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1.はじめに 近年,天然ガスの新たな利用方法として,天 然ガスをいったん反応性の高い合成ガス(水素 と一酸化炭素の混合気体)に転換した後,灯軽 油などの中間留分,ワックスあるいはジメチル エーテル(DME),メタノール等を製造する Gas to LiquidsGTL)技術が注目を集めてい る。石油公団では本邦企業が保有する天然ガス 田の開発を促進する手段として,フィッシャ ー・トロプシュ合成反応(FT合成)による GTL技術に関わる触媒,プロセス等の研究・ 開発を平成10年度から行っている。また海外で 行われるGTLの商業プロジェクトに参画する 本邦企業を支援するため,GTLの製造技術並 びにプロジェクトの最新動向の調査も行ってい る。この一環として,平成12年度には財団法人 日本エネルギー経済研究所に「各種GTL製品 の製造技術の最新動向並びに市場性に関する調 査」を委託した。現在商業規模で稼動中の GTLプラントを有する会社はSasol(南アフリ カ),Mossgas(南アフリカ),Shell(マレーシ ア)の3社であり,特に南アフリカ共和国(以 下「南アフリカ」)の2社は歴史的,技術的に 他より先行している。このため同調査では同国 への現地調査を実施した。本稿はこの調査結果 及び最新の文献情報等を基に,南アフリカの石 油並びにGTL事情についてまとめたものであ る。 59 石油/天然ガス レビュー 02・3 南アフリカ共和国におけるGTL事情 佐 藤 幹 基,森 田 裕 二 南アフリカ共和国(南アフリカ)は金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵まれたアフリカ 諸国の中では経済的に非常に豊かな国である。1948年から人種隔離政策(アパルトヘイト)を 施行したため,国際社会から強い非難を浴び,石油の禁輸が実施された(公式に禁輸が実施さ れたのは1979年~1994年の15年間)。同国は石油資源に乏しく,禁輸に対抗する目的から,1950 年代からSasolが国内に豊富に存在する石炭を原料としたフィッシャー・トロプシュ合成反応に よるFT合成油の生産を行い,また1990年代前半からはMossgasが同国南部の沖合ガス田のガス を原料としたFT合成油の生産を行っている。両社を合計した生産量は195b/d(白油相当で 137b/d程度)である。 南アフリカ政府の石油に関する規制は厳しく,石油の輸入管理,精製から販売までの各段階 におけるマージン,小売価格の設定からガソリンスタンド数の制限に至るまで石油産業の細部 に及んでいる。SasolMossgasが製造する合成油は価格,製品流通の面で石油製品と共通であ り,市場では石油製品と混合して利用されている。政府はGTL事業への支援策として,原油価 格が一定水準を下回った場合に補助金を給付すること,及び卸売業者は南アフリカ市場におけ るシェアに応じてFT合成油を石油製品と同一価格で引取る義務を課している。前者は現在16/bblと規定されているが,昨今は高油価の環境下であるため,政府の支援は行われていない。 *本稿は石油公団天然ガス・プロジェクト企画部 佐藤幹基 E-mail[email protected]),財団法人日本エネルギー 経済研究所第2研究部石油グループ 森田裕二(E-mail[email protected])が担当した。

南アフリカ共和国におけるGTL事情 - JOGMEC石油・天然ガス ......2.南アフリカとGTL事業 南アフリカはアフリカ大陸の最南端に位置 し,金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵ま

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Page 1: 南アフリカ共和国におけるGTL事情 - JOGMEC石油・天然ガス ......2.南アフリカとGTL事業 南アフリカはアフリカ大陸の最南端に位置 し,金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵ま

1.はじめに

近年,天然ガスの新たな利用方法として,天然ガスをいったん反応性の高い合成ガス(水素と一酸化炭素の混合気体)に転換した後,灯軽油などの中間留分,ワックスあるいはジメチル

エーテル(DME),メタノール等を製造するGas to Liquids(GTL)技術が注目を集めている。石油公団では本邦企業が保有する天然ガス田の開発を促進する手段として,フィッシャ

ー・トロプシュ合成反応(FT合成)によるGTL技術に関わる触媒,プロセス等の研究・

開発を平成10年度から行っている。また海外で行われるGTLの商業プロジェクトに参画する本邦企業を支援するため,GTLの製造技術並びにプロジェクトの最新動向の調査も行ってい

る。この一環として,平成12年度には財団法人日本エネルギー経済研究所に「各種GTL製品の製造技術の最新動向並びに市場性に関する調査」を委託した。現在商業規模で稼動中の

GTLプラントを有する会社はSasol(南アフリカ),Mossgas(南アフリカ),Shell(マレーシア)の3社であり,特に南アフリカ共和国(以下「南アフリカ」)の2社は歴史的,技術的に他より先行している。このため同調査では同国への現地調査を実施した。本稿はこの調査結果及び最新の文献情報等を基に,南アフリカの石

油並びにGTL事情についてまとめたものである。

― 59 ― 石油/天然ガス レビュー ’02・3

南アフリカ共和国におけるGTL事情

佐 藤 幹 基,森 田 裕 二*

南アフリカ共和国(南アフリカ)は金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵まれたアフリカ

諸国の中では経済的に非常に豊かな国である。1948年から人種隔離政策(アパルトヘイト)を施行したため,国際社会から強い非難を浴び,石油の禁輸が実施された(公式に禁輸が実施さ

れたのは1979年~1994年の15年間)。同国は石油資源に乏しく,禁輸に対抗する目的から,1950年代からSasolが国内に豊富に存在する石炭を原料としたフィッシャー・トロプシュ合成反応によるFT合成油の生産を行い,また1990年代前半からはMossgasが同国南部の沖合ガス田のガスを原料としたFT合成油の生産を行っている。両社を合計した生産量は195千b/d(白油相当で137千b/d程度)である。南アフリカ政府の石油に関する規制は厳しく,石油の輸入管理,精製から販売までの各段階

におけるマージン,小売価格の設定からガソリンスタンド数の制限に至るまで石油産業の細部

に及んでいる。Sasol,Mossgasが製造する合成油は価格,製品流通の面で石油製品と共通であり,市場では石油製品と混合して利用されている。政府はGTL事業への支援策として,原油価格が一定水準を下回った場合に補助金を給付すること,及び卸売業者は南アフリカ市場におけ

るシェアに応じてFT合成油を石油製品と同一価格で引取る義務を課している。前者は現在16ドル/bblと規定されているが,昨今は高油価の環境下であるため,政府の支援は行われていない。

*本稿は石油公団天然ガス・プロジェクト企画部 佐藤幹基(E-mail:[email protected]),財団法人日本エネルギー経済研究所第2研究部石油グループ 森田裕二(E-mail:[email protected])が担当した。

Page 2: 南アフリカ共和国におけるGTL事情 - JOGMEC石油・天然ガス ......2.南アフリカとGTL事業 南アフリカはアフリカ大陸の最南端に位置 し,金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵ま

2.南アフリカとGTL事業

南アフリカはアフリカ大陸の最南端に位置し,金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵まれたアフリカ諸国の中では経済的に非常に豊かな国である。特に金の産出量は世界一で全輸出

鉱石量の約60%を占めており,また石炭は世界第3位の輸出国として金に次ぐ2番目の外貨収

入源となっている。南アフリカは1948年に人種隔離政策(アパルトヘイト)を施行し,国際社会から強い非難を

浴びたことから,1961年にイギリス連邦を脱退し共和国となった。以降,世界から孤立し国連による制裁を受けながらもアパルトヘイトを維

持していたが,1989年に大統領に就任したデ・クラークによってアパルトヘイトが撤廃され,

1990年代前半に国際社会への復帰を果たした。南アフリカはわが国と同様に石油資源に乏しく,大半を輸入に依存しているが,アパルトヘ

イトの実施に伴い石油の禁輸が行われたことに対抗する目的から,国内に豊富に存在する石炭

を原料としたFT合成油の生産を1950年代から行い,長年にわたり石油と混合して利用してき

た。また,1990年代前半からは同国南部の沖合天然ガス田のガスを原料としてFT合成油の生産も行っている。表1は南アフリカ及びわが国におけるエネルギー需給等に関するデータの比較である。南アフリカは日本と比較して,国土面積が約3倍,

人口は約1/3である。広大な国土のため輸送が重要なファクターとなっており,鉄道,道路及び空港といった各種輸送インフラが整備されていることから輸送用燃料の確保は同国にとって

大きな課題である。南アフリカの一次エネルギーの供給量はわが

国の約20%である。一次エネルギー供給に占める石油の比率は1970年代初期には20%前後まで上昇したが,現在では約10%程度と低い値になっている。これは石油資源に乏しいこともある

― 60 ―石油/天然ガス レビュー ’02・3

面積 人口 実質GDP(1999年)(1995年価格)   一次エネルギー供給(1999年)  石炭  石油  ガス  原子力  水力  再生可能エネルギー、廃棄物      供給計   石油   生産量(1999年)      輸入量(ネット)(2000年・推定) 天然ガス 生産量(1999年) 石炭   生産量(1999年)      輸入量      消費量   総発電量(1999年)   一人あたり電力消費量(1999年) 一人あたり一次エネルギー消費量(1999年) 一人あたり石油消費量(1999年) 一人あたりCO2排出量(1997年)

×千km2 ×千人 10億US$   百万トン   B/D 千B/D BCF 百万トン 百万トン 百万トン   GWh   トン/人 トン/人 トン/人

 

81.5 10.4 1.5 3.3 0.1 12.4 109.3

南アフリカ 1,221.0 42,101 164.4    

25,000 244 49.4 223.5 ― 153.5   200,422   4,479 2.60 0.25 7.9

日 本 376.5 126,570 5,356.1    

12,600 4,728 81.2 3.9 133.2 137.0   1,056,969   8,131 4.07 2.10 9.3

 

構成比% 74.6 9.5 1.4 3.1 0.1 11.4 100.0

 

87.6 266.4 62.1 82.5 7.4 9.4 515.5

 

構成比% 17.0 51.7 12.0 16.0 1.4 1.8 100.0

表1 南アフリカと日本の一次エネルギー供給等の比較

(出所)IEA,“Energy Balances of Non-OECD Countries 1999-2000”等に基づいて作成

Page 3: 南アフリカ共和国におけるGTL事情 - JOGMEC石油・天然ガス ......2.南アフリカとGTL事業 南アフリカはアフリカ大陸の最南端に位置 し,金やダイヤモンドといった鉱物資源に恵ま

が,禁輸措置によって原油の確保が困難になり,政策的に石油から石炭へのエネルギー転換が図られたことも一因として挙げられる。石油の利用は基本的に輸送用に限定され,従来は重油等で賄われていた部分は石炭で代替された。この

ため,南アフリカの電力の92%は石炭火力によっており,現在では石油火力発電所,ガス火力発電所は存在しない。この結果,一次エネルギ

ーに占める石炭の比率は約75%と,わが国の約17%と比較して高く,供給量は石油換算で約82百万tとわが国とほぼ等しい値となっている。また政府はアパルトヘイトの時代に軍用の軽油を確保する目的から,原子力発電への転換,小型軽油車の禁止,採鉱用大型車の電気駆動への転換等の方策により軽油需要の意図的な削減

を実施した。一方,天然ガスは一次エネルギー供給の1.4%に相当するが,ほぼ全量がFT合成油を製造するMossgasに原料として供給されている。また石炭を原料として合成油等を生産する際に副生するメタンが,都市ガスの原料として利用され

ている。

3.南アフリカの石油産業

南アフリカの石油産業は1884年にケープタウンに最初の石油会社が設立され,製品輸入が開始されたことに始まる。当時,国内の石油製品

は全てShell,BP,Mobil,Caltexの4社が卸売会社として輸入し,販売を行っていた。政府の

石油産業に対する規制は1931年から行われたが,第二次世界大戦終了後の1947年,政府は液体燃料・石油法(「Liquid Fuels and Oil Act of1947」)を定めた。この法に基づく石油精製事業の振興策により,1954年にMobilによりダーバンに最初の製油所が建設され,その後1970年代初期にかけて合計3つの製油所が海岸に,さらに1つが内陸部に建設された(図1)。これ

らの2000年の石油精製能力は471千b/dである。1948年のアパルトヘイト実施に伴い,国際社会の石油禁輸の動きが1973年以降見られるようになった。公式な石油禁輸が実施されたのは

1979年~1994年のほぼ15年にわたる期間である。政府は国連による経済制裁を耐え抜くため,

― 61 ― 石油/天然ガス レビュー ’02・3

(出所)Shell SA資料より抜粋

図1 南アフリカの石油関連施設

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①経済水準の維持②情報の非公開を政策の中心に据えた。政府は 1 9 7 7年にPetroleum Product Actを制定,石油の禁輸に対抗するために石油に関する一切の情報(原油の供給ソース,原油の輸入量,製品需要等)を

秘匿する政策を行った。その後,1989年のアパルトヘイト撤廃により石油の禁輸が解除されたことから,政府は1994年5月に石油情報の一部開示に踏み切った。これにより原油の輸入,精製能力,合成油の生産状況,会社の市場シェア等,南アフリカの石油

産業の一端が外部にも知られることとなった。但し,このように情報に関する規制が緩和さ

れた後においても,政府はPetroleum ProductsActに基づいて引続き石油産業の管理,規制を行っており,その範囲は石油の輸入・精製から流通・販売に至る全ての段階が含まれている。行政指導を含めた政府の規制は鉱物エネルギー

省(DME;Department of Minerals andEnergy)の管轄下にあり,その内容は石油の輸入管理,石油産業の収益管理,精製から販売までの各段階におけるマージンの設定,小売価格の設定から,ガソリンスタンド数の制限に至るまで石油産業の細部に及んでいる。反面,このような規制下で石油産業は企業間の過度な競争が排除され,また国内外からのさまざまな干

渉から保護・隔離された状態にある。1998年12月,政府は「エネルギー白書」を発表し,今後のエネルギー政策の基本的な方向性を示した。中でも石油産業に関しては国際競争力のある産業の育成を目的として,最終的には完全な自由化を目指すとしたが,その前段階と

して黒人資本が25%以上のシェアを確保することなど,乗り越えるべきいくつかの里程標

(milestone)を提示した。アパルトヘイトの時代に形成された社会的,

経済的なひずみを克服するために,黒人資本の発展,雇用拡大を図ろうとする政府にとって,石油産業の規制緩和・自由化はむしろ企業間の競争を激化させ,企業の合理化,弱小企業の淘汰に結びつきかねない。このことから,一見相矛盾するとも見られる二つの政策をどのように

調和させるかが大きな課題となっている。

3-1 石油産業の構造図2に南アフリカの石油産業の構造に関する

概念図を示す。精製会社には民族系のEngen,外資系のCaltex,BP,Shell,Totalの5社とSasol,MossgasのGTL製造会社の2社の計7社がある。このうちSasolはTotalとの合弁事業によるNatref製油所の運営も行なっている。精製会社の7社のうちMossgasを除く6社は

石油製品の卸売会社でもある。卸売会社として

は,これらの他にExel,Tepco,Afric Oilの卸売専業会社3社がある。卸売会社は精製会社から製品を引き取り,それぞれ自社のブランドで販売を行なっており,事業の性格としては日本

の「元売」に近い。6つの製油所(7精製会社)の製品は,後述する海外の石油製品の輸入を仮

定し算出した統一価格( IBLC: In BondLanded Cost)で卸売会社に販売されている。卸売会社はそれぞれのマークを掲げるガソリンスタンドを経営する小売業者(日本でいう「特約店」)に製品の販売を行なっている。ガソリン,灯油,軽油については,卸売価格を政府

― 62 ―石油/天然ガス レビュー ’02・3

(出所)各種資料及び現地ヒアリング調査の内容に基づいて作成。

図2 南アフリカの石油産業構造に関する概念図

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が定めている。また小売業者保護のため,スタンドで販売されるガソリンの小売価格も政府が地域ごとに定めており,値引きや掛売り,クレジットカードによる販売等は認められていな

い。卸 売 会 社 は 基 本 的 に 政 府 の 登 録 制

(registered)のもとにあるが,これは卸売会社の油槽所までが保税の対象となっており,油槽所から出荷した時点で課税が行なわれることから,卸売会社が石油製品に係るさまざまな税の徴税・納税義務を負っていることによる。卸

売会社はSasol,Mossgasの全生産品を市場シェアに応じて引取る義務があり,代償として

S a s o lは卸売部門への進出を規制され,Mossgasには卸売部門への進出が許されていない。また卸売会社は,政府,卸売会社,小売会社の3者の合意に基づき,小売部門に進出しスタンドを運営すること(垂直統合)を禁じられている。このため,卸売会社は自社の資金でスタンドを建設し,小売業者に運営を委託(貸与)するか,小売業者が建設したスタンドに自社の

ブランドをフランチャイズすることになる。

3-2 原油,製品の輸出入表2に1995~2000年における南アフリカの相手国別原油輸入量の推移を示す。数値は

SAPIA(South African Petroleum IndustryAssociation)によるもので,加盟会社の原油輸入量の合計であることから,1999年までの値には2000年に加盟したSasolの分は含まれていない。また,同国の国家石油備蓄を管理・運営

している国営会社SFF(Strategic Fuel Fund)も原油を輸入しているが,具体的な統計データがないため,どの程度の輸入規模であるか明ら

かではない。原油の輸入相手先を国別にみると,イランからの輸入量が非常に大きい点が特徴的である。これは石油禁輸時代においてもイランからの原油輸入を継続していた歴史的背景があるため,結果として現在でもイランからの輸入に大きく依存する構造となっている。ただ,特にここ数年はサウジアラビアからの原油輸入量が増加し

ており,1999年には同国がイランに代わり南アフリカ最大の輸入相手国となった。Petroleum Products Act of 1977により原油,

― 63 ― 石油/天然ガス レビュー ’02・3

表2 石油輸入量の推移(単位:千トン)

出所:SAPIA

イラン サウジアラビア クウェート UAE イラク イエメン カタール オマーン ベネズエラ メキシコ ナイジェリア アンゴラ エジプト 北海/イギリス ロシア その他 国産(Oribi) 合計 千トン

1995年 11,014 1,114 577 520

353

120

122 1,024 1,394

197

16,435

1996年 9,301 384 2,863 765

299

131

910 1,046 541

186

16,426

1997年 9,238 1,810 2,589 387 943 216 137 91 127 589 971 127 343 327 255

403 18,553

1998年 6,757 3,346 2,094 897 413 354 345 313 787 633 287

305

649 17,180

1999年 5,824 8,042 833 300 137 71

244 1,286 389 18

493 17,637

2000年 7,414 8,545 858 758

140 76

842 48 292

689 19,662

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石油製品の輸出入には制約が課されており,原油の輸入者は製油所を保有する者に限られている。石油製品の輸入も原則的には不可能に近い。石油製品の輸入制限は国内の石油精製業者における原油処理量の増加を目的としたもので,石

油会社にはFT合成油の引取義務が課されていることもあり,製品輸入により更に原油処理量が削減されることのないように配慮した措置である。この点は「消費地精製主義」を戦後の石油政策の根幹に置いたわが国と相通じるものが

ある。製油所やFT合成油の製造設備には巨額の投資が行われていることから,短期的な不足を補う目的以外の製品輸入はこれらの資金の回

収を損なうことになると政府は判断している。また,南アフリカはBotswana,Namibia,

Lesotho, Swazilandの Southern AfricanCustoms Union (SACU)加盟4ヶ国の需要を国内需要と同等に扱っており(表3),石油精製設備をもたないこれら4ヶ国の需要も含めた

製油所のオペレーションが行なわれている。製品の輸出についても輸出許可が必要である

が,国内需要が満たされ,上記4ヶ国の需要を満たしていれば通常は許可される。相当量の余剰製品が近隣諸国及び海外に輸出され(表4),

外貨の獲得に貢献している。SAPIAは将来的にガソリンの国内需要はタイト化するものの,軽油については生産能力が需要を上回っており,余剰傾向が続くと予想している。従って,今後も軽油を中心とした輸出が続くものと思われる。なお,原油生産量が極めて少ないため,

原油の輸出は行なわれていない。

3-3 石油製品の製油所渡し価格現在,政府の価格規制の対象となっているのはガソリン,軽油,灯油の3油種であり,他の石油製品は対象外である。精製会社は卸売会社に対して政府が定めた統一価格でこれらの石油

製品を販売する。この価格はIBLC(In-Bond-Landed-Cost)と呼ばれる。IBLCはシンガポールの3つの輸出製油所

( 旧 Esso Singapore, 旧 Mobil Jurong,Singapore Petroleum Company Singapore)並びにバーレーンの製油所(Caltex Bahrein)のターム契約価格(Posted Price)の平均値の80%,シンガポールの平均スポット価格(Platt’s)の20%から構成されるFOB価格が基準となる。これらの製油所からの距離は,南アフリカの製油所が中東から原油を入手する際の距離

(約7,000km)にほぼ等しい。また,これらの製品価格は,スエズ以東即ちアラビア湾,環太平洋の市場における需給に影響を受けることになる。従って仮に南アフリカが製品を輸入する場合,最も経済的に輸入し得る価格を反映してお

り,恣意的に操作できない価格でもある。IBLCは上記FOB価格にフレート,保険料,

損耗料を加算したCIFコストに荷揚費用を加えた金額である(図3)。即ちIBLCは各製油所が海外の石油会社と同等の効率,経済性で運営さ

― 64 ―石油/天然ガス レビュー ’02・3

単位:千KL

ガソリン

軽油

灯油・ジェット燃料

国内

10,396

6,254

2,877

19,527

SACU

835

830

137

1,802

11,231

7,084

3,014

21,329

表3 近隣4ヶ国を含めた主要製品の需要量 (2000年)

(出所)SAPIA資料より推定

ガソリン

軽  油

1996

886

2,131

1997

794

4,410

表4 ガソリン,軽油の輸出量(単位:千KL)

(出所)South African Yearbook各年版

(出所)SAPIA

図3 IBLCの算出方法に関する概念図

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れたと仮定したコストを表している。南アフリカの精製業者は海外から原油を輸入し,シンガポール,バーレーンの同業者と同等の精製マージンで販売しなければならない。た

だしIBLCに含まれる輸送コストは製品の輸送コストであり,原油の輸送コストよりは割高である点については有利に働いている。石油会社の事業収益は精製マージンと卸売マージンに大別されるが,政府は,前者を精製設備に対する投資,後者を販売・配送設備に対する投資の結果として,この両者をコントロールしていた。現在,精製マージンのコントロールは行なわれ

ていないが,実態としてはIBLCに包含されているものと見なされている。IBLCは政府が定めており,石油卸売会社か

らみればどの製油所からも基本的に輸入価格と同等の価格で製品を調達できることになる。

Sasol,MossgasのFT合成油もIBLC価格で取引されており,石油製品と価格的な区別は行なわ

れていない。

4.FT合成油の生産

4-1 FT合成油生産の経緯南アフリカでFT合成油の生産を行っている

のは民間会社のSasolと国営会社のMossgasの2社であり,前者は石炭を,後者は天然ガスを

原料として使用している。政府は1947年に定めた「液体燃料・石油法」

に基づき,国内に豊富な石炭を利用して石炭液化油の製造を行なうことを決意した。製造方法としては,石炭を一旦ガス化し,得られる合成

ガスからFT合成により液体燃料を製造する間接液化法が採用された。Sasolは1950年に南アフリカ政府の産業開発

公 社 ( IDC: Industrial Development

Corporation)から資金供給を受けた国営会社として設立された。SasolとはSiud-AfrikaanseSteenkool-Olie-en-Gas Korporasie(SouthAfrican Coal, Oil and Gas Corporation

Limited)の略称で,1979年に民営化され,同年9月にヨハネスブルグ証券取引所に上場された。Sasolは傘下に数十社の子会社/関連会社

グループを保有しており,ヨハネスブルグにあ

るSasol Limitedが総本社としてグループ各社の管理,監督及び事業活動の調整等を行っている。

表5は主要なグループ会社の事業内容である。Sasol設立の目的は,ドイツのFT合成法の南

アフリカにおける実施権を1935年に手に入れていたAnglovaalの事業ライセンスを継承し,国産の石炭からFT合成油を生産することにあった。1951年にSasolburgでSASOLⅠの建設が開始され,1955年には商業ベースで合成油を製造する世界初のプラントの運転が開始された。南アフリカが1948年に実施したアパルトヘイト政策は国際社会から大きな非難を浴びた。1973年10月からは石油の供給ボイコットを受け,さらに1973年11月には第一次石油危機により原油輸入が困難になった。国連は1974年に投票権を停止し,国連安全保障理事会は1977年に同国に対する軍事物資の供給を世界的に禁止した。石油に関しても禁輸措置が講じられたこと

から,政府はFT合成油製造能力の拡充を検討せざるを得なくなった。1974年11月にSASOLⅡの建設が決定され,Secundaにおいて1976年に着工,1980年に運転が開始された。1978年12月末にイラン危機が発生し,南アフリカへの主たる原油供給国であるイランの政治

体制が崩壊するに及び,政府はFT合成油製造能力の更なる拡充を決意し, 1 9 7 9年にはSASOLⅡに隣接しSASOLⅢの建設が開始された。SASOLⅢはSASOLⅡの全く同じ仕様であることから工期も短く,プラントは1985年からフル稼働に入った。また,1980年同国南部Bredashop BasinでF-

Aガス田,1984年にE-Mガス田が発見された。政府は天然ガスを原料とするFT合成油製造プラントの建設を決定し,1987年にMossgasプロジェクトが発表された。MossgasはSasolの技術供与を受け,1988年3月にMossel BayにおいてGTLプラントの建設が開始された。1992年3月にガスの生産が開始され,1992年6月に陸上プラントが竣工,1993年1月にはフル生産となった。その後,SASOLⅠはSasol Limitedの全額所

有会社として Sasol Chemical Industries

― 65 ― 石油/天然ガス レビュー ’02・3

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― 66 ―石油/天然ガス レビュー ’02・3

会 社 名

Sasol Mining (Pty) Limited Sasol Synthetic Fuels (Pty) Limited Sasol Chemical Industries Limited Sasol Oil (Pty) Limited Sasol Technology (Pty) Limited Sasol Petroleum International (Pty) Limited Sasol Synfuels International (Pty) Limited

主 な 事 業 内 容

石炭の採掘を行い,SasolburgおよびSecundaにあるSasol のプラント向けに石炭を供給している。1999年度は,4,390万トンの石炭をSecundaの Sasol Synthetic Fuels のプラントとSasolburgのSasol Chemical Industriesのプラントに供給した。また,1997年には石炭の輸出事業を開始し,1999年度ヨーロッパおよび極東向けに310万トン輸出を行った。 Secundaプラントは,石炭を原料として合成液体燃料,パイプラインガスおよび化学原料を商業生産している世界で唯一のプラントであり,Sasol Miningより供給される石炭を原料として1999年度は,約680万トンの合成液体燃料等を生産した。合成液体燃料はSasol Oi l および国内の石油会社,化学原料はそのほとんどを Sasol Chemicalに販売している。 Sasol Synthetic Fuelsより購入した化学原料をSasolburgプラントで加工し 200種類を超える化成品を製造し,世界 80カ国以上の国に販売を行っている。 LPG,ガソリン,燃料用アルコール,照明用パラフィン,ジェット燃料,軽油,重油等の液体燃料,燃料用ガスおよび潤滑油の販売を行っている。Sasol Oilが販売している液体燃料の約31%は原油を精製した石油製品であり,国内にあるただ一カ所の製油所(Natref oil refinery)で精製されたものである。そして残りがSasol Synthetic FuelsのGTL液体燃料である。 エンジニアリング部門,研究・開発部門,ベンチャー部門の三部門体制でSasolグループのプロジェクト案件に対してF/S,投資評価,事業評価等を行い,グループ全体に亘る調整も含めプロジェクト実現まで技術的側面よりグループ各社のサポートを行っている。 1995 年に新しく設立され,世界各地(モザンビーク,コンゴ等)において石油,天然ガスの探鉱・開発および生産を行っている。有望鉱区を厳選した上で経験豊富なメジャーズ等と組んで投資する戦略をとっており,特にSasol の GTL技術を即利用できる天然ガスの開発に重点を置いている SasolのFT法(Sasol Slurry Phase Distillate法)によるGTLプロジェクトをカタール,ナイジェリア等で検討している。プラント規模は34,000B/Dで,生産開始は2005年の予定である。 シェブロンとは2000年 10月に「サソール・シェブロン」を設立し,今後10年間で50億ドル超を投資する予定と発表している。

表5 Sasol傘下の主要なグループ会社

(出所)Sasol Annual Report 1999を基に作成

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Limited(SCI)となり,石炭化学(ワックス製造を含む)に特化するために1993年にはFT合成油の製造を中止した。現在ではFT合成油の生産はSecunda(運営会社;SSF- SasolSynthetic Fuels)のみで行いSasolburgは石炭からさまざまな化学品を生産する石炭化学コン

プレックスになっている。

4-2 FT合成油原料用石炭の生産表6に示すように1999年の南アフリカの石炭生産量は1.5億t,うち火力発電用が約60%を占めており,約30%,年間約4,600万tがSasolの石炭化学用あるいはFT合成油の生産用に使用されている。Sasolのプラントに石炭を供給しているのは

Sasolの子会社のSasol Mining(Pty)Ltd.でSecunda炭鉱(Brandspruit,Bosjesspruit,Middlebult,Twistdraai)とSigma Colliery炭鉱の坑内掘り計5鉱山,ならびに露天掘の

Syferfontein炭鉱の計6鉱山を有している。Sasol Miningが 生 産 す る 石 炭 の う ち

Twistdraai炭鉱の品位の良いものは一部輸出が行われているが,大半は表7に示すように灰分が多く,発熱量も低いので一般には向かない。

因みに,表6に示したSasol向けの石炭価格を約10USドル/tで換算すると,Sasolが使用する原料の価格はBTU換算で 0 . 4 4~ 0 . 5 4ドル/MMBTU程度となる。Sasolburgにある旧SASOLⅠにはSigma炭鉱

から,Secundaにある旧SASOLⅡ,Ⅲには他の5鉱山から原料の石炭が供給されている。年間使用量はSASOLⅠで約600万t,旧SASOLⅡ,Ⅲで約4,000万tである。Sigma炭鉱はSASOLⅠ

の操業にあわせて1953年に操業が開始された鉱山であるが,閉山に近づいており代替としてモザンビークからパイプラインで天然ガスを輸入

し原料として使用する方針が決定されている。

4-3 FT合成油の生産技術間接液化法ではまず石炭をガス化し合成ガス

を製造する。SasolはLurgi(独)が開発したガス化炉を採用している。表8はLurgiガス化炉により生成される合成ガスの組成である。このガス化炉は酸素と水蒸気を吹き込み,高

温かつ20気圧という高圧で操業する。このため石炭の投入量を増やすことが可能で,合成工程で昇圧の必要が無いという利点があるとされ

る。また,Lurgiのガス化炉は水素/一酸化炭素比がFT合成の際の所要比率(≒2)とほぼ同じであるため,水素を増やす目的で二次的に水蒸

気を吹き込み一酸化炭素と反応させる“水-ガスシフト反応”の工程を省くことが出来る。ガ

― 67 ― 石油/天然ガス レビュー ’02・3

表6 石炭(瀝青炭)の需給と価格

出所:South African Coal Industry, Barlow Joker Pty. Ltd.

発電用 SASOL 工業用 その他 合 計

1998年 生産量

千トン 比率% 93,261 54,222 11,338 6,615 165,436

56.4 32.8 6.9 3.9 100

価格 ランド/トン US$/トン

41.31 54.92 113.45 73.86 52.02

7.57 10.07 20.79 13.54 9.53

1999年 生産量

千トン 比率% 93,355 46,558 8,740 4,809 153,462

60.8 30.3 5.7 3.2 100

価格 ランド/トン US$/トン

42.95 58.1 207 73.12 52.53

7.02 9.49 33.82 11.95 8.58

Heating Value BTU/lb

    Kcal/Kg

Ash (dry basis) %

Carbon

Sulphur

Hydrogen

Nitrogen

Oxygen

Sigm

8,380

4,660

35.9

50.8

0.5

2.8

1.2

8.8

Bosjesspruit

10,300

5,720

21.5

57.3

1.3

4.3

2.0

13.6

表7 SASOLに供給される石炭の性状

(出所)D. Oliver, Oil and Gas from Coal, Financial Times Business Information

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ス化炉の熱効率は90%に近く,生成ガスから水蒸気として回収される熱量を含めると効率は

97%程度に達する。石炭の間接液化における問題の一つはガス化

工程,FT合成工程の両段階で発生するメタンの処理にあり,Lurgiガス化炉におけるメタン発生量は10~13%に及ぶ。メタンはFT合成工程では不活性で反応に寄与しないため,テ-ルガスとして回収,除去される。また,ガス化炉からのガスは,アンモニア,タ-ル,フェノ-ル,硫黄分(硫化水素)等を含むために次の

FT合成工程における触媒の被毒を防止する目的から,除去する必要がある。これらの除去された不純物はいずれも化学品や原料としてさま

ざまな用途に利用されている。合成ガスは次いでFT合成反応器に送られる。

FT合成反応器には反応温度が330~350℃程度の高温型反応器と180~250℃程度の低温型反応器がある。表9に示すように低温型反応器では主に軽

油,ワックスが生産される一方,高温型反応器では主にガソリンが生産され重質油・ワックス

は殆ど生産されない。また,C2-C4オレフィン,

C2-C

4パラフィンも多量に生成するので,これ

らを原料として利用し得る化学産業が下流部門

に存在することが望ましい。同一留分の性状を比較すると,表10に示すように低温型反応器の方がパラフィン分に富み,オレフィン分,芳香族分が少ない傾向にある。また,アルコール等の含酸素化合物の量も少ない。高温型反応器はガソリンの収率が高い反面,製品はオレフィン分が多く,ガソリンに適した性状とは言い難い。また,軽油留分は,オレフィン分,芳香族分が多いためセタン価が低いと

いう難点がある。

― 68 ―石油/天然ガス レビュー ’02・3

Feed Coal

 Ash, Wt%

 Moisture, Wt%

Gasifying Medium

Gas Produced

 CO

 H2

 CH4

 N2+Air

 CO2

H2/CO Ratio

HHV, BTU/scf

Sigma Coal

26.4

9.7

O2+Steam

Raw Gas

mol%

16.4

39.4

11.3

0.4

32.5

2.4

280

Punrified

Gas mol%

24.8

59.5

14.0

0.8

0.9

2.4

409

表8 Lurgiガス化炉からの合成ガス組成

(出所)Perry Nowacki, Coal Gasification Procss, Noyes Data Corporation 1981

メタン

C2-C4オレフィン

C2-C4パラフィン

ガソリン(C5-C12)

軽油(C13-C18)

重質油とワックス(C19+)

水溶性含酸素化合物

Synthol

循環式流動床

(高温型)

7

24

6

36

12

9

6

Arge

管状固定床式

(低温型)

4

4

4

18

19

48

3

表9 Sasolプロセスの製品収率

(出所)Sasol

単位:%

パラフィン

オレフィン

芳香族分

含酸素化合物

Arge

管状固定床式(低温型)

C5-C12

29

64

0

7

C13-C18

44

50

0

6

Synthol

循環式流動床(高温型)

C5-C12

13

70

5

12

C13-C18

15

60

15

10

表10 Sasolプロセスの製品組成

(出所)Sasol

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図4にSasolの低温型反応器(LTFT:反応温度~250℃)と高温型反応器(HTFT:反応温度~350℃)の概念図を示す。SASOLⅡとⅢ,Mossgasでは中間留分生産型

(低温型)のArge 固定床型反応器は採用されず,ガソリン生産型である流動床のSynthol反応器(高温型)に統合された。これはArgeの固定床では発熱反応に伴い発生する熱を触媒から除去するのが難しく,除熱に関する制約からスケールアップが困難であったためと思われる。触媒

としては鉄系の触媒が使用されている。高温型反応器が採用されたのは,南アフリカでは軽油を軍事用に確保する目的から民生用自動車燃料としてガソリンを主体とする政策が取られたためで,ガソリンの生産量を重視し,あ

る程度品質を犠牲にした結果と言える。SasolによるとSecundaにおける製品の収率は以下のとおりで,白油の収率は約64%となっている。

White Products 64%

Heating Fuels 1%

Heating Gas 3%

Black Products(Tar and Pitch) 2%

Gasification Product 7%

Solvents 7%

Chemical Feedstocks 16%

図5にSyn tho l反応器の概念図を示す。Synthol反応器はガソリンと軽油の生産比率を

― 69 ― 石油/天然ガス レビュー ’02・3

(出所)Sasol図4 Sasolの反応器の概念図

(出所)R. F. Probstein, R. E. Hicks, Synthetic Fuels,pH Press

図5 Synthol反応器の概念図

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80:20から50:50へと変更し得るという生産の柔軟性に特徴がある。また反応器の径を拡大することによりスケールアップすることができ,投資コストの低減が可能となる。反面,触媒による磨耗の問題があるとされる。建設当初,

Secunda(旧SasolⅡ,Ⅲ)には6,500b/dのSynthol反応器がそれぞれ7基ずつ,Mossgasには7,500b/dの反応器が3基設置されていた。現在ではSecunda の反応器は,新しく開発されたSAS(Sasol Advanced Synthol)反応器に全換されており,8基のSAS反応器が稼動している(11,000b/d×4基,20,000b/d×4基)。

4-4 FT合成油の生産能力南アフリカの石油精製能力は,経済成長に伴う国内石油需要の増大を背景に徐々に拡張が行

われ,1998年に4製油所合計で471千b/dとなり,現在に至っている。一方,FT合成油の生産能力は原油処理能力

換算で195千b/dである。このうち旧SASOLⅡ,SASOLⅢを母体とするSasol Synthetic Fuels(Pty)Limited(SSF)の生産能力は原油処理能力換算で150千b/dであり,FT合成油(白油)の生産能力はこの約70%,105千b/d程度と見られる。Mossgasの原油処理能力換算値は45千b/dで,FT合成(白油)油生産能力は約32千b/dであるため,両社合計で137千b/dがFT合成油(白油)の実生産能力であると考えられる。南アフリカの石油製品需要の約80%は輸送用燃料であるガソリン,軽油であり,これに灯油,

ジェット燃料油を加えた白油の比率は90%以上となる。このため石油精製における熱分解,

FCC等の分解設備能力は合計約186千b/dと,トッパー能力に対する比率では約40%に近い値となっている。しかし石油精製における分解設備だけでは白油需要の全てはまかないきれな

く,この部分をSasol,MossgasのFT合成油が補い,全体の需給バランスが保たれている。参

考までにわが国の2001年7月末現在のトッパー能力は4,953千b/d,分解設備能力は1,011千b/dで,分解設備能力比は約20%である。製油所から出荷された石油製品は,全国に約

200ヶ所ある石油会社所有の油槽所を通じて,

全国約4,700ヵ所のガソリンスタンドあるいは直接需要家の元へと供給されている。また,

SACU加盟4ヶ国に対してもガソリン,軽油を中心に製品の輸出が行なわれている。SasolやMossgasが生産する合成油も品質上石油製品と全く同等に扱われており,油槽所段階あるいは末端市場において石油製品と混合され利用され

ている。

5.FT合成油に対する政策

FT合成油は,設備の建設に係る初期投資が巨額であることから生産コストが高くなるが,

南アフリカ国内ではFT合成油は石油製品と全く同等の扱いを受けており,販売価格も同一である。従って,既存の石油製品と競合するため

には,FT合成油の生産事業に対してある程度の補助,支援が必要となる。政府によるFT合成油産業の保護政策として

は,より安価な石油製品と競合するための補助

金である「Tariff Protection」,生産されたFT合成油の需要確保のため石油会社が市場シェア

に応じて製品の購入義務を負う「Sasol SupplyAgreement」(Mossgasも同様)等がある。こうした政策を実施することにより,政府は国内

の石油流通構造の中でFT合成油のシェア確保を図ってきた。

5-1 Tariff Protection「Tariff Protection」とは,FT合成油生産会社であるSasol,Mossgasに支払われる補助金である。Tariff Protectionは,まず原油価格にFloor Priceと呼ばれる下限値を定め,ガソリン及び軽油のIBLCから一定のフォーミュラにより逆算されたDubai原油の価格(すなわち,その時点で石油会社が実際に購入する原油価格の水準)がその下限値を下回った場合,その差額

を基に補助金を算出し,FT合成油生産会社に支払うシステムである。月毎の補助金額は

IBLCをベースに算出されているため,国際石油製品の市況の動向により変動する。Floor Price は1989年の開始当初21.85ドルと

されたが,最初の見直しが同じ年に実施された。

― 70 ―石油/天然ガス レビュー ’02・3

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政府のコンサルタントは,IBLCに基づく過去の製品価格と原油価格との関係を調査し,原油

価格が23ドル/bblを下回った場合,何らかの支援を行なう必要が生じるとの報告を行った。こ

れによりFloor Priceは23ドル/bblと定められ,原油価格との差分がSasolに援助されることになった 。1990年代に入り,Sasol並びにMossgasの経

営が次第に軌道に乗るにつれ,政府はこの

Tariff Protectionという年間10億ランド(120億円;1ランド≒12円)を超える補助金制度の見直しを改めて検討し始めた。Floor Price引き下げによる補助金の調整は1993年から行なわれていたが,1995会計年度(6月まで)におけるSasolへの補助金額は28億ランド(336億円),1989年からの累計額は40億ランド(480億円)に達していた。1995年12月,政府は改めて補助金を1996年以降大幅に削減することを決定した。その結果,1993年10月まで23.0ドル/bblであ

ったFloor Priceは1995年11月には21.4ドル/bbl,1996年6月までに19.0ドル/bbl,1997年7月には18.0ドル/bbl,そして1999年7月には16.0ドル/bblへと段階的に引き下げられた。1990年代には湾岸戦争を契機として短期間ではあった

が原油価格がFloor Priceを上回り,補助金の支払いは行なわれなかった。また1999年8月以降は原油価格が全般的に高い水準で推移している

ため,Sasol,Mossgasに対する補助金の支給は行われていない。Tariff Protectionは将来的には完全に撤廃さ

れる見通しである。政府は制度撤廃後の方針に

ついて2000年6月までに検討を行なう予定であったが,2001年11月現在に至るまで結論は出ておらず,現行の16.0ドル/bblというFloor Priceも依然制度としては残存している。

5-2 Sasol Supply AgreementSasol,Mossgasの生産は国益に適ったもの

と位置付けられており,FT合成油が市場で石油製品と同等のものとして扱われることを目的に,全ての卸売業者(製品の直接輸入業者あるいは新規参入者も含む)は南アフリカ市場にお

けるシェアに応じてFT合成油を引取ることになっている。Sasol Supply Agreementとは,Sasolが生産するFT合成油製品の需要確保のため,石油各社が市場シェアに応じてSasol製品をIBLC価格で購入することを義務づけている協定である。Sasol Supply Agreementは1989年,Sasolが

本格的にFT合成油の生産を開始した時期に政府に半ば強制された形で石油各社との間で締結された。契約期間は5年毎に更新されており,

直近の更新は1998年12月,終了は2003年12月末となっている。石油会社としては自社の競争力を高めるために製油所の稼働率が向上することを望んでおり,一般的にはこの契約の終了を歓

迎する雰囲気にある。Sasolも契約終了により自由な販売への道が開けることから,この契約

は恐らく更新されないと見られている。この協定は,石油各社がSasol製品の購入を

保証する一方で,Sasolが卸売市場に参入することを原則禁止している。また,石油会社は

IBLCに大きな変動があった場合にはSasolと引取価格について協議を行う権利を有している。

Mossgasについても同様の協定がある。SasolがFT合成油生産プラントを建造したの

はアパルトヘイトの時代であったが,当時の石油会社は禁輸によって十分な原油が輸入できな

いことに加え,Sasol製品を義務的に購入する必要があったため,政策的な措置として石油精

製能力の1/3以上を一時的に削減(休止)していた。この精製能力の削減は1993年まで続いたが,1986年~1993年の期間,政府は石油会社に対し,同措置に対する補償として補助金を支払っていた。この補助金の額については明らかで

はないが,1994年以降,国際関係の正常化に伴う石油輸出入の自由化や国内石油需要の増大を背景に製油所の精製能力も元の水準に戻され,

補助金の支給も廃止されている。

5-3 Blue Pump AgreementSasolが生産する製品は,IBLC価格で引取ら

れることがSasol Supply Agreementにより保証されているが,代償としてSasolは「BluePump Agreement」に基づき,他の石油事業

― 71 ― 石油/天然ガス レビュー ’02・3

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者のスタンドに計量機を設置して販売する一定量のガソリン,軽油を除いては直接消費者に販

売は行なわないことになっている。近年では競合対象となる原油の価格高騰から実質的な補助金の支給が行われないにも拘わら

ず,SasolやMossgasが経営難に陥るような状況にはない。特にSasolの場合,すでに民営化されている上に,最近はFT合成油事業だけでなくより収益性の高い石化事業にも力を入れており,南アフリカ国内におけるトップクラスの優良企業としてかなりの収益を挙げている。一方,国際関係の正常化に伴い,現在では政府が

許せば石油輸入も自由に行なえる状況にある。こうした環境の変化から,政府としては将来的

に政府の保護のもとでGTL産業を育成してゆく意図はないものと見られる。従って,

「 Tariff Protection」 や 「 Sasol SupplyAgreement」といったFT合成油産業の保護政策に関しても,近い将来大幅な見直しが行なわ

れる可能性が高い。

6.おわりに

南アフリカは石炭,天然ガスからFT合成によって液体燃料を製造する技術において,最も進んだ国の1つである。その歴史はほぼ半世紀

に及ぶ。昨今Sasolは積極的に海外進出を計画しており,カタールにおいてはカタール国営石

油会社(QP)と共同で新規のプロジェクトを検討中で,2005年に生産開始の予定である。また,同社はシェブロンと共同でナイジェリア等

においても事業化を予定している。今後は,世界各地で多数のGTL事業が立ち

上げると思われるが,FT合成等の要素技術を保有する会社は少なく,当面Sasolは中心的なプレーヤーであり続けるであろう。

■参考考文(1)South African Government Green Paper,

Government’ s Involvement in theLiquid Fuels Industry, 28 June, 1995,

(2)Restructuring of the South African LiquidFuels Industry, The position of Business,

Labour and Government as submitted to

the Liquid Fuels Industry Task Force,

1995

(3)DME, The Petrol Price Structure (4)IEA, Energy Policies of South Africa 1996

Survey

(5)South African Energy Policy DiscussionDocument, July 1995

(6)The White Paper on Energy, Dec. 1998

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