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埼玉県医師会 埼玉県健康スポーツ医会 健康スポーツ医 必携

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健康スポーツ医必携

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健康スポーツ医必携

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まえがき  埼玉県健康スポーツ医会は、日本医師会認定健康スポーツ医制度が平成3年4月に発足した2年後の平成5年に設立され、会員による幅広い活動が積み重ねられています。 「健康スポーツ医必携」は、平成8年に埼玉県医師会の支援をいただき埼玉県健康スポーツ医会により発刊され現在に至っています。 発刊20年後にあたり「健康スポーツ医必携」の改訂版の発刊の必要性が埼玉県健康スポーツ医会役員会で決議され、埼玉県健康スポーツ医会総会と埼玉県医師会理事会で承認されました。 国民の健康寿命延伸の政策、運動器や内科的疾患など健康スポーツ医学に関連する新たな内容等を取り入れ実践活動に役立つ内容とするため作成委員会を立ち上げ「健康スポーツ医必携」改訂版の編集案をまとめ、役員会で検討を加え内容が決まりました。 「健康スポーツ医必携」改訂版は、健康スポーツと競技スポーツ、また多くの診療分野にまたがる健康スポーツ医の活動領域を総論18項目と各論11項目にまとめ、見開きページのQ&A形式で分かり易く解説し、表は活用しやすくし、推奨文献を記載し、キーワードの索引を盛り込みました。 編集およびQ&Aの29項目の執筆は、埼玉県健康スポーツ医会の役員と会員の皆様の献身的な協力により行われ発刊されます。関係した皆様の貢献に感謝いたします。 健康スポーツ医としての実践者、健康スポーツ医を目指す医師に有用な内容と考えています。 「健康スポーツ医必携」改訂版を健康スポーツ医だけでなく学校医や産業医の皆様が学校や職場の運動処方・健康スポーツ活動に役立てていただくことを願っています。 最後に、ご支援とご協力を頂いた埼玉県医師会担当役員と事務局員の皆様に感謝申し上げます。

埼玉県健康スポーツ医会 会長 萎沢利行

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「健康スポーツ医必携」刊行に寄せて

 このたび、「健康スポーツ医必携」が、埼玉県医師会ならびに埼玉県健康スポーツ医会の共同事業により上梓されました。 本書が刊行された2016年は、折りしもリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックの開催年でありました。オリンピックでは過去最高の42個、パラリンピックでは前回大会を上回る24個のメダルを獲得しました。さらに2020年には東京オリンピックの開催をひかえて、国民のスポーツに対する関心はますます高まっていくものと思われます。地域医療を担う我々医師は、患者の健康のために、またスポーツを行う人々の健康を守るためにスポーツ医学の知識も持っておく必要があるでしょう。 本年度は、学校検診の中で運動器の項目が必須となった年でもあります。初年度は大きな混乱も無く動き始めたようですが、地域で学校医を担当している先生方は、今後、運動器の状態について生徒あるいは学校から相談を受ける可能性があります。専門科目にかかわらず、健康スポーツ医学を通して運動器について学んでいただきたいと思います。 地域包括ケアシステムが全県下で稼働し始めました。超高齢社会を迎えて、平均寿命は医学の進歩とともに大きくのびましたが、健康寿命をそれ以上に伸ばして行かなければ要医療・要介護状態の人がますます増えてしまいます。健康寿命伸延をめざして、高齢者が安全にスポーツを行うために健康スポーツ医学の意義は重要であると考えます。 これらの課題を解決するために、本書が少しでも皆様のお役に立てることを祈念しております。 無償で原稿を執筆していただいた著者の皆様、編集に携わっていただいた埼玉県健康スポーツ医会委員の皆様に、埼玉県医師会を代表してこの場を借りて御礼を申し上げます。

埼玉県医師会 会長 金井忠男

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 まえがき………………………………………………………………………… 2

 「健康スポーツ医必携」刊行に寄せて ……………………………………… 3

Ⅰ 総論

クリニカルクエスチョン1 国民の健康を増進するわが国の政策 ……………… 6

クリニカルクエスチョン2 高齢者のふさわしい運動法 ………………………… 8

クリニカルクエスチョン3 特定健診・特定保健指導でのメタボリックシンドローム …………………………10

クリニカルクエスチョン4 内科的メディカルチェックの必要性 ………………12

クリニカルクエスチョン5 整形外科的メディカルチェック ……………………14

クリニカルクエスチョン6 スポーツ時に配慮すべき循環器疾患 ………………18

クリニカルクエスチョン7 健康スポーツ診断書記載例 …………………………20

クリニカルクエスチョン8 運動強度、運動量、至適運動 ………………………22

クリニカルクエスチョン9 トレーニングの実際(筋力強化・ストレッチング) … 24

クリニカルクエスチョン10 スポーツ時の水分補給と栄養摂取 …………………26

クリニカルクエスチョン11 女性とスポーツ(無月経・骨粗鬆症等) ……………28

クリニカルクエスチョン12 アンチ・ドーピング …………………………………30

クリニカルクエスチョン13 小中学校における運動器検診 ………………………32

クリニカルクエスチョン14 健康スポーツ医資格取得と更新の手続き ………… 36

クリニカルクエスチョン15 健康スポーツ領域の学習目標 ………………………38

クリニカルクエスチョン16 内科的なスポーツ障害 ………………………………40

健康スポーツ医必携

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クリニカルクエスチョン17 成長期のスポーツ障害 ………………………………42

クリニカルクエスチョン18 市民マラソン等の医事運営 …………………………44

Ⅱ 各論

クリニカルクエスチョン19 ロコモティブシンドローム …………………………46

クリニカルクエスチョン20 健康づくりウォーキング ……………………………48

クリニカルクエスチョン21 救急処置(BLSとAEDの使用・突然死) ………… 50

クリニカルクエスチョン22 熱中症 …………………………………………………52

クリニカルクエスチョン23 脳しんとう・意識障害 ………………………………54

クリニカルクエスチョン24 落雷の予想と救命処置 ………………………………56

クリニカルクエスチョン25 運動後急性腎不全 ……………………………………58

クリニカルクエスチョン26 食物依存性運動誘発アナフィラキシー ……………60

クリニカルクエスチョン27 眼科傷害 …………………………………………………62

クリニカルクエスチョン28 腰痛と膝痛 ……………………………………………64

クリニカルクエスチョン29 応急処置(四肢の打撲・捻挫・肉離れ) ……………66

 キーワード索引…………………………………………………………………68

 編集著者一覧……………………………………………………………………70

目 次

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Ⅰ 総 論

 「健康日本21」と「スポーツ基本法」についてお話しします。健康日本21は平成25年から第2次健康日本21が実施されていますがこれは健康寿命伸延に関することです。一方スポーツ基本法は平成23年8月24日から施行され昭和36年に制定されたスポーツ振興法を50年ぶりに全部改定しました。スポーツに関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務とスポーツ団体の努力等を明らかにするとともに、スポーツに関する施策の基本となる事項を定めるものです。これらの2つの施策は車の両輪のように互いにバランスを取りながら実行されています。

「健康日本21」(第2次)(1 )健診・保健指導のあり方(特定健診・特定保健指導)……平成20年4月より、内蔵脂肪型肥満に着目した特定健康診査・特定保健指導が実施されています。40歳以上75歳未満の被保険者・被扶養者が対象となります。

(2 )生活習慣病予防……不健全な生活の積み重ねによって起こる生活習慣病は健康長寿伸延の最大の阻害要因です。国民医療費にも大きく影響しています。日常生活の中で適度な運動、バランスの取れた食生活、禁煙を実践することによって予防できます。

(3 )医療……けがや病気の時、安全で質の高い医療サービスを受けることができる医療提供体制は、赤ちゃんからお年寄りまで全国民が健康で長生きできる社会を目指しています。

(4 )介護・高齢者福祉……高齢者が介護を必要としたとき、住み慣れた地域や住まいで尊厳ある生活を送ることができるよう、質の高い保健医療福祉サービスの確保、安定した介護保険制度の確立を目指しています。

「スポーツ基本法」(1 )スポーツは世界共通の人類の文化です。(2 )スポーツは心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進、精神的な充足感の獲得、自律心その他の精神の涵養等のため個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動を言い、今日国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

国民の健康を増進する国民の健康を増進するわが国の政策

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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クリニカル・クエスチョン

的な生活を営む上で不可欠なものです。(3 )スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利で、全ての国民がその自発性、各々の関心、適性等に応じて、安全かつ公正な環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することができます。

◎健康日本21(第2次)(1 )健康寿命の延伸と健康格差の縮小を図ります。(2 )生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(Non-Communicable Disease;NCD;非感染性疾患)の予防を図ります。

(3)社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上を図ります。(4)健康を支え、守るための社会環境の整備を図ります。(5 )栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣及び社会環境の改善を図ります。

◎スポーツ基本法(1)スポーツを通じ幸福で豊かな生活を営むことが人々の権利です。(2 )国民が生涯にわたりあらゆる機会と場所において、自主的・自律的に適正な健康状態に応じてスポーツを行うことができます。

(3 )青少年のスポーツは国民の生涯にわたる健全な心身を養い、豊かな人間性を育む基礎となります。

(4 )学校、スポーツ団体、家庭、地域における活動を相互に連携させます。(5 )スポーツを身近に親しむため地域で協働しすべての世代の人々の交流を促進します。

(6)スポーツを行う者の心身の健康の保持増進、安全を確保します。(7 )障害者が自主的かつ積極的にスポーツができるよう、障害の種類および程度に応じた必要な配慮を行いつつ推進します。

(8 )プロを含むスポーツ選手が国際競技大会等において優秀な成績が収められるようスポーツの競技水準向上を図ります。

(9 )国際的な交流・貢献を推進することにより国際相互理解と国際平和に寄与します。

(10)スポーツを行う者に対するあらゆる活動を公正かつ適切に実施します。(11)スポーツに対する国民の幅広い理解と支援が得られるよう推進します。

参考文献1)21世紀における国民健康づくり運動(2013),厚生労働省ホームページ(2016)2)スポーツ基本法(平成23年法律第78号),文部科学省ホームページ(2016)

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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Ⅰ 総 論

高齢者のふさわしい運動法クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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アクティブガイド健康つくりのための身体活動指針のアクティブガイドとは。毎日をアクティブに暮らすために+10分で健康寿命をのばしましょう!健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」。

1日10分・やさしさ・継続・運動器具はいらない

 近年には、厚生労働省をはじめ、ロコモティブシンドローム、フレイル、サルコペニアなどの概念を打ち出して指導しています。 骨や関節の病気、筋力の低下、バランス能力の低下によって転倒、骨折しやすくなることで、自立した生活が出来なくなり介護が必要となる危険性が高い状態にならないように自立でき、健康寿命をのばすように生活指導をガイドしています。 社会の急速な高齢化に伴い、要支援、要介護者の急増をどのようにして対応するかを考えられました。 まず自立できる様にすることが必要です。毎日が元気で幸せに長生きするためには、加齢による運動機能不全の改善が必要です。 筋量減少者と筋力低下者のそれぞれの改善策を挙げてみると、加齢による筋量低下は食事による栄養素の摂取、バランスの良い食事、3大栄養素、電解質など、筋肉のエネルギー代謝も大切な要素になってきます。また食前の筋トレがとても有効であることが証明されてきました。 人間は動物であり、如何なる年齢においても筋肉量を増やすことが健康につながります。中高年の筋肉は、軽い運動、簡単な運動で十分に筋肉量の減少を防ぐことが出来るので、気づいたらすぐ始める事が最も大切です。 まず歩く事からはじめます。歩き方は、歩く速度に応じて、「緩歩」と「平常歩」と「速歩」の3つに分類されます。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

 下図のような具合で進めます。

 このように一番簡単にできる歩く事から始めるのが良いです。無理のないようなスケジュールをたて、時間を決め、継続する事。カレンダーに記録を記入します。 次に、足腰の筋肉全体を鍛えるとともに筋肉を伸ばすストレッチもします。骨格筋の七割は足腰に集中しています。「老化は足腰から」と言われるのは、その筋肉が年を取るにつれて弱くなるためです。老化を防ぐには、足腰の筋肉量を増やすことが重要です。 テレビをみながらストレッチ+スクワットをします。とても簡単な運動ですが、奥が深く、その人の筋肉量や体力に合わせ行います。 下記の運動はテレビを視ながら、ラジオを聴きながらでも可能です。① 足を肩幅に広げ、背筋を伸ばしてまっすぐに立ちます。② 椅子の背もたれにつかまりながら大腿が地面と平行になるまで膝を曲げたら膝を伸ばして元の姿勢に戻します。

 ①②の動きを1セットとし10回繰り返し20、30と増やしていきます。 最近の研究で、脂肪分解酵素を活性化するには細胞内においてミトコンドリアが酸素と糖を利用して代謝を完全燃焼して行い、ATPを産生します。さらにサイクリックAMPを作り出せます。 運動というと、さっそうと街路樹の下を駆けているランナーをイメージしますが、とくに中高年にとっては、急激な運動は転倒や骨折などのリスクが高くなります。無理に外で運動しなくても体内のサイクリックAMPは「ながら運動」「ながら体操」でも十分に活性化できます。 毎日が元気で健康で幸せな日々を送れるように「健康スポーツ医」として導入しやすく、今からでも始められ、継続しやすいやさしい運動から入ることを勧めます。 上記2つの運動は厚生労働省の健康つくりのための身体活動指針+10分でのアクティブガイドのひとつと考えます。

参考文献:『寝たきりにならない筋力づくり』コスモ21

① ②

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Ⅰ 総 論

特定健診・特定保健指導でのメタボリックシンドローム

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 メタボリックシンドローム(メタボと略す)の定義は表1に示します。運動療法としては、運動の種類、運動の強度、運動の量、運動の実施時、等を考慮してその人に沿った運動を継続できるよう、運動処方します。処方にあたって必要なのがメディカルチェックです。メタボは肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった病気につながります。そのまま放置すると、肥満や高血圧は動脈硬化を招き、動脈硬化が進行すると大動脈解離や脳出血の原因になります。脂質異常症は心筋梗塞や脳梗塞に、糖尿病は心筋梗塞や脳梗塞などの原因や糖尿病性腎症、網膜症、神経障害という合併症をきたします。

内蔵脂肪蓄積……動脈硬化を起こし易くなります。心筋梗塞、脳梗塞、下肢に起こり易い閉塞性動脈硬化症などの疾患と関係があります。危険因子……肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病は4つ揃うと心血管疾患のリスクは35.8倍と掲載されましたが、世界のこれまでの疫学データのメタアナリシスでは、心血管疾患のリスクは平均1.74倍と報告されています。日本の疫学研究では、14年間におよぶ久山町研究の解析で、日本肥満学会の診断基準によるメタボリックシンドロームは男性では心血管疾患の相対危険度が1.4倍であり、この研究では統計学的に有意なリスクにならない事が判明しました。冠動脈疾患のCHADS2……鬱血性心不全(CHF)、高血圧(HT)、年齢(Age75歳以上)、糖尿病(DM)は各1点、脳卒中(Stroke)は2点、各リスク因子の累積で0点から6点まであり、点数が増えていくにしたがって、発生頻度が指数関数的に増えていくことが知られています。合計点が0点であれば、脳塞

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

mg/dlmg/dl

mmHgmmHg

mg/dl

/

/

表1  メタボリックシンドロームの診断基準=内蔵脂肪蓄積+2項目以上の危険因子 

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クリニカル・クエスチョン

栓症の発症は年間2%弱、すべてのリスクがあると年間18%であると報告されています。

(1)運動の種類……有酸素運動と無酸素運動があります(表2)。両者を組み合わせて心肺機能や筋肉系統を鍛えていきます。1日1万歩も有効ですが、男性9,200歩、女性8,300歩を国が目標値としています。膝・腰の良くない方は自転車や水泳も良いでしょう。(2)運動の強度……心拍数で強度を設定するのが一般的です。 ①最高心拍数HRの65~80%に設定します。②karvonenの式で設定では、設定HR=(220-安静HR)×K+安静HR(Kは0.5~0.7) ③設定HR=100~120拍/分 に設定します。(3)運動の量……①翌日に疲労が残らない量にします。ウオーミングアップからクーリングダウンまでを含めて1時間位とします。②健康維持増進には1週間に3~5日位で良いです。外傷予防的には5日以内でも良いとされています。(4)運動の実施時……朝でも昼でも夕でもいつでも良いのですが、朝よりは昼か夕がお勧めです。体調が整い関節に無理が掛からずに運動できます。食事の前に運動することも良いでしょう。悪天候の時は屋外の運動は中止にします。

参考文献1)メタボリックシンドローム(厚生労働省)2)生活習慣病健診健康指導の在り方に関する研究(厚生労働省.2007)

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

表2 有酸素運動と無酸素運動

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Ⅰ 総 論

内科的メディカルチェックの内科的メディカルチェックの必要性

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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1)潜在する心疾患(虚血性心疾患、心筋症、不整脈など)を検索します。2)既往の疾患の重症度を判定します。3)運動能力(耐容能)を評価します。 これらにより運動の可否を判定したり、運動の種目、強度、持続時間の決定を行います。一見、健康そうに見えても潜在的疾患を持つものでは健常者に比べて運動事故発生率は極めて高くなるからです。

潜在性心疾患 スポーツ心臓 運動負荷試験

 メディカルチェックは図1の項目に従って行います。1)問診票 図2のような内容での問診を行いますが、特に重要なのは家族歴での両親、兄弟に突然死をしたり、原因不明死をしたものがいるかどうかです。これは突然死の中に遺伝性が考えられる疾患(肥大型心筋症、不整脈源性右室異形成症、QT延長症候群など)があるからです。また失神の既往は突然死のニアミスとしては重要視されています。2)理学的所見 血圧の測定は左右上肢と、できればさらに下肢の測定が必要です。これは動脈の病変(閉塞、狭窄、解離など)の有無の診断に必要です。また心雑音、不整脈も重要です。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

図1 メディカルチェックシステム

図2 問診の内容

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クリニカル・クエスチョン

3)一般検査(血液、尿) 糖尿病、脂質異常症、痛風、腎機能障害、肝機能障害などの診断とその重症度の判定のために行われます。4)胸部X線 心拡大の有無や肺野の異常などの検索に必要です。5)安静時心電図 心筋の虚血性変化、心肥大、不整脈などの検索に必要です。 以上の項目で異常が認められた場合は、運動負荷試験が必要となります。また40歳以上で初めて運動を始める人や運動時に何らかの症状がある人なども運動負荷試験の適応になります。 また胸部X線で心拡大、安静時心電図で心肥大、Ⅰ~Ⅱ度房室ブロックのある場合はスポーツ心臓との鑑別が必要となる場合があります。(図3) 運動負荷試験はトレッドミルかエルゴメーターが行われます。マスター2段階試験は運動の可否の判定には負荷量が少なすぎるために不向きです。 実際には運動負荷試験の結果をみて運動強度を決定します。 例えば① 最大到達心拍数の10%減より始めます

② 収縮期圧180mmHgを超えるときの心拍数を上限心拍数として、その10%減より始めます

③ 症状(胸痛、息切れ等)出現レベルの80%から始めます

④STT変化、不整脈の出現レベルの80%から始めます また運動負荷試験の結果からさらに詳しい検査が必要な場合は専門医でホルター心電図、心エコー、冠動脈造影等の検査が行われます。

参考文献1)運動処方の指針:日本体力医学会体力科学編集委員会,南江堂2)「生活習慣病の予防と治療」臨床スポーツ医学.Vol.19,20023)健康運動のガイドライン:日本医師会編

図3 スポーツ心臓

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Ⅰ 総 論

整形外科的メディカルチェッククリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 選手の身体的特性を明らかにし、スポーツ障害発生のリスクを把握するとともにその予防に役立て、問題点があればそれらを是正しパフォーマンスを向上させるためにメディカルチェックが行われます。ここでは、埼玉県体育協会スポーツ科学委員会で行われているメディカルチェックを参考に概説します。

メディカルチェック Q角 アキレス腱角

1.問診(図1) 診察前にあらかじめ問診表に記入してもらい、それを基に問診を行います。a )スポーツ歴:現在行っているスポーツ種目・ポジションおよび経験年数、学校(部活動)あるいはクラブチームか、1日の練習時間、練習日数、さらにこれまでのスポーツ歴について聴取します。

b )既往歴:外傷および障害の既往、治療については受診した医療機関あるいは接骨院などでどのような治療をどの程度の期間受けていたか聞きます。

c )現病歴:現在の外傷・障害の有無、治療歴、現在の状態を聴取します。2.メディカルチェック項目(図2、3)a)上・下肢、脊椎の可動域と運動痛b)下肢アラインメントなど Q角を計測する際に、膝蓋骨が亜脱臼している場合には計測値が低値となることに注意します。すなわち、膝蓋骨を関節面中央に整復した状態で測定します。アキレス腱角は、非荷重下に下腿遠位2/3の中央軸と踵骨後面長軸のなす角度をアキレス腱付着部で計測します1)。正常は0°~内反3°で、5°以上の過度な外反を呈する回内足はシンスプリント発生のリスクとなります1、 2)。股関節内旋の測定は迎臥位もしくは腹臥位で行います。c)全身関節弛緩性テスト 体操や水泳など競技種目によっては関節の弛緩性がパフォーマンスに有利になることがありますが、loose shoulderとして肩関節痛や不安定感を訴えるこ

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

ともあります3)。d)筋柔軟性テスト 柔軟性の欠如は多くのスポーツ障害の原因となり、とくに成長期にはタイトネスを生じやすくなります。3.メディカルチェックの判定 メディカルチェックで明らかになった問題点は、コンディショニングの指標や競技力向上のために反映されなければなりません。メディカルチェックで何らかの問題点が見付かったり、運動の制限や継続が困難であると思われるような場合、その理由や注意点、対処方法を記載し選手にフィードバックします。

図1

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Ⅰ 総 論

図2

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クリニカル・クエスチョン

図3

参考文献1)Brody DM. Evaluation of the injured runner. Techniques orthop 1990; 5: 15-22.2) Fetto JF. Anatomy and physical examination of the foot and ankle. Nicholas JA, Hershman EB, ed. The lower extremity and spine in sports medicine, The C. V. Mosby, St Louis, p 384-390, 1986.

3) 信原克哉.肩 その機能と臨床.Loose shoulder、医学書院、東京、p190-210、1987.

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Ⅰ 総 論

スポーツ時に配慮すべき循環器疾患

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 スポーツに関連する循環器疾患は各年代により異なっています。(図1) 中高年者では冠動脈硬化症(心筋梗塞、狭心症)に基づくものがほとんどをしめています。トップアスリートを含む若年者では心筋症(肥大型心筋症、不整脈源性右室異形成症)と先天性冠動脈異常によるものが多く認められます。小児では心筋炎(インフルエンザ感染後、川崎病罹患後)と先天性心疾患が多く認められます。 いずれにしてもスポーツの中の突然死との関連において重要です。(図2)

突然死と遺伝 冠動脈硬化症 心筋症

1)冠動脈硬化症 中高年者では日常生活においては何ら異常がなくても加齢に基づく冠動脈硬化があります。これが運動により心臓に負荷(酸素需要の増大)がかかった時に致死性不整脈から心停止にいたることがあります。

2)心筋症 トップアスリートを含む若年者では心筋症特に肥大型心筋症が重要です。肥大型心筋症は比較的運動能力が保たれ、無症状に経過するため突然死のリスクも高くなります。これは遺伝性があるため家族歴が重要で、また既往歴での失神の有無の聴取が大切になります。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

図1  スポーツ活動中の急死例における心臓剖検所見

図2 心臓突然死発症機序

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クリニカル・クエスチョン

3)心筋炎 小児では心筋炎が重要でインフルエンザ感染後、川崎病罹患後のものでは特に注意が必要となります。冬季のマラソン、駅伝の練習、試合の時には念頭においておかなければなりません。

 次に安静時心電図で特徴的な所見を呈し、突然死と関連する疾患として以下の4疾患が重要です。1)不整脈源性右室異形成症 これは右室自由壁に線維―脂肪変性がみられる家族性疾患(30%が常染色体優性遺伝)で右室の残存心筋が心室性不整脈の発生源となります。若年男子に多く、安静時心電図の右側胸部誘導(V1~V2)で陰性T波とQRS幅の延長が認められます。家族歴での突然死の存在と失神発作の既往の有無が重要となります。

2)Brugada症候群 器質的心疾患がなく、持続性多形性心室頻拍より心室細動にいたる疾患で、原因は遺伝子の異変によるものと考えられています。安静時心電図では右脚ブロックと右側胸部誘導(V1~V3)でST上昇がみられます。(Coved型、Saddle-back型)家族歴での突然死の存在と失神発作の既往の有無が重要です。

3)QT延長症候群 安静時心電図でQT延長(0.44秒以上)がみられる遺伝性の疾患(Romano-Ward症候群、Jervell-Lange-Nielsen症候群)で心室各部位の不応期の不均一から多形性心室頻拍より心室細動になる疾患です。一般に心拍数が速くQT間隔の長いものほど危険といわれています。水泳中の突然死の原因として重要で注意が必要です。

4)WPW症候群 Kent束を含めた副伝導路の存在のため、安静時心電図ではPQ間隔の短縮、デルタ波、幅広いQRS波が特徴的であり発作性上室性頻拍や発作性心房細動から心室細動を起こすことがあります。したがって頻拍発作のある症例では運動は禁忌になります。また普段症状がないため50%は心電図をとったときに初めて診断されます。

参考文献1)村山正博編『運動と突然死』文光堂2)「アスリートに対する突然死予防対策」臨床スポーツ医学.Vol.29,No.2,20123)「アスリートにおける突然死」臨床スポーツ医学.Vol.19,No.8,2002

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Ⅰ 総 論

健康スポーツ診断書記載例クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

健康スポーツ診断書 メディカルチェック

1.診断書の使用目的を知る ・健康を目的とした運動・競技を行う際に利用します。

2.記載時の注意事項1 )前項のメディカルチェックを必ず行うこと。手順として当医会が推奨するチェックシートを使用するか、それに準ずる内容のものを使用します。

2 )メディカルチェックで要検査の項目は、必要な精密検査の結果で判断し、診断書を記載します。

3 )診断書中断の実線部分には競技会名、種目名、スポーツクラブ入会等について記入します。

4 )本診断書を記載する者は健康スポーツ医学を学んだ医師で、受診者の健康状態、参加する競技等の運動強度、運動継続時間、およびその頻度等について全般的な状況を把握していることが必要です。

5 )本診断書を発行する際には2枚複写(またはコピー)とし1枚は控えとして5年間保存してください。

3.お問い合わせ 不明な点は文書にて「埼玉県健康スポーツ医会メディカルチェック委員会」宛にお問い合わせください。当委員会で検討させていただき御返事させていただきますので、御返事到着まで時間がかかることをご了承ください。

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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Ⅰ 総 論

運動強度、運動量、至適運動クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 18歳~64歳の身体活動の基準の中で、3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週以上行うことが望ましいと報告されています。65 歳以上の身体活動(生活活動・運動)基準の中では、強度を問わず身体活動を10メッツ・時/週行うことが望ましいと報告されています。

運動強度(メッツ) 運動量(エクササイズ) 至適運動

 厚生労働省により生活習慣病を予防するための身体活動量、運動量および体力の基準値として、身体活動の強さ(メッツ)と量を表す単位(エクササイズ:Ex)が運動指針2006(エクササイズガイド2006)の中で策定されました。(1)運動強度 運動強度(メッツ)とは身体活動の強さが安静時の何倍に相当するかを表す単位をいいます。座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。

(2)運動量 身体活動の量を表す単位がエクササイズ(Ex)で、運動強度(メッツ)に身体活動の実施時間(時)をかけたものです。より強い身体活動ほど短い時間で1エクササイズとなります。例)3メッツの身体活動を1時間行った場合は3メッツ×1時間=3エクササイズ(メッツ・時)となります。 6メッツの身体活動を30分行った場合は6メッツ×1/2時間=3エクササイズ(メッツ・時)となります。

(3)至適運動 生活習慣病や生活機能低下のリスクを減少させるためには3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週以上行うことが望ましいと報告されています。一般の日本人の身体活動量の平均値は15~20メッツ・時/週といわれており、生活習慣病のリスクが高いといわれています。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

 具体的には1時間の散歩(3メッツ)を毎日行えば、一週間で21メッツ・時/週となります。運動習慣を身につけることが目標のため、毎日10分程度の運動からから始めて、一日の合計が1時間程度になるのも良い方法です。その他の具体的な運動強度の例として、ボウリングや社交ダンスは3メッツ、卓球やラジオ体操(第一)は4メッツ、野球やソフトボールは5メッツ、ジョギングは7メッツなどです(表1)。

参考文献『健康づくりのための運動指針2006 ~生活習慣病予防のために~』エクササイズガイド2006『健康づくりのための身体活動基準2013』厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「健康づくりのための運動基準2006改定のためのシステマティックレビュー」(研究代表者:宮地元彦)

表1

メッツ 種  目3.0 ボウリング、バレーボール、ピラティス、太極拳、

社交ダンス(ワルツ、サンバ、タンゴ)3.5 自転車エルゴメーター(30~50ワット)、

自体重を使った軽い筋力トレーニング、カヌー、体操、ゴルフ(手引きカートを使って)

4.0 卓球、パワーヨガ、ラジオ体操第14.5 テニス(ダブルスの試合)、水中歩行(中等度)、

ラジオ体操第25.0 かなり速歩(平地、速く=107m/分)、サーフィン、

野球、ソフトボール、バレエ(モダン、ジャズ)5.5 バドミントン6.0 バスケットボール、水泳(のんびり泳ぐ)7.0 ジョギング、サッカー、スキー、スケート8.0 サイクリング(約20km/時)9.0 ランニング(139m/分)10.0 水泳(クロール、速い、69m/分)

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Ⅰ 総 論

トレーニングの実際(筋力強化・トレーニングの実際(筋力強化・ストレッチング)

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 筋肉の収縮力は筋肉の断面積と神経系の発達で決まります。トレーニングとは筋肉と神経のいずれか、または両方を発達されるものです。 例えば、1)筋線維の肥大を重点に置いたトレーニング(筋肉作り)は強度を比較的低くして時間を長くするトレーニングで筋肥大が顕著であり、ボデイビルダーのトレーニングに相応しい。2)神経系を発達させ筋の発揮張力を100%まで高めるトレーニング(固有筋力作り、断面積当たりの筋力の増大法)は最大強度の短時間のトレーニングで大脳の興奮水準を高めるので、多くの筋線維収縮に効果的であり、ウエイトリフターのトレーニングに相応しい。 初めは3~4カ月かけて1)の筋肉の肥大を図り、次いで2カ月間は2)の神経系の適応を図り筋力・パワー増大します。そしてこの方法を繰り返します。このようにして、目的ごとに期分けした長期的プログラムをピリオダイゼーションといいます。なお、蛋白質の必要量は1)の持久性トレーニングの場合は0.9g/kg/日、2)の筋力トレーニングの場合は1.6g/kg/日となります。

〈筋力強化〉1 )等尺性トレーニング(isometric training)‥筋の長さが一定の条件のもとに張力発揮を行うもの。

2 )等張力性トレーニング(isotonic training)‥バーベルやウエイトスタックなどの一定の過重負荷のもとで筋活動を行うもの。

3 )等速性トレーニング(isokinetic training)‥専用の等速性マシン(バイオデックスなど)を用い筋の短縮・伸縮速度を一定に保った条件の下で筋活動を行うもの。

4 )増張力性トレーニング(auxotonic training)‥バネやラバーバンドのような弾性体を引っ張ることにより筋の短縮と同時に張力を増大するもの。

〈レジスタンストレーニング〉  アメリカスポーツ医学会(ACSM)の1978年運動処方ガイドラインでは有酸素運動のみが強調されていましたが、1980年代に骨粗鬆症や有酸素運動能力

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

の加齢に伴う機能低下に筋力・筋量の減少が大きく影響していることが評価され、レジスタンス運動の併用が重要視されました。1990、1995のガイドラインでは具体的にレジスタンス運動に関して1セットは8~12回反復、8~10種目、大筋群を使い2日/週実施することが加えられました。  筋力増強の目的、手段、対象の多様化に伴い、バーベル、ダンベル、ウエイトスタック、油圧や空気圧などを利用したマシン、ゴムチューブやゴムバンドなどを用い過重負荷を行うトレーニングです。

〈ストレッチング〉 スポーツや医療の分野でのストレッチとは、 体のある筋肉を良好な状態にするため筋肉を引っ張って伸ばすことをいいます。筋肉の柔軟性を高め関節可動域を広げるほか、呼吸を整えたり、精神的な緊張を解いたりするという心身のコンディション作りにもつながります。 ストレッチには静的ストレッチのほかにも、筋肉の伸張・収縮を繰り返す動的ストレッチ、リハビリテーションの手法を取り入れた固有受容性神経促通法PNFストレッチ(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation)などがあります。今日、ストレッチはスポーツ下のウォーミングアップ、クーリングダウンの中で盛んに行われ、役割は重要です。

参考文献『スポーツ医学研修ハンドブック 基礎科目』文光堂、2005『スポーツ医学研修ハンドブック 応用科目』文光堂、2005

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Ⅰ 総 論

スポーツ時の水分補給と栄養摂取クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

1010

 スポーツをよいコンディションで、そしてよりよいパフォーマンスをするためには、日頃からバランスのよい食事で十分な栄養を摂ることは言うまでもありません。さらにスポーツをする場面でも考慮すべきポイントがあります。 一般的に体重の約3%の水分が失われると、運動能力が低下すると同時に、体温調節機能も損なわれることが知られています。体重の1%の水分減少は約0.3℃の体温上昇をきたし、体温が40℃を超えると運動を続けるのが困難となります。そのためスポーツ中に水分を頻回かつ適量に摂取することが望ましく、特に小学生や中学生ではその傾向が強くなっています。またスポーツ前からの水分摂取も重要です。

水分 アミノ酸 タンパク質 筋肉

<水分補給> 環境条件により発汗量が異なりますが、スポーツ前に300~400mlの水分を摂り、スポーツ中に発汗量の50~80%を補給します。 5~15℃の0.1~0.2%の食塩濃度で3~6%の糖を含んだ水分がよいです。この組成は市販のスポーツドリンクが適しています。またスポーツを長時間反復する場合は、食塩濃度をやや濃くするとよいです。大量に発汗した場合は食塩が失われ、この時に水だけを大量に飲むと血中のナトリウム濃度が低くなります。そして低ナトリウム血症をきたし、運動能力が低下、体温が上昇し、いわゆる‘四肢がつる’筋痙攣を生ずる熱中症の一つ、熱痙攣となります。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

運動強度 水分摂取量の目安

運動の種類 運動強度(最大強度の%)

持続時間 競技前 競技中

トラック競技バスケットサッカー など

75~100% 1時間以内 250~500ml 500~1,000ml

マラソン野球   など 50~90% 1~3時間 250~500ml 500~1,000ml

/1時間ウルトラマラソントライアスロン     など

50~70% 3時間以上 250~500ml500~1,000ml/1時間

必ず塩分を補給

<アミノ酸の摂取>BCAA(分枝鎖アミノ酸)を摂取。1)運動前  ⅰ)直接エネルギー源として ⅱ)スタミナ源として ⅲ)ス

ポーツ時の疲労の制御作用 ⅳ)脂肪燃焼、の効果があります2)運動中 骨格筋タンパク質分解を抑制3)運動後 骨格筋タンパク質の回復を促進

<タンパク質の摂取>・運動後 ⅰ)骨格筋タンパク質合成の促進     ⅱ)筋肉痛の抑制

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Ⅰ 総 論

女性とスポーツ(無月経・骨粗鬆症等)(無月経・骨粗鬆症等)

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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女性スポーツの特性 月経周期 無月経 利用可能エネルギー 骨粗鬆症 PMS

女性スポーツの特性は ヒトのライフサイクル中に女性は初経、妊娠、出産、閉経という身体の変化をたどり、月経周期を抱える女性の身体は男性とは質的、量的に異なり、心理、思考、行動パターンも女性の特性が認められます。その特性を理解し、スポーツに於ける能力や効果を充分に発揮させるために科学や医学の寄与が必要と考えられます。女性へのスポーツ指導は トレーニングや指導は女性の特性を踏まえたうえで、個人のコンディションやニーズに合せた配慮が必要です。生理的特性について配慮し、コンディションは個人差が大きく月経周期等を考慮し、個別の対応が必要です。 動く身体の美しさや各種スポーツが持つ楽しさを知り、仲間と一緒に汗をかく楽しさや美しくなる喜びを生かした指導を推めます。月経とスポーツの関係は 女性ホルモン周期は月経期、卵胞期、排卵期、黄体期に分別され、分泌されるホルモンの質、量が異なるため競技のコンディションに変化の生じる可能性があります。 月経期間中の運動は基礎代謝量がやや減少し、筋力もやや低下し、集中力が失われ、行動力が満足に発揮できないことが多くなります。激しい運動は経血量が減少してから行うべきでしょうが、とくに禁止する必要はなく、本人の意志を尊重するべきでしょう。月経周期と競技会についての対応は 月経周期と競技成績や体調については個人差が大きいので画一的な方法は避けることと、選手自身の気持を大切にし、月経周期により体調が変化し、運動能力にも影響を及ぼすと思われる場合にとる処置として ○自然周期に任せる

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解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

Q.コンディションがよい時期はいつですか?

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クリニカル・クエスチョン

 ○対症療法―鎮痛薬など(注1)

 ○月経を人工移動―EP剤(注2)

女性アスリートの三主徴とは アメリカ・スポーツ医学会が定義するlow energy availability(利用可能エネルギー不足)視床下部性無月経、骨粗鬆症の三主徴で、女性アスリート特有の問題に着目した定義です。スポーツにおける相対的なエネルギー不足は代謝や循環器、免役、発育、骨、月経等全身に影響を与え、パフォーマンス低下をもたらすので、運動による消費エネルギーに見合った摂取エネルギーが重要です。 無月経に伴う低エストロゲン状態をいかに回避するかは女性の健康を守る上で重要で、特にエネルギー不足や低エストロゲン状態による骨量低下は骨折(疲労骨折)のリスクを高める可能性が報告されています。スポーツと無月経の関連は スポーツによる無月経は競技レベルでは割合に特に変化は認められず、競技特性別では審美系(器械体操・新体操)、持久系(陸上長距離)競技の割合が高く、BMI別では18.5未満の割合が高い。無月経のリスク因子として、初経年齢、練習量、BMI、エネルギー不足が挙げられます。無月経への無介入は選手に重大な悪影響が示唆されます。月経前症候群(PMS)の影響は PMSは月経前に心身の不快な症状が現われ、相当数の競技者に出現していると考えられます。競技成績の向上のためにも啓発と適切な管理、治療が求められます。 特に月経前不快気分障害(PMDD)には医学的関与が必要です。スポーツによる骨粗鬆症とは スポーツにおける相対的エネルギー不足で無月経が起き、低エストロゲン状態が続き、それにより骨量低下は骨粗鬆症を引き起し、骨折のリスクを高めます。故に運動量に見合ったエネルギー摂取が必要であり、無月経や月経異常に適切な対応をすべきで、特に中、高校生時代は注意を要します。

参考文献1)越野立夫、武藤芳照、定本朋子『女性のスポーツ医学』南江堂2) 藤井知行代表者『若年女性のスポーツ障害の解析』日本産科婦人科学会雑誌 68巻4号付録

3)難波聡『女性アスリートの月経異常』第29回日本女性医学学会学術集会4) 能勢さやか、吉野修、齋藤滋『女性アスリートにおける低用量ピル/LEP製剤使用の現状』最新女性医療 Vol.2 No1 2015

注1  月経痛に鎮痛薬(NSAIDなど)が使用可能だが、ドーピング規程の確認が必要。注2  EP剤(エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤)はドーピング禁止物質に該当しない。

現在はLEP(低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合薬)とOC(低用量経口避妊薬)が使用されることが多く、血栓症リスクが少なくなっているので、使用による個別化したコンディション調整をし、より良いパフォマンスを引き出せるようにする必要性を選手や指導者が感じて、産婦人科医を混じえて検討を試みて欲しい。

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Ⅰ 総 論

アンチ・ドーピングクリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 競技者は日々の練習を重ね身体を鍛え勝利を目指します。しかし、中には安易な気持ちから薬物の力を借りて競技力アップを計る競技者もいます。競技力アップ目的に薬物を使用することをドーピングといいます。ドーピングはスポーツ全体の価値を損なうばかりでなく、フェアプレイの精神にも相反する行為で、全世界、スポーツ界全体で禁止されています。 そのため、ドーピングのないスポーツに参加するという競技者の基本的権利を保護し、競技者の健康、公平及び平等を促進する目的として、世界アンチ・ドーピング規程(WADA1)規程)のもと、アンチ・ドーピング活動が世界中で推進されています。これは競技者を取り締まるためだけに行うものではなく、スポーツの価値そのものを守り、スポーツに関わるすべての人が促進していくべき活動です。 国内では日本アンチ・ドーピング機構(JADA)2)がドーピング防止(アンチ・ドーピング;AD)活動を統括しています。

アンチ・ドーピング、WADA、JADA、うっかりドーピング

 ドーピングには表1のような行為が含まれます。 毎年、国内でも数件のドーピング違反事例が見られます。そのなかには医師が処方した薬剤が原因となるものが含まれています。競技者も医師に処方された薬だから安全だと考えてしまう結果起きる例で、「うっかりドーピング」といわれます。医師も競技者に対してはドーピング違反とならない薬剤の投与を心掛けるべきです。もちろん治療のために必要な薬剤の使用が禁止されているわけではありません。病気やケガの治療目的のため禁止物質・禁止方法を使用する場合はTUE(Therapeutic Use Exemption 治療使用特例)申請を提出します。この申請には医師の詳細な医療情報書(英語記入が必須)を必要とします2)。 JADAが認定するスポーツファーマシストという制度があります。これは最新のADに関する正確な情報や知識を有し、競技者に対して薬の正しい使いか

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クリニカル・クエスチョン

たや薬に関する健康教育などの普及・啓発を行う薬剤師です。この資格を有する薬剤師へ相談してもよいでしょう。 またGlobal DRO JAPAN3)を活用して調べたい成分・製品名をインターネットで検索も出来ます。但し、漢方薬・サプリメントの中には成分表に記載されていない物質が含まれる可能性があり、検索は出来ませんので注意が必要です。身近では埼玉県体育協会4)や埼玉県薬剤師会5)でも使用薬やADについての相談も出来ます。活用したいものです。

参考文献 1)アンチ・ドーピング規程 -国際基準 http://www.playtruejapan.org/code/ 2)日本アンチ・ドーピング機構(JADA) http://www.playtruejapan.org/3)Global DRO JAPAN http://www.globaldro.com/JP/search4)埼玉県体育協会 http://www.saitama-sports.or.jp/5)埼玉県薬剤師会 http://www.saiyaku.or.jp./

1.採取した尿や血液に禁止物質が存在すること2.禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること3.ドーピング検査を拒否または避けること4.ドーピング・コントロールを妨害または妨害しようとすること5.居場所情報関連の義務を果たさないこと6.正当な理由なく禁止物質・禁止方法を持っていること7.禁止物質・禁止方法を不正に取引し、入手しようとすること8.アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または企てること9.アンチ・ドーピング規則違反を手伝い、促し、共謀し、関与すること10. アンチ・ドーピング規則違反に関与していた人とスポーツの場で関係を持つこと

表1  (JADA資料より抜粋)

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Ⅰ 総 論

小中学校における運動器検診クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 平成28年4月1日から学校保健安全法施行規則が一部改正され、「四肢の状態」を必須項目に加えるとともに、四肢の状態を検査する際は、四肢の形態及び発育並びに運動器の機能の状態に注意する事を規定することとされました。今後、保健調査票を活用し、学校、家庭、学校医、専門医が相互に連携を図りながら、適切な事後措置を行うことが必要となってきます。 文部科学省が考える運動器検診を行う手順は次の通りです。①保健調査により、日常の姿勢、歩行等の異常、関節痛の有無を調べます。 ②学校による健康診断において運動器検診を実施し、疾病及び異常を発見します。③事後措置として検診結果の通知や、必要な医療・検査を受けるよう指示して、運動器専門医の受診を勧めます。検診の結果で運動器機能不全の認められる児童・生徒には、学校で適切な保健指導を行います。また、保健調査票や結果に加え、日常生活や学校での体力・運動能力テストの結果等も活用するとしています。

学校保健安全法 運動器疾患・障害 運動器検診 脊柱側弯症

 定期健康診断の運動器検診とその事後措置として、脊柱、胸郭、四肢の状態の検診が終了し、運動器の疾病等の異常が認められた場合、保健調査票等の記録紙に記入の上、学校医が健康診断結果をみて、学業に支障がある疾患が疑われたら整形外科専門医への受診のための通知及び治療証明に記載し、保護者を通じて児童生徒に運動器専門医への受診を勧め、その結果を学校側に回収・報告するように説明をすることとなります。運動器機能不全に対する保健指導と事後措置としては、運動器機能不全状態が発見された場合、診察学校医は保健調査票の報告記録紙に記入の上、ストレッチを含めた運動器の基本的動作修得の為のトレーニングや体操を児童生徒に指導し、学校の養護教諭、担任教諭、体育教諭に対しても、その旨を報告、指導対策を指示することとなります。又、家庭の保護者に対しても、同様の指導をする必要があります。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

 健康診断時に注意すべき整形外科関連疾病及び異常としては、1.脊柱の疾患障害―[例]脊柱側弯症、腰椎分離(すべり症)等―2.上肢の疾患・障害―[例]野球肘、野球肩等―3. 股関節・下肢の疾患・障害―[例]ペルテス病、大腿骨すべり症、発育

性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)、オスグッド病、シンスプリント、疲労骨折等―

4.運動器機能不全等 があげられます。

参考文献1)公益財団法人日本学校保健会作成『児童生徒等の健康診断マニュアル』2) 公益財団法人運動器の10年・日本協会ホームページ(http://www.bjd-jp.org/medicalexamination/index.html)

3)『埼玉県医師会学校医会ニュース(2016.3.No.14号)』p.10-p.124)埼玉県医師会学校医会運動器検診委員会作成『健康な体作りのための子ども処方箋』

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Ⅰ 総 論

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クリニカル・クエスチョン

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Ⅰ 総 論

健康スポーツ医資格取得と更新の手続き

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

1414 日本医師会認定健康スポーツ医は、「地域社会において運動への関心が高まってきていることや、特定健診後の保健指導における運動指導が重要であることから、運動を行う人に対して医学的診療のみならず、メディカルチェック、運動処方を行い、さらに各種運動指導者などに指導助言を行い得る医師として日本医師会が養成した医師」と規定されています。認定健康スポーツ医の新規取得ならびに更新の手続きについて解説します。

健康スポーツ医 講習 申請

<新規取得について> 新規に認定証を取得する場合、表1に示す前期13単位、後期12単位、合計25単位(1単位60分)のカリキュラムを履修し、前期修了証および後期修了証を取得する必要があります。これらの講習は毎年日本医師会で開催され、さらにH28年現在、埼玉県医師会、大阪府医師会でも行われています。埼玉県医師会では1年おきに前期講習と後期講習が実施されます。なお、修了証は前期と後期で実施主体が異なっていても差し支えありません。 下記資格(①~④のいずれか)を有する者は、新規申請時に限り、前期および後期講習会の受講が免除となります。ただし更新については後述の要件を満たす必要があります。①日本整形外科学会認定スポーツ医②日本整形外科学会スポーツ医学研修会総論A修了者③日本体育協会公認スポーツドクター④日本体育協会公認スポーツドクター養成講習会基礎科目修了者

 新規申請の手続きは、必要書類に審査・登録料(H28年現在10,000円)を添えて所属の都道府県医師会(医師会員でない場合は勤務地の都道府県医師会)に提出します。日本医師会による審査の後、認定証が交付され認定健康スポーツ医台帳に登録され、認定有効期間は登録日から5年間となります。<更新について> 更新のためには、有効期間内に、次の①②の要件を満たす必要があります。

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

① 日本医師会が実施または承認した再研修会5単位以上を受講終了していること。

② 健康スポーツ医として学校、職場、地域などにおいてスポーツ医学の立場からの指導・教育・診療などの実践活動を行っていること。

 更新申請の手続きは、必要書類に審査・登録料(H28年現在10,000円)を添えて所属の都道府県医師会(医師会員でない場合は勤務地の都道府県医師会)に提出します。なお、更新後の有効期間は、5年間となります。 なお、手続きに必要な書類等の詳細については、各都道府県医師会にお問い合わせください。

参考文献1)日本医師会健康スポーツ医学委員会答申(平成28年2月)

表1

<前期講習>1)スポーツ医学概論2)神経・筋の運動生理とトレーニング効果3)呼吸・循環系の運動生理とトレーニング効果4)内分泌・代謝系の運動生理とトレーニング効果5)運動と栄養・食事・飲料6)女性と運動7)発育期と運動(小児科系)8)中高年者と運動(内科系)9)発育期と運動(整形外科系)10)中高年者と運動(整形外科系)11)メンタルヘルスと運動12)運動のためのメディカルチェック(内科系)13)運動のためのメディカルチェック(整形外科系)

<後期講習>14)運動と内科的障害(急性期・慢性期)15)スポーツによる外傷と障害⑴(上肢)16)スポーツによる外傷と障害⑵(下肢)17)スポーツによる外傷と障害⑶(脊椎・体幹)18)スポーツによる外傷と障害⑷(頭部)19)運動負荷試験と運動処方の基20)運動療法とリハビリテーション(内科系疾患)21)運動療法とリハビリテーション(運動器疾患)22)アンチ・ドーピング23)障害者とスポーツ24)保健指導25)スポーツ現場での救急処置

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Ⅰ 総 論

健康スポーツ領域の学習目標クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

1515 健康スポーツ医を新規取得する際に必要な履修項目につき、項目ごとの学習目標を解説します。

健康スポーツ医 講習 学習目標

1)スポーツ医学概論 スポーツ医学の概念を把握し、現代社会におけるスポーツ医の重要性を理解します。2)神経・筋の運動生理とトレーニング効果 身体活動に関連する骨格筋と神経系の構造、機能、およびトレーニング効果について理解します。3)呼吸・循環系の運動生理とトレーニング効果 運動による呼吸・循環系の変化とトレーニング効果を理解します。4)内分泌・代謝系の運動生理とトレーニング効果 運動による内分泌系や代謝系の変化、運動の仕方による相違等を理解します。5)運動と栄養・食事・飲料 運動の効果を高め、障害を予防するための栄養の取り方、食事の仕方、水分摂取等について理解します。6)女性と運動 女性特有の身体的変化、運動の効果及びスポーツ障害等を理解します。7)発育期と運動(小児科系) 発育・発達に伴う各種身体的変化や心理的変化を把握し、それぞれの年代における運動の効果について理解します。8)中高年者と運動(内科系) 加齢に伴う身体機能変化と、中高年期における健康増進のための運動・身体活動の役割について理解します。9)発育期と運動(整形外科系) 発育・発達に伴う身体的変化、発育期における運動器の特徴、運動・スポーツの効果と障害を理解します。10)中高年者と運動(整形外科系) 加齢に伴う身体的変化と運動器の特徴、中高年者における運動・スポーツの効果と障害を理解します。11)メンタルヘルスと運動

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解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

 運動がメンタルヘルス(心の健康)に及ぼす影響について理解します。12)運動のためのメディカルチェック(内科系) 運動・スポーツ参加の安全性を確保し、運動・スポーツの効果をあげることを目的としたメディカルチェック(内科系)と健康管理の意義と方法を理解します。13)運動のためのメディカルチェック(整形外科系) 安全にスポーツ活動を行うための運動器のメディカルチェックの意義と方法を理解します。14)運動と内科的障害(急性期・慢性期) スポーツによる内科的障害にどのようなものがあるかを理解し、スポーツにおける突然死、熱中症等を予防するために、それらの原因と機序、対策を理解します。15)スポーツによる外傷と障害⑴(上肢)16)スポーツによる外傷と障害⑵(下肢)17)スポーツによる外傷と障害⑶(脊椎・体幹)18)スポーツによる外傷と障害⑷(頭部) 上肢、下肢、脊椎・体幹、頭部のスポーツ外傷・障害について、その診断、発生機序、病態、治療、予防等の基本的知識と適切な対応ができるよう具体的方法を理解します。19)運動負荷試験と運動処方の基本 運動負荷試験の意義、方法、判定法と一般的な運動処方作成の基本的な考え方を理解します。20)運動療法とリハビリテーション(内科系疾患) 内科系疾患の運動療法、リハビリテーションのための運動処方を作成し、その実施の指導、助言する方法を理解します。21)運動療法とリハビリテーション(運動器疾患) 運動器疾患を有する人に対して運動療法やリハビリテーションの処方ができるようにするためにその基本的な方法を理解します。22)アンチ・ドーピング スポーツにおけるアンチ・ドーピング活動を理解します。また、治療目的使用に係わる除外措置(TUE)の申請やスポーツ関係者へのアンチ・ドーピングの教育・啓発ができるようにします。23)障害者とスポーツ 障害者スポーツの特性や障害者スポーツにおけるスポーツ外傷・障害を理解します。24)保健指導 医師として、運動、栄養、休養、禁煙などの生活指導の重要性を理解し、健康維持増進、疾病の予防・改善を目的とした正しい指導や助言ができるようにします。25)スポーツ現場での救急処置競技会等スポーツ現場における救急医療体制のあり方と救急処置の実際を理解します。

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Ⅰ 総 論

内科的なスポーツ障害内科的なスポーツ障害クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

1616 喘息や熱中症などの急性のものと貧血やオーバートレーニングなどの慢性内科的スポーツ障害にわけられます。

急性内科的スポーツ障害 慢性内科的スポーツ障害

●急性スポーツ障害呼吸器運動誘発性気管支喘息:運動にて喘息が誘発され、運動開始10分後頃から発症します。冷たい空気に反応して発症しやすくなるので特に冬のランニングは注意が必要です。冷たい空気が気道に直接入らないようにするためにマスクも有効なことがあり、運動前に気管支拡張剤等を使用し予防します。水泳は激しい運動でも起きにくいといわれます。過換気症候群:パニック障害の一つで過呼吸により体内の二酸化炭素が低下し呼吸困難感・手足のしびれ・めまい・テタニー様の硬直性痙攣等を認めます。酸素不足による過呼吸かを動脈血酸素飽和度(SpO2)で調べることは重要ですが、検査できないこともあるので本人の病歴を十分聴取する必要があります。精神的なストレスが強い場合は取り除くことも必要で、過換気を起こす病因がなければ座位で少しお辞儀をさせて呼吸をさせると1回呼吸量が自然と減るので回復しやすくなります。気胸:自然気胸と外傷性気胸があり、突然の胸痛や呼吸苦で発症します。自然気胸は長身の若年者に多いです。肺嚢胞が認められる場合、スキューバ及びスカイダイビング等は気圧変動が大きいので禁止し、治癒後3か月はスポーツを控えます。高山病:2500m以上の高山で発症する可能性があり、急激に登山すると動脈血酸素分圧が低下し(60Torr以下)息切れ・頭痛・吐き気・浮腫などの症状を認め、4000m以上のより高地では肺水腫や脳浮腫を認めることもあります。対処法として下山、酸素投与や高気圧治療が行われます。神経系神経調節性失神:強い運動後の血管迷走神経反射による循環虚脱で血圧下降・徐脈・失神等を生じ、足を高く臥位にし、脱水に注意し十分な水分摂取をする

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解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

必要があり飲酒は控えます。消化器系運動中・後に胸やけ、腹痛・吐気・下痢を認めることがあります。長距離走では消化管出血による血便も見られます。強い運動中の左右腹部痛は運動時側腹筋痛(サイドステッチ)とよばれ横隔膜肋間筋等の血流不足や腸内ガスも関与していると推定され、運動中止により腹痛が改善する場合が多いです。下痢症は運動前の食事(食物繊維の多いものオレンジジュース等)や精神的緊張も影響します。腎・泌尿器系急性腎不全:運動後の脱水に加え非ステロイド系鎮痛剤を服用している場合や激しい運動後に横紋筋融解に伴うミオグロビン尿を呈すると発症しやすくなります。尿色調異常:運動後に認める赤色尿には、血尿・ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿がありますが肉眼的色調で鑑別することは困難なことがあり、また運動性血尿は安静後数日で軽快するが消失しない時は医療機関で検査を要します。長距離走等激しい運動により溶血が起き貧血とともにヘモグロビン尿を呈しますが安静で改善することが多いです。代謝系低血糖:糖尿病治療薬特にインスリンやSU剤を使用中に運動をして発症することがあります。空腹感・冷汗・ふるえ・重症では昏睡になります。早めにブドウ糖を内服します。脱水症:水の不足による高張性脱水と電解質(Na)不足による低張性脱水とあり前者は低電解質輸液、後者は生理食塩水の補充が必要です。自覚症状的には高張性脱水時には口渇感が、低張性脱水では倦怠感や・疲労感が強い傾向にあります。●慢性スポーツ障害貧血:鉄欠乏性貧血と溶血性貧血が多い。体重減少を目的に過度のダイエットによる鉄摂取量の減少、長距離走後の消化管出血、また激しい運動で発汗が多くなると汗に含まれる鉄分が喪失し鉄欠乏の原因となります。女性では過多月経等で更に鉄欠乏性貧血になりやすい。検査ではMCV・MCHやフェリチンが低値になります。溶血性貧血は長距離ランナーや剣道をする人に多くみられ足底部への強い衝撃が続くことで発症し、ハプトグロビン値は低値を示します。治療は鉄欠乏性貧血では鉄剤投与、溶血性貧血では足底部の衝撃を少なくするように減量し、走り方やシューズの改良等を行います。高尿酸血症:激しい運動を行っている人は尿酸値が高く、痛風発作を起こしやすいです。特に有酸素運動よりも高強度の無酸素運動を行う人のほうが高尿酸血症になりやすい。肥満や内臓脂肪が多いようなインスリン抵抗性を持っている人もなりやすい。食事療法や減量、経口剤治療が必要です。

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Ⅰ 総 論

成長期のスポーツ障害クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 成長期のスポーツ障害は、運動器への繰り返すストレスにより障害を来すことが多く、体幹では腰痛があげられます。成長期には骨格の成長が一気に加速するため、腰周辺の筋肉は緊張し柔軟性が失われ、また筋力も十分に発達していないことが要因となります。疾患としては腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症があります。上肢の障害は、野球の投球、テニスのサーブといった肩や肘への繰り返しのストレスにより生じます。疾患としてはリトルリーグ肩(上腕骨近位骨端線障害)、野球肘があります。下肢の障害は離断性骨軟骨炎、Osgood-Schlatter病、Sinding-Larsen-Johansson病、有痛性分裂膝蓋骨、シンスプリント(過労性脛骨部痛)、疲労骨折などがあげられます。

成長期 スポーツ障害

 成長期のスポーツ障害における治療の一歩はスポーツ活動の中断であり、中断中に十分なストレッチ、体幹の筋力強化、練習量の適正化、正しいフォームを習得することが重要です。・椎間板ヘルニア:椎間板は椎体間にある軟骨で、この軟骨の一部が飛び出て神経に触れ、腰痛や下肢痛を引き起こした状態が椎間板ヘルニアです。症状が取れない場合や、下肢の筋力低下などがある場合は手術を行うことがあります。

・腰椎分離症:椎体の後ろにある関節突起間部に繰り返しのストレスが加わった結果、疲労骨折が生じ腰痛が発生したものを腰椎分離症と言います。治療法は早期に発見された場合は骨癒合が期待できるため3~5ヵ月間コルセットを装着します。

・リトルリーグ肩:力学的に弱い上腕骨近位部へストレスが加わり骨端離開を来したもので、単純X線(Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ型)や可動域の左右差、痛みのでる動作などで診断します。フォームだけでなく投球回数などの見直しが必要です。

・野球肘:内側型と外側型に分けられます。内側型は筋肉や靭帯に骨が引っ張

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

られ、上腕骨内側上顆の裂離(剥離)骨折が生じ、外側型は上腕骨と橈骨がぶつかり合うことで上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎が発生します。診断には単純X線、MRIが有用です。

・離断性骨軟骨炎:10~13歳、男性に好発し大腿骨内側顆に発生することが多いですが、肘など他関節にも発生することがあります。局所へのストレスにより微小な骨折が生じ、徐々に骨軟骨片が分離してくるとされています。単純X線、MRIが有用で、治療方法はstageにより異なります。

・Osgood-Schlatter病:膝伸展機構の停止部である脛骨粗面部へのストレスにより脛骨粗面部に炎症が起こり生じます。同部の隆起と圧痛が特徴です。

・Sinding-Larsen-Johansson病:Osgood-Schlatter病と同様の病態と考えられていますが、疼痛は膝蓋骨下端部に生じます。

・有痛性分裂膝蓋骨:膝蓋骨の骨化障害のため、膝蓋骨が2個または数個に分かれた状態を分裂膝蓋骨といいます。分裂膝蓋骨の中でも、疼痛が生じるのは数%と言われており、分裂部に大腿外側広筋の牽引力がストレスとなり、疼痛が出現する疾患をいいます。

・シンスプリント:スポーツ中や後に脛骨下1/3付近の後内側部痛が生じる筋腱の付着部炎、骨膜炎とされます。疲労骨折と判別が困難な症例もあり注意が必要で、繰り返す場合は扁平足や回内足などが要因の場合もあります。

・疲労骨折:ごく軽微なストレスが繰り返し作用する結果、微小な骨折様変化が生じた状態です。主に下肢(脛骨、踵骨、中足骨)に好発しますが、上肢や大腿骨などあらゆる部位に生じます。中距離ランナーは脛骨近位1/3、跳躍系選手では脛骨中1/3に生じやすいなどスポーツによって骨折しやすい部位も異なります。初期の症状はスポーツをしない限りは疼痛を生じず、発症早期には単純レントゲンでは明らかな所見がない場合も多いため再診を指示することが重要で、早期診断には骨シンチグラフィーが有用とも言われています。また、骨腫瘍との鑑別も考慮します。

参考文献1)『標準整形外科学』医学書院2)『成長期のスポーツ障害』日本小児整形外科学会スポーツ委員会

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Ⅰ 総 論

救護所 本部・5kmごとの救護所(給水所に設置すると効率的。) 本部は医師が常置しています。救護スタッフ 看護師・消防士、大会スタッフ、医師(本部) 消防士がスタッフとして入らない場合は医療関連者も良。救護所備品 AED、一般救護処置用品、通信機器 通信機器は無線、携帯電話等その他 モバイル隊 AEDを携帯した、自転車、ランナーがいればさらに良い 救護車両 10㎞以上のレースでは必要

AED BLS

 近年のランニングブームで約2000を越えるマラソン・ロードレースが開催されています。またランナー人口も800万に達すると言われ健康増進に多大な貢献をしています。しかし社会の高齢化にともない高齢者の参加も多く、事故も増加しており心肺停止例も見られています。 また2004年よりAEDの非医療者の使用が許可されマラソン・ロードレース大会で発生した心肺停止例でもAED使用例が数多く報告されています。 近年、AEDを整備して「5分以内の除細動」が行なえる救護体制が求められています。AEDの整備については救護所の固定AEDと救護車搭載AED、モバイル隊(自転車、ランナー等)AEDの配備が行なわれる大会が多く見られます。 また、心肺停止例発生時にはBLS(Basic Life Support)が必要であり、大会スタッフへのBLSの普及が求められています。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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市民マラソン等の医事運営クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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クリニカル・クエスチョン

参考文献1)『市民マラソンロードレス運営ガイドライン』公益財団法人 日本陸上競技連盟2) 『安全なロードレースを目指して』慶應義塾大学スポーツ医学研究センター ニューズレター第7号[2011年9月発行]真鍋知宏

図1 救護対応フロー

図2 早急な除細動の必要性1分で約7~10%ずつ救命率が低下する。10分後にはわずか5%以下の救命率になる。

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Ⅱ 各 論

ロコモティブシンドロームロコモティブシンドロームクリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

1919

 運動器の障害のために移動能力の低下を来して、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態を「ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ、和名:運動器症候群)」といいます。 ロコモは筋肉、骨、関節、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態をいいます。進行すると日常生活にも支障が生じてきます。 2007年、日本整形外科学会は人類がかつて経験したことのない超高齢社会・日本の未来を見据え、このロコモという概念を提唱しました。 いつまでも自分の足であるき続けていくために、運動器を長持ちさせ、ロコモを予防し、健康寿命を延ばしていくことが今、必要なのです。

●ロコモの評価法 運動器の脆弱化は緩やかに進行し、一定レベルまで進まないと生活機能に支障を来さないため、察知しにくいものです。したがって、ロコモで重要なことは、早めに運動器の脆弱化を察知すること、早めに対策を始めることです。 早めの察知の方法として、自己チェックリストである「ロコモーションチェック」とロコモの判定基準である「ロコモ度テスト」があります。1.ロコモーションチェック 下記の7項目からなり、該当項目が1個でもあると運動機能の低下が予測され、ロコモのリスクがあると考えられます。①片足立ちで靴下がはけない。②家の中でつまずいたり滑ったりする。③階段を上るのに手すりが必要である。④横断歩道を青信号で渡りきれない。⑤15分くらい続けて歩けない。⑥ 2kg程度の買い物(1Lの牛乳パック2個程度)をして、持ち帰るのが困難である。

⑦家のやや重い仕事(掃除機がけや布団の上げ下ろし)が困難である。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

2.ロコモ度テスト ロコモ度テストは、下肢筋力を評価する「立ち上がり」テスト、下肢筋力、バランス及び柔軟性を評価する「2ステップテスト」、運動器の症状や生活機能を問う調査票「ロコモ25」の3種類テストから構成されています。1) 立ち上がりテスト 10~40cmのどの高さの台から両脚または片脚で立ち上がれるかで、下肢筋力を評価します。両脚より片脚、高い台より低い台から立ち上がれると、下肢筋力が高いと判定されます。2) 2ステップテスト 最大の2歩幅を評価することで、下肢筋力、バランス能力、柔軟性を評価するテストです。3) ロコモ25 運動器の障害を早期に発見するために開発された調査票で、25項目の質問で運動器の症状や日常生活の困難さを問うものです。

ロコモ度テストの臨床判断値立ち上がりテスト 2ステップテスト ロコモ25

ロコモ度1 片脚40cm不可 1.3未満 7点以上ロコモ度2 両脚20cm不可 1.1未満 16点以上

●ロコモの判定基準 上記の3テストでそれぞれの臨床判断値が設定されています。 移動機能の低下が始まりつつある状態を「ロコモ度1」 移動機能の低下が進行して自立度の低下や運動器疾患の存在が疑われる段階を「ロコモ度2」とします。●ロコモの対策 上記のように、ロコモの予防や改善のためには、習慣的な運動、適切な栄養摂取、活動的な生活、そして運動器疾患の管理が重要です。 特に、ロコモ度テストにおいて、「ロコモ度1」と判定された場合も同様ですが、「ロコモ度2」と判定された場合は上記に加え何らかの運動器疾患が存在する可能性もあるため、医療機関を受診することが勧められます。 ロコモ対策のための中心的な運動(ロコトレ)として、スクワットと開眼片脚立ち、ヒールレイズ、フロントランジが推奨されています。 関連項目:「サルコペニア」、「フレイル」

参考文献1)日本整形外科学会ロコモパンフレット 2015 <https://locomo-joa.jp>  『ロコモチャレンジ』で検索 *図版、動画による詳しい説明を観ることができます。

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Ⅱ 各 論

健康づくりウォーキングクリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2020

 高齢化社会を迎えて、ますます健康を維持することの重要性が増してきた、「がん」や高血圧、糖尿病、高脂血症、腎臓病加えて肥満対策など、自らの健康を守る事を考えると、多くの疾病やリスク因子に囲まれていることに気付かされます。日本内科学会を中心として、これ等を念頭に生活習慣の管理を基本にした「脳心血管病予防に関する包括的管理チャート」が作成された、禁煙や食習慣の改善、そして身体活動(生活活動・運動)等の改善、推奨される運動の種類や強度、頻度等について具体的な提案がなされています。(文献2)

中等度以上の有酸素運動を中心に、毎日30分以上を目標に、通常速度の歩行以上の強度の運動で、1日で合計30分以上、週3日以上の頻度が推奨されます。運動以外の日常の時間の過ごし方についても、小まめに体を動かすとか、座ったままの生活を避けて活動的な生活を送るように心がけるなどと記載されています。(生活活動のメッツ表 文献1、2)

 また、2007年に、日本整形外科学会が運動器に障害(関節の変性、外傷)などが起こって、「立つ」「歩く」といった移動機能が低下している状態を指して、「ロコモティブシンドローム」という概念を提唱した(文献4)、進行すると生活活動の自立性を阻害し、介護が必要になるリスクを高めるものです。 運動器障害は50歳以降に顕在化しやすいですが、若年層においてもその危険性は高く、体を動かさない生活習慣とか、極端な栄養状態が生み出す痩せすぎや肥満、あるいはスポーツのやりすぎによる関節への過剰な負担等、「ロコモ」のリスクに充分な注意が必要です。「ロコモ」は中高年層、高齢者に限られる問題というわけではありません。 さて、「健康づくりのためのウォーキングは?」というテーマですが、若年層には若年層の、中高年にはまたそれなりのウォーキングが推奨されます。 そもそも、ウォーキング、二足歩行は足関節やひざ、股関節、腰などすべてがコントロールされている極めて精緻な全身運動であり、どの部分の故障があってもスムーズな歩行は妨げられます。歩くことで運動器の疾病予防や過度のトレーニングによる故障に気づくことが出来て、正しい歩行を続ければ運動器の健康が保証されるというわけです。 若年層に推奨したい歩行は、「表」に示すように「やや速歩」を目指したい、

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

正しい姿勢で立って、やや大股で、肘を前後に大きく振って歩く、いわゆる正しい歩行です。1日1万歩以上、1時間を目標にしたい、スポーツをイメージできるようなウォーキングとでもいうのが妥当かも知れません。 一方、若年層には理解できないことかもしれませんが、中高年層になると、歩くことに何らかの異常を感じ始めます。若い頃には経験したことのない「階段上りでの躓き」、「脚を重く感じる」、「筋肉の明らかな衰えを自覚する出来事」等が続出してきます。慌てて「筋トレ」を試みても効果は期待できないし持続できない、年齢のせいなどと言いたくないが普段の身体活動の不足のためなのかもしれない…、何か運動を始めなくてはならないと反省するのです。 先ずは、「表」に記載されている「ゆっくりした歩行」を10分でも20分でも続けてみる、500~1000メートル歩いてみることから始めたい。週に2回でも3回でもトライしてみてはどうでしょう。少し汗ばむくらいの運動量になれば良しと考えたい、辛ければさらに続ける必要はないし運動は楽しいものでなくはなりません。1日1万歩以上にこだわる必要はなく、5000歩でも6000歩でも良い、しっかりした二足歩行が出来るように徐々にトレーニング内容を考慮してゆけば良いのではないでしょうか。

生活活動のメッツ表

メッツ 生活活動の例1.8 立位(会話、電話、読書)、皿洗い2.0 ゆっくりした歩行(平地、非常に遅く=53m/分未満)

料理や食材の準備2.2 子どもと遊ぶ(座位・経度)2.8 ゆっくりした歩行(平地、遅い=53m/分)3.0 普通歩行(平地、67m/分)3.5 歩行(平地、75~85㎡/分、ほどほどの速さ)

楽に自転車に乗る(8.7㎞/時)子どもと遊ぶ(歩く/走る、中強度)

4.0 自転車に乗る(16㎞/時未満)階段を上る(ゆっくり)

4.3 やや速歩(平地、やや速め=93m/分)5.0 かなり速歩(平地、速く=107m/分)8.8 階段を上る(速く)

参考文献1) 『健康づくりのための身体活動基準2013』厚生労働省科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) 「健康づくりのための運動基準2006改定のためのシステマティックレビュー」(研究代表者:宮地元彦)

2) 『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート』日本内科学会雑誌台104巻 4号

3) 『改訂版 学校の運動器疾患・障害に対する取り組みの手引き』公益財団法人 運動器の10年・日本協会 平成28年4月1日 第3版第1刷

4) 『ロコモティブシンドロームのすべて』日本医師会雑誌 第44巻・特別号⑴

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Ⅱ 各 論

救急処置(BLSとAEDの使用・突然死)(BLSとAEDの使用・突然死)

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2121

1次救命処置(BLS) 心肺蘇生(CPR) AED

 近年、健康志向の流れからスポーツ人口が増加し、様々なスポーツイベントが多く開催され、一般人の競技としての参加が容易になってきました。その結果、潜在性に疾患を有する参加者も増加し、日常生活を超えた高強度のストレスにさらされることによって、心臓性突然死を引き起こす事例も報告されています。心肺停止例に関して、一般人の参加するマラソン大会などでは0.5~1件/10万人であり、競技レベルの高いと推察される学生やスポーツ選手における頻度はやや高く1~2件/10万人スポーツ選手・年と推定されます。頻度としては必ずしも多くはないものの、運動中に発生する予期せぬ心肺停止に対し、十分な救命対策を取る必要があり、そのためには医療者だけでなく一般市民への啓発も重要です。日本蘇生協議会(JRC)の提唱する救命の連鎖は、①心停止の予防、②心停止の早期認識と通報、③一次救命処置(Basic Life Support: BLS、心肺蘇生とAEDの使用)、④二次救命処置と心拍再開後の集中治療、の4つの要素によって構成されています。特に、②と③においては現場での速やかな判断と対応が重要であり、以下に具体的な説明(成人について)を述べます。 心停止の早期認識とは、突然倒れた人や呼びかけに反応のない人を見たら、直ちに心停止を疑うことで始まります。具体的には傷病者の方を軽くたたきながら大声で呼びかけ、何らかの応答や仕草がなければ『反応なし』とみなします。この時、死戦期呼吸(あえぎ呼吸ともいわれる異常な呼吸で、しゃくりあげるような様子が特徴)が見られることもありますが、これも心停止と判断します。呼びかけても反応がなければ、その場で大声で叫び周囲の注意を喚起し、周囲の人に救急通報(119番通報)とAEDの手配を依頼します。周囲に人がいない場合、自分で119番通報を行い、近くにAEDがあることがわかっていれば自分で持ってきます。傷病者に反応がなく、呼吸がないか異常な呼吸(死戦期呼吸)が認められる場合、あるいはその判断に自信が持てない場合は心停止、すなわち心肺蘇生(Cardiopulmonary Resuscitation: CPR)の適応と判断し、直ちに胸骨圧迫を開始します。

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

 全ての救助者は、訓練されていてもそうでなくても、心停止の傷病者に胸骨圧迫を実施すべきであり、質の高い胸骨圧迫を行うことが重要です。質の高い胸骨圧迫とは、❶傷病者を仰臥位に寝かせ、救助者は傷病者の胸の横にひざまずく、❷圧迫部位は胸骨の下半分、胸骨圧迫の深さは胸が約5cm沈む程度(6cmを超えない)で、1分あたり100~120回のテンポで圧迫します、❸毎回の胸骨圧迫のあと、胸の元の位置に胸が戻るように、圧迫と圧迫の間に胸壁に力がかからないようにします、❹CPR中の胸骨圧迫の中断(AEDによる電気ショックや人工呼吸時)を最小限にします、❺疲労による胸骨圧迫の質の低下を最小にするために、1~2分毎に胸骨圧迫をする人を交代します、❻以上の点を救助者がお互いに注意し合う(救助者が複数の場合)ことです。訓練を受けていない市民救助者の場合には胸骨圧迫のみのCPRを行いますが、救助者が人工呼吸の訓練を受けており、それを行う技術と意思がある場合は、胸骨圧迫と人工呼吸を30:2の比で行います。人工呼吸を行う際には気道確保を行う必要があり、気道確保は頭部後屈あご先挙上法で行います。1回換気量の目安は人工呼吸によって傷病者の胸の上がりを確認する程度とし、送気は約1秒かけて行います。口対口人工呼吸による感染の危険性は極めて低いものの、可能であれば感染防護具の使用を考慮します。その間にAEDが到着したら、速やかに装着します。AEDには蓋を開けると自動的に電源が入るタイプと電源ボタンを押すタイプがあり、後者の場合には最初に電源ボタンを押します。右前胸部と左側胸部に電極パッドを装着(未就学の小児に対しては小児用パッドを使用)し、AEDによる心電図解析が開始されたら、傷病者に触れないようにし、AEDの音声メッセージに従ってショックボタンを押し電気ショックを行います。電気ショック後は直ちに胸骨圧迫を再開します。 BLSは、救急隊など、二次救命処置を行うことができる救助者に引き継ぐまで続けます。明らかに自己心拍再開と判断できる反応(呼びかけへの応答、普段通りの呼吸や目的のある仕草)が出現した場合には、十分な循環が回復したと判断してCPRを一旦中止してもよいが、AEDを装着している場合は電源は切らず、パッドは貼付したままにしておきます。

参考文献1)心臓 Vol. 48 No.2(2016)127-1332)JRC 蘇生ガイドライン2015

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Ⅱ 各 論

熱中症クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2222

 熱中症とは体内に熱がこもることによる健康障害で重篤な場合“死”に至ることがあります。 人は暑くなると“汗”をかいて、気化熱を利用して体温を調節しています。運動などで大量の汗をかき体内に水分が不足してしまうと、熱放散の調節が効かなくなり体内に熱がこもってしまい熱中症はおこります。さらに脳内の体温調節中枢が破綻すると“熱射病”になり“死”に至ることもあります。

第Ⅰ度 熱失神・熱痙攣 熱中症のはじめは、気分が悪い・立ちくらみが主症状になります(皮膚血管の拡張と、急に立ち上がったときに下肢への血流移動が起こり、血圧が下がり脳血流の減少が起こるものです)。汗は顔にこびりつき塩を噴きます。すぐさま木陰など涼しいところを探し本人を移動させ横臥させ、衣服を緩め風を送ります。顔・上腕・胸・下腿などを濡れたタオルで拭いて、気化熱を利用し体温を下げます・水を飲める状態なら冷たい水を飲ませ体内より体温を下げます。体内の電解質のバランスが狂うと足が突っ張り筋肉痛が見られることがあります。

第Ⅱ度 熱疲労 頭痛・吐き気・嘔吐・脱力感・虚脱感などが見られるようになります。(発汗による循環血液量の減少による循環不全の状態)。熱が体内にこもっている状態なので、早く体温を下げるように、頚部・腋か・鼠蹊部などを氷で冷やすようにします。

第Ⅲ度 熱射病 呼びかけや刺激恵の反応がおかしくなり、身体に触ると“熱い”という感触がみられ、意識障害があれば直ちに救急搬送してください。 熱中症は蒸し暑い環境の下で、体内の水分やNa(ナトリウム)のバランスが崩れること、体温を調節できなくなることで起こる状態なので予防することが大切です。 スポーツ現場における熱中症予防対策としては、日本体育協会による熱中症予

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

防運動指針に基づき、環境条件の評価をWBGT(wet-Balb Globe Tempereture)を用いると良いです。日本気象協会でも熱中症予防に利用しています。

 熱中症運動指針をしめします。

図1 熱中症予防運動指針

図3  August乾湿計と黒球温度計(15センチ)によるWBGTの測定

図2 日常生活における熱中症予防指針

図4 WBGTと気温、湿度との関係

WBGTの測定には、August乾湿計と黒球温度計(15センチ)が用いられる。WBGT(℃)の計算は以下の式で計算される。 屋外で日射が有る場合:  WBGT=湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度 屋内で日射がない場合:  WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

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Ⅱ 各 論

脳しんとう・意識障害クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2323

●スポーツ現場での頭部外傷頭部外傷時の諸症状①出血(頭皮、鼻) ②頭痛 ③嘔吐 ④けいれん ⑤意識障害(脳震盪等)

各症状への基本対応① 出血:部位を問わず圧迫止血が基本、頭皮は比較的出血量が多いので広範に圧迫を。

②疼痛:冷却が基本(救急時対応のRICEを参考に)、持続性疼痛→精検を!③ 嘔気と嘔吐:70~80%に出現、肺炎併発予防の為誤嚥予防を、脳性嘔吐は噴出性に嘔吐が起きます。反復性嘔吐には精検を。

④ けいれん:急性又は遅発性、全身性又は局所性があります。発作後に麻痺等の症状が残る事もあります。痙攣時の舌の咬創を防ぐ、迅速搬送と精検を。

⑤ 意識障害:脳に加えられた外力により惹起されますが、意識障害の原因は前後方向への回転外力が働いた際、この回転の中心は脳幹上部(中脳)から視床(知覚に関与)に有りここに一番強い力が働きます。この部位は意識の中枢である脳幹網様体がある所で、ここの攪乱が起こる為意識の障害が起こると見なされます。記憶障害の起こる原因は未だ不詳です。意識障害の持続時間は脳損傷の量が多いか少ないかが関与しており、外力の部位の局所性や広汎性によるものではありません。意識障害には色々な段階があります。スポーツの現場で一番頻度の多いのが脳震盪です。(別項参照)

●脳震盪について① 頭部に衝撃を受けた際に発症する一過性、可逆性の意識障害、記憶の喪失を来す軽傷の外傷性脳損傷ではありますが、意識消失を必ずしも伴うものでは無い事を監督やコーチが常に認識する事が大事となります。

② 神経軸索のストレッチで神経伝達物質の過剰放出(ionic flux)が起こり、Na-Kポンプが活性化され脳血流の低下(脳虚血)がないのに細胞内グルコース消費が増しグルコースの需要供給のバランスが乱れます。即ち脳震盪下では脳虚血の存在無しで代謝性危機(metabolic crisis)が生じます。

③ MRI画像等から回復に30日~45日を要します。大学生より高校生の方が回復に時間がかかります。女性の方が悪化傾向が強い。脳震盪が悪化する遺伝子の存在も報じられています。脳震盪の評価ツールにはFIFA等で使われているSCAT2があります。

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

④ 【SCAT2:FIFA→現場(on site)での脳震盪評価】 1)今日のゲームの開催地は? 2)今は前半か後半か? 3)この試合で最後に得点を入れたのは誰か? 4)前回はどこのチームと対戦したか? 5)前回の試合は勝ったか?

⑤ 【脳震盪後の対応】1)脳震盪を起こしたらゲームを離れ数時間観察、その日のゲームはしない。 2)監督、コーチは選手の症状の評価をしてはならず、即にする事は、選手をゲームより下げて医者に診せる。 3)その選手から聴取して医療者に伝えなければならない事は、意識消失の有無;その時間;記憶の喪失の有無;痙攣;過去の脳震盪の既往歴;頭痛歴、また学業成績や運動能力を把握することも対応で必要になってきます。

⑥ 脳震盪後の対応には次のような事も必要。 1)無症状になるまで身体も脳も休ませる(physical and cognitive rest)。 2)ゲーム、携帯メール、ウェブ、学業、課外活動など全てを休ませる! 3)TVの視聴に関しては不詳だが視聴の場合は短時間に限る。

⑦ 【脳震盪後の経過について】 1)頭痛、記憶喪失、霧視(fogginess)がある場合は予後は悪い。 2)脳震盪は7~10日でベースラインへ回復し8割は3週以内に回復。 3)2回目以降の脳震盪は重症化を来すことが多い(second impact syndrome)。

⑧ 【セカンドインパクト症候群】2回目の脳震盪の後、高度の脳浮腫を来し、時に死に至る。50%の高い死亡率、17例の死亡報告があります。これはまだ選手に最初の外傷による脳震盪が残って、脳がまだ完全に回復する前の時期に、練習やゲームで2回目の脳震盪を起こした際に起こる良く知られた現象です。最初の外傷による血管反応性の異常が原因と考えられています。放置するとゲーム後徐々に悪化していく事が有り注意を要します。⑨ 【ゲームへの復帰について】脳震盪後は身体と脳の完全な休養(physical and cognitive rest)、ビデオゲーム等前述の刺激から遠ざけます(アルコール摂取を含む)。症状が完全に消失した後、運動量ゼロからプレー復帰まで6段階に分け徐々に運動量を上げていきます。各段階の間には24時間の間隔を入れ⇒最終的にプレーに戻る前にメディカルチェック(medical clearance)をします。ある段階で症状があれば前の段階に戻り無ければ次の段階へ進みます。

⑩ 【初回脳震盪の予後】 受傷後1週間は高校生で生物学的には脳の弱い時期が存在。前述⑦を参照に。症状が残存する場合には運動への復帰は避けます。この際は両親;学校の先生;コーチとの連携が必要です。完全復帰は臨床症状が完全に消失してからです。

参考文献JAMA July 6 2011(Vol 306 No1),NEJM July 2007,チューリッヒガイドライン2008 SCAT2,SFA(埼玉県サッカー協会)NEWS 2007.5.31 No.40(サッカー中の脳震盪に対する提言)

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Ⅱ 各 論

落雷の予想と救命処置クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2424

 落雷の予想は困難ですが雷雲の接近は予想できますのでそれをもって予想することになります。落雷の被害を受けた時には直ちに心肺蘇生法就中胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行うことにより多くの場合救命することができます。

雷雲 雷撃傷 側撃 安全空間、胸骨圧迫

 落雷の予想は甚だ困難ですが雷雲の接近は予想することができます。雷雲は大きいもので直径20㎞にも及ぶと言われます。つまり浦和と東京日本橋はおよそ20㎞強の距離ですから、日本橋でピカッゴロッといっていた雷雲から浦和に一足跳びにガシャンと落雷することもあるわけです。そしてその速度も速いものでは時速30㎞/hrにも達するとも言われ、まだ遠くだと思っていてもあっという間に危険になることも多いのです。では雷雲の接近をどのように予想するかというと、⑴ 雷光・雷鳴の確認⑵  頭上に厚い黒雲がモクモクと湧き上がってくる時。雷雲は台風の雲と並んで最も背丈の高い積乱雲(入道雲)。夏空に急に入道雲が発達してくる時には落雷の危険を予想し、屋外スポーツは直ちに中断し、屋内(安全空間)に避難すべきです。コンクリート製の建物、列車、車等の絶対安全空間にすぐに避難できないような場合には樹木等の相対的安全空間に避難しながら最終的に絶対的安全空間に避難しましょう。

⑶ 携帯ラジオ(AMにガリガリと雑音が入る時)⑷  雷警報器ストライクアラート(米国製)による警報-半径60㎞ぐらいの所に雷雲が発生するとその雑音を感知して警報音を出してくれる。

⑸  携帯電話、スマートフォンによる雷警報・予報気象情報、各種アプリによる雷情報。気象庁、気象台、気象協会、㈱日本ウェザー情報(043-274-5509)による各種情報。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

[避難]⑴  樹木等の場合高さ30mまでならその高さの範囲は相対的安全空間です。即ち高さ30mの樹木があれば樹木の根から半径30m(仰角45°)内が安全空間ということになります。しかし雷雨を避けようと樹木の幹に寄りかかって雨宿り、というのは危険が高くなります。雷は高いところに落ちますから、雨宿りしている樹木に落ちる確率も高くなります。そして樹木に落ちた落雷の側撃(雷撃)によって被災して死亡することが多いのです。この場合、木の幹から2m、葉先から2m離れれば側撃を受ける危険はほぼ回避されます。次の落雷までの時間を利用して次の避難場所に逃げ、これを繰り返して最終的に絶対的安全空間に避難すべきです。(同一地点にはめったに落雷はないこと、落雷があってからおよそ2分間くらいは落雷は起きにくいといわれています。―絶対的なものではないが)

[被雷時の救命法] 落雷時のエネルギーはすさまじく大きく、一般家庭の電力消費のおよそ2ヶ月分くらいといわれます。この過大な電力が一瞬のうちに体内を流れるので心拍が停止するのです。しかし感電のような電撃症とは違い、落雷による雷撃症の心臓は停止はするものの物理的なダメージは殆んど受けていないので脳を直撃されるようなケースを除く殆んどの場合、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を施せば救命されることも多いのです。心室細動を起こしているわけではないのでAEDは不要で殆んど無意味です。ただ単純に胸骨圧迫をすれば救命できるのです。

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Ⅱ 各 論

運動後急性腎不全クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2525

急性腎不全 無酸素運動 背腰部痛

 運動後急性腎不全とは「短距離を全力疾走するなど無酸素運動後に、強い背腰痛を伴って発症する非ミオグロビン尿性急性腎不全」のことで、マラソンや登山などの有酸素運動後に発症するミオグロビン尿性急性腎不全とは異なります。本症は、1982年石川勲等によって背腰痛と腎の血管攣縮を伴う急性腎不全として提唱されました。 運動後急性腎不全は患者の殆どが男性で、主に若い男性に発症します。典型例は、「運動会や体育祭で200m全力疾走を複数回繰り返したとする。その1-48時間後、夜に激しい背腰痛、吐き気、嘔吐を訴えて救急外来を受診する」というパターンです。強い痛みから尿路結石と診断されることが多く、翌日内科を受診して血清クレアチニンの上昇がみられ急性腎不全と診断されます。多くは非乏尿性急性腎不全で、尿の色に変化はなく褐色尿も認められません。血清CK値は基準値内か高くても9倍以内です。大部分は保存的治療で回復していますが、1/4の症例で血液透析が必要となります。また報告例の過半数は腎性低尿酸血症患者です。この腎性低尿酸血症は本症の発生リスクとして最も重要なものです。また本症は、高頻度に再発を繰り返しています。 発生機序についてはまだ解明されていません。しかし石川勲等は、造影24-48時間後の単純CT撮影にて両腎に造影剤の楔状残存が見られることより、無酸素運動により筋肉から何らかの腎血管の攣縮を起こす物質が発生し作用するという仮説を立てています。 腎性低尿酸血症は、尿酸の近位尿細管での再吸収が障害された結果として発症します。腎臓からの尿酸の排泄が亢進している状態で、血清尿酸値が2mg/dl以下です。2002年Enomoto等により尿酸トランスポーターURAT1がクローニングされ、腎性低尿酸血症に運動後急性腎不全(ALPE ; Acute renal failure with severe Loin pain and Patchy renal ischemia after anaerobic Exercise)が発生しやすいことが注目されるようになりました。また尿酸トランスポーターURAT1、GLUT9の遺伝子変異が報告されています。

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

 再発予防法としては①患者に運動時の準備運動の重要性を伝えるとともに、運動後急性腎不全を起こし易い無酸素運動とは、どんな運動かを説明しその運動を避けさせます。②脱水を予防。③風邪気味の時や、風邪薬やNSAIDsをのんだ時には全力疾走させない。④発生したら背腰部痛があってもNSAIDsをのませない。その他に再発予防にはっきりとしたデータはまだないがアロプリノールを勧める記載があります。現時点はリスクを回避する以外の予防法はありません。

参考文献1) Ishikawa I: Acute renal failure with severe loin pain and patchy renal ischemia after anaerobic exercise in patients with or without renal hypouricemia (ALPE) Nephron 91: 559-570, 2002

2) 石川勲:運動後急性腎不全(ALPE) 痛風と核酸代謝 34 145-157,2010

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Ⅱ 各 論

食物依存性運動誘発アナフィラキシー

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2626

 発症してすぐの治療法は⑴軽症と思われる時は抗ヒスタミン剤であり、⑵重症の可能性のある時にはエピペン注です。そして同時に輸液ラインを確保しながら、ステロイドを入れ、救急搬送を行います。

アナフィラキシー 食物アレルギー 運動誘発 エピペン

 最近いろいろな食物アレルギーが報告されてきています。幼少期から思春期迄の牛乳、鶏卵による食物アレルギーがよく知られていますが、母乳から始まってヒトは一生のうちにさまざまな食品に対してアレルギー反応を起こし、それに慣れてアレルギーを克服していくのです。一方で中年女性の中には、それ迄平気で食べていた熱帯系の果物に突然アレルギーを起こす例が多く報告されるようになっています。さまざまな要因がからみあい、今まで大丈夫だったから今後もずっと大丈夫というわけではなく、その時々の自分側の要因も含めて軽症から最重症のアナフィラキシー(ショック)までさまざまなステージで発症することがあります。その中で食物と運動が関与するものが食物依存性運動誘発アナフィラキシーです。これは食物アレルギーと運動による負荷が重なった時に発症するものでどちらか一方だけでは発症しません。多くの場合は食事が先行し、そのあと数時間以内(多くは4h)に運動(多くの場合はかなり強い強度の運動-最も多いのはランニング)を行った時に発症することが多いようです。小児では少なく、成人に多いと言われています。即ち小児期では即時型食物アレルギーとなり学童期になると食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA ; Food Dependent Exercise Induced Anaphylaxis)の頻度が増え、成人では主要病型といわれます。アレルゲンにはやはり小麦とエビ、カニ等の甲殻類が多いようです。食物が胃・小腸に達して消化作用を受けてもなお抗原性が保たれている場合に運動をすることによって、消化管での吸収が亢進し、その結果血中濃度が上昇してアナフィラキシーが誘発されると考えています。しかし、同じものを食べて、同じような時間後に同じような運動をしても誘発

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

しないこともあり、抗原摂取+運動の他にもっと複雑な機序(恐らく患者側の要因やNSAIDs)も考えられています。また最近では即時型だけでなく稀ながら1~2日後に発症する遅延型のものもありえるという報告もされ始めています。発症には摂取抗原量が大きな要素なるため微量の摂取は問題がなく、運動負荷も食後2時間くらいが発症のメドといわれています。[治療] 治療としては生命に関わる危険性があるのでアナフィラキシーショックに対する治療が第一となります。食物アレルギーの治療として学校現場に最近重用されているエピペンを緊急使用するのが推奨されています。更にステロイドや抗ヒスタミン剤を使用しながらラインを確保して病院に緊急搬送することが必要となります。

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Ⅱ 各 論

眼科傷害クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2727◆ラグビーの試合中、相手の肘が目に当たり瞼から出血、物が二重に見えるとの訴えあり現場でどう対処したら良いでしょうか

 受傷眼を動かしたり、眼に圧力を加えないようにする事が大事です。眼球打撲、眼瞼裂傷等ではアイシング処置は必要ありません。眼瞼裂傷部からの激しい出血は圧迫によって止血し、完全止血後、傷口を十分洗浄、消毒して下さい。眼瞼内嘴部(鼻側、涙小管付近)以外で眼瞼皮膚損傷が激しく、出血が著しい場合は、応急的外科縫合も可とします。物が二重に見えるとの訴えがある場合、角膜びらん、角膜強膜裂傷、眼窩底骨折等の疑いもある為、眼科専門医へ紹介して下さい。

眼球打撲 眼窩底骨折 眼瞼裂傷

①眼球打撲、眼窩底骨折: スポーツによる眼外傷は圧倒的に眼球打撲が多い。プレー中、相手の身体の一部(頭、手拳、肘、膝)による眼への打撲や、野球ボール、テニスボール等が眼部へ直接当たる事による打撲等が原因です。ボールなど正面から眼窩部を塞ぐように強い外力が働く場合には、外力は眼球を含め眼窩内組織全体に及ぶため、眼窩吹き抜け骨折を起こします。比較的脆弱な眼窩下壁の骨折と同時に、眼窩内組織が骨折部へ陥頓すると、眼球上転障害による複視を生じます(眼窩底骨折)。眼窩底骨折整復術が必要です。眼球正面からの強い外力により眼球全体が変形かつ過伸展により隅角離断をきたすことにより、前房出血、瞳孔偏位等が生じますが、これは野球やサッカー、バトミントン等のボールによる眼球打撲に多くみられます。前房出血後に、眼圧が上昇する事があるが(続発緑内障)、出血後、赤血球残渣物による隅角線維柱帯の閉塞や、線維柱帯自体の損傷による房水流出障害が原因として考えられます。眼打撲によりチン小帯が断裂すると、水晶体の亜脱臼や脱臼を起こします。 ゴルフボールのような小さい物体の場合、眼球に直接強い力が加わるので、

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

眼球破裂を生じやすい。野球ボールやサッカーボールは球形が眼窩入口より大きいため、外力の一部が眼球を変形させ、後眼部(硝子体、網膜、脈絡膜)に影響を与え、後部硝子体剥離、網膜出血、網膜浮腫等が生じるが、網膜の一部が破れると網膜裂孔、網膜剥離を発症します。

②眼瞼裂傷: 眼瞼は皮下組織が薄く、炎症性腫脹や皮下浮腫を起こしやすい。また眼瞼の裂傷は、涙小管や眼瞼挙筋に断裂をきたす場合があります。眼瞼は血管豊富な組織のため、皮下出血の他、眼瞼裂傷部位からの出血が多いのも特徴といえます。涙小管断裂を併発していることに気が付かず、安易に眼瞼皮膚縫合を行うと流涙等の後遺障害を生じる事があるので注意を要します。

③現場での応急処置について: 眼球表面への障害として、球結膜下出血、角膜上皮剥離、角膜びらんなどがあります。眼痛が著しい場合、ベノキシール麻酔点眼にて眼痛を軽減後、抗生剤及び角膜保護剤点眼にて5日程度で軽快することが多いです。 激しい出血を伴う眼瞼裂傷の場合はまず圧迫止血し、完全止血後に傷口を十分洗浄、消毒します。異物の有無を十分観察し、感染に注意します。現場で応急的に眼瞼皮膚縫合するよりも、圧迫止血し、そのまま眼科専門医に紹介する事が良いかとおもわれます。

参考文献1)枝川 宏:スポーツ眼外傷.日本臨床スポーツ医学会誌20:209-211,20122) Vinger PF : Sports-related eye injury. A preventable problem.Survey of ophthalmology 25 : 47-51, 1980

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Ⅱ 各 論

腰痛と膝痛クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

2828◆スポーツをしていてのギックリ腰の対処法は?

 急性に発症する腰椎の著しい運動制限を呈する腰痛をすべて急性腰痛症(ギックリ腰)としています。椎間関節に原因があるという説と、椎間板に原因があるという2つの説があります。椎間関節性の場合は後屈により腰痛が増強し、疼痛部位が左右どちらかの片側性で、起座動作時に腰痛が強いが動き始めると多少軽減されます。一方椎間板性の場合は前屈により腰痛が増強し、立位同一姿勢を継続することが困難となります。対処法(特に初期の対応について) なるべくまずは安静によって疼痛を軽減させ、早く日常生活活動に復帰させる必要があります。長期安静(4日以上)は筋肉の萎縮、心肺機能の低下などを引き起こすとされ、軽減がみられなければ専門医受診をすすめます。

急性腰痛症 椎間関節性腰痛 椎間板性腰痛

◆腰椎分離症とスポーツの関係について教えて下さい。

 発生頻度は人種差、性差がありますが、本邦での発生率は4~7%で男女比では2:1で男子に多くみられます。だがスポーツ愛好家やスポーツ選手での発生率は高く16~32%とも報告されており、発育期のスポーツ選手の腰痛の大きな原因となっています。特に腰椎への伸展、回旋運動により関節突起間部にストレスが集中して疲労骨折を起こしているので、そのような動作を繰り返す運動で腰椎分離症の頻度が増加します。診断には通常単純X線像が基本となりますが、MRIによる信号変化で早期の分離をとらえることが可能です。

腰椎分離症 疲労骨折

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

◆膝の痛みで内・外・前でどう違うのですか?

 練習のしすぎや、膝の使いすぎからくる痛みは多くのスポーツ選手が経験しています。 右図のように示してみました。膝内側の痛み:鵞足炎、タナ障害、変形性膝関節症、内側半月損傷など。膝外側の痛み:腸脛靱帯炎、外側半月損傷など。前方の痛み:有痛性分裂膝蓋骨、膝蓋軟骨軟化症、膝蓋骨亜脱臼、膝蓋腱炎(ジャンパー膝)、オスグッド病などが多い。

膝内側痛 外側痛 前方の痛み

◆膝関節の靱帯損傷で、損傷されやすい靱帯について教えて下さい。

 膝関節の靱帯のうち重要なものは、関節のほぼ中央部をクロスして走行するACLとPCL、膝内側に存在し、膝が外反するのを防ぐMCL、外側で内反を防ぐLCLの4組織です。最も多いのはMCL損傷です。膝の外反や、下腿の外旋を強制されることにより生じます。ACL損傷はジャンプ着地時や、急な方向転換、減速時などの非接触性の損傷も多い。MCL損傷では保存療法で良好に治癒することが多いが、MCLは関節外の板状靱帯であり、周囲の血行が豊富であるため修復機転が働きやすいと考えられます。一方ACLは関節内を走行するコード状の靱帯で、血行は乏しく関節内という空間で靱帯がゆるんでしまうため、再度靱帯機能を得ることは難しい。そのためACL損傷では靱帯を再建する手術が必要となることが多いです。

前十字靱帯(ACL) 後十字靱帯(PCL) 内側側副靱帯(MCL) 外側側副靱帯(LCL)

参考文献『ここが聞きたい!スポーツ診療Q&A』桜庭景植(編)『スポーツ障害から子供を守る本』高澤晴夫

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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Ⅱ 各 論

応急処置(四肢の打撲・捻挫・肉離れ)(四肢の打撲・捻挫・肉離れ)

クリニカルクリニカルクエスチョンクエスチョン

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 四肢の打撲、捻挫、肉離れなどの外傷が発生した際、現場でまず初めに行う応急処置の原則は内出血や腫れを最小限に抑えることです。強い打撲や捻挫、肉離れが発生すると局所の毛細血管が損傷され、それがその後の内出血や腫れに繋がってきます。内出血や腫れが強くなってくると組織の内圧が高くなり、疼痛が強くなったり周囲の関節の機能障害が起こります。 一般的には最初に行う応急処置法はRICEの処置が行われます。これは次に挙げる英語の頭文字を取ったものです。 R Rest(安静) I Ice(冷却) C Compession(圧迫) E Elevasion(挙上) このRICEの処置を受傷後すぐに行うことで出血や腫れを最小限に抑え、スポーツへの復帰するまでの期間を短縮することができます。

RICEの処置 アイシング

 Rest(安静)にすることにより、患部に負荷をかけずに内出血や腫れを最小限に抑えることができます。 Ice(冷却)することにより損傷された毛細血管を収縮させ、内出血や腫れを最小限に抑えることができます。実際スポーツの現場ではアイシングと言って、氷をビニール袋か氷のうに入れ局所を15分から20分間冷やします。その後アイシングを1時間程度休み、症状に合わせて、これを2~3回くり返します。あまり冷やし過ぎると皮膚が凍傷になることがあるので注意が必要です。 また、膝関節の後外側には皮膚の直下に腓骨神経が走行しており、ここを冷やし過ぎると足背部にしびれなどの知覚障害が発生したり、足関節や第1趾の背屈が困難になる運動障害が出現することもあるので、同部をアイシングする場合は腓骨神経麻痺を起こさぬよう注意が必要です。

解答 ANSWER ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

キーワード KEYWORD ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

解説 EXPLANATION ▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶

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クリニカル・クエスチョン

 Compression(圧迫)を行うことにより、内出血や局所の腫れを抑える作用があります。強い圧迫を加え過ぎると循環障害を起こすことがあるので末梢の皮膚の色が黒ずんでこないかを注意して観察することが大切です。 Elevasion(高挙)することで腫れを抑える作用があります。下肢の場合は横に寝かせ、下肢の下に机を置き挙上します。上肢の場合は頭上に挙げるようにします。いずれにせよ患部を心臓より高く挙げることが大切です。 また腫れや痛みの強い場合には応急処置後、救急病院に受診することが必要です。

参考文献1) 地域スポーツ指導者共通科目教本。現場における救急処置⑵外科 P146~148。財団法人日本体育協会。平成15年4月

写真1 RICEの処置に必要なもの 写真2 RICEの処置の実際

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あ行

アイシング………………………………66アキレス腱角……………………………14アナフィラキシー………………………60アミノ酸…………………………………26安全空間…………………………………56アンチ・ドーピング……………………301次救命処置(BLS) …………………501日10分………………………………… 8うっかりドーピング……………………30運動器具はいらない…………………… 8運動器検診………………………………32運動器疾患・障害………………………32運動強度(メッツ) ……………………22運動負荷試験……………………………12運動誘発…………………………………60運動量(エクササイズ) ………………22エピペン…………………………………60

か行

外側側副靱帯(LCL) …………………65学習目標…………………………………38学校保健安全法…………………………32眼窩底骨折………………………………62眼球打撲…………………………………62眼瞼裂傷…………………………………62冠動脈硬化症……………………………18冠動脈疾患のCHADS2 ………………10危険因子…………………………………10

急性腎不全………………………………58急性内科的スポーツ障害………………40急性腰痛症………………………………64胸骨圧迫…………………………………56筋肉………………………………………26筋力強化…………………………………24継続……………………………………… 8月経周期…………………………………28健康スポーツ医…………………… 36, 38健康スポーツ診断書……………………21健康日本21(第2次) ………………… 6講習………………………………… 36, 38後十字靱帯(PCL) ……………………65骨粗鬆症…………………………………28

さ行

至適運動…………………………………22食物アレルギー…………………………60女性スポーツの特性……………………28心筋症……………………………………18申請………………………………………36心肺蘇生(CPR) ………………………50水分………………………………………26ストレッチング…………………………25スポーツ基本法………………………… 6スポーツ障害……………………………42スポーツ心臓……………………………12成長期……………………………………42脊柱側弯症………………………………32潜在性心疾患……………………………12

キーワード索引

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前十字靱帯(ACL) ……………………65側撃………………………………………56

た行

タンパク質………………………………26椎間関節性腰痛…………………………64椎間板性腰痛……………………………64突然死と遺伝……………………………18

な行

内側側副靱帯(MCL) …………………65内蔵脂肪蓄積……………………………10

は行

背腰部痛…………………………………58膝内側痛・外側痛・前方の痛み………65疲労骨折…………………………………64

ま行

慢性内科的スポーツ障害………………40無月経……………………………………28無酸素運動………………………………58メディカルチェック……………… 14, 21

や行

やさしさ………………………………… 8腰椎分離症………………………………64

ら行

雷雲………………………………………56雷撃傷……………………………………56利用可能エネルギー……………………28レジスタンストレーニング ……………24

アルファベット

AED ……………………………… 44, 50BLS ………………………………………44JADA ……………………………………30PMS ……………………………………28Q角………………………………………14RICEの処置 ……………………………66WADA …………………………………30

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健康スポーツ医必携

発行日 2016年12月31日発行者 埼玉県医師会    埼玉県健康スポーツ医会印刷所 株式会社誠美堂