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1
低反応性官能基の
水素化と脱水素化を可能とする
多機能性ルテニウム錯体触媒
名古屋大学 高等研究院および大学院理学研究科 物質理学専攻(化学系)
准教授 斎藤 進
URL: http://noy.chem.nagoya-u.ac.jp/S_Saito_J/Saito.html
2
日経BPムック 「化学のチカラ」記事, 2011
名古屋大学理学部広報誌 「フィロソフィア」記事, 2011
3
研究背景(還元反応の重要性) CO2: ・ CO2からモノを作りCO2へ戻す
・ 化学資源として突破口を
代表的な研究開発の動向
CO2から炭酸エステルの生産 旭化成ケミのライセンス技術が世界5カ所稼働
CO2の水素化—MeOHエコノミー(メタノール経済社会)
=>「メタノールエコノミー」化学同人,2010年
CRIとOlahら, アイスランド国家戦略で工場稼働開始(2009年)
:年産4万トンへ
三井化学(株),2010年3月まで大阪工場稼働
:年産100トン
=> 固体触媒のブラックボックス的利用
カルボン酸誘導体: ・ 米国DOE指定の糖バイオマス由来上位30中、20以上はカルボン酸やエステル
・ 使い捨てポリマー --- ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレア
代表的な研究開発の動向
難処理官能基。論理的な触媒的化学変換法は極めて限られている
(金属)塩廃棄物を出す「官能基変換」に大きく依存
4
新技術の基となる研究成果・技術1
NH2
RuP
H2N
P
Cl
Cl
Ph
PhPh
Ph
当該発明における新型Ru錯体(触媒前駆体)野依型Ru錯体
分子設計の転換
添加剤 A
添加剤 B
添加剤 C
Ru触媒 A
Ru触媒 B
Ru触媒 C
活性型不活性型
それぞれ触媒活性が異なるN
P
Ru
N
PX
X で切断し元素をつなぎかえる
野依触媒との違い
1) Ru中心が配位子のかさ高さで覆われている
2) Ru中心に水素以外の分子は触れにくい
3) 高温でも分解せずに安定
4) 野依触媒では水素化できないものを水素化できる
ケトン類の不斉水素化は2001年ノーベル化学賞・の中核をなす成果
水素化と脱水素化の両者に使える多機能性
高熱、高圧で触媒が失活しにくい 官能基によらず触媒活性を示す
Impact
当該発明のRu錯体
(触媒前駆体)
5
新技術と競合しうる?研究成果・技術
Ru
N Ru
NEt2
PtBu2
CO
H
PPh2
Ru
H2N
PPh2
H2N
Cl
Cl
Milstein, et al. Angew. Chem. Int. Ed.
2006, 45, 1113.
Saudan, et. al. Angew. Chem. Int. Ed.
2007, 46, 7473.(Firmenich SA)
HN Ru
P
PPh2
CO
H
Takasago Co.
Ph2 Cl
N Ru
N
PtBu2
CO
H
Milstein, et al. J. Am. Chem. Soc.
2010, 132, 16756.
Nature Chem. 2011, 3, 609.
P
RuH2N
Ph2P
NH2
Ph2
BF4–
Bergens, et. al.Angew. Chem. Int. Ed.
2011, early view.
Ru(acac)3
+
PPh2
PPh2PPh2
Rh6(CO)16
+
Re2(CO)10
Cole-Hamilton, et. al. Chem. Commun.
2007, 3154.
Ru3(CO)12
+
Re2(CO)10
Fuchikami, et. al. Tetrahedron Lett.
1996, 37, 6749.
Ph2P
NH2
Cl
Ikariya, et. al.Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 1324.
既存技術の欠点?
• Ru上がかさ高い配位子で覆われていない
=>水素以外の分子がRu中心に近づきやすい
• P上にPh基を二つもつ
=> 配位が比較的弱い
• 三座配位子をもつ
=> Ru中心が配位飽和とならない
何が想定されるか?
• Ru中心が触媒毒を受けやすい
(特にサイズの小さい分子で)
• 多官能基化された化合物で失活しやすい
• Ru錯体が熱的に壊れ分解しやすい
6
反応温度、H2圧は一律に 140–160 °C, 40–80 atmを 設定し初期検討した結果 TON = 触媒回転数.H2が Ru錯体1分子に対して何回 仕事をしたか、を表す. 「additive」としては、 金属アルコキシドやNaBH4
が主流 最も不活性とされるアミドや カルボン酸などカルボニル基 以外でC=C, C≡C, C=N, C≡N, N=Oなども水素化できる.
エステルの水素化では 若干の塩基性条件. それ以外の水素化では ほぼ中性条件.
技術内容(水素化)の紹介1 多機能性「カルボニル関連基」水素化触媒
R
O
OHR
O
NR'2
R
O
OR'
H2
H2
H2
H2 H2
H2
additive
additive
additive
additive additive
additive
RCH2OH + HNR'2RCH2OH + H2O
RCH2OH + R'OH
TON ~100TON ~60
TON ~200
TON ~100
2
2
2
R'O
O
OR'
CH3OH + 2 R'OH
H23
TON ~300
R'2N
O
NR'2
H23
TON ~120
CH3OH + 2HNR'2
additive
additive
R
O
H
R
O
R'
R
OH
H R
OH
R'
R
N
H
R'
R
HN
H
R'
H H
H
TON ~100
TON ~100
Ru
Complex
7
技術内容(脱水素化)の紹介2 アルツハイマー型認知症抑制治療薬Aricept®の1反応容器合成
S/C = 100 per one reaction of 4 reaction steps
donepezil (Aricept®)
Ru cat.
• Eizai’s blockbuster!; in Japan (2010), only this is allowed as clinical medicine for Alzheimer’s disease. • remains 26th- position in world’s selling; annual growth: 15%; $ 3,438,000,000/y(2008)
Saito, Noyori, Miura, Held, Suzuki, Iida, JP patent, submitted, 2011
C
S
Impact 1: 4反応段階を一挙に!:ひとつのRu錯体触媒で、1反応容器で!(160 °Cの反応)
(エステル水素化/アルコール酸化(脱水素化)/アルドール縮合/a,b-不飽和C=C結合水素化)
Impact 2: 塩基性条件下、1段階目の反応:H2必要;2段階目の反応:H2必要なし
Impact 3: Aricept®単離まで水溶液での後処理を必要としない
Impact 4: 金属塩廃棄物は触媒由来のもののみ
Impact 5: 原料のエステルは安価:エーザイ(株)の論文(Tetrahedron, 2001, 57, 2701.)に記載
Impact 6: EtOHと水および有機溶媒(THFとtoluene)が主廃棄物 => High atom economy
Impact 7: エステルの水素化に使った水素原子4個のうち3個がAricept®に残る
Impact 8: 学術面の進歩:多機能性触媒による水素移動多様性の制御の実現
8
技術内容(脱水素化)の紹介3 コレステロール合成酵素阻害剤Lipitor®の核構造合成
S
C
• Pfizer’s blockbuster!; annual growth: 6.4–10% • remains world’s top-selling for 7 years: $ 13,500,000,000/y(2008) • anti-hyperchoresterolemia, which went off patent in 2008 • Saito, Noyori, Miura, Held, Suzuki, Iida, JP patent, submitted, 2011
atorvastatin (Lipitor®)
Ru cat.
S/C = 200
Impact 1: 安価なアミノ酸バリンから得られるバリノールを原料にピロール環を一挙構築!
(アルコールの酸化(脱水素化)/分子内アルドール縮合/脱水と脱水素)
Impact 2: 165 °C, 塩基性条件下の反応。現時点では原料のモル比 ketone:valinol = 2:1
Impact 3: 反応溶媒はトルエンなど炭化水素系溶媒が必須
Impact 4: ピロール環合成後:わずか2反応段階でLipitor®合成完了。このうちの1段階目は既知 (Org. Lett. 2010, 12, 4094.)で触媒以外の金属廃棄物なし
Impact 5: 不斉炭素を2つもつキラルな側鎖の合成法(酵素法)も既知 (Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 362.)で市販されている
Impact 6: 学術面の進歩:多機能性触媒による水素移動多様性の制御の実現
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従来技術とその問題点
1. 既に実用化されているものには、Cu/Cr金属酸化物やCu/Zn金属酸化物等
を触媒とするエステル類の水素添加法がある.これらはポリマーの原料や
種々のアルコール類の製造に必須だが、
・ 高温(~300 °C)・高圧(~300 atm)に起因するエネルギーコストに難あり
(今後の省コスト・省エネの重要性を見据えれば) ・ 高温のため選択性が低下(不純物の分離の問題) ・ 各々の水素化反応に応じて触媒や金属を変化させる必要がある.
等の問題がある.
2. アミドの水素化においても、高温(250 °C)と5 atm(+ 継続的な水素導入) 程度を必要とする(反応時間:6–9 h程度).
国際公開番号:WO2008/081635:第3級アミンの製造方法
3. アジポニトリルの水素化でも、600–650 atm, 200–135 °C (Co/Cu系触媒)、
300–350 atm, 100–180 °C (Fe系触媒)を必要とする.
参考文献:「工業有機化学 第4版」向山光昭 監修,東京化学同人,1996年
共通する問題点:省資源性・省エネルギー性に難あり
10
新技術の特徴・従来技術との比較
• 従来技術の問題点「官能基ごとに還元条件、触媒、金属源を
変える必要があった点」を抜本的に改良することに成功.
• 「ひとつの触媒前駆体から多(高)機能性(多彩な水素化と脱水素化) を引き出せた」という点は、極めて特筆すべき.これまでどのような
触媒系においても、かような多機能性の実現はほぼ不可能と
信じられてきた.
• 本技術の適用により、種々多彩な不飽和極性官能基の
水素化を一挙に1反応容器で実現できる可能性がある.
• この多機能性は、触媒前駆体錯体の精密な分子設計に
よるもの.まだ水素化試験していない官能基は無数にある.
今後もさらに飛躍的に多(高)機能性が拡がる可能性大.
• 費用対効果(採算性)に関しては現在見積もりできていない.
利点:単一の金属殻と配位子で多機能性、高機能性を実現
11
想定される用途 • 本技術の特徴を生かすためには、脂質の水素化が考えられる.
オレフィンも水素化できるため、様々な長鎖飽和脂肪族アルコール
を製造できる可能性あり.
• 本技術の特徴を生かすためには、ラクタムの水素化が想定される.
すなわちHO(CH2)nNH2 (n = 6, 11, 12など)製造に適用する
ことでウレタン系ポリマーのモノマーや高分子合成開始剤の中間剤
が得られる.既存製造プロセスで既に工業化されている汎用化合物
を水素化できる場合、メリットが大きいか.
• 中性条件下でアミドを水素化できるため、アミドの脱保護剤として
医農薬分野の合成部門でも応用が可能.
• 達成された「強い」触媒に着目すると、バイオマス群、例えばセルロースやその他単糖類を還元する用途等に展開することも可能か.
• ポリエステルやポリアミド系樹脂からモノマーを回収する方法へ.
用途:これまで触媒的化学変換が困難だった官能基の酸化・還元
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想定される業界
• 利用者・対象
油脂関係の企業:油脂から飽和アルコールを製造
エステル類を副生物として得る企業:アルコールを製造
オキシム製造企業:オキシムからアミンを製造
ラクタム製造企業: HO(CH2)nNH2を製造 (n = 6, 11, 12)
ニトリル製造企業: アジポニトリルからHMDAを製造
ニトロベンゼン製造企業:アニリン誘導体を製造
医農薬製造企業:アミド基の脱保護など
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実用化に向けた課題
• これまでエステル類の水素化において高温・高圧条件(140–160 °C;
40–80 atm)での進行を見いだした(初期的条件にすぎない).錯体触媒で
あっても、様々な官能基存在下や高温下で失活しないことを確認した段階.
• 最近になり、新反応条件を見いだし、反応時間の短縮(24 h => 2 h:
安息香酸メチルの水素化でほぼ100%の転化率)には成功している.
どうやら高温は、触媒活性種の形成に一躍かっている.
しかし、実際の水素化反応がより低温(100 °C程度)で進行するか否か
は現在検討中.触媒活性をもっと向上させる必要あり.
• 今後、水素圧の低減(10 atm程度にする)の可能性についても実験データを
取得し、それぞれの官能基の還元に適用していく場合に必要なそれぞれの
反応条件の設定を行っていく.今後の学術的な検討(配位子の改変や
触媒活性種形成段階の改良)により克服できるのではと楽観視.
• 実用化に向けて、すべての官能基の水素化・脱水素化において反応条件を
100 °C, 10 atm程度までより温和にできるよう、飛躍的な触媒設計と技術を
確立する必要あり.
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企業への期待
• どの企業が水素化に興味をもち、水素化を現在使って
何を製造しているのかが、小職では不明.情報が欲しい.
CO2を炭素源として用いる製造法への転換について
その必要性についてどう思っているか.
もっと草分け的にCO2研究分野に参入してほしいです.
(小職が知らないだけかもしれませんが)
• 触媒的水素化の技術・産業化実績をもつ企業、
本Ru錯体や関連金属錯体の製造と販売を希望する企業、CO2
を炭素源として考えている企業などとの共同研究を希望します.
(現時点では小職が気づいていない分野の企業様よりの提案も
大歓迎です!)
• 水素化・脱水素化(水素移動)に基づき、より環境負荷低減型
での基幹化学原料の製造プロセスを開発中の企業、
医農薬の合成分野への展開を考えている企業には、
本技術の導入を検討する価値があればと願っています.
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :ルテニウム錯体、水素移動反応用
触媒及び水素移動反応物の製造方法
• 出願番号 :特願2011-012316
• 出願人 :国立大学法人 名古屋大学
• 発明者 :斎藤進、野依良治、三浦隆志
Ingmard Held, 鈴木めぐみ、飯田和希
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産学連携の経歴
• 2002年-現在 野依フォーラム世話人兼中核会員 野依フォーラム:20社以上の化学系企業が集まり、今後の 化学産業の方向性などを産n、産学、産n学、産n官学nなど 多様な体制で議論できるコンソーシアム (URL: http://www.noyori-forum.org/)
• 2004年-2006年 2社と産2学共同研究実施Co-PI
• 2008年-2010年 8社と産8学共同研究実施Co-PI
• 2010年-2011年 7社と産7学共同研究実施Co-PI
上記共同研究は、当該発明とは直接の関係なし
• その他、企業関係者との打ち合わせの実績多数あり (エコ型触媒的化学変換・脱石油化学の方向性などについて)
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お問い合わせ先
名古屋大学 産学官連携推進本部 連携推進部
コーディネーター 渡邊 真由美
• TEL: 052-788-6149
• FAX: 052-788-6002
• E-mail: [email protected]