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アイヌ民族が伝承してきたシケレペの効用に関する研究 誌名 誌名 酪農学園大学紀要. 自然科学編 = Journal of the College of Dairying. Natural science ISSN ISSN 0388001X 巻/号 巻/号 322 掲載ページ 掲載ページ p. 139-144 発行年月 発行年月 2008年4月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

アイヌ民族が伝承してきたシケレペの効用に関する …アイヌ民族が伝承してきたシケレペの効用に関する研究 誌名 酪農学園大学紀要

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アイヌ民族が伝承してきたシケレペの効用に関する研究

誌名誌名酪農学園大学紀要. 自然科学編 = Journal of the College of Dairying.Natural science

ISSNISSN 0388001X

巻/号巻/号 322

掲載ページ掲載ページ p. 139-144

発行年月発行年月 2008年4月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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J. Rakuno Gakuen Univ., 32 (2) : 139-144 (2008)

アイヌ民族が伝承してきたシケレベの効用に関する研究

石井智美1)・玉城美香1)・柴田千品1)・岩野英知2)

Research on the utility of the Ainu race traditional food, Sikerepe

Satomi ISHII!), Mika T AMASHIR01>, Chiaki SHIBA T A 1) and Hidetomo Iw AN02)

(N ovember 2007)

緒 言

アイヌ民族は長年,自然と共生した生活を営んで

きた民族であるりといわれ,その食において,野生の

植物は必要な量のみを採って利用してきた 2.3,4,ヘ

我々は,これまで日本の先住民族であるアイヌ民

族の食について共同研究補佳1)を行ってきた問。その

中で,アイヌ民族における植物の利用の知恵と植物

へ向き合う姿から,飽食している我々が,学ぶべき

ことが多いのではないかと考えた。共同研究の過程

で,キハ夕、の実であるシケレペに関心を持った。我々

が知っていたキハダに関する知識は,その内皮に関

するものであった。内皮に含まれているベルペリン

は大腸菌,チフス菌, コレラ菌に対して抗菌作用を

持つ8) といわれ補佐2) 日本では経験的に火傷や皮膚

病,切傷,炎症の治療をはじめ, 目薬の原料として

用いられてきた8)。

北海道に住むアイヌ民族は,内皮を利用するだけ

ではなし実であるシケレペを「風邪をひいた時に

薬として食べるもの」として大切に伝承してき

た5,6,7)。シケレベの薬埋作用については,財団法人ア

イヌ民族博物館報告9)や姉帯らの報告10)が見られる

が,微量成分に関する報告などは管見した限りでは,

なされてはいなかった。そこで本研究はシケレペの

微量成分分析をはじめ,その機能についてラットに

喫食させる実験を行い,薬物代謝酵素の遺伝子発現

への影響を検討した。

1)酪農学園大学酪農学部食品科学科臨床栄養管理学研究室

I.供試試料について

1. キハダの実シケレぺ (sikerepe)

キハダは,キハ夕、属 Phellodendron amurense

RUpr.11)の落葉広葉樹の高木である。 山地の渓流沿

いの斜面下部,台地に生育している 11)。木の直径が 1

m程になるものもある。北海道ではシコロと呼ばれ

ている。これはアイヌ語でシケレペ(果実の意味)

から転じた呼称であるという 12)。

道内の野生のキハダは,ヒロハノキハダという種

類に属する。木の皮を剥くと黄色いため,キハダと

いう 。キハダは煎じて用いられることが多い。5-7

月に花が咲くとあるが,アイヌ民族は春と秋の年に

2回収穫してきたというへまだ実が青いうちに枝

ごと取る 13)が,木で、熟すと実が落ちてしまうためで

ある。折った枝のまま吊るしておくと黒くなる。ア

イヌ民族は熟して黒色になったものを用いてきた

(Fig.l)。外見はチ ョウセンゴミシの実に似ている。

1粒を口に含むと,.ホッ ト」と形容きれる一種強

烈な辛さと刺激的な苦味が瞬時に広がる。実の内部

は粘り気がとても強い。その香りについて「ゆずに

似ている J12) との記述もある。アイヌ民族はシケレ

ペを枝につけたままで乾燥させた後,外していた。

使用するときは,微温湯で幾分柔らかく戻し,粥な

どに粒状のまま加え「コサヨ J (粉粥)などにして食

べていた5.6.7.14)。

本研究で用いたシケレベは,平取町のシケレペ農

場に採取を依頼し,実験に用いた。

Nutrition Care and Managem巴nt,Department of Food Science. Faculty of Dairy Science. Rakuno Gakuen University 21 酪農学聞大学獣医学部獣医学科獣医生化学教室

Vet巴niaryBiochemistry. Department of Veterinary Medicine. Rakuno Gakuen University 069-8501 江別市文京台緑町 582

582 Midorimachi, Ebetsu, Hokkaido, 069-8501, Japan

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140 石井智 美 ・他

Fig. 1 The appearance of sikerepe.

11.実験方法

1. シケレぺの一般成介介析,微量成分介析

採取後,数ヶ月間枝についた状態で乾燥させたシ

ケレペを,常法則6)に準拠して一般成分分析,微量

成分分析を行った。ナトリウムは原子吸光光度法,

カルシウム, リン,鉄,カリウム,マグネシウム,

亜鉛,銅はそれぞれイオンプラズマ発光分析法で分

析した。

2. シケレぺパウダーの調製

上記の諸成分分析に用いたものと同時期に採取し

たシケレベを用いた。シケレペの外皮は堅くなって

おり乾燥していたが,中は乾燥ブルーンにみられる

ような強い粘り気を有していた。そこでシケレペと

水を 1 1の割合で, ミキサーにかけてペースト状

にし, -30'Cで7日関連続して凍結乾燥器にかけて

凍結乾燥を行った。乾燥品をすり鉢ですりパウダー

状にし,ラットに摂食きせる試料とした。

3. 動物実験

本実験の動物(ラット)は r実験動物の飼養及び

保管に関する基準(昭和 55年 3月総理府告示第 6

号)に従い取り扱った。

4. 飼育

4週齢の Spraque.Dawley系の雄ラットで,平均

体重 85-95gのものを日本チャールズ・リバー株式

会社から購入し,室温 22:t2 'c,相対湿度 60%,明

暗周期 12時間(明期 7:00-19:00)の条件下で飼

育した。

到着後 Table3に示したコントロール食を与え 8

日間予備飼育をした。 9日目に尾静脈から採血した

静脈血から血清を調製し,血清総コレステロール量

を測定した。血清総コレステロール値と体重が,ほ

ほ均一になるようにテスト群 (n=5) とコントロー

ル群 (n=5) とに分けた。

本飼育では Table3に示した,シケレペパウダー

を5%量添加した飼料をテスト群に,コ ントロール

群にはシケレペパウダーの代わりにセルロース 5%

量加えた コントロール食を喫食させた。それぞれの

飼料と水は自由摂取とし, 20日聞の投与実験を行っ

た。その後解剖した。

5. 実験項目

(1) 体重測定と飼料

毎朝体重測定を行うとともに,残存飼料の重量を

測定し,体重増加率,飼料効率,総飼料摂取量を算

出した。

(2) 血液と臓器

血液は,ラ ットを固定してかみそりで尾静脈を切

り,盛り上がった血液を毛細管に採った。直ちに

5,000 rpm, 4 'cで15分間遠心分離を行った。そこ

から血清を取り,脂質の測定を行った。最終日はエー

テル麻酔をかけて開腹し,注射針で腹部大動脈から

採血を行った。盲腸,小腸,肝臓の湿重量を測定し

た。-40'Cで肝臓を保存し,薬物代謝酵素の遺伝子発

現に対する影響を検討した。

(3) 血清脂質定量

1 )血清総コレステロール

本飼育 1日目, 8日目, 14日目, 20日目に採血を

行った。血清コレステロール測定キ ットT-CHO(カ

イノス)を用い,血清総コレステロール量を測定し

た。

2 )血清 トリグリセリド

本飼育 8日目, 14日目, 20日目に採血を行った。

血清トリ グリセリド測定キ ット TG-EN(カイノス)

を用い,血清トリグリセリド量を測定した。

(4) 薬物代謝酵素の遺伝子発現の検討

薬物代謝酵素の第II相酵素である UDP-グルクロ

ン酸転移酵素(UGT)の遺伝子発現に対する影響を,

RT-PCRを用いて検討した。

凍結状態の肝臓をハンマーで砕き,組織片 (30

mg)を採取し,RNeasy Mini kit (QIAGEN)を用

い, total RNA (tRNA) を抽出した。抽出の際,

DNase 1で処理した。得られた tRNAのうち 1μg

を使用して, Oligo (dT) と逆転写酵素 ReverTra

Ace (TOYOBO)により cDNAを作成して, PCR

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シケレペの効用に関する研究 141

Table 1 chemical composition of sikerepe

Water ・Solid Protein Fat Ash In soluble mtorogen

sikerepe 8.8% 91.2% 12.1% 8.9% 5.2% 65%

Table 2 Mineral contents of sikerepe

Na Ca P Fe K Mg Zn Cu Mn

mg/100 g μg/100 g一一

Sikerepe 16.0 270.0 160.0 6.2 1,500 65.0 0.4 0.31 N.D

を行った。

PCRは, Taq DNA polymerase (NEB) をイ吏い,

94'C, 1分の熱変性の後, 94'C 30秒, 58'C 30秒,

72'C 1分のステップを 35サイクル行った。最後に

72'Cで2分反応させた。PCR反応後,一部を 2%の

アカ、ロースゲルで電気泳動し,エチジウムブロマイ

ドで染色し,紫外線照射下で撮影した。PCRに使用

したプライマーは以下のものである。

UGTIA1.F: 5'.TGGTGTGCCGGAGCTCATGTTCG-3'

UGTIAl・R: 5'-CTGCTGAATAACTCCGAGCATACTC-3'

UGTIA6-F:グーTTCCTGTACTCTCTTAGAGGAGCCA-3'

UGTlA6-R : 5'ーTTCCTGTACTCTCTTAGAGGAGCCA-3'

UGTlA7-F : 5'-CAGTTGGCAGCTGGGAAAACCA-3'

UGTlA7-R: 5'-GAAGAAACCCTGGGCAGGGCTA-3'

UGT2BI-F: 5'-AGATGATGGGGAAGGCAGAT-3'

UGT2BI-R: 5'-GCAAGAGCAGAAGCAACTAC-3'

(5) 測定結果の統計処理

各測定値は,Dancanのmultiplerange testを用

いて統計処理を行い,コントロール群に対し, p<

0.05以下を有意があるとした。

III.結果及び考察

Table 1に示したように,シケレペはとても水分

量が少なかった。そのエネルギー量は, 100 gあたり

389 kcalであった。微量成分を Table2に示した。こ

の微量成分値を,食品成分表17)に記載されている果

実,香辛料の数値と比較したとこ ろ, 山概の実の分

析値と近似していた。山槻も木の実である。

山岸川 lま,ヒロキハダの果実の紹介で「アイヌ民

族はこの実を香辛料として利用してきたが現在は全

く使われていない」と記していた。しかし伝統的な

シケレペの利用を今日に伝えている平取では,粥や

餅の中に少量を加えて喫食14)しているほか,阿寒で

は砂糖湯に数個のシケレペを浮かせた飲み物をつ

くっていた。粉粥「コサヨ」を試作したが,シケレ

ペは l人分として 2, 3粒で十分で、はないかと思わ

Table 3 Composition of experimental diets

Constituent Contents (g/100g)

Control Test

Sucrose 60.2 60.2 Casein 25.0 25.0 Corn oil 5.0 5.0

AIN -76 Vitamin mixture 1.0 1.0 AIN -76 Mineral mixture 3.5 3.5

Choline botartrate 0.3 0.3 Cellulose 5.0 。

Sikerepe powder O 5.0

れた。このように,強度の苦味の中に印象的な爽快

感を持つシケレペは,アイヌ民族以外でも今後,新

規の香辛料, もしくは飲料の味にアクセントを与え

る目的での利用という可能性があるのではないか。

さらにシケレペには「身体を温める効果を持つJ,

「風邪をひいた時に用いると良いJ,I打ち身,リュー

マチの薬になる」とのことから,少量で身体に有効

に働く薬用成分が含まれているのではないかと推測

しラ ットを用いてシケレペの喫食試験を行った。

シケレベパウダーを喫食させたテスト群と,コ ン

トロール群のラ ットの体重の推移は Fig.2に示し

たように,ほほ同じ増加傾向であった。Table4にま

とめたように,最終日の体重はコントロール群で

315.0:tll.2 g,テスト群で 304.0:t9.7gて二有意差

はみられなかった。本飼育の体重増加量はコント

ロール群で 7.4:t0.6 g,テスト群で 6.9:t0.5gで,

有意差はみられなかった。総飼料摂取量は コント

ロール群で 44l.9土13.4g,テスト群で 42l.4:t 18.2

g,飼料効率はコントロール群で 2l.0:t0.6g,テス

ト群で 20.1:t0.9gで,有意差はみられなかった。こ

れらの結果から,シケレベを食べることが体重の増

減には関与しないことが明らかになった。盲腸,小

腸,肝臓など臓器の湿重量,外観も,両群で顕著な

差はみられなかった。血清総コレステロール量は,

テスト群で低iい傾向だったが,両群間で有意差はみ

られなかった。 血清ト リグリセリド量は群聞で,本

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142

350

300

250

~ 200 .... 色遣150

100

50

o

石井智美 ・他

一a-Control

-0-Sikerepe

01234567891011121314151617181920212223242526272829

Days

Fig. 2 The growth curve of the rats

Table 4 Feed intake, body weight, and some components of blood serum in rats

Control (n = 5)

Body weight at 0 day (g) 89.8

Body weight at Last spare breeding day (g) 159.6

Body weight at 29day (g) 315.0:t11.2

Weight gain (g/day) 7.4:t0.6 Feed efficiency (g/day) 21.0:t0.6

Serum cholesterol (mg/dl)

8 days 98.4:t8.1 14 days 101.9:t8.8 20 days 95.3:t7.1 Triglyceride (mg/ dl)

8 days 211.6:t25.6

14 days 206.5:t36.3 20 days 159.0:t 36.0

Astarisks are significantly different from control:事p<O.05

Test (n=5)

92.2

160.2

304.0:t9.7 6.9 :t0.5 20.1土0.9

88.7:t7.1 88.4:t2.7 89.0:t3.5

131.1:t9.7* 162.8 :t8.8

126.0:t 21.5

飼育 8日目には 5%で有意で、あったが,本飼育 14日

目, 20日目には有意差はみられなかった。しかしテ

スト群の血清トリグリセリド量が本飼育 14日固ま

で低<,標準偏差値を考慮すると,シケレベはある

期間までは,血清トリグリセリドを上昇させない効

果を有している可能性があるのではないかと考え

現象が見られることが知られている。薬物代謝の第

I相酵素であるチトクローム P450 (Cyp) などは,

発力、ン物質の代謝的活性化を行うこともあり, Cyp

の発現上昇が必ずしも個体に良い影響を与えるわけ

ではない。

一方, UGTは解毒代謝のみを担う酵素であり,

UGTの発現上昇は,様々な薬物からの個体の防御

という点において重要で、ある。本研究では,アイヌ

民族が伝承してきたシケレペが,解毒代謝という点

でどのような影響を与えるのかを UGTの発現変化

という点で調べてみた。その結果,Fig.3に示したよ

うに本実験においては,UGTの発現に大きな差異

は見られなかった。UGTは,肝臓だけでなく小腸に

た。

UGTは,薬物代謝第II相の酵素で,様々な薬物,

発ガン物質の他,内因性のホルモンなどの解毒代謝

を担う酵素である 18)。最近では,内分泌撹乱物質の解

毒代謝を担うことも報告されている lへまた,この酵

素は,薬物誘導されることも古くから知られており,

オイゲノールなどの植物由来の脂溶性物質でも誘導

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シケレペの効用に関する研究 143

M 1A1 1A6 1A7 281 GAPDH

Control |曹 ]Test

Fig.3 Influences for gene expression of UGTs in the rat liver treated with sikerepe. Expression of UGTs (lA1, 1A6, 1A7, 2B1) was detected by RT-PCR. glyceraldehyde-3 phosphate dehydrogenase (GAPDH) was used as control. M islOObp DNA ladder marker

も多く存在していることが知られており 2OL今後, 小

腸などでの発現変化 を調べてみる必要があるのでは

ないか。また,投与期間,他の分子種,他の酵素な

ども視野に入れて検討する必要もあると考えた。

謝 辞

本研究は,2006年度「酪農学園大学学内共同研究」

の研究助成を受けて行 った研究の一部である。ここ

に関係各位に心からの感謝を表 します。

そして,本研究の趣旨に賛同をいただき,数々の

貴重なご教示をいただきま したアイヌ文化研究家貝

津美和子氏に感謝いたします。共同研究者の北海学

園大学大学院文学研究科岩崎まさみク¥y ドマン教

授,貝津太一氏に感謝いたします。

本実験の遂行にあたり ,貴重なご助言をいただき

ました酪農学園大学酪農学部食品科学科小野寺秀一

教授に感謝いたします。

補注 1)

This research is a part of international joint

research coordinated by Center for the Indigenous

peoples nutrition and environment, Mc GiII Uni-

versity, CANADA. Currently, similar research

is conducted in 12 aboriginal communities in

the world.

補注 2)

キハダの内皮に含まれるベルペ リンは 「大腸菌,

チフ ス菌 に対し殺菌力 を有すJ (細菌雑誌258号

1917)ことが,はやくから認められていた。文献を

入手できなかったが rアイヌ医事談J(関場不二彦)

には,アイヌが実(シケレペ)をすりつぶ し 虫下

し,打ち身, リューマチの薬にしたという記述がみ

られるという 。こう した伝承は,現在アイヌ民族で

あってもアイヌ文化に関心のある人にしか伝わって

いないようであり ,近刊の本には,シケレベについ

て「薬用がある」 といった紹介をはじめ,シケ レペ

への言及が皆無のケースも見られる。

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144 石井智 美 ・他

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Abstract

The Ainu race is knowledgeable about the uses of the wild plant. Sikerepe is a nut of the Amur cork.tree

(Phellodendron amurense Ruprよ Sikerepehas traditionally been an important food for the Ainu. It has

been used for medicinal purposes.

To date, detailed research has not been carried out on the properties of sikerepe. As a result, this study

involved an analysis of principal component and trace elements of sikerepe. The plant had a low level of

water content, and the trace elements were rich. The level of the trace elements was approximate to the

numerical value of the fruit of J apanese pepper. Thus, the taste is very spicy like J apanese paper. The

sikerepe could be used as a new spice. To study the effect of sikerepe to the lipid metabolism, the test feed

for the SD rats was prepared by inc1uding sikerepe for 5% of the diet. Therefore, on all the days on which

measurements were taken, there was no difference between the cholesterol level in the control and test

group. There was significance (P<0.05) in comparison with the controlled group (221.632:t25.620 mg/dl) on

the triglyceride in the test group (l31.108:t9.699 mg/dl) in the breeding eighth. The research c1arified that

sikerepe does not raise triglyceride in the initial stage when it is first eaten. Influences for gene expression

of drug metabolism enzymes in the rat liver treated with sikerepe also were examined. As a result,

expression levels of the enzymes in the rat liver treated with sikerepe were not difference compared with

control rat.