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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 2018年度(前期) 一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書 在宅における ICT を活用した死亡診断導入に関する基礎的研究 ~死亡診断を行うことに関する訪問看護師の認識の現状~ 申請者:為永義憲 所属機関:豊橋創造大学保健医療学部看護学科 提出年月日:2019 年 8 月 28 日

在宅における ICT を活用した死亡診断導入に関する基礎的研究 ......在宅におけるICT を活用した死亡診断導入に関する基礎的研究 ~死亡診断を行うことに関する訪問看護師の認識の現状~

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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団

2018年度(前期)

一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書

在宅における ICTを活用した死亡診断導入に関する基礎的研究

~死亡診断を行うことに関する訪問看護師の認識の現状~

申請者:為永義憲

所属機関:豊橋創造大学保健医療学部看護学科

提出年月日:2019 年 8 月 28 日

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Ⅰ.はじめに

内閣府(2012)の調査では、「最期を迎えたい場所」として「自宅」を希望する者が 54.6%

と最も多い。しかし、人口動態調査(厚生労働省)では、2017 年の死亡者数は約 134 万人

であり、自宅で死を迎えている者は 13.2%であった。2035 年には死亡者が約 166 万人まで

増加すると推計されており(国立社会保障・人口問題研究所)、在宅医療の体制を整備する

ことが急務となっている。

看取りの際の課題の一つとして、臨終時の死亡診断が挙げられる。石川(2011)の調査

では、訪問看護師が医師の死亡確認を待つために患者に触れずに待った経験があると回答

した者は 36名(48.0%)と約半数が医師の到着を待つ経験をしている。また、医師の立ち

合いがない時に死亡確認を行った経験がある者は 20名(26.7%)、医師の死亡確認を待たず

に死後の処置を行った経験がある者は 13名(17.3%)と、訪問看護師は看取りの場面で、

よい看取りとなるよう様々な判断をしてきたことがわかる。このような医師の対面での死

亡診断が困難であり、医師の到着を長時間待つことや診察を受けるために救急搬送される

ことを回避するために、2017 年 9 月厚生労働省は「情報通信機器(ICT)を利用した死亡

診断等ガイドライン」(以下、死亡診断等 GL)を発表し、法医学等に関する教育を受けた

看護師など一定の条件のもと、看護師が死亡診断に必要な情報を医師に報告し、医師が直

接対面せずに死亡診断ができるようになった。死亡診断等 GL では、看護師は、医師と通話

もしくは写真の送信等での連絡を取りながら、対象者の死の三徴候、外表検査などの全身

を観察することとなっている。死亡診断等 GL が作成される前に、日本法医学会(2017)

は死亡診断等 GL に対する見解として、担当する看護師の法医学の知識が、数日程度の研修

の受講のみでは質的、量的にも不十分であること等を指摘しており、死体の異状を見落と

す危険性を危惧している。このような異状死の見落としなどが起こらぬように、看護師は

適切に死の三徴候や全身観察を行うこと、適切に医師への情報提供を行うことが求められ

る。しかし、藤内ら(2012)が訪問看護師に行った調査では、特定能力認証看護師が想定

範囲内の死亡確認を行うことに対して「看護師の責任が重い、自信がない」「看護師の死亡

診断で家族が納得するか」などの意見がみられ、死亡確認に携わることに戸惑う看護師も

いる。

そこで本研究の目的を、死にゆく人と看取り手双方にとってより良い看取りを行うために

「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」が作成された現在、訪問看護

師が行っている看取りの現状と死亡診断を行うことに関する訪問看護師の認識を明らかに

し、よりよい看取りを行うための基礎資料とすることとした。

Ⅱ.研究方法

1.調査対象

全国訪問看護事業協会会員の訪問看護ステーション(以下ステーション)5437 か所(2017

年 11月 27 日ホームページで確認)から、層化無作為抽出した 1800 か所のステーションを

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対象とした。回答者は、死亡診断等 GL の対象となる看護師を想定し、①「看護師経験 5

年の実務経験を有し、患者の死亡に立ち会った経験が 3 例以上ある」、②「訪問看護または

介護保険施設等にて 3 年以上の実務経験を有し、患者 5 名にターミナルケアを行った」を

両方満たす訪問看護師とした。

2.調査方法

郵送法による自記式質問紙調査を行った。ステーションの管理者に、研究協力依頼文書

(管理者用)、研究協力依頼文書(回答者用)、調査用紙 1 部、返信用封筒を郵送した。管

理者に、調査対象の条件に該当する看護師に質問紙を配布するよう依頼した。

3.質問項目

石川(2011)、藤内ら(2012)を参考に、以下の項目を独自に設定した。

1)基本属性:年齢、看護師経験年数、訪問看護師経験年数

2)所属ステーションの基本情報:所在地、開設主体

3)死亡診断等 GLの認知度を問う項目:「死亡診断 GLを知っているか」等

4)看取りの経験:「医師の死亡診断を待つために本人に触れずに待った経験の有無」等

5)ステーションの看取りの体制:「看取り時の対応マニュアルの有無」等

6)死亡診断等 GL に基づき必要となる身体観察項目の自信の程度:「聴診による心音消

失の確認」等

7)死亡診断に関する法律の知識を問う項目:「医師法 20条を読んだことがあるか」等

8)ステーションの ICT 活用状況

9)死亡診断に関する認識を問う項目:「看護師が ICTを用いて遺体の観察や写真撮影を

行い情報提供をすることで遠隔からの医師の死亡診断を行うことはできるか」、「自分

が ICT を用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供し死亡診断に携わることに不

安があるか」等

4.分析方法

看取りの現状と訪問看護師の死亡診断に関する認識の現状を考察するために、各項目の

単純集計を行った。

5.倫理的配慮

研究協力依頼文書に、研究の目的、依頼内容、研究参加は自由意思であり不参加による

不利益は生じないこと、匿名性を保持すること、データは鍵のかかる場所で保管すること、

結果は学会等で発表すること、質問紙の返送をもって研究協力への同意とみなすことを明

記した。本研究は、豊橋創造大学研究倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号

H2018005)。

Ⅲ.結果

郵送した 1800 部のうち 15 部は、宛先がなくなっているための返送、またはステーショ

ン閉鎖・対象看護師の不在による返送があった。それらを除外した 1785 部のうち、407 部

3

度数 %

男性 16 5.0

女性 307 95.0

20歳代 3 0.9

30歳代 23 7.1

40歳代 118 36.5

50歳代 163 50.5

60歳以上 16 5.0

看護師経験年数n=323

平均 SD 25.1 7.9

訪問看護師経験年数n=323

平均 SD 10.5 6.7

営利法人 114 35.1

医療法人 97 29.8

社会福祉法人 28 8.6

社団・財団法人(4・5以外)

27 8.3

医師会 14 4.3

都道府県・市区町村 10 3.1

看護協会 8 2.5

特定非営利法人(NPO)

8 2.5

消費生活協同組合及び連合会

7 2.2

その他 12 3.7

北海道・東北地方 31 9.7

関東・甲信越地方 117 36.4

東海・北陸地方 40 12.5

近畿地方 66 20.6

中国・四国地方 29 9.0

九州・沖縄地方 38 11.8

北海道・東北地方:北海道、青森、岩手、宮城、山形、福島

関東・甲信越地方:茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、長野、新潟

東海・北陸地方:富山、石川、福井、岐阜、静岡、愛知、三重

近畿地方:滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山

中国・四国地方:鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知

九州・沖縄地方:福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄

開設主体n=325

所在地n=321

年齢n=323

性別n=323

表1 対象者の属性

の返送があった(回収率 22.8%)。そのうち 325 部を有効回答とした(有効回答率:79.9%)。

表 1に対象者の属性を示した。

1.対象者の概要(表 1)

対象者の年齢は 20歳代 3名(0.9%)、30 歳代 23名(7.1%)、40 歳代 118 名(36.5%)、

50 歳代 163 名(50.5%)、60 歳以上 16 名(5.0%)であった。平均看護師経験年数 25.1±

7.9 年、平均訪問看護師経験年数 10.5±6.7 年であった。所属するステーションの開設主体

は多い順に、営利法人114名(35.1%)、医療法人97名(29.8%)、社会福祉法人28名(8.6%)、

社団・財団法人 27 名(8.3%)であった。

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2.死亡診断等 GLの認知度(表 2)

死亡診断等 GL を「知らない」と回答した者は 180 名(55.4%)であった。また、法医学

に関する講義・演習などが含まれた「医師による遠隔での死亡診断をサポートする看護師

を対象とした研修会」を「知っている」と回答した者は 177 名(55.0%)であった。

3.看取りの経験(表 3)

対象者の看取りの経験について、医師の死亡診断を待つために本人に触れずに待った経

験がある者は 233 名(71.7%)であった。医師の死亡診断前に死後の処置を行った経験が

ある者は 191 名(58.8%)であった。本人・家族が在宅死を希望していたが意向に反して

病院へ救急搬送または警察に連絡した経験がある者は 152 名(46.8%)であった。

4.ステーションの看取り体制(表 4)

対象者が所属するステーションの看取り体制について、職場の看取り時の対応マニュア

ルが「有」と回答した者は 191 名(58.8%)であった。また、看取り場所の合意について、

利用者本人と看取り場所の合意を得る者は 257 名(79.1%)、利用者の家族と看取り場所の

合意を得る者は、利用者本人の意思が確認できる場合 283 名(87.1%)、利用者本人の意思

が確認できない場合 277 名(85.2%)であった。

名 %知っている 145 44.6

知らない 180 55.4

知っている 177 55.0

知らない 145 45.0死亡診断に関する研修会の認知 n=322

死亡診断GLの認知 n=325

表2 死亡診断等GLの認知度

名 %

有 233 71.7

無 92 28.3

有 191 58.8

無 134 41.2

有 152 46.8

無 173 53.2

本人・家族が在宅死を希望していたが意向に反して病院へ救急搬送または警察に連絡した経験 n=325

医師の死亡診断前に死後の処置を行った経験 n=325

医師の死亡診断を待つために本人に触れずに待った経験 n=325

表3 看取りの経験

5

5.死亡診断等 GLに基づき必要となる身体観察項目の自信の程度(表 5)

「聴診による心音消失」、「聴診による呼吸音消失」、「呼吸筋、呼吸補助筋の収縮の消失」、

「左右瞳孔径」、「対光反射の消失」、これら 5項目に対しては「一人で確認できる」、「一人

でおそらく確認できる」と回答した者が 80%以上であった。「頭部・頚部・顔面(眼球、鼻

腔、口腔など)・体幹・四肢などの損傷、出血、溢血点」の確認は「一人で確認できる」、「一

人でおそらく確認できる」と回答した者が 239 名(73.5%)であった。

名 %

有 191 58.8

無 134 41.2

有 149 45.8

無 176 54.2

有 257 79.1

無 68 20.9

有 283 87.1

無 42 12.9

有 277 85.2

無 48 14.8

有 296 91.1

無 29 8.9

表4 職場の看取り体制

職場の看取り時の対応マニュアルの有無 n=325

医師と死亡時の対応についての話し合いの有無 n=325

利用者の家族と看取り場所の合意の有無(利用者本人の意思が確認できない

場合) n=325

利用者の家族と看取り場所の合意の有無(利用者本人の意思が確認できる場

合) n=325

利用者本人と看取り場所の合意の有無n=325

看取り時のスタッフ増員などのバックアップ体制の有無 n=325

 n=325

名 % 名 % 名 % 名 %

聴診による心音消失の確認ができるか

219 67.4 68 20.9 30 9.2 8 2.5

聴診による呼吸音消失の確認ができるか

227 69.8 70 21.5 20 6.2 8 2.5

呼吸緊、呼吸補助筋の収縮の消失を肉眼的に確認できるか

186 57.2 97 29.8 26 8.0 16 4.9

左右瞳孔径を確認できるか 223 68.6 43 13.2 53 16.3 6 1.8

対光反射の消失の確認ができるか 241 74.2 63 19.4 16 4.9 5 1.5

頭部・頚部・顔面(眼球、鼻腔、口腔など)・体幹・四肢などの損傷、出血、溢血点の確認について

122 37.5 117 36.0 57 17.5 29 8.9

表5 死亡診断GLに基づき必要となる身体観察項目に関する自信の程度

一人で確認できる一人でおそらく確認できる

一人で確認することは少し不安である

一人で確認することはとても不安である

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6.死亡診断に関する法律の知識(表 6)

「医師法 20 条『医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せん

を交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検

案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後 24時間以内に死

亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りではない』を読んだことはありま

すか」に対して、読んだことが「有」と回答した者は 193 名(59.4%)であった。「医師法

21 条『医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二

十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない』を読んだことはありますか」に対

して、読んだことが「有」と回答した者は 144 名(44.3%)であった。

7.ステーションの ICT 活用状況(表 7)

対象者が所属するステーションの ICT 活用状況は、「訪問先での対象者のデータ(画像含

む)を入力しステーション内で共有できる」は 178 名(54.8%)であった。「ステーション

外」の多職種と対象者のデータ共有ができる」は 127 名(39.1%)であった。「活用してい

ない」は 40名(12.3%)であった。その他の内容は、看護記録・訪問看護計画書・訪問看

護報告書の作成に活用していること、医師や他事業所とバイタルサインの値や心電図など

の情報を共有していること等が記載されていた。

8.死亡診断に関する認識

「看護師が ICT を用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供をすることで、遠隔から

の医師の死亡診断を行うことはできると思いますか」に対して「できると思う」に対して

「できないと思う」と回答した者が 176 名(54.2%)であった(表 8)。その理由(複数回

答)は「家族が納得しない」120 名、「医師の協力が得られにくい」70 名、「遺体の全身観

n=325名 %

有 193 59.4

無 132 40.6

有 144 44.3

無 181 55.7

医師法20条を読んだことがあるか

医師法21条を読んだことがあるか

表6 死亡診断に関する法律の知識

n=325(複数回答)名 %

医療・介護報酬請求について 209 64.3

訪問先での対象者のデータ(画像含む)を入力しステーション内で共有できる 178 54.8

ステーション外の多職種と対象者のデータ共有ができる 127 39.1

訪問スケジュール管理 106 32.6

その他 23 7.1

活用していない 40 12.3

表7 ステーションのICT活用状況

7

察をしたことがない」67 名であった(表 9)。

「自分が ICT を用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供し、死亡診断に携わること

に不安はありますか」に対して、「ある」、「ややある」と回答した者は 272 名(83.7%)で

あった(表 8)。その理由は、「責任が重い」207 名、「医師との協力体制に不安がある」124

名等であった(表 10)。

名 %

できると思う 149 45.8

できないと思う 176 54.2

ある 157 48.3

ややある 115 35.4

あまりない 40 12.3

ない 13 4.0

思う 73 22.7

やや思う 102 31.8

あまり思わない 89 27.7

思わない 57 17.8

思う 53 16.6

やや思う 85 26.6

あまり思わない 127 39.8

思わない 54 16.9

医師が遠隔から死亡診断を行う事ができるよう、自分がICTを用いて死亡診断に関する情報を観察・提供で

きるようになりたいと思いますか n=319

自分が、法医学に関する研修「医師による遠隔での死亡診断をサポートする看護師を対象とした研修会」を

受けたいと思いますか n=321

看護師がICTを用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供をすることで、遠隔からの医師の死亡診断を

行うことはできると思いますか n=325

自分がICTを用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供し、死亡診断に携わることに不安はありますか

n=325

表8 死亡診断に関する訪問看護師の認識

n=174(複数回答)

名 %

家族が納得しない 120 69.0

医師の協力が得られにくい 70 40.2

看護師は死亡診断のための遺体の全身観察をしたことがない 67 38.5

その他 37 21.3

表9 看護師がICTを用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供をすることで、遠隔からの医師の死亡診断を行うことは「できないと思う」の理由

名 %

責任が重い 207 77.2

医師との協力体制に不安がある 124 46.3

遺体の全身観察に不安がある 68 25.4

ICT(スマートフォン、タブレット等)の操作、情報管理に不安がある

68 25.4

死の三徴候の観察に不安がある 28 10.4

その他 41 15.3

表10 自分がICTを用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供し、死亡診断に携わることに不安が「ある」「ややある」の理由

n=268(複数回答)

8

Ⅳ.考察

本研究では、医師の死亡診断を待つために本人に触れずに待った経験がある訪問看護師

が 71.7%、医師の死亡診断前に死後の処置を行った経験がある訪問看護師が 58.8%であっ

た。石川(2011)のある県で実施された調査では、死の三徴候がみられた後、医師の死亡

診断を待つために患者に触れずに医師を待った経験があった訪問看護師は 48.0%、医師の

死亡確認を待たずに死後の処置を行った経験があった訪問看護師が 17.3%と報告されてお

り、どちらの項目も今回の結果の方が経験している訪問看護師の割合が増加していた。こ

のように、死亡者数の増加、在宅看取りを実施する施設の増加などから、訪問看護師が看

取りの場面に立ち会う機会が増えていると考えられる。在宅死を希望していた療養者・家

族の意向に反して救急搬送又は警察に連絡した看護師が半数近くみられた。療養者・家族

の心情から、望まれない救急搬送等を避けるために、死亡診断等 GLが活用され、死亡診断

に看護師が携わる必要があると考えられる。

191 名(58.8%)が医師の死亡診断前に死後処置を行った経験がある中、死亡診断等 GL

が 2017 年 9月に発表され約 1 年経過した段階で 180 名(55.4%)の訪問看護師が死亡診断

等 GLを知らなかった。遠隔からの医師の死亡診断をできないと思う看護師は、何より「家

族が納得しない」(120 名 69.0%)と考えていた。また、看護師が死亡診断に携わる上での

不安では、「遺体の全身観察に不安がある」(68名 25.4%)、「死の三徴候の観察に不安があ

る」(28名 10.4%)よりも、「責任が重い」(207 名 77.2%)と回答した看護師が多かった。

身体観察ができるかどうかといったことよりも、死亡診断に携わること自体が不安であり、

かつ、家族に受け入れていただけるかどうかを看護師は危惧していた。死亡診断等 GL が普

及するには、看取りの場面に立ち会う家族に受け入れられるよう、事前に主治医から家族

へ説明するにあたりどのように示すことがよいのか検討する必要がある。さらに、看護師

と一般市民ともに周知され、このような死亡診断の方法があるということを世間的に受け

入れられることが望まれる。

Ⅴ.今後の課題

訪問看護師は死亡診断等 GLが活用されるにあたり、家族が受け入れることができるかが

重要であると捉えていた。その課題を解決するには、実際に ICT を利用した死亡診断を行

った看護師にどのように療養者・家族に説明を行い実施に至ったのか、そのプロセスを明

らかにすることが必要と考える。また、ICT を利用した死亡診断等については、厚生労働

省が全例を把握し、2019 年 3 月を目途に死亡診断等 GL を見直すとされている。これらの

情報を確認しつつ、課題を検討する必要がある。

謝辞

本研究にご協力いただきました訪問看護師の皆様に感謝申し上げます。本研究は、公益

財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成により実施いたしました。

9

感想

本調査では、アンケート用紙の最後に自由記載でご意見をいただいておりました。訪問

看護師の方々の看取りに対する想いを、本当に数多く頂戴しました。研究を進めるにつれ

て、改めてこのテーマの重大さを実感いたしました。今回の助成を受けることができ、こ

のような機会を頂けたことに感謝し、今後も引き続き研究に取り組みたいと思います。あ

りがとうございました。

文献

藤内美保,桜井礼子,草間朋子(2012)在宅終末期医療に関わる訪問看護師の「死亡確認」

に関する実態・提案 特定能力認証看護師の医行為:看護管理,22(4),324-331.

石川美智(2011)在宅での看取りに関わる訪問看護師の臨終時の現状:死の臨床,34(1),

134-140.

厚生労働省,平成 29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況,

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/index.html(2019 年 8月

16日確認)

厚生労働省(2017)情報通信機器(ICT)を用いた死亡診断等の取り扱いについて:厚生労

働省ホームページ,

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc_keyword?keyword=%E6%AD%BB%E4%BA%A1

%E8%A8%BA%E6%96%AD&dataId=00tc2920&dataType=1&pageNo=1&mode=0

(2019 年 8月 16日確認)

国立社会保障・人口問題研究所(2017),日本の将来推計人口平成 29 年推計:国立社会保

障・人口問題研究所ホームページ,

http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_ReportALL.pdf(2019 年 8 月

16日確認)

内閣府,平成 24年度 高齢者の健康に関する意識調査結果(概要版):内閣府ホームページ,

https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h24/sougou/gaiyo/pdf/kekka_1.pdf(2019 年 8

月 16 日確認)

日本法医学会(2017)死亡診断等 GL に対する見解:日本法医学会ホームページ,

http://www.jslm.jp/topics/20170705_2.pdf(2019 年 8月 16日確認)