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エンゲージメントファンドの近時の動向
ーなぜ今、エンゲージメントなのかー
日本IRプランナーズ協会・セミナー 2013年2月14日
明治大学 三和裕美子
投資家によるエンゲージメントとはなにか?
• 長期株式保有者による企業への関与
• 議決権行使に止まらず、直接対話などを含む概念として認識される。
• 国連責任投資原則によって広く認識されるようになる。
↓
分散型株式所有者(Passive運用)
集中型株式所有者(Active運用) 企業と投資家
の双方がESG
の課題解決に向けて
行動することをめざす
投資家のエンゲージメント
Martin,R.Casson,D.C.and Nisar,M.N.,
Investor Engagement,Oxford(2007)は、
エンゲージメントとは、投資家の発言権を行使して、直接的且つ柔軟に経営者の規律付けを可能にするものと定義し、株式の売却やその脅威によって規律付けを行うような伝統的なコーポレート・ガバナンスのパラダイムと対照的なものとして位置づけている。
なぜエンゲージメントなのか?
効率的市場仮説の限界
• 完全な効率的市場においては、「株価にすべての情報が織り込まれている」と考える。企業は「契約の束」であり、資本家や会社支配をしている経営者の存在を考慮することは意味がない。すなわち、現在は伝統的な資本主義や経営者支配の資本主義(Berle&Means)の段階ではなく、株主(株価)資本主義である。さらに言えば、投資家資本主義ということもできる。
• 金融経済のコペルニクス的転換→会社が中心ではなく、株価がすべての中心となる。
• コーポレート・ガバナンスは、会社経営者を規律づけるための内部・外部的牽制手段であり、 究極的には株価にその役割が収斂されてきた。
• すなわち、経営者が株主の利益に注目するようなシステム/メカニズムである。
• 会社役員(エリート)は、封建的な階級(feudal nobility)でもないし、本人(principal-agent)である株主に無関心な存在でもない。彼らは株式市場の自発的な僕である。
(参考:C.W.ミルズ(C.W.Mills, 1916-1962)
「パワーエリート」)
• 会社は有形の機関ではなく、株主価値を創造するための「契約の束」である。(参考:Ronald H. Coase “Nature of the firm”)
• 効率的市場仮説はこれらの理論的バックグラウンドであり、新しい理論は株主資本主義の実践的ガイドとなり、道義的合理性を与えた。→他のステークホルダーよりも株主の利益を考えることの合理性。株主価値を極大化させる経営を行えば、社会的責任も果たすことができる。(Milton Freedman)
• 問題点:経営者は四半期毎に評価される。そのため短期的な株主価値向上経営を行いがちである。今日長期的観点からの社会的責任について問われている。
• この理論は、企業と政策立案者に対して、多大な影響を及ぼした。
• 企業行動の評価が株式市場で行われる。企業は株価の反応をみて、その行動を迅速に変化させることができる。市場の判断は正しい(と考えられている)。
• 政策立案者にとっては、企業支配(会社支配)は、絶対的なものではなく、競争市場にさらさらされるべきであるという論点を提供する。
• 「株主価値」という主義の拡大を通しての「一時的救済」を、キリスト教の布教を通じた「永遠の救済」に例えている。
1970年代に合理的市場仮説に対する疑問が、反主流派の経済学者やファイナンス理論の研究者たちからあがる。
ウォーレン・バフェット→プロの投資家は全体として市場平均を上回ることを期待できないとうだけでは、市場に打ち勝てるプロの投資家はいないという結論にはならない。
• 最大の難題は、私たちの社会が、どのような役割を金融市場に期待する(与えるべきか)、ということである。過去30年間、合理的市場の理論に裏打ちされた答えは、市場にさらに大きな役割を与え、政府や企業などのほかの機関をわきに押しやることだった。だが、私たちは転換期にさしかかっているようだ。合理的市場理論が崩壊しているだけではない。金融市場もまた、崩壊しているからである。
『合理的市場という神話』396頁より
持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則
21世紀金融行動原則(2011)
日本のコーポレート・ガバナンス改革
(機関投資家の動き)
•2003年 企業年金連合会
「議決権行使基準」発表
•2006年 ROE数値目標を発表 *10%以上であることが望ましい。過去3期連続してROEが8%を下回る企業については、取締役選任議案について慎重に検討する
↓
2010年 ROE数値目標項目を削除
海外機関投資家からの圧力
• 2008年 ACGA (Asian Corporate Governance Association)
• 「日本のコーポレート・ガバナンス白書」作成
• 2009年 「日本のコーポレート・ガバナンス改革に関する意見書」→独立取締役、議決権行使結果の開示などを提言 *東証:「独立役員」提出を制度化
*金融庁:「企業内用の開示に関する内閣府令」コーポレ
-ト・ガバナンスに関する開示強化、議決権行使結果の開示
• 2010年 法務省 法制審議会 会社法部会に対する意見書
• 2011年11月 金融庁、東京証券取引所に、オリンパス上場維持を要請
• 2012年1月 金融庁に意見書、社外取締役の独立性などについて
海外投資家の視点
• 1980年代後半から→議決権行使により「ものを言う株主へ」、闘争から対話へ
• 2000年代半ば以降→エンゲージメント
*議決権行使だけでは不十分
*ESG(環境、社会、ガバナンス)へのフォーカス、機関投資家の行動を促す
*2004年 米国SEC FormN-PX
*2006年 国連責任投資原則
*2010年 英国「スチュワードシップコード」
SRIの観点からのエンゲージメント
SRIの運用形態
・1)ソーシャル・スクリーニング
→Negative & Positive
・2)株主行動→対話型&対決型
・3)ソーシャル・インベストメント/ファイナンス
→①地域開発投資、②社会開発投資、③社会的に責任ある公共投資・開発投資
エンゲージメントは機能するか?
受益者のための利益最大化義務 責任投資原則
社会的に望ましい状況の実現?
社会的に望ましい情況の実現!
EXIT
エンゲージメント
エンゲージメントの5タイプ
•間接的・・・伝統的なパラダイム。資金のひきあげ
•外部・・・市場を通したコントロールメカニズム。株主
決議を通して行う
•内部・・・企業の内部ガバナンスに影響をあたえる。社外取締役の任命などに影響
•交渉・・・企業経営者とともに、企業戦略や経営上の問題について議論(リレーショナルファイナンス)
•直接的・・・支配的な株主によって、経営者の雇用を通して経営をコントロール
機関投資家を取り巻く環境の違い
規制 ・年金基金、保険会社、投資信託は規制が多い
・ヘッジファンド、プライベートエクイティは規制がほとんどない
持ち株比率 ・持ち株比率が引くい場合には、エンゲージメント効果が得られない
・企業経営者に与えるプレッシャーも限定的
投資のタイプ 分散投資/集中投資
・投資先が多ければ、モニタリングコストがかさむ
・相対的なベネフィットが減少
投資ホライズン
短期/長期
・ヘッジファンドは短期的、年金は長期的
ファンドマネージャーの報酬設計
・ファンドの規模やパフォーマンスの一定割合にリンク
・ヘッジファンドやPEファンドはファンドの収益にリンク
エンゲージメント手法
欧米機関投資家のケース
• 運用担当者から企業に対し、レターを送付
• IR担当者(経営者)との対話(電話会議や対話)
• 社内協議(取締役会など)
• 株主総会での決議
• レター内容に関するコミットを宣言
スウェーデンのEthical Councilの事例
• スウエーデンの公的年金(AP基金)のうち、AP1~AP4(運用
総額約10兆円)の年金基金が中心となって、投資対象の環境問題や倫理的問題を解決することを目的として設立された組織。
• 2011年に行われたエンゲージメントは126件。
• エンゲージメントのテーマ:贈収賄、労働の権利、健康と安全、環境、人権、総合的な持続可能性戦略
• エンゲージメント対象企業セクター:エネルギー、原料、技術、IT・通信など
• エンゲージメント対象企業地域:アジア、ヨーロッパ、北米
エンゲージメント事例
• ブリジストン:リベリアでのゴム農場における児童労働問題→
児童労働問題の未然防止に関する具体的な指標化、児童労働の問題を予防するための精緻な調査の実行
• Chevron:エクアドルにおけるアマゾン森林地域での環境破壊→環境ガイドラインの強化、採掘などの事業活動によって生じる特定の汚染問題解決のための技術利用
米株主提案から見たエンゲージメント内容
• CG提案(経営者報酬、ポイズンピル、取締役選任、投票システム、取締役候補者、株主の権利、取締役会の独立性、取締役のリーダーシップ、取締役報酬、監査人の独立性、ストックオプション関連、経営戦略、取締役会のガバナンス、配当関連)
• CSR提案(国際的労働基準、雇用均等、雇用を守る、公害・リサイクル、公衆衛生、気候変化、遺伝子組み換え、軍隊・暴力、タバコ関連、寄付、地域への影響、北極の掘削、人権、CSR報告書、製品の安全性、核、動物実験、AIDS,銀行・保険、貧困国への救済)
• クロスオーバー提案(倫理問題に絡んだ経営者報酬、ストックオプション、年金、取締役会の多様性、企業福利)
アクティビストファンド
• イベント・ドリブン型のヘッジファンドの一種。
• 投資対象は値ごろ感(割安)のある上場企業。
• アクティビスト、ものいう株主として事業提案を行うなど、経営陣に積極的に働きかける。
• 経営破綻、事業再生などのイベントを利用して収益を得る。バイアウトファンドとの違いは、バイアウトファンドは株式の50%以上を保有するが、アクティビストファンドは数%から20%程度保有するところにある。
• 代表的なものに、村上ファンド、スチールパートナーズ、
TCI(The Children’ s Investment Fund)などがある。
ヘッジファンド・アクティビズムの内容
ヘッジファンド・アクティビズムの効果
• スケジュール13D( いわゆる5%ルール)書類がSECに提出された後の株価パフォーマンスの検証:累積超過リターンが検証されている。
• ヘッジファンド・アクティビズムとROAとの正の相関が検証されている。
• ヘッジファンド・アクティビズムは、相対的に高いリターンを獲得しており投資戦略の一環として位置づけられている。
↓
• 少数の限定された企業の株式を保有し、企業に対して様々な変革を求めていく。ヘッジファンドは分散投資義務を負わないため、一極集中型投資、すなわちアクティビズム型投資から超過リターンを得ていると考えられるが、今後同様な戦略をとるファンドが多数出現し、競争が激化すればそのパフォーマンス効果は不透明。
ヘッジファンド・アクティビズムの問題点
• ヘッジファンド・アクティビズムは既存の株主、その他のステイクホルダーと利害対立を生む可能性がある。
• FOHFsを通して年金資金がヘッジファンドに流入する構造により、年金受給者とヘッジファンドとの利害対立が表面化しないことも問題である。
• ドイツではヘッジファンドの短期的投資やステイクホルダーに配慮しない投資戦略について批判が強まり、2007年の主要国サミットでは「ヘッジファンド規制と市場の透明性」が主要議題となった。
• 空議決権(経済的持分なしの議決権行使)、それによって起こる利害衝突が今日大きな問題となっている。 こうしたヘッジファンドの活動は、大量保有報告制度等に基づく開示を行うことなく、企業株式に対する一定の権益を取得し、複数のファンドが共同で企業に対して攻勢をかけ、自らの要求を実現させる「ウルフパック(群狼戦術)」として話題になっている。
*ウルフパック戦術の語源は、第二次世界大戦中にドイツ群などにより行われた、複数の潜水艦が偵察機から送られてきた情報から進行方向を予測し予測海域で待ち伏せをして、相手を撲滅させる作戦から来ている。
まとめにかえて
• エンゲージメントとは市場の合理性に疑問をもつ投資家行動
• もともとはSRI投資の投資手法
• ヘッジファンド等の短期的投資家も運用収益の低迷からエンゲージメントを行うようになる
• 長期的なエンゲージメントファンドとアクティビストファンドは規制、投資戦略、報酬体系など異なる点が多いことから区別して考えるべき