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「繊維型DNAチップを利用した 遺伝子検査・診断トータルシステムの開発」 評価用資料 平成20年12月19日 経済産業省製造産業局繊維課 三菱レイヨン株式会社 東洋紡績株式会社 第2回繊維分野におけるエネルギー 使用合理化技術開発プロジェクト 事後評価検討会 資料5-2

「繊維型DNAチップを利用した 遺伝子検査・診断トータル ......「繊維型DNAチップを利用した 遺伝子検査・診断トータルシステムの開発」

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「繊維型DNAチップを利用した 遺伝子検査・診断トータルシステムの開発」

評価用資料

平成20年12月19日

経済産業省製造産業局繊維課

三菱レイヨン株式会社

東洋紡績株式会社

第2回繊維分野におけるエネルギー

使用合理化技術開発プロジェクト

事後評価検討会

資料5-2

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目 次

1.事業の目的・政策的位置付け

1-1 事業の目的………………………………………………………………1

1-2 国の関与の必要性………………………………………………………2

1-3 政策的位置付け…………………………………………………………2

2.研究開発目標

2-1 研究開発目標

2-1-1 全体の目標設定…………………………………………………5

2-1-2 個別要素技術の目標設定………………………………………6

3.成果、目標の達成度

3-1 成果

3-1-1 全体成果…………………………………………………………8

3-1-2 個別要素技術成果………………………………………………10

3-1-3 特許出願状況等…………………………………………………16

3-2 目標の達成度……………………………………………………………17

4.事業化、波及効果

4-1 事業化の見通し…………………………………………………………19

4-2 波及効果…………………………………………………………………21

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等

5-1 研究開発計画……………………………………………………………23

5-2 研究開発実施者の実施体制・運営……………………………………23

5-3 資金配分…………………………………………………………………25

5-4 費用対効果………………………………………………………………25

5-5 変化への対応……………………………………………………………26

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1.事業の目的・政策的位置付け

1-1 事業の目的

我が国は、1970年代以来、官民をあげて省エネルギーに取り組み、産業

構造の転換や新たな製造技術の導入、民生機器の効率改善等によって世界最高

水準の省エネルギーを達成してきた。

しかしながら、現在、2005年に発効した京都議定書では、日本は二酸化

炭素等の温室効果ガスの排出量を2008年から2012年までの期間中に

1990年比で6%削減する義務を負っており、また、原油価格高騰をはじめ

昨今の厳しいエネルギー情勢を踏まえ経済産業省において2006年5月に

取りまとめた「新・国家エネルギー戦略」には、2030年までに GDPあたり

のエネルギー利用効率を約30%以上向上するとの更なる省エネルギー目標

を掲げているところである。これら目標を実現していくためには、官民一体と

なり、省エネルギー技術の開発等を強力に推進していくことが必要不可欠とな

っている。

近年、世界中で遺伝子の機能解析研究が盛んに進められており、現状の基

礎研究の段階を経て、診療やヘルスケア分野など様々な用途への応用展開さ

れることが期待されている。国内でも適正な医療サービスの提供等を目的と

して、ヒトの遺伝子検査・診断サービスの本格化を目指す動きが出てきてい

る。今後、遺伝子治療臨床研究のフェーズが進むと、複数の遺伝子を同時に

かつ簡便に調べることができる利点から、検査・診断のデバイスとしてDN

Aチップが採用される可能性が高い。

また昨今、健康維持向上・疾病予防の有効な手段として、いわゆる「健康

食品」に対する関心が集まると同時に、「食の安全性の確保」に対するニーズ

が急速に高まっている。このような分野においても、遺伝子解析技術の応用・

普及が進むことにより、科学的根拠に基づく機能性食品の開発や、安全な食

の提供にも広く貢献できるものと考えられる。

現在、基礎研究用途におけるDNAチップ解析は各工程において手作業の積

み重ねが必要であり、専門知識を持った検査従事者が操作および解析を行うと

いった環境下で実施されることが前提となっている。特に、遺伝子を抽出し、

続いて蛍光色素などのラベリングを行い、ハイブリダイゼーションを行う一連

の作業は難易度が高く、解析データの精度については検査従事者の修練度や経

験に依存するところが大きい。また、一般的な既存のDNAチップの品質が十

分でないこともあり、結果的に解析結果の再現性が低いことが問題である。

また、従来のDNAチップ解析には、検査作業全体で数日を要しており、結

果を迅速に提供することが出来ず、検査に要するランニングコスト及びエネル

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ギー消費量が多いことが問題である。汎用検査や診断の実用化する際において

は、DNAチップ解析全体の時間を短縮することで、ランニングコストの大部

分を占める人件費を削減でき、大幅な省エネルギー化を図ることができると考

えられるが、検体調製やハイブリダイゼーションなどの各段階を迅速に行う新

たな方法及び装置を開発することが必要不可欠であり、その技術的ハードルも

高い。

上記に述べたように、将来の検査・診断市場においてDNAチップが実用的

に使用されるためには、高信頼性、易操作性、迅速性を兼ね備えたトータルの

検査システムが必須である。そこで、本研究開発においては、三菱レイヨンが

有する高品質な繊維型DNAチップの技術を利用することで信頼性を確保す

るとともに、検査のトータル作業を1日以内で行える自動化機器の基盤技術を

完成させることを目的とした。

1-2 国の関与の必要性

エネルギー効率の一層の向上には、技術革新とその成果の普及を促してい

く必要があり、官民一体となり中長期的に取り組むことが不可欠となってい

る。

遺伝子解析技術を用いた検査・診断が実用化されることにより、時間短縮

による検査の省エネルギー化、国民のQOL(Quality of Life:生活の質)

の向上、健康増進等が見込まれる他、増大傾向にある医療費削減につながる

ことが期待されるため、本研究開発は国民や社会のニーズに合致し、急性が

高いものである。

しかし、医療現場における新しい診断手法の採用に至るまでは、多くの年

月を要するため、その機器開発の開発投資に対するリスクが非常に高い。特

に遺伝子解析の臨床応用に向けては、基礎医学における遺伝子機能研究から

機器開発に至る広範な研究開発が必要であるため、民間企業単独ではリスク

が大きく困難であることから、国の支援が必要不可欠である。

1-3 政策的位置付け

「エネルギー基本計画」(2007年3月閣議決定)、「新・国家エネルギー

戦略」(2006年5月)、「第3期科学技術基本計画」(2006年3月閣議

決定)、「経済成長戦略大綱」(2006年7月財政・経済一体改革会議)、「京

都議定書目標達成計画」(2005年4月閣議決定)において、推進すべき技

術開発としてエネルギーに係る分野が示されている。

本研究開発は、これらに基づき、エネルギーの安定供給の確保、二酸化炭

素の排出削減を図ることによる地球温暖化の抑制に貢献することを目的とし

て、経済産業省において取りまとめた「省エネルギー研究開発プログラム」

に位置付けられる「エネルギー使用合理化繊維関連次世代技術開発」のテー

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マの1つとして実施されたものである(※平成 20年4月に経済産業省の研究

開発プログラムが再編され、現在「エネルギーイノベーションプログラム」

の「1-Ⅰ.総合エネルギー効率の向上/超燃焼システム技術」に位置付け

られている)。

さらに、技術戦略マップ2008の「創薬・診断分野」においては、健康

寿命の延伸、QOL(生活の質)の向上のために、「治療から予防への転換」、

「個の医療」を実現することが重要であるとしている。表1に示されるとお

り、将来普及すると考えられる家庭や医療機関における「診断技術」のキー

テクノロジーとして、DNAチップが挙げられている。

表1・診断技術の利用場面

出所・技術戦略マップ2008(「創薬・診断分野」参考資料3より)

また、このような診断技術を完成・普及させるためには、遺伝子解析研究

の進展、それらを行うツールとしてDNAチップ及びその機器の開発が重要

であることが示されている。図1の技術ロードマップにあるように、現在~

2010年のステージにおいては、検査手段の一つとしてのDNAチップの

実用化を進め、共通基盤としてより簡便で検査時間を短縮することが示され

ており(図中赤枠部分)、本研究開発の実施目的と合致するものである。

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出所:技術戦略マップ2008

図1.創薬・診断分野の技術ロードマップ(一部抜粋)

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2.研究開発目標

2-1 研究開発目標

2-1-1 全体の目標設定

本研究開発では、将来の遺伝子検査・診断の需要拡大の際に不可欠と考

えられるトータル検査システムを構築するために、試料の調製(血液など

の検体からの核酸の抽出、精製)からDNAチップを用いたハイブリダイ

ゼーションまでの操作をシステム化し、高信頼性、易操作性、迅速性を兼

ね備えた遺伝子検査・診断のトータルシステムの開発を行う(図2)。

具体的には、以下の目標を設定した(表2)。

表2・全体の目標

目標・指標 設定理由・根拠等

核酸の抽出からDNAチップのハイブ

リダイゼーションまでにかかる時間を

1日以内に短縮する。

現状3日程度からの短縮。

全体のランニングコストを現状の3分

の1にする。

全体の作業を自動化することにより人件費等を削

減し、全体のランニングコストを現状の3分の1に

する。

図2・全体の目標となるトータルシステム

上記目標を達成するために、①自動試料調製用試薬・装置と、②高速DNAチ

ップ処理装置を組み合わせて、現状3~4日かかっている処理時間を1日以内

で完了できる「遺伝子検査・診断トータルシステム」を開発する(図3)。また、

従来技術においては、熟練した作業者による手作業に頼っているため、検査に

要するランニングコストは作業者の人件費が全体の80%程度を占めている。

装置による自動化を行い、作業に拘束される時間を大幅に削減することによっ

て、全体のランニングコストを3分の1に抑えることを目標とする。

高速処理型高速処理型  ハイブリ装置ハイブリ装置

検出装置検出装置自動検体調製装置自動検体調製装置

核酸核酸 抽出 抽出

増幅・増幅・ ラベル化 ラベル化

電気泳動電気泳動  ハイブリ  ハイブリ

検出・  解析

生体サンプル

生体サンプル

検査結果

検査結果

人為的誤差を排除 1日で完了 人為的誤差を排除 1日で完了 

東洋紡 三菱レイヨン

高速処理型高速処理型  ハイブリ装置ハイブリ装置

検出装置検出装置自動検体調製装置自動検体調製装置

核酸核酸 抽出 抽出

増幅・増幅・ ラベル化 ラベル化

電気泳動電気泳動  ハイブリ  ハイブリ

検出・  解析

生体サンプル

生体サンプル

検査結果

検査結果

人為的誤差を排除 1日で完了 人為的誤差を排除 1日で完了 

東洋紡 三菱レイヨン

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図3・従来技術と全体目標との関係

2-1-2 個別要素技術の目標設定

全体目標を達成するため、研究開発開始当初に以下のとおり「個別要素技

術の年度毎の数値目標」を設定した(図4)。また、これらの要素技術の目標・

指標に関する設定の根拠について、東洋紡が担当する「検体調整装置の開発」

を表3に、三菱レイヨンが担当する「高速ハイブリ装置の開発」を表4に示

した。

図4・個別要素技術の年度毎の数値目標

トータルシステムの完成

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要素技術 目標・指標 妥当性・設定理由・根拠等

自動化に適した 核酸抽出・精製試薬の開発

①所要時間 ・核酸標識の所要時間と合せて 10 時間以内 ②Total RNA 品質 ・収量:ヒト全血 5mlから 1μg以上 ・濃度:100ng/μl 以上 ・RIN:8.0 以上

①所要時間は従来法の約 1/2(核酸標識と合せて)に設定。 ②品質目標は、精製した Total RNA が核酸標識試薬で使用可能であることを基準に設定。

自動化に適した核酸標識試薬の開発

①所要時間 ・核酸抽出・精製の所要時間と合せて10 時間以内 ②aRNA 品質 ・収量:Cy5-aRNA5μg 以上 ・増幅正確性:R2=0.8

DNA チップでの検出で、従来試薬で調製した aRNA と同じ結果が得られること。

①所要時間は従来法の約 1/2(核酸抽出・精製と合せて)に設定。 ②品質目標は、調製した aRNAがDNAチップでの検出に使用可能であることを基準に設定。

自動試料調製装置の開発

①所要時間 ・核酸抽出・精製と核酸標識の全工程を自動調製した場合、10 時間以内 ②aRNA 品質 ・収量:Cy5-aRNA5μg 以上 ・増幅正確性:DNAチップでの検出で、用手法で調製した aRNA と同じ結果が得られること。R2=0.98

①所要時間は従来法の約 1/2(核酸抽出・精製と合せて)に設定。 ②品質目標は、調製した aRNAがDNAチップでの検出に使用可能であることを基準に設定。

表3・検体調製装置の開発(東洋紡)

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3.成果、目標の達成度

3-1成果

3-1-1 全体成果

本研究開発では、これまで将来の遺伝子診断・検査の需要拡大の際に不可

欠と考えられる高信頼性、易操作性、迅速性を兼ね備えたトータル検査シス

テムの構築のために、血液などの検体からの核酸の抽出、精製を行う装置を

東洋紡において、また、DNAチップでのハイブリダイゼーション、洗浄ま

での各工程を自動化する装置を三菱レイヨンにおいて開発した。

東洋紡においては、検体から、Total RNA 抽出・精製→Total RNA 濃縮→

要素技術 目標・指標 妥当性・設定理由・根拠等

・電気泳動基本原理の検証 ・検証結果に基づいた試作機の開発

①検証可能な試作機の開発 ②試作機を用いたDNAチップ性能 ・ハイブリ時間:6時間

①従来方法に比べ方式が大きく異なる為、実用可能か原理の検証が必要 ②ハイブリ時間としてはファーストステップであることを考慮し、目標は現行の半分以下である6時間に設定

・専用カートリッジの開発 ・高速処理型DNAチップ製造設備の導入

①カートリッジ仕様決定 ・長鎖検体除去(500mer 以上を除去) ②電気泳動に技術に対応した DNAチップ製造技術の完成

①性能向上にはカートリッジの開発は必須である。目標は長鎖検体の除去機能を備えたカートリッジ開発 ②装置面だけでなく、DNAチップ自体も電気泳動方法に合せ改良が必要である

・装置の製作・検証 ・高速ハイブリプロトコルの最適化

①装置のスペック ・2枚同時処理 ・自動温調(30℃~70℃) ②装置を用いたDNAチップ性能 ・再現性:R2=0.98 ・バラツキ:CV=10%

①発現解析を行うためには同時に2枚処理できる装置が必要である為、目標を2枚同時処理できる装置の作製とした。 ②現行方法と同レベルの性能に設定

・高速ハイブリ時間の短縮

・ハイブリ時間:2時間 ハイブリ時間短縮による消費電力の削減(1/5 以下)

ハイブリ時間は現行の 1/8 の時間に設定。

・トータルシステムの構築

①各ユニット技術の構築 自動試料調製装置 及び 高速ハイブリ装置完成 ②トータル検査時間: 1日以内 ③トータル性能評価:

再現性 R2=0.95 ④検査時間短縮によるランニングコスト削減(従来の 1/3)

①各装置を完成させ、下記②~④の性能・コストを評価する。 ②従来の検査時間に比べ 1/3(1日以内に完了)に設定 ③性能は現行方法と同レベルに設定 ④ランニングコストの大部分を占める人件費等の削減による削減

表4・高速ハイブリ装置の開発(三菱レイヨン)

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核酸標識までの工程を経て、8サンプル同時に調製可能な、自動検体調製装

置を開発した。また、この装置に適応し、所要時間の大幅な短縮が可能な試

薬を開発することに成功した(表5)。

また、三菱レイヨンにおいて、電気泳動法を利用して繊維型DNAチップ

のハイブリダイゼーションを短時間で行える装置(高速ハイブリ装置)を開

発した。この結果、従来 16時間必要であった繊維型DNAチップのハイブリ

ダイゼーションの時間を2時間に短縮可能となった(表6)。

表5・自動検体調製装置 性能達成状況(東洋紡)

目標 達成状況

迅速性 所要時間 10時間 9時間

正確性 DNAチップでの検出

(自動調製と用手調製の相関) R2=0.98 R2=0.99

表6・高速ハイブリ装置 性能達成状況(三菱レイヨン)

目標値 達成状況

迅速性 ハイブリ時間 2時間 2時間

信頼性 再現性 R2=0.98以上 R2=0.985以上

チップ内シグナルのバラツキ CV=10% CV=10%以内

正確性 リアルタイムPCRとの相関 R2=0.85以上 R2=0.85

本研究開発の最終段階においては、繊維型DNAチップを利用した遺伝

子検査・診断トータルシステムとしての評価を、血液からの試料調製、そ

の後のハイブリダイゼーションまで、完成された一連の自動化装置を用い

て実施した。

その結果、本研究開発において完成したトータルシステムは、従来法(手

作業での試料処理および従来法によるハイブリダイゼーション)の性能レ

ベルを保持しつつ、検査に要する時間を3日から1日以内(約 12時間)に

短縮可能であることが示された。(表7)

従来 目標 達成状況

試料調製 ハイブリダイゼーション 全体

3~4日間 1日以内 9時間 2時間 11時間

また、自動化機器を用いない手作業による従来技術では、実質作業時間

として3日程度(3日×6時間=18時間)を要していたが、本研究開発

表7・全体目標(トータルシステムの時間短縮)の達成状況

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の自動化機器を用いて、実質作業拘束時間を評価したところ、3時間程度

であり、従来の6分の1へと削減できることが判った。このことは、①D

NAチップ検査全体のランニングコストの80%程度が熟練作業者の人件

費であること、②自動化機器を採用すれば熟練作業者を必要としないこと、

③人件費以外のエネルギー費等が削減できていることなどから、全体のラ

ンニングコストを3分の1以下に低減できることを示すものであった。

3-1-2 個別要素技術成果

① 自動検体調製装置の開発(東洋紡)

・自動化に適した核酸抽出・精製試薬の開発

自動化に適した核酸抽出・精製方法として、東洋紡の保有技術である

磁性シリカビーズを用いる方法を選択した。

磁性シリカビーズ法は、カオトロピックイオンの存在下において、核

酸がシリカに吸着することを利用した方法である。磁性体の表面にシリ

カをコーティングした微粒子を用いる。この方法による核酸抽出・精製

手順は以下のようになる。

まず、核酸を抽出しようとする材料をカオトロピックイオンの存在下

で破砕・溶解する。そこに磁性シリカビーズを添加混合し、ビーズに核

酸を吸着させる。核酸が吸着した状態で磁性シリカビーズを磁石で引き

寄せ、不純物の混じった液を除去する。磁石を離し、核酸とシリカとの

吸着が維持される洗浄液を添加し、ビーズを液に分散させる。再び磁性

シリカビーズを磁石で引き寄せ、不純物の混じった液を除去する。この

洗浄液での洗浄を何度か行い不純物を除去した後、核酸とシリカとが解

離する溶液を添加する。磁石を離し、ビーズを分散させ、溶液中に核酸

を溶出させる。磁性シリカビーズを磁石で引き寄せ、核酸溶液を回収す

る。

この方法は遠心操作が必要ないため自動化に適しており、特に多検体

同時処理を行う際に有利な方法である。

本開発システムではヒト全血から Total RNA を抽出・精製する。ヒト

全血(白血球)は、HeLa 細胞などの培養細胞と比較するとゲノム DNA

量に対する Total RNA 量が尐ない。より効率よく Total RNA を抽出する

ために、種々の磁性シリカビーズを比較検討したところ、分散性のよい

ものを用いた場合、Total RNA 収量が従来品の 2 倍以上に増加した。し

かしながら、このビーズを用いた場合でも、核酸標識試薬で必要な Total

RNA 濃度(100ng/μl)に達してはいないことがわかった。そこで、一度

抽出・精製した Total RNA を再度磁性シリカビーズに吸着させて濃縮す

る工程を加えた。

操作手順を検討した結果、全血 5ml から Total RNA を調製し、濃縮す

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ることで目標値を越える濃度・収量を得ることができるようになった。

この濃縮後の Total RNA は分解の程度も目標の範囲内にあることが確認

できた。

自動装置で操作することができ、かつ核酸標識試薬で使用可能な品質

の Total RNA を精製する試薬を開発することができた。

・自動化に適した核酸標識試薬の開発

DNAチップ用試料の前処理として行う核酸標識は、以下の7つの工

程からなる。

① cDNA合成

② cDNA精製

③ アミノアリル aRNA合成

④ アミノアリル aRNA精製

⑤ Cy5カップリング

⑥ Cy5-aRNA 精製

⑦ 断片化

①,③は酵素を用いた反応工程、⑤,⑦は酵素を用いない反応工程、

②,④,⑥は精製工程である。

従来、検体調製には 20時間以上もの時間を必要としていたが、その多

くはこの核酸標識の時間であり、中でも①,③の酵素反応に最も多くの

時間を要していた。

この酵素反応の時間短縮のため、自社酵素試薬を用いた条件検討を行

った。

①の cDNA合成は、前半の 1st strand cDNA合成と後半の 2nd strand cDNA

合成にさらに工程が分かれる。まず、1st strand cDNA 合成では、自社の

逆転写酵素である ReverTra Aceを用いた。この酵素は M-MLV 逆転写酵素

を改変した酵素であり、伸長性、反応効率、及び高温反応性が格段に向

上しているものである。この酵素を用いて、試薬組成および反応条件の

検討を行った結果、従来 2 時間を要していた酵素反応時間が、15 分間に

大幅に短縮できることがわかった。

次に、①の後半の 2nd strand cDNA 合成について、DNA PolymeraseⅠ

と RNaseH を用いた検討を行った。ここで用いた RNaseH は超好熱細菌由

来のもので反応効率が高い酵素である。この酵素を用いることで時間短

縮が可能となった。2種類の酵素の混合比等の検討およびその他試薬組成

の検討、反応条件の検討を種々行った結果、従来 2 時間を要していた酵

素反応時間が、10分間に大幅に短縮できることがわかった。

③のアミノアリル aRNA合成は最も時間を要する工程で、従来は終夜で

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(14 時間)反応を行う工程であった。この工程の検討では、自社酵素であ

る Thermo T7 RNA Polymerase 《TT7》を用いた。この酵素は遺伝子工学

的手法により T7 ファージ由来の RNA Polymerase に点変異を導入し、耐

熱性を付与したものである。野生型 T7 RNA Polymerase に対して、熱安

定性が高く 50℃でも反応可能であり、また、37℃においても野生型に対

して比活性が向上している。この酵素を用いて、試薬組成および反応条

件の検討を種々行ったところ、反応時間を 2 時間に大幅に短縮できるこ

とがわかった。

以上の検討を行った結果、全血から調製した Total RNA をサンプルと

して所要時間5時間で、DNAチップでの検出に必要な量の Cy5-aRNA

が得られる条件を設定することができた。

この短時間で目標収量に達する条件で調製した aRNA は、DNAチッ

プでの解析で問題のない品質であることが以下のように確認できた。A

社の核酸標識試薬で調製した aRNA と比較したところ、DNAチップで

の検出において両試薬のシグナル強度比は高い相関を示した(R2=0.844)。

試料中の mRNAを尐なくとも A社試薬と同程度に片寄りなく増幅できてい

ることが確認できた。

なお②④⑥の各精製工程では、核酸抽出・精製試薬と同様に磁性シリ

カビーズを用いる方法を採用した。各精製工程は液量等の条件が異なっ

ているが、このような条件の異なる複数回の精製に対しても自動化が容

易な方法である。

以上の検討の結果、核酸抽出・精製と核酸標識とを合せた所要時間は

6時間 35分となり、目標値である 10時間以内を達成することができた。

DNAチップでの使用が可能なaRNA品質を保ちつつ、従来技術よりも

大幅な所要時間短縮を実現でき、かつ自動装置で操作することができる

核酸標識試薬を開発することができた。

・自動試料調製装置の開発

自動装置用に開発した試薬を用い、核酸抽出から Cy5-aRNA 断片化ま

での前処理を全て自動で行う装置の試作機(AL-1)を作製した。8連ノ

ズルを用い、8サンプルを同時に調製できる仕様となっている。

核酸標識試薬および核酸標識試薬のそれぞれについて、本試作機での

自動化プロトコルを検討し、Cy5-aRNA の目標収量を達成するプロトコル

を作成できた。

また、自動調製した Cy5-aRNAの品質に問題がないことを以下のように

確認した。同じヒト全血検体を用いて自動調製と用手調製とで調製した

Cy5-aRNA についてDNAチップで検出したところ、ハイブリ強度の相関

は自動調製と用手調製とで R2=0.99 以上となり良好であった。このこと

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より、自動試料調製装置試作機で調製の試料の品質は用手調製の試料と

同じであることが確認できた。

Total RNA 抽出・精製、Total RNA 濃縮、核酸標識の各工程の所要時間

は、それぞれ2時間 20分、40分、6時間であり、全工程の所要時間は9

時間となって、目標である 10時間以内を達成した。

検体からの核酸抽出から、標識核酸の断片化までの前処理の全工程を

自動化した装置を開発することで所要時間を大幅に短縮することができ

た。

② 高速ハイブリ装置の開発(三菱レイヨン)

・電気泳動基本原理の検証・検証結果に基づいた試作機の開発

一般的なDNAチップのハイブリダイゼーション反応は、DNAチッ

プと標識核酸検体を接触させて行われるが、ここでの反応速度の律速は、

検体のプローブへの自然拡散による移動であり、16~17時間程度の

反応時間を必要とする。この検体移動を高速化するため、ハイブリダイ

ゼーションを電場中で行って、検体を強制的にプローブへと高速で移動

させる「電気泳動法によるハイブリダイゼーション」技術を開発した。

この基本原理を図5に示す。

図5・ハイブリダイゼーション高速化の原理図

図5のような電気泳動によるハイブリダイゼーションによって性能を

発現するための重要な課題として「ハイブリダイゼーション斑」を低減

する必要があることが判明したため、その発生要因について検証した。

種々検討した結果、電圧を印加した際に核酸検体が凝集あるいは凝縮し、

重量方向へ沈殿が起こることが、主たる原因であると判明したため、そ

の解決策として、下記のような方策を検討した。

DNAチップ断面

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① 検体液部を攪拌する。

② チップを垂直にしたまま上下を回転させて沈殿による斑を無くす。

③ チップを水平にしてハイブリさせる。

④ 電場による凝集または凝縮が発生しない液組成を探索する。

上記4つの解決方策の実効性について検討した結果、③のチップを水

平にするハイブリ方法が最も斑を低減できることが明らかとなった。

そこで、チップの向きを調整できる試作機を製作した。この試作機に

てDNAチップ性能評価を行った結果、現行のハイブリ時間(16 時間)

の半分以下である5時間で、現行と同程度の性能レベルを達成できるこ

とが判った。

・専用カートリッジの開発

電気泳動ハイブリダイゼーションにDNAチップを適合させるために

は、専用のカートリッジが必要である為、その仕様の決定及び製作検討

を行った。

基礎検討の結果、ハイブリしないブランクスポットに蛍光シグナルが

発生してしまう現象であるブランクノイズが大きな問題点であることが

分かった。ブランクノイズの発生原因について解析した結果、以下のこ

とが明らかとなった。

① 断片化反応時間を短くし検体断片長を長くする程、ブランクノイズ

が強く発生する。

②2種検体を用いた2色法(Cy3-Cy5)によるハイブリ検討の結果から、

ノイズはプローブ配列に対して非特異的に発生する。

③ ブランクノイズは自然拡散ハイブリでは発生せず、電気泳動ハイブ

リでのみ発生する。

④ 一旦ブランクノイズが発生すると、洗浄は困難である。

これらの検討の結果、長鎖検体成分が電気泳動中にDNAチップのゲ

ル中にトラップされ、バックグラウンドノイズとなることが判った。こ

のノイズを抑制する手段として、カートリッジ内にゲルのプレフィルタ

ーを挿入し、検体がDNAチップ中のゲルに到達する前に長鎖の検体を

プレフィルターにて除去する技術を考案し、さらにプレフィルターを組

み込んだカートリッジを開発した。このプレフィルター導入型カートリ

ッジを用いた電気泳動ハイブリ評価では、ブランクノイズを大幅に抑制

することが可能になった。

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・高速処理型DNAチップ製造設備の導入

DNAチップに用いるゲルに亀裂やゲルが充填されていない部分が存

在すると、スポット部分の蛍光強度が低下してしまうことが分かってい

る。特に亀裂が存在すると、ハイブリに関与しない検体が亀裂部分にト

ラップされ、洗浄できなくなるため、ノイズの上昇につながり性能が低

下してしまう。亀裂が発生する原因はゲルを充填する中空繊維からゲル

重合中に水分が外部に拡散し、ゲル内部に空洞(気泡)が生じる為であ

ると考えられる。その為、高速処理適合型DNAチップに適した水分透

過を抑制した中空繊維を作製することで上記課題を解決することを目標

に検討を行った。

上記課題の解決の為にDNAチップに用いる中空繊維材料として必要

な性能は、水蒸気バリア性および剛性である。その為それぞれの性能を

持つ材料を複合した中空繊維(三層)を溶融紡糸にて作製した。

開発には専用の製造設備を導入した。この複合中空繊維を作製するこ

とにより、亀裂の尐ないゲルを重合したDNAチップが作製可能となり、

上記問題点を解決できることが分かった。

・装置の製作・検証 高速ハイブリプロトコルの最適化

上記に述べたような技術を導入した高速型自動ハイブリ洗浄装置を作

製し、その性能を検証した。製作したハイブリ装置は、下記のような仕

様を備えるものとした。

① チップ同時処理枚数は2枚。(ハイブリ槽2個を装備)

② 温調したバッファー液をハイブリ槽へ循環することによりハイブ

リ槽内の温度調整をおこなう。

③ ハイブリ槽を自由に回転する機構を備える。

④ 30℃~70℃までの昇温、冷却を可能とする。

⑤ 電流値 0mA~30mAに対応可能とする。またそれぞれの槽に単独に電

極を設置する。

この高速ハイブリ装置を用いてプロトコル(運転条件)の最適化を行

った結果、ハイブリ時間2時間で再現性 R2=0.98という最終性能目標を

達成できた。

・トータルシステムを用いた実質作業時間

本研究開発後のトータルシステムを用いた場合の、検体調製からハイ

ブリダイゼーションまでを行う実質拘束作業時間は、3時間程度であり、

従来の所要作業時間(3日間×6時間=18時間)を1/6程度と大幅

に削減するものであった。

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3-1-3 特許出願状況等

表8・特許、論文等件数

要素技術 論文

論文の被

引用度数

特許等件数

(出願を含

む)

特許権

の実施

件数

ライセン

ス供与数

取得ライ

センス料

国際標準へ

の寄与

自動試料調製

装置の開発 0 0 1 0 0 0 0

高速 DNA チッ

プ処理装置の

開発

0 0 3 0 0 0 0

計 0 0 4 0 0 0 0

表9・特許リスト

No. 発明の名称 種類 公開番号 出願人

1 ハイブリダイゼーション用カートリッジ、ハイブリダイゼーション装置およびハ

イブリダイゼーション方法 特許 特開 2006-280258 三菱レイヨン

2 生体関連物質検出用反応装置 特許 特開 2007-212256 三菱レイヨン

3 電気泳動装置および電気泳動装置を

用いた生体関連物質検出方法 特許 未公開 三菱レイヨン

4 リボ核酸の分離精製方法 特許 特開 2007-244375 東洋紡績

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3-2 目標の達成度

3-2-1 全体目標の達成度

表10・全体目標に対する達成度

目標・指標 成果 達成度

核酸の抽出からDNAチップのハイブリダイゼー

ションまでにかかる時間を1日以内に短縮する。

トータルの検査時間を12時間程度まで

短縮することが可能になった 達成

全体のランニングコストを現状の3分の1にする。

人件費等を削減することにより、全体の

ランニングコストを3分の1以下に削

減可能となった。

達成

3-2-2 個別要素技術の目標の達成度

要素技術ごとに設定した数値目標の達成度の一覧を、表11に示した。全て

の項目に対して、目標を達成することが出来た。

表11・個別目標に対する成果・達成度の一覧表

自動試料調製装置の開発(東洋紡)

要素技術 目標・指標 成果 達成度

自動化に適した 核酸抽出・精製試薬の開発

①所要時間 ・核酸標識の所要時間と合せて 10時間以内 ②Total RNA 品質 ・収量:ヒト全血 5ml から 1μg以上 ・濃度:100ng/μl 以上 ・RIN:8.0以上

①所要時間 ・核酸標識の所要時間と合せ

て 6時間 35 分 ②Total RNA 品質 ・収量:ヒト全血 5mlから 3.5μg ・濃度:235ng/μl ・RIN:9.1

達成

自動化に適した 核酸標識試薬の開発

①所要時間 ・核酸抽出・精製の所要時間と合せて10 時間以内 ②aRNA 品質 ・収量:Cy5-aRNA5μg 以上 ・増幅正確性:DNA チップでの検出で、従来試薬で調製した aRNA と同じ結果が得られること。 R2=0.8

①所要時間 ・核酸抽出・精製の所要時間と

合せて 6 時間 35分 ②aRNA 品質 ・収量:Cy5-aRNA17μg ・増幅正確性:従来試薬で調製

した aRNAとの相関性 R2=0.84

達成

自動試料調製装置の開発

①所要時間 ・核酸抽出・精製と核酸標識の全 工程を自動調製した場合、10時間 以内 ②aRNA 品質 ・収量:Cy5-aRNA5μg 以上 ・増幅正確性:DNA チップでの検出 で、用手法で調製した aRNA と同じ 結果が得られること。R2=0.98

①所要時間 ・9 時間

②aRNA 品質 ・収量:Cy5-aRNA7.3μg ・増幅正確性:用手法で調製し

た aRNAとの相関性 R2=0.99

達成

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高速DNAチップ処理装置の開発(三菱レイヨン)

要素技術 目標・指標 成果 達成度

・電気泳動基本原理の検証 ・検証結果に基づいた試作機の開発

①検証可能な試作機の開発 ②試作機を用いたDNAチップ性能 ・ハイブリ時間:6時間

①チップを設置方向が大きく影響することが判明し、チップの向きを調整できる試作機を製作した。

②試作機にてDNAチップ性能評価を行った結果、下記性能目標を達成した。 ・装置を用いたハイブリ性能 ハイブリ時間:5時間 (再現性:R2=0.9)

達成

・専用カートリッジの開発 ・高速処理型DNAチップ製造設備の導入

①カートリッジ仕様決定 ・長鎖検体除去(500mer 以上を除去) ②電気泳動に技術に対応したDNAチップ製造技術の完成

①カートリッジ ゲルフィルターを組み込むことで長鎖検体を除去しノイズを抑制できるカートリッジを開発した。

②DNAチップ製造設備導入 中間層に水分透過を抑制した材料を入れた三層複合中空繊維を開発した。この中空繊維を用いてDNAチップを作製し、評価をおこなった結果、欠陥のないDNAチップを製造可能になった。

達成

・装置の製作・検証 ・高速ハイブリプロトコルの最適化

①装置のスペック ・2枚同時処理 ・自動温調(30℃~70℃) ②装置を用いたDNAチップ性能 ・再現性:R2=0.98 ・バラツキ:CV=10%

①チップの処理枚数2枚、30℃~70℃で自動温調温調可能、ハイブリ槽の自動反転機構を備えた、自動ハイブリ装置を開発した。

②この装置を用いてハイブリプロトコルの最適化を行い、再現性R2

=0.98の最終目標性能を達成した。

達成

・高速ハイブリ時間の短縮 ・ハイブリ時間:2時間 ハイブリ時間短縮による消費電力の削減(1/5 以下)

上記装置を用いることにより、目標性能を達成できるハイブリ時間を2時間に短縮可能となった。 ハイブリ時間を従来の 1/8 にすることにより消費電力を 1/5 以下に削減することが可能となった。

達成

・トータルシステムの構築

① 各ユニット技術の構築 自動試料調製装置 高速ハイブ リ装置完成 ② トータル検査時間 1日以内 ③ トータル性能評価 再現性 R2=0.95 ④ 検査時間短縮によるトータルランニングコスト削減(従来の 1/3)

① ユニット技術(自動試料調製装置、高速ハイブリ洗浄装置)を完成した。

② 血液からの試料調製およびハイブリまでのトータル評価時間を1日以内(約11時間)に短縮可能となった。(現行3日)

③ 1日以内の検査時間にて下記目標性能を達成した。 ・再現性:R2=0.98 ・バラツキ:CV=10% ④ トータルランニングコストを 1/3

に削減

達成

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4.事業化、波及効果についての妥当性

4-1 事業化の見通し

本研究開発により、血液などからの核酸の抽出、精製及びDNAチップで

のハイブリダイゼーション、洗浄までの各工程を自動化し、処理時間を大幅

に短縮することの出来る基盤技術を構築し、遺伝子検査・診断市場への投入・

実用化の可能性を見出すことが出来た。

また、本システムを用いれば、検査作業を自動で簡便に行うことができる

ため、人為的な誤差を排除することによる信頼性が上がり、研究用途や遺伝

子検査・診断用途など幅広く使用できることが期待される。

しかしながら、遺伝子検査・診断市場は、2008年現在においては、本

格的な立ち上がりの兆しが見えておらず、2015年以降に立ち上がる予定

である。この背景としては、遺伝子機能研究や、標準化の取り組みの遅れが

要因として挙げられている。

したがって、遺伝子検査・診断用途における本トータルシステムの事業化

のスケジュールとして、2015年の市場立ち上がりに向けて下記のような

市場課題 及び 技術課題に取り組む予定である。

【市場課題に関する今後の取り組み】

市場の立ち上がりを促進するための課題に対して、下記の取り組みを実

施する予定である。

① DNAチップ検査手法の標準化

DNAチップ等を含むバイオチップの産業化・標準化を目的とした業

界団体である「バイオチップコンソーシアム」(2007年10月発足)

へ参画する中で、今後DNAチップの本格的な産業化に向けた標準化

の取り組みを行う(三菱レイヨン)。

② DNAチップに搭載する遺伝子コンテンツの開発

大学等の複数の研究機関との共同で、DNAチップに搭載する遺伝子

コンテンツ開発を行う。食品素材のアレルギー改善効果を判定するD

NAチップの商品化(2007年)に続き、特定の遺伝子を搭載した

DNAチップの市場投入を行う予定である(三菱レイヨン)。

【技術課題に関する今後の取り組み】

上記市場課題がクリアされ市場が形成されると予想される2015年迄

の完成を目処に、引続き下記のような装置量産化に向けた課題に取り組む。

① 検体調製~ハイブリ工程の一貫自動化

② 高速ハイブリ装置の多数検体処理

③ 装置の小型化・低コスト化

④ 操作性・ユーザーインターフェースの向上

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【事業化の時期】

検査・診断用DNAチップ市場の本格立ち上がり時期に、タイミング良

く量産改良された装置を投入する。市場立ち上がりの時期は、本研究開発

開始当初の予測よりも5年程度遅く、2015年以降より徐々に立ち上が

るものと予想されており、本トータルシステムに関しては、2015年か

らの本格的な市場参入を目指す。

<参考資料>

①(株)シード・プランニング:2008年版DNAチップ市場の現状と

将来展望

② Fuji-Keizai USA Inc.:2007年版ワールドワード・バイオチップ&

装置市場の動向と展望

4-2 波及効果

【省エネルギー効果】

本研究開発成果の実用化により、DNAチップ製造の効率化や、検査時

間の大幅な短縮が可能となり、従来の方法に比べ、試薬・容器類の大幅な

削減が可能になる。また、ハイブリダイゼーション反応時間(加熱時間)

の短縮による電力消費量の削減が見込まれる。

具体的には、下記の通り試算を行った結果、DNAチップ及び試薬を販

売し、これを今回開発したハイブリダイゼーション装置を用いて解析を行

った場合の原油換算として、DNAチップ 10万枚の販売・消費あたり 296kL

の省エネルギー効果を見込むことが出来る。

① 検体調製用試薬製造時の消費電力量の削減

従来 本システム

電力使用量 1,170,000kWh 117,000kWh

原油換算 280.8kl 28.1kl

省エネルギー効果: 252.7kl/10 万枚

② 全工程における使い捨てプラスチック容器使用量の削減

従来 本システム

チップ1枚あたり使用量 93.14g 17.34g

チップ 10万枚あたり使用量 9314kg 1734kg

原油換算 19.25kl 3.6kl

省エネルギー効果: 15.7kl/10 万枚

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③ ハイブリダイゼーション工程における消費電力量の削減

従来 本システム

チップ1枚あたり電力使用量 400Wh/枚 40Wh/枚

電力使用量 40,000kWh 4,000kWh

原油換算 9.6kl 0.96kl

省エネルギー効果: 8.6kl/10 万枚

④ 繊維型DNAチップ製造時の消費電力量の削減

従来 本システム

チップ 1 枚あたりの電力使用量 1.7kWh/枚 0.9kWh/枚

電力使用量 170,000kWh 90,000kWh

原油換算 40.8kl 21.6kl

省エネルギー効果: 19.2kl/10万枚

【医療費の削減】

今後のわが国では高齢化・長寿命化に伴い、医療費の益々の増大が予測

される。遺伝子診断・検査システムが整うことによって、健康増進や疾病

の予防、個の医療の普及が加速し、医療費の抑制が期待できる。

【DNAチップ用途範囲の拡大】

DNAチップの応用範囲として、医療現場における検査・診断用途が挙

げられるが、誰でも簡便に扱える低コストな装置を実用化することにより、

ヘルスケアなどより広い分野への活用範囲の拡がりが期待される。例えば、

健康食品などに用いられる機能性素材の開発や、食品の安全性検査に活用

される可能性がある。

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5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等

5-1 研究開発計画

本研究開発開始当初において、全体目標を達成するための年度数値目標(マ

イルストーン)を設定した上で、これを達成するための研究開発計画を策定し

た(図6)。

また、研究開発は順調に進捗し、特に大きな変更をすることなく、計画に沿

った研究開発を行うことが出来た。

年度 

 開発項目

①検体調製装置の開発

i.自動化に適した核酸精製試薬及び自動化装置の開発 東洋紡

 a.核酸抽出・精製試薬の基本組成の確立

 b.核酸抽出・精製試薬の抽出効率向上検討

 c.自動化プロトコールの検討

 d.核酸抽出・精製装置の設計・試作

ii.自動化に適した核酸標識試薬の開発 東洋紡

 a.核酸標識試薬の基本組成の確立

 b.核酸標識試薬の所要時間短縮検討

 c.各操作段階ごとの自動化プロトコールの検討

 d.各操作を一連化したプロトコールの検討

 e.核酸標識までを一連化したプロトコールの検討

②高速DNAチップ処理装置の開発

i.電気泳動ハイブリの基本性能向上検討 三菱レ

 a.基本原理の実用性検証

 b.運転条件と各種性能の相関把握・解析

 c.高速ハイブリプロトコル条件の最適化

ii.装置の製作・検証 三菱レ

 a.基本原理検証用実験機の製作

 b.検証結果に基づいた試作1号機の製作

 c.試作1号機の操作性及び性能向上検討

 d.同時並行ハイブリ処理化に向けた装置仕様の検討

 e.改良型試作機の製作及び検証

iii.高速処理適合型DNAチップの開発 三菱レ

 a.再現性向上のためのチップ品質・精度向上

 b.専用チップカートリッジの製作

 c.高速処理適合型DNAチップ製造設備の導入

③トータルシステムの構築 東洋紡/

 a.各ユニット技術・装置の構築 三菱レ

 b.各ユニット装置間インターフェース強化

 c.システムのトータル性能の検証

 d.各ユニット技術の改良

05年度担当 07年度06年度

専用カートリッジの製作

基本原理の実用性検証

試薬基本組成の確立

試薬基本組成の確立

検体調製装置試作1号機完成

高速処理装置試作1号機完成

目標性能:R2=0.65

目標性能:調製時間10時間

R2=0.8

最終目標性能:トータル検査時間 1日

再現性 R2=0.95

目標性能:ハイブリ時間2時間

R2=0.98

目標性能:ハイブリ時間4時間

R2=0.8

目標性能:ハイブリ時間6時間

事業期間:平成 17年4月1日~平成 20 年3月 31日

図6・研究開発計画

5-2 研究開発実施者の実施体制・運営

本研究開発は、公募による選定審査手続きを経て、三菱レイヨン株式会社

および東洋紡績株式会社が経済産業省からの補助金(補助率2/3)を受け

て実施した。

研究開発実施者においては、研究開発をより効率的に実施するため、事業、

経理、技術開発部門が連携して実施する体制とした。また、技術開発面にお

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いては、研究を主に行う組織と装置開発を主に行う組織が連携して技術開発

を行う体制とした。

また、両社相互の技術開発に関する議論を行い、目標に対する進捗状況を

確認する目的で、三菱レイヨンと東洋紡の2社間において、定期的に打合せ

を実施した。

三菱レイヨン株式会社

東洋紡績株式会社

図7・実施体制図(平成17年度 開始当初)

(共同提案者)

 三菱レイヨン株式会社  東洋紡績株式会社

  高速DNAチップ処理装置の開発   自動試料調製装置の開発

  トータルシステムの構築   トータルシステムの構築

(経理担当)

社 長 敦 賀 事 業 所 総 務 部 経 理 グ ル ー プ

部員 西本 竜也

(業務管理責任者)

ハ ゙ イ オ ・ メ テ ゙ ィ カ ル事業本部 バイオ事業総括部 バ イ オ 開 発 部主幹 服部 静夫

(技術開発、製作指導、評価)

バイオフロンティアプロジェクト推進室主幹      宝田 裕副主任研究員  辻 勝巳

(業務管理責任者)

事 業 企 画 開 発 室

社 長 担当課長 永田 祐一郎

技 術 部 門 (技術開発、製作指導、評価)

横 浜 技 術 研 究 所 ゲノムデバイス技術開発プロジェクト主席研究員  宇野 博文副主任研究員 地紙 哲哉研究員    高橋 厚

(技術開発、製作指導、評価)

生 産 技 術 研 究 所 横 浜 技 術 開 発 ク ゙ ル ー フ ゚主任研究員 隅 敏則研究員   広本 泰夫研究員   前原 修

(経理担当)

事 務 部 門 経 理 部

担当課長 小森 肇

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5-3 資金配分

本研究開発は、DNAチップ検査・診断の機器装置の開発を行うものであり、

装置仕様や基盤技術を構築するための基礎実験実施、並びに、プロトタイプ装

置の製作・検証に重点的に資金を配分した。

以下、技術開発に要した支出内訳を表12、表13に示す。

表12.資金配分(三菱レイヨン) 単位:百万円

年度(平成) 17 18 19 合計

高速DNAチップ

処理基礎検討

45.4 23.4 22.3 91.1

高速DNAチップ

装置製作関連

48.2 25.4 27.0 100.6

繊維型

DNAチップ改良

0 19.0 2.0 21.0

合計 93.6 67.8 51.3 212.7

(注・うち補助金総額 141.8百万円)

表13.資金配分(東洋紡績) 単位:百万円

年度(平成) 17 18 19 合計

核酸抽出・精製試

薬の開発

24.0 11.0 7.2 42.2

核酸標識試薬の

開発

33.6 14.7 3.6 51.9

自動試料調製装

置の開発

1.4 32.3 40.7 74.4

合計 59.0 58.0 51.5 168.5

(注・うち補助金総額 112.3百万円)

5-4 費用対効果

本研究開発は、総額2億5400万円の補助金を得て行った。

DNAチップを販売・消費した際の省エネルギー効果は、296kL/10万枚であ

り、本システムを利用したDNAチップシステム販売開始から約10年程度(2

015年~2025年)で、累計2億5000万円(平均2500万円/年)

の省エネルギー効果を見込むことができるため、費用対効果として十分なもの

であると言える。

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5-5 変化への対応

・3年間の研究開発期間中に当初計画を変更することはなかったが、研究開発

を推進するに当たっては、遺伝子解析に関する競合技術の開発動向などを随

時調査し、研究開発方向に変更の必要がないか確認しながら進めた。

・DNAチップに類似した遺伝子解析技術として、リアルタイムPCR法が挙

げられ、近年その普及が進んでいる。本研究開発においては、リアルタイム

PCR法で得られるデータとDNAチップによるデータを比較し、手法が異

なっても同じ結果が得られることを確認した(解析結果の正確性の評価)。

なお、リアルタイムPCR法は、DNAチップ(数百遺伝子以上)に比べて

一度に解析できる遺伝子数が限定され、応用範囲が異なるため、代替手段と

なるものではない。