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ConnectiveTissue Vo l .19 No.1 35-45 (1987) 膜性骨骨膜の骨形成能に関する組織学的研究 II. 脱灰歯による骨形成能の向上 中島英之 東京医科歯科大学難治疾患研究所超微構造部門 HistologicalStudy onOsteogenicCapacityofthePeriosteumof MembranousBone 11. ElevationofOsteogenicCapacitybytheUseofDecalcifiedTooth HideyukiNakajima DepartmentofCellBiology ,乱-i edicalResearchInstitute TokyoMedicalandDentalUniversity Surnrnary Thedecalcifiedtooth whichhasacapacityforboneinductionsirnilarly to the decalcified bone (Urist 19ω) wasusedinelevatingtheteogeniccapacityofthep iosteurnofmernbra- nousbone.MaterialsandMethods:A decalcifiedtoothwaswrapped in the peri teumofthe parietalboneandthefernurof 51 maleWistarrats.Thehistologicalreactionof the periosteurn tothedecalcifiedtoothwasobservedmicroscopically.Thecontrolsconsistedofone groupusing anon-decalcified tooth and another group usinga decalcified and formalin-treated tooth. 竪竺豆ts:Inthedecalcifiedtoothgroup slightosteogenesis and absorption oftoothwerealready foundaroundthetoothinallcasesattwoweeks in both bones.With the passage of tirne osteogenesisprogressedandabsorptionofthedecalcifiedtoothincreased asinall cases at 4 8and 12 weeksinbothbones.Inthec ntrolgroups little osteogenesis was recognized. on 生誕旦 Theosteogeniccapacityoftheperiosteurnofthe mernbranous bone was elevated by thedecalcifiedtooth. 1. 患者 骨折,骨欠損等の際,骨膜は,その治癒過程 において重要な働きをするが,骨膜に骨形成能 力があることは, これまで多くの研究者が主張 していることであり 1-3) 骨膜の骨形成能力を 上げてやれば,それらの疾患時の治癒に大きな 影響を与えることが期待できる.これらの疾患 時に,骨の形成を促進する意味で,多くの試み がなされてきているが,骨膜の骨形成能力とい う目標をしぼったものはほとんどなく,骨膜も 含めた骨の治癒力向上という観点からの研究が ほとんどである. 骨代謝に影響する物質の研究は, PTH CT vitaminD C ,成長ホルモン等に関するものが 多くみられるい, 26) が,骨折時等に骨の形成を 促進する研究のうち局所的なものは,電気ポテ ンシャルあるいは特異物質を用いる研究等が主 なものである 2 6) この中で :'Uristらが提唱した 骨誘導としづ概念があるが, これは骨基質の中 ReceiveclSeptember 1 1986; acceptedforpublicationDecember 26 1986. Keywords:Periosteum;Osteogeniccapacity;Boneinduction.

II. 脱灰歯による骨形成能の向上 · 時に,骨の形成を促進する意味で,多くの試み がなされてきているが,骨膜の骨形成能力とい う目標をしぼったものはほとんどなく,骨膜も

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Connective Tissue Vol. 19, No. 1, 35-45 (1987)

膜性骨骨膜の骨形成能に関する組織学的研究

II. 脱灰歯による骨形成能の向上

中島英之

東京医科歯科大学難治疾患研究所超微構造部門

Histological Study on Osteogenic Capacity of the Periosteum of Membranous Bone

11. Elevation of Osteogenic Capacity by the Use of Decalcified Tooth

Hideyuki Nakajima

Department of Cell Biology,乱-iedicalResearch Institute,

Tokyo Medical and Dental University

Surnrnary

The decalcified tooth, which has a capacity for bone induction sirnilarly to the decalcified

bone (Urist, 19ω), was used in elevating the倒 teogeniccapacity of the p釘 iosteurnof mernbra-

nous bone. Materials and Methods: A decalcified tooth was wrapped in the peri倒 teumof the

parietal bone and the fernur of 51 male Wistar rats. The histological reaction of the periosteurn

to the decalcified tooth was observed microscopically. The controls consisted of one group using

a non-decalcified tooth and another group using a decalcified and formalin-treated tooth.

竪竺豆ts:In the decalcified tooth group, slight osteogenesis and absorption of tooth were already

found around the tooth in all cases at two weeks in both bones. With the passage of tirne,

osteogenesis progressed and absorption of the decalcified tooth increased, as in all cases at 4,

8 and 12 weeks in both bones. In the c唖ntrolgroups, little osteogenesis was recognized. ぐ,on・

生誕旦 Theosteogenic capacity of the periosteurn of the mernbranous bone was elevated by

the decalcified tooth.

1. 患者 論

骨折,骨欠損等の際,骨膜は,その治癒過程

において重要な働きをするが,骨膜に骨形成能

力があることは, これまで多くの研究者が主張

していることであり 1-3) 骨膜の骨形成能力を

上げてやれば,それらの疾患時の治癒に大きな

影響を与えることが期待できる.これらの疾患

時に,骨の形成を促進する意味で,多くの試み

がなされてきているが,骨膜の骨形成能力とい

う目標をしぼったものはほとんどなく,骨膜も

含めた骨の治癒力向上という観点からの研究が

ほとんどである.

骨代謝に影響する物質の研究は, PTH, CT,

vitamin D, C,成長ホルモン等に関するものが

多くみられるい, 26)が,骨折時等に骨の形成を

促進する研究のうち局所的なものは,電気ポテ

ンシャルあるいは特異物質を用いる研究等が主

なものである 2,6) この中で:'Uristらが提唱した

骨誘導としづ概念があるが, これは骨基質の中

Receivecl September 1, 1986; accepted for publication December 26, 1986.

Key words: Periosteum; Osteogenic capacity; Bone induction.

- 36- 結合組織

のある種の物質 (BMP:bone morphogenetic

protein)が軟骨芽細胞,骨芽細胞を誘導する

としづ理論である 7-9) Uristら9,10)は脱灰凍結

乾燥骨を筋肉内に移植するとその部分に骨がで

きることを実証し骨芽細胞は骨系統以外の組

織からも派生しうるという主張をして以来,骨

芽細胞の histogenesisについて論議をよび,一

方で,臨床的に骨欠損害事に脱灰凍結乾燥骨を応

用する試みも,いくつかなされているが7) 未

だ実験段階である.また,脱灰歯も,同様に骨

誘導能を持つことが示されているが1'l,1ペこれ

は象牙質が骨とほぼ同様の組成であることか

ら,十分にあり得ることであろう .

4 方,骨膜の骨形成能力に関する研究は, こ

れまで対象が長管骨がほとんどであり ,膜性骨

骨膜では Ritsilal!). Skoogら12)を除きほとん

どみられない.著者は,前報において膜性骨の

骨膜の骨形成能力は,長管骨骨膜に比較すると,

かなり小さいことを示した.著者は模性骨骨膜

の骨形成能力を上げるべく ,前報において述べ

たような,血行を保持 した剥離骨膜有茎弁を作

製し,それにより,骨実質から離れた位置で種

々の材料を巻く手法(骨膜ラップ法)を用い,

脱灰歯を包んだ.その手法により骨膜の脱灰歯

に対する造骨反応、を,非脱灰歯やその他のもの

に対するそれと,組織学的に比較検討した.

II. 材料および方法

実験動物には. 9-12週齢. 25C-350 gの

Fig. 1. Stick.like decalcified tooth (bottom)

and non.dec::Ilcified tooth (top)

Wistar系雄ラット 51匹を用いた.骨膜で 包 む

材料としては,抜去した下顎前歯の自家歯牙

を,できるだけ滅菌状態で Fig.lのように,先

端に近い部分から調整し,象牙質の細い棒を 2

本作成した(長さ,約12mm;断面は楕円状ー角

状,概径, 約1mm:Fig. 1). 2本とも 0.02%

グルコン酸クロルヘキシジン液に 10分間浸漬

後, よく滅菌生食水により洗浄し. 3日匹分につ

いては, 一本はそのまま滅菌生食水内に冷蔵保

存し,他の 1本は脱灰処理した 残りの15匹分

については 1本は脱灰 し, 他の 1本 は 脱 灰

後,ホルマリン液に浸潰した.歯牙の脱灰方法

は 5% ethylenediaminetetraacetic acid-2Na

(EDTA-2Na)液に 3日間浸漬後, 滅菌生食水

液によりよく洗浄し,同液内に保存した.ホル

マリン浸漬は. EDTA脱灰処理後 10% 中性ホ

ルマリン液に 3日間浸漬し,その後滅菌生食水

により,よく洗浄し滅菌生食水液内に保存し

たものを使用した.下記の手術を行うにあたっ

て,各々の個体へ適用する歯牙は.すべて自家

歯牙とした.

実験方法は,ラット 51匹を 3群に分け,ネ

ンブタ ールによる腹腔麻酔下に下記の手術を行

った.

I群(18匹): Fig.2のように,頭頂骨骨膜

から側頭骨側を茎とした長方形の骨膜弁を作成

し,右側は脱灰歯,左側は非脱灰歯をその骨膜

弁により包みこみ,細いテトロン糸により弁の

端と弁の基部を結殺した.その結果.断面図の

Oecalcified tooth

Fig. 2. The wrapping method; a tooth is

wrapped in the periosteum of the parietal

bOl.e.

中島・膜性骨骨膜の骨形成能 II. 脱灰歯による向上 - 37ー

ように,歯牙は,周囲を骨膜内面でとり固ま

れ,骨膜内層が歯牙に接するかたちとなる.歯

牙の長軸は,骨膜弁の縦幅より長く,前後方向

に約1.5mm出た状態で・包まれている.

E群(18匹):大腿骨骨幹部前面において骨

膜弁を作成し,外側の稜線部をその弁の茎とし

た. 1群と同様の手法により,右側に脱灰歯,

左側に非脱灰歯を包み,骨膜内屈が各々の歯牙

に接するかたちとした.

皿群(15匹): 1群及びE群と同様の手法を

用いて頭頂骨及び大腿骨の骨膜弁により脱灰後

ホルマリン浸漬歯を包んだ

手術後, 1群, II群,皿群とも 2週目, 4

週目, 8週自に各群 5匹ずつ,さらに 1, II

群では, 12週目 にも 3匹ずつ,周辺の'局ととも

に骨膜弁の部分を摘出し, 10%ホルマリ ン液に

より固定, 10%EDTA液により 3週間脱灰後,

通'ffi.の脱水,パラフィン包埋を行い,薄切,へ

トマキシリン ーエオジン染色,鏡検を行った.

Fig. 3. Mild osteogenesis is recognized around

the tooth ; decalcified tooth in the periosteum

of the parietal bone at two weeks. X 60.

III. 結 果

l. 1群

(1) 2 週目・脱灰歯を~J離骨膜で包んだ例で

は 5匹全例,脱灰歯の周囲の表層の部分をと

りまくように薄い新生骨組織の層がみられ,破

歯細胞,骨芽細胞も認められた.新生骨を生じ

た部分の脱灰歯の象牙質は, ところにより吸収

されたと思われる所見もある (Fig.3). しか

し非脱灰歯を剥離骨膜で包んだ例では全例,

線維性組織が歯を取り囲み新生骨はみられなか

った.

(2) 4週目:脱灰歯の例では, 全例に,歯の全

周を取り巻くように新生骨組織がみられたが,

骨組織の眉は 2週目より若干厚い所見が得られ

た.歯牙に近い部分の骨は, 一部,骨細胞の豊

富な幼若な骨基質が認められ,また 2週目と

同様,歯牙の吸収と思われる所見もあ った(Fig.

4) 非脱灰歯の例では, 2週目と同様,全例,

線維性組織が歯をとりかこみ新生骨を認めなか

Fig. 4. Mild osteogenesis, showing higher

ratio of bone area to tooth area than that

at two weeks; decalcified tooth in the per・

iosteum of the parietal bone at four weeks.

x60

- 38ー 結合組織

、 ,・ 1

.-'T r

,、

,. f

,,

Fig. 5. Moderate osteogenesis, showing higher

ratio of bone area to tooth area than that at

four weeks; deca!c:fied tooth in the pericst~um

of the parietal bone at eight weeks. x 80.

、、

Fig. 6. Fibrous tissue, with no osteogenesis ;

non-decalcified tooth in the periosteum of

the parietal bone at eight weeks. x 60

rf ~I\

¥ i:

{も

企ミ;:お乙dirate円 一

Fig. 8. Mild osteogenesis; decalcified tooth

in the periosteum of the femur at two weeks.

中島:膜性骨骨膜の骨形成能 E 脱灰歯による向上 - 39-

Fig. 9. Moderate osteogenesis with primitive

bone marrow formation; decalcified tooth

in the periosteum of the femur at four

weeks. x60.

った.

(3) 8週目:脱灰歯の例では 4週目に比較す

ると歯牙の断面積に比して周囲の新生骨の断面

積が大きく,また,幼若な骨基質はわずかに観

察されるのみであった.歯牙は,かなり吸収さ

れていた (Fig.5).非脱灰歯の 例では, 2週

目, 4週目と同様,線維性組織が周囲をとりか

こみ新生骨は認められなかった (Fig.6).

(4)12週目:脱灰歯の例では全例, 8週自に比

し歯牙の全周にわたり骨増生の量が多く,幼若

な骨組織はほとんど存在せず,多層にわたる層

構造の明瞭な成熟骨が認められた.歯牙は大き

く吸収されているが,残存している. しかし,

活動性の吸収所見はみられなかった (Fig.7).

2. II群

(1) 2週目 脱灰歯を剥離骨膜で包んだ例で

は 5例全例とも, 1群と同様に歯の周囲に新

生骨組織がみられ,骨芽細胞,破歯細胞が一部

認められた.歯牙の吸収と思われる所見も同様

にみられた (Fig.8).非脱灰歯の例でも, 1

Fig. 10. Abundant osteogenesis, a ratio of

bone area to tooth area is abou t 3 ; decalci fied

tooth in the periosteum of the femur at

eight weeks. x 50

群と同様,全例に新生骨の所見は得られず,線

維芽細胞を含む線維性組織が歯の周囲に認めら

れた.

(2) 4週目 :脱灰歯の例では全例 2週目と同

様,歯の周囲に新生骨組織がみられたが,新生

骨の厚さは 2週 日よ り厚く,断面積比について

I群の 4週目と比較すると II群の方が I群よ

りも骨増生量が多いと思われる所見が得られ

た.新生骨組織には骨芽細胞や歯牙の吸収も認

められた (Fig.9).非脱灰歯の例では全例,

線維芽細胞をあまり含まない線維性組織がとり

かこみ,新生骨を認めなかった.

(3) 8週目:脱灰歯の例でも全例,歯の周囲に

新生骨がみられ 2週 目 4週自に比して,厚

い骨の層が認められた.歯と周囲の骨との断面

積比について I群の 8週目と比較すると, II群

の方が I群よ りも骨増生量が多いと思われる所

見が得られた.骨は成熟し, 一部,居板構造を

示していた (Fig.10).非脱灰歯の例では全例,

ほぽ 4週目と同様,線維芽細胞をあまり含まな

- 40ー 結合組織

Fig. 11. Fibrous tissue, with no osteogenesis;

non-decalcified tooth in the periosteum of

the femur at eight weeks_ x 50.

Fig. 13. Fibrous tissue with slight infiltration

of round cells, no osteogenesis; decalcified

and formalin-treated tooth in the periosteum

of the parietal bone at four weeks_ x 50.

Fig. 12. Entire replacement of the tooth by

newly formed bone; decalcified tooth in the

periosteum of the femur at twelve weeks. X

60.

Fig. 14. Slight osteogenesis; decalcified and

formalin-treated tooth in the periosteum of

the femur at four weeks. X 50.

'-1'烏・ 1英ド1:骨骨膜の骨形成能 II.脱灰歯による向上 - 41ー

は 2週目と同様,線維性組織でとりかこま

れ,新生骨はみられなかったが (Fig.13), 頭

頂骨,大腿骨の各 1例に,わずかに新生骨が認

められた (Fig.14, 15).

(3) 8週目・ 4週目と同様,頭頂骨,大腿骨と

も5例中 4例は,線維性組織でとりかこまれ新

生骨はみられなかったが,頭頂骨,大腿骨・の各

1例に,わずかに新生骨を認めた.

以上結果をまとめると,下表のようになる.

IV. 考按

1. 骨膜の骨形成能力を強めると L、う概念に

ついて

骨膜の骨形成能力という概念、は,骨膜に骨を

形成する能力があると考えられはじめて以来,

うちたてられたものである.即ち, DuhameP3) ,

McWilliams ら14)により,骨膜から骨が形成さ

れることが示され,骨膜そのものに骨形成細胞

Fig. 15. High magnification of sl屯ht osteogene- が存在すると考えられた.骨折の際の治癒過程

sis; decalcified and formalin-treated tooth in the

periosteum of the parietal bone at four weeks

x 130.

い線維性組織がとりかこみ,新生骨は観察され

なかった (Fig.11).

(4)12週目:脱灰歯の例では 3例中 2例,歯

牙は完全に吸収され,他の 1例においても残存

歯牙はわずかで,新生骨にi置換されていた.骨

は成熟し層板橋造を示していた (Fig.12).

3. m群

(1) 2週目:頭頂骨,大腿骨とも全例,歯牙の

周囲は細胞成分のやや多い線維性組織でとりか

こまれ,新生骨の所見は得られなかった.歯牙

の吸収はほとんど認められなかった.

(2) 4週目:頭頂骨,大腿骨とも 5例中 4例

においても Ham¥)は,骨膜からの新生骨が骨

折線を bridgingすることにより骨新生の初期

の過程を営むとしており,治癒過程において骨

膜が骨形成を行うことは,大多数の研究者の支

持するところである.その際,骨膜においては,

osteogenic layerが増殖し骨芽細胞が多量に産

生されると考えられている.

ミll.初に述べたように,骨膜の骨形成能力を強

めると L、う慨念については,これまで骨・全体の

骨形成能力を強める,あるいは,骨再生能力を

強めると L、う概念の中でしかとらえられておら

ず,骨膜に限ったものはほとんど認められない.

骨全体の骨形成能力を強めると L、う試みには,

骨代謝に影響する薬物やホルモンの一部,例え

ば vitaminD(V. D)やvitaminC (V. C),成長

ホルモン等があり,特に V.Dは腸管からの

Table. The extent of ossification by the period of wrapping treatment.

8R: 80ne Rep lacelen t

2W 4W 8W 12W +-+ + +: 80ne forlation surrounding tooth

1 Per ios teu・Decalcifled tooth + + ++ ++ + ーーー Tooth Bone (Ratio of area)

parietal b. Non-deca 1 c i f i ed l. approximalcJy 1 I (ICS5 thau)

n Periosteu・Decalcified tooth + 1++ +++ 8R ++ ・ーー 1 (oore than)

fe・ur Non-decalci f ied t. 土 士 +++ー 1・3(・orethan)

m For・alin- I parietal b. ー『 土 No bone for・alionL 山 atedtoo叶felur 一士 土 土 Nobone for・alionincluding cases or

slight osteogenesis

- 42- 結合組織

calciumの吸収を促進し,骨自身にも作用して

その石灰化を助けると考えられているい, 26)

さらに V.Cや成長ホルモン等が基質形成に促

進的に働くこともよく知られており,骨芽細胞

への直接作用も持つと考えられているい, 26) し

かし局所作用で骨形成過程のうちの骨芽細胞

への分化を促進すると考えられているものは,

Uristらの骨誘導物質1-10)と,電気ポテンシャル

による微小電流を用いた手法26)以外には,あま

りみられない.著者の方法は Uristらの骨誘

導物質に相当するものとして, EDTA脱灰歯

牙小片を用い,骨膜内層に接したかたちで,そ

の小片を骨膜弁により包みこむように作製し,

骨膜の骨形成能力の向上の有無を検討したもの

であり,その結果,対照と比較して確実に骨形

成能力が増強していることが認められた.

骨形成能を向上させるということには 2つ

の意味があると思われる. 1つには,骨形成を

早期に生ぜしめるとL、う時間的な意味と 2つ

めには,骨形成そのものを量的に増大させると

いうことである.骨誘導による骨形成において

骨誘導物質が作用するのは,骨芽細胞の分化,

基質形成,石灰化という 3段階のうち,最初の

細胞分化の段階に作用するとされているが,骨

芽細胞への分化が本実験で早くなったかどうか

は, この成績のみで言うことはできない.Urist

ら7ルによると,骨誘導物質である脱灰凍結乾

燥骨を筋組織内に移植後,同部における骨芽細

胞の出現する時期については,移植後 2週目

頃,骨実質の出現は 3週日頃と報告されてお

り,通常の骨折時の骨芽細胞及び骨実質の出現

時期とそう大差はない.遊離骨膜の移植実験に

おいても,骨実質の出現時期は 2週目頃という

報告が多い. しかし, Uddstromerl9)によれば,

膜性骨骨膜の場合大腿骨骨膜に比して骨の出現

時期は遅く,また,前報で報告したように頭頂

骨骨膜においては,人為的な欠損部への骨組織

の新生はみられず,大腿骨の場合 2週目で既に

骨新生が認められているのと比較すると,出現

時期が著しく遅かったか,あるいは出現しにく

かったと考えられる.しかし本実験では,骨

組織の出現時期は 2週目以前に,頭頂骨・大

腿骨の骨膜ともにすべて新生骨組織を認めてお

り,少なくとも頭頂骨骨膜の骨形成能について

は時間的にその能力を向上させたものと考えら

れる.

一方,頭頂骨の骨形成能を量的な問題からみ

てみると, Uddstrδmerl9)によれば, 大腿骨に

比し頭頂骨の骨膜のほうが時間的経過に応じた

骨形成量は非常に少ない(約1/5) ことを示し

ており,著者の前報の実験においても同様な結

果であった.本実験について,脱灰歯とその周

囲の骨形成量の断面積比からみてみると 2週

目では大腿骨と頭頂骨の骨膜であまり差がみら

れないが 4週目 8週目, 12週目と頭頂骨よ

り大腿骨のほうが骨形成比率が大きいようであ

った. しかし,それも, Uddstromerの報告や

著者の前報の実験における大腿骨と頭頂骨の骨

形成の比率の差程には大きくなく,脱灰歯が頭

頂骨の骨膜の骨形成能を増大させたことが示唆

される.また,新生骨の出現頻度については,

実験結果の示すごとく脱灰歯の例では全例にみ

られるのに対し,対照実験では,非脱灰歯の例

では全例骨形成がみられず,脱灰後ホルマリン

浸漬歯牙を包みこんだ骨膜においては15例中11

例に骨形成を認めず,残りの 4例においても骨

形成はわずかであった.新生骨の出現頻度は脱

灰歯を包みこんだ骨膜の方が著しく高い.以上

のことから,頭頂骨においては脱灰歯が非脱灰

のそれらに比し,骨形成能を量的に増大させた

ことは明らかであろう.

2. 脱灰歯の骨誘導について

Uristらは, 1965年,骨を希塩酸で脱灰後凍

結乾燥したものを若年齢の家兎やラットの腹直

筋や大腿筋内に移植し,その部分に骨の形成が

見られたことを報告した10) 骨組織でない部分

に骨が生じたことから,骨を誘導したという概

念を示し脱灰凍結乾燥した骨のみでなく同様

の処理をした歯についても同様の能力があるこ

とを示している 17,18) 森田20) 磯部ら 21)も骨

については追試を行って,それを確認し, Iwata

ら22)はその因子についての研究を進めた.脱灰

凍結乾燥歯牙については Uristらは,骨誘導

能力を同様にもつが脱灰凍結乾燥骨の場合より

中島:膜性骨骨膜の骨形成能 II.脱灰歯による向上 43一

骨形成開始時期が若干遅れると述べている的.

著者の実験では,脱灰歯牙周囲に骨形成がみら

れたが, この要因は Uristらの言う骨誘導因子

が作用したかどうかが論点になるところであろ

う.これについては,骨膜そのものに骨形成能

力があるため,その能力を発現させただけで

Uristらの言う骨誘導と L、う現象とは質の違う

ものではないかという議論があろう.さらに,

歯牙を脱灰処理しただけで Uristらの言う骨

誘導因子が発現しうるかと L、う問題がある.

上記の点については, Senn23), Rayら24九三

森ωが報告した,脱灰骨を移植すると良好な骨

形成が得られると L、う現象が, Uristらの言う

骨誘導因子が作用した結果であるのかどうかと

いう問題に帰着する.即ち, Rayら,三森の実

験や著者の実験では, EDTA等の脱灰操作の

みであるのが, Uristらでは脱灰前にクロロホ

ノレム・メタノール処理,脱灰後に凍結乾燥処理

を行っている違いがあり,脱灰のみで骨誘導因

子が作用しうるかどうかという問題である.

Uristら9)は,骨誘導因子はある種の polypep.

tideと考えており,脱灰することにより骨誘導

因子をマスクした無機物質がとれ,その機能を

発現するとしている.脱灰以外の操作で因子の

骨誘導能力が高められる可能性はあるが,脱灰

操作がその能力の発現に決定的であると考えら

れよう. Urise)によると,脱灰方法を希塩酸か

ら EDTAに換えても,骨誘導能に大きな違い

はなかったと報告している.

著者の実験においても脱灰歯の周囲には全例

骨形成を認め,非脱灰歯の周囲には骨形成がみ

られなかった.また, Urise)によると,脱灰凍

結乾燥骨を10%ホルマリンに浸潰すると骨誘導

能が相当程度失活すると報告しており,著者の

結果でも10%ホルマリン浸漬を行った脱灰歯の

周囲には骨形成の無い例が多く,骨形成を認め

た例においてもわずかな量であった.これらの

結果は,脱灰した歯牙組織が骨膜の骨形成能を

促進したことを示している. この過程は Urist

の言う骨誘導因子の発現と同様の機構による可

能性が高いが,あるいは異なるメカニズムかも

しれない. Sennや, Rayや三森の脱灰骨の場

合も,同様に骨誘導因子が働いたと考えること

ができ,それが硝酸脱灰で失活すると L、う結果

は Uristの結果と一致している.

3. 骨形成機序

脱灰凍結乾燥骨による骨誘導とは,その中に

含まれる骨誘導物質をなんらかのかたちで生体

がとりこみ,その情報により未分化間葉細胞が

骨芽細胞へ分化してゆく過程といえるが,

Urist9)は脱灰凍結乾燥骨が吸収された後に骨形

成が生じる所見を示している.著者の実験にお

いても,歯牙が吸収されたあとに骨新生が生じ

たと考えられる像が多い.即ち,脱灰歯が徐々

に湾状に吸収され,その欠損を補うようなかた

ちで骨が新生されているとみられる所見が多々

認められる.頭頂骨,大腿骨ともに 2週日,

4週目 8週目, 12週日と長期になればなるほ

ど,新生骨の層は厚くなり歯牙は吸収され小さ

くなっている.極端な例では, 12週日の大腿骨

で,歯牙がすべて骨におきかわっている所見が

得られた.

それでは,骨誘導物質を吸収する細胞は何な

のか,さらに骨芽細胞となってゆく細胞との関

連はどういうような機構であるのかと L、う問題

があろう. Urist1)は, macrophage等の遊走細

胞により分解吸収され,筋肉内の未分化間葉細

胞から軟骨芽細胞や骨芽細胞が生じると述べて

いる.著者の実験においては Uristらの筋肉

内移植実験と違い,脱灰歯牙をとりまく骨膜に

骨原性細胞があるということが前提となってい

る.本実験結果では,破歯細胞を脱灰歯周囲に

頻繁に認めた.また,著者の予備実験的な電顕

所見では,骨形成開始の場所は脱灰歯からわず

かに離れた骨膜内層部分に多くみられる,即ち

脱灰歯に接する macrophageや未分化間葉細

胞等の存在する部分が一番はじめの骨基質の形

成開始場所ではない所見も多くみられている.

一般的な骨形成の過程においては, 一 方 で は

macrophageや osteoclast等が骨芽細胞となり

うると L、う説を唱える研究者もいるが,普通は

未分化問葉細胞から前骨芽細胞を経て骨芽細胞

が生じると考えられており 1,26), 本実験におい

ても,上述の通り脱灰歯を貧食細胞が貧食後,

- 44ー 結合組織

何らかのかたちで情報が伝達され,骨膜の骨原

性細胞を賦活したと考えるのがより妥当と思わ

れる所見を得た.

4. 歯牙の移植材としての可能性

Uristら7)は,脱灰凍結乾燥骨を骨欠損等の

際に,骨の治癒を促進する移植材として臨床応

用を試みている.脱灰凍結乾燥骨の素材として

は,自家,同種,あるいは異種骨であるが,自

家骨や同種骨の入手については,量的な限界が

あり, ‘方では,臨床応用するには異種骨が量

的な問題がない.しかし異種骨には抗原性の

問題や,脱灰凍結乾燥処理をした場合, Urist9)

によると自家・同種に比較して骨誘導能が低い

等の問題があり,扱いにくい素材と考えられ

る.歯牙の場合は,自家・同種であっても骨の

場合より入手は簡単であるため,自家骨,同種

骨の代用として用いることができる.これは,

骨誘導物質を臨床応用すると L、う立場からみれ

ば,脱灰歯,脱灰凍結乾燥歯が,臨床上,有用

である可能性が高いと考えられる.

V.結論

膜性骨骨膜の骨形成能力を促進することを目

的とし,ラット頭頂骨骨膜を用いて,骨膜ラッ

プ法により脱灰歯に対する骨膜内層の反応を組

織学的に検討し以下の知見を得た.

1. 頭頂骨骨膜においては,脱灰歯を骨膜でラ

ップすることにより,骨膜の骨形成能を時間

的にも量的にも向上させうることができた.

2. 脱灰歯は,骨誘導能をもつことが示唆され

た.

稿を終えるにあたり,御指導および御校閲を賜わ

った水平敏知教授に心から感謝の意をささげます.

また,実験に際し多大な示唆を賜わった東京大学医

学部口腔外科 山下一郎助教綬に深謝致します.

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別刷請求先:(干113)東京都文京区湯島1-5-45

東京医科歯科大学,難治疾患研究所,超微構造部門

中島英之

Reprint requests to: Dr. Hideyuki Nakajima

Department of CelJ Biology, Medical Research

Institute, Tokyo Medical and Dental University, Yushima 1-5-45, Bunkyo・ku,Tokyo 113, ]apan.