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建材分析におけるISO法の考え方
元 兵庫県立健康環境科学研究センター
小坂 浩
ISO 22262(建材中アスベスト分析法)の審議の経過(1)
年 審議の経過
1998 ISO建材分析法についての議論がWG内で非公式に行なわれる。日本代表、参加。
2000 ISO技術委員会内の体制が整わず議論は進まなかった。日本代表、参加。
2002 技術委員会内の体制が整い、建材分析法の議論がWG内でスタート。日本代表、参加。
2003 WGでの新たな検討課題(New Work Item)とするか投票の実施が決定。日本不参加
2004投票の結果7カ国が賛成しプロジェクトへの代表参加も表明。日本不参加、投票もWGへの参加も表明せず。
2005 最初のドラフト(WD)がWGに提案される。日本不参加
2006 修正ドラフトの議論がされる。日本不参加
ISO 22262(建材中アスベスト分析法)の審議の経過(2)
2007分析法Part 1がCD(委員会ドラフト)に昇格。Part 2(定量法)がWDとして議論される。日本代表参加(経産省)
2008Part 1が投票によりDISに。Part 2はCDのための最終ドラフトが回覧されることになる。日本、XRD法をPart 3として提案。
2009Part 1、FDIS(最終段階)への投票の準備が出来る。Part 3のドラフトを検討課題(WorkItem)とするための投票の前段階として技術委員会サブ委員会に提出。
2010Part 1、DIS→FDISへの投票が決まる。Part 2、CD→DISへの投票決まる。Part 3は投票の前にWGより修正が求められ、そのためのサブグループが結成される。
2011Part 1、FDIS(最終段階)へ。Part 2、CD→DISへ。Part 3修正案についてのWGの決議(議事録4、5)が出される。
2012Part 1、6月に発効。Part 3、WGの決議に基づいた修正版が提出される。WGよりさらに修正を求められ、再修正案が各委員に回覧されている。
ISOの成立過程:WD→CD→DIS→FDIS→成立
2011年のISOワーキンググループでの決議(抜粋)
4) WG 1は、建材中のアスベスト定量のためのX線回折法に関する神山博士の入念で優れた仕事に感謝する。しかしながら、技術的な専門家による審査に基づき、WG 1はSC 3に対し、現行の提案に関する作業の中止を勧告する。もし技術的な問題が解決された場合は、新たな作業項目を考慮することを勧告する。現段階では、WG 1はこの分析法が様々な母材中の低濃度アスベストを検出・定量するISO規格としては不十分であるとみなしている。
2011年のISOワーキンググループでの決議(抜粋)
5) SC 3/WG 1は新たな作業項目の提案が2012年1月1日までに日本の代表から提出されることを理解している。その新たな作業項目の提案は、ISO/FDIS(最終国際規格案)22262の一部としてのX線回折法を使用するアスベスト定量分析法である。SC 3/WG 1はISO/FDIS 22262-1(Part 1)が規範的に、それに続く顕微鏡法またはX線回折法によるいかなる定量法にも先立って使用されることを要求する。SC 3/WG 1はまた、X線回折法は鉱物種を定量するがその鉱物種がアスベスト様形態(asbestiform)か非アスベスト様形態(non-asbestiform)かを考慮しない方法であることも理解している。SC 3/WG 1は、提案される最初の原案には、母材や鉱物の妨害や校正用標準試料のばらつきなどX線回折法の限界についての全ての必要な議論が含まれるものと理解している。最終的な試料中のアスベスト含有量の決定は、すでにPart 1で示されている顕微鏡法によるアスベスト繊維の同定に基づいて行われなければならない。
asbestiformとnon-asbestiform(へき開粒子)
アモサイト 単結晶トレモライト
X線回折法の問題点
1. 選択配向性(結晶が特定の結晶面で並ぶ)
2. 過度の粉砕による結晶格子のゆがみ回折線の強度が落ちる
X線回折法によるアスベストの定量
• リビー産バーミキュライト中の角閃石アスベストの定量をSanchezらが行なっている。
偏光顕微鏡によってasbestiformとnon-asbestiformの比を求める → X線回折法で総角閃石量を求める → 両データからアスベストの量を求める
X線回折法のスキャン速度:9.5度~11.5度を0.02度/180秒/step(分析時間は1検体約5時間)
英国でのアスベスト分析法の評価
• Middletonは1979年にアスベスト分析法を検証した。(ASBESTOS, Vol. 1, ed. Michael & Chissick, 1979)
光学顕微鏡・赤外線分光法・XRD・電顕・熱分析法を比較した結果、実体顕微鏡と偏光顕微鏡による分析を推奨。
実体顕微鏡は広い面積を観察出来るので試料全体を代表した分析結果を得られ、検出感度も高いと評価。
↓現在も公定法は光学顕微鏡法
米国でのアスベスト分析法
• 1979年NIOSHのLangeらがXRD(基底標準吸収補正法)による空気中濃度測定法を開発。
• 1982年建材分析の「暫定法(Interim Method)」制定。実体顕微鏡+偏光顕微鏡(定量はPoint count法)XRD(基底標準吸収補正法)
• Perkinsは含有率:2~3%のサンプルでfalse negativeが7.5~11.2%あったと報告。原因は「ひとつまみ」の試料で定量を行なったため。実体顕微鏡での詳細な観察が必要と警告。
• 1993年に現行の「建材分析法」が定められる。定量法にvisual estimation法(目視法)を加える。 visual estimationは濃度の過大評価をもたらしたとの批判がある。
Visual Estimationのための比較対象表
ISO法での「含有無し」の判定
• 繊維の総重量に細い繊維の寄与は少ない。• 実体顕微鏡で試料の広い範囲を観察出来る。• 偏光顕微鏡での検出下限値
通常観察する数mg(ピンセットでのひとつまみ)の建材試料中から1本のアスベストを検出することは可能である。
1mgの試料から繊維長:100μm、径:2μmのクリソタイルがみつかったとするとその重量は0.001μg。含有率は0.0001%となる。
対数正規分布した粒子と体積の関係
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
90%
個数
体積
スライド中の最大粒子径に対する粒子径の比率
粒子数及び体積の比率(%)
最大粒径の10%以上の径の粒子は個数では57.7%であるが、体積では98.8%を占める。
実体顕微鏡写真(再生砕石その1)
実体顕微鏡写真(再生砕石その2)
実体顕微鏡写真(トレモライト含有ロックウール吹付け・その1)
実体顕微鏡写真(トレモライト含有ロックウール吹付け・その2)
実体顕微鏡(石綿炭酸カルシウム発泡板・レアフォーム)
ISO法を導入するに当たっての課題
・顕微鏡分析にはトレーニングが必要である。
効果的なトレーニングプログラムが求められて
いる。
・精度管理は分析機関内とともに分析機関間の
精度を検証するためのプログラムが必要であ
る。
・分析精度検証のための標準サンプルの作製。