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Meiji University Title John Yoo�Author(s) �,Citation �, 92(4-5): 105-128 URL http://hdl.handle.net/10291/20711 Rights Issue Date 2020-02-14 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」 URL DOI ......明治大学 法律論叢92巻4・5号:責了book.tex page108 2020/02/05 10:29 法律論叢92巻4・5号

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Meiji University

 

Title John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」

Author(s) 辻,雄一郎

Citation 法律論叢, 92(4-5): 105-128

URL http://hdl.handle.net/10291/20711

Rights

Issue Date 2020-02-14

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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法律論叢第 92巻第 4・5合併号(2020.2)

【資 料】

John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」

辻     雄 一 郎

目 次[資料] John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」I.マシンを擁する:戦争と新しい技術の合理的考え方 導入  1.新しい軍事技術と戦争法  A.新しい戦争技術  B.新たな兵器に関する論争と規制への動因  2. 新しい兵器技術の過剰規制の危険II.戦争と新しい技術の合理的考え方の講演  1.新しい技術のもたらす戦争概念の変化と課題  2.戦争法とロボット  3.新しい兵器のもたらす課題に対してIII.本報告の派生的問題と日本憲法学への若干の問題提起  1. John Yooの報告と論文の背景について  2.派生する問題―日本の大学

本稿は、John Yoo, Embracing the Machines: Rationalist War and New

Weapons Technologies, 105 Calif. L. Rev. 443 (2017).の抄訳と 2018年 6月 25

日に防衛大学グローバルセキュリティーセンター主催の第 17回コロキアム John

Yoo教授の講演Rationalist War & New Weapons Technologies(戦争と新しい

技術の合理的考え方)とをあわせたものである。この抄訳にあたり、山中倫太郎教

授に軍事用語に関して貴重な助言を頂戴した。

このコロキアムでは、カリフォルニア大学バークレー校(University of California

Berkeley Law School)のジョン・ユー教授 (Prof. John Yoo)が講演し、辻雄一

郎が通訳を担当し、防衛大学公共政策学科山中倫太郎教授が司会を担当した。

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法律論叢 92巻 4・5号

John Yooは、「戦争と新しい技術の合理的考え方」という表題の下、ロボットや

サイバーといった新しい技術が武力紛争に及ぼす影響とその法的規制のあり方と

戦争の抑止を論じた。この講演には公共政策学科本科・総合安全保障研究科学生、

倉田秀也センター長(防衛大学校国際関係学科教授)、福嶋輝彦企画発信部門長(防

衛大学校国際関係学科教授)他が講演を聴講した後、質疑応答や意見交換が活発に

行われた。

まずEmbracing the Machines: Rationalist War and New Weapons

Technologies, 105 Calif. L. Rev. 443 (2017).の抄訳を扱い、次に講演録を紹

介し、最後に、若干の派生する問題を提起する。

I.マシンを擁する:戦争と新しい技術の合理的考え方

本章はEmbracing the Machines: Rationalist War and New Weapons

Technologies,の抄訳である。

導入

無人のプレデターやリーパーと呼ばれるドローンは中東やアフリカの上空を旋

回している。それらは、日々、標的の上空に空中静止して、ヘルファイヤミサイル

を一瞬のうちに予告した上で発射する。戦場のロボットは、家ごとに捜索し、ドア

を破って、国内のテロリストやレジスタンスとの内戦で急造された起爆装置を爆発

させる。将来の進歩は、武装した歩哨ロボット、自律的な武装車両、そして自動ミ

サイルと砲撃を生み出すだろう。海上ではX-47と呼ばれる空中ドローンが離陸し

て、航空母艦に着陸している間にも、他の機体が攻撃と偵察を同時に遂行している

だろう。まもなく無人の水上戦闘艦が沿岸近くから配備され、水面下で敵の潜水艦

を追跡しているかもしれない。

戦闘は、ロボット化に向かって進んでいるにとどまらない。戦闘が空気のような

存在になりつつある。2018年のジョージア侵攻の間、ロシアは、地上侵攻を増強

するために、敵の命令、統制、通信システム系統に対してサイバー攻撃を展開した

最初の国家となった。イランの核に関するコンピュータープログラムを遅らせる

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

ために、米国とイスラエルは、伝えられるところによると、スタクスネットと呼ば

れるコンピューターウィルスを展開して、ウラン濃縮装置の遠心分離機に損害を与

えた。中国は、米国防衛に関する受託契約者、航空会社、技術会社のネットワーク

に侵入して、米国政府の大量の個人情報のデータベースを盗み出した。ロシアは、

一方、民主党全国大会関係者や、大統領候補者のヒラリー・クリントンの選挙運動

をはじめ、防衛省、国務省のデータベース、電子メールにハッキングした、とされ

ている。

これらの例は、過去 20年間にわたる武器技術の驚くべき進展を示しており、「軍

事における革命」(軍事革命)であると表現されることもある。米国は現在、数千

の無人機(unmanned aerial vehicle, UAV)を偵察と攻撃に展開している。ステ

ルス技術と結びつき、これらのドローンは、米国や他国が常時、情報収集を行い、

世界の問題地域に即座に攻撃開始することを可能にしている。将来、最も発展した

地上及び海上軍隊は、遠隔制御された部隊、たとえば歩哨、軽装甲、沿海域戦闘艦

を展開するだろう。ミサイル技術と正確な標的設定の発展によって、世界中のどの

ような標的も 1時間以内に、米国は全地球上で攻撃できる能力を展開することが可

能にするだろう。人間の直接的な統制から独立して行動するように軍隊がプログ

ラムした自律型兵器を想定している専門家もいる。

軍事における革命は、戦争の破壊を減少させると期待する者もいる。遠隔制御さ

れた戦闘員が利用可能になれば、危険な場所に送られる兵士の数を減らす国家も存

在するだろう。精密誘導兵器や常時、より明確な即時情報収集のおかげで、兵士や

アセットの死や損害が減少するだろう。ドローンが利用可能になれば、たとえば、

国家は、軍需工場や石油施設を破壊するために第二次世界大戦やベトナム時代の爆

撃航程に頼る必要はなくなるだろう。精密爆撃の技術は、1991年のペルシャ湾岸

戦争の 100時間の戦争や 2003年のイラクの電撃侵攻のように、敵対者の指導者や

戦略上の脆弱性を標的に設定することで、戦争を早く終わらせるかもしれない。将

来の技術によって、戦争法の主要原理のひとつは文民に対する損害を軽減すること

であり、それは武力行使において軍事目標に厳格に限定することを通じて可能にな

るかもしれない。

技術は、我々の「戦争」の理解を既に曖昧にしつつある、戦術の変化を生むであ

ろう。現代の戦争が高度な破壊力を個別の戦場に集中させてきた一方、新しい技術

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法律論叢 92巻 4・5号

は地球上で破壊力を減少させて分散させるだろう。まずひとつに、技術は、非・国

家の台頭において中心的な役割を担ってきた。2001年の 911の攻撃や複雑化した

イスラム国やシリアの ISISといったテロリスト集団は、武力紛争の水準に達して

いる国際的暴力を国家がもはや独占してはいないことを示した。技術によって、こ

れらの集団に対する優れた諜報活動が可能になり、伝統的な軍事力を展開せずに攻

撃することが可能になった。さらに、文民の中に隠れ、分散化した命令系統を持

ち、軍事目標と同様にしばしば文民を攻撃するような敵対集団を、高度先端技術の

監視、攻撃システムを通じて国家は特定することができる。技術を用いて非国家集

団は効果的に目標を達成することもできる。国内でも国外でも国家がテロリスト

集団に対応する助けとなってきた。

これに対する批判は、しかしながら、兵器の発展によって、戦争の開始が容易

になり、紛争が増加する、というものである。もしひとつのボタンを押して、標

的を破壊したり、敵のインフラを削ったりするのに、何ら自身の人員をリスクに

さらす必要がないのであれば、政府は軍事対応を本来実施すべき場合よりも頻繁

に選ぶだろう。国連の職員は、これらの懸念に次のように表明した。「武装無人偵

察機(武装ドローン)を最初に獲得した国家が、それらを広範に利用すれば、もし

争いがなければ、国際安全保障の基盤に構造的な損害を与え、長期的な地球上の

生命の保護を掘りくずす先例となるだろう」、と国連の超法規的・略式・恣意的処

刑 (Extrajudicial, summary or arbitrary executions)に関する国連特別報告官Christof Heynsは述べている。ドローンやサイバー兵器のような他の技術を用い

て、即座に探知されず、責任すら回避するような方法で、伝統的な戦場から遠く離

れて国家は攻撃を開始することができる。究極的には、精密攻撃やサイバー攻撃

が、戦争と平時の境界をおぼろげにしていくだろう。

サイバー戦争は、この境界をいっそう曖昧にする。インターネットによる攻撃

は、現実の世界の破壊と損害を招き、あるいは、他の国家のコミュニケーション、

金融、情報ネットワークに介入するだろう。サイバー戦争は、たとえば、ダムの制

御機構を無効化して洪水を引き起こしたり、発電所を作動不能にしたりして、爆発

の引き金を引いたりする。2008年のロシアのジョージア侵攻、2014年のウクラ

イナ侵攻のように、伝統的な武力攻撃を支持する電子作戦を国家が始めることもで

きる。国家は、破壊活動を実行する伝統的な兵器の代わりに、スタックスネットの

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

ようなサイバー兵器を利用することができる。あるいは、政府は、インターネット

を通じて、兵器の設計図や戦略計画のような重要な軍事的な情報を盗み出すことが

できる。米国と中国との間でのその発生頻度は高まってきているように思われる。

サイバー攻撃の匿名性は、可能性として武力紛争を予防するかもしれない。なぜな

ら標的とされた国家は、誰に対して報復すればよいのか、わからないだろうからで

ある。

実際、国家は、ロボットによる攻撃、サイバー攻撃の対応を確定してこなかっ

た。国家は、それをスパイ活動または隠密作戦の形態の一つとして扱うこともあ

り、戦争行為による損害だと考えなかった。

そして、しかし、これらの兵器の利用は他の文脈で武力紛争を開始する可能性に

なるだろう。軍事拠点や重要な民間のネットワークの無効化、あるいは、広範な軍

事攻勢のためのサイバー攻撃が、戦争行為に該当するのは確かなことであり、ロ

ボットやドローンを利用して、人間や現実の財産に損害を与えている。ロボットや

サイバー兵器は、認識しうる目標の生命を必ずしも奪ったり、破壊したりしていな

いが、国内の刑事上の犯罪と戦争行為との間に存在しており、国家を混乱させてい

る。

どのような場合に、武力紛争やそれ以下の法的基準に、問題となる行為が該当す

るかどうかについて政府や研究者は必ずしも明確ではなかった。たとえば、2015

年に防衛省の作成した新しい米国の戦争法マニュアルでは、既存の戦争法が、いわ

ゆる「サイバー作戦」にも適用される「べき」だ、と宣言している。しかし、この

ルールが、「いまだよく確立せず」そして、「発展途上にある」と譲歩している。米

国は、戦争法マニュアルが「防衛省が変転する将来の法解釈を除外」しないことを

宣言しているように、現在、支持しない立場を採用することもありえる。

この戦争法マニュアルは、新しい軍事技術の抑制を、事後の合理的な規制(ex

post reasonable regulation)ではなく本質的に事前ルール (ex ante per se rules)

とすることは絶望的であるばかりか危険であると主張している。歴史上、兵器の発

達を止める提案が数多く示されてきた。法や道徳ではなく、抑止力を通じて抑制が

採用されてきた。国際法を正確に理解すれば、これらの兵器の利用は禁止されてい

ない。米国は、共通価値に訴えることで同等に効果的な攻撃、防衛上のサイバー

兵器を展開することで政府人員のデータベースの盗取を食い止めるだろう。ヨー

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法律論叢 92巻 4・5号

ロッパ諸国は、テロリストの指導者に対するドローン作戦を制限するように米国に

対して強いるのではなく、情報収集活動の共有と共同作戦の協力を拒むことでワシ

ントンDCに圧力をかけられるだろう。実際、ロボットやサイバー兵器の使用の制

限、そして禁止は、国際法のまさにその目的を否定するだろう。もし国家が、新し

い、正確度の高い兵器を展開できなければ、伝統的な戦争に頼り、大量破壊兵器を

用いて、人間の兵士や操縦者を多く利用するだろう。さらに大規模な破壊を引き起

こすばかりか、国際的な枠組みが最も必要としている場合において、新しい兵器の

制限は国家が武力行使の利用を抑え込むだろう。テロリズム、人権の悲惨な侵害、

核兵器の拡散そして、武力侵略を止めるだろう。戦争の開始を困難にしたいという

曖昧な願いで、新しい兵器を禁止することは、一層、戦争を破壊的なものとし、そ

して市民に損害を与えるだろう。それは戦争法のまさに反対命題である。

1.新しい軍事技術と戦争法

A.新しい戦争技術ロボットは、戦争に単なる進化ではなく革命をもたらしている。無人機は、最

も知られており、もっとも論争的であった。国家は、単なる航空兵器のプラット

フォームを越えるものにロボットを開発しつつある。米国軍隊は、歩兵の兵器、地

上車両、航空機、艦艇といった幾つかの種類のロボットを採用した新しい技術を開

発している。無人の車両によって、「単純作業、汚く、危険な作業」―常時監視、

有害物質の廃棄、リスクの高い軍事攻撃―を軍は時間、労力、生命を浪費すること

なく、遂行できる。

ロボットは、人間よりも多くの業務をよりよく遂行できる。無人機は、疲労、空

腹を生まない。燃料補給とメンテナンスが必要な一方、無人飛行機は、睡眠や休息

が不要である。無人機は、数時間も一定のエリアをホバリングでき、人間の操縦者

であれば、数時間後には休息と燃料補給に基地に戻らなければならない。ロボッ

トは感情、パニック、恐怖に苦しまない。ロボットは、誤った解釈、誤解、遅延

なく、地球の裏側でも人間の指揮官の命令に従うことができる。それらは、コン

ピュータープログラムのバグ、ウィルスがない限り、プログラムに明快に従う。

意図せざる製造やプログラム上の誤り、敵の故意のハッキングで、ロボットが誤

作動を含め機能不全に陥る可能性があることは確かである。アメリカのステルス

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

ドローンは伝えられるところによると、基地との通信の混線が原因で 2011年にイ

ランで墜落したという。将来の敵は、考えられるところでは、攻撃ロボットを破

壊するためにコントロールを奪ったり、自分たちの主人に対して攻撃させたりす

るかもしれない。我々は、新しい技術の成功確率の効果について誤差率(エラー

レート)を評価しなければならない。機械(マシン)のエラーの蓋然性が、人間の

エラーのリスクを上回るかどうかは現在明らかではないことは確かなことである。

しかし、他の文脈での機械の経験においては、人間のエラーを上回ってはいない。

自律運転車両は、たとえば、人間の運転手よりもはるかに低い事故率を示してい

る。絶対数からみれば、無人機は、人間のパイロットより事故を起こしているよう

にみえるが、航空機の飛行時間からみれば、そうとはいえない。(以下、一部略)

アルカイダの指導者のような特定の標的を攻撃する場合に無人機の方が人間のパ

イロットよりも正確性が低い、という公的研究は存在しない。ロボットの機能不全

というよりも、射撃するという人間の決定が批判されてきた。もし存在するとすれ

ば、ドローンの極めて高い正確性に対する批判である。ドローンのエラーの極めて

高い確率については批判されていない。(以下、一部略)

今後、数十年で、ロボットの兵士は、戦闘任務のために一層、人間にとって代わ

るであろうに違いない。無人機は、地上や水中のロボットより先にあらわれた。そ

の理由は、空中での操作は比較的、自由で、そして、効果的な対抗策に遭遇する確

率が低いからである。

戦略的な地上攻撃部隊の早期の展開に、制空権と戦略的な攻撃任務が含められる

べきである。ロボット技術と、それを補助する情報システムが発展するにつれて、

人間の操縦する装甲車両、地上砲兵、水上艦や潜水艦はドローンが取って代わるだ

ろう。はるかに高い稼動性、長期間の耐久性、迅速な対応、そして高い正確性のよ

うに、ロボットは人間よりもはるかに質的に優位に立つ。これらの質は、攻撃者、

防衛者そして文民に対する損害を減少させる。しかし、自身の行動の結果から人間

の意思決定者を地理的及び心理的に遠ざけることによって、殺害についての道義的

障壁も弱めるかもしれない。サイバー(インターネット)は「第四の」(陸海空と

は別の次元の)潜在的紛争の次元を提示しており、2010年に防衛省に新しいサイ

バーコマンドが創設されたことは重要性を示している。インターネットを通じて

コミュニケーションし、強力なコンピューター処理を通じた莫大な蓄積されたデー

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法律論叢 92巻 4・5号

タを操作した情報と統制システムに国家は依拠してきた。我々は日々、次のような

例をみてきている。情報記憶のスピード、サーチエンジンの検索、クラウドコン

ピューティング、インスタントメッセージや電子メールによる迅速な情報コミュニ

ケーション、オンライン販売の高速性と効率性などである。軍事作戦は、民間部門

の新しい情報技術を利用することで費用を抑えて、効果を高めてきた。それらは、

同じく脆弱性の対象となってきた。

デジタルコンピューティングとコミュニケーションは、ロボットと結びつき、情

報強化された軍事作戦と呼ばれるものを生み出す。これらの作戦では、高い技術の

センサー、コンピューター計算、軍隊と兵器を調整するコンピューターとコミュニ

ケーションが効果的に用いられ、情報の迅速性で優位に立つ。この統合は、戦闘地

域での戦闘の実効性を高めるだろう。無人航空兵器のプラットフォーム、精密攻撃

ミサイル、そして、統合軍事作戦は、たとえば、米国が戦闘地域のはるか後方に

あって標的を攻撃することを可能にした。情報空間の優位性によって、国家は標

的、脅威、費用、便益についての最新情報を常時、同時に受け取る一方、国家は、

はるかな距離を保ちながら複数の兵器を調整できるようになった。情報強化した

作戦は、あらゆる次元で調整された攻撃能力を生み、敵の能力を削り、紛争の時間

を短縮する。その力は究極的には爆発的に(乗数で)増加する。

情報技術が軍隊や文民の作戦の両方で効果性を高める一方、新しい脆弱性を生ん

でいる。国家は、優位に立つための競争の中に情報操作を長らく含めてきた。古代

の戦争の記録は、諜報や欺罔を詳細に物語っている。よく知られたハッキング戦略

がトロイの木馬であるのは偶然ではない。技術が電信、ラジオ、電話といった高速

のコミュニケーションの手段を提供するにつれ、国家は介入し、盗聴することがで

きた。インフラや資源を統制し、情報をコミュニケートして記録し、作戦を調整す

るインターネットが広範に利用されると、国家はサイバー攻撃に対して一層、脆弱

になった。世間の耳目を集めている事例が登場し、アメリカ合衆国行政管理予算局

から数百万の個人ファイルが盗取され、民主党のコンピューターにロシアがハッキ

ングしたとされ、北朝鮮がソニーのコンピューターシステムを破壊した。

これらの攻撃では多様なサイバー兵器を用いている。その中にはコンピューター

やネットワークを監視したり、攻撃したりするスパイウェアが存在している。トロ

イの木馬のような悪意のあるコンピュータープログラム、ネットワークに感染し、

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コンピューターの統制をのっとるコンピューターウィルス、自己増殖して、マル

ウェアをばらまくワーム、コンピューターに悪意のある指示を与え、ウェブサイ

トに過重なDoS攻撃を与えてコンピューターを破壊する論理爆弾などである。サ

イバー兵器はロボット兵器としての費用が低く、高い実効性を有している。Scott

Shackelford教授によれば、「インターネットは全世界で、アクセスが広範であり、

攻撃者の便益が集中する一方、費用は分散化する」。インターネットの分散化され

た性質によって、重要な施設の攻撃からの防衛、そして国の当事者に攻撃の責任を

負わせることが困難になる。

インターネットが軍事作戦や文民統治を容易にするにつれて、国家は、敵対者の

オープンアクセスを否定する一方で、文民に対して、それを維持するのが困難にな

る。これは、海、空、そして宇宙といった公共領域に向けた米国の戦略目標であっ

た。米国のサイバーセキュリティの職員が評価するように、インターネットの開放

性とアクセスは、攻撃戦略に都合がよく、防衛費用は増大する。米国防衛省によれ

ば、米国は「軍事作戦の全ての領域」をカバーするために、「攻撃、欺罔、劣化、

混乱、否定、搾取、そして電子情報とインフラの防衛」のために「コンピューター

ネットワーク作戦」を利用する。

これらの新しい兵器技術は、「あるかどうか、ではなくて何時」の問題である。

本パートは、米国のプログラムを詳細に記述した。その理由は米国のプログラムが

独自だからではなく、米国が他国に比べてはるかに多く展開しており、さらに配備

する計画を公表してきたからである。ある評価によれば、少なくとも 7つの国家が

戦場でドローンを用いて、19の国家が、戦闘ドローンを獲得したか、現在、獲得

しつつある。ドローンをもたない国家は、北朝鮮のように、サイバー兵器を用い

て、データを盗み出し、軍事又は民間ネットワークにハッキングする。これらの兵

器は、兵器の費用を低下させ、標的に対する正確性を向上させる。これらの軍事的

な効果性と低い費用が組み合わされることで、国家の抵抗は困難になっている。B.新たな兵器に関する論争と規制への動因著名な国際組織の公務員や弁護士は、これらの新しい兵器の展開が法に抵触する

と信じている。無人機で米国は、地上部隊を派遣したり、領土を確保したりする必

要はなく、伝統的な戦場から、はるかに離れてテロリスト集団への攻撃が可能に

なった。「オバマは、大統領に就任して 3年目までに、グアナタナモで収監したテロ

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法律論叢 92巻 4・5号

リスト容疑者の 2倍の数の殺害を指示した」、とあるジャーナリストは評価してい

る。外部機関は、中東及び東アフリカでは米国の無人機の攻撃によって、戦闘員と

されるものがおよそ 2000名、文民は数千の人々が殺害された、と見積もっている。

「ドローン戦争」の批判は様々なかたちをとっている。ロボット兵器は、戦争を

開始するのがあまりに容易であり、極めて費用が低いために止められない、と主

張する者もいる。法や道徳が紛争の量を減らすという希望から、これらの職員や

研究者は、クリアするにあたって困難な障壁を戦争が示すべきだ、と信じている。

ロボット兵器が、伝統的な戦場から文民の領域にまで広がり、戦争法ではなく国

内法で規律されるべきだ、と主張する者もいる。ドローンの正確性やスピードに

よって国家は特定の個人を殺害の標的にすることが可能になり、暗殺禁止に抵触す

る、と主張する者もいる。セキュリティ・アナリストのLawrence Korbは、たと

えば、ロボットが「『なんてことだ、戦争は、簡単じゃないか』と人々に感じさせ

るだろう」と主張している。彼は、「3人とひとつの衛星電話」だけで、戦争に勝

つことができるという印象を指導者たちが抱くようになると懸念している。Peter

Singerは、「無人のシステムが普及するにつれ、我々は一層、武力を行使するよう

になるだろう」と同意している。(以下、一部略)

非・国家の当事者に対するドローンの使用を批判する者は、確立された国際組

織、もっとも目に見えるかたちであれば、国連に登場してきた。2010年 5月に国

連人権理事会は、特別報告者を任命して、「標的殺害(targeted killing)」を調査

した。国連の専門家のPhillip Alstonは、米国のドローンの実践は、国際法に抵

触すると主張した。その根拠は、「認識された戦場から離れてテロリスト集団の指

導者を標的にしており、平時における殺害に等しい」と主張する。彼は、ドローン

の使用を批判する。その理由は、「国家の武力のリスクを伴うことなく、殺害を容

易にしているから」である。Alstonの国連報告は、テロリストに対して国家が先

制的自衛のためにドローンを利用できる、という主張を批判した。「ドローンの使

用は、恣意的な人間の生命を奪うことを禁止する人権法を骨抜きにする恐れがあ

る」からだという。

この主張を拡大する研究者も存在している。パキスタンのドローンの使用は、た

とえば、戦争法に違反すると主張する。その理由は、国際紛争地域内で発生してい

ないからだ、という。彼らの見解では、文民や個人は、国家と異なり、戦争を遂行

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

できない。戦争は、統一された空間と時間内で敵対行為が集中し、他方、テロリス

トは散発的に、独自にそして国家の援助なく攻撃を開始する。これらの研究者の見

解では、従って、テロリストは、自衛のための武力行使を国家に認める国連憲章51条の「武力攻撃」の基準を満たさない。(以下、一部略)

これらの批判は、Jus ad bellum(武力紛争に関する法、開戦法規)―武力紛争

の合法性と jus in bello(国際人道法、武力紛争中の行為に関する法)―どのよう

に従事するか、とを混同するものである。戦争に向かうことを正当化することと、

特定の戦略に兵器を用いることは別問題である。同様に、たとえ国家が不当な理由

で戦争に向かったとしても紛争に従事する兵士は、jus in bello(国際人道法)に

違反してはならない。Jus ad bellumと jus in belloとの間の法的区別はドローン

にも適用される。戦争を開始するという国家の決定は、自動的に特定の種類の兵器

を入れたり、排除したりすることはできない。いったん紛争が発生した場合、特定

の文脈における兵器の選択が合理的であったかどうか、という問いが繰り返されて

きた。(以下、一部略)

米国の見解では、ドローンの選択は、武力行使の合法性に何ら違いを生み出さ

ない。「標的を規律するこのルールは、使用される兵器のシステムの種類を引き出

さない」。国務省のリーガルアドバイザーのHarold Kohは、次のように述べてい

る。「パイロットのいない航空機やスマート爆弾のように、適用される戦争法を遵

守して展開されている限り、技術的に優れた兵器システムを武力紛争で使用するこ

とは戦争法上、何ら禁止されていない」。これらの法は、軍事目標だけを狙い、文

民を国家は攻撃しない、という区別の原則と、軍隊が軍隊の利益に比例して過度な

損害を与えてはならないという比例原則を含んでいる。Koh氏の言明から 3年後、しかしながら、国連の国際法の職員は、ドローンに

対して批判を続けた。ドローンが「いまだ残って」いることを認めながら、地理

的、時間的境界の薄い武力を、低烈度であるけれども長期にわたって行使し続ける

ようにロボットが国家を誘惑することをChristof Heynsは懸念した。ロボットの

成長する利用可能性と低費用は、米国、英国、フランス、ロシア、中国、インド、

イスラエルといった国家の多くの兵器工場に対する必要条件となっている。国家

はドローンやサイバー兵器といった他の技術を用いて、攻撃を伝統的な戦場から離

れて開始して、即座に探知されることなく、責任を回避することができる。国家が

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法律論叢 92巻 4・5号

精密打撃を利用して、低い水準の武力をお互いに強いるようになるにつれて、戦争

と平時の明確な境界は曖昧になってきている。

新しい兵器によって、その強度がたとえ低くても、国家が一層武力を頻繁に使用

するようになる、と懸念されている。攻撃する国家の武力に対する損害のリスク

は低いため、政府は一層、習慣的にドローンを展開するようになるだろう。武力

行使が長期間にわたって広範に用いられるならば、Heynsは次のように結論付け

る。「国家を越えた武力行使を時間的に、範囲的に限定しなければならない。そし

て、紛争後に回復する時間が必要である、という戦争の概念が挑戦されている」。

ドローンの広範な受容と利用が「国際安全保障の基盤に構造的な損害を与え、長期

間にわたって地球上の生命の保護を掘り崩す」、という。

国連の職員、あるいは多くの国際弁護士の過熱した主張に反して、新しい兵器

は、先例のないダイナミックなものを生み出していないし、国家が戦争に向かうよ

うにドラマチックに奨励してはいない。現代の戦争は、紛争を深めるばかりではな

く、戦場に集中してきた。新しい兵器の技術は逆効果を生み出すかもしれない。ド

ローンによって、戦争で失われる戦闘員や文民の数は、過去の世紀での失われた数

よりも少なくなるかもしれない。ドローンが攻撃開始の数週間前に「前線」から数

千マイルも離れて敵を攻撃することで、ひとつの場所と時間で統合されていた戦場

を越えて敵対行為は拡大するかもしれない。新しい兵器は戦争を拡大するかもし

れないが、その破壊性から見ればその強度は弱くなる。

同時に、この分野で目新しいことはない、というオバマ政権の確証はミスリード

かもしれない。ロボットとサイバー兵器は、他の兵器と同じではなく、21世紀で

の利用は、過去の世紀の兵器の道程をなぞるものではない。19世紀や 20世紀で

は、新しい兵器の技術の展開が戦場での死者を急激に増加させた。産業化は、戦場

で大量殺害兵器を可能にするだけでなく、科学研究は、従来以上に無差別に人を殺

害する核爆弾のような兵器を最終的には生み出した。

新しい兵器は、攻撃力の殺傷能力をより確実にするが、破壊性の程度は低くな

る。ドローンは、たとえば、成功する攻撃の可能性を高める情報を収集でき、標的

を破壊するのに必要な武力を縮小できる。(以下、一部略)

精密弾は、付随損害の可能性を低下させる。結果として、戦闘で死者や苦しみを

減少させるはずの新しい兵器の規制を一層厳格にするならば、国家は誤りを犯す。

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

ロボットやサイバー兵器は、ミサイル攻撃の即時性だけでなく、人間のパイロッ

トのリアルタイムの意思決定も提供する。遠く離れた場所での戦闘能力を通じて

ドローン操縦者やプログラマーを物理的な戦場から引き離すことで、死者の確率

を減らすことができる。戦争法での利益衡量に従えば、人間の操縦者をリモート

統制されたコンピューターの脳に置き換える選択肢が存在するならば、ドローン

が選ばれるべきである。たとえば、米国のシリアでの ISISの指導者の場所の情報

を想定してみる。3つの選択肢が与えられている。(1)プレデター、(2)パイロット

の搭乗したF16戦闘爆撃機、(3)Seal team 6(海軍特殊戦開発群)。これらすべて 3

つの選択肢が、同じ成功便益で、傍の文民に対するコストが同じであると想定す

る。(2)と (3)が、米国兵士をもっともリスクにさらす一方、(1)は、効果上はそれ

ほど差異が生じないにもかかわらず、リスクは同じである。米国の指揮官が (1)を

選択するのは当然である。しかし、ドローンを批判するものが見落としているけ

れども、戦争法は (1)を選択するようにいずれの国の指揮官にも奨励するべきであ

る。もし全ての選択肢が、同じ利益 (pay off)を生む場合(同じ指導者を殺害する

確率が同じである)であるが (1)がもっとも費用が低ければ、全体としての社会便

益は (1)を選択すべきである。この計算は冷酷なように思われる。この計算は攻撃

者に対する費用だけに注目して、防衛者に対する攻撃に常時目を光らせる必要があ

る一方、司令官は戦争法に従い、利益衡量を行わなければならない。

ドローンやサイバー兵器は、しかしながら、その使用者の潜在的な費用を低減す

る以上の便益を生む。それらは、防衛者に対する潜在的な害悪も減少させる。この

便益は、現在の軍事介入の傾向に逆行するものである。武装の発展は戦闘員を戦場

から引き離してきた。しかし、距離が延びれば、正確性が低下していた。攻撃が長

距離になることで確実性が低下することから、国家は、極めて大きな損害をもたら

す弾頭を展開して補償してきた。正確性の低い爆弾は、同じ標的を破壊するのに広

い爆発半径を必要とする。

新しい軍事技術は、距離とエラーの間の連関を断ち切る。プレデターとリーパー

をダコタにある ICBM地下格納庫のミサイル隊が利用できる場合、米国空軍のパ

イロットの戦闘任務は解除されるようになった。伝統的な米軍の実施してきたミ

サイル攻撃よりもはるかに高い正確性を米国無人機は提供している。実際、プレデ

ターとリーパーの高い正確性は、有人の対地攻撃機よりも優れている。なぜなら、

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法律論叢 92巻 4・5号

ヘルファイヤやマーベリック(ミサイルシステム)といった同じ装備を配備してい

るからである。唯一の違いは、兵器のプラットフォームである。有人爆撃機のエ

ラー率をドローンは改善することができる。ドローンのパイロットは、疲労や戦闘

の熱に苦しまなくてよい。攻撃のために最適な時間帯を選択するために戦場でホ

バリングしつづけるという高い利便性を有している。

これらの利点は、文民に対する損害を減少させるという戦争法の究極目的に新し

い軍事技術が近づく助けとならなければならない。常時監視(そして、優れた情報

収集)と正確な攻撃が結びつくことで、文民に対する付随損害を減少させるべきで

ある。ドローンは、対照的に、常時、標的を変更し、状況に適合した兵器を選択す

ることができる。コクピットに人間の操縦士がいないため、ドローンは、はるかに

大きなリスクを引き受けることができる。有人よりさらに低空で、あるいは高空

で、防空用、対人用の標的を攻撃する際に、近隣に対する損害を減少させることが

できる。(以下、一部略)

2. 新しい兵器技術の過剰規制の危険

これらの新しい兵器の種類で国家は、斬新な方法でお互いに強制、圧力をかける

ことができるようになった。このパートでは、これら新しい兵器の禁止といった規

制が無駄であることを主張する。最初に、国際関係の現実的な方策についての分

析、すなわち、国家は他の利益の中でも安全保障を追求して、国際機構が無秩序で

あるために国家間の協力が難しいことを根拠にする。そして、新しい兵器のシステ

ム規制についてなぜ国家が一致しないか、を示す。これらの新しい兵器が、実際に

は、武力紛争地域での戦闘員と文民双方に対する損害を減少させるかもしれないと

主張して、国際的同意に関するこれらの予想を述べる。直観に反して、ドローンや

サイバー兵器を過剰規制すれば、予想もしない結果をもたらし、戦争を一層危険で

破壊的なものにしていく。(以下、II-A一部略)GPSや戦場で展開されるドローンの広範なセンサーについて研究者は批判する

ことに慣れていない。直接的な人間の決定無く、戦争を遂行する自律的システムが

不可避的に展開されていることについて彼らは批判していない。戦争を実行する

際に個々の人間を補助する自動化された兵器システムに対置して、真の意味での自

律的なシステムは、直接な人間の決定無くして、標的を設定して、殺傷能力のある

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

兵器を開放するだろう。2012年には、たとえば、米国防衛省は、自律型兵器シス

テムを次のように定義した。「いったん作動すると、人間の操縦者の介入なくして

標的を選択し、攻撃する」。この点について国連の特別報告官は、殺傷能力のある

自律的ロボットについて確定する定義を宣言した。「いったん作動すると、さらな

る人間の介入なくして標的を選択して、従事する」兵器とした。

この定義によれば、自律型兵器システムは、すでに始まっている。米国の海軍

ファランクスは、たとえば、戦闘コンピューターの命令で、複数の高速ミサイルの

攻撃から艦船を高確率で防衛する大砲を設置している。米国のパトリオット、イス

ラエルのアイアンドーム(防空システム)システムは、コンピューターとミサイル

を展開して、地上に類似のシールドを建設している。しかし、将来の見込みは一

層、進歩している。これらの発展は、すべての独立したロボット兵器の禁止を正当

化するターミネーターの将来の恐怖を刺激する。2012年に、たとえば、Human

Rights WatchとHarvard International Human Rights Clinicは、自律型兵器

の全ての禁止を公的に要求するだけでなく、いかなる関連研究や発展を禁止して

いる。彼らの見解では、そのような兵器は、区別の原則、比例原則、そして必要

性の原則に適用されない。「国際人道法の重要な原則を順守することができないよ

うに思われる」、という。Wendell Wallach、Yale大学の技術と倫理委員会の委員

長は、米国大統領に、「完全自律の兵器による法的・殺傷能力を有しない意図的な

攻撃が戦争法に抵触する」と宣言する大統領命令を発するように求めた。Wallach

は、「ターミネーターをターミネートする」という目標を設定した。国連特別報告

官と赤十字国際委員会の前委員長は、国際社会が付随する法的、倫理的問題を解決

できるまで、一時的な凍結を要請した。

国際と国内の公務員は、国際法がそのような兵器を規律できるかどうかについ

て、疑問を呈している。「信頼できる自律型兵器システムを戦場で(国際人道法)

を遵守した機能を確保するようにプログラムすることが技術的に不可能であった

らどうするのか」、と Jakob Kellenberger赤十字国際委員会の前委員長は問うて

いる。これらの批判が主張するように、特定の戦闘地域の状況に整然と適用される

一般的な原理を編み出すことは難しいだろう。ロボット兵器に新しい状況に適用

される諸原理を学ばせるのは非常に難しいだろう。ロボット兵器の支持者ですら、

効果的な武力行使と、不適切な場合に武力行使を控えるプログラムを書くことが難

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法律論叢 92巻 4・5号

しいことを予想している。(以下、一部略)「…自律型兵器を作り出すことも極めて

難しい」、と防衛省の公務員は示している。マシンラーニングが新しい意思決定と

予想できない結果のかたちを生む、と懸念する声もある。

自律型兵器に対しては、たとえその配備が将来数十年先といわず、数年先であっ

ても、様々な批判が主張されている。第一に、現在の単純で、遠隔操作されている

無人機ですら除外しようとするものである。新しい兵器は戦争の費用をあまりに

鋭く削減するため、武力行使を奨励している、という。完全に自律化されたドロー

ンは、操縦者の人命や捕虜の可能性が存在しない。

さらに正確な標的で、付随的損害が低くなれば、ロボットは、伝統的な有人の兵

器と比べてはるかに費用対効果を提供する。これらのドローンの特徴は、しかしな

がら、「戦争に向かう政治的費用とリスクを減少させる」、とPeter Asaroは主張

している。

自律型兵器禁止の法典化を支持する者もいる。そのような兵器を禁止すること

で、彼らは、機械兵器が真の意味での独立したロボットに向かって徐々に傾斜して

いくことを予防できる、と主張する。ロボット操作の独立性は、否定論者の主張に

よれば、少なくとも武力行使が人間の決定を伴わない、という意図せざる結果を生

む。「自律型兵器システムは、地域そして全世界に不安定と危険な状態を生み、軍

隊は競争し、非・政府の当事者は増加し、人間の政治的意図の外で紛争が激化し

はじめるだろう」、とAsaroは表現している。これらの否定論者は、ジュネーブ条

約第一追加議定書を引いて、この議定書が「新しい兵器、手段や方法」の使用が、

ジュネーブ条約と戦争法に違反しているかどうかを審査しなければならないと国

家に義務付けている。禁止について懐疑的な者も、米国はジュネーブ条約の下で、

自律型兵器が戦争法に違反するかどうかを決定するよう徹底的な審査を行う点で

は一致している。ロボットは、GPS、センサー、自律的意思決定、高速コンピュー

ティング、精密機器と結びつき、特別な厳格審査を明らかに要請する戦争の新しい

方法を示すだろう。(以下、一部略)

(規制論者の)主張は自律型兵器に関する技術ではなく、戦争それ自体を批判し

ている。すべてではないが一定の国際紛争では、ひとつの国家が、ライバルに対し

て優位に立つかもしれない。圧倒的な優位性があれば、強者は強引に相手に要求を

通すことが容易になるかもしれない。その低い費用が理由となり、戦争を早める状

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

況もあるかもしれない。情報による急襲を加えて、非常に驚かせる国家もあるかも

しれない。効果的な兵器、戦法、はるかに優位に立つ戦略を有している国家もある

かもしれない。戦闘における優位性は、しかしながら、違法な戦争を意味しない。

そのような誤った考えは jus in bello(国際人道法、武力紛争中の行為に関する

法) と jud ad bellum(武力紛争に関する法、開戦法規)を混同している。戦争

を遂行する手段は、戦争の正当化の構成要素にならない。正当な戦争は、対等な手

法で戦うことを必要としない。迅速な結論に至り、できる限り人命の損失を減らし

たいという目的で戦争を始めたい国家は、一方が他方に対して圧倒的な優位性を持

つようにすべきだろう。迅速な戦争は、精密兵器で戦闘され、戦闘による付随損害

は減少し、人権の惨禍は速やかに終わり、多くの人命が救われるだろう。同様に、

国家が防衛する場合、もっとも高度な兵器を国家に有してほしいと我々は望むだろ

う。優位性それ自体は、攻撃を抑止しないかもしれない。実際の戦争では紛争が高

い費用を生む場合、攻撃者は断念するかもしれない。

自律システムの否定者は、人命の損失や破壊を生むようなルールを支持してい

る。高度な兵器システムによる先制爆撃は、多くの国家間に技術上の不均衡を生む

だろう。同程度に対等する兵器や戦略を有した国家間の数年にも続く軋む戦争を

目にするかもしれない。世界は、100年前に、第一次世界大戦の塹壕戦の紛争を目

にした。

軍事技術の現実の世界の帰結は、新しい兵器をカテゴライズして禁止することを

否定している。ドローンを備えた自律型兵器システムのおかげで、戦争している国

家は、自分たちの兵士にかかる費用は低いままにおさえ、戦争行為をはるかに高い

殺傷能力をもって行うことができる。費用便益から見て、向上した兵器の効果を、

禁止を促すべきではなく、むしろ戦争の破壊性を減少させるものとして歓迎すべき

である。技術を通じて、標的設定が正確になる結果、戦争は効率化し、戦闘員や文

民の人命が救われ、最終的には短縮化した紛争が、全世界の福祉を改善するだろ

う。これこそが戦争に関するルールの体系が追求してきたものである。

自律型兵器を批判する考えの 2つ目の主要な根拠は、自律型兵器が「殺害の連

鎖」から人間の決定を切り離すというものである。ロボット工学が、完全に人間か

ら独立したロボット兵士を生み出すことができるかどうか、についての議論が続い

てきた。そのような技術が遅かれ早かれ利用可能になると、個々の人間が人命を

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法律論叢 92巻 4・5号

奪う判断をしなければならない、と主張する者もいる。Human Right Watchは、

「自律型兵器の完全禁止」を、人間の情報入力や監督を必要とせずに高い殺傷能力

を伴う兵器の使用を選択するロボット兵器に対して適用すべきだ、と主張してい

る。遠隔操縦のドローン、艦船、地上車両は、人間の操縦士が操縦桿を握るために

この問題に悩まなくてよい。しかし、自律型兵器は、個々の射撃に人間の介入なし

に、アルゴリズムにのっとって標的を攻撃する決定を下している。国家は、そのよ

うなシステムを戦闘地域の環境に展開するよう追求し、敵は遠隔操縦者との接触を

断ち切り、あるいは、自律性は隠密性(ステルス)と奇襲攻撃を強化するだろう。

そのような状況では、個々の人間は、究極的に殺害するという決定を下さないだろ

う。むしろ、多くの軍人や文民の参加したプログラム、兵器の構造から、その選択

が導かれるだろう。

人間が円環(ループ)に存在していないことは人権擁護の点からは問題がある。

ロボットは、人間の意識を有しておらず、決定に対して道徳的責任を負わない、と

否定論者は主張する。「意図的に設計されたシステムは、責任を負い、説明できる

ものがおらず、それ自体が非・倫理的で、無責任で、非・道徳的である」、とAsaro

は指摘する。これらの批判は、人命を奪う決定が究極的には人間の手によるもので

あるべきだ、と信じている。彼らの主張は、しかしながら、人間の決定が、問題と

なっている道徳的価値を注意深く熟慮するというよりも、むしろきわめてユニーク

であると想定しているように思われる。銃のトリガーを引く個々の人間が存在し

なければ、国際法の枠組みは、戦争法に対する犯罪に対して誰も責任を課さないだ

ろうと主張している。事後的な刑事手続の見込みでロボットを抑止することはで

きないだろう。

これらの主張は、しかしながら、自律(独立)性について食い違いがある。標的

を決定する自律型兵器は、命令を受け取らなければならない。ロボットがはなた

れ、予想しうる決定に司令官が責任を負うと考えるのは合理的である。他方で、ロ

ボットやサイバー兵器の行為を兵器のプログラムに帰することができないことも

あるかもしれない。司令官は、自分の軍隊が行った一定の戦争犯罪について「命令

責任」を負う。司令官は、自律型兵器の行為について、それに近い責任を負うだろ

う。ただし戦争法に抵触する決定を下す個人としての裁量は狭いだろう。もし、意

図的に兵器を普遍的な戦争規範に違反する兵器を設計した場合、その責任は、ロ

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

ボット兵器のプログラマーや設計者にも及ぶかもしれない。

道徳性判断を代わりに行う機関 (moral agency)に根拠を置く主張は同等に根拠

が弱い。なぜ道徳的要請によって戦争で人間が引き金を引くのか、が明らかではな

いからである。戦争に関するカントの主要な論考でもそのような議論は擁護され

ていない。もし問われるならば、我々の人命については他の人間にこそ決定された

いと望むのであれば、同じルールを私たち自身で採用しなければならない、と否定

論者はいうだろう。もし他国の敵が自律型兵器を用いて我々の人命を奪うことを

望まないのであれば、我々は他者に対してそれらを用いてはならない。しかしなが

ら、戦争において人命を奪う―という原因がなければ(but for cause)―人間こ

そが最終決定すべきことが主要な利益であるかは明らかではない。戦闘で我々の

人命が奪われるのであれば、正当な根拠で人命が奪われるように確保すべき大きな

利益を我々は享有すべきである。戦争法は、人間の参加を最小限にして、害悪を最

小化する戦闘の手法を好んでいる。自律型兵器が戦場で目標とする敵を攻撃する

場合、標的の設定が同程度の正確性を有し、人間の兵士としての付随損害が同程度

の感度であれば、道徳的には中立であるべきである。そして、もしロボットが、付

随的損害を人間の操縦士よりも最小化できる場合、ロボットを採用すべきである。

費用便益分析から見れば、そのような議論は要点を外れている。問題は自律型兵

器が戦争の全体の費用を削減するかどうかである。人権擁護者は新しい兵器の便

益の可能性を軽視している。ロボットを展開することで、人道法の目標である戦闘

で生じる人命や苦しみを減らすことができる。それはロボットを絶対的に禁止す

るよりも、はるかに効果的である。数千マイル先とはいわず、数百マイル先で命令

を送るドローン操縦者のリスクは減らさなかったとしても、無人の兵器は、(人命

や苦しみを)減らす。ドローン兵器の正確性は、戦争法の主要な目的である文民と

付随損害を減少させる。

II.戦争と新しい技術の合理的考え方の講演

本章は防衛大学グローバルセキュリティーセンター主催の第 17回コロキアムの

要旨である。

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法律論叢 92巻 4・5号

1.新しい技術のもたらす戦争概念の変化と課題

無人機や自律システムによって人命の損失なく低いコストで高い正確性を維持

した攻撃や偵察が可能になった。サイバー戦争と呼ばれる現代では、こういったロ

ボットが諜報活動、指揮命令・情報伝達を妨害したり、ネットワークや財産を破壊

したりすることが可能になった。

これらの新しい技術の台頭によって生じる便益と課題を検討しなければならな

い。ロボットによって、従来よりも正確に軍事施設に標的を設定できるようになっ

た。また、常時に情報収集活動が可能になった。人間を介在しないこれらの活動や

戦闘では兵士や軍事物資の損害が減少する。標的の正確な選別が可能になったこ

とで付随損害は低下するようになった。これらのロボットの利用によって迅速に

紛争の解決が可能になるという。これらの武装ドローンについては、この技術を最

初に獲得した国家が広く利用すれば、国際安全保障の基盤を崩すという評価も存在

している。

ロボットの登場は戦時と平時の区別を曖昧にする。また紛争の開始が容易にな

る。標的に民間人が含まれる。破壊に制限を設定することが困難になるという懸

念が存在している。例えば、地雷に関するオタワ条約は、新しい政治、パートナー

シップ、国際環境の可能性を示し、主権国家を超えた法的枠組みの確立は可能か、

という問題を提起していた。これらの技術は伝統的な主権概念に挑戦するものと

いえる。

2.戦争法とロボット

戦争法は、非道徳的な手段という道具的な性質を有している。戦争法は国家慣習

の所産であり、国家が戦争法を遵守した方が良い結果をもたらすという理由でルー

ルが設定されている。

現実には、国際機関は、国家を越えて秩序を維持できるように機能していないと

いう評価もある。国家は、自己の利益を追求して最大化しようとする存在であり、

国家間の協力は時宜に応じて設定されており、秩序を維持する存在としては弱いと

も評価されている。

安全保障の根底にある応報性・抑止として防衛同盟、ジュネーブ条約、ハーグ条

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

約といった条約が用意されてきた。しかし、これらの条約の執行力については疑わ

しい。新しい兵器が登場すると諸国家は新しい戦争を規制しようと努力する。し

かし、国家間の同意には、双方に同意のもたらす便益について釣り合いが要求され

る。新しい兵器の便益についての評価がいまだ確定していない現在では、誰が勝者

になるのか不透明であり、これまで国家間で締結されてきた軍縮条約を締結するこ

とは難しいといえる。

新しい兵器を規制する目的は、武力行使に国家が訴えないように、そして戦争の

害悪を減らすことを目的にしている。この規制は、国家間で異なる技術水準の差を

減少させようという効果をもたらすだろう。また、軍事目標について攻撃力の高い

水準だけに戦争を限定する効果があるかもしれない。

しかし、このような規制はかえって戦争の機会を増やすだけである。戦争は、国

家間の交渉であり、武力行使の機会が減ると、武力行使を実行する際に相手国に送

るシグナル(予兆)の機会が減少する。国家は、効果的に紛争を解決できない存在

である。そもそも紛争は究極的には取引であり、戦争のもたらす価値を予想しなけ

ればならない。戦争に勝利する確率、便益、費用を正確に把握し、戦争に頼らずに

紛争を解決した場合に生じる便益も評価しなければならない。戦争は、紛争解決と

共通している。そして、需要と供給が必ずしも一致しない場合もあるだろう。

3.新しい兵器のもたらす課題に対して

それでは、どのように紛争を解決すればよいだろうか。

そもそも国家は十分な情報を有していないことを前提にしなければならない。国

家は、本来、相手国の勝利する確率や資産を正確に評価しなければならない。そし

て、国家間の交渉でブラフ(はったり、こけおどし)を用いずに、どのように相手

国にシグナルを送るかが重要である。

紛争解決にあたって前提にすべき点がある。国家は、信頼に足りる情報が必要で

ある。また、国家間の同意に国家が真剣に向き合わないことがある。かりに紛争が

国家間の同意を通じて解決したとしても、その後、約束が反故にされる可能性もあ

りうる。国家間のパワーバランスが変化した場合、国家間の同意が無視されること

もあるかもしれない。

軍事力について国家間に存在する情報の非対称性は紛争の効果的な解決を阻害

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法律論叢 92巻 4・5号

する。国家は自分自身の軍事力を把握していても、相手方のそれを正確には把握す

ることはできない。相手国の軍事力を過小評価することもあるだろうし、戦争で得

られる利益を過大評価する場合もあるだろう。また、国家は当然に交渉の中でブラ

フを用いるだろうから、正確な評価は妨げられる。

新しい兵器は、相手国と自国が信頼できるシグナルを通じて選択肢を提供する機

会を増加させる。相手国との政治的なシグナルが増えることになり、また、軍事力

について広く信頼できる情報が入手できる。このような紛争解決の手段を規制す

ることは、かえって紛争解決の途を失うことになる。軍事的選択肢が少なければ、

相手国とのシグナルの可能性が少なくなり、手元にある情報も少なくなる。そうす

れば、国家は破壊的な兵器を紛争の早期の段階で用いてしまうかもしれない。

昨今の紛争は、米国はコソボで送電網を停電させ、サイバー攻撃では、電力、ガ

ス、市場のネットワークを破壊した。これらは、国家ではなく、文民を標的にして

いる一方で、一次的には人命の損失の程度は低いといえる。紛争が長期化する原因

の一つは国家間の約束に対して国家が真剣に向きあえないからである。新しい兵

器は、信頼できるシグナルを相手国に送ることができる。新しい兵器に対する規制

はこれから進展するかもしれないが、その現実的な効果は薄いかもしれない。新し

い兵器はむしろ紛争解決の機会を増やすことになるだろう。規制はかえって紛争

解決の途を閉ざすことになる。

III.本報告の派生的問題と日本憲法学への若干の問題提起

最後に John Yooの報告の概要と背景について概観し、日本憲法学に対する若干

の問題提起を明らかにする。

1. John Yooの報告と論文の背景について

John Yoo教授は、1993年以来、カリフォルニア大学バークレー校ロースクール

で講義を担当している。2001年から 2003年の間にジョージ・W・ブッシュの政権

下で司法省の法律顧問を担当した。彼は、戦争概念や自衛権の問題を扱っており、2017年には Striking Power: How Cyber, Robots, and Space Weapons Change

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John Yoo「戦争と新しい技術の合理的考え方」(辻)

the Rules for War Hardcover - September 12, 2017を Jeremy Rabkinと共著

で出版している。

彼の憲法理論は、一元的執政府(Unitary Executive)の考えに従い、大統領を

頂点とする指揮命令と、防衛権限を広く認めるものである。(1)彼は、2018年の講

演と論文で、戦争の概念を新しい兵器の登場にあわせて評価するために、新しい兵

器をめぐる現実の政治の動きを前提にしている。

彼の予想したとおり、この講演と前後して国連の特定通常兵器使用禁止制限条約

(Convention on Certain Conventional Weapons,通称CCW)(2)がAIを用いた

自律的兵器について検討してきた。この条約は、文民や戦闘員の区別なく不要で、

正当化できない苦痛を伴う特定の種類の武器の使用を禁止または制限しようとす

るものである。この専門家委員会はAIを用いて人間を介在せずに自動で標的を

識別して攻撃するロボット兵器について議論してきた。しかし、この議論(3)はコ

ンセンサスに至らず、指針の形で公表された。2019年 11月 15日にパキスタンのMohammad FaisalがCCWの議長に選出され、今後も、AIを用いた兵器の規制

について議論していくという。ただし、このCCWは全会一致が原則であり、将

来、締結国に法的拘束力を認めるかどうかは不透明である。

2.派生する問題―日本の大学

John Yooの主張は日本憲法学に対して問題を提起するものといえる。いくつか

の論点が挙げられる。(4)たとえば、我が国は、完全自律型の致死性を有する兵器の

開発を支持しておらず、自律型兵器については懐疑的な立場を表明している。(5)

(1)一元的執政府については、阪本昌成「権力分立・再定義」近畿大学法科大学院論集 11号33頁(2015)。参照のこと。

(2) United Nation, The Convention on Certain Conventional Weapons. Available at:https://www.unog.ch/80256EE600585943/(httpPages)/4F0DEF093B4860B4C1257180004B1B30?OpenDocument

(3) UN NEWS, Autonomous weapons that kill must be banned, insists UN chief(25March 2019). Available at: https://news.un.org/en/story/2019/03/1035381

(4)青井未帆「武器輸出三原則を考える」信州大学法学論集 5巻 (2005)1頁。また明治大学国際武器移転史研究インスティテュートのホームページ。Available at:http://www.kisc.meiji.ac.jp/~transfer/

(5)日本政府の姿勢については以下を参照のこと。外務省「自律型致死兵器システム(LAWS)に関する政府専門家会合に対する日本政府の作業文書の提出」(22 March 2019)。Availableat: https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4 007229.html

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法律論叢 92巻 4・5号

ここでは学問の自由との関係で問題点を示すにとどめおく。2015年に防衛省は

防衛装備庁を設置し、大学の基礎研究を採択して支援することになった。2018年

の安全保障技術研究推進制度では 57件応募のうち 16件が採択された。

国立大学に対する運営交付金の減少に伴い、防衛省の支援は研究を進めたい研究

者に誘惑となって働くことになる。また、大学の研究が民間の利用を目的にしてい

ても、それらが防衛目的に転用可能な場合がある。これをデュアルユースと呼ぶ。

日本学術会議は 1950年、1967年に軍事研究を否定する見解を表明してきた。

これは、戦前の軍部との協力関係を反省したものである。

日本学術会議は 2016年には「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置し、

デュアルユース、研究の公開・透明性等を検討し、2017年に「軍事的安全保障研

究に関する声明」(6)で政府による介入が著しく、問題が多いと表明した。大学の行

う研究成果の活用、研究の公開、大学の防衛費への依存を問題視している。(7)

(ジョン・ユー・カリフォルニア大学バークレーロースクール教授)

(辻 雄一郎・明治大学法学部准教授)

(6)日本学術会議「軍事的安全保障研究に関する声明」(24 March 2017)。Available at:http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-s243.pdf

(7) European Union External Action, Convention on Certain Conventional Weapons- Group of Governmental Experts - Lethal Autonomous Weapons Systems(27August 2018). Available at : https://eeas.europa.eu/headquarters/headquarters-homepage/49763/convention-certain-conventional-weapons-group-governmental-experts-lethal-autonomous-weapons en

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