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組織科学 Vol.51 No. 2 : 74-89201774 【査読付き論文】 自 由 論 題 アウトバウンド型オープン・イノベーションの 促進要因 金間 大介(東京農業大学 国際食料情報学部 准教授) 西川 浩平(摂南大学 経済学部 准教授) キーワード オープン・イノベーション,外部組織,専有可能性,補完的資産,アウトバウンド .はじめに 企業は市場で求められる製品やサービス,およ びそれらの生産方法を生み出していく過程で, 様々な問題に直面する.これを解決することがイ ノベーション・プロセスの中核である(Nelson & Winter, 1982).そしてイノベーション・プロ セスでは,社会に広く分布している知識を活用 し,新たな知識を生み出していくことが必要であ る.有効な知識は,サプライヤー,ユーザー,大 学,競合他社,異業種の企業など,あらゆる外部 組織からもたらされる可能性がある(Laursen & Salter, 2006;Laursen, 2012). このような流れから,オープン・イノベーショ ンが高い注目を集めている.オープン・イノベー ションとは,「知識の流入と流出を自社の目的に かなうように利用して社内イノベーションを加速 するとともに,イノベーションの社外活用を促進 する市場を拡大すること」と定義される(チェス ブロウ,2008).近年の技術の移転コストの低下 がオープン化をさらに加速している.真鍋・安本 (2010)によると,その他にも高度教育を受けた 人の増加,専門的な人材の流動性の向上,ベンチ ャー企業の増加,政策的支援,製品のモジュラー 化,産業の水平分業化,ICT の進展による物理 的距離の短縮,プロパテント政策などがオープン 化を後押ししている.オープン・イノベーション は,すでに多くの企業の中核的な戦略となってい ると言える(von Hippel, 2005;チェスブロウ, 2007;Berchicci, 2013;Becker & Dietz, 2004). ただし,次節で見るように,技術や知識を外部 へ提供することの有益性は,売却等の有償の場合 を除き,外部知識を社内へ取り込むことに比べ疑 問視されており(Helfat,2006),逆に内部の情報 を公開するデメリットの方が目につきやすかっ た.しかし,最近になって,外部への技術提供の メリットや意図も少しずつ明らかになってきた. 例えば,大企業に比べ中小企業の方が不足しがち な内部リソースを補うべく,積極的に自社技術を 本稿は,どのような環境にある企業が自社以外の組織に技術 を提供しているかを,第 2 回全国イノベーション調査の結果 を用いて計量的に検証した.その結果,イノベーションの収益 化のための専有可能性として法的保護の有効性が高い企業ほ ど,また自社の補完的資産を把握している企業ほど,多様な外 部組織へ技術提供していることがわかった.さらに,市場環境 の変化が企業の技術提供に影響を及ぼしていることも明らかと なった.

アウトバウンド型オープン・イノベーションの 促進要因 · 組織科学 V 51 No. 2 : 74-89(2017) 74 【査き論文】 自 由 論 題 アウトバウンド型オープン・イノベーションの

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組織科学 V ol.51 No. 2 : 74-89 (2017)

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【査読付き論文】

  自 由 論 題

アウトバウンド型オープン・イノベーションの促進要因

  金間 大介(東京農業大学 国際食料情報学部 准教授)     西川 浩平(摂南大学 経済学部 准教授)

  キーワード

オープン・イノベーション,外部組織,専有可能性,補完的資産,アウトバウンド

Ⅰ.はじめに

企業は市場で求められる製品やサービス,およびそれらの生産方法を生み出していく過程で,様々な問題に直面する.これを解決することがイノベーション・プロセスの中核である(Nelson&Winter,1982).そしてイノベーション・プロセスでは,社会に広く分布している知識を活用し,新たな知識を生み出していくことが必要である.有効な知識は,サプライヤー,ユーザー,大学,競合他社,異業種の企業など,あらゆる外部組織からもたらされる可能性がある(Laursen&Salter,2006;Laursen,2012).

このような流れから,オープン・イノベーションが高い注目を集めている.オープン・イノベーションとは,「知識の流入と流出を自社の目的にかなうように利用して社内イノベーションを加速するとともに,イノベーションの社外活用を促進する市場を拡大すること」と定義される(チェス

ブロウ,2008).近年の技術の移転コストの低下がオープン化をさらに加速している.真鍋・安本

(2010)によると,その他にも高度教育を受けた人の増加,専門的な人材の流動性の向上,ベンチャー企業の増加,政策的支援,製品のモジュラー化,産業の水平分業化,ICT の進展による物理的距離の短縮,プロパテント政策などがオープン化を後押ししている.オープン・イノベーションは,すでに多くの企業の中核的な戦略となっていると言える(vonHippel,2005;チェスブロウ,2007;Berchicci,2013;Becker&Dietz,2004).

ただし,次節で見るように,技術や知識を外部へ提供することの有益性は,売却等の有償の場合を除き,外部知識を社内へ取り込むことに比べ疑問視されており(Helfat,2006),逆に内部の情報を公開するデメリットの方が目につきやすかった.しかし,最近になって,外部への技術提供のメリットや意図も少しずつ明らかになってきた.例えば,大企業に比べ中小企業の方が不足しがちな内部リソースを補うべく,積極的に自社技術を

本稿は,どのような環境にある企業が自社以外の組織に技術を提供しているかを,第 2回全国イノベーション調査の結果を用いて計量的に検証した.その結果,イノベーションの収益化のための専有可能性として法的保護の有効性が高い企業ほど,また自社の補完的資産を把握している企業ほど,多様な外部組織へ技術提供していることがわかった.さらに,市場環境の変化が企業の技術提供に影響を及ぼしていることも明らかとなった.

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外部提供する傾向にある(Motohashi,2008).また,大企業でもサプライチェーンの主導権を握るべく,他社との境界に集中投下した知財を無償あるいは安価で公開して,自社のビジネス・エコシステムに他社を巻き込む戦略が観測されている

(小川,2014).ただし,これらの主張に対しては,まだまだ実証的研究の裏づけが不足していると言える.

また,外部組織と連携する際には,企業は何らかの方法で自社の技術や知識を守る必要がある

(Cassiman&Veugelers,2002;Breschi&Lisso­ni,2001).企業は,外部組織の知識を得たり,あるいは外部組織と連携するために,ある程度の自社の知識をオープンにしなければならない.その一方で,秘匿すべき技術や知識については,競合他社にコピーされるのを阻止する必要がある.ここに,Lausen&Salter(2014)が指摘する“オープン化のパラドクス”が存在する.企業は,実現したイノベーションからの収益を確保するために,特許や意匠などによる法的な保護に加え,競合他社に先駆けての製品やサービスの市場投入,安易に模倣されないような製品設計の複雑化,製造技術や生産プロセスの徹底した秘匿などの方法を駆使することが求められる.

そこで本研究では,イノベーションからの収益化を実現する一方法である技術の専有可能性と,日本企業が取り得るオープン化の多様性との関係について,第 2 回全国イノベーション調査の結果を用いて計量的に検証する.一言で外部へのオープン化と言っても,その相手は一様ではなく,サプライヤー,ユーザー,大学,公的研究機関,競合他社など多岐に渡る.研究開発のオープン化がイノベーションの実現に対し正の効果があるとするならば,様々な組織において技術や知識の還流が活発になされることが望ましい.

ま た, 先 行 研 究 で は, 補 完 的 資 産 の 有 無(Nerkar&Roberts, 2004;西村・岡田,2013)や自社製品を投入している市場の変化の有無

(Fosfuri,2006;Arora&Fosfuri,2003)についても,オープン化の意思決定に影響を与えることが示唆されている.そこで本研究では,専有可能

性の他にこれらの要因も加え,どのような状況の時に外部への技術提供がより促進されるのかについて実証分析を試みる.

Ⅱ.理論的背景と仮説生成

1.研究開発のオープン化と専有可能性チェスブロウらによって示された,企業は外部

の知識をより戦略的に活用すべきという明確なメッセージは,学術的にも高い関心を集め,イノベーション研究に新しい流れをもたらした(チェスブロウ,2004;チェスブロウ,2007)1).近年では,イノベーション活動を高めるための外部知識探索の効果も多くの研究によって検証されている

(Laursen&Salter,2006;Grimpe&Sofka,2009;Garriga,vonKrogh,&Spaeth,2013).また,イノベーションの成果に対するサプライヤーやユーザー,大学などの組織とのコラボレーションの効果についても,先行研究は多くの実証を重ねている(Bayona,Garca-Marco,&Huerta, 2001;Becker&Dietz,2004;Cohen,2010;Leiponen&Helfat,2010;Okamuro,2007).

一方で,オープン化に対するデメリットや課題を主張する研究報告もある.その 1 つがオープン化の多様性と専有可能性の兼ね合いである(Lau­sen&Salter,2014;Dahlander&Gann,2010).外部との連携や自社技術のオープン化には社内で秘匿すべき知識が流出してしまうというリスクが存在する(Breschi&Lissoni,2001).特に企業は,コア技術に関する知識が競合他社に渡らないように注意を払わなければいけない(Cassiman&Veugelers,2002).この予期せぬ漏えいに対応すべく,企業は特許や意匠をはじめ様々な法的手続きを通して様々な防衛策を講じている(Grimpe&Hussinger,2014).

ある 1 種類の知財の活用は,その他の知財の活用を促す効果があると言われる(Gambardella&Giarratana,2013).例えば,特許権と同時に意匠権を取得したり,法的に権利化されない技術を別途ノウハウとして営業秘密化したりといった例は多い(Hussinger,2006).つまり,知財はただ 1

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つで機能するわけはなく相互補完性が認められる(Cohen,Nelson,&Walsh,2000).したがって,そもそも知財は研究開発の成果の一部にすぎないという指摘(Levin,Klevorick,Nelson,Winter,Gilbert,&Grilichers,1987)があるものの,上述したようなイノベーションの収益化に対する法的保護による専有可能性の効果は確認されてきた

(Arora&Gambardella,2010).ただし,このような法的な保護は完全ではな

く,特許等の書面による知識伝播のみならず,技術者の引き抜き(Fujiwara&Watanabe,2013)や,リバース・エンジニアリング(Hussinger,2006)などによって,いずれ有用な技術や知識はスピルオーバーしていくことになる.そのため,企業は自社技術の専有可能性を高めた上で,外部との連携の成果を最大化するために一定の技術や知識を自ら公開するというオープン化戦略を模索することになる(Perkmann&Walsh,2009).

2.オープン化の類型研究開発のオープン化には,大きく分けて 2 つ

の方向がある.1 つは外部の技術や知識を社内へ取り込み,社内リソースとの結合を図る方法で,インバウンド型オープン・イノベーションと呼ばれる(Chesbrough&Crowther,2006).インバウンド型の焦点としては,いかに効率的に外部知識を探索するか,いかに効果的に外部知識を社内に吸収するか,その際に必要な要件は何か,といった点が挙げられる.

もう 1 つの類型が,アウトバウンド型オープン・イノベーションである(Chesbrough&Cro­wther,2006).社内にある技術や知識について,社内に留めておくよりも外部へ普及させた方が価値が高まると判断した場合,企業は当該技術の売却,ライセンシング,無償公開などを選択する.このことによって何らかの利益を獲得する2).

インバウンド型の研究は,比較的豊富に蓄積されている.これは,外部知識の内部化やその効果については,必ずしもオープン・イノベーションの文脈で研究されてきたわけではなく,産学連携の実施,コンソーシアムへの参加,ユーザーとの

協業,ベンチャー企業の買収など,個別の研究領域において研究されてきた側面があるためである.

一方,アウトバウンド型の研究は,インバウンド型に比べ少ないことが指摘されている(Felin&Zenger,2014;Gassmanetal.,2010).その背景として,アウトバウンド型は,インバウンド型に比べ,必ずしも多くの企業でその有効性が認識されているわけではないということが挙げられる.そのため,アウトバウンド型の戦略にはどのようなアプローチが存在し,どのような要因がアウトバウンド型の意思決定に影響を及ぼしているのかはあまり明らかとなっていない(Roper,Vahter,&Love.,2013).

この課題に対し,Lichtenthaler の研究グループは,アウトバウンド型の成功要因や動機について一連の研究を実施・報告している(Lichtenthal­er, 2007, 2009, 2010;Lichtenthaler&Ernst,2007,2009).特に,技術や知識など,イノベーションからの収益化を実現する専有可能性については,技術取引などを主とする仲介ビジネスの活性化や,異業種等における間接的なイノベーションの促進につながる可能性があるとした上で,さらなる検証の必要性が主張されている(Lichten­thaler,2010).

今後さらにイノベーション活動のオープン化が多様化するとき,自社技術の専有可能性をいかにマネジメントするかは非常に重要な問題である

(Laursen&Salter,2014).特に技術がオープン化されてはじめてインバウンド型の市場や価値も拡大することに鑑みると,企業にとってアウトバウンド型の有効性が認められない限り,オープン・イノベーションのさらなる活性化は望めない.つまり,ここに政策的にアウトバウンド型の取り組みを後押しする意義がある.以上の理由から,本研究はイノベーションの収益化における専有可能性とアウトバウンド型オープン・イノベーションの関係について,次の仮説を立てて実証を行う.

仮説 1 :イノベーションの収益化における専有可

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能性が高い企業ほど,多様な外部組織へ自社の技術や知識を提供している

さらに本稿では,どのような要因が自社技術の外部化を促進するのかというリサーチクエスチョンに対し,補完的資産の有無や市場環境の変化といった要因からもアプローチする.一般的に補完的資産を正確に計測することは困難とされているが,先行研究では主に生産能力,販売能力,金融資産,売上高を用いて技術提供との関係について論じている(Tripsas,1997;Helfat,1997;Nerkar&Roberts,2004;Nakamura&Odagiri,2005;西村・岡田,2013).また,社内部門間の交流を補完的資産の代理変数として活用した例もある

(Arora&Ceccagnoli,2006).本稿でも,これらの研究を参考にしながら,次の仮説を立て検証を行う.

仮説 2 :自社が保有する補完的資産が多いほど,多様な外部組織へ自社の技術や知識を提供している

市場環境が技術提供に与える影響としては,市場規模やマーケットシェア等,市場の静的な側面と技術提供の関係を把握することは重要である.しかし,どのような市場の動きが技術提供の意思決定に影響を与えるかという,いわゆる動的な側面からの検証も不可欠である.例えば Fosfuri

(2006)では,市場内の需要の高まりが技術提供を活性化させる結果が示唆されている.また,競合他社が多いほど市場における競争圧力が高くなるため,技術提供が競争激化を引き起こすことになる(Arora&Fosfuri,2003).そのため,競合他社が多くなるほど,他社に技術を提供するインセンティブは低下すると考えられる.

しかしながら,上述したような市場の動的変化と技術提供の多様性の関係については,他に実証的な研究がほとんど見られない.そこで本稿では,次の仮説を立て,これらの関係についても検証する.

仮説 3 :市場規模が拡大するほど,多様な外部組織へ自社の技術や知識を提供している

仮説 4 :競合他社数が減少するほど,多様な外部組織へ自社の技術や知識を提供している

Ⅲ.データおよび推定モデル

1.データ本稿では科学技術・学術政策研究所が実施した

「第 2 回全国イノベーション調査」(以下,J-NIS2009)を用いる.同調査は欧州を中心に行われ て い る CIS(CommunityInnovationSurvey)の日本版である.

CIS は OECD が 1992 年に作成したオスロ・マニュアルに基づき設計されており,同マニュアルはイノベーションの定義や調査の設計から集計まで,幅広い内容に関して指針を示している.本稿で用いる J-NIS2009 についても,オスロ・マニュアルに則った形で調査設計がなされている.J-NIS2009 は従業者数 10 人以上の民間企業を調査対象とし,2006-2008 年度にかけての企業のイノベーション活動の実態を把握することを目的に実施された.調査票配布数は 1 万 5789 社で,有効回答数は 4579 社であった.このうち 2006-2008年度にかけてイノベーション活動を実施した企業は 2297 社となっており,これらの企業が本稿での分析対象となる.ただし,調査事項については,一部回答していない企業もあるため,以降で示す推定に用いる変数全てに回答した企業は2297 社のうち 978 社となる.

2.推定に用いる変数⑴ 被説明変数企業の技術提供を把握する変数として,本稿で

は“技術提供実施の有無”と“技術を提供した組織の多様性”の 2 つを用いる.J-NIS2009 では技術の提供方法として,事業の譲渡・売却による提供,研究開発の委託・受託,機械・設備・ソフトウェアの提供,自社からの分離・分社による技術の提供,ライセンシング契約の締結,社内の知的財産のオープンソース化,共同研究組合(コンソ

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ーシアム)への参加,事業提携(アライアンス)の実施,研究者・技術者の派遣出向の 9 つを用意している.そこで本稿では“技術提供実施の有無”の被説明変数として,技術提供方法として頻繁に用いられている次の 4 つ;“ライセンシング契約の締結”,“研究開発の委託・受託”,“機械・設備・ソフトウェアの提供”,“研究者・技術者の派遣出向”を抽出し,これらのいずれかを行った場合は 1,それ以外は 0 とした3).表 1 は方法別に技術提供の状況を集計した結果である.

また,J-NIS2009 では技術の提供先として,グループ企業,供給業者,顧客,民間の研究機関,大学,公的な研究機関,その他(主に競合他社が含まれる)の 7 つを確認している.そこで本稿では,これら 7 つの提供先への技術提供の有無を集計し,その合計を“技術を提供した組織の多様性”として用いた.2006-2008 年度に技術提供を行わなかった企業は 0,上に挙げた全ての組織に技術を提供した場合は 7 となる.この合計値の分布を示したのが図 1 である4).同図の横軸は技術提供の多様性を示しており,例えば,0 の場合は技術提供を行わなかった企業,1 の場合は上に示した 7 つの組織のいずれか 1 つに技術を提供した状況を示している.⑵ 説明変数本稿では,企業の技術提供に影響を及ぼす要因

として,専有可能性,補完的資産,市場環境の変化に着目している.ただし,これら以外の要因に

ついても,その影響が指摘されているため,コントロール変数として,企業規模,研究開発集中度,産業特性も説明変数に加える.各要因を示す変数としては,具体的に以下を用いる.

専有可能性専有可能性を示す変数として,先行研究では主

に法的保護の有効性が用いられていた(例えば,MaCalman,2004;Arora&Ceccagnoli, 2006;Nagaoka,2009;Dang&Motohashi,2014 など).ただし,法的保護以外にも専有可能性を確保する手段は存在する.Cassiman&Veugelers(2002)は,競合他社に先駆けての製品やサービスの市場投入,安易に模倣されないような製品や生産プロセスの設計の複雑化,製造技術や生産プロセスの秘匿が,新製品からの収益を獲得する上で有効だったかどうかを尋ね,それらの合計を専有可能性を示す変数として扱っている.

そこで本稿でも,専有可能性を示す手段として,従来の法的保護の有効性に加え,市場への先行投入,製品設計の複雑化,技術的知識の秘匿の有効性を用いた.これらの変数として,法的保護については,イノベーションからの収益を確保する手段として特許または特許以外の法的手段が有効と回答した企業を 1,それ以外の企業を 0 とした.同様に,その他の変数についても,それぞれの項目がイノベーションからの収益を確保する手段として有効と回答した企業を 1,それ以外の企

図 1 技術提供の多様性

80.0

60.0

40.0

20.0

0.0

(%)

0 1 2 3 4 5 6 7

技術提供先数

66.0

19.7

7.73.1 1.8 1.0 0.6 0.1

(社)

表 1 技術提供の現状(方法別)

技術の提供方法 企業数(社) 比率(%)

事業の譲渡・売却による提供 38 3.9研究開発の委託・受託 170 17.4機械・設備・ソフトウェアの提供 129 13.2自社からの分離・分社による技術の提供 28 2.9ライセンシング契約の締結 101 10.3社内の知的財産のオープンソース化 42 4.3共同研究組合(コンソーシアム)への参加 65 6.6事業提携(アライアンス)の実施 81 8.3研究者・技術者の派遣出向 127 13.0

注:複数の方法を利用して技術提供を行った企業が存在する一方,全く技術提供しなかった企業も存在するため,企業数の合計は集計対象である企業数 978 社と一致しない.また,比率を計算する際の分母は 978 社である.

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業を 0 とした.

補完的資産先に触れたとおり,補完的資産を表す代理変数

として,先行研究では主に生産能力,販売能力,金融資産,売上高が用いられてきた(例えば,Tripsas,1997;Helfat,1997;Nerkar&Roberts,2004;Nakamura&Odagiri,2005;西村・岡田,2013 など).そこで本稿でも J-NIS2009 から把握できる 2006 年度の売上高を補完的資産の代理変数として用いた.

また,Teece(1992)は異なる部門間の交流,学習から,補完的資産が生じる可能性を示唆してお り, こ の 文 脈 に 従 い,Arora&Ceccagnoli

(2006)は,研究開発部門のスタッフが他部門のスタッフと日々交流しているかを補完的資産を示す代理変数として用いた.本稿でも同様に,研究開発部門と他部門との交流に着目し,部門間のローテーションの実施,部門横断的なプロジェクト・チームの結成,部門間での会議の実施,情報を蓄積,交換,共有するシステムの導入に関して,それぞれ実施した場合は 1,それ以外を 0 とし,その平均値を補完的資産の代理変数とした.

市場環境先行研究では市場環境を示す変数として,主に

マーケットシェアが用いられている(例えば,Fosfuri,2006;西村・岡田,2013 など).本稿においても J-NIS2009 の売上高と法人企業調査,企業活動基本調査といった政府統計より得られる産業別の売上高を用いて,マーケットシェアを計算することは想定される.ただし,J-NIS2009 と各種政府統計で調査対象が異なるため,売上高が得られない産業が存在する.そのため,市場環境を示す変数として同変数を用いることは難しい.

そこで本稿では,市場環境を示す変数として競合他社数を用いる.J-NIS2009 では,競合他社に関 し て,2 社 以 下,3 ~ 5 社,6 ~ 10 社,11 ~20 社,21 社以上という形で回答を得ている.したがって,各カテゴリーに対してダミー変数を作成し,説明変数として用いた.

さらに J-NIS2009 では,2006-2008 年度にかけての市場環境の変化を把握する設問が用意されており,同変数を用いることで,市場規模の拡大・縮小の有無,競合他社数の増加・減少の有無を示すダミー変数を作成できる.それぞれ市場規模の拡大・縮小,競合他社数の増加・減少に直面した企業を 1,それ以外を 0 とした.

企業規模他の多くの先行研究と同様,企業規模を示す変

数には従業者数を用いる.ただし,J-NIS2009 に従業員数は直接質問されておらず,小規模企業

(従業員数 10 人以上 49 人以下),中規模企業(従業員数 50 人以上 249 人以下),大規模企業(従業員数 250 人以上)でのみ把握することができる.したがって,本稿では小規模企業,中規模企業,大規模企業を示すダミー変数を作成,これら変数で企業規模を代理することにする.

研究開発集中度Cohen&Levinthal(1989,1990)が指摘する

ように,研究開発に自社のリソースを投入する企業ほど研究開発能力が高まるため,技術提供する価値のある技術を有していることになる.他方,研究能力の高さが最先端の技術の実現につながるならば,これら技術を他社に提供することをためらう可能性も指摘されている(Fosfuri,2006).研究開発集中度を示す変数として,先行研究では研究開発比率が用いられている.本稿において,同変数は 2006 年度の売上高に占める 2006 年度の研究開発費の比率で計算した.

産業特性産業特性を示す変数として,OECD(2011)が

提示する区分に基づくダミー変数を用いる.J-NIS2009 の標本抽出では,日本標準産業分類の小分類レベルが用いられているが,同分類に基づくと,多重共線性のため推定できない産業が出てきた.そこで Robin&Schubert(2013)と同様,OECD(2011)が提示する区分に基づき産業ダミーを作成した(表 2).なお同区分は売上高・研

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究開発支出比率と付加価値・研究開発支出比率を基準に分類が行われている.

以上で示した各変数の記述統計量をまとめたものを表 3 に示す.

3.推定方法本稿の推定に用いる被説明変数は前節で示した

ように,“技術提供実施の有無”と“技術を提供した組織の多様性”である.前者は 2 値変数であるため,推定にはプロビット・モデルを用いる.後者は 0 から 7 までの離散値なので,非負の整数となるカウント・データである.最小二乗法を用いてカウント・データを推定すると,予測値が 0以下もしくは 7 以上の予測値をとることになるため,カウント・データの一般的な推定方法として

は,ポワソン・モデル(Poissonmodel)と負の二項モデル(negativebinominalmodel)が用いられる5).

ポワソン・モデルは誤差項がポワソン分布に従うと仮定し,最尤法を用いてパラメータを推定する.ただし,パラメータのバイアスのない標準誤差を得るには,誤差項の平均と分散が等しいという強い制約が必要となる.本稿の“技術を提供した組織の多様性”については,分散が 1.108 と平均である 0.611 より大きくなるため,上の制約を満たさない可能性が高い.この点をより詳細に検証するため,本稿のモデルにおいて,誤差項の平均と分散が等しいという仮定が満たされているかを Moran(1971)が提供する手法で検定したところ,仮定は満たされないという結果が得られ

表 2 各産業特性に含まれる業種

企業数(社)

比率(%)

企業数(社)

比率(%)

ローテク製造業 ハイテク製造業1 食料品製造業 32 3.3 25 医薬品製造業 23 2.42 飲料・たばこ・飼料製造業 24 2.5 26 電子計算機・同附属装置製造業 8 0.83 繊維工業(4 を除く) 22 2.2 27 電子部品・デバイス・電子回路製造業 30 3.14 衣服製造業 10 1.0 28 情報通信機械器具製造業(26 を除く) 17 1.75 なめし革・同製品・毛皮製造業 7 0.7 29 業務用機械器具製造業 36 3.76 木材・木製品製造業(9 を除く) 7 0.7 30 時計・同部分品製造業  5 0.57 パルプ・紙・紙加工品製造業 19 1.9 31 航空機・同附属品製造業  5 0.58 印刷・同関連業 16 1.69 家具・装備品製造業 12 1.2 ハイテクサービス業

10 その他の製造業(30 を除く) 23 2.4 32 ソフトウェア業  21 2.133 情報サービス業(32 を除く) 9 0.9

ミディアム・ローテク製造業 34 インターネット附随サービス業 1 0.111 石油製品・石炭製品製造業 8 0.812 プラスチック製品製造業 26 2.7 非製造業(ハイテクサービス業を除く)13 ゴム製品製造業 13 1.3 35 鉱業・採石業・砂利採取業 7 0.714 窯業・土石製品製造業 27 2.8 36 建設業 34 3.515 鉄鋼業 27 2.8 37 電気・ガス・熱供給・水道業 12 1.216 非鉄金属製造業 29 3.0 38 情報通信業 9 0.917 金属製品製造業 37 3.8 39 運輸業・郵便業 14 1.418 船舶製造・修理業・舶用機関製造業 7 0.7 40 卸売・小売業 98 10.0

41 金融業・保険業 7 0.7ミディアム・ハイテク製造業 42 不動産業・物品賃貸業 13 1.319 化学工業(1 を除く) 46 4.7 43 宿泊業・飲食サービス業 19 1.920 はん用機械器具製造業 36 3.7 44 その他サービス業 56 5.721 生産用機械器具製造業 44 4.522 電気機械器具製造業 37 3.823 自動車・同附属品製造業  34 3.524 輸送用機械器具製造業(18,23,31 を除く) 11 1.1

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アウトバウンド型オープン・イノベーションの促進要因  81

た6).この結果に従い,本稿では誤差項にガンマ分布を仮定することで,誤差項の平均と分散が等しいという制約を緩和した負の二項モデルを用いて推定する.

ただし,図 1 で示したように,66.0%の企業が“技術を提供した組織の多様性”に対してゼロ,つまり技術提供を行っていないと回答していた点に注意が必要である.このゼロには,たまたま2006-2008 年度にかけて技術提供を行わなかった企業と,技術提供を行う気のない企業が混在している可能性があり,ゼロが多い状況は,混在している確率を高める方向に作用する.このように被説明変数にゼロを多く含む状況においては,ゼロ強調負の二項モデル(zero-inflatednegativebi­nomialmodel)を用いた推定が一般的である.しかしながら,負の二項モデルとゼロ強調負の二項モデルのどちらがよりデータにフィットしているかを得る検定手法である Vuong テスト(Vu­

ong,1989)によると,本稿で用いる全てのモデルにおいて,負の二項モデルが採択された7).したがって,以降では負の二項モデルを用いた推定結果について解釈していく.

Ⅳ.推定結果

1.技術提供実施に関する分析まずは予備的な位置づけとなる,被説明変数に

“技術提供実施の有無”を用いた分析について確認する.推定結果は表 4 に記している.同表の⑴,⑵,⑶は,市場環境の変化に関する変数として,それぞれ市場規模の変化,競合他社数の変化,市場規模の変化と競合他社数の変化の交差項を用いたモデルである.

専有可能性を表す収益確保における法的保護の有効性をみると,全モデルにおいて正かつ統計的に 1%水準で有意な結果が得られている.同変数

表 3 記述統計量

変数 平均値 標準偏差 最小値 最大値

技術提供の有無 0.340 0.474 0.000 1.000技術提供した組織の多様性 0.611 1.108 0.000 7.000収益確保における法的保護の有効性 0.391 0.488 0.000 1.000収益確保における先行投入の有効性 0.439 0.496 0.000 1.000部門間連携の程度 0.544 0.323 0.000 1.000売上高(2006 年,対数) 8.707 1.793 4.317 15.538研究開発比率(2006 年) 0.024 0.084 0.000 1.029競合他社数(2 社以下) 0.112 0.316 0.000 1.000競合他社数(3 社以上 5 社以下) 0.270 0.444 0.000 1.000競合他社数(6 社以上 10 社以下) 0.187 0.390 0.000 1.000競合他社数(11 社以上 20 社以下) 0.088 0.283 0.000 1.000競合他社数(21 社以上) 0.343 0.475 0.000 1.000市場規模が拡大した 0.177 0.382 0.000 1.000市場規模が縮小した 0.189 0.392 0.000 1.000市場に参入した企業が増加した 0.175 0.380 0.000 1.000市場から撤退した企業が増えた 0.143 0.350 0.000 1.000小規模企業(従業員数 10 人以上 49 人以下) 0.133 0.340 0.000 1.000中規模企業(従業員数 50 人以上 249 人以下) 0.260 0.439 0.000 1.000大規模企業(従業員数 250 人以上) 0.607 0.489 0.000 1.000ローテク製造業 0.176 0.381 0.000 1.000ミディアム・ローテク製造業 0.178 0.383 0.000 1.000ミディアム・ハイテク製造業 0.213 0.409 0.000 1.000ハイテク製造業 0.127 0.333 0.000 1.000ハイテクサービス業 0.032 0.175 0.000 1.000非製造業(ハイテクサービス業を除く) 0.275 0.447 0.000 1.000

標本数 978

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82  組織科学 Vol.51No.2

の限界効果に注目すると,0.11 前後となっており,収益を確保する手段として法的保護が有効な企業において,技術提供を行う確率が 11%程度高まる結果となっている.また,係数は小さいものの,製品設計の複雑化の有効性についても 10%有意が示されている.他方,収益確保における先行投入や秘匿の有効性については正の係数が示されているが,統計的に有意とはなっていないため,これらの有効性が技術提供に影響を及ぼしているとは言えない.

次に補完的資産を示す部門間連携の程度および売上高を確認すると,両変数で正かつ 1%水準で有意な結果が得られた.前者の限界効果は 0.15前後であるため,部門間連携を行うことで,技術提供を実施する確率が 15%程度高まる状況を示

している.売上高についても同様に限界効果が0.04 前後となっている.これらの結果は,補完的資産を保有している企業ほど技術提供を行っている状況を示している.

さらに競合他社数と技術提供の関係について見ていく.同変数については,競合他社数 21 社以上を基準としている.各競合他社数の限界効果に着目すると,2 社以下で正の 5%有意となっていることから,競合他社数が少ないほど技術提供がなされやすいという緩やかな関係が見てとれる.ただし,市場の競争状況が技術取引に強く影響を及ぼしているとまでは言えない.

次に,市場環境の動的な変化と技術提供の関係について確認する.まず,市場規模については,拡大している局面で技術提供が行われている状況

表 4 推定結果(技術提供の有無)

被説明変数: 技術提供の有無

⑴ ⑵ ⑶

限界効果 z 値 限界効果 z 値 限界効果 z 値

収益確保における法的保護の有効性 0.113 *** 3.900 0.107 *** 3.720 0.114 *** 3.940収益確保における先行投入の有効性 0.043 1.470 0.042 1.450 0.040 1.380収益確保における設計の複雑化の有効性 0.058 * 1.720 0.055 * 1.640 0.055 * 1.650収益確保における秘匿の有効性 0.035 1.120 0.039 1.250 0.036 1.170部門間連携の程度 0.151 *** 3.220 0.145 *** 3.100 0.148 *** 3.180売上高(2006 年,対数) 0.041 *** 3.490 0.043 *** 3.690 0.039 *** 3.360競合他社数(2 社以下) 0.099 ** 2.180 0.107 ** 2.370 0.100 ** 2.200競合他社数(3 社以上 5 社以下) 0.040 1.100 0.057 1.540 0.048 1.300競合他社数(6 社以上 10 社以下) 0.048 1.200 0.053 1.340 0.048 1.220競合他社数(11 社以上 20 社以下) 0.029 0.560 0.037 0.730 0.031 0.600市場規模が拡大した 0.089 *** 2.620市場規模が縮小した 0.022 0.670市場に参入した企業が増加した 0.073 ** 2.040市場から撤退した企業が増えた 0.071 * 1.830市場規模拡大×市場への参入企業増加 0.100 ** 2.080市場規模拡大×市場からの撤退企業増加 -0.061 -0.850市場規模縮小×市場への参入企業増加 0.096 1.440市場規模縮小×市場からの撤退企業増加 0.040 0.720研究開発比率(2006 年) 0.276 * 1.860 0.284 * 1.930 0.259 * 1.750中規模企業(従業員数 50 人以上 249 人未満) -0.096 * -1.890 -0.092 * -1.820 -0.089 * -1.750大規模企業(従業員数 250 人以上) -0.078 -1.340 -0.079 -1.360 -0.069 -1.190

産業ダミー Yes Yes Yes

疑似決定係数 0.161 0.165 0.166対数尤度 -499.372 -497.225 -496.612標本数 978

注:***,**,* は,それぞれ 1%,5%,10% 水準で有意を示す.

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アウトバウンド型オープン・イノベーションの促進要因  83

が確認できる.これは Fosfuri(2006)の報告と整合的であり,市場規模の拡大が企業間の競争を緩和させる方向に作用していると理解できる.競合他社数については増加・減少双方の局面で技術提供が行われている.ただし,市場規模の変化と競合他社数の変化の交差項をみると,重要なのは市場規模が拡大し,かつ参入企業が増加している局面であることが確認できる.

その他の変数をみると,企業規模を示すダミー変数は中規模企業において負かつ統計的に有意な結果となっている.また研究開発比率については正かつ 10%水準で有意な結果が得られており,研究開発の比率の高い企業ほど,技術提供を行っているという他の多くの先行研究と同様の結果が得られた.

2.技術を提供する組織の多様性に関する分析表 5 は被説明変数に“技術を提供した組織の多

様性”を用いた推定結果を示している.同表の⑴,⑵,⑶は,前節と同様,それぞれ市場規模の変化,競合他社数の変化,市場規模の変化と競合他社数の変化の交差項を説明変数に用いたモデルを示している.

専有可能性を示す収益確保における法的保護の有効性については,全モデルにおいて正かつ統計的に 1%水準で有意な結果が得られた.“技術提供実施の有無”と比較しても大きな限界効果が得られている.補完的資産を示す部門間連携の程度および売上高をみると,両変数で正かつ統計的に1%水準で有意な結果が得られた.

市場構造を示す競合他社数については,競合他

表 5 推定結果(技術提供した組織の多様性)

被説明変数: 技術提供先の多様性

⑴ ⑵ ⑶

限界効果 z 値 限界効果 z 値 限界効果 z 値

収益確保における法的保護の有効性 0.312 *** 4.910 0.299 *** 4.730 0.315 *** 4.940収益確保における先行投入の有効性 0.095 1.580 0.097 1.620 0.092 1.530収益確保における設計の複雑化の有効性 0.084 1.350 0.071 1.150 0.066 1.050収益確保における秘匿の有効性 0.004 0.060 0.021 0.350 0.014 0.230部門間連携の程度 0.395 *** 3.780 0.391 *** 3.740 0.395 *** 3.770売上高(2006 年,対数) 0.124 *** 6.240 0.129 *** 6.530 0.123 *** 6.160競合他社数(2 社以下) 0.185 ** 2.080 0.206 ** 2.310 0.186 ** 2.080競合他社数(3 社以上 5 社以下) 0.123 * 1.700 0.151 ** 2.060 0.131 * 1.790競合他社数(6 社以上 10 社以下) 0.076 0.960 0.083 1.050 0.071 0.890競合他社数(11 社以上 20 社以下) 0.051 0.510 0.077 0.760 0.059 0.590市場規模が拡大した 0.174 *** 2.870市場規模が縮小した -0.007 -0.110市場に参入した企業が増加した 0.127 ** 2.010市場から撤退した企業が増えた 0.094 1.400市場規模拡大×市場への参入企業増加 0.135 * 1.740市場規模拡大×市場からの撤退企業増加 -0.190 -1.300市場規模縮小×市場への参入企業増加 0.189 * 1.980市場規模縮小×市場からの撤退企業増加 0.033 0.300研究開発比率(2006 年) 0.677 *** 3.100 0.676 *** 3.110 0.668 *** 3.020中規模企業(従業員数 50 人以上 249 人未満) -0.394 *** -3.450 -0.394 *** -3.450 -0.384 *** -3.350大規模企業(従業員数 250 人以上) -0.367 *** -3.180 -0.377 *** -3.270 -0.352 *** -3.030

産業ダミー Yes Yes Yes

疑似決定係数 0.143 0.143 0.146対数尤度 -783.075 -782.893 -780.985標本数 978

注:***,**,* は,それぞれ 1%,5%,10% 水準で有意を示す.

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社数が 2 社以下および 3 社以上 5 社以下において統計的に有意な結果が得られている.競合他社数が大きくなるにつれて有意ではなくなり,かつ限界効果の値が徐々に小さくなる様子から,競合他社が多くなるほど技術提供がなされにくいという傾向が示唆される.

市場の動的な変化を表す,市場規模の変化,競合他社数の変化では,前者は規模が拡大している局面で,後者は競合他社数が増加する局面において,多様な組織に技術が提供される傾向が確認できた.また,市場規模の変化と競合他社数の変化の交差項をみると,“技術提供実施の有無”の結果と同様に,市場規模が拡大し,かつ参入企業が増加している局面で技術提供行動が拡大する傾向にある.

最後に,その他の変数をみると,企業規模を示すダミー変数はそれぞれ負かつ統計的に有意な結果が得られている.Motohashi(2008)は,補完的資産を含めて,小規模の企業ほど技術提供を行うと指摘しており,本稿の推定結果はこの議論と整合的である.また,研究開発比率については正かつ 1%水準で統計的に有意な結果が得られている.

Ⅴ.仮説検証・ディスカッション

本節では改めて第Ⅱ節で示した 4 つの仮説検証を行う.まず,イノベーションの収益化における専有可能性が高いほど,多様な外部組織へ技術提供しているとした仮説 1 は,表 5 の結果から一部支持されるにとどまった.法的保護の有効性では有意な水準が得られており,限界効果は 0.3 程度と大きな値となった.これは,収益を確保する手段として法的保護が有効な企業では,そうでない企業に比べて技術提供を行う確率が 30%程度高まることを示している.その一方,先行投入や製品設計の複雑化,技術情報の秘匿の有効性に関するパラメータでは統計的な有意性が確認できなかった.

次に仮説 2 について,補完的資産の代理変数として用いた部門間連携や売上高と技術提供との関

係では,プラスの効果を確認することができた.部門間のローテーションの実施や部門横断的なプロジェクト・チームの結成など,部門間での連携を促進するような取り組みは強い補完的資産を生じさせ(Teece,1992),これがアウトバウンド型活動の活性化につながっていると考えられる.

次に市場環境の動的変化に着目した仮説 3 と仮説 4 に移る.市場規模の拡大基調が技術提供を後押しするとした仮説 3 は支持される結果となった.市場内の需要の高まりが企業の技術提供活動を促していると言える.このことにより,技術提供の意図の 1 つとして,拡大する市場内での主導権を握り,新規参入者を自社のビジネス・エコシステムへ取り込もうとしている可能性が考えられる.これは,表 5 にあるように,“市場規模拡大×市場への参入企業増加”の局面において技術提供に対する正の効果が計測されたことからも推測できる.

一方,競合他社数が減少する局面において技術提供が活性化するとした仮説 4 は棄却されたと言える.これは,競合他社が増える局面において技術提供の高まりが計測されたためで,難しい解釈が求められる結果となった.表 5 では,市場が縮小すると同時に競合他社が増える局面(市場規模縮小×市場への参入企業増加)においてプラスの係数が得られたことに鑑みると,市場縮小に伴い淘汰が進むと同時に,マーケットシェアを確保しようとして統合や合併が進むことが予想され,このようなアライアンス時に技術提供が発生するのかもしれない.

さらに企業規模別の結果に触れる.表 5 の推定結果からは,小規模な事業者の方が技術提供を活発に行っていることが示唆された.この点に関し,先に触れたとおり,アウトバウンド型のオープン・イノベーションに対しては規模の小さい企業ほど積極的であるとする報告がある(Moto­hashi,2008).これは,製造やマーケティングなどの技術を収益化するための補完的資産が,規模の小さい企業においては不足していることが多いために,自社で事業化するより,ライセンシングなどによって社外へ導出する方が経済的に合理的

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アウトバウンド型オープン・イノベーションの促進要因  85

だと判断されるためである.国内の質問票調査でも,技術のライセンサーは中小企業が多く,ライセンシーは大企業が多くなっているという報告がある(発明協会,2009).ただし,自社の技術を他社に提供することは,自社の事業分野における潜在的な競合企業を助けることになる可能性がある(Arora&Fosfuri,2003).したがって,複数の事業分野を有している大企業においては,競合企業数が多い可能性が高く技術導出にあたって障害が大きくなる(Motohashi,2008).そのため,大企業はインバウンド型のオープン・イノベーションの方が主流となる可能性が示唆される.

最後に,これまでの本稿の分析で用いた技術導出は,“ライセンシング契約の締結”のほか,“研究開発の委託・受託”,“機械・設備・ソフトウェ

アの販売”,“研究者・技術者の派遣出向”を含めたものである.これは,より一般的な視点から技術導出と専有可能性の関係を検証するには有効である一方,技術導出のチャネル毎の差異を検証することは不可能となる.そこで本稿では,先行研究における技術導出の検証対象としてライセンシングを中心としている場合が多いことから(Aro­ra&Fosfuri;2003,Fosfuri,2006;Smith,2001;Yang&Maskus, 2001;Dahlandera&Gann,2010),“ライセンシング契約の締結”に限定した形で専有可能性を高める各手段との関係を検証した.

表 6 には,被説明変数にライセンシングの有無を用いたモデルの推定結果を示す.法的保護の有効性については,正かつ 1%水準で統計的に有意

表 6 推定結果(ライセンシングの有無)

被説明変数: ライセンシングの有無

⑴ ⑵ ⑶

限界効果 z 値 限界効果 z 値 限界効果 z 値

収益確保における法的保護の有効性 0.148 *** 4.050 0.143 *** 3.950 0.149 *** 4.020収益確保における先行投入の有効性 0.074 ** 2.300 0.074 ** 2.280 0.073 ** 2.240収益確保における設計の複雑化の有効性 0.008 0.260 0.002 0.080 -0.002 -0.080収益確保における秘匿の有効性 0.003 0.110 0.008 0.260 0.008 0.280部門間連携の程度 0.093 * 1.760 0.087 * 1.650 0.086 1.620売上高(2006 年,対数) 0.043 *** 4.720 0.044 *** 4.930 0.041 *** 4.520競合他社数(2 社以下) 0.002 0.050 0.014 0.300 0.008 0.170競合他社数(3 社以上 5 社以下) 0.028 0.810 0.039 1.120 0.036 1.010競合他社数(6 社以上 10 社以下) 0.008 0.220 0.013 0.350 0.012 0.300競合他社数(11 社以上 20 社以下) -0.008 -0.150 0.008 0.150 -0.003 -0.070市場規模が拡大した 0.044 1.540市場規模が縮小した -0.017 -0.530市場に参入した企業が増加した 0.024 0.810市場から撤退した企業が増えた 0.036 1.160市場規模拡大×市場への参入企業増加 0.022 0.630市場規模拡大×市場からの撤退企業増加 0.045 0.700市場規模縮小×市場への参入企業増加 0.073 * 1.760市場規模縮小×市場からの撤退企業増加 -0.039 -0.680研究開発比率(2006 年) 0.092 0.810 0.101 0.880 0.086 0.740中規模企業(従業員数 50 人以上 249 人未満) -0.214 *** -2.980 -0.215 *** -2.980 -0.213 *** -2.940大規模企業(従業員数 250 人以上) -0.138 ** -2.360 -0.141 ** -2.410 -0.133 ** -2.240

産業ダミー Yes Yes Yes

疑似決定係数 0.209 0.210 0.215対数尤度 -311.347 -311.300 -309.265標本数 978

注:***,**,* は,それぞれ 1%,5%,10% 水準で有意を示す.

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な限界効果が得られた.これは法的保護が有効なことで,ライセンシングを通じた技術の導出はおおよそ 15%高まると解釈できる.

また,市場への先行投入の効果についても正かつ統計的に有意な限界効果が得られた.Cassi­man&Veugelers(2002)は,専有可能性を構成する主要要素の 1 つに新製品のリードタイムの長さを盛り込んだ上で,専有可能性が確保されている企業ほど積極的に外部と共同研究を行っている様子を明らかにしている.本稿の結果もこれと類似した示唆を与えている.

Ⅵ.まとめと今後の課題

本稿は,企業の技術提供に着目し,どのような環境にある企業が自社以外の組織に技術を提供しているかを明らかにした.イノベーションに求められる技術が高度化・複雑化し,単一の企業で全ての課題に対応することが困難になっている現在において,技術導入と比較して注目が低かった技術提供に着目することは,我が国のイノベーション政策を考える上で大きな意義がある.

本稿から得られた主要な結果は以下の 3 点である.第 1 は,イノベーションから得られる収益を確保するにあたり,法的保護が有効な企業ほど,多様な属性の組織に自社の技術を提供していることが明らかとなった.第 2 は補完的資産の重要性である.Teece(1986)が指摘するように,企業が技術開発に成功したとしても,当該技術からの利益を享受するには,生産,流通といった補完的な資産の存在が重要である.本稿の分析では,補完的資産の代理変数である部門間連携が活発である企業ほど,多様な属性の組織に自社の技術を提供している傾向が明らかとなった.第 3 は,市場規模,競合他社でみた市場環境の変化が企業の技術提供に影響を及ぼしている点である.前者については拡大している局面,後者については参入が起きる局面で,企業は多様な属性の組織に技術を提供する傾向が確認できた.

本稿の分析より,技術提供に関する様々な知見が得られたが,技術取引市場の理解のためには,

より精緻な分析の積み重ねが必要である.本稿では幅広い技術提供市場を対象にするため,多様な技術提供の移転経路を一まとめにして分析を行った.ただし,技術導入の文脈では,移転経路によってイノベーションの成果は異なると指摘されている(Kang&Kang,2009).このような状況に鑑みると,どの経路を通じて技術を移転するかは重要な問題であり,各経路の選択に影響を及ぼす要因を特定し比較することは,我が国のイノベーション政策を検討するに当たって重要なテーマといえる.

また,本稿の分析に用いたデータがクロス・セクションであるため,技術提供を行わなかった企業について,たまたま行わなかったのか,そもそも技術提供を念頭に置いていない企業なのか判断が難しかった.本稿の分析では,Voungtest に基づき推定モデルの選択を行ったが,より精緻な分析を行うには,各企業の特徴をコントロールできるパネル・データを用いる必要がある.

さらに,本稿が用いた J-NIS2009 では,専有可能性に関する設問としてプロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションは区別されていない.しかしながら,プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションでは,専有可能性を確保する手段の有効性について一定の差異の存在が予想される.この視点における分析についても今後の課題となる.

注1) 実際に,技術経営系の主幹誌である R&D Management,

International Journal of Technology Management, Re-search Policyでも相次いで特集号が組まれている(Vrande,Vanhaverbeke,&Gassmann,2010;Gassmann,Enkel,&Chesbrough,2010;West,Salter,Vanhaverbeke,&Ches­brough,2014).

2) なお,技術や知識を内部へ取り込む,あるいは外部へ送り出すというこれらの概念は,インバウンド,アウトバウンドという言葉の他にも,研究報告によって異なった用語が用いられている.例えば,Felin&Zenger(2014)では,知識フローの知見をベースに,それぞれインフロー,アウトフローという呼び名で議論している.この他にもアウトサイド・イン,インサイド・アウトという用法も見られる

(Chesbrough&Garman,2009).3) 残りの 5 つの導出方法については,表 1 からも明らかなよ

うに,導出方法として用いられることが稀なため,本稿の

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アウトバウンド型オープン・イノベーションの促進要因  87

分析対象にはしなかった.ただし,これら 5 つの導出方法を含めた被説明変数を用いた推定においても,結果に大きな違いは見られなかった.

4) 組織別に技術の提供先を集計すると,グループ企業が 163社,供給業者が 105 社,顧客が 125 社,民間の研究機関が31 社,大学が 80 社,公的な研究機関が 49 社,その他が45 社であった.

5) カウント・データに関する内容は,Cameron&Trivedi(2009)の ch.17 を参考にした.

6) 検定方法の詳細は,Cameron&Trivedi(1998)の p.78に記されている.この手法に基づき検定統計量を計算すると,推定値は 0.354,標準誤差が .0843 となり,誤差項の平均と分散が等しいという帰無仮説は 1%水準で棄却された.

7) ゼロ強調負の二項モデルによる推定結果,Vuong テストの結果は参考資料に記載した.

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参考資料 ゼロ強調負の二項モデルによる推定結果

被説明変数: 技術提供先の多様性

⑴ ⑵ ⑶

限界効果 z 値 限界効果 z 値 限界効果 z 値

収益確保における法的保護の有効性 0.433 *** 5.680 0.419 *** 5.560 0.440 *** 5.780収益確保における先行投入の有効性 0.114 * 1.640 0.117 * 1.690 0.108 1.550部門間連携の程度 0.433 *** 3.580 0.417 *** 3.470 0.419 *** 3.480売上高(2006 年,対数) 0.132 *** 5.260 0.138 *** 5.590 0.131 *** 5.260競合他社数(2 社以下) 0.173 1.630 0.196 * 1.860 0.168 1.590競合他社数(3 社以上 5 社以下) 0.060 0.700 0.102 1.170 0.071 0.810競合他社数(6 社以上 10 社以下) 0.074 0.790 0.085 0.910 0.068 0.730競合他社数(11 社以上 20 社以下) -0.005 -0.040 0.034 0.280 0.006 0.050市場規模が拡大した 0.228 *** 3.010市場規模が縮小した 0.021 0.270市場に参入した企業が増加した 0.154 ** 1.970市場から撤退した企業が増えた 0.162 ** 1.960市場規模拡大×市場への参入企業増加 0.193 * 1.950市場規模拡大×市場からの撤退企業増加 -0.303 * -1.720市場規模縮小×市場への参入企業増加 0.265 ** 2.140市場規模縮小×市場からの撤退企業増加 0.119 0.920中規模企業(従業員数 50 人以上 249 人未満) -0.579 *** -4.440 -0.576 *** -4.430 -0.564 *** -4.330大規模企業(従業員数 250 人以上) -0.516 *** -3.760 -0.525 *** -3.850 -0.494 *** -3.620研究開発比率(2006 年) 0.656 ** 2.220 0.662 ** 2.260 0.644 ** 2.170

産業ダミー Yes Yes Yes

疑似決定係数対数尤度 -920.750 -919.515 -916.904VuongTest に用いる統計量 0.050 0.280 0.020標本数 978

注 1:***,**,* は,それぞれ 1%,5%,10% 水準で有意を示す. 2:VuongTest では,負の二項モデルの対数尤度とゼロ強調負の二項モデルの対数尤度の差を用いて検定統計量

を計算している.この計算によって得られた検定統計量は漸近的に正規分布に従うことが知られている.

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2015 年 8 月 19 日 受稿2016 年 11 月 7 日 受理

[担当シニアエディター 妹尾 大]