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材料のマルチスケールモデリング 巨視的な力学特性 微視組織・微視構造 マルチスケール解析 機械材料の強度や剛性などの巨視的な力学特性は,微視組織や結晶構造等の微視的な特徴 に大きく依存する.そのため,機械構造物の設計を行うためには,材料の種類だけではなく,微 視的な特徴も詳しく知る必要がある.しかしながら,結晶構造や粒界構造などは原子スケール になり,顕微鏡では観察できず,微視組織は観察できても,それらをうまくコントロールする手 法までは開発できない.そこで,本研究室では,このような微視的な特徴と巨視的な特性を,計 算機シミュレーションで解明し,よりよい材料の開発につなげるための研究を行っている. 連続体力学 有限要素モデル 結晶構造・粒界構造 分子動力学モデル 微視構造・微視組織 フェーズフィールドモデル

材料のマルチスケールモデリング - Yamagata University材料のマルチスケールモデリング 巨視的な力学特性 微視組織・微視構造 マルチスケール解析

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Page 1: 材料のマルチスケールモデリング - Yamagata University材料のマルチスケールモデリング 巨視的な力学特性 微視組織・微視構造 マルチスケール解析

材料のマルチスケールモデリング

巨視的な力学特性 微視組織・微視構造

マルチスケール解析

機械材料の強度や剛性などの巨視的な力学特性は,微視組織や結晶構造等の微視的な特徴に大きく依存する.そのため,機械構造物の設計を行うためには,材料の種類だけではなく,微視的な特徴も詳しく知る必要がある.しかしながら,結晶構造や粒界構造などは原子スケールになり,顕微鏡では観察できず,微視組織は観察できても,それらをうまくコントロールする手法までは開発できない.そこで,本研究室では,このような微視的な特徴と巨視的な特性を,計算機シミュレーションで解明し,よりよい材料の開発につなげるための研究を行っている.

連続体力学有限要素モデル

結晶構造・粒界構造分子動力学モデル

微視構造・微視組織フェーズフィールドモデル

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圧縮加工による結晶粒微細化

多結晶材料に大きな圧縮負荷をかけると,結晶粒が微細化し,一般的には強度が上昇する.この図は,圧縮変形に伴う結晶粒微細化を分子動力学法でシミュレートした結果である.正方形をした結晶粒が変形し,新たな粒界が形成されて微細化する様子が再現されている.

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降伏・塑性変形機構

Bz2, 48200step

Bz1, 45400step

Az3, 54000step

Az2, 53200step

Az1, 50600step

Bz3, 51600step

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

20000 30000 40000 50000 60000

Az1Az2Az3Bz1Bz2Bz3

Stre

ss σ

Time step k

Strain ε0 0.1

結晶粒界を含む多結晶モデルに引張り荷重を負荷すると,降伏して塑性変形がはじまる.分子動力学法で解析すると,結晶方位や粒界の構造によって降伏の様子が異なることがわかる.この図は,降伏や塑性変形の進展機構を詳細に観察し,その機構解明をめざした研究の一例である.

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すべり変形の観察

単結晶金属を引張ると,やがて降伏して塑性変形が開始し,くびれが生じて破断に至る.この過程を分子動力学で解析すると,塑性変形が生じるメカニズムとされるすべりが観察できる.この手法を用いて,より詳細な変形メカニズムの解明を目指している.

iii

iii, ivv

vi

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ナノ多層膜の引張り変形

計算結果(原子配置)

計算モデル(試験片)

計算結果(応力ひずみ線図)

厚さ数nmの薄膜を多層に積層したナノ多層膜の引張りシミュレーションである.材質の違いや積層順などで力学特性が大きく変わるとともに,塑性変形の様子も変わることがわかる.

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デンドライト形成

Phas

e fie

ld

1

Gra

in n

umbe

r12

0

0

凝固組織のひとつであるデンドライト成長をシミュレートした結果.a) 二元系合金のデンドライト組織と濃度分布,b) 多数のデンドライトから構成される凝固組織成長,c) 3次元のデンドライトモデル: 3Dプリンタでも出力しており,形状の特徴がよりよく理解できる.

a)

b)

c)

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多結晶組織形成

多結晶組織が形成される過程をマルチフェーズフィールドモデルとよばれる手法を用いてシミュレートした結果.a) ランダムな核生成から多結晶体が形成される過程,b) 凝固条件による結晶粒径の相違,c) 壁面などの核生成サイトがあるときの組織,d) 表面処理による改質,などが解析できる.

a)

b) c)

d)

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熱処理シミュレーション

鋼の熱処理過程では,高温のオーステナイト相から冷却することで,急冷箇所は硬いマルテンサイト,徐冷箇所は強いパーライトに変態する.このような相変態過程を有限要素解析でシミュレートし,熱処理条件の最適化を図ることができる.a) 商用コード”COSMAP“を利用した歯車の解析例で,赤い部分がマルテンサイト,青い部分がパーライトとなっている.b) このようなマクロ解析において相変態の進行を表す式のうち,Johnson-Mehl-Avrami-Kolmogorov(JMAK) の式について,フェーズフィールド解析で検証した結果.これらをリンクして,精度向上を目指している.

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 200 400 600 800 1000

GN 30GN 60GN 120JMAK 30JMAK 60JMAK 120

Tran

sfor

mat

ion

fract

ion

x

Time step k

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変態塑性

Without load Under tension

応力下で相変態が起こるとき,通常の変態ひずみや熱ひずみに加え,過大な変形を生じることがある.これを変態塑性といい,熱処理過程での変形に大きく影響するが,そのメカニズムはまだ解明されていない.この図は,分子動力学モデルを用いてその解明を目指した研究の一例である.a) は,色表示の相に変態を段階的に起こしたときに周囲に塑性変形が生じるモデル解析,b)は,欠陥が基点となって塑性変形が発生するモデル解析結果である.

a) b)

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原子スケールの摩擦現象

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

123456

789101112

131415161718

Fric

tiona

l for

ce

(a) Frictional force

0.0

5.0

10.0

3000 6000 9000 12000 15000

Dis

plac

emen

t

(b) Displacement

Time step k

A B C D E

B D

4800

5200

4400

7600

7200

6800

c)

摩擦力は垂直抗力に比例し,速度や接地面接に依らない,というのがクーロン摩擦だが,そのメカニズムは未解明なことが多く残されている.また,マイクロ・ナノデバイスでは,マクロとは違う摩擦現象も知られている.そこでナノスケールの摩擦シミュレーションを行っている.原子スケールの表面にスライダーをすべらせると,はじめはstick-slip的な動きをみせ,その後滑らかな定常状態に近づく.表面とスライダーの原子配置がある程度乱れることで定常的になることがわかる.

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粒子充填構造

粒子充填構造は様々な分野で利用される.直接,構造物・構造体として利用される場合や,焼結や粉末冶金などの材料プロセスで利用されたりする.この場合,粒子充填の密度や構造が重要となる.図は,個別要素法を用いて粒子充填時に安定となる構造や形状をシミュレートした結果です.他にも,大きさの異なる粒子を混ぜると,大きな粒子がせり上がるブラジルナッツ効果のシミュレーションも行っています

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球面上の粒子充填

平面に同一半径の粒子を並べる際には,最も密になる並べ方はfcc構造の (111) 面の並びとなる.しかし,これが球面になるとどうなるか?という問題は完全な解はない.図は様々な粒径の粒子を充填したときにみられる構造をシミュレートしたものである.平面のときの6角形ベースに対し,球面になると5角形構造が不可欠となる.

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球面の領域分割

機械学会誌 (2018.3) LaboArt

平面を規則的な形状で分割するとき,正方形や正六角形で分割できるが,曲面になると簡単ではない.図は,フェーズフィールドモデルで安定形状を求める手法を応用し,球面の効率的な領域分割を求めた図である.局所的な境界面や三重点・4重点の構造が多様に見えるが,実は平面の三重点(120度)や4重点(90度)と共通性見られる.

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多面体構造

微視構造は,金属材料の微視組織のほか,様々な材料に見られる.例えば多孔体では,無数の空隙があり,それぞれの空隙(セル)の大きさや形状が,マクロな機能性に影響する.また,多孔体を作るとき,一つ一つのセルをすべて加工するわけにはいかず,自発的に形成される過程を利用するため,セル形状の安定性を調べることが重要となる.この図は,フェーズフィールドモデルを用いて,多面体構造が形成される過程をシミュレートしたものであり,多面体の幾何学的な特徴と表面エネルギーを関連付けた考察を進めている.

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凝着粒子のフェーズフィールドモデル

粒子モデルの計算は,基本的に粒子間の相互作用を計算する必要があり,接触状態の判定は,粒子間距離で判定される.そのため,距離だけでは表現できない接着・凝着などの性質が難しい.そこで,界面をうまく表すフェーズフィールドモデルと粒子モデルを融合したモデリングを勧めている.図は,凝着する粒子について,様々な設定を与えた計算例である.粒子間の表面特性によって,凝着したり分散したりする性質を再現できることを示している.

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最近の論文一覧

結晶粒微細化T. Uehara, "Molecular dynamics simulation of grain refinement in apolycrystalline material under severe compressive deformation",Materials Sciences and Applications, Vol. 8 (2017), pp. 918-93T. Uehara, "Molecular dynamics simulation of the variation in themicrostructure of a polycrystalline material under tensile load", KeyEngineering Materials, Vol. 748 (2017), pp. 375-380.塑性・降伏T. Uehara, "An atomistic study on the slip deformation mechanismof crystalline materials using a weak-plane model", AppliedMechanics and Materials, Vol. 197 (2012), pp. 2070-2075.ナノ多層膜T. Uehara, "Molecular dynamics simulation of tensile properties ofnano-layered materials", Advanced Materials Research, Vol. 741(2013), pp. 79-83.多結晶形成T.Uehara H. Suzuki, "Numerical simulation of homogeneouspolycrystalline grain formation using multi-phase-field model",Applied Mechanics and Materials, Vol. 197 (2012), pp. 2610-2614.T. Uehara, "Grain growth simulation of precipitated phase onsurface and evaluation of the residual stress distribution",Advanced Materials Research, Vols. 538-541 (2012), pp. 322-325.変態塑性T. Uehara, "A molecular dynamics study on the effects of latticedefects on the phase transformation from BCC to FCC structures",Materials Sciences and Applications, Vol. 10 (2019), pp. 543-557.T. Uehara, "Molecular dynamics simulation on transformation-induced plastic deformation using a Lennard-Jones model", KeyEngineering Materials, Vol. 626 (2015), pp. 414-419.T. Uehara, "An approach for modeling transformation plasticityusing a phase field model", Advanced Materials Research, Vol.320 (2011), pp. 285-290.

摩擦T. Uehara, "Molecular dynamics simulation of stick-slip friction on ametal surface", Applied Mechanics and Materials, Vol. 459 (2014),pp. 26-33.粒子充填構造T. Uehara, "Modeling and simulation of particle-packing structuresand their stability using the distinct element method", Open Journalof Modelling and Simulation, Vol. 6 (2018), pp. 59-70.MDシンポジウム (2018), M&M2017球面粒子充填MDシンポジウム (2016)球面領域分割T. Uehara, "Numerical simulation of a domain-tessellation patternon a spherical surface using a phase field model", Open Journal ofModelling and Simulation, Vol. 4 (2016), pp. 24-33.計算力学講演会(2017), 機械学会誌 LaboArt (2018.3)多面体形成T. Uehara, "Phase-field modeling for the three-dimensional space-filling structure of metal foam materials", Open Journal of Modellingand Simulation, Vol. 3 (2015), pp. 120-125.T. Uehara, "Numerical simulation of foam structure formation anddestruction process using phase-field model", Advanced MaterialsResearch, Vol. 1042 (2014), pp. 65-69.MDシンポジウム (2019),計算力学講演会 (2018)凝着PFT. Uehara, "Modeling of adhesive particles using a combination ofthe two-body interaction and phase-field methods", Open Journalof Modelling and Simulation, Open Journal of Modelling andSimulation, Vol. 8 (2020), pp. 35-47.計算力学講演会(2019),APCOM2019

全リスト http://uhlab.yz.yamagata-u.ac.jp/uehara_j.html