成 27 年

1 月 14 日) [3] 田島卓郎、小杉敏彦、ソンホジン、濱田裕史、アミ

ン・エルムチョーキル、杉山弘樹、松崎秀昭、矢板信、

加々見修(NTT)、“Terahertz MMICs and Antenna-in-package Technology at 300 GHz for KIOSK Download System”、Journal of Infrared Millimeter and Terahertz Waves(平成 28 年 9 月 10日)

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電波資源拡大のための研究開発 第9回成果発表会(平成 28 年)

【その他の誌上発表】

[1] 杉山弘樹(NTT)、“THz エレクトロニクスに向けた

高電子移動度 InP 系トランジスタ用半導体結晶成長技

術”、NTTフォトニクス研究所 アニュアルレポート(平

成 25 年 7 月 10 日) [2] 笠松章史、寳迫巌、小川博世(NICT)、“テラヘルツ

分野の最近の標準化動向について”、ITU ジャーナル(日

本 ITU 協会)、Vol. 44、No. 12(平成 26 年 12 月号) [3] 笠松章史、寳迫巌、小川博世(NICT)、“Recent

Standardization Activities in the Terahertz Communication Field”、New Breeze(日本 ITU 協会)、

Winter 2015(平成 27 年冬号) 【査読付き口頭発表論文】

[1] ソンホジン、田島卓郎、小杉敏彦、濱田裕史、アミ

ン・エルムチョーキル、杉山弘樹、松崎秀昭、矢板信、

児玉聡、加々見修(NTT)、川野陽一、高橋剛、中舍安

宏、原直紀(富士通)、登坂俊英、藤井勝巳、福永香、

笠松章史(NICT)、“Terahertz communications at 300 GHz for KIOSK data downloading system”、

International Microwave Symposium(IMS2015)(平

成 27 年 5 月 18 日) [2] 川野陽一、松村宏志、芝祥一、佐藤優、鈴木俊秀、

高橋剛、牧山剛三、中舍安宏、岩井大介、原直紀(富士

通、富士通研究所)、“20 Gbit/s, 280 GHz Wireless Transmission in InP-HEMT based Receiver Module Using Flip-Chip Assembly”、2015 European Microwave Conference(EUMC 2015)(平成 27 年 9月 9 日)

[3] 濱田裕史、ソンホジン、小杉敏彦、田島卓郎、エルム

タワキル・アミン、松崎秀昭、矢板信(NTT)、川野陽

一、高橋剛、中舍安宏、原直紀(富士通)、藤井勝巳、

渡邊一世、笠松章史(NICT)、“Demonstration of 20-Gbps Wireless Data Transmission at 300 GHz for KIOSK Instant Data Downloading Applications with InP MMICs”、International Microwave Symposium (IMS2016)(平成 28 年 5 月 25 日)

【口頭発表】

[1] 笠松章史、藤井勝巳、登坂俊英、寳迫巌(NICT)、“300GHz 帯測定技術に関する検討”、電子情報通信学

会 総合大会 シンポジウム(CI-2 ミリ波・テラヘル

ツ波応用に向けた電子デバイス・回路研究開発の現状と

展望) (平成 25 年 3 月 21 日) [2] アミン・エルムチョーキル、松崎秀昭、杉山弘樹

(NTT)、“Enhancement of Breakdown Voltages in InP-based HEMTs with Tri-Layer Channel Structure”、2014 年 第 61 回応用物理学会春季学術講

演会(平成 26 年 3 月 20 日) [3] 高橋剛、牧山剛三、佐藤優、中舍安宏、川野陽一、芝

祥一、原直紀(富士通)、遠藤聡(富士通研究所)、“ミ

リ波・テラヘルツ波無線通信用 InP HEMT 技術”、ミリ

波サブミリ波受信機ワークショップ(平成 28 年 3 月 7日)

【申請特許リスト】

[1] 濱田裕史、小杉敏彦、ソンホジン、矢板信、「分布型

回路」、日本、平成 27 年 10 月 6 日 [2] 高橋剛、「半導体装置及びその製造方法、通信装置」、

日本、平成 28 年 1 月 7 日 [3] 川野陽一、「増幅器」、米国、平成 27 年 7 月 1 日 【登録特許リスト】

[1] 松崎秀昭、堤卓也、「半導体装置及び半導体装置の製

造方法」、日本、平成 24 年 12 月 19 日、平成 26 年 8 月

15 日、特許第 5596773 号 [2] 鈴木俊秀、佐藤優、「半導体装置」、米国、平成 28 年 2月

[3] 佐藤優、「増幅回路」、米国、平成 28 年 3 月 8 日 【受賞リスト】

[1] 濱田裕史、IEEE Microwave Theory and Techniques Society 2016 International Microwave Symposium Beat Industry Paper Award、IMS2016、“Demonstration of 20-Gbps Wireless Data Transmission at 300 GHz for KIOSK Instant Data Downloading Applications with InP MMICs”、平成 28年 5 月 27 日

[2] 濱田裕史、Young Scientist Awards、URSI AP-RASC 2016、“20-Gbit/s ASK wireless system in 300-GHz-band and front-ends with InP MMICs”、平

成 28 年 8 月 24 日 【報道発表リスト】

[1] “ミリ波(240GHz)帯大容量ギガビット無線通信機

に向けた高感度受信 IC 技術を開発”、プレスリリース、

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2013/10/17.html、平成 25年 10 月 17 日

[2] 「世界初、毎秒数十ギガビットの高速無線通信に向け

た 300GHz 帯小型受信機を開発」、

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2015/09/8-1.html、平成

27 年 9 月 8 日 [3] “毎秒数十ギガビットの伝送速度を有する 300GHz 帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を世界で初

めて開発し、高速データ伝送実験に成功 ~DVD1 枚分

のデータを数秒で転送するサービス実現に道~”、NTTホームページ その他、平成 28 年 5 月 26 日

【国際標準提案リスト】

[1] IEEE802.15.TG3d, IEEE802.15-15-0052-00-003d, Operational frequency bands for TG3d devices, 12 January 2015

[2] APG15-5, INP-29 Annex 1, Proposal of WRC-19 New Agenda Item to Consider New Regulatory Provisions to Identify the Land Mobile and Fixed Services Operating in the Frequency Range 275-1 000 GHz, 2 July 2015

[3] WRC-15, Document 103(Add.24)-E, Draft New Resolution [J-C10-MS&FS_ABOVE_275GHz] (WRC 15) "Appropriate regulatory measures for the land mobile and fixed services operating in the frequency range 275-1 000 GHz”, 20 October 2015

【国際標準成立リスト】

[1] Report ITU-R SM.2352 - Technology trends of active services in the band above 275 GHz

[2] APG15-5/OUT-40 - Preliminary APT Common Proposals on WRC-15 Agenda Item 10, "Appropriate regulatory measures for the land mobile and fixed services operating in the frequency range 275-1000 GHz"

[3] Resolution COM6/14 (WRC-15), "Studies towards an identification for use by administrations for land-mobile and fixed services applications operating in the frequency range 275-450 GHz”

【参加国際標準会議リスト】

[1] ITU-R World Radiocommunication Conference 2015 (WRC-12)、スイス ジュネーブ、平成 24 年 1-2 月

[2] ITU-R World Radiocommunication Conference 2015 (WRC-15)、スイス ジュネーブ、平成 27 年 11 月 2 日-27日

[3] IEEE 802.15 IG-THz, SG3d, TG3d、毎年6回開催

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