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ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査 による胃粘膜病 …...ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究

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Page 1: ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査 による胃粘膜病 …...ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究

ブ リリア ン トブルー を用いた色素内視鏡検査

による胃粘膜病変の臨床的研究

第1編

胃粘膜病変の色素 内視鏡所 見に関す る臨床的検討

岡山大学医学部第2内 科(主 任:木 村郁郎教授)

依 光 幸 夫

(昭和60年5月14日 受稿)

Key words:胃 癌,色 素 内視鏡 検 査,

ブ リ リア ン トブル ー

緒 言

わが 国 では 胃癌 の 死 亡率 が 高 く,そ の 対策 と

して,古 くか ら胃癌 の 早期 発 見,早 期 外科 的療

法 が提 唱 され て きた.こ うした 胃癌 の 社 会 的 な

い し医学 的 特殊 性 か ら,わ が 国 に お いて は 胃 カ

メラに 始 ま る 胃癌 の 内視 鏡 診 断 学が 発 達 し,新

しい内視 鏡 機器 の 開 発 と呼 応 して独 自の進 歩 を

遂 げた.す な わ ち, 1963年 に は 国産 の フ ァイバ

ー ガス トロス コー プ, 1964年 に は生 検 用 フ ァ イ

バー ス コー プ等 の 開 発 が あ って,胃 粘 膜病 変 の

観察,記 録,生 検 が 可能 とな り,こ の 時期 にす

でに現在 の精 巧 に して 簡便 な機 能 を備 え た 胃 内

視鏡 の原 型 が完 成 され た と考 え られ る.

内視鏡 の発達 と共 に,胃 癌 診断学 は, Mallory1)

の発表 以 来 注 目され て い た 胃粘 膜 内癌,さ らに

進 んで,よ り微小 な 胃癌 の 診断 へ と発展 し, 1969

年 には暫 定 的 なが ら,長 径10mm以 下 の癌 が 「微

小 胃癌 」 と定 義 され,さ らに1978年 以 後 は長 径

5mm以 下 を 「微 小」 とす る考 え方 も現 れ,胃

癌 診断 学 の方 向 は よ り微 小 な癌 をいか に して正

し く診 断す るか に 向か って い る.

一方, 1962年 「早期 胃癌 」 の概 念 とそ の 肉眼

分 類が 定め られ た が,当 時 は概 念的 な 型 にす ぎ

なか った表 面 平坦 型早 期 胃癌(IIb)も,現 在 で

は 内視鏡 的 に わ ずか な色 調 の変 化,表 面 の粗 〓

化や緻 密 化,出 血等 に注 目 して生 検 す るこ とに

よ り,術 前 に 診 断 され た症 例 が報 告 され るよ う

に なっ た もの の,い まだ その 診 断成 果 は満 足 で

き る もの では な い.

胃癌 内視 鏡 診 断の 歴 史 の 中で,色 素剤 の応 用

が 着 目され, 1966年 津 田2)は メ チ レ ンブ ルー な

どの 色素 を用 い て色 素 剤撒 布 法 を発 表 したが,

色 素 を用 いた 内視 鏡 検査 が ひ ろ く応 用 され るた

め に は,前 処 置 に よ る胃粘 膜 表面 の 粘 液処 理 に

問 題 が あ った. 1971年,井 田 ら3)は 蛋 白分 解 酵

素 プ ロ ナー ゼ を用 い るこ とに よ り,粘 液処 理 の

問 題 を解 決 し,こ れ に よ り色素 内視鏡 検 査 の 基

礎 が 固め られ た.色 素 剤 として は,イ ン ジ ゴカ

ル ミン,エ バ ン スブ ルー(以 上 コン トラス ト法),

メチ レンブ ルー,ト ル イ ジ ンブ ルー(以 上 染 色

法),ア ズールA(粘 液 染色 法),コ ン ゴー レ ッ

ド(反 応 法),ア ク リジン オ レ ンジ,フ ル オ レス

チ ン(以 上 蛍光 色 素 法)な どが 次々 と発表 され,

慢 性 胃炎の 進展 度,胃 粘 膜 の 機能(と くに酸 分

泌),あ るいは 胃癌 の 局 在 お よび 浸潤 範 囲 の決 定

な ど,そ れ ぞれ の 目的 に応 じて 用 い られ るよ う

にな った.

筆者 が用 い た色素 剤 ブ リ リア ン トブルー ・FCF

(以下 ブ リ リア ン トブルー あ る いはBBと 省 略 す

る)は,色 素 内視 鏡 の 歴 史 の 中 でい まま で用 い

られ て い な い新 しい色 素 剤 で ある.筆 者 は この

色 素 を用 い て方 法論 的 に も新 しい色 素 内視 鏡 検

査 法,す なわ ちブ リ リア ン トブ ルー 法(以 下BB

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588 依 光 幸 夫

法 と略 す)を 考 案 しよ う と試み た.以 下,そ の

概 要 につ い て 記述 す る.

対 象 と 方 法

1.対 象

A.胃 癌

1977年1月 か ら1978年12月 まで に後 述 のBB

法 で 胃内視 鏡 検 査 を行 い,外 科 的 手 術 に よ る切

除標 本 に つ い て十 分 な病 理 組 織 学 的検 索 が 行 わ

れ た60症 例, 67病 変 を対 象 と した.そ の 中に,

5病 巣 進行 多発癌1例, 2病 巣 進行 多発癌1例,

2病 巣 早期 多発 癌2例 が含 まれ て い る.深 達 度

mの 病 変 は20病 変(Table 1), smは18病 変(Table

2),そ して 進行 癌 は29病 変(Table 3)で あ っ た.

Borrmann I, IV型 は対 象か ら除 外 した.

B.胃 潰瘍

1977年1月 か ら1978年12月 まで にBB法 に よ

る色 素 内視 鏡 検 査 を行 っ た良性 潰瘍182例(検 査

回数226回)を 対 象 と した.そ の うち活動期(A)及 び

治 癒 過程 期(H)潰 瘍 は79例,瘢 痕 期(S)潰 瘍(潰

瘍瘢 痕)は103例 で あった.多 発 潰瘍 症 例 に つ いて

は,も っ とも活動 性 の ある1病 巣 の み を対 象 と し,

潰瘍 の病期 分類 は崎 田4)の 分類 に従 った.対 象 と

した 胃潰瘍 症 例 は,各 時 相 に お け る症 例 数 と検

査 回数 が一 読 で きる よ うにTable 4に ま とめ た.

全 て の症 例 は 通常 内視 鏡 検 査 を含む 経 過 観 察 中

に 少 な くと も一度 は生 検 を施行 し,癌 の 存 在 を

否定 した.ま た, BB法 で 観察 した後 に 外科 的

切 除 を行 い,組 織 学 的 検 索 が行 われ た良性 潰瘍

は4症 例4病 変 で あ っ た.

C.胃 良性 び らん

1978年1月 か ら8月 まで の期 間に, BB法 で

色 素 内視 鏡検 査 を行 った80症 例300病 変 を対 象

と し,各 病 変 に対 して び らん部 の狙 撃生 検 を施

行 し組 織 学 的検 索 を行 った.

2.方 法

A.色 素剤 ブ リ リア ン トブル ー の 化学 構 造 と

そ の特 性

BBは うす い水溶 液 で青 色 を呈 し,わ が 国 で

は 食 用青 色1号 と して 食 品へ の 添加 が 認め られ

て お り5),化 学 名 はdisodium salt of 4-{[4-(N-

ethyl-m-sulfobenzylamino)-phenyl]-(2-sul

foniumphenyl)-methylene}-[1-(N-ethyl-N-

Figure 1. Chemical structure of Brilliant

Blue5),6).

m-sulfobenzyl)-△2,5-cyclo-hexadienimine]

で, Figure 1の 構 造 式 を有 す る5),6). 1953年,

WillheimとIvy7)は この 色 素 に 発 癌性 が ない こ

とを報告 してお り, 1969年Food and Agriculture

Organization(WHO)の 食 品添加 物専 門委 員会

で,人 に 対 す るAcceptable Daily Intake(ADI)

は無 条 件 で0~12.5mg/kgと 定 め られ た8). BB

は消 化 管 か らほ とん ど吸収 され ず6),水 溶液 は

酸,ア ル カ リに対 して安 定 であ る. 1回 の 内視

鏡 検 査 に使 用 され るBBの 量 を100~200mgと

す れ ば,こ の量 は 成 人 のADIに 達 し ない.

B.観 察 に適 した 色素 液 の 濃度 の検 討

Table 7の 前処 置 法 に 従 い, BB混 合 液120ml

中に 含 ま れ るBB量 を25, 50, 100, 200, 400,

800mgと 変化 させ て 前処 置 を施 した後,お の お

の の 濃 度 につ い て 少 な く とも5例 の非癌 症 例 を

対 象 として,内 視鏡 に よ る観 察 と記録 をTable

5の 第1~4項 目 を基 準 として検 討 した.

次 に癌 症 例 に つ い て, BB 100mg使 用群(54

病 変)とBB 200mg使 用 群(13病 変)と をTable

5の 第1お よび 第5項 目 を基 準 と して 比較 検 討

した.

C.色 素 液 の 色調 にお よぼ す水 素 イオ ン濃 度

の影 響

BBの うす い水 溶 液 は青 色 を呈 す るが,塩 酸

添加 でpH1に お い てBB水 溶 液(以 下BB液)

は 緑色 を呈 す る5).い ま, 0.05%BB液 に お い

て,塩 酸 を用 い て水 素 イ オ ン濃度 を段 階 的 に上

昇 させ る と, 10mEq/l以 下 で は溶 液の色 は青 色

で あ るが, 30mEq/lで や や 緑 色 を帯 び 始め, 40

mEq/lで 青 緑 色 とな り, 70mEq/l以 上 では 明 る

い 緑色 を呈 した(Figure 6).こ の性 質 が内視 鏡

観 察下 にお いて も認め られ るか ど うか を検討 す

る 目的 で, Table 7の 前 処 置 法 に お け る第1項

目のButropium bromide注 射 を省略 しBB量

200mgを 用 いて38症 例 を対 象 として 色素 内視鏡

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ブリリアン トブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究 589

検 査 を行 い,胃 粘 膜 面 の 色 素 液 の 色 調 を検 討

した.観 察 器種 として はGTF-S2を 用 い た.ま

た,同 じ症例 を対 象 と して,最 高 酸 度(MA)お

よび最 高 酸 分泌 量(MAO)を,一 部 の症 例 に つ

いて 空腹 時 血清 ガス トリン値 を測 定 した.対 象

38症 例 の 内 訳 は,早 期 胃癌2,進 行 胃癌9,胃

潰瘍18,慢 性 胃炎8,平 滑 筋 肉腫1で あ っ た.

D.前 処 置液 の保 存 液 の 調製

蒸 溜水 を用 いて, 1.0% BB水 溶 液500mlを

作 り,こ れ を加 熱 滅菌 し約4℃ に 冷 蔵保 存 す る.

BBは 水 に 易溶性 で, 1.0%液 の調 製 は容 易 で あ

り,こ の 溶 液 は長期 保 存 に よ って 変 色 しない.

E.前 処 置 液 の調 製 と前処 置 法

検査 日の朝, Table 6に 示 した組 成の前 処置 液

(BB混 合 液)を 調 製す る.す なわち,前 述 の1.0%

BB保 存 液10mlに 蒸 溜水100mlを 加 え,さ らに

dimethylpolysiloxane(ガ ス コン.ド ロ ップ〓)

10ml,重 曹1.2g,そ して 乳 鉢 で す りつ ぶ した

エ ンピナー ス〓2カ プセル分 の粉 末 を加 え て よ く

か き まぜ る.前 処 置 開始 まで にBB混 合 液 を約

37℃ に温 め て お き, Table 7の 手 順 に従 って前

処 置 を行 い,内 視鏡 は オ リン パ スGTF型, GF

型,あ るい はGIF型 を用 い た.

F.間 接 法 と直接 法 の 比較 検 討

上述 の方 法(Table 7)は いわゆ る間接 法に属

す るが,こ れ に対 し,直 接 法 に お い てはBB無

Table 1. Twenty lesions of early gastric

cancer confined to mucosal layer

添加 の前 処 置 液 で型 の 如 く前 処 置 を行 い,ま ず

通常 内視 鏡 観察 を行 った の ち,鉗 子 口 よ り撒 布

用 カ ニ ュー レ を挿 入 し, 0.05% BB液 を直視 下

で撒 布 した.直 接 法 と間接 法 の優 劣 を比 較 す る

目的 で,直 接法 で観 察 した早期 胃癌4,進 行 胃

癌6,胃 潰瘍25,十 二指 腸 潰瘍5,胃 ポ リー プ

6,良 性 び らん22,慢 性 胃炎11,胃 粘 膜 下腫 瘍

1,正 常3の 合 計83例 と,同 時 期(1978年)に

間接 法 で観 察 した136例 とをTable 5の5項 目を

基 準 と して比 較 検討 した.観 察 器種 は両群 共 に

GIF-P2を 用 いた.

G.対 象病 変 の 内視 鏡 所 見の 検 討

BB混 合 液 で 型 の 如 く前 処 置 を行 っ た後 内視

鏡 で 胃粘 膜表 面 を観 察 す る と,青 色 の色 素 液が

比較 的 強 く着 色 して い る部分 とこれ に反 し色素

液に よ る着 色 を欠 い てい る発 赤 部分 とが 認め ら

れ,こ の2つ の 両極 端 に加 えて,そ の 中間 の様

々 な程 度 の淡 い 着色 部 分 が観 察 され た.生 検 組

織診 断 を併 用 した通 常 内視 鏡 検 査 に よ って正 常

であ るこ とが確 認 され た 胃粘 膜 に おけ る着 色 は

淡 い中 間調 の着 色 であ っ たの で,病 巣 の 色調 と

して は 着色 の 両極 端 を と りあ げ,「 発 赤 」と 「青

色」 の2つ の対 照的 な色 に単 純化 して病 巣の 色

調 分 類 を試 み た.

H.内 視 鏡 所 見 と病理 標 本像 との 対 比検 討

対 象 胃癌 症例 のす べ て につ い て,早 期 癌 に つ

Table 2. Eighteen lesions of early gastric

cancer with submucosal infiltra

tion

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590 依 光 幸 夫

い て は癌 巣 を含 む5mm間 隔の 組 織 ブ ロ ッ クを

作 製 し,進 行 癌 に 関 しては 原 則 と して 中心部 を

通 る一割 ブ ロ ックをつ くり,随 伴IIbに 対 しては

早 期癌 に準 じて 組 織 ブ ロ ッ クを作 製 した.良 性

潰瘍 に 関 して は 原 則 と して 中心 を通 る一割 ブ ロ

ッ ク を作 製 し,必 要 に 応 じて組 織 ブ ロ ッ クを追

加 作 製 した.切 除 材 料 は10%ホ ル マ リンで,生

検材 料 は10%中 性 ホル マ リン で 固定 し型 の 如 く

包埋 しHaematoxylin-Eosin重 染 色 を施 した.

早 期癌 の うち,長 径20mm以 下 の13病 変 と長

径 は20mmを 越 す が 比較 的小 型 で単 純 な形 態 を

備 え た10病 変(病 変1, 7, 8, 19, 20, 21, 27,

28, 35, 37)の 合 計23病 変 を対 象 と して,癌 巣の

ひ ろが り を内視 鏡像,切 除 胃固定 標 本 の 肉 眼像

(以下 単 に 肉 眼像)お よび 組 織像 とにつ い て対 比

検 討 を行 った.こ の際,病 変9を 除 く22病 変 に

関 して は,癌 巣 形態 の 特 徴 を とら えた代 表 的 な

1個 の組 織切 片上 の 凹 凸 を 目印 として,癌 巣 外

縁 につ いて の み 肉眼 像 と組織 像 との対 比 を行 い,

組織 切 片 上 で 肉 眼的 範 囲 と組 織 学 的 浸潤 範 囲 と

Table 3. Twenty-nine lesions of advanced

gastric cancer

の差 が1mm以 内 で あれ ば 「一 致 」と し, 1mm

を越 え る場 合 に は 「不 一 致」 と判 定 した.病 変

9(IIb)に 関 して は,癌 巣 を含 む 組 織 ブ ロ ック

を脱 パ ラ フ ィ ン親 水 し これ を0.02%メ チ レ ンブ

ルー 水 溶 液 で3分 間 染 色 した後,粘 膜 表面 と断

面 を実 体 顕微 鏡 下 で観 察 し病 変 の 範 囲 を決 定 し

た.

Table 7の 前 処 置 を行 っ た 内視 鏡検 査 に お い

て,強 い 発赤 を示 した 境 界鮮 明 な領域 お よび青

色着 色 を示 した点 状 病 変 に対 して は 内視 鏡 下 に

狙撃 生 検 を施 行 した.す な わ ち,前 者 に対 して

は発 赤 境 界部 を生 検 し,生 検 材 料 にお け る癌 の

有無 を組 織学 的に 検 索 し,後 者 に対 しては青 色

点 を狙 って生 検 し次 の3項 目に つ い て組 織学 的

検 索 を行 っ た.一 方,胃 粘 膜 を無作 為 に生 検 し

これ を対 照 と した.

① 若 い再 生 上 皮 の存 在

② 円 形細 胞 を主体 とす る 白血球 の 局所 集積

③ 粘 膜 筋板 平 滑 筋線 維 の 増生

① ② ③ の3項 目はKonjetzny9)の 堤 尖 び らん

に関 す る 記載 内容 に 従 っ て,生 検 材 料 に おけ る

び らん の 診断 項 目 と して筆 者 が独 自に 採用 した

もの で あ る.

Table 4. The number of patients and fiber

gastroscopic examinations classified according to the stages of

gastric ulcer

* うち1例 のみ,瘢 痕から活動期潰瘍が発生している(S→A)

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ブ リリア ン トブ ルー を用 い た色 素 内視 鏡 検 査 に よる 胃粘 膜病 変 の 臨床 的 研 究 591

Table 5. Items for the evaluation of va

lidity of chromo-endoscopy

(1)観 察視野の明 るさ

(2)腺 境界の識別

(3)胃 小区の観察

(4)色 素液を透 してみた粘膜表面の観察

(血管透見像 をも含 む)

(5)撮 影記録状態(色 調の再現性 と病変の記録性)

Table 6. Constituents of the Brilliant-Blue

solution

Table 7. Steps of procedure in the

Brilliant-Blue chromo-endoscopy

1. Butropium bromide 4mg(コ リオパ ン〓1A)筋 注

2.約37℃ に温めたブリリア ン トブルー混合液120ml内 服

3.ベ ッ ドに横たわ り、右 まわ りに20分 間 ゆっ くり回転 する

4. Butropium bromide 4mg筋 注

5.直 ち に咽頭麻 酔

6. 5分 後 、検査 台 の上 で被検 者 を右 まわ りに1回 転 さ

せ た後 、 内視 鏡 を挿 入 し観察 を始 め る。

成 績

1.色 素 液 の 至適 濃度

(1)観 察 視 野 の 明 る さ

BB量400mg以 上 で は視 野 が 暗 く不 適 当で あ

り, BB量200mgで はや や 暗 い感 じが あ り, BB

量100mg以 下 では遠 景 で も細部 を観 察 で き る明

るい視 野 が 得 られ た(Table 11).

(2)腺 境 界 の識 別

BB量25mgで は 胃底 腺領域 と幽門腺 領 域 との

色調 の差 が不 明瞭 とな り, BB量50mg以 上 の場

合 に比 し腺 境 界 の 識別 が 困 難 で あ った(Table

11).

(3)胃 小 区 の観 察

BB量200mgに お いて も っ と も明 瞭 に 胃小 区

を観察 す るこ とが で きた(Table 11).

(4)色 素 液 を透 して み た透 見 性粘 膜表 面 像 の

観 察

BB量100mg以 下 に お い て粘 膜面 の 十分 な透

見観 察 が 可能 であ り,こ の 濃度 では粘 膜下 血 管

の透 見 観 察 に 支障 を感 じなか っ た(Table 11).

(1)の成 績 よ りBB量400mg以 上は不適 当 であ

っ たの で, BB量200mg以 下 の範 囲 に お いて(2)

(3)(4)の成績 を総合 判 定 す る と, BB混 合 液120

mlに 対 してBB量100~200mgが 色素 液 の 至適

濃度 で あ っ た.

既 知 の癌 巣の 観 察記 録 を 目的 とした場 合 に は,

BB混 合 液120mlに 対 してBB量200mgの 方 が

BB量100mgよ り もわ ず か な が ら 優 れ て い た

(Table 11第5項 目).

2.胃 粘 膜面 にお け る色 素 液 の色 調 と酸 分 泌能

お よび 血清 ガ ス ト リン値 との関 係

GTF-S2を 用 いた 内 視 鏡 観 察 にお い て粘 膜 面

色素 液 の色調 が 明 らか に緑 色 あるいは黄 緑 色(以

下 単 に 緑 色 と表 現)を 呈 した症 例(緑 色調 群)

は25例 で,そ の疾 患 内訳 は 早期 癌1,進 行 癌3,

胃潰瘍15,慢 性 胃炎5,平 滑 筋 肉腫1で あ った.

一 方,粘 膜 面色 素 液 の色 調 が青 色 あ るいは わ ず

か に 緑 色 を帯 び た青 色(以 下 単 に青 色 と表現)

を呈 した症 例(青 色調群)は13例 で,そ の疾 患

内訳 は 早期 癌1,進 行癌6,胃 潰瘍3,慢 性 胃

炎3で あ っ た(Table 12).

緑 色 調群 では, MA 98±27mEq/l, MAO

9.7±7.0mEq/hr,空 腹時 血 清 ガ ス ト リン値67

±35pg/ml(n=21)で あ り,青 色 調群 ではMA

33±28mEq/l, MAO 2.0±2.6mEq/hr,空 腹

時 血清 ガス トリン値126±73pg/ml(n=11)で

あ り, MA(P<0.005), MAO(P<0.05),お

よび空 腹 時 血清 ガス トリン値(P<0.05)の それ

ぞれ に おい て緑 色 調群 と青 色 調群 との 間 に有 意

差 が 認め られ た(Figure 2, Figure 3, Figure 4).

3.間 接 法 と直接 法 どの比 較

観 察視 野 の 明 る さに 関 しては,間 接 法 と直接

法 との 間 に差 を認め なか っ たが,そ の他 の4項

目(Table 5)に 関 しては 間接 法(Figure 11)が

直 接 法(Figure 10,右)に 対 して明 らか に優 れ

て いた.

4.胃 癌

A.癌 病 変 の 内視 鏡 所 見

BB法 に よ る色 素 内視 鏡 観 察 に お け る 「発赤 」

と 「青 色 」 の所 見 を,癌 ・非 癌 を問 わ ずす べ て

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592 依 光 幸 夫

の 病変 に 関 して 統一 的に 記 載 す る ため,記 載 法

を原 則 的 に次 の よ うに定 め た.す な わ ち,「 発

赤 」は"R"(Reddened),「 青 色 」は"B"(Blue)

と略 記 し, "R"の 実例 をFigure 12, Figure 13,

Figure 14に, "B"の 実 例 をFigure 16に 示 した.

病 巣 内 に 発赤 と青 色 とが それ ぞ れか な りの 広 さ

を も って混 在 す る場 合 には,発 赤が 明 らか に 広

いか あ るい は青 色 が 明 らか に 広 いか に よ って,

それ ぞれ"R≫B"あ る いは"B≫R"と 記 載 し,

病 変 が"R"に 属 す るか"B"に 属す るか の最 終

的 判 定 に際 して は,原 則 として"R≫B"は"R",

"B≫R"は"B"と 判 定 した.ま た, "R"お よび

"B"の いず れに も属 さ な い中 間 的色 調 の病 変 が

あれ ば, "R"に も"B"に も分類 され な い とい う

意 味 で最 終 的 に"unclassified"と 判定 した.

胃癌 に 関 して,個 々 の病 巣 の 色 調 をTable 8

に示 したが,特 に進 行癌 にお いて は病 巣 を陥 凹

部 と陥 凹 外病 変 部 に 分 け て色 調 を記 載 した.

前 述 の 判 定法 に基 づ く判 定 の 結 果,早 期 癌 で

は,深 達 度mの20病 変 のす べ て(100%)が"R"

であ り, smの18病 変 の うち16病 変88.9%が"R"

で, 2病 変11.1%が"B"で あ った.ま た, mと

smと を合 せた早 期癌38病 変 中36病 変94.7%が"R"

で あ った(Figure 5).

進 行癌(陥 凹部 お よび陥 凹外病 変 部 を合せ て)

で は, 29病 変 中16病 変55.2%が"R"で, 13病 変

44.8%が"B"で あ っ た(Figure 5).

B.癌 の組 織 型 と内視 鏡所 見

癌 の"R"の 色 調 に は微 妙 な色合 い の違 いが あ

り,こ れ を大 別 す る と少 な くと も次の3型 に分

け られ た.す な わ ち, ① 明調 の鮮 や か な赤 色(以

下 鮮 赤 色), ② 暗調 の 赤褐 色(以 下 赤 褐 色), ③

白い 薄 膜 に 覆わ れ た よ うな明 調 の淡 赤 色 または

淡 橙 色(以 下 淡 赤 色)で あ る. "R"の 早 期癌36

病 変 の 色調 を前 述 の3型 に分 類 す る と,高 分 化

型 管 状 腺 癌(tub1)に お い て は20病 変 中16病 変

80.0%が 鮮 赤 色 型 に 属 し, 4病 変20.0%が 淡赤

色型 に 属 した.中 分 化 型管 状 腺癌(tub2)で は2

病 変 中1病 変50.0%,印 環 細胞 癌(sig)で は3病

変 中2病 変66.7%が 鮮赤 色型 で,そ れ ぞれ1病

変50.0%, 1病 変33.3%が 淡 赤 色 型 であ っ た.

一 方,低 分 化 腺癌(por)で は9病 変 中4病 変44.4

%が 鮮赤 色型 に, 5病 変55.6%が 淡赤 色 型 に属

した.乳 頭 腺癌(pap)で は1病 変50.0%が 赤 褐

色型に, 1病 変50.0%が 淡赤 色型に属 した(Table

9).す なわ ち,鮮 赤 色 型 はtub1に 多 く,淡 赤 色

型 はporに 多い傾 向が 認 め られ た.

C.癌 浸 潤 範 囲 と内視 鏡 所 見

内視 鏡 像 と肉 眼像 との 対 比 に お いて,病 変9

(IIb)を 除 く22病 変(95.7%)で は両 者 の像 の

形 状 が一 致 した(Table 10).病 変9に お い て

は,肉 眼 的に 病 変 の指 摘 す ら困難 であ った.前

述 の22病 変 に 関 して は 内視 鏡像 と肉眼 像 とが 一

致 したの で,内 視鏡像 と組 織像 との対 比 を肉 眼像

Figure 2. Relationship between

maximal acidity and

colour shift of the mucosal

surface.

Figure 3. Relationship between

maximal acid output and

colour shift of the mucosal

surface.

Figure 4. Relationship between

fasting serum gastrin

levels and colour shift of

the mucosal surface.

Page 7: ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査 による胃粘膜病 …...ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究

ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究 593

Table 8. Results of the Brilliant-Blue chromo-endoscopy in early and advanced gastric

cancer

R: a reddened lesion

B: a blue lesion

* Instrument (s) used for the

initial chromo-endoscopy

in each case

Page 8: ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査 による胃粘膜病 …...ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究

594 依 光 幸 夫

Figure 5. Colour (reddened, blue or unclassified) of lesions, visualized by Brilliant-Blue chromoendoscopy, in early gastric cancer(mucosal and submucosal), advanced cancer, benign

ulcer, ulcer scar, and erosion, respectively.

Table 9. Comparative studies on the shades of

reddness in the 36 reddened lesions of early

gastric cancer according to their histologic types

Table 10. Comparative studies on the infiltra

tive extent in the 23 lesions of early gastric

cancer according to their endoscopic, macro

scopic and histologic images

○ 一 致 ● 不 一致

Page 9: ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査 による胃粘膜病 …...ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究

ブリリアン トブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究 595

Table 11. Studies on determination of the

optimum dye concentration for the Brilliant

- Blue chromo-endoscopy

〓 極 め て良 い、〓 良 い、+ か な り良 い、- 不 良

と組織像 との対比 に よって代 替す るこ とが で きた.

肉 眼像 と組 織 像 との対 比 の結 果, pap, tub2

の各1例 に つ いて は両 者 が一 致 し, tub1の13病

変中11病 変(84.6%), sigの3病 変 中2病 変(66.7

%), porの4病 変 中3病 変(75.0%)に お いて 両

者 が一 致 した(Table 10).不 一 致 病 変 はtub1

では病 変14, 22の2病 変, sigで は病変8の1病

変, porで は病 変28の1病 変 で あ った.

病 変9に 関 して は,内 視鏡 像(Figure 14)と

実体 顕微 鏡 観察 像 お よび組 織 構築 像 と を対 比 さ

せ た 結果,内 視 鏡 観 察 にお け る発 赤 領域 が癌 の

浸潤 範囲 に一 致 した20).

そ の結 果,対 象23病 変 に つ い ての 内視 鏡 像 と

組 織像 との一 致率 は, pap, tub1, tub2の16病 変

に関 して87.5%(14/16)で あ り), sig, porの7病

変 に関 して71.4%(5/7)で あ った.

一 方, BB法 に お け る発 赤 領 域 の境 界部 を狙

撃生 検 した4病 変(病 変1, 2, 7, 9)か ら得 られ た

合計10個 の 生 検材 料 の 組 織学 的 検 索 では, 8個

(80.0%)に お い て癌 ・非癌 両 組 織 を含 ん だ境 界

部組 織 を証 明す る こ とが で きた.

病 変15はtub1, mのIlcで 内視 鏡 像(Figure

12)と 肉眼像,肉 眼像 と組 織像 の一 致 例 で あ る.

病 変7(Figure 15)はpap, mのIIaで あ り,

境 界鮮 明 な赤 褐 色 の低 隆 起(下 段)の 表 面 に は,

固定標 本(上 段)の 表 面に 観 察 され た もの と相 同

の 凹 凸模 様 が 明 瞭 に 認識 され た.こ の例 で は癌

巣表 面 の 凹 凸の コン トラ ス ト効 果 が 特 に顕 著 で

あ り,同 病 変 の 組織 学 的 浸 潤 範囲(Figure 18)

は 内視 鏡 像 に お け る病 変 の 形 とよ く一致 した.

病 変22(Figure 16)は"B"の 内視鏡 所 見 を呈

し,さ らに 肉 眼像 と組 織像 とが 不 一 致 で あ った

例 で あ り,本 例 では 内視 鏡 像 にお け る小 発赤 部

Table 12. Diagnoses in the greenish mucosa

group and the bluish mucosa group

() 内は早期癌

に ほぼ 一 致 して(Figure 19の 矢 印部 分)癌 性 腺

管が 巣 状 に露 出 して い た(Figure 20)が,癌 組

織の 大 部 分 はsmに か な り)広範 囲 に わ た っ て 浸

潤 して お り,肉 眼像 に比 して組 織 学的 浸 潤 範 囲

の方 が 広 か っ た.

"R"を 呈 したすべ ての癌 巣 にお い て,癌 巣 の

発赤 は観 察 の 当初 に はやや 不 明瞭 で あ り,症 例

に よ って 異 な る ものの 観 察 開始数 分後 に もっ と

も鮮 明 とな り,観 察 時 間 が冗 長 に な る と,病 変

の境 界部 がむ し ろ不 明瞭 化す る傾 向 が あ った .

例 えば, Figure 17(左 上)に お いて一 個 の"R"

が 明 らか で あ るが,間 もな くFigure 17(左 下)

の如 く第2の"R"が 第1の"R"の 右 側 に現 れ,

Figure 17(右 上)に 示 した よ うに 第1の"R"は

や が て拡 大 不 明 瞭化 し, 30分 後 に はFigure 17

(右下)の 如 く背景 粘 膜 の青 色 が褪 色 し癌 巣 発赤

部 と青 色 調 の部 分 との 間 の色 調差 が 少 な くな っ

て い た.

"R"の 所 見 に基 づ い て 内視 鏡 的 に診 断 され た

最 小癌 巣 は2.5×5mm(m, tub1)の 微 小IIcで

あ っ た(Figure 25, Figure 26).ま た6×9mm

(m, tub1)の 典 型IIbが"R"の 所 見 に 基づ いて

内視 鏡 的 に 摘発 診 断 され た(Figure 14).

5.良 性 潰瘍

病 期 がAお よびHの 良 性 潰瘍 に 関 し て は,

Figure 7に お いてみ られ るよ うな 明 調 の青 色 が

病 巣 の 主 色 調 とな っ て い る場 合 に そ の病 変 を

"B"と 判 定 し,潰 瘍 底 お よび その 辺 縁部 に お い

てFigure 8に み られ る よ うな境 界鮮 明な 発赤 面

が 存 在 し,発 赤 面 が青 色 面 よ り広 い場 合 に そ の

病 変 を"R"と 判定 した.そ の結 果, A, H群 に

おけ る"R"の 頻度 は3.4%(3/88)で あ り,そ の

他 の96.6%(85/88)が"B"で あ った(Figure 5).

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596 依 光 幸 夫

瘢痕 期 良性 潰 瘍 は癌 の悪 性 サ イ クル との 関連

性 を よ り重 視 して 検討 す る必 要 が あ るた め,瘢

痕 面 の 色調 を詳 細 に観 察 し瘢 痕 面 の色 調 を次 の

5型 に 分類 した.

① 瘢 痕 面 の 色 調 が 周辺 部健 常 粘 膜 の 色調 と

ほ とん ど変 らないが 多少 の濃淡が認 め られ るもの.

② 狭 い 明 らか な発 赤面 が 存 在す るが,境 界

部 は全 周 に お い て不 鮮 明 な もの.

③ 狭 い明 らか な発 赤 面 が存 在 し,少 な く と

も一 部 に境 界鮮 明 な部 分 が あ る もの.

④ 広 い明 らか な発 赤 面 が存 在 し境 界部 は全

周 に お いて 不 鮮 明 な もの.

⑤ 広 い 明 らか な発 赤 面 が存 在 し,少 な く と

も一 部 に境 界鮮 明 な部 分 が あ る もの.

以上 の5型 の うち, ③ お よび⑤ の2型 は癌 に

お け る"R"と 部 分 的 に共 通 の所見 を備 えて い る.

従 っ て, ③ あ る い は⑤ の所 見が 認 め られ る もの

を"R"と 判 定 す るこ とに した.ま た, ① ② ④ は

"R"に も"B"に も所 属 しな い所 見 で あ る ため

"unclassified"と 判 定 した.

その 結 果, S群 に おけ る"R"の 頻度 は5.8%

(8/138)で あ り,そ の他 の94.2%(130/138)は

"unclassified"で あった(Figure 5).

胃切 除 術 を受 け た病期 がAの 潰瘍(Figure 21)

の底 部 に 一致 して,組 織像(Figure 22)で は 浸

出所 見 を認 め た.病 期 がHの 潰 瘍(Figure 8)

で は青 色 潰瘍 底 を と り囲 ん だ発 赤 帯 に一 致 して

(Figure 23),組 織 像(Figure 24)で は再 生 上

皮 を認 め た.青 色 潰瘍 底 を と り囲 ん だ発 赤 帯 の

部 分 はGTFを 用 い た観 察 で はFigure 8の 如 く

無 構 造性 発赤 を示 した が, GIF-P2に よる観察 で

はFigure 9の 如 く発 赤部 が 多数 の 白線 に よっ て

細 分 され た模 様 が 観察 され た.

6.良 性 び らん

通 常 内視 鏡 観 察 で良 性 び らん(以 下 び らん)

の所 見 を呈 し た小 陥 凹性 病 変(Figure 10,左)に

直視 下 で0.05% BB液 を撒 布 す る と, Figure 10

(右)の 如 く発 赤 の 中心 部 に 青 色 の着 色 を生 じた.

Table 7の 前 処 置 を行 うこ とに よっ て同 様 の 所

見 を呈 した小病 変(青 色 点)を 生検 し,粘 膜 面 に

ほぼ 垂 直 な組 織像 が 得 られ た51病 変 を対 象 と し

て,前 述 の① ② ③ の組 織 所 見 の 有無 を検 討 した

結 果, 38病 変(74.5%)に お いて① の所 見 に加 え

て さ らに② ③ の うち少 な くと も1つ を有す る所

見 が 得 られ た.一 方,無 作 為 生 検群 に おい て は,

54個 の組 織 片の うち① の所 見 に加 え て さちに②

③ の うち少 な くと も1つ を有 す る所 見 を得 た も

の は9個(16.7%)で あ った.

以上 の組 織 検査 の結 果, Figure 10(右)に み

られ る よ うな青 色点 はび らん で あ る と考 え られ

た が,青 色 部分 が よ り広 くな るに つ れ て,青 色

陥 凹面 の一 部 が 発 赤 して い る こ とが あ り,び ら

ん の判 定 に 際 しては 陥 凹部 が 青 色 の場 合 に"B",

部 分 的 あ るい は全体 的 に 明瞭 な発赤 が認 め られ

た場 合 に"R"と 判 定 した.

その 結果, "R"の 頻度 は0.7%(2/300)で あ り,

その他の99.3%(298/300)が"B"で あ った(Figure

5).対 象 早 期 癌 の う ち ヒ ダ 集 中 を伴 わ な い 陥

凹型 粘 膜 内癌 は15病 変 で あ り,そ のす べ て が び

らんの 判定 基準 にお い て も"R"に 属 した(Table

l 3).

隆 起 型 と平 坦 型 の び らんの典 型 例 をFigure

11に 示 した が, "B"の び らん は 「紅暈 を伴 った

青 色 の 点 あ るい は面 」 と して 観 察 され た.

Table 13. Comparative studies on the surface

colour of lesions between the benign erosion

and the malignant depressed lesion without

converging folds, by means of the Brilliant

- Blue chromo-endoscopy

考 按

1.方 法論に関して

A.色 素剤の条件

津田2)は色素内視鏡に応用される色素剤の条

件として, ①人体に対 して無害であること, ②

橙赤色の胃内壁に付着 して色彩的に明瞭なコン

トラス トをつけうること, ③病変部を変性させ

ることなく胃粘膜の微細な凹凸の変化を忠実に

描写できること,の3つ を挙 げているが,色 素

法を初回内視鏡検査に応用するためには,さ ら

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ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究 597

に, ④ 色素 剤 の使 用 に よ っ て微 細病 変 が 覆 い 隠

され るこ とが な い こ と, ⑤ 観 察 に 際 して視 野が

明 る く,胃 内 を容 易 に 見渡 す こ とが で き るこ と,

⑥ 観 察 した像 を フ ィル ム上 に 明 瞭に 記録 す るこ

とが で きる こ と,の3条 件 を加 える必 要 が あ る.

なぜ な らば, ④ につ いて は 言 う まで もない が,

⑤ につ い て は,遠 景 で 胃内 を明 るい視 野 で 見渡

せ な い よ うな観 察 条件 の も とでは 見落 しの 危 険

性 が予 想 され, ⑥ につ い て は,多 数 の 日常検 査

の場 に お い ては 照診 の み な らず 検査 後 の フ ィル

ム 判定 が重 要 で あ り,特 殊 現 像 な どの処 置 を施

す こ とな く鮮 明 な写 真 が得 られ るこ とが 必 須 と

なるか らで あ る. BBは6条 件 をす べ て 満 足す

る色素 で あ る と評価 され た.

B.色 素 剤 の 濃度 に つ い て

直接 法 と間 接 法 との 比較 検 討 の結 果,間 接 法

が 優れ て い る とい う成 績 が得 られ たが, BB法

(間接法)に おけ る使 用 色素 量 を200mgと す るか

100mgと す るか につ いて は,そ れ ぞれ の 量 の利

点 が あ り,に わ か に優 劣 を決 す るこ とは 困難 で

あっ た.既 知 の 胃癌 病 巣 の拡 が りを鮮 明 に視 覚

化 しよ うとい う 目的か ら判 定 すれ ば, BB量200

mgが 優 れ て いた.し か し, BB量100mgに よ

って も癌 巣 発赤の視覚 化 は可能 で あった(Figure

12, Figure 14)の で,色 素 内視 鏡 検 査(chromo

endoscopy, adj. chromo-endoscopic)を 日常

の ルーチ ン検査 に 応 用 しIIbや 微小IIc病 変 を摘

発診断 しよ うとい う立 場 に 立 てば,視 野 の 明 る

さ を第一義 的 に と りあげ るべ き であ る と考 え た.

この観 点 に基 づ き,筆 者 はBB量 を100mgと 決

定 し, 1977年8月 以 降 に お い てBB混 合 液(特

殊 目的 の検 査 を除 く)の 組 成 をTable 6の 如 く

統 一 した.

C.前 処 置 法,観 察 法 お よ び観 察所 見 につ い

前処 置 に際 し,粘 液 除去 の 目的 で 井 田 ら3)が

用 いたプ ロナ ーゼ を含 有 す るエ ン ピナ ー ス〓2カ

プセル を使 用 し,胃 液 分 泌抑 制10),11)と胃壁 の 緊

張 緩 和 ・嘔 吐 反 射 の 抑 制12)と を 目的 と して,

Butropium bromide 4mgを2回 に わ た って 筋

肉内に 注射 す る(Table 7).本 法 に お け る前 処

置法 の特 異 性 は 前処 置 液 の 中 にす で にBBを 含

ん でい るこ とで あ り,井 田 らが 行 った 前処 置 液

と色 素 液 とを別 々 にの ませ る方 法3)は 本 法 に は

適 しなか っ た.な ぜ な らば, BB無 添加 の 前処

置 液 で型 の 如 く前処 置 を行 った の ち,内 視 鏡 挿

入 の 直前 に1.0% BB水 溶 液10mlを の ませ た場

合 に は, ① 粘 膜表 面 に 強 い着 色 が起 りそ の ため

視 野 が 暗 くな る, ② 粘 膜表 面 に着 色 の む らを生

じる,な どの好 ま し くな い結 果 を生 じたか らで

あ る.

1回 の 検査 にお け る観 察 時 間 は10~15分 を必

要 とす るが,観 察初 期 に は 表面 凹凸 の強 調 が主

効 果 で あ り,や が て 胃底 腺 領域 粘 膜 か ら青 色 の

槌 色が 起 り始め 粘 膜 面は 光 沢 の あ る橙 赤 色 に近

づ き,続 い て幽 門 腺領 域 に お い て槌 色が 起 り粘

膜 面は 橙 色 に近 づ い た.前 処置 開 始 直前 に被 検

者 の 胃が 空虚 であ り,前 処 置 の経過 中 に 胃液 の

分 泌が な く前処 置 液 がす べ て 胃 内に とど まっ て

い た と仮 定す る と,内 視 鏡挿 入直 前 には 胃内 に

120mlの 前処 置 液(BB混 合 液)が あ り,こ の時

点に おいて 胃粘膜 表面 はほぼ全 域に わ た ってBB

混合 液 と接 触 して い る と考 えて よい.左 側 臥 位

で 内視 鏡挿 入 と同 時 に空 気 が送 入 され るが,空

気 に よ る胃壁 の伸 展 に よっ てBB混 合 液 は主 と

して 胃体部 大 弯 か ら穹 窿部 へ と移動 し,胃 体 部

大弯 と穹 窿部 を除 く粘 膜 面はBBと の接 触 を断 た

れ る.粘 膜面 とBBと の接 触 断 絶が 内視 鏡 観 察

時 にお け る粘 膜 面 の経 時 的褪 色 と密 接 に 関係 し

て い る と考 え られ たが,な お詳 細 に関 して は 第

2編 に お い て検 討 を試 み た い.

高 度 の 腺 萎縮 を伴 った 腸上 皮 化生 粘 膜 で は,

直視 鏡 を用 い た近 接 観 察 に よ り胃小 溝 の 可視 化

が可 能 で あ った13).本 法 を除 く従 来 の非 拡大 コ

ン トラ ス ト法3),14),15),16)では,胃 小 区 よ りも微 細

な粘 膜模 様 を観 察 した報告 は な く,本 法 に お け

る 胃小 溝 の可 視 化 は重 視 され るべ きで あ り,特

に本 法 がGIF-P2(P3)な どの細 径 直視 鏡 を用 い

た観 察 に適 して い る こ と を強調 した い.

コ ン トラ ス ト法 の短 所 と して 「血 管像 が み に

くい」 とい う指 摘 が あ り17),ま た井 田 ら18)はイ

ンジ ゴ カル ミン法(以 下IC法)で 血管透 見像 が

強調 され た こ とは な か っ た と報 告 して い るが,

BB法 の 前処 置 を行 っ た後cold lightを 用 いたフ

ァイバ ー ス コー プで 観察 す る と,血 管 透 見像 は

む しろ強 調 され る傾 向が 認 め られ た.

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598 依 光 幸 夫

色 素 内視 鏡 に関 す る過 去 の 文 献 を検 索 した 結

果,橋 本 ら15)がIC法 にお いて 「異常 発赤 」とい

う表 現 を用 い て い たが,こ の際 の 「異常 発 赤 」

は癌 巣 所 見 の 記述 用 語 で あ り,癌 巣 を特 徴 的 な

色 の領 域 と して とら えた報 告 は 見 出 され なか っ

た こ とを指 摘 してお きた い.

2.病 変 診 断 に関 して

A.胃 癌 診 断 に おけ るBB法 の 利 点

1)"R"の 所 見 と癌 浸 潤 範 囲 につ い て

"R"の 所 見 は早 期癌 の大 部 分,進 行 胃癌 の ほ

ぼ1/2,良 性 潰瘍 お よび び らんの 極 く一 部 に お い

て認 め られ た が,癌 巣 に お いて 観 察 され た"R"

(以下 癌 性"R"ま た は単 に"R")の 色調 は単 に「赤

い」 の では な く,第 一 の特 徴 は 「明調 」 であ り,

病 変 に よ って は 「白色 調」 と表 現 して よ いほ ど

明 るか った.第 二 に,そ の 明調 発 赤 は単 調 な色

調 で は な く,詳 細 に観 察 す る と,そ の 中 に 白色,

淡青 色,黄 橙 色 な どの 微 細 な点 状 あ るい は短 線

状 の色 調 差 が 混 在す るの を認識 す る こ とが で き

た.第 三 に そ の領 域 内に粘 膜下 血 管 を透 見す る

こ とは稀 であ っ た.こ の よ うな癌 性"R"の 微 妙

な 色調 差 は 癌 性粘 膜の 微 細 構造,血 管 分布,分

泌動 態,血 漿 由 来 の成 分 の 寡 多等 と関 係 して い

る もの と推 測 され,現 在 そ の検 索 が 進 行 中 で あ

り,検 索 した成 績 の一 部 は 第2編 にお い て述 べ

る予 定 で あ る.

"R"の 範 囲 と癌 の組 織 学 的 浸潤 範 囲 との一 致

率 に 関 し良 好 な 成 績が 得 られ た と考 えて い るが,

と りわ け通 常 内 視 鏡 観察 では病 変 の局 在 確 認 が

困難 で あ っ た,浅 いIIcお よび 典 型IIbがBB

法 で は"R"と して 明 瞭 に とら え られ,し か も"R"

の 境 界部 が 組 織 学 的 に癌 ・非癌 境 界部 で あ る こ

とが証 明 さ れ た19),20).以上 の こ とは,早 期癌 に

関 す る限 り, "R"の 境 界線 が 組 織 学 的 な癌 の 浸

潤 範 囲 と極 く近 接 して い る こ とを裏 付 け た もの

であ る と考 え られ た.

なお,本 研 究 におけ る対 象病 変 の 中 に隆 起 型 主

体 の早期 癌は数 例 を含 むのみ であ り,症 例 が 少 な

い ため にBB法 におけ る隆起型癌 の 色調 お よび 所

見 を詳 細 に検 討 す る こ とが で きなか った,隆 起

型 癌,腺 腫,良 性 ポ リー プ 等 の色 調 と所 見 お よ

び それ らの対 比 に関 して は,今 後 さ らに研 究 を

す す め 検討 した い と考 え て い る.

2)進 行癌 に おけ る"R", "B"の 意 義

癌 の 深 達 度 が増 す につ れ て"B"の 所 見 を もっ

た癌 巣 が 増加 して くる こ とは成 績(Figure 5)に

示 した如 くで,進 行 癌 の 約45%が"B"の 所 見 を

備 え て い た.し か し,癌 巣 内 の主 要 部 分 す なわ

ち陥 凹部 の み に つ い て検 討 す る と, 69.0%(20/

29)が"B"の 所 見 を呈 し,陥 凹 型進 行癌 の陥 凹

部 の み の観 察 で は"B"の 頻 度 が 著明 に 増加 し良

性 潰瘍 にお け る"B"の 頻 度 に か な り接近 した.

視 点 を変 え,進 行 癌 の陥 凹 部 に接 して連 続 的 に

拡 が る比 較 的 表 在性 の随 伴癌 巣 の有 無 を検 討 す

る と, 96.6%(28/29)に お い て表 在 性 の 随伴癌

巣 の拡 が りが 存 在 した.し か も,こ の 随伴 癌 巣

の96.4%(27/28)に お い て"R"の 所 見 が 認め ら

れ た.こ の事 実 は 内視 鏡 形 態 学 的 に質 的 判定 の

困難 な陥 凹性 病 変 の 臨床 診 断 に 際 して,随 伴 性

発赤 領 域(随 伴 性"R")に 対 す る着 目 と同部 に

対 す る狙 撃 生検 の重 要性 を示 唆 す る もの と解 釈

され た.ま た,随 伴 性"R"の 生 検 に よ り,組 織

学 的 に癌 が 証 明 され た病 変全 体 の 総 合 内視 鏡判

定 が"B"で あ る と き,た とえ その 癌 巣 が従 来 の

内視鏡 診断 学 の 診 断基 準 に よっ て 「早期 癌 」 と

診 断 され た場 合 に お いて も,な おす で に 「進 行

性 の癌 巣」 で あ る可能 性 が か な り高 い こ とを示

唆 す る所 見 で あ る と理 解 され た.

B.良 性 潰瘍 につ い て

病 期 がA, H, S期 の 合 計226回 の良 性 潰瘍 の

観察 で"R"と 判 定 され た 発赤 が 認 め られ た例 は

4.9%と 低 頻 度 で あ り, "R"の 出現 はH期 か あ

るい はS期 に 限 られ てい た.ま た,経 過 観 察 中

に 同一 症 例 で2度 に わ た って"R"が 認 め られ た

例 は なか った.従 っ て,臨 床 の場 にお い て"R"

に対 す る生 検 結 果 が 陰性 の 場 合 に は,適 当 な間

隔 の 後再 度 色 素 内視 鏡検 査 と生 検 を行 えば癌 の

除 外 目的 は達 せ られ る と考 え られ た.

再 生 上 皮面 の拡 大 内視 鏡観 察 に よ って 巾30な

い し90μ の 白線21)が 観 察 され るが, GIF-P2に よ

る観 察 で 潰瘍 辺 縁 に認 め られ た 白線 は 拡大 内視

鏡 観 察 に お け る 白線 と同 一 の もの と考 え られ,

組織 学 的 には 腺 窩 をは さん で対 面 した二 層 の腺

窩上 皮群 を粘 膜 に 垂 直 な方 向 か ら観 察 した時 に

認 め られ る所 見 で あ る と考 え られ,現 在検 索 を

進 め て い る とこ ろ であ る.

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ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究 599

C.良 性 び らん につ いて

び らん はWalk22),広 門 ら23)の 分 類 に よれ ば

平 坦 な もの と隆 起 した もの に分 け られ るが,い

ず れ の型 の び らん も前 述 の 如 く 「紅 暈 を伴 った

青 色の 点 あ るい は面 」 と して観 察 され たの で,

この所 見 を重 視 し,び らん の 「基 本像 」(basic

image)と 呼 ぶ こ とに した.そ して,基 本像 か

ら逸脱 した所 見 を有 す る粘 膜内 小 欠損 部 に対 し

ては十 分 な注 意 が払 われ るべ き もの と考 えた.

なお,比 較 的広 い発赤面 の 中に複数 の青 色点(面)

が存 在す る所 見 は,複 数 の び らんの 近接 集 簇 像

す なわ ち,基 本 像 の 融合 と理解 され た.

"R"の 所 見 を認 め た び らん の 頻度 は0.7%と

極 め て低 か っ たの で,全 例"R"の 所 見 を認め た

ヒダ集 中 を伴 わ ない粘 膜 内癌 との 鑑別 は容 易 で

あ った.こ の こ とは粘 膜 内 小陥 凹 性病 変 の 内視

鏡 的鑑 別 法 として のBB法 の有 用性 を強 く支持

す る もの で あ る と考 え られ た.

結 論

1.新 しい色素 剤BBを 用 い た 胃の色 素 内視

鏡 検査 法 「ブ リ リア ン トブ ルー 法」 を考 案 した.

2.本 法 は 間接 法 色 素 コン トラス ト法 に 属 し,

方 法の 特徴 と して色 素 剤 をあ らか じめ 前 処 置 液

の 中に 溶解 した.

3. 1回 の 検査 に用 い る色 素 量 は前処置 液120

mlに 対 して100mgと 定 め た.

4. BB水 溶 液 は水 素 イオ ン濃 度 に よ り青 〓

緑 と変色 し,内 視 鏡 下観 察 に お い て 胃粘 膜 表面

のBB水 溶 液 が緑 色 調 を示 した 緑色 調 群 に お い

て, MAは98±27mEq/l, MAOは9,7±7.0

mEq/hr,空 腹 時血 清ガ ス トリン値 は67±35pg/

mlで あ った.一 方,青 色 調 を示 した 青 色調 群 に

お いて, MAは33±28mEq/l, MAOは2.0±

2.6mEq/hr,空 腹 時血清 ガ ス トリン値 は126±

73pg/mlで あ り,両 者 の値 の 間 に それ ぞ れ 有意

差 が認 め られ た.

5.本 法 に よ る観 察 で,粘 膜 表 面 に露 出 した

癌 巣 は 「境 界鮮 明 な発 赤領 域("R")」 を呈 す る

こ とが 多か った. "R"の 発 現率 はmの 早期癌(20

病 変)で100%, smの 早期 癌(18病 変)で88.9%,

進 行 癌(29病 変)で55.2%で あ った.

6.良 性 潰瘍 に お いて は,潰 瘍 底 に一 致 して

明調 の青 色 着 色("B")が あ り, "B"の 発現 率 は

活動 期 お よ び治癒 過 程 期 潰瘍 に お い て96.6%,

瘢 痕 期 潰瘍 に おい て0%で あ った.良 性 潰瘍 にお

け る"R"の 頻 度 は,活 動 期 お よび治 癒過 程 期 潰

瘍 で3.4%,瘢 痕 期 潰瘍 で5.8%と 低 か っ た.

7.良 性 び らんは 「紅暈 を伴 った青 色の 点 あ

るい は面 」 と して観 察 され るこ とが 多 く, "R"

あ るい は"B"の 判 定 で は99.3%が"B"に, 0.7%

が"R"に 属 した.

8.本 法 に よ る初 回内視鏡 検査 で, 6×9mm

(m, tub1)の 典 型IIbが 摘 発診 断 され,本 法 で摘

発 診断 され た最 小癌 巣 は2.5×5mm(m, tub1)

の微 小IIcで あ っ た.

本稿の要 旨は,第19回 日本消化器 内視鏡学会 中国

四国地方会,第15回 同学会秋季大会,第20回 同学会

中国四国地方会,第4回 世 界消化器 内視鏡学会(マ

ドリッ ド, 1978年),第16回 日本消化器 内視鏡学会秋

季大会,第23回 同学会 中国四国地方会,お よび第25

回同学会総会にお いて発表 した.

稿 を終え るにあた り,御 指導御校 閲 を賜 った恩師

木村郁郎教 授に深甚な る謝意 を表す るとともに,直

接指 導いただいた高知 県立中央病 院副院長 ・消化器

科部 長内 多嘉具博 士な らびに岡山大学三朝温泉研 究

所 内科原田英雄教 授に深謝いた します.ま た,本 研

究 の機会 を与えて くだ さった高知 県立中央病 院長 近

藤慶 二博士,同 前院長 故藤井 昌富博 士,な らびに病

理組織学 的検 索において御助 言 くだ さった同臨床検

査科 ・癌研 究所所 長岩 田克美博 士に感謝いた します.

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600 依 光 幸 夫

文 献

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ブ リリア ン トブ ルー を用 い た色素 内視 鏡 検査 に よ る 胃粘 膜 病変 の臨 床 的研 究 601

消 化 管 の 癌 に対 す る色 素 内視 鏡 検 査(竹 本 忠 良,川 井 啓 市,井 田和 徳,鈴 木 茂 編),医 学 図書 出版(東 京),

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附 図 説 明

Figure 6. Colour shift (from blue to green) of a Brilliant-Blue solution according to hydrogen ion

concentrations ranging from 10mEq/l (right) to 100mEq/l (left).

Figure 7. A benign gastric ulcer in the active stage. Base of the lesion appears deep blue.

Figure 8. A benign gastric ulcer in the healing stage with a wide band of regenerative epithelium

(erythematous) surrounding the blue base of the ulcer.

Figure 9. Coarse granular surface of regerative epithelium with red spots scattered on it (a close

view with Olympus GIF-P2).

Figure 10. A II c-type mucosal cancer lesion (well-differentiated) of 6 by 8mm in size on the lesser

curvature of the antrum, visualized with GIF-S3 (Lesion 15).

Figure 11. Benign erosions near the pylorus on conventional endoscopy (left), and the same lesions

on direct spraying of a 0.05% Brilliant-Blue solution under endoscopic vision with GIF-P2

(right).

Figure 12. Two benign gastric erosions: an elevated type (left) and a flat type (right), each erosion

appearing blue with an erythematous halo.

Figure 13. Two II c-type mucosal cancers of poorly-differentiated adenocarcinoma (left) and

signet-ring cell carcinoma (right), visualized with GF-B2 (Lesion 1 and 2).

Figure 14. A II b-type mucosal cancer (well-differentiated) of 6 by 9mm in size, visualized with

GTF-S2 (Lesion 9).

Figure 15. An endoscopic view of a II a-type mucosal cancer (Lesion 7) with GTF-S3 (bottom), and

the gross appearance of the same lesion after surgical resection and fixation with 10%

formalin (top).

Figure 16. A III+IIc submucosal-type cancer (Lesion 22): the blue base of the depressed lesion is

devoid of cancerous tissue; small foci of mucosal cancer (well-differentiated) are located on

the edge; and massive submucosal infiltration extends beneath the normal-appearing

mucosa.

Figure 17. Chromo-endoscopic image shifts with the passage of time in two lesions of IIc-type

gastric cancer: one lesion is visualized as "well-demarcated redness" (left top), the other is

clearly visualized in 5min. of observation (left bottom); part of the edge of the former is

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602 依 光 幸 夫

beginning to fade in 15min. (right top), and edges of both lesions are fading in 30min.

(right bottom).

Figure 18. Extent of mucosal infiltration (papillary adenocarcinoma) in the case of Figure 16.

Figure 19. Schema of sectioning of the cancerous lesion shown in Figure 17, arrows indicating

small foci of mucosal infiltration.

Figure 20. A photomicrograph of the cancerous tissue (under bar) at the site pointed by the left

arrow on Section No. 8 (Figure 19) (11•~).

Figure 21. A small benign gastric ulcer, 3mm in diameter (arrows), on the anterior wall at the

level of the gastric angulus which appears blue in Brilliant-Blue chromo-endoscopy.

Figure 22. The same lesion as shown in Figure 21. A low-power photomicrograph of a benign

ulcer in the active stage (Ul-II) (7•~).

Figure 23. A resected and fixed specimen of the healing-stage ulcer, identical with that in Figure 8.

Figure 24. A photomicrograph showing. regenerative epithelium (under bar) on the section along the

bar indicated by an arrow as shown in Figure 23.

Figure 25. A IIc-type mucosal cancer located near the lesser curvature in the proximal antrum,

the smallest cancerous lesion detected by Brilliant-Blue chromo-endoscopy.

Figure 26. The same lesion in the resected stomach as shown in Figure 25. The gross appearance

of well-differentiated tubular adenocarcinoma (mucosal type) of 2.5•~5mm in size.

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ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究 603

依 光 幸 夫 論 文 附 図

Figure 6 Figure 7 Figure 8

Figure 9 Figure 10 Figure 11

Figure 12 Figure 13 Figure 14

Figure 15 Figure 16 Figure 17

Page 18: ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査 による胃粘膜病 …...ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究

604 依 光 幸 夫

依 光 幸 夫 論 文 附 図

Figure 18 Figure 19 Figure 20

Figure 21 Figure 22 Figure 23

Figure 24 Figure 25 Figure 26

Page 19: ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査 による胃粘膜病 …...ブリリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究

ブ リリアントブルーを用いた色素内視鏡検査による胃粘膜病変の臨床的研究 605

Clinical studies on a new method of chromo-endoscopy with brilliant blue

in the diagnosis of gastric cancer lesions

Part 1. Studies on endoscopic findings of colouring in gastric

mucosal lesions.

Yukio YORIMITSU

Second Department of Internal Medicine, Okayama University Medical School

(Director: Prof. I. Kimura)

This report is concerned with clinical studies on a new method of chromo-endoscopy

with Brilliant Blue (Food Blue No. 1) (abbreviated as BB). In the indirect method, the

pretreatment consists of an intramuscular injection of 4mg of Butropium bromide, followed

by the patient swallowing a solution of BB and then a second injection of Butropium, after

which an endoscopic examination is performed. In the direct method, the pretreatment

consists of an intramuscular injection of Butropium followed by the patient swallowing a

pretreatment solution without BB. In the latter method, a 0.05% BB solution is sprayed

over the gastric mucosa through a cannula during the endoscopic observation. The

following conclusions were obtained. Most of the cancerous lesions of the mucosal and

submucosal type appeared reddened, whereas most of the bases of benign ulcers and

erosions appeared blue. Thus, this method proved to be useful in the differential diagnosis

of gastric cancer and benign gastric ulcer or erosion. In addition, its usefulness was

enhanced by such features as brightness of viewing, good visualization of the mucosal

surface through the dye solution and excellent quality of photographs. The indirect

method proved to be superior to the direct method.

The optimum concentration of BB dye in the indirect method was 100mg per 120ml for

the pretreatment solution. BB dye appeared green in solutions containing more than 70

mEq/l of hydrogen ions, both in vitro and in vivo. It appeared green in stomachs with

maximal acidity of 98•}27mEq/l (n=25), and appeared blue in those with maximal acidity

of 33•}28mEq/l (n=13) (p<0.005). The above-mentioned amount of BB dye used for this

procedure is within the acceptable daily intake determined by WHO in 1969 for BB as food

colour.