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新潟水俣病の教訓を後世に伝えるために ・・・新潟水俣病教師用指導資料集・・・

・・・新潟水俣病教師用指導資料集・・・...- 3 - 教師用指導資料集作成に当たって -新潟水俣病問題を学習することの意義- 1965(昭和40)年5月に、新潟水俣病の発生が公式確認されてから半世紀近くが経過

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  • 新潟水俣病の教訓を後世に伝えるために

    ・・・新潟水俣病教師用指導資料集・・・

  • 目 次

    □ 教師用指導資料集作成に当たって ……………………………………………………………

    1 新潟水俣病の概要 ………………………………………………………………………………

    2 新潟水俣病被害の概況 …………………………………………………………………………

    3 新潟水俣病地図 …………………………………………………………………………………

    4 新潟水俣病患者救済の状況 ……………………………………………………………………

    5 新潟水俣病問題の動向 …………………………………………………………………………

    6 授業実践のための基本的視点 …………………………………………………………………

    7 学年別指導計画一覧表 …………………………………………………………………………

    □ 小学校学習指導案 ………………………………………………………………………………

    ○ 第3学年 道徳学習指導案 …………………………………………………………………

    ○ 第4学年 道徳学習指導案 …………………………………………………………………

    ○ 第5学年 社会科学習指導案 ………………………………………………………………

    ○ 第6学年 道徳学習指導案 …………………………………………………………………

    □ 中学校学習指導案 ………………………………………………………………………………

    ○ 中学校 道徳学習指導案 1 ………………………………………………………………

    ○ 中学校 道徳学習指導案 2 ………………………………………………………………

    ○ 中学校 道徳学習指導案 3 ………………………………………………………………

    ○ 中学校 道徳学習指導案 4 ………………………………………………………………

    ○ 中学校 道徳学習指導案 5 ………………………………………………………………

    □ 参考資料 …………………………………………………………………………………………

    ○ 阿賀野川流域図 ………………………………………………………………………………

    ○ 阿賀野川流域の暮らし-砂利船 ……………………………………………………………

    ○ 阿賀野川流域の暮らし-早朝の漁 …………………………………………………………

    ○ 昭和電工鹿瀬工場 ……………………………………………………………………………

    ○ 被害者分布図 …………………………………………………………………………………

    ○ 生活する上で困ったこと ……………………………………………………………………

    ○ 昭和電工鹿瀬工場のアセトアルデヒド生産量の推移 ……………………………………

    ○ 阿賀のお地蔵さん ……………………………………………………………………………

    ○ ふるさとの環境づくり宣言 …………………………………………………………………

    ○ 新潟水俣病地域福祉推進条例 ………………………………………………………………

    ○ 新潟県立環境と人間のふれあい館について ………………………………………………

    ○ 新潟水俣病教材年表 …………………………………………………………………………

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  • □ 実践事例 ……………………………………………………………………………………………

    ○ 上越市立東本町小学校の実践 …………………………………………………………………

    小学校第5学年 同和学習「新潟水俣病に対する差別解消に立ち上がる」

    ○ 魚沼市立広神西小学校の実践 …………………………………………………………………

    小学校第5学年 人権学習「ある新潟水俣病患者の訴え(生きるⅢ)

    -新潟水俣病差別問題から学ぶ-」

    ○ 新潟市立葛塚小学校の実践 ……………………………………………………………………

    小学校第5学年 社会科「公害ゼロを目指して」

    ○ 新発田市立外ケ輪小学校の実践 ………………………………………………………………

    小学校第5学年 スマイルタイム(同和教育)「病気に対する差別に立ち向かおう

    ~水俣病から学ぶ~」

    ○ 阿賀野市立水原小学校の実践 …………………………………………………………………

    小学校第5学年 社会科「公害ゼロを目指して」

    □ 関係資料 ……………………………………………………………………………………………

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  • - 3 -

    □ 教師用指導資料集作成に当たって -新潟水俣病問題を学習することの意義-

    1965(昭和 40)年5月に、新潟水俣病の発生が公式確認されてから半世紀近くが経過

    しました。阿賀野川とその沿岸の清らかな水と豊かな自然を見るとき、沿岸地域の住民

    に深刻な影響を与えてきた新潟水俣病が遠い時代の出来事のように感じられます。

    新潟水俣病が発生した時代は、戦後の混乱、復興の時期を経て、我が国の産業構造が、

    繊維工業を中心とした軽工業から重化学工業を主とする工業生産に傾斜していく時代で

    した。また、社会が豊かさや快適さを追い求めていました。この時代、四大公害病とい

    われた新潟水俣病、水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくをはじめ、全国各地で公

    害問題が発生し、多くの国民が、大きな被害を受けました。

    公害被害者の大きな苦しみと犠牲を教訓に、今日の我が国の工業生産をはじめとする

    産業構造が構築され、産業理念と自然環境を守り伝えようとする意識が培われてきたの

    です。いわば、この時代に被害を受けた人々と社会の犠牲の上に、今日の私たちの生活

    が成り立っていると言えます。

    しかしながら、公害問題のすべてが、すでに過去の出来事になったわけではありませ

    ん。私たちの住む新潟県で発生した「新潟水俣病問題」は、公表されてから現在にいた

    るまで、依然として深刻な、そしてすべての県民の力を結集して解決を急がなければな

    らない重要な課題なのです。解決への第一歩は、新潟水俣病の事実を正しく捉え、解決

    に取り組む実践力を培うことです。

    また、大きな犠牲と代償によって得た今日の一見安心安全に見える環境についても、

    食の問題、自然破壊、環境汚染などの問題が国内外で発生し、多くの危機的な状況が報

    道されています。我が国が経験した公害問題は、私たち生物が生存していくための環境

    を守り育んでいくために、後世に伝えていかなければならない大きな教訓を与えてくれ

    ています。命をつなぎ環境を守ることは、すべての人々が経験に学び、実践し、維持し

    なくてはならない、今に生きる私たちに課せられている課題なのです。

    新潟県は、これまで学校教育での新潟水俣病学習の普及・充実を目指して『新潟水俣

    病のあらまし』『未来へ語りついで~新潟水俣病が教えてくれたもの~』『新潟水俣病が

    教えてくれたもの 豊かな○○○川の自然と人』などの刊行・配布を行ってきました。

    2008(平成 20)年3月の「新潟水俣病問題に係る懇談会」(座長 本間義治 新潟大学

    名誉教授)最終提言書では、新潟水俣病学習の教育課程への位置づけの必要性と指導資

    料や授業展開例の提示の必要性等が提言されています。

    本県のすべての学校、教室で新潟水俣病についての学びが行われ、今なお問題となっ

    ている社会的問題の解決、さらには環境保全の必要性を学び、これからの時代に生かす

    ことを願ってこの教師用指導資料集を作成しました。各学校では、学校の実情、児童生

    徒の実態に応じて新潟水俣病学習を教育課程に位置付け、積極的に取り組んでいただき

    たいと思います。本指導資料が、新潟水俣病学習充実の一助となることを願っています。

  • - 4 -

    1 新潟水俣病の概要

    (1)新潟水俣病とは

    ○ 昭和電工鹿瀬工場の排水中に含まれたメチル水銀と河川に排出された無機水銀が微

    生物の働きによって有機化された有機水銀により汚染された魚を、阿賀野川で漁獲し、

    日常的に、かつ多食したことで引き起こされた食中毒(メチル水銀中毒)である。

    ○ 水俣病(メチル水銀中毒)は、次のような特色を有する。

    ・ 環境汚染を媒介とした、食物連鎖による中毒である。

    ・ 中毒の症状としては、狂躁状態、意識障害を示し死に至る場合(急性劇症型)や

    感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害のすべての症状を備えたメチル水

    銀中毒の典型的症状から、被害者の大多数は症候の揃わない、いわゆる不全型まで

    きわめて複雑で多様である。

    ・ 正しい実態は、汚染地区住民の健康障害の中にのみ存在する。

    ○ 新潟水俣病の特性、地域特性としては、次の点がある。

    ・ 阿賀野川流域地域または周辺に居住する住民で、水銀に汚染された阿賀野川の魚

    介類(ウグイ属魚類、ニゴイ等)をほぼ日常的に多食した住民が、メチル水銀に曝

    露された。家族ぐるみ、老若男女・胎児まで、健康な人から病気があった人までが

    侵されている。

    ・ 新潟水俣病は、1956(昭和 31)年に熊本県で水俣病が公式に保健所に報告されて

    から、9年後に発生した第2の水俣病である。

    ・ 1967(昭和 42)年6月、3家族 13 人が昭和電工を被告とする損害賠償請求を新

    潟地裁に提訴した。この提訴は、いわゆる4大公害裁判のさきがけをなすものであ

    った。また、1971(昭和 46)年9月の新潟地裁判決での被害者原告全面勝利の判決

    は化学企業に対して住民への被害防止の注意義務を負わせるとともに、公害事件で

    の被害者原告の立証責任を軽減する内容をもつものであった。

    (2)認定という概念(「認定という概念」は医学の概念ではない。)

    ○ 環境汚染によって起こった、関係する沿岸地域の住民の中毒であるとすると、急性・

    劇症や感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害のメチル水銀中毒の典型的症

    例といわゆる不全型症状の患者と潜在患者や他の地域住民は連続的なものである

    ○ 認定の判定は、医学の概念ではない。

    ・ 「公害健康被害の補償等に関する法律」(昭和 48 年法律第 111 号)上の「認定制

    度」は、水俣病であるか否かを医学的な立場から診断するものではなく、同法に基

    づく判断基準に適合するか否かを行政的な立場から提起されているものである。

    ※「公害研究」Vol.6、No.3 P.56(岩波書店 1977)

    2 新潟水俣病被害の概況

    (1)新潟水俣病患者の捉え方

    ・ 1971(昭和 46)年8月、環境庁は事務次官通知で熊本・新潟両水俣病の認定基準を

    統一し、有機水銀に汚染された魚を食べたもので、水俣病症状のうちいずれかの症状

    が認められ、その症状が明らかに他の原因によるものでなければ水俣病患者であると

    いう判断を示した。いわば「水銀の影響を否定できない者は認定することとした。こ

  • - 5 -

    のことから、救済を求め、公害認定を申請する患者が急増したことで、1977(昭和 52)

    年7月に環境庁(現環境省)は、複数の症状の組み合わせが認められなければ水俣病

    症状とは認められないとし、水俣病認定基準を狭めた。さらに、1978(昭和 53)年7

    月には、医学的に見て水俣病である蓋然性が高いと判断されなければ水俣病として認

    定しないとし、一層厳しい基準となった。このことで、認定される患者数は激減した。

    ・ 2004(平成 16)年 10 月 15 日、水俣病関西訴訟で最高裁は国・熊本県・チッソの責

    任を認めた。最高裁判決の中で、これまでの水俣病判断条件を採用せず、大阪高裁が

    判示した判断条件を採用した。しかしながら、国はこれを認めず患者認定は、現在も

    この関西訴訟最高裁判決以前の条件で審査されている。

    ・ 新潟水俣病問題に係る懇談会は、最終提言書(2008.3.21)の中で次のように提起し

    ている。

    本懇談会は、昭和電工(株)鹿瀬工場の排水に汚染された阿賀野川の魚介類(ウグ

    イ属魚類、ニゴイ等)を摂取したことによってメチル水銀に曝露され、水俣病の症状

    を有する者については、公害健康被害の補償等に関する法律に基づいて水俣病と認定

    されているか否かを問わず、新潟水俣病とする。

    この提言は、2008(平成 20)年9月に制定された「新潟水俣病地域福祉推進条例」

    (平成 21 年4月1日施行)に示されることになった。

    (2)認定患者数・総合対策医療事業対象者

    ◇市町別認定患者数・総合対策医療事業対象者 (2012 年1月末日現在)

    新潟県資料により作成

    被害者は、阿賀野川沿岸集落、原因企業が位置していた鹿瀬町(現阿賀町)から最下流

    の新潟市松浜まで広く存在した。

    現・旧市町村

    名 認定数

    総合対策医療

    事業対象者数

    現・旧市町村

    名 認定数

    総合対策医療事

    業対象者数

    新潟市 328 325 津川町 26 12

    新津市 6 12 鹿瀬町 3 8

    豊栄市 174 143 上川村 3 6

    亀田町 3 2

    町 三川村 23 43

    市 横越村 18 5 五泉市 10 35

    新発田市 0 2

    泉 村松町 0 2

    水原町 23 47 その他 0 19

    京ヶ瀬村 2 7 合 計 700 1,059

    笹神村 0 4

    市 安田町 81 387

    備考 新潟市の総合対策医療事業対象者数は、旧黒埼町、旧白根市、旧小須戸町、旧

    西川町、旧味方村、旧潟東村の対象者数を含んだ数。

    上記の他に、死亡者で総合対策医療事業対象者と同様の症状があるとして一時

    金の対象となった方が 225 名います。

    (人)

  • - 6 -

    (3)患者の症状

    典型的な症例としての神経症状

    ・ 手足の先に行くほど、強く痺れたり疼痛などの感覚が低下したりする「四肢抹消優

    位」の感覚障害

    ・ 秩序だった手足の運動が出来ない小脳性運動失調

    ・ 言葉がうまく話せない構音障害

    ・ 筒を通して見るように視野の周辺部分が見えない求心性視野狭窄

    ・ その他、中枢性聴力障害、中枢性眼球運動障害、中枢性平衡障害、振戦など

    □ 感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害のすべての症状を揃えた症例を、

    ハンター・ラッセル症候群という。(メチル水銀中毒の典型的症例)

    □ 被害者の多くは、症例の揃わないいわゆる「不全型」であり、外見からは健康な

    人と見分けが付かない人もいる。

    ◇ 水俣病(新潟水俣病)の症状とメチル水銀量の関係

    ※原図 原田正純 最高裁判所宛提出「意見書」

    (「新潟水俣病ガイドブック 阿賀の流れに」新潟水俣病共闘会議 2002.10.28 P.4 より転載)

    (4)被害者への差別・偏見

    新潟水俣病は、有機水銀中毒に伴う様々な身体的な被害を発生させただけではない。

    ゆったりと豊かに流れていた住民の生活を破壊し、地域の人々の人間関係をも断ち切

    った。これら、人間関係・社会関係の破壊は、未だ解決されないままに時間が経過し

    てきている。

    新潟水俣病の発生が、熊本県での水俣病発生から9年を経ていたのにもかかわらず、

    発生当初は、原因不明の病気とされたことから、たたり、伝染病などと誤解され、地

    メチル水銀量

    不 妊※※

    流産・死産

    典 型 例(亜急性中毒・慢性進行型など)

    ※※※

    胎児性水俣病

    不 全 型非典型例・軽症例

    精神発達遅滞

    (非特異的)非特異性疾患(肝障害・高血圧など)

    潜在性中毒・不顕性中毒

    ※※ 急性劇症型 (麻痺・痙攣・意識障害)死亡 知覚障害・視野狭窄・運動失調

    ※※※ 聴覚障害・言語障害など。 (ハンター・ラッセル症候群)

    ※メチル水銀中毒 特異的病像

  • - 7 -

    域の中で孤立した被害者、被害者家族もあった。その後、有機水銀中毒に伴う症状と

    判明してからも、病気のために仕事をやめさせられる、結婚差別を受けるという事態

    があった。病院でさえも、医療差別が行われたことが報告されている。

    また、地域で新潟水俣病が発生したことが報道されると、発生地域で漁獲された物

    だけでなく、水俣病発生地域の人が扱っているというだけで海産物まで売れなくなっ

    たり、福島潟、新井郷川の川魚も阿賀野川周辺の魚ということから敬遠され、飼料用

    に安価で売買されたりするなどの影響を受けた。また、捕っても売れないため、漁獲

    から遠のき、漁獲高が減少した。また、販売を確保しようということで、いわゆる「水

    俣隠し」が行われたところもあった。

    被害者は、水俣病の様々な症状を抱え、苦しくなる生活の中で、国による原因究明

    の結論がなかなか出なかったことや昭和電工が「国の結論が出てもこれに従わない」

    と公表したことなどから、1967(昭和 42)年6月 12 日、一部の被害者は、昭和電工

    を相手取って損害賠償を求め裁判を起こした。裁判をめぐっては補償金を受け取るこ

    とになることから、「金銭目的」「金欲しさのニセ患者」だと中傷されたり、家屋の改

    築を行えば「補償金で水俣御殿を建てた」というような羨望・ねたみを受けたりする

    ことがあった。

    こうして新潟水俣病は、健康被害を与えただけではなく、地域住民の相互関係を喪

    失させ、人々の間に埋めがたい深い溝を生み出した。

    このような差別・中傷・偏見の事例については、関礼子(立教大学教授 環境社会

    学)の報告に詳しい。この報告をもとに、整理したものが次の表である。

    項目 差別事象 出典

    病気

    ・ 患者の家では、昼間は(患者の)おしめすら干せず、家

    中を閉め切った。

    ・ 原因が不明であったことから、「たたり」「伝染病」と誤解さ

    れた。また、地域から孤立した。(発生当初)

    ・ 「水俣」というと、部落では変な目で見られる。

    ・ 怠け者といわれる。

    ・ 水俣なんてうそも方便といわれる。

    ・ 水俣病の割りに元気だね・・・といわれる。

    ・ いったいどこが悪りゃえん・・・といわれた。

    『未来へ語りついで』

    H19.7.23 懇談会

    H19.9.05 関資料

    ・ 体の不自由さは、仕事を奪った。仕事が満足にできなく

    なったために、職を失ったり別な仕事にかわらなければな

    らなかったりしたことは悔しいことだった。

    ・ 病気のために仕事をやめさせられる。

    ・ 子どもの就職や縁談で差別を受ける。

    ・ 就職できない。

    ・ 水俣病のことが分かったら首になる・・・。

    『新潟水俣病のあらま

    し』

    就職・就業

    ・ 「おい、水俣がきたぜ、ミナだ、ミナだ。」

    「就職もできないのか。」

    『いっち うんめい 水

    らった』

  • - 8 -

    ・ 訴訟に加わることが会社に知られると、神奈川、群馬、長

    野と次々に転勤を命じられた。なれない重労働に耐え

    た。

    H19.6.13 サンケイ新

    ・ 患者の家には、嫁にやっちゃだめだ。孫の代までたたら

    れる。

    ・ 自分が患者であるために、子どもの結婚話を断られる。

    ・ 患者の家には、嫁や婿をやってはならぬ。孫の代までた

    たる。

    ・ 子どもの就職や縁談で差別を受ける。

    『未来へ語りついで』

    ・ 水俣病になると結婚がだめになる 語り部

    結婚

    ・ 水俣病というと、嫁がきてくれない。 H19.7.23 懇談会

    ・ あそこの家は、病人をだして金儲けをしている。

    ・ ニセ患者が、金欲しさに裁判を起こしている。

    ・ 「健康な体を返してほしい」という訴えは、「金目当て」と

    誤解された。

    ・ あけましてご不幸でござる。うそつきやろう にせものやろ

    う 松浜のハジサラシヤロウ 死ねばじごくだ(誹謗のはが

    き)

    ・ 大変だ 大変だ やぼこいて、にせ者が 本物になるなん

    て良心があるのか

    ・ あの家は、水俣御殿を建てた。水俣財閥だ

    ・ 金目当てにしている。

    『未来へ語りついで』

    金 銭 的 な 羨 望 ・ 妬

    ・ 大きな農家なのにまだ金が欲しいのか

    ・ 寝てても銭が入っていいね・・といわれる。

    ・ 普段は、仲がよい人でもお金が絡むと態度が変わる。

    ・ 人がお金をもらうのに応援などできるか・・・といわれた。

    ・ 水俣病に認定されたから仕事をやめたんだろうといわれ

    た。

    ・ 金欲しさに、申請をしているといわれた。

    H19.9.05 関資料

    ・ 補償金を受け取ることへの妬みからか、認定者に対して

    の誹謗

    ・ 金銭目的、ニセ患者と抽象誹謗される。

    補償金で、水俣御殿を建てる

    H4.2.26 毎日新聞

    H4.2.26 毎日新聞

    ・ 救済を求めた裁判をめぐっては、補償金を受けるのに際

    して ⇒差別や抽象を恐れて「水俣かくし」も・・・

    ・ 補償金欲しさに水俣病患者のふりをしている。

    ・ 何かやると「金儲け」といわれる。

    ・ 報道されると「金儲け」と言われる。

    ・ 裁判に参加すると、「金儲け」と言われる。

    『新潟水俣病のあらま

    し』

  • - 9 -

    ・ 手間と金を使って活動しても、いやなことを言われる。

    ・ テレビに出ると「陰口」を言われる。

    ・ 未認定患者である限り「ニセ患者」と差別を受け続ける。

    H19.7.23 懇談会

    H19.6.14 懇談会

    病気のつらさ ・ 病気なのにどうしてあんなに元気なのかと言われる。(外か

    らは分からない病気のつらさがある。)

    H19.9.05 関資料

    その他 ・ テレビに出ては見場が悪い・・・と言われる。

    ・ 嫌がらせのはがきや電話を受けている。

    ・ 病院で、ニセ患者扱いをされた。

    H19.9.05 関資料

    (参考)

    ○ 新潟水俣病未認定患者統計調査・ケースレポートにより関礼子作成資料-抜書き(立

    教大学教授 2007.9.05)、『未来へ語りついで』(新潟県 2002.3)、「新潟水俣病 今

    問われるもの 第 2 次訴訟判決を前に」(毎日新聞 1992.2.26)、『新潟水俣病のあら

    まし』(新潟県 2002.3)、『いっち うんめい 水らった』(新潟水俣病聞き書き集制

    作委員会 2003)、懇談会での新潟水俣病患者(被害者)のことば(於;環境と人間の

    ふれあい館 2007.5.23)などをもとに作成。

  • - 10 -

    3 新潟水俣病地図

    ※「新潟水俣病ガイドブック 阿賀の流れに」新潟水俣病共闘会議 2002.10.28 P.2 より転載

  • - 11 -

    4 新潟水俣病患者救済の状況

    (1)現在の救済該当要件・給付(補償)概要

    区分 該当要件 給付(補償)概要

    公健法認定者

    (公健法;公害

    健康被害の補

    償等に関する

    法律)

    〇感覚障害に加え、運動失調等の症

    状の組み合わせが必要

    【昭和電工の給付補償概要 1973.6.21】

    ① 一時金

    ② 終身特別調整手当

    ③ 医療費全額

    ④ 介護保険サービス費の利用者負担分

    ⑤ 医療手当

    ⑥ はり・きゅう・マッサージ、温泉療養

    費等

    区分 該当要件 給付(補償)概要

    医療手帳

    〇水俣病にも見られる四肢末梢優位

    の感覚障害を有すると認められる

    者(受付期間;平成 4.6~平成 7.3

    末、平成 8.1.22~7.1)

    ① 一時金(平成7年の政治解決時に支

    給)

    ② 療養費(医療費(保険適用分)の自己

    負担分、介護保険法の適用を受ける医

    療系サービスの利用者負担分)

    ③ はり・きゅう施術費、温泉療養費

    ④ 療養手当

    ○通常起こり得る程度を越える

    メチル水銀のばく露を受けた

    可能性がある者のうち、

    (ア)四肢末梢優位の感覚障害を有する者

    (イ)全身性の感覚障害を有する方その他の四肢末梢優位の感覚障害を有する方に準ずる者

    ① 一時金(一時金等対象者に対して支

    給)

    ② 療養費(医療費(保険適用分)の自己

    負担分、介護保険法の適用を受ける医

    療系サービスの利用者負担分)、保険

    適用外のはり・きゅう施術費、温泉療

    養費

    ③ 療養手当

    水俣病 被害者 手帳

    (「水俣病被 害 者 の救 済 及 び水 俣 病 問題 の 解 決に 関 す る特 別 措 置法 の 救 済措置方針」( 平 成 22年 4 月 16日 閣 議 決定)に基づく給付によるもの))

    ○一時金等の対象となる程度の感覚

    障害を有しないまでも、一定の感

    覚障害を有する者で、水俣病にも

    見られる症状のいずれか※を有す

    る者

    ※ しびれ、ふるえ、カラス曲がり(こ

    むら返り、痙攣、足がつる)、見え

    る範囲が狭い・はっきり見えない、

    耳が遠い・耳鳴り、味覚・嗅覚の異

    常、言葉を正確に発せない、めま

    い・立ち眩み、つまずきやすい・ふ

    らつく、物を落としやすい・手足の

    脱力感。

    ○療養費(医療費(保険適用分)の自己負

    担分、介護保険法の適用を受ける医療系

    サービスの利用者負担分)、保険適用外

    のはり・きゅう施術費、温泉療養費

  • - 12 -

    (2)国制度の現状

    〇;支給、×;不支給

    総合対策医療事業の手帳所持者 公健法認定者

    水俣病被害者手帳 項目 内容

    一時金等対

    象者 左記以外

    医療手帳 左記に相当する者

    (昭和電工の補償内容)

    認 定 者

    ・医療費の自己負担分 〇 〇 〇 ・医療費の自己負担分 〇

    ・介護保険の医療系サービスの利用者負担分

    〇 〇 〇 ・介護保険の医療系サ

    ービスの利用者負担分

    〇 保 険 が適 用 にな る もの ・介護保険の福祉系サ

    ービスの利用者負担分

    × ×

    療養費

    ×

    費 ・介護保険の福祉系サ

    ービスの利用者負担分

    ・はり・きゅう施術費、温泉療養費の実費額の支給 上限;月 7,500 円

    〇 〇

    はり・きゅう施術費及び温泉療養費

    〇 保 険 が適 用 にな ら ないもの

    ・マッサージ施術費の支給 × × ×

    ・はり・きゅう・マッサージ施術費の実費費の支給(月5回まで)

    ・温泉療養費の支給 一泊又は日帰り 年 12 回まで (一部自己負担あり)

    療養 手当

    ・保険が適用になる療養を受けたときに支給

    ・月額 入院17,700円 通院70歳以上

    15,900円 通院70歳未満

    12,900円

    ×

    ○ ・月額 入院 23,500 円 通院 70 歳以上

    21,200 円 通院 70 歳未満 17,200 円

    ・上記「療養費」に係る通院等を含む諸雑費を日数に応じて支給

    ・月額 入院 5,000 円~7,000 円 通院 1,000 円~5,000 円

    ・終身特別調整手当 年額 1,428,100 円

    注1 国の制度は、2010 年5月からの制度による。

    2 水俣病被害者手帳所持者中「左記以外」の者とは、一時金等の対象となる程度の感覚障害

    を有しないまでも、一定の感覚障害を有する者で、水俣病にも見られる症状のいずれかを有

    する者。

    5 新潟水俣病問題の動向

    (1)新たな動き

    最高裁判所は、2004(平成 16)年 10 月 15 日水俣病関西訴訟について、国・熊本県・

    チッソの責任を認め、行政責任が確定した。この判決は、大阪高等裁判所判決で示さ

    れた判断条件を支持したものであった。最高裁判所判決で示された判断条件にかかわ

    らず、行政はこれまでの判断基準を維持することとしたため、司法と行政での判断基

    準が並存することになった。この関西訴訟最高裁判決を契機として、新潟水俣病被害

    者においても新たに民事訴訟が提起され、認定申請が相次いだ。

    2004(平成 16)年 10 月 15 日の最高裁判決を受けて、環境省は 2005(平成 17)年 4

    月 7 日に「今後の水俣病対策について」を発表した。この中で、国としてすべての水

    俣病被害者に謝罪の意を示すとともに、水俣病公式確認 50 年を迎えるに当たって、関

    係地方自治体と協力し、医療対策の一層の充実や水俣病発生地域の再生・融和の促進

    を行うことを示し、その一環として、それまでの保健手帳の申請受付を 2005(平成 17)

    年 10 月 13 日から再開した。

    一方、当時の与党(自由民主党)プロジェクトチームによる水俣病問題の全面解決

    が模索され、2009(平成 21)年7月2日、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解

    決に関する特別措置法案」について与野党が合意、7月8日に参議院で可決成立した。

  • - 13 -

    この特別措置法の骨子は次の通りである。

    ・ 水俣病被害の拡大を防止できなかったことについて政府として責任を認め、お詫

    びする。

    ・ 過去にメチル水銀の曝露を受けた可能性があり、手足の先や全身の感覚障害があ

    るものなどを早期に救済するため、一時金、医療費、療養手当の支給に関する方針

    を定め公表する。

    ・ 「四肢末梢優位の感覚障害」「全身性の感覚障害」「口の周りの感覚障害」「舌の二

    点識別覚障害」「求心性視野狭窄」の症状を救済対象として考慮する。

    ・ 3年以内をめどに救済対象者を確定し、速やかに支給する。

    ・ チッソを分社化し、子会社の株式売却益を補償に充てる。チッソが一時金の支払

    いに同意するまで、環境省は分社化の前提の事業再編計画を認可しない。(親会社が

    持つ子会社株式の譲渡は救済の終了と市況の好転まで凍結する。)

    ・ 政府は、(公健法で指定された水俣病患者が多発する)指定地域や周辺に住んでい

    た人の健康に係る調査研究等を行い、結果を公表する

    ※2009 年 7 月 20 日 毎日新聞。一部加筆

    2009(平成 21)年末の衆議院選挙で政権交代が行われたことを機会に、和解への動

    きがはじまり、2010(平成 22)年1月には、水俣病の未認定患者等でつくられた「水

    俣病不知火患者会」が国・熊本県・チッソに損害賠償を求めた集団訴訟で、熊本地裁

    が和解勧告を行い、原告・被告ともにこの和解勧告を受け入れたため和解協議に入り、

    2010 年3月 29 日に和解の基本合意が成立した。

    政府は、2009 年7月に可決・成立した特別措置法に基づき、2010 年4月 16 日に「水

    俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法の救済措置の方針」を閣

    議決定し、5月1日から水俣病特措法に基づく給付申請の受付を開始した。

    新潟県では、新潟水俣病公式確認から 40 年を迎えることを契機に、泉田裕彦知事に

    よる「ふるさとの環境づくり宣言」が 2005(平成 17)年6月6日に行われた。この中

    で示された、被害者の高齢化に対応するための保健福祉施策の充実や、新潟水俣病の

    啓発と情報発信の強化などの取組が 2006(平成 18)年から行われている※1。

    国の水俣病問題への対応が進展しない中、泉田裕彦新潟県知事は「熊本水俣病の被

    害がありながら、これを教訓としないで、何故に新潟県に第二の水俣病被害が発生し

    たのか・・・。私たちの今日の生活は、水俣病患者の犠牲の上にあるのではないか。

    今からでも、患者の生活を援助するために、県独自でなしうる方策を示す必要がある」

    として、2007(平成 19)年2月、「新潟水俣病問題に係る懇談会」(座長 本間義治 新

    潟大学名誉教授)を設置し、提言を求めた※2。

    ※1 「新潟水俣病のあらまし」暫定版 新潟県 2007 年3月 PP.34-35 から抜粋して作成

    ※2 「新潟水俣病問題に係る懇談会最終提言書―患者とともに生きる支援と福祉のために-」新潟水俣病問題に係る懇談会 座長 本間義治 2008 年3月 21 日 PP.9-10 を参

    考に作成

    (2)新潟水俣病問題に係る懇談会の提言

    「新潟水俣病問題に係る懇談会」は、2008(平成 20)年3月 21 日に、最終報告書

    を泉田知事に提出した。最終提言の骨子は次のようであった。

  • - 14 -

    ≪骨子(要旨)≫

    ○ 新潟水俣病患者

    本懇談会は、昭和電工(株)鹿瀬工場の排水に汚染された阿賀野川の魚介類(ウ

    グイ属魚類、ニゴイ等)を摂取したことによってメチル水銀に曝露され、水俣病の

    症状を有する者については、「公害健康被害の補償等に関する法律に基づいて水俣病

    と認定されているか否かを問わず、新潟水俣病患者とする。

    ○ 患者への救済・支援

    新潟県・新潟市は、患者救済にあたり、これまで積極的な対応を行ってこなかっ

    たことを重く受け止め、高齢化する新潟水俣病患者の救済・支援のために、新潟県

    独自の施策を講じることが急務である。

    ○ 患者救済のための恒久対策の樹立

    この提案が、持続的に今後の県政に反映され、実施されることを願っている。そ

    のために県として、患者救済のための恒久的な枠組みを作ることを望む。

    ○ 県独自施策と支給対象者

    新潟水俣病患者の介護費用、療養費及び生活支援等に充てるため、患者支援の県

    独自の施策として、「新潟水俣病療養手当」(仮称)、の支給を提案する。この手当て

    の支給対象者は、総合対策医療事業の手帳所持者及び今後手帳を取得する者とする

    のが適当と考える。

    ○ 患者の声を吸い上げられる環境づくり

    新潟県は流域市町との連携により、潜在患者が声を出しやすい環境づくり、患者

    の声を吸い上げられる環境づくりを行っていく。また、患者団体や市民団体による

    新潟水俣病患者を支援するボランティア活動や普及啓発活動につながる活動を育て

    なくてはならない。

    ○ 全県的な啓発・教育

    教育の中に新潟水俣病問題を位置づけ、発達段階に応じての啓発・教育活動を全

    県的に展開していく必要がある。また、「環境と人間のふれあい館」を拠点として、

    新潟水俣病の歴史と教訓の情報発信、啓発・教育活動の支援及び県民・行政・企業

    の研修等を関係諸機関等と協働して推進していかなければならない。

    ○ 事業の継続

    新潟水俣病に関する諸施策について評価し、その評価を次年度以降の施策につな

    げていく方途を提言するような「場」の創出や「組織」の設置が望ましい。

    ○ 行政における新潟水俣病の教訓化

    新潟県及び流域市町は、新潟水俣病の教訓を踏まえ、福祉・人権・環境保全及び

    食の安全に高い識見を持つ自治体を目指す必要がある。

    ※ 「新潟水俣病問題に係る懇談会最終提言書-患者とともに生きる支援と福祉のために

    -」最終提言の骨子 2008 年3月 21 日より引用)

    (3)新潟水俣病地域福祉推進条例の制定(2008 年9月制定、2009 年4月1日施行)

    新潟水俣病問題に係る懇談会の提言を受けた新潟県は、新潟水俣病に関する施策の

    一層の推進を図るため、「新潟水俣病地域福祉推進条例」を制定、施行した。

  • - 15 -

    ① 条例制定の趣旨

    高度経済成長期において豊かさや快適さを享受してきた一方で発生した新潟水俣

    病の被害に遭われた方々の犠牲があったことに真摯に向き合う必要がある。このた

    め条例では、新潟水俣病の被害者の方々を社会全体で支えていくとともに、誰もが

    安心して暮らせる地域社会を実現していくため、新潟水俣病患者の社会的認知とそ

    の福祉の増進を図り、地域社会の再生と融和を促進することとする。

    ② 条例制定の意味するもの

    条例の制定、施行について関礼子氏(立教大学教授)が、JanJan ニュースの中で次

    のようにコメントしている。新潟県の小・中学校が、授業として新潟水俣病問題を

    取り上げる意義にも相通じるように思う。

    ◇ 2008 年 10 月 28 日「JanJan ニュース」 関礼子 ◇

    新潟水俣病の「語り部」として活躍していた徳太郎さんが急逝したのは、2003 年

    のことだった。ご遺族に見せていただいた徳太郎さんの手帳は、ある意味、衝撃だ

    った。日記がわりの手帳には、散歩に出かけて友達と立ち話をしたとか、どこを歩

    いたとか、日々の他愛のない出来事が綴られていた。新潟水俣病の被害者としての

    活動は、日常の中に、ぽつぽつと埋め込まれているだけだった。新潟水俣病発生の

    公式発表から 38 年が経っていた。新潟水俣病の被害者は、被害者である以前に、地

    域の中で日常を生きる生活者である。そうした当たり前の事実を、徳太郎さんの手

    帳は改めて教えてくれた。

    それから5年が経過した 2008 年9月、日本で初めての水俣病被害者支援のための

    条例となる「新潟水俣病地域福祉推進条例」が制定された。国の認定基準では、「水

    俣病患者」とは認められなかった被害者を、「水俣病患者」と位置付けて。新潟水俣

    病患者を地域全体で支えていこうという条例である。

    新潟水俣病への偏見のない社会をつくること、制度の谷間で被害補償が十分とは

    いえない患者の福祉を向上させること、新潟水俣病が深刻な影響を与えた地域社会

    の絆を修復し、その再生と融和を進めていくこと、誰もが安心して暮らすことの出

    来る地域社会をつくることに、この条例の目的がある。

    「新潟水俣病地域福祉推進条例」の制定は、住民に近い立場にある自治体が、住

    民である公害被害者に寄り添い、生涯にわたって支えていくための明確な一歩を記

    した。新潟水俣病の補償責任は加害企業と、公害の発生・拡大を食い止めることが

    出来なかった国にある。だが、補償とは別の、福祉という次元から被害者の苦痛を

    和らげること、新潟県はそのことに寄与することを示したのだ。こうした新潟県の

    発想の転換を、徳太郎さんは草葉の陰で喜んでくれたに違いない。徳太郎さんだけ

    ではない。被害者運動が困難な中で、「補償金欲しさで運動している」と陰口をたた

    かれたまま亡くなった多くの新潟水俣病被害者の方々が、残された仲間たちの、そ

    して自らの「新潟水俣病患者」としての名誉回復を歓迎し、条例が描く「あるべき

    社会」の実現に向けた歩みを、厳しくも温かい眼差しで見守っていることだろう。

    条例は、2009 年4月に施行される。そこが、新潟県の新潟水俣病関連施策の新たな

    スタートラインだ。

  • - 16 -

    6 授業実践のための基本的視点

    住みよい環境、安全安心な地域社会を築いていくには、公害被害の教訓を次世代に伝

    え、この教訓を生かした取組を促すことが重要である。このため、授業モデルの構想に

    当たっては、次のような基本的視点をもとに取り組んでいる。

    ・ 我が国が高度経済成長期に「豊かさ」「快適さ」「利便性」を追求する過程で発生し

    た公害被害の典型の一つとして、新潟水俣病被害がある。こうした公害被害者が声を

    あげたことで「公害規制」が行われ、制度としても整備された。いわば公害被害者の

    犠牲の上に、現代社会の生活の利便性、快適性が築かれたことを認識する必要がある。

    ・ 公害の原因、公害被害の現実という事実に基づき、環境と人間の生命、社会のメカ

    ニズムを科学的にとらえさせる。

    ・ 公害被害が人々の生活や地域社会に与えた影響をもとに、人間の尊厳、生命の尊重

    といった人権尊重の大切さを認識させる。

    ・ 公害被害の教訓を生かして、環境の保護、住みよい地域社会を作り出そうとしてい

    る地域住民、行政の主体的な営みを捉え、自らも参加しようとする実践的な態度、行

    動力を育む。

    基本的な視点をもとに、小・中学校で新潟水俣病問題の学習を構想するときの視点を

    次のようにとらえた。

    小学校

    【教材化の視点】

    ◎ 新潟水俣病問題の教訓を生かして取り組まれなくてはならない環境の維持・保全

    ○ 阿賀野川の豊かな恵みの中で暮らす人々と被害の発生(自然と公害病発生の関係)

    公害は、豊かな自然を破壊し、人々の健康と生活を蝕んだ。

    ○ 患者の苦しみ、地域の変化(心身の破壊だけでなく、人間関係も壊した公害)

    患者の発生は人としての破壊だけでなく地域社会も破壊した。

    ○ 求められる患者の立場に立った被害者救済(必要な公害病の理解と救済)

    患者の立場に立った身体的苦痛の救済だけでなく社会的・心理的な救済

    が必要だ。

    ○ 進み始めた水俣病の教訓を活かす環境保全や教育の取組(水俣病の教訓を活かす取組)

    患者の救済と公害問題に学んだ地域づくりが始まっている。

    【学びの期待】

    □ 3年生 新潟水俣病被害者が、精一杯生きていることをとらえる。

    □ 4年生 患者の身体的・心理的な立場を、自分のこととして捉える。

    □ 5年生 新潟水俣病の発生原因と被害者・社会に与えたこと、進められている教訓

    を活かす取組をとらえる。

    □ 6年生 「つらさ」に寄り添った理解と差別偏見に負けずに生活する患者に共感す

    る。

  • - 17 -

    中学校

    【教材化の視点】

    ◎ 新潟水俣病問題の教訓を生かして取り組まれなくてはならない環境の維持・保全

    ○ 豊かな自然の中で河川に放出されたメチル水銀によって起こった公害は阿賀野川全体

    を汚染し、多くの人々の健康・生命・家庭を破壊した。

    ○ 新潟水俣病は、高度経済成長期の工業・経済優先政策の中で生み出された。

    ○ 新潟水俣病裁判の判決は、メチル水銀による河川の汚染源を特定し、患者救済への道

    を開いた。

    ○ 「新潟水俣病問題」解決のためには、患者支援施策のほか、県民の正しい理解と患者

    の現実を踏まえた国・県の環境施策が必要だ。

    【学びの期待】

    □ 中学校1 病苦の中でも家族への思いやりから水俣病であることを隠した家族の

    苦しみを知り、差別・偏見への憤りを持つとともに差別解消への思いを深め

    る。

    □ 中学校2 人々が安心して暮らしていくために、自然を畏敬し、社会全体で環境を

    大切することの必要性をとらえる。

    □ 中学校3 地域の人と人との結びつきの再生には、新潟水俣病の理解と患者支援、

    差別解消が必要なことを捉え、解決への実践的な意欲を高める。

  • - 18 -

    7 学年別指導計画一覧表

    ○小学校指導計画例

    学年

    教科等

    主題(単元)名 目 標 時間数

    備 考

    3 道

    せいいっぱい生 き

    ていこう

    3-(1)生命尊重

    新潟水俣病患者さんの生き方を

    知ることで、生命を大切にし、精

    一杯生きようとする心情を育て

    る。

    涌井克己著『阿賀の

    お地蔵さん』(考古堂

    2006)による

    4 道

    みんなが仲良くくら

    していくために

    2-(2)思いやり、

    親切

    地域が偏見や差別によって結び

    つきを失っていく過程を学ぶこと

    を通して、相手の立場を想像し、

    相手のことを考えた言動の大切さ

    に気づき、自らも相手に親切な行

    為を行おうとする心情を高める。

    1 資料;お地蔵さんに

    こめられた願い

    5 社

    公害を二度 と繰

    り返さない ため

    に~新潟水 俣病

    新潟水俣病の発生、患者の症状

    について関心を持ち、新潟水俣病

    の発生原因と発生の経過、患者の

    病状、苦しみなどを知るとともに、

    患者への対応や教訓を生かした公

    害を防ぐための取組について、地

    図や各種資料をもとに調べ、公害

    から人々の健康や生活環境を守る

    ことの大切さを捉える。

    5年生社会科下「く

    らしと環境」題材と

    置き換え、新潟水俣

    病問題を、中心教材

    として取り上げる。

    6 道

    病気に対する差別

    や偏見に立ち向か

    う~ある水俣病患

    者の訴え~

    4-(2)公平・公正

    正義の実現

    新潟水俣病患者が受けた差別や

    偏見に憤るとともに、病気に対す

    る差別、を無くしようとする心情、

    さらには差別を許さず、ともに立

    ち上がろうとする気持ちを高め

    る。

    資 料 「 生 き る Ⅲ 」

    PP.7-14、「生きるⅢ

    指導の手引」を合わ

    せて参照されたい。

    ○中学校指導計画例

    № 教科等

    主題(単元)名 目 標 時間数

    備 考

    1 道

    検査への迷い

    4-(3)公平・公正

    家族が受ける差別・偏見の恐怖

    で苦しんだ新潟水俣病患者樋口さ

    んの思いを知り、差別・偏見への

    憤りを持つとともに差別解消への

    思いを深める。

    「患者差別を許さな

    い」心情を高めるこ

    とに焦点化する展開

    を B 案 と し て 示 し

    た。

  • - 19 -

    № 教科等

    主題(単元)名 目 標 時間数

    備 考

    2 道

    新 潟 水 俣 病 患 者

    への差別

    4-(3)公平・公正

    差別や偏見の な

    い社会の実現

    新潟水俣病被害者への差別や偏

    見を知り、ロールプレイを通して、

    差別や偏見を許さない気持ちを高

    め、公平公正で差別や偏見のない

    社会の実現への実践的な態度を育

    てる。

    概要を捉えさせるた

    めのプレゼン用「新

    潟水俣病-舞台は阿

    賀野川」(パワーポイ

    ント)※を活用願い

    たい。

    3 道

    後世に伝えたいこ

    3-(2)自然愛

    新潟水俣病が人々の健康を蝕

    み、生活を変えたことへの理解を

    通して、人びとが安心して暮らし

    ていくためには、自然を畏敬し、

    社会全体で環境を大切にすること

    の必要性について思いを深める。

    『AGA 草紙』(阿賀に

    生きる製作委員会)、

    『 未 来 に 語 り つ い

    で』(新潟県)を合わ

    せて参照されたい。

    4 道

    地域の絆を再生の

    ためにできること

    4-(8)郷土愛

    新潟水俣病の発生で失われた地

    域の絆の再生にとって、新潟水俣

    病の理解、患者の支援、環境保全

    の大切さの理解が必要なことを捉

    え、自分が果たすことのできる事

    を考える。

    『AGA 草紙』(阿賀に

    生きる製作委員会)、

    『 未 来 に 語 り つ い

    で』(新潟県)を合わ

    せて参照されたい。

    5 道

    豊かな阿賀の流れ

    よ~新潟水俣病の

    苦悩をこえて~

    4-(3)公平・公正

    差別や偏見の な

    い社会の実現

    新潟水俣病について理解を深

    め、新潟水俣病患者の心身の苦悩

    を共感的に捉えることを通して、

    差別や偏見のない社会の実現に努

    めようとする気持ちを高める。

    県中教研道徳資料に

    「読み物資料」が掲

    載されている。合わ

    せて参照されたい。

    ※ プレゼン用「新潟水俣病-舞台は阿賀野川」は、新潟県庁ホームページ内「新潟水俣病教師用指導資料

    【参考資料】」のページからからダウンロードできる。

    ◎ 中学校の学習指導案例1~5は、緩やかに学習の深まりを想定して作成されている。

    各学校の学習の履歴や生徒の実態により、選択されて参照されたい。

    ◎ 各学年に1時間程度の学習を積み重ねる場合や、集中的に2~3時間を取り組ませる

    場合等、各学校の実態に応じた取組をお願いしたい。

    <参考となる実践事例>

    ・小学校第5学年 同和学習「新潟水俣病に対する差別解消に立ち上がる」

    上越市立東本町小学校

    ・小学校第5学年 人権学習「ある新潟水俣病患者の訴え(資料『生きるⅢ』より)-

    新潟水俣病差別問題から学ぶ-」 魚沼市立広神西小学校

    ・小学校第5学年 社会科「公害ゼロを目指して」 新潟市立葛塚小学校

  • - 20 -

    ・小学校第5学年 スマイルタイム(同和教育)「病気に対する差別に立ち向かおう

    ~水俣病から学ぼう~」 新発田市立外ケ輪小学校

    ・小学校第5学年 社会科「公害ゼロを目指して」 阿賀野市立水原小学校

  • - 21 -

    小学校学習指導案

  • - 22 -

    第3学年 道徳学習指導案

    1 主題名 せいいっぱい生きていこう 3-(1)生命尊重

    2 主題について

    第3学年及び第4学年の内容項目3-(1)は「生命の尊さを感じ取り、生命あるも

    のを大切にする」となっている。自分自身の生命の尊さを知り、同様に生命あるものす

    べてを大切にしようとする心を育てようとするものである。

    命は人間にとって最も大切なものである。一度失った命は二度と元に戻すことはでき

    ないかけがえのないものである。しかし、水俣病によって、そのかけがえのない命が傷

    つけられ、失われていった。

    そこで、子どもたちには、生きていることを当たり前のこととしてとらえるのではな

    く、生きることの素晴らしさを感じとらせたいと思う。水俣病という人災によって、今

    なお苦しんでいる人たちがいる事実を知らせることにより、かけがえのない命を大切に

    し、今をせいいっぱい生きようとする心情を育てたい。

    本教材は、少年が阿賀のお地蔵さんとの出会いを通して初めて水俣病のことを知り、

    患者やそれを取り巻く人々の苦しみや願いに共感して、力強く生きていこうという決意

    をする話である。同じように初めて水俣病のことを知る 3 年生の児童にとって、共感的

    に読み進めることができる教材である。

    3 ねらい

    新潟水俣病患者の生き方を知ることにより、生命を大切にし、せいいっぱい生きよう

    とする心情を育てる。

    4 展開のための視点

    『阿賀のお地蔵さん』という子ども向けに書かれた絵本を読みながら、水俣病の概要

    についてとらえさせる。また、実際に水俣病問題の解決や被害者の救済にかかわってき

    た人から、病気で苦しむ人やその人たちを取り巻く人々の苦しみや願いを聞くことによ

    り、共感的な理解と自分自身の今ある健やかな命を大切にし、せいいっぱい生きようと

    する気持ちを高めたい。

  • - 23 -

    5 展開例

    ○学習活動●学習内容□主な発問 ◇指導上の留意点 資料 配時

    (分)

    ○お地蔵さんの写真を見て、お地蔵

    さんがある場所(新潟県阿賀野市)

    を略地図で確認する。

    ●お地蔵さんは、絵本のたかしくん

    が引っ越してきた阿賀野市にあ

    る。

    ◇PP.1~8は、教師があら

    かじめ読み聞かせてお

    く。また、次の要点を確

    認しておく。

    ・たかしは、神戸から来た

    小学生であること。

    ・まだ、新しい環境に慣れ

    ていないこと。

    ・神戸の祖父を思い出して

    いること。

    ・写真「阿賀

    のお地蔵さ

    ん」

    ・略地図

    ・絵本『阿賀

    のお地蔵さ

    ん』

    ( 絵 と 文

    WAKKUN 考

    古堂)

    ・黒板掲示カ

    ード

    ○絵本『阿賀のお地蔵さん』P.18 の

    11 行までの教師の音読を聞き、水

    俣病のあらましを知り、話し合う。

    ●工場が流し続けた毒水が入った阿

    賀野川の魚を食べ続けた人々が、

    水俣病という恐ろしい病気になっ

    た。この病気で現在も苦しんでい

    る多くの人がいる。

    ●おじいさん(参治さん)は、水俣

    病の仲間や亡くなった人にゆっく

    り休んでほしいと願って歌を歌っ

    ている。

    ◇黒板掲示カードを使用

    し、水俣病のあらましを

    端的にまとめる。

    ◇おじいさんは、参治さん

    という名前で、新潟水俣

    病患者であることを知ら

    せる。

    ・黒板掲示カ

    ード

    15

    ○絵本『阿賀のお地蔵さん』PP.19~

    23 の読み聞かせを聞き、患者のつ

    らい気持ちや頑張って生きている

    様子や願いを知り、発表する。

    15

    □ この写真のお地蔵さんは、どこにあるのでしょう。

    □ お地蔵さんの前でおじいさんは、どんな気持ちで歌を歌っていたのでしょう。

    □ まゆ毛のおっちゃん、旗野さんが聞いて欲しい三つのことは何でしょう。

  • - 24 -

    ○学習活動●学習内容□主な発問 ◇指導上の留意点 資料 配時

    (分)

    ●患者さんは、「患者の苦しみと願

    い」、「つらくても頑張って生きて

    いること」「みんなにも水俣病のこ

    とを考えてほしいこと」を思って

    いる。

    ◇まゆげのおっちゃんは、

    旗野さんという名前であ

    ることを知らせる。

    ◇患者の苦しみと、その苦

    しみの中でも力強く生き

    ている人がいることをと

    らえさせる。

    ◇DVD の「旗野さんの話」の

    後で、同内容のプリント

    を配布する。「手足の変

    形」について補足説明を

    する。

    ・DVD「旗野さ

    んのお話」

    ・プリント「旗

    野さんのお

    話」

    ・補助資料「ま

    がったまま

    元にもどら

    なくなった

    指」(『未来

    へ語りつい

    で』P.18)

    ○絵本『阿賀のお地蔵さん』P.24 か

    ら最後までの読み聞かせを聞き、

    たかしが旗野さんや参治さんに出

    会って話を聞き、元気に自転車を

    こいで行ったのはどうしてか考

    え、シートに書き、発表する。

    ●患者は、つらくても精一杯生きて

    いる。また、心から応援してくれ

    る人がいる。私たちもつらいこと

    があっても、精一杯元気に暮らし

    ていきたい。

    ○教師の話「新潟水俣病患者の生き

    方から感じた経験」を聞く。

    ◇旗野さんや参治さんに出

    会ったたかしの変化に着

    目させる。

    ◇できるだけ大勢にシート

    に書いたことを発表させ

    る。また、発表は共感的

    に受け止めさせる。

    ◇子どもたちが考えたこと

    を補強するような立場か

    ら話をする。

    ・学習シート 12

    《評価》

    せいいっぱい生きていこうという心情が高まったか、学習シートへの書き込みや発言

    内容からとらえる。

    □ たかしが、また「だしの風に向かって」元気に自転車をこいで行ったわけを

    考えましょう。

  • - 25 -

    【資料】

    ・2006 『阿賀のお地蔵さん』 涌嶋克己(WAKKUN) 考古堂

    ・DVD「旗野さんのお話」(出演 旗野 秀人さん) 自作 DVD

    ・プリント「旗野秀人さんのお話」

    ・学習シート「阿賀のお地蔵さん」

    【補助資料】

    ・「まがったまま元にもどらなくなった指」(『未来へ語りついで』P.18)

  • - 26 -

    6 板書計画(例)

  • - 27 -

    7 資料

    ○プリント「旗野秀人さんのお話」

  • - 28 -

    ○学習シート「あがのおじぞうさん」

  • - 29 -

    第4学年 道徳学習指導案

    1 主題名 みんなが仲良くくらしていくために 2-(2)思いやり・親切

    2 主題について

    差別や偏見が人を深く傷付け、地域の結び付きも壊してしまう様子を示し、よりよい

    人間関係を築くためには、相手の立場に立った励ましや援助が必要であることに気付か

    せ、相手に対する思いやりの心を育てようとする学習である。

    3年生では、水俣病が起こる過程を概観的に学習している。そこで、4年生では水俣

    病の認定をめぐり、住民同士の差別や偏見があった事実を提示する。これによって新潟

    における水俣病が、環境問題であり、人権問題であることを伝えたい。

    本主題では、相手の困難な状況や思いを想像させることが大切である。そこで、未認

    定患者に対する差別的な発言を中心に授業を構成する。ここでは、資料のような差別的

    な発言が深く人を傷付けることを子どもたちに実感をもってとらえさせることが必要で

    ある。さらに、相手のことを考え、自分からかかわりをもって進んで親切な言動をして

    いこうとする心情を高めるような指導が求められる。

    3 ねらい

    地域が差別や偏見によって結び付きを失う様子や結び付きを取り戻すために行動する

    人の姿を学習することを通して、相手の立場を想像し、相手のことを考えた言動の大切

    さに気付き、自らも相手に親切な行為を行おうとする心情を高める。

    4 展開のための視点

    ・ 水俣病の発生によって、それまで強かった地域の結び付きが変化したことに着目さ

    せる。水俣病は、身体的な被害のほかに、長い間培われてきた地域の絆さえも奪った。

    それらは、人々の差別や偏見によるものであり、差別や偏見は人々を不幸にすること

    を理解させたい。 ・ 人々がつながりをもち、幸せに暮らしていくためには、相手の立場を想像し、被害

    者に寄り添った言動をしていこうとする心情をはぐくむことが必要である。差別や偏

    見の対象となった人の思いを、少しでも実感をもってとらえることができるようにロ

    ールプレイを行う。 ・ 終末では、地域の結び付きを取り戻すために活動する旗野さんを紹介し、実践意欲

    を喚起したい。旗野さんがお地蔵さんにこめた願いを受け止めることで、問題の解決

    は世代をこえて受け継がれることに気付かせたい。

  • - 30 -

    5 展開

    本時前に、教師による全文範読や児童の全文通読を行う。事前に「今でもこの病気で

    苦しんでいる人がいる。少しでもその苦しみが癒されるにはどうすればよいか。」につ

    いて道徳の時間に考えることを予告しておく。

    ○学習活動●学習内容□主な発問 ◇指導上の留意点 資料 配時

    (分)

    ○当時の「阿賀野川のほとり」の様

    子を確認する。

    資料1

    ○水俣病に起因する差別発言によっ

    て地域が結び付きを失ったことを

    確認する。

    資料2

    ●水俣病により、生活の一部だった

    川の恵みを受けられなくなり、

    人々の心は川から離れていった。

    また、水俣病の認定・未認定によ

    る差別や偏見によって村人たちの

    絆も壊れていった。

    ○本時の課題を確認する。

    ◇川によって、人々が強く

    結び付いていた様子を強

    調する。

    ◇昔、小さな村はどんなだ

    ったか資料中の言葉を抜

    き出させる。

    ◇資料1、2を対比してと

    らえることができるよう

    に黒板掲示する。(板書計

    画参照)

    ◇川の恵みから人々を遠ざ

    けた水俣病、病気への差

    別や偏見が地域の結び付

    きを壊したことを強調す

    る。

    ・人々が笑っ

    ている挿絵

    (資料1)

    掲示

    ・キーワード

    を挿絵横に

    板書

    ・人々が怒り、

    泣いている

    挿絵(資料

    2)掲示

    ・キーワード

    を挿絵横に

    板書

    □ 強い絆で結ばれていた村は、水俣病によってどうなってしまいましたか。

    □ どうすれば、もとの仲の良かった村にもどれるか、みんなで考えましょう。

  • - 31 -

    ○学習活動●学習内容□主な発問 ◇指導上の留意点 資料 配時

    (分)

    ○ロールプレイ1で、陰口を言われ

    た患者たちの気持ちを実感し、感

    想を発表する。

    ●患者たちは、「ニセ患者」「お金が

    ほしいだけ…」などの陰口を言わ

    れ、心の痛みを受け、悲しくつら

    い思いをした。

    ◇最初に教師が師範する。

    ペアで交替しながら役割

    演技を行う。

    ◇Aの立場でどんなことを

    感じたか発表させる。

    ◇ロールプレイでの実感

    を、陰口を言われた人々

    の思いと重ね合わせるよ

    うにする。

    ・ワークシー

    ト配付

    ・A、Bの台

    詞カードを

    黒板掲示

    ・Aとして感

    じたことを

    板書

    10

    ○もとの仲が良かった村にもどすた

    めに、旗野さんがとった行動の意

    味を考え、発表する。

    ●村の再生のためには、お地蔵さん

    をシンボルに、村の人々が陰口を

    やめて、互いの立場を理解し、助

    け合わなければならない。

    ◇旗野さんは、どのような

    方法で村を再生しようと

    したか問いかける。

    ◇お地蔵さんを建てただけ

    では、問題の解決にはな

    らないことを意識させる

    ように、切り返しの発問

    を行う。

    ・旗野さんの

    写真掲示

    ・お地蔵さん

    の写真掲示

    ・発問例「ど

    うして、お

    地蔵さんを

    建てると、

    仲良くなる

    の?」「お地

    蔵さんが何

    をしてくれ

    るの?」

    10

    □ 手足が痛く、目が見えにくいなどの苦しみの上に、さらに陰口を言われたら

    どんな気持ちになるのか、ロールプレイで確かめてみましょう。感じたことを

    発表しましょう。

    ロープレイ1

    A:病院に行ったけど、水俣病と

    認めてもらえなかった。この痛

    みが水俣病でないならなんな

    んだ!

    B:認められなかったのか!?お

    前はニセ患者だ。お金がほしい

    だけなんだろ!

    □ 旗野さんは、お地蔵さんを建てて、もとの仲がよかった村にもどそうとしま

    した。では、お地蔵さんを建てるとみんなの仲が良くなるのでしょうか。旗野

    さんは何のためにお地蔵さんを建てたのでしょうか。

  • - 32 -

    ○学習活動●学習内容□主な発問 ◇指導上の留意点 資料 配時

    (分)

    ○旗野さんの言葉(プリント)の朗

    読を聞き、相手の立場に立った言

    動の必要性に気付く。またロール

    プレイ2を行い、相手の立場に立

    った言動とはどういうものか体験

    する。

    ●強い絆で結ばれていた村にもどる

    ためには、誰もが相手の立場に立

    って考え、共感的な言葉かけをす

    ることが必要である。

    ◇差別や偏見による言葉か

    けでなく、相手を思いや

    った言葉かけの大切さを

    強調する。

    ◇ワークシートに、Bの言

    葉を考え記入させる。

    ◇ペアで交替しながら役割

    演技を行う。

    ◇Bの声かけに対し、どん

    なことを感じたか発表さ

    せる。

    ◇言葉だけでなく、相手の

    ことを考えようとする気

    持ちが大切であることに

    触れる。

    ・資料の空欄

    に当てはま

    る「旗野さ

    んの言葉」

    を 配 付 す

    る。

    ・指名し、い

    くつかのペ

    アに実演さ

    せる。

    ・Bの言葉と

    対応してA

    の感想を板

    書する。

    15

    ○次の中から相手を選んで、自分の

    思いや考えを手紙に書く。

    ア 水俣病と認められずに陰口

    を言われていた人

    イ 陰口を言っていた人

    ウ 旗野秀人さん

    ●差別や偏見に憤り、相手を思いや

    った言動の大切さが分かる。さら

    に行動する旗野さんに思いを寄せ

    る。

    ◇時間があれば、選んだ理

    由も書かせたい。

    ・3人の絵・

    写真掲示

    ・手紙用便せ

    ん配付

    《評価》

    ・ ロールプレイ2で、相手の立場に立って考え、共感的な言葉かけができたか。

    ・ ①差別や偏見への憤り ②患者への思いやり ③旗野さんの行動に対する賞賛のい

    ずれかを手紙に表すことができたか。

    ロープレイ2

    A:病院に行ったけど、水俣病と

    認めてもらえなかった。この痛

    みが水俣病でないならなんな

    んだ!

    B:

    □ 旗野さんが言う相手のことを思った言葉がけとはどんな言葉でしょうか。

    □ どんな言葉がけをすれば、もとの仲の良かった村にもどるのでしょうか。

    ロールプレイで確かめてみましょう。感じたことを発表しましょう。

    □ 自分の思いや考えを伝えたい相手を選んで、手紙を書きましょう。

  • - 33 -

    【資料】

    ・読み物資料 「お地蔵さんにこめられた願い」

    ・ワークシート ロールプレイ用「お地蔵さんにこめられた願い」

    ・ワークシート 終末まとめ用

    ・本文挿入資料 「旗野さんの言葉」

  • - 34 -

    6 板書計画(例)

  • - 35 -

    <掲示資料1>

    <掲示資料2>

    ○4年生掲示資料

  • - 36 -

    <掲示資料3>

    1950 年5月阿賀野市(旧安田町)生

    まれ。

    家業の大工を継ぎながら、新潟水俣

    病未認定患者支援運動に取り組む。新

    潟水俣病安田患者会事務局。

    「冥土のみやげ企画」を立ち上げ、

    CD、映画、絵本など患者支援のための

    活動を全国的に展開する。

    映画「阿賀に生きる」の仕掛け人。

    2006 年、新潟水俣病を題材とした初

    の絵本「阿賀のお地蔵さん」を発行。

    阿賀のお地蔵さん(千唐仁)を建てる。

    阿賀野市千唐仁に建つお地蔵さん。

    「冥土のみやげ企画」が中心となり、

    熊本県水俣市より運ばれた石によって

    造られた。水俣市には阿賀野川の石で

    造られた「不知火の地蔵さん」がまつ

    られ、「阿賀のお地蔵さん」と兄弟地蔵

    とされている。

    左:阿賀のお地蔵さん

    右:地域に古くからある虫地蔵

  • - 37 -

    7 資料

    ○読み物しりょう

    資料

    お地蔵じ ぞ う

    さんにこめられた願ねが

    阿賀野あ が の

    川がわ

    のほとりに、小さな村がありました。

    昔、村は、たくさんの船が行きかうにぎやかなところでした。村にはたくさんの

    船頭せんどう

    がいました。船頭は、阿賀野川の砂利じ ゃ り

    をとって運んだり、上流から下流へ、下

    流から上流へと、荷物を運んだりする仕事をしていました。川岸には何十そうもの

    船がつながれていたといいます。川には、たくさんの仕事がありました。

    川は、人々のくらしにも、たくさんのめぐみをもたらしました。きれいな川の水

    は飲み水となりました。毎日のように川魚をとって食べました。たくさん魚がとれ

    た日は、ご近所におすそわけもわ す

    忘れませんでした。上流から流れてくるこ

    肥えた土の

    おかげで、畑の作物もよ

    良く育ちました。畑でとれた野菜や さ い

    が、魚のお返しに配られる

    こともありました。阿賀野川の水でいれたお茶は大

    変おいしかったといいます。雨で仕事に出られない

    日は、よくご近所で集まって、お茶を飲みながら、

    楽しいお話をしたそうです。川では、せんたくも行

    いました。子どもたちも毎日川で遊びました。この

    ように、村の人たちは、阿賀野川のめぐみを受けな

    がら、強いきずなでむすばれ、仲良くくらしていま

    した。

    ところが…。

    1965(昭和 40)年、阿賀野川の近くに住む人たちの中に、みなまたびょう

    水俣病という病気に

    かかっている人がたくさんいることが発表されました。

    水俣病は、体に害のあるメチルす い ぎ ん

    水銀によっておこる病気です。手足がしびれてよ

    く動かなくなったり、頭痛ず つ う

    や目の見える範囲は ん い

    がせまくなったりするおそろしい病気

    です。そして、この病気は一生な お

    治ることがないのです。

    阿賀野川の上流に、ひとつの工場がありました。工場は、メチル水銀の入ったは い す い

    排水

    を、毎日川に流し続けました。すると、川にすむ魚の体に、メチル水銀がたまって

    いきました。村の人たちは、そんなことは知らずに、川の魚を毎日食べ続けました。

    そのため、人々の体にも、メチル水銀がたまっていきました。長い時間をかけて人

    の体にたまったメチル水銀によって、村では、たくさんの人たちが、水俣病になっ

    てしまいました。

    病気になった人には、工場からほ し ょ う

    補償き ん

    金 がし は ら

    支払われました。病気のげ ん い ん

    原因をつくった

    のは工場だからです。でも、水俣病とみ と

    認められたのは、特にしょうじょう

    症 状が重いごく一部

    の人たちだけでした。だから病院に行っても、水俣病だとは認められない人がたく

    さんいました。

  • - 38 -

    「こんなに手足がしびれ、ものも見えにくいのに、どうして水俣病と認めてもら

    えないんだ…。」

    水俣病と認めてもらえなかった人たちは、とてもくやしい思いをしました。

    そんな中、こんなか げ ぐ ち

    陰口を言う人たちがあらわれたのです。

    患者は、体のい た

    痛みをもっています。そのう

    え、こんなか げ ぐ ち

    陰口まで言われ、心も深くき ず

    傷つい

    ていきました。

    もう川で魚をとることはありません。子ど

    もたちも川で遊ばなくなりました。阿賀野川

    での仕事もへり、村の人どうしで話すことも

    少なくなりました。

    「あの人も、私の陰口を言っているかもしれ

    ない…」

    そんな不安がよぎります。強いきずなで結ばれていた村の人たちの心が、いつし

    かバラバラになってしまったのです。

    「みんな苦しんでいるのに、なぜ、き ず

    傷つけ合うのだろうか。」

    村の近くに、は た の ひ で と

    旗野秀人さんという大工さんが住んでいました。旗野さんは、水俣

    病のせいで、バラバラになってしまった村の人たちの心を、もとにもどしたいと考

    えるようになりました。でも、どうしたら、もとの仲の良かった村にもどせるので

    しょうか。

    旗野さんは、おじ ぞ う

    地蔵さんをつくることを考えました。おじ ぞ う

    地蔵さんをほる石は、同

    じ病気で苦しむ人がいるく ま も と け ん

    熊本県み な ま た し

    水俣市から運ばれました。そして、とてもやさしい

    顔のお地蔵さんができました。お地蔵さんは「阿賀のお地蔵さん」とよ

    呼ばれるよう

    になりました。旗野さんは言います。

    「阿賀のお地蔵さん」には、おだ ん ご

    団子やお花などのおそ な

    供えものがたえる日はないそ

    うです。

    ニセ患者か ん じ ゃ

    痛いた

    くもないのに、

    患者のふりして…。

    お金がほしい

    だけなんだろ!

  • - 39 -

    ○ワークシート:ロールプレイ用

    「お地蔵じ ぞ う

    さんにこめられた願ねが

    い」

    4年 組 名前

    <ロールプレイ1>

    あなたがAさん役のとき、どんなことを感じましたか。

    <ロールプレイ2>

    あなたがAさん役のとき、どんなことを感じましたか。

    B 認められなかったのか!

    お前はニセ患者だ。

    お金がほしいだけなんだろ!

    A 病院に行ったけど,水俣病と認めてもらえ

    なかったよ。この痛みが水俣病でないなら

    何なんだ…。

    A 病院に行ったけど,水俣病と認めてもらえ

    なかったよ。この痛みが水俣病でないなら

    何なんだ…。

  • - 40 -

    ○ワークシート:終末まとめ用

    あなたの思いや考えを手紙であらわしましょう。

    だれに手紙を書きますか。あなたが手紙を書きたい人を下の3人からえらんで、

    記号を○でかこみましょう。えらんだら,手紙を書きはじめましょう。

    ア 水俣病と認められず、かげ口を言われていた人たち へ

    イ かげ口を言っていた人たち へ

    ウ 旗野秀人さん へ

    4年 組 名前

  • - 41 -

    ○本文挿入資料:旗野さんの言葉

    わたし

    たちは、もとの仲なか

    の良よ

    かった村むら

    に戻もど

    すために、お地蔵じ ぞ う

    さんをたてることを

    考えました。阿賀あ が

    のお地蔵じ ぞ う

    さんです。

    でも、お地蔵じ ぞ う

    さんが、ふしぎな 力ちから

    で、昔むかし

    のように仲なか

    の良かった村むら

    に戻もど

    してく

    れるわけではありません。村むら

    の人たちがお地蔵じ ぞ う

    さんを見て、変か

    わっていくしか

    ないのです。相手あ い て

    の痛いた

    みを自分じ ぶ ん

    の痛いた

    みのように感かん

    じ、相手あ い て

    のことを思おも

    った言葉こ と ば

    けができるようになることが大切たいせつ

    だと 私わたし

    は思おも

    います。

  • - 42 -

    第5学年 社会科学習指導案

    1 単元名 公害を二度と繰り返さないために ~新潟水俣病~

    2 単元について

    この単元は、学習指導要領「内容」(1)ウに該当し、公害から国民の健康や生活環境を

    守ることの大切さを学習する。

    我が国の工業発展の過程でとられた工業重視の施策により多くの公害が発生した。我

    が国の四大公害病の一つである新潟水俣病は、昭和電工株式会社鹿瀬工場から阿賀野川

    に排出されたメチル水銀を含む排水によって引き起こされた「第2の水俣病」として昭

    和 40 年にその被害の発生が確認された。

    新潟水俣病は、その流域に暮らす人々の生活基盤であった阿賀野川の環境を汚染した

    ばかりでなく、人々の健康を損ない、尊い命をも奪った。さらには、新潟水俣病が発生

    した地域における人々の絆に深刻な影�