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平成19年度 理数教育ステップアップ研修 実践記録
操作活動を通して数学的な見方・考え方をのばす指導の工夫
-中学校第3学年数学「図形と相似」の指導を通して-
( )実践者 新発田市立第一中学校 土田 哲也
今まで何気なく生活していた中で、理数の学習内容が利用されていることに気づいたとき、その
意外性や利便性に触れ、理数の面白さを感じた経験のある人は多い。
今回、パンタグラフという玩具のような道具を用いる。パンタグラフには「相似」が利用されて
おり、定規、コンパスでは描くことが困難な曲線や複雑な図形なども簡単に拡大・縮小図をかくこ
とができる。この実践では 「相似」の学習のまとめとして本時を設定し 「2倍の拡大図をかく、 、
パンタグラフの構造」について理解し、さらに「3倍の拡大図をかくパンタグラフの構造」を考え
ることで、相似の概念を広げたり、深めたりして 「理数の面白さや深く追究する楽しさ」を味わ、
わせたいと考えている。
1 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための構想
(1)本単元における「数学の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」視点
比について、小学校では6年生の時に「比の表し方 「等しい比 「比の関係から数量を求める」、 」、
こと を学習している また 中学校では1年生の時に 平面図形 の中で 基本の作図 や 図」 。 、 「 」 、「 」 「
形の合同 「円とおうぎ形」について学習し、2年生の時に「平行線と角 「三角形の内角・外角」、 」、
の性質 「三角形の合同条件 「図形の性質と証明」について学習し、図形の性質などを論証する」、 」、
方法を学習する。
図形の拡大・縮小といった内容について学習するのは本単元が最初であるが、相似の概念は極め
て身近なものであり、拡大・縮小などの用語も日常的に用いている。また、三角形の相似を利用す
る例として土地の測量があり、実生活の中でも大いに役立っている。さらに、相似を活用している
例として、地図や様々な設計図、建築物の精密なミニチュアなど多くの場面で活用されている。
このように、数学が実生活で使われている場面を具体的にすることによって、生徒は数学の現実
的な有用性を知ることができ、またその重要性を確認することができる。曲線や複雑な形の図形の
拡大図は、定規、コンパスを用いて作図することもできるが手間がかかる。本時で用いる「パンタ
グラフ」は、誰もが見たことのある玩具のような構造だが、曲線や複雑な図形も、簡単な操作で容
易に拡大・縮小することができる 「パンタグラフ」に利用されている相似の概念に気づき、広げ。
たり深めたりすることで、数学の面白さや深く追究する楽しさなどを味わうことができる授業を展
開したい。
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(2)本時における「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」指導の構想
① 指導計画
単元 節 項
図形と相似 図形と相似 ・相似な図形 (3時間)
・三角形の相似条件 (2時間)
・相似条件と証明 (3時間)
・縮図の利用 (1時間)
平行線と線分の比 ・平行線と線分の比 (4時間)
・中点連結定理 (2時間)
章末問題 ・章末問題 (3時間)
② 本時のねらい
本時において「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ために、以下の点に留
意して指導を行う。
・パンタグラフを利用してなぜ拡大図がかけるのかを既習事項を根拠として考え、理解しよう
とする。
・パンタグラフを用いて原図の拡大をする作業を通して、相似な図形や相似の考えが日常生活
の中に活用されていることを知り、関心をもつ。
③ パンタグラフについて
(ア)パンタグラフの使用方法
課題
・
O 原図
1 課題の点Oの場所に、パンタグラフの点Oを固定する。
2 上図のパンタグラフの点P′に鉛筆をさす。
3 点Pが原図の辺の上をなぞるように鉛筆を動かし、用紙に図をかく。
(イ)パンタグラフの機能
・定規とコンパスを利用して2倍の拡大図をかく場合は、
直線を定規で引く。(ア)相似の中心Oから拡大する原図の頂点Aを通る
(イ) 点Aを求める。コンパスでOA=AA となるように距離を測り' '
この作業を何度も繰り返すことで、2倍の拡大図をかくことができる。
・パンタグラフを利用して2倍の拡大図をかく場合は、
(ア )点O,A,A の関係が常に一直線上にある( )' ' 定規としての役割
(イ )OA=AAの関係を常に保つ( )' ' コンパスとしての役割
この作業を同時に行い、2倍の拡大図をかくことができる。
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2 授業の実際
(1)1時間目の授業
・課題として、点Oと校章をかいた用紙を配布する。
・
O
補助課題 点Oを相似の中心として校章を2倍に拡大してみよう。
・生徒の反応は、定規やコンパスを用いて2倍の図をかこうとするが、曲線のため上手くかけ
ずに悩んでいる生徒がほとんどであった。
・校章の上にいくつか点をとり、2倍の拡大図をかこうとした生徒がいた。
課題1 パンタグラフを用いて校章を2倍に拡大してみよう。
・パンタグラフを配布し、使用方法を説明する。
・実際にパンタグラフを用いて図をかいた。生徒の反応は、誤差はあるがほぼ2倍の校章がか
けることに驚き、パンタグラフに興味をもって作業に取り組んでいた。
・パンタグラフの構造について考えるために、下図のような三角形をパンタグラフを用いて2
倍に拡大した。
C'パンタグラフを利用して
△ABCを2倍に拡大した図
B'をかく。
A'
(実際にパンタグラフを用いてかいた図)
課題2 なぜ2倍の拡大図がかけるのか、パンタグラフの構造について考えよう。
・点O、A、A′に着目し、パンタグラフの構造を考え、なぜそうなるの
か理由を説明する。
O A A′
O A
B
C
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生徒の解答
・パンタグラフの構造の中に「合同な三角形」や「相似な三角形」の性質が利用されており、
O、A,A′が一直線上に並び、OA:AA′=1:1(OA:OA′=1:2)となること
を確認した。
(2)2時間目の授業
・前時に生徒が使用したパンタグラフの3倍の大きさのものを用意する。
大きい方のパンタグラフを使用した場合、何倍の拡大図がかけるかを予想する。
予想される反応 2倍(正解)
3倍(構造についての理解が不十分なために起こる誤答)
6倍(2倍の図をさらに3倍するという考えからくる誤答)
・パンタグラフを大きくしても3倍の図をかくことができないことを確認し、3倍の図をかく
ためのパンタグラフの構造を考える。
・実際にパンタグラフを組み立て、検証する。
①導入
T1 大きいパンタグラフは小さいパンタグラフの3倍の大きさである。大きいパンタグラフ
で図をかいたとき、完成した図形はどのような大きさになるか予想してみよう。
1本の棒の長さが 10㎝ のパンタグラフを生徒全員に配布する。
1本の棒の長さが 30㎝ のパンタグラフを用意し、生徒に提示する。
S1 3倍だと思います。
S2 2倍だと思います。
。 ( )S3 6倍だと思います 左:生徒用 右:1本の長さを3倍にしたもの
T2 それでは確認をします。自分の考えと同じものに手を挙げて下さい。
2倍と予想した生徒 2人
3倍と予想した生徒 23人
6倍と予想した生徒 1人
無回答 4人
T3 実際にこの3倍の大きさのパンタグラフを用いて図をかいてみましょう。
(黒板に課題を貼り、図をかく )。
T4 完成した図の大きさは、何倍ですか。
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S4 2倍です (生徒は意外な結果に不思議そうな表情であった )。 。
T5 3倍の拡大図をかくためにはパンタグラフの大きさではなく、構造に問題があるようで
す。3倍の図をかくためのパンタグラフの構造を考えてみましょう。
②展開
補助課題
△ABCを3倍に拡大した場合、どのようになるかを
予想し、△ABCをかいてみよう。' ' '
生徒の解答
(ア) (イ)
・点Oを相似の中心として、 ・マス目を利用して傾きを考え、長さを
: = : = : = : 3倍にする。OA OA' OB OB' OC OC' 1 3
※課題にマス目を利用したことで (イ)のようにOA:AA≠1:2の状態である正解が出、 '
てきた。マス目は付けずに出題した方がよかった。
中心課題
、 ( ) 。・より多様な考え方を引き出したいと考え 生活班 8班 に分けて相談しながら考えさせた
、 。各班にパンタグラフをつくるために必要な道具を渡し それをヒントとしながら活動させた
O A
B
C
3点O,A,A′に注目して、3倍の拡大図をかくためのパ
ンタグラフをつくってみよう。
O A A′
O A
B
C
A′
B′
C′
O A
B
C
A′
B′
C′
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ある班の解答 班の作品
考え方 の長さが の3倍になるように考えた。OA' OA
・8班中3つの班が、上記のような構造のパンタグラフであった。
・ある班は、Vの字を3つつないでやってみようとしていた。
上記の構造を早い段階で発見した班には、より多様な考え方を引き出すために「4本だけで3
に拡大するパンタグラフを考えてみよう」と発問をした。
・右の写真のようなパンタグラフを考えた班があった。
このパンタグラフは、固定した状態ではOA:AA′=1:2
であるが、動かすとその比が保たれない。点O,A,A′の間隔
だけでなく、2本の棒をどのようにピンで固定したらよいのかを
考察するための手立てが不十分であった。
・授業の中でも、生徒間での活発な意見交換があり、また授業後も自分の考えたパンタグラフ
を見せにくる生徒がいるなど、とても有意義な授業であった。
(3)3時間目の授業
・2時間目の授業で理解が不十分だった既習事項の確認とまとめ
1時間目の授業では、1つの場合の構造について考えたが、パンタグラフにおいて「伸びた状
」 「 」 、 、 。態 や 縮んだ状態 など どのような状態でも 2の(ア ) (イ )が成り立つことを確認するP. ' '
<伸びた状態> <縮んだ状態>
パンタグラフの構造に含まれる「合同な三角形」や「相似な三角形」について整理する。
△OAP≡△AA′Qより △OAP∽△OA′Tより
OA:OA′=1:2 OA:OA′=1:2
O A A'
O A A'
OA A'
P Q
S TR
OA A'
P Q
S TR
O A A′
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・ 合同な三角形」や「相似な三角形」をもとにして、3倍の拡大図をかくパンタグラフを考え「
る。
<生徒の解答>
、 、 「 」事後の授業で これらのことを振り返り 学習したところ 3倍の構造がわかってすっきしりた
という生徒もいた。
3 実践の考察とまとめ
3倍の拡大図をかくためのパンタグラフの構造として、次のような場合が考えられる。
<合同を用いた構造の考え方>
・合同な三角形を横に並べた構造
OA:AA=1:2'
(OA:OA=1:3)'
<相似を用いた構造の考え方>
・相似比が1:2である相似な三角
形を用いた構造
・相似比が1:3である相似な三
角形を用いた構造
誤答ではあるが、次のようなパンタグラフの構造を考えた生徒がいた。
・静止状態ではOA:AA=1:2だが、 ・OA:AA=1:2だが、連動性が' '
動かすと、比が保たれない構造 なく、比が保たれない構造
O A A′
O A A′
O A A′
O A A′
O A A′
O A A′ O A A′
O A A′
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パンタグラフは動きのある教材なので、生徒からも予想外の反応があり、思考を深めるためにとて
も有効であった。生徒はパンタグラフにとても興味を持ち、3倍の拡大図をかくパンタグラフをつく
るために意欲的に活動していた。今回の授業では、相似な図形のまとめとして行ったが、単元の導入
など、他の場面でも活用が可能である。理数の面白さや深く追究する楽しさを味わうことのできる教
材なので、ぜひ多くの方に実践していただきたいと思う。
《参考文献》 楽しさひろがる数学3 指導書(啓林館)
《パンタグラフについて》
今回使用したパンタグラフは次のような点を工夫しながら製作した。
①材質…厚紙
(プラスチック、その他の紙、金属も試したが、
加工しやすく強度もある素材として厚紙を選んだ )。
②棒と棒を止める金具…ハトメ玉
(外形を見ながら線を引くため、のぞける穴が必要
である。そのためにはハトメ玉が最適であった ) O A A′。
③点Oについて
点Oにもハトメ玉を付けた。そのハトメ玉を押さえることで、画鋲で固定しなくてもパン
タグラフが点Oを中心として自由に回転することができる。
④点Aについて
点Aの場所にはガムテープを貼り、コンパスで穴を空けた。ハトメ玉の穴は大きすぎるた
め、図形の外形を見てかくときに誤差が大きくなる。できるだけ誤差を少なくするために穴
を小さくする必要がある。
⑤点A′について
点A′は鉛筆をさす穴なので、他の穴のように穴空けパンチを使用すると大きすぎて形が
乱れてしまう。それを防ぐためにキリを使用して穴を空けた。
(その他に使用した道具)
①1つ穴用 穴空けパンチ
2つ穴用のものは穴の位置が見えないため、右の写真のよ
うな道具を使用した。
②割れピン
授業の中で生徒がパンタグラフを製作するには、ハトメ玉を使用すると一度固定すると移動
することができない。今回の授業では、取り外しが簡単な割れピンを使用した。