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日本経済再生のために、いかにマク 5 ロ経済政策を運営すべきか? ~アベノミクス、金融緩和と財政健 全化~ 追手門学院大学 経済学部 10 奥井ゼミナール 公共経済論パート 大岡陸 蟹山翔太 15 亀井亮 北野裕士 竹中慎也 長渕悠 山口智也 20 25

日本経済再生のために、いかにマク ~アベノミクス …c-faculty.chuo-u.ac.jp/~iijima/PC2013/papers/305.pdfれた。主にここで取り上げるのは金融緩和と機動的な財政支出の二つである。

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日本経済再生のために、いかにマク5

ロ経済政策を運営すべきか?

~アベノミクス、金融緩和と財政健

全化~

追手門学院大学

経済学部 10

奥井ゼミナール

公共経済論パート

大岡陸

蟹山翔太 15

亀井亮

北野裕士

竹中慎也

長渕悠

山口智也 20

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アベノミクス

20

25

停滞の20年

再生の10年

早期のデフ

レ脱却

金融政策 財政政策

マンデル

フレミン

グモデル

流動性の罠

ハイパーイ

ンフレ

乗数

効果

非ケインズ

効果

古典派によ

る財政策無

効論 政策提言

金融緩和

税制改革 コンセッシ

ョン

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目次

・はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p4

【 第 一 章 】 10

・・・・・・・・・・・・日本経済停滞の現状・・・・・・・・・・・・・・・・

1-1 日本の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p5

1-2 アベノミクス主な政策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p5~6

1-3 停滞の 20 年と「再生の 10 年」・・・・・・・・・・・・・・・・・・p6~8 15

【 第 二 章 】

・・・・・・・・・・・・・・金融政策に関する考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

20

2-1 アベノミクスの真髄・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p9~11

2-2 アベノミクス 第一の矢 大胆な金融緩和・・・・・・・・・・・・p11~12

2-3 マンデルフレミングモデル 財政政策無効、金融政策有効・・・・・p13

2-4 金融緩和のもとでの流動性の罠、ハイパーインフレについて・・・・p13~17

25

【 第 三 章 】

・・・・・・・・・・・・財政政策に関する考察・・・・・・・・・・・・・・・・・

3-1 アベノミクス 第二の矢 機動的な財政政策・・・・・p18

3-2 乗数効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p18~21

3-3 非ケインズ効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p21 30

3-4 財政政策の効果の低下、古典派による財政政策無効論・・・・p22~23

【 第 四 章 】

・・・・・・・・・・・・・・・財政に関する政策提言・・・・・・・・・・・・・・・・

4-1 金融緩和・・・・・・・・・p23~24 35

4-1 税制改革・・・・・・・・・p24~28

4-2 コンセッション・・・・・・・p28~30

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p31

参 考 文 献 ・・・・・・・・・・・・p32

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はじめに

日本の経済は1991年から2000年の10年間を「失われた10年」、さらに20年

間にわたる期間を「停滞の20年」と呼び、長期的に経済が停滞している。経済停滞の原

因はバブル崩壊時から続いている。バブルとは1986年から1991年までの期間に起

こった好景気であり、これは実体の伴わないものであった。金融緩和に伴い土地価格が実10

際の値段をはるかに超える金額になり、その結果、日銀の引き締め政策が実際の土地価格

より大幅に値下がりすることによって、大量の不良債権を引き起こし多くの投資家や、金

融機関が破産してしまったことである。ここからの10年間を「失われた10年」と呼ぶ。

さらに2007年のサブプライムローンをきっかけに2008年リーマンブラザーズが倒

産した。これが引き金となり世界が不況に陥った。これが原因となり日本では景気が好転15

せず「停滞の20年」と呼ばれている。そして日本は今、経済を大きく立て直す時期に入

っている。2012年自民党政権が発足し、第96代安倍内閣が誕生した。安倍首相はア

ベノミクスと呼ばれる経済政策を発動した。しかしアベノミクスを行うに当たり日本は2

011年に発生した東日本大震災や、今まさに問題となっている福島原子力発電所問題な

どいくつもの障害がある。これらを乗り越えていくのは大きな課題になるだろう。そこで20

私たちはアベノミクスに対し是々非々議論するという形で経済復興の力になりたいと考え

ている。

第一章では日本の経済停滞や現状について述べる。第二章では第一の矢でもある「大胆

な金融政策」について詳しく考察していく。第三章では「機動的な財政政策」の弱点を見

ていく。第四章では三章の結果を踏まえ、今後どういった選択が必要か政策提言していく。25

私たちの考えを簡単に要約するなら次のようである。大胆な金融緩和は望ましい。これに

対して財政政策は慎重であるべきで、増税など財政の健全化を考えたい。

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第一章 日本経済停滞の現状

1-1日本の現状

10

ここ近年で日本にもたらした出来事と言えばやはり2011年 3 月11日に起こった東

日本大震災が一番の主因である。東日本大震災後の日本経済はサプライチェーンの影響な

どから 2011 年 4 月から 6 月期までマイナス成長が続いたのである。現在震災から約二年

の月日がたっているが未だ完全復興の目度はたっていないのである。

今回の震災は 1995 年に起こった阪神淡路大震災に比べて厳しい条件がいくつかあり、完15

全復興までの道のりは厳しい。これには三点ある。

一つ目は今回の被災地から部品供給途絶により全国的な生産活動や物流に影響がでるこ

とである。第二に福島原発の事故により首都圏の経済活動に影響が及んでいる。第三は復

興財源の問題である。阪神淡路大震災の時は現在ほど厳しくなかったが、今回は震災前か

ら財政が極めて厳しい状態にあり、復興費用を安易に国債増発に依存することができなか20

ったのである。そこで既存の歳出の削減、あるいは増税で財源を捻出することが必要とさ

れるが、これでは家計や企業の負担が増加することを意味するため、民間需要を下押しす

る懸念がある。

現日本は未曽有の経済危機におちいっている。リーマンショック後から続く慢性的な円

高不況と、それにともなうデフレスパイラルにより、経済成長率は 2008 年に過去最低の25

-3・8%を記録した。また、財政に関しては、2012 年には1000兆円を超過し債務残

高となった。この原因はおもに経済失速にあるというのは周知の事実である。衆議院選挙

で与党になった自民党の安部総裁は、この事態を挽回すべく大がかりな経済政策を打ち出

した。それがアベノミクスである。

30

1-2 アベノミクスの主な政策

ここではアベノミクスの主な政策について論じてみる。平成 24 年 12 月 26 日に発足し

た第二次安倍内閣は相互に補強しあう関係にある三本の矢(いわゆるアベノミクス)を一

体として推進し、長期にわたるデフレと景気低迷からの脱却を現下の最優先の課題にして35

いる。こうしたなかで、これまでの「停滞の 20 年」をふまえ、デフレからの早期脱却と

「再生の 10 年」に向けた処方箋を提示し経済財政運営と改革の基本方針がとりまとめら

れた。主にここで取り上げるのは金融緩和と機動的な財政支出の二つである。

第一の矢の大胆な金融緩和では政府・日本銀行はデフレからの早期脱却と物価安定の下

での持続的な経済成長の実現に向け、政策連携の強化とそれぞれの取組を発表した。この40

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中で日本銀行は消費者物価の対前年比率上昇率 2%を「物価安定目標」とすることを明確5

にし、早期に実現することとしたのである。第二の矢「機動的な財政支出」では政府は本

年1月 11 日に景気の底割れを回避し、成長戦略に繋げていくことなどを目的として、平

成 25 年度当初予算案と合わせた 15 カ月予算の考え方の下「日本経済再生に向けた緊急経

済対策」及びこれを具体化する 13 兆円に上る過去最大額の平成 24 年度補正予算を決定し

た。 10

以上に述べた「大胆な金融政策」「機動的な財政支出」そして「民間投資を喚起する成

長戦略」をアベノミクスといい、この政策により景気回復を図ろうとしているのである。

アベノミクスについては第二章、第三章で詳しく論じていくことにしよう。

1-3「停滞の20年」とデフレからの脱却と「再生の10年」 15

この章では先ほど述べた、「停滞の 20 年」と「再生の 10 年」について詳しく述べてい

きたい。

1-3-1 停滞の20年

1990年代初頭におけるバブル崩壊を大きな節目として、日本経済は現在に至る約2

0年間を通して低い経済成長に甘んじてきた。(図1-3-1を参照)この間の日本の実20

質国内総生産(実質 GDP)成長率は 0.8%、名目国内総生産(名目 GDP)成長率は 0.2%

にとどまり、日本人の実質的な購買力の大きさを表す実質国民総所得は(実質 GNI)の成

長率も 0.6%と OECD 諸国の中で最も低いパフォーマンスとなったのである。さらに日本

経済は戦後初めて、また世界の中でも例外的にデフレを経験することとなり、多くの国民

が生活の豊かさを実感できなくなった。そして 2008 年後半に生じたリーマンショック及25

びその後の欧州政府債務危機により生じた世界経済の信用収縮と成長鈍化は日本経済に大

きな影響を及ぼした。欧米では大胆な金融緩和が講じられ、内外の金利差が収縮する中、

わが国ではデフレから脱却できない状況が続き、円高とデフレの悪循環の懸念もあって、

産業の空洞化も進んだのである。

このようにマクロ経済の悪化はミクロ面でも悪化させることになり、長期的に停滞が続30

くことになったのである。すなわち長期化する景気低迷とデフレは、設備、研究開発さら

には人材に対する投資意欲や新規事業・企業への意欲の妨げとなり、日本経済の基礎体力

に悪影響を及ぼしてきた。また、少子高齢化や、IT 化等の技術革新など大きなインパクト

を与える構造変化に対しても、本来取るべき措置が遅れたのである。

さらに金融・資本市場のグローバル化により、世界各国で繰り返し発生する金融・通貨35

危機など市場経済の脆弱化への対応も十分に進んでいない。またグローバル化の下、イノ

ベーションはわずかな時間のうちに市場環境を一変させ、企業は国・地域を選別する姿勢

を強めることにより、国家間の制度競争も激しくなっている。そして高齢化と人口減少が

進展し、資源や食糧を輸入に依存する日本としては、グローバル化に対応しつつ、新たな

価値を生み出していくことが課題となるだろう。 40

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図1-3-1は1956年以降の日本の実質 GDP 成長率の推移を示したものである。5

1990年以降の成長率の低下に停滞の20年をみてみることができる。

図1-3-1

10

[備考]内閣府、統計情報・調査結果、国民経済計算(SNA)関連統計、■ 四半期別GDP

速報(93SNA、平成12年基準)、長期時系列(GDP)(68SNA、平成2年基準)」

需要項目別時系列表 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe011-68/gaku-jcy01168.csv にて

1956 年から 1980 年までの成長率を求め、平成12暦年連鎖価格GDP需要項目別時系列

表 Ihttp://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe094/gdemenu_ja.html の 1.国内総生産(支出側)15

及び各需要項目 の増加率・実質暦年(前年比)1981 年から 2009 年までのものを用いた。

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1-3-2 デフレからの脱却と「再生の 10 年」 5

先ほど述べた停滞の 20 年を変えるべくして、早急に対応が求められており、そのため

にはデフレからの脱却が重要となってくるだろう(図1-3-2参照)そこで安倍内閣は、

相互に補強しあう関係にある「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を

喚起する成長戦略」の三本の矢(アベノミクス)を一体として、これまでの次元の異なる

レベルで強力に推進していくのである。最優先の課題である長期にわたるデフレと景気低10

迷からの脱却を実現するためには、「停滞の 20 年」の教訓を生かし、これまでとは質・

量ともに次元の異なる対応が必要なのである。安倍内閣は発足直後から大胆な金融緩和、

機動的な財政支出を実行に移している。上記にも述べたように課題を解決するためにはど

うすればよいのか、「再生の 10 年」の実現に向けた基本戦略を次の章で説明したい。

今の日本の経済状況はよいものとはいえず、むしろこのままいけばデフレの道をたどる15

一方である。そうなってしまうと日本のこれからの経済成長は期待できないであろう。原

因はいくつかある、日本通貨である円が価値を持ちすぎて、誰もが円を欲しがり離そうと

はしない、これが「円のバブル」という。このことがデフレへ導いているのである。そし

て世界で少子高齢化が起こる中で、デフレになっているのは日本だけなのである。そして

このような長期的なデフレをどう転換していくか、これがアベノミクスなのである。イン20

フレをどのように作っていくか、これがこの章で論ずるアベノミクス第一の矢「大胆な金

融政策」なのである。なぜアベノミクスの金融政策は有効であるのか、金融政策を有効化

するマンデルフレミングモデルや、金融緩和のもとでのハイパーインフレがおこらないよ

うにどのように進めていくか、論じていきたい。

図1-3-2 25

出所:内閣府 長期経済統計 1990~2012

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第二章 金融政策に関する考察

2-1アベノミクスの真髄

デフレ下の日本はちょうどソ連と真逆であり、通貨の価値と、物の値段は相対的なので

ある。そこでデフレの下では、物モノの値段が下がる分、通貨の価値は上がるのである。10

つまり今の日本は、円という通貨が価値を持ちすぎているのである。我々市民も、企業も、

必死に預金・貯金をしている。なぜみんなが貯金をするのか?それは将来が不安で未来が

見えないからである、そのことがさらにデフレへの道へと引き込まれていくのである。我々

が金融機関から資金を借りる時に金利を支払うが、実際の金利負担は、借入金利から予想

インフレ率を差し引いた実質金利となるのである(金融機関から資金を借り入れる際の金15

利を名目金利と言う)。*図2-1-1参照

図 2-1-1

予測実質金利 20

25

30

たとえば 100 万円の商品を購入する際に、購入資金を年5%で借りたとする。一年後に返

済する場合、インフレ率が4%だと返済時の金利は1%で、実質金利は1%になり、返済

負担額は1万円になるのである。逆に物価が下落し、インフレ率がマイナス1%だと、返

済時の金利は6%となり、実質的な負担は6万円となる、つまり物価が先行し下落すると

デフレになると予想される場合、価値が上がった将来の円で返済するから、実質金利は上35

昇するのである。こうなると企業や個人は銀行からの資金を借り入れて消費せず、投資を

する意欲が起こらず、資金需要が減り、景気は悪化していく一方なのである。

話が少し変わるが、日本では少子高齢化が進んでいる。少子高齢化によって20代、3

0代、40代といった働く世代の人口が減っているので、これからの日本経済の成長は望

めないのではないのか。だから成長期待が縮小し、人々はリスクを冒さず貯蓄に励むので40

予測実質金利=名目金利 ― 予測インフレ率

デフレの下では・・・・予測実質金利>名目金利

インフレの下では・・・予測十実金利<名目金利

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10

ある。バブル期までの高い成長率を実現する力は、もう日本には存在してはいないのだ。5

確かに少子高齢化に伴い、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人高層)が減っている

が、なにも日本だけではなくポーランド、チェコ、ハンガリー、ウクライナといった旧社

会主義国や、ドイツを含む先進国の多くは同じ問題に直面している。つまり若年層が減っ

ている国はたくさんあるのに、デフレになっているのは日本だけである。なぜなら少子高

齢化はデフレではなくインフレを招くからである。 10

労働人口が減少するということは供給が下がることとなり、ふつうはデフレではなく、

インフレが起こるはずである。なぜなら需要が低迷する以上に供給能力が減少するとイン

フレが起こるからである。そこでデフレキャップ(完全雇用の下で実現されるはずの生活

水準=潜在供給力を基準にして、現実の総需要がそれを下回っている場合の格差)が逆転

して、インフレギャップ(総需要が潜在供給力を上回っている場合の格差)が生じるので15

ある。このことから人口が減少している場合、潜在供給力が低下し、デフレではなくむし

ろインフレが起こりやすいのである。実際にポーランドのインフレ率は 3.85%、ロシアで

は 5.1%である(2013 年 3 月」現在)。このように人口が減少している国の多くはインフ

レであるのに、日本はこれまでデフレが続いてきたのである。

しかし十年間のデフレの中でも 05 年から 06 年の景気は比較的によかったのである。図20

2-1-2で見るとわかるように2002年から2007年の期間実質経済成長率はプラスを保

っていたのである。この時期はアメリカ、中国も好景気で日本の輸出量は増え、物も売れ

たことで日本にも多くの利益がもたらされた反面、労働者の賃金は増えなかったのである。

なぜ景気は良好であったのに給料は増えなかったのか?その理由は企業の間にインフレ予

想が生まれなかったからである。いくら好景気であっても、企業のデフレは払拭されず、25

利益は内部留保に回ってしまったのである。このことから一時期好景気がみられたものの

経済が停滞しているといわれているのである。ここで言える大切なことは「予想する」と

いうことがいかに重要であるかである。景気がよくなりそうだという予想がうまれると、

市場はそちらに傾いていくのである。しかしこうした予想が行われることで、現在デフレ

予想が続いているため、われわれ国民は貯蓄を増やし、企業は内部保留を優先的に行うの30

である。この結果収益のアップが見込まれるにもかかわらず、労働者の賃金を増やすこと

はできないのである。賃金が増えなければ需要は減り、デフレはますます進むのである。

そこで私たちが実現すべきことは、企業の収益が労働者に適切に分配される社会である。

つまり「将来はインフレになる」という予想を日銀ができると、それを達成するための十

分な通貨を供給できればデフレから脱却できるのである。そこで日本の未来を託されたの35

がアベノミクスである。

図2-1-2

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11

5

出所:「アベノミクスの真実」 幻冬舎 本田悦郎薯 より

2-2 アベノミクス 第一の矢 大胆な金融政策 10

アベノミクスは「一向に変わらないデフレ予想をどう転換するか」が出発点である。

インフレを徐々に作っていく手段が第一の矢である「大胆な金融緩和」である。ベースマ

ネーまたはマネタリーベースと呼ばれるものを増やすのである。このように金融政策によ

って穏やかなインフレを起こすことをリフレーションといいこの政策をリフレ政策(イン15

フレ目標政策+無制限の長期国債買いオペ)と呼ぶ。この世の中に流通している通貨は現

金と預金の二種類が存在する。預金を作り出すのは民間銀行であるが、現金を作り出すの

は中央銀行にあたる日本銀行のみである。すべての通貨の根源がベースマネーであり、そ

れは民間の金融機関が日銀に預けている「日銀当座預金」と、その当座預金を民間金融機

関が引き出すことによって世の中に流通する「現金」を足したものである。 20

日銀は民間銀行が保有している国債を買い入れる「買いオペ」によって、国債の購入代

金を各銀行の日銀当座預金に振りこむことで、日銀当座預金の残高は徐々に増えるのであ

る。

民間銀行は日銀当座預金から引き出した資金を企業に貸し出すが、その多くは預金口座

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12

に残るので、その残った資金をまた他の企業に貸し付け、これを繰り返すことによって現5

金と預金を供給することができるのである。このように日銀当座預金をもとに供給された

通貨の量を「マネーサプライ」と言う。日銀当座預金と現金は、前述したとおり通貨を供

給する根源となるので「ベースマネー」と呼ばれている。いずれにせよ日銀当座預金の残

高が徐々に増えることは、日銀が量的緩和を真剣にやるというメッセージでもある。

日銀の量的金融緩和政策を進めるにあたって重要となるのが明確なインフレ率の目標設10

定である。インフレ率の数値目標を「インフレターゲット」と呼び、アベノミクスは 2%

に設定をしている。この2%の数字は世界の標準的な水準といえる。気をつけなければい

けないのは、インフレ率が2%を超えてもすぐ金融を引き締めるわけではないということ

である。リーマンショックがおきた 2008 年 9 月にはイギリスのインフレ率は5.2%に

達したが、イングランド銀行は引き締めず、むしろ緩和したのだ。なぜならインフレ率の15

上昇の原因が北海油田の価格高騰にあったからである。今回は石油の値段が一時的に上が

っただけと判断し、引き締めなかったのである。インフレターゲットを達成するにはその

経済を取り巻く環境を総合的に判断することが重要なのである。

このことから第一にインフレターゲットは、一年半から二年かけて中期的に実現すべき

ものとされており、少し目標から外れたからといってすぐに金融政策をかえるべきではな20

いのである。第二に、インフレ目標から外れた場合でも、なぜそうした事態が起きている

のかを分析したうえで柔軟に対応することが求められるのである。こうしたところからア

ベノミクスで主張するインフレ目標政策は、常に柔軟に対応すべきなのである。

このことからデフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、

政府および日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことが記された。そして25

日本銀行は物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%のインフレターゲットを導

入したのである。その後 2013 年 3 月 20 日黒田東彦日銀総裁に代わり、2%のインフレタ

ーゲットのもと下で「大胆な金融政策」への「レージム・チェンジ」が決定されることと

なった。日本銀行は、マネタリーベースを 2 倍にし、二年程度で2%のインフレ率を達成

することを宣言し、大規模な量的・質的金融緩和を明言したのである。 30

金融政策は貨幣市場に働きかける政策ではあるが、第一に金利を通じて貨幣市場から生

産物市場に影響を与える。金融緩和政策によって、貨幣増で金利が低下すれば、その金利

低下に反応して、設備投資が増大する。と同時に貯蓄が減少して、その分消費が増加する。

一方で、国内金利が外国金利と比較して下落したりすると、為替相場が自国通貨安に変化

し、その為替相場の変化が輸出を増大させるのである。生産物市場の総需要に影響を及ぼ35

すのである。さらに金融政策の効果として株価上昇に伴って、家計が保有する資産が増大

すると資産効果によって消費を増加させるのである

40

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13

2-3 マンデルフレミングモデル 財政政策無効、金融政策有効 5

マンデルフレミングモデルとは、総需要の大きさが生産水準を決めるというケインズ経

済学の枠組みを前提として、貿易と国際的な資本移動とが行われている場合の国民所得決

定のメカニズムを明らかにした理論で、1960 年代にR.マンデルとM.フレミングが開発し

たモデルである。 10

マンデルフレミングにおける開放経済の金融政策の効果を説明する。まず、金融政策で

金融緩和が行われると貨幣供給の増大が起きる。それにより利子率が引き下げられ、投資

が増大し、有効需要が増大する。また利子率の引き下げにより海外への資本が流出し、有

効需要の増大により海外からの輸入が増大する。これにより為替レートは円安方向へもっ

ていかれる。円安になれば日本の輸出は増大し、輸入は減少する。輸出の増大と輸入の減15

少は日本の有効を増大させ、景気を拡大させる。このように開放経済下では、為替レート

の変化によって影響を受ける輸出と輸入の変化が景気に大きな影響を与える。

次に開放経済における財政政策の効果を説明する。例えば日本が財政政策を拡大方向に

もっていったと考える。これは減税政策でも政府支出の増大でも同じである。この財政政

策により有効需要は増大するが、利子率も引き上げられる。利子率の上昇により海外から20

の資本が流入、これにより円高方向にもっていかれる。また利子率の上昇は投資の減少を

引き起こし、有効需要が減少する。これをクラウディング効果という。そして円高は日本

の輸出を減少させ輸入を増大させる。これにより有効需要が抑えられ、減少する。このよ

うな開放経済での為替レートの動きは財政政策の景気刺激を打ち消してしまう。

今の日本はゼロ金利政策をとっているので財政政策によるクラウディング効果はあまり25

影響がない。しかし、いつゼロ金利政策が解除されるかはわからないので金融政策が重要

でありまた経済の再生にも金融政策がカギとなっている。

2-4 金融緩和のもとでの流動性の罠、ハイパーインフレについて

30

この章では流動性の罠によって引き起こされる問題そして流動性の罠からの脱出に失敗し

た時に起こる一例としてハイパーインフレについて論じたい。

2-3-1 流動性の罠

「流動性の罠」とは、利子率がゼロ近くまで下落すると投機的需要が無限に大きくなる、35

という現象の事である。流動性の罠は、流動性選好説の重要な性質である。利子率がほと

んどゼロ近くまで下落すると、貨幣保有のコスト(もらえたはずの利息)もゼロになる。

すると、人々は資産を債券ではなく、すべて貨幣で保有しようとするので、投機的需要が

無限に大きくなるのである。この現象を「流動性の罠」と言う。

40

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14

図 2-3-1 5

10

15

20

出所:伊藤 元重 「マクロ経済学」 日本評論社 2002

上の図は貨幣需要曲線である。縦軸に金利水準、横軸に貨幣供給量(マネーサプライ)

がとってある。金利と貨幣供給量の間には一般的に負の関係にある。貨幣供給量が増えれ

ば金利は下がり、貨幣供給量が減れば金利が上がる。 25

正常な経済状態は、図の右下がりの部分、つまり AB の部分にある。つまり、金利は正

の水準にある。ここで景気が悪くなければ貨幣量を増やすか金利を下げるという金融政策

をとり、金利と貨幣供給量の間には負の相関関係があるので、ここでは金利政策と量的緩

和政策の間に本質的な違いはない。

問題は、図の BC の部分、つまり金利がゼロに近いような状況である。これが流動性の30

罠の状況である。これ以上は金利を下げる余地はない。貨幣量を増やすことはできるが、

金利はゼロのところに張り付いている。貨幣量を増やしても金利に影響が及ばない。

金利がゼロに近いと、貨幣である現金や預金を持つことと、国債のような債権を持つこ

とにそれほど大きな違いがなくなり、この状況で貨幣量を増やしても、追加的に増えた貨

幣はすべて、そのまま貨幣として保有されてしまい、金利はほとんど変化しない。金利が35

変化しないので、そのような貨幣量増加による金融政策は景気に大きな影響を及ぼさない

ことになる。

40

率 A

B C

貨幣量

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15

図2-3-2 5

出所:日本銀行

上記の図は最近のコールレートの動きを示したものである。この図を見ると、近年の経済

の動きや金融政策の展開がよくわかると思う。1980 年代後半のバブル形成期には、日本の

コールレートは比較的低い水準を維持していた。これが金利安からバブルへの動きにつな10

がったものと考えられる。1988 年頃からコールレートが上昇しているが、これはバブルを

潰すために金融が引き締められていることを示唆している。金融引き締めでコールレート

も高めに推移し、これが地価や株価の下落を引き起こしたものである。1991 年以降は、コ

ールレートは低下の一途をたどり、ついに 1999 年にはほぼゼロ水準にまできてしまって

いる。これがゼロ金利政策の結果である。平成不況のなかで金融緩和が強化され、市場金15

利が次第に低下していったことが読み取れる。こうして現在は流動性の罠状態になってお

り金利をコントロールする政策はきかない。

流動性の罠にあったとしても、金融緩和に意味があるとする考え方がある。インフレ需

要刺激効果を考えである。インフレによって物価は上がるという媒体が生じると今のうち

に買っておかなければということになり、貨幣の価値が下がる事により、需要が増加する。20

また物の価値が上がり通貨価値が下がるので輸出で有利になる。

しかし方法を誤れば、ハイパーインフレになってしまう危険も伴う。ハイパーインフレ

とは、急激にインフレがすすむことであり、通常であれば一年間のインフレ率は 1%から

3%である。しかしハイパーインフレになると、100%から 300%になることである。今

や世の中ではデフレは諸悪の根源でインフレになれば明るい未来が訪れるという説が正し25

いと信じ込まれている。若者が定職を見つけるのが困難なのも正規雇用が増えないのもす

べからデフレのせいであり、インフレにさえなればこの苦しい状況から抜け出すことがで

きると聴かされている。しかしハイパーインフレになると話は別である。

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16

2-3-2 三種類のインフレ 5

インフレとは物やサービスの全体の価格レベルすなわち物価が、ある期間において持続

的に上昇する現象である。大きく3つに分類できるがそのなかでも良いインフレと悪いイ

ンフレがある。

一つ目は、原油価格、食料品価格等が上昇することによって発生する悪いインフレであ

る。雇用や所得を増加させないまま、エネルギーや食料品の価格だけ上昇するので、実質10

的に購買力が低下する。これは円安によって輸入品の価格が上昇するのも、同じタイプの

インフレである。昨年 11 月以降に進んだ円安により、今後は輸入品の価格が予想される

がこうなると喜ぶ消費者は少ないし、経済全体も良い方向には進まないだろう。

第二はお札の価値を引き下げることによって発生する最悪のインフレである。インフレ

はここで挙げる 3 つのインフレすべてにおいて「お札の価値が下がる」ことを意味してい15

るが、この場合は意図的にお札の価値を下げてインフレを起こすケースである。

特に中央銀行と政府が無理にインフレを起こそうとすると、このタイプのインフレが起き

る可能性がある。お札の価値の下がり方が急激かつ大幅になりやすいので、ハイパーイン

フレーションにつながる可能性が高いのである。

この種のインフレはどのようなプロセスを経ておこるのであろうか。お札の製造原価は20

一万円、5000 円いずれも大差はなく 20 円前後である。それを我々は一万円を 1000 円札

の 10 倍の価値があると信じているから、そのような価値で使用しているのである。しか

し日本銀行が株や土地もしくは国際を大量に購入し続ける中で、政府も多額の歳出を行っ

たとすると、株や土地を保有していた人や、政府の歳出により潤う人たちの預金が急激に

増加する。それにより、潤った人たちが預金を取り崩すことで、市中に流通するお札の量25

が増加する。そして世に一万円が大量に出回ると所詮は単なる紙切れとありがたみを感じ

なくなる。これがハイパーインフレである。

第三は需要が増加することで発生するインフレである。これは唯一良いインフレで日本

経済に必要なのはこのタイプである。さまざまな製品やサービスに対する需要が増加する

と、企業は製品やサービスをもっと生産・提供するために雇用を増やす。各企業が雇用を30

増やすようになると、人材を確保するのが難しくなるのでそうなると、給料が上がり需要

がさらに増える。この好循環が続くと、企業は製品やサービスの価格を引き上げ始める。

ちなみに第三のタイプのインフレはハイパーインフレにはつながらない。なぜなら製品や

サービスは価格が上がりすぎると、通常は需要が減退するからである。

35

2-3-3 日銀の国債引きによるハイパーインフレ

日本でハイパーインフレが起こるか否かは二つの見方に分かれる。将来的にハイパーイ

ンフレにまってしまうのではないかと懸念する見方と、デフレの長期化で人々の間にもデ

フレ・マインドが染みついているのでハイパーインフレは起こらないという楽観した見方

の二つである。 40

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17

私たちは日本でもハイパーインフレがおこる可能性があると考えている。ただし極端な5

財政支出拡大を行わない限りにおいてハイパーインフレは発生しないであろう。

日銀のよる国債の引き受けとはどういうことであるか説明しよう。日本銀行はこれまで

も大量の国債を購入しているが、いずれも常に市場から購入している。国債は政府が発行

するが、政府から直接購入は原則していない。なぜなら政府が国債を市場で発行し、まず

民間の市場参加者に購入してもらう仕組みの方が政府に対して牽制がきくからである。 10

たとえば、政府が滅茶苦茶にお金を使って、さらなる資金調達のために巨額の国債を市

場で発行しようとすれば、民間の市場参加は不安を感じて、積極的に国債を購入しようと

しなくなる。その結果、国債の価格は下がり、金利が上昇するのである。つまり政府にと

っては資金調達コストが上がってしまう。

ハイパーインフレはどのように発生するのか、まず日本銀行が政府から国債を直接かつ15

無制限に購入することから始まる。時の為政者の大盤振る舞いは一定の基準を満たす個人、

あるいは、特定の産業界にたいして行われ、そうした歳出の恩恵を受けた個人や企業の預

金は急増する。それが小規模なものであれば問題ない。しかし大規模であれば、預金から

引き出されたお札が世の中に散乱し、お札の価値が下がっていく。

さまざまな製品には労働というコストがかかっており、消費者はそのコストに対価を払20

わなければならない。支払う対価を測るお札も、消費者が労働をして得た対価である。だ

からこそ、消費者も一万円札にどれくらいの価値があるのかを実感できるのであろう。し

かしお札の価値が下がり、労働の価値を伴わない1万円での取引を求められると世間はど

うなるのであろうか、国民は一気に不満を募らせ、結局物価が上がってしまうのである。

そんなときいくらでも国債を発行し、それを日本銀行が引き受けてくれる状況に為政者が25

あれば、まずは国民の不満をそらすため、さらに国債を発行して日本銀行に引き受けさせ

るのである。しかしこれを繰り返しているうちに、世の中の物価は取り返しがつかないく

らいに上昇してしまうのである。

2-3-4 ハイパーインフレの過去の事例 30

日本で起こった過去のハイパーインフレの要因として引き合いに出されるのは、1930

年第二高橋是清蔵相がとった拡張財政路線である。国債を日本銀行に引き受けさせたこと

が高インフレにつながったといわれている。1947 年にはインフレは125%にも達した。

膨張する軍事予算をまかなうために、日銀引き受けの国際発行を行ったことが原因である。

この当時の卸売物価指数と消費者物価指数をみると、1930~1931 年と二年続けて大幅35

なデフレになった後、1932 年には日本銀行による国債引き受けが開始され、1932~1933

年と卸売物価指が二桁大の上昇率になっていた。がしかしインフレ率が高くなっていたが、

ハイパーインフレまでには至っていない。むしろハイパーインフレと呼べるほどの物価の

高騰は第二次世界大戦後の 1945 年以降である。日本におけるハイパーインフレはこの戦

時期だけである。財政の節度を守ればハイパーインフレの心配は少ないと思われる。 40

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18

5

第三章 財政政策に関する考察

3-1 アベノミクス 第二の矢 機動的な財政政策

デフレからの脱却は、金融政策だけで十分に達成することができるが、同時に財政のエ

ンジンをふかすことによって、短時間で効率よく脱却することを側面に支援する役割をも10

っている。これがアベノミクス第二の矢である「機動的な財政政策」である。そのひとつ

に公共投資が含まれている。公共投資には一つ、出来上がった施設の本来の機能を十分に

発揮させること、二つ国や地方公共団体から事業主に支払われた財政資金がその関連会社

や従業員の消費などに回り景気を良くすること、三つその公共投資に関連する民間お投資

を誘発するといった効果がある。 15

しかし、前政権以前から、公共投資は効果が薄いと批判されてきた。また、公共投資は

いままでも何度も行われてきているが目にみえて効果はでてきたようには思えなかった。

ここではアベノミクス第二の矢、公共投資について考察する。

3-2乗数効果 20

公共投資の効果を調べるには、乗数分析を行うのが一般的である。以下では日本の乗数

を推定する。

表3-2-1 限界消費性向

25

定数項 限界消費性向 R2 データ数

1970年代 -2192.0 0.635 0.992 40

(-3905) ( -66.480 )

1980年代 6633.0 0.493 0.994 40

( -11.900 ) ( -77.169 )

1990年代 -1327.0 0.5724021) 0.861 40

( -0.57 ) ( -17.808 )

2000年代 20992.0 0.410 0.869 40

( -5.675 ) ( -13.768 )

ΔE

表 3-2-1 限界輸入性向の推定結果

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19

定数項 限界輸入性向 R2 データ数

1970年代 -597.0 0.095 0.767 40

(-1.185) ( -11.196 )

1980年代 -465.7 0.067 0.694 40

(-0.7369) ( -9.281 )

1990年代 -8012.0 0.148 0.464 40

(-2.609) ( -5.739 )

2000年代 -18663.0 0.275 0.859 40

(-8.3343) ( -15.230 )

ΔE

5

表3-2-3 乗数推定

限界消費性向 限界輸入性向 乗数

1970年代 0.635 0.095 2.171

1980年代 0.493 0.067 1.741

1990年代 0.572 0.148 1.738

2000年代 0.410 0.275 1.156

ΔE

10

図3-2-4 乗数の推移

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20

5

出所:内閣府

計算式は

国内総生産(YS)、国内総所得(Y)、国内総支出(YD)、民間消費(C)、

計画された民間投資(I)、政府支出(G)、 財の輸出(X)、財の輸入(M)、とする。 10

民間投資I、政府支出をG、財の輸出をXは、それぞれ一定の値をとるものする。消費関数・輸入

関数には、以下のような形を考える。

C=c0+cY c :限界消費性向 0<c<1

M=m0+mY m :限界輸入性向 0<m<1 15

国内総支出は

YD=C+I+G+X-M= c0+cY+I+G+X-m0--mY

となる。 均衡GDPは、以下の三つの式を同時に満たす、YS 、YD 、Yである。

Y

Y

Y

D

S

S

=Y

=C+I+G+X-M=

=YD

c0+cY+I+G+X-m0--mY

これを解くと 20

YS =YD =Y =c0+I+G+X+m0

1-c+m

政府支出の乗数を 求めると

dG

dY=

1-c+m

1

となり、乗数は限界消費性向と限界輸入性向から計算される。限界消費性向の推定結果が表3-2

-1、限界輸入性向のそれが表3-2-2にある。これらに基づいて乗数を計算した結果が表3-25

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21

2-3である。限界消費性向の推定結果が表3-2-1、限界輸入性向のそれが表3-2-2であ5

る。これらに基づいて乗数を計算した結果が表3-2-3である。これを図にしたのが図3-2-

4である。

2000 年以降、降下してきているのがわかる。すなわち、今の日本は公共投資が効きづら

い状況である。乗数低下の原因はインフラなど公共投資の対象となる施設がほぼ出そろっ

ていること、産業構造が第二次から第三次へシフトし、公共投資(インフラ等)による経10

済波及効果が薄れ始めていることがあげられる。

3-3 非ケインズ効果

日本の景気はバブル崩壊以降、低迷の一途をたどっている。その対策として、日本政府

は伝統的なケインズ経済学に基づき財政支出の拡大や減税によって促そうとした。ケイン15

ズ経済学では、不況において財政支出の拡大と減税によってGDPの拡大を期待していた

が、理論に基づいた大規模な経済政策を行ったにも関わらず、景気は悪化し続けている。

財政支出の削減や増税は、通常のケインズ流マクロ経済学の考え方では、財政の引き締め

によって、民間消費などに悪影響が及びGDPの押し下げの圧力が高まってくる。不況時

に財政支出拡大や減税が消費を刺激すると考えられるのと同じ効果であり、これをケイン20

ズ効果と呼ばれる。

一方これに対し非ケインズ効果とは、現時点の財政支出が非効率的である場合や税負担

が将来に先送りされている場合等一定の財政状況や経済環境の元で、歳出削減や増税がむ

しろ民需の自立的な回復をもたらす効果である。こうした状況では、通常のケインズ効果

とは逆に、財政再建と景気回復という二兎を同時に追うことが可能になる。非ケインズ効25

果が生じるか否かは、財政改革の継続性、財政変更を行う時点での財政状況、将来の財政

運営への期待に依存する。1980年代以降、デンマークやアイルランドでは大幅な財政

赤字が生じ、これに対処するために82年から財政改革が試みられた。この財政改革の効

果は対照的であって、デンマークでは緊縮的な財政運営にも関わらず民間需要が増加し財

政再建と景気回復が同時に達成されたのに対し、アイルランドでは財政再建が景気にマイ30

ナスの影響を与えるという通常のケインズ効果がみられた。アイルランドでは87年から

再び財政改革が行われたが、この時には財政再建が成功し財政再建と景気回復が同時に達

成された。この期間中の民間消費の増加は資産効果のみによって十分に説明する事ができ

ず、政府支出の削減によって将来の財政状況の見通しが好転し、民間消費の増加につなが

った。 35

財政赤字や政府債務残高が一定の水準以下におさまっている「平準」では通常のケイン

ズ効果が観測されるが、財政赤字や政府債務残高が一定の水準を超えた「非常時」には政

府支出の増加が民間消費の減少をもたらすという非ケインズ効果が認められている。日本

は 2012年度末で政府財務残高が約 1000兆円にのぼる。名目GDP比率でも 200%を超え、

180%のギリシャを上回る。非常時に日本はあると言えよう。 40

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22

5

3-4 財政政策の効果の低下、古典派による財政政策無効論

3-4-1 バローの中立性命題

公債のコストや財政赤字の問題として重要であるのが「将来世代への負担の転嫁」であ

る。一度公債を発行すれば、もちろん償還しなければならない。日本国では 60 年で公債

を償還すると定められている。しかし、その財源は税金なのである。現在世代が公債を発10

行して財源を手当てし、政府支出を行った後始末を60年の月日を経て処理している。つ

まり、現在世代の政策に直接関わっていない将来世代の人々がその一部を負担することに

なる。

公債の負担の定義はある世代の人が生涯の間に消費可能な大きさがどれだけ減少するか

で公債の負担を捉えるものである。したがって、課税調達のときより公債発行のときの方15

が、その世代の人の消費量が減少すれば、その世代に公債の負担があるということになる。

後世代に何らかの経済的な負担が転嫁されることは、公共経済学の常識であった。これが、

公共投資の財源として発行される赤字公債の問題点として強調されたのである。公共投資

の財源となる建設投資とは違い、赤字公債の場合に政府支出の便益が将来世代残らないな

ら、公債の負担だけが将来世代に転嫁されることになる。しかし、公債発行によっても将20

来世代に何ら負担が転嫁されないとする主張が展開されたのである。その一つが「バロー

の中立性命題」である。公債の償還するのを先送りし、借り換え債をどんどん発行してい

けば、現在の世代が死んでから現在の公債が償還される。世代の枠を考慮すると、公務発

行によって負担が生じないとすると、リカードの中立命題は成立しない。この場合にも課

税と公債の無差別を主張するのが、遺産による世代間での自発的な再配分効果を考慮する25

「バローの中立命題」である。バローは、親の世代が利他的な遺産動機(=子の効用をあた

かも自分の効用と同じように嬉しいと感じること)をもつことで、子の効用=経済状態にも

関心をもつことを指摘し、その結果、子の子である孫の世代、さらに孫の子であるひ孫の

世代の効用にも関心をもつことを示した。これは、結局無限の先の世代のことまで間接的

に関心をもつことを意味するから、いくら公債の償還が先送りされても、人々は自らの生30

涯の間に償還があるときと同じように行動する。公債発行と償還のための課税が同一の世

代の枠を超えても、公債の中立命題が成立する。仮に公債発行による財源で減税が行われ

たとすると、人々は減税によって増加する可処分所得(個人や家計が受け取る所得のうち

から、所得税・地方税などの直接税と、厚生年金保険料・健康保険料などの社会保障

費を差し引いた残りの所得)の一部を消費に回さない。増加する可処分所得、すなわち減35

税分はすべて貯蓄に回される。したがって子の遺産の増加に繋がる。その結果、将来、子

の世代に公債の償還の為の増税が行われるときに、遺産の増加でそれを完全に相殺できる。

したがって、減税をうける親の世代も増税をうける子の世代も、ともに、政府による公債

発行という世代間の再分配政策の影響を実質的に回避することができる。結論、公債発行

による減税によって消費は増加せず、公債償還による増税によって消費は減少しない。と40

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23

いうことになる。すなわち、公債発行によって乗数効果が働き消費が増加すると考えるケ5

インズ経済学と違いバローの中立性命題は乗数効果が存在しないとの意味を持っている。

3-4-2 完全クラウディングアウト

政府が公共投資を追加実施すると、支出が増加し GDP が増加することになる。そして、

GDP が増加するとそれに伴い本来なら貨幣需要が増大するので利子率が上昇するはずで10

あるが、利子率が上がることにより民間の投資意欲が減退することとなり政府の金融政策

の効果が下がる可能性がある。これをクラウディングアウトと呼ぶ。

バローの中立性命題も完全クラウディングアウトも古典派による財政政策無効論である。

財政政策がきかないという経済理論があることに注意したい。 15

第四章 政策提言

我々は以上説明してきたようにデフレを脱却するためにこれからの安倍政権はどうする

べきなのかをいくつかを提案していきたい。 20

4-1 金融政策

第二章でも説明したとおり、ここで金融緩和における効果、つまり今後の期待値につ

いて説明していきたい。アベノミクスにおける金融緩和では、インフレ率 2%が目標とな

っている。今後それを伸ばしていくわけであるが、金融緩和の効果だけでもこれほどまで25

も効果が期待できる。(図4-1)

出所:内閣府 インフレ率 2013

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24

5

これにさらに増税を追加することによりその効果は飛躍的に上昇すると考えられる。

10

4-2 税制改革

こちらでは増税について述べていきたいと思う。

今回、増税による財政再建ということであるが、なぜ増税がいいのか。まずこちらにな

るが平成 25 年度の国の歳出と歳入についてのプライマリーバランスのグラフである(図

4-2-1)。プライマリーバランスとは、基礎的財政収入から基礎的財政支出の金額を引15

いたものでありこちらでは「47.1-70.4=-23.3 兆円」となる。さらに政府は国債を 22.2

兆円払わなければならずプライマリーバランスにプラスすれば-45.5 兆円もお金が足り

ていないのである。これを補うために、政府は新たに国債を発行し、45.5 兆円もの借金を

背負うことになる。ここで注目してほしいのは国債費にある。45.5 兆円もの国債を投資家

に購入してもらいながら、22.2 兆円はその借り入れた国債の返還に充てられており、まさ20

に火の車状態となっているのだ。これではいつまでたってもインフレになることはない。

そこで消費税を引き上げることによりこのプライマリーバランスをある程度良い状態にも

っていくことができるのである。単純計算ではあるが、消費税は 1%につき 2.5 兆円の税

収を見込むことができる。消費税を 10%に引き上げた場合、基礎的財政収入は 12.5 兆円

となり、「47.1+12.5=59.6 兆円」したがって「59.6-70.4=-10.8 兆円」にまでプライ25

マリーバランスの収支関係を改善することができるのである。

図4-2-1

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25

5

出所:永濱 利廣著 「財政危機」超入門東洋経済新報社 2013 より

図4-2-2

出所:永濱 利廣著 「財政危機」超入門東洋経済新報社 2013 より 10

しかしここで問題となるのが、消費税増税前の一時的な駆け込み需要はあがるが、その

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26

後の税収は下がってしまうのではないか?ということだ。たしかにこのまま引き上げだけ5

をすれば税収は下がってしまう。世界的に見ても日本の税率は低い(図4-2-3)がだ

からと言って国民がそれを了承するとは思えない。

10

15

図4-2-3

(出所)永濱 利廣著 「財政危機」超入門東洋経済新報社 2013 より 20

そこで法人税を引き下げることにした。日本の法人税率は高く世界の平均的な法人税をお

よそ 10%も上回っているのである。(図 4-2-4)

図4-2-4

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27

5

出所:永濱 利廣著 「財政危機」超入門東洋経済新報社 2013 より

この法人税を引き下げることにより企業投資が増すことが期待される。さらにもう一つ効

果がある。法人税を引き下げた結果、海外企業が進出し国内に雇用が生み出され税収が伸

びたというデータがある。実際に 2000 年代のヨーロッパで起きた現象であり「法人税パ10

ラドックス」と呼ばれている。国内の優良企業を自国内にとどめつつ、海外の優秀な企業

からも進出してもらうことによりかえって税収が伸びたのである。これを利用することに

より雇用も増し消費税率もまかなえると考えられる。しかしこれだけでは財政再建をする

にはもうひと押し足りないと言える。そこで行う政策が「マイナンバー制度」である。こ

れは、個人をナンバーで登録し資産や預金を国が管理するという制度である。実際にヨー15

ロッパやアメリカでは実施されており日本でも 2016 年に実施予定である。これにより経

済的に裕福なものとそうでないものを分け、基礎的財政支出の中でも多い社会保障に使わ

れるお金を減らすことができると考えられる。

4-3 コンセッション 20

4-3-1 コンセッションとは

公共投資の項目で現在は公共投資の効果が薄れて始めていることが分かった。しかも、

整備された既存の設備は、維持費の増大を招く。アベノミクス第二の矢において、機動的

な財政政策を補強する方法の一つとして、公共投資政策がある。しかし、このままではそ25

の効果を十分に得ることができない。これに代わる案として私たちはコンセッション方式

Page 28: 日本経済再生のために、いかにマク ~アベノミクス …c-faculty.chuo-u.ac.jp/~iijima/PC2013/papers/305.pdfれた。主にここで取り上げるのは金融緩和と機動的な財政支出の二つである。

28

を提案する。 5

コンセッションとは、公共設備の運営権を民間に売却することである。この販売収入は

財政健全化に寄与するのである。

現在の日本ではPFI法に「公共施設等運営権」という権利が追加され、コンセッショ

ン方式を導入する第一歩を踏み出した。しかし、日本では独立採算制を実施した例が少な

く、そのほとんどが業者への委託のみである。すなわち、コンセッション方式のノウハウ10

が全くない状況である。一方、海外ではすでに取り入れており、ここでは海外例を参考に

しつつ、この制度をどう国内で活用するか考察する

4-3-2 コンセッションの具体例

① アメリカ

アメリカではPPP方式が主流となっており、州ごとに法整備が進んでいる。州ごとに15

法律が定められているので、バージニア州・交通インフラの資金調達及び革新にかかる法

律(TIFIA)を例にする。

期間・有限は最長35年であるがしかし州ごとに異なる。補助金は33%までの上限が

定められており、事業規模・直近の財政年度の三分の一以上とされている。

また、アメリカでは事業者に譲渡される財産権について、 20

・リース・・・不動産、無体財産権の期間使用権の付与、営業利用権などの賃貸

・ライセンス・・・許可証の発行、立ち入り権

・地役権・・・物的権利。土地を利用できる。

・フランチャイズ・・・政府からの特権であり、商標不可による一定の販売権をみとめる

に細かく分けられており、通常はこれを複数組み合わせて適用する。料金体系は各州ごと25

に法律で決まる。しかし、そのほとんどが一人当たりのGDP増加率、あるいは各州ごと

増加率のうち最大水準までと規定されている。

なお、税制、事業移転に関してはとくに規制はしていない。

② フランス 30

コンセッションの歴史は古く、16世紀から行われていた。また、コンセッション方式

を導入するための手続きを規定した、「契約手続きの適正化と透明性、並びに一定の契約を

公募し、競争に付す事に関する法律」(ムルセフ法)、「腐敗防止及び経済と公的手続きの透

明化に関する法律」(サパン法)が独自に定められている。また、アフェルマージュという

手法がある。この手法は既存施設の運営を包括的に委託するというものである。さらに、35

料金の制定に関しても、公共側の許可が必要となり、改定メカニズム、及びその変更は地

方公共団体の議会の承認を必要とする。なお、民間が所有する土地で公共目的で民間業者

が土地開発をする際、「公益に関する宣言」という手続きを要する。

事業例としては、アヴィニヨン水道、フォルバック・ボルト・ド・フランスコミューン

集水道、が挙げられ、水道事業に多く採用されている。また、この2例は、アフュルマー40

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ジュ方式を取り入れている。 5

③ イギリス

イギリスでは、「小さな政府」を目指すため、民営化を幅広く行ってきた。その手段とし

てPPPが注目され、コンセッション方式は、この一環として取り入れてきた。また、コ

ンセッションについては、固有の法律がなく、実施にあたり、柔軟性が高いのも特徴であ10

る。コンセッションに類するプロジェクトは財務省が規定したガイドラインに沿って行わ

れる。さらに、対象となる施設の各権利については、契約時に取り決められ、料金、年数

も規定されていない。

15

④ 提言

コンセッション、あるいはPFIを積極的に取り入れている国を見た結果、国により大

きく異なる事がわかった。このことを顧みるに、各国の制度をそのまま取り入れるのでは

なく、法改正、策定において部分的に取り入れるべきではないだろうか。例えば、水道事

業においては公共性が非常に高く、設備の新規開拓よりも維持管理のほうが重要となる。20

有る程度の公共性の維持、あるいは自治体の影響力を残しつつインフラ維持を両立するに

は、フランスを参考にするといった具合である。

また、道路事業においても、これからは既存の道路の補修が必要となってくるため、ア

メリカのように、建設、運営をわけるべきであろう。リース・独立採算事業であれば、国

は新規建設に専念できる。さらに、受注者から税金を取ることができ、あらたな財源にな25

る可能性も秘めている。全体としては、公共投資政策が補助的とはいえ財政政策を補う以

上、完全に民間に委託するべきではないだろう。主に新規建設は政府が実践し、インフラ

の維持管理をメインに、民間に割譲するのが望ましい。また、委託する企業もなるべく国

内企業であればなお望ましい。民間にインフラ維持のノウハウが蓄積されれば、それらを

途上国に輸出することもできるだろう。 30

35

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Page 30: 日本経済再生のために、いかにマク ~アベノミクス …c-faculty.chuo-u.ac.jp/~iijima/PC2013/papers/305.pdfれた。主にここで取り上げるのは金融緩和と機動的な財政支出の二つである。

30

おわりに 5

最後に、これまで我々が本論文で述べてきたことを、をここにまとめていきたいと思う。

第一章では日本の財政状況について論じ、今の日本の事態を把握し挽回するために出さ

れた政策がアベノミクスであり、次にアベノミクスは金融緩和、財政支出、成長戦略の三

本の矢から構成されており、その各政策について説明した。そして「停滞の20年」とデ10

フレからの脱却と「再生の10年」について説明し、停滞していた日本をどのように変え

ていくのか、そのためには早期のデフレ脱却が必要であり、今までになかったアベノミク

スの三本の矢を用いて政策をおこなわなければならないのである。

第二章では日本のデフレの原因、そしてアベノミクスの第一の矢「大胆な金融政策」、金15

融緩和がなぜ有効なのかをマンデルフレミングを用いて説明した。次に金融緩和のなかで

の流動性の罠による問題、ハイパーインフレ、インフレとは何かを説明した。日本ではハ

イパーインフレと呼べるほどのインフレが起こった事例は少なく、金融緩和は積極的にや

るべき政策である。

20

第三章では、アベノミクス第三の矢のうち第二の矢、すなわち機動的な財政政策の中で

も、公共投資などの、政府支出について考察してきた。そこでわかったことは、政府が積

極的に支出を行い、低迷した景気を回復するというケインジアンの考え方が成り立たない

ことである。現在の日本の財政状況においてただいたずらに政府支出を行うだけでは効果

が薄く、節度のない財政政策はハイパーインフレの可能性を高め、金融政策じたいに悪影25

響を及ぼす可能性があるというのである。すなわち、政府支出において、従来のやりかた

を変える必要性に迫られているのである。

第四章では以上三章でとりあげた問題に対して海外例を参考にしつつ政策提言を行った。

プライマリーバランスに対しては、税制改革を、政府支出にたいしてはコンセッション方30

式を提案した。どちらも海外では広くとりいれられており、今後日本がとりいれるにおい

て参考になるだろう。これらの政策は財政健全化に役立であろう。

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31

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伊藤 元重 「入門経済学[第三版]」 日本評論者 2009

井堀 利宏著 「ゼミナール公共経済学入門」 日本経済新聞社 2005

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%96%E4%BE%8B'

内閣府 長期経済統計 1990~2012

内閣府 インフレ率 2013

25

グラフ・表の参考文献

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http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h21/h21_kaku_top.html

内閣府「2011年度国民経済計算(2005年基準・93SNA)、4. 主要系列表、実質(連鎖方式)、暦年

四 半 期 ( Excel 形 式 : 105KB ) 、

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http://toyokeizai.net/articles/-/14242 東 洋 経 済 オ ン ラ イ ン

http://www.インフレ.jp/hyper.html インフレ対策で資産を守る 40