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電中研は Si (シリコン)の性能をはるかに超える 半導体新材料 、SiC(シリコンカーバイド)の単結晶膜の 高品位化技術を開発しました。その技術は共同研究 開発を通じて、企業に引き継がれました。 発電プラント、送電設備、家電や鉄道に至るまで、 電気を扱うところでは必ずといってもよいほど、電 力制御装置としてパワー半導体が使われています。 さらに、自動車、調理機器や給湯機など、エネルギー 源が化石燃料から電気にシフトしつつある分野もあ ります。これらすべてに SiC パワー半導体が使われ れば、省エネルギーと温室効果ガス排出量削減に計 り知れないほどの効果が見込まれます。今後も電中 研は、SiC 単結晶膜の高品位化を追求し、SiCパワー 半導体の普及を目指して研究を継続していきます。 SiC パワー半導体

filetype:pdf - criepi.denken.or.jp · 電中研は1990年に、SiCパワー半導体の研究に着手し ました。当時Si単結晶を用いたパワー半導体の技術は 成熟し

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Page 1: filetype:pdf - criepi.denken.or.jp · 電中研は1990年に、SiCパワー半導体の研究に着手し ました。当時Si単結晶を用いたパワー半導体の技術は 成熟し

 電中研は 1990年に、SiC パワー半導体の研究に着手しました。当時 Si 単結晶を用いたパワー半導体の技術は成熟し、効率化にも限界が見え始めていました。一方、SiC 単結晶は厚みあたりの耐電圧(絶縁破壊電界強度)がSi 単結晶よりも約 10 倍も大きく、優れた材料として注目されていました。そこで、新材料 SiC によって全く新しい電力用の次世代パワー半導体を開発しようと、電中研の挑戦が始まったのです。 SiC パワー半導体の研究を立ち上げたのは、若手の研究者でした。入所以来、技術調査を行い、電力制御に有

電中研は、SiCパワー半導体成膜技術で社会に貢献しています。

 現在、SiC パワー半導体の用途は、小型で特殊なものに限られています。 電中研では、SiC 単結晶膜の膜厚を増加させることや、結晶欠陥を減らすことを通じて、SiC パワー半導体の大容量化に取り組んでいます。これが実現すれば、より大きな電力を扱う電気自動車用、電車用、電力系統用の開発につながり、SiCパワー半導体の用途が広がります。

技術革新で広がる用途

財団法人 電力中央研究所〒100-8126 東京都千代田区大手町 1-6-1(大手町ビル 7階)お問い合わせは広報グループまでTel:03-3201-6601 Fax:03-3287-2863 http://criepi.denken.or.jp/ 2009.10

◆ 新素材の開発に挑戦

 エピタキシャル結晶の土台となる市販の SiC 基板には、垂直に貫通するような結晶欠陥(マイクロパイプ)が存在しています。このような結晶欠陥は素子の性能を損ないます。2代目の炉では試行錯誤の結果、炉内に流すエピタキシャル結晶の原料ガス組成を制御することで基板の欠陥を塞げることを突き止め、ほぼ 100%閉塞することに成功しました。 また、結晶成長中に新たに生成する欠陥を減らすことも重要です。電中研では、大型放射光施設のSPring-8を用いた高精度分析などを利用し、結晶成長時にSiC結晶内の結晶欠陥がどのように伝播・生成するのか突き止め、一部の欠陥に関しては制御方法を得ることに成功し

◆ 結晶欠陥の制御が品質の要

 研究では “良質 ” なエピタキシャル結晶層をできるだけ“速く”成長させることが重要な課題でした。 研究が大きく前進したのは、2代目の炉(写真)です。SiCのエピタキシャル結晶に、窒素などの不純物が含まれると、高い電圧を保つことができません。雰囲気圧力を下げると不純物の混入を防げるのですが、低圧の炉内は熱伝導が悪く基板や原料ガスの温度が上がらないため、結晶成長が阻害されるという問題があります。そこで高温壁からの輻射熱で満遍なく過熱されるよう、炉の形状を大幅に変えました。 この結果、1代目では750torr(トール)の圧力下で、結晶の成長速度は 2μm/hr 程度でしたが、2 代目では40torr(トール)の圧力下で、20μm/hrという、高速かつ高純度の結晶成長に成功しました。 さらに 3代目では、大口径のウェハでも質の高い結晶を高速に成長できるようになりました。世界最速の成膜速度は、この炉を使い達成されました。

◆ 工夫を凝らした結晶成長炉

世界最速のエピタキシャル成膜技術

 電気は扱いやすいエネルギーです。IH調理器やヒートポンプ(HP)など新しく便利な製品や電気自動車の登場で、“社会の電化シフト”が進むと予測され、省エネ技術の切り札として SiCパワー半導体への期待が高まっています。SiCパワー半導体の普及には、従来の Si ウェハに比べて高価なSiCウェハの低コスト化が欠かせません。 エピタキシャル成膜技術の高度化に取り組む電中研は、2007年、独自に開発した結晶成長炉によって、SiCエピタキシャル成膜速度としては最速の 250μm/hr(最大時)を達成しました。この成膜技術を応用すれば、製造コストに直結する製造時間を大幅に削減できます。同時に厚膜化も成し遂げ、膜厚280μm、耐電圧換算で30kVにもなる SiC単結晶膜の製作に成功しました。厚膜であるほど高い電圧のパワー半導体を作ることができ、電力分野での適用が期待されます。 また、高い電圧や大きな電流を安定に制御するためには、通電の妨げとなる結晶欠陥を減らすことが重要です。電中研ではある種の結晶欠陥(点欠陥)についても、世界で初めて密度を検出限界以下に低減することに成功しています。

 2006年、有限責任事業組合エシキャット・ジャパンにより、SiCエピタキシャルウェハの生産・販売が開始されました。供給先は主に半導体およびパワー半導体デバイスを製造するメーカーで、SiCパワー半導体を用いたインバータ開発を試みる国家プロジェクト※にも供給され、次世代の電気業界インフラを担う先端研究を支える技術として貢献しています。 電中研と、(独) 産業技術総合研究所、昭和電工(株)の三者は、実用機レベルで、高品質エピタキシャルウェハの製造を可能とするための共同研究開発を行いました。ここで得られた技術を、エシキャット・ジャパンに移転することで、高品質エピタキシャルウェハの製造と安定的な供給が国内で初めて実現されました。電中研が培った結晶欠陥を制御する技術を応用し、ある種の結晶欠陥の生成をほとんどなくしたことが、開発上の重要なステップとなりました。 2009年にはエシキャット・ジャパンから企業に技術継承され、事業として展開されています。※(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 「パワーエレクトロニクスインバータ基盤技術開発」プロジェクト

必要に応える

産業支援

 国の試算では、SiC パワー半導体を用いた高効率インバーター(電力変換装置)が実用化した場合の省エネ効果は、2030 年には原油換算で 4466万 kl/年※(日本の原油輸入量:2007年 約2.4億 kl)に達し、CO2 換算だと0.4~ 0.7億トン(日本の温室効果ガス排出量:2007年 約13.7 億トン)になると見込まれます。 電中研は SiC パワー半導体の普及によって、将来、“ 電力の安定供給 ”と ”低炭素社会の実現 ”に貢献することを目指しています。今後も電力系統での SiC 低損失電力制御装置の実用化を最終目標に、SiC パワー半導体の材料研究に取り組んでいきます。※出典:資源エネルギー庁「省エネルギー技術戦略 2007」

低炭素社会の実現に貢献未来を守る

国内初、SiC エピタキシャルウェハ供給体制の構築技術移転

こうして創られた 技術開発の道のり

パワー半導体は、直流から交流への変換や周波数変換といった電力の制御や供給に用いられる。現在はシリコン(Si)単結晶を用いた半導体が主流だが、シリコンカーバイド(SiC)単結晶に置き換えると、より薄い厚さで高い耐電圧を得られるため、半導体電力制御装置の電力損失を 1/3~1/5 に少なくできると考えられている。SiC 単結晶の薄膜を基板の上に成長させ(エピタキシャル成長膜)、この膜に素子を作りこむことでパワー半導体が作られる。

 電中研は Si(シリコン)の性能をはるかに超える半導体新材料 、SiC(シリコンカーバイド)の単結晶膜の高品位化技術を開発しました。その技術は共同研究開発を通じて、企業に引き継がれました。 発電プラント、送電設備、家電や鉄道に至るまで、電気を扱うところでは必ずといってもよいほど、電力制御装置としてパワー半導体が使われています。さらに、自動車、調理機器や給湯機など、エネルギー源が化石燃料から電気にシフトしつつある分野もあります。これらすべてにSiCパワー半導体が使われれば、省エネルギーと温室効果ガス排出量削減に計り知れないほどの効果が見込まれます。今後も電中研は、SiC 単結晶膜の高品位化を追求し、SiCパワー半導体の普及を目指して研究を継続していきます。

SiCパワー半導体

夢 を 技 術 にか た ち

ガス導入口(H2 SiH4 C3H8)

SiC 基板サセプター(基板台)

高周波加熱コイル

回転

ホットウォール

成膜技術の革新

2代目結晶成長炉 3代目結晶成長炉

(a) 基板表面付近(エピタキシャル成長前)

(b) 成長膜表面付近(エピタキシャル成長後)

2000(2代目)

1995(1代目)

100

200

300(μm)

100

200

300(μm/hr)

2

4

6(inch)

2007(3代目)

(年)

膜厚

成膜速度

大きさ

効な超高電圧化の将来性と国内で技術を育成する重要性を確かめると、企業研修で半導体製法の基礎を学び、SiC 単結晶膜を製造する結晶成長炉を独自に開発していきました。 手探りの状態で始められた研究でしたが、少しずつ成果をあげる過程で次第に人員も増え、今では研究者、技術支援者、合わせて 10 名程度のチームに成長しました。現在は、結晶成長、結晶欠陥の分析、素子の特性実証という3つの役割を分担し、チーム一丸で研究が進められています。

ました。さらに高電圧SiC素子の通電損失を増大させる結晶欠陥(点欠陥)については、電中研独自の「イオン注入/熱拡散処理法」によって、欠陥の密度を検出限界以下に減らすことに、世界で初めて成功しています。

薄い

電力損失の低減

高効率

Si 半導体

電極

エピタキシャル成長膜

(高抵抗膜)

基板(低抵抗膜)

SiC パワー半導体

電極

エピタキシャル成長膜(高抵抗膜)

基板(低抵抗膜)

技術移転先(エシキャット・ジャパン)で製造されたSiCエピタキシャルウェハ

家電 電気自動車 電車 送配電網

SiC パワー半導体実用見込先とエネルギー消費手段

調理器

エネルギー消費

冷暖房

給湯、湯沸

自動車

鉄道

社会の電化

ガスコンロガス炊飯

ファンヒータストーブ

エンジン

蒸気機関

電磁誘導

コンプレッサ動力

コンプレッサ動力

モータ動力バッテリ充電

モータ動力エネルギー回収

IH

エアコン

HP

PHEV、EV

電車

SiC 素子の適用箇所

分散型電気エネルギー

ガス給湯器バスタブ

A→A’、Bのように、結晶欠陥が結晶成長前後で異なる

化石資源

原子力資源電気エネルギー

電力安定制御発電プラント

移送

創る�伝える�広がる

Page 2: filetype:pdf - criepi.denken.or.jp · 電中研は1990年に、SiCパワー半導体の研究に着手し ました。当時Si単結晶を用いたパワー半導体の技術は 成熟し

 電中研は 1990年に、SiC パワー半導体の研究に着手しました。当時 Si 単結晶を用いたパワー半導体の技術は成熟し、効率化にも限界が見え始めていました。一方、SiC 単結晶は厚みあたりの耐電圧(絶縁破壊電界強度)がSi 単結晶よりも約 10 倍も大きく、優れた材料として注目されていました。そこで、新材料 SiC によって全く新しい電力用の次世代パワー半導体を開発しようと、電中研の挑戦が始まったのです。 SiC パワー半導体の研究を立ち上げたのは、若手の研究者でした。入所以来、技術調査を行い、電力制御に有

電中研は、SiCパワー半導体成膜技術で社会に貢献しています。

 現在、SiC パワー半導体の用途は、小型で特殊なものに限られています。 電中研では、SiC 単結晶膜の膜厚を増加させることや、結晶欠陥を減らすことを通じて、SiC パワー半導体の大容量化に取り組んでいます。これが実現すれば、より大きな電力を扱う電気自動車用、電車用、電力系統用の開発につながり、SiCパワー半導体の用途が広がります。

技術革新で広がる用途

財団法人 電力中央研究所〒100-8126 東京都千代田区大手町 1-6-1(大手町ビル 7階)お問い合わせは広報グループまでTel:03-3201-6601 Fax:03-3287-2863 http://criepi.denken.or.jp/ 2009.10

◆ 新素材の開発に挑戦

 エピタキシャル結晶の土台となる市販の SiC 基板には、垂直に貫通するような結晶欠陥(マイクロパイプ)が存在しています。このような結晶欠陥は素子の性能を損ないます。2代目の炉では試行錯誤の結果、炉内に流すエピタキシャル結晶の原料ガス組成を制御することで基板の欠陥を塞げることを突き止め、ほぼ 100%閉塞することに成功しました。 また、結晶成長中に新たに生成する欠陥を減らすことも重要です。電中研では、大型放射光施設のSPring-8を用いた高精度分析などを利用し、結晶成長時にSiC結晶内の結晶欠陥がどのように伝播・生成するのか突き止め、一部の欠陥に関しては制御方法を得ることに成功し

◆ 結晶欠陥の制御が品質の要

 研究では “良質 ” なエピタキシャル結晶層をできるだけ“速く”成長させることが重要な課題でした。 研究が大きく前進したのは、2代目の炉(写真)です。SiCのエピタキシャル結晶に、窒素などの不純物が含まれると、高い電圧を保つことができません。雰囲気圧力を下げると不純物の混入を防げるのですが、低圧の炉内は熱伝導が悪く基板や原料ガスの温度が上がらないため、結晶成長が阻害されるという問題があります。そこで高温壁からの輻射熱で満遍なく過熱されるよう、炉の形状を大幅に変えました。 この結果、1代目では750torr(トール)の圧力下で、結晶の成長速度は 2μm/hr 程度でしたが、2 代目では40torr(トール)の圧力下で、20μm/hrという、高速かつ高純度の結晶成長に成功しました。 さらに 3代目では、大口径のウェハでも質の高い結晶を高速に成長できるようになりました。世界最速の成膜速度は、この炉を使い達成されました。

◆ 工夫を凝らした結晶成長炉

世界最速のエピタキシャル成膜技術

 電気は扱いやすいエネルギーです。IH調理器やヒートポンプ(HP)など新しく便利な製品や電気自動車の登場で、“社会の電化シフト”が進むと予測され、省エネ技術の切り札として SiCパワー半導体への期待が高まっています。SiCパワー半導体の普及には、従来の Si ウェハに比べて高価なSiCウェハの低コスト化が欠かせません。 エピタキシャル成膜技術の高度化に取り組む電中研は、2007年、独自に開発した結晶成長炉によって、SiCエピタキシャル成膜速度としては最速の 250μm/hr(最大時)を達成しました。この成膜技術を応用すれば、製造コストに直結する製造時間を大幅に削減できます。同時に厚膜化も成し遂げ、膜厚280μm、耐電圧換算で30kVにもなる SiC単結晶膜の製作に成功しました。厚膜であるほど高い電圧のパワー半導体を作ることができ、電力分野での適用が期待されます。 また、高い電圧や大きな電流を安定に制御するためには、通電の妨げとなる結晶欠陥を減らすことが重要です。電中研ではある種の結晶欠陥(点欠陥)についても、世界で初めて密度を検出限界以下に低減することに成功しています。

 2006年、有限責任事業組合エシキャット・ジャパンにより、SiCエピタキシャルウェハの生産・販売が開始されました。供給先は主に半導体およびパワー半導体デバイスを製造するメーカーで、SiCパワー半導体を用いたインバータ開発を試みる国家プロジェクト※にも供給され、次世代の電気業界インフラを担う先端研究を支える技術として貢献しています。 電中研と、(独) 産業技術総合研究所、昭和電工(株)の三者は、実用機レベルで、高品質エピタキシャルウェハの製造を可能とするための共同研究開発を行いました。ここで得られた技術を、エシキャット・ジャパンに移転することで、高品質エピタキシャルウェハの製造と安定的な供給が国内で初めて実現されました。電中研が培った結晶欠陥を制御する技術を応用し、ある種の結晶欠陥の生成をほとんどなくしたことが、開発上の重要なステップとなりました。 2009年にはエシキャット・ジャパンから企業に技術継承され、事業として展開されています。※(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 「パワーエレクトロニクスインバータ基盤技術開発」プロジェクト

必要に応える

産業支援

 国の試算では、SiC パワー半導体を用いた高効率インバーター(電力変換装置)が実用化した場合の省エネ効果は、2030 年には原油換算で 4466万 kl/年※(日本の原油輸入量:2007年 約2.4億 kl)に達し、CO2 換算だと0.4~ 0.7億トン(日本の温室効果ガス排出量:2007年 約13.7 億トン)になると見込まれます。 電中研は SiC パワー半導体の普及によって、将来、“ 電力の安定供給 ”と ”低炭素社会の実現 ”に貢献することを目指しています。今後も電力系統での SiC 低損失電力制御装置の実用化を最終目標に、SiC パワー半導体の材料研究に取り組んでいきます。※出典:資源エネルギー庁「省エネルギー技術戦略 2007」

低炭素社会の実現に貢献未来を守る

国内初、SiC エピタキシャルウェハ供給体制の構築技術移転

こうして創られた 技術開発の道のり

パワー半導体は、直流から交流への変換や周波数変換といった電力の制御や供給に用いられる。現在はシリコン(Si)単結晶を用いた半導体が主流だが、シリコンカーバイド(SiC)単結晶に置き換えると、より薄い厚さで高い耐電圧を得られるため、半導体電力制御装置の電力損失を 1/3~1/5 に少なくできると考えられている。SiC 単結晶の薄膜を基板の上に成長させ(エピタキシャル成長膜)、この膜に素子を作りこむことでパワー半導体が作られる。

 電中研は Si(シリコン)の性能をはるかに超える半導体新材料 、SiC(シリコンカーバイド)の単結晶膜の高品位化技術を開発しました。その技術は共同研究開発を通じて、企業に引き継がれました。 発電プラント、送電設備、家電や鉄道に至るまで、電気を扱うところでは必ずといってもよいほど、電力制御装置としてパワー半導体が使われています。さらに、自動車、調理機器や給湯機など、エネルギー源が化石燃料から電気にシフトしつつある分野もあります。これらすべてにSiCパワー半導体が使われれば、省エネルギーと温室効果ガス排出量削減に計り知れないほどの効果が見込まれます。今後も電中研は、SiC 単結晶膜の高品位化を追求し、SiCパワー半導体の普及を目指して研究を継続していきます。

SiCパワー半導体

夢 を 技 術 にか た ち

ガス導入口(H2 SiH4 C3H8)

SiC 基板サセプター(基板台)

高周波加熱コイル

回転

ホットウォール

成膜技術の革新

2代目結晶成長炉 3代目結晶成長炉

(a) 基板表面付近(エピタキシャル成長前)

(b) 成長膜表面付近(エピタキシャル成長後)

2000(2代目)

1995(1代目)

100

200

300(μm)

100

200

300(μm/hr)

2

4

6(inch)

2007(3代目)

(年)

膜厚

成膜速度

大きさ

効な超高電圧化の将来性と国内で技術を育成する重要性を確かめると、企業研修で半導体製法の基礎を学び、SiC 単結晶膜を製造する結晶成長炉を独自に開発していきました。 手探りの状態で始められた研究でしたが、少しずつ成果をあげる過程で次第に人員も増え、今では研究者、技術支援者、合わせて 10 名程度のチームに成長しました。現在は、結晶成長、結晶欠陥の分析、素子の特性実証という3つの役割を分担し、チーム一丸で研究が進められています。

ました。さらに高電圧SiC素子の通電損失を増大させる結晶欠陥(点欠陥)については、電中研独自の「イオン注入/熱拡散処理法」によって、欠陥の密度を検出限界以下に減らすことに、世界で初めて成功しています。

薄い

電力損失の低減

高効率

Si 半導体

電極

エピタキシャル成長膜

(高抵抗膜)

基板(低抵抗膜)

SiC パワー半導体

電極

エピタキシャル成長膜(高抵抗膜)

基板(低抵抗膜)

技術移転先(エシキャット・ジャパン)で製造されたSiCエピタキシャルウェハ

家電 電気自動車 電車 送配電網

SiC パワー半導体実用見込先とエネルギー消費手段

調理器

エネルギー消費

冷暖房

給湯、湯沸

自動車

鉄道

社会の電化

ガスコンロガス炊飯

ファンヒータストーブ

エンジン

蒸気機関

電磁誘導

コンプレッサ動力

コンプレッサ動力

モータ動力バッテリ充電

モータ動力エネルギー回収

IH

エアコン

HP

PHEV、EV

電車

SiC 素子の適用箇所

分散型電気エネルギー

ガス給湯器バスタブ

A→A’、Bのように、結晶欠陥が結晶成長前後で異なる

化石資源

原子力資源電気エネルギー

電力安定制御発電プラント

移送

創る�伝える�広がる

Page 3: filetype:pdf - criepi.denken.or.jp · 電中研は1990年に、SiCパワー半導体の研究に着手し ました。当時Si単結晶を用いたパワー半導体の技術は 成熟し

 電中研は 1990年に、SiC パワー半導体の研究に着手しました。当時 Si 単結晶を用いたパワー半導体の技術は成熟し、効率化にも限界が見え始めていました。一方、SiC 単結晶は厚みあたりの耐電圧(絶縁破壊電界強度)がSi 単結晶よりも約 10 倍も大きく、優れた材料として注目されていました。そこで、新材料 SiC によって全く新しい電力用の次世代パワー半導体を開発しようと、電中研の挑戦が始まったのです。 SiC パワー半導体の研究を立ち上げたのは、若手の研究者でした。入所以来、技術調査を行い、電力制御に有

電中研は、SiCパワー半導体成膜技術で社会に貢献しています。

 現在、SiC パワー半導体の用途は、小型で特殊なものに限られています。 電中研では、SiC 単結晶膜の膜厚を増加させることや、結晶欠陥を減らすことを通じて、SiC パワー半導体の大容量化に取り組んでいます。これが実現すれば、より大きな電力を扱う電気自動車用、電車用、電力系統用の開発につながり、SiCパワー半導体の用途が広がります。

技術革新で広がる用途

財団法人 電力中央研究所〒100-8126 東京都千代田区大手町 1-6-1(大手町ビル 7階)お問い合わせは広報グループまでTel:03-3201-6601 Fax:03-3287-2863 http://criepi.denken.or.jp/ 2009.10

◆ 新素材の開発に挑戦

 エピタキシャル結晶の土台となる市販の SiC 基板には、垂直に貫通するような結晶欠陥(マイクロパイプ)が存在しています。このような結晶欠陥は素子の性能を損ないます。2代目の炉では試行錯誤の結果、炉内に流すエピタキシャル結晶の原料ガス組成を制御することで基板の欠陥を塞げることを突き止め、ほぼ 100%閉塞することに成功しました。 また、結晶成長中に新たに生成する欠陥を減らすことも重要です。電中研では、大型放射光施設のSPring-8を用いた高精度分析などを利用し、結晶成長時にSiC結晶内の結晶欠陥がどのように伝播・生成するのか突き止め、一部の欠陥に関しては制御方法を得ることに成功し

◆ 結晶欠陥の制御が品質の要

 研究では “良質 ” なエピタキシャル結晶層をできるだけ“速く”成長させることが重要な課題でした。 研究が大きく前進したのは、2代目の炉(写真)です。SiCのエピタキシャル結晶に、窒素などの不純物が含まれると、高い電圧を保つことができません。雰囲気圧力を下げると不純物の混入を防げるのですが、低圧の炉内は熱伝導が悪く基板や原料ガスの温度が上がらないため、結晶成長が阻害されるという問題があります。そこで高温壁からの輻射熱で満遍なく過熱されるよう、炉の形状を大幅に変えました。 この結果、1代目では750torr(トール)の圧力下で、結晶の成長速度は 2μm/hr 程度でしたが、2 代目では40torr(トール)の圧力下で、20μm/hrという、高速かつ高純度の結晶成長に成功しました。 さらに 3代目では、大口径のウェハでも質の高い結晶を高速に成長できるようになりました。世界最速の成膜速度は、この炉を使い達成されました。

◆ 工夫を凝らした結晶成長炉

世界最速のエピタキシャル成膜技術

 電気は扱いやすいエネルギーです。IH調理器やヒートポンプ(HP)など新しく便利な製品や電気自動車の登場で、“社会の電化シフト”が進むと予測され、省エネ技術の切り札として SiCパワー半導体への期待が高まっています。SiCパワー半導体の普及には、従来の Si ウェハに比べて高価なSiCウェハの低コスト化が欠かせません。 エピタキシャル成膜技術の高度化に取り組む電中研は、2007年、独自に開発した結晶成長炉によって、SiCエピタキシャル成膜速度としては最速の 250μm/hr(最大時)を達成しました。この成膜技術を応用すれば、製造コストに直結する製造時間を大幅に削減できます。同時に厚膜化も成し遂げ、膜厚280μm、耐電圧換算で30kVにもなる SiC単結晶膜の製作に成功しました。厚膜であるほど高い電圧のパワー半導体を作ることができ、電力分野での適用が期待されます。 また、高い電圧や大きな電流を安定に制御するためには、通電の妨げとなる結晶欠陥を減らすことが重要です。電中研ではある種の結晶欠陥(点欠陥)についても、世界で初めて密度を検出限界以下に低減することに成功しています。

 2006年、有限責任事業組合エシキャット・ジャパンにより、SiCエピタキシャルウェハの生産・販売が開始されました。供給先は主に半導体およびパワー半導体デバイスを製造するメーカーで、SiCパワー半導体を用いたインバータ開発を試みる国家プロジェクト※にも供給され、次世代の電気業界インフラを担う先端研究を支える技術として貢献しています。 電中研と、(独) 産業技術総合研究所、昭和電工(株)の三者は、実用機レベルで、高品質エピタキシャルウェハの製造を可能とするための共同研究開発を行いました。ここで得られた技術を、エシキャット・ジャパンに移転することで、高品質エピタキシャルウェハの製造と安定的な供給が国内で初めて実現されました。電中研が培った結晶欠陥を制御する技術を応用し、ある種の結晶欠陥の生成をほとんどなくしたことが、開発上の重要なステップとなりました。 2009年にはエシキャット・ジャパンから企業に技術継承され、事業として展開されています。※(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 「パワーエレクトロニクスインバータ基盤技術開発」プロジェクト

必要に応える

産業支援

 国の試算では、SiC パワー半導体を用いた高効率インバーター(電力変換装置)が実用化した場合の省エネ効果は、2030 年には原油換算で 4466万 kl/年※(日本の原油輸入量:2007年 約2.4億 kl)に達し、CO2 換算だと0.4~ 0.7億トン(日本の温室効果ガス排出量:2007年 約13.7 億トン)になると見込まれます。 電中研は SiC パワー半導体の普及によって、将来、“ 電力の安定供給 ”と ”低炭素社会の実現 ”に貢献することを目指しています。今後も電力系統での SiC 低損失電力制御装置の実用化を最終目標に、SiC パワー半導体の材料研究に取り組んでいきます。※出典:資源エネルギー庁「省エネルギー技術戦略 2007」

低炭素社会の実現に貢献未来を守る

国内初、SiC エピタキシャルウェハ供給体制の構築技術移転

こうして創られた 技術開発の道のり

パワー半導体は、直流から交流への変換や周波数変換といった電力の制御や供給に用いられる。現在はシリコン(Si)単結晶を用いた半導体が主流だが、シリコンカーバイド(SiC)単結晶に置き換えると、より薄い厚さで高い耐電圧を得られるため、半導体電力制御装置の電力損失を 1/3~1/5 に少なくできると考えられている。SiC 単結晶の薄膜を基板の上に成長させ(エピタキシャル成長膜)、この膜に素子を作りこむことでパワー半導体が作られる。

 電中研は Si(シリコン)の性能をはるかに超える半導体新材料 、SiC(シリコンカーバイド)の単結晶膜の高品位化技術を開発しました。その技術は共同研究開発を通じて、企業に引き継がれました。 発電プラント、送電設備、家電や鉄道に至るまで、電気を扱うところでは必ずといってもよいほど、電力制御装置としてパワー半導体が使われています。さらに、自動車、調理機器や給湯機など、エネルギー源が化石燃料から電気にシフトしつつある分野もあります。これらすべてにSiCパワー半導体が使われれば、省エネルギーと温室効果ガス排出量削減に計り知れないほどの効果が見込まれます。今後も電中研は、SiC 単結晶膜の高品位化を追求し、SiCパワー半導体の普及を目指して研究を継続していきます。

SiCパワー半導体

夢 を 技 術 にか た ち

ガス導入口(H2 SiH4 C3H8)

SiC 基板サセプター(基板台)

高周波加熱コイル

回転

ホットウォール

成膜技術の革新

2代目結晶成長炉 3代目結晶成長炉

(a) 基板表面付近(エピタキシャル成長前)

(b) 成長膜表面付近(エピタキシャル成長後)

2000(2代目)

1995(1代目)

100

200

300(μm)

100

200

300(μm/hr)

2

4

6(inch)

2007(3代目)

(年)

膜厚

成膜速度

大きさ

効な超高電圧化の将来性と国内で技術を育成する重要性を確かめると、企業研修で半導体製法の基礎を学び、SiC 単結晶膜を製造する結晶成長炉を独自に開発していきました。 手探りの状態で始められた研究でしたが、少しずつ成果をあげる過程で次第に人員も増え、今では研究者、技術支援者、合わせて 10 名程度のチームに成長しました。現在は、結晶成長、結晶欠陥の分析、素子の特性実証という3つの役割を分担し、チーム一丸で研究が進められています。

ました。さらに高電圧SiC素子の通電損失を増大させる結晶欠陥(点欠陥)については、電中研独自の「イオン注入/熱拡散処理法」によって、欠陥の密度を検出限界以下に減らすことに、世界で初めて成功しています。

薄い

電力損失の低減

高効率

Si 半導体

電極

エピタキシャル成長膜

(高抵抗膜)

基板(低抵抗膜)

SiC パワー半導体

電極

エピタキシャル成長膜(高抵抗膜)

基板(低抵抗膜)

技術移転先(エシキャット・ジャパン)で製造されたSiCエピタキシャルウェハ

家電 電気自動車 電車 送配電網

SiC パワー半導体実用見込先とエネルギー消費手段

調理器

エネルギー消費

冷暖房

給湯、湯沸

自動車

鉄道

社会の電化

ガスコンロガス炊飯

ファンヒータストーブ

エンジン

蒸気機関

電磁誘導

コンプレッサ動力

コンプレッサ動力

モータ動力バッテリ充電

モータ動力エネルギー回収

IH

エアコン

HP

PHEV、EV

電車

SiC 素子の適用箇所

分散型電気エネルギー

ガス給湯器バスタブ

A→A’、Bのように、結晶欠陥が結晶成長前後で異なる

化石資源

原子力資源電気エネルギー

電力安定制御発電プラント

移送

創る�伝える�広がる