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2013 大学 エネルギー コリメータ シンチレータを一体 させた SPECT ガンマカメラ 10S2020J

コリメータとシンチレータを一体化させた SPECT …hepl.shinshu-u.ac.jp/diploma/13/tsuchimoto.pdf1.3 コリメータとシンチレータを一体化させたデザイン

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2013年度 卒業論文

信州大学 理学部 物理科学科

高エネルギー物理学研究室

コリメータとシンチレータを一体化させたSPECT 用ガンマカメラの検証

10S2020J

土本航也

指導教官竹下徹 教授

長谷川庸司 准教授

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概要

SPECT(Single Photon Emission Computer Tomography:単一光子放射断層撮影)は生

体の機能を観察する事を目的に使われ、心筋血流や脳血流診断などにおいてよく用いられ

ている。そのため心臓病や脳血管障害、癌の発見に有効とされている。

現在の SPECT装置におけるガンマカメラ部分では、光電子増倍管が検出した光量の重

みによって位置演算をしており(重心法)、これにより検出器の固有分解能は FWHMで

3∼4mm程度である [2]。そこで検出器デザインの面から位置分解能の改善を図るべくコ

リメータホールの一つ一つにシンチレータを挿入し、小型半導体光検出器MPPCを用い

て読み出すという新型の SPECT用ガンマカメラを提案、検証実験を行った。

また今回は実験の自由度を上げるため、光検出器MPPCと LSOシンチレータの間に

クリアファイバーによるライトガイドを設けた。60mm のファイバーを用いた場合、ダ

イレクトカップリング時に得られた光量 67.5 photo electron に比べて得られる光量は約

78% 程減少したが、122keV の γ 線に対し 14.6 photo electron程度の光量を得ることが

できた。

最終的に、コリメータホールとシンチレータを 1対 1対応させた SPECT 用ガンマカ

メラのプロトタイプについて、9chMPPCarrayを用いて 3× 3マトリクスと 1× 9マト

リクスをそれぞれ持つ 2つの形状のものを試作し、性能評価を行った。その結果、3× 3

マトリクスタイプでは線源の移動を確認でき、1× 9マトリクスタイプにおいて位置分解

能は 1.02mm(sigma)となった。

2

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目次

1 序論 1

1.1 SPECT . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 検出器の位置分解能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.3 コリメータとシンチレータを一体化させたデザイン . . . . . . . . . . . . 3

2 ガンマ線と物質との相互作用 4

2.1 ガンマ線の吸収、散乱 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.2 シンチレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

3 実験装置 10

3.1 線源 Co-57 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

3.2 LSOシンチレータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3.3 鉛コリメータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3.4 クリアファイバー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.5 光検出器 MPPC . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.6 エレクトロニクス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

4 検証実験 18

4.1 LSOシンチレータの光量測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

4.2 MPPCのゲイン測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

4.3 3× 3 マトリクス型検出器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

4.4 1× 9 マトリクス型検出器と位置分解能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

5 結論 25

5.1 現状 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

5.2 今後の課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

付録 27

謝辞 29

i

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1

1 序論

1.1 SPECT

図 1.1 Siemens社 SymbiaT6

SPECT(Single Photon Emission Computer

Tomography:単一光子放射断層撮影) とは核医

学検査法の一つであり、放射性薬剤の投与により

人体内部の特定の部位に分布した放射性同位体の

位置を、体外へ放出される γ 線をシンチレーショ

ン検出器で検出することによって測定し断層画像

化したものである。このとき投与される一般的な

放射性薬剤は単一の γ 線を放出する核種を含み、

体内の特定の組織と科学的に結合する性質を持った化合物に、マーカーとなる放射性同位

体を組み込んだ放射性リガンドと呼ばれるものを用いる。この放射性リガンドによる体内

の局所的な放射能の変化または集積度を観察することで、脳や心臓の血流量、代謝機能な

どの臓器機能を評価するための情報、または癌を含む腫瘍等の患部の位置情報を得られる

のが特徴であり、例として心筋、脳血流測定の際や癌の発見のためなどに有効とされる。

似たような仕組みの PET(Positoron Emission Tomography:陽電子断層撮像法) と異

なる最大の特徴は、PET が対光子検出により方位を特定しているのに対し、SPECT は

測定時に用いる放射性マーカーの特徴により単光子検出なので方向を知る仕組みが必要不

可欠となる点である。また、同じく放射性マーカーの特徴により、放出される γ 線のエ

ネルギーが PET 用のそれに比べて低いため体内で吸収、散乱を受け易いといったことも

PET と比べて画質が悪くなっている一因である。これらの理由により現状、SPECT は

PET よりも画像精度で劣り撮像が不鮮明になる傾向が認められ、改良が進められている。

しかし画像精度で劣る半面、SPECT で使用する放射性リガンドは PET のものに比べて

用意し易く*1 、緊急の検査にも用いることができるなどの理由から SPECT が好まれる

状況もある。

1.2 検出器の位置分解能

現在の SPECT で主流となっているガンマカメラはシンチレータと光電子増倍管を組

み合わせて γ 線を検出し、アンガー法と呼ばれる光量の重みで位置演算を行うやり方を取

る。この方式を取る検出器をアンガーカメラと呼び、アンガーカメラは γ 線はコリメータ

*1 SPECT の線源には一般放射性物質を利用するため、投与薬の精製にサイクロトロンを必要とする PET

に比べて投与薬を用意しやすい。

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2 1 序論

により入射方向を制限され、シンチレータでの光電効果によりそのエネルギーに応じた蛍

光に変換される。蛍光はライトガイドを通して光電子増倍管へ到達し、光電子増倍管は獲

得した光量を電気信号に変換する役割を持つ。蛍光はシンチレータとライトガイド内で拡

散するので複数の光電子増倍管が信号を出力するが、その総和により γ 線のエネルギーが

求められ、また γ 線の入射位置は反応した複数の光電子増倍管の出力信号に重み付けをし

て求める。アンガーカメラではシンチレータ内で蛍光が拡散する影響のため、現行のもの

は FWHMで 3∼4mm程度の分解能を得るにとどまっている [2]。

図 1.2 アンガー型ガンマカメラの構成図 [7]

SPECT 用検出器全体の位置分解能はガンマカメラのみで決まるものではなく、コリ

メータデザインの影響を受ける。コリメータは検出器へ入射する γ 線の方向を制限する

ために取り付けられており、使用する目的に応じて様々な種類がある。基本的には測定対

象の γ 線のエネルギーによって壁厚が決まり、要求される空間分解能と感度の兼ね合いで

開口径やホール長、さらに全体のデザインが決定される。もっとも一般的で汎用的なデザ

インのパラレルコリメータは検出器に垂直な方向にホールを持っており、本研究において

使用したのもこの形状である。

検出器の総合位置分解能は主にコリメータの幾何学的性質によるものと、ガンマカメラ

に固有の空間分解能をもって、次式のように表される。

Rs =√

R2i +R2

g (1.1)

ここで、Rs が検出器の総合位置分解能、Ri はガンマカメラの固有位置分解能、Rg はコ

リメータの幾何学的位置分解能である。

コリメータの幾何学的位置分解能について説明する。図 1.3に示すようなパラレルコリ

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1.3 コリメータとシンチレータを一体化させたデザイン 3

図 1.3 パラレルホールコリメータ [2]

メータにおいてその位置分解能は次のように計算される。

Rg =d (a+ b+ c)

a(1.2)

ここで dはコリメータ開口径、aはコリメータホールの長さ、bはコリメータトップから

線源までの距離、cはシンチレータの平均検出距離と呼ばれる値で、従来の検出器におい

て γ 線が全てのエネルギーを落とすまでにシンチレータ内部を貫通する平均の距離を表

す。式 (1.2)から判るように、コリメータの寄与により位置分解能を向上させようと思え

ばコリメータ開口径 dを小さくするか、コリメータの長さ aを長くするのが妥当である。

1.3 コリメータとシンチレータを一体化させたデザイン

本研究で検証するのは図 1.4に示されるような、コリメータホール毎にシンチレータを

あてがい、それぞれを基板上に配置された小型の光検出器MPPC(詳細は 3章に記述)で

読み出すというアイデアである。このデザインが従来のアンガー法と異なる点は、まず光

検出気の出力信号で重み付けを行う解析の必要がないという点があげられる。これはコリ

メータ壁によりセパレートされたシンチレータが γ 線を検出した際に、発生するシンチ

レーション光が対応したチャネルの光検出器以外で検出されないためであり、同時にアン

ガーカメラの位置分解能の向上を妨げていた原因の一つであるシンチレーション光の拡散

の問題への解決策となる。またこのことが検出器の総合位置分解能の向上に貢献する寄与

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4 2 ガンマ線と物質との相互作用

図 1.4 検証する検出器のデザイン

は、まず式 (1.2)において、蛍光が他のチャンネルへ拡散しないためシンチレータの平均

検出距離 cを事実上無視できるという点と、従来、光検出器として用いられていた PMT

に比べ圧倒的に小型である MPPC を利用することによりコリメータ開口径 d を最小で

1mm程度まで小さくできる点も総合位置分解能の向上に寄与する。さらに、このデザイ

ンの場合ガンマカメラの固有分解能 Ri は検出器ピクセルのサイズに依存するため、コリ

メータ開口径を小さくできることが大きく効いてくると予想される。

対して、デザインの変化により発生する問題点もいくつかあり、例えばチャネル数が増

加するため、光検出器MPPCの応答が駆動電圧に依存性することやシンチレータの発光

量のばらつきなど、チャネルの個性を最小限に抑える工夫は必須となる。

2 ガンマ線と物質との相互作用

本研究の目標である SPECT用ガンマカメラの検出対象は γ 線であり、一般にエネル

ギー領域が数 keVから数MeVに渡る高エネルギー光子のことを指す。γ 線の発生機構と

しては、高速電子の輻射過程をはじめ原子核内のエネルギー順位の遷移などによる。

γ 線と物質との相互作用は主として 3 つの過程に分けることができ、すなわち光電効

果、コンプトン散乱、電子対生成である。この他には原子核反応も起こることがあるが、

上記の過程と比べてその頻度はかなり小さいのでここでは省略することとする。

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2.1 ガンマ線の吸収、散乱 5

2.1 ガンマ線の吸収、散乱

物質による γ 線の吸収の度合いは吸収体の厚みによって変化し、例えば I0 個の光子が

厚さ dxの吸収体を通過した際、吸収された光子数は I0 および dxに比例する。一般に吸

収体内を dだけ通過した後の光子の数 I は次式で与えられる。

I = I0 exp(−µd) (2.1)

ここで µは線型吸収定数 (linear absorption coefficient)と呼ばれ、さらにこれは吸収の

原因によって以下のように分けることができる。

µ = µpe + µcs + µpc (2.2)

ここで µpe,µcs,µpcはそれぞれ光電効果 (photoelectric effect)、コンプトン散乱 (Compton

scattering)、電子対生成 (electron pair creation)による吸収係数を表している。

γ 線の吸収について、ある吸収体の厚み以上を透過しない確率はどのくらいかという量

が定義でき、光子数が元の 1/eになる暑さを平均飛程 (mean range)という。この量は式

(2.1)より明らかに 1/µに等しい。また、吸収体の厚さを g/cm2 の単位で測ったときの µ

を質量吸収係数 (mass absorption coefficient)と呼ぶ。

2.1.1 光電効果

γ 線が原子内の束縛電子と相互作用した際、自身の全エネルギー hν を電子に与え、エ

ネルギーを受け取った電子が hν − I の運動エネルギーを得て原子の外へ飛び出す現象が

光電効果である。このとき、Iは軌道電子の束縛エネルギーであり、弾き出された電子を

光電子と呼ぶ。光電効果は γ 線のエネルギーが Iより少し上で最も起こりやすく、さらに

エネルギーが増すと急激に減少する。またエネルギー保存則と運動量保存則の両方を同時

に満たすため、電子の束縛エネルギーが大きいほど光電効果の断面積は大きくなり、一般

的に K殻電子による吸収が最も多く γ 線のエネルギーが K殻の結合エネルギーより大き

い場合はおよそ 80%の確率で K殻電子が弾き出される。電子が飛び出した原子は励起状

態にあるため、基底状態に戻る場合には X線を放出する。

入射 γ 線のエネルギーが吸収体の K 吸収端より十分に高く、かつ非相対的なエネル

ギー領域 (hν << mec2)の場合において、原子番号 Zを持つ原子中の K殻電子による光

電効果の反応断面積を以下の式 (2.3)に示す。

σp (K) = σT 4√2Z5

1374

(mec

2

) 72

∝ Z5 (hν)−7/2

(2.3)

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6 2 ガンマ線と物質との相互作用

ここで、σT はトムソン散乱 (Thomson scattering)の散乱断面積であり、

σT =8π

3r2e = 6.65× 10−25cm2 (2.4)

と表される。re は古典的電子半径とする。

一方、相対論的なエネルギー領域においては以下の式 (2.5)で示される。

σp (K) = σT

3

2

Z5

1374mec

2

hνexp−πα+ 2α2 (1− lnα) (2.5)

但し、α = Z/137である。

以上のように σp(K) は γ 線のエネルギーが電子の静止エネルギー (mec2 = 511keV)

に比べて小さい時には (hν)−7/2 に従い、逆に高くなると (hν)

−1 に従って ν の増加とと

もに緩やかに減少する。

I << hν << mec2 の範囲において光電効果の吸収係数は [6]によれば、

µpe ∼ NZ5 (hν)−7/2

(2.6)

である。ここで Nは体積 1cm3 中の原子数を表す。

本実験でのシンチレータ内での γ 線と物質の相互作用のほとんどはこの光電効果で

ある。

2.1.2 コンプトン散乱

束縛電子の結合エネルギーが無視できるほど γ 線のエネルギーが大きくなるとコンプ

トン散乱が起こる。これは γ 線が電子との衝突時にそのエネルギーの一部を電子に与え

て弾き出し、自身は消滅せずに散乱される現象であり、光子と軌道電子の弾性散乱として

扱う。このときエネルギー hν0 の γ 線と自由電子との衝突過程においてエネルギー保存

則および運動量保存則を適用すると、散乱光子のエネルギー hν を求めることができ次式

(2.7)のように表される。

hν =hν0

1 + (1− cos θ)hν0

mec2

(2.7)

ここで入射 γ 線と散乱 γ 線とのなす角を θとしている。

また、始め静止していた電子が衝突後に得たエネルギー Eは、

E = hν0 − hν =hν0

1 +mec

2

hν0 (1− cos θ)

(2.8)

上式 (2.8)で電子が得る最大のエネルギー Emax は後方散乱の場合、すなわち γ 散乱線が

180°後方へ散乱されて電子が入射 γ 線の方向に進む場合 (θ = π)のときであり、ある程

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2.1 ガンマ線の吸収、散乱 7

度エネルギー分解能のよいシンチレーション検出器による γ 線スペクトルのコンプトン

端 (Compton edge)として観測される。

式 (2.8)から明らかなように、hν0 << mec2 の場合には Eが無視できるほど小さいが、

hν0 >> mec2 になると Eは hν0 に近づく。

コンプトン散乱の微分断面積は量子電磁気学のクライン-仁科の式によって計算できて、

文献 [5]によればこの式は、

dΩ=

r2e2

1

[1 + γ (1− cos θ)]2

(1 + cos2 θ +

γ2 (1− cos θ)2

1 + γ (1− cos θ)

)(2.9)

と表され、ここで γ = hν0/mc2 である。

これを dΩで積分すれば、電子一つに対するコンプトン散乱の全断面積を計算できて次

式 (2.10)のようになる。

σC = 2πr2e

(1 + γ

γ2

[2 (1 + γ)

1 + 2γ−

1

γln (1 + 2γ)

]+

1

2γln (1 + 2γ)−

1 + 3γ

(1 + 2γ)2

)(2.10)

これをエネルギーの関数としてプロットすると図 2.1のようになる

また式 (2.9) からコンプトン散乱の吸収係数 µcs を計算でき、hν0 >> mec2 の領域

では、

µcs ∼NZ

hν0

(ln 2γ +

1

2

)(2.11)

となる。上式 (2.11) よりコンプトン散乱は hν0 とともに小さくなることが予想される。

入射 γ 線のエネルギーが 0.1MeVのあたりでは、コンプトン散乱は光電効果に比べ反応

断面積が小さいので本研究では興味の対象ではない。

2.1.3 レイリー散乱

原子中の電子に対してエネルギーの小さい光子が衝突したとき、入射光子が電子の束縛

エネルギーよりも大きなエネルギーを持っていた場合は光電効果を起こして電子を弾き出

すが、そうでない場合には原子核とのクーロン引力により電子は飛び出さず、受け取った

エネルギーを光子として放出することになる。これをレイリー散乱 (Rayleigh scattering)

と呼ぶ。このときの反跳エネルギーはほんのわずかであり弾性散乱として扱うことができ

る。レイリー散乱の散乱断面積を式 (2.12)に示す。

σR =8π

3r2e

ω0

)4

∝ ω4 (2.12)

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8 2 ガンマ線と物質との相互作用

図 2.1 コンプトン散乱の断面積 [5]

上式から、レイリー散乱が起こる確率は入射光子の振動数の 4乗に比例する事が判る。レ

イリー散乱は主に散乱体の大きさが電磁波の波長に比べて十分に小さい場合に議論される

もので、一般に原子の電子の運動による分極において ω0 は紫外線領域であるから可視光

の場合に有効であるが、今回の研究に用いた γ 線のエネルギーは 122keVであり可視光に

比べて圧倒的に振動数が大きいためレイリー散乱は無視できる。

2.1.4 電子対生成

電子対生成は γ 線が原子核近傍で消滅し、電子陽電子対が創生される過程である。この

反応が起こるためには γ 線のエネルギーが電子対の全静止質量よりも大きくなければな

らず、つまり hν0 ≧ 2mec2 = 1.022MeVでなければ起こらない。

文献 [6]によれば電子対生成の吸収係数 µpc は、

µpc ∼

NZ2(hν0 − 2mc2

)for hν0 ≧ 2mec

2

NZ2 lnhν0 for hν0 ≫ 2mec2

(2.13)

である。式 (2.13) より hν0 が増すにつれて µpc は概ね直線的に大きくなり、高エネル

ギー領域では対数で緩やかに増大する。

以上より定性的に線吸収係数 µは原子番号 Zの関数と見ることができて、低エネルギー

領域においては光電効果が最も多く Z5 に比例する。エネルギーが大きくなるとコンプト

ン散乱が主体となりこのとき µは Z に比例し、さらに高エネルギー領域では電子対創生

が最も主要となるので Z2 に比例する。

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2.2 シンチレーション 9

図 2.2 γ 線のエネルギーと物質との相互作用の関係

2.2 シンチレーション

前に述べた γ 線と物質の相互作用によって、物質内には原子から電離された高エネル

ギーの反跳電子が発生する。一般に荷電粒子が物質中を通過してエネルギーを失う過程で

原子または分子を励起し、この励起状態から基底状態へと遷移するときに発光する現象を

シンチレーションという。シンチレーションにより放出された紫外線などを一般に蛍光と

呼び、これは通常の物質では非常に微弱なものだが特に強い蛍光を放出する物質をシンチ

レータと呼ぶ。

シンチレータの役割は数十 keV 以上のエネルギーを持つ放射線を数 eV の複数の光子

に変換することであり、このとき放射線の全ての電離エネルギーがシンチレーションに費

やされるわけではなくある程度の損失がある。この損失が少ないことを蛍光収集率が高い

といい、損失が少ないほどシンチレータの光量が大きい。

シンチレータはその化学組成において大別して 2 つの種類があり、それぞれ有機シン

チレータと無機シンチレータであるが、γ 線の検出器に使用するシンチレータとしてはシ

ンチレータ内で入射 γ 線を止め、検出効率を引き上げるために高密度且つ実効原子番号

Zeff の大きい無機シンチレータが適している。以下では無機シンチレータについて説明

する。

2.2.1 無機シンチレータ

無機シンチレータは NaI:Tlによって代表されるような金属のハロゲン化物結晶が主な

もので、蛍光の放出率を上げるために活性化物質と呼ばれる少量の不純物(モル比で 10−3

程度)を混ぜたものが多い。

放射線の計測に用いられるシンチレータは、計測する放射線の種類や目的に応じて発光

特性、物理的性質、元素組成や入手難度などを考慮して選ばれる。主な無機シンチレータ

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10 3 実験装置

の種類と特性を表 1 に示す。NaI:Tl、BGO などは以前から PET 等に搭載されてきた。

無機シンチレータの発光原理を無機結晶のバンド構造モデルを用いて説明する。バンド構

表 1 単結晶シンチレータの各特性 [9]

シンチレータ NaI:Tl BGO GSO LSO YSO

密度 [g/cm3] 3.67 7.13 6.71 7.4 4.45

放射長 [cm] 2.6 1.11 1.38 1.14 2.75

蛍光減衰時間 [ns] 230 300 30-60 40 40

蛍光出力 [相対値] 100 7-12 20 40-75 30-45

発光波長 λem[nm] 415 480 430 420 420

屈折率 (at λem) 1.85 2.15 1.85 1.82 1.8

造モデルでは、全ての電子は価電子帯にあり、価電子帯と伝導帯の間には電子の存在でき

ない禁則帯がある。伝導体に励起された電子は結晶内を自由に移動することができるが、

無機結晶では禁則帯の幅が 5 ∼ 10eVと大きく、常温(0.05eV以下)では電子は伝導体に

励起されない。しかし活性化物質を添加して結晶を生成するとこれが格子欠損となり、禁

則帯に不純物による基底準位が作られることになる。この準位が放射線によって励起され

るとシンチレーションを伴うエネルギー遷移の効率が上がる。

放射線が無機シンチレータに入射すると、まず放射線の吸収により結晶内の原子が励起

され電子と正孔がつくられる。このとき電子は伝導体に励起され価電子帯には正孔が残

る。そして電子は伝導帯中を移動して活性化物質原子に捕獲され、同時に活性化物質が励

起状態になると、寿命によって蛍光を放出しいずれは基底準位に遷移する。以上の過程を

シンチレーションと呼び、放射線のエネルギー吸収に伴い直ちに発光する現象である。

3 実験装置

ここでは、本研究の各種測定に用いた装置について記述する。

3.1 線源 Co-57

今回の実験に用いた密封放射線源は 57Coであり、その崩壊図を図 3.1に示す。崩壊機

構は電子捕獲 (Electron capture:EC)であり、これは軌道電子が陽子過剰な原子核に取り

込まれ、捕獲された電子と原子核内の陽子が反応して中性子となり同時に電子ニュートリ

ノを放出する過程である。

p+ e− → n+ νe (3.1)

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3.1 線源 Co-57 11

図 3.1 57Coの崩壊図 [4]

電子捕獲では陽子数が 1 減少し中性子数が 1 増加するため、質量数は変化せず原子番

号が 1 だけ減少する。β+ 崩壊と競合する場合も多いが、親核と娘核のエネルギー差が

1.022MeVに満たない場合には電子捕獲のみが起こる。57Coの場合には 836keVのエネ

ルギー差のため、崩壊は全て電子捕獲であり崩壊後 57Feの基底状態となる。

図 3.2 パッケージ寸法

図 3.3 線源の写真

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12 3 実験装置

3.2 LSOシンチレータ

本研究で用いたシンチレータは LSOと呼ばれるもので、組成は Lu2SiO5 : Ceである。

LSO には活性化物質として Ce が添加されており、結晶中の Ce3+ が有効な発光中心に

なっていると考えられる。3価の希土類イオンの 5d-4f遷移に伴う発光を利用したシンチ

レーションは発光量が多く蛍光寿命が短いといった特徴がある。

また、結晶のサイズは 1mm× 1mm× 20mmのものを用意した。

図 3.4 使用した LSOシンチレータ

3.3 鉛コリメータ

SPECT 用ガンマカメラにはシンチレータへの入射 γ 線の方向を制限するためにコリ

メータが必要である。本研究ではヨシザワ LA社に発注した全長 60mmのパラレルコリ

メータを用いた(図 3.5)。このコリメータは開口径 1.2mmの正方形ホールを、縦 10×

横 10の計 100個持ち、それぞれのホールを隔てる壁の厚みは 0.18mmである。材料はほ

ぼ鉛だが、強度を増すために 4%程のアンチモンを含む。

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3.4 クリアファイバー 13

図 3.5 使用した鉛コリメータ

3.4 クリアファイバー

シンチレータと光検出器 MPPC との間のライトガイドとして用いたのは直径 1mm、

長さ 60mmのクリアファイバーである。尚、端面の状態が一様になるように磨いてある。

3.5 光検出器 MPPC

図 3.6 MPPC(S12571-050P)[8]

本検証実験では、コリメータホールの一つ一つに

独立したシンチレータが対応していて、それらか

らの蛍光を受け取る光検出器がシンチレータと同

じ数だけ必要になるため、できるだけ安価で用意

しやすい検出器がよい。また、ライトガイド*2 を

短くする事が高検出効率につながるため十分に小

型であることも要求される。これらの要求を満たす

光検出器として、浜松ホトニクス社が開発している

MPPC(Multi-Pixel Photon Counter) を利用する

ことにした。

*2 シンチレータと光検出器をつなぐ部分のこと。本研究においてはクリアファイバーを使用した。

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14 3 実験装置

MPPC の主な特徴は以下のように挙げられる。

1. 小型で安価

2. 磁場中、常温で動作可能

3. 低バイアス電圧で動作 (<70V*3)

4. 高ゲイン (∼ 106)

5. 優れたフォトンカウンティング能力

使用したのは S12571-050Pシリーズ(図 3.6)であり、SMD(Surface Mount Detector)

と呼ばれるタイプのパッケージである。同社製の他のMPPCと比べてダイナミックレン

ジは小さい部類に入るが本研究の用途には十分であり、一つ一つのサイズにおいて SMD

タイプは現状で最小 (2.4mm× 1.9mm× 0.9mm)であることが利点となる。

3.5.1 MPPC の原理

ここではMPPCの動作原理について説明する。p型半導体と n型半導体を接合させた

ダイオードを光検出器として用いるデバイスをフォトダイオードと呼び、その中でもアバ

ランシェ増幅と呼ばれる現象を利用しているものは APD(Avalanche Photo Diode) とい

う。本研究に用いる MPPC は Si-PM(Silicon Photomultiplier) デバイスの一種で、ピ

クセル化された多数の APD により構成されている。

APD ピクセルの一つ一つでは、p型と n型の半導体接合部において互いにキャリアが

打ち消し合ってキャリアが少なくなった空乏層領域が存在しており、ここに半導体の禁制

帯幅 Eg よりも大きなエネルギーを持つ光子が入射すると、内部光電効果により電子が励

起され電子正孔対が生成する。

hν = Eg (3.2)

ここで、h はプランク定数、ν は入射した光子の振動数である。

通常、pn接合半導体は逆バイアスをかけてもほとんど電流を流さないが、逆バイアスが

ある閾値を越えるといきなり電流を流すようになる。突然に電流が流れ出すこの現象をブ

レイクダウンといい、その閾値のことをブレイクダウン電圧と呼ぶ。ブレイクダウンが起

こる仕組みにはツェナー降伏と電子雪崩降伏の二つがあり、以下でこれらの説明をする。

まずツェナー降伏は、大きな逆バイアス電圧がかかることによって p型半導体部分の荷

電子帯にあった電子がトンネル効果により禁制帯を通り抜け、n型半導体部分へと移る際

に電流が流れる現象である。また、同じく大きな逆バイアスがかかっている時は空乏層内

部に高電場が発生し、そこへ電子が入ると電場による加速を受ける。加速された電子が十

分なエネルギーを得ると結晶格子の結合を切って電子正孔対を生成することがある。ここ

*3 浜松ホトニクス社製 S12571-050P の場合。

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3.5 光検出器 MPPC 15

図 3.7 ツェナー降伏 [1] 図 3.8 電子雪崩降伏 [1]

で生成された電子がまた電場によって加速され、再び電子正孔対を生成する。このように

次々と電子正孔対が生成され、電子数が増幅する現象をアバランシェ増幅と呼び、このと

き大電流が流れる現象を電子雪崩降伏という。

フォトダイオードにブレイクダウン電圧以上の逆バイアスをかけて動作させ、そこへ光

子が入射すると内部で電子を生成、この電子がアバランシェ増幅を起こすことを利用して

光信号を検出、増幅するするのが APD である。一つの APD をブレイクダウン電圧以上

の逆バイアスで動作させると、同時に入射する光子数に関係なく一定の信号を出力するこ

とが知られており、この状態のことをガイガーモードと呼ぶ。ガイガーモード APD 単一

素子では光子が入射したか否かの 2値しか判らないが、MPPC はガイガーモード APD

ピクセルを大量に並べて光子数のカウンティングを可能にしている。

次に、MPPC の動作について説明する。

図 3.9 MPPC 内部回路 [1] 図 3.10 ガイガーモード APD の動作 [1]

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16 3 実験装置

MPPC の受光面を構成する APD はブレイクダウン電圧より数ボルト程度高い逆バイ

アスを印加することでガイガーモードで作動する。このとき、光子が入射して電子雪崩降

伏が起こったピクセルから、ピクセル一つ一つに直列に接続されたクエンチング抵抗へ電

流が流れると電圧降下が起こる。その後再充電によって逆バイアスは元に戻り、再びガ

イガーモードで動作できるようになる。この再充電にかかる時間は数ナノ秒と言われて

いる。

個々の APD が並列に接続されているため MPPC の出力信号は受光面を構成するピ

クセルすべての出力信号の和となる。同時に複数のピクセルが信号を出力した場合に、

MPPC の出力信号の高さや積分電荷量を測定することで入射光子数を計数できる。

3.6 エレクトロニクス

ここでは検出器からの信号を扱うための電子回路などについて説明する。

3.6.1 MPPCの読み出し回路

本研究では 9チャネルのMPPCからの信号を同時に読み出せる回路が必要となる。そ

こで図 3.12 のような読み出し回路を用意した。これには 9 チャネル分の MPPCそれぞ

れについてフィルター回路とバイアス調整用の可変抵抗器が実装されている。全体に共通

の HVをかけ、MPPCのアノード側にあるローパスフィルターと HV供給端子の間に可

変抵抗を挟み、アノード側の GNDからの電位を調整できる。

図 3.11 使用するMPPCアレイ 図 3.12 MPPCアレイ用の読み出し回路

3.6.2 NIM モジュール

NIM(Nuclear InstrumentModules)とはアメリカ原子力委員会 (AEC)において 1966

年に制定された「放射線測定モジュール標準規格TID-20893」に準拠した標準規格をさす。

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3.6 エレクトロニクス 17

この規格はロジックレベル、信号線、コネクタ形状、電源などについての規定であり、これ

に準拠する回路は一般に NIMモジュールと呼ばれている。NIMモジュールは標準 NIM

ビンと呼ばれる筐体にセットして使用し、モジュールの最小規格は横 1.35inch(3.43cm)

縦 8.75inch(22.225cm) である。筐体から供給される電源は ±6V,±12V,±24V であり、

適合するモジュールのロジックレベルは 0が 0V、1が 0.8Vとなっている。以下では本研

究に使用した NIMモジュールについて説明する。

・ASDBuffer(ASDamp.)

ASDamp.はMPPCの出力信号を増倍する目的で用いる。筐体にセットする NIMモ

ジュールは ASDBufferのほうで、両方を合わせた場合には入力電荷をおよそ 600倍にし

て出力する。電荷量の分解能は良いが、シェーピング時の性質としてある一定以上の電荷

量の信号を整形する際にはパルスの時間幅が大きくなる。

図 3.13 ASDamp.によるMPPCの出力信号 図 3.14 光量が大きい時の ASDamp.の応答

・Discriminator

Discriminator は入力信号の波高がある閾値を超えたときにロジック信号を出力する

回路である。この閾値のことを threshold 電圧と呼び、興味のある信号が発生した時に

ADCモジュールのゲートを作成するためのトリガーとして用いた。

・FAN-IN/OUT

FAN-IN/OUT モジュールは複数のロジック信号の OR を出力することができる。本

実験では 9chMPPCarray 上の各チャンネルでヒットがあったときに Discriminator か

ら出力される NIMパルスの ORを作って一本の信号線にまとめ、ADCモジュールのト

リガーに使えるようにした。

・Gate Generator

GateGeneratorは入力された NIMパルスにディレイをかけたり、幅を一定にできる。

今回は ADCモジュール用のトリガーパルスの幅を一定に揃える目的で用いた。

・ClockGenerator

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18 4 検証実験

ClockGeneratorは任意の幅の NIMパルスを任意の時間間隔で出力することができる。

本研究では LED駆動用のパルスを発生させるために使用した。

・ADC

ADC(Analog toDigital Comverter) はアナログ入力信号の波高や電荷量をデジタル値

へ変換する回路である。本研究で使用した ADCモジュール (CAEN-V792N)は VMEと

いう規格に基づく設計であり、NIMビンではなく専用の VMEラックとコントローラを

必要とする。用意したモジュールは 12bit分解能の電荷積分型 ADCを 16チャンネル分

備えており、ダイナミックレンジは 400pC である。任意の時間幅を持つ NIM パルスを

ゲートへ入力すると、ゲートのロジックレベルが 1の間だけ信号の電荷量を積分し、デジ

タル値に変換する。ゲートは 16チャネル共通であり、AD変換にかかる時間はカタログ

値で 2.8µsである。

4 検証実験

4.1 LSOシンチレータの光量測定

ここでは使用した LSOシンチレータの光量の測定について述べる。まず、シンチレー

タを MPPCの受光面に接触させ、57Coによる 122keVの γ 線で光量測定を行った。そ

の際のセッティングを図 4.1 に示す。シンチレータと MPPC のカップリングは受光面

とシンチレータ端面が合うように気をつけているが、グリスなどによる光学的な結合は

なく、空気接触である。また使用した MPPC は S12571-050P であり、バイアス電圧は

V0 + 2.5[V]とした。トリガーパルスの幅は 400nsとし、ADCモジュールのオーバーフ

ローを防ぐため Attenuatorモジュールを使用している。

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4.1 LSOシンチレータの光量測定 19

図 4.1 光量測定時のセットアップ(ダイレクトカップリング)

測定の結果、図 4.2 のような ADC 分布が得られ、122keV の γ 線によって

67.5 photo electronの光量を得ることができた。

DATAEntries 20000

Mean 2534

RMS 663.9

/ ndf 2χ 58.78 / 41

Constant 5.3± 479

Mean 4.9± 2527

Sigma 5.8± 448.6

Channel0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

Cou

nts

0

100

200

300

400

500DATA

Entries 20000

Mean 2534

RMS 663.9

/ ndf 2χ 58.78 / 41

Constant 5.3± 479

Mean 4.9± 2527

Sigma 5.8± 448.6

Direct LSO

図 4.2 ダイレクトカップリングでの光量測定

次に、MPPCとシンチレータとの間にクリアファイバーを用いてライトガイドとした

ときの光量測定を行った。セッティングは図 4.3 に示すとおり、MPPC と LSO シンチ

レータの間を直径 1mm、長さ 60.2mmのクリアファイバーでつなぎ、Discriminatorの

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20 4 検証実験

thresholdと Attenuatorの倍率を変更した。得られた ADC分布を図 4.4に示す。

図 4.3 光量測定時のセットアップ(ファイバー読み出し)

DATAEntries 1000000

Mean 1736

RMS 455.5

/ ndf 2χ 2930 / 522

Constant 5.2± 3595

Mean 0.7± 1837

Sigma 0.6± 381

Channel0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

Cou

nts

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

DATAEntries 1000000

Mean 1736

RMS 455.5

/ ndf 2χ 2930 / 522

Constant 5.2± 3595

Mean 0.7± 1837

Sigma 0.6± 381

Co-57

図 4.4 ファイバー読み出しでの光量測定

このヒストグラムより、ファイバー読み出しでの獲得光量は 14.6 photo electronであっ

た。ファイバーによるライトガイドを設けたことで、獲得光量はダイレクトカップリング

に比べ 80%程度減少している。

次に、獲得光量のファイバーの長さによる依存性を測定した結果を示す。前に述べた光

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4.2 MPPCのゲイン測定 21

量測定のセッティングと同様の装置を用い、長さの違う複数のファイバーを取り替えなが

ら測定を行った。横軸にファイバー長 [mm]、縦軸に光量 [p.e.]をプロットしたグラフが

図 4.5である。

Fiber Length [mm]30 40 50 60 70 80

Pho

to E

lect

ron

0

5

10

15

20

25 / ndf 2χ 0.007122 / 6

p0 0.0621± -0.0176 p1 3.566± 15.76

/ ndf 2χ 0.007122 / 6p0 0.0621± -0.0176 p1 3.566± 15.76

PhotoElectron-FiberLength

図 4.5 獲得光量のファイバー長さ依存性

縦軸の誤差は σ を採用している。プロット点を一次関数でフィットした結果によると、

ファイバーの長さが 25cm ∼ 85cm の範囲では長さが 1cm 増大するときの光量の減少は

0.02 photo electron 程度に収まっており、今回光量を測定した範囲では使用するファイ

バーの長さに対する光量の変化は十分に小さいと言える。また、フィットした一次関数の

y 切片は 15.8 photo electron 程度となっており、これはファイバーを使用しなかった場

合(ダイレクトカップリング)の結果である 67.5 photo electron に比べ 1/5 程度でしか

ない。このことから、主に LSOシンチレータ端面からファイバー端面への光子受け渡し、

また同様にファイバー端面からMPPC受光面への光子受け渡し時に光量のロスが起こる

と考えられる。

4.2 MPPCのゲイン測定

チャネル毎の個性をできるだけ小さくするために、MPPCのゲインを一定に揃える必

要がある。そこで検出器に使用するMPPCすべて、計 9個分の性能を測定した。ここで

ゲインとは、APDピクセルに光子が入りアバランシェ増幅が起きた際の電子数の増倍率

のことをいう。ゲインを Gとおき、出力信号の積分電荷量を Qとおくと、以下の式 (4.1)

が成り立つ。

Q = e×G (4.1)

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22 4 検証実験

ここで eは素電荷である。出力信号の積分電荷量 Qは実験で測定することができて、そ

の測定のセットアップを図 4.6に示す。

図 4.6 ゲイン測定のセットアップ

DATAEntries 10000Mean 964.8RMS 614.5

Channel0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

Cou

nts

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

DATAEntries 10000Mean 964.8RMS 614.5

ch3hv65.5led

図 4.7 LEDトリガーでの ADC分布

得られる ADC 分布は図 4.7 のようになり、横軸の 500ch あたりにあるピークが

1 photo electron のピークとなる。その右側が 2 photo electron ピークであり、これらの

ADCカウントの差分が 1 photo electronの出力電荷量に相当する値となる。この値を d

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4.3 3× 3 マトリクス型検出器 23

として、使用した ADCモジュールの分解能 rとアンプの増倍率 Aを用いると、

G =d× r

A× e(4.2)

が成り立つ。今回使用した ADC モジュールの分解能は r = 100 fC/ADCchannel であ

り、アンプ増倍率は A = 596である。式 (4.2)より、dを測定すればその時のゲインが求

められる。以下に示す図 4.8は異なるバイアス電圧をMPPCに印加したときの測定の結

果であり、横軸がバイアス電圧、縦軸にゲインをとってプロットした。

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 1.775 / 3p0 1.144e+04± 3.554e+05 p1 0.04355± -63.93

/ ndf 2χ 1.775 / 3p0 1.144e+04± 3.554e+05 p1 0.04355± -63.93

ch4

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 5.998 / 3p0 1.573e+04± 3.71e+05 p1 0.05339± -63.99

/ ndf 2χ 5.998 / 3p0 1.573e+04± 3.71e+05 p1 0.05339± -63.99

ch5

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 3.938 / 4p0 7094± 3.442e+05 p1 0.03494± -63.73

/ ndf 2χ 3.938 / 4p0 7094± 3.442e+05 p1 0.03494± -63.73

ch7

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 4.087 / 4p0 7278± 3.738e+05 p1 0.02871± -63.94

/ ndf 2χ 4.087 / 4p0 7278± 3.738e+05 p1 0.02871± -63.94

ch3

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 3.757 / 1p0 3.606e+04± 3.517e+05 p1 0.1447± -63.7

/ ndf 2χ 3.757 / 1p0 3.606e+04± 3.517e+05 p1 0.1447± -63.7

ch6

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 5.189 / 4p0 8134± 3.663e+05 p1 0.03167± -63.97

/ ndf 2χ 5.189 / 4p0 8134± 3.663e+05 p1 0.03167± -63.97

ch8

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 2.163 / 4p0 6257± 3.58e+05 p1 0.02811± -63.89

/ ndf 2χ 2.163 / 4p0 6257± 3.58e+05 p1 0.02811± -63.89

ch2

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 3.893 / 4p0 7086± 3.601e+05 p1 0.02741± -64.03

/ ndf 2χ 3.893 / 4p0 7086± 3.601e+05 p1 0.02741± -64.03

ch1

Bias Voltage [V]64.8 65 65.2 65.4 65.6 65.8 66 66.2

Gai

n

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000310×

/ ndf 2χ 0.06596 / 2p0 1.552e+04± 3.606e+05 p1 0.0537± -64.03

/ ndf 2χ 0.06596 / 2p0 1.552e+04± 3.606e+05 p1 0.0537± -64.03

ch9

図 4.8 アレイ上の MPPC のゲインカーブ

プロット点を一次関数でフィットし、以降はその結果から計算してMPPCのゲインが

4.0× 105 になるようにそれぞれのバイアス電圧を調整した。

4.3 3× 3 マトリクス型検出器

まずシンチレータ 9 本を、コリメータホールで作られた 3 × 3 のマトリクス上に挿入

した検出器を試作した(図 4.9)。図 4.10のようなセットアップでこの検出器の前に線源

を置き、1mmずつ動かして計測を行った。但し、使用したファイバーの長さは 60mmに

揃えてあり、シンチレータトップからコリメータトップまでの長さは 30mmに調整した。

15分程度の時間で ADCを取得し、それぞれのチャネルのMPPCが出力した信号のうち

122keV ± 8keV の範囲の大きさのものを計数してプロットしたのが図 4.3 であり、線源

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24 4 検証実験

が検出器面を横切ってゆくのが見て取れる。複数のチャネルで検出されているのは主に線

源パッケージの大きさがコリメータ開口径よりも大きいことによる寄与である。また線源

を置かずに計測したのが図 4.12であり、多少のばらつきが認められる。このバックグラ

ウンドイベントを作るのは LSOシンチレータ内部に微量含まれる 176Luと、鉛コリメー

タを貫通してきた大気放射線であると考えられる。

図 4.9 試作した検出器

図 4.10 試作検出器での計測

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

図 4.11 線源を移動したときの検出器の応答

4.4 1× 9 マトリクス型検出器と位置分解能

3× 3マトリクスタイプでは位置分解能の評価が難しいと判断し、シンチレータを一列

に並べた 1× 9タイプの検出器を作成し位置分解能を評価した。図 4.9に対して、水平方

向一列に計 9 つのコリメータホールを選び、その中にシンチレータを挿入した。読み出

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25

x[mm]

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

y[mm]

-2-1.5

-1-0.5

00.5

11.5

2

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

Cou

nts

0

200

400

600

800

1000

1200

HIT

図 4.12 バックグラウンドイベントの様子

しにはファイバーを用いているのでMPPCの配列にはある程度自由が効くため、3× 3

検出器の時と同じMPPCアレイを用いることにした。また、使用したファイバーとコリ

メータ長も同じである。線源を検出器前の適当な場所に置いて 20 分程度の時間で ADC

を取得し、エネルギーウインドウの中に入ったイベント数を計数してプロットしたのが図

4.14である。隣の図 4.13は線源を置かずにバックグラウンドイベントのみを計数した結

果である。図 4.14のプロット点を、一次関数で底上げをしたガウシアンでフィットした

[mm]-6 -4 -2 0 2 4 6

Cou

nts

0

500

1000

1500

2000

2500 / ndf 2χ 86.62 / 8p0 5.998± 323.8

/ ndf 2χ 86.62 / 8p0 5.998± 323.8

Hit

図 4.13 バックグラウンドイベントの様子

[mm]-6 -4 -2 0 2 4 6

Cou

nts

0

500

1000

1500

2000

2500 / ndf 2χ 50.22 / 5p0 128.8± 2004 p1 0.06409± 0.801 p2 0.07836± 1.018 p3 8.561± 289.4

/ ndf 2χ 50.22 / 5p0 128.8± 2004 p1 0.06409± 0.801 p2 0.07836± 1.018 p3 8.561± 289.4

Hit

図 4.14 1× 9検出器による計測

結果、σ = 1.02mmとなった。また図 4.13より、どのチャンネルにも平均して 300カウ

ント程度のバックグラウンドイベントがあることが判る。

5 結論

5.1 現状

実験的手法としてファイバーによるライトガイドを用いて小型半導体光検出器MPPC

と LSOシンチレータを接続し、コリメータとシンチレータを一体化させた SPECT用ガ

ンマカメラを試作した。その位置分解能は 1.02mm(sigma)となり、これは目標とする位

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26 5 結論

置分解能 1mm(sigma)に近い値となった。

しかし、LSOシンチレータ内部の崩壊核種 176Luによるバックグラウンドが観測され、

1MBq線源を用いた今回の測定については線源位置を検出できたが、より放射能密度の薄

いマーカーを用いる際には相対的にバックグラウンドイベントが多くなり、線源位置を正

しく検出できなくなることが予想される。

5.2 今後の課題

先述のとおり、LSOシンチレータを使うのであれば内部崩壊核種によるバックグラウ

ンドイベントの精密な評価が必要である。しかし、LSOの Luを Yで置換した YSOシ

ンチレータを使うことで、シンチレータ内部からのバックグラウンドイベントを事実上な

くすことができると考えられる。ただしこの場合には、新たな課題として YSOの光量測

定を行い、十分な性能であることを確認しなければならない。

また今回の測定では実験的手法としてMPPCとシンチレータの間にファイバーによる

ライトガイドを設けているが、これを取り払ってダイレクトカップリングでの読み出しを

検証することも必要である。シンチレータを LSOより光量の少ないものに交換する場合

はダイレクトカップリングの方が、光量のロスが少ないため適していると思われる。

さらに、コリメータホールとシンチレータが 1体 1対応したことにより高速のデジタル

読み出しが可能であるが、これに対応する読み出し用エレクトロニクスの開発や、今回作

成した 3 × 3 マトリクスよりもピクセル数の多い検出器を試作し、位置分解能、検出効

率、時間分解能などの性能を評価するという課題がある。

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5.2 今後の課題 27

付録

176Luの崩壊

図 5.1 176Luから放出される γ 線 [10]

本研究で使用した LSO シンチレータには

崩壊核種が微量含まれている。LSO の組成式

Lu2SiO5 : Ceによれば、崩壊核種は Luの同位

体 176Luのみである。図 5.1に 176Luの崩壊に

よって発生する γ 線を示し、図 5.2にはその崩

壊図を示す。176Luが 176Hf へ崩壊する過程で放出する γ

線のうち、88keV と 202keV のエネルギーは

SPECT用線源のエネルギー領域に近い値であ

り、これらは直接影響する可能性が高い。また

β 線も少なからず発生し、高いエネルギーの γ 線についてもシンチレータ内部で全てのエ

ネルギーを落とさずに外へ出てゆく場合や、それほど多くはないと思われるがコンプトン

散乱などにより多少なりとも影響を及ぼす可能性がある。

図 5.2 176Luの崩壊図 [10]

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28 5 結論

ここで LSO内部の崩壊が 176Luのみであると仮定して、1gの LSOシンチレータに含

まれる自己崩壊物質の放射能を理論的に計算すると次のようになる。

まず、Lu2SiO5 の分子量はM = 458 g/molであるから、LSO結晶 1gあたりの分子

数 NLSO は、NA をアボガドロ数として以下のように表せる。

NLSO =NA

M= 1.314× 1021 (5.1)

NLSO 個の LSO 分子があるとき、Lu 原子はその 2 倍の NLu = 2NLSO だけ存在する。176Lu の天然存在比は 2.59% であることを考慮すると、1g の LSO 結晶中の 176Lu の

数 N は

N = 0.0259×NLu = 5.874× 1019 (5.2)

である。ここで放射能を Aとし半減期を τ とすると次式が成り立ち、それぞれの変数に

値を代入して計算すると

A =ln 2

τ×N = 14.8 Bq/g (5.3)

と計算できる。

しかし 176Lu −→ 176Hf の崩壊過程では、図 5.2に示すように複数の放射線が発生する

ことには注意が必要である。

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5.2 今後の課題 29

謝辞

卒業研究のテーマ決めから本論文の作成にあたって適切な助言を賜り、また丁寧に指導

してくださった竹下徹教授、長谷川庸司准教授に感謝いたします。研究員の小寺克茂さん

には数々の素敵なアイデアをいただき、またゼミでは先生方とともに解りやすいアドバイ

スを賜りました、ありがとうございます。

院生の先輩方には測定に関することから研究生活に及び様々なアドバイスをいただきま

した。また研究を通じて議論に付き合ってもらった同期の皆にも感謝いたします。

最後に、研究に協力いただいた皆様と、大学へ通わせてくれた両親へ心からの感謝を捧

げ、御礼の言葉をもって謝辞とさせていただきます、ありがとうございました。

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30 参考文献

参考文献

[1] 小林秋人「新型 MPPC の性能評価」信州大学卒業論文 (2010)

[2] 黒石将弘「GEM を用いたガンマカメラの研究」信州大学修士学位論文 (2009)

[3] 山崎真「MPPCを用いた次世代 PET装置の基礎研究」信州大学修士学位論文 (2011)

[4] Ian Rittersdorf ”Gamma Ray Spectroscopy” Nuclear Engineering & Radiological

Sciences(2007)

[5] William.R.Leo ”Techniques for Nuclear and Particle Physics Experiments”

Springer-Verlag(1993)

[6] 三浦功、菅浩一、俣野恒夫「放射線計測学」裳華房 (1978)

[7] 日本核医学技術学会「核医学技術総論」(2010)

[8] 浜松ホトニクス社HP<http://www.hamamatsu.com/jp/ja/index.html>(2014.2.23)

[9] 日立化成社HP<http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/index.html>(2014.2.23)

[10] Table ofRadioactive Isotopes<http://ie.lbl.gov/toi/index.asp>(2014.2.23)