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2016年冬号 2016年、銀行業界を占う ~加速するデジタル化の波 : いかにフィンテックと向き合うか 2016年、証券業界を占う  ~原点回帰、そして差別化準備へ  2016年、保険業界を占う ~従来の保険のその先へ Financial Services Architect Vol.40

Financial Services Architect Vol/media/accenture/jp-ja/...2015年における日本でのフィンテック 投資は堅調に推移、アジア・パシフィッ ク地域における投資額は前年比4倍以上

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2016年冬号2016年、銀行業界を占う~加速するデジタル化の波 : いかにフィンテックと向き合うか

2016年、証券業界を占う ~原点回帰、そして差別化準備へ 

2016年、保険業界を占う~従来の保険のその先へ

Financial Services Architect Vol.40

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目次

Financial Services Architect

1. 2016年、銀行業界を占う ~加速するデジタル化の波 : いかにフィンテックと向き合うか  マネジング・ディレクター  宮良 浩二

2. 2016年、証券業界を占う  ~原点回帰、そして差別化準備へ  マネジング・ディレクター  坂本 幸一

3. 2016年、保険業界を占う ~従来の保険のその先へ    マネジング・ディレクター  林 岳郎

4. 最近話題のプロジェクト

5. アライアンスおよびパッケージ・システム

6. 弊社外部講演およびレポートのご紹介

7. 会社概要

加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

Financial Services Architect (FSアーキテクト) は、 金融業界のトレンド、最新のIT情報、 弊社サービスおよび貴重なユーザ事例を紹介する、 日本オフィス発のビジネス季刊誌です。

Financial Services Architect

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

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敬具

拝啓 新春の候、貴社におかれましては益々ご清栄のことと、お慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。本誌「FS Architect」は、おかげさまで発刊10周年を迎え、記念すべき年となりました。これも皆様のご支援とご愛顧の賜物と深く感謝しております。

2016年はDigital innovationにより成長戦略を描かれている金融機関も多いと認識しております。小売業など異業種でも同様の動きが早いスピードで進展しています。本邦金融機関でもFinTechが話題になり、幾つかの取組みが開始されています。弊社では全世界で2万5千人を超える社員がDigitalに特化した組織に所属し、日々Innovationの企画と実現に全力を尽くしております。この2万5千人をもってしても、日々のテクノロジーの進展、Digitalビジネス・サービスの進展を把握する事に苦心しています。つまり、クライアント企業様1社1社で、Digitalの進展について行くことは非常に難易度が高いといえます。クライアント企業様からの弊社への期待も、何か決められたITを作る事ではなくなりつつあります。予測が難しいDigitalの時代に対応するため、Digital人材の提供をコミットする事を期待されています。また、共にリスクをとり成長を実現する事も期待され、それに対応した契約スキームもご提案できるようになっています。

Digitalの進展と共に、我々自身も日々トランスフォーメーションを繰り返し、皆様のビジネス成長に大きく貢献したいと考えております。

本号では、「2016年の動向を占う」と題して業界ごとの専門家がその方向性を掲載しております。いずれもDigital、グローバル進展、異業種連携を視野に入れております。ご一読いただき、貴社取組みの一助となれば幸いです。

今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

2016年1月吉日

アクセンチュア株式会社金融サービス本部統括本部長 中野 将志

加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

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2016年、銀行業界を占う  ~加速するデジタル化の波 : いかにフィンテックと向き合うか

「再編」「グローバル化」「デジタル化」―――。ちょうど1年前の本誌で銀行業界の3つのキーワードを提示した。

「再編」「グローバル化」も引き続き活発だ。しかし、この1年を振り返ると「デジタル化」の波が最も加速しているというのが実感だ。

フィンテックという言葉が様々な媒体で取り上げられ、金融機関の関心が高まっている。ただし、これを単なるスタートアップ企業による銀行サービスのディスラプションの萌芽と捉えると危険だ。

フィンテックの本質は、デジタル・テクノロジーを活用したイノベーションの創出にある。その利益を享受するには、テクノロジーのみならず、企業文化・企業体質の変革も含めた構造改革が欠かせない。宮良 浩二

1995年 アクセンチュア㈱入社金融サービス本部マネジング・ディレクター銀行グループ統括

加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

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加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

図表1 イノベーションの創出-求められる包括的な取組み

© 2016 Accenture All rights reserved.

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

アジェンダ

ソリューション

投資・案件管理

組織・人材

イノベーション・シード

商品・サービス 開発

イノベーション

・イノベーションを通じて実現する姿- ビジョン- 顧客提供価値- ビジネスモデル/エコシステム

・必要となるイノベーションシード収集先との連携- Academic- Start up- VC

・イノベーション展開の確度とスピードを上げる為に必要なソリューション、テクノロジー- Connected- Analytics- Customized- Flexibility /

Speed to Market

・イノベーションの効果創出を担保する投資・案件管理- シードポートフォリオ- 案件ポートフォリオ

・競争的なプログラム推進- アジャイル型アプローチ- サービス単位リリース- ビジネス・テクノロジー・ クリエイティブ三位一体- 実市場でのトライ&エラー- 顧客体験(エクスペリエンス)実現 ・イノベーション創出に適した

人材の採用・育成

戦略ポジショニング

テクノロジー

プロセス

企業文化

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

Page 6: Financial Services Architect Vol/media/accenture/jp-ja/...2015年における日本でのフィンテック 投資は堅調に推移、アジア・パシフィッ ク地域における投資額は前年比4倍以上

5

加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

図表2 ポジショニング

© 2016 Accenture All rights reserved.

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

エコシステム内のサービス 大企業 小売業者/中小企業/企業

暮らしのニ

ーズに対するソリューシ

ョンの調整

自動車(購入・修理)

衣料/靴

家電食品電子機器燃料

ペット不動産(購入・賃貸)

電気/ガス

ハウスクリーニング/ホームケア

家屋の修理

家具

ホームセキュリティ

医療サービス

個人・家族保険

自動車保険

電話/インターネット

新聞/雑誌/書籍

航空便

イベント

ホテル

レジャー活動レストラン/バー

交通機関/駐車場

購入提案 比較機能

チケット発券

各種支払い形態

クーポン/引換券/ポイント

Dマーケットプレイス

対象を絞った広告

トレーニング/教育

スポーツ活動

消費財

住居

交通機関

情報

&教育

通信旅行&レジャー

健康

&予防

アドバイザー

としての銀行

価値のま

とめ役としての銀行

アクセス支援者とし

ての銀行

金融

サービスニーズの

充足

ポジショニング エブリディ・バンク

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

既存銀行

A. 金融サービス アグリゲーター B. エブリディバンク

金融ニーズ・シーンに根ざしたサービス

生活シーンに根ざしたサービス・エコシステム

C. プラットフォームサービスプロバイダP2Pファンディング プラットフォーマーなど

ポイント・仮想通貨 プラットフォーマーなど

非金融+金融ビジネス金融

提供価値の幅

顧客サービス志向

ポジショニングの方向性

ユーティリティ志向

1

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加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

*1. Fintech Investment in Asia-Pacific set to at least quadruple in 2015

*2 Accenture Research 2014

*3.Business Insider Nov 19 2013

*4. Forbs Jan 16 2015

*5. Bridging the Technology Gap in Financial Services Boardrooms

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

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加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

2016年、証券業界を占う~原点回帰、そして差別化準備へ

証券業界ではリーマンショック後の収益回復基調が一段落。むしろ、米国の9年半ぶりの利上げによるゼロ金利政策解除、中国経済の減速などを背景に景気不透明感が漂い、停滞気味である。この状況を打開するためにも、改めて原点に立ち帰り、自社の組織構造や経営態勢の最適化、ビジネスプランを中長期的に見直していく必要がある。また、目覚ましく発展する情報技術の金融業界への応用が FinTechという言葉で表され一つの潮流となっているが、この流れと共に本格的なデジタル・イノベーションという波が押し寄せてきている。

リテールビジネス領域では、本年はデジタルの波がビジネスを直撃する年になると考えている。若年顧客層の拡大や、ビジネスプロセスの改革など差別化に本格着手する重要な年になるであろう。

一方、ホールセールビジネス領域では、トップラインの拡大が進まない中、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、収益を圧迫している。本年は根本的な構造改革に取り掛かり、グローバル拠点別基幹システムの統合や効率的な規制対応への取組みを進めるべきである。

坂本 幸一

1999年 アクセンチュア㈱入社金融サービス本部マネジング・ディレクター証券グループ統括

1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

Page 9: Financial Services Architect Vol/media/accenture/jp-ja/...2015年における日本でのフィンテック 投資は堅調に推移、アジア・パシフィッ ク地域における投資額は前年比4倍以上

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加速するフィンテック投資

2015年における日本でのフィンテック投資は堅調に推移、アジア・パシフィック地域における投資額は前年比4倍以上に急増の見通し‐‐‐。

当社の最新調査*1によると、アジア・太平洋地域のフィンテック投資は、2015年1月からの9か月間で約35億ドルに達し、2014年の約8.8億ドルから急伸している。日本も同期間において既に約4,400万ドルに達しており、2014年度の5,500万ドルに迫る勢いで堅調に推移している。

なぜ今フィンテックなのか

加速するフィンテックブームには4つの背景がある。

(1)デジタル技術の進展:旧来、銀行業はIT装置産業がゆえに参入コストが高いと考えられてきた。しかし、モビリティー・クラウド・アナリティクス等のデジタル技術の進展が、既存銀行機能の代替を容易にした。ここに着目したスタートアップ企業が市場へ積極参入し存在感を高めている。

(2)顧客のデジタル・ネイティブ化:デジタル経済における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体験と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。

デジタル技術に慣れ親しんだ世代に本格的に金融資産が移転していく

時代が目の前に迫っていることも相まって、伝統的な銀行も使い勝手がよく利便性の高いデジタルソリューションを提供しなければ顧客ニーズに応えられないという危機感が高まっている。

(3)銀行の危機意識:昨年来の好決算も①アジアを中心とした新興国の経済成長、②運用環境の好転、③経済環境の好転に伴う信用コストの低下に起因しており、特に国内ビジネスの構造改革への危機意識は高い。投資余力のあるこのタイミングでデジタル化投資を加速しようとする銀行が増えている。また伝統的銀行は、フィンテック投資の大型化をフィンテック企業が既存銀行サービスを浸食していく警笛と捉え始めている。

1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

(4)規制緩和の後押し:規制当局もフィンテックの流れを後押ししている。昨今の金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」でも、銀行持ち株会社が傘下の子会社を利用して業務範囲を拡大できる方向で議論が進んでいる模様だ。

フィンテックは伝統的な銀行にとっては諸刃の剣

フィンテックのインパクトには3つのレベルがある。

レベル1.エンハンス(高度化):新たな認証技術、API等を活用することで従来の金融商品やサービスを高度化していく段階。

レベル2.アンバンドリング(解体):銀行サービスの一部を利便性の高いサービスで代替する段階。モバイルペイメントやクラウドファンディングが例。

レベル3.リバンドリング(再構築):業界の垣根を再定義する段階。例えば、EC事業者・小売業者・SNS事業者等が金融サービスも含めた独自経済圏を構築し業際を再定義する等。

米国市場を対象にした当社の調査*2によると、アンバンドルが進むと伝統的な銀行の収益の30%超が失われるとの試算がある。

また、日本でも楽天・イオン・LINE等が金融と非金融の垣根を超えた総合的なサービスを提供している。このようなリバンドルの取組みが加速すれば、伝統的な銀行業の収益源がさらに失われる可能性があろう。

フィンテックをイノベーションの契機に

伝統的な銀行はフィンテックを銀行ビジネスのイノベーションの契機と捉えるべきだ。イノベーションの創出には包括的な取組みが欠かせない(図表1)。

まず、とるべきポジショニングを明確にした上でテクノロジーを活かすという発想が重要だ。例を示そう(図表2)。

A. 金融サービスアグリゲーター:顧客志向で最適な金融サービスを提供する。BBVA Compass社による米フィンテックベンチャー・SIMPLE社の買収が一例だ。同行は米市場シェア獲得の戦略の一貫として顧客志向型のデジタル・バンク確立を企図した。その実現手段としてSIMPLE社(難解で分かりにくい銀行サービスを顧客の立場にたってわかりやすく、まさにシンプルに再構築した米ベンチャー企業)を獲得している。

B. エブリディバンク:金融のみならず非金融サービスも含めエコシステムの中心となる。銀行が金融以外のサービスも提供するポジショニングをとることは、他業態から見ると脅威になりうる。モノ・コトの消費活動には必ずお金のやりくり・やりとりが生じるからだ。銀行には顧客の消費活動全般を把握するポテンシャルがある。

銀行は日常の少額・高頻度消費について利便性の高い決済手段を提供する。日常の家計の収支管理・ファイナンシャルプランニングをPFMとして提供する。顧客のライフプラン実現に向けた低頻度・中高額消費(教育・住宅購入・旅行等)には幅広い法人顧客基盤を活かし他業態の魅力的な商品とファイナンスをバンドルする。例えば、住まい。単に住宅ローンのみを提供するのではなく、快適な住環境を手に入れるための商品や情報を包括的に提供する。

C. プラットフォームサービスプロバイダ:ブロックチェーン技術は、資金決済・証券取引等の伝統的な金融決済機能を消滅させ得る。伝統的な銀行も厚みのある業務知見・ IT構築力を梃に新たなP2Pプラットフォームを構築し他社に提供して

いくのがこのポジショニングにあたる。ビックデータを活用したマーケティングプラットフォームの提供等もひとつのアイディアだ。

企業体質を変えられるかが鍵

Google Glassの初版プロトタイプ作成にかかった期間は90分‐‐‐。*3

スタートアップ企業の90%は失敗してしまう‐‐‐。*4

イノベーション創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。誤解を恐れずに言えば、伝統的な銀行文化とは相いれない部分があろう。実は伝統的な銀行にとってはこのような企業体質の変革こそが重要だ。フィンテックの活

用・イノベーションの創出には、従来と一線を画したトライ&エラーを許容する商品・サービス開発プロセスや投資案件管理プロセスを導入しなければならない。

外部知見を活用したオープンイノベーション

企業体質の変革に加えて重要なのは、イノベーション人材の確保だ。当社の最新調査によると*5、世界の大手銀行において、テクノロジー分野の知見をもつ経営層の不足も浮き彫りになっている。邦銀も例外ではない。

・邦銀でテクノロジー分野に造詣の深い役員比率は7.5%、世界平均は上回るも米国16%との差が明確に‐‐‐。

図表1 日本と米国証券会社の収益推移(手数料収入)比較

© 2016 Accenture All rights reserved.

・テクノロジー分野の知見をもつ役員数では、50%の邦銀が2名以上を擁するも、約40%は不在‐‐‐。

変化が速いフィンテックに取組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンス等の形態を駆使して、ベンチャー企業・大学・外部コンサルタント・フィンテックサービスプロバイダとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

おわりに

フィンテック分野での投資という観点では、残念ながら日本が欧米や一部のアジアの国々に後れをとっているのが実態だ。

昨今の邦銀におけるデジタル化の波が日本発の新しい金融イノベーション創出につながること、当社がそのご支援をさせていただけることを願っている。

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

110%

2007

米国日本

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

2007年との比較割合

出典:日本証券業協会Fact Book、米国SIFMA Fact Bookをもとに作成   日本は当該年4月より翌年3月末までの受入手数料の値をベースに算出   英国は当該年の1月より年末までのFeesの値をベースに計算

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

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1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

1. 成長シナリオ①スイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオ②We Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ③新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

図表2 米国におけるRobo-Advisorの預かり資産推移予測

© 2016 Accenture All rights reserved.

出典:アクセンチュア調査(公知情報等)

0

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50

100

150

200

250

300

2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

(億ドル) 2020年予測

0.04% 0.05%

255

14 20

0.28%

2015年時点でのRobo-Advisorの利用による預かり資産額は20億ドルであり、2020年には255億ドルまで増加すると推定される

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

<凡例>

Robo-Advisor預かり資産予測額

マネージド・アカウント預かり資産総額に対するRobo-Advisor預かり資産の比率

Page 11: Financial Services Architect Vol/media/accenture/jp-ja/...2015年における日本でのフィンテック 投資は堅調に推移、アジア・パシフィッ ク地域における投資額は前年比4倍以上

10

1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

1. 成長シナリオ①スイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオ②We Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

*1. Fintech Investment in Asia-Pacific set to at least quadruple in 2015

*2 Accenture Research 2014

*3.Business Insider Nov 19 2013

*4. Forbs Jan 16 2015

*5. Bridging the Technology Gap in Financial Services Boardrooms

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ③新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

図表3 グローバルで統合化した規制対応へのイメージ

© 2016 Accenture All rights reserved.

規制

シナジー の柱

シナジー 領域

解決 透明性 優れた運用 風評管理

出典:Accenture Research

バーゼル委員会トレーディング勘定の見直し

リーカネン報告ボルガー

ルール

ドット・フランク法

欧州市場インフラ規制(EMIR) 香港金融

管理局(HKMA)

欧州市場インフラ規制(EMIR)

ドット・フランク法

欧州T2S

改定市場濫用指令(MADⅡ)

MiFIDⅡ

USGAAP

IFRS

IPV

MiFIDⅡ

適正な資本 クリアリング 流動性基準

リングフェンス(隔離)

取引前後の透明性 レコードキーピング レポーティング 最良執行

市場の電子化 迅速な取引後処理 コントロール強化

市場濫用・操作防止 インサイダー情報 投資家保護

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

Page 12: Financial Services Architect Vol/media/accenture/jp-ja/...2015年における日本でのフィンテック 投資は堅調に推移、アジア・パシフィッ ク地域における投資額は前年比4倍以上

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1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

2016年、保険業界を占う~従来の保険のその先へ

2015年は堅調な業績・良好な運用成績の後押しもあり、国内市場の縮小に対する一つの「打ち手」として大手保険会社の海外大型買収が紙面を賑わせた。これにより、今後は大手損害保険会社のみでなく、生命保険会社もG-SIIsに適用される会社が増加し、国際的な日本の保険会社の役割や負担も大きくなっていくものと考える。

国内大手の保険会社は既に、見るべき相手を国内ではなく海外のグローバルプレイヤーに向けており、今後も保険会社の海外進出は益々拡大していくと考える。しかし、グローバル化の成長シナリオだけでは、日本の保険会社は世界的な役割を担う事はできない。リスク取扱いのプロとして、破壊的な技術革新で生まれる新しい市場(リスク)に対して保険会社のノウハウを活用すれば、未来は明るい。

従来の保険のその先へ、 弊社が考える3つの成長シナリオに沿って述べていきたい。

林 岳郎

2000年 アクセンチュア㈱入社金融サービス本部マネジング・ディレクター保険グループ統括

1. 成長シナリオスイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオWe Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

Page 13: Financial Services Architect Vol/media/accenture/jp-ja/...2015年における日本でのフィンテック 投資は堅調に推移、アジア・パシフィッ ク地域における投資額は前年比4倍以上

12

1. 昨今の業界動向

欧米と日本の差異-遅れている最適化

欧米では証券会社が銀行との再編・合併などで経営改革を行い、リーマンショック前の水準まで収益を伸ばしている。一方、日本の証券会社は好調な相場により売上こそ伸びているものの、従業員の増強や制度対応など足元の対応に追われており収益は伸び悩んでいる。(図表1)

また、FinTechなど新たな技術・イノベーションの波が証券業界にも押し寄せてきている。各社とも本格的な取組みには着手できていないものの、重要性や出遅れへの危機意識は十分認識している。

本年は、各社とも自社の成長を支える次の一手は何かを考え、リテールビジネス、ホールビジネスそれぞれの領域において横並びからの脱却を目指した様々な流れが起きる年となると考えている。

2. リテールビジネス領域における流れ

リテールビジネスは、証券会社の中核ビジネスであるが、近年は従業員の増強などの対応に追われ、各社とも中長期の成長に向けた戦略的投資は限定的であった。しかし、景気動向は不透明化しており、相場依存から脱却するため収益基盤を強化することが求められている。

このような状況から本年は、各社とも他社との差別化に向けた戦略的な投資が本格化する年になるのではないかと考えている。

既に、米国ではデジタル技術の活用は自社を差別化する重要な要素であると認識され、各金融機関が、自身の強みを認識し、横並びではないそれぞれ独自のビジネスモデルを作り上げている。

1. 成長シナリオスイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオWe Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

米国証券会社における差別化例

・チャールズ・シュワブはロボットアドバイスのサービスを開始。若年層をウェルスマネジメントの顧客として獲得

・メリルリンチは、デジタル技術の活用により高品質なサービスを準富裕層などへ広範に提供。預かり資産の40%近くを残高ベースの手数料管理とし、収益を安定化

・ワコビアは銀行と連携し、顧客の金融資産全体を管理。顧客の高い満足度を獲得(9割以上がアドバイザーとのやり取りが向上したと回答)

・レイモンド・ジェームズはデジタルによるアドバイザー支援の仕組みを構築。独立系営業員をメインチャネルとし2014年までの5年間で収益を約70%拡大

これら米国の事例からも、自社の差別化を検討するにあたり、以下の5つの流れが注目されると考える。

① デジタルツールを使った若年顧客層の取り込み

2015年春よりロボット・アドバイザーのサービスを開始したチャールズ・シュワブではその後わずか半年間に41億ドルの顧客預り資産を獲得した。そのうち新規流入資産の半分以上を40歳以下の顧客から獲得している。

ロボアドバイザーによる預かり資産は今後も急速に増加するものと推定されている。(図表2)

② 準富裕層へのウェルスマネジメントビジネスの拡大

これまで、富裕層とマス層に挟まれた準富裕層は適切な顧客サービスを受けることができずに不満が溜まっていた。しかし、デジタル技術により高品質なサービスを広範に提供することが可能になっている。その結果、準富裕層へのウェルスマネジメント拡大の流れがおこると考えている。

メリルリンチでは顧客の属性データや取引データを一つのプラットフォームにて統合管理することで、顧客に対する総合的なサービス提供を実現している。

③ 顧客データの活用によるマーケティング向上

流通業界の様に顧客の大量データをマーケティングに活用していきたいというニーズはますます高まるであろう。

データの取扱いには慎重を期するが、顧客が興味を持つサービスを提供することは、自社を差別化する要素となるであろう。ワコビアによる銀行データを利用した顧客アドバイスはデータ活用の一例である。

④ デジタル化による営業改革

デジタル化による営業改革も取組みが始まると考える。例えば、トップセールスの営業担当者と成績の振るわない営業担当者との顧客接触の頻度、参照する情報の違いなどをデジタルデータで分析し、営業員に改善点をアドバイスするような試みも始まると予想する。

レイモンド・ジェームズでは多チャネルで高品質なサービス提供を実現するために、顧客だけでなくアドバイザーに対しても多様な支援をデジタル化しWEB提供している。

3. ホールセールビジネス領域における流れ

ホールセールビジネスでは高速取引など様々な投資によりトップラインの拡大を追及してきたが、近年は収益率が伸び悩むなど頭打ちとなっている。他方、慢性的な規制改変やガバナンス強化への対応が続き、コストは恒常的に上昇し収益を圧迫している。

このような状況を打開するため、欧米の金融機関は次のような思い切った改革を行っている。

・バークレイズは注力分野の見直しと規模の再最適化を実施

・ドイツ銀行は投資銀行オペレーションと取扱商品の縮小を発表、さらにロシアでの投資銀行を閉鎖

・クレディスイスは大規模なリストラとアジア市場の拡大を発表

他方、日本の証券会社はグローバル化への対応や構造改革は遅れている。収益力の強化には以下に挙げる根本的な改革が必要であると考える。

① 拠点別基幹システムの統合推進

日本の証券会社は、各拠点別々に基幹システムを保有するため、多大な運営・メンテナンスコスト負担が発生し、新商品・業務への迅速な対応ができない状況となっている。欧米の金融機関ではグローバルで統一した基幹システムの業務が運営され、中には基幹システムをクラウドサービスにアウトソースしてコストの削減を図っている金融機関もある。

ブロックチェーンなど新技術を迅速に取り入れていくためにも統合化は喫緊の課題である。これまで議論され続けてきたテーマであるが、今一度、根本的な検討が求められる。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

② 規制へのグローバルレベルでの統合的対応

グローバルに展開する金融機関は、投資家保護など根源的思想は同一ながらも各地域で出される規制やガバナンス強化への対応に大変な負担を強いられている。

金融機関は各種規制に対し、場当たり的な個別対応ではなく、グローバルレベルでの統合的な対応を進め、シナジーによるコスト削減、対応期間の短縮に取組むべきである。(図表3)

4. まとめ国内証券会社の収益力は頭打ちの状態というのが実態である。一方、FinTechや新たなデジタル技術の登場は、顧客サービスだけでなく、自社の戦略そのものを改革する絶好の機会である。

自社が武器とすべき強みは何なのか、省くべき投資は何なのか、その実現のためのデジタル戦略や構造改革は如何にあるべきか。2016年は証券業界各社が差別化への準備を進める重要な年になる。

弊社がその態勢作りの一助となり、皆様に貢献できる1年になることを目指したい。

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

図表1 異業種も本業とのシナジーを狙い、様々な形態で保険ビジネスへ参入し始めている

© 2016 Accenture All rights reserved.

出典:アクセンチュア調査(公知情報等)

・自社ブランド保険商品販売 (一部業務で 保険会社利用)

・火災・自動車・死亡・医療・旅行・ペット

・インターネット ビジネス・信用・賠償責任

・自動車

・妊婦対象保険・児童向け医療・傷害

・オンライン保険比較サイト

・店舗型代理店

・オンライン保険 比較サイト ・自動車

・Tencent(Webサービス)

PingAn(保険)との合弁

2012

2015

2014

2013

(Autoinsurance.com と提携)

(Ikanoグループと 共同運営)

代理店モデル ハイブリッドモデル

参入形態

取扱商品保険会社モデル

Woolworths

Alibaba

Walmart

IKEA

Google

Page 14: Financial Services Architect Vol/media/accenture/jp-ja/...2015年における日本でのフィンテック 投資は堅調に推移、アジア・パシフィッ ク地域における投資額は前年比4倍以上

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1. 成長シナリオスイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオWe Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

図表2 Googleはサービス×デバイス拡充による収益拡大を狙っており、 保険ビジネスとの高い親和性を持つラインアップが多く存在している

© 2016 Accenture All rights reserved.

出典:アクセンチュア調査(公知情報等)

Google G

lassの発表

(ウエアラブル端末)

Chrome book

Google STB

Google Play / Play Store

Android OS / Chrome OS

Knowledge Graph

Google+

Google Now

Google Cloud Storage

Google Computer Engine

Google App Engine

Google Cloud SQL

Google Cloud Platform

Google Fiber

新興国への無線NW

Google Pub/Sub(リアルタイムメッセージング)

Google Cloud Data Flow

Google Apps for Work

Service

Device

IP/Cloud

NW

PF

Brillo/Weaveの発表

Nestの展開

NexusQの発表(メディアプレーヤ)

Android One Project Ara

Google Wallet

Google Shopping

Android Pay

ALL Access(音楽ストリーミング)

カーナビアプリの高度化(WAZEの買収)

Google Play ゲームサービス Google CATV Makini(飛行型風力発電)

Project Wing(ドローン活用した配達)

Project Tango(ローエンド3Dマッピング)

Sidewalk Labs(都市開発)

Project Loon(気球を使ったネット網)

Sky box(人工衛星)

Google genomics

ディープラーニング

Smart Contact Lenses

Google Glass

自動運転自動車

Map, Hangout, Map, etc. Google Express(即日宅配)

ソーシャルマーケティングサービス

検索サービス

Nexusシ

リーズの

モバイル

Nexusシ

リーズの

タブレット

ROSの開発(自動運転自動車)

広告事業 課金・決済事業/EC インフラ事業 新規事業 Google X Lab

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1. 成長シナリオ①スイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオ②We Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ③新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

© 2016 Accenture All rights reserved.

図表3 ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。 現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる。

・既存チャネル(代理店、 営業職員等)との関係性・既存顧客の嗜好(不確実性)・従業員の維持・ステークホルダー(既得権益?) 等々

・期待効果(変革の必要性)・実行スピード・投資規模・実現上のリスク 等々

ビジネスモデル変革のジレンマ 一つの方向性 ”Spin Out & In”

現行ビジネスモデル

新ビジネスモデル

現行モデル 継続

事業運営(パイロット)

Spin Inでない場合も単体で事業継続

並存or移行

新モデル 判定

Spin Out Spin In

別事業体で運営

・新モデルの事業性は?

・現行モデルとの親和性は? (シナジー有無)

・現行モデルからの変革可能性は?

・競合他社(保険以外含む)動向は?

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最近話題のプロジェクト

(略) CS:コンサルティング、TC:テクノロジー、OS:アウトソーシング、DG:デジタル

案件概要 TC OS DGCS

○ ○

業態

銀行

証券

保険

ノンバンク

昨今のグローバル化の波を受け、海外拠点向けの変革や新ビジネス・システム導入に向けた案件の引き合いを多く頂いております。

また、銀行・証券業界においては、BCBS239・FRTBといった規制案件が増加する傾向にあり、弊社も全社をあげてご支援させていただく所存です。

このような引き合いの増加は、世界的なグローバルガバナンス強化や規制強化の流れを受けたものと考えており、弊社としても様々な知見を結集し、ご支援させていただければと考えております。

決済ビジネス・シェアリングエコノミーの2分野において、ICTを活用したビジネスアイデアや新技術の発掘、事業化を図るコンテストの運営支援

先進的な顧客体験を提供する新モバイルサービスの企画立案・プロトタイピング 

BCBS239対応のためのデータ整備企画立案・推進        

エクイティセールス向けグローバル統一CRMプラットフォーム導入

システム経費構造改革推進                  

ネット専業証券のバックシステム再構築プロジェクト推進支援 

新商品・新サービス・新チャネル開発による成長戦略・ビジネスモデル構想

IT部門の人材強化に関する施策推進

レガシーシステムおよび周辺システムのモダナイゼーション

経済環境変化を踏まえた中長期収益計画に関する第三者評価

1. 成長シナリオ①スイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオ②We Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ③新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

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アライアンスおよびパッケージ・システムソリューションタイプ ソリューション概要

銀行向け プラットフォーム

グローバルも含めた銀行業経験と先進トレンドを反映した次世代ハブソリューション。フロントエンドとバッ クエンドを分離し、商品・サービスの多様化や顧客志向のクロスセル営業プロセスをマルチチャネルで実現 する。顧客チャネル追加やバックエンドシステム統廃合を想定したSOA2.0型の柔軟なシステム間連携機能や、マルチチャネルでの顧客情報統合管理、複数商品を跨るバンドル商品も含めた新商品・サービス生成、先進のチャネルフロント構築機能をベースに、あるべき銀行のシステム全体像構築を効率的かつ強力に支援。

銀行・カード会社向け プラットフォーム

モバイルコマースのサービスデリバリープラットフォーム。モバイルバンキング・ポイント管理・ペイメント(NFC含む)・クーポン・マーケティングなどのモバイルマネー系のコンポーネントを有する。従来、携帯キャリアが 提供していたモバイルマネー系のサービスを金融プレーヤーが主導で構築できるため、スマートデバイスを新たな攻めのチャネルとして活用することが可能。欧米において多数の導入実績を有する。

生命保険会社向け 契約管理システム

生命保険・年金保険の契約管理(サイクル)業務を包括的に支援する基幹系パッケージシステム。コン ポーネント単位の組み合わせによって、最適な機能のみの導入が可能。北米を中心に60社以上に 提供中。2006年8月アクセンチュアがNaviSys社を買収後、ソリューション名をアクセンチュア 生命保険プラットフォーム(Accenture Life Insurance Platform–ALIP)に改称。

損害保険会社向け パッケージシステム

損害サービス業務全般をカバーするグローバルNo.1のソリューション。北米トップ三社のうち二社が導入しており、約7万人の事案担当者が日々CCSを使用、米国個人保険損害全事案中36%はCCS で処理されている。初期導入は1998年で、16社に導入済。個人保険、企業保険といった全商品に 対応。業務分析ツール等変革に必要となる要素を包括的に含む。

損害保険会社向け 引受業務支援 パッケージ

アカウント管理、リスクセグメンテーション、外部データとの統合、指標管理といった機能に強みを持つ 全商品に対応し、引受業務全般をカバー。より迅速かつ適切な見積・引受を可能にし新たなリスクセグ メントの開拓、コンバインド・レシオの改善に大きな効果をもたらす。英RSAや米Allstate, Travelersといった欧米トップ企業9社が既に採用済。

マーケティング チャネル最適化 ソリューション

Webサイトのランディングページ、E-mail、DM、リスティング広告、コールセンター等ダイレクトマーケティング手段の活用を最適化し、売上増加、口座開設率の向上等、ROIの最大化を科学的かつ自動 的に実現。2007年12月アクセンチュアがMemetrics社を買収したことにより、コンサルティングを 含めたより総合的なソリューションとして提供可能。

BPM CRM ルールエンジン ソフトウェア

業務プロセス・ルールベースのシステムを構築するための統合開発プラットフォームで、Pegaの活用によりビジネスプロセスとシステムは一体となり、整合性のある柔軟なシステム構築を実現。Next-Best-Action Marketingにより、市場・消費者動向に応じた機動性の高い柔軟な対応ができ、クロスセル・アップセルの強化、営業推進の強化が行える。弊社はPlatinum Partnerとして、多くの海外事例に基づいた銀行、保険などの金融機関へのシステム提供が可能。

トレーディング・ リスク管理システム

デリバティブ(株式、金利、コモデティ、クレジット)、外為関連のディーリングフロントオフィス・リスク管理やバックオフィス業務を行うための市場系システムの導入支援。欧州を中心に世界で200名 以上のエンジニア(国内では約20名)と多数の導入経験により培った方法論を最大活用。

証券・資産運用系 システム& コンサルテーション

銀行、証券、投信投資顧問等を主要顧客として、総合証券システム、オンライントレーディングシステム、 投信窓販システム、投信経理システム等を、ASP型のシステムサービスとして提供。また、豊富な実務・ 運用経験に基づく、業務・システム・技術コンサルティングを展開。2005年、より高度で幅広いサービス をワンストップで提供すべく、アクセンチュアとアライアンスを締結。

銀行勘定系システム コア・バンキングパッケージとして、新規顧客獲得数4年連続世界第一位にランキング(2002~ 2005年、IBS誌)。現在の顧客数500以上、115ヵ国以上でサービスを提供している「Oracle FLEXCUBE」。モジュール・アーキテクチャとして、機能が部品化されており、必要な機能のみの導入 が可能。また、商品をパラメータで設定可能なため、新商品の導入が容易。

BaselⅡ 対応システム銀行勘定系システムERP(人事・会計)システムデータベース・システム

高品質・高付加価値な導入コンサルテーション、豊富な成功事例に裏づけされた安全・確実なシス テム導入、およびSAP社とのグローバルアライアンスに基づく手厚いサポートを提供。 BWを中核とした情報系システムの再構築 等、個別課題へのソリューションとして提供可能。

イベント・ベースト・ マーケティング クレジットライン最適化リスク・マネジメント サステナビリティ

CRM、リスクマネジメント、サステナビリティ等同社ソフトウェア・コンポーネントにより、金融業界では、 個人・法人向け顧客営業支援、クレジットカード与信分析、BaselⅡAMA分析、カーボンモデリング等の CSR環境アプローチ等、様々な分野における高度データ分析をリードするソフトウェア。

社名/ソリューション名

弊社/ Accenture Multi Channel Platform(MCP)

弊社/ Accenture Mobility Managed Service(AMMS)

弊社/ Accenture Life Insurance Platform (ALIP)

弊社/ Claim Components Solution(CCS)

弊社/ Underwriting Components Solution (UWC)

弊社/ Memetrics (Digital Marketing Optimization)

Pega

Calypso Murex

日興システム ソリューションズ(NKSOL)

Oracle Financial Services Software

SAP

SAS Institute

Temenos 銀行勘定系システム バンキング・システムとして、世界120カ国、600顧客サイトで利用されている「Temenos」。「T24」は、 オープン・アーキテクチャにもとづき、カスタマイズ性と拡張性を提供し、リアルタイム対応を可能と するモジュラー構造。ハイ・パフォーマンスをリードするコア・バンキング・ソフトウェア。

1. 成長シナリオ①スイッチング・エコノミーの対応

第一にあげるのは、「スイッチング・エコノミー」の対応である。

弊社の世界消費者動向調査によると、保険会社に対する顧客ロイヤルティ低下と保険商品のコモディティ化により、現在の保険会社に満足している被保険者は3分1以下(29%)であることが判明している。また、21%の契約者が「多くの保険商品やサービスは同じである」と回答しており、昨年度に比べて50%も増加している。

このような事実は、保険市場に4,700億ドルにおよぶスイッチング(消費者が商品やサービスの提供者を乗り換えること)の可能性が生まれていることを示唆している。

弊社ではこの調査において「スイッチング・エコノミー」というコンセプトを提唱し、スイッチングでもたらされる経済効果の大きさを明らかにするとともに、保険会社の次の成長のためには、絶えず顧客のダイナミクスを捉えていくことが重要であると提案している。 異業種の保険ビジネス参入の動き(図表1)を見ると、彼らは保険市場において成長もしくはシェア獲得が可能であり、これらが次の成長の鍵の一つと考えていることが分かる。

このように既存の保険会社の市場が浸食され、「スイッチング・エコノミー」が加速している状況下においては、顧客視点による新たな保険商品・サービスを導入し、既存ポジションを守るための“攻める”防衛モデルが必要と考えている。

2. 成長シナリオ②We Economyの対応

第二は、We Economy(企業同士が業界を超えて相互に補完し合う経済)への対応である。

弊社調査によると、保険各社は提供する商品・サービスのコンバージェンス(業際横断)を意識していることがうかがえる。

・保険会社の75%は、業界の垣根は著しく曖昧になっていると回答している。

・保険会社の64%は、保険業界において新たなデジタルパートナーとの提携を計画している。

・保険会社の45%は、保険ビジネス以外の領域でのパートナーを検討している。

顧客が求めているものは、業界の仕切りを意識することなく、資産・家族・嗜好・キャリアなどを総合的に捉え最適解を提供してくれるものである。W e Economyという新たな動的経済を活かすことができる保険会社は、破壊的イノベーションを通し収益の拡大を図ることで、さらなる成長に向けた道のりを歩むことが可能になる。

たとえば、異業種として破壊的テクノロジー創出と顧客接点の多さから注目を集めるGoogleの戦略を弊社視点で整理してみると、保険ビジネスとの高い親和性を持つサービス・デバイスを取り込んでおり、保険会社にとって新たな脅威となることが分かる(図表2)。

保険業を超えて、顧客が最も求めているものを追及し、保険会社としてどのような商品・サービスを提供するべきか、We Economyを成長させるための動きは、生き残りと成長のために必要なものと考えている。

3. 成長シナリオ③新たな市場への対応

第三は、破壊的イノベーションがもたらす新たな市場(新しいリスク)への対応である。

保険会社の社会的役割という観点から、技術的発明、特に破壊的な発明を「安全性の高い品やサービス」に進化させる一翼を担うことが保険会社に期待されている。つまり技術上可能なことを実際に社

会で利用できるように支援していくことである。これまで自動車がどれほど私たちの暮らしを変えたのか考えてみても分かるように、ビッグデータやロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子工学、人工知能などのような急速に進歩した多くの新しいテクノロジーも、自動車と同様に私たちの生活に大きな変化をもたらすであろう。しかしこのようにテクノロジーが進化するとき、誰が私たちを守ってくれるのだろうか。このようなイノベーションに道徳的・倫理的基準を設けているのは誰であろうか。

この任務を果たすべく保険会社は遅ればせながらシェアリングエコノミーへのサポートを強化し始めている。例えばUberやAirbnbの利用者保護のための保険業務だ。

高齢化が進む日本社会の現状も、イノベーションをもたらす要因となりうる。現在日本では、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は4分の1を超えているが、2055年までにはその割合は40%に達すると見込まれている。人口動態の変化は、介護産業や保険業界に影響を与え、高齢化社会では介護現場のロボット技術が重要な役割を果たすことになる。このような状況から、要介護者をベッドから抱え上げる、あるいはまっすぐの姿勢に立たせるなどの力仕事を人間の代わりに行うロボットが開発されており、このロボット利用に対する保険業務が始まる日もそう遠くないと考える。

弊社の調査では、3年以内にコネクティッド・インシュランスのようなイノベーションにより生み出される損害保険料は、ヨーロッパ単独で1,900億ドルに達するとの試算が出ている。イノベーションは保険会社にとって大きな成長のきっかけとなるであろう。

保険会社が果たす役割

保険会社の新たな社会基盤における役割はリスク取扱いのプロとして大きい。

・生命保険:対象が命から健康へ

・損害保険会社:新たな市場(リスク)への対応

保険各社は保険市場のさらなる縮小を杞憂すると同時に、新たな市場の発生に対する準備をする必要がある。

現在、企業にAI(人工知能)が導入されてきているが、将来顧客を最も理解している個人向けAIが顧客側に普及した世界を考えると、その個人向けAIを商品・サービスとして世の中に定着させる役割を損害保険会社が持つであろう。生命・損害保険会社のマーケティングの対象も、広告・代理店へのコミッションから、AIへ提供する情報へと変わる。また、事故から守る、健康を促進する上でも、保険会社が提供するサービスは保険を超え業際横断であることが前提となる。

今、目の前にある破壊的技術革新は、保険会社の脅威ではなく、成長機会であると考える。数百年前にロイズ・オブ・ロンドンに属する保険会社が、リスクの高い海運ビジネスをグローバル産業に変革させたように、今こそ、保険会社の原点回帰が求められており、その責任は未来に対して計り知れないと弊社は考えている。

まとめ

ビジネスモデル変革のジレンマは必ず存在する。たとえば、大手各社の相次ぐ参入で、銀行窓販に続いて、これまで外資系や損保系などが独壇場だった保険ショップ市場でも、商品開発、販売競争が激化している。保険各社においては、

現行ビジネスモデルの強化のため、経営資源を割くことが最重要事項となるであろう。現行ビジネスモデルと共存しつつ、いかにトランジションの機会を見極めていくかが鍵となる(図表3)が、ここで新たな経営スタイルを導入することが、保険各社の英断であり、将来に向けた適切な判断となる。

弊社は保険会社のさらなる繁栄のため、グローバルネットワークの活用、及びデジタル・イノベーションを推進する立場として、あるべきコンサルティング及び事業運営のご支援を、三人称ではなく一人称として、身を引き締めつつ実施していきたいと考えている。

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弊社外部講演およびレポートのご紹介

外部講演のご報告

セミナーインフォ社主催保険フォーラム2015「従来の『保険』の先へ~デジタル・イノベーションが実現する保険ビジネス進化論」

11月26日(木)にマネジング・ディレクター大喜多雄志とシニア・マネジャー原田英明が講演しましたところ、ご参加頂いた約130名の方々よりご好評いただきました。また本件に関するディスカッションのご要望も頂いております。ご興味がございましたら、ご説明させて頂きますので、お気軽にお知らせ下さい。

レポートのご案内

「従来の『保険』の先へ~イノベーションを取り込み、創造的破壊から収益を生み出す」 

保険業界は堅調な業績にもかかわらず、多くの挑戦者、新たなテクノロジー、消費者トレンドの変化など、様々な脅威に直面しています。66%の消費者は保険会社以外からの購入を考えているとの調査結果が出ていますが、これらにどのように対応すればよいのでしょうか。レポートにて新たな成長に向けた3つのステップをご紹介しています。ご一読下さい。

https://www.accenture.com/jp-ja/insight-beyond-insurance-embracing-innovation-monetize-disruption.aspx

以上ご不明な点などございましたら、金融サービス本部マーケティング担当 ([email protected]) までお問い合わせ下さい。

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会社概要

グローバル拠点数: 世界 56カ国

売上高: 310 億米ドル(2015年 8月期)

従業員数: 約 37万 3千人

会長兼最高経営責任者 : ピエール・ナンテルム (Pierre Nanterme)

アクセンチュア株式会社

本社所在地: 〒 107-8672 東京都港区赤坂 1-11-44 赤坂インターシティ

電話番号 : 03-3588-3000(代表)

FAX: 03-3588-3001

従業員数: 約 6000 名(2015 年 8月 31日時点)

代表者: 代表取締役社長 江川 昌史

URL: www.accenture.com/jp

お問合せ先

ニューズレターの掲載内容に関する お問合せは、 金融サービス本部 FS Architect担当 シニア・マネジャー 松濤 真人 [email protected]へご連絡ください。

03-3588-3000( 代表 ) 03-3588-3001(FAX)

FS Architect専用サイト www.accenture.com/jp/fsarchitect

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Copyright © 2016 Accenture All rights reserved.

Accenture, its logo, and High Performance Delivered are trademarks of Accenture.

アクセンチュア金融サービスについてアクセンチュア金融サービスは、バンキング、 キャピタル・マーケット及び保険の3セクター における様々な金融機関に対し、世界各国で「ストラテジー」「コンサルティング」「デジタル」「テクノロジー」「オペレーションズ」の5つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供しています。

国内外の金融業界の変化をいち早く捉え、金融機関の中核戦略及びオペレーションに重要な役割を果たすことで、企業のみならず 業界全体の成長に貢献したいと考えています。

クライアント企業のトップラインの拡大、コス ト削減、高まる規制やリスクへの対応、合併・ 買収に伴う統合作業、新しいテクノロジーや複数チャネルサービスの導入等、支援領域は多岐に亘ります。

3つのセクターにおける主な金融機関は以下の通りです。

• バンキング:リテール銀行、商業銀行、総合 金融機関、政府系金融機関、クレジット・信販会社、リース会社

• キャピタル・マーケット:証券会社、信託銀行、 投資/ 投資顧問会社、資産運用会社、証券保管機関、各種金融商品取引所、清算及び決済機関

• 保険:損害保険会社、生命保険会社、年金保険会社、再保険会社、保険ブローカー

アクセンチュアについて

アクセンチュアは「ストラテジー」「コンサルティング」「デジタル」「テクノロジー」「オペレーションズ」の5つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供する世界最大級の総合コンサルティング企業です。世界最大の規模を誇るデリバリーネットワークに裏打ちされた、40を超す業界とあらゆる業務に対応可能な豊富な経験と専門スキルなどの強みを生かし、ビジネスとテクノロジーを融合させて、お客様のハイパフォーマンス実現と、持続可能な価値創出を支援しています。世界120カ国以上のお客様にサービスを提供するおよそ37万3,000人の社員が、イノベーションの創出と世界中の人々のより豊かな生活の実現に取り組んでいます。

アクセンチュアの詳細はwww.accenture.comを、アクセンチュア株式会社の詳細はwww.accenture.com/jpをご覧ください。

フォーチュン100社にランキングされている92%の金融機関に対しサービスを提供しています。また、グローバルのトップ顧客10社のうち9社と、20年以上継続してサービスを提供しています。