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日中の眠気,不眠を有する大学生に対するポジティブ リフレーミング技法がネガティブ反すう,抑うつへ与える効果 ○山本つぐみ 1 ・田中秀樹 2 (広島国際大学大学院心理科学研究科 1 ・広島国際大学心理学部 2 問題と目的 ネガティブな反すうとは「否定的・嫌悪的な事 柄を長い間 , 何度も繰り返され続ける事」(伊藤 , 2001).伊藤ら(2005)の研究では, ネガティ ブな反すう傾向が高い場合は抑うつが引き起こ されることを明らかにされている.また, ネガティ ブな反すうは抑うつ傾向といった心理的傾向だ けでなく , 睡眠状況にも影響する重要な要因であ るといえる.リフレーミング技法のなかでも,ポジ ティブリフレーミングは肯定的な方向性に見方 を変え , ポジティブリフレーミングを行うことで 否定的感情の減少や肯定的感情の増加 , 自尊感情 の増加, ストレス反応の減少, また精神的健康に寄 与する可能性ある(伊藤ら, 2001).本研究ではポ ジティブリフレーミング技法を用い, アプリを用 いた簡便なリフレーミング技法を 2 週間トレー ニングを行うことによる, ネガティブ反すう, 抑う ,不眠に与える効果の検討を目的とした. 方法 2018 11 月~12 月に H 県の同意を得られた 日中に眠気(ESS: 9 点以上)または軽い不眠症状 ISI: 8 点以上)がみられる大学生 24 (実験群 12 , 統制群 12 )を対象に 2 週間行った.実験 群は 2 週間 1 1 回リフレーミング技法の実施を 求め, 統制群は通常の日常生活を送るよう教示し た.また,トレーニング前後で両群共に評価尺度の 記入を求めた.リフレーミング技法として,ネガポ 辞典記入用紙に自分の短所だと思うところを記 入し, ネガポ辞典で検索して出てきた言葉を選択 , 長所の欄に記入を求めた.その後, 出来上がっ た文章を 3 回音読し 3 分間その文章に対して肯定 的な考えや否定的な考えなど自由に考えるよう 求めた.評価には, ESS, ISI, ネガティブな反すう尺 , PHQ-9 を用いた.リフレーミング技法として アプリであるネガポ辞典(ネガポ辞典政策委員 , 2011)を用いた.分析には SPSS で二要因分散 分析を用いた.研究計画及び実施に際しては広島 国際大学医療研究倫理審査委員会の承認を得て 実施した. 結果 実験群はトレーニング前と比べ , トレーニング 後にネガティブな反すうのコントロール不可能 性が有意に減少(p<. 05)した.図 1 のネガティ ブな反すう傾向が有意に減少し統制群と比べ実 験群はトレーニング後にネガティブな反すう傾 向が有意に減少した(p<. 05).図 2 の抑うつでは, 実験群はトレーニング前と比べトレーニング後 に減少傾向 (p<.10) がみられ , トレーニング後にお いて実験群は統制群と比べて抑うつ得点が低い 傾向(p<. 10)であった.図 3 の不眠重症度はトレー ニング後に統制群と比べ実験群は有意に低く p<. 05, 統制群はトレーニング前後で比較する とトレーニング後に高い傾向であった(p<. 10).入 眠困難もトレーニング後は統制群に比べ有意に 軽減した(p<. 05).図 4 の日中の眠気は実験群で は初日と比べトレーニング後に有意に減少 p<. 05, また統制群と比べ,実験群はトレーニン グ後に眠気得点が低い傾向(p<. 10)であった. 考察 リフレーミング技法による 2 週間トレーニング を行うことで , ネガティブな反すうのコントロー ル性の上昇, ネガティブな反すうの減少 , 抑うつ減 少傾向, 不眠重症度の改善, 日中の眠気の低下がみ られた.このことから,アプリを用いた簡便なリフ レーミング技法でも継続してトレーニングを行 うことで効果が得られると示唆された. 25.4 24.5 22.5 17.5 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 * * 図1.ネガティブな反すう傾向 7.2 7.4 5.8 4.5 0 2 4 6 8 2.抑うつ 9.0 10.4 7.6 6.6 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 図3.不眠重症度 11.7 12.3 11.3 9.3 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 図4.日中の眠気 27 中国四国心理学会論文集第52巻

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Page 1: N-VýVÛVý Ãt[fO Öe Æ{,52]û...27 日中の眠気,不眠を有する大学生に対するポジティブ リフレーミング技法がネガティブ反すう,抑うつへ与える効果

日中の眠気,不眠を有する大学生に対するポジティブ

リフレーミング技法がネガティブ反すう,抑うつへ与える効果

○山本つぐみ 1・田中秀樹 2

(広島国際大学大学院心理科学研究科 1・広島国際大学心理学部 2)

問題と目的

ネガティブな反すうとは「否定的・嫌悪的な事

柄を長い間 ,何度も繰り返され続ける事」(伊藤

ら ,2001).伊藤ら(2005)の研究では ,ネガティ

ブな反すう傾向が高い場合は抑うつが引き起こ

されることを明らかにされている.また,ネガティ

ブな反すうは抑うつ傾向といった心理的傾向だ

けでなく ,睡眠状況にも影響する重要な要因であ

るといえる.リフレーミング技法のなかでも,ポジ

ティブリフレーミングは肯定的な方向性に見方

を変え ,ポジティブリフレーミングを行うことで

否定的感情の減少や肯定的感情の増加 ,自尊感情

の増加 ,ストレス反応の減少 ,また精神的健康に寄

与する可能性ある(伊藤ら ,2001).本研究ではポ

ジティブリフレーミング技法を用い , アプリを用

いた簡便なリフレーミング技法を 2 週間トレー

ニングを行うことによる ,ネガティブ反すう ,抑う

つ,不眠に与える効果の検討を目的とした.

方法

2018 年 11 月~12 月に H 県の同意を得られた

日中に眠気(ESS:9 点以上)または軽い不眠症状

(ISI:8 点以上)がみられる大学生 24 名(実験群

12 名,統制群 12 名)を対象に 2 週間行った.実験

群は 2週間 1日 1回リフレーミング技法の実施を

求め ,統制群は通常の日常生活を送るよう教示し

た.また ,トレーニング前後で両群共に評価尺度の

記入を求めた.リフレーミング技法として ,ネガポ

辞典記入用紙に自分の短所だと思うところを記

入し ,ネガポ辞典で検索して出てきた言葉を選択

し ,長所の欄に記入を求めた.その後 ,出来上がっ

た文章を 3回音読し 3分間その文章に対して肯定

的な考えや否定的な考えなど自由に考えるよう

求めた.評価には ,ESS,ISI,ネガティブな反すう尺

度,PHQ-9 を用いた.リフレーミング技法として

アプリであるネガポ辞典(ネガポ辞典政策委員

会,2011)を用いた.分析には SPSSで二要因分散

分析を用いた.研究計画及び実施に際しては広島

国際大学医療研究倫理審査委員会の承認を得て

実施した.

結果

実験群はトレーニング前と比べ ,トレーニング

後にネガティブな反すうのコントロール不可能

性が有意に減少(p<.05)した.図 1 のネガティ

ブな反すう傾向が有意に減少し統制群と比べ実

験群はトレーニング後にネガティブな反すう傾

向が有意に減少した(p<.05).図 2 の抑うつでは,

実験群はトレーニング前と比べトレーニング後

に減少傾向 (p<.10)がみられ ,トレーニング後にお

いて実験群は統制群と比べて抑うつ得点が低い

傾向(p<.10)であった.図 3 の不眠重症度はトレー

ニング後に統制群と比べ実験群は有意に低く

(p<.05),統制群はトレーニング前後で比較する

とトレーニング後に高い傾向であった(p<.10).入

眠困難もトレーニング後は統制群に比べ有意に

軽減した(p<.05).図 4の日中の眠気は実験群で

は初日と比べトレーニング後に有意に減少

(p<.05),また統制群と比べ ,実験群はトレーニン

グ後に眠気得点が低い傾向(p<.10)であった.

考察

リフレーミング技法による 2週間トレーニング

を行うことで ,ネガティブな反すうのコントロー

ル性の上昇 ,ネガティブな反すうの減少 ,抑うつ減

少傾向 ,不眠重症度の改善 ,日中の眠気の低下がみ

られた.このことから ,アプリを用いた簡便なリフ

レーミング技法でも継続してトレーニングを行

うことで効果が得られると示唆された.

25.4 24.5

22.517.5

0.0

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前 後

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図1.ネガティブな反すう傾向

7.2 7.4

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前 後

図2.抑うつ

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図3.不眠重症度

11.712.3

11.3

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図4.日中の眠気

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中国四国心理学会論文集第52巻