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2019年1⽉10⽇ 1 ⽶軍基地と地域社会 ―売春・性病管理のポリティクス 政治地理学⼊⾨―実践編(後期) 第4⽇ 第1回 研究対象・課題 ⽶軍統治下(1945-72年)の沖縄 ⽶軍による売春規制と公衆衛⽣管理の実態と、その⽶軍統治・沖 縄社会への影響 売買春の実態 性病感染と売春規制をめぐる議論 Aサイン制度の内容 オフ・リミッツ(off limits)の適⽤例 制度⾒直し論 Aサイン業者の対応 売春規制・公衆衛⽣管理の空間性・統治性 2 資料 琉球列島⽶国⺠政府(USCAR)⽂書 ⽶国国⽴公⽂書館Ⅱ ⽇本国内で未公開の法務局・公安局⽂書 沖縄県公⽂書館 上記未公開分以外の収集⽂書が検索・閲覧可能 関係⽂書は断⽚的に残存 収集⽂書の解題とリストは⼭﨑(2007) 関係者聞き取り記録 沖縄国際⼤学⽂学部社会学科⽯原ゼミナール(1994) ⼩野沢あかね(2005、2006) 今年9⽉に沖縄市で発表者実施 先⾏研究 主として地⽅新聞記事・⼆次資料に依拠(秦花秀2005、嘉陽義治2007など) 3 4 沖縄県 沖縄本島 沖縄 本島 先島 地域 北部地域 中部地域 南部地域 0 200 km 0 20 km 米軍基地および施設 (2001 年現在) 沖縄市 5 嘉⼿納⾶⾏場(左に沖縄市、右に嘉⼿納町) 6 米軍用地 返還(予定)地 0 1km 嘉手納弾薬庫地区 嘉手納飛行場 キャンプ瑞慶覧 泡瀬通信施設 市庁舎

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2019年1⽉10⽇

1

⽶軍基地と地域社会―売春・性病管理のポリティクス政治地理学⼊⾨―実践編(後期)第4⽇ 第1回

研究対象・課題• ⽶軍統治下(1945-72年)の沖縄• ⽶軍による売春規制と公衆衛⽣管理の実態と、その⽶軍統治・沖縄社会への影響• 売買春の実態• 性病感染と売春規制をめぐる議論• Aサイン制度の内容• オフ・リミッツ(off limits)の適⽤例• 制度⾒直し論• Aサイン業者の対応

• 売春規制・公衆衛⽣管理の空間性・統治性

2

資料• 琉球列島⽶国⺠政府(USCAR)⽂書

• ⽶国国⽴公⽂書館Ⅱ• ⽇本国内で未公開の法務局・公安局⽂書

• 沖縄県公⽂書館• 上記未公開分以外の収集⽂書が検索・閲覧可能

• 関係⽂書は断⽚的に残存• 収集⽂書の解題とリストは⼭﨑(2007)

• 関係者聞き取り記録• 沖縄国際⼤学⽂学部社会学科⽯原ゼミナール(1994)• ⼩野沢あかね(2005、2006)• 今年9⽉に沖縄市で発表者実施

• 先⾏研究• 主として地⽅新聞記事・⼆次資料に依拠(秦花秀2005、嘉陽義治2007など)

3 4

沖縄県 沖縄本島

沖縄 本島

先島 地域

北部地域

中部地域

南部地域

0 200

km 0 20

km

米軍基地および施設 (2001 年現在)

沖縄市

5

嘉⼿納⾶⾏場(左に沖縄市、右に嘉⼿納町)

6

米軍用地

返還(予定)地

0 1km

嘉手納弾薬庫地区

嘉手納飛行場

キャンプ瑞慶覧

泡瀬通信施設

市庁舎

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2

7=特飲街

0 500m

=嘉手納飛行場

ニューコザ

オールドコザ

⼋重島特飲街(1950年建設開始、写真は1971年)

8

9

ゲート通り(1950年代初期)

10

センター通り(1969年)

売買春の実態(1)• 1946〜50年のUSCAR⽂書から

• 現地⼥性(奄美など離島出⾝者も多い)による売春、⽶兵による買春、現地⼥性への強姦・暴⾏

• 現地⼈・アメリカ⼈による売春宿の経営、売春斡旋(ポン引き)• 売春⼥性の性病罹患、買春⽶兵の「品質」低下、沖縄社会の⾵紀悪化が琉⽶双⽅で問

題視• 売春をめぐる構造的問題(貧困)よりもその軍事的・社会的影響が重視される

11

売買春の実態(2)• 逮捕例

• (英訳)コザ市美⾥区での⽶兵を相⼿とした売春⼥性逮捕の報告。宮古島出⾝者で借⾦苦から売春するために⾮合法に沖縄に⼊域。執⾏猶予付き実刑で、宮古島に送還措置。性病(淋病)罹患診断書付。PS092FO5014(1950/04/12)

• 逮捕例• (英訳)越来村における⽶兵相⼿の売春(斡旋)⾏為および売春宿(貸し部屋)の

運営。買春した⽶兵が有⾊coloredであることに⾔及。対価⼀回1-2ドルあるいはタバコ8箱。離婚、それに伴う⽣活苦、無学歴が背景に。⾃宅の⼀部屋を貸して売春させていたケース。⼀名が執⾏猶予判決、残り関係者は⼀ヶ⽉の実刑。三者ともに性病(淋病)罹患診断書付。PS092FO5016(1950/04/12)

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売買春の実態(3)• 逮捕者処置例• (英訳)軍政府の指⽰に基づき、沖縄中央刑務所拘留中の48名の性病罹患⼥性が、性

病治療のためにコザ中央病院に送還される。そこで3時間ごとに2ccのペニシリン注射を5⽇間にわたって受け、陰性の者は刑務所に再送還され、陽性の者はさらに治療を続け、2週間後までには全員刑務所にもどった。その間逃亡防⽌と治療監視のために11名の警官が病院に派遣された。PS092005033(1947/09/09)

• 沖縄側の反応• (英訳)沖縄⻘年会・婦⼈会が道徳向上運動週間で売春の規制を訴える。戦後の道徳

⼼の低下に対応した⾏事として実施。売春⾏為、売春斡旋⾏為、性病の蔓延、⾮⾏の増加など社会病理を指摘。PS092005031(1949/11/21)

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性病感染と売春規制(1)• 沖縄群島知事に対する性病罹患⼥性の取り締まり要請

• 沖縄群島⺠政部より沖縄群島知事あて⽂書。宜野湾村の我如古および⼤謝名部落で飲⾷店などの業者が⽶兵に対して売春の斡旋を⾏っているが、性病に感染した売春婦がいるために⾄急対策をとるよう指⽰している。オフ・リミッツ実施前の対策形態か。PS092005028(1950/12/18)

• オフ・リミッツの実施例は1952年に初出• 飲⾷・⾵俗店やホテル等の施設および⽴地区域に適⽤された、⽶軍による⽶軍要員・家族

に対する⽴ち⼊り禁⽌措置• 個々の売春宿や性病対策に消極的な地区への制裁措置として実施される

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性病感染と売春規制(2)• 施設オフリミッツ実施例

• Col. Norfray(所属不明)が、コザとニューコザの数家屋(house)でMPも関わった闇取引(詳細不明)が⾏われているという理由で、オフ・リミッツ実施。USCARとしてこの処置に異論がないと回答。 PS092005027(1952/01/15)

• 区域オフリミッツ実施例• 琉球⽶軍司令部が、越来村が村内の清掃を怠り、村⻑も協⼒的でなかったのでオフ・リミッ

ツを適⽤すると指令。AO027010017(1954/07/03)

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オフ・リミッツ地区(センター通り、1970年1⽉23⽇)

性病感染と売春規制(3)• 性病規制および売春防⽌委員会第⼀回会議(1952年7⽉19⽇)

• 会議配布資料で売春・性病に関する総合的対策の例⽰。特に「強⼒な武器」としてオフ・リミッツに⾔及。過激な措置であるだけに実施は重⼤なケースに限られるが、地域経済に与える影響が⼤きく、⺠間⼈を協⼒させる上で有効な⼿段と解釈。

• 付属⽂書で琉球⽶軍司令部司令⻑官から主要司令官宛に上記配布資料に対する補⾜。性病対策に消極的な部落(villages)に対してオフ・リミッツを実施してきたことに⾔及、司令⻑官としてはこうした全域的措置に躊躇しながらも絶対的に必要な場合は実施していくと⾔明。PS092005025(1952/07/07)

• 売春・性病規制に対する全軍レベルでの強い態度

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Aサイン制度の実施(1)• 沖縄側の売春規制法の未整備が問題化(1954年ごろ)

• USCAR政府法制局は、⽶軍要員相⼿の売春を禁じた軍政府令1号が存在したが、琉球政府には規制法制がないとの指摘。琉球政府⽴法院で警察局から1952年と53年に法案が提出されようとしたが、関連業者の圧⼒から⼗分審議されなかった。⽴法院がそうした法制を通過させることは疑わしいと評価。売春に関わる沖縄側の唯⼀の法令は琉球政府法令35号「⼥性に売春をさせた者の処罰に関する法」。PS092005014(1954/04/19)

• ⽶兵の健康(兵⼒としての品質)保持と売春規制・管理の責任を⽶軍と琉球政府いずれがどう担うか

• 琉球政府に対する不信

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Aサイン制度の実施(2)• Aサイン制度

• ⾷品取扱店、飲⾷店、⾵俗店に適⽤された対⽶軍要員・家族営業許可制度• 1953年制度施⾏、1956年に⾵俗店に適⽤開始、1958年に⼀時廃⽌、琉球政府所

管となった後、1962年に新基準で制定、1963年再開、1967年に⾒直し論、復帰時まで実施

• 実施機関は新基準では、全軍⾵紀取締委員会(DCB)• 施設および区域に適⽤されるオフ・リミッツとセット

19 20

新基準下のAサイン(上)とAサインバー(右)

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沖縄市「ヒストリート」におけるAサイン展⽰

Aサイン制度の実施(3)• 旧Aサイン制度

• 1956年に⾵俗店にも適⽤• 琉球政府の関連法をベースに︖• ブース⾼等弁務官が、対⽶営業⽔準に問題なしと判断し、1959年に停⽌、琉球政府厚

⽣局に認可制度を移管PS029011001(1971/10/27)

• 琉球政府• 1958年⾷品衛⽣法を改正し、1級認定証の発⾏→新Aサインに組み込まれる。

PS029011011(1971/12/21ごろ)

• 1962年に新Aサイン制度(新基準)制定• 1963年8⽉1⽇施⾏• 全軍から構成されるDCBが管轄

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Aサイン新基準の概要• 厳格化

• キャラウェイ⾼等弁務官の時代、沖縄社会への各種規制強化がなされた時期、理由は営業・衛⽣状態が悪化したから PS029011001(1971/10/27)

• ⽴地・施設条件→設備投資は経営者負担• 主要道路、街灯、溝蓋、業務地区、歩道、⼀建物⼀店舗、衛⽣的美観地区• 種別⾯積、コンクリート基礎・床・屋根・外壁・内壁、トイレ仕切板、窓枠、網⼾、ドア、外

壁・ドア・窓塗装、窓・床仕上げ• トイレ・流しの温⽔栓、⽔洗トイレ、汚⽔処理、温⽔器、床排⽔⼝、換気設備、排⽔管• トイレと居住区域の分離、男⼥別トイレ

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新基準によるAサイン店のモデル『沖縄通信』第16号2⾯(1963年1⽉15⽇)

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新基準の「なぞ」• 売春⾏為の管理よりも店舗の物的な整備に執着

• 今⽇で⾔う「環境犯罪学」的発想か︖• 物的環境を改変することによって特定の⾏動を規制・誘導する

• 衛⽣観念の⽂化差(先進と後進)が底流に︖• 後述する制度⾒直し論に関係︖

• その影響は︖→都市インフラの整備に結びついたか︖• 地区オフ・リミッツの場合、影響は明らか(1950年代)• 施設オフ・リミッツについても、地区ごとの業者組合や関係⾃治体を通して、集合的な対

応があったと想定できる(1960年代)• 性病感染施設がホテル(Aサイン制度対象外)に移る→後出

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全軍⾵紀取締委員会(DCB)の役割• 構成

• 四軍将校ほかUSCAR関係部局、のちに業者代表も、⽉例• 当時、Disciplinary Control Boardは「懲罰委員会」と翻訳されていた

• 議事内容• ⽶軍要員の福利厚⽣に関わる事案。Aサイン認可・取り消し、業者・⽶兵の問題⾏動。⽂書は

1968年から71年まで断⽚的

• 認可条件• 申請者はまず琉球政府の1級許可証を取得後、軍へ申請=Aサイン店のグレードが⾼い• 毎⽉の(抜き打ち)衛⽣検査、性病感染源調査、その他違法⾏為(脱税・⼈種差別・時間

外営業)チェック

• 制裁発動• 改善警告、オフ・リミッツ発令、再認可申請審査

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全軍⾵紀取締委員会議事録から(1)• 第108回⽉例会議(1968年1⽉25⽇開催)

• 後述する⾒直し論以後の⽂書、それ以前の議事録は不明。PS011008012(1968/02/06)

• 過去1ヶ⽉の検査数840店、うち19店不合格• 検査は憲兵と琉球政府職員が⽉⼀回抜き打ち実施• 検査合格率97.8%

• 5店から「Aサイン」申請、全て合格• 4店において3件以上の性病感染発⽣

• 警告発令• ⾮「Aサイン」店では28店(26件はホテル)• Aサイン制度対象外のホテルでもオフ・リミッツにできた

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全軍⾵紀取締委員会議事録から(2)• 性病感染報告数593件

• 587件(99.0%が淋病)• 1⽉を基準とした年間罹患者千分率

• 全軍232.5‰、うち海兵隊316.5‰、海軍177.5‰、陸軍168.0‰、空軍98.7%• 接触場所←コンタクト・トレーシング

• 淋病・軟性下疳の感染者との接触場所はホテル43.6%、Aサイン店25.9%、施設特定率は78%前後

• 街娼の感染源特定率は33.3%• 地域特定数552件

• オールドコザ166件(施設特定率69.9%)、ニューコザ138件(71.7%)、⾦武村ほか北部98件(76.5%)

• 性病感染源・地の変化

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コンタクト・トレーシング• DCBの重要関⼼は性病感染源の特定

• 感染者は診察を受ける(淋病の潜伏期間は短い)• いつ、誰と、どこで接触したか聞き取りによる調査• 感染源との接触場所を特定し、⼀⽉に3件以上の感染例のある施設に警告を発する• 業務改善がない場合、オフリミッツ実施• 街娼に効果なく、経営者が管理できない(しない)感染に効果なし• DCBは、売買春⾏為を接触場所として特定可能な飲⾷店、ホテル、およびそれらの集積地

区に誘導し、琉球側(経営者)に管理させる必要性→制裁制度のあまり語られぬ意図

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Aサイン⾒直し論(1)• 四軍の検討委員会⾒解HEW022001015(1967/02/06)

• Aサイン制度の有効性に対する疑義列挙• ⼈員・財源の不⾜、⽶軍と琉球政府とのコミュニケーション不⾜、琉球⼈の公衆衛⽣観

念の低さ(教育・⽂化の問題)、⽶軍から短期的に儲けを狙う業者の姿勢(沖縄⼈の倫理と誇りの⽋如)、上⽔道施設の不備、飲⾷品供給元への検査不徹底、Aサインの偽装(東洋的⽂化)、⾮医務職員による検査監督、琉球政府の検査との重複、軍検査による営業停⽌の政治的反動、700以上の施設に対する検査資源不⾜、⾮番時の犯罪・性病の制御に効果なし、制度効果を⽐較できる統計不⾜、閉店時間など制度を遵守することが問題を発⽣させる、性病感染施設の多くはAサイン店ではない等々

• USCARと琉球政府へのプログラム移管案

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Aサイン⾒直し論(2)• Mサインの実施提⾔

• 軍のみによる審査・検査、軍施設レベルの衛⽣基準を満たし、規制・監督・需要の範囲内で認可→Aサイン本来の⽬的にかなう

• 1967年3⽉23⽇に陸軍から撤退、USCARと琉球政府への移管を提案HEW022001054(1967/03/23)

• USCARは反対論HEW022001052(1967/03/29)ほか

• Aサイン制度は認可施設を⼀定の区域に限定することで、運営を容易にしているHEW022001033(1967/04-05)

• 廃⽌によって予想される結果は重⼤• USCAR・琉球政府移管は⼈材・財源的に無理で軍の協⼒が必要• ⽶軍要員・家族の福利・厚⽣保持は軍の責任

• ⾼等弁務官もUSCAR擁護、結局復帰まで維持されるHEW022001069(1967/04/25)

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オフ・リミッツの性格• 1950年代

• 性病・売春規制• ⾮協⼒的な施設・区域に適⽤• 政治的制裁⼿段としても適⽤(対⼟地闘争)

• 1960年代• ⽶軍向け営業許可制度(Aサイン)とセット• DCBによる詳細な調査と取り締まり(性病罹患、犯罪、⿇薬、違法営業)• 基地経済依存の深化→公衆衛⽣観念の内⾯化

• 沖縄側にとっては「悪名⾼き」措置• 経営者への打撃・負担→対⽶営業から離脱、業者・地区分化• ⽶軍も効果の⼤きさを認識

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Aサイン業者の対応(先⾏研究、聞き取りより)• 対応

• 従業員に毎週性病検査を受診させる• 勤務時間外・施設外のこととして売買春に直接関与しない• 売春管理より衛⽣⽔準を⾼め、⽶軍の利⽤を通して収益を上げることにインセンティブを持

つ←売買春の拠点がホテル(Aサイン制度適⽤外)に移っていった

• 評価• 恐怖・不安、怒り(適⽤の恣意性、検査官の不正)、積極的評価(公衆衛⽣と衛⽣観

念の向上)• 評価に地域差←社会経済的条件、⽶軍の地域認識

• 旧コザ市内のゲート通り、センター通り、照屋地区

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売春規制・公衆衛⽣管理の空間性・統治性(1)• 空間的テクノロジーとしてのAサインとオフ・リミッツ

• 遍在する売春⾏為よりも性病媒介施設・区域を特定・制裁• 売春⾏為(感染源)管理を沖縄側に• 性病拡散のみ抑制

• Aサイン新基準• 衛⽣的な都市環境の構築

• オフ・リミッツの意図• ⽶軍要員をオン・リミッツ地区へ移動• 売春⾏為を管理可能な施設下に誘導

• 基地経済の空間的波及効果制御• ⽶軍に従順であれば利益を享受できる• 制度遵守のインセンティヴ

34

35

(Aサイン)業者と全軍労間の対⽴(左1970年1⽉20⽇、右1970年1⽉22⽇)

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コザ暴動(1970年12⽉20⽇)

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2019年1⽉10⽇

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売春規制・公衆衛⽣管理の空間性・統治性(2)• 地⽅政治への影響

• オフリミッツ適⽤地区における社会集団の分裂• 飲⾷・⾵俗業者の保守化(親⽶政党⽀持)• 反基地闘争をめぐる地区内対⽴• 地域的⽭盾の政治的表出→コザ暴動(1970年12⽉20⽇)

• ⾸⻑・議会選挙での保⾰対⽴• Aサイン業者組合の政党⽀持• 地⽅選挙・政治に対するUSCARの監視・関与• 保⾰間のスイング→⽶軍駐留の安定化

• ⽶軍による沖縄分断・統治の実相

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⽂献• 沖縄国際⼤学⽂学部社会学科⽯原ゼミナール(1994)『戦後コザにおける⺠衆⽣活と⾳楽⽂化』榕樹書林

• 沖縄市平和⽂化振興課(1997)『KOZA―ひと・まち・こと』那覇出版社

• ⼩野沢あかね(2000)コザにおける特飲街、KOZA BUNKA BOX 2、34-40⾴

• ⼩野沢あかね(2005)⽶軍統治下Aサインバーの変遷に関する⼀考察―⼥性従業員の待遇を中⼼として、琉球⼤学法⽂学部紀要⽇本東洋⽂化論集11、1-46⾴

• ⼩野沢あかね(2005)戦後沖縄におけるAサインバー・ホステスのライフ・ヒストリー、琉球⼤学法⽂学部紀要⽇本東洋⽂化論集12、207-238⾴

• 嘉陽義治(2007)新聞記事を中⼼に⾒る特飲街へのオフ・リミッツ発令(⼀九五⼀〜五⼆年)、 KOZA BUNKA BOX 3、46―57⾴

• 那覇出版社(1979)『戦後沖縄写真集 0からの出発』那覇出版社

• 秦花秀(2005)戦争・基地・⼥性―沖縄における⽶軍の占領政策下の⼥性、⼤阪市⽴⼤学⼈権問題研究5、91-106⾴

• ⼭﨑孝史(2007)『戦後沖縄における⽶軍統治の実態と地⽅政治の形成に関する政治地理学的研究』平成17・18年度科学研究費(基盤研究(C))報告書、⼤阪市⽴⼤学⼤学院⽂学研究科

【論点】• 沖縄における⽶軍の統治は住⺠の⽣活に対してどのような影響を及ぼし、その

影響は⽶軍の統治にとってどのような効果を持ったと考えられるでしょうか。• そこから異⺠族による軍事占領・統治がもつ「本質的」な意味を理解できるでしょうか。

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