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エタノール代替品の次亜塩素酸⽔(HClO)について Masahiro Yamamoto 2020/6/1 台所漂⽩剤では,その成分として次亜塩素酸ナトリウム(塩素系)(NaClO), 界⾯活性剤(アル キルアミンオキシド),⽔酸化ナトリウム(NaOH)で,液性はアルカリ性(塩基性)と表⽰して ある。さらに「まぜるな 危険!」として酸性タイプの製品と⼀緒に使う(混ぜると)有害な塩 素ガスが出て危険!とも書いてある。酸性にしないためにあえて,⽔酸化ナトリウムを⼊れてい るものと思われる。 塩基性溶液の場合,次亜塩素酸ナトリウム NaClO は,ナトリウムイオン Na + と次亜塩素酸 イオン ClO - イオンに解離していると考えらる。ハイター等の原液では,⽔素イオン濃度の指標と なる pH が 12−13 で,⽔で 1000 倍に希釈しても pH は 9-10 なので,次亜塩素酸イオンが主に 存在することになる。それは,以下の酸解離定数から pH 依存性がわかる。 HClO ⇄ H + + ClO - Ka=[H + ][ClO - ]/[HClO] , pKa = -log10 Ka =7.53 (1) log10{[ClO - ]/[HClO]} = pH ‒ pKa (1ʼ) 次亜塩素酸イオン ClO - イオンに⽐べて次亜塩素酸は 80〜100 倍の殺菌能⼒があるといわれてい る。ClO - は細胞膜を透過しないが HClO は細胞膜を透過することによって能⼒があがっていると 考えられているようである。脂質⼆重膜は,膜内部が疎⽔性であることと表⾯でのリン酸(-)とコ リン(+)の双極⼦によってブロックされるため,親⽔性イオンの透過性は⼀般に⼩さいのである。 従って,pH はなるべく⼩さい⽅がいいように思われるが,後に⽰すように pH2 以下では塩素ガ スが発⽣するため危険である。 次亜塩素酸⽔には安定性の問題がある。紫外線・温度で容易に分解するとされている。⽇光をあ てるとほぼ 1 ⽇で効果なくなると⾔われている。ペットボトルにいれて冷蔵するとひと⽉はもつ が,有効塩素濃度はひと⽉で半分になることが報告されている。 http://planbee.co.jp/jiaensosansui 次亜塩素酸水は材料の入手しやすさから水と塩から以下の反応で作成される。 [Ca(ClO - )2 を⽔に溶解するとい⽅法もあるらしい。さらには,ハイターを薄めて酸で 中和するという⽅法も(塩素ガス発⽣により危険なのでおすすめしない)] 製法:電気分解による電気化学反応(E)とそのごの後続化学反応(C)による EC 反応で⽣成させ る。 NaCl ⽔溶液では(例えば⽔ 300 mL に NaCl 10g), 陽極(Anode)での電気分解反応: 2Cl - → Cl2 + 2e - E 0 =1.35828 V vs SHE (2) 陰極(Cathode)での電気分解反応: 2H2O + 2e - → H2 + 2OH - E 0 =0-0.059pH V vs SHE (3) となるので,よく使う USB の 5V,1A 電源で⼗分である。 電気化学反応で発⽣した塩素ガスと⽔酸化物イオンが⼀部反応して

jiaensosansui 次亜塩素酸水は材料の入手しやすさから水と塩 ...実際に著者所有の装置(made in China)で次亜塩素酸 を作成した。300 mLの 道 にNaCl

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Page 1: jiaensosansui 次亜塩素酸水は材料の入手しやすさから水と塩 ...実際に著者所有の装置(made in China)で次亜塩素酸 を作成した。300 mLの 道 にNaCl

エタノール代替品の次亜塩素酸⽔(HClO)について Masahiro Yamamoto 2020/6/1 台所漂⽩剤では,その成分として次亜塩素酸ナトリウム(塩素系)(NaClO), 界⾯活性剤(アル

キルアミンオキシド),⽔酸化ナトリウム(NaOH)で,液性はアルカリ性(塩基性)と表⽰してある。さらに「まぜるな 危険!」として酸性タイプの製品と⼀緒に使う(混ぜると)有害な塩素ガスが出て危険!とも書いてある。酸性にしないためにあえて,⽔酸化ナトリウムを⼊れているものと思われる。 塩基性溶液の場合,次亜塩素酸ナトリウム NaClO は,ナトリウムイオン Na+ と次亜塩素酸イオン ClO-イオンに解離していると考えらる。ハイター等の原液では,⽔素イオン濃度の指標となる pH が 12−13 で,⽔で 1000 倍に希釈しても pH は 9-10 なので,次亜塩素酸イオンが主に存在することになる。それは,以下の酸解離定数から pH 依存性がわかる。 HClO ⇄ H+ + ClO-, Ka=[H+][ClO-]/[HClO] , pKa = -log10 Ka =7.53 (1) log10{[ClO-]/[HClO]} = pH ‒ pKa (1ʼ)

次亜塩素酸イオン ClO-イオンに⽐べて次亜塩素酸は 80〜100 倍の殺菌能⼒があるといわれてい

る。ClO-は細胞膜を透過しないが HClO は細胞膜を透過することによって能⼒があがっていると考えられているようである。脂質⼆重膜は,膜内部が疎⽔性であることと表⾯でのリン酸(-)とコリン(+)の双極⼦によってブロックされるため,親⽔性イオンの透過性は⼀般に⼩さいのである。従って,pH はなるべく⼩さい⽅がいいように思われるが,後に⽰すように pH2 以下では塩素ガスが発⽣するため危険である。 次亜塩素酸⽔には安定性の問題がある。紫外線・温度で容易に分解するとされている。⽇光をあ

てるとほぼ 1 ⽇で効果なくなると⾔われている。ペットボトルにいれて冷蔵するとひと⽉はもつが,有効塩素濃度はひと⽉で半分になることが報告されている。 http://planbee.co.jp/jiaensosansui

次亜塩素酸水は材料の入手しやすさから水と塩から以下の反応で作成される。

[Ca(ClO-)2を⽔に溶解するとい⽅法もあるらしい。さらには,ハイターを薄めて酸で中和するという⽅法も(塩素ガス発⽣により危険なのでおすすめしない)。] 製法:電気分解による電気化学反応(E)とそのごの後続化学反応(C)による EC 反応で⽣成させる。 NaCl ⽔溶液では(例えば⽔ 300 mL に NaCl 10g), 陽極(Anode)での電気分解反応: 2Cl- → Cl2 + 2e- E0=1.35828 V vs SHE (2) 陰極(Cathode)での電気分解反応: 2H2O + 2e- → H2 + 2OH- E0=0-0.059pH V vs SHE (3) となるので,よく使う USB の 5V,1A 電源で⼗分である。 電気化学反応で発⽣した塩素ガスと⽔酸化物イオンが⼀部反応して

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Cl2 + 2OH- → ClO- + Cl- + H2O : ΔG0 = -90.4 kJ mol-1 (4)

発⽣した⽔酸化物イオンがすべて反応する訳ではないので電気分解とともに pH は増加する

HCl+NaCl ⽔溶液の酸性⽔溶液では 陽極(Anode)での電気分解反応: 2Cl- → Cl2 + 2e- E0=1.35828 V vs SHE (2ʼ) 陰極(Cathode)での電気分解反応: 2H2O + 2H+ + 2e- → H2 + 2OH- + 2H+ ⇔ 2H+ + 2e- → H2 E0=0-0.059pH V vs SHE (3ʼ)

となるので,よく使う USB の 5V,1A 電源で⼗分である。 電気化学反応で発⽣した塩素ガスと⽔酸化物イオンが⼀部反応して

Cl2 + 2OH- + 2H+→ H+ClO- + H+ Cl- + H2O ⇔ Cl2 + H2O → HClO + H+ + Cl- (5) 消費された⽔素イオンにすべてもどる訳ではないので電気分解とともに pH は増加する

EC 反応の後続化学反応(4),(5)式の熱⼒学を考えよう。塩基性溶液では,(4)の反応の標準反応ギブズエネルギーが-90.68 kJ mol-1なので次亜塩素酸イオンが安定に存在できる。酸性溶液では,(5) の反応の標準反応ギブズエネルギーが+26.0 kJ mol-1なので反応の平衡を考えなくてはならない。

塩化物イオンの活量(濃度)は,仕込みの⾷塩の濃度で決まり⼀定の値をとる。300 mL の⽔道⽔に NaCl 10g を加えると 10 g / 58.44 g mol-1 / 0.3 dm3 = 0.57 mol dm-3,log100.57 = -0.244 とな

る 。 装 置 の カ タ ロ グ を み る とHClOの濃度は500 mg dm-3 = 0.5 / 52.6 = 10 mmol dm-3 程度である。pH が 1 ⼩さくなる毎に,塩素と次亜塩素酸 HClO の⽐は⼀桁づつ⼤きくなる。

�rG0= �RT lnK = �2.303RT log10

aHClOaH+aCl�

aCl2 aH2O| {z }=1

log10aCl2

aHClO=

�rG0

2.303RT� pH = 4.526� pH + log10 aCl�| {z }

=constant

<latexit sha1_base64="PeyVIVGk6GoGWb5Ej7JKIAkn9f4=">AAADwHichVHLbtNAFL2ueZTwaAobJDYjolZIVaKxG55SpapBIhKLtmnSVtSNZbuT1OrENrYTqbXmB/gBFqxAQgjxFYgNP8CiX4AQG1CR2LDgemyRhLYwlmfOPXPPnXNn7IC7UUzpoTKhnjl77vzkhcLFS5evTBWnr65Hfj90WMvxuR9u2lbEuOuxVuzGnG0GIbN6Nmcb9l4t3d8YsDByfa8Z7wdsu2d1PbfjOlaMlDmtPDEeMh5bZmKEPRIK8qhNySxZIOVGkxjcI49TrFfm6bwk/K6ZaFQQoxNaTpLL6jW+LAgGWSTac8OoxkW7LIhIRghTF0bf22GhjUVYMhSaugTLQggzWdAEnmMUTjp1pJIg4zaEtJ9lntCbSGQzpNEUpEyI3ArqgqCmWrmt30HyDzdHCqM+hz7Gm0u9ZiLH96LY8mIhCmjcLJZohcpBjgMtByXIx4pffAMG7IAPDvShBww8iBFzsCDCbws0oBAgtw0JciEiV+4zEFBAbR+zGGZYyO7h3MVoK2c9jNOakVQ7eArHP0QlgRn6ib6lR/QjfUe/0F+n1kpkjdTLPq52pmWBOfXs+trP/6p6uMawO1T903MMHbgnvbroPZBM2oWT6QcHz4/WHjRmkln6in5F/y/pIf2AHXiDH87rVdZ4AekDaH9f93Gwrle0auX+arW0uJQ/xSTcgJtwC+/7LixCHVagBY7yXvmsfFO+q0vqruqrT7PUCSXXXIOxoR78BgVpAWY=</latexit>

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5 6 7

a cl 2 /

a HC

lO

pH

4.526-0.244-x

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実際に著者所有の装置(made in China)で次亜塩素酸⽔を作成した。300 mL の⽔道⽔に NaCl 10g を加え,HCl を少量添加して pH3.6 とした。装置で次亜塩素酸⽔を発⽣して pH を測定したところ,pH5.4 となった。中性の⾷塩⽔を EC 反応で次亜塩素酸を作成する場合には,塩基性に移⾏し,HClO の pKa を超えると殺菌の能⼒がおちるので,pH を 3-5 の領域にもっていくことが必要となる。pH の調整は pH メータ等がないと容易ではないことも指摘しておこう。

https://www.oote-itsuki.com/about_jiasui.html

実際のコロナウイルスに対する試験結果を⽰す。縦軸は対数⽬盛りであり,2 桁(pH2.5 では検

出限界以下)コロナウイルスを殺菌する結果となっている。 帯広畜産⼤学 ⼩川晴⼦教授、武⽥洋平特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、学術雑誌に投稿中だとしている。(2020 年 5 ⽉の時点) https://www.obihiro.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2020/05/act3.pdf

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