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令和1年度司法書士試験解答解説 三毛猫倶楽部令和1年度 飯島正史著 禁:無断複製ⓒ飯島正史 令和1年度司法書士試験解答解説

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令和1年度司法書士試験解答解説

三毛猫倶楽部令和1年度

飯島正史著

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令和1年度司法書士試験解答解説

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- Ⅰ -

目次

解答例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

解説

午前の部(択一式) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

午後の部(択一式) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

午後の部(第36問) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52

午後の部(第37問) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

講評・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

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令和1年度司法書士試験解答例

択一式 ※難易度について 「易」=通常の学習によって容易に解答可能

「中」=てこずる場合あり 「難」=正解困難

午前の部 午後の部

問題番号 正解肢 難易度 問題番号 正解肢 難易度

第1問 4 易 第1問 5 中

第2問 4 易 第2問 4 易

第3問 3 易 第3問 2 中

第4問 4 易 第4問 4 易

第5問 1 易 第5問 4 易

第6問 3 易 第6問 5 易

第7問 4 易 第7問 5 易

第8問 2 易 第8問 3 中

第9問 2 易 第9問 1 易

第10問 4 易 第10問 5 易

第11問 3 中 第11問 3 易

第12問 4 易 第12問 4 易

第13問 4 易 第13問 4 易

第14問 3 易 第14問 1 易

第15問 3 中 第15問 3 易

第16問 4 中 第16問 4 易

第17問 5 易 第17問 3 中

第18問 2 中 第18問 5 易

第19問 3 中 第19問 4 易

第20問 3 中 第20問 3 易

第21問 5 易 第21問 3 易

第22問 5 易 第22問 4 易

第23問 2 易 第23問 3 易

第24問 2 易 第24問 1 易

第25問 4 中 第25問 5 易

第26問 2 易 第26問 4 易

第27問 2 易 第27問 4 中

第28問 3 易 第28問 3 易

第29問 2 中 第29問 2 易

第30問 2 易 第30問 3 易

第31問 3 難 第31問 1 易

第32問 1 中 第32問 5 中

第33問 5 易 第33問 5 中

第34問 4 中 第34問 3 難

第35問 2 難 第35問 5 中

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記述式

午後の部第36問

第1欄(1)

登記官から登記義務者である株式会社ひだまり銀行に対して、登記申請があった旨及び

当該申請の内容が真実であると思料するときは2週間内にその旨の申出をすべき旨を通

知する。

第1欄(2)

資格者代理人が本人確認情報を提供する方法と、公証人が必要な認証を行う方法。

第2欄(1)

登記の目的 所有権移転

申 登記原因及 平成24年7月21日相続

請 びその日付

事 上記以外の 相続人(被相続人 甲山一郎)

項 申請事項等 持分 2分の1 亡 甲山友子

等 (申請人)2分の1 甲山大介

添付情報 ア、ウ、エ、オ

登録免許税額 建物 金 1万 8,000円 敷地権 金 1万 8,960円 合計 金 3万 6,900円

第2欄(2)

登記の目的 甲山友子持分全部移転

申 登記原因及 平成30年2月12日相続

請 びその日付

事 上記以外の 相続人(被相続人 甲山友子)

項 申請事項等 持分 2分の1 甲山大介

添付情報 イ、エ、オ

登録免許税額 建物 金 9,000円 敷地権 金 9,480円 合計 金 1万 8,400円

第2欄(3)

登記の目的 1番抵当権抹消

申 登記原因及 平成24年8月13日弁済

請 びその日付

事 上記以外の 権利者 甲山大介

項 申請事項等 義務者 株式会社ひだまり銀行

等 登記済証を提供することができない理由 紛失

添付情報 ケ、シ、ツ

登録免許税額 建物 なし 敷地権 なし 合計 金 2,000円

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第3欄

(要否) (理由)

不要 区分建物についてした登記は敷地権の登記としての効力も有するか

ら。

第4欄(1)

登記の目的 2番根抵当権登記名義人住所変更

申 登記原因及 平成30年9月3日本店移転

請 びその日付

事 上記以外の 変更後の事項 本店 名古屋市中区神戸三丁目1番地

項 申請事項等 申請人 株式会社つぼみ銀行

添付情報 テ

登録免許税額 建物 なし 敷地権 なし 合計 金 2,000円

第4欄(2)

登記の目的 2番根抵当権変更

申 登記原因及 平成31年3月18日変更

請 びその日付

事 上記以外の 変更後の事項 極度額 金2,000万円

項 申請事項等 権利者 株式会社つぼみ銀行

等 義務者 甲山大介

添付情報 キ、ク、ス、テ

登録免許税額 建物 なし 敷地権 なし 合計 金 2万円

第4欄(3)

登記の目的 所有権移転

申 登記原因及 平成31年4月5日売買

請 びその日付

事 上記以外の 権利者 有限会社KM設計

項 申請事項等 義務者 甲山大介

添付情報(注) キ、ク、セ、ソ(代金全額の支払いの事実を証するもの)、タ(有限会

社KM設計のもの)、ナ

登録免許税額 建物 金 9万円 敷地権 金 9万 4,800円 合計 金 18万 4,800円

注:「セ、ソ(代金全額の支払いの事実を証するもの)」に代えて、「ソ(売買の事実を証

するもの)」としてもよい。

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第4欄(4)

登記の目的 登記不要

申 登記原因及

請 びその日付

事 上記以外の

項 申請事項等

添付情報

登録免許税額 建物 敷地権 合計

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午後の部第37問

第1欄

【登記の事由】

取締役及び代表取締役の変更

発行可能株式総数の変更

株式の分割

吸収合併による変更

【登記すべき事項】

平成30年12月20日代表取締役たる取締役A死亡

平成30年12月25日次の者就任

さいたま市浦和区戊町1番地

代表取締役 B

平成31年1月1日次の者就任

取締役 H

平成30年12月31日変更

発行可能株式総数 8000株

同日変更

発行済株式の総数 2000株

平成31年1月1日変更

発行済株式の総数 2210株

資本金の額 金5億円

同日東京都品川区丙町1番地ムーン株式会社を合併

【登録免許税額】

金21万円

【添付書面の名称及び通数】

吸収合併契約書 1通

株主総会議事録 2通

株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)2通

取締役会議事録 2通

公告及び催告をしたことを証する書面 4通

異議を述べた債権者はいない。

資本金の額が会社法の規定に従って計上されたことを証する書面 1通

登録免許税法施行規則第12条第5項の規定に関する証明書 1通

登記事項証明書 1通

死亡届(戸籍事項証明書)1通

取締役Hの就任承諾書 1通

代表取締役Bの就任の承諾を証する書面

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取締役会議事録の記載を援用する。

印鑑証明書 2通

本人確認証明書 1通

委任状 1通

第2欄

スター株式会社についてはABC

ムーン株式会社についてはHI

第3欄

【登記の事由】

取締役、代表取締役、監査役及び会計監査人の変更

監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め廃止

会計監査人設置会社の定め設定

【登記すべき事項】

平成31年3月5日取締役F辞任

平成31年3月28日取締役B、監査役P任期満了退任

同日代表取締役B資格喪失退任

同日次の者就任

取締役 J

取締役 K

千葉市中央区乙町1番地

代表取締役 K

監査役 Q

会計監査人 R監査法人

同日監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め廃止

同日会計監査人設置会社の定め設定

【登録免許税額】

金6万円

【添付書面の名称及び通数】

定款 1通

株主総会議事録 1通

株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)1通

取締役会議事録 1通

辞任届 1通

取締役J、取締役K、監査役Q、会計監査人R監査法人の就任承諾書 4通

代表取締役Kの就任の承諾を証する書面

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取締役会議事録の記載を援用する。

印鑑証明書 4通

委任状 1通

第4欄

【理由】平成31年3月28日の定時株主総会において確定する設問会社の貸借対照表

において資本金の額が5億円となり、これにより設問会社は大会社となる。大会社は会

計監査人を置かなければならない。会計監査人を置くためには、業務監査権のある監査

役、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかを置かなければならない。

そこで、会計監査人設置会社の定めを設定し、監査役の監査の範囲を会計に関するもの

に限定する旨の定款の定めを廃止し、会計監査人を選任する議案の追加を助言したので

ある。

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令和1年度司法書士試験解説

午前の部

午前の部第1問 正解4

ア 誤り。地方公共団体が、公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方

公務員の職(公権力行使に係る職)とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経

るべき職(専門スタッフとして従事する職)とを包含する一体的な管理職の任用制度を構

築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置

を執ることは、憲法14条1項(平等原則)に違反しない( 判平17.1.26)。

イ 誤り。指紋押捺を拒否した外国人が、一時的な外国渡航の際に再入国の許可を申請し

たところ、不許可となった事案において、 高裁判所は、再入国の自由(一時的な外国旅

行の自由)は外国人には保障されないと判示した( 判平4.11.16。森川キャサリ

ーン事件判決)。

ウ 正しい。在留外国人のうち永住者等で居住区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を

持つに至ったと認められる者につき、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共

団体の公共的事務の処理に反映させるため、法律で、地方公共団体の長、その議会の議員

等に対する選挙権を与える措置を講ずることは、憲法上禁止されてはいない( 判平7.

2.28)。

エ 誤り。外国人の政治的活動の自由は、わが国の政治的意思決定またはその実施に影響

を及ぼす等外国人の地位に鑑みこれを認めることが相当でないと解されるものを除き保障

される( 判昭53.10.4。マクリーン事件判決)。日本国民と同様に保障が及ぶと

する本肢は誤りである。

オ 正しい。社会権は、国家が存在して初めて認められる権利である。前国家的権利(自

由権)と同様には保障されない。社会保障上の施策における外国人の処遇は国の政治判断

である。自国民を外国人より優先的に扱うことができる。人の生活の救助は、各人の所属

する国の責任だからである。生活保護法が適用対象とする「国民」は日本人を意味し、永

住外国人には準用されない( 判平26.7.18)。

よって、正しい肢はウとオであり、4が正解となる。

★判例問題(外国人の人権)。難易度:易。重要判例の知識を問うアイウの正誤の判断で、

正解が可能である。

午前の部第2問 正解4

ア 誤り。法人についても、性質上可能な限り人権規定の適用がある( 判昭45.6.

24)。請願権の主体には制限はない。法人にも認められる。

イ 誤り。内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出する権限を有する(憲法7

2条)。「議案」には「法律案」が含まれる。

ウ 正しい。法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したと

き法律となる(憲法59条1項)。衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした

法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる(2

項)。

エ 正しい。法令の公布は官報でなされるものと解するのが相当であって、たとえ事実上

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令和1年度司法書士試験解答解説

法令の内容が一般国民の知りうる状態に置かれえたとしても、いまだ法令の公布があつた

とすることはできない( 判昭32.12.28)。

オ 誤り。国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにも

かかわらずあえて立法を行うというごとき、容易に想定しがたいような例外的な場合でな

い限り、国家賠償法の適用上、違法の評価を受けない( 判昭60.11.21。重度身

障者在宅投票制度事件)。ただし、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されて

いる権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されてい

る権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、そ

れが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合

などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規

定の適用上、違法の評価を受ける( 判平17.9.14、 判平27.12.16)。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文判例問題(立法)。難易度:易。エの判例を知らなくとも、アイオの正誤の判断で、

正解が可能である。

午前の部第3問 正解3

ア 正しい。独立行政委員会も内閣の下(コントロール下)にあるから合憲であるとの

説に対しては、人事権、予算作成権があれば内閣の下にあるということは、裁判所も

内閣の下になってしまうとの批判がある。

イ 誤り。独立行政委員会とは、内閣から独立して職権を行う合議体の行政機関である。

したがって、いずれの説であっても、独立行政委員会の職務全般に対して内閣の直接的

な指揮監督が及ぶことを理由とすることはできない。

ウ 誤り。「行政権は、内閣に属する」と定める憲法65条が、立法、司法の規定と異な

り「唯一」「すべて」と言っていないことは、独立行政委員会はその職務の特殊性に鑑

み合憲であるとする第3説の理由となる。

エ 正しい。本肢の内容は、独立行政委員会は国会のコントロールの下にあり合憲であ

るとする第2説の理由となる。

オ 正しい。政治的に中立性が要求されたり(警察行政、人事行政)、高度の公平性が要

求されるような行政(中央労働委員会)は、内閣のコントロールに服さしむべきでは

ないことは、独立行政委員会はその職務の特殊性に鑑み合憲であるとする第3説の理

由となる。

よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

★見解問題(独立行政委員会)。難易度:易。重要論点をしっかり学習していれば正解可

能である。アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第4問 正解4

ア 正しい。法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、

未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分する

ときも、同様である(民法5条3項)。例えば、未成年者が与えられた小遣いで買い物を

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令和1年度司法書士試験解答解説

する場合は、法定代理人の同意は要しない。

イ 誤り。意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であ

ったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その

法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない(民法98条の2)。このよう

に、未成年者は意思表示の受領能力を有しないが、その相手方である表意者が意思表示を

取り消すことはできない。

ウ 正しい。未成年者であることは、後見人の欠格事由である(民法847条)。

エ 正しい。認知をするには、意思能力があれば足り、行為能力は要しない。したがって、

父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、認知をする場合にその法定

代理人の同意を要しない(民法780条)。

オ 誤り。未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない(民法1009条)。

よって、誤っている肢はイとオであり、4が正解となる。

★条文問題(未成年者)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアイエの正誤の判断で、

正解が可能である。

午前の部第5問 正解1

ア 誤り。「ある事実が発生しないこと」を条件とした場合、当該条件は消極条件である。

消極条件は、当該事実が発生しないことが確定することが条件成就であり(我妻P410)、

それが停止条件であった場合は、そのときに法律行為の効力が生じる。

イ 正しい。不法な条件を付した法律行為は、無効である(民法132条)。

ウ 誤り。条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その

条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件となる(民法131条2項)。無効と

なるのではない。

エ 正しい。停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無

効となる(民法134条)。

オ 正しい。不能の解除条件を付した法律行為は、無条件となる(民法133条2項)。

よって、誤っている肢はアとウであり、1が正解となる。

★条文問題(条件)。難易度:易。アにとまどったとしても、基本的な条文知識を問うイ

ウの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第6問 正解3

ア 正しい。一筆の土地の一部の時効取得は認められる(大判大13.10.7)。なお、

登記をするためには分筆をしなければならない。

イ 誤り。時効を援用することができる者(援用権者)は、時効によって直接に利益を受

ける者及びその承継人である(大判大8.6.19)。土地の所有権の時効取得者から賃

借権の設定を受けた者は、土地の所有権の取得時効の援用権者ではない( 判昭44.7.

15)。この場合、所有権の時効取得が認められないと、それを目的とする賃借権も無効

となるが、時効によって直接に利益を受ける者ではないとして、否定された。

ウ 正しい。土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に

基づくことが客観的に表現されているときは、土地賃借権を時効取得することができる(

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令和1年度司法書士試験解答解説

判昭43.10.8)。

エ 正しい。被相続人が取得時効に必要な占有をしたが時効を援用しないで死亡した場合、

その共同相続人の一人は、自己が全部を取得する遺産分割協議が成立した等の特段の事情

がない限り、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる( 判平

13.7.10)。

オ 誤り。地役権は、継続的に行使され(継続)、かつ、外形上認識することができるも

の(表現)に限り、時効によって取得することができる(民法283条)。すなわち、継

続かつ表現のものに限り、時効で取得することができる。通路を開設しないで通行する通

行地役権は継続ではないから、時効取得することはできない。

よって、誤っている肢はイとオであり、3が正解となる。

★判例問題(取得時効)。難易度:易。重要判例の知識を問うアイの正誤の判断で、正解

が可能である。

午前の部第7問 正解4

ア 誤り。混同が生じても、その物が第三者の権利の目的であるときは、制限物権は消滅

しない(民法179条1項但書)。すなわち、当該制限物権の後順位に第三者の権利があ

る場合は、当該制限物権は、混同により消滅しない。これに対し、第三者の権利が先順位

であった場合は、混同により消滅する。本肢の場合、混同が生じたCの抵当権より後順位

の権利はないから、Cの抵当権は混同により消滅する。

イ 誤り。借地権を設定する場合は、借地権設定者(地主)が借地権の共有者に加わるこ

とができる(自己借地権、借地借家法15条)。借地権以外の地上権や賃借権は、地主が

地上権や賃借権の共有者に加わることはできないが、地主が、地上権又は賃借権(借地権

でなくてもよい)の一部を取得して地上権又は賃借権の共有者に加わることは許される(混

同は生じない。昭38.6.18民甲1733号)。

ウ 正しい。制限物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他

の権利は、消滅する(民法179条2項前段)。例えば、本肢のように、Bの地上権にC

のための抵当権が設定されていた場合において、CがBから当該地上権を取得すると、C

の抵当権は混同により消滅する。

エ 誤り。自己所有不動産にBのための賃借権を設定していたAがBに当該不動産を譲渡

したが、所有権移転登記前にAが当該不動産をCに二重に譲渡し、Cが先に所有権移転登

記を受けた場合は、Bの賃借権は消滅しない( 判昭40.12.21)。そして、Bの

賃借権は、借地借家法の建物の対抗要件(引渡し)を得ているから、Bは、賃借権をもっ

てCに対抗することができる。

オ 正しい。混同が生じた制限物権が第三者の権利の目的であるときは、当該制限物権は

混同により消滅しない(民法179条1項但書)。すなわち、当該制限物権の上に他の権

利が存在する場合は、当該制限物権は、混同により消滅しない。例えば、本肢のように、

A所有不動産にBのための抵当権が設定され、当該抵当権にCの転抵当権が設定されてい

た場合において、BがAから当該不動産を取得しても、Bの抵当権は混同により消滅しな

い。

よって、正しい肢はウとオであり、4が正解となる。

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令和1年度司法書士試験解答解説

★条文問題(混同)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアイウの正誤の判断で、正解

が可能である。

午前の部第8問 正解2

ア 正しい。第三者が現れた時点で明認方法が消滅していた場合は、対抗力は失われる(

判昭36.5.4)。

イ 誤り。当事者の申請によって登記が抹消されたのではない場合は、対抗力は消滅しな

い。登記官の過誤、第三者の虚偽の申請(本肢)、火災等により登記が抹消(消滅)した

ような場合、いずれも対抗力は消滅しない(大判昭10.4.4、大判大12.7.7、

大判明31.5.20、 判昭34.7.24)。

ウ 誤り。時効完成後に第三者が現れた場合、時効取得者は、未登記で当該第三者に対抗

することはできない( 判昭42.7.21)。時効取得者と時効完成後の第三者との関

係は対抗関係であるからである。すると、時効完成後の第三者が相続人である場合は、相

続人は対抗要件を必要とする第三者には当たらないから、時効取得者は未登記で当該相続

人に時効取得を対抗することができる。

エ 誤り。登記は、第三者に対する対抗要件であるから、当事者間においては、登記は不

要である。例えば、買主(本肢のB)は、売主(本肢のA)に対して未登記でも所有権を

対抗することができる。

オ 正しい。解除前に第三者が現れた場合において、第三者が登記を得ている場合は、権

利者はこれに対抗することはできない。例えば、本肢のように、AがBに不動産を売り、

BがCに転売した後でAがBとの売買を解除した場合、Bは遡って無権利者となり(解除

には遡及効がある。)、Bを承継したCも無権利者となる(無から無)。本人と無権利者と

の関係は対抗関係ではなく、本人(A)は、未登記でこれ(C)に対抗することができる

はずである。しかし、解除には善意悪意に関係なく第三者を保護する規定がある。したが

って、Cが登記を得ていれば(これは対抗要件としての登記ではない。保護されるための

要件としての登記である。大判大10.5.17)、その善意悪意に関係なく、Aは所有

権をCに対抗することはできない。本肢のCは登記を得ていないから、第三者保護規定で

保護されず、Cは、Aに対して甲土地の所有権の取得を対抗することはできない。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★判例問題(物権変動)。難易度:易。重要判例の知識を問うア及び対抗要件に関する基

本的な理解を問うウの正誤の判断で、正解が可能である。その他の肢も必ず学習して

いなければならない重要判例を問うものばかりである。

午前の部第9問 正解2

ア 誤り。所有権に基づく返還請求訴訟においては、被告が自己の占有権限を主張・立

証しなければならない。

イ 正しい。動産の占有者が即時取得の要件を満たした場合において、占有物が盗品又は

遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対

してその物の回復を請求することができる(盗品等の特則。民法193条)。占有者が、

盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する

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令和1年度司法書士試験解答解説

商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁

償しなければ、その物を回復することができない(民法194条)。回復請求に弁償を

要する場合、占有者は、弁償がなされるまでの間、その物の使用収益権を有する( 判

平12.6.27)。

ウ 正しい。占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額そ

の他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得した

ときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する(民法196条)。本肢の場合、占有

者Aは、果実(賃料)を取得しているから、通常の必要費を所有者Bから償還させるこ

とはできない。

エ 誤り。取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であ

り、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する(即時

取得。民法192条)。即時取得が成立するためには取得者が引渡しを受けることが要

件であり、この引渡しには占有改定による引渡しは含まれない( 判昭35.2.11)。

本肢のAが受けた引渡しは占有改定であるから、Aは、甲絵画を即時取得することはで

きない。

オ 正しい。登記・登録された船舶、自動車、航空機は、即時取得の対象とはならない(

判昭62.4.24)。

よって、誤っている肢はアとエであり、2が正解となる。

★条文判例問題(即時取得)。難易度:易。アイの正誤の判断で、正解が可能である。ア

イの正誤の判断にとまどったとしても、重要な条文又は判例の知識を問うウエの正誤

の判断によって正解が可能である。

午前の部第10問 正解4

ア 誤り。所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することが

できなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離

するのに過分の費用を要するときも、同様である(民法243条)。付合した動産につ

いて主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時におけ

る価格の割合に応じてその合成物を共有する(民法244条)。なお、不動産に動産が

付合した場合は、不動産の所有者は、当該動産の所有権を取得するが、権原によってそ

の物を附属させた他人の権利を妨げない(民法242条)。動産と動産が付合した場合

は、権限によって付合させた場合の特則はない。したがって、本肢の場合、甲動産は主

たる動産である乙動産の所有者Bに帰属し、Aは甲動産の所有権を失う。

イ 正しい。添付により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、

消滅する(民法247条1項)。本肢の場合、Bが合成物の所有権を取得したのである

から、Aは甲動産の所有権を失い、Aが甲動産に設定した質権も消滅する。

ウ 誤り。動産と動産が混和した場合は動産と動産が付合した場合の規定が準用される(民

法245条)。したがって、本肢の場合、甲液体が主たる液体であるから、混和物の所

有権は甲液体の所有者Aに帰属する。

エ 誤り。他人の動産に工作を加えた者(加工者)があるときは、その加工物の所有権は、

材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超え

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令和1年度司法書士試験解答解説

るときは、加工者がその加工物の所有権を取得する(民法246条1項)。この場合に

おいて、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加

えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得

する(2項)。本肢の場合、加工者Aが材料の一部を供しているから、その材料価格に

工作によって生じた価格を加えたものが甲動産の価格を超えるのであれば、工作によっ

て生じた物の価格が甲動産の価格を著しく超えなくともAは加工物の所有権を取得す

る。

オ 正しい。建前に第三者が材料を提供して工事を実施し、独立の不動産である建物とし

て完成させた場合の建物の所有権の帰属については、加工の規定によって決定するとい

うのが判例である( 判昭54.1.25)。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★条文問題(添付)。難易度:易。アの正誤の判断にとまどっても、基本的な条文知識を

問うイウの正誤の判断によって正解が可能である。

午前の部第11問 正解3

ア 誤り。共有物分割の訴えは必要的共同訴訟であり、原告たる共有者は、他の共有者

全員を被告としなければならない(大判明41.9.25、新藤P664)。

イ 正しい。共有物不分割特約があっても、各共有者は、自由に自己の持分を処分する

ことができる。

ウ 誤り。共有者の一人が死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰

属する(民法255条)。ただし、他の共有者よりも特別縁故者が優先するから、死亡

した共有者の持分は特別縁故者の不存在が確定して初めて他の共有者に帰属する( 判

平1.11.24)。

エ 正しい。本肢の場合、Aの持分を持分放棄により取得したBCと、Aの持分を譲渡に

より取得したDとの関係は対抗関係であり、先に登記をした方が他に対抗することがで

きる。

オ 誤り。各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、

その持分に応じて担保の責任を負う(民法261条)。したがって、共有物分割によっ

てAが取得した甲建物に隠れた瑕疵があった場合は、BCは、売主と同じく瑕疵担保責

任を負う(民法570条)。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★条文判例問題(共有)。難易度:中。判断にとまどう肢があったとしても、不動産登記

法の学習において理解しているはずのエの正誤の判断と、条文知識を問うオの正誤の

判断によって正解が可能である。

午前の部第12問 正解4

ア 誤り。動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、

その質物を回復することができる(民法353条)。占有の継続がなければ第三者に対

して質権を対抗することができないから(民法352条)、質権に基づいて返還請求を

することはできない。動産質権者が占有を喪失しても、占有を奪われたのでない場合は、

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令和1年度司法書士試験解答解説

もはや、回復請求はできない。

イ 誤り。動産質権を含む質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることがで

きない(民法343条)。

ウ 正しい。動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に

限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求するこ

とができる(民法354条)。

エ 正しい。質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済

として質物の所有権を取得させ(流質契約)、その他法律に定める方法によらないで質

物を処分させることを約することができない(民法349条)。債権者が、債務者の窮

迫に乗じるのを防ぐ趣旨である。弁済期後の流質契約は許される。本肢の流質契約は弁

済期後になされたものであるから有効である。

オ 誤り。質権は、約定担保物権であるから、その成立には設定契約を要するが、設定契

約だけでは足りず、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる(要

物契約。民法344条)。引渡しは、占有改定以外でなければならない(民法345条)。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文判例問題(動産質)。難易度:易。超基本的な条文知識を問う肢ばかりである。ア

イウの正誤の判断によって正解が可能である。

午前の部第13問 正解4

ア 正しい。抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加し

て一体となっている物に及ぶ(民法370条本文)。ただし、設定行為に別段の定めがあ

る場合及び債務者の行為について詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限り

でない(但書)。本肢の合意は、「設定行為に別段の定めがある場合」にあたる。

イ 正しい。主物に設定された抵当権の効力は、設定当時の従物(従たる権利)に及ぶ。

この場合、主物について抵当権の対抗要件を備えれば、その対抗力は従物(従たる権利)

についても生じる。

ウ 誤り。法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時、土地と建物の所有者が同じ

でなければならない。本肢のように、抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なる場合

は、後に同一になっても法定地上権は成立しない( 判昭46.10.14)。ただし、

この場合は、既に建物所有のため土地に対抗要件を備えた賃借権が設定されており、土地

の所有権と賃借権等が同一人に帰属しても(土地の賃借権等は、従たる権利として建物と

ともに土地所有者に移転する。)、混同で消滅しないとされているので(混同の例外)、法

定地上権を認める必要はない。

エ 正しい。地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権

利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない(民法398条)。借

地上の建物に抵当権が設定された場合の借地権の放棄又は合意解除には本条が類推適用さ

れ、借地権の消滅をもって抵当権者に対抗することができない(大判大11.11.24、

大判大14.7.18)。

オ 誤り。賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を

転貸することができない(民法612条1項)。抵当権の実行により抵当建物の所有権が

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令和1年度司法書士試験解答解説

移転すれば従たる権利である賃借権は買受人に移転するが、そのことと、賃借権の譲渡に

賃貸人の承諾又はこれに代わる裁判所の許可が必要であることとは別問題である。本肢の

場合、賃貸人Bの承諾又はこれに代わる裁判所の許可がなければ買受人Cは賃借権の取得

をBに主張することはできない。

よって、誤っている肢はウとオであり、4が正解となる。

★条文判例問題(抵当権の効力)。難易度:易。正誤の判断にとまどう肢があったとして

も、基本的な条文知識を問うアと重要判例の知識を問うウの正誤の判断によって正解

が可能である。

午前の部第14問 正解3

ア 正しい。二個の建物を一つにした(合体)場合、合体前の建物を目的とした抵当権は、

合体後の共有持分権の上に存続する( 判平6.1.25)。

イ 誤り。時効完成後、所有権移転登記がされることのないまま原所有者が抵当権を設

定し、抵当権設定登記がなされた場合において(未登記の時効取得者は、抵当権者に対

抗することはできない。)、時効取得者たる占有者がその後引き続き時効取得に必要な期

間占有を継続したときは、当該占有者が抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅

を妨げる特段の事情がない限り、当該占有者は、不動産を時効取得し、その結果、抵当

権は消滅する( 判平24.3.16)。

ウ 誤り。主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすること

ができない(民法380条)。

エ 正しい。抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間

は、抵当権消滅請求をすることができない(民法381条)。

オ 正しい。抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力

が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない(民法382条)。

よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

★条文判例問題(抵当権の消滅)。難易度:易。重要判例の知識を問うイと基本的な条文

知識を問うウの正誤の判断によって正解が可能である。イの判例を知らなくとも、基

本的な条文知識を問うウエの正誤の判断によって正解が可能である。

午前の部第15問 正解3

ア 正しい。譲渡担保権者には、物上代位権がある( 決平11.5.17)。集合動産

の譲渡担保についても同様である( 判平22.12.2)。

イ 誤り。集合物の範囲(集合物譲渡担保の効力が及んでいる範囲)は、特定可能でなけ

ればならない(特定性が必要)。譲渡担保の効力が及んでいる範囲が明らかでないと、第

三者が不測の損害を被る虞があるからである。本肢の場合、譲渡担保権設定者が所有権を

有するか否かが外形上明確になっていないので、譲渡担保の目的物が特定されているとは

言えない。

ウ 正しい。「何トン中何トン」という定め方は、譲渡担保の目的物が特定されていると

は言えない。

エ 正しい。集合物(動産)全体につき、設定の当初に譲渡担保権者が占有改定によって

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令和1年度司法書士試験解答解説

対抗要件を具備すれば、事後的にその構成部分となった動産についても対抗要件が具備さ

れる( 判昭62.11.10、内田第3版P544)。

オ 誤り。集合動産譲渡担保(例えば、養殖魚に対する譲渡担保)の設定者が、目的動産

につき、通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合は、処分された動産が当該譲渡担

保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、処分の相手方は目的物の所有権

を取得することはできない( 判平18.7.20)。

よって、誤っている肢はイとオであり、3が正解となる。

★判例問題(集合動産譲渡担保)。難易度:中。三毛猫倶楽部の講義を受講していれば、

重要判例の知識を問うウオの正誤の判断によって正解が可能である。

午前の部第16問 正解4

ア 誤り。保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、主た

る債務の限度に減縮される(民法448条)。主たる債務の目的又は態様が保証契約の締

結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない。例えば、主債務の弁済

期が短縮された場合には、その効力は保証債務には及ばない。

イ 正しい。時効の中断効は、相対的効力しか有しない。本肢の場合、AのBに対する求

償債務の消滅時効が中断しても、AのCに対する求償債務の消滅時効は中断しない。

ウ 誤り。連帯保証人は、検索の抗弁権及び催告の抗弁権を主張することはできない(民

法454条)。しかし、保証連帯は連帯保証ではないから、保証連帯の特約のある保証人

は、検索の抗弁権及び催告の抗弁権を主張することができる。

エ 誤り。委託を受けた保証人の事前求償権は、受託事務である保証債務の履行責任が存

在する限りこれと別個に消滅することはない(その消滅時効が進行を開始することもない

( 判昭60.2.12)。すなわち、事前求償権は、弁済等によって事後求償権が発生

しない限りその消滅時効が進行することはない。

オ 正しい。特定物売買の債務不履行による解除によって生じた売主の原状回復義務につ

いては、売主の保証人に責任が及ぶ( 判昭40.6.30)。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★判例問題(保証)。難易度:中。応用力を働かせば、エの判例を知らなくとも、アイウ

の正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第17問 正解5

ア 誤り。将来債権(複数の場合は集合債権と呼ばれる。)の譲渡も可能である。

イ 誤り。債権譲渡時に将来債権の発生の可能性が低くても、債権譲渡の効力を当然に左

右しない( 判平11.1.29)。

ウ 正しい。指名債権の譲渡の対抗要件である通知は、譲渡人から債務者に対してしなけ

ればならない。譲受人が譲渡人に代位してすることはできない(大判昭5.10.10)。

ただし、譲受人が、譲渡人の代理人又は使者として通知をすることはできる(大判昭12.

11.9)。

エ 誤り。譲渡禁止特約に違反してした譲渡は、無効である。ただし、特約に違反して譲

渡をした債権者(譲渡人)は、債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかで

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令和1年度司法書士試験解答解説

あるなどの特段の事情がない限り、その無効を主張することは許されない。譲渡禁止特約

は、債務者の利益を保護するために付されるものだからである( 判平21.3.27)。

オ 正しい。譲渡禁止特約は、善意無重過失の第三者には対抗できない(民法466条2

項但書、 判昭48.7.19)。これに対し、譲渡禁止特約付きの債権につき差押えや

転付命令があった場合、差押債権者(転付債権者)の善意悪意に関係なく、差押えや転付

命令は有効である。当事者の意思表示(特約)によって差押禁止債権を作り出すのは相当

ではないからである。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★判例問題(債権譲渡)。難易度:易。超基本的な判例知識を問うアイの正誤の判断で、

正解が可能である。

午前の部第18問 正解2

1 成立しない。承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない(民

法521条1項)。しかし、申込みが到達する前であれば、申込みの撤回は自由にするこ

とができる。申込みの到達前に撤回した場合、到達の効力は生じないから、申込みをした

ことにならず、これに対して承諾をしても契約は成立しない。

2 成立する。承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通

知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない(民法524条)。

本肢の撤回は、相当な期間が経過する前になされたものであるから、撤回は無効であり、

その後、申込みに対する承諾があったから契約は成立する。

3 成立しない。意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失し

たときであっても、そのためにその効力を妨げられないのが原則である(民法97条2項)。

しかし、隔地者間の申込みの場合は、申込者が反対の意思を表示した場合(到達前に申込

者が死亡したら申込みは無効とする等)又はその相手方が(到達時に)申込者の死亡若し

くは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、申込みは無効となる(民法525条。

我妻有泉コンメ第2版追補版P970)。本肢の場合、Bは申込みが到達した時にAの死

亡を知っていたから申込みは無効であり、これに対してBが承諾をしても契約は成立しな

い。

4 成立しない。承諾や撤回が延着した場合については特則がある。しかし、申込みの延

着については特則はないから、申込みが承諾期間経過後に到達した場合、承諾期間内に承

諾をすることはできないから、契約が成立する余地はない。

5 成立しない。申込みの撤回の通知が承諾の通知が発せられた後に到達した場合であっ

ても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができ

るときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない

(527条1項)。承諾者がこの延着の通知を怠ったときは、契約は、成立しなかったも

のとみなされる(2項)。本肢の場合、Bは延着通知をすべきであったがそれを怠ったか

ら、契約は成立しなかったものとみなされる。

よって、契約が成立する肢は2であり、2が正解となる。

★条文問題(契約の成立)。難易度:中。各肢の内容をよく条文にあてはめれば正解は可

能であるが、ややこしく感じた受験生が多かったものと思われる。

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令和1年度司法書士試験解答解説

午前の部第19問 正解3

ア 誤り。民法714条の責任無能力者の監督義務者等の責任とは、責任無能力である

ため加害者がその責任を負わない場合に、監督義務者等が代わって被害者に対して責任

を負うというものである。未成年者に責任能力があっても、監督上の不注意(過失)と

損害との間に因果関係があれば、監護義務者等は、一般的不法行為の規定(民法709

条)に基づいて、不法行為の責任を負う( 判昭49.3.22)。民法714条に基

づくのではないから、本肢は誤りである。

イ 正しい。失火者は、失火の責任に関する法律(失火法)により、失火者に重過失があ

る場合に限り責任を負う。そこで、責任無能力者が失火した場合にいかなる場合に監督

責任者等が責任を負うかが問題となる。責任無能力者が失火した場合、監督責任者等は、

監督に重過失があった場合に責任を負う( 判平7.1.24)。

ウ 正しい。法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や

日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が

当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどそ

の監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、法定の監督義務

者に準ずべき者として、責任無能力者の監督義務者等の責任を負う( 判平28.3.

1)。

エ 誤り。責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動につ

いて、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があ

ると解されるが、親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は、

ある程度一般的なものとならざるを得ないから、通常は人身に危険が及ぶものとはみら

れない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的

に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くして

いなかったとすべきではない(民法714条に基づく責任を負わない。 判平27.4.

9)。

オ 誤り。精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条の「責

任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない( 判平2

8.3.1)。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

★判例問題(不法行為)。難易度:中。全体的には知らない判例の出題ということで難儀

に感じた受験生がいたと思われるから「中」としたが、三毛猫倶楽部のテキストには

五肢の判例をすべて網羅しており、アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第20問 正解3

1 誤り。 嫡出否認の訴えの相手方(被告)は、子又は親権を行う母である。親権を行

う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない(民法775

条)。検察官ではないから本肢は誤りである。

2 誤り。非嫡出子と父又は母との関係は、認知によって生じる(民法779条)。ただ

し、通常の場合、母子関係は分娩の事実により明らかであるから( 判昭37.4.2

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令和1年度司法書士試験解答解説

7)、認知によって生じるのは父子関係である。

3 正しい。男性死亡後にその保存精子を用いて行われた人工生殖によって生まれた子と

当該男性との親子関係は認められない(死後認知の訴えは棄却される。 判平18.9.

4)。

4 誤り。海外において代理母が出産した子と卵子を提供した女性の間に母子関係の成立

を認めることはできない。現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性を

その子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎・出産していない女性との間には、その女性

が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることはできない( 判平19.

3.23)。

5 誤り。夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係

が認められないことが科学的証拠(DNA鑑定)により明らかであり、かつ、子が、現

時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長してい

るという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるも

のではないから、上記の事情があるからといって嫡出の推定が及ばなくなるものとはい

えず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできない(

判平26.7.17。夫婦の実体が失われていなかった事例)。

よって、正しい肢は3であり、3が正解となる。

★条文判例問題(実親子関係)。難易度:中。全体的には知らない判例の出題ということ

で難儀に感じた受験生がいたと思われるから「中」としたが、三毛猫倶楽部のテキス

トには本問の判例をすべて網羅しており、容易に正解が可能である。

午前の部第21問 正解5

ア 誤り。尊属又は年長者は、これを養子とすることができない(民法793条)。この

規定に違反した縁組は、各当事者又はその親族から、その取消しを家庭裁判所に請求す

ることができる(民法805条)。意思表示によって取り消すことはできない。

イ 誤り。養子が15歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定

代理人となるべき者との協議でこれをすることができる(民法811条2項)。必ず裁

判でしなければならないわけではない。

ウ 正しい。養親が夫婦である場合において未成年者と離縁をするには、夫婦が共にしな

ければならない。ただし、夫婦の一方がその意思を表示することができないときは、こ

の限りでない(民法811条の2)。

エ 誤り。25歳に達しない者は、特別養子縁組の養親となることができない。ただし、

養親となる夫婦の一方が25歳に達していない場合においても、その者が20歳に達し

ているときは、この限りでない(民法817条の4)。その者が20歳にも達していな

い場合は、当該夫婦は養親となることはできない。

オ 正しい。次の①②のいずれにも該当する場合において、養子の利益のため特に必要が

あると認めるときは、家庭裁判所は、養子、実父母又は検察官の請求により、特別養子

縁組の当事者を離縁させることができる(民法817条の10第1項)。

①養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。

②実父母が相当の監護をすることができること。

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令和1年度司法書士試験解答解説

請求(申立て)権者は、養子、実父母又は検察官である。養親の請求は認められない

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★条文問題(養子縁組)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアイの正誤の判断で、正

解が可能である。

午前の部第22問 正解5

ア 誤り。未成年者は、証人となることはできない(民法974条1号)。なお、15歳

に達した者は、遺言をすることができる(民法961条)。

イ 誤り。自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書

し、これに印を押さなければならない(民法968条1項)。印の種類は問わないから拇

印でもよい( 判平1.2.16)。花押を書くことは、印章による押印と同視すること

はできず、押印の要件を満たさない( 判平28.6.3)。

ウ 正しい。遺言書(公正証書遺言を除く。)の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞

なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管

者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様である(1004条1項、

2項)。秘密証書遺言についても検認が必要である。

エ 誤り。遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない(1026条)。

オ 正しい。疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするとき

は、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすること

ができる(民法976条前段)。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★条文判例問題(遺言)。難易度:易。アイエの正誤の判断で、正解が可能である。イの

判例を知らなくとも(三毛猫倶楽部では講義をしている。)、基本的な条文知識を問う

ウエ又はウオの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第23問 正解2

Aの相続人は、本来、配偶者B、子CDEであったところ、子CがA死亡以前に死亡した

から、Cの子GがCを代襲してAの相続人となる。本来の法定相続分は、配偶者Bが2分

の1であり、CDGが各6分の1である(代襲相続人Gの相続分は、被代襲者Cの相続分

と同じである。)。Eは遺贈を受けているから特別受益者となる(生前贈与を受けたFは

相続人ではないから、Fへの贈与は相続分の計算において不問である。)。遺贈の目的を

含めた遺産総額は、3000万円+600万円=3600万円であり、これに法定相続分

を乗じると、B=1800万円、D=600万円、E=600万円、G=600万円とな

り、ここから受遺者Eについて遺贈の額600万円を控除すると、その額は0円となる。

以上により、各相続人の具体的相続分は、B=1800万円、D=600万円、E=0円、

G=600万円となり、2が正解となる。

★条文問題(相続分)。難易度:易。本問の相続分の計算は、不動産登記法の相続登記の

箇所で学習する相続分の計算に比べればまったく容易である。Fへの贈与が相続分の

計算において不問になる点さえ誤らなければ、特別受益者の相続分がマイナスになる

ため相続分の計算をやり直すこともなく、非常に容易に正解に至ることができる。

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令和1年度司法書士試験解答解説

午前の部第24問 正解2

ア 誤り。共犯の錯誤の場合は、故意に関する錯誤理論(法定的符合説)をあてはめて処

理する。すなわち、単独犯につき、認識した事実と生じた結果が異なる場合の処理方法を、

共犯者ABにつき、Aの認識した事実とBが生じさせた結果が異なる場合にあてはめる。

すると、本肢の場合、Aの認識した事実は殺人であり、Bが生じさせた結果も殺人である

から、Aについて、Dに対する殺人罪の共同正犯が成立する。

イ 正しい。予備の共同正犯の成否については、未遂罪(刑法43条)の「実行」と、共

同正犯(刑法60条)の「実行」の意味を同じに解すか、別に解すかによって結論が異な

る。同じに解した場合は、予備においては、共同でする「実行」はないから予備罪の共同

正犯は否定される。別に解した場合は、予備行為も共同正犯の「実行」となり、共同で行

えば共同正犯となる。判例は、殺人予備について、予備罪の共同正犯を肯定する( 決昭

37.11.8)。したがって、本肢の場合、Aについて、殺人予備罪の共同正犯が成立

する。

ウ 正しい。犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者で

あっても、共犯となる(刑法65条1項)。したがって、本肢の場合、占有者ではないB

についても、Aが業務上の占有者であるから業務上横領罪の共同正犯が成立する。他方、

身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑が科される(2項)。

したがって、業務者ではないBに科される刑は単純横領罪の刑となる( 判昭32.11.

19)。

エ 正しい。片面的共同正犯とは、共同実行者の一部だけが共同実行の意思を有している

場合をいう。共同正犯には意思の連絡を要するから、片面的共同正犯は認められない(大

判大11.2.25)。本肢のDはABと意思の連絡を有しないから、Dについて、建造

物損壊罪の共同正犯は成立しない。

オ 誤り。判例は、結果的加重犯の共同正犯を肯定している( 判昭26.3.27)。

例えば、本肢のように、暴行・傷害を共謀したABが共同でCに対して暴行を加え、これ

を傷害したが、Bの行為でCが死亡した場合、Bについては殺人罪が成立するが、Aにつ

いても、傷害致死罪の共同正犯が成立する。ABは、もともと傷害罪の共同正犯であり、

Bの行為をAの行為と見ることができるからである。

よって、誤っている肢はアとオであり、2が正解となる。

★判例問題(共同正犯)。難易度:易。重要判例の知識を問うアイの正誤の判断で、正解

が可能である。

午前の部第25問 正解4

ア 正しい。放火罪の焼損の意義について、判例は、「火が媒介物を離れて目的物に燃え

移り、独立して燃焼しうる状態」としている(独立燃焼説。 判昭23.11.2)。

イ 正しい。本肢の場合、現住建造物放火罪の着手が認められる。着手があったが焼損に

至らなかったから、現住建造物放火罪の未遂罪が成立する。

ウ 誤り。放火罪にいう「公共の危険」とは、不特定又は多数の人の生命、身体又は財産

に対する危険をいう( 決平15.4.14)。本肢は、「不特定及び多数」とあるか

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令和1年度司法書士試験解答解説

ら誤りである。

エ 誤り。現住建造物放火罪にいう「現に人が住居に使用する」の「人」とは犯人以外の

者をさす。

オ 正しい。放火罪の保護法益は公共の安全であるから、一個の放火行為によって複数の

客体を焼損した場合は一個の放火罪が成立する。一個の放火行為によって処罰規定を異

にする複数の客体を焼損した場合は一番重い罪で処断する。例えば、現住建造物と非現

住建造物を焼損した場合は、現住建造物放火罪のみが成立する(大判明42.11.1

9)。

よって、誤っている肢はウとエであり、4が正解となる。

★判例問題(放火罪)。難易度:中。アイの正誤の判断は容易であり、これにより1、2、

3の肢が切れる。残りの4と5にはいずれもエが含まれているから、ウオの正誤の判

断によって正否が別れることとなる。放火罪の保護法益が公共の安全であることを思

い描けばオが正しいことが分かり、正解に至ったであろう。

午前の部第26問 正解2

ア 誤り。名誉毀損罪の「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」の「人」には法

人も含まれる(大判大15.3.24)。

イ 正しい。名誉毀損罪の「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」の「名誉を毀

損した」とは、人の社会的評価を低下させる危険を生じさせることであり、現実に社会的

評価が低下したことは要しない(大判昭13.2.28)。

ウ 誤り。名誉毀損罪の「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」の「公然」とは、

不特定又は多数人の知り得べき状態をさす( 判昭36.10.13他)。

エ 正しい。名誉毀損罪の故意は、自己の行為が人の名誉を毀損することの認識があれば

足り、名誉毀損の目的を要しない(大塚P141)。

オ 正しい。名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益

を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があ

ったときは、処罰されない(刑法230条の2第1項)。事実が真実であることの証明が

なくても、行為者がその事実を真実だと誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、

根拠に照らして相当の理由があるときは、故意がなく、名誉毀損罪は成立しない( 判昭

44.6.25)。

よって、誤っている肢はアとウであり、2が正解となる。

★判例問題(名誉毀損罪)。難易度:易。重要判例の知識を問うアイの正誤の判断で、正

解が可能である。

午前の部第27問 正解2

ア 誤り。株式会社の負担する設立に関する費用は、変態設立事項であり、定款に記載(記

録)せず、検査役の調査を経ていないものは、これを支出した発起人は株式会社に求償

することはできない。ただし、定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそ

れがないものとして法務省令で定めるものは除かれる(定款に記載(記録)せず、検査

役の調査を経ていなくても、発起人は株式会社に求償することができる。会社法28条

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令和1年度司法書士試験解答解説

4号)。

イ 正しい。発起人は、株式会社の設立に際して一定の設立時発行株式に関する事項(定

款に定めがある事項を除く。)については、その全員の同意により定めなければならな

い(会社法32条1項、2項)。会社成立後の資本金及び資本準備金の額に関する事項

は、その事項に含まれるから、定款に定めがない場合は発起人の全員の同意で定めなけ

ればならない。

ウ 正しい。金銭以外の財産を出資する者(現物出資者)の氏名又は名称、当該財産及び

その価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(種類株式発行会社の場

合は、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数)は変態設立事項であり(会社法28条

1号)、原則として、定款に記載し、検査役の調査を受けなければならない。裁判所は、

検査役の報告を受けた場合において、変態設立事項を不当と認めたときは、これを変更

する決定をしなければならない(会社法33条7項)。

エ 正しい。発起設立であると、募集設立であるとを問わず、株式会社の設立の際に現物

出資をすることができるのは発起人に限られる。

オ 誤り。発起設立の場合において、公証人の認証を受けた定款を変更して発行可能株式

総数の定めを設けるためには、発起人全員の同意を要する(会社法37条1項)。

よって、誤っている肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文問題(株式会社の設立)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアウの正誤の判断

で、正解が可能である。

午前の部第28問 正解3

1 誤り。株式会社は、自己株式に対して株式無償割当てをすることはできない。

2 誤り。種類株式発行会社が株式の分割をした場合は、分割された株式を有する株主に

は、分割された株式と同じ種類の株式が交付される。

3 正しい。株式無償割当てにおいては、割り当てる比率によっては株主に交付する株式

に端数が生じることがある。

4 誤り。株式を分割すると、発行済株式の総数が増加するから、これが発行可能株式総

数を超えることとなる場合は、定款を変更して、発行可能株式総数を増加しなければな

らない。本来、発行可能株式総数の変更(定款変更)は、株主総会の特別決議でしなけ

ればならないが、次のいずれの要件をも満たす場合は、取締役の過半数の一致(非取締

役会設置会社の場合)又は取締役会の決議(取締役会設置会社の場合)で、発行可能株

式総数を変更することができる。

①現に2種類以上の株式を発行していないこと

②発行可能株式総数の増加割合が株式の分割による発行済株式の総数の増加割合以下

であること

本肢は、「現に2種類以上の株式を発行している株式会社であっても」とあるから誤

りである。

5 誤り。株式会社が株式無償割当てをしても資本金の額は変更されない。

よって、正しい肢は3であり、3が正解となる。

★条文問題(株式の分割と株式無償割当て)。難易度:易。商業登記法を学習する司法書

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令和1年度司法書士試験解答解説

士の受験生にとっては「常識」以下の出題である。

午前の部第29問 正解2

ア 正しい。募集新株予約権を発行する株式会社は、募集新株予約権と引換えに金銭の

払込みを要する場合であっても、払込期日を定めることを要しない。新株予約権付社

債に付された新株予約権であっても同じである。

イ 誤り。会社が社債を発行する場合は、原則として、社債管理者を定めなければなら

ない。当該社債に新株予約権が付されている場合でも同様である。

ウ 誤り。株式会社は、自己新株予約権を行使することができない(会社法280条6

項)。新株予約権付社債に付された新株予約権であっても同じである。

エ 正しい。株式会社は、新株予約権を発行した日以後遅滞なく、新株予約権原簿を作成

し、所定事項(新株予約権原簿記載事項)を記載し、又は記録しなければならない(会

社法249条1項)。新株予約権付社債に付された新株予約権であっても同じである。

また、会社は、社債を発行した日以後遅滞なく、社債原簿を作成し、所定事項(社債原

簿記載事項)を記載し、又は記録しなければならない(会社法681条1項)。新株予

約権付社債の社債であっても同じである。

オ 誤り。新株予約権については、その内容として、行使の条件を定めることができる。

新株予約権付社債に付された新株予約権であっても同じである。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★条文問題(新株予約権付社債)。難易度:中。新株予約権と社債に関してそれぞれ別個

に問われれば容易に解答できる内容である。新株予約権付社債ということでとまどっ

た受験生がいたかもしれない。

午前の部第30問 正解2

ア 正しい。適法な名義書換請求があったのに、株式会社が不当にこれを拒絶し( 判昭

42.9.28)、又は過失によって名義書換をしなかった場合( 判昭41.7.2

8)は、株式取得者は、名義書換なしに株式会社に対して株主たることを対抗すること

ができ、株式会社は、株主名簿上の株主を株主として取り扱うことはできない。

イ 誤り。株主の数によって電子投票を可としなければならない場合はない。なお、書面

投票については、株主の数が1,000人以上である場合は、これを可とする旨を定め

なければならない。ただし、上場会社で委任状勧誘をしている株式会社については、こ

の限りではない(会社法298条2項、3項、会社法施行規則64条)。

ウ 誤り。代理人を株主に限定する旨の定款の定めは有効である( 判昭43.11.1)。

なお、当該定めがあっても、株主以外の代理人の議決権行使によって株主総会が攪乱さ

れ株式会社の利益が害されるおそれがないような場合は、定款の定めは当該代理人には

及ばず、株式会社は、当該代理人の議決権行使を拒否することはできない。

エ 正しい。書面による議決権行使をすることができるのは株主総会に出席しない株主で

ある(会社法298条1項3号)。したがって、書面による議決権行使をした株主が株

主総会に出席して議決権を行使した場合は、書面による議決権行使は撤回されたものと

みなされる。

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令和1年度司法書士試験解答解説

オ 誤り。株主は、その有する議決権を統一しないで行使することができる(会社法31

3条1項)。株式会社は、不統一行使をしようとする株主が他人のために株式を有する

者でないときは、その不統一行使を拒むことができる(3項)。この場合も、不統一行

使が一切できないわけではないから、本肢は誤りである。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★条文判例問題(株主による議決権の行使)。難易度:易。重要判例の知識を問うアウの

正誤の判断で、正解が可能である。エに関する知識がなくとも十分正解が可能である。

午前の部第31問 正解3

ア 誤り。取締役会は、各取締役が招集することができる(会社法366条本文)。ただ

し、定款又は取締役会の決議により取締役の中から招集権者を定めることができる(但

書)。このように、招集権者の限定は定款のほか取締役会の決議でもできるから本肢は

誤りである。

イ 正しい。取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(定款で短縮可)前までに、

各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発

しなければならない(会社法368条1項)。監査役の監査の範囲を会計に関するもの

に限定する旨の定款の定めがある株式会社は監査役設置会社ではないから、その監査役

には招集通知を発する必要はない(業務監査権のある監査役は取締役会への出席義務が

あるが、会計監査のみを行う監査役は出席義務を有しない。)。

ウ 正しい。可否同数の場合に議長が決する旨の定款の定めは、議長が議決権を行使せず、

可否同数の場合に行使する趣旨であれば有効である。そうでなければ無効である(昭3

4.4.21民甲772号)。しかし、本肢は、そうした定款の定めによって議長が決

裁権を行使しているのではなく、可否同数になった事項について取締役会の過半数の決

議によって決定を議長に委任しているのである。取締役会は、支配人の選任等の専決事

項を除き、取締役会の決議で取締役に決定を委任することができる。本肢の場合、取締

役会の過半数の決議で議長に決定を委任しているのであり、委任された議長が委任事項

について決定をしているのであるから、その決定は有効である。

エ 誤り。取締役会による代表取締役の解職決議の効力は、決議のときに生じる。

オ 誤り。取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案

をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることがで

きるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監

査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、

当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることが

できる(会社法370条)。定款の定めが必要であるから、本肢は誤りである。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

★条文問題(取締役会)。難易度:難。ウについては、「可否同数の場合に議長が決する

旨の定款の定めは無効である」という頭があるから誤った受験生が多かったろう。しか

も、ウの正誤の判断は正解のために必須であるから、本問は難問であった。

午前の部第32問 正解1

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令和1年度司法書士試験解答解説

ア 誤り。指名委員会等設置会社は、会計監査人を置き、かつ取締役の任期が指名委員会

等設置会社の取締役の法定任期以下である場合は、剰余金の配当(現物配当で、株主に

対して金銭分配請求権を与えない場合を除く。)についての決定を取締役会ですること

ができる旨を定款で定めることができる。現物配当で、株主に対して金銭分配請求権を

与えない場合は除かれるから、本肢は誤りである。

イ 誤り。株式会社が違法配当をした場合において、職務を行った業務執行者が株式会社

に対して負う責任については、分配可能額を限度とする額については総株主の同意によ

り免除することができる。分配可能額を超える額についは総株主の同意があっても免除

することはできない。本肢は「全額」とあるから誤りである。

ウ 正しい。株式会社が違法配当を行った場合、配当を受けた株主は、株式会社に対して、

配当財産の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。株式会社の債権者は、株主に

当該支払いをさせることができる。これは債権者代位権の特則である。債権者が株主に

支払わせる額は、債権者の債権額が限度となる(会社法463条2項)。

エ 正しい。株式会社が剰余金の配当をした後、計算書類につき定時株主総会の承認を受

けた時点で欠損が生じた場合は、当該行為に関する職務を行った業務執行者は、当該株

式会社に対し、連帯して、その欠損額と剰余金の配当によって株主に対して交付した金

銭等の帳簿価額の総額のうちいずれか小さい額を支払う義務を負う(法465条1項柱

書本文)。ただし、配当決議が定時株主総会において行われた場合は、業務執行者はこ

の義務を負わない。

オ 正しい。清算株式会社は、剰余金の配当をすることはできない。

よって、誤っている肢はアとイであり、1が正解となる。

★条文問題(剰余金の配当)。難易度:中。かなり細かい事項を問う肢が多かった。だが、

オが誤っていることは容易に分かり、すると、後はイウの正誤の判断であり、イが誤

っていることもしっかり学習していれば分かるだろうから、本肢の難易度を「中」と

した。

午前の部第33問 正解5

ア 誤り。社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別は、持分会社の定

款の絶対的記載事項である。設立しようとする持分会社が合名会社である場合には、そ

の社員の全部を無限責任社員としなければならない。

イ 誤り。株式会社の取締役等が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害

を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたとき

は、特別背任罪が成立する。株式会社は、所有と経営が分離しているので、刑法の背任

罪の特別法として特別背任罪が用意されたものである。持分会社は所有と経営が分離し

ていないので、特別背任罪の適用はない。

ウ 正しい。合同会社の債権者は、当該合同会社の営業時間内は、いつでも、その計算書

類(作成した日から5年以内のものに限る。)について社員と同様の請求(閲覧等の請

求)をすることができる(会社法625条)。合名会社及び合資会社の債権者は、この

請求をすることはできない(新基本コンメP56)。

エ 誤り。持分会社(合名会社と合資会社に限る。)は、定款又は総社員の同意で決定し

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令和1年度司法書士試験解答解説

た財産の処分方法にしたがって、清算をすることができる(任意清算)。合同会社は、

任意清算をすることはできない。

オ 正しい。株式移転設立完全親会社となることができるのは、株式会社に限られる。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★条文問題(持分会社)。難易度:易。イは正誤の判断は、ほとんどの受験生がつかなか

ったろう。また、ウの正誤の判断にとまどった受験生も多かったろう。しかし、これ

らの肢の正誤の判断をしなくとも、覚えておかなければならない条文知識を問うアオ

の正誤の判断で、正解が可能である。したがって、難易度を「易」とした。

午前の部第34問 正解4

ア 誤り。新設合併の合併対価については、設立会社が株式会社の場合はその株式を必ず

合併対価としなければならず、これに加える形で社債等を合併対価とすることができる

が、金銭や、他の会社の株式等を合併対価とすることはできない(持ってないからあた

りまえ)。

イ 誤り。組織再編の略式手続とは、吸収型組織再編で、一方が他方の特別支配会社で

ある場合、支配されている会社の株主総会の決議が不要となるというものである。新

設型組織再編においては略式手続はない。新設合併消滅株式会社は、株主総会の決議に

よって、新設合併契約等の承認を受けなければならない(会社法804条1項)。

ウ 正しい。吸収合併等の効力は、吸収合併契約等で定めた効力発生日に生じる。ただ

し、債権者保護手続が終了していない場合はその限りではない。

エ 正しい。吸収合併手続における反対株主の株式買取請求の効力は、吸収合併の効力発

生日に生じる。

オ 誤り。新設合併の手続において、反対株主の株式買取請求が可能な場合は、消滅株

式会社等は、株主総会の承認決議の日から2週間以内に株主に対して新設合併をする旨

等の通知をしなければならない。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文問題(合併)。難易度:中。アイウ又はアイオの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第35問 正解2

ア 正しい。仲立人とは他人間の商行為の媒介をすることを業とする者をいう(商法5

43条)。なお、商行為以外の行為の仲立ちであっても、これが営業としてなされれば、

(仲立人の行為ではないが)営業的商行為となる。

イ 誤り。仲立人がその媒介する行為について見本を受け取ったときは、その行為が完

了するまで、これを保管しなければならない(商法545条)。保管に関する報酬を請

求することはできない。

ウ 誤り。仲立人は、当事者の一方の氏名又は名称をその相手方に示さなかったときは、

当該相手方に対して自ら履行をする責任を負う(介入義務。商法549条)。

エ 誤り。仲立人は、その媒介により成立させた行為について、当事者のために支払そ

の他の給付を受けることができない。ただし、当事者間の別段の意思表示又は別段の

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慣習があるときは、この限りではない(商法544条)。

オ 正しい。仲立人の報酬は当事者双方が等しい割合で負担する(商法550条2項)。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文問題(仲立人)。難易度:難。ほとんどの受験生が学習していなかった分野からの

出題であるから難易度を「難」としたが、三毛猫倶楽部の講義ではとりあげており、

アオの正誤の判断で、正解が可能である。

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午後の部(択一式)

午後の部第1問 正解5

ア 誤り。確定した移送の裁判は、移送を受けた裁判所を拘束する(民事訴訟法22条1

項)。移送を受けた裁判所は、更に事件を他の裁判所に移送することができない(2項)。

ただし、いかなる場合でも絶対に移送を認めない趣旨ではなく、移送決定確定後に生じた

新事由に基づく再移送は可能である。例えば、管轄違いによる移送を受けた裁判所が、民

事訴訟法18条(簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認める

ときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判

所に移送することができる。)に基づいて再移送することができる(東京高決昭47.1

0.25、伊藤P97)。

イ 誤り。法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所によ

り、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる

(民事訴訟法4条4項)。外国の団体の普通裁判籍は、日本における事務所等を基準とし

て決定される(伊藤P72)。

ウ 正しい。裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定まる(民事訴訟法15条)。

したがって、訴え提起後に被告が転居しても、土地管轄に変更は生じず、管轄違いによる

移送の決定の効力は妨げられない。

エ 正しい。審級を異にする裁判所が同一の事件についてした判決に対する再審の訴えは、

上級の裁判所が併せて管轄する(法340条2項)。

オ 正しい。簡易裁判所は、その管轄に属する不動産に関する訴訟につき被告の申立てが

あるときは、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければな

らない(2項本文)。ただし、次の各場合は、移送することはできない。

①専属管轄(専属的合意を除く)の場合(民事訴訟法20条1項)

②その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合(民事訴訟法19条2項但書)

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文問題(管轄)。難易度:中。イが外国の社団ということで迷わなければアイの正誤

の判断で、正解が可能である。ウも正しいが、ウが入っている組合せ(1と3)のウ

以外の肢(アイ)は誤りであるから、1及び3は正解にはならない。

午後の部第2問 正解4

ア 誤り。裁判所が当事者の主張しない主要事実を認定してこれに基づいて裁判をするこ

とは、弁論主義に反するのであり、民事訴訟法246条の処分権主義に反するものではな

い。

イ 正しい。原告が求めたものよりも量的に多い判決(原告が求めた以上に原告に有利な

判決)は、民事訴訟法246条の処分権主義に反し、許されない。無条件の給付請求に対

して、条件付判決や(留置権や同時履行抗弁権を認定して)引換給付判決をすることは、

処分権主義に反せず、許される(原告の求めよりも量的に少ない。 判昭33.3.13)。

ウ 誤り。給付訴訟において、確認判決をする等、当事者が申し立てた訴訟類型とは異な

る種類の判決をすることは、民事訴訟法246条に違反し、許されない。

エ 正しい。「150万円を超えて債務は存在しないことの確認」請求に対して、「20

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令和1年度司法書士試験解答解説

0万円を超えて債務は存在しないことの確認」判決をすることは、民事訴訟法246条に

違反せず、許される(原告の求めよりも量的に少ない。)。

オ 誤り。異なる訴訟物についてした判決は、民事訴訟法246条に違反し、許されない。

賃借権に基づく請求権と、占有権に基づく請求権の訴訟物は異なるから、賃借権に基づく

請求を占有権に基づいて認容することは許されない。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文判例問題(処分権主義)。難易度:易。アについて、処分権主義と弁論主義を取り

違えさえしなければ、アイウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第3問 正解2

ア 誤り。原告又は被告が 初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本

案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書

面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができ

る(陳述擬制。民事訴訟法158条)。本肢は「させなければならない」とあるから誤

りである。

イ 正しい。口頭弁論の方式に関する規定の遵守は、調書によってのみ証明することがで

きる。ただし、調書が滅失したときは、この限りでない(民事訴訟法160条3項)。

ウ 正しい。裁判所は、訴訟代理人がある場合であっても、当事者本人又はその法定代理

人に対し、口頭弁論の期日に出頭することを命ずることができる(釈明処分。民事訴訟法

151条1項1号)。

エ 正しい。裁判所は、終結した口頭弁論の再開を命ずることができる(民事訴訟法15

3条)。口頭弁論の再開は裁判所の訴訟指揮権に属するから、当事者の申立てを要しない。

オ 誤り。裁判所は、口頭弁論の制限、分離若しくは併合を命じ、又はその命令を取り消

すことができる(民事訴訟法152条1項)。これは裁判所の裁量により職権で行われる

から、当事者は異議申立権を有しない。

よって、誤っている肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文問題(口頭弁論)。難易度:中。アの「させなければならない」はトリッキーであ

る。口頭弁論の再開や制限等が裁判所の職権事項であり、申立てを要せず、当事者は

不服申立権を有しないことを理解していれば正解できた問題である。

午後の部第4問 正解4

ア 誤り。弁論準備手続においては、証拠調べは文書の証拠調べのみをすることができる

(民事訴訟法170条2項)。当事者尋問をすることはできない。

イ 正しい。証拠調べにおいては、当事者に立会権が認められる。しかし、証拠調べは、

当事者が期日に出頭しない場合においても、することができる(民事訴訟法183条)。

ウ 誤り。証拠の申出は、証拠調べ前であればいつでも撤回することができる。撤回した

場合に本肢のようなペナルティーはない。

エ 誤り。弁論主義のもとでは、証拠調べは当事者の申し出た証拠について行われるのが

原則である。証人尋問はこの原則通り、裁判所が職権ですることはできない。なお、当事

者尋問は職権ですることができる。

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令和1年度司法書士試験解答解説

オ 正しい。当事者本人を尋問する場合において、その当事者が、正当な理由なく、出頭

せず、又は宣誓若しくは陳述を拒んだときは、裁判所は、尋問事項に関する相手方の主張

を真実と認めることができる(民事訴訟法208条)。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★条文問題(証人尋問、当事者尋問)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアイエの正

誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第5問 正解4

ア 誤り。訴訟上の和解をする場合、請求についての訴訟要件の具備を要しない(新堂P

324)。したがって、訴えの利益のない請求に関する和解も有効である。

イ 正しい。訴えの取下げは、書面(取下書)でしなければならない。ただし、口頭弁論、

弁論準備手続又は和解の期日においては、口頭ですることを妨げない(民事訴訟法26

1条3項)。

ウ 誤り。請求の放棄又は認諾は、口頭弁論等の期日においてするのが原則である(民事

訴訟法266条1項)。ただし、請求の放棄又は認諾をする旨の書面を提出した当事者

が口頭弁論等の期日に出頭しないときは、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、

その旨の陳述をしたものとみなすことができる(2項)。

エ 正しい。訴訟上の和解の効力を争う当事者は、和解がなかったものとして、口頭弁論

の期日の指定の申立てをすることができる(大決昭6.4.22、新堂P331)。

オ 誤り。訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続にお

いて申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効

力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、

この限りでない(2項)。却下を求める準備書面は本案についての準備書面ではないか

ら、これが提出された後であっても取下げに被告の同意を要しない。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文判例問題(裁判によらない訴訟の完結)。難易度:易。アエは難問であるが、その

正誤の判断をしなくとも、基本的な条文知識を問うイウの正誤の判断で、正解が可能

である。

午後の部第6問 正解5

ア 誤り。仮処分命令は、権利が条件付又は期限付である場合においても、これを発する

ことができる(民事保全法23条3項、20条2項)。

イ 誤り。金銭債権を保全すべき権利として発せられるのは仮差押命令である。仮の地位

を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫

の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる(民事保全法23条2

項)。

ウ 誤り。保全命令の審理は決定手続であるから、その審理方法は、原則として、口頭弁

論(任意的口頭弁論)、審尋、書面審理のいずれかの方法でする。しかし、仮の地位を定

める仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、

これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての

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令和1年度司法書士試験解答解説

目的を達することができない事情があるときは、この限りでない(民事保全法23条4項)。

口頭弁論の期日を経なければならないわけではないから、本肢は誤りである。

エ 正しい。保全命令の申立てを却下(棄却)する裁判に対しては、債権者は、告知を受

けた日から2週間の不変期間内(注:通常の即時抗告期間は1週間である。)に、即時抗

告をすることができる(民事保全法19条1項)。

オ 正しい。保全命令は、当事者(債権者及び債務者)に送達しなければならない(民事

保全法17条)。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文問題(仮の地位を定める仮処分命令)。難易度:易。超基本的な条文知識を問うア

ウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第7問 正解5

ア 誤り。確定判決と同一の効力を有するもの(民事調停の調停調書が含まれる。)は、

債務名義となる。

イ 誤り。金銭の一定の額の支払い又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の

給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行

に服する旨(執行受諾)の陳述が記載されているもの(執行証書)は、債務名義となる。

「金銭の一定の額の支払い」であるから、本肢のように一定の数額を確認することはで

きないものは債務名義とならない。

ウ 誤り。強制執行は、債務名義又は確定により債務名義となるべき裁判の正本又は謄本

が、あらかじめ、又は同時に、債務者に送達されたときに限り、開始することができる

(民事執行法29条)。執行裁判所の許可により債務者への送達前に強制執行を開始す

ることができる旨の規定はない。

エ 正しい。確定した執行判決のある外国裁判所の判決は、債務名義となる。

オ 正しい。執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者は、財産開示手続の

申立権者である。ただし、仮執行宣言付き判決、損害賠償命令、支払督促(確定判決と

同一の効力を有するものを含む。)、執行証書を有する者(以上、暫定的に執行力が付

与された債務名義を有する者)は除かれる。また、当該執行力のある債務名義の正本に

基づく強制執行を開始することができない場合も除かれる。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文問題(仮の地位を定める仮処分命令)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアイ

ウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第8問 正解3

ア 誤り。司法書士会の会員の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、司法書

士会及びその会員の指導及び連絡に関する事務を行い、並びに司法書士の登録に関する

事務を行うことを目的とするのは、日本司法書士会連合会である(司法書士法62条2

項)。司法書士会は、会員の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指

導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするが(司法書士法52条2項)、登録に

関する事務は行わない。

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令和1年度司法書士試験解答解説

イ 正しい。司法書士会は、所属の会員の業務に関する紛議につき、当該会員又は当事者

その他関係人の請求により調停をすることができる(司法書士法59条)。

ウ 誤り。司法書士は、補助者を置いたときは、遅滞なく、その旨を所属の司法書士会に

届け出なければならない。補助者を置かなくなったときも、同様である(司法書士法施

行規則25条2項)。司法書士会は、この届出があったときは、その旨をその司法書士

会の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に通知しなければならない

(3項)。日本司法書士会連合会に通知するのではないから、本肢は誤りである。

エ 誤り。公共嘱託登記司法書士協会の業務は、その主たる事務所の所在地を管轄する法

務局又は地方法務局の長の監督に属する(司法書士法69条の2第1項)。監督法務局

又は監督地方法務局の長は、協会の業務の適正な実施を確保するため必要があると認め

るときは、いつでも、当該業務及び協会の財産の状況を検査し、又は協会に対し、当該

業務に関し監督上必要な命令をすることができる(2項)。検査は司法書士会がするの

ではないから、本肢は誤りである。

オ 正しい。司法書士会は、所属の会員が、司法書士法又は司法書士法に基づく命令に違

反すると思料するときは、その旨を、その司法書士会の事務所の所在地を管轄する法務

局又は地方法務局の長に報告しなければならない(司法書士法60条)。

よって、正しい肢はイとオであり、3が正解となる。

★条文問題(司法書士会)。難易度:中。あまり出題されない範囲からの出題であったの

で、判断にとまどった受験生が多かったかもしれない。テキストをしっかり読み込ん

でいれば、アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第9問 正解1

ア 正しい。弁済供託の被供託者が供託受諾をすると、供託者は供託物の取戻しをするこ

とができなくなる。被供託者の供託受諾は、供託受諾書(書面)を供託所に提出してする

(供託規則47条)。口頭でしても受諾にならない。

イ 誤り。還付請求権が譲渡され、その譲渡通知書(譲渡人=被供託者によるもの)が供

託所に送達された場合、供託受諾の明示がなくても供託受諾があったとみなされる(昭3

5.5.1民甲17号)。

ウ 正しい。供託受諾は、還付請求権の譲受人、転付債権者、差押債権者(仮差押債権者

は不可)もすることができる。被供託者の一般債権者も債権者代位権を行使してすること

ができる。

エ 誤り。供託受諾は撤回できない(昭37.10.22民甲3044号)。

オ 誤り。留保付払渡請求とは、債権の全額であるとしてなされた供託を、債権の一部で

あるという留保を付したうえで受諾してする払渡請求である。これは認められている(昭

42.1.12民甲175号)。

よって、正しい肢はアとウであり、1が正解となる。

★条文先例問題(弁済供託)。難易度:易。重要な条文又は先例知識を問うアウの正誤の

判断で、正解が可能である。

午後の部第10問 正解5

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令和1年度司法書士試験解答解説

ア 正しい。法令の規定に基づき印鑑を登記所に提出することができる者(法人の代表

者)以外の者(個人)が供託金の払渡しを請求する場合(その額が10万円未満である

場合に限る。)において、支払委託をした官公署の証明書を供託物払渡請求書(当該請

求書に委任による代理人の預金又は貯金に振り込む方法による旨の記載がある場合を

除く。)に添付したときは、供託物払渡請求書又は委任状の押印に関する印鑑証明書の

添付を省略することができる。この規定は個人が払渡請求をする場合のみ適用があり、

法人が払渡請求をする場合は適用されない。

イ 正しい。代理人によって供託物の払渡しを請求する場合には、代理権限証書を供託物

払渡請求書に添付しなければならない。ただし、支配人その他登記のある代理人につい

ては、登記所が作成した代理人であることを証する書面を提示すれば足りる。登記のあ

る代理人の代理権について簡易確認を受けた場合は、提示も要しない(供託規則27条

1項、2項)。

ウ 誤り。債権者不確知を供託原因とする弁済供託に係る供託金の還付請求をする場合、

供託者の承諾書は、還付を受ける権利を有することを証する書面とならない。

エ 正しい。被供託者が反対給付をしなければならないときは、供託物払渡請求書に反対

給付をしたことを証する書面を添付しなければならない(供託規則24条1項2号)。

例えば、反対給付の内容が所有権移転登記の場合は、登記事項証明書がこれにあたる。

オ 誤り。オンラインで供託金又は供託金利息の払渡しの請求をするときは、預貯金振込

みの方法又は国庫金振替の方法によらなければならない(供託規則43条1項)。

よって、誤っている肢はウとオであり、5が正解となる。

★条文問題(弁済供託)。難易度:易。重要な条文知識を問うアイの正誤の判断で、正解

が可能である。

午後の部第11問 正解3

ア 正しい。金銭債権が差し押さえられた場合に第三債務者がする権利供託の供託所は、

債務の履行地の供託所である(民事執行法156条1項)。

イ 誤り。金銭債権が差し押さえられた場合において第三債務者が供託をした場合は、

執行裁判所は配当を行い、供託所に支払委託をするとともに債権者には証明書を交付し、

各債権者は当該証明書を添付して還付請求をして満足を受ける。直接還付請求をするの

ではない。

ウ 正しい。債権の一部が差し押さえられ、第三債務者が債権の全額を供託した場合、差

し押さえられた部分を超える部分の供託は純然たる弁済供託である。弁済供託であるか

ら、供託後に被供託者への通知を要する。

エ 正しい。債権の一部が差し押さえられ、第三債務者が債権の全額を供託した場合、差

し押さえられた部分を超える部分の供託は純然たる弁済供託である。弁済供託であるか

ら、その部分について被供託者(執行債務者)は還付請求をすることができる。

オ 誤り。滞納処分と仮差押えが競合した場合、.仮差押えと滞納処分の先後を問わず、

滞納処分がされた部分を除く部分について、第三債務者は民事保全法50条5項で準用

する民事執行法156条1項により、権利供託をすることができる。この場合、第三債

務者は、滞調法20条の9第1項又は同法36条の12第1項で準用する同法20条の

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令和1年度司法書士試験解答解説

6第1項の規定(滞調法が定める権利供託の規定。仮差押えと滞納処分が競合した場合

は、その前後を問わず、この規定が準用される。)により、債権全額を供託することも

できる。滞調法が定める権利供託の規定により第三債務者が債権全額を供託した場合は、

徴収職員に事情届出をし、徴収職員は裁判所に通知をする。執行裁判所に事情届をする

のではないから、本肢は誤りである。

よって、誤っている肢はイとオであり、3が正解となる。

★条文問題(執行供託)。難易度:易。重要な条文知識を問うアイの正誤の判断で、正解

が可能である。難解なオ(三毛猫倶楽部のテキストで解説をしているが)の正誤の判

断をしなくとも、正解が可能である。

午後の部第12問 正解4

ア 正しい。オンラインで任意代理人によらないで登記を申請する場合は、登記権利者

と登記義務者の双方が申請情報に電子署名をしなければならない。

イ 正しい。電子認証登記所発行の電子証明書を提供した場合は、申請人の会社法人等

番号の提供を省略することができる(不動産登記規則44条2項)。

ウ 誤り。オンライン申請の場合は、登記識別情報の提供はオンラインでする。オンラ

インでの登記識別情報の提供を任意代理人が行うためには、当該代理人が申請人から

登記識別情報を知ることを特に許されているだけでは足りず、登記識別情報の暗号化に

関する一切の権限が委任されていなければならない。

エ 誤り。オンライン申請であっても、登録免許税に係る領収証書を貼付した登録免許税

納付用紙を提出する方法によって、登録免許税の納付をすることができる。

オ 正しい。登記官は、申請を却下するときは、オンライン申請であると書面申請であ

るとを問わず、決定書を作成して、これを申請人ごとに交付する(不動産登記規則3

8条1項)。

よって、誤っている肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文問題(オンライン申請)。難易度:易。オンライン申請に関する重要な条文知識を

問うアイエ又はアイオの正誤の判断で、正解が可能である。難解なウ(三毛猫倶楽部

のテキストで解説をしているが)の正誤の判断をしなくとも、正解が可能である。

午後の部第13問 正解4

ア なり得る。通常、登記済証は相続登記の添付情報とはならないが、住民票の除票の

写しや戸籍の附票が廃棄されていて、被相続人の同一性(戸籍に記載されている者と

登記名義人との同一性)を証することができない場合は、登記済証によって被相続人

の同一性を証することができ、この場合は、登記済証を登記原因証明情報として提供

する。

イ なり得る。被相続人の同一性を証するため、戸籍の附票は相続登記の登記原因証明

情報となり得る。

ウ なり得ない。自筆証書は検認が必要である。検認のない自筆証書は、相続登記の登

記原因証明情報とはなり得ない。

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令和1年度司法書士試験解答解説

エ なり得る。相続登記の登記原因証明情報として提供する欠格を証する情報には、欠格

者の作成した書面(当該欠格者の印鑑証明書の添付を要する)又は確定判決の謄本が

該当する(昭33.1.10民甲4号)。

オ なり得ない。新設合併による所有権移転登記の登記原因証明情報は、合併の記載の

ある新設合併設立会社の登記事項証明書のみが該当する。新設合併契約書では足りな

い。

よって、なり得ない肢はウとオであり、4が正解となる。

★条文先例問題(相続登記又は合併登記の登記原因証明情報)。難易度:易。ウオの書面

が相続登記又は合併登記の登記原因証明情報になり得ないことは、受験生は絶対に知

っていなければならないことである。アは実務的な出題であるが、この正誤の判断が

つかなくとも正解が可能である。

午後の部第14問 正解1

ア 誤り。農地について判決による登記申請をする場合において、判決理由中に農地法許

可済の旨の認定がされているときは、農地法の許可証明情報の提供は要しない。

イ 正しい。農地法の許可を条件として所有権移転登記手続を命ずる判決による所有権移

転登記申請をする場合は、条件付判決であるから、執行文の付与を要する。登記申請の

際は、執行文付きの判決正本を登記原因証明情報として提供し、登記権利者(原告)が

単独で登記を申請することができる。

ウ 誤り。農地について相続人への特定遺贈による所有権移転を申請する場合は、農地法

の許可証明情報の提供は要しない(平24.12.14民二3486号)。

エ 正しい。農地法の許可書の到達前に売主が死亡した場合は、いったん相続登記をして

から、農地法の許可書の到達後に相続人から買主への所有権移転登記をする。それが権

利変動に忠実だからである(昭40.3.30民三309号)。

オ 正しい。買戻権の行使は買戻期間中になされたが、必要な農地法の許可は期間経過後

になされた場合、許可書の到達日を原因日付とする、買戻による所有権移転登記を申請

することができる(昭42.2.8民甲293号)。

よって、誤っている肢はアとウであり、1が正解となる。

★先例問題(農地法の許可)。難易度:易。重要先例の知識を問うアウの正誤の判断で、

正解が可能である。

午後の部第15問 正解3

ア 正しい。農地の所有者が生前に当該農地を売却し、死亡後に農地法の許可があった

場合において、相続財産管理人が当該許可に基づいて所有権移転の登記を申請する場合

は、家庭裁判所の許可のあったことを証する情報の提供を要しない(平3.10.29

民三第5569号)。

イ 誤り。所有者が遺贈する旨遺言し、遺言執行者を指定して死亡したが、相続人が不

存在の場合、相続財産管理人の選任を要せず、遺贈登記は遺言執行者及び受遺者が共同で

申請する(昭15.9.3民事甲1116号)。

ウ 正しい。亡A相続財産とBの共有として登記されている不動産につき、Bが持分を放

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令和1年度司法書士試験解答解説

棄した場合、亡A相続財産への持分移転登記を申請することができる(昭31.6.25

民甲1444号)。

エ 誤り。共有者が相続人なくして死亡した場合、その持分は他の共有者に帰属するが(民

法255条)、他の共有者より特別縁故者が優先するから( 判平1.11.24)、特

別縁故者不存在が確定したときに、当該持分は他の共有者に帰属する。この場合、相続財

産法人から、他の共有者への持分移転登記をする。登記原因は「特別縁故者不存在確定」

であり、日付は、特別縁故者の財産分与の申立ての却下審判が確定した場合は確定日の翌

日である。「確定日」とする本肢は誤りである。

オ 正しい。被相続人の住所が登記記録上の住所から他所に移転していた場合は、相続人

不存在による所有権登記名義人氏名変更登記と併せて所有権登記名義人住所変更登記を申

請する。その場合は、登記原因として、「年月日相続人不存在」のほか、「年月日住所移

転」を提供しなければならない。

よって、誤っている肢はイとエであり、3が正解となる。

★先例問題(相続人不存在)。難易度:易。先例知識を問うウエの正誤の判断で、正解が

可能である。これらを見慣れない先例と感じた受験生がいたかもしれないが、三毛猫

倶楽部では講義で必ず紹介する先例である。アについては、先例を知らなくとも、生

前売買であるから家庭裁判所の許可が不要である点は容易に推認できたであろう。

午後の部第16問 正解4

ア 誤り。本肢の場合は、「委任の終了」を登記原因とするCからBへの持分全部移転登

記を申請する(昭41.4.18民甲1126号)。

イ 正しい。権利能力なき社団・財団は、抵当権の登記名義人となることはできないが、

抵当権の債務者は登記名義人ではないから、権利能力なき社団・財団を債務者として登

記をする(申請情報とする)ことができる(昭31.6.13民甲1317号)。

ウ 誤り。権利能力なき社団の旧代表者名義で所有権の登記がされている不動産を、当該

権利能力なき社団が第三者に譲渡した場合には、いったん、現在の代表者名義に所有権

移転登記をした上で、当該第三者への所有権移転登記をすべきである(平2.3.28

民三1147号)。

エ 正しい。権利能力なき社団である地縁団体が、売買等により不動産を取得した後、所

有権移転登記の申請前に認可地縁団体の認可を受けた場合、いったん代表者の個人名義

にすることなく、直接、認可地縁団体名義に所有権移転登記をすることができる(平1

6.1.21民二145号、登研675号)。

オ 誤り。権利能力なき社団の代表者の名義で所有権の登記がされている不動産について、

当該社団が地方自治法260条の2第1項の認可を受けたので当該認可地縁団体名義へ

の所有権移転登記を登記名義人と当該認可地縁団体が共同で申請する場合の登記原因証

明情報は、同条12項の証明書では足りない。なお、登記名義人が所在不明の場合にお

いて、一定の要件を満たした場合は、証明書を提供して登記権利者たる認可地縁団体が

単独で所有権移転登記を申請することができるとする特例があるが、本肢は共同申請の

場合であるから、当該特例は関係ない。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

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令和1年度司法書士試験解答解説

★先例問題(権利能力なき社団に関する登記)。難易度:易。必ず学習する先例の知識を

問うアイウの正誤の判断で、正解が可能である。オは難解であるが、その正誤の判断

を要しない。

午後の部第17問 正解3

ア 誤り。時効取得による所有権移転登記の原因日付は、時効取得した日、すなわち、起

算日である(時効の効力は、起算日に遡る。)。取得事項の起算日は占有開始日である

が、より正確に言えば、占有開始日の翌日である(判例)。期間の計算において、初日

は算入されないからである。したがって、本肢の登記原因の日付は、「昭和50年1月

2日」となる。

イ 正しい。農地の時効取得には農地法の許可を要しない(昭38.5.6民甲128

5号)。

ウ 誤り。Cの抵当権はDが所有権の登記を受ける前に登記されているからDに対抗す

ることでき、Dへの所有権移転登記によって影響を受けない。また、手続的にも、D

への所有権移転登記の実行によって先順位の抵当権を抹消する旨の規定はないから、

Cの抵当権が職権で抹消されることはない。

エ 正しい。判決による登記申請の登記原因は、登記原因証明情報たる判決正本の主文

に記載があればそれにより、主文に記載がない場合は、判決理由の記載による。理由に

も記載がない場合は、「判決」が登記原因となる。

オ 誤り。Cの抵当権設定登記の抹消を申請する前提として、相続によるDへの抵当権移

転登記を要するかは、Cの抵当権の消滅とCの死亡日の先後による。Cが死亡する前に

Cの抵当権が消滅していたのであれば抵当権移転登記は不要であるし、Cが死亡した後

に抵当権が消滅したのであれば、抹消の前提として抵当権移転登記を要する。したがっ

て、「登記原因がどうあれ」とする本肢は誤りである。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★先例問題(時効取得、判決による登記、抵当権抹消)。難易度:中。アは微妙である。

判例の趣旨によれば日付は占有開始日の翌日であるが争いがある。アを「正しい」と

考えると、アイの組合せ(1)を正解としてしまったであろう。その先まで読めば、

エが正しいのは明らかであるからどうにもならない難問というほどのことでもない。

したがって、難易度を「中」とした。

午後の部第18問 正解5

ア 「地役権」を入れると誤りになるが、「賃借権」を入れると正しくなる。賃借権設定

登記において設定の目的として登記することができるのは、設定の目的が建物の所有で

ある場合に限られる。地役権の設定の目的として「水道管の埋設」と登記することは許

される。

イ 「地役権」を入れると誤りになるが、「賃借権」を入れると正しくなる。地役権設定

登記においては登記名義人が登記されないから、地役権者が住所を移転しても登記名義

人住所変更登記をすることはできない。これに対し、賃借権設定登記においては賃借権

者は登記されるから、その住所変更登記をすることができる。

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令和1年度司法書士試験解答解説

ウ 「賃借権」を入れると誤りになるが、「地役権」を入れると正しくなる。質権は、譲

渡することができるものに限りその目的とすることができるところ、地役権は、要役地

から分離してそれだけを譲渡することはできないから、質権の目的とすることはできな

い。これに対し、賃借権は、賃貸人の承諾があればこれを譲渡することができるから、

質権の目的とすることができ、賃借権を目的とする質権設定登記をすることができる。

エ 「賃借権」を入れると誤りになるが、「地役権」を入れると正しくなる。賃借権設定

の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の登記及び保全仮登記がされている場

合は、仮処分債権者は、当該本登記の申請の際に、単独で後順位の賃借権設定登記の抹

消を申請することができる。これに対し、地役権設定の登記請求権を保全するための処

分禁止の仮処分の登記及び保全仮登記がされている場合は、仮処分債権者は、当該本登

記の申請の際に、単独で後順位の地役権設定登記の抹消を申請することができない。

オ いずれを入れても誤りになる。登記権利者と登記義務者が共同で設定登記の抹消を申

請する場合は、抹消される権利が賃借権であると地役権であるとにかかわらず、登記義

務者の登記識別情報を提供しなければならない。

よって、「賃借権」を入れると誤りになるが、「地役権」を入れると正しくなる肢はウと

エであり、5が正解となる。

★条文問題(賃借権と地役権の登記)。難易度:易。出題形式は独特であるが、問われて

いる内容は基本的な事項である。アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第19問 正解4

ア 誤り。相続財産管理人は処分権限を有しないから、短期賃貸借の期間を超える期間の

賃貸借契約を締結する場合は、家庭裁判所の許可を得なければならない。樹木の栽植又

は伐採を目的とする山林の賃貸借以外の土地の賃貸借の短期賃貸借の期間は 長5年で

あるから、相続財産管理人が存続期間を10年とする賃貸借をするには家庭裁判所の許

可を要し、賃借権設定登記の申請の際、許可があったことを証する情報を提供しなけれ

ばならない。

イ 正しい。事業用定期借地権の存続期間は、借地借家法23条2項のものが10年以上

30年未満であり、同条1項のものが30年以上50年未満であるから、存続期間が6

0年であり、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がない旨の定めのある事

業用建物所有目的の賃借権は、借地借家法22条の定期借地権である。事業用定期借地

権であれば、設定登記の登記原因証明情報は公正証書の謄本でなければならないが、借

地借家法22条の定期借地権の設定登記の登記原因証明情報は、執行力のある判決正本

を提供する場合を除き、借地借家法22条後段の書面がその一部となるが、公正証書の

謄本である必要はない。

ウ 誤り。建物所有を目的とする賃貸借(借地借家法の適用がある。)や、農地又は採草

放牧地の賃貸借(農地法の適用がある。)を除き、賃貸借の存続期間の上限は20年で

ある(民法604条)。したがって、そうした賃借権の設定登記において、存続期間を

30年とすることはできない。

エ 正しい。設定者を共有者とする賃借権の設定登記をすることはできない。なお、建物

所有を目的とする借地権であればこれが可能であるが、本肢の賃借権は借地権ではない。

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令和1年度司法書士試験解答解説

オ 誤り。賃借権登記名義人が登記義務者となる賃借権変更登記(賃借権に不利益な変更

登記)を申請する場合は、後順位の抵当権登記名義人等は登記上の利害関係人にはなら

ない。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文問題(賃借権の登記)。難易度:易。民法等の実体法についての基本的な知識を問

う出題である。アイウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第20問 正解3

ア 誤り。登記記録に記録されている建物の新築年月日前に締結した抵当権の設定契約は

有効であり、当該契約に基づく抵当権設定登記の申請は受理される(昭39.4.6民

甲1291号)。

イ 正しい。連帯債務者の一部について債権譲渡があった場合は、「債権譲渡(連帯債務

者何某にかかる債権)」を登記原因とる抵当権一部移転登記を申請することができる(平

9.12.4民三2155号、登研608号)。

ウ 正しい。同一の抵当権を目的とする数個の転抵当権間の順位変更も認められる(昭5

8.5.11民三2984号)。順位変更によって変更後の順位を同順位とすることも

認められる。

エ 誤り。更改による抵当権の変更登記の登録免許税額は、不動産の個数に1,000円

を乗じた額である。債権者更改の場合であっても同じである。

オ 誤り。抵当権の債務者が外国会社である場合、その本店の所在地のほかに日本におけ

る営業所の所在地を申請情報の内容とする必要はない。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

★先例問題(抵当権の登記)。難易度:易。イの正誤の判断が困難であったとしても(三

毛猫倶楽部ではイの先例を紹介している。)、基本的な先例知識を問うアウの正誤の判

断で、正解が可能である。

午後の部第21問 正解3

ア 誤り。根抵当権設定登記において、根抵当権の共有者間の優先の定めを登記するこ

とはできない。優先の定めは、共有者の登記をした後に、別途、変更登記ですべきで

ある。

イ 正しい。共同根抵当権の減額請求は、共同根抵当権のうちの1個の不動産について

すれば足り、すべての根抵当権について減額の効力が生じる。したがって、設定者が複

数ある場合において、そのうちの一人が減額請求をすれば、共同根抵当権全部の極度額

が減額されることとなる(登研793号P107)。

ウ 誤り。根抵当権の債権の範囲を変更する場合において、減縮が明らかであれば設定者

が登記権利者となり、そうでなければ根抵当権者が登記権利者となる。「証書貸付取引

手形貸越取引」を「銀行取引」に変更することは、減縮が明らかではないから、根抵

当権者が登記権利者となる。

エ 正しい。根抵当権設定契約において、根抵当権者が死亡したときは根抵当権が消滅す

る旨を定めた場合は、根抵当権設定登記において、当該定めを権利消滅の定めとして申

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令和1年度司法書士試験解答解説

請情報とすることができる。この場合、当該定めは付記登記で実行される。

オ 誤り。「年月日リース取引等契約」を根抵当権の債権の範囲とすることができる。こ

れは、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずる債権を担保する場合であり、こ

の場合の契約名は固有名詞であるので、当事者が任意に定めることができる(登研78

6号)。なお、「リース取引」を債権の範囲とすることは認められない。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★条文先例問題(根抵当権の登記)。難易度:易。基本的な民法の知識及び不動産登記の

先例知識を問うアイエの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第22問 正解4

ア 正しい。賃借権設定登記の回復登記においては、賃借権設定登記の登記事項を改めて

登記するから、当該事項を申請情報としなければならない。

イ 正しい。一部抹消回復登記は、付記登記で実行される(不動産登記規則3条3号)。

ウ 誤り。抹消回復登記を申請する場合は、登記上の利害関係人がある場合はその承諾証

明情報を提供しなければならない。抹消当時から存在した者も、原則として、登記上の

利害関係人となる。

エ 誤り。地上権の設定登記の抹消回復登記は、所有権登記名義人が登記義務者となる。

所有権登記名義人が登記義務者となる場合は、その印鑑証明書を提供しなければならな

い。

オ 正しい。抹消回復登記の登録免許税額は、不動産の個数に1,000円を乗じた額で

ある。

よって、誤っている肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文問題(抹消回復登記)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアイエの正誤の判断

で、正解が可能である。

午後の部第23問 正解3

ア 誤り。2号仮登記された所有権移転請求権の確定的処分(売買等)により、第三者

が所有権移転請求権を取得した場合、(仮登記された)所有権移転請求権の移転の登記

(本登記)をする。この登記は、付記登記で実行される。

イ 正しい。2号仮登記された所有権移転請求権の仮定的処分(売買予約等)により、第

三者が所有権移転請求権の移転請求権を取得した場合、(仮登記された)所有権移転請

求権の移転請求権の仮登記をする。この仮登記は、付記登記で実行される。

ウ 誤り。2号仮登記された所有権移転請求権の確定的処分(売買等)により、第三者が

所有権移転請求権を取得した場合、(仮登記された)所有権移転請求権の移転の登記(本

登記)をする。本登記の申請であるから、登記義務者の登記識別情報を提供しなければ

ならない。

エ 誤り。2号仮登記された所有権移転請求権の仮定的処分(売買予約等)により、第三

者が所有権移転請求権の移転請求権を取得した場合、(仮登記された)所有権移転請求

権の移転請求権の仮登記をする。仮登記を申請する場合であっても、登記義務者が所有

権登記名義人又は所有権の仮登記名義人である場合は、その印鑑証明書を提供しなけれ

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令和1年度司法書士試験解答解説

ばならない。

オ 正しい。2号仮登記された所有権移転請求権の確定的処分(売買等)により、第三者

が所有権移転請求権を取得した場合、(仮登記された)所有権移転請求権の移転の登記

(本登記)をする。本登記の申請であるが、所有権移転登記ではなく、請求権の移転登

記であるから、登記権利者の住所証明情報の提供を要しない。

よって、正しい肢はイとオであり、3が正解となる。

★先例問題(仮登記)。難易度:易。仮登記された権利が処分された場合にすべき登記に

関する基本的な知識を問うアイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第24問 正解1

ア 過不足なく掲げられている。一つ又は二つ以上の不動産について抵当権の設定の登

記(前登記)をした後、同一の債権の担保として(追加担保として)抵当権設定登記

を申請するときは、前登記事項として次の情報を申請情報として提供しなければなら

ない(不動産登記令別表55申請情報欄ハ)。

1)申請を受ける登記所に前登記に係る共同担保目録がない場合

a.土地の場合

所在、地番、順位番号

b.建物の場合

所在地番、家屋番号、順位番号

c.不動産番号を提供した場合

前登記がされた不動産の不動産番号(管轄が異なる場合は、管轄登記所の表示も)

を提供した場合は、a.b.の事項のうち所在、地番、家屋番号の提供を省略することがで

きる(不動産登記令6条、規則34条3項)。

2)申請を受ける登記所に前登記に係る共同担保目録がある場合

共同担保目録の記号及び番号(所在等は提供しない。)

本肢の場合、抵当権の追加設定であり、申請を受ける登記所に前登記に係る共同担保目

録があるから、前登記事項として共同担保目録の記号及び番号を提供すれば足りる。

イ 不足がある。本肢の場合、抵当権の追加設定であり、申請を受ける登記所に前登記に

係る共同担保目録がないから、不動産番号を提供しない場合は、前登記に係る不動産の

所在及び地番並びに順位番号を提供しなければならない。本肢は、順位番号が抜けてい

るから誤りである。

ウ 過不足なく掲げられている。共同根抵当権の追加設定登記を申請するときは、前登

記事項として次の情報(申請情報)を提供しなければならない(令別表56申請情報

欄ニ)。

1)申請を受ける登記所に前登記に係る共同担保目録がない場合

a.土地の場合

所在、地番、順位番号

b.建物の場合

所在地番、家屋番号、順位番号

c.不動産番号を提供した場合

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令和1年度司法書士試験解答解説

前登記がされた不動産の不動産番号(管轄が異なる場合は、管轄登記所の表示も)

を提供した場合は、所在、地番、家屋番号の提供を省略することができる(令6条、

規則34条3項)。

2)申請を受ける登記所に前登記に係る共同担保目録がある場合

1)の情報と併せて(普通抵当権と異なる。)、共同担保目録の記号及び番号を提供する。

本肢の場合、根抵当権の追加設定であり、申請を受ける登記所に前登記に係る共同担保

目録があるから、不動産番号を提供しない場合は、前登記に係る不動産の所在及び地番

並びに順位番号と、共同担保目録の記号及び番号を提供しなければならない。

エ 不足がある。本肢の場合、根抵当権の追加設定であり、申請を受ける登記所に前登記

に係る共同担保目録がないから、不動産番号を提供するのであれば、不動産番号に加え

て順位番号を提供しなければならない。本肢は、順位番号が抜けているから誤りである。

オ 不足がある。本肢の場合、根抵当権の追加設定であり、申請を受ける登記所に前登記

に係る共同担保目録があるから、不動産番号を提供しない場合は、前登記に係る不動産

の所在及び地番並びに順位番号と、共同担保目録の記号及び番号を提供しなければなら

ない。本肢は、共同担保目録の記号及び番号が抜けているから誤りである。

よって、過不足なく掲げられている肢はアとウであり、1が正解となる。

★条文問題(抵当権又は根抵当権の前登記事項)。難易度:易。本問の内容は、不動産登

記法の記述式の学習において、必ずおさえなければならないものである。アウの正誤

の判断で、正解が可能である。

午後の部第25問 正解5

ア 誤り。根抵当権者が会社分割をしたので会社分割による根抵当権一部移転登記を申

請する場合、設定者(所有権登記名義人)の承諾証明情報の提供を要しない。根抵当

権の一部譲渡であれば設定者の承諾が効力要件であるが、会社分割においては設定者

の承諾は効力要件ではないからである。

イ 誤り。順位変更登記がなされている場合の利害関係人への該当性は、変更後の順位

によって判断される。本肢の場合、順位変更によってBはCDよりも後順位となった

から、Bの根抵当権の極度額の増額変更にCDの承諾は要しない。

ウ 誤り。地上権者は、土地の所有者の承諾を要せずに、自由に自己が有する地上権を

第三者に譲渡することができる。したがって、地上権移転登記を申請する際、所有権

登記名義人の承諾証明情報の提供を要しない。

エ 正しい。代位申請によってなされた相続登記の更正登記を申請する場合は、代位申

請をした債権者が登記上の利害関係人となり、その承諾証明情報を提供しなければな

らない。

オ 正しい。賃借権の譲渡による移転登記を申請する場合において、当該賃借権の設定

登記に譲渡を許す旨の特約が登記されていない場合は、賃借権移転登記を申請する際、

設定者の承諾があったことを証する情報を提供しなければならない。競売の場合も同

様である。この場合において、設定者の承諾に代わる裁判所の許可(借地借家法20

条)があった場合は、当該許可があったことを証する情報を提供しなければならない。

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令和1年度司法書士試験解答解説

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文問題(承諾証明情報)。難易度:易。実体法(民法、会社法、借地借家法)の知識

であって、受験生がおさえておかなければならない知識を問う出題である。アイウの

正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第26問 正解4

ア 誤り。法定相続情報一覧図つづり込み帳に一覧図がつづり込まれている登記所に相続

登記を申請する場合であっても、戸籍事項証明書の提供を省略するためには、法定相続

情報一覧図の写しを提供しなければならない。

イ 誤り。相続人からする登記識別情報の失効申出の際も、法定相続情報一覧図の写しを

提供することによって、相続があったことを証する情報に代えることができる。

ウ 正しい。法定相続情報一覧図の写しを提供することにより、相続があったことを証す

る市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(戸籍事項証明書)の提供を省略する

ことができる。相続人の廃除は戸籍に記録されるものであるから、廃除の事実を反映し

た法定相続情報一覧図の写しを提供することにより、廃除の記載のある戸籍事項証明書

の提供を省略することができる。

エ 正しい。法定相続情報一覧図の写しに相続人の住所の記載がある場合は、当該写しをも

って住所証明情報に代えることができる(平30.3.29民二166号)。

オ 誤り。法定相続情報一覧図の写しは、あくまで相続があったことを証する市町村長そ

の他の公務員が職務上作成した情報(戸籍事項証明書)を代替するものであり、遺産分

割協議書や相続放棄申述受理証明書等を代替するものではない。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文先例問題(法定相続情報一覧図)。難易度:易。アイを含む1、2、3は容易に切

ることができる。残る4及び5に共通するのはエであるから、ウとオの正誤の判断に

よることとなる。ウの判断が微妙であったとしても、オが誤っていることは明らかで

あるから、正解に到達することが可能である。新しい分野からの出題であるが、新し

い分野であればこそしっかり学習をしておくべきである(三毛猫倶楽部では十分に講

義をしている。)。

午後の部第27問 正解4

ア 正しい。機械器具目録の変更登記を申請する場合は、変更したもの又は新たに工場抵

当の効力が及んだものを機械器具目録に記録するための情報を提供しなければならない

(工場抵当法3条4項、39条)。

イ 正しい。機械器具目録の変更登記を申請する場合は、抵当権者の同意証明情報又はこ

れに代るべき裁判があったことを証する情報を提供しなければならない(工場抵当法3

条4項、38条2項)。

ウ 誤り。機械器具の備付を廃止したときは、工場所有者が登記権利者となり、抵当権者

が登記義務者となって、共同で、工場抵当を普通抵当とする抵当権の変更登記を申請し

なければならない。

エ 誤り。工場財団目録に掲げた事項に変更を生じたときは、所有者は遅滞なく工場財団

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令和1年度司法書士試験解答解説

目録の記録の変更の登記を申請しなければならない(工場抵当法38条1項)。工場所

有者の単独申請であるから、その登記済証又は登記識別情報の提供を要しない。

オ 正しい。工場財団目録に記録された土地を分筆した結果、工場財団に属する土地の形

状及び長さに変更が生じたので、工場財団目録の記録の変更登記を申請する場合は、変

更後の工場図面を提供しなければならない(精義P1441)。

よって、誤っている肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文問題(工場抵当法)。難易度:中。アが正しいことは常識的に分かるであろう。イ

が正しいことは、工場抵当法の学習を少しでもすれば分かることである。すると、1,

2、3が切れて、残りの4と5にはいずれもエが含まれているからウとオの判断で決

まるところ、工場抵当法を学習すればウが誤っていることは分かる。また、オが正し

いことも常識的に分かるであろう。したがって、学習をした人にとっては決して難問

ではない(三毛猫倶楽部ではこの範囲もしっかり講義をしている。)。一般に学習が薄

くなっている分野であると思われるので、難易度を「中」とした。

午後の部第28問 正解3

ア 正しい。募集設立で、設立時募集株式の募集事項を発起人の全員の同意で定めた場合

において、設立時募集株式に引受けが未了のものが存在する場合であっても、出資され

た財産の価額が定款に定めた設立に際して出資される財産の 低額を下回らない場合

は、募集する設立時募集株式の数を発起人の全員の同意で変更することにより、再度引

受人の募集をせずに設立登記を申請することができる。

イ 誤り。発起設立の設立時取締役は、発起人の議決権の過半数で選任するが、定款で定

めた場合は選任があったものとみなされる。株式会社の設立登記を申請する場合は設立

時取締役の就任承諾書を添付しなければならないが、定款で定められた取締役が発起人

である場合は、当該発起人が当該定款に署名又は記名押印しているから、それが就任の

承諾を証する書面となる。発起人以外の第三者は、定款に署名又は記名押印しないから、

別途、就任承諾書を添付しなければならない。

ウ 正しい。定款に株主名簿管理人を置く旨の定めがある場合は、株主名簿管理人を具体

的に定めなければならない。設立時においては、定款又は発起人の過半数の一致で定め

る。設立時取締役に定める権限はない。したがって、定款で株主名簿管理人を定めてい

ない場合は、設立登記の申請書には株主名簿管理人の決定に係る発起人の過半数の一致

があったことを証する書面と株主名簿管理人との契約書を添付する。

エ 誤り。株式会社が設立と同時に支店を設置した場合において、当該支店が本店所在地

の管轄登記所の管轄区域外にある場合は、本店所在地において設立登記をしてから2週

間以内に、直接、当該支店所在地において設立登記を申請しなければならない。本店所

在地の管轄登記所を経由して申請するのではない。

オ 正しい。発起人の資格について制限はない。成年被後見人も発起人になることができ

る。この場合は、成年後見人が成年被後見人に代わって定款に署名又は記名押印するこ

ととなる。

よって、誤っている肢はイとエであり、3が正解となる。

★条文問題(株式会社の設立登記)。難易度:易。基本的な条文知識を問うイエの正誤の

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令和1年度司法書士試験解答解説

判断で、正解が可能である。アの出題は舌足らずの感があるが、正解に到達すること

の妨げになるものではない。

午後の部第29問 正解2

ア 正しい。株式会社の取得請求権付株式の取得には財源規制がかかる。ただし、取得

請求権付株式の取得と引換えに当該株式会社の株式を交付する場合は、財源規制にか

からない。引換えに新株予約権を交付する場合は財源規制にかかるから、取得請求権

付株式株式の取得と引換えにする新株予約権の発行登記の申請書には、一定の分配可

能額の存在を証する書面を添付しなければならない。

イ 誤り。株式会社は、株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の特別

決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない(会社法180条2項)。

①併合の割合

②効力発生日

③株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類

④効力発生日における発行可能株式総数

したがって、効力発生日における発行可能株式総数を定めないで、発行可能株式総数

の変更登記を申請することはできない。

ウ 誤り。1株1議決権に反する定めは株主平等原則に反し、そうした内容を種類株式

の内容とすることはできない。なお、非公開会社においては、議決権について株主ご

とに内容を異とする属人的定めをすることができるが、本肢の株式会社は公開会社で

あるから、そうした定めは許されない。

エ 正しい。単元株式数は定款で定めるべき事項であるから、本来、その変更・廃止は

株主総会における定款変更決議ですべきであるが、単元株式数の減少・廃止は議決権

の増加をもたらすものなので、株主総会の決議を要せず、取締役会設置会社の場合は

取締役会の決議で決定することができる。

オ 誤り。株券を発行する旨の定めの廃止登記を申請する場合において、現実に株券を

発行していたため株券廃止公告をした場合は株券廃止公告をしたことを証する書面を添

付し、現実に株券を発行していなかったため株券廃止公告をしなかった場合は、株式の

全部について株券を発行していないことを証する書面を添付する。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★条文問題(株式の登記)。難易度:易。基本的な条文知識を問うアウの正誤の判断で、

正解が可能である。

午後の部第30問 正解3

ア 誤り。一般に、基準日公告をしたことを証する書面は、添付書面にはならない。

イ 正しい。株主割当ての方法により募集株式を発行する株式会社は、株主(割当てを受

ける種類株主)に申込期日の2週間前までに、募集事項、割当てを受ける数(種類及び数)、

申込期日を通知しなければならない(会社法202条4項)。募集事項等の決定と、申

込期日との間に2週間ない場合は、期間短縮に関する(種類)株主全員の同意書が添付

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令和1年度司法書士試験解答解説

書面となる。

ウ 誤り。募集株式の発行手続において、引受人からの相殺は禁止される(会社法208

条3項)。

エ 正しい。募集株式と引換えにする金銭の払込みが定められた払込期日前に行われても、

それは払込証拠金と扱われ、払込期日に払込金に充当される。したがって、払込期日前の

払込みは変更登記の申請に支障を来さない。

オ 誤り。株主割当ての方法により募集株式を発行する株式会社は、株主(割当てを受け

る種類株主)に申込期日の2週間前までに、募集事項、割当てを受ける数(種類及び数)、

申込期日を通知しなければならない(会社法202条4項)。この通知をしたことを証す

る書面は、添付書面にはならない。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★条文問題(株主割当てによる募集株式の発行による変更登記)。難易度:易。基本的な

条文知識を問うアイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第31問 正解1

ア 正しい。新株予約権行使の目的たる株式の種類及び種類ごとの数を、例えば、A種類

株式1株B種類株式2株と定めることができる(ハンドブック第3版P317)。

イ 正しい。新株予約権証券を発行する旨は、新株予約権の登記事項ではない。

ウ 誤り。金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは

(現物出資)、その旨並びに当該財産の内容及び価額が新株予約権の内容となる。これ

は登記事項であるから、新株予約権の発行登記の申請書に記載しなければならない。

エ 誤り。株式会社が自己新株予約権を取得しても、当該新株予約権は消滅しない。

オ 誤り。行使不能(どの者との関係においてもおよそ新株予約権として行使できなくな

ること)になった新株予約権は消滅する。全部の新株予約権が消滅した場合はその旨の

登記を申請する。添付書面は、規定がないので、委任状以外は不要である。

よって、正しい肢はアとイであり、1が正解となる。

★条文問題(新株予約権の登記)。難易度:易。基本的な条文知識を問うイウの正誤の判

断で、正解が可能である。多少厄介な感のあるアオの判断は不要である。

午後の部第32問 正解5

ア 誤り。新株発行無効の判決が確定した場合、裁判所書記官がその旨の登記を嘱託する。

新株発行無効の判決が確定しても、資本金の額は減少しない(会社計算規則48条2項1

号)。

イ 誤り。合同会社の資本金の額の減少は、業務執行社員の過半数の一致で決定するから、

業務執行社員全員の同意書ではなく、業務執行社員の過半数の一致があったことを証する

書面が添付書面となる。

ウ 誤り。吸収分割株式会社は吸収分割に併せて分割対価である吸収分割承継株式会社の

株式を配当財産とする剰余金の配当をすることができるが(人的分割)、これをしたから

と言って、資本金の額が当然に減少するわけではないから、資本金の額の減少登記をしな

ければならないとは限らない。

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令和1年度司法書士試験解答解説

エ 正しい。合同会社が会社成立後に加入した社員の出資により資本金の額を増加する場

合において、当該出資が現物出資である場合は、変更登記の申請書に資本金の額が会社法

及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面を添付しなければならない

(商業登記規則61条5項)。

オ 正しい。株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、効力発

生日前後で資本金の額の減少がない場合は、株主総会の決議を要しない(会社法447条

3項、448条3項)。しかし、債権者保護手続は要するから、変更登記の申請書には債

権者保護手続をしたことを証する書面を添付しなければならない。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文問題(株式会社又は合同会社の資本金の額の登記)。難易度:中。なじみの薄い分

野からの出題であるから、とまどった受験生が多かったかもしれない。三毛猫倶楽部

の受講生であれば、アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第33問 正解5

ア 正しい。株式会社の 初の清算人の登記の申請書には、選任方法にかかわらず、定款

を添付しなければならない。裁判所が選任した場合は選任決定書も添付しなければならな

い。

イ 正しい。裁判所が選任した清算人であっても辞任することができる。辞任登記は、辞

任を証する書面を添付して、清算株式会社が申請する。

ウ 誤り。清算株式会社の株主総会は、裁判所が選任した者を除き、普通決議によりいつ

でも清算人を解任することができる。裁判所が選任した清算人を株主総会で解任すること

はできない。

エ 正しい。裁判所が選任した清算人につき、裁判所がその選任決定を取り消すと、当該

清算人は退任し、登記記録は閉鎖される。その後に残余財産があることが判明し、裁判所

が別の清算人を選任した場合は清算人就任登記をすることとなるが、その登録免許税は、

清算に関する事項の変更として申請1件につき6,000円である。

オ 誤り。裁判所が清算人を選任した場合は、代表清算人の選定は、必要に応じて裁判所

が行う。定款の定めにしたがって清算人が互選することはできない。

よって、誤っている肢はウとオであり、5が正解となる。

★条文問題(清算人の登記)。難易度:中。アイの正誤の判断で、正解が可能である。イ

については、何が問われているのか深読みすると判断にとまどうかもしれないが、普

通に考えれば正しい肢であることがわかる。エについては見たことも聞いたこともな

い受験生がほとんどであったろうが、その判断をしなくても正解は可能である。

午後の部第34問 正解3

ア 誤り。定款が電磁的記録で作成された場合に、本肢のような方法で作成した書面を当

該電磁的記録に代えることはできない。

イ 正しい。持分会社の社員の加入は、定款に別段の定めがない限り、総社員の同意によ

り行う。定款の別段の定めとして、代表社員の同意で足りる旨の定めは有効である。この

場合の社員の加入による変更登記の申請書には、定款と代表社員の同意書を添付する。

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令和1年度司法書士試験解答解説

ウ 誤り。持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合又はある社員の終身の間持分会

社が存続することを定款で定めた場合には、各社員は、事業年度の終了の時において退社

をすることができる(任意退社)。この場合においては、各社員は、6か月前までに持分

会社に退社の予告をしなければならない。任意退社に総社員の同意は要しない。また、退

社に係る定款変更は擬制されるから、定款変更のための総社員の同意も要しない。したが

って、総社員の同意書は添付書面にはならない。

エ 誤り。清算持分会社においては、定款の定めにかかわらず、社員の死亡又は合併の場

合は当然に一般承継人が持分を承継する。社員の死亡による相続人の加入の登記をする実

益はないので、その登記をする必要はない(昭29.4.12民甲770号)。

オ 正しい。持分会社は、存続期間の満了等の自律的解散事由によって解散した場合には、

清算が結了するまで、社員の全部又は一部の同意によって、会社を継続することができる。

同意しなかった社員は、持分会社が継続することとなった日に、退社する(会社法642

条)。この場合は、継続登記のほか、社員の退社登記も申請しなければならない。

よって、正しい肢はイとオであり、3が正解となる。

★条文問題(合名会社又は合資会社の登記)。難易度:難。オが正しいことは分かるとし

て、そうすると、後はイエの判断である。ともにあまりなじみのない論点であるから、

解答に苦労した受験生が多かったろう。

午後の部第35問 正解5

ア 誤り。定款で主たる事務所の具体的な所在場所を定めなかったときは、設立時社員の

過半数の一致でこれを定める。株式会社の場合は発起人の過半数の一致で定めるが、一般

社団法人においては発起人は存在しないから、株式会社において発起人が定めるべき事項

は設立時社員が定めることとなる。設立時理事は、本店の所在場所を決定する権限を有し

ない。

イ 誤り。一般財団法人が公益認定を受けた場合にする名称変更登記の申請書には、委任

状のほか、公益認定書謄本を添付すれば足りる。議事録の添付は要しない。

ウ 正しい。一般社団法人の定款には、公告方法の定めを記載(記録)しなければならな

い。会社の場合は、定めがなければ公告方法が官報となったが、それとは異なる。

エ 誤り。一般財団法人は、解散前において監事は必須機関であるから監事設置法人であ

る旨は登記しないが、清算中は任意機関であるから、監事を置く場合は監事設置法人であ

る旨の登記をする。解散前から在任していた監事は、一般財団法人が解散しても退任しな

い。したがって、その退任登記と後任者の就任登記をしなければならないわけではない。

オ 正しい。合併をする法人が一般社団法人のみである場合の存続法人又は設立法人は一

般社団法人に限られ、合併をする法人が一般財団法人のみである場合の存続法人又は設立

法人は一般財団法人に限られる。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★条文問題(一般社団法人又は一般財団法人の登記)。難易度:中。オが正しいことは分

かるはずである。すると、後はアウの判断である。この分野の学習を少しでもしてい

ればウが正しいことがわかり正解に到達するだろう。アについても、株式会社とパラ

レルに考えれば、設立時理事に本店所在場所を決定する権限がないことに思い至るだ

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令和1年度司法書士試験解答解説

ろうからやはり正解が可能である。見たことも聞いたこともないであろうイの判断は

不要である。

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令和1年度司法書士試験解答解説

午後の部第36問解説

1平成31年1月25日に申請した登記について

1)実体関係

甲山一郎を所有権登記名義人とする甲区分建物(敷地権の目的である土地は二筆であり、

乙土地の敷地権は所有権、丙土地の敷地権は賃借権である。)に、順位1番で株式会社ひ

だまり銀行を登記名義人とする抵当権の設定登記がされ、順位2番で株式会社つぼみ銀行

を登記名義人とする根抵当権の設定登記がされていた。

生じた権利変動(2番根抵当権に関するものを除く。)を時系列で表すと次のとおりで

ある。

平成24年7月21日、甲山一郎が死亡し、甲山友子と甲山大介がこれを相続した(第

一の相続)。甲山友子と甲山大介の相続分(持分)は、各2分の1である。

平成24年8月13日、1番抵当権の被担保債権が弁済され、1番抵当権は消滅した。

平成30年2月12日、甲山友子が死亡し、甲山大介がこれを相続した(第二の相続)。

これにより、甲区分建物は甲山大介の単有に属した。

2)すべき登記

1番抵当権抹消登記は 低限しなければならない登記である。加えて、弁済により1番

抵当権が消滅する前に第一の相続が開始しているから、少なくとも、第一の相続について

の相続登記をしなければならない。加えて、甲区分建物の売却の準備をしているというか

ら、所有権登記名義人を現在の所有者の名義にする必要があり、結局、第二の相続につい

ての相続登記もしなければならない。

甲区に関する登記を先に申請し、その後に乙区に関する登記を申請するから、平成31

年1月25日に申請した登記を申請順に表すと次のとおりとなる。

①相続登記(第一の相続)

②相続登記(第二の相続)

③1番抵当権抹消

3)事前通知

1番抵当権抹消登記を申請するためには、登記義務者である株式会社ひだまり銀行の登

記識別情報(登記済証)を提供しなければならない。1番抵当権設定当時(平成5年)は、

オンライン指定を受けた登記所は存在しなかったから、株式会社ひだまり銀行が交付を受

けたのは登記済証である。したがって、株式会社ひだまり銀行の登記済証を提供しなけれ

ばならないが、「必要な書類を紛失した。事前通知の方法が必要だ」とあるから、紛失し

たのは株式会社ひだまり銀行の登記済証である。正当な理由により(紛失も正当な理由で

ある。)登記識別情報(登記済証)を提供することができない場合、登記官は、原則とし

て、登記義務者等に対して、登記申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料

するときは法務省令で定める期間(通知を発送した日から2週間。ただし、登記義務者等

が外国に住所を有する場合には、4週間)内にその旨の申出をすべき旨を通知しなければ

ならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、

当該申請に係る登記をすることができない。

したがって、第1欄(1)に解答する内容は、「登記官から登記義務者である株式会社

ひだまり銀行に対して、登記申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料する

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令和1年度司法書士試験解答解説

ときは2週間内にその旨の申出をすべき旨を通知する」である。

4)事前通知に代わる手続

本来、事前通知を要する場合であっても、次のいずれかに該当する場合は、事前通知は

なされない。

①申請を却下すべき場合

②資格者代理人が本人確認情報を提供して登記官がこれを相当と認めた場合

③公証人が必要な認証を行って登記官がこれを相当と認めた場合

したがって、第1欄(2)に解答する内容は「資格者代理人が本人確認情報を提供する

方法と、公証人が必要な認証を行う方法」である。

5)相続登記(第一の相続)

a.登記の目的

「所有権移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成24年7月21日相続」である。日付は、甲山一郎の死亡日である。

c.申請人

相続人甲山友子と甲山大介を記載する。「相続人」と表示する。被相続人甲山一郎を

括弧書きする。登記名義人となる者が複数であるから、持分(各2分の1)を記載する。

甲山友子は申請時において死亡しているから「亡」を冠記する。相続登記は、共有物の

保存行為として共同相続人のうち一部の者のみが申請人となることができるから、甲山

大介が全員のために申請人になったこととなる。そのことを明らかにするため、甲山大

介に「(申請人)」を冠記する。

d.添付情報

a)登記識別情報(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、登記識別情報の提供は要しない。

b)登記原因証明情報

甲山一郎の法定相続人を特定するこができる戸籍の全部事項証明書、戸籍謄本、除

籍謄本及び改製原戸籍謄本(以上ア)及び被相続人甲山一郎の同一性を証する情報(戸

籍に記載されている被相続人と登記名義人を関連付ける情報)として甲山一郎の住民

票の除票の写し(ウ)を登記原因証明情報として提供する。

c)印鑑証明書(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、印鑑証明書の提供は要しない。

d)住所証明情報

所有権移転登記の申請であるから、登記名義人となる者の住所証明情報を提供する。

具体的には、甲山友子の住民票の除票の写し(エ)と、甲山大介の住民票の写し(オ)

を提供する。

e)代理権限証明情報(不問)

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、申請人である甲山大介の委任状を提供

する(本問では不問)。

e.登録免許税

敷地権付区分建物に対してする所有権移転登記は敷地権の登記の効力もあるから、敷

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令和1年度司法書士試験解答解説

地権の登記の登録免許税も納付する。甲区分建物の相続登記の登録免許税額は、区分建

物の価格(金450万円)に1,000分の4を乗じた「金1万8,000円」である。

乙土地の敷地権(所有権)の相続登記の登録免許税額は、移転した持分(=敷地権の割

合)の価格(金384万円)に1,000分の4を乗じた額(金1万5,360円)で

あり、丙土地の敷地権(賃借権)の相続登記の登録免許税額は、移転した持分(=敷地

権の割合)の価格(金180万円)に1,000分の2を乗じた額(金3,600円)

であり、敷地権の登記の登録免許税の合計額は、「金1万8,960円」である。以上

により、登録免許税の合計額は、「金3万6,900円」である(下二桁切り捨て)。

6)相続登記(第二の相続)

a.登記の目的

「甲山友子持分全部移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成30年2月12日相続」である。日付は、甲山友子の死亡日である。

c.申請人

相続人甲山大介を記載する。「相続人」と表示する。被相続人甲山友子を括弧書きす

る。所有権の一部(持分)の移転であるから、持分(2分の1)を記載する。

d.添付情報

a)登記識別情報(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、登記識別情報の提供は要しない。

b)登記原因証明情報

甲山友子の法定相続人を特定するこができる戸籍の全部事項証明書、戸籍謄本、除

籍謄本及び改製原戸籍謄本(以上イ)及び被相続人甲山友子の同一性を証する情報(戸

籍に記載されている被相続人と登記名義人を関連付ける情報)として甲山友子の住民

票の除票の写し(エ)を登記原因証明情報として提供する。

c)印鑑証明書(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、印鑑証明書の提供は要しない。

d)住所証明情報

所有権移転登記の申請であるから、登記名義人となる者の住所証明情報を提供する。

具体的には、甲山大介の住民票の写し(オ)を提供する。

e)代理権限証明情報(不問)

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、申請人である甲山大介の委任状を提供

する(本問では不問)。

e.登録免許税

敷地権付区分建物に対してする所有権移転登記は敷地権の登記の効力もあるから、敷

地権の登記の登録免許税も納付する。甲区分建物の相続登記の登録免許税額は、移転し

た持分(2分の1)の価格(金225万円)に1,000分の4を乗じた「金9,00

0円」である。乙土地の敷地権(所有権)の相続登記の登録免許税額は、移転した持分

(=敷地権の割合に2分の1を乗じた割合)の価格(金192万円)に1,000分の

4を乗じた額(金7,680円)であり、丙土地の敷地権(賃借権)の相続登記の登録

免許税額は、移転した持分(=敷地権の割合に2分の1を乗じた割合)の価格(金90

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令和1年度司法書士試験解答解説

万円)に1,000分の2を乗じた額(金1,800円)であり、敷地権の登記の登録

免許税の合計額は、「金9,480円」である。以上により、登録免許税の合計額は、

「金1万8,400円」である(下二桁切り捨て)。

7)1番抵当権抹消

a.登記の目的

「1番抵当権抹消」である。

b.登記原因及びその日付

「平成24年8月13日弁済」である。当事者は「解除」と称しているが、弁済によ

って抵当権が消滅しているから、登記原因は「弁済」である。日付は弁済日である。

c.申請人

所有権登記名義人甲山大介(甲山大介は、前件申請に係る登記によって所有権登記名

義人となっている。)が登記権利者となり、1番抵当権の登記名義人株式会社ひだまり

銀行が登記義務者となって、共同で申請する。申請人が会社法人等番号を有する法人の

場合は、本来、その会社法人等番号を記載し、申請人が法人の場合は、本来、代表者の

資格・氏名を記載するが、本問ではこれらの記載を要しない。

d.登記済証を提供することができない理由

正当な理由により登記識別情報を提供できない場合は、その理由を申請情報として提

供する。本問の場合は「紛失」と記載する。登記識別情報であれば「失念」であるが、

登記済証は紙実体であるから、「紛失」が相当である。

e.添付情報

a)登記済証(提供不要)

本申請の場合は、正当な理由により登記済証を提供することができないから、提供

を要しない。

b)解除証書

1番抵当権の弁済による消滅を証する別紙2の解除証書(シ)を登記原因証明情報

として提供する。

c)印鑑証明書

本来、登記義務者が抵当権登記名義人であるから登記義務者の印鑑証明書の提供を

要しないが、本申請の場合は登記済証を提供しないから、登記義務者である株式会社

ひだまり銀行の代表者の印鑑証明書(ケ)を提供しなければならない。

d)会社法人等番号

申請人が会社法人等番号を有する法人である場合は、会社法人等番号を提供する。

本申請の場合は、株式会社ひだまり銀行の会社法人等番号(ツ)を提供する。

e)代理権限証明情報(不問)

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、甲山大介と株式会社ひだまり銀行の代

表者の委任状を提供する(本問では不問)。

f.登録免許税

抹消登記の登録免許税は、不動産の個数に1,000円を乗じた額である。ただし、

不動産の個数が20個を超えた場合は2万円である。敷地権付区分建物の場合は、抵当

権の効力の及んでいる敷地権の分も個数に含ませる。賃借権には抵当権の効力は及ばな

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令和1年度司法書士試験解答解説

いから、本申請の不動産の個数は甲区分建物と乙土地の敷地権の二個であり、登録免許

税額は「金2,000円」である。不動産の価額が課税標準とはならないから、解答欄

の「建物」と「敷地権」の欄には「なし」と記載する。

2平成31年4月5日に申請した登記について

1)実体関係

生じた権利変動又は登記事項の変更(平成31年1月25日に申請した登記に関するも

のを除く。)を時系列で表すと次のとおりである。

平成30年9月3日、2番根抵当権の登記名義人である株式会社つぼみ銀行が本店を移

転した。

平成31年3月18日、2番根抵当権の極度額が増額された。極度額の変更には利害関

係人がある場合はその承諾を要するが、2番根抵当権の極度額の増額には利害関係人が存

在しないから承諾は要しない。

平成31年3月21日、甲区分建物(敷地権付)について売買契約が締結され、所有権

の移転日は代金全額が支払われた日と定められた。残代金は平成31年4月5日に支払わ

れたから、同日、甲区分建物及びこれと一体化した敷地権は甲山大介から有限会社KM設

計に移転した。この売買は、特例有限会社(株式会社)とその取締役間の取引であるから

利益相反行為であり、会社の承認を要するところ、必要な第三者の承諾は申請日までに得

られている(事実関係に関する補足3)。売買後に会社の承認があったのであっても、利

益相反行為の承認の効力は遡及するから日付に影響を与えるものではない。

2)すべき登記

2番根抵当権の極度額変更登記の前提として、本店移転による2番根抵当権登記名義人

住所変更登記を申請しなければならない。申請時点における2番根抵当権登記名義人であ

る株式会社つぼみ銀行の住所(本店)と、登記記録上の住所が一致していなければならな

いからである。

複数の登記は登記の日付順に申請するから、平成31年4月5日に申請した登記を申請

順に表すと次のとおりとなる。

①2番根抵当権登記名義人住所変更

②2番根抵当権変更(極度額増額)

③所有権移転

3)敷地権に関する登記の申請の要否

敷地権付区分建物については、区分建物と敷地権の分離処分が禁止される。したがって、

例えば区分建物を売却する場合は敷地権も共に売却しなければならない。しかし、登記は

区分建物についてのみすれば足りる。区分建物についてした登記は敷地権の登記としての

効力も有するからである。この旨を第3欄に記載する。

4)2番根抵当権登記名義人住所変更

a.登記の目的

「2番根抵当権登記名義人住所変更」である。

b.登記原因及びその日付

「平成30年9月3日本店移転」である。

c.変更後の事項

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令和1年度司法書士試験解答解説

「変更後の事項 本店 名古屋市中区神戸三丁目1番地」である。

d.申請人

登記名義人である株式会社つぼみ銀行の単独申請である。申請人が会社法人等番号を

有する法人の場合は、本来、その会社法人等番号を記載し、申請人が法人の場合は、本

来、代表者の資格・氏名を記載するが、本問ではこれらの記載を要しない。

e.添付情報

a)登記原因証明情報

本店移転を証する公務員が職務上作成した情報を提供する。具体的には、A株式会

社の登記事項証明書が該当するが、株式会社つぼみ銀行の会社法人等番号(テ)の提

供により提供を省略することができる。

b)会社法人等番号

申請人が会社法人等番号を有する法人である場合は、会社法人等番号を提供する。

本申請の場合は、株式会社ひだまり銀行の会社法人等番号(テ)を提供する。この提

供により、登記原因証明情報の提供を省略することができる(既述)。

c)代理権限証明情報(不問)

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、株式会社つぼみ銀行の代表者の委任状

を提供する(本問では不問)。

f.登録免許税

変更登記の登録免許税額は、不動産の個数に1,000円を乗じた額である。敷地権

付区分建物の場合は、抵当権の効力の及んでいる敷地権の分も個数に含ませる。賃借権

には抵当権の効力は及ばないから、本申請の不動産の個数は甲区分建物と乙土地の敷地

権の二個であり、登録免許税額は「金2,000円」である。不動産の価額が課税標準

とはならないから、解答欄の「建物」と「敷地権」の欄には「なし」と記載する。

5)2番根抵当権変更(極度額増額)

a.登記の目的

「2番根抵当権変更」である。利害関係人がある場合は必ずその承諾を要し、その承

諾証明情報が、付記登記でするための登記上の利害関係人の承諾証明情報を兼ねるから、

必ず付記登記で実行される。したがって、「(付記)」の記載は不要である。

b.登記原因及びその日付

「平成31年3月18日変更」である。

c.変更後の事項

「変更後の事項 極度額 金2,000万円」と記載する。

d.申請人

極度額の増額変更であるから、根抵当権登記名義人である株式会社つぼみ銀行が登記

権利者となり、所有権登記名義人甲山大介が登記義務者となって、共同で申請する。申

請人が会社法人等番号を有する法人の場合は、本来、その会社法人等番号を記載し、申

請人が法人の場合は、本来、代表者の資格・氏名を記載するが、本問ではこれらの記載

を要しない。

e.添付情報

a)登記識別情報

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令和1年度司法書士試験解答解説

共同申請であるから、登記義務者甲山大介が平成31年1月25日に申請した登記

の完了後に通知を受けた登記識別情報(キ)を提供する。

b)登記原因証明情報

極度額の変更を証する根抵当権変更契約書(別紙4、ス)を提供する。

c)承諾証明情報(不要)

本申請の場合は、利害関係人は存在しないので、その承諾証明情報の提供は要しな

い。

d)印鑑証明書

所有権登記名義人が登記義務者となる場合であるから、登記義務者甲山大介の印鑑

証明書(ク)を提供する。

e)会社法人等番号

申請人が会社法人等番号を有する法人である場合は、会社法人等番号を提供する。

本申請の場合は、株式会社ひだまり銀行の会社法人等番号(テ)を提供する。

f)代理権限証明情報(不問)

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、甲山大介と株式会社つぼみ銀行の代表

者の各委任状を提供する(本問では不問)。

f.登録免許税

変更登記の登録免許税額は、本来、不動産の個数に1,000円を乗じた額であるが、

極度額の増額変更の場合は、差額(500万円)が課税価格となり、これに1,000

分の4を乗じた「金2万円」が登録免許税額となる。不動産の価額が課税標準とはなら

ないから、解答欄の「建物」と「敷地権」の欄には「なし」と記載する。

6)所有権移転(売買)

a.登記の目的

「所有権移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成31年4月5日売買」である。日付は、残代金が支払われて所有権が移転した

日である。

c.申請人

買主の有限会社KM設計が登記権利者となり、売主(所有権登記名義人)の甲山大介

が登記義務者となって、共同で申請する。申請人が会社法人等番号を有する法人の場合

は、本来、その会社法人等番号を記載し、申請人が法人の場合は、本来、代表者の資格

・氏名を記載するが、本問ではこれらの記載を要しない。

d.添付情報

a)登記識別情報

共同申請であるから、登記義務者甲山大介が平成31年1月25日に申請した登記

の完了後に通知を受けた登記識別情報(キ)を提供する。

b)登記原因証明情報

売買による所有権移転を証する売買契約書(別紙6、セ)と、代金全額の支払いの

事実を証する受取証書(解答欄には、「ソ(代金全額の支払いの事実を証するもの)

と記載する。)を提供する。これら2点に代えて、報告形式のものを1通作成したと

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令和1年度司法書士試験解答解説

して、「ソ(売買の事実を証するもの)」と解答してもよい。

c)承諾証明情報

本申請に係る売買は有限会社KM設計にとって利益相反行為にあたるので、その承

認があったことを証する情報(解答欄には、「タ(有限会社KM設計のもの)」と記

載する。)を提供する。

d)印鑑証明書

所有権登記名義人が登記義務者となる場合であるから、登記義務者甲山大介の印鑑

証明書(ク)を提供する。

e)住所証明情報

所有権移転登記であるから、登記権利者である有限会社KM設計の住所証明情報を

提供するが、有限会社KM設計の会社法人等番号(ナ)を提供するから(下記)、現

実の提供を省略することができる。

f)会社法人等番号

申請人が会社法人等番号を有する法人である場合は、会社法人等番号を提供する。

本申請の場合は、有限会社KM設計の会社法人等番号(ナ)を提供する。

g)代理権限証明情報(不問)

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、甲山大介と有限会社KM設計の代表者

の各委任状を提供する(本問では不問)。

e.登録免許税

敷地権付区分建物に対してする所有権移転登記は敷地権の登記の効力もあるから、敷

地権の登記の登録免許税も納付する。甲区分建物の売買による所有権移転登記の登録免

許税額は、区分建物の価格(金450万円)に1,000分の20を乗じた「金9万円」

である。乙土地の敷地権(所有権)の売買による移転登記の登録免許税額は、移転した

持分(=敷地権の割合)の価格(金384万円)に1,000分の20を乗じた額(金

7万6,800円)であり、丙土地の敷地権(賃借権)の売買による移転登記の登録免

許税額は、移転した持分(=敷地権の割合)の価格(金180万円)に1,000分の

10を乗じた額(金1万8,000円)であり、敷地権の登記の登録免許税の合計額は、

「金9万4,800円」である。以上により、登録免許税額の合計額は、「金18万4,

800円」である。

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令和1年度司法書士試験解答解説

午後の部第37問解説

1役員変更

設問会社の定款には、取締役の任期を選任後2年以内に終了する事業年度のうち 終の

ものに関する定時株主総会の終結の時までとする定めがある。監査役の法定任期は、選任

後4年以内に終了する事業年度のうち 終のものに関する定時株主総会の終結の時まであ

る。設問会社の定款にも同様の定めがある。設問会社の変更前の事業年度は毎年10月1

日から9月30日までであったから、当初、取締役全員の任期は、令和1年9月30日を

末日とする事業年度に関する定時株主総会の終結の時に、監査役Pの任期は令和3年9月

30日を末日とする事業年度に関する定時株主総会の終結の時に満了すべきであったが、

平成30年11月20日に開催された臨時株主総会において、事業年度が毎年2月1日か

ら1月31日までに変更された。事業年度の変更によって在任中の役員の任期は変更され

るから、取締役全員の任期は、平成31年1月31日を末日とする事業年度に関する定時

株主総会の終結の時に、監査役Pの任期は令和3年1月31日を末日とする事業年度に関

する定時株主総会の終結の時に満了することとなった(監査役の任期は、後に前倒しにな

る。後記)。

同じ臨時株主総会において、取締役Hが選任され、選任日に就任承諾が得られている。

ところで、設問会社の株主総会の決議要件については定款に定足数軽減規定がないから、

議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席が必要となると

ころ、当該選任決議の直前に株主Dが退席し、株主ABEのみが残ったから定足数を満た

したかが問題となる。設問会社の発行済株式の総数1000株のうち、ムーン株式会社が

有する150株は相互保有株式に該当するため議決権を有しない。したがって、議決権総

数は850個であり、その過半数は425個である。ABEの保有株式数は500株であ

り、その議決権数は500個であるから定足数を満たしており決議に瑕疵はない。選任は

吸収合併を停止条件とするものであるから、吸収合併の効力が生じた平成31年1月1日

に取締役Hが就任したこととなる。

代表取締役たる取締役Aが、任期満了前の平成30年12月20日に死亡した。これに

よりAは、取締役としても代表取締役としても死亡により退任したこととなる。

平成30年12月25日に開催された取締役会において、代表取締役Bが選定され、B

は席上就任を承諾した。したがって、平成30年12月25日、代表取締役Bが就任した

こととなる。

以上の役員変更事項をまとめると、次のとおりとなり、その登記を申請することとなる。

平成30年12月20日代表取締役たる取締役A死亡

平成30年12月25日代表取締役B就任

平成31年1月1日取締役H就任

【添付書面】

「死亡届」又は「戸籍事項証明書」※Aの死亡を証するために添付する。

「株主総会議事録」※取締役Hの選任を証するため、平成30年11月20日に開催さ

れた臨時株主総会の議事録を添付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※登記すべ

き事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合又は登記すべき事項

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令和1年度司法書士試験解答解説

につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合は、この書面の添付を要す

る。

「取締役会議事録」※代表取締役Bの選定を証するため、平成30年12月25日に開

催された取締役会の議事録を添付する。

「就任承諾書」※取締役Hの就任承諾書を添付する。代表取締役Bの就任の承諾を証す

る書面については、取締役会議事録の記載を援用する。

「印鑑証明書」※設問会社のような取締役会設置会社においては、再任を除き、代表取

締役の就任承諾書の押印に関する印鑑証明書の添付を要する。代表取締役Bは再任では

ないから、その印鑑証明書を添付する。また、設問会社のような取締役会設置会社にお

いては、変更前の代表取締役が届出印で押印している場合を除き、代表取締役の選定に

関する取締役会議事録の押印について出席取締役及び出席監査役の印鑑証明書の添付を

要する。本問では、変更前の代表取締役Aが取締役会議事録に押印していないから、取

締役会に出席した取締役BFの印鑑証明書を添付する。以上により、BFの印鑑証明書

を添付する。

「本人確認証明書」※取締役、監査役又は執行役の就任(再任を除く。)による変更登

記の申請書には、これらの者の就任承諾書に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住

所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(本人確認証明書)

を添付しなければならない。ただし、その者の印鑑証明書を添付する場合はこの限りで

はない。本問では、取締役Hは再任ではなく、その印鑑証明書を添付しないから、その

本人確認証明書を添付する。

2株式の分割

設問会社の平成30年11月13日に開催された取締役会で、株式の分割を決定してい

る。分割内容は、株式1株を2株に分割するものである。すなわち、株式1株に1株を交

付するものである(発行済株式の総数は2倍になる。)。基準日は平成30年12月30

日であり、効力発生日は平成30年12月31日である。

取締役会設置会社の株式の分割は、取締役会の決議で決定すべきところ、取締役会の決

議に瑕疵はない。

基準日を定めた場合は、定款で定めた場合を除き、2週間前までに公告をしなければな

らない(基準日公告)。基準日公告は平成30年12月10日行われているから適法に公

告がなされている。

本問では、株式の分割によって端数は生じない。

よって、効力発生日の平成30年12月31日に新株1000株が発行され、発行済株

式の総数が2000株に変更されたこととなる。変更後の発行済株式の総数は発行可能株

式総数を超過しないから、株式の分割による変更登記を申請することができる。

【添付書面】

「取締役会議事録」※株式の分割の決定を証するため、平成30年11月13日に開催

された取締役会の議事録を添付する。

3発行可能株式総数の変更

株式の分割を決定した取締役会で、株式の分割と併せて発行可能株式総数を増加する定

款変更がなされている。発行可能株式総数は定款記載事項であるからその変更には原則と

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令和1年度司法書士試験解答解説

して株主総会の特別決議を要するが、株式の分割と併せてする場合で、①現に二種類以上

の株式を発行しておらず、②発行可能株式総数の増加割合が株式の分割による発行済株式

の総数の増加割合以下の場合は、株主総会の決議を要せず、取締役の過半数の一致(非取

締役会設置会社の場合)又は取締役会の決議(取締役会設置会社の場合)ですることがで

きる。設問会社は、現に二種類以上の株式を発行しておらず、発行可能株式総数の増加割

合は株式の分割による発行済株式の総数の増加割合以下であるから、この定款変更は有効

である。この定款変更は、株式の分割の効力が生じることを停止条件としているから、株

式の分割の効力が生じた平成30年12月31日に発行可能株式総数が8000株に変更

され、その登記を申請することとなる。

【添付書面】

「取締役会議事録」※定款変更を証するため、平成30年11月13日に開催された取

締役会の議事録を添付する。

4吸収合併

1)概要

設問会社(スター株式会社)とムーン株式会社との間で、吸収合併契約が締結されてい

る。契約の内容の要点は次の通りである。

設問会社が吸収合併存続会社となり、ムーン株式会社が吸収合併消滅会社となるもので

ある。

合併対価として、吸収合併存続会社である設問会社の株式が、吸収合併消滅会社である

ムーン株式会社の株主に対して、その所有する株式1株に対して3株の割合で割り当てら

れる。吸収合併消滅株式会社の自己株式及び吸収合併消滅株式会社が有する吸収合併存続

株式会社の株式に対しては合併対価は交付されないから、合併対価の交付の対象となる株

式はHIが有する70株であり、合併対価として設問会社の新株210株が発行されHI

に交付される。また、吸収合併に際して、設問会社の資本金の額が1億円増加される。

吸収合併の効力発生日は、平成31年1月1日である。

以上の吸収合併契約の内容は、有効である。

【添付書面】

「吸収合併契約書」

「登記事項証明書」※吸収合併消滅会社の本店が吸収合併存続会社の本店所在地の管轄

登記所の管轄区域内にない場合は、その登記事項証明書を添付する。ただし、会社法人

等番号を提供すれば省略することができる。ムーン株式会社の本店は設問会社の本店所

在地の管轄登記所の管轄区域内になく、設問に会社法人等番号の提供による添付書面の

省略をしないとあるので、ムーン株式会社の登記事項証明書を添付する。

2)株主総会の承認決議

吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅株式会社は、原則として、それぞれ効力発生日

の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない。

この決議は、原則として、特別決議で行う。

本問では、設問会社とムーン株式会社それぞれの株主総会において、吸収合併契約の承

認がなされている。

【添付書面】

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令和1年度司法書士試験解答解説

「株主総会議事録」※平成30年11月20日開催された設問会社とムーン株式会社の

それぞれの株主総会の議事録を添付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※設問会社

とムーン株式会社のそれぞれの株主リストを添付する。

3)債権者保護手続

吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅株式会社の債権者は、吸収合併について異議を

述べることができる。したがって、吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅株式会社は、

債権者保護手続をしなければならない。債権者保護手続を要する場合は、債権者に対して

官報で公告し、かつ各別に催告をしなければならない。異議申述期間は1か月を下るこ

とができない。ただし、官報と併せて会社の公告方法である日刊新聞紙又は電子公告で

公告をした場合は、各別の催告は要しない。

設問会社及びムーン株式会社は、それぞれ平成30年11月21日に定款で定めた公告

方法(官報)によって公告を行い、かつ、知れている債権者全員に対して各別の催告を行

った。異議を述べた債権者はいずれもいなかった。したがって、両社とも、適法に債権者

保護手続をしたこととなる。

【添付書面】

「公告及び催告をしたことを証する書面」※設問会社及びムーン株式会社それぞれが公

告と催告をしたことを証する書面を添付する。

4)株券提供公告

吸収合併消滅株式会社が株券発行会社であって、現実に株券を発行している場合は、効

力発生日の1か月前までに株券提供公告を要する。本問では、ムーン株式会社は株券発行

会社ではないから、株券提供公告は要しない。

【添付書面】

※株券発行会社でなければ、株券提供公告をしたことを証する書面と株券を発行してい

ないことを証する書面のいずれも要しない。

5)新株予約権証券提供公告

吸収合併消滅株式会社が新株予約権証券を発行している場合は、効力発生日の1か月前

までに新株予約権証券提供公告を要する。本問では、ムーン株式会社は新株予約権を発行

していないから、新株予約権証券提供公告は要しない。

【添付書面】

※新株予約権を発行していなければ、新株予約権証券提供公告をしたことを証する書面

と新株予約権証券を発行していないことを証する書面のいずれも要しない。

6)効力発生

吸収合併の効力は、吸収合併契約で定められた効力発生日に生じる。ただし、債権者保

護手続が終了していない場合は、この限りではない。

本問では、債権者の異議申述期間は効力発生日前に満了しているから、吸収合併契約で

定めた効力発生日である平成31年1月1日に吸収合併の効力が生じ、ムーン株式会社は

解散して消滅し、設問会社については次の変更が生じたこととなる。

発行済株式の総数

2000株(株式の分割によって変更されている。)+210株=2210株

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令和1年度司法書士試験解答解説

資本金の額 金4億円+1億円=金5億円

【添付書面】

「資本金の額が会社法の規定に従って計上されたことを証する書面」※組織再編におけ

る株式会社については、「及び会社計算規則」の記載は要しない。

「登録免許税法施行規則第12条第5項の規定に関する証明書」

5すべき登記・経由同時申請

会社が吸収合併をした場合は、吸収合併存続会社は吸収合併による変更登記(吸収合併

をした旨その他変更事項の登記)をし、吸収合併消滅会社は吸収合併による解散登記をす

る。

吸収合併消滅会社の本店所在地における解散登記は、吸収合併存続会社の本店所在地に

おける変更登記と同時に、吸収合併存続会社の本店所在地の管轄登記所を経由して申請し

なければならない。

設問会社(吸収合併存続会社)は、吸収合併による変更登記のほか、代表取締役たる取

締役の死亡の登記、取締役及び代表取締役の就任登記、株式の分割による変更登記、発行

可能株式総数の変更登記を申請する。

本問で、第1欄への解答が求められているのは、東京法務局港出張所(設問会社の本店

所在地の管轄登記所)に対する申請であり、それは設問会社の上記各登記の申請である。

6設問会社が平成31年1月7日に申請した登記の申請書

1)登記の事由

「取締役及び代表取締役の変更

発行可能株式総数の変更

株式の分割

吸収合併による変更」と記載する。

2)登記すべき事項

区ごとのまとめて次のとおり記載する。

「平成30年12月20日代表取締役たる取締役A死亡

平成30年12月25日次の者就任

さいたま市浦和区戊町1番地

代表取締役 B

平成31年1月1日次の者就任

取締役 H

(以上が役員区の記録事項である。)

平成30年12月31日変更

発行可能株式総数 8000株

同日変更

発行済株式の総数 2000株

平成31年1月1日変更

発行済株式の総数 2210株

資本金の額 金5億円

(※以上が株式・資本区の記録事項である。)

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令和1年度司法書士試験解答解説

同日東京都品川区丙町1番地ムーン株式会社を合併

(※以上が、吸収合併をした旨であり、会社履歴区に記録される。)」

3)登録免許税額

吸収合併による変更登記の登録免許税額は、課税標準金額(増資額=1億円)に1,0

00分の1.5を乗じた額である。ただし、吸収合併消滅会社の合併直前の資本金の額と

して財務省令で定めるものを超過する額に対応する部分については、1,000分の7で

ある。これによって計算した税額が3万円に満たないときは、申請件数1件につき3万円

である(登録免許税法別表第一、24(1)ヘ)。「吸収合併消滅会社の合併直前の資本

金の額として財務省令で定めるものを超過する額」は、合併対価が吸収合併存続株式会社

の株式以外の場合に発生する。本問では、合併対価はすべて設問会社の株式であるから、

登録免許税額は、1億円に1,000分の1.5を乗じた額であり、15万円である。役

員変更登記の登録免許税額は、申請1件につき3万円である。ただし、資本金が1億円以

下の会社については1万円である(カ)。設問会社の資本金の額は1億円を超えているか

ら3万円である。発行可能株式総数の変更、株式の分割による変更の各登記の登録免許税

額はその他変更として申請1件につき3万円である(ツ)。以上の合計額の「金21万円」

が登録免許税額である。

4)添付書面

吸収合併消滅会社の手続を証する書面も吸収合併存続会社の変更登記の申請書に添付す

る。

a.吸収合併契約書

1通添付する。

b.株主総会議事録

設問会社の吸収合併契約の承認及び取締役の選任を証する平成30年11月20日付

けの株主総会の議事録を1通、ムーン株式会社の同日付けの株主総会の議事録を1通、

計2通添付する。

c.株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)

設問会社とムーン株式会社のそれぞれの株主リストを各1通計2通添付する。

d.取締役会議事録

株式の分割の決定及び発行可能株式総数の変更を証するため、設問会社の平成30年

11月13日付けの取締役会の議事録を1通、代表取締役の選定をする設問会社の平成

30年12月25日付けの取締役会の議事録を1通、計2通添付する。

e.公告及び催告をしたことを証する書面

債権者保護手続関係書面として、設問会社とムーン株式会社それぞれが公告をしたこ

とを証する書面と催告をしたことを証する書面を添付する。合計4通添付する。異議を

述べた債権者はいないから、その旨を記載する。

f.資本金の額が会社法の規定に従って計上されたことを証する書面

1通添付する。

g.登録免許税法施行規則第12条第5項の規定に関する証明書

1通添付する。

h.登記事項証明書

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令和1年度司法書士試験解答解説

ムーン株式会社の登記事項証明書を1通添付する(上記参照)。

i.死亡届(又は戸籍事項証明書)

Aの死亡を証するため、1通添付する。

j.就任承諾書

取締役Hの就任承諾書を1通添付する。代表取締役Bの就任の承諾を証する書面につ

いては、取締役会議事録の記載を援用するから、その旨を記載する。

k.印鑑証明書

BFの印鑑証明書を、各1通計2通添付する(上記参照)。

l.本人確認証明書

取締役Hの本人確認証明書を、1通添付する(上記参照)。

m.委任状

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、1通添付する。

7株主リストの内容(第2欄の解答)

第1欄の登記の申請書に添付した株主リスト(設問会社とムーン株式会社の各株主リス

ト)に記載すべき株主の氏名又は名称の解答が求められている。株主総会に関する株主リ

ストに記載する株主の氏名又は名称は、総株主の議決権(当該決議において行使すること

ができるものに限る。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上

位となる株主であって、10名又はその有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順

次加算し、その加算した割合が3分の2に達するまでの人数のうちいずれか少ない人数の

株主の氏名又は名称である。すると、次のとおりである。

設問会社(スター株式会社):ムーン株式会社の株式は相互保有株式であって議決権が

ないから、これを除く850個の議決権の3分の2は567個であり、上位3名の株主(A

BC)の有する議決権(600個)で3分の2を超えるから、ABCを記載する。

ムーン株式会社:自己株式(5株)は議決権を有しないから、これを除く95個の議決

権の3分の2は64個であり、上位2名の株主(HI)の有する議決権(70個)で3分

の2を超えるから、HIを記載する。

8機関設計の変更

設問会社が、平成31年3月28日に開催された定時株主総会で、監査役の監査の範囲

を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止し、会計監査人を置く旨の定款変更

を決議している。したがって、平成31年3月28日に、監査役の監査の範囲を会計に関

するものに限定する旨の定款の定めを廃止し、同日会計監査人設置会社の定めを設定した

旨の登記を申請する。

【添付書面】

「株主総会議事録」※平成31年3月28日に開催された設問会社の株主総会の議事録

を添付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※設問会社

の株主リストを添付する。

9役員変更(2回目)

事業年度の変更により、設問会社の取締役BFの任期は、平成31年1月31日を末日

とする事業年度に関する定時株主総会(平成31年3月28日に開催された定時株主総会)

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令和1年度司法書士試験解答解説

の終結の時に満了すべきところ、取締役Fが任期中に補助開始の審判を受けて、平成31

年3月5日に取締役を辞任した。被補助人であることは取締役の欠格事由ではないから、

補助開始の審判を受けただけでは取締役を退任しないが、自ら取締役を辞任したのである。

これにより取締役会設置会社の取締役の 低人数(3名)を下回ることになるからFは権

利義務承継取締役となる。設問会社の定款には、補欠又は増員の取締役についての任期短

縮規定はないから、取締役Hの任期は、令和2年1月31日を末日とする事業年度に関す

る定時株主総会の終結の時に満了する。その後、上記定時株主総会において取締役JKが

選任され、被選任者は選任日に就任を承諾したから、取締役JKが就任したこととなる。

この時点で、設問会社の取締役はHJKの3名であり、取締役の定数が回復され、辞任又

は任期満了退任した取締役の退任登記をすることができることとなる。

代表取締役Bは、取締役を任期満了退任した平成31年3月28日代表取締役を資格喪

失退任した。同日開催された取締役会において、代表取締役Kが選定され、Kは席上就任

を承諾したから同日代表取締役Kが就任したこととなる。

監査役Pの任期は令和3年1月31日を末日とする事業年度に関する定時株主総会の終

結の時に満了することとなった(上記)。しかし、上記定時株主総会において、監査役の

監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止した。監査役の監査の

範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止すると、定款変更の効力が生

じた時に監査役の任期が満了する。したがって、本問では、平成31年3月28日に監

査役Pが任期満了退任したこととなる。後任者が就任しなければ、Pは権利義務承継監

査役となるが、当該定款変更を決議した定時株主総会において、後任の監査役にQが選

任され、就任を承諾したから、Pは権利義務承継監査役にはならない。

設問会社は会計監査人設置会社となったから、会計監査人を選任しなければならない

ところ、上記定時株主総会においてR監査法人が会計監査人に選任され、就任を承諾し

たから、平成31年3月28日に会計監査人R監査法人が就任したこととなる。会計監

査人は、公認会計士又は監査法人でなければならないところ、R監査法人は監査法人で

あるからこの点問題ない。

以上の役員変更事項をまとめると、次のとおりとなり、その登記を申請することとなる。

平成31年3月5日取締役F辞任

平成31年3月28日取締役B任期満了退任

同日取締役J、同K就任

同日代表取締役B資格喪失退任

同日代表取締役K就任

同日監査役P任期満了退任

同日監査役Q就任

同日会計監査人R監査法人就任

【添付書面】

「定款」「株主総会議事録」※取締役及び監査役の任期満了退任時期並びに取締役、監

査役及び会計監査人の選任を証するために設問会社の定時株主総会の議事録を添付す

る。本来、役員等の任期満了退任の登記を申請する場合は定款を添付するが、改選の際

の株主総会議事録に、任期満了退任した旨の記載があれば定款の添付を要しない。定款

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令和1年度司法書士試験解答解説

又は株主総会の決議で任期を短縮した場合や非公開会社において定款で任期を伸長した

場合も同様である。上記定時株主総会の議事録にはそうした記載がないから、定款を添

付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※登記すべ

き事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合又は登記すべき事項

につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合は、この書面の添付を要す

る。

「取締役会議事録」※代表取締役の選定を証するために添付する。取締役及び監査役の

全員が出席したとあるから、出席取締役はHJKであり、出席監査役はQである。

「就任承諾書」※取締役JK、監査役Q、会計監査人R監査法人の就任承諾書を添付す

る。代表取締役Kの就任の承諾を証する書面については取締役会議事録の記載を援用す

る。

「印鑑証明書」※設問会社のような取締役会設置会社においては、再任を除き、代表取

締役の就任承諾書の押印に関する印鑑証明書の添付を要する。代表取締役Kは再任では

ないから、その印鑑証明書を添付する。また、設問会社のような取締役会設置会社にお

いては、変更前の代表取締役が届出印で押印している場合を除き、代表取締役の選定に

関する取締役会議事録の押印について出席取締役及び出席監査役の印鑑証明書の添付を

要する。本問では、変更前の代表取締役Bが届出印で押印していないから、取締役会に

出席した取締役HJKと監査役Qの印鑑証明書を添付する。以上により、HJKQの印

鑑証明書を添付する。

「本人確認証明書」(不要)※取締役、監査役又は執行役の就任(再任を除く。)によ

る変更登記の申請書には、これらの者の就任承諾書に記載した氏名及び住所と同一の氏

名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(本人確

認証明書。当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなけ

ればならない。ただし、その者の印鑑証明書を添付する場合はこの限りではない。本問

では、就任した取締役JKと監査役Qは再任ではないが、その印鑑証明書を添付するか

ら、その本人確認証明書の添付を要しない。

「登記事項証明書」(不要)※就任した会計監査人が法人の場合は、申請する登記所の

管轄区域内に当該法人の主たる事務所があるか、又は申請書に会社法人等番号を記載し

た場合を除き、当該監査法人の登記事項証明書を添付しなければならない。本問では、

就任したR監査法人の主たる事務所が申請する登記所の管轄区域内にあるから、登記事

項証明書の添付は要しない(会社法人等番号の記載も要しない。)。

10助言の理由(第4欄の解答)

設問会社が上記定時株主総会において、会計監査人設置会社の定めを設定し、監査役の

監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止し、会計監査人を選任す

る議案を追加したのおは司法書士法務直子の助言によるものである。その理由が問われて

いる。平成31年3月28日の定時株主総会において確定する設問会社の貸借対照表にお

いて資本金の額が5億円となり、これにより設問会社は大会社となる。大会社は会計監査

人を置かなければならない。会計監査人を置くためには、業務監査権のある監査役、監査

等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかを置かなければならない。そこで、

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令和1年度司法書士試験解答解説

会計監査人設置会社の定めを設定し、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する

旨の定款の定めを廃止し、会計監査人を選任する議案の追加を助言したのである。この旨

を第4欄に記載する。

11すべき登記

取締役の辞任、取締役及び監査役の任期満了退任、代表取締役の資格喪失退任、取締役、

代表取締役、監査役及び会計監査人の就任、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限

定する旨の定款の定めの廃止、会計監査人設置会社の定め設定の各登記を申請する。

12設問会社が平成31年4月8日に申請した登記の申請書

1)登記の事由

「取締役、代表取締役、監査役及び会計監査人の変更

監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め廃止

会計監査人設置会社の定め設定」と記載する。

2)登記すべき事項

区ごとにまとめて、下記のとおり記載する。

「平成31年3月5日取締役F辞任

平成31年3月28日取締役B、監査役P任期満了退任

同日代表取締役B資格喪失退任

同日次の者就任

取締役 J

取締役 K

千葉市中央区乙町1番地

代表取締役 K

監査役 Q

会計監査人 R監査法人

同日監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め廃止

(※以上が役員区の記録事項である。)

同日会計監査人設置会社の定め設定

(※会社状態区の記録事項である。)」

3)登録免許税

会計監査人設置会社の定め設定登記の登録免許税額は、その他変更の税区分(登録免許

税法別表第一、24(1)ツ)に該当するので、申請1件につき3万円である。取締役、

代表取締役、監査役及び会計監査人の変更登記と監査役の監査の範囲を会計に関するも

のに限定する旨の定款の定め廃止登記の登録免許税は、役員変更登記の税区分に該当し、

申請1件につき3万円である。ただし、資本金が1億円以下の会社については1万円であ

る(カ)。設問会社の資本金の額は1億円を超えているから3万円である。以上の合計額

「金6万円」が登録免許税額である。

4)添付書面

a.定款

役員の任期満了退任登記に関し、1通添付する。

b.株主総会議事録

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令和1年度司法書士試験解答解説

定款変更並びに取締役、監査役及び会計監査人の選任を証するため、定時株主総会の

議事録を1通添付する。

c.株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)

上記定時株主総会に関する株主リストを1通添付する。

d.取締役会議事録

代表取締役の選定を証するため、1通添付する。

e.辞任届

Fの辞任届を、1通添付する。

f.就任承諾書

取締役J、取締役K、監査役Q、会計監査人R監査法人の就任承諾書を各1通計4通

添付する。代表取締役Kの就任の承諾を証する書面については取締役会議事録の記載を

援用する。

g.印鑑証明書

HJKQの印鑑証明書を、各1通計4通添付する(上記参照)。

h.委任状

司法書士三毛猫太郎の代理権を証するため、1通添付する。

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令和1年度司法書士試験解答解説

令和1年度司法書士試験講評

●午前の部

○憲法全般 難易度:易(難易度維持)

憲法の学習において、必ず学習すべき事項のみの出題である。したがって、通常の受験

勉強によって解答可能なものであった。

○民法全般 難易度:易(難易度下落)

民法の学習において、必ず学習すべき事項のみの出題である。三毛猫倶楽部の受講生で

あれば、民法を全問正解しても不思議ではない。難易度は難易度が下落した昨年からさ

らに下落したものと思われる。

○刑法全般 難易度:易(中)(難易度維持)

全部の判例を知らなくとも、2,3の判例の知識によって正解が可能である。例年見ら

れる「聞いたことのない判例」は出題されなかった。難易度は昨年と変わらないものと

思われる。

○商法全般 難易度:中(難易度維持)

概ね条文知識を問うものであった。それでも、かなり細部の知識を問うものが目立った

し、捨て問と言ってよい問題(第35問)があった。だが、これらのことは昨年も言っ

たことであり、難易度は昨年と変わらないものと思われる。第35問を捨て問と言った

が、もはや捨て問とは言えず、商法の商行為の箇所は、近年出題されたもの「以外」を

おさせておくことが他の受験生に差を付けることにつながると思う。三毛猫倶楽部では

既にそのことを実践している。

●午後の部

○民事訴訟法全般 難易度:中(難易度維持)

条文知識を問うものが主であったが、問題文がトリッキーであったり、条文に直接書い

てない事項(なになには職権で事項であり、申立てが不要で不服申立ができない等)の出

題があったりして解答にとまどった受験生が多かったことがうかがえる。難易度が上昇し

た昨年と比べると、難易度は同程度であった。

○民事保全法・民事執行法全般 難易度:易(難易度維持)

基本的な条文知識を問うものばかりであり、昨年及び一昨年同様、解答は容易であった。

○司法書士法全般 難易度:中(難易度上昇)

あまり出題されない範囲からの出題であり、正解率は下がったものと思われる。三毛猫

倶楽部のテキストを読み込んでいれば、十分正解は可能であった。

○供託法全般 難易度:易(難易度維持)

昨年同様、通常の学習によって確実に得点できる出題であった。三問とも、二つの肢の

正誤の判断のみで解答できるものであり、その意味でも解答は容易であった。

○不動産登記法(択一式)全般 難易度:易(難易度維持)

学習をしてさえいれば、決して解けない問題はなかった。昨年は、普段あまり目にしな

いような事項を問う肢が目立ち、一昨年との比較で難易度が上昇したが、その昨年の問

題も肢を切ることで正解が可能であるものがほとんであったから、その意味では、難易

度は変わらないか、いっくぶん容易化したものと思われる。

○商業登記法(択一式)全般 難易度:易(中)(難易度上昇)

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令和1年度司法書士試験解答解説

第33問を除いては、通常の受験勉強によって解答可能なものであったが、問題文をし

っかり読み込まずに誤解をしてしまうと思わぬ減点につながる出題であった。

○不動産登記法(記述式) 難易度:易(難易度下落)

昨年は大変素直な出題となり難易度が下落したが、今年は、素直な出題である点は昨年

と変わらず、しかも問題の情報量も大した量ではないので、一段と難易度が下落した感が

ある。粛々と申請書を書けば合格点到達が可能な出題であった。

○商業登記法(記述式) 難易度:易(難易度下落)

合併対価が吸収合併消滅株式会社の自己株式と吸収合併消滅株式会社が有する吸収合併

存続株式会社の株式には割り当てられない点をおさえていない場合は、吸収合併によって

発行される株式の数を誤ってしまう。ただ、株式の分割は吸収合併の効力発生前であるか

ら、吸収合併による発行済株式の総数の変更を誤っても他への波及効果はない。その他、

難しい論点もなく、解答すべき量も近年の試験と比べればさほど多くなく、気抜けするほ

ど易しい問題であった。あきらかに昨年よりも難易度は下落した。

●全体の講評

択一式については、午前の部は、民法の容易化が顕著であったため、全体としては昨年

より難易度が下落したものと思われる。午後の部は、不動産登記法の難易度がいくぶん下

落した反面、商業登記法の難易度がいくぶん上昇したので、全体として昨年並みであった

と思われる。

記述式については、不動産登記法も商業登記法もくせのないストレートな出題であり、

例年以上に「書けた」受験生が多かったものと思われる。

以上により、合格ラインは上昇するものと思われる。

なお、解説の執筆においては、毎年同じことを言っているのであるが、択一式について

は三毛猫倶楽部のテキストからの引用、記述式については三毛猫倶楽部の答練の解説から

の引用でほとんど間に合った。当講座の講義・教材は、他校と比較した場合、コマ数もテ

キストのページ数も少ないが、そのコンパクトな中に合格に必要な情報がフルにつまって

いることの自負を深めた次第である。三毛猫倶楽部のテキストや答練をきっちりやること

が合格につながることは明らかである。