135
健康スポーツ医学委員会答申 国民がスポーツを通じて健康づくりのできる体制の整備 平成 24 年 3 月 日本医師会健康スポーツ医学委員会

健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

健康スポーツ医学委員会答申

国民がスポーツを通じて健康づくりのできる体制の整備

平成 24 年 3 月

日本医師会健康スポーツ医学委員会

Page 2: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会
Page 3: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

平成24年3月

日本医師会

会長 原中 勝征 殿

健康スポーツ医学委員会

委員長 立入 克敏

健康スポーツ医学委員会答申

平成22年7月29日に開催した第1回委員会において、貴職より「国民がス

ポーツを通じて健康づくりのできる体制の整備」について諮問を受けました。

これを受けて、本委員会では平成22年度、平成23年度の2年間にわたり

検討を行い、このたび審議結果を取りまとめましたので、ご報告いたします。

なお、本答申を取りまとめるにあたり、基礎資料を得るとともに今後の健康

スポーツ医学の推進に資することを目的として、日本医師会認定健康スポーツ

医ならびに都道府県医師会に対するアンケート調査を実施し、その結果を巻末

に盛り込んでおります。

Page 4: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

健康スポーツ医学委員会

委 員 長 立入 克敏 京都府医師会監事

副委員長 小笠原定雅 東京都医師会健康スポーツ医学委員会委員長

委 員 今川俊一郎 愛媛県医師会常任理事

委 員 太田 壽城 介護老人保健施設さくらの里施設長

委 員 香月きょう子 北九州市医師会理事

委 員 川久保 清 共立女子大学教授

委 員 川原 貴 国立スポーツ科学センター統括研究部長

委 員 小堀 悦孝 藤沢市保健医療センター所長

委 員 庄野菜穂子 ライフスタイル医科学研究所所長

委 員 寺下 浩彰 和歌山県医師会副会長

委 員 松浦 武彦 岩手県医師会常任理事

Page 5: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

i

目次

はじめに ...................................................................1

第1部 国民の健康づくりとスポーツ活動に関する現状

1.国民のスポーツ活動の現状 ........................................................................................2 (1)スポーツに対する国民の意識と実施の現状

(2)スポーツを行う場の現状

(附)スポーツ施設の現状

(3)スポーツ指導者の現状

2.健康づくりとスポーツに関連する国の施策 ...............................................................8 (1)文部科学省

(2)厚生労働省

(3)経済産業省

(4)国土交通省

(5)内閣府地域活性化統合事務局

3.健康づくりとスポーツに関する医師会・学会等の取り組みの現状 .........................16 (1)スポーツ医制度

(2)日本医師会の取り組み

(3)地域医師会の取り組み

(4)日本体育協会の取り組み

(5)学会等の取り組み

4.健康づくりとスポーツに関する医師(個人)の取り組みの現状と課題 ..................29 (1)日常診療における取り組み

(2)乳幼児保健への取り組み

(3)学校保健への取り組み

(4)産業保健への取り組み

(5)地域保健への取り組み

(6)スポーツ組織に対する取り組み

(7)スポーツ施設に対する取り組み

(8)スポーツ大会などに対する取り組み

(9)健康スポーツ医活動の現状

Page 6: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

ii

第2部 スポーツ医学の立場からみた「国民のスポーツを通じた健康づくり」

に関する提言

1.「国民のスポーツを通じた健康づくり」に寄与するため健康スポーツ医が なすべきこと ...........................................................................................................38

(1)乳幼児期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(2)小・中・高校期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(3)成人期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(4)高齢期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(5)性別の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(6)障害者に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(7)日常診療に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(8)地域保健に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(9)産業保健に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(10)アスリート・スポーツ組織・スポーツ指導者に関する課題を解決する

ための健康スポーツ医活動

(11)地域スポーツ大会などに関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

2.行政施策への提言 ....................................................................................................55 (1)スポーツを行う場の拡大とスポーツ環境の整備

(2)健康スポーツ医の積極的活用

(3)教育施策への提言

(4)スポーツ庁の設置と省庁間の連携

(5)障害者スポーツの推進

3.日本医師会への提言.................................................................................................65 (1)関係省庁への働きかけ

(2)健康スポーツ医活動の推進

(3)健康スポーツ医活動へのインセンティブ

(4)健康スポーツ医の役割のアピール

(5)健康スポーツ医のレベルアップ

(6)認定産業医制度と認定健康スポーツ医制度間の連携

(7)スポーツ医制度間の連携

Page 7: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

iii

4.地域医師会への提言.................................................................................................70 (1)行政施策への提言・参画

(2)総合型地域スポーツクラブとの連携

(3)広域スポーツセンターとの連携

(4)民間スポーツクラブとの連携

(5)公共施設を使った健康づくり

(6)特定保健指導における健康スポーツ医の積極的活用

(7)地域住民への知識啓発の推進、健康増進事業の拡大

(8)関係職種、関連施設、行政との連携強化

第3部 活動事例紹介 ......................................................77

1.藤沢湘南台病院、とちの木病院の「メディカルフィットネス」 2.佐賀県医師会健康スポーツ医部会における「運動療法連携システム」 3.長崎県民を対象とした「健康・体力相談事業」

第4部 まとめ ............................................................82

巻末資料 「健康スポーツ医活動」に関する“アンケート調査 2011”の結果

Ⅰ.“アンケート調査 2011”概要 ...................................................................................95 Ⅱ.健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果 ..............................................96 Ⅲ.都道府県医師会対象“アンケート調査 2011”の結果 ............................................ 114

Page 8: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

(裏)

Page 9: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

1

はじめに

国民の運動・スポーツの実施状況は経年的に増加の傾向にある。健康増進・Q

OL向上のために生涯にわたってスポーツを行わなければならないという意識

が国民の間に次第に浸透してきている。

しかしながら、その必要性を認めながらも、仕事や家事のためにスポーツをす

る時間がないとする人々が少なくない。スポーツ嫌いの人々もいる。また、ス

ポーツをしたくても、疾病を有するため、身体が虚弱なため、障害を有するた

めに、スポーツに参加できない人々がいる。

これらの人々がスポーツに参加できる環境づくり、さらに多くの国民が“スポ

ーツを通じて健康づくりのできる”体制の整備が求められる。生涯にわたるス

ポーツ活動を考える場合においては、その楚となる発育期の身体活動にも目を

向けなければならない。発育期における身体活動の二極化を是正し、子どもの

健全な成長・発達を支援していく体制づくりも重要である。

本答申は、これらの課題について、先ず第 1部では、国民のスポーツ活動の現

状、健康づくりとスポーツに関連する国の施策、医師会・学会等の取り組み、

医師個人の取り組みの現状を検討した上で、第 2 部では、健康スポーツ医とし

て取り組むべき活動、行政施策、医師会活動のあり方について提言する。さら

に、第 3 部には参考となる活動事例、巻末には、答申に当たって基礎資料を得

るとともに今後の健康スポーツ医活動の推進に資することを目的として、日本

医師会認定健康スポーツ医(以下、「健康スポーツ医」という。)および都道府

県医師会を対象として実施したアンケート調査(以下「アンケート調査 2011」

という。)の結果を掲載した。

勿論、本答申が「国民がスポーツを通じて健康づくりのできる体制の整備」に

関する全ての課題を網羅しているとは言えないが、健康スポーツ医学的な立場

からの課題を指摘して改善すべき内容を提言するものである。

特に、第 2部の『1.「国民のスポーツを通じた健康づくり」に寄与するため

健康スポーツ医がなすべきこと』では、この分野における健康スポーツ医の活

動が一層拡大することを願って、11 の分野に分けて課題分析と提言を行った。

全ての健康スポーツ医にご一読をお願いしたい。

Page 10: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

2

第1部 国民の健康づくりとスポーツ活動に関する現状

1.国民のスポーツ活動の現状

(1)スポーツに対する国民の意識と実施の現状

国民の運動・スポーツの実施状況は経年的に増加の傾向にある。運動・スポ

ーツの定義は、調査方法によって異なる。SSF 笹川スポーツ財団によるスポーツ

ライフデータでは、20 歳以上の運動・スポーツ実施レベルを頻度、時間、強度

の観点から分類している1(表1)。

レベル 0 の割合は、2010 年度、全体で 24.1%(男性 21.0%、女性 27.0%)

であり、この調査が開始された 1992 年のレベル 0の割合 49.3%より顕著に減少

傾向である。「体力・スポーツに関するスポーツ世論調査 2009 年(内閣府)」2で

は、「この1年間に運動やスポーツをしなかった」割合は、22.2%であり、1979

年の 32.1%、1991 年の 34.1%と比較して同様に減少がみられる。

表2のレベル 3 とレベル 4 をあわせた割合は、定期的な運動習慣がある割合

となる。スポーツライフデータでは、2010 年度には全体で 39.9%(男性 39.6%、

女性 39.9%)であり、1992 年の 9.3%より顕著に増加している。国民健康・栄

養調査では、「週 2回以上、1回 30 分以上、1年以上」を運動習慣として集計し

ている3ので、スポーツライフデータのレベル 3 とレベル 4 を合わせたものに近

い。これによると、2008 年度は全体で 29.9%(男性 33.3%、女性 27.5%)で

あり、1992 年の 22.0%、1988 年の 17.2%より増加してきた。

表1 運動・スポーツ実施レベルの設定¹

実施レベル 定義

レベル 0 過去1年間にまったく運動・スポーツを実施しなかった

レベル 1 年 1 回以上、週 2回未満(1~103 回/年)

レベル 2 週 2 回以上(104 回/年以上)

レベル 3 週 2 回以上、1回 30 分以上

レベル4 週 2回以上、1回 30 分以上、運動強度「ややきつい」以上

1 笹川スポーツ財団:スポーツライフデータ 2010,笹川スポーツ財団,2010

2 内閣府大臣官房政府広報室:運動・スポーツに関する世論調査, 2009 年 9 月調査,内閣府ホームページ

3 第一出版:国民健康・栄養の現状―2008 年度厚生労働省国民健康・栄養調査報告より―、第一出版、

2011 年

Page 11: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

3

表2 運動・スポーツ実施レベルの推移¹

レベル 0の割合、レベル 3、4の割合共に女性が多く、女性の二極化傾向がみ

られる。また年齢階級別には高年齢で、若年層よりレベル0とレベル 3、4が共

に多い二極化傾向が観察される。レベル 4 のアクティブスポーツの実施率は、

1992 年の 6.6%から 2010 年の 18.4%に増加しているが、男性と若年層に多い傾

向にある。また、スポーツライフデータでは、ヨーロッパ諸国との比較を行っ

ているが、わが国の運動・スポーツ実施率は、ヨーロッパ諸国と比較しても高

位である。

医療機関の利用状況とスポーツ実施レベルの関連では、全体で 20.8%が「治

療や薬の処方をよく受けている」と回答し、その割合は、スポーツ実施レベル

との関連はみられなかった。

スポーツライフデータによると、この1年間に行った運動・スポーツの種目

では、「散歩(ぶらぶら歩き)」34.8%、「ウォーキング」24.5%、「体操(軽い

体操、ラジオ体操など)」18.5%、「ボウリング」13.3%、「筋力トレーニング」

11.5%、「ゴルフ(コース)」9.0%、「ジョギング・ランニング」8.5%であり、

比較的に強度の低い運動が上位を占めた。内閣府の世論調査では、「ウォーキン

グ(歩け歩け運動、散歩を含む)」48.2%、「体操(ラジオ体操、職場体操、美

容体操、エアロビクス、縄飛びを含む)」26.2%、「ボウリング」15.7%、「ラン

ニング(ジョギング)」12.1%、「水泳」11.1%、「ゴルフ」10.7%と同様の傾向

であった。また、今後行ってみたい運動・スポーツ種目も同様の傾向である。

内閣府世論調査による「運動・スポーツを行った理由」(この 1年間に行った

運動やスポーツを挙げた者に)(複数回答)としては、「健康・体力づくりのた

め」53.7%、「楽しみ、気晴らしとして」50.3%、「運動不足を感じるから」42.0%、

「友人・仲間との交流として」33.8%、「家族のふれあいとして」17.0%、「美

容や肥満解消のため」14.9%が上位にあげられた。一方、「運動・スポーツを行

実施レベル 1992 年 2000 年 2010 年

レベル 0 49.3% 29.3% 24.1%

レベル 1 34.6% 29.8% 26.9%

レベル 2 6.8% 7.8% 9.3%

レベル 3 2.7% 15.4% 21.5%

レベル 4 6.6% 17.6% 18.4%

Page 12: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

4

わなかった理由」(「この1年間に運動やスポーツをしなかった」「わからない」

と答えた者に)(複数回答)では、「仕事(家事・育児)が忙しくて時間がない

から」45.9%、「体が弱いから」24.0%、「年をとったから」19.8%、「運動・ス

ポーツは好きでないから」11.2%が上位を占め、「場所や施設がないから」5.4%、

「指導者がいないから」1.6%の回答率は低かった。

スポーツに対する国民(20 歳以上)の意識と実施の現状としては、運動・ス

ポーツ実施率は経年的に増加しているが、種目としては散歩やウォーキングが

多いこと、運動をする理由としては「健康・体力づくりのため」、運動しない理

由としては「忙しい」を理由にあげる割合が多いことが示された。

(2)スポーツを行う場の現状

運動・スポーツを行う場についてスポーツライフデータでは調査をしている。

2010 年の調査では、運動・スポーツ実施者(年 1 回以上)における場の割合(複

数回答)は、公共スペース(道路、公園、海・海岸、高原・山、河川敷)75.3%、

民間スポーツ施設 36.6%、公共スポーツ施設 30.7%、自宅 23.4%、小・中・高

校の学校施設 9.0%の順であった。実施している運動の種類は散歩やウォーキン

グが多いこととも関連し、公共スペースにおける実施が主なものである。年代

別の検討では、公共スペースはどの年代でも多く、民間スポーツ施設は若年層

で多い傾向にあった。

スポーツクラブ・同好会への加入状況は、全体で「加入者」18.8%、「過去に

加入していたが、現在は加入していない」30.6%、「これまで加入したことがな

い」50.6%であった。加入者の割合は、1992 年以降大きな変化がなく、男性が

女性より多く、年代による差は少なかった。加入者におけるスポーツクラブ・

同好会の形態は、「地域住民が中心となったクラブ」47.1%、「民間の会員制の

クラブ」20.5%、「職場の仲間中心のクラブ」13.0%、「学校 OB などが中心のク

ラブ」9.8%の順であった。

内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」でもほぼ同じ傾向であり、クラ

ブ・同好会加入状況は、「既に加入している」16.2%、「加入したいと思う」38.3%、

「加入したいと思わない」44.3%であった。

Page 13: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

5

(附)スポーツ施設の現状

文部科学省の「社会教育調査」によれば、いわゆる公共施設である「社会体

育施設」(学校施設を除く)は 1950 年代から右肩上がりに増加してきたが、2002

年以降ほぼ横ばいで推移しており、2008 年は 4 万 7,925 カ所となっている。一

方、「民間体育施設」は 1996 年をピークに、以降は微増減を繰り返しており、

2008 年の施設数は 1万 7,323 カ所であった。

わが国ではスポーツ施設は教育機関に多く存在している。文部科学省「体育・

スポーツ施設現況調査」(2008 年)によると、小・中学校、高校、専修学校など

の「学校体育・スポーツ施設」は 13 万 6,276 カ所、短大、大学および高専の体

育施設が 8,375 カ所ある。このほか、従業員の福利厚生のためのスポーツ施設

(6,827 カ所)や公民館、青少年教育施設、女性教育施設などに付帯しているス

ポーツ施設(5,807 カ所)を加えた、わが国の体育・スポーツ施設数は、2008

年で合計 22 万 2,533 カ所となる。

スポーツ施設には様々なものがあり、社会教育調査ではスポーツ施設は 50 の

種別に分類されている。社会体育施設と学校体育・スポーツ施設(表3)につ

いて、主な施設種別についてその数をみると、社会体育施設では多目的運動広

場、体育館、野球場・ソフトボール場の順となっている。学校体育・スポーツ

施設では体育館、多目的運動広場、水泳プール(屋外)の順となっている。

(3)スポーツ指導者の現状

競技スポーツの指導者は主に日本体育協会が養成しており、健康スポーツの

指導者は主に健康・体力づくり事業財団が養成している。また、日本障害者ス

表3 主なスポーツ施設(種別)の数(文部科学省関係)

社会体育施設数 学校体育・

スポーツ施設数

多目的運動広場 7,106 35,933

体育館 6,825 37,339

水泳プール(屋外) 2,257 28,171

水泳プール(屋内) 1,627 788

庭球場(屋外) 4,965 9,542

庭球場(屋内) 188 80

野球・ソフトボール場 6,240 1,914

Page 14: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

6

ポーツ協会の指導者制度、日本レクリエーション協会の指導者資格などもある。

1)日本体育協会が養成するスポーツ指導者

①スポーツ基礎資格(スポーツリーダー)

地域におけるスポーツグループやサークルなどのリーダーとして、基礎

的なスポーツ指導や運営にあたる。

②競技別指導者資格

競技別の指導資格で、地域スポーツクラブ等で指導する「指導員」、競

技者の育成・強化を行う「コーチ」、商業スポーツ施設で指導を行う「教

師」の 3種類があり、それぞれに上級の資格がある。

③フィットネス資格

競技別ではなく、体力づくりを指導する資格で、地域スポーツクラブ

等で子どもたちに遊びを通して身体づくり、動きづくりの指導を行うジュ

ニアスポーツ指導員、青年期以降の人に対してフィットの維持・向上を指

導する「スポーツプログラマー」、商業施設において、相談・指導を行う

「フィットネストレーナー」がある。

各指導者の登録者数は表4に示すとおりである。

2)健康・体力づくり事業財団が養成する指導者

①健康運動指導士

健康づくりのための運動指導者の資格で、生活習慣病の予防と個人に

表4 日本体育協会公認スポーツ指導者と登録者数(2010 年 10 月 1 日現在)

資格区分 資格名 登録者数

スポーツ指導者基礎資格 スポーツリーダー 184,935

指導員 90,248

上級指導員 14,568

コーチ 12,263

上級コーチ 4,589

教師 3,803

競技別指導者資格

上級教師 1,649

スポーツプログラマー 4,679

フィットネストレーナー 770フィットネス資格

ジュニアスポーツ指導員 4,801

Page 15: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

7

対する安全で効果的な運動を実施するための運動プログラムを作成・指

導する。

②健康運動実践指導者

健康運動指導士が作成した運動プログラムを実際に指導する。

各指導者の登録者数は表5に示すとおりである。

表5 健康・体力づくり事業財団養成健康運動指導士・実践指導者登録者数

(2010 年 7 月現在)

資格名 登録者数

健康運動指導士 14,564

健康運動実践指導者 24,357

Page 16: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

8

2.健康づくりとスポーツに関連する国の施策 (1)文部科学省

1)スポーツ基本法成立まで 従来から日本のスポーツ政策の拠り所となっていたのが、1961 年に制定さ

れたスポーツ振興法であるが、1964 年の東京五輪の開催に向けて作られた振

興法は、制定から半世紀が経ち、時代遅れとの指摘がなされていた。また、営

利のためのスポーツを振興するためのものではないということで、プロスポー

ツは範疇に入っておらず、障害者スポーツに関する記載もないなど、不備は少

なくなかった。1961 年にスポーツ振興法が制定されてから 50 年が経ち、スポ

ーツを取り巻く環境や国民のスポーツに対する認識が大きく変化する中で、時

代にふさわしい法を整備することは、多くのスポーツ関係者にとって急務の課

題となっていた。

文部科学省では、2010 年 8 月、今後概ね 10 年間を見すえ、スポーツ立国の

実現に向けて必要となる施策の全体像を示す「スポーツ立国戦略」を策定した。

その後、スポーツ立国戦略に掲げた基本的方向性も踏まえつつ、新たな「スポ

ーツ基本法」の策定に向けて検討が進められ、スポーツ基本法は、2011 年 6

月 24 日に公布され、8月 24 日に施行された。

2)スポーツ基本法

このたびのスポーツ基本法の制定は、まさに振興法の内容を全面的に改定し

たものであり、「スポーツは、世界共通の人類の文化である」との書き出しで

始まる前文では、「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての

人々の権利である」と明記され、全ての人にスポーツをする権利、楽しむ権利

があることが明確になった。表6に主なポイントを示す。

第一条では本法の目的について、「この法律は、スポーツに関し、基本理念

を定め、並びに国及び地方公共団体の責務並びにスポーツ団体の努力等を明

らかにするとともに、スポーツに関する施策の基本となる事項を定めること

により、スポーツに関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民の

心身の健全な発達、明るく豊かな国民生活の形成、活力ある社会の実現及び

国際社会の調和ある発展に寄与することを目的とする」と明記している。

表7のとおり、第二条には、基本理念が定められているが、健康の保持増進、

障害者スポーツをはじめとして、様々な場面でのスポーツ現場での対応が求め

られている。さらに、表8のとおり、第二章ではスポーツ基本計画、第四章で

Page 17: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

9

はスポーツの推進に係る体制の整備について定められているが、今後、スポー

ツ基本計画に基づき、省庁の枠を超えたスポーツ推進会議をはじめとして、ス

ポーツの推進に係る体制が整備されることから、スポーツ基本計画の中に健康

スポーツ医の役割が位置づけられることが重要である。

表6 スポーツ基本法の主なポイント

1)「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことが人々の権利である」旨を規定。

スポーツを行う者の安全確保や健康の保持増進、スポーツに関する紛争解決等に

関する規定を充実

2)地域スポーツと競技スポーツの関係について、「我が国のスポーツの発展を支え

る好循環をもたらす」ことの重要性を規定

3)「スポーツ」に関する基本理念を明記

4) プロスポーツや障害者スポーツも法律の対象と明記

5)地域スポーツクラブの行う事業を支援

6)今後のドーピング防止の国際的な動向に対応するため、「ドーピングの防止活動

の実施に係る体制の整備」を規定

7)国際競技大会の招致・開催の支援

8)スポーツに関する施策の総合的、一体的、効果的な推進を図るため、政府に「ス

ポーツ推進会議」を設け、文部科学省と厚生労働省、経済産業省、国土交通省等

の関係行政機関相互の連絡調整を行うことを規定

表7 スポーツ基本法 第二条関係(抜粋要約)

第一章 総則

(一) 基本理念(第二条関係)

①生涯にわたる自主的・自律的なスポーツの機会の確保

②学校、団体、家庭・地域の連携による青少年スポーツの推進

③身近に親しむ地域スポーツの推進

④健康の保持増進、安全の確保

⑤障害者のスポーツ活動のための配慮

⑥競技水準の向上

⑦国際相互理解の増進、国際平和への寄与

⑧スポーツに対する国民の幅広い理解・支援

Page 18: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

10

表8 スポーツ基本法 スポーツ基本計画等(抜粋要約) 第二章 スポーツ基本計画等

(一) スポーツ基本計画(第九条関係) 文部科学大臣は、スポーツに関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、

スポーツ基本計画を定めなければならないこと、基本計画を定め、これを変更しよ

うとするときは、あらかじめ、審議会の意見を聴くとともに、関係行政機関の施策

に係る事項については「スポーツ推進会議」において連絡調整を図ること。 第四章 スポーツの推進に係る体制の整備

(一) スポーツ推進会議(第三〇条関係) スポーツに関する施策の総合的、一体的、効果的な推進を図るため、政府にスポ

ーツ推進会議を設け、文部科学省と厚生労働省、経済産業省、国土交通省等の関係

行政機関相互の連絡調整を行うこと。 (二) 地方自治体のスポーツ推進審議会等(第三一条関係)

地方のスポーツの推進に関する重要事項を調査審議するため、都道府県・市町村

に、スポーツ推進審議会等の合議制の機関を置くことができる。 (三) スポーツ推進委員(第三二条関係)

これまでの「体育指導委員」に代わり、市町村のスポーツ推進に係る体制の整備

を図るため、市町村の教育委員会は、「スポーツ推進委員」を委嘱すること。スポ

ーツ推進委員は、スポーツの推進のための事業の実施に係る連絡調整、スポーツの

実技の指導など、スポーツに関する指導・助言を行う。

(2)厚生労働省

1)健康づくり対策 従来から日本の健康政策を牽引してきたのが厚生労働省であるが、1978 年

からの第一次国民健康づくり対策に始まり、1988 年からの第二次国民健康づ

くり対策を経て、2000 年には第三次健康づくり対策として「21 世紀における

国民健康づくり運動(健康日本 21)」を策定した。さらに、2002 年には、「健

康日本 21」を中心とする国民の健康づくり・疾病予防を更に積極的に推進す

るための法的基盤として「健康増進法」を制定し、健康づくり対策を推進して

きた。その他、健康フロンティア戦略、医療制度改革等を提唱し、生活習慣病

予防や介護予防を推進してきた。「健康日本 21」の中では、健康寿命を延伸す

ることが目的とされ、また、医療制度改革大綱をふまえ、2008 年から開始し

た特定健診・特定保健指導においては、2008 年度と比べて 2015 年度までにメ

タボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者・予備群の人数(40~74

歳)を 25%以上削減させることが到達目標とされた。その目標を達成するた

Page 19: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

11

めに、健康運動指導士や健康運動実践指導者の養成に力を入れている。なお、

2013 年度から新たに始まる次期国民健康づくり対策については策定が開始さ

れている。

2)特定健診・特定保健指導とメタボリックシンドローム 2005 年 12 月に政府から示された「医療制度改革大綱」を踏まえ、「生活習

慣病予防の徹底」を図るため、2008 年 4 月から、高齢者の医療の確保に関す

る法律により、医療保険者に対して、糖尿病等の生活習慣病に関する健康診

査(以下、「特定健診」という。)ならびに特定健診の結果により健康の保持

に努める必要がある者に対する保健指導(以下、「特定保健指導」という。)

の実施を義務づけることとされた。そして、糖尿病等の生活習慣病の有病者・

予備群の減少という観点から、メタボリックシンドロームの概念を導入した

標準的な健診・保健指導プログラムが示された。

メタボリックシンドロームに着目した意義は、内臓脂肪の蓄積、体重増加

が血糖や中性脂肪、血圧などの上昇をもたらすとともに、様々な形で血管を

損傷し、動脈硬化を引き起こし、心血管疾患、脳血管疾患、人工透析の必要

な腎不全などに至る原因となることを詳細にデータで示すことができるため、

健診受診者にとって、生活習慣と健診結果、疾病発症との関係が理解しやす

く、生活習慣の改善に向けての明確な動機づけができるようになると考えら

れたからである(「標準的な健診・保健指導プログラム確定版 2007 年 4 月厚

生労働省健康局」から抜粋)。 3)エクササイズガイド

厚生労働省では、健康面でのスポーツの普及・啓発を推進すべく、2006 年

にエクササイズガイドを作成した。詳細は、運動基準・運動指針において説

明がなされているが、身体活動を運動と生活活動に分類し(図1)、それぞれ

の身体活動に対してどの程度の強度(メッツ)でどれくらいの時間(時)を実施

すれば、どれくらいの身体活動量(エクササイズ=メッツ・時)となるかと

いう指標が示された(図2)。その結果、国民が生活習慣病予防や健康増進の

ためにスポーツや運動に取り組むための一つの指標として活用することがで

きるようになった。

Page 20: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

12

図1 身体活動(運動と生活活動)(エクササイズガイド 2006)

バレーボール:20分

3メッツ

4メッツ

6メッツ

8メッツ

強度

軽い筋力トレーニング:20分

運動 生活活動

1エクササイズに相当する活発な身体活動

速歩:15分

エアロビクス:10分エアロビクス:10分軽いジョギング:10分

水泳:7~8分

歩行:20分

重い荷物を運ぶ:7~8分

自転車:15分

3メッツ

4メッツ

6メッツ

8メッツ

強度

ゴルフ:15分

軽い筋力トレーニング:20分

軽い筋力トレーニング:20分

1エクササイズに相当する活発な身体活動

ランニング:7~8分

子供と遊ぶ:15分

階段昇降:10分

バレーボール:20分

3メッツ

4メッツ

6メッツ

8メッツ

強度

軽い筋力トレーニング:20分

運動 生活活動

1エクササイズに相当する活発な身体活動

速歩:15分

エアロビクス:10分エアロビクス:10分軽いジョギング:10分

水泳:7~8分

歩行:20分

重い荷物を運ぶ:7~8分

自転車:15分

3メッツ

4メッツ

6メッツ

8メッツ

強度

ゴルフ:15分

軽い筋力トレーニング:20分

軽い筋力トレーニング:20分

1エクササイズに相当する活発な身体活動

ランニング:7~8分

子供と遊ぶ:15分

階段昇降:10分

図2 1エクササイズに相当する運動の例

(生活習慣病予防には、1週間で合計 23 エクササイズ以上が目標)

低強度の運動

ストレッチング、…低強度の生活活動

立位、オフィスワーク、洗濯、炊事、

ピアノ、…

中強度以上の運動

速歩、ジョギング、

テニス、水泳、… 中強度以上の生活活動

歩行、床そうじ、子どもと遊ぶ、介護、

庭仕事、洗車、運搬、階段、…

(3メッツ以上)

中強度以上

低強度

③ 生活活動② 運動 ① 身体活動

Page 21: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

13

4)健康スポーツ医、健康運動指導士等 ハイリスク者も対象とした安全で効果的な運動指導を行える専門家として

の健康運動指導士等の活躍により、国民の健康増進の一翼を担うことが期待

される。特に、前述した 2008 年から医療保険者に義務付けられた特定健診・

特定保健指導においては、保健指導の実施者として、医師、保健師、管理栄

養士が位置づけられ、実践的指導は、医師、保健師、管理栄養士の他、運動

指導に関する専門的知識ならびに技術を有する者として健康運動指導士等が

実施することとされている。なお、医師に関しては、健康スポーツ医等と連

携することが望ましいという内容が「標準的な健診・保健指導プログラム確

定版」に盛り込まれた。さらに、委託基準では、保健指導として運動を提供

する施設については、健康スポーツ医を配置、あるいは勤務する医療機関と

連携するなど、安全の確保に努めることが必要であるという内容も盛り込ま

れている。

(3)経済産業省

健康づくりにおいて運動療法は不可欠であり、動脈硬化危険因子(生活習慣

病)保有者が積極的に運動療法を行うことは国民の健康保持・増進を図る上で

重要なことである。多くの国民に運動療法を安全かつ効果的に行うためには、

医療情報をスポーツジムなどの健康サービス事業者に提供する必要性が生じる。

上記の様な背景があり経済産業省は、医療機関や保険者、健康サービス事業

者等に散在した健康情報を一元的に管理し、個人が自由にアクセスすることを

可能にし、必要に応じて第三者に開示し、自身の健康状態に合ったサービスを

受けることを可能にする「健康情報活用基盤」の構築をめざし、この基盤を用

いたサービス提供の実証実験を開始した(2010 年度)。その目的は、①サービス

の実現に必要なルールの検討、②実証による確認、③事業性の検討、である。

実証の成果(の一部)として、「健康情報活用基盤」を用いて、生活習慣病患

者に対し疾患管理サービスを提供し、これにより健康運動指導士・栄養士は、

医師からの指示と患者の健康情報を参照できることで、より具体的な指導の提

供が可能となり、その効果が患者の健康意識向上に貢献していることを確認し

た、と報告されている(2011 年 3 月)。

民間の医療機関と企業が連携し、承諾を得た患者の健康情報を共有、有償で

運動や食事療法などのサービスを提供し好評な例もある一方で、医療・健康情

Page 22: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

14

報の二次利用を行うに当たり、用途に応じた匿名化を実施することによって、

情報漏洩時のリスクの低減や個人の特定を避ける仕組みが必要なことなど、個

人の医療情報を厳重に保護するためには、依然として課題は残されている。

(4)国土交通省

1)都市公園におけるスポーツ振興への取り組み

国土交通省では、子どもを始め幅広い年齢層の人々がスポーツ・レクリエー

ションや自然との触れ合い、文化芸術活動等多様な活動を行う拠点となる都市

公園の整備を推進してきた。

引き続き、都市公園において体育館や競技場等をはじめ、多様な年代の人々

が様々なスポーツ活動を行う場となる各種スポーツ・レクリエーション施設の

整備等を推進するとともに、誰もが安全で安心して利用できる場として、施設

の老朽化への対応や園路等のバリアフリー化に取り組んでいくこととしてい

る。

2)都市公園内の主な運動施設現況

都市公園内の主な運動施設は、2010年 3月 31日現在、表9のとおりである。

野球場が も多く、次にテニスコート、球技場、体育館、そして陸上競技場と

続いている。なお、全国の都市公園数に比べると、運動施設を保有している都

市公園は、 も多い野球場でも3%と少ないのが現状である。

表9 都市公園内の主な運動施設(国土交通省関係)

(参考)2009 年度末における全国の都市公園の箇所数:98,392 カ所

(箇所数)

870

陸上

競技場野球場 球技場

テニス

コート 体育館

全国計 719 3,019 1,590 2,800

2010 年 3 月 31 日現在

Page 23: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

15

(5)内閣府地域活性化統合事務局

内閣府地域活性化統合事務局は、地域活性化の政策テーマ別に検討チームを

作っている。このテーマのひとつとして「健康のための地域づくり」が取り組

まれている。これは「健康づくり」を中核に据えたまちづくりを推進する自治

体で作っている「Smart Wellness City 首長研究会」と連携して、課題対応の受

け皿となる省庁連絡会議を設置し、各省庁横断的に対応するものである。

Smart Wellness City という考えは、住環境・職環境が身体活動量の規定要因

となり、健康長寿に影響することから、健康づくりを中核にしたまちづくりを

目指すものである。従来の運動指導教室や個人の身体活動量を増やすような指

導では、健康づくりの意識がない人は参加しないことから、住民全体の身体活

動量を増やすには、住環境の整備も合わせて行う必要があるという考えである。

住環境と身体活動との関係としては、美的景観、歩道の利便性、店や目的地

へのアクセスがよいほど歩行量が増加する、住居密度が高い、買物へのアクセ

スが良い、歩道があるほど身体活動量が高い、住居周辺の散歩空間、公園およ

び並木道があるほど生存率が高い、などのエビデンスが示されている。

「Smart Wellness City 首長研究会」には現在 12 府県の 18 市が参加し、3年間

の実験をする予定になっている。

Page 24: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

16

3.健康づくりとスポーツに関する医師会・学会等の取り組みの現状

(1)スポーツ医制度

【3つのスポーツ医】

我が国には現在3つのスポーツ医制度(表 10)があり、各制度の中で認定・

公認されたスポーツ医が活動している。

1)日本体育協会公認スポーツドクター

1982 年、我が国で初めてのスポーツ医認定制度として誕生した。その役

割は表に示すが、日本体育協会が本制度を設置した当初の目的は競技スポ

ーツに向けられていた。2011 年 10 月 1 日現在の日本体育協会公認スポーツ

ドクター(以下「公認スポーツドクター」という。)の数は、5,402 名であ

る。

2)日本整形外科学会認定スポーツ医

1986 年、日本整形外科学会がスポーツ登録医制度を設け、後日、認定ス

ポーツ医制度に改まって現在に至っている。医師国家試験に合格し、医師

として 6 年間以上、主に整形外科を中心に研修を修め、試験に合格して整

形外科専門医の資格を取得した上で、さらに、スポーツ医としての研修を

受けて認定される。その活動の場は全てのスポーツ活動に関わるものであ

り、かつ整形外科的分野での活動が主となる。2012 年 2月 16日現在の日本

整形外科学会認定スポーツ医(以下「認定スポーツ医」という。)の数は、

5,137 名である。

3)日本医師会認定健康スポーツ医

1991 年、日本医師会が発足させた。健康スポーツ医の活動は、スポーツ

競技者だけでなく、一般の人を含めた健康の維持・増進を目的としており、

成長期においては心身の健全な発育を応援し、成老人においては健康・体

力の維持増進、疾病の予防、あるいは疾患の治療の場でスポーツ医学の知

識を活かすことであり、地域保健の中でのスポーツ運動指導・運動処方、

学校保健・産業保健活動の中での指導などといった役割を担っている。

2012 年 1 月 31 日現在の健康スポーツ医の数は、10,481 名である。

【スポーツ医制度間の互換性】

日本医師会認定健康スポーツ医制度の発足にあわせて、3つの制度の養成カ

リキュラムの基礎科目部分を同一にすることが協議され、1991年11月、基本的

に合意が成った。すなわち、それまで日本医師会が行ってきた健康スポーツ医

Page 25: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

17

学講習会の21科目のカリキュラムが共通科目となり、日本整形外科学会や日本

体育協会はそれに積み重ねる形でさらに専門的、高度な教育を行うことができ

るようになった。2010年8月、カリキュラムの見直しが行われ、科目の統合・新

設を行って25科目とすることで合意が成り、2011年度から新カリキュラムで養

成講習会が行われている。日本整形外科学会や日本体育協会の独自の追加科目

についても見直しが行われ、2012年度から各々新カリキュラムに移行する。

日本体育協会公認スポーツドクター

日本整形外科

学会

認定スポ

ーツ医

日本医師会認

定健

康スポーツ

発足年

1982年

1986年

1991年

活動の

主たる対象

競技スポーツを主たる対象とする

全ての

スポーツを対象とするが,整形

外科的

分野での活動を主とする

健康づくりのスポーツを主たる対象と

する

設置

趣旨・

目的・役割

(設置要項

・規約等から)

1)スポーツ活動を行う者に対す

健康管理と競技能力向上の援助

2)スポーツ外傷・障

害に対する

予防、

診断、治療、リハビリテーショ

など

3)競技会等の医事運営並びにチー

ドクターとしての参加

4)スポーツ医学の研究、教育、普

活動

5)その他上記に準ずる必要な

事項

整形外科が運動器官

の諸疾患を主要な

診療対象としているところから

,あら

ゆる年齢層における

スポーツ傷害の予

防や診療に尽力すべき責務をもつと考

え,会員のスポーツ

医学・スポーツ傷

害に対する指導力と

診療能力向上を図

るために,日整会認定

スポーツ医制度

を設ける.その目的達成のために,ス

ポーツ医学・スポーツ

傷害全般につい

て恒常

的に研修

を実施する.

運動を行う人に対して医学的診

療の

みならず,メディカルチェック,運

動処方を行い,さらに各種運動

指導

者等に指導助言を行い得る医師

の養

成とその資質の向上が必要とさ

れる.

地域保健活動の一環として都道

府県

医師会の中のスポーツ医学に関

与す

る医師の組織づくり,体制整備

を行

い,地域におけるスポーツ医な

らび

にその実践的活動の振興を図る

必要

がある.したがって,日本医師

会生

涯教育制度の一環として,日本

医師

会認定健康スポーツ医制度を設

ける.

資格取得対象

者医師免許取得後5年以上経過し,相

当のスポーツ医学の臨床経

験を有す

る者

日本

整形外科学会

専門医

全ての

医師

資格取

得までの

カリキ

ュラム単位

基礎科目

25単

位(三制

度共通)

応用科目

27単

総論

25 単

位(三制度共

通)

各論

16 単位

25 単

位(三

制度

共通)

認定

有効期間

4年

5年

5年

資格更新条件

研修会

受講(4時

間以上)

研修会

受講

(12単位)

研修会受講(

5単位)

人数

5,402

(2011年10月

1 日

現在

5,137

(2012年

2月16 日

現在)

10,481

(2012年1月

31 日

現在)

表10

我が

国に

おける

スポ

ーツ

医制

Page 26: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

18

(2)日本医師会の取り組み

日本医師会では、1986年から会内に健康スポーツ医学委員会(認定健康スポ

ーツ医制度発足のためのプロジェクト委員会等も含む)を設置し、健康づくり

やスポーツ医学に関する諸課題について、種々検討を行ってきた。1991年には、

本委員会における5年間の審議結果を踏まえ、認定健康スポーツ医制度を発足し

た。本委員会では、健康スポーツ医養成のための「健康スポーツ医学講習会」

や健康スポーツ医資格更新のための「健康スポーツ医学再研修会」の企画等を

行うとともに、健康スポーツ医学の推進ならびに認定健康スポーツ医制度充

実・発展のため種々検討を行っている。

また、本委員会ではこれまで、会員や健康スポーツ医向けに数々の資料を作

成し、提供してきた。1994 年には、日常診療ならびに健康スポーツ医等の活動

に資することを目的として、メディカルチェック、運動負荷試験、運動療法等

を内容とした「健康運動のガイドライン」を日医雑誌の付録として作成し、全

会員に配布した。1996 年には、社会保険診療報酬において高血圧症を主病とす

る患者に対する運動療法指導管理料が新設されたことをふまえ、運動療法に係

る指示せん作成等に活用できる「運動療法処方せん作成マニュアル」を日医雑

誌の付録として作成し、全会員に配布した。さらに、2010 年には、健康スポー

ツ医活動を推進するための具体的方策の一環として、「日常診療のための運動指

導と生活指導 ABC-健康スポーツ医からのアドバイス-」を作成し、全健康スポー

ツ医へ配布した。本冊子は、健康スポーツ医が、日常診療の場で各種内科的疾

患や整形外科的疾患に対する運動指導や生活指導の際に役立てられている。

なお、これまでの本委員会における諮問事項等の内容は、表 11 のとおりである。

表 11 委員会における諮問事項等の内容 (表中 ☆調査報告、★関連事項)

委員会名 答申・報告書 諮問事項等

スポーツ医

学認定医養

成(仮称)

(プロジェクト)

1987.3

(審議報告)

スポーツ

医学

(プロジェクト)

1987.7

(調査報告)

1988.3

(報告)

(1987 年度報告)日医が行うべき講習会の目標・カリキュ

ラムを設定

☆都道府県医師会におけるスポーツ科学(医学)・運動医

事に関するアンケート調査報告(1987.4)

Page 27: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

19

健康スポー

ツ医学

(第Ⅰ次)

(プロジェクト)

1989.3

(報告)

(1988 年度報告)健康スポーツに対する医師養成について

医師会の役割ならびに健康スポーツ医学関

係医師の組織化について

★1988.7.23 都道府県医師会健康スポーツ医学担当理事

連絡協議会

健康スポー

ツ医学

(第Ⅱ次)

(プロジェクト)

1990.3

(報告)

(1989 年度報告)健康スポーツ医学に関する医師養成との生

涯教育のための認定制度化等について検討

健康スポー

ツ医学

(第Ⅲ次)

1991.3

(報告中間)

1992.3

(答申)

①日医認定健康スポーツ医制度発足に向けての具体策

②都道府県医師会での健康スポーツ医学関係医師の組織化

(報告中間)上記諮問の内①についての報告

☆都道府県医師会における健康スポーツ医学に関する委

員会・部会・協議会等設置状況(1991.6)・・・結果は、

答申に盛り込んだ。

健康スポー

ツ医学

(第Ⅳ次)

1994.1

(答申)

①地域における健康スポーツ医学の展開-特に疾病予防・疾

病治療ならびに健康増進の立場から-

☆都道府県医師会健康スポーツ医学に関する部会・委員会

の設置状況ならびに部会・委員会の活動状況、地域にお

ける健康スポーツ医の組織的活動等の事例

(1993.9)・・・結果は、答申に盛り込んだ。

健康スポー

ツ医学

(第Ⅴ次)

1994.6

(健康運動の

ガイドライン)

1996.1

(答申)

①健康スポーツ医活動を推進するための具体的方策とこれ

からの健康スポーツ医学のあり方

☆「健康スポーツ医活動を推進するための具体的方策とこ

れからの健康スポーツ医学のあり方」に関するアンケー

ト調査(都道府県医師会・健康スポーツ医対象)

(1995.6)・・・結果は、答申に盛り込んだ。

★健康スポーツ医学研修の実地研修モデル事業(3地区)

(1994 年度)京都府・太田市・岡山市医師会

★健康スポーツ医学研修の実地研修モデル事業(6地区)

(1995 年度)岩手県・和歌山県・広島県・長崎県・

千葉市・港区医師会

★1995.2.19 都道府県医師会健康スポーツ医学担当理事

連絡協議会

★「健康運動のガイドライン」(日医雑誌第 111 巻第 12 号

1994.6.15 号付録ならびに「日本医師会編・医学書院」

として出版)

Page 28: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

20

健康スポー

ツ医学

(第Ⅵ次)

1996.7

(マニュアル)

1998.2

(答申)

①認定健康スポーツ医制度の振興方策と高齢社会における

認定健康スポーツ医の役割

☆「認定健康スポーツ医制度の振興方策と高齢社会におけ

る認定健康スポーツ医の役割」に関するアンケート調査

(認定健康スポーツ医の中から無作為に抽出した1,163

名が対象)

★健康スポーツ医学研修の実地研修モデル事業(6地区)

(1996 年度)宮城県・埼玉県・愛知県・奈良県・山口

県・熊本県医師会

★健康スポーツ医学研修の実地研修モデル事業(6地区)

(1997 年度)福島県・栃木県・愛知県・大阪府・岡山

県・大分県医師会

★「運動療法処方せん作成マニュアル」(日医雑誌第 116

巻第 3 号 1996.7.15 号付録として配布し、「日本医師会

編・日本醫事新報社」として出版した。)

健康スポー

ツ医学

(第Ⅶ次)

2000.2

(答申)

①健康スポーツ医活動の推進-特に地域の協力体制の確立

を目指して-

☆「健康スポーツ医活動の推進-特に地域の協力体制の確

立を目指して-」に関するアンケート調査(1998 年度、

対象は、郡市区医師会)をし、答申に盛り込んだ。

健康スポー

ツ医学

(第Ⅷ次)

2002.3

(答申)

①新世紀における健康スポーツ医活動のあり方-特に運動

療法と健康増進活動推進のための具体的方策-

☆諮問事項について検討するために、基礎資料を得るとと

もに、今後の健康スポーツ医活動推進に資することを目

的としてアンケート調査(2001 年度、対象は、都道府

県医師会と健康スポーツ医 1,212 名に)を実施し、答申

に盛り込んだ。

健康スポー

ツ医学

(第Ⅸ次)

2004.3

(答申)

①地域医療における健康スポーツ医学の展開

★答申書の参考資料をもとにポスターを作成し、都道府県

医師会へ配布した。

健康スポー

ツ医学

(第Ⅹ次)

2006.3

(答申)

①健康長寿と健康スポーツ医活動

★諮問事項について検討し、基礎資料を得ることを目的と

して、健康づくり・健康長寿に関するアンケート調査

(都道府県医師会ならびに郡市区医師会に) を実施し、

さらに活動事例を収集し、答申に盛り込んだ。

Page 29: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

21

健康スポー

ツ医学

(第ⅩⅠ次)

2008.3

(答申)

①地域における健康スポーツ医活動の推進-特定健診・保健

指導における健康スポーツ医の役割を中心として-

★2008 年 4 月より実施される特定健診・保健指導をふま

え、第 13 回日医認定健康スポーツ医制度再研修会のプ

ログラムを企画した。

健康スポー

ツ医学

(第ⅩⅡ次)

2010.2

(マニュアル)

2010.3

(答申)

①認定健康スポーツ医活動推進のための具体的方策-カリ

キュラム改定等を中心として-

★健康スポーツ医学講習会カリキュラムの改定について

検討し、併せて健康スポーツ医制度実施要領の改定も検

討した。

★マニュアル「日常診療のための運動指導と生活指導ABC-

健康スポーツ医からのアドバイス」を全健康スポーツ医

へ配布し、「日本医師会編・メディカルビュー社」とし

て出版した。

健康スポー

ツ医学

(第ⅩⅢ次)

※今期

2012.3

(答申)

①国民がスポーツを通じて健康づくりのできる体制の整備

☆諮問事項について検討するために、基礎資料を得るとと

もに、今後の健康スポーツ医活動推進に資することを目

的としてアンケート調査(2011 年度、対象は、都道府

県医師会と健康スポーツ医 3,231 名に)を実施し、答申

に盛り込んだ。詳細は、本答申の 95 ページ以降を参照。

(3) 地域医師会の取り組み

都道府県医師会対象“アンケート調査 2011”の結果のとおり、各都道府県医

師会の健康づくりとスポーツ医学に関連した取り組みは多様であるが、代表的

な取り組みとして以下の様な取り組みが行われている。

1)健康スポーツ医の派遣

・ 県体育協会と協力して、競技団体等へ派遣

・ 競技団体等と協力し、試合会場へ派遣

・ 競技団体等と協力し、スポーツセンターでの健康相談へ派遣

・ 休日を利用し、メディカルチェック・健康相談を行うための派遣

・ シニアスポーツフェスタ・市民マラソンへの派遣

2)地域住民のための健康・体力相談事業

・ 疾病の治療や健康増進のため、運動したい人に対して、身体状況や体

力に応じ、運動能力を測定・評価し、個々に適した運動処方を提供す

る。

Page 30: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

22

・ スポーツ外傷・障害のある人に対して、必要な身体機能検査を行い、

適切な運動処方をする。

・ トレーニング室を活用した実践的指導により、運動処方の充実を図る。

3)市民公開講座の開催

毎年、医師会として市民に対して健康スポーツ医の活動を行っていること

を示すことで、健康スポーツ医の認知を深めてもらう努力をしている。

4)運動療法連携システムの構築

かかりつけ医療施設、運動処方作成施設、運動実施施設の3者間で協力

し、健康運動、疾病に対する運動療法を実施するシステム

5)委員会の活動

・ 体育・スポーツの振興・発展、スポーツ医科学の充実・発展を中心

とし、学校保健委員会より独立したスポーツ委員会を設立 ・ 高齢者スポーツを研究するためにスポーツ委員会の中に転倒防止

小委員会を発足

・ 医師向けスポーツ医学研修会の企画開催

・ 地域(学校を含む)の住民を対象としたスポーツ医・科学的研究

(4)日本体育協会の取り組み

日本体育協会ではスポーツをする場としての総合型地域スポーツクラブや少

年団の育成、スポーツ指導者の養成、医学面から支援する公認スポーツドクタ

ーやアスレティックトレーナーの養成、スポーツ医・科学研究など、健康づく

りとスポーツに関する様々な事業を行っている。

健康づくりとスポーツに関する研究はスポーツ医・科学専門委員会でそのテ

ーマを決定している。 近の健康づくりに関連する研究テーマは以下のとおり

である。

・身体活動・運動アドヒアランス強化に関する心理・行動科学的研究

・中高年者の運動プログラムに関する総合的研究

・高齢者の元気長寿支援プログラム開発に関する研究

・日本の子どもにおける身体活動・運動の行動目標設定と効果の検証

・幼少年期に身につけておくべき基本運動(基礎的動き)に関する研究

・子どもの発達段階に応じた体力向上プログラムの開発事業(文部科学

省委託事業)

Page 31: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

23

(5)学会等の取り組み 1)ロコモティブシンドローム ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は、日本整形外科学会により2007

年に提唱された概念であり、「運動器の障害のために、要介護の状態になって

いたり、要介護になる危険の高い状態」をさしている。その主な原因は、変形

性関節症、骨粗鬆症とそれによる骨折などの骨関節疾患があげられるが、高齢

者においては、これらの疾患は単独で発生するだけでなく、複合して日常生活

動作や生活の質(QOL)に影響することも多い。運動器は、身体運動に関わ

る骨、筋肉、関節、神経などの総称であるが、それぞれが連携して働いており、

どのひとつが悪化しても身体はうまく動かない。そこで高齢者の介護予防とい

う視点から考えた場合、これらの疾患をそれぞれ独自にみるだけではなく、総

合して予防治療を行うことが必要不可欠となると考えられ、そこからロコモテ

ィブシンドロームという新しい概念が生まれた。

2010年厚生労働省国民生活基礎調査の結果では、高齢者が要介護になる原因

の4位が関節疾患、5位が骨折・転倒で、これら二つをあわせれば1位の脳血

管疾患にほぼ匹敵する割合となり、運動器の障害が高齢者のQOLを著しく低

下させているのは明らかであり、高齢者のQOLの維持増進や健康寿命の延伸、

医療費の低減のためには、ロコモティブシンドローム対策が喫緊の課題である

と考えられる。

2)学校における運動器検診

子どもたちの健康上の問題として運動器の外傷や障害は看過できない。にも

かかわらず、学校における定期健康診断の中で、運動器検診を実施している学

校は(脊柱側弯症検診を除けば)極く僅かである。 運動器検診が一般化しないのには様々な理由があるが、運動器と運動の重要

性がまだ十分認識されていないことと、学校の定期健康診断項目(学校保健安

全法施行規則の中に規定されている)に運動器の検診が明記されていないこと

が大きくブレーキをかけている。 1994 年、文部省は「脊柱及び胸郭の検査の際には、合わせて骨・関節の異

常および四肢の状態にも注意すること」とする体育局長通知を発したが、法律

のような強制力がなかったことや、四肢の異常をチェックするための具体的な

検診手順が示されなかったために、通知が出た後も運動器に関する学校検診は

Page 32: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

24

ほとんど実施されないまま今日に至っている。 今世紀に入って、日本医師会、文部科学省が学校保健に関する新たな事業

(2003 年度から「各科専門医の学校保健活動に関する実践研究事業」、2004

年度から「学校・地域保健連携推進事業」、2008 年度から「子どもの健康を守

る地域専門家総合連携事業」として継承)を開始したのに続いて、「運動器の

10 年」日本委員会が 2005 年度から「学校における運動器検診体制の整備・充

実モデル事業」(研究代表者:武藤芳照)を開始した。実際に運動器検診を行

うモデル事業は 2005 年度から北海道・京都・島根・徳島で始まり、2007 年度

から新潟・宮崎、2008 年度から愛媛・埼玉、2009 年度から大分・熊本が加わ

って 10 道府県で実施され、着実にノウハウが蓄積されている。

数年内に運動器検診の全国展開を図るべく、モデル事業と併行して、定期健

康診断項目の中に運動器を加える学校保健安全法施行規則の一部改正も実現

に向けて歩を進めている。

これまでのモデル事業で得られた児童・生徒の運動器疾患の推定罹患率は、

各地域間で多少差異があるものの、耳疾患・肥満傾向・脊柱側弯症・心臓の疾

病や異常・喘息など他疾患の推定罹患率を大きく上回っている。

さらに、運動器検診を実施する中で、疾病とは言えない状態ではあるが、①

腕が完全に挙上できない(肩関節の動きが悪い)子ども、②体前屈で指先が床

にとどかない子ども、③しゃがみこみができない子ども(図3)が少なくない

ことが分かった。2010 年度運動器検診モデル事業(京都)の結果では、学校

間(検診医間)で差異があるものの、小学生では①が 0~20.4%、②が 18.7

~21.3%、③が14.5~16.3%、中学生では①が6.5~20.4%、②が18.7~19.1%、

③が 11.9~21.7%の児童生徒にみられた。原因は種々考えられるが、少なく

とも「からだが固い」状態のままで運動・スポーツを行えば「傷害を生じやす

い」ということは容易に推察される。

図3 「しゃがみこみ」ができない子どもの例

Page 33: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

25

図4 腕上げ・おじぎ・しゃがみこみテスト

そこで、運動器検診の中で、「腕上げ・おじぎ・しゃがみこみテスト」(図4)

の実施と、ウォーミングアップやストレッチングなどの適切な指導が勧められ

る。

学校における運動器検診が早期に全国展開されるようになって、子どもたち

の健康を守り、心身の健全な発育と体力増進に一層寄与することが期待される

が、文部科学省は 2012 年 2 月 19 日、小中高校で毎年、実施している健康診断

の検査項目を大幅に見直す方針を決めた。戦前から続けてきた座高の測定をや

め、関節痛のようなスポーツによる障害を早期に発見するための検査項目導入

を想定している。近く省内に有識者会議を設置して課題を整理し、2013 年度

にも新方式への変更を目指すとしている。

3)スポーツに伴う障害を予防するための取り組み

スポーツや健康づくりに関連した学会・研究会は多数開催され、新たな

知見、新たな治療法など素晴らしい成果が明らかになっている。それらの

中には、予防に関する価値ある学術的成果も少なくない。しかし、それら

のスポーツ医学的知見が、スポーツ関係者を含めて国民になかなか届かな

いのが現状である。市民公開講座の開催などの地道な努力とともに、一般

向けのガイドラインを学会としてまとめ、マスコミに流すシステムづくり

が必要である。

ここでは、これまでに公開されているガイドラインや、地道に行われて

いる活動の中から、事例を紹介する。

Page 34: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

26

野球少年へのアドバイス

「スポーツを楽しむことは青少年の健全な心身の育成に必要であるが、骨

や関節が成長しつつある年代における不適切な練習が重大な障害を引き起こ

す事もあるので,その防止のために提言を行う」として、日本臨床スポーツ

医学会が 1994 年に、「青少年の野球障害に対する提言(表 12)」を発表して

いる。

表 12 青少年の野球障害に対する提言(抜粋)

• 野球肘の発生は、11・12 歳がピークです。

したがって、野球指導者は特にこの年代の選手の肘の「痛み」と「動きの制限」に注

意しなければなりません。

• 野球肩の発生は、15・16 歳がピークです。

肩の痛みと投球フォームの変化に注意を払う必要があります。

• 野球肘・野球肩の発生頻度は、投手と捕手に高い。

したがって、各チームには投手と捕手は2名以上育成しておく必要があります。

• 練習日数と時間について

小学生では、週3日以内、1日2時間以内が望ましい。

中学生・高校生では、週1日以上の休養日が必要で、

個々の選手の体力と技術に応じた練習量と内容が望ましい。

• 投球数は、試合を含めて

小学生では、1日 50球以内、週200球以内、

中学生では、1日 70球以内、週350球以内、

高校生では、1日100球以内、週500球以内、が望ましい。

なお、1日2試合の登板は禁止すべきです。

• 小・中学生にはシーズンオフを設け、その間は野球以外のスポーツも楽しむ機会を与

えるのが望ましい。

• 野球における肘・肩の障害は、将来重度の後遺症を引き起こす可能性があるので、そ

の予防のためには、指導者との密な連携のもとで専門医による定期的検診が必要で

す。

ランナーへのアドバイス

「ランニング障害を防止し、より安全なランニングを推奨するため」に、

日本臨床スポーツ医学会が 2002 年に、「骨・関節のランニング障害に対し

ての提言」(表 13)を発表している。

Page 35: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

27

表 13 骨・関節のランニング障害に対しての提言(抜粋)

• ランニング障害(骨・関節・筋の障害)は走行距離が長くなるほど高率になります。

一般的に障害を予防するためには平均の一日走行距離を中学生では5~10km(月間200

km)、高校生では 15km(月間 400 km)、大学・実業団で 30km(月間 700 km)に止める

ことが望ましい。 なお中高年ランナーでは加齢による運動器の退行性変性が存在し

腰痛・膝痛が出現しやすいので、メディカルチェックを受けるとともに月間走行距離

を 200 km 以内に止めることが望ましい。

• 道路は路肩に向かい傾いているので長距離によるランニング障害を予防するために

は同じ側だけ走ることを避けましょう。

短距離の曲走路の走行も同様で、高速走行(7m/秒以上)の練習はなるべく暖やか

な曲走路(外側のレーンなど)で行うことが望ましい。

• 足の機能を補えるシューズを選ぶことも障害予防のポイントです。

選択にあたっては足の形に合った、底が厚めで踵の作りがしっかりしたのを選び、靴

の踵は踏みつけてはいけません。先端を指で押すと足の親指の付け根で曲がるような

シューズがよい。また普段から磨耗の補修は早めにし、走行距離 500 km を目処に交

換する事が望まれます。

• 疲労骨折に対して

下肢疲労骨折は男女とも高校生に多く、特に運動環境が変化する高校 1年時に多発し

ます。脛や足の痛みが続く場合は早期に整形外科を受診することが望ましい。

• オスグッド病に対して

オスグッド病の発症は身長の伸びと関連があります。成長のピーク(男子 11~12 歳、

女子 10~11 歳)の前後には発症の危険が高いので、患部の疼痛に留意し、大腿四頭

筋の緊張をゆるめ、時によってはジャンプや切り返し動作を伴うスポーツ活動を制限

する必要があります。

運動許容条件に関するガイドライン等

運動に伴う障害を予防するために、メディカルチェックを行い、その結

果から運動許容条件を判定するのは、健康スポーツ医に期待される役割であ

る。

日本循環器学会のガイドラインとしては、「心疾患患者の学校、職域、

スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン(2008 年改訂版)」が

あり、学校スポーツを含め、心疾患を有する場合の運動許容条件がまとめ

られている。また、心疾患患者の運動療法については、「心血管疾患におけ

るリハビリテーションに関するガイドライン(2007 年改訂版)」が報告され

ている。これらのガイドラインは日本循環器学会ホームページから閲覧でき

Page 36: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

28

る。

(日本循環器学会「循環器病の診断と治療に関するガイドライン」

http://www.j-circ.or.jp/guideline/ )

日本臨床スポーツ医学会は、学術委員会内科部会勧告「スポーツ参加の

禁止基準」として、メディカルチェックにおける基本検査項目、スポーツ参

加・禁止基準、診断書書式等を勧告している。このガイドラインは前述した

「青少年の野球障害に対する提言」・「骨・関節のランニング障害に対しての

提言」や「スポーツ現場へ : 頭部外傷 10 ヶ条の提言」・「知って欲しい子

どものスポーツ医学的知識」・「妊婦スポーツの安全管理基準に関する提言」

とともに。日本臨床スポーツ医学会ホームページから閲覧できる。

( http://www.rinspo.jp/committee.html )

フィールドにおける野球検診

こども野球のつどい(徳島県軟式野球連盟ほかの主催)の試合会場で、

徳島大学整形外科が主になって毎年野球肘の検診を実施している。20 数

年の歴史を持つ検診活動で、これまでに多くの投球障害の子どもたちを早

期発見してきた。

近、各地で同様の検診が行われるようになってきた。「子どもに笑顔

を! 野球障害を防ごう!」は、野球検診システムと野球障害予防の活動を

全国的に広めるために、宮崎大学整形外科が中心になって展開されている

活動である。

ケガをしたときのスポーツ医へのかかり方

日本整形外科学会が2005年に発刊した181ページの冊子。一般書店で購

入できる。

楽しくスポーツを続けるために

日本臨床整形外科学会ホームページから閲覧できる。2002 年に刊行さ

れた 45 ページの冊子がアップロードされている。

( http://www.jcoa.gr.jp/sports/h15/index.html )

Page 37: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

29

4.健康づくりとスポーツに関する医師(個人)の取り組みの現状と課題 (1)日常診療における取り組み

日常診療における医師個人の取り組みに関する現状を、健康スポーツ医対象

“アンケート調査 2011”の結果からみると、1日に診療する患者のうち、健康

スポーツ医学に関する患者の割合について、ほとんどないとの回答が 49.1%で

あったが、10%以上あったとの回答も 19.7%あった。日常診療の場における健

康スポーツ医としての活動状況が不十分、あるいはほとんどできていないとの

回答が合計 86.6%で、日常診療に十分に健康スポーツ医の知識・経験が生かさ

れていない。その理由として、一般診療のため時間がない(42.5%)、時間がか

かりすぎる(25.4%)、経営的に採算が合わない(22.6%)、勉強の手段がない

(21.2%)などが挙げられている。

しかしながら、日常診療の中で活動している事例も少なくない。治療やリハ

ビリテーションの手段としての運動療法(35.2%)、スポーツに因って起こる疾

患の治療(22.3%)、メディカルチェック(22.2%)、運動処方の作成・相談な

ど日常診療の中で健康スポーツ医学に関する活動があった。

また、今後の健康スポーツ医学の生かし方に関する回答で多かったものは、

一般診療の中での生活指導(62.8%)、地域住民全体の健康増進や予防(51.3%)、

治療法の一部としての軽症例に対する運動療法(38.1%)、健康スポーツを行う

人の健康管理(35.4%)、メディカルチェック(32.5%)、治療法の一部として

のリハビリテーション(29.2%)であった。健康スポーツ医の知識や経験を外

来医療における日常診療の中で、患者への生活指導・アドバイスに活用できる

可能性が大いにあることが分かる。

(2)乳幼児保健への取り組み

乳幼児保健に携わっている健康スポーツ医は少ない。健康スポーツ医対象“ア

ンケート調査 2011”の結果によると回答のあった 1,400 名弱のうち、小児科医

は 3.3%に過ぎないが、乳幼児保健に関与していると回答のあったのは 4.9%に

増加する。幼稚園や保育園の園医活動も小児科だけでは足りないため、小児科

以外の医師の関与なくては成り立たないのが現状である。しかし、アンケート

結果の自由記載欄から、身体活動も含めてのスポーツ活動への取組は汲み取れ

ない現状がある。

Page 38: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

30

昨今、5 歳児の 1 日の歩数が 5,000 歩いかない子どもが多い現実がある4。乳

幼児期は神経系の発育の著しい時期である。乳児期にネグレクトなどで栄養が

与えられない場合、知的障害を起こす。神経系は運動器を統合しているもので

あるから、神経運動発達に禍根を残す。乳幼児に必要な身体活動については、

昨今やっとガイドラインがでてきた。

(3)学校保健への取り組み

健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”によると、学校医であると回答

した健康スポーツ医は 10.3%であるが、実際に学校保健に関与している者は

25.9%(100 ページ)に上る。4分の 1の方の関与があるという結果である。31.0%

の健康スポーツ医が児童生徒の健康管理に健康スポーツ医学の知識を生かして

いるという結果である。自由記載欄より学校医として教育現場に入りにくさを

示唆するものや学校保健会は旧態依然で改善が必要といった記載が複数あった。

肥満やスポーツ障害が増えているといったものや、生涯を通じての運動不足を

指摘する意見もあった。運動の二極化現象がみられ5、2010 年度の体力・運動能

力調査(図 5-1、5-2)によると、運動する児童生徒の数は、あまり変わってお

らず、運動しない児童生徒が増え、運動しない児童生徒が体力テストの成績を

引き下げている傾向がみられた。全体として、健康スポーツ医としての活動は、

統一されたものは、残念ながら見当たらず、個々人または一部地域でなされて

いるに止まっている。学校保健安全委員会は、法的には組織されることになっ

ているが、現実動いているのは半数に遥か遠い。学校保健は、基本的には、内

科、眼科、耳鼻科の 3 科体制であるが、昨今の性と心の問題、運動器の問題、

アトピー性皮膚炎などの皮膚科的問題のため、現状に合わなくなってきている。

また、学校サイドは、あまり接点を持ちたがらず、法的に決められた検診や学

校閉鎖の時の判断さえしてくれればよいと考えられている現状もある。学校医

等の反応も同様の場合もある。しかし、わが日本の子どもたちの、心身における

発達や能力の低下がある以上、静観はできない。

4 田村裕子・前橋明:幼児の身体活動量と健康生活に関する研究 2006

5 2008 年中央教育審議会

Page 39: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

31

図5-1 運動・スポーツの実施頻度別新体力テストの合計点(男子)

(2010 年度体力・運動能力調査より)

(注)1.合計点は,新体力テスト実施要項の「項目別得点表」による。

2.得点基準は,6~11 歳,12~19 歳,20~64 歳,65~79 歳並びに男女により

異なる。

図5-2 運動・スポーツの実施頻度別新体力テストの合計点(女子)

(注)図5-1の(注)に同じ。 (2010 年度体力・運動能力調査より)

Page 40: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

32

(4)産業保健への取り組み

近年、職域は身体的健康と精神的健康の両面での大きな課題を抱えた状況と

なっている。まず、身体的健康に関しては、定期健康診断有所見率が50%を超

え、特に血中脂質、血圧、血糖、心電図検査など脳・心臓疾患に関係する項目

の有所見率は上昇が続いている(図6)6。これらの改善に向けて、厚生労働省

は「定期健康診断有所見率改善に向けた取り組み」として「働く方に対する保

健指導、健康教育等の取り組みを促進する」ことを掲げている7。

一方、我が国の自殺者数は毎年3万人を超えて高水準のまま深刻な状況であ

る。職域でもメンタルヘルス不調者の増加が推測される中、精神障害等による

労災請求件数はここ数年増加が続いている。そこで、厚生労働省は、2012年度

から定期健康診断にメンタルヘルスチェック項目の追加を決定した。

産業医の認定数は現在全国で7万人を超え、医師全体の約4人に一人に相当す

る。しかし国内事業所における産業医の選任率は、産業医の選任義務のある労

働者50人以上から1,000人以上までの1万2千事業所において87.0%、そのうち労

働者数50人〜99人の事業所では80.7%であり、産業医資格はあっても産業医とし

て活動していない医師が多いと考えられる8。保健師のうち産業領域の保健師

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

平成

 5年

平成

 6年

平成

 7年

平成

 8年

平成

 9年

平成

10年

平成

11年

平成

12年

平成

13年

平成

14年

平成

15年

平成

16年

平成

17年

平成

18年

平成

19年

平成

20年

平成

21年

平成

22年

全体

血中脂質

肝機能検査

心電図

血糖血圧

図6 一般定期健康診断有所見率の推移

6 業務上疾病発生状況等調査(2010 年厚生労働省) 7 定期健康診断における有所見率の改善に向けた取組について(2010 年厚生労働省 基発 0325 第 1 号)

8 労働安全衛生基本調査 (2010 年厚生労働省)

Page 41: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

33

は増加傾向にあるものの約6%にとどまっており9、ある程度の大規模事業場で

なければ保健師の協力を得ることは困難である。すべての労働者における心身

両面の健康維持増進に資するため、1988年(当時労働省)から始まったトータ

ルヘルスプロモーションプラン(THP)は10年ごとの見直しを受けて近年衰退傾

向であり、事業場における健康保持増進の取組内容のうちわずか5%にすぎない

10。今回の健康スポーツ医対象“アンケート調査2011”によると、健康スポーツ

医の勤務形態として「産業医」20.4%(複数回答)、活動状況として「産業保

健への関与」は26.1%(複数回答)であった。

これらの現状を見る限り、医師の産業保健への取り組みは規模の小さな事業

所ほど手薄になっており、健康スポーツ医資格を有する産業医や、健康スポー

ツ医学の知識を現場で生かしている産業医はまだ少ないことが推測される。

(5)地域保健への取り組み

地域保健は、地域住民に対して健康教育を提供するものであり、その場とし

ては、市町村保健センターや保健所が考えられる。産業保健の場や学校保健の

場も広い意味では、地域保健に包括される。

健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果によると、「今後の健康ス

ポーツ医学の生かし方(複数回答)」(103 ページ)では、「一般診療のなかでの

生活指導」62.8%に次いで、「地域住民全体の健康増進や予防」が 51.3%であり、

地域保健に健康スポーツ医学を生かしたい要望が高い。この割合は、1997 年、

2001 年の調査と同様である。一方、「健康スポーツ医学に関する活動状況(複数

回答)」(100 ページ)では、「地域保健への関与」は 13.4%であり、「産業保健

への関与」26.1%、「学校保健への関与」25.9%に比較して多くないのが現状で

ある。「スポーツ診療や健康スポーツ医活動に対する障害(複数回答)」(102 ペ

ージ)では、「一般診療のため時間がない」42.5%に次いで、「活動の場がない」

33.8%と多い。地域保健に対する取り組みを要望しながら、実際にはそれほど

行えていない現状がある。

2008 年から開始された特定健診・保健指導では、健康スポーツ医の役割が期

待されている。特定健診・保健指導の実態 11では、特定健診の受診率は 2008 年

9 保健師活動の活動基盤に関する基礎調査(厚生労働省 2009 年度先駆的保健活動交流促進事業 社団法

人日本看護協会) 10 労働者健康状況調査(2007 年厚生労働省)

11 市町村国保における特定健診・保健指導に関する検討会報告書,2011 年 6 月 17 日,国保中央会ホームページ

Page 42: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

34

度 30.8%(男性 26.4%、女性 34.7%)、2009 年度 31.4%(男性 27.2%、女性

35.1%)となっている。2009 年度実施状況では、外部委託 78.6%となり、地区

医師会が特定健診に携わっている状況が考えられる。特定保健指導の終了率は、

2009 年度動機付け支援で 24.5%(2008 年度 16.4%)、積極的支援で 13.6%(2008

年度 10.3%)と低値である。また、特定保健指導における実施状況では、外部

委託が 13.1%と低い値である。特定健診と異なり、特定保健指導には積極的に

参画していない状況が推察された。

(6)スポーツ組織に対する取り組み

1)日本オリンピック委員会

公認スポーツドクターは役員として、また、様々な委員会の委員として活動

している。公認スポーツドクターが直接責任を持っているのは、アンチ・ドー

ピング委員会、情報・医・科学専門委員会とその下のスポーツ医学サポート部

会である。スポーツ医学サポート部会では、日本代表選手のメディカルチェッ

クの内容を決定したり、選手団ドクターを派遣したりしている。

その他、選手強化の委員会や女性スポーツ専門委員会などにも委員として参

加している。

2)日本体育協会

役員に公認スポーツドクターはいないが、各種委員会の委員として活動して

いる。公認スポーツドクターが直接責任を持っているのは、スポーツ医・科学

専門委員会とその下にあるアンチ・ドーピング部会、スポーツ指導者養成の公

認スポーツドクター部会とトレーナー部会、国民体育大会医事部会などである。

スポーツ医・科学専門委員会では研究プロジェクトを検討したり、実際に担

当したりしている。スポーツ指導者等の養成では、カリキュラム、テキスト、

試験問題の作成、養成講習会の講師などをしている。国民体育大会医事委員会

では、大会運営のあり方や競技者の健康管理、大会の医療救護やドーピング検

査の実施体制などを検討している。

3)都道府県体育協会

ほとんどの都道府県体育協会がスポーツ医・科学委員会を設置しており、公

認スポーツドクターが委員として参加している。公認スポーツドクターの活動

Page 43: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

35

レベルは様々であるが、指導者の教育や研修、国体選手のメディカルチェック、

国体への帯同は多くの都道府県で行われている。都道府県で医・科学センター

を有しているところもあり、強化指定選手に対して、医学、科学、心理、栄養

などの総合的医・科学サポートを実施しているところもある。

(7)スポーツ施設に対する取り組み

健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果によると、総合型地域ス

ポーツクラブ・広域スポーツセンターへの参画は、連携していないとの回答が

93.4%(107 ページ)で、現状では健康スポーツ医と総合型地域スポーツクラブ・

広域スポーツセンターとの間では十分な連携ができていない。連携ができてい

るとの回答の分析では、医学的な相談(67.2%)や運動中の事故への連携

(60.3%)など、健康スポーツ医の活動ができているようである。また、現在

は総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンターと連携していない医師で

も、要請があれば連携したい(49.4%)との回答(108 ページ)があり、連携を

推進するには、総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンターと医師会と

の組織作りが必要と考える。

1992 年に指定運動療法施設利用に伴う医療費控除の制度が導入され、民間の

スポーツ施設での運動療法において健康スポーツ医の参画が期待されたが、そ

の後の我が国の景気の後退などにより、指定運動療法施設は閉鎖される施設が

増加傾向にあり、現在のところ民間スポーツ施設での健康スポーツ医の活動は

十分になされていない。

同年に疾病予防施設が承認(医療法 42 条)されたが、健康スポーツ医対象“ア

ンケート調査2011”の結果では、疾病予防施設を持っていないとの回答が91.3%

(109 ページ)で、疾病予防施設の未設置の理由として、疾病予防施設を知らな

かった(52.7%)、疾病予防施設は知っているが諸事情のため(26.2%)、疾病

予防施設は知っているが必要性はない(8.4%)などであった。「疾病予防施設

は知っているが諸事情のために非設置」の回答を分析すると、非設置の理由は、

設置に必要な人材の確保ができない(59.1%)、設置場所が確保できない

(53.5%)、採算が合わない(49.5%)、設置に必要な機材の確保ができない

(36.0%)などであった。

Page 44: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

36

(8)スポーツ大会などに対する取り組み(102 ページ参照)

健康スポーツ医の資格更新要件に、実践活動の例として「競技大会等への派

遣」や「地域におけるスポーツイベントへの参加」が挙げられている。そして、

多くの健康スポーツ医はスポーツ大会における実践活動を望んでいる。しかし、

健康スポーツ医がスポーツ大会に関与できる機会は非常に少ない(「活動の場が

ない」33.8%)。実際には、スポーツ大会主催者側と個人的に懇意な公認スポー

ツドクターが関わっている場合が多い。主催者側の脳裏には、スポーツ医とは

公認スポーツドクターや認定スポーツ医を想定している節があり、認定健康ス

ポーツ医制度に対する理解はほとんどない(「スポーツ指導者の理解がない」

11.3%)。

一方、健康スポーツ医自身にも解決すべき課題がいくつかある。例えば、「一

般診療のため時間がない」(42.5%)、「時間がかかり過ぎる」(25.4%)、「経営

的に採算が合わない」(22.6%)、「医療事故が心配」(7.8%)などである。

したがって、健康スポーツ医がスポーツ大会に気軽に参加できて、スポーツ

大会主催者や参加競技者が安心して楽しくスポーツを行えるような体制はまだ

できていない。つまり、周知を図るための広報活動や、活躍の場を斡旋する窓

口の整備が、現状では不十分である。

(9)健康スポーツ医活動の現状(95 ページ以降参照)

健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果から、認定健康スポー

ツ医の活動状況等をまとめた。

回答者1,360名の平均年齢は54.83歳であった。男性が1,192名(87.6%)、

女性が 133 名(9.8%)、回答なし 35 名(2.6%)であった。診療科別内訳は、

内科 735 名(52.3%)、整形外科 229 名(16.3%)、外科 193 名(13.7%)、

小児科 46 名(3.3%)、産婦人科 29 名(2.1%)、脳神経外科 28 名(2.0%)、

精神科 21 名(1.5%)、リハビリテーション科 16 名(1.1%)、耳鼻咽喉科 10

名(0.7%)、麻酔科 9名(0.6%)、泌尿器科 5名(0.4%)、皮膚科 5名(0.4%)、

眼科 4名(0.3%)、その他 75 名(5.3%)であった。

現在の活動状況は、「治療やリハビリの手段としての運動療法」35.2%、「産

業保健への関与」26.1%、「学校保健への関与」25.9%、「スポーツに因って

起こる疾患の治療」22.3%、「メディカルチェック」22.2%、「他団体や施設

への協力・助言」17.1%、「運動処方の作成・相談」15.7%、「その他の健康

Page 45: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

37

スポーツ医学を生かしたボランティア活動」13.7%と続くが、「現在は活動し

ていない」が 22.1%あった。

日常診療活動の場における健康スポーツ医としての活動状況は、「ほとんど

できていない」が 48.4%、「不十分である」が 38.2%と多く、「十分できて

いる」は 11.9%だけであった。

活動の障害となっているのは、「一般診療のため時間がない」42.5%(578

名)、「活動の場がない」33.8%(459 名)、「時間がかかりすぎる」25.4%

(346 名)、「経営的に採算が合わない」22.6%(308 名)、「勉強の手段が

少ない」21.2%(288 名)、「スポーツ指導者の理解がない」11.3%(153 名)、

「医業類似行為者との競合」10.9%(148 名)、「外部での活動は効率が悪い」

9.6%(130 名)、「医療事故が心配」7.8%(106 名)などであった。

今後、資格を生かして活動したい分野は、「一般診療のなかでの生活指導」

62.8%(854 名)、「地域住民全体の健康増進や予防」51.3%(697 名)、「治

療法の一部としての軽症例に対する運動療法」38.1%(518 名)、「健康スポ

ーツを行う人の健康管理」35.4%(482 名)、「企業(職域)での健康増進や

予防」32.8%(446 名)、「健康スポーツを行う人のメディカルチェック」32.5%

(442 名)、「児童・生徒(学校)の健康管理」31.0%(422 名)、「治療法

の一部としてのリハビリテーション」29.2%(397 名)、「競技会の医事運営」

13.1%(178 名)、「競技レベルの向上」10.4%(142 名)など、多岐にわた

っていた。

“アンケート調査 2011”は、健康スポーツ医の資格更新をしなかった方々も

対象として、資格更新をしなかった理由を問うた。回答をいただいた 153 名の

理由は、「資格を持っているメリットがない」65.4%(100 名)、「資格更新の手

続きが面倒である」37.9%(58 名)、「資格更新の費用が馬鹿らしい」20.9%(32

名)、その他 36.6%(56 名)であった。

Page 46: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

38

第2部 スポーツ医学の立場からみた「国民のスポーツを通じた 健康づくり」に関する提言

1.「国民のスポーツを通じた健康づくり」に寄与するため健康スポーツ医が

なすべきこと この項で提言する項目とキーワード(( )内)を以下に示す。詳細は次ペ

ージ以降に記述する。

(1) 乳幼児期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(発達に応じた指導、健康スポーツ医の支援)

(2) 小・中・高校期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(身体活動の二極化、規則正しい生活習慣の確立、 スポーツ活動の安全)

(3) 成人期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(生活習慣病対策、運動器疾患対策、特定保健指導)

(4) 高齢期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(体力低下、日常生活における活動量の増加、介護予防) (5) 性別の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(疾患や保健行動における特徴、性差をふまえた保健指導)

(6) 障害者に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(スポーツ実施の実態、スポーツ施設、障害者数) (7) 日常診療に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(疾患の予防や治療、健康スポーツ医のアピール、 保険給付枠外での活動、地域行事への協力・参加)

(8) 地域保健に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(市町村保健センター、フィットネスクラブ、 総合型地域スポーツクラブ)

(9) 産業保健に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(産業医、職域、心身両面の保健指導)

(10) アスリート・スポーツ組織・スポーツ指導者に関する課題を

解決するための健康スポーツ医活動

(日常診療におけるアスリートへの対応、

チームドクターとしての活動、スポーツ組織との関わり)

(11) 地域スポーツ大会などに関する課題を解決するための健康ス

ポーツ医活動

(時間がない、採算が合わない、自信がない、活動の場がない)

Page 47: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

39

(1)乳幼児期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:発達に応じた指導、健康スポーツ医の支援)

健康スポーツ医は乳幼児期から積極的に子どもの身体活動について参与すべ

きである。

子どもは、成長期である。スキャモンの発育曲線(図7)を思い出してみる

と、その時々に応じた発達をしている。子どもは、生活の中で、食べ、寝、遊

び、甘え、学んでいる。このようなすべての刺激に反応しながら、子どもは、

成長していく(図8)12。言い尽くされた言葉だが、子どもは、決して大人のミ

ニチュアではない。人は、その環境の中で、親や家族などを始めとした身近な

人と関わり、そのやり取りの中で、考え、真似をし、施行錯誤し、その中で、

身体機能を発達させ、ルールを身に着け、人として生きていけるようになるの

である。しかるに、大人の生活習慣に、子どもが引き連られている。仕事から

の遅い帰宅など、夜型の保護者に合わせると、夕食、就寝時間が遅くなり、合

わせないと愛着形成が阻害される恐れがある。愛着形成期に親との関わりが希

薄な子どもに、親への愛着が希薄になるのは致し方ないだろう。また、愛着形

成がうまくいかなかった子どもは、疑い深く、人を信じられず、孤立しがちに

なると言われている。因果応報という言葉がある。善しに着け悪しきに着け、

意識・無意識にしろ、あひるの子どもが親にくっついてまわるように、親は見

本である。正しいとか間違っているとか関係なく、親のすることはこうするも

のだと頭から入ってくる。判断材料のない、経験不足な未熟な脳には、抵抗の

図7 スキャモンの発育曲線 図8 発育・発達に応じた運動指導目標 12

12 宮下充正:子どものからだ -科学的な体力づくり-、PP159-164,1980

Page 48: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

40

すべなど知らずに、頭から入ってくる。人生の初めにおいて、めざましく発育

している子どもにとって、親を始めとした一番身近な者は、人生の導師として

極めて重要である。子どもは、食事・睡眠・遊び・周囲との関わりが適切でな

いと心身の発達が阻害される恐れがある。人は育てないと育たない。日本企業

が大変なのはわかる。しかし、企業や国の行く末を考えれば、後継者である子

どもを一人前の大人に育てることが、非常に重要であるということは、言うま

でもない。発育期の子どもと親との接触時間はぜひとも確保すべきである。

北九州市で公費負担はないが、幼稚園・保育園での検診で、北九州市医師会

園医部会で作成した 4歳児、5歳児の健診票を幼稚園・保育園別、4歳児・5歳

児別に各々500 名ずつ検討した結果、睡眠時間に差が出た。保育園児は幼稚園児

に比して 1時間程度、睡眠時間が短い傾向がみられた。幼稚園児の就寝時間は

20~21 時にピークがあるが、保育園児では 21~22 時にピークがある。しかし、

幼稚園児・保育園児とも、起床時間は 7時にピークがある。「寝る子は育つ」の

諺があるように、成長ホルモンは睡眠時(特に第 1相)に多く分泌され、様々

な組織の成長や修復に働く。成長期の子どもにとって規則正しい良質な深い睡

眠は、その子どもの発達に寄与する。裏を返せば、十分な睡眠を与えないこと

は、その子どもの発達を阻害しているともいえる。

現在の子どもは幼児期から二極化傾向がある。香川県の保育園児の調査によ

ると 1日歩数が 5,000 歩を超えない 5歳児が半数いる 13。運動不足になる要因と

して、子どもの人口減少のため、遊び友達の減少、テレビ・ビデオ・テレビゲ

ームといった身体活動の少ない室内遊びの普及、自動車等交通の普及・発達、

エアコンの普及、習い事や塾通い、夜型の生活習慣の低年齢化などがある。1日

60 分の運動遊びが必要であるとの指針も出た 14。WHOやアメリカ、イギリス、

カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スペインなどでも 2000 年前後か

ら検討され、2004 年ごろ指針が出されているところが多い。その中でも、概ね、

1日 60 分程度の外遊び・運動・スポーツ等の身体活動が必要と述べている。「幼

児における日常の身体活動と体力の関係:2008 年の日本体育協会スポーツ科学

研究報告集」では、幼児の身体活動量は瞬発力・巧緻性・敏捷性に相関がある

とされている。すなわち、身体活動量の少ないものは、高いものに比して、有

13 田村裕子・前橋明:幼児の身体活動量と健康生活に関する研究 2006 14 子どもの発達段階に応じた体力向上プログラムアクティブチャイルド:日本体育協会文科省委託事業

Page 49: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

41

意に瞬発力・巧緻性・敏捷性が低かった。この結果によると、縦断的な追試が

必要とした上で、できれば、110 分以上の中~高強度の身体活動または 13,000

歩以上の歩行。下限として、70 分以上の中~高強度の身体活動または 11,000 歩

以上の歩行を目標とするとしている。

便利で身体を使わない生活ができる現在の日本は、豊かで便利なのだろうが、

便利なことが良いとは限らない。ここには落とし穴がある。不適切な食事と睡

眠と運動は心身の発達を阻害している。乳幼児期に関わりのある医師は、その

発達の時期に応じて、適切に生活指導・運動指導を行っていく必要がある。日

常診療、乳幼児健診、幼稚園・保育園の健康診断等、機会を生かし、積極的に

関与することが望まれる。もちろん、持病や障害を持った子どもも含めてであ

る。健康スポーツ医は、運動や身体活動だけを指導するものではない。日常診

療、健康診断、予防接種、地域のイベント等を通じて積極的な関与が望まれる。

物質的には豊かで便利だが、時間に追われ、親子の関わりも薄れ、疲れている

人が多い。親子共々、元気になれる上手な生活習慣をサポートできる仕組みづ

くりが社会全体としても必要と思われる。

(2)小・中・高校期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:身体活動の二極化、規則正しい生活習慣の確立、

スポーツ活動の安全)

健康スポーツ医は就学時期において、教育機関・スポーツクラブ・各種イベ

ント等を通じて、スポーツのみならず身体活動全体に参与すべきである。

小・中・高校期になると、運動過剰と運動不足に顕性化される。公的に二極

化が認識されたのは、1999 年の「わが国の文教施策」である。不思議なことだ

が、中間的な存在が少ない。学校現場では、じっと立っておれない、じっと授

業を集中して聞くことができない、落ち着きがない、疲れやすい、保健室の不

定愁訴による利用が多いといった身体活動の低下を示唆するような現状も言わ

れている。運動不足群では、運動不足による筋骨格系の発達障害、また、心肺

機能の発達障害により、現在の高齢者より人生の早期に骨粗鬆症、廃用症候群

になることが予想される。また、運動不足による肥満、メタボリック症候群か

ら心血管系あるいは悪性腫瘍が多くなることが予想される。運動過剰群では、

過剰にスポーツすることにより、スポーツ外傷やスポーツ障害、貧血、無月経

に代表されるような月経異常、オーバートレーニング症候群など、多科にわた

る過剰な身体活動の副作用がある。また、突然死を防ぎ、喘息等アレルギー疾

Page 50: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

42

患、腎臓病、糖尿病、てんかん等持病を持った者や整形外科的疾患に対応する

ため、また種々の障害を持った者に対応するため、メディカルチェックとして

の学校健診を充実させる必要がある。そして、それを現場が有効に使える体制

を整える必要がある。また、昨今、気温の上昇やエアコン等の普及により、気

温変化に対する対応が弱くなっており、熱中症に対して、適切な啓発・指導が

必要とされている。

Boreham and Riddoch(2001)によると活動的に子ども時代を過ごした者は、

成人後も活動的な日常生活を過ごすという「行動の持ち越し効果」を上げてい

る。Mahar らによると子どもの活動量が増加することにより、落ち着きのない行

動の減少、身体的な成長につながる刺激、学校でのストレス低減効果を述べて

いる。また、橋本らは「子どもの身体活動とメンタルヘルスの関係(2008)」の

中で、やる気といったポジティブなメンタルが得られる身体活動時間は 1 日 90

分がカットオフ値になる可能性を示唆している。

肥満に関しては、BMIは 1歳以後低下し、7歳頃 低となり、その後増加に

転じるBMIリバウンドとなるが、BMIリバウンドが早まる子どもは、将来

の肥満・生活習慣病が危惧される。また、小学校期である学童期の肥満は高率

に成人肥満へ移行するため、本来は乳幼児期にこそ望ましい生活習慣を身に着

けるべきではあるが、学童期での介入は重要である。特に学童期の後半に肥満

が増えてくる傾向がある。したがって、小学校就学時より、適切な運動習慣(外

遊びを含む)・食生活・生活習慣等に介入する必要がある。学童期前半は、巧緻

性といった動作を習得していく時期で、神経系が 9 割程度できあがる時期で学

童期後半は粘り強さといった持久力が発達してくる時期である。食生活も主

食・主菜・副菜・果物・乳製品をバランスよく摂る習慣を身に付けさせなけれ

ばならない。また、夜型にシフトし睡眠が不規則・不十分になると、神経伝達

物質の関係もあって肥満に傾きやすく、サーカディアンリズム 15 の乱れから、

不眠、引いてはうつ状態へも傾きやすい。サーカディアンリズムを乱さないよ

うにするには、起床・就寝時間が 2 時間以上ずれないことが大事である。2010

年度文部科学省の白書によると、学童期前期にあたる小学校低学年では、内容

はともかく、朝食の欠食は少ないが、学年が上がるごとに増加傾向を示してい

る。また、「2010 年度全国学力・学習状況調査」(図9)および、「2010 年度全

15 概日リズム:約24時間で変動する生理現象で脳波・ホルモン分泌・細胞再生など多くの生命活動で

存在する

Page 51: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

43

国体力・運動能力・運動習慣等調査」(図 10)より、朝食欠食する方が、テスト

の正答率が低く、体力も低い傾向が出ている。

これは、中学生でも同様の傾向である。成長期の子どもにとって、規則正し

い生活習慣が、いかに大切かが窺い知れる。

思春期にあたる中学校期から高校期にかけては、持久力が増し、力強さに代

表される筋骨格系が伸びだし、2次性徴が現れてくる時期である。部活動に代

表されるスポーツ活動が盛んな時期でもある。また、この時期の身体活動が生

涯の活動的な生活を送れるかどうかにも関わっている。身体活動の増加と身体

的成長には、適切な栄養と睡眠・休養が不可欠である。休日のない連続的な2

時間以上のスポーツ活動は、弊害がでやすい。トレーニング効果を考えても、

休養のない過剰なスポーツ活動は、回復の機会が奪われ、身体能力を上げるど

〈小学6年生〉

7 5 .7

8 4 .67 9 .4

5 0 .8

6 6 .15 6 .0

5 5 .1

3 2 .6

0.010.020.030.040.050.060.070.080.090.0

100.0

国語A 国語B 算数A 算数B

毎日食べている

どちらかといえば、食べているあまり食べていない

全く食べていない

〈中学3年生〉

7 7 .5

6 8 .3 6 8 .5

4 7 .6

6 4 .9

5 1 .5 4 8 .3

2 7 .9

0.010.020.030.040.050.060.070.080.090.0

100.0

国語A  国語B 数学A 数学B

毎日食べている

どちらかといえば、食べているあまり食べていない

全く食べていない

(出典)文部科学省「2010 年度全国学力・学習状況調査」より作成

(対象)小学6年生約 27 万人、中学3年生約 44 万人(抽出調査)

図9 朝食の摂取と学力調査の平均正答率との関係

〈小学5年生〉

54.6 55.1

52.353.1

50.7 50.6

40.0

45.0

50.0

55.0

60.0

男子 女子

(点)

毎日食べる

時々食べない

毎日食べない

〈中学2年生〉

41.8

48.4

40.0

46.0

38.6

43.4

30.0

35.0

40.0

45.0

50.0

55.0

男子 女子

(点)

毎日食べる

時々欠かす

まったく食べない

(出典)文部科学省「2010 年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」より作成

(対象)小学 5 年生約 21 万人、中学 2 年生約 21 万人(抽出調査)

図 10 朝食の摂取と体力合計点との関係

Page 52: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

44

ころか、パフォーマンスを低下させる。1年生と 3年生では、体力レベルはまる

で違う。骨端線の閉鎖以前に骨の成長を妨げるほど筋肉をつけさせてしまうと

身長の伸びも鈍くしてしまう。成長のレベルに合わせた適切な対応が必要であ

る。また、受験前に身体活動が激減してしまう現在の状況は、生物的にみて、

仕方がないことではあるが、生物の成長という観点からみると、決して、自然

ではない。成長しきった後は、老年期に向けて、確実に種々の機能は、低下し

ていくものである。低下していくのが、前提であるから成長終了点をできるだ

け高くしたいものである。そして、受験期にも何らかの形で、身体活動を必要

低限維持できるよう指導できる体制づくりが必要と思われる。

運動過剰群には、1日 4時間以上のスポーツ活動を行っている者もあり、指導

者・教師・保護者を含めて包括的に運動の質・量、食事、睡眠、休養などを指

導できる体制を整えるとともに、閉鎖的なところがある教育現場やスポーツ現

場において粘り強い説明と交渉が必要になると思われる。特に部活動等におい

て、スポーツ障害のために、後の人生に禍根を残してはならない。運動不足者

にも、人生を健康に生きるに足る身体を作るため、適切な運動の質・量、食事、

睡眠、休養などを指導できる体制を整える必要がある。スポーツ大会・イベン

トの適切な運営にも適切にサポートできる体制を個々人においても模索してい

く必要がある。もちろん、持病や障害を持った者も含めてである。残念ながら、

十分な体制はできていない。様々な方策から検討し、集約し、切磋琢磨してい

く必要がある。

学校におけるスポーツ事故が後を絶たない。安全面への配慮は全ての年代に

重要なことであるが、成長期においては特に注意が必要である。スポーツに起

因する傷害は一過性のことが多いが、時には重大な傷害がその後の人生を大き

く左右することがある。

2012 年度から、中学校における武道(柔道・剣道・相撲のいずれか)の必修

化が始まる。礼節を重んじる態度を育み、生徒の体力を向上させる狙いがある。

多くの学校が、施設や防具の面で取り組みやすい柔道を採用すると思われるが、

事故に対する懸念も少なくない。安全指針(文部科学省)の遵守、安全に行う

ための技能指導、ハード面の備え等はもちろん大切であるが、ウォーミングア

ップやストレッチングの重要性やケガをした時の処置などスポーツ医学に関す

る正しい知識を習得させることが望まれる。学校医、健康スポーツ医の活躍で、

重大なケガを未然に防ぎたい。

Page 53: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

45

(3)成人期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:生活習慣病対策、運動器疾患対策、特定保健指導)

成人期になると、肥満と加齢の影響があいまって高血圧症、脂質異常症、糖

尿病、メタボリックシンドロームなど循環器疾患危険因子となる生活習慣病が

増加してくる。肥満を有する人は男性の 30.5%、女性の 20.8%と推定される 16。

高血圧症と脂質異常症の受療率は 40 歳代後半から急激に上昇する 17。糖尿病が

強く疑われる人および糖尿病の可能性が否定できない人はいずれも増加傾向が

続いており、年代別ではやはり 40 歳代後半から上昇する。若年期からの生活習

慣の影響が壮年期に顕在化すると考えられ、国民の高齢化に伴い今後もさらな

る増加が懸念される。一方、運動器疾患のうち椎間板ヘルニアや肩関節周囲炎

は 40〜50 歳代に頻度が高い。高齢期に多い変形性脊椎症、変形性関節症、骨粗

鬆症なども 50 歳代から増加し始めるため、成人期に筋骨格系の強化を図ってお

く必要がある。

前述のように運動・スポーツの実施率は増加傾向であり、体重管理に気をつ

ける人の比率は 5 年前の調査よりも増加している 18ことから、国民のモチベー

ションは少しずつ上昇している可能性がある。各地で市民対象のマラソン大会

やウォーキング行事も活発に開催されている。しかしながらその効果は国民全

体としてはまだ現れていない。40 歳以上の国民には特定健診・特定保健指導が

実施され、運動は保健指導の重要な要素であるにもかかわらず、保健指導担当

者が健康スポーツ医学について十分な知識や技術を有しているとはいえない。

さらに、30 歳代や 20 歳代で疾病が顕在化する前の若年者に対する教育はほとん

ど実施されていないのが現状であろう。健康スポーツ医は日常診療、地域保健、

産業保健などにおける直接的な運動指導を含めた保健指導・生活指導を行うほ

か、運動や栄養指導者の相談役や指導的立場として間接的に貢献することも可

能である。

(4)高齢期の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:体力低下、日常生活における活動量の増加、介護予防)

高齢になるほど健康上の問題も増え、体力は低下する。高齢者においては、

日常生活における活動量の増加を考えることが基本的な運動療法となる。生活

16 2009 年国民健康栄養調査 17 2005 年患者調査 18 2009 年国民健康栄養調査

Page 54: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

46

に必要な筋力の維持も転倒防止には欠かせない。有酸素運動のみならず、高齢

者に負担がかからない筋力維持・平行機能維持などのプログラムの確立が望ま

れる。ADLの維持、転倒防止などに対し、年齢・健康状態・体力の個人差を

考えた細かなアドバイスがより大切になる。

健康スポーツ医は、かかりつけ医として行政機関と協力して地域の健診を積

極的に行い、その結果を基にして各個人の健康状況を十分に熟知した上で、高

齢者に対して運動療法を行うことができる。高齢になるほど介護を必要とする

割合は高くなる。介護予防や要介護者への適切な活動を無理なく行えるように

取り計らうのも健康スポーツ医の役割である。ケアマネージャーや訪問看護師

など他職種との連携も重要である。

(5)性別の課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:疾患や保健行動における特徴、性差をふまえた保健指導)

男性では肥満者が年々増加しているのに対して、女性は減少傾向である。し

かし 50 歳以上になると女性の方が肥満の発症率が高くなる。女性では閉経が心

血管疾患の危険因子であり、更年期から脂質異常症、高血圧症、糖尿病、肥満

などの危険因子が増加し、血管機能の低下がみられる。また近年男性でも更年

期の出現が注目されるようになり、中高年男性のテストステロン分泌低下は循

環器疾患、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの危険因子である。循環器疾

患や動脈硬化性危険因子の加齢による増加は、全体的に男性において早期に出

現し、高齢期になると性差が縮小する 19。

運動における性差としては、運動習慣のある者の割合や運動量は男性の方が

多く、特に高齢者ではその差が大きい 20。運動器については、女性は筋量が少な

いため基礎代謝や運動時エネルギー代謝のいずれも男性より低い。一方、筋線

維組成をみると、女性のほうがタイプ I 線維の比率が大きいため、筋収縮にお

けるエネルギー源は有酸素的代謝に依存しやすく、持久的運動に向いている。

すなわち本来、男性は瞬発的運動に、女性は持久的運動に適応しやすい 19。また

変形性関節症や骨粗鬆症は女性に多い。

さらに、栄養における性差として摂取栄養素エネルギー比をみると、男性で

は炭水化物、女性はタンパク質や脂質の比率が高い 20。また女性では男性の 2

19 循環器領域における性差医療に関するガイドライン 2010 20 2009 年国民健康栄養調査

Page 55: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

47

倍以上菓子類を摂取しており、それらに多く含まれるトランス脂肪酸と冠動脈

疾患との間には正の相関がある 19。摂食障害やうつ病の受療率は女性のほうが高

いが、自殺者は男性が多い。男性はうつ病があっても受診せず自殺行動をとる

と考えられ、メンタルヘルスにおける性差もみられる(図 11、図 12)。

以上のことから、循環器および運動器の性差をふまえた運動指導として、男

性には意識的に持久的運動を、女性には意識的に瞬発的運動や筋抵抗運動を指

導する必要がある。また、栄養摂取状況と行動特性、メンタルヘルスにおける

性差もふまえた包括的な保健指導が求められる。

図 11 うつ病・躁うつ病の総患者数

Page 56: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

48

図 12 自殺者数の推移(警察庁自殺統計 2007 年)

(6)障害者に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:スポーツ実施の実態、スポーツ施設、障害者数)

スポーツ基本法では、基本理念第 2 条、第 5 項に「スポーツは、障害者が自

主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応

じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない」とされている。障害者のス

ポーツ実施についての実態は不明の点が多い。内閣府「障害者施策総合調査

(2008 年)」21では、障害者(調査客体 2,563 人、肢体不自由 22.4%、精神障害

19.1%、視聴覚障害 17.2%、難病 8.9%)の 40.5%が何らかのスポーツ・芸術

活動に参加していると報告されている。参加している具体的なスポーツ・文化

芸術活動(複数回答)では、音楽が21.5%と多く、スポーツ活動では、水泳12.4%、

卓球 12.6%、陸上競技 8.6%等となっている。スポーツ・芸術活動に参加して

いない人で、今後参加したい人は 41.3%あり、参加したいけれど参加しない・

現在参加できない理由は、「地域に希望するスポーツ・芸術活動がない」が 28.3%

で も多い。

障害者専用あるいは優先のスポーツ施設として「障害者スポーツセンター」

は全国に 116 ヵ所(2010 年)あるが、それで多数の障害者の需要を満たすもの

ではない。一般のスポーツ施設でも、障害者を受け入れるよう健康スポーツ医

は支援することが求められる。また、わが国の障害者スポーツは、全国障害者

スポーツ大会や、パラリンピックにみるような競技スポーツ偏重の傾向が強い。

21 内閣府:障害者施策総合調査 「生活支援」、「保健・医療」に関する調査報告書、2008 年 3 月

Page 57: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

49

スポーツ指導者は、健康スポーツを障害者に広める努力が必要である。

障害者数は、身体障害児 93,100 人(2006 年)、身体障害者 3,483,000 人(2006

年)、知的障害児 547,300 人(2005 年)、知的障害者 419,000 人(2005 年)、精

神障害者 544,314 人 22、難病 679,335 人 23とされている。障害者スポーツには、

肢体不自由、視聴覚障害、知的障害を有するものが参加する場合が多いが、内

部障害者もスポーツに参加できる方向性を広めることが求められる。

(7)日常診療に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:疾患の予防や治療、健康スポーツ医のアピール、

保険給付枠外での活動、地域行事への協力・参加)

健康スポーツ医は健康スポーツ医学講習会や再研修会などを通して、健康ス

ポーツ医学に関する数多くの知識を得ることができる医師である。健康スポー

ツ医は日常診療の中において、自らが健康スポーツ医であることを明らかにし

て、「健康スポーツ医とは、運動を行う人に対して医学的診療のみならず、メデ

ィカルチェックや運動処方を行い、さらに各種運動指導者などに指導助言を行

い得る医師であり、日常診療においては、運動療法による健康増進、疾患の予

防や治療についての知識や方法に精通している」ことを患者にアピールすべき

である。

保険給付の枠外での健康スポーツ医学的活動も積極的に実施したい。健康ス

ポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果では、疾病予防施設を「持ってい

ない」が 91.3%(2011 年)で、10 年前(2001 年)と変化なく少数であった(109

ページ)。生活習慣病管理料の保険請求は「請求したことがある」が 25.4%(111

ページ)であり、健康スポーツ医学に関する診療報酬を活用している健康スポ

ーツ医は少なかった。

国民の多くが健康のためのスポーツを行い、そこで健康スポーツ医が一定の

役割を果たすシステムを構築するには、現行の保険給付の枠内のみで活動する

のでは不十分なのではないだろうか。例えば、日常診療で診ている患者が参加

する地域のお祭りや運動会などの行事、また行政機関や民間事業者が執り行う

スポーツ大会や健康相談などへ、積極的に可能な限り健康スポーツ医として協

力・参加をする。そのような連携を通じて、安全で効果的なスポーツが行われ

22 2009 年精神障害者精神福祉手帳所持者 23 特定疾患医療受給証交付人数 2009 年

Page 58: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

50

るよう指導・助言する立場を確保する道が開かれる。これに関しても地域や行

政機関に健康スポーツ医の存在を、健康スポーツ医自らがアピールすべきであ

る。健康スポーツ医は、健康スポーツ医の活動の場が広がるように地区医師会

活動においても、健康スポーツ医の組織化などを行い、運動療法などの中心的

な役割となるべきである。

(8)地域保健に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:市町村保健センター、フィットネスクラブ、 総合型地域スポーツクラブ)

1)市町村保健センター 地域保健とは、地域住民に対する衛生教育、健康相談、母子保健、歯科衛

生、老人保健、統計調査など多種類の業務が包括された保健活動である。こ

のような保健活動の根拠となるのが地域保健法であり、業務の中心となるの

が都道府県の保健所であるが、行政機関である保健所とは異なる立場から健

康づくりを推進するため市町村レベルで保健センターが設置されている。公

衆衛生水準の向上や、増加する高齢者あるいは慢性疾患患者への対応など、

保健活動はますます重要となっている。市町村は自ら介護保険を住民に提供

し母子保健や老人保健を担う、都道府県は保健所を設置し、保健所は精神保

健・食品衛生・感染症・母子保健・老人保健を担っている。保健所の業務は

法律で定められており、市町村保健センターは市町村レベルでの健康づくり

の場である。保健所長は医師であるが、市町村保健センター長は医師である

必要がなく、保健師がその中心である。健康スポーツ医は、市町村保健セン

ターの健康づくりの催しに、保健師と一体となり、積極的に参加することが

大切である。したがって、市町村保健センターが行う健康づくり事業への参

加とともに、今後は日常診療において、健康づくり参加者に健康教育、生活

習慣病改善指導、運動指導、運動療法を通じて、健康資本を増大させる施策

を推進するべきである。また、地域の学校、職場、保健所等における健康ス

ポーツ医学講演会の開催等、医学知識の普及活動を積極的に行うとともに、

地域の教育委員会、スポーツ少年団、老人クラブ、婦人会が主催するスポー

ツのイベント、講演会への健康スポーツ医の講師派遣等、他団体との連携協

力をすすめる必要がある。

Page 59: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

51

2)フィットネスクラブ 軽症の慢性疾患を持つ高齢者の運動療法の場となっているフィットネスク

ラブが、全国に普及している。テニスクラブ、ゴルフクラブ、スイミングス

クール、ダイエットスクール等多伎にわたり、利用者は主に高齢者であり、

運動中に重大事故になった事例も報告されている。事故防止の点から、健康

スポーツ医はフィットネスクラブに対して、健康スポーツ医との連携が必要

であることを啓蒙すべきである。 3)総合型地域スポーツクラブ

地域住民が、身近な地域でスポーツを楽しむことができる総合型地域スポ

ーツクラブは現在 3,000 余り育成されている。総合型クラブとは、①子ども

から高齢者まで(多世代)、②様々なスポーツを愛好する人々が(多種目)、

③初心者からトップレベルまで、それぞれの志向・レベルに合わせて参加でき

る(多志向)、という特徴を持っている。しかし、実際には、子どもと高齢者

が大部分を占めているのが現状である。子ども(児童)は身体的・精神的発育

期であり、高齢者は生活習慣病を抱えている。健康スポーツ医は、総合型地

域スポーツクラブの設立に当初から参画し、地域住民の健康相談やスポーツ

障害等で、積極的にクラブの活動に参加する必要がある。

(9)産業保健に関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:産業医、職域、心身両面の保健指導)

従来から存在する腰痛、騒音、化学物質、感染症などの課題に加えて、近年

広がりを示している石綿問題や過重労働による健康障害、心理的社会的ストレ

スによるメンタルヘルスや自殺、また、メタボリックシンドロームに関する保

健活動が盛んに推進される中で、メンタルヘルスとメタボリックシンドローム

に関する保健活動が切り離されて検討されている。しかし、心身の健康保持は

相互に関連が深いことから、両者を一緒にした心身両面の保健指導が効率的か

つ効果的に実施されることが望ましい。 厚生労働省は、産業保健における様々な健康課題を解決するためには、特に

小規模事業場における産業医選任率を高めることが必要であるとして、事業場

における産業保健活動の拡充に関する検討会をつくり、①事業場に対する支援

Page 60: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

52

体制の整備、②人材の確保、③地域保健との連携に取り組んでいる 24。12 したがって、健康スポーツ医は積極的に産業医資格を取得し、職域の健康管

理にあたって、より優れた資質を発揮するべく努力すべきであろう。定期健康

診断や特定保健指導を含む健診事後指導、あるいは過重労働者に対する面接、

職場巡視、安全衛生委員会等の機会を利用し積極的に活動すべきである。その

結果として、産業保健関係者の信頼を得られることは明らかであり、その積み

重ねにより、健康スポーツ医に対する期待が高まり、健康スポーツ医の活動の

場が拡がってくるものと考える。産業保健分野は、今後、健康スポーツ医が活

躍できる可能性の大きい分野である。

(10)アスリート・スポーツ組織・スポーツ指導者に関する課題を解決するための

健康スポーツ医活動 (キーワード:日常診療におけるアスリートへの対応、 チームドクターとしての活動、スポーツ組織との関わり)

スポーツには外傷・障害がつきものであり、場合によっては重大な事故につ

ながる。したがって、スポーツを安全に行い、成績を上げるためには、スポー

ツ医の関与が不可欠である。新しく制定されたスポーツ基本法においても、基

本理念とスポーツ団体の努力として「スポーツは、スポーツを行うものの心身

の健康の保持増進及び安全の確保が図られるように推進されなければならな

い」と規定されている。

スポーツ医としてのアスリートやスポーツへの関わり方は、日常診療でのア

スリートへの対応、チームドクターとしての活動、競技団体組織における活動

など様々な形がある。スポーツ医それぞれが、どのような関与が可能か考える

必要がある。

1)日常診療におけるアスリートへの対応

日常診療でスポーツ外傷や障害、スポーツに関連する疾病に対応すること

は無理なくできることである。的確な診断と治療ができることが前提である

が、スポーツの可否の判断やリハビリテーション、再発予防などをきちんと

指導することが、アスリートや指導者からの信頼に繋がる。自分で対応でき

ないことについては、適切な医師に紹介する。スポーツ指導者などがアスリ

ートを紹介してくるような関係があれば、診療の機会が増える。

24 事業場における産業保健活動の拡充に関する検討会報告書(2010 年厚生労働省労働基準局)

Page 61: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

53

2)チームドクターとしての活動

チームへの関わり方は、顧問のような立場で相談にのったり、診療が必要な

時に対応したりするレベルから、競技者の健康管理に全面的に責任を持ち、試

合や合宿に参加するレベルまで様々である。チームに深く関わる場合には医師

1人では困難であり、チーム側にトレーナーやメディカル担当のマネージャー

を配置したり、複数の医師で対応するなどが必要になる。

3)スポーツ組織との関わり

スポーツ組織といっても日本体育協会のような全国レベルの統括団体から

単独地域スポーツ団体まで、その性格や大きさによってスポーツ医の役割や

関わり方は異なる。

多くのスポーツ組織には医科学委員会があり、競技の普及や強化における

専門家としてのアドバイス、主催するスポーツ大会の救護、指導者に対する

スポーツ医学面からの教育や研修、スポーツ障害に関する調査研究、大会に

おけるチームドクターとしての帯同、強化選手の健康管理、アンチ・ドーピ

ング活動など、やるべきことはたくさんある。

個々のスポーツ組織において、スポーツ医がやるべきこと、できることを

考え、組織の中で理解を得、人や予算を確保しなければならない。

(11)地域スポーツ大会などに関する課題を解決するための健康スポーツ医活動

(キーワード:時間がない、採算が合わない、自信がない、活動の場がない)

健康スポーツ医が地域スポーツ大会に気軽に楽しんで参加することは、地域

医療に積極的に貢献することに繋がることは言うまでもない。解決すべき課題

はいくつかあるが、なかでも健康スポーツ医自身の努力が必要と考えられる課

題について言及する。 ☛「診療が忙しく時間がない」「時間がかかり過ぎる」:もちろん、本業である

診療をおろそかにして、健康スポーツ医活動をすることは論外である。あくま

でも、休日・余暇などを利用して余裕をもって楽しく参加できるようにしなく

てはいけない。そのためには、健康スポーツ医自身が個人的に時間を調整する

以外に方法はないのではないだろうか? ☛「採算が合わない」:出務報酬はあるに越したことはないが、まずはボランテ

ィア参加する姿勢が必要であろう。地域住民が安心してスポーツを楽しむこと

Page 62: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

54

ができれば、健康スポーツ医の喜びや満足になり、引いては信頼関係がより深

まることによって、地域住民の受療行動に繋がってくる。 ☛「勉強の手段がない」:医師会が提供する講演会・講習会・教材をもっと利用

してほしい。 ☛「活動の場がない」「医療事故が心配」:例えば、医師会に斡旋紹介窓口を設

けることで解決できる。

Page 63: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

55

2.行政施策への提言 (1)スポーツを行う場の拡大とスポーツ環境の整備

第 1 部の1.「国民のスポーツ活動の現状」にみられるように、スポーツを

通じて健康づくりを願う国民の期待は大きいにもかかわらず、国民がスポー

ツを行う場や時間は十分に提供されているとは言えない。誰もが容易にスポ

ーツを楽しめる環境づくりが望まれる。

現状を少しなりとも改善するための方策を以下に提案する。なお、全てに

共通することであるが、老若男女・障害者・子育て中の親を含めて、誰もが

気軽に利用できるようにする配慮が必要である。

1)総合型地域スポーツクラブ・スポーツ施設に対する支援拡充と利用の促進

総合型地域スポーツクラブは、近年、その数を少しずつ増しているが、

中学校区に一つという当初の目標にはまだ程遠い。利用する側の立場から

すれば、できるだけ近隣にあった方が良い。“恒久的な”経済面での補助

を含めて国による支援を強化して新設を促していただきたい。

また、スポーツ施設(特に民間スポーツ施設)は人口の多い地域に偏在し

ている。国民が等しくスポーツ施設を利用できるようにするには、国や地

方自治体が積極的に施設(華麗なものは不要である)を整備したり、民間ス

ポーツ施設を支援したりしていく必要がある。

スポーツ施設の利用を促進するための施策にも期待したい。例えば、利

用者に公的補助を行って、低料金で利用できるようにすると利用し易くな

る。また、子育て中の親もスポーツに参加できるようにするため、スポー

ツ施設に託児所や保育所の併設が望まれる。以下の項で述べる様々な案も

取り入れていただきたい。健康づくりへの投資は、疾病を減少させ、元気

な労働力を確保し、産業を育成し、税収が増すことによって還元されるで

あろう。

2)学校施設(運動場・体育館・プール)等のさらなる解放と体験の場の確保

わが国のスポーツ施設の 3 分の 2が学校施設である(スポーツ施設の現状

(5ページ))。学校が使用されない時間(夜間・休日)の有効活用は以前

に比べて進んではいるが未だ十分とは言えない。地域の誰もが使えるよう

に条件を緩和して提供できるようにしていただきたい。そこを核にして総

合型地域スポーツクラブの新設が加速することも期待できる。また、学校

Page 64: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

56

施設を利用して様々な種類のスポーツイベントを開催したり、様々なスポ

ーツを紹介(講習・実地指導)したりすれば、地域住民の交流連携にも寄与

することになり、特に児童・生徒には健全な発育のため多くのスポーツを

体験させることが可能になる。児童館も、スポーツ種目は限られるが、卓

球やダンスなどに開放できるのではないか。

3)誰もが容易に利用できる道路・グラウンド・運動公園等の整備

特に市街地においては、舗装されていない道路が少ない。ランニングや

ウォーキングに適した道路の整備が必要である。安全の確保や整備を行っ

た上での河川敷の利用もさらに積極的に進める必要がある。

グラウンドや運動公園の利用は、都会地では休日ともなると利用申し込

みが多く競争が激しいようだ。実数において不足が否めない。安全面等の

配慮は必要であるが、遊休地を開放するなど、兎に角にも数を増やし、多

目的に利用できるようにすることを求めたい。

4)疾病予防施設(医療法 42 条)の新設を促す法的条件緩和とデイスポーツ

(通所スポーツ)の新設

医療機関に運動施設が併設してあれば、安心して運動・スポーツができ

る。医療機関が疾病予防施設を運営してスポーツの場を拡大し、国民の健

康づくりに寄与することが望まれるが、そのためには一層の法的条件緩和

が必要である。

また、介護保険のサービスとして、デイケア(通所リハビリテーション)

やデイサービス(通所介護)があるが、デイスポーツ(通所スポーツ)の新

設を提案する。健康運動指導士・健康運動実践指導者等が身体機能が低下

している利用者に運動・スポーツを指導する。

5)労働環境(勤務中や退社後にスポーツができる環境)の整備

通勤にウォーキングやランニング等を取り入れる人々や、お昼休みを利

用してスポーツを楽しむ人々は以前に比べれば増しているようだが、多く

の労働者は出勤から帰宅までスポーツに親しむ機会が無いのが現状であろ

う。職場でスポーツを行う時間を確保する、あるいはスポーツのために早

めに退社させる等の取り組みが求められる。

Page 65: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

57

さらに、会社内において、理学療法士・健康運動指導士・トレーナー等

を活用して、正しいコンディショニングやスポーツ指導を行うことは、勤

労者には健康づくりとして、会社側にとっては労働力を確保する上で重要

である。

6)「運動の日」の設置とスポーツ嫌いの人々をスポーツに参加させる方策の推進

月に1回、「運動の日」を作って、「運動をしなければ」という意識を国

民に持ってもらうようにする。そして、職場・地域・家族ぐるみで運動・ス

ポーツを実践する。スポーツあるいは競技と聞いただけで尻込みをしてしま

う方も決して少なくない。例えば「上手くないから参加するのが嫌だ」「速

くないから走りたくない」「動くのが面倒だ」等々。スポーツ嫌いの人々を

スポーツに参加させる方策が必要である。「やってみよう」という気持ちを

引き出す内容を考える必要がある。

例えば、定期的「運動の日」に、地域ごとに参加賞がもらえるようなウォ

ーキング”を実施する。数回に分けてスタンプラリーのように、子どもや障

害者や高齢者でも参加できる距離や場所、遠方でなく地元にこんな良い処

があったのだと思える場所を選択して行う。既に取り組んでいる会社を見

習って会社や地域で実施する。

7)テレビやラジオにスポーツタイムを設置してスポーツ医学的知識を啓発する

毎日、時間帯(スポーツタイム)を定めて、テレビ番組が全て体操などを

行う番組にするのはいかがだろう。チャンネルごとに、幼児向け、成人向

け、高齢者向けなどを担当する。誰もがついつい身体を動かしたくなる音

楽やダンスを流すのも良い。青壮年層向けには、正しい筋トレや筋ストレ

ッチを指導奨励する。国民に身体を動かす大切さをアピールし、多くの国

民が実際に身体を動かすスポーツタイムの設置を提案する。

併せて、“スポーツを通じて健康づくりを行う大切さ”、“スポーツ障

害予防”等、スポーツ医学的知識を啓発する。国民的人気の高校野球中継

や各スポーツ実況中継番組の中で(テロップを利用するなどして)啓発する

ことも有効であろう。

これらの取り組みには企業の協賛が必要である。ともすれば、企業は自

らの宣伝のために選手を育てるのには熱心であるが、地域社会にスポーツ

Page 66: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

58

を通じて貢献しようとする姿勢が希薄である。スポーツで得られた企業の

利益が、一般の人々のスポーツに還元されることを期待したい。

8)体力・運動能力テストと運動器検診の実施

文部科学省が実施している体力・運動能力テストの対象を広げて、全ての

国民を対象として毎年 1 回実施する。優良な会社や地域を表彰するのも良

かろう。また、体力・運動能力テストと合わせて運動器検診を実施し、運

動器疾患の早期発見や予防につなげる。ロコモティブシンドロームを予防

し、健康寿命の延伸に寄与するであろう。

9)親子参加型体操教室

親子が遊び感覚でスポーツができる環境づくりが望まれる。例えば、子

育て中の母親も幼児と一緒に参加できる体操教室(リトミック体操など)の

開催は、幼児の心身の健全な発育・発達に役立つだけでなく、スポーツを

行う機会に恵まれない子育て世代にとっては(親の心身の健康のためにも)

大切なものとなる。総合型地域スポーツクラブなどでの取り組みを期待し

たい。

10)老若男女を問わずに楽しむことができるスポーツの普及

健康づくりを推進するために、老若男女を問わずに楽しむことができる

スポーツの普及が望まれる。例えば、アメリカ合衆国においてはスローピ

ッチソフトボールがレクリエーション・スポーツとして非常に一般的で、

どこの街中にもソフトボール専用のフィールドが多数存在している。この

ように、多くの国民が楽しむことができるスポーツの普及が望まれる。さ

らに、国民体育大会への競技種目追加が推進を加速する。

(2)健康スポーツ医の積極的活用

1)総合型地域スポーツクラブにおける健康スポーツ医の積極的活用

総合型スポーツクラブの対象者は健常者から有病者まで、また年齢的にも幅

広く、運動に対するリスクの高い人が含まれている場合も考えられる。近隣の

健康スポーツ医を把握し、提携関係を作っておくことで、何かあれば気軽に相

談できる、メディカルチェックを受けられる、事故が起こった場合やその後の

Page 67: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

59

治療をしてもらえるなど、リスクマネージメント対策を設けていることをクラ

ブ運営の条件の1つとしてはどうだろうか? 安心して運動スポーツに取り

組むことができる仕組みをつくることが、クラブとしての発展にも寄与すると

考えられる。

2)民間スポーツクラブにおける健康スポーツ医の積極的活用

我が国の民間スポーツクラブ業界は、米国・英国に比べると規模が小さい。

業界は 2003 年から増加傾向にあったが、2006 年をピークに停滞・減少傾向

にある。市場規模は 2009 年 12 月時点で 3,388 施設・売上高 4,087 億円・会

員数 395 万人とされている。高齢者の入会は増加しているが、若年層は低調

である。特に若年女性層の停滞は全体の流れと同期している。民間スポーツク

ラブにおけるスポーツ種目は、水泳・体操・エアロビクス・室内運動器具運動

などのエクササイズ系と、テニス・ゴルフ・野球・ソフトボール・卓球・バド

ミントンなどの競技スポーツ系の2つに分けられる。スポーツクラブ利用者の

目的は、健康体力の維持・増進や美容や娯楽であり、競技力向上はあまり重要

視されていない。健常者ばかりが対象ではないため、生活習慣病の予防・治療

対策、心血管・呼吸器系などの有病者対策、身体能力の低下した高齢者対策な

ども考慮する必要がある(図 13)。 スポーツクラブにとって、健康スポーツ医が関わることは理想的状況を作る

ことになるはずだが、しかし、民間スポーツクラブが健康スポーツ医を顧問と

して採用しているところは極めて少ない。健康管理はクラブ所属会員の個人責

任とされており、有事に救急車を呼んでいるのが実情である。健康スポーツ医

を採用しない理由は、営利事業であるため報酬等の問題が大きい。そして、運

動処方や運動指導は医師でなくても健康運動指導士やフィトネストレーナー

などで間に合う点が大きい。また、医師側にもいろいろな理由(時間がない・

割に合わない・事故が心配など)がある。このような状況ではいくら待っても

事態は好転しない。そこで、健康スポーツ医は身近なスポーツクラブにまず出

掛けて、パートタイム・ボランティア活動を始めてはどうだろうか?このよう

な形の地域貢献は、健康スポーツ医としての誇りや満足になり、そして、日常

診療における信頼関係構築に繋がっていくのではないだろうか?

Page 68: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

60

図 13 加入しているスポーツクラブ・同好会の種類

3) 学校や職域における健康スポーツ医の積極的活用

学校においては、次項の教育施策への提言において指摘するような数々の

スポーツ医学的課題がある。また、職域においては、産業保健の項で指摘し

ている様々な課題がある。それらの課題を解決して、スポーツを通じて健康

づくりを推進するために、健康スポーツ医の積極的活用が重要である。

(3)教育施策への提言

1)学校関係者への正しいスポーツ医学的知識の啓発

学校関係者のスポーツ医学的知識は、学校間あるいは教諭間で異なるが、

総じて言えば十分なあるいは正しい知識を持っているとは言い難い。子ど

もたちの心身の健全な発育・発達のために、学校医あるいは特別非常勤講

師制度を積極的に活用して、学校関係者は言うに及ばず児童生徒や保護者

に、正しいスポーツ医学的知識を習得させることが重要である。加えて言

うならば、養護教諭、体育教諭をはじめとする学校関係者は、外部で行わ

れる種々の講習会や研修会に参加するなど、正しいスポーツ医学的知識の

習得に積極的であって欲しい。

2012 年度から、中学校における武道必修化が始まる(44 ページ)にあた

って、事故に対する懸念も少なくない。

80.4

62

42.6

42.9

35.2

23.2

52.4

42.9

47.1

10.9

24.1

27.9

22.2

21.1

12.5

30.5

12.7

20.5

4.3

2.5

4.9

7.9

16.9

23.2

6.1

12.7

9.8

2.2

7.6

13.1

9.5

21.1

23.2

1.8

21.7

13

2.2

3.8

11.5

17.5

5.6

17.9

9.2

9.9

9.6

70歳以上

60歳代

50歳代

40歳代

30歳代

20歳代

女性

男性

全体

地域住民中心のクラブ 民間の会員制クラブ

学校OBなどが中心のクラブ 職場の仲間中心のクラブ

その他

SSF 「スポーツライフ・データ」(2010)

Page 69: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

61

個々のスポーツについて習熟することとともに、正しいスポーツ医学的

知識に基づいてスポーツを指導することが、スポーツ外傷や障害を予防す

るために大切であることは言うに及ばず、競技力向上のためにも重要であ

ることを認識しなければならない。

さらに、正しいスポーツ医学的知識を持つことができれば、スポーツ障

害や外傷を生じた際に、正しく専門医に受診させて、早期治療・早期復帰

を可能にすることができる。

学校関係者が正しいスポーツ医学的知識を習得するための行政施策に期

待したい。

2)運動する子どもとしない子どもの二極化の是正

文部科学省は、我が国の子どもの体力が 1985 年頃から長期的に低下傾向

にあるとともに、運動する子どもとしない子どもの二極化、またそのこと

による体力の二極化が進んでいることを指摘している。

前述(「小・中・高校期の課題を解決するための健康スポーツ医活動」(41

ページ))したように、“運動しない”子どもにも、“運動しすぎる”子ど

もにも、一生涯に影響を及ぼしかねない多くの重大な問題がある。

子どもの体力の低下に対しては、そのような状況を改善するために文部

科学省が各種施策を推進した結果、改善の兆しが出ているが、一層積極的

な取り組みに期待したい。

一方、スポーツのやり過ぎなどによって生じる“スポーツ障害や外傷の

増加”に関しては、取り組みが遅れている感がある。障害や外傷を減少さ

せ、子どもたちの心身の健全な発育・発達を図らなければならない。生涯

に亘るハンディキャップを背負うような事態は絶対に避けなければならな

い。そのための提言を次項に述べる。

3)学校検診の充実(運動器検診の追加)

運動器疾患や運動器機能不全を早期発見して、児童・生徒の運動器の健

全な発育・発達を図るために、学校において運動器検診を実施することが

求められる。前述(学校における運動器検診(23 ページ))したように、児

童・生徒の運動器疾患の推定罹患率は、耳疾患・肥満傾向・脊柱側弯症・

心臓の疾病や異常・喘息など他疾患の推定罹患率を大きく上回っている。

Page 70: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

62

子どもたちの健康を守り、心身の健全な発育と体力増進に一層寄与する

ために、定期健康診断項目の中に“運動器”を加える学校保健安全法施行

規則の一部改正が行われ、学校における運動器検診が全国の学校で実施さ

れることを期待したい。

4)学校医の充実

現在、学校医は内科・耳鼻咽喉科・眼科の三科体制であるが、整形外

科・精神科・産婦人科・皮膚科もその専門性を生かして学校医として参入

することが望ましい。スポーツを通しての健康づくりでは、子どもたちの

運動器疾患を正しく治療し予防するために、特に整形外科医が学校保健や

学校体育に積極的に関与参入して、学校関係者・保護者・児童生徒への教

育を行うこと、相談の機会を設けること、運動器検診を直接担当すること

が望まれる。

5)学校医・養護教諭・体育教諭の連携

三者の連携は必ずしも緊密でないと聞く。子どもたちの心身の健全な発

育発達のために、それぞれの専門的知識を持ち寄って連携していくことが

強く求められる。個々の学校に任せておくのではなく、連携が取り易いシ

ステムの構築が必要である。

6)バランスのとれた文武両道教育

文部科学省は、「子どもの体力の低下の原因は、体を動かす量が減少した

ことによるものと考えられるが、その背景には、保護者をはじめとした国

民意識の中で、体や精神を鍛え、思いやりの心や規範意識を育てる効果の

ある外遊びやスポーツの重要性を、学力に比べ軽視する傾向が進んだとい

う指摘もある。」としている。その反省の上に立って、ともすれば知識偏重

であったこれまでの教育の見直しを期待したい。

(4)スポーツ庁の設置と省庁間の連携

スポーツ施設整備やスポーツ指導者の養成は文部科学省の所管、運動による

健康づくりやその指導者の養成は厚生労働省、公園や道路などの整備は国土交

通省、民間スポーツクラブやスポーツ産業は経済産業省というように、スポー

Page 71: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

63

ツ環境の整備については多くの省庁が関係し、地方自治体においても同様に縦

割りの組織となっており、スポーツ関連の施策が一体的になされているとはい

えない。スポーツを通じた健康づくりの体制を整備していくためにはこれらの

省庁とそれぞれの政策が連携する必要がある。 スポーツ基本法の基本理念や施策では、スポーツを行う者の健康の保持増進

と安全確保が謳われており、とりわけ文部科学省のスポーツ政策と厚生労働省

の健康政策の連携が重要である。スポーツが安全に行われるためには、学校の

部活動や地域のスポーツクラブ等に健康スポーツ医が協力する必要があり、健

康づくりのための運動を促進するためには、運動をする場として地域スポーツ

クラブ等が健康スポーツ医や健康運動指導士と連携して機能していく必要があ

る。また、競技性の高いスポーツにおいても、オリンピック大会は文部科学省、

パラリンピックは厚生労働省の所管になっており、両省庁の連携が必要である。 スポーツ基本法第三十条には「政府は、スポーツに関する施策の総合的、一

体的かつ効果的な推進を図るため、スポーツ推進会議を設け、文部科学省及び

厚生労働省、経済産業省、国土交通省その他の行政機関相互の連絡調整を行う

ものとする。」とあり、また、附則において、スポーツ政策を総合的に推進する

ために、スポーツ庁の設置等行政組織の在り方について検討し、必要な措置を

講ずるとしている。スポーツ庁の早期の設置、スポーツ推進会議を通じた省庁

間の政策調整が強く望まれる。

(5)障害者スポーツの推進

障害者スポーツは、社会参加を目的とした競技スポーツ、日常生活の自立を

目的とした生涯スポーツ、機能回復訓練の一環として行われるリハビリテーシ

ョンスポーツに大別される。また、障害の種類により、ろう者・身体障害者・知

的障害者・精神障害者の 4グループに大きく分けられる。障害者の機能回復訓練

や社会復帰の手段として普及してきたスポーツが、近年、競技スポーツのエリ

ート選手育成に重点がおかれ、多くの障害者のスポーツへの参加の場が閉ざさ

れる傾向にある。 障害者スポーツの啓発と普及については、障害者スポーツ振興の支援、スポ

ーツ活動充実のための障害者スポーツ施設の不足、障害者スポーツ指導者の育

成、一人で活動できない障害者の介助者育成、大会参加費補助等多くの課題が

ある。

Page 72: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

64

障害者がスポーツを生活の中で楽しむことができるようにするには、身近な

地域で障害者が障害のない人とともに、スポーツを楽しむことができるような

機会を設けることや、地域にあるスポーツ施設の使用を容易にすること等が必

要である。また、身体障害者や知的障害者に比べ普及が遅れている精神障害者

のスポーツについても振興に取り組んでいく必要がある。 障害者スポーツの推進には多くの課題があるが、2011 年 6 月にスポーツ基本

法が制定され、スポーツは障害者が自主的かつ積極的にスポーツができるよう、

障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならないとし、

障害者スポーツも法律の対象と明記した。主な内容は、①地方スポーツ推進計

画を定めること、②スポーツ振興のための基礎的条件(指導者等の養成)の整

備、③スポーツ施設の整備では、障害者の利便性の向上を図るよう努める、 ④競技水準の向上・優秀な選手の育成のため、財団法人日本障害者スポーツ協会

が行う全国障害者スポーツ大会や国際規模のスポーツ大会(表 15)に必要な援

助を行う、⑤全国障害者スポーツ大会の実施や運営に要する経費の開催地への

補助。不足の部分も多々あるが、スポーツ基本法の制定により、障害者スポー

ツ推進の課題解決になることを期待する。 <表 15 国際規模の障害者スポーツ大会>

・パラリンピック

オリンピック終了後に同じ開催地で開催される、障害者スポーツの 高峰

の大会(聴覚障害者、知的障害者を除く)。障害の種類は「運動機能障害」「脳

性麻痺」「切断など」「視覚障害」がある。 ・スペシャルオリンピックス

知的発達障害のある人達に、オリンピック種目に準じた様々な競技の継続的

なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を提供し、知的発

達障害のある人の社会参加を応援する4年に1度の世界大会である。 ・デフリンピック

世界規模で行われる聴覚障害者のための国際総合競技大会であり、障害者ス

ポーツにおける 初の国際競技大会である。

Page 73: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

65

3.日本医師会への提言 (1)関係省庁への働きかけ

「国民がスポーツを通じて健康づくりのできる体制を整備する」ためには、

「2.行政施策への提言」(55-64 ページ)で指摘した個々の提言に沿って施策

が推進されることが肝要であり、指摘した全ての項目について、日本医師会が

関係省庁へ強く働きかけることを期待する。 また、「健康スポーツ医」という専門医の存在と役割を周知してもらうために、

日本医師会から関係省庁へ向けて、以下のような健康スポーツ医の派遣事業を

各省庁に提案していただきたい。

1)文部科学省への提言

①地域総合型地域スポーツクラブにおける事故発生、メディカルチェック、

日常的な相談医としての健康スポーツ医の協力

②教職員あるいは保健体育や養護の専門教員を対象とした再研修への参画

③学校医を対象とした健康スポーツに関する研修

2)厚生労働省への提言

①特定保健指導者養成プログラムでの健康スポーツに関する講習

②産業保健担当者の研修における健康スポーツに関する講習

3)国土交通省への提言

安全かつ安心して運動・スポーツに取り組める自転車道、歩道、公園、河

川敷などの整備において、アドバイザーとしての健康スポーツ医の派遣

4)経済産業省への提言

①地域の特徴を生かし付加価値のあるメディカルエクササイズ事業の確立

②生活力を高めていくための新たなライフスタイルモデルの開発

(2)健康スポーツ医活動の推進

都道府県医師会対象“アンケート調査 2011”において、「日本医師会に対する

要望」として も高かったのは、「健康スポーツ医の社会的地位・役割の確立」

(78.7%)であった(123 ページ)。社会的地位・役割の確立は認定健康スポーツ

医制度の発展に不可欠である。このためには健康スポーツ医でなければできな

いような役割の創設が日本医師会として必要である。

Page 74: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

66

また、「健康スポーツ医のPR」が 74.5%と次に高かった。日本医師会は認定

スポーツ医の機能や必要性に関してもっとPRし、国民にその名称と機能を認

知してもらう必要がある。

都道府県医師会に対する要望としては「学校医および産業医と協調した健康

増進活動の推進」が 63.8%であった。健康スポーツ医の機能は学校医や産業医に

とって必要な機能であり、可能であれば学校医や産業医の一部は健康スポーツ

医の資格を持つほうが望ましい。日本医師会にはそのための枠組みの整備が望

まれる。

(3)健康スポーツ医活動へのインセンティブ 1)学術的インセンティブ

学術的インセンティブに必要なことは、健康スポーツ医学講習会のカリキ

ュラムと再研修会のテーマの充実があげられる。 カリキュラムについては、今年度より新しいカリキュラムで健康スポーツ医

を養成することが決定されている。新しいカリキュラムにはドーピングに関す

る項目や障害者スポーツに関する項目も取り上げられている。これらの興味深

いテーマは健康スポーツ医の学術的インセンティブを向上させるのに貢献す

ると考えられる。 再研修会のテーマでも「障害者とスポーツ」、「アンチ・ドーピング」、「スポ

ーツ現場での内科的救急処置」、「スポーツ現場での整形外科的救急処置」、「特

定健診・特定保健指導」が取り上げられており、健康スポーツ医の知的好奇心

を躍起するものと考えられる。 日本医師会の役割は健康スポーツ医養成カリキュラムの講師を含めた充実

と、興味のある再研修会のテーマの用意があげられる。そのためには、健康ス

ポーツ医学委員会での講師としての人材の発掘と再研修会の魅力的なテーマ

となる情報の把握が望まれる。 また、都道府県医師会や郡市区医師会が主催あるいは共催する再研修会にも

魅力的なテーマが求められる。

2)経済的インセンティブ 健康スポーツ医の資格が診療報酬に点数として直接反映されると一番分か

りやすい。特定健診制度が始まった 2008 年度には、医師は運動処方や運動・

Page 75: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

67

栄養指導に直面することが想定されたため、健康スポーツ医学講習会は非常に

盛況であった。しかし、2010 年度診療報酬改定では具体的な形で点数化され

ることはなく、「生活習慣病管理料」(脂質代謝異常症 650 点/1175 点、高血圧

症 700 点/1035 点、糖尿病 800 点/1280 点)の中に含まれてしまった。この管

理料は、200 床以上の医療機関は算定できず、月に 1 回のマルメ点数であり、

算定条件が煩雑であった(請求しない理由:患者負担が大きい 50.8%、収支

がマイナス 23.1%、算定条件が複雑 44.1%)。そのため、一般に保険請求を敬

遠する傾向があった(請求したことがある 25.4%、請求したことがない 47.5%、

知らなかった 15.1%)。今後の診療報酬改定に当たっては、「健康運動処方料」、

「健康運動指導料」などを新設して出来高払いにすることが望ましい。

健康スポーツ医学を実践する場は、日常診療場面以外にも数多くある。たと

えば、学校医として、産業医として、スポーツ大会・スポーツクラブにおいて、

などである。医師会は率先して行政・各種団体と連携することによって、健康

スポーツ医活動の場を提供する斡旋窓口となりうる。健康スポーツ医の活躍場

面が豊富になれば、経済的インセンティブは付随しておのずと高まっていくで

あろう。

3)制度的インセンティブ スポーツ基本法の制定を受けて、「健康スポーツ医」が盛り込まれるための

広報や、検討段階での委員会等への担当役員の参加等を更に強化することを望

みたい。健康スポーツ医の多くが地域住民の健康増進、疾病予防、スポーツを

行う人の健康管理、企業(職域)での健康増進や疾病予防にその資質を生かし

たいと考えていることを強力にアピールする必要がある。 また、健康スポーツ医がスポーツ現場で活動する場合、特にボランティアと

して参加している場合の医療上の事故等に対応した保証制度についての整理

が必要である。例えば、日本医師会医師賠償責任保険制度の担保する範囲の確

認、健康スポーツ医を守るための競技主催者等との間で交わしておくべき契約

書等の雛型の検討作成、関係団体への周知、協力依頼、等を早急に行い、健康

スポーツ医が安全に活動できるための環境整備を図るべきである。

(4)健康スポーツ医の役割のアピール 健康スポーツ医の存在とその役割を、新聞、テレビ、HPなど全国的な広報

Page 76: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

68

手段を用いて国民に周知することができれば、その効果は高いと考えられる。

その際、公認スポーツドクターや認定スポーツ医との共通点と相違点を明確に

表現し、健康スポーツ医は、より国民の日常生活に近い立場のスポーツ医であ

ることをアピールすることが必要である。また、各都道府県や市町村、学校、

企業などにも各地域の健康スポーツ医リストや連絡先を配布するなど、地道な

広報活動も必要である。その際、参考となるような具体的な活動事例を紹介す

るとわかりやすい。

(5)健康スポーツ医のレベルアップ(106 ページ参照) 健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果では、健康スポーツ医か

ら日本医師会への要望項目として、研修会の開催(42.3%)、患者教育用小冊子

の作成(30.3%)、スポーツ医活動具体例(小冊子)の作成・提供(28.8%)な

どがあった。健康スポーツ医の養成・資質向上のためには、研修会を頻回に開

催すること、教材(小冊子や DVD)・活動事例集を作成して提供することが大

切である。 特に、教材に関しては、健康スポーツ医のみを対象とするのではなく、コメ

ディカルや患者がすぐに理解できるように、具体的かつ平易なものを作成して

提供するべきであろう。

(6)認定産業医制度と認定健康スポーツ医制度間の連携 1996 年の労働安全衛生法改正により、本法において、産業医科大学の「産業

医学基本講座」や日本医師会の「産業医学基礎研修会」の修了など、産業医と

なるための要件が定められた。「産業医学基礎研修」の内容は、「健康管理」、「健

康保持増進」、「メンタルヘルス対策」のほか、「作業管理」、「作業環境管理」、「有

害業務管理」など幅広い分野に及ぶ。「産業医学基礎研修」では、産業医認定に

必要な項目と単位が規定されているが、「産業医学生涯研修」は、認定産業医取

得後の生涯研修として研修会の実施主体者が策定できる。 その中でも、「健康管理」、「健康保持増進」、「救急処置」などは健康スポーツ

医と重複する内容が含まれている。また「メンタルヘルス対策」においても、

発症予防や再発予防に関しては、健康スポーツ医の役割が期待できる。近年は、

メンタルヘルスやリスク管理等の研修拡大に伴い、運動や保健指導に関する研

修時間が減少傾向にある。心身の一体的な健康管理を行うためには、近年の産

Page 77: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

69

業医教育において手薄になっている部分を、健康スポーツ医教育で補っていく

必要があるだろう。 そこで日本医師会は、①現在 7 万人余もいる認定産業医に対して健康スポー

ツ医取得のための健康スポーツ医学講習会や取得後の再研修会を勧奨する、

②現在 1 万人余の健康スポーツ医に産業医取得のための産業医学基礎研修や更

新のための産業医学生涯研修受講を勧奨する、③日本医師会や都道府県医師会

で実施されている産業医研修と健康スポーツ医研修において、共通する内容の

場合は必ず両者の単位取得を認める、などの方法で、認定産業医と健康スポー

ツ医との制度間の連携を推進するべきである。

(7)スポーツ医制度間の連携 わが国には、日本医師会認定健康スポーツ医制度、日本体育協会公認スポー

ツドクター制度、日本整形外科学会認定スポーツ医制度があり(16 ページ参照)、

それぞれにその目的とするところに差があるが、国民の目からみると、その違

いをはっきりと認識できる人がはたしてどれ程いるであろうか。制度間の差異

に目を向けるのではなく、共通点に目を向け、まず、スポーツ医が国民に認知

され、その活動を期待されるような存在になるよう、連携して、広報、関係者

への周知活動に努力することが必要であると考える。日本医師会がその先頭に

立って推し進めるべきである。

資格更新制度についても、各制度間での単位の共通認証制度等も検討し、受

講機会を少しでも多くし、地方で活躍しているスポーツ医にも配慮した制度に

すべきと考える。せっかく資格をとられたスポーツ医が更新を断念することの

無いよう、更なる検討をするべきである。

Page 78: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

70

4.地域医師会への提言 (1)行政施策への提言・参画

2011 年に制定されたスポーツ基本法においては、スポーツの定義は、身体活

動も含めてという意味合いも含ませるため、敢えて曖昧にしているということ

である。であるとするならば、一般的なスポーツ大会への関与のみならず、ま

ず、地方の行政における健康づくりのイベントも含めた健康づくり事業に、健

康スポーツに習熟した医師が必要であることを理解してもらう努力が必要であ

る。むろん、その関連にある総合型地域スポーツクラブや公共施設を使った健

康づくり、民間のスポーツクラブに対して、理解してもらう必要がある。それ

には、地元医師会と行政との良好な関係を保っておかなくてはならない。行政

施策の企画段階からの関与が必要と思われる。行政施策の企画段階から関与す

るには、行政の審議会・協議会等に積極的に出席し、発言していくことが必要

と思われる。地域医師会の薄給の理事に、診療時間内の会議への出席をお願い

することはとても心苦しいが、行政の言い訳としての名前だけの部外者扱いに

されないためにも、敢えてご努力をお願いしたい。

健康スポーツ医の活動の場を安定的に確保するには、行政、地域住民団体、

スポーツ関連団体・施設等に対する一元化された出務の受付・交渉を行う窓口

が必要と思われる。専門家集団である我々が、手間と知識不足から切り捨てる

ことだけは避けたいと思う。

(2)総合型地域スポーツクラブとの連携

総合型地域スポーツクラブは、全国市町村 1,750 のうち、1,249(71.4%)で

創設済、あるいは創設準備中であり、クラブ数は 3,114 に達し(2010 年文部科

学省)、2002 年度の 541 から 6倍に増加した。健康スポーツ医の活動の場として

期待されるものである。また、広域スポーツセンターは、2011 年 4 月現在 47 都

道府県に 62 のセンターが設置されている。

都道府県医師会対象“アンケート調査 2011”の結果では、「総合型地域スポー

ツクラブ・広域スポーツセンター・スポーツ組織」との連携状況(複数回答)(125

ページ)は、それぞれ 2医師会(4.3%)、3医師会(6.4%)、7医師会(14.9%)

に過ぎず、36 医師会(76.6%)は連携していなかった。具体的な連携内容は、

メディカルチェックや医学的な相談である。連携していない医師会も、25 医師

会(69.4%)は「要請があれば連携したいと考えている」と回答している。医

Page 79: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

71

師会側からの連携アプローチが求められる。健康スポーツ医対象“アンケート

調査 2011”の結果においても、同様であった。

文部科学省による 2011 年 7月 1日現在の総合型地域スポーツクラブに対する

調査では、「危機管理方策、事故防止対策について」行っている内容を調査して

いる(複数回答)。2,622 クラブより回答があり、回答割合が高いのは「全員保

険加入」(55.2%)、「会員以外の参加者全員保険に加入」(34.1%)、「クラブと

して賠償責任保険に加入」(30.4%)等、保険関係が高い割合であった。「AED を

設置している」は 29.4%と高いが、「地域の医師との連携」は 14.1%と低い割

合であった(図 14)。

今後とも、総合型地域スポーツクラブとのスポーツ医学を通じた連携を模索

することが望まれる。

(3)広域スポーツセンターとの連携

1)広域スポーツセンターとは 広域スポーツセンターは、各都道府県において広域市町村圏内の総合型地域

スポーツクラブの創設や運営、活動とともに、圏内におけるスポーツ活動全般

について効率的な支援を行う役割を担っており、総合型地域スポーツクラブの

図 14 総合型地域スポーツクラブにおける危機管理方策、事故対策

Page 80: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

72

育成やスポーツを通して地域住民のよきアドバイザーとなり、街を活性化す る役割を持っている。今後の各都道府県における広域市町村圏内のスポーツ 振興を中心となって推進していく組織である。 しかし、地域住民のニーズを踏まえて創設された個々の総合型地域スポーツ

クラブが、継続的かつ安定的に運営されるためには、多くの課題があり、課題

解決のためには広域スポーツセンターの設置が必要となる。 2)広域スポーツセンターの主な機能

・総合型地域スポーツクラブの創設、育成に関する支援 ・総合型地域スポーツクラブのマネージャー・指導者の育成に関する支援 ・広域市町村におけるスポーツ情報の整備・提供 ・広域市町村におけるスポーツ交流大会の開催 ・広域市町村におけるトップレベルの競技者の育成に関する支援 ・地域のスポーツ活動に対するスポーツ医・科学面からの支援

3)都道府県への「健康スポーツ医活動」に関するアンケート調査結果

日本医師会健康スポーツ医学委員会が実施した都道府県医師会対象“アン

ケート調査 2011”、のうち、「総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセ

ンター・スポーツ組織との連携について」の調査結果を次のとおり示す(125

ページ参照)。 ①総合型スポーツクラブ・広域スポーツセンター・スポーツ組織との連

携(複数回答) 「連携していない」が 76.6%と非常に多く、「スポーツ組織と連携して

いる」14.9%、「広域スポーツセンターと連携している」6.4%、「総合

型地域スポーツクラブと連携している」4.3%であった。

②具体的な連携内容(複数回答) 「医学的な相談」55.6%、「メディカルチェック」55.6%、「運動中に事

故(急病・怪我等)が起こった場合の救急治療の連携」44.4%、「運動

指導員への医学的な支援(講演や講習会)」44.4%、「役員としての参加」

22.2%、「その他」22.2%、「運動指導が必要な患者の紹介」は回答がな

かった。

③連携していない(複数回答) 「連携していない」と回答した 36 医師会のうち、「要請があれば連携し

たいと考えている」69.4%、「総合型地域スポーツクラブや広域スポーツ

Page 81: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

73

センターについて分からない」19.4%、「今後積極的に連携したいと考え

ている」5.6%(2)、「連携するつもりはない」2.8%、「未回答」8.3%で あった。

この調査結果から、都道府県医師会は、総合型地域スポーツクラブの創

設や運営、活動を支援する広域スポーツセンターへの健康スポーツ医の参加

を行政に働き掛ける必要がある。また、総合型地域スポーツクラブの構成員

は、小学生以下と 40 歳以上が多いので、スポーツを安全で、健康的に行う

ために郡市区医師会は、総合型地域スポーツクラブの創設に当初より参加す

ることが望ましい。

(4)民間スポーツクラブとの連携

ほとんどの民間スポーツクラブでは基本的に入会前のメディカルチェックが

行われていないことから、治療中だからという理由で入会させない、あるいは、

スポーツクラブ側が病態を知らないまま過度の運動を行わせ怪我や事故が発生

している場合もあると推定される。運動指導者を対象としたアンケート調査 25

の結果では、運動指導者側は有疾患者の運動について主治医からの情報提供や

指示を期待している。また、困ったときに相談できる医師との連携を希望して

いる。しかし、現時点ではそのような仕組みや予算がないため、不安を抱えた

まま指導を行っている場合がほとんどであった。

民間スポーツクラブと地域医師会との間で提携関係を構築していくことは、

長期的にみれば双方にとってメリットがあると考えられる。

【民間スポーツクラブとの連携に関する地域医師会への提言】

1)民間スポーツクラブからの相談窓口を地域医師会に設置する

2)民間スポーツクラブが企画するイベントへの参画や後援を行う

3)主治医のいない有所見者や有疾患者が民間スポーツクラブでの運動を希望

した場合、近医でメディカルチェックを受ける仕組みをつくる

4)主治医のいる患者が運動を民間スポーツクラブで希望した場合に、運動

および治療に必要な情報交換ができる仕組みをつくる

25 庄野菜穂子ほか.運動指導時の安全管理に関する運動指導者側の実態調査. 臨床スポーツ医学 2009;

26(10),1319-1324

Page 82: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

74

(5)公共施設を使った健康づくり

公共スポーツ施設(23.6%)は、学校体育・スポーツ施設(66%)の次に数

が多く、多くの国民が利用している(図 15)26。

その施設のうちで も多いのは、多目的運動広場で、次いで体育館、野球・

ソフトボール場、庭球場(屋外)、水泳プール(屋外)、水泳プール(屋内)、

庭球場(屋内)などの順となっている(5ページ表 3参照)。ここでのスポーツ

の種類は、体操、ソフトボール、テニス、水泳、バレーボール、卓球、バドミ

ントンなど多種多様のスポーツが含まれている。共通している点は、レクリエ

ーションを兼ねた健康づくりを目的としていることである。健康スポーツ医の

役割は、現にスポーツをしている人達だけのためではなく、疾病などの身体活

動制限があってスポーツを諦めている人達に対して、スポーツ参加の機会を提

供するためにも大切である。地域医師会は健康スポーツ医をサポートすると同

時に、市民・行政・各種団体に対して健康スポーツ医のPR活動に努めるべき

であろう。

図 15 体育・スポーツ施設設置数 26

26 「体育・スポーツ施設現況調査」(文部科学省 2008 年 10 月 1 日現在)

Page 83: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

75

(6)特定保健指導における健康スポーツ医の積極的活用

新しい生活習慣病対策の推進体制の中では医療保険者に対して特定健診・特

定保健指導が義務付けられている。標準的な健診・保健指導プログラムにおい

ては、「保健指導の実施者として医師に関しては日本医師会認定健康スポーツ医

等と連携するのが望ましい」と書かれている。特定保健指導における健康スポ

ーツ医の役割としては、①安全で効果のある運動療法の指導、②保健指導チー

ムの形成、③運動プログラム作成における助言、④保健師・健康運動指導士等

の教育、⑤運動時の安全管理についての助言、⑥保健指導効果の評価と事業改

善、⑦メディカルチェックなどがあげられる。

健診後の保健指導は健康スポーツ医の資格を持つ医師が行うのが理想的であ

るが、現実的にはかなり難しい。そこで、保健師や健康運動指導士等を教育し、

1つのチームとして運動指導を行うのが現実的である。また、どうしても健康ス

ポーツ医が運動指導を行わなければならない場合には、簡単なパンフレットを

地域医師会として準備するのも 1つの方法である。

標準的な健診・保健指導プログラムにおいては、「保健指導として運動を提供

する施設については、日本医師会認定健康スポーツ医を配置、あるいは勤務す

る医療機関と連携するなど、安全の確保に努めることが必要である」と書かれ

ている。地域医師会は運動を提供する施設に関する情報を収集し、健康スポー

ツ医の活動の場の提供に努力することが望まれる。

(7)地域住民への知識啓発の推進、健康増進事業の拡大

健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果により、個々の健康スポ

ーツ医には「健康スポーツ医として地域職域の健康増進に寄与したい」との意

向が強いことを確認した。 このことをうけて、それを生かすため、地域の行政、教育機関等に更には、

一般市民に対し、「健康スポーツ医」の存在についての広報はもとより、その持

てる資質についての知識啓発を行い、健康スポーツ医がその資質を発揮するた

めの環境整備に努めるべきである。 具体的には健康スポーツ医部会の設置、地域イベント等への積極的参加、健

康スポーツ医への要望受入れ窓口の設置、受入れ制度の整備(契約制度)等が

考えられる。

Page 84: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

76

(8)関係職種、関連施設、行政との連携強化

平成 23 年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果等をみても、関

係職種、関連施設、行政側からみた健康スポーツ医の認知度はあまり高くはな

い。地域医師会には、健康スポーツ医の存在をアピールするため、健康スポー

ツ医学担当理事連絡協議会、健康スポーツ医部会等の設置、運営を検討してい

ただきたい。また、地域医師会が主催する健康スポーツ医学再研修会等スポー

ツ関連研修会への行政関係者、教育委員会等教育関連機関関係者、関連スポー

ツ施設等のスタッフのオブザーバー参加を案内する等、あらゆる機会を通じて

健康スポーツ医の認知度アップのための広報に努めて頂きたい。また、各健康

スポーツ医にも、地域イベント等への参加、行政機関、教育機関等の関連会議、

行事等への積極的な参加協力等を呼びかける等、関係職種、関連施設、行政と

の相互理解を深めるための更なる努力を期待したい。

Page 85: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

77

第3部 活動事例紹介

1.藤沢湘南台病院、とちの木病院の「メディカルフィットネス」

「メディカルフィットネス」は、単に病院にあるスポーツクラブやリハビリ

テーション施設ではなく、また、スポーツクラブで健康相談を行うことでもな

い。目指すのは、アスレティックトレーナーやインストラクターと公認スポー

ツドクターや理学療法士が協力して、楽しく運動を続けながら安全で効果的な

「健康づくり」「身体づくり」が指導できるスポーツ施設である。「病気になら

ない身体づくり」は医療機関に求められる機能であると考えられ、それを具現

化するために、現在2つの運動施設(藤沢湘南台病院:LIFE メディカルフィッ

トネス、とちの木病院:栃木市総合運動公園;メディカルフィットネスとちの

木)が運営されているので紹介する。

(1)藤沢湘南台病院「LIFE メディカルフィットネス」27 28

2000 年に、財団法人同友会が運営する藤沢湘南台病院(藤沢市高倉)の増

築にあたり、病院の 2,3 階にプールやトレーニングジム、スタジオを備えた

スポーツクラブ「LIFE メディカルフィットネス」が立ち上げられた。11 年が

経ち、登録を希望したものは 3,700 人を超え、現在も、登録者 1,000 人を保

っている。はじめは、リハビリテーション施設と間違える人もあったが、

近は、特徴のあるスポーツクラブとして認識され、地域のコミュニティーセ

ンターとしても定着している。

一般スポーツクラブとの違いは、登録時に全員にメディカルチェック(安

静時心電図、血液検査と直接問診)を行い、公認スポーツドクターが運動の

可否を判定し、疾患を有していてもトレーナーによる運動指導をしているこ

とである。加えて、1年ごとのアンケートによる体調調査や、有疾患者向けの

教室、健康スポーツ相談なども行われている。登録者の平均年齢は 50 歳台後

半と一般クラブに比べて高いが、約 300 人は週に 2 回以上来館し、運動を楽

しみ、健康を謳歌しており、地域貢献度は高い。一方、メディカルチェック

で治療が必要とされ、登録できない人が約 5%いること、施設での運動中に虚

血性心疾患で倒れ、ステント手術を受けた人が 3 名いること、少ないが運動

27 「健康な人」を診る医師 病院併設型健康増進施設『LIFE メディカルフィットネス』 :日本整形外科

スポーツ医学会誌:22:78‐83 28 LIFE メディカルフィットネス http://www.fj-shonandai.jp/life/

Page 86: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

78

開始後に膝痛や腰痛が出現した人もいることや、50歳以上では有疾患者が2/3

に及ぶことなどをみても、特に、中高年のスポーツ活動には何らかの医療サ

ポートが必要である。

経営状況は登録料でスタッフ人件費、施設維持管理費などがほぼ賄われて

いる。医療スタッフに関わる費用は病院に頼っているが、登録有疾患者の病

院への紹介や健康から病気までを医療が管理しているという安心感などが、

病院のイメージアップに繋がっている。

(2)栃木市総合運動公園「メディカルフィットネスとちの木」29

とちの木病院(栃木市大町)でも、LIFE での経験を基に病院併設型スポー

ツクラブが計画されていた。ちょうどその頃、栃木市が病院の近くにある総

合運動公園の指定管理者を募集しており、そこで、病院を母体にした株式会

社メディカルフィットネスとちの木を設立し、「運動公園の運営・管理」に、

新しく「市民の身体づくり、健康づくり」を加えた企画(PASS)を提出、2009

年 4 月にその運営を委託された。

病院内の施設と違い、広大な敷地(約 37 ヘクタール)の中に野球場、陸

上競技場、体育館、プール、テニスコートなどが整備され、委託前には地域

競技会やスポーツ愛好者の利用があり、公園でジョギングや散歩をする人々

がいる。委託後、トレーニングジムやプールが改修され、個別トレーニング

指導、健康相談などのメディカルフィットネス機能を加えて、年間登録で安

価に利用できる制度がつくられたことで、健康志向の新しい利用者も増えて

きた。

今後は、目的に合わせた運動の実践および指導ができる施設環境を更に整

備し、スポーツ以外のイベント、ボランティア活動なども企画するなど、市

民が日常生活の中で活動量を増やす場の提供が期待される。

29 栃木市総合運動公園 http://www.tochigi-park.com/kouentop.html

Page 87: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

79

2.佐賀県医師会健康スポーツ医部会における「運動療法連携システム」30 2008年度から佐賀県医師会健康スポーツ医部会が中心となって「かかりつけ

医療施設」、「運動処方作成施設」、「運動実施施設」による連携システムを

つくり、運動療法を必要とする患者のサポート体制を作ることをめざしている。

「運動処方作成施設」は、運動負荷試験及び運動処方の相当の経験を有する健

康スポーツ医の所属する施設とし、現在6施設が立候補している。「運動実施施

設」は相当の経験のある運動指導者、設備、安全性等を満たす民間および公共

の施設とし、現在7施設が立候補している。

連携システムの流れ;

(1)「かかりつけ医療施設」における患者の主治医は、当該患者の治療にお

いて専門的な運動処方や運動指導を希望される場合、「運動処方作成依頼

書」を使用して「運動処方作成施設」へ運動処方を依頼する。

(2)「運動処方作成施設」の担当医は患者の診察・検査を実施し、「運動負

荷試験および運動処方についての報告書」を作成して、主治医へ報告する。

次に主治医は「運動実施施設」へ運動指導を依頼する。

(3)「運動実施施設」は先の「運動負荷試験および運動処方についての報告

書」にもとづき、具体的なプログラムを作成して患者の運動実施をサポート

し、「運動療法手帳」に記録する。患者は主治医を受診する際に「運動療法

手帳」を持参して報告する。

2009年度には部会の予算を用いて、モニター患者3例を試行させた。患者自

身も積極的に運動療法へ取り組み始めるなどの行動変容が起こり、自己流の運

動や健常者中心の運動施設に行くのは不安であった患者も、安心して運動療法

に取り組むことができている。主治医側も従来の診療では運動について口頭で

の指示程度しかできない状況が多かったと思われるが、今回のシステムで運動

の受け皿ができる可能性が示唆された。2010年度には、かかりつけ医からの推

薦によって、3例が自己負担で参加したところである。

今後の課題としては、①施設間の運動処方や運動指導内容の標準化、②経済

的負担を考慮した継続的かつ効果的な支援体制の確立が必要である。

30 庄野菜穂子ほか. 第 69 回日本公衆衛生学会 2010

Page 88: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

80

3.長崎県民を対象とした「健康・体力相談事業」

(1)事業概要

①実施場所:長崎県立総合体育館 スポーツ科学管理棟

②主 催:長崎県教育委員会・長崎県体育施設指定管理者

(協力・長崎県医師会)

③対 象 者:一般県民(1回につき 4名以内)

④実 施 日:第 1・3 土曜日(休止の場合あり)

⑤料 金 等:無料、事前申込制

⑥申込方法:来館又は電話による事前申込制

(2)事業目的

体力水準の把握やスポーツ障害の予防等を目的として、指導・助言を得たい

人のために、専門医による相談を実施し、適切な運動処方を提供することによ

り、健康や体力の維持・増進を図る。

(3)事業内容

①疾病の治療や健康増進のため、運動したい人に対して、身体状況や体力

に応じ、運動能力を測定・評価し、個々人に適した運動処方を提供する。

②スポーツ外傷・障害のある人に対して、必要な身体機能の検査を行い、

適切な運動を処方する。

③トレーニング室を活用した実践的な指導により、運動処方の充実を図る。

(4)事業の流れ

①問診表の記入・着替え

②形態測定(身長、体重、血圧、尿検査、腹囲、体脂肪率等)

③医師の問診・カウンセリング

④運動負荷試験

⑤体力測定(新体力テスト:握力、上体おこし、長座体前屈、反復横とび

等)

⑥医師の診断・アドバイス

⑦約 1週間後、測定結果、運動処方等について全体を総括したコメントを

付記して送付

Page 89: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

81

(5)健康スポーツ医の関わり

長崎県立総合体育館の建設に当たり、スポーツ科学課が併設され、知事より

長崎県医師会長にスポーツ医学面での協力が要請された。長崎県医師会長はこ

れを請け、長崎県医師会スポーツ医部会が以来全面的に参画協力している。即

ち、長崎県民を対象とした「健康・体力相談事業」には、長崎県医師会所属の

健康スポーツ医が出動して前述の活動を行っている。

(6)事業の成果

事業開始以来すでに 16 年が経過し、県民の間にも「健康・体力相談事業」

がかなり浸透してきた。事業の愛好者も増えて頻回の来館者も多く、健康保

持・増進に役立っている。

(7)事業取組みに関する留意事項

①県民の健康・体力に対する意識の向上と健康・体力の保持・増進に寄与

している。

②「県民の健康・体力相談事業に関する研修会」として、年1回以上の勉

強会ないし打合せ会を行い、相談内容に対して指導医側は、一貫した統一

見解の指導内容であるよう努めている。

③スポーツ医学の進歩を踏まえて今後とも指導・処方内容を改新し続けて

県民の健康・体力に寄与していく。

④事業実施場所である、県立総合体育館の関連設備を利用して年 1回、ス

ポーツ医学実技研修会を開催しており、本事業への健康スポーツ医の参

画対応等が円滑に行えるよう努めている。

研修内容は次のとおり。

講義3題:a.心肺蘇生等に関連する講演

b.循環器疾患に関連する講演

c.その他

実習2コース:a.心肺蘇生法等

b.運動負荷試験時のチェックポイント等

Page 90: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

82

第4部 まとめ

第 1 部では、国民のスポーツ活動の現状、健康づくりとスポーツに関連する

国の施策、医師会・学会等の取り組み、医師個人の取り組みの現状を検討した。

国民の運動・スポーツの実施状況は経年的に増加の傾向にある。種目別では、

比較的に強度の低い運動が上位を占めている。運動・スポーツを行う理由とし

ては、「健康・体力づくりのため」、「楽しみ、気晴らしとして」、「運動不足を感

じるから」、「友人・仲間との交流として」、「家族のふれあいとして」、「美容や

肥満解消のため」が上位にあがっている。

一方、運動・スポーツを行わない理由では、「仕事(家事・育児を含む)が忙

しくて時間がないから」、「体が弱いから」、「年をとったから」、「運動・スポー

ツは好きでないから」、「場所や施設がないから」などである。これらの人々が

スポーツに参加できるようにして、多くの国民が“スポーツを通じて健康づく

りのできる”体制の整備が求められる。

運動・スポーツを行う場の現状をみると、 も利用されているのは公共スペ

ース(道路、公園、海・海岸、高原・山、河川敷)(75.3%)で、民間スポーツ

施設(36.6%)、公共スポーツ施設(30.7%)、自宅(23.4%)と続くが、我が

国に も多い学校・スポーツ施設の利用者(9.0%)が も少ない。

スポーツクラブ・同好会へ加入している人は 2 割に満たないが、条件が整え

ば加入したいと思う人はその倍もいる。国民が利用し易い形で運動・スポーツ

を行う場所や施設を充実し、スポーツ指導者を配置する必要がある。また、疾

病を有する人、身体が虚弱な人、障害を有する人が運動・スポーツを楽しむた

めに、第 2部に記載したとおり、健康スポーツ医が積極的に関わる必要がある。

健康づくりとスポーツに関連する文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国

土交通省の施策について簡単に紹介した。

2010 年 8 月の「スポーツ立国戦略」策定に続いて、2011 年に制定施行された

「スポーツ基本法」は「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全

ての人々の権利である」と明記している。その基本理念には、「生涯にわたる自

主的・自律的なスポーツの機会の確保、学校・団体・家庭・地域の連携による

青少年スポーツの推進、身近に親しむ地域スポーツの推進、健康の保持増進・

安全の確保、障害者のスポーツ活動のための配慮、競技水準の向上、国際相互

Page 91: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

83

理解の増進・国際平和への寄与、スポーツに対する国民の幅広い理解・支援」

を掲げている。省庁の枠を超えて、スポーツに関する施策を総合的かつ計画的

に推進し、健康の保持増進、障害者スポーツをはじめとして、様々な場面での

スポーツ現場での対応を求めている。現在策定中のスポーツ基本計画、設置が

検討されているスポーツ庁に期待したい。

厚生労働省は、特定健診・特定保健指導の実施とエクササイズガイドの普及・

啓発で、国民のスポーツ参加を促している。特定健診・特定保健指導は、糖尿

病などの生活習慣病の有病者・予備群の減少という観点から、メタボリックシ

ンドロームの概念を導入し、運動を含めた保健指導を強化している。エクササ

イズガイドでは生活習慣病予防や健康増進のための身体活動の強度と時間を示

し、スポーツや運動への取り組みを啓発している。

医師会・学会等の取り組みの現状では、先ず、本邦における 3 つのスポーツ

医制度(日本医師会・日本体育協会・日本整形外科学会)について、認定健康

スポーツ医制度をベースにして制度間の互換が成り立っていることや、各々の

制度の特徴について紹介した。

次に、日本医師会の取り組みについて、これまでの活動を総括した。健康ス

ポーツ医学委員会の設置、認定健康スポーツ医制度の発足、委員会が中心とな

って行ってきた健康スポーツ医学講習会、健康スポーツ医学再研修会、会員や

認定健康スポーツ医向けの参考図書の作成・提供、諮問事項を中心とした国民

の健康増進・健康スポーツ医活動推進のための協議内容等について紹介した。

各都道府県医師会では、健康スポーツ医の派遣、地域住民のための健康・体力

相談事業、市民公開講座の開催、運動療法連携システムの構築、委員会の活動

など健康づくりとスポーツ医学に関連した取り組みが行われている。

日本体育協会では、総合型地域スポーツクラブや少年団の育成、スポーツ指

導者の養成、医学面から支援する公認スポーツドクターやアスレティックトレ

ーナーの養成、スポーツ医・科学研究など、健康づくりとスポーツに関する様々

な事業が行われている。

学会等の取り組みとして、ロコモティブシンドロームの予防、学校運動器検

診の実施、整形外科的な投球障害やランニング障害あるいは様々な内科的障害

等のスポーツに伴う障害を予防するための取り組みを紹介した。

Page 92: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

84

医師(個人)の健康づくりとスポーツに関する取り組みの現状は、分野別に

検証した。

先ず、日常診療における取り組みを“アンケート調査 2011”の結果からみる

と、健康スポーツ医学に関する患者が少ないために健康スポーツ医としての資

格・知識・経験が十分には生かされていないとする回答が多かったが、日常診

療の中で積極的に活動している事例も少なくなかった。治療やリハビリテーシ

ョンの手段としての運動療法、スポーツに因って起こる疾患の治療、メディカ

ルチェック、運動処方の作成・相談など日常診療の中で健康スポーツ医学に関

する活動があった。

乳幼児保健に携わっている健康スポーツ医は少ない。乳幼児期は神経系の発

育の著しい時期である。昨今、運動不足の子どもが多い現実がある。運動不足

は運動器を統合している神経系の発育に禍根を残す。乳幼児に必要な身体活動

について、健康スポーツ医として介入していかなくてはならない。

学校保健への関与を“アンケート調査 2011”の結果からみると、学校医は

10.3%だが、学校保健に関与している健康スポーツ医は 25.1%に上る。さらに、

31.0%の健康スポーツ医が児童生徒の健康管理に健康スポーツ医学の知識を生

かしていきたいとしている。全体として、健康スポーツ医としての活動は、統

一されたものは、残念ながら見当たらず、個々人または一部地域でなされてい

るに止まっている。肥満と痩せ、スポーツ過多と運動不足の二極化現象の解決

に健康スポーツ医として積極的に関わっていく必要がある。内科・眼科・耳鼻

科の 3 科体制の学校医も、昨今の性と心の問題、運動器の問題、アトピー性皮

膚炎などの皮膚科的問題のため、現状に合わなくなってきており、見直しが求

められる。

産業保健の分野は、近年、身体的健康と精神的健康の両面での大きな課題を

抱えている。“アンケート調査 2011”の結果からみると、約3割弱の健康スポー

ツ医がすでに何らかの産業医活動をしている。しかし、規模の小さな事業所ほ

ど手薄になっており、健康スポーツ医資格を有する産業医や、健康スポーツ医

学の知識を現場で生かしている産業医はまだ少ないことが推測される。健康ス

ポーツ医の活動範囲が拡大することを期待したい。

地域保健への取り組みを“アンケート調査 2011”の結果からみると、地域保

健に健康スポーツ医学を生かしたいとする要望が高い(50.1%)。一方、現状の

活動では、地域保健への関与は多くない(13.4%)。

Page 93: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

85

スポーツ組織に対する取り組みをみると、先ず、日本オリンピック委員会に

は公認スポーツドクターは役員として、また、様々な委員会の委員として活動

している。公認スポーツドクターが直接責任を持っているのは、アンチ・ドー

ピング委員会、情報・医・科学専門委員会とその下のスポーツ医学サポート部

会である。

ほとんどの都道府県体育協会がスポーツ医・科学委員会を設置しており、公

認スポーツドクターが委員として参加している。公認スポーツドクターの活動

レベルは様々であるが、指導者の教育や研修、国体選手のメディカルチェック、

国体への帯同は多くの都道府県で行われている。

次に、スポーツ施設に対する取り組みをみる。総合型地域スポーツクラブや

広域スポーツセンターと連携している健康スポーツ医は多くないが、連携がで

きているところでは医学的な相談や運動中の事故への連携など健康スポーツ医

としての活動ができているようである。民間スポーツ施設で健康スポーツ医が

活動している事例は多くない。また、疾病予防施設を設置している医療機関は

少数に止まっている。

スポーツ大会などに関与する健康スポーツ医は少数に止まっている。健康ス

ポーツ医とスポーツ大会主催者の間に接点は少なく、健康スポーツ医がスポー

ツ大会などに気軽に参加できるような体制は未だ十分ではない。

後に“アンケート調査 2011”の結果から、健康スポーツ医活動全般につい

て現状をみた。多くの健康スポーツ医は、資格と知識を生かして、院内外で様々

な活動を行っている。一方、活動していない健康スポーツ医が 22.1%あった。

第2部の提言を参考に健康スポーツ医の活動がさらに活発化することを期待し

たい。

第2部では、スポーツ医学の立場からみた「国民のスポーツを通じた健康づ

くり」に関する提言を纏めた。

「国民のスポーツを通じた健康づくりに寄与するため健康スポーツ医がなす

べきこと」では、この分野における健康スポーツ医の活動が一層拡大すること

を願って、11 の分野に分けて課題分析と提言を行った。

乳幼児期には、その発達の時期に応じて、適切に生活指導・運動指導を行っ

ていく必要がある。日常診療、乳幼児健診、幼稚園・保育園の健康診断、予防

Page 94: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

86

接種、地域のイベント等、機会を生かして積極的に関与することが望まれる。

もちろん、持病や障害を持った子どもも含めてである。

就学時期において、教育機関・スポーツクラブ・各種イベント等を通じて、

スポーツのみならず身体活動全体に健康スポーツ医として参与すべきである。

小・中・高校期になると、運動過多と運動不足に二極化される傾向にあり、

その結果として、スポーツ障害・メタボリック症候群・肥満・痩せ等が問題に

なっている。二極化の是正、発達に応じた指導、規則正しい生活習慣の確立、

学校健診の充実・スポーツ大会やイベントの適切な運営等々に健康スポーツ医

として寄与すべきである。

学校におけるスポーツ事故が後を絶たない。2012 年度から、中学校における

武道必修化が始まる。安全指針の遵守、技能指導、ハード面の備え等はもちろ

ん大切であるが、ウォーミングアップやストレッチングの重要性やケガをした

時の処置などスポーツ医学に関する正しい知識を習得させることが望まれる。

学校医、健康スポーツ医の活躍で、重大なケガを未然に防ぎたい。

成人期になると、肥満と加齢の影響があいまって高血圧症、脂質異常症、糖

尿病、メタボリックシンドロームなど循環器疾患危険因子となる生活習慣病や

運動器疾患が増加してくる。若年期からの生活習慣の影響が壮年期に顕在化す

ると考えられ、国民の高齢化に伴い今後もさらなる増加が懸念される。健康ス

ポーツ医は日常診療、地域保健、産業保健などにおける直接的な運動指導を含

めた保健指導・生活指導を行うほか、運動や栄養指導者の相談役や指導的立場

として間接的に貢献することが求められる。

高齢になるほど健康上の問題も増え、体力は低下する。高齢者においては、

日常生活における活動量の増加を考えることが基本的な運動療法となるが、筋

力維持・平行機能維持、ADLの維持、転倒防止などに対し、年齢・健康状態・

体力の個人差を考えた細かなアドバイスがより大切になる。介護予防や要介護

者への適切な活動を無理なく行えるように取り計らうのも健康スポーツ医の役

割である。ケアマネージャーや訪問看護師など他職種との連携も重要である。

性差にも注目する必要がある。女性では閉経が心血管疾患の危険因子であり、

更年期から脂質異常症、高血圧症、糖尿病、肥満などの危険因子が増加し、血

管機能の低下がみられる。循環器疾患や動脈硬化性危険因子の加齢による増加

は、全体的に男性において早期に出現し、高齢期になると性差が縮小する。変

形性関節症や骨粗鬆症は女性に多い。さらに、運動量、栄養摂取状況、行動特

Page 95: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

87

性、メンタルヘルスにおける性差もふまえた包括的な保健指導が求められる。

わが国の障害者スポーツは、全国障害者スポーツ大会や、パラリンピックに

みるような競技スポーツ偏重の傾向が強い。スポーツ指導者は、健康スポーツ

を障害者に広める努力が必要である。一般のスポーツ施設でも、障害者を受け

入れるよう健康スポーツ医は支援することが求められる。また、障害者スポー

ツには、肢体不自由、視聴覚障害、知的障害を有するものが参加する場合が多

いが、内部障害者もスポーツに参加できる方向性を広めることが求められる。

日常診療の中において、健康スポーツ医は、運動を行う人に対して医学的診

療のみならず、メディカルチェック、運動処方、健康増進や疾患の予防・治療

についての啓発を行い、さらに各種運動指導者などに指導助言を行うことが求

められる。健康スポーツ医は、それらの知識や方法に精通していることを患者

にアピールすべきである。

保険給付の枠外での活動も積極的に実施したい。例えば、日常診療で診てい

る患者が参加する地域のお祭りや運動会などの行事、また行政機関や民間事業

者が執り行うスポーツ大会や健康相談などへ、積極的に可能な限り健康スポー

ツ医として協力・参加をする。そのような連携を通じて、安全で効果的なスポ

ーツが行われるよう指導・助言する立場を確保する道が開かれる。

市町村保健センターは市町村レベルでの健康づくりの場である。健康スポー

ツ医は、市町村保健センターの健康づくりの催しに、保健師と一体となり、積

極的に参加することが大切である。

地域の学校、職場、保健所等における健康スポーツ医学講演会の開催等、医

学知識の普及活動を積極的に行うとともに、地域の教育委員会、スポーツ少年

団、老人クラブ、婦人会が主催するスポーツのイベント、講演会への講師とし

ての参加等、他団体と連携協力を積極的に行うことが求められる。

フィットネスクラブは、軽症の慢性疾患を持つ高齢者の運動療法の場となっ

ている。運動中に重大事故になった事例も報告されている。事故防止のため、

フィットネスクラブは健康スポーツ医と連携する必要がある。健康スポーツ医

として積極的なアプローチが望まれる。

総合型地域スポーツクラブは、地域住民が身近な地域でスポーツを楽しむこ

とができる施設であり、多世代・多種目・多志向という特徴を持っている。し

かし、実際には、子どもと高齢者が大部分を占めているのが現状である。子ど

も(児童)は身体的・精神的発育期であり、高齢者は生活習慣病を抱えている。健

Page 96: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

88

康スポーツ医は、総合型地域スポーツクラブの設立に当初から参画し、地域住

民の健康相談やスポーツ障害等で積極的にクラブの活動に参加する必要がある。

産業保健分野は健康スポーツ医が活躍できる分野である。健康スポーツ医は

積極的に産業医資格を取得し、職域の健康管理にあたって、より優れた資質を

発揮するべく努力すべきであろう。定期健康診断や特定保健指導を含む健診事

後指導、あるいは過重労働者に対する面接、職場巡視、安全衛生委員会等の機

会を利用し積極的に活動すべきである。

スポーツ医としてのアスリートやスポーツへの関わり方は、日常診療でのア

スリートへの対応、チームドクターとしての活動、競技団体組織における活動

など様々形がある。本文では、それぞれについて具体的な活動を記述している。

スポーツ医それぞれが、どのような関与が可能か考える必要がある。

地域スポーツ大会などに、健康スポーツ医が積極的に参画して、健康スポー

ツ医活動を行うことが大切であることは言うまでもない。しかし、現状では一

部の公認スポーツドクターがボランティア参加していることが多い。この分野

における健康スポーツ医活動を推進するための種々の課題を本文に記載した。

行政施策への提言として、下記の項目を要望した。

スポーツを通じて健康づくりを願う国民の期待は多いにもかかわらず、国民

がスポーツを行う場や時間は十分に提供されているとは言えない。誰もが容易

にスポーツを楽しめる環境づくりが望まれる。現状を少しなりとも改善するた

めの方策を提言した。

次に、主として文部科学省が担っているスポーツ政策と、主として厚生労働

省が担っている健康政策の連携の強化を要望した。

スポーツ基本法の理念の一つとして、「スポーツを行うものの心身の健康の保

持増進、安全の確保」が謳われており、今後の健康スポーツ医が果たすべき役

割が示されている。本文では、健康スポーツ医活動の基盤となるスポーツ基本

法の重要な項目を列挙しコメントを加えた。

スポーツ基本法の附則においては、スポーツ庁の設置、スポーツに関する審

議会等の行政組織の在り方について、行政改革の基本方針との整合性に配慮し

て検討を加え、必要な措置を講ずることが定められた。全ての国民がスポーツ

を健康でかつ公正に実施するには、健康スポーツ医の存在が必要不可欠であり、

法的に明確に位置づけられるべきである。

Page 97: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

89

障害者の機能回復訓練や社会復帰の手段として普及してきたスポーツが、近

年、競技スポーツのエリート選手育成に重点がおかれ、多くの障害者のスポー

ツへの参加の場が閉ざされる傾向にある。障害者がスポーツを生活の中で楽し

むことができるようにするには、身近な地域で障害者が障害のない人とともに、

スポーツを楽しむことができるような機会を設けることや、地域にあるスポー

ツ施設の使用を容易にすること等が必要である。

総合型地域スポーツクラブの対象者には運動に対するリスクの高い人が含ま

れている場合もある。医学的相談、リスクマネージメントに対応するため、健

康スポーツ医との提携・積極的活用を施策として推進する必要がある。

フィットネスクラブにおいて、健康スポーツ医を顧問におくことは、メディ

カルチェックや運動処方およびあらゆる健康相談などのサービスを、所属会員

に提供ができるようになるため、クラブの経営・管理において大いに有効であ

ると考えられる。行政の立場から、健康スポーツ医との連携を積極的に推進す

ることを望みたい。

スポーツによって国民の健康づくりと生活習慣病予防を行うことは、既に国

策となっている。認定健康スポーツ医制度は始まって 20 年を経過するにもかか

わらず、その存在と活動は、国民にも行政にもあまり知られていない。国民の

健全なスポーツの推進、健康づくりのため、健康スポーツ医活動の広報を要望

する。

教育施策への提言として、学校関係者への正しいスポーツ医学的知識の啓発、

運動する子どもとしない子どもの二極化の是正、学校健診の充実(運動器検診

の追加)、学校医・養護教諭・体育教諭の連携、バランスのとれた文武両道教育

について提言した。(提言の内容については第2部の該当箇所をご覧いただきた

い。)

日本医師会へは、次の提言を行った。

「国民がスポーツを通じて健康づくりができる体制を整備する」ためには、

「行政施策への提言」に沿って施策が推進されることが肝要であり、指摘した

全ての項目について、日本医師会が関係省庁へ強く働きかけることを期待する。 また、「健康スポーツ医」という専門医の存在と役割を周知してもらうために、

日本医師会から関係省庁へ向けて、健康スポーツ医の派遣事業を各省庁に提案

することを提言した。省庁ごとの具体的な内容を本文に記載している。

Page 98: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

90

認定健康スポーツ医制度の発展に社会的地位・役割の確立が不可欠である。

このためには健康スポーツ医でなければできないような役割の創設が日本医師

会として必要である。

また、日本医師会は健康スポーツ医の機能や必要性に関してもっとPRし、

国民にその名称と機能を認知してもらう必要がある。

健康スポーツ医の機能は学校医や産業医にとって必要な機能であり、可能で

あれば学校医や産業医の一部は健康スポーツ医の資格を持つほうが望ましい。

日本医師会にはそのための枠組みの整備が望まれる。

健康スポーツ医活動へのインセンティブについても提言した。先ず、学術的

インセンティブとして、健康スポーツ医学講習会と再研修会の充実があげられ

る。経済的インセンティブとしては、健康スポーツ医資格が、日常診療報酬に

点数として直に反映されると一番分かりやすい。「健康運動処方料」「健康運動

指導料」などの新設が望ましい。疾病予防施設(医療法 42 条)の施設基準の見

直しも必要である。制度的インセンティブとして、スポーツ基本法の制定を受

けて今後展開される制度改正に「健康スポーツ医」が盛り込まれるための広報

や、検討段階での委員会等への担当役員の参加等を更に強化することを望みた

い。

また、健康スポーツ医活動に伴うトラブルが日医医賠責保険の中で対応でき

ることを確認し、健康スポーツ医にPRすることが、安心して活動を活発化す

るために望まれる。

健康スポーツ医の存在とその役割を、新聞、テレビ、HPなど全国的な広報

手段を用いて国民に周知すること、国民の日常生活に近い立場のスポーツ医で

あることをアピールすること、各地域において健康スポーツ医リストや連絡先

を配布するなど、地道な広報活動が必要である。

健康スポーツ医のレベルアップのため、日本医師会は講演会や実地講習会の

開催、運動処方マニュアルやDVD教材などを提供することが必要である。

これからの産業医には、専門的知識・技術を修得した健康スポーツ医と連携し、

労働者にスポーツ相談、体力測定、メディカルチェック、健康スポーツ指導等

を定期的に実施することが必要になる。日本医師会は、産業医も健康スポーツ

医の資格が必要であることを、行政に働きかける必要がある。

スポーツ医が国民に認知され、その活動を期待されるような存在になるよう、

スポーツ医制度間の連携を日本医師会がその先頭に立って行うことも検討すべ

Page 99: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

91

きである。

地域医師会へは、次の提言を行った。

地域医師会は、一般的なスポーツ大会のみならず、行政の健康づくり事業に、

健康スポーツに習熟した医師が必要であることを理解してもらう努力が必要で

ある。また、行政施策には企画段階から関与して医学的な提言を行うことが必

要である。

また、総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンター・スポーツ組織と

連携している地域医師会は少数で、36 医師会は連携していなかった。連携して

いない医師会も、25 医師会は「要請があれば連携したいと考えている」と回答

しているが、医師会側からの連携アプローチが求められる。スポーツを安全で

健康的に行うために、地域医師会は総合型地域スポーツクラブの創設に当初よ

り参加する事が望ましい。また、総合型地域スポーツクラブや広域スポーツセ

ンターへの健康スポーツ医の参加を行政に働き掛ける必要がある。

民間スポーツクラブと地域医師会との間で提携関係を構築していくことは、

長期的にみれば双方にとってメリットがあると考えられる。運動指導者は有疾

患者の運動について主治医からの情報提供や指示を期待していることなどをふ

まえ、提携関係を構築していくための具体的提言を本文に記載している。

多くの国民は、公共スペース・公共施設を利用して、多種多様なスポーツを

楽しんでいる。地域医師会は、行政と連携して、これらの情報を収集し、また

一般国民に広報することによって、健康スポーツ医活動の場を積極的に作って

いかねばならない。

特定健診・特定保健指導が医療保険者や市町村に対して義務付けられている。

「標準的な健診・保健指導プログラム」においては、「保健指導の実施者として

医師に関しては日本医師会認定健康スポーツ医等と連携するのが望ましい」、

「保健指導として運動を提供する施設については、日本医師会認定健康スポー

ツ医を配置、あるいは勤務する医療機関と連携するなど、安全の確保に努める

ことが必要である」と書かれている。地域医師会は運動を提供する施設に関す

る情報を収集し、健康スポーツ医の活動の場の提供に努力することが望まれる。

地域住民への知識啓発の推進、健康増進事業の拡大、関係職種や関連施設と

の連携、行政との連携強化にも地域医師会の積極的な対応が望まれる。

Page 100: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

92

第3部の「活動事例紹介」では、スポーツを通じての健康づくりのモデルと

なる取り組みを紹介した。

巻末資料には、答申をまとめるにあたって、基礎資料を得るとともに、今後

の健康スポーツ医活動の推進に資することを目的として、健康スポーツ医およ

び都道府県医師会を対象として実施した“アンケート調査 2011”の結果を掲載

した。

本答申は「国民がスポーツを通じて健康づくりのできる体制の整備」に関し

て、健康スポーツ医学的な立場から提言を行った。国民のスポーツ活動の推進、

健康づくりに役立つことができれば幸いである。

Page 101: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

93

巻末資料

「健康スポーツ医活動」に関する“アンケート調査 2011”の結果

Page 102: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会
Page 103: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

95

巻末資料 「健康スポーツ医活動」に関する“アンケート調査 2011”の結果

Ⅰ.アンケート調査 2011 概要

(1)目的

2010・2011 年度第ⅩⅢ次健康スポーツ医学委員会では、日本医師会会長諮問

「国民がスポーツを通じて健康づくりのできる体制の整備」について検討する

ために、基礎資料を得るとともに、今後の健康スポーツ医活動推進に資するこ

とを目的として、健康スポーツ医と都道府県医師会を対象にアンケート調査を

実施した。

(2)対象と方法

1)健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”

全国約 12,000 人の健康スポーツ医の中から抽出した 3,231 人(未更新者

を含む)を対象に、健康スポーツ医の活動等についてアンケート(選択方

式)調査を実施し、回収したアンケートを分析、検討した。回答が得られ

たのは 3,231 人中 1,360 人(42.1%)であった。

(具体的な設問内容と結果は 96 ページから。自由記載の結果は省略。)

2)都道府県医師会対象“アンケート調査 2011”

47 都道府県医師会を対象に、健康スポーツ医の活動の推進等についてア

ンケート(選択方式)調査を実施し、回収したアンケートを分析、検討し

た。全ての都道府県医師会から回答が得られた。

(具体的な設問内容と結果は 114 ページから。自由記載の結果は省略。)

(3)調査時期

2011 年 5 月 25 日発送、8月 31 日締切

Page 104: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

96

Ⅱ.健康スポーツ医対象“アンケート調査 2011”の結果

1.基本事項

(1)性別

1,360 名中「男性」87.6%(1,192 名)・「女性」9.8%(133 名)と、1997 年

度・2001 年度の調査と同様に男性が多かったが、男性の割合が減少、女性の割

合が増加傾向にある。

(2)年齢

平均年齢は「54.83 歳」であった。1997 年度・2001 年度と比べ、徐々に平均

年齢が上がっている。

Page 105: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

97

(3)年代別

年代別にみると、50 代が も多く 36.6%(474 名)、次いで 60 代が 24.3%(315

名)、40 代が 20.6%(267 名)70 代が 12.3%(159 名)、30 代が 3.4%(44 名)、

80 代が 2.7%(35 名)、90 代 0.1%(1名)、20 代はいなかった。

(4)勤務地

Page 106: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

98

(5)勤務形態(複数回答)

「開業医」が も多く 60.4%(821 名)、次いで「勤務医」が 34.6%(470 名)、

「産業医」が 20.4%(277 名)、「学校医」が 10.3%(140 名)、「その他」が 4.2%

(57 名)であった。

(6)専門科目

「内科」が も多く 52.3%(735 名)、次いで「整形外科」16.3%(229 名)、

「一般外科」13.7%(193 名)、「小児科」3.3%(46 名)、「産婦人科」2.1%(29

名)、「耳鼻咽喉科」0.7%(10 名)、「眼科」0.3%(4名)、「その他」11.3%(159

名)であった。

なお「その他」の中では、「精神科」(21 名)、「脳神経外科」(20 名)、「リハ

ビリテーション科」(16 名)、「健康診断」(13 名)、「麻酔科」(9名)、「脳外科」

(8名)、「泌尿器科」(5名)、「皮膚科」(5名)が多かった。

Page 107: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

99

(7)日本医師会認定健康スポーツ医以外のスポーツ医資格(複数回答)

「日本整形外科学会認定スポーツ医」12.2%(166 名)、「日本体育協会公認ス

ポーツドクター」18.3%(249 名)、「未回答」73.5%(999 名)であった。2001

年度に比べ、日本整形外科学会認定スポーツ医と日本体育協会公認スポーツド

クターの割合が逆転した。

(8)日本医師会認定健康スポーツ医の資格更新をしなかった理由(複数回答)

資格更新をしなかった理由を選択した人は「153 名」であった。「メリットが

ない」65.4%(100 名)、「手続きが面倒である」37.9%(58 名)、「費用が馬鹿

らしい」20.9%(32 名)、その他 36.6%(56 名)であった。

Page 108: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

100

2.健康スポーツ医活動の現状について

(1)1日に診療する患者のうち、メディカルチェックや運動療法、スポーツ

障害の治療等の健康スポーツ医学に関連する患者の割合

「ほとんどない」が も多く 49.1%(668 名)、「10%未満」30.5%(415 名)、

「10%以上 20%未満」10.9%(148 名)、「20%以上 50%未満」6.0%(81 名)、

「50%以上」2.8%(38 名)、「回答なし」0.7%(10 名)であった。この比率は

1997 年度・2001 年度の調査と大きく変化していない。

(2)健康スポーツ医学に関する活動状況(複数回答)

「治療やリハビリの手段としての運動療法」35.2%(479 名)

「産業保健への関与」26.1%(355 名)

Page 109: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

101

「学校保健への関与」25.9%(352 名)

「スポーツに因って起こる疾患の治療」22.3%(303 名)

「メディカルチェック」22.2%(302 名)

「現在は活動していない」22.1%(300 名)

「他団体や施設への協力・助言」17.1%(232 名)

「運動処方の作成・相談」15.7%(213 名)

「その他の健康スポーツ医学を生かしたボランティア活動」13.7%(186 名)

「地域保健への関与」13.4%(182 名)

「スポーツ医科学に関する研究活動」5.4%(74 名)

「乳幼児保健への関与」4.9%(66 名)

「回答なし」1.3%(17 名)であった。

(3)日常診療活動の場におけるスポーツ医としての活動状況

「ほとんどできていない」が 48.4%(658 名)、「不十分である」が 38.2%(520

名)、「十分できている」が 11.9%(161 名)、「未回答」が 1.5%(21 名)であ

った。

Page 110: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

102

(4)スポーツ診療や健康スポーツ医活動に対する障害(複数回答)

「一般診療のため時間がない」42.5%(578 名)

「活動の場がない」33.8%(459 名)

「時間がかかりすぎる」25.4%(346 名)

「経営的に採算が合わない」22.6%(308 名)

「勉強の手段が少ない」21.2%(288 名)

「スポーツ指導者の理解がない」11.3%(153 名)

「医業類似行為者との競合」10.9%(148 名)

「外部での活動は効率が悪い」9.6%(130 名)

「医療事故が心配」7.8%(106 名)

「患者が専門外の疾患にかかっている」3.8%(52 名)

「その他」3.1%(42 名)であった。

なお「困ることはない」が 6.5%(89 名)であった。

Page 111: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

103

(5)今後の健康スポーツ医学の生かし方(複数回答)

「一般診療のなかでの生活指導」62.8%(854 名)

「地域住民全体の健康増進や予防」51.3%(697 名)

「治療法の一部としての軽症例に対する運動療法」38.1%(518 名)

「健康スポーツを行う人の健康管理」35.4%(482 名)

「企業(職域)での健康増進や予防」32.8%(446 名)

「健康スポーツを行う人のメディカルチェック」32.5%(442 名)

「児童・生徒(学校)の健康管理」31.0%(422 名)

「治療法の一部としてのリハビリテーション」29.2%(397 名)

「競技会の医事運営」13.1%(178 名)

「競技レベルの向上」10.4%(142 名)

「その他」2.9%(40 名)

「回答なし」1.8%(24 名)であった。

Page 112: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

104

3.スポーツ医活動の推進について

(1)郡市区医師会に対する要望(複数回答)

「健康スポーツ医のPR」43.7%(594 名)

「研修会の開催」40.4%(550 名)

「学校医や産業医との連携による総合的な健康推進事業の推進」35.2%(479 名)

「スポーツ現場との結びつきの推進」31.5%(428 名)

「健康スポーツ医の組織化ならびに充実」27.7%(377 名)

「地域住民を対象としたスポーツ事業の推進」26.8%(364 名)

「コメディカルとの連携の推進」15.2%(207 名)

「スポーツ医学的相談窓口の設置」12.9%(176 名)

「スポーツ医学担当理事の設置・スポーツ医学委員会の設置」9.3%(127 名)

「スポーツ救急網の構築」8.1%(110 名)

「その他」3.5%(48 名)

「回答なし」4.0%(54 名)であった。

Page 113: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

105

(2)都道府県医師会に対する要望(複数回答)

「研修会の開催」48.7%(662 名)

「健康スポーツ医のPR」47.4%(644 名)

「学校医や産業医との連携による総合的な健康推進事業の推進」31.6%(430 名)

「健康スポーツ医の組織化ならびに充実」31.9%(434 名)

「スポーツ現場との結びつきの推進」25.8%(351 名)

「日常診療の場で用いる患者教育用小冊子の作成」25.1%(342 名)

「スポーツ医活動具体例(小冊子)の作成・提供」24.8%(337 名)

「患者教育用ポスターの作成」15.4%(209 名)

「スポーツ医学的相談窓口の設置」14.4%(196 名)

「コメディカルとの連携の推進」13.5%(183 名)

「スポーツ救急網の構築」11.0%(150 名)

「その他」2.9%(39 名)

「回答なし」3.8%(52 名)であった。

Page 114: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

106

(3)日本医師会に対する要望(複数回答)

「健康スポーツ医のPR」54.8%(745 名)

「研修会の開催」42.3%(575 名)

「健康スポーツ医に対する診療報酬上の評価」35.7%(485 名)

「健康スポーツ医の組織化ならびに充実」34.5%(469 名)

「健康スポーツ医の法的地位の確立」32.6%(444 名)

「日常診療の場で用いる患者教育用小冊子の作成」30.3%(412 名)

「スポーツ医活動具体例(小冊子)の作成・提供」28.8%(391 名)

「スポーツ医学が標榜科目として認められること」19.8%(269 名)

「患者教育用ポスターの作成」18.1%(246 名)

「コメディカルとの連携の推進」11.9%(162 名)

「スポーツ医学的相談窓口の設置」10.7%(146 名)

「その他」3.3%(45 名)

「回答なし」3.8%(51 名)であった。

Page 115: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

107

4.総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンターとの連携について

(1)総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンターとの連携状況

(複数回答)

「総合型地域スポーツクラブと連携している」4.3%(58 名)、「広域スポーツ

センターと連携している」1.0%(13 名)、「連携していない」93.4%(1270 名)、

未回答 1.4%(19 名)であった。

(2)具体的な連携内容(複数回答)

「総合型地域スポーツクラブと連携している」と回答した人は「58 名」であっ

たが、その具体的な連携内容は、「医学的な相談」67.2%(39 名)、「運動中に事

故(急病・怪我等)が起こった場合の救急治療の連携」60.3%(35 名)、「運動

指導員への医学的な支援(講演や講習会)」46.6%(27 名)、メディカルチェッ

ク 37.9%(22 名)、「役員としての参画」36.2(21 名)、「その他」1.7%(1名)

であった。

Page 116: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

108

(3)今後の対応方針(複数回答)

「連携していない」と回答した人は「1,270 名」であったが、「要請があれば連

携したい」49.4%(627 名)、「総合型地域スポーツクラブや広域スポーツセンタ

ーについて分からない」27.9%(354 名)、「連携するつもりはない」17.6%(223

名)、「今後積極的に連携したいと考えている」6.1%(77 名)、「未回答」4.6%

(59 名)であった。

Page 117: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

109

5.疾病予防施設について

(1)疾病予防施設の設置

「持っていない」91.3%(1,241 名)、「持っている」6.9%(94 名)、「回答な

し」1.8%(25 名)であった。

(2)疾病予防施設の未設置の理由

「疾病予防施設を持っていない」と回答した人は「1,241 名」であったが、その

理由として、「疾病予防施設を知らなかったから」52.7%(654 名)、「疾病予防施

設をしっているが諸事情のため」26.2%(325 名)、「疾病予防施設は知っている

が必要性がない」8.4%(104 名)、「疾病予防施設を知っているが興味がない」3.8%

(47 名)、「その他」8.5%(105 名)、「回答なし」1.9%(23 名)であった。

Page 118: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

110

(3)非設置の具体的理由(複数回答)

「疾病予防施設は知っているが諸事情のため」と回答した人は「325 名」であっ

たが、その諸事情の内容として、

「設置に必要な人材の確保ができない」59.1%(192 名)

「設置場所が確保できない」53.5%(174 名)

「採算が合わない」49.5%(161 名)

「設置に必要な機材の確保ができない」36.0%(117 名)

「知識・技術に不安を感じるため」14.8%(48 名)

「近くに有酸素運動を行う施設(指定運動療法施設または認定健康増進施設等)

があるため必要性がない」9.8%(32 名)

「意義が認められない」2.8%(9名)

「その他」4.6%(15 名)

「回答なし」3.1%(10 名)であった。

この比率は 2001 年度の調査と大きく変化していない。

Page 119: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

111

6.生活習慣病管理料の保険請求について

(1)保険請求の有無

「保険請求をしたことがないし、これからもしない」47.5%(646 名)、「保険

請求したことがある」25.4%(346 名)、「保険適用されることを知らなかった」

15.1%(205 名)、「保険請求をしたことがないが、これからしようと思う」9.7%

(132 名)、「未回答」2.3%(31 名)であった。

(2)実際に指導管理した項目(複数回答)

「保険請求したことがある」と回答した人は「346 名」であったが、実査に指

導管理した項目は、「運動」86.7%(300 名)、「服薬」78.9%(273 名)、「栄養」

74.0%(256 名)、「喫煙および飲酒等」62.1%(215 名)、「休養」29.2%(101

名)、その他 5.5%(19 名)であった。

Page 120: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

112

(3)保険請求をしない理由(複数回答)

「保険請求をしたことがないし、これからもしない」と回答した人は「646 名」

であったが、保険請求をしない理由として、

「患者の自己負担が大きくなるため、患者の理解が得にくい」50.8%(328 名)

「療養計画書の作成と説明・患者の同意と署名など、算定するための条件が煩

雑である」44.1%(285 名)

「当該患者の診療に際して行った医学管理等、検査、投薬および注射の費用は

すべて所定点数に含まれるため、収支がマイナスになる」23.1%(149 名)

「運動療法の指導ができない」10.1%(65 名)

「200 床以上の病院(生活習慣病管理料を算定できない)に勤務している」

9.0%(58 名)

「運動療法の有効性・安全性が確認できない」4.8%(31 名)

「その他」11.3%(73 名)、「未回答」4.6%(30 名)であった。

Page 121: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

113

7.冊子「日常診療のための運動指導と生活指導ABC-健康スポーツ医からの

アドバイス-」について

(1)冊子の活用状況

「活用している」11.6%(158 名)、「これから活用しようと思う」20.3%(276

名)、「上記冊子を知らない」31.6%(430 名)、「活用していない」34.6%(471

名)、「未回答」1.9%(25 名)であった。

Page 122: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

114

Ⅲ.都道府県医師会対象“アンケート調査 2011”の結果

1.組織について

(1)健康スポーツ医学に関する問題等を検討する委員会の設置状況

委員会が「あり」と答えた医師会は 78.7%(37)、「なし」と答えた医師会は

21.3%(10)であった。

(2)健康スポーツ医学に関する問題等を検討する委員会の名称

検討する委員会があると回答した医師会は「37」であったが、委員会の名称と

して、「健康スポーツ医学委員会」59.5%(22)、「スポーツ医学委員会」8.1%

(3)、「その他」32.4%(12)であった。

Page 123: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

115

(3)健康スポーツ医学に関する問題等を検討する委員会の構成員(複数回答)

委員会の構成員は、「医師会員」94.6%(35)、「都道府県医師会理事(スポー

ツ医学担当)」51.4%(19)、「学識経験者」24.3%(9)、「体育協会」13.5%(5)、

「行政(文部科学省関係)」8.1%(3)、「運動指導者」2.7%(1)、「その他」

5.4%(2)で、「行政(厚生労働省関係)」は回答がなかった。

(4)スポーツ医学の資格を持つ医師の組織

スポーツ医学の資格を持つ医師の組織について、「あり」34.0%(16)、「なし」

66.0%(31)であった。

Page 124: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

116

(5)スポーツ医学の資格を持つ医師の組織の名称

スポーツ医学の資格を持つ医師の組織の名称について、「健康スポーツ医部会」

31.3%(5)、「健康スポーツ医会」6.3%(1)、「その他」62.5%(10)であった。

(6)スポーツ医学の資格を持つ医師の組織の会員数と特色ある活動実績

① スポーツ医学の資格を持つ医師の組織の会員数

スポーツ医学の資格を持つ医師の組織(部会等)が「ある」と答えた医師会は

16 であったが、会員数が「1~100 人」は 12.5%(2)、「101~200 人」は 56.3%

(9)、「201~300 人」は 25.0%(4)「301~400 人」は 6.3%(1)で、「401 人

以上」は回答がなかった。

② スポーツ医学の資格を持つ医師の組織の特色ある活動実績

スポーツ医学の資格を持つ医師の組織が「ある」と回答した医師会(16)のう

ち 13 の医師会が特色ある活動実績があると回答した。

Page 125: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

117

2.健康スポーツ医の資質向上等について

(1)スポーツ医学関連のカンファレンス、研修会等の開催を行っているか

「はい」93.6%(44)、「いいえ」6.4%(3)、2001 年度と同数であった。

①開催頻度

「年 1 回」が も多く 50.0%(22)、次いで「年 2 回」25.0%(11)、「年 4 回

以上」15.9%(7)、「年 3回」9.1%(4)であった。

Page 126: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

118

②実技研修の開催

実技の研修が含まれているかの問いに対し、「はい」29.5%(13)、「いいえ」

70.5%(31)であった。

③ 実技研修の開催頻度

実技の研修が含まれていると回答した医師会は 13であったが、「年 1回」53.8%

(7)、「年 2回」23.1%(3)、「年 3回」「年 4回以上」は共に 7.7%(1)、「未回

答」7.7%(1)であった。

Page 127: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

119

(2)日本医師会、日本体育協会、日本整形外科学会の協力体制(複数回答)

「機能分担ができているが必要に応じて協力し合っている」42.6%(20)

「共同の事業を行っている(講習会、メディカルチェックなど)」17.0%(8)

「協力し合うことはない」14.9%(7)

「協力し合っているが現場で必ずしもうまくいっていない」10.6%(5)

「機能分担ができているので協力し合うことはない」4.3%(2)

「その他」14.9%(7)であった。

Page 128: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

120

(3)日本医師会認定健康スポーツ医の資格更新をしなかった理由(複数回答)

「資格を持っているメリットがない」70.2%(33)

「資格更新の手続きが面倒である」14.9%(7)

「資格更新の費用が馬鹿らしい」8.5%(4)

「その他」29.8%(14)であった。

Page 129: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

121

3.健康スポーツ医活動の推進について

(1)郡市区医師会の活動として何が必要か(複数回答)

「学校保健領域での活動強化・連携」57.4%(27)

「活動の場の確保」55.3%(26)

「健康スポーツ医の社会的地位・役割の確立」51.1%(24)

「スポーツ大会等のイベント参加」46.8%(22)

「健康スポーツ医のPR」44.7%(21)

「行政・関係団体への働きかけ・連携」42.6%(20)

「健康スポーツ医の養成・資質向上」40.4%(19)

「地域住民や運動指導者等への教育等」40.4%(19)

「医師会(員)の健康スポーツ医活動に対する意識改革・意欲の向上」31.9%(15)

「健康スポーツ医活動に対する報酬面での評価・身分保証」29.8%(14)

「健康スポーツ医の組織化ならびに充実」23.4%(11)

「健康スポーツ医活動に対する人的支援」17.0%(8)

「その他」6.4%(3)であった。

Page 130: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

122

(2)都道府県医師会の活動として何が必要か(複数回答)

「学校医および産業医と協調した健康増進活動の推進」63.8%(30)

「健康スポーツ医のPR」57.4%(27)

「健康スポーツ医の養成・資質向上」57.4%(27)

「健康スポーツ医の社会的地位・役割の確立」53.2%(25)

「医師会(員)の健康スポーツ医活動に対する意識改革・意欲の向上」46.8%(22)

「郡市区医師会へ支援・指導」46.8%(22)

「健康スポーツ医活動に対する報酬面での評価・身分保証」44.7%(21)

「郡市区医師会へ情報提供」40.4%(19)

「行政・関係団体への働きかけ・連携」40.4%(19)

「健康スポーツ医の組織化ならびに充実」36.2%(17)

「健康スポーツ医学の推進・啓発」34.0%(16)

「活動の場の確保」31.9%(15)

「地域住民や運動指導者等への教育等」25.5%(12)

「その他」4.3%(2)であった。

Page 131: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

123

(3)日本医師会の活動として何が必要か(複数回答)

「健康スポーツ医の社会的地位・役割の確立」78.7%(37)

「健康スポーツ医のPR」74.5%(35)

「健康スポーツ医活動に対する報酬面での評価・身分保証」63.8%(30)

「健康スポーツ医の養成・資質向上」55.3%(26)

「健康スポーツ医活動マニュアルの作成・配布」55.3%(26)

「行政・関係団体への働きかけ・連携」55.3%(26)

「活動の場の確保」51.1%(24)

「健康スポーツ医学の推進・啓発」48.9%(23)

「健康スポーツ医活動に対する医師会(員)の意識改革・意欲の向上」42.6%(20)

「健康スポーツ医活動に対する積極的な後援と助成」40.4%(19)

「健康スポーツ医の組織化ならびに充実」38.3%(18)

「スポーツ医学が標榜科目として認められること」27.7%(13)

「認定健康スポーツ医制度の改善(カリキュラム、更新要件)」23.4%(11)

「地域住民や運動指導者等への教育等」17.0%(8)

「その他」2.1%(1)であった。

Page 132: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

124

(4)行政に対する要望(複数回答)

「医師会との連携・協力」63.8%(30)

「健康スポーツ医活動に対する評価・身分保証」59.6%(28)

「健康スポーツに対する認識・理解」59.6%(28)

「健康づくり事業の推進」48.9%(23)

「健康スポーツ医活動の予算化・支援」46.8%(22)

「健康スポーツ医との連携・協力」42.6%(20)

「健康スポーツ医のPR」40.4%(19)

「その他」2.1%(1)であった。

(5)健康スポーツ医活動のモデルとなるような活動内容

モデルとなるような活動内容について、「回答あり」31.9%(15)、「回答なし」

68.1%(32)であった。

Page 133: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

125

4.総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンター・スポーツ組織との

連携について

(1)総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンター・スポーツ組織との

連携(複数回答)

「連携していない」が 76.6%(36)と非常に多く、「スポーツ組織と連携して

いる」14.9%(7)、「広域スポーツセンターと連携している」6.4%(3)、「総合

型地域スポーツクラブと連携している」4.3%(2)であった。

Page 134: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

126

(2)具体的な連携内容(複数回答)

「医学的な相談」55.6%(5)

「メディカルチェック」55.6%(5)

「運動中に事故(急病・怪我等)が起こった場合の救急治療の連携」44.4%(4)

「運動指導員への医学的な支援(講演や講習会)」44.4%(4)

「役員としての参画」22.2%(2)

「その他」22.2%(2)

「運動指導が必要な患者の紹介」は回答がなかった。

Page 135: 健康スポーツ医学委員会答申 - Meddl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322_5.pdf2012/03/22  · 平成24年3月 日本医師会 会長 原中 勝征 殿 健康スポーツ医学委員会

127

(3)今後の対応方針(複数回答)

総合型地域スポーツクラブ・広域スポーツセンター・スポーツ組織と「連携し

ていない」と回答した 36 医師会のうち、「要請があれば連携したいと考えてい

る」69.4%(25)、「総合型地域スポーツクラブや広域スポーツセンターについ

て分からない」19.4%(7)、「今後積極的に連携したいと考えている」5.6%(2)、

「連携するつもりはない」2.8%(1)、「未回答」8.3%(3)であった。