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短繊維混入吹付けモルタル・連続繊維メッシュ併用工法の 道路トンネル内面補強への適用 Application of Short-Fiber Mixed Shotcrete and FRP Mesh Combination Method to Reinforcing Work for Road Tunnel Lining 栗橋 祐介 田口 史雄 ** 岸 徳光 *** 三上 浩 **** 永澤 克巳 ***** 小沢 宏行 ****** Yusuke KURIHASHI, Fumio TAGUCHI, Norimitsu KISHI, Hiroshi MIKAMI, Katsumi NAGASAWA and Hiroyuki OZAWA 本研究では、合理的な既設道路トンネルの内面補強工法として、ビニロン短繊維混入吹付けモルタ ルとアラミド繊維メッシュを併用する補強工法を提案するとともに、その実用化のため施工試験を実 施した。施工試験には模擬トンネルを用い、主に細骨材の粒度分布が吹付け性状に及ぼす影響につい て検討した。また、本試験結果に基づいて、本工法による実トンネルの補強工事を行うとともに、本 工法の補強効果を確認するため、裏込め注入時におけるトンネル覆工のひずみ分布を測定した。その 結果、1)吹付けモルタルの吐出性状には、細骨材の粒度分布が密接に関連している、2)シリカフュ ームの混入によって吹付け施工が向上する、3)実施工においても模擬トンネルによる施工試験の場 合と同様に良好な施工が可能である、4)本工法は、既設道路トンネルの実用的かつ合理的な内面補 強工法として適用可能である、ことなどが明らかになった。 ≪キーワード:吹付けモルタル;連続繊維メッシュ;既設道路トンネル;内面補強≫ In this study, as a rational reinforcing method for existing road tunnel, the method combining Aramid FRP mesh (AFRPm) and shotcrete mortar mixed with short-fiber was proposed, and feasibility tests were conducted for practical use. In the feasibility study, the effects of grain size distribution of sand on shotcreting property were mainly discussed using modeled tunnel. Also, based on the test results, reinforcing works for real existing tunnel were conducted applying the proposed method. In order to confirm the reinforcing effects of proposed method, strain distributions of the lining were measured during backfilling works. The results obtained from this study are summarized as follows: 1) shotcreting property of mortar is strongly related to grain size distribution of sand; 2) this property can be improved due to mixing of silica fume; 3) reinforcing work can be conducted in the same way as the feasibility test using modeled tunnel; and 4) the proposed method can be practically and rationally adopted as reinforcing method of existing tunnel lining. ≪ Keywords:shotcrete mortar;FRP mesh;existing road tunnel;reinforcement of lining ≫ 報 文 2 寒地土木研究所月報 №645 2007年2月

短繊維混入吹付けモルタル・連続繊維メッシュ併用 …短繊維混入吹付けモルタル・連続繊維メッシュ併用工法の 道路トンネル内面補強への適用

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Page 1: 短繊維混入吹付けモルタル・連続繊維メッシュ併用 …短繊維混入吹付けモルタル・連続繊維メッシュ併用工法の 道路トンネル内面補強への適用

短繊維混入吹付けモルタル・連続繊維メッシュ併用工法の道路トンネル内面補強への適用

Application of Short-Fiber Mixed Shotcrete and FRP Mesh Combination Method to Reinforcing Work for Road Tunnel Lining

栗橋 祐介* 田口 史雄** 岸 徳光*** 三上 浩****

永澤 克巳***** 小沢 宏行******

Yusuke KURIHASHI, Fumio TAGUCHI, Norimitsu KISHI, Hiroshi MIKAMI,Katsumi NAGASAWA and Hiroyuki OZAWA

 本研究では、合理的な既設道路トンネルの内面補強工法として、ビニロン短繊維混入吹付けモルタルとアラミド繊維メッシュを併用する補強工法を提案するとともに、その実用化のため施工試験を実施した。施工試験には模擬トンネルを用い、主に細骨材の粒度分布が吹付け性状に及ぼす影響について検討した。また、本試験結果に基づいて、本工法による実トンネルの補強工事を行うとともに、本工法の補強効果を確認するため、裏込め注入時におけるトンネル覆工のひずみ分布を測定した。その結果、1)吹付けモルタルの吐出性状には、細骨材の粒度分布が密接に関連している、2)シリカフュームの混入によって吹付け施工が向上する、3)実施工においても模擬トンネルによる施工試験の場合と同様に良好な施工が可能である、4)本工法は、既設道路トンネルの実用的かつ合理的な内面補強工法として適用可能である、ことなどが明らかになった。≪キーワード:吹付けモルタル;連続繊維メッシュ;既設道路トンネル;内面補強≫

 In this study, as a rational reinforcing method for existing road tunnel, the method combining Aramid FRP mesh (AFRPm) and shotcrete mortar mixed with short-fiber was proposed, and feasibility tests were conducted for practical use. In the feasibility study, the effects of grain size distribution of sand on shotcreting property were mainly discussed using modeled tunnel. Also, based on the test results, reinforcing works for real existing tunnel were conducted applying the proposed method. In order to confirm the reinforcing effects of proposed method, strain distributions of the lining were measured during backfilling works. The results obtained from this study are summarized as follows: 1) shotcreting property of mortar is strongly related to grain size distribution of sand; 2) this property can be improved due to mixing of silica fume; 3) reinforcing work can be conducted in the same way as the feasibility test using modeled tunnel; and 4) the proposed method can be practically and rationally adopted as reinforcing method of existing tunnel lining.≪ Keywords:shotcrete mortar;FRP mesh;existing road tunnel;reinforcement of lining ≫

報 文

2 寒地土木研究所月報 №645 2007年2月

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1.はじめに

 近年、コンクリート構造物の経年劣化や設計基準の改定に伴う補修補強工事が盛んに行われている。トンネル構造物に関しては、1999 年に多発したコンクリート片の剥落事故以来、第3者被害の防止を目的とした点検調査および補修工事が各地で実施されている。また、従来工法(矢板工法)で施工されたトンネルに関しては、覆工背面に大きな空洞がある事例も報告されており、地山応力の分散や落盤による覆工の破損防止の観点からモルタル等の充填(以後、裏込め注入)も行われている。 ここで、裏込め注入時において、覆工コンクリートが所定の厚さを有していない場合や経年変化により劣化している場合には、裏込め材の注入圧力により覆工コンクリートが損傷を受けることも考えられる。その場合、裏込め注入工に先立って覆工コンクリートを補強する必要がある。補強工法としては、連続繊維(FRP)シート接着工法やポリマーセメントモルタル吹付け工

法等が一般的であるが、補強工法のさらなる工費縮減および工期短縮が求められているのが現状である。 このような状況下、著者らはこれまでコンクリート構造物の合理的かつ経済的な補強工法として、短繊維混入吹付けモルタルと連続繊維メッシュを組み合わせる工法(図-1)を提案し、その実用化に向けた種々の研究を行ってきた。既往の研究では、各種コンクリート部材の載荷実験を行い、提案工法の補強効果を評価検討するとともに、吹付けモルタルの各種材料試験を実施し、施工性や耐久性に関する検討を行ってきた1)、2)。しかしながら、施工性に関しては試験室レベルの限定された条件下での検討に留まっており、実トンネルへの適用を想定した適切な施工方法に関する検討は行われていない。 このような背景より、本研究では、提案工法の既設トンネルへの実用化を目的に、現地施工を想定した施工試験を実施した。施工試験は、模擬トンネルを用いて行い、産地の異なる3種類の細骨材を用いる場合についての施工方法の検討を行った。また、検討結果に基づき、トンネル背面空洞の裏込め注入時における覆工コンクリートの損傷防止を目的とした補強工事を実施するとともに、裏込め注入時における覆工コンクリートのひずみを測定し、本工法の補強効果を検証した。

2.施工性試験の概要

2.1 使用材料および吹付けモルタル配合

 本研究に用いている吹付けモルタルは、コスト縮減のため現場地域から調達した細骨材を使用することを

図-1 補強工法の概要

表-1 使用材料の一覧

材料 記号 種類 物性および成分

北檜山産陸砂 密度:1.50 g/cm3 粗粒率:2.52 吸水率:2.14

栗丘産陸砂 密度:1.65 g/cm3 粗粒率:2.94 吸水率:1.20 細骨材 S

豊原産海砂 密度:1.68 g/cm3 粗粒率:2.55 吸水率:2.65

セメント C 普通ポルトランドセメント 密度:3.14 g/cm3 比表面積:0.45 m2/g

混和材 SF 中国産シリカフューム 密度:2.20 g/cm3 比表面積:19.1 m2/g

混和剤 SP 高性能減水剤 ポリグリコールエステル誘導体

短繊維 Vfビニロン短繊維

(外割配合)密度:1.30 g/cm3 直径:0.01 mm 長さ:6 mm

連続繊維

メッシュ

アラミド繊維製

FRP メッシュ

格子間隔:60 mm 引張強度:2.06 GPa 

弾性係数:118 GPa 保証耐力:200 kN/m

寒地土木研究所月報 №645 2007年2月 3

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想定している。その場合、細骨材の粒度分布等の諸特性によって、施工性が大きく変化することが想定される。このことより、本研究では、産地の異なる3種類の砂を用いた施工試験を実施した。 表-1には、使用材料の一覧を示している。細骨材はいずれも北海道産であり、全て天然骨材である。また、連続繊維メッシュにはアラミド繊維製 FRP(AFRP)メッシュを用い、後述の既設トンネルの内面補強工事への適用を想定して同様の諸元のものを用いることとした。 表-2には、吹付けモルタル配合の一覧を示している。本配合は、著者らの既往の研究において、施工性、耐久性および力学特性の観点から総合的に判断して決定した配合である。また、RC 梁の曲げ補強効果1)やコンクリート片の剥落抑制効果2)に関する研究実績もあることから、本配合を基本配合として施工性の検討を行うこととした。なお、吐出性状の改善を目的にシリカフュームを混入する場合には、セメント量の5%を置換することとした。さらに、各試験ケースにおいて、モルタルフロー値が後述の設定値になるように

するため、細骨材の種類に応じて高性能減水剤量を適宜微調整している。

2.2 試験方法

 表-3には、試験ケースの一覧を示している。ここで、豊原産の場合においては、粒径 0.3 ㎜ 以下の微粒分を除去したケースについて検討を行った。また、施工性改善のためシリカフュームを混入するケースについても検討した。これらの施工試験は、内空断面の半径が 2.5 m 程度の模擬トンネルを用いて実施した。写真-1、2には、それぞれ模擬トンネルおよび施工試験の状況を示している。なお、目標吹付け厚さは、いずれの試験シリーズにおいても 30 ㎜ 程度に設定している。 図-2には、吹付けシステムの概要図を示している。施工試験は、コンプレッサーからの圧縮空気により、ピストン式のポンプから吐出されたコンクリートをマテリアルホースで 20 m 程度圧送する形で実施している。 表-4には、吹付け条件の一覧を示している。これ

表-2 短繊維混入吹付けモルタルの配合

表-3 試験ケースの一覧

単位量

(kg/m3)Vf(vol.%)

W/C (%)

W C S

高性能

減水剤

(C×%)

1.5 39 255 655 1310 適宜

シリカフューム (SF) を混入する場合は,セメ

ント量(C)の 5 % 置換とした

細骨材

の産地

シリカフュ

ームの混入

AFRP メッシュ

の配置

北檜山

栗丘

豊原

豊原

(粒度調整*)

なし

北檜山

栗丘

豊原

あり

なし

北檜山

栗丘

豊原

あり あり

: 0.3 mm 以下の微粒分を除去

写真-1 模擬トンネル

写真-2 施工試験状況

4 寒地土木研究所月報 №645 2007年2月

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らの設定値は既往の試験結果2)により、吐出性状、付着性状およびノズルマンの作業性が良好なものとなるように決定されたものである。

3.試験結果

 表-5には、各産地の細骨材を用いた吹付け施工試験結果の一覧を示している。上段3ケースの試験結果を見ると、北檜山産の細骨材を用いる場合には、概ね良好な吐出性状を示すものの、豊原産の細骨材を用いる場合には、モルタルが閉塞し間欠的な吐出性状を示していることが分かる。このように、フロー値がほぼ同等 (設定値:120 ~ 130)であるにもかかわらず、吐出性状が大きく異なる要因の1つとしては、細骨材の粒度分布の違いが考えられる。 図-3には、各細骨材の粒度分布の比較図を示している。いずれの細骨材の場合においても、JIS A 5005 に規定されている粒度分布の範囲内に分布しているものの、粒径が 0.3 ㎜ 以下の成分(以後、便宜的に微粒分と呼ぶ)は、吐出性状の良好な細骨材ほど少ないことが分かる。

 このため、吐出性状が最も劣った豊原産の細骨材を対象に、0.3 ㎜ 程度以下の微粒分を 1/2 程度に減じた細骨材を作製し、再度施工試験を実施した。図-4には、粒度調整前後の粒度分布の比較図を示している。施工試験の結果、粒度調整により吐出性状が大きく改善されることが確認された。このことより、吹付けモルタルの吐出性状には細骨材の微粒分が大きな影響を及ぼすことが明らかになった。

図-2 吹付けシステム

表-4 吹付け条件

表-5 施工試験結果の一覧

図-3 各細骨材の粒度分布

吹付け条件 設定値

モルタルフロー値 120 ~ 130

設定吐出量 (m3/h) 1.5

吹付け距離 (m) 1.5

材料ホース径 (㎜) 42

材料ホース長 (m) 20

細骨材

の産地

シリカフュー

ム置換率 (%) 吐出性状

北檜山○:若干脈動が見ら

れるが概ね良好

栗丘△:脈動が見られる

が施工可能

豊原

0

×:閉塞し間欠的に

吐出

豊原

(粒度調整)0

○:若干脈動が見ら

れるが概ね良好

北檜山 ◎:良好

栗丘 ◎:良好

豊原

5

◎:良好

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

9.5004.7502.3601.1800.6000.3000.1500.075

ふるいの寸法(㎜)

)%(

率過

通積

北桧山

栗丘

豊原

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 一方、表-5において吐出性状の改善を目的にシリカフュームを混入した試験ケースの結果を見ると、細骨材の産地によらず、吐出性状が良好なものとなっていることが分かる。また、吹付け後においても、吹付けモルタルの剥離剥落は生じず、十分な付着性状を確保していることを確認している。これは、シリカフュームのボールベアリング効果によりモルタルとマテリアルホースとの摩擦が軽減され、吐出が円滑になったことによるものと考えられる。このことより、現場によって細骨材の粒度分布特性が変動する場合には、シリカフュームを混入することが施工性改善対策の1つになるものと判断される。 なお、本試験では AFRP メッシュを配置した場合においても、細骨材の種類にかかわらず良好な施工が可能であることを確認している。

4.既設トンネルの内面補強事例

 本章では、本工法の道路トンネルの内面補強工事への適用例について紹介する。

4.1 トンネル内面補強の経緯

 本工法による補強工事の対象となった T トンネルは、昭和 54 年竣工の矢板工法により施工されたトンネルである。図-5には、T トンネルの断面図を示している。本トンネルは、平成 14、15 年に実施された点検調査により、覆工背面に最大高さ 51 ㎝ の空洞が確認されており、地山応力の分散や落盤による覆工

損傷防止の観点から裏込め注入の必要性が指摘されていた。さらに、覆工厚さが設計厚さの 1/3 以下の部分があることや、閉塞クラックも確認されていることから、覆工コンクリートの損傷防止のため裏込め注入に先立って覆工コンクリートの内面補強を施す計画となった。なお、閉塞クラックは、施工時におけるコールドジョイントおよび供用後の経年変化により生じたものと考えられる。

4.2 補強設計

 内面補強の設計では、覆工自重、裏込め材自重および注入圧が作用するケースについて、骨組み解析を実施し、AFRP メッシュの補強量を決定した。図-6

には、解析モデルの概要図を示している。解析は上半

図-4 粒度調整前後の粒度分布(豊原産)図-5 補強対象トンネルの断面図

図-6 解析モデル概要図

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

9.5004.7502.3601.1800.6000.3000.1500.075

ふるいの寸法(㎜)

)%(

率過

通積

粒度調整前

粒度調整後

6 寒地土木研究所月報 №645 2007年2月

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部のみをモデル化して行った。また、裏込め材の自重および注入圧力は、背面空洞部分に作用させている。注入圧力は、施工管理値である 0.1 MPa とした。解析の結果より、AFRP メッシュには、保証耐力が 200 kN/mのものを用いることとした。

4.3 現地施工

 補強工事は、施工延長 18 m を6スパン (1スパンあたり 3 m) に分割し、半断面ずつ全 12 ブロックに分けて施工した。現地においても前述の施工試験の場合と同様、良好な吹付け施工が再現された。なお、施工終了後には、打音検査および電磁波レーダ法により吹付けモルタルと覆工コンクリートの界面に浮きや剥離が無いことを確認した。また、トンネル側面付近をコア抜きした供試体の一軸引張試験3)を実施し、界面の付着強度が十分に確保されていることを確認した。

4.4 裏込め注入時の覆工コンクリートのひずみ測定

 裏込め注入は、背面空洞の端部に可塑性モルタルをグラウトストッパーとして充填した後、エアモルタルを注入する手順で行った。また、裏込め材の注入圧が 0.1 MPa を超えないように圧力管理を行った。 裏込め注入時には、安全管理と本工法の補強効果の検証を目的に、覆工コンクリートに発生するひずみを測定している。ひずみの測定は、覆工コンクリート表面にあらかじめひずみゲージを貼付した PC 鋼棒を埋め込む方法で行った。ひずみ測定位置は、後述の図-

7に示しているように1断面あたり7点であり、ここでは2断面について測定を行った。なお、裏込め注入工は7日間で全工程を終了している。 図-7には、裏込め注入時におけるひずみの測定結果の一例を示している。ここでは、特にひずみが大き

く発生した計測点の結果について示している。裏込め注入によって、最大 25 μ 程度の引張ひずみが発生していることが分かる。なお、引張ひずみが急激に増加している部分が見られるのは、ひずみ計測点付近に裏込め材が注入されたことによるものである。 設計上、覆工コンクリートの設計基準強度( f'c = 18MPa)と弾性係数 (Ec = 22 GPa)から算出される許容引張ひずみ εta は、下式4)により 15 μ 程度と算出される。

                      (1)

                      (2)

(a) AFRP メッシュ取付 (b) モルタル吹付け (c) 施工完了状況

写真-3 現地施工状況

図-7 裏込め注入時におけるひずみの測定結果

寒地土木研究所月報 №645 2007年2月 7

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 ここに、σbt は許容曲げ引張応力度、αは施工時の割増係数5)であり 1.5 としている。 従って、本トンネルの覆工コンクリートには、裏込め材の注入圧(最大 0.1 MPa)が作用することにより許容応力度を上回る引張応力が発生しているものと考えられる。このことは、無補強の状態で裏込め注入を行った場合、覆工コンクリートが引張破壊する可能性があることを意味している。このことより、本トンネルに関しては、本工法による覆工コンクリートの内面補強が有効であったものと判断される。

5.まとめ

 本研究では、短繊維混入吹付けモルタルと連続繊維メッシュを併用した補強工法による既設道路トンネルの内面補強工事への適用を目的に、実施工を想定した種々の施工試験を実施した。また、検討結果に基づいて、既設トンネルの内面補強工事を行い、本工法の適用性について検証した。その結果、以下の知見が得られた。(1)吹付けモルタルの吐出性状には、細骨材の粒度分

布が密接に関連している。特に、粒径が 0.3 ㎜ 以下の微粒分量が多い場合には吐出性状が大きく低下する。

(2)シリカフュームを混入することにより、そのボールベアリング効果が発揮され、細骨材の種類によ

らず良好な吹付け施工が可能となる。(3)実施工においても、模擬トンネルによる施工試験

の場合と同様に、良好な施工が可能であった。(4)裏込め注入時における覆工コンクリートのひずみ

測定結果より、本補強工法の有効性が確認された。

参考文献

(1)田口史雄、三上浩、岸徳光、栗橋祐介、吉田行:AFRPメッシュとビニロン短繊維混入吹付けコンクリートを併用した補強工法による RC はりの耐力向上効果、構造工学論文集、Vol.50A、 2004、pp. 761-770

(2)栗橋祐介、田口史雄、三上浩、岸徳光:吹付けモルタル・AFRPメッシュ併用工法の剥落抑制効果と耐凍害性に及ぼす短繊維混入率の影響、第4回コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集、2004、pp.237-244

(3)栗橋祐介、田口史雄、岸徳光、三上浩:短繊維混入吹付けコンクリートと連続繊維メッシュを用いた既設 RC 桁の補修補強、第4回コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集、2004、pp.377-382

(4)日本道路協会:道路土工 擁壁工指針、1999(5)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 IV 下部構

造編、2002

8 寒地土木研究所月報 №645 2007年2月

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栗橋 祐介*

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ耐寒材料チーム研究員博士(工学)

田口 史雄**

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ耐寒材料チーム上席研究員技術士(建設)

岸 徳光***

室蘭工業大学工学部建設システム工学科教授工学博士

三上 浩***

三井住友建設(株)技術研究所土木研究開発部土木構造研究室室長博士(工学)技術士(建設)

永澤 克巳*****

国土交通省北海道開発局室蘭開発建設部有珠復旧事務所(前 函館開発建設部工務課)

小沢 宏行******

国土交通省北海道開発局室蘭開発建設部富川道路維持事業所(前 函館開発建設部工務課)

寒地土木研究所月報 №645 2007年2月 9