10
VOL.41 S-5 泌 尿 器 科 領 域 に お け るtemafloxacinの 検討 537 Temafloxacinの 泌尿器科領域 における基礎的 ・臨床的検 討 和宏 ・渡辺豊彦 ・竹中 皇・宇埜 智・林 俊秀 小野憲昭 ・公文裕巳 ・大森弘之 岡山大学医学部泌尿器科教室* (主任:大森弘之教授) 難波克一 岡山市民病院泌尿器科 近藤捷嘉 岡山赤十字病院泌尿器科 入江 伸 ・金重哲三 岡山中央病院泌尿器科 新 規 ニ ュ ー キ ノ ロ ン 系 合 成 抗 菌 剤temafloxacinの 前 立 腺 液 移 行 お よ び尿 路 性 器 感 染 症 に 対す る有 用性 に つ いて 検 討 を行 った 。 1)健常 人ボ ラ ンテ ィア5名に本剤300mgを単 回経 口投 与 した時 の前立腺 液内 濃度 は, 1,2,4時間後 でそれぞ れ0.33,0.71,0.66μ9/m1で,対 血 清 比 は0.32,035,0,43で あった。 2)尿路 感染症分 離菌14菌種209株に対 す る本剤 のMICを測 定 し,6同系 薬剤 で あるoflo- xacin (OFLX), cipronoxacin (CPFX), enoxacin (ENX)お よ びnorfloxacin (NFLX)と 比較 した。全 体と してCPFXには劣 る もの の,そ の他 の 同系薬剤 とほぼ同等 の抗 菌力 を示 した。 3)急 性 単 純 性 膀 胱 炎2例,複 雑 性 尿 路 感 染 症13例お よ び 細 菌 性 前 立 腺 炎2例 を対 象 に 本剤 を経 口投与 し,臨床 的有用性 を検 討 した。 UTI薬 効 評 価 基 準 に 準 じて 判 定 した 総 合 臨床 効 果(UTI判 定)は,急 性 単 純 性 膀 胱 炎 の2例 は,著 効1例,有 効1例 で あ っ た 。 複 雑 性 尿 路 感 染 症13例で は ,著効3例,有 効6例,無 効4 例 で 有 効 率 は69.2%で あ っ た 。 細 菌 学 的 効 果 で は14株中12株が 消 失 し,85.7%の 除菌率 を示 した 。 また,細 菌 性 前 立 腺 炎2例 の 主 治 医 判 定 は,1例 が 有 効 で,1例 は や や 有 効 で あ った 。 なお,い ずれ の症例 において も,自 ・他覚的副作用および臨床検査値の異常変動は認め られ な か っ た。 以上 の如 く,本 剤 の 前 立 腺 液 へ の 移 行 は 良 好 で あ り,尿 路 感 染 症 に対 す る 臨 床 効 果 も ほ ぼ満足 す べ き成 績 で あ っ た こ と よ り,泌 尿 器 科 領 域 感 染 症 に お い て 有 用 性 の 高 い 薬 剤 と考 え られ る。 Key words:尿路 感 染 症,temafloxacin,前 立 腺 液 移 行,臨 床的検魯 Temanoxacin(TMFX)は,米 国アボット社で開発さ れた新規ニ ュー キ ノ ロ ン系 合 成 抗 菌 剤 で あ る 本剤 は,グ ラ ム陽性 菌 を は じめ グ ラ ム 陰 性 菌 ,嫌 気 性菌に対 して幅広い抗 菌スペ ク トル を有 し ,特 にグラ ム陽性菌 お よび嫌 気性 菌 に 対 して 強 い抗 菌 力 を 示 す 本剤を健常成人に経 口投 与 した場 合 ,血 清 中濃 度 は用 量 依 存 的 に 上 昇 し,血 清 中 濃 度 半 減 期 は約7時 間 と 長 く,持続 性が あ る。尿 中排 泄率 は48時間で約70~80% で あ り,連 続 投 与 で も蓄 積 性 は認 め ら れ な い1)。 今回,我 々は本剤の前立腺液移行,抗 菌力,各 種尿 路 性 器 感 染 症 にお け る臨 床 効 果,安 全 性 な らび に有 用 性 につ い て検 討 を行 っ た の で 報 告 す る 。 * 〒700 岡山市鹿 田町2-5-1

泌尿器科領域におけるtemafloxacinの検討 - …fa.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/41/Supplement5/41_537.pdfVOL.41 S-5 泌尿器科領域におけるtemafloxacinの検討 537

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

VOL.41 S-5泌尿 器科領 域 におけ るtemafloxacinの 検 討

537

Temafloxacinの 泌尿器科領域 における基礎的 ・臨床的検 討

畠 和宏 ・渡辺豊彦 ・竹中 皇 ・宇埜 智 ・林 俊秀

小野憲昭 ・公文裕巳 ・大森弘之

岡山大学医学部泌尿器科教室*

(主任:大 森弘之教授)

難波克一

岡山市民病院泌尿器科

近藤捷嘉

岡山赤十字病院泌尿器科

入江 伸 ・金重哲三

岡山中央病院泌尿器科

新規ニ ューキ ノロン系合成 抗 菌剤temafloxacinの 前立 腺 液移行 お よ び尿 路性 器感 染症 に

対す る有用性 につ いて検 討 を行 った。

1)健 常 人ボ ラ ンテ ィア5名 に本剤300mgを 単 回経 口投 与 した時 の前立腺 液内 濃度 は,

1,2,4時 間後 でそれぞ れ0.33,0.71,0.66μ9/m1で,対 血清 比 は0.32,035,0,43で あ った。

2)尿 路 感染症分 離菌14菌 種209株 に対 す る本剤 のMICを 測 定 し,6同 系 薬剤 で あるoflo-

xacin (OFLX), cipronoxacin (CPFX), enoxacin (ENX)お よびnorfloxacin (NFLX)と 比較 した。全

体と してCPFXに は劣 る もの の,そ の他 の 同系薬剤 とほぼ同等 の抗 菌力 を示 した。

3)急 性 単純性膀 胱 炎2例,複 雑 性尿 路感 染症13例 お よび細菌性 前 立腺 炎2例 を対 象 に

本剤 を経 口投与 し,臨床 的有用性 を検 討 した。

UTI薬 効 評価基準 に準 じて判定 した総 合 臨床 効果(UTI判 定)は,急 性単 純性 膀胱 炎の2例

は,著 効1例,有 効1例 であ った。複雑 性尿 路感 染症13例 では,著 効3例,有 効6例,無 効4

例で有効率 は69.2%で あ った。細 菌 学 的効果 で は14株 中12株 が消 失 し,85.7%の 除菌率

を示 した。 また,細 菌性 前立腺 炎2例 の主 治医判定 は,1例 が有 効で,1例 はやや有 効で あ

った。

なお,い ずれ の症例 において も,自 ・他 覚的副作 用 お よび臨床検査値 の異常 変動 は認 め

られなかった。

以上 の如 く,本 剤 の前立腺 液へ の移行 は良好 であ り,尿 路感 染症 に対 す る臨床効 果 もほ

ぼ満足すべ き成績 であ ったこ とよ り,泌 尿 器科領域 感染症 に おいて有用 性の 高い薬剤 と考

えられる。

Key words:尿 路 感 染 症,temafloxacin,前 立 腺 液 移 行,臨 床 的 検魯

Temanoxacin(TMFX)は,米 国 ア ボ ッ ト社 で 開 発 さ

れた新規ニューキノロン系合成抗 菌剤 であ る。

本剤は,グ ラム陽性 菌 をは じめ グラム陰性菌 ,嫌 気

性菌に対 して幅広い抗 菌スペ ク トル を有 し,特 にグラ

ム陽性菌および嫌気性 菌に対 して強 い抗 菌力 を示す。

本剤を健常成人に経 口投 与 した場 合,血 清 中濃 度 は用

量 依存 的 に上 昇 し,血 清 中濃 度半 減期 は約7時 間 と長

く,持 続 性が あ る。尿 中排 泄率 は48時 間で約70~80%

であ り,連 続投 与 で も蓄積性 は認 め られ ない1)。

今 回,我 々は本剤 の前立 腺液移 行,抗 菌力,各 種尿

路性器 感染症 にお け る臨床 効果,安 全性 な らび に有 用

性 につ い て検 討 を行 ったので報告 す る。*〒700 岡山市鹿田町2-5-1

1 538 CHEMOTHERAPYDEC. 1993

I.前 立腺液 移行

1)対 象お よび方法

前 立 腺液 移 行 は,健 常 大 ボ ラ ンテ ィア5名 を対 象 と

し,TMFX300mgを 単 回経 口投与 し,1,2,4時 間後

に前 立腺 マ ッサ ー ジを行 い前立 腺 液 を採 取 し,同 時 に

採 血 した 血 滴 中 濃 度 と比 較 検 計 した。 濃 度 測 定 は

Escherichia coli Kp株 を検 定菌 とす るbioassay法 にて行

っ た。 な お,前 立 腺 液 お よ び血 滴 は 濃 度 測 定 まで

-20℃ にて凍結 保存 した。

2)結 果

前 立腺 液内濃 度 ならび に血 清 中濃度 をFig.1に 示 し

た。 平均 前立腺 液 内濃 度 お よび平均 血清 中濃 度 は,そ

れ ぞ れ投 与1時 間後 で0.33お よび1.22μg/ml,2時 間

後で は0.71お よび1.81μg/ml,4時 間後で は0.66お よび

1.53μg/mlで あ った。 また,対 血 清比(Pf/S)は,1,2,

4時 間後で それぞ れ0.32,0.35お よび0.43で あ った。

II.抗 菌 力

1)対 象お よび方 法

標 準株3株(E.coli 2株,Proteus minbilis 1株)お よび

最 近 の尿 路感 染 症患 者 よ りの分離 株209株(グ ラム 陽

性 菌19株,グ ラム陰 性菌190株)に つ いてTMFXの 最

小発 育 阻止 濃度(MIC)を 日本化 学療法 学会標 準法2)に準

じ,接 種 菌 量106cells/mlで 測定 した。 また,同 系 薬

剤 で あ るofloxacin(OFLX),ciprofloxacim(CPFX),

enoxacin(ENX)お よ び 織orfloxacin(NFLX)に つ いて も併

せ てMICを 測 定 し,本 剤 と比 較 検 討 した。

2)結 果(Table 1-1,1-2)

標 準 株 に お け るMICはB.cole KP,E.coli NIHJ JC-2

の2株 でo.10μg/ml,P.mirabilis TH-4株 で は3 ,13μg/ml

で あ った 。

臨 床 分 離 株 につ い て 見 る とStqphylococcus episermidis

(9株)で は 本 剤 のMICは0.10~1.56μg/mlの 間に分布

し,MIC50は0.39μg/ml,MIC90は1.56μg/mlと

CPFXと 同 等 で,OFLX,ENX,NFLXと 比較 す るとやや

優 れ た抗 菌 力 を示 した。

Enterococcus faecalis(10株)で は 本 剤 のMICは0 .78~

25μg/mlの 間 に 分 布 し,MIC50は1,56μg/ml,MIC90

は25μg/mlで,OFLX,CPFXと ほ ぼ 同 等 で,ENX,

NFLXと 比 較 して2管 程 度 優 れ て い た。

E.coli(30株),Klebsiella pneumoniae(20株),Kleb-

siella oxytoca(10株)に お け る本 剤 のMIC90は それぞれ

0.20μg/ml,0.78μg/ml,0.20μg/mlとCPFXに は2~3

管 劣 る もの の,そ の 他 の対 照 薬 剤 とほ ぼ同等 の抗菌力

を示 した 。

Enterobacter spp.(19株)に つ い て は,Enlerobuter

aerogenes(6株)に 対 す るMIC50は0.20μg/ml,MIC90は

0.78μg/ml,Enterobuter cloacae(13株)に 対 す るMIC50

は0.20μg/ml,MICgoは0.39μg/mlと 良好 で あ り,い ず

Fig. 1. Prostatic fluid and serum concentrations of temafloxacin after oral administration of 300mg in volunteers

VOL. 41 S-5

泌尿器 科領域 にお け るtemafloxacinの 検 討539

Table 1-1. In vitro activity of temafloxacin, ofloxacin, ciprofloxacin, enoxacin and norfloxacin against clinical isolatesand standard strains

(inoculum size: 106 cells/ml)

540 CHEMOTHERAPYDEC. 1993

Table 1-2. In vitro activity of temafloxacin, ofloxacin, ciprofloxacin, enoxacin and norfloxacin against clinical isolates

and standard strains

(inoculum size: 106 cells/ml)

れ もCPFXに は 劣 る も の の,他 の 対 照 薬 剤 と比 較 す る

とや や優 れ た抗 菌 力 を 示 した 。

Citrobacter freundii(19株)で は 本 剤 のMICは0.10~

100μg/mlの 間 に 分 布 し,MIC50は12.5μg/ml,

MIC90は100μg/mlと,CPFXを 除 く対 照 薬 剤 と ほ ぼ同

等 の抗 菌 力 で あ っ た 。

Proteus spp.に つ い て はP.mirabilis(20株)に 対 する

MIC90は3.13μg/mlと 対 照 薬 剤 よ り1~4管 劣 る ものの,

Prhoteus vulgaris(10株)に 対 す るMIC90は0.39μg/mlと

強 い 抗 菌 力 を 示 しCPFXを 除 く対 照 薬 剤 とほぼ同等の

成 績 で あ っ た 。

Morganella morganii(10株)で は 本 剤 のMICは0.78~

VOL. 41 S-5

泌 尿器科 領域 にお けるtemafloxacinの 検討541

50μg/mlの間に分 布 し,MIC50は25μg/ml,MIC90は

50μg/mlとCPFXに はや や劣 る もの の ほぼ 同等,他 の

対照薬剤と比較する とやや優 れた成績 であ った。

Serratia marcescens(19株)で は,本 剤 のMICは0.39

~>100μg/mlの 間 に分 布 し て い た。MIC50は12.5

μg/m1,MIC90は100μg/mlと,CPFXに はや や劣 る も

のの他の対照薬剤 とほぼ同等 の抗菌力 を示 した。

Pseudomonas aeruginosa(23株)で は本剤 のMICは0.39

~>100μg/mlの 間に分布 してい た。MIC50は25μg/ml,

MIC90は>100μg/mlと 大 きい値で あ ったがCPFXを 除

く他の対照薬剤 とほぼ同等 の抗 菌力 を示 した。

Pseudomonas putida(10株)で は 本剤 のMICは0.20~

>100μg/mlの 間 に 分 布 し,MIC50は1.56μg/ml,

MIC90は>100μg/mlとCPFXに や や劣 る ものの他 の対

照薬剤とほぼ同等の抗菌力 を示 した。

III.臨 床 的 検 討

1)対 象と方法

1989年1月 よ り1991年6月 までの期 間 に おいて,岡

山大学泌尿器科 ない し関連施設 を受診 し,臨 床 試験 参

加の同意が得 られた尿路感染症患 者 を対 象 に本 剤 を使

用した。疾患 の内訳 は急性単 純性 膀 胱 炎2例,複 雑性

尿路感染症13例 および細菌性 前立腺 炎2例 で あ った。

なお,複 雑性尿路感染症の基礎疾患 は,前 立腺 肥大症

3例,神経因性膀胱1例,前 立腺結 石1例,前 立 腺癌1例,

膀胱腫瘍1例,両 腎結石1例,左 膀胱 尿管 逆流症1例,

神経因性膀胱+両 側膀胱尿管 逆流症1例,尿 道 癌2例,

神経因性膀胱+前 立腺肥 大症+前 立腺 結石1例 であ っ

た。

投与方法は,本剤 を1回150~300mgで,原 則 と して

1日2回食後投与 した。投 与期 間 は急 性 単 純性 膀 胱 炎

では3日間,複 雑性尿路感 染症で は5~7日 間,細 菌性

前立腺炎では7日 間 とした。

臨床効果の判定 はUTI薬 効 評価 基準(第3版)2)お よび

その追補3)に準 じて行 い,併 せ て主治 医 に よる判定 も

行 った。 また,自 ・他覚 的副作用 な らびに臨床 検査値

の異常 変動 の有無 を検 計 した。 なお,菌 の同定 は施設

お よび集 中測 定機 関(三菱 油化 ビーシ ーエ ル)で行 い,

併せ て集中測 定機 関にお いて は,日 本化学 療法学 会標

準法 に従 い可 能 な限 りMICの 測 定 を行 った4)。

2)結 果

(1)急 性単 純性膀 胱炎

UTI薬 効 評価 基準 に準 じて判定 した総合 臨床効 果判

定(UTI判 定)は,著 効1例,有 効1例 で あ った。 また,

主治 医判定 も同様 の結果 であ った(Table 2)。

(2)複 雑性尿 路感 染症

UTI判 定 は,著 効3例,有 効6例,無 効4例 で 有 効 率

69.2%で あ った。 また,主 治医判 定 は,著 効4例,有 効

5例,無 効4例 であ った。

UTI判 定 を用 量別 にみ る と,300mg×2投 与 群 が8

例で 最 も多 く,著 効2例,有 効4例,無 効2例 で有 効率

75.0%で あ った。一 方,150mg×2投 与群 で は,著 効1

例,有 効1例,無 効1例,200mg×2投 与群で は,有 効1

例,無 効1例 で あ った(Table 3,4)。

UTI疾 患病 態群別 効果 をみ る と,単 数 菌感染 群12例

で は,著 効3例,有 効5例,無 効4例 で 有効率75.0%で

あ り,複 数菌感 染 は1例 で有効 で あ った。 なお,単 数

菌感 染で は前 立腺術 後感 染症 が2例 あ り,い ず れ も有

効 で,ま た,カ テー テ ル留 置 例1例 は無 効 で あ った

(Table 5)。

Table 6に 示 す如 く,本 剤 投与 前 の尿 中 よ り,E.coli,

P.aeruginosa,Staphylococcus aureus,S.epidermidisな ど

8菌 種14株 が分離 され,う ち,P.aerugonosaが3株 中2

株 が存続 したの を除 き,い ず れの分離 菌 も消 失 し,除

菌率 は85.7%で あ った。 なお,存 続菌 であ るP.aerugi-

nosa 2株 のMICは,100お よび>100μg/mlで あ った。

投 与 後 出現菌 と して は,P.aeruginosaが2株,Trichos-

poron beigeliiの1株が認 め られ た(Table 7)。

(3)細 菌性前 立腺炎

Table 2. Clinical summary of uncomplicated UTI patients treated with temafloxacin

AUC: acute uncomplicated cystitis

MIC: inoculum size 106 cells/ml

*

before treatment

after treatment

** UTI: cdteria proposed by the Japanese UTI Committee

542 CHEMOTHERAPYDEC. 1993

慢性細 菌 性前 立腺 炎 の急 性 増悪2例 の主治 医判定 は

1例 が 有効 で,1例 は やや有 効 であ った。 また,UTI薬

効 評価 基準の合 致例 はなか った(Table 8)。

(4)副 作用

副作 用お よび臨床検査 値 の異常変 動 は,検 附 した総

投 与症例17例 において1例 も認 めなか った。

IV.考 察

今 日,泌 尿器 科領域 を問 わず,ニ ューキ ノロ ン薬 は

経 口抗 菌薬の なか で最 も処方機 会 の高い薬 剤 とな って

い る。 この こ とは,ニ ューキ ノロ ン薬の広 い抗菌 スペ

ク トル と強 い抗 菌力 な らびに良好な組織移行性に支え

られてい る。 泌尿器科 領域 にお ける組織移行性として

は,前 立腺へ の移 行性 が問題 となる。そこで今回,本

剤 の泌尿器科 領域 にお ける臨床 的有用性 を検討するた

め,ま ず前 立腺液 への移行性 に検 討 を加え,同 時に抗

菌 力,各 種尿 路感 染症 に対 する臨床効果および安全性

に検 計 を加 えた。

1)前 立腺 液移行

前 立腺 液 内濃度 は,1,2,4時 間群でそれぞれ033 ,

0.71,0.66μg/mlで,2時 間後 で ピー ク値に達 しており

Table 3. Clinical summary of complicated UTI patients treated with temafloxacin

CCC: chronic complicated cystitis CCP: chronic complicated pyelonephritis BPH: benign prostatic hypertrophy

VUR: vesicoureteral reflux* before treatment

after treatment

** UTI:criteria proposed by the Japanese UTI Committee

MIC: inoculum size 106 cells/ml

VOL.41 S-5

泌 尿器科 領域 にお けるtemafloxacinの 検討543

Table 4. Overall clinical efficacy of temafloxacin in complicated UTI

Table 5. Overall clinical efficacy of temafloxacin in complicated UTI classified by the type of infection

Table 6. Bacteriological response to temafloxacin in complicated UTI

*Persisted: Regardless of bacterial count

544 CHEMOTHERAPYDEC. 1993

血 清 中 濃 度 とほ ぼ 同 様 の 推 移 を 示 して い た 。 また,対

血 清 比(Pf/S)は そ れ ぞ れ0。32,0、35,0A3で あ っ た 。

対 血 清 比(Pf/S>を,同 系 薬 剤 で あ るOFLX6)(200mg

投 与,1.5時 間 後1.92,2,5時 間 後196,4時 開 後1,65),

CPFX6)(200mg投 与,1時 間 後0.11,2時 間 後0,39,4時

間 後0.71),tosufloxacin(TFLX)7)(150mg投 与,1時 間 後

0,118,2時 間 後0,157,4時 間 後0.091)と 比 較 す るi

と,TMFXのPf/SはOFLXよ り低 い も の の,CPFX,

TFLXよ り高 か っ た。 こ れ よ り,TMFXは 既 存 の 同 系

薬 剤 と比 べ て,遜 色 な い 前 立 腺 液 へ の 移 行 性 を示 す も

の と考 え られ た 。

2)抗 菌 力

本 剤 は,グ ラ ム 陽 性 菌 で はCPFXと な ら び 優 れ た 抗

菌 力 を示 した 。E.clmae,Mmorganiiで はCpFXに は

劣 る もの の 他 の対 照 薬 と比 較 す る と や や 優 れ た抗 菌 力

を示Iた 。 他 の グ ラ ム陰 性 菌 で は,CPFXを 除 く対 照

薬 と ほ ぼ 同等 の 抗 菌 力 を示Iた 。C.freundiiとS,mar-

cescmsで は,MIC50は12.5μg/ml,MIC90は100μg/ml,

ま たP.aeruginosaで 各 々25μg/ml,>100μg/mlと な

っ て お り,こ れ ら の 菌 種 で は 臨 床 効 果 が あ ま り期 待

で き な い もの と考 え ら れ た 。

3)臨 床 成 績

複 雑 性 尿 路 感 染 症 に対 して は,UTI判 定 の 有 効 率 が

Table 7. Strains* appearing after temafloxacin treatment

in complicated UTI

*Persisted: Regardless of bacterial count

69.2%と 良好 な成 績が 得 られて いる。以前 当教室で

行 った複雑性 尿路 感染症 に対す る同系薬剤の有効率は

ENX8160,0%,OFLX92.0%.CPFX80,0%,10mefloxacin

(LFLX)分)64.4%,TFLX60.0%,neroxacin(FLRX)10)

75,6%,sparfloxacin(SPFX)11)57.9%で あ った。患者の

背景因子 な どが一様で ないため単純 に比較することに

は問題 があ るが,他 の ニ ューキ ノロン薬 とほぼ同等の

成績で あ ると思 われ る。

細 菌学 的 効 果 に関 して は,85.7%の 除菌率 を示し,

当教室 で行 った他の 同系薬剤 の試験成績(ENX80編 ,

OFLX92.0%,CPFX80.6%,LFLX73.0%,TFLX

75.0%,FLRX80,0%,SPFX72、0%)と 比べて,同 等も

Iく はやや優 れ た除菌効果 を示 した。

用法 ・用量 別 臨床 効果 をみ る と,最 も多 く投 与され

た1日300mg×2投 与 群 が有 効 率75.0%と,他 の用

法 ・用量 に比べ て優 れた成績 であ った。少数症例の検

討 で あ り,最終 的 な至 適用 法 につ いて は,さ らに多数

症例 の集積 結果 を待 って判 断 されるべ きであろう。

副作用 お よび臨床 検査値 の異 常変動 は,検 討 した総

投与 症例17例 において1例 も認め てお らず,安 全性の

高 い薬剤 であ ると考 えられる。

以上 よ り本薬剤 は泌尿器科領域 感染症 に対Iて 有用

性 の高 い薬剤で ある と考 え られた。

文 献

1) 那 須 勝, 熊 澤 浮 一: 第39回 日本 化 学療 法学

会 西 日 本 支 部 総 会, 新 薬 シ ン ポ ジ ウ ム。

Temafloxacin (TAi167), 1991, 大分

2) UTI研 究 会 (代表:大 越 正 秋): UTI薬 効評価基準

(第3版)。Chemotherapy 34: 409~441, 1986

3) UTI研 究 会 (代表:大 越 正 秋): UTI薬 効評 価基準

(第3版 ・追 補)。 泌 尿 紀 要35: 427~445, 1989

Table 8. Clinical summary of chronic prostatitis patients treated with temafloxacin

*before treatment

after treatment

VOL.41 S-5泌尿 器科 領域 にお けるtemafloxacinの 検討

545

4) 日本化 学 療 法 学 会: 最 小 発 育 阻 止 濃 度 (MIC) 測

定 法再 改 訂 に つ い て 。Chemotherapy 29: 76~

79, 1981

5) 宮 田和豊, 沖 宗 正 明, 石 戸 則 孝, 赤 沢 信 幸, 公

文 裕 巳, 大森 弘 之: 泌 尿 器 科 領 域 に お け るDL-

8280の 基 礎 的 ・臨 床 的 検 討 。Chemotherapy 32

(S-1): 698~707, 1984

6) 水野全 裕, 古 川 正 隆, 岸 幹 雄, 宮 田 和 豊, 公

文裕 巳, 大 森 弘 之, 近 藤 捷 嘉, 近 藤 淳, 難 波

克一, 片 山泰 弘, 赤 枝 輝 明: 泌 尿 器 科 領 域 に お

け るBAYo 9867の 基 礎 的 ・臨 床 的 検 討 。Che-

motherapy 33(S-7): 714~728, 1985

7) 津川 昌也, 山 田 大 介, 那 須 良 次, 岸 幹 雄, 公

文裕 巳, 大森 弘 之, 難 波 克 一, 近 藤 捷 嘉, 片 山

泰弘, 赤枝 輝 明, 赤 澤 信 幸: 泌 尿 器 科 領 域 に お

け るT-3262の 基 礎 的 ・ 臨 床 的 検 討 。Che-

motherapy 36 (S-9); 1074~1090, 1988

8) 宮 田和 豊, 古 川 正 隆, 沖 宗 正 明, 石 芦 則 孝, 赤

沢 信 宰, 公 文 裕 巳, 大 森 弘 之, 近 藤 淳, 難 波 克

一: 泌 尿 器 科 領 城 に お け るAT 。2266の 基 礎 的 ・

臨 床 的 検 討 。Chemotherapy32(S-3): 796~

810, 1984

9) 那 須 良 次, 津 川 愚 也, 岸 幹 雄, 水 野 金 裕, 公

文 裕 巳, 大 森 弘 之, 他 関 連9施 設: NY. 198の

泌 尿 器 科 領 域 に お け る 基 礎 的 ・臨 床 的 検 討 。

Chemotherapy 36 (S-2): 974~998, 1988

10) 西 谷 嘉 夫, 宇 埜 智, 山 田 大 介, 那 須 良 次, 早 田

俊 司, 津 川 昌 也, 公 文 裕 巳, 大 森 弘 之: 泌 尿 器

科 領 域 に お け るFleroxacinの 基 礎 的 ・臨 床 的 検

討 。Chemotherapy 38 (S-2) 1531~538, 1990

11) 宇 埜 智, 西 谷 嘉 夫, 山 田 大 介, 津 川 昌 也, 公 文

裕 巳, 大 森 弘 之, 難 波 克 一, 岸 幹 雄: Sparflo-

xacinの 泌 尿 器 科 領 域 に お け る 基 礎 的 ・臨 床 的

検 討 。Chemotherapy 39(S-4): 513~522, 1991

546 CHEMOTHERAPYDEC. 1993

Basic and clinical studies on temafloxacin in urogenital infections

Kazuhiro Hata, Toyohiko Watanabe, Tadasu Taken aka, Satoshi Uno,

Toshihide Hayashi, Noriaki Ono, Hiromi Kumon and Hiroyuki OhmoriDepartment of Urology, Okayama University Medical School (Director: Prof. H. Ohmori)

2-5-1 Shikata-cho, Okayama 700, Japan

KatsuichiNanba

DepartmentofUrology,OkayamaCityHospital

KatsuyoshiKonda

DepartmentofUrologytOkayamaRedCrossHospital

ShinIrieandTetsuzaKaneshige

DepartmentofUrology,OkayamaCentralHospital

The penetration into prostatic fluid, antibacterial activity and clinical usefulness of temaflo-

xacin (TMFX), a new quinolone were studied.

1) The concentrations of TMFX the nro fluid were 0.33.0.7l and O.88ug/ml at 1.2

and 4 hours after a single administration of 300 mg of TMFX, and the ratios to serum level

(prostatic fluid/serum) were 0.32, 0.35 and 0.43, respectively.2) We determined the MICs of TMFX against clinical isolates (209 strains of 14 species) from

urinary tract infections, and compared them with those o^onoxacin (OFLX).ciproxac in (CPFX).

enoxacin (ENX) and norfloxacin (NFLX). The antibacterial activity of TMFX was inferior to that of

CPFX but almost equal to those of other control drugs.

3) The overall clinical efficacy rate, evaluated according to the criteria of the Japanese UTI

Committee, was 100% (3/2) in acute uncomplicated cystitis and 69.3% (9/13) in chronic

complicated UTI.Bacteriological|y, 12 of 14 strains (85.7%) were eradicated. Two patients with

chronic prostatitis were evaluated as good and fair by the doctors.

4) No drug-related side effects, including abnormal laboratory findings, were observed in any

of the 17 cases.