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[発表要旨]� 財団法人 電力中央研究所� 「エネルギーの将来を考える」� ─エネルギーを賢く使って豊かな暮らし─� エネルギー未来技術フォーラム� 「エネルギーの将来を考える」� ─エネルギーを賢く使って豊かな暮らし─� 2004 .11. 2

「エネルギーの将来を考える」 · エネルギー未来 ... れには、照明に加え、洗濯機や掃除機、テレビなど普及率がほぼ100 ... 費が含まれる。筆者の家庭でも家族人数以上のテレビがある

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Page 1: 「エネルギーの将来を考える」 · エネルギー未来 ... れには、照明に加え、洗濯機や掃除機、テレビなど普及率がほぼ100 ... 費が含まれる。筆者の家庭でも家族人数以上のテレビがある

[発表要旨]�

財団法人 電力中央研究所�

「エネルギーの将来を考える」�─エネルギーを賢く使って豊かな暮らし─�

エネルギー未来技術フォーラム�

「エネルギーの将来を考える」�─エネルギーを賢く使って豊かな暮らし─�

2004 .11. 2

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「エネルギーの将来を考える」

―エネルギーを賢く使って豊かな暮らし―

エネルギー未来技術フォーラム

発表1:「暮らしとエネルギー需要」 ………………………………………………… 1社会経済研究所 上席研究員  土屋 智子

発表2:「エネルギー有効利用に関する動向」 ……………………………………… 9システム技術研究所 上席研究員  中野 幸夫

発表2-�「省エネ住宅の費用対効果」 ………………………………………………15システム技術研究所 主任研究員  占部  亘

発表2-�「ヒートポンプと蓄熱技術」 ………………………………………………17エネルギー技術研究所 上席研究員  斎川 路之

発表3:「エネルギー効率化社会への提言」 …………………………………………21社会経済研究所 上席研究員  浅野 浩志

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発表1「暮らしとエネルギー需要」

社会経済研究所 上席研究員 土屋 智子 

目    次

1.はじめに2.エネルギー消費が映し出す暮らしの変化3.省エネについて考える4.これからのエネルギー消費を考える5.電力依存社会における課題

1.はじめに

私たちの生活は、さまざまなエネルギーを活用することで成り立っている。エネルギーの使い方は、私たちの生き様そのものを表していると言っても過言ではない。そして、戦後数十年の間に、私たちの生き様、エネルギーの使い方は大きく変化し、その量的質的変化が私たちの生活環境に重大な影響を与え始めている。本発表では、エネルギー消費の変化を通じて、私たちの暮らす社会の現状と課題を検討する。

2.エネルギー消費が映し出す暮らしの変化

図1は1990年から2002年までの12年間におけるエネルギー消費の増加率を部門別に示したものである。長い景気低迷期にもかかわらず、日本のエネルギー消費は堅調に増加しているが、製造業を中心とした産業部門や貨物輸送の増加率は低く、旅客部門に至っては90年より少なくなっている。一方、自家用自動車、家庭、業務部門では著しい増加を示している。自家用自動車と家庭部門は、私たち生活者が直接消費しているエネルギーであり、生活者こそエネルギー需要増大の主因であるといえよう。

しかし、ここ10年の暮らしぶりは向上しているわけではなく、生活者個人は自分がエネルギー需要増大の原因であるとは意識していないであろう。私たちは、何にどれだけエネルギーを使うようになってきたのだろうか?

図2は、世帯のエネルギー消費量を用途別に示したものである。エネルギー消費の増加や省エネの話では、すぐに冷房需要が話題になるが、年間消費量としてみると非常に少ない。冷房は、今夏のような猛暑でも首都圏で6月末から9月中旬までの2ヶ月強の期間し

─1─

図1 日本のエネルギー消費の増加率(1990-2002)

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か使われず、1日の使用時間も夕方から深夜までの数時間程度の世帯が多いためである。しかし、年々冷房機器の保有台数は増大してきており、ピーク需要への影響を考えると無視してよいものでもない。

特徴的な変化を示しているのは、厨房用である。厨房用のエネルギー消費量は、約40年前と同水準まで減少してきている。日本人の生活水準の向上に伴って、食費の割合(エンゲル係数)は大きく減少してきた。食費の割合が減少するだけでなく、加工食品の利用や外食などの割合が増大して、食生活全体の外部化が進んでいる(図3)。若い世代に限らず、コンビニエンスストアが冷蔵庫代わりという世帯は少なくない。食の外部化に加え、冷蔵庫などの機器の省エネ化が厨房用エネルギー消費の減少の要因と考えられる。

暖房用エネルギーは、過去においても大きな割合を占めており、天候の影響を受けつつも増加傾向にある。暖房用エネルギーとしてもっとも使われているのは今でも灯油である(図4)。しかし、都市部を中心にガスや電気を用いた暖房が増加している(図5)。熱エネルギーという点では、給湯用エネルギーの割合も大きい。ただし、90年代に入ってから変動しながらも減少傾向にある。給湯用エネルギー消費の増大は、当初家庭風呂の普及ではじまり、現在では至るところで温水を利用できる住宅も増えてきている。給湯用エネルギー消費減少の原因としては、入浴スタイルの変化をあげることができる。たとえば、首都圏で調査をすると20代の4割以上がシャワーだけですませると回答している(図6)。6月時点の調査であったことを考慮

─2─

図3 食費に占める調理食品や外食の割合が増加

図4 家庭部門の暖房エネルギー消費 図5 年代別エネルギー源別平日の暖房時間

図2 世帯あたり用途別エネルギー消量費の推移

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しても、“風呂好きな日本人”は徐々に減少していくのかもしれない。最後に、1965年以降一貫して増大してきているのが、「その他」エネルギー消費である。こ

れには、照明に加え、洗濯機や掃除機、テレビなど普及率がほぼ100%に達した家電製品のほか、オーディオ機器やコンピューター関連製品など多種多様な機器の利用に伴うエネルギー消費が含まれる。筆者の家庭でも家族人数以上のテレビがあるように、今や私たちは電化製品に囲まれて生活している状況にある。近年普及著しいパソコンは、プリンターやスキャナー、ファックスといった周辺機器の需要も押し上げていると推察される(図7)。

このように、私たちの暮らしは、生命維持に不可欠な食生活部分のエネルギー消費を減らす一方で、利便性、快適性、情報集約的な生活を重視したものに変化し、そこでエネルギーの多くを消費するようになっている。

3.省エネについて考える

しかし、多くの人は、このようなエネルギー多消費型の生活をけして望ましい状態と考えてはいないようである。電力中央研究所が行った意識調査によれば、「省エネルギー」は常に重要なエネルギー政策のひとつとして回答されている(図8)。

省エネルギーに効果があるのは、何といっても技術面での対策である。詳細は発表2で紹介するが、例えば、同じメーカーの同じ容量の冷蔵庫に買い換えると、約25%も電気使用量を減少する場合がある(図9)。トップランナー制度によって、高効率な電化製品の開発が促進されており、賢く機器を選ぶことが生活者に求められる。

しかし、いくら高効率な機器を保有していても使い方が問題であれば、全体の使用量を減らすことはできない。“よい機器を上手に使

─3─

図7 インターネット利用8000万人時代を

映し出すパソコンの普及    

図8 エネルギー政策で重要なこと 

図6 入浴スタイルの変化

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う”ことが重要である。ただし、多種多様な電化製品が登場する社会にあって、生活者には

“上手に使う”ための情報が不足している。例えば、待機電力について「よく知っている」人は半数近くがテレビの主電源を切ると回答しているが、十分な知識のない人はほとんどテレビの主電源を切っていない(図10)。一方、自宅の電気使用量の状況を知らされると、意識的に省エネを心がける傾向が調査結果に示されている(図11)。図11は97年と98年の同じ月の電気使用量を比較したものであり、全体として98年の使用量が増えているにもかかわらず,電気使用量のグラフ送付を申し込んだ世帯では使用量に顕著な減少が見られる。

エネルギー、ことに電気は、水やガスと異なり、使用実態が目に見えないために「使っている」という実感を得にくいものである。単に生活者の精神的な努力を求めるのではなく、エネルギー消費を実感できるしくみをつくっていく必要がある。

また、生活者への情報としては、間接エネルギーの問題もほとんど伝えられていない情報のひとつである(図12)。筆者は、数週間前に衣替えを行い、数年間着ていなかった洋服をかなり廃棄処分にした。中にはほとんど着用しなかったものもあり、これらの生産にも多くのエネルギーが費やされていることを知ると、今後はより慎重に買い物をしようと反省するきっか

─4─

図11 「電気使用量のお知らせ」サービスの

申し込み有無と電気使用量

図10 待機電力の知識とテレビの主電源の扱い

図12 家庭での直接・間接エネルギー消費

10月の電気使用量の平均(世帯全体)�

(同一メーカーでほぼ同容量の場合)�

図9 冷蔵庫買い替え効果

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けになる。前述したように、食生活では外部化が進んでおり、ますます間接エネルギーの割合が増大してくるだろう。生活を無理に変えるのではなく、より使用エネルギーの少ない商品を購入する“賢い生活者”として社会の省エネに影響を与えるようにしていきたいものである。

手前味噌な話であるが、筆者の自宅では、今夏もエアコンは1日だけ、それも3時間運転しただけであった。筆者が特別暑さに強いわけではなく、修行僧のようにがまんの生活をしているわけでもない。単に、冷房が必要ないくらい涼しい環境に住んでいるだけである。夏の日中のピーク需要の原因とされている冷房であるが、一般世帯で日中使用している割合は少なく、夕方から深夜にかけての使用が多い(図13)。つまり、夜の暑さが問題なのである。筆者の住むニュータウンは開発が滞っているせいで林や草地が多く残っているため、夜になると急速に気温が下がってくる。夜涼しくなる環境をつくることで、冷房用のエネルギーは減らすことができる。

しかし、このニュータウンには大きな問題が2つある。1つは、暖房エネルギーの省エネ対策が不十分ということである。夏涼しい環境は冬の寒さが厳しいということでもある。実際、筆者宅のガス使用量は冬季の暖房のために膨大な量となる。ニュータウンだけでなく、日本の住宅では十分な断熱対策が施されていないものが多い。量的な面から暖房需要減少には断熱性能の向上が何より重要である。

問題点の2つめは、広大な地域に人工的な街を作っているため、自動車社会になりがちであることである。最初に示したように自家用自動車が消費するエネルギーは著しく増大している。車の燃費も近年再び悪化する傾向にある(図14)。そして、これは都市部の問題というより、全国の地方都市や町や村が直面している問題でもある。地方に行けば、一人一台という自動車保有率のところも少なくない。今世界では、公共交通機関の見直しが始まっており、街の中心に車が入らない“人中心のまちづくり”が脚光をあびている。人の営みすべてがエネルギーを消費するということから考えて、環境づくりの面からも省エネルギー対策を検討することが必要であろう。

4.これからのエネルギー消費を考える

今後、私たちの生活とエネルギー需要はどのようになっていくのだろうか? まず、日本社会に大きな影響を与える高齢化について考えてみよう。高齢者世帯は、在宅時間が長く、かつ

─5─

図13 首都圏世帯のエアコン使用状況

図14 自動車保有台数と消費原単位の推移

(2000年7月の6所帯平均値)

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て家族人数が多かった時代の住宅に住み続けていることから、一人当たりのエネルギー消費量が若い世代よりも多い。また、冷暖房を日中も利用する割合が高く、電力の昼間需要を押し上げると予想される(図15)。一方、自動車の利用には制約が出てくるから、より一層“人を重視した”まちづくりが求められるようになるだろう。

逆に、若い世代では日中の在宅時間が減少し、昼間需要が低下していくだろう。90年代になって、共働き世帯が専業主婦世帯を上回り続けている(図16)。共働き世帯では、在宅時間が短くなって家庭内で消費するエネルギーが減少する代わりに、職場でのエネルギー消費や様々なサービスを利用することによる間接エネルギーの消費量が増大していくだろう(図17)。これまで触れてこなかったが、業務部門のエネルギー消費も増大し続けている(図18)。特に小売店や余暇活動に関連したところでのエネルギー消費の増大が大きい。こうした業界の省エネ努力を促すことが求められよう。ある大手スーパーでは、冷凍食品のほとんどをガラス

─6─

図17 変わる生活時間

図18 業務部門のエネルギー消費

図16 増え続ける共働き世帯

図15 高齢者世帯のエアコンの使用量の実態

図19 世帯の省エネ取り組み度と一人当たり電気使用量

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扉の冷凍庫に陳列している。これは省エネになるとともに、通りかかった買い物客が寒さを感じず、快適に買い物のできる環境をつくりだしている。

共働き世帯の増加から問題になるのは、家庭での省エネ努力の低下である。家庭の省エネは主婦ひとりが取り組んでも効果がない(図19)。特に、中学生以上の子供をもつ世帯では、世帯全体で取り組むことが重要である。しかしながら、国の調査によれば、共働き世帯といえども、男性はほとんど家事を分担していない(図20)。そして、この男性の不参加傾向は、省エネや環境に配慮した行動においても顕著である(図21)。男女共同参画時代にあっては、省エネや環境保全に男性の積極的な関与を求めたい。

5.電力依存社会における課題

これまで生活に関わるエネルギー消費を考えてきた。しかし、「その他」用途のエネルギー消費が増大し続けていることに代表されるように、エネルギーの中でも「電力」消費が著しく増大している(図22)。これは、家庭に限ったことではなく、業務部門でも電力の消費割合が増大し続けている(図23)。周知のとおり、未だに電力供給はその多くを化石燃料に依存してお

─7─

図22 家庭部門エネルギー源別消費量 図23 民生部門の電力割合

図21 省エネ実施率(男女別)図20 家事の分担状況

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り、省エネルギーは重要な温暖化対策のひとつである。生活者個人のできることはわずかで、省エネの見返りも努力を促進するほど大きなものでは

ない。しかし、小さな積み重ねが重要なのであり、よい商品を選ぶ目と、賢く使う知恵が求められているといえよう。行政や産業界はこれらに必要な情報を提供するとともに、個人的な努力では解決できない問題、たとえば交通機関や都市構造など社会環境の改善に取り組む必要がある。

もうひとつ、生活者には、ここまで述べてきたようなエネルギー、あるいは電力に依存していることに対する問題意識をもつことも必要である。大きな災害が発生すると、エネルギーの大切さに気づかされるが、日常生活の中ではほとんど意識されない。省エネに取り組むということは、エネルギーに依存する生活の問題に気づき、災害などの問題に対処できる生活者になるということである。

今や、私たちは電気じかけの家に住む「トミー・ナマケンボ1 」と同じ状態にある。トミーは停電の後で大変な目に合うのだが、私たちはどうだろうか? 電力供給が途絶したら、機械が使えなかったら、生活していけるだろうか? 省エネは、単にエネルギー問題の解決策ではなく、私たち自身の生活の安全にもつながっている。

─8─

1 イギリスの絵本作家ペーン・デュボアが1966年に出した絵本「ものぐさトミー(原題:Lazy TommyPumpkinhead)」(岩波書店)の主人公。

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発表2「エネルギー有効利用に関する動向」

システム技術研究所 上席研究員 中野 幸夫

目   次

1.はじめに2.家庭部門におけるエネルギー有効利用 ‐省エネのしどころ‐

暖房・冷房 省エネ住宅〈トピックス�〉高効率ヒートポンプエアコン

給湯    ヒートポンプ給湯機厨房    高効率コンロその他機器 高効率冷蔵庫、高効率照明

3.革新的な省エネ技術の萌芽〈トピックス�〉4.まとめ

1.はじめに

スイッチを押せば明かりがつき、リモコンを操作すればクーラーが寝苦しい夏の暑さからも解放してくれる。蛇口をひねればお湯が出、ストーブに火をともせば、寒い夜も快適である。ふだん何気なく使っているエネルギーであるが、私たちの生活はエネルギーを使うことであるといってよい。

図1は家庭で消費されるエネルギー(最終エネルギー消費)の用途別割合である。暖房と給湯が夫々約30%を占める。ついで、厨房(煮炊き)、冷蔵庫、照明で消費されるエネルギーが大きい。省エネルギーというとしばしば冷房が取り沙汰されるが、冷房に使われるエネルギーは家庭ではいまだ大きくない。

図2は一世帯あたりの用途別エネルギー消費を地域別に見たものである。暖房エネルギーにつ

─9─

図1 家庭部門の用途別エネルギー消費(2002) 図2 用途別・地域別エネルギー消費量(2002)

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いては、寒冷地である北海道、東北、北陸で多いが、他の地域ではいずれも全国平均並みである。給湯エネルギーについては北海道でやや少ないものの、他の地域で大きな差異は見られない。また、厨房エネルギーおよびその他の機器が消費するエネルギーについても大きな地域差はない。

2.家庭部門におけるエネルギー有効利用 ー省エネのしどころー

家庭でエネルギー消費の大きい暖房、給湯、厨房、冷蔵庫を中心に、現状で利用可能な技術の採用によって、どの程度省エネが可能であるかを見てみたい。ただし、ここでは便益を犠牲にする「我慢の省エネ」は取り上げていない。あくまでも便益の維持あるいは向上を前提にした上でエネルギー消費を削減する「エネルギーの有効利用」を取り上げている。

家庭部門におけるエネルギー有効利用促進の柱は、� 省エネ住宅(高気密・高断熱住宅)の普及� 家庭用機器のエネルギー利用効率の向上と高効率機器の普及

の二本であり、省エネのしどころは以下のとおりである。� 省エネ住宅による暖房・冷房エネルギーの削減� 高効率ヒートポンプエアコンによる暖房・冷房エネルギーの削減� ヒートポンプ給湯機による給湯エネルギーの削減� 高効率コンロによる厨房エネルギーの削減� 高効率冷蔵庫、高効率照明による省エネルギーこれらの省エネ施策の採用による省エネ余地の試算を表1にまとめる。これらの施策を採用

することによって家庭全体で28%程度(一次エネルギー)の省エネが可能である。暖房、給湯、冷蔵庫で省エネの余地が大きいことがわかる。以下、夫々について詳しく見ていきたい。

─10─

表1 省エネのしどころと省エネ余地*(一次エネルギー 100:19.3Gcal/世帯/年)

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� 省エネ住宅による暖房・冷房エネルギーの削減省エネ住宅、すなわち高気密・高断熱化された住宅では、暖房器具によって暖められた部屋

の空気の熱を屋外に逃がしにくいため、暖房エネルギーの大きな削減が可能になる。東京地域を対象にした試算によると、1999年に施行された次世代省エネ基準に基づいて建てられた住宅は、1980年施行の旧省エネ基準に基づいて建てられた住宅よりも暖房エネルギーを27%程度削減できる。また、省エネ住宅では冷房エネルギーも16%程度削減できる。さらに、高気密・高断熱化によって屋内の温度のむらが小さくなり、熱的により快適な室内環境を実現できる。詳細は発表2-�(トピックス�)「省エネ住宅の費用対効果」を参照されたい。

� 高効率ヒートポンプエアコンによる暖房・冷房エネルギーの削減図3はガスストーブ(FF式)と電気ストーブの一次エネルギーに対するエネルギー利用効率

を例示している。上図は、一次エネルギーであるLNG(液化天然ガス)とLPG(液化石油ガス)を用いて二次エネルギーである都市ガスをつくり、ガス管を通して家庭のガスストーブに供給し、暖房として利用する過程を示している。一次エネルギーのもつ熱量100からほぼ熱量100の都市ガスがつくられて家庭に届き、家庭では80の熱量が暖房として利用できる。残りの20は利用されずに屋外に排出される。

一方、下図では、一次エネルギーであるLNGや石炭を使って二次エネルギーである電気をつくり、送配電線を通して家庭の電気ストーブに供給される。電気では、一次エネルギーのもつ熱量100から発電などの過程で63が熱として失われ、37だけが電気として家庭に届く。電気ストーブではこの37の電気が熱として暖房に利用される。すなわち、電気を電気ヒータで熱として使うことはエネルギー的にはあまり合理的とはいえない。

そこで登場するのがヒートポンプエアコンである。ヒートポンプエアコンは電気を利用して家の外の熱を部屋の中に汲み入れて暖房、あるいは部屋の中の熱を家の外に汲み出して冷房に利用する装置である。使用した電気エネルギーの数倍もの熱を部屋の中に汲み入れたり、部屋の外に汲み出したりできる。図4下図に示すように、利用できる熱は電気をつくるのに使用した一次エネルギーの量を大きく超える。しかも、トップランナー制度というユニークな省エネ政策の導入と製造業者の努力によって、エアコンのエネルギー利用効率を表す成績係数(COP)は年々大きく向上している。図5に見るように、同等の能力をもつエアコンでは、暖房の電力消費量はここ10年弱の間に35%程度、冷房の電

─11─

図3 エネルギー利用効率比較

(ガスストーブと電気ストーブ)

図4 エネルギー利用効率比較

(ガスストーブとヒートポンプエアコン)

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力消費量は42%程度減少している。また、図4上図のガスストーブを下図の高効率ヒートポンプエアコンで置き替えたとすると、図6に示すように、一次エネルギー消費量は57%程度削減となる。

� ヒートポンプ給湯機による給湯エネルギーの削減図7上図に例示するように、従来型のガス給湯器では消費した一次エネルギー100のうち78

がお湯を沸かすのに使われる。一方、電気ヒータを用いた従来型の電気温水器は、安価な深夜電力の利用によって大きな経済的メリットが得られる、さらには動作音がないので静かであるなどの特長を有するものの、暖房に電気ストーブを使うのと同様、エネルギーの有効利用という観点からはあまり合理的でなかった。

この状況を打破すべく、電力中央研究所、東京電力、デンソーの三者は世界に先駆けて二酸化炭素を冷媒に使うヒートポンプ給湯機を開発した。ヒートポンプ給湯機では年間平均COP3を実現しており、図7下図に示すように、発電のために投入される一次エネルギー以上の熱を利用してお湯を沸かしている。ヒートポンプ給湯機は「電気でお湯」にエネルギー的合理性を与えた画期的な装置である。また、ガス給湯器においても、潜熱回収型と呼ばれる熱効率の高いもの(熱効率95%程度)が市場に投入されている。従来型のガス給湯器がヒートポンプ給湯機に置き替わったとすると、図8に示すように、一次エネルギー消費量は30%程度削減される。

─12─

図8 給湯装置の一次エネルギー消費量

図5 ヒートポンプエアコンの性能向上 図6 暖房装置の一次エネルギー消費量 

図7 エネルギー利用効率の比較

(従来型ガス給湯器とヒートポンプ給湯機)

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� 高効率コンロによる厨房エネルギーの削減ガスコンロでは火炎が鍋底からなるべくはみ

出ないように工夫したものが市場に投入されている。これによって鍋に伝えられる熱が増加し、熱効率は33%程度から42%程度に向上している。従来型ガスコンロが高効率ガスコンロに置き替わったとすると、図9に示すように、一次エネルギー消費量は21%程度削減が見込まれる。

� 高効率冷蔵庫、高効率照明による省エネルギー

冷蔵庫や照明(蛍光灯)も、エアコン、燃焼型ストーブ、燃焼型温水器と同様、トップランナー制度の対象機種となっており、近年の効率向上には目をみはるものがある。図10は冷凍冷蔵庫の単位内容積あたりの年間消費電力量の推移である。過去10年間で三分の一になっている。この10年間で、内容積は7%程度増えているが、それを差し引いても省エネが格段に進んでいることがわかる。10年前に購入した冷蔵庫を最新の高効率冷蔵庫に買い替えることで、冷蔵庫のエネルギー消費量を65%程度削減できる。

一方、照明は部屋の用途や点灯時間、点灯頻度等に応じて選択されるものなので、一概に、白熱電球を蛍光灯、あるいは省エネ性能のより高いインバータ蛍光灯に置き替えればよいというものではない。しかしながら、従来の白熱電球を電球型蛍光灯に置き替える効果は非常に大きいのでその例を紹介する。

図11はある家庭の居間の照明(60W型白熱電球12個、消費電力57W×12個=684W)を60W型電球型蛍光灯12個(消費電力12W×12個=144W)に替えた際の家庭全体の月間消費電力量を比較している。また、図12はこのときの家庭全体の月間電気料金の比較である。一月あ

─13─

図9 コンロの一次エネルギー消費量

図11 電球型蛍光灯による省エネ効果  図12 電球型蛍光灯による電気料金の節約

出典:日本電機工業会

図10 冷凍冷蔵庫の性能向上

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たり電気80kWh、電気料金2,300円の節減になっている。電球型蛍光灯は1個1,200円~1,300円程度であり、白熱電球と比較して10倍以上値段が高いが、寿命は約6倍(6000時間、1日8時間点灯するとして2年)、消費電力は約四分の一であるため、経済的メリットも大きい。この家庭の場合には6ヶ月で投資が回収された。

3.革新的な省エネ技術の萌芽

家庭部門におけるエネルギー消費は日本全体の15%を占める。ただし、これには家庭の中で直接消費される電気、ガス、灯油等の量しか含まれていない。統計では、自家用車で使ったガソリンは運輸部門に含まれるし、家庭で消費した水、食料、衣類等の生産、供給、廃棄に関わるエネルギーは産業部門に含まれる。これらのエネルギーまで含めると、家庭生活に使われるエネルギーは日本全体の消費量の40~50%を占めるといわれている。また、過去10年間、世帯あたりのエネルギー消費はほぼ横ばいであるが、その中で厨房エネルギーは唯一減っており、10年間に13%減少している。外食の頻度が増しているものと推定され、飲食店など、業務部門への依存が進んでいると推察される。このようなことから、家庭部門のエネルギー有効利用を考える際には、家庭部門に限らず、エネルギー有効利用の視点が欠かせない。

発表2-�(トピックス�)「ヒートポンプと蓄熱技術」では、電力中央研究所が、現在、研究開発を行っている課題のうち、今後のエネルギー利用効率の向上に寄与できると考えているものの概要を紹介する。

4.まとめ

� 家庭部門全体・省エネ住宅と高効率機器によって約30%の省エネが可能。� 住宅

・省エネ住宅による暖房エネルギーの削減余地は大きい。・今後、需要増が見込まれる冷房エネルギーの抑制のためにも省エネ住宅の普及促進は重要。・省エネ住宅によって室内温熱環境も向上。・日本の気候に適した省エネ住宅、関連技術のさらなる開発が望まれる。� 家庭用機器

・トップランナー制度と製造者の努力によってエネルギー利用効率の向上は目覚しい。・機器の買い替えによる省エネ効果は大きい。特に、エアコン、ヒートポンプ給湯機、冷

蔵庫。・便益を維持、向上させつつ、省エネも進むという状況ができつつある。

─14─

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発表2- 「省エネ住宅の費用対効果」

システム技術研究所 主任研究員 占部 亘

目   次

1.省エネ住宅が必要!2.建設費と省エネ効果3.室温の均一性

1.省エネ住宅が必要!

地球温暖化防止に関する京都議定書の6%削減目標を達成するには、さまざまな部門における省エネ対策の強化が不可欠である。その中でも、省エネ対策の普及が遅れているといわれる家庭部門の省エネ化は、極めて重要である。家庭部門の有力な省エネ対策の一つとして、住宅の高断熱・高気密化があげられる。住宅を暖房した時には、窓、壁、すきまなどから熱が逃げている(図1)。この熱損失を小さくすることが住宅の高断熱・高気密化である。

住宅の省エネ化を推進するため、「エネルギーの使用の合理化に関する法律(通称、省エネ法)」に基づく住宅の省エネルギー基準(図2の3基準)が告示され、時代とともに改正されている。

しかし、省エネ住宅の普及は、思ったよりも芳しくない。住宅金融公庫融資物件の2002年調査では、旧基準31%、新基準54%、次世代基準15%であり、新基準告示(1992年)から10年が経過しても旧基準の割合は少なくない(図3)。これは、住宅の省エネ化に必要な費用とその効果が広く知られていないからと考えられる。

─15─

図2 省エネルギー基準の説明

図1 住宅から逃る熱(暖房時)

図3 省エネルギー基準の普及率

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本発表では、住宅の高断熱・高気密化に必要な建設費、その省エネ効果、室温の均一化効果を示す。

2.建設費と省エネ効果

住宅の建設費積算や省エネ効果試算には、具体的な間取りや部材設定が必要となる。本発表では、延床面積120m2 の一戸建てモデル住宅(住宅の省エネルギー基準の解説/建築環境・省エネルギー機構)を2×4工法で建設した場合について、札幌、東京、大阪、福岡を例に検討する。

住宅の高断熱・高気密化に必要な旧基準住宅に対する建設費増加を図4に示す。次世代基準住宅には50万円以上、R2000住宅には150万円以上の追加費用が必要となる。東京、大阪、福岡では、旧基準住宅と新基準住宅の建設費用がほとんど変わっていない。これは、旧基準を前提にした薄い断熱材製品が少ないため、新基準住宅とほぼ同じ部材選定になってしまったことによる。

住宅を高断熱・高気密化した場合の旧基準住宅に対する省エネ効果を図5に示す。次世代基準住宅で20%以上、R2000住宅で30%程度の省エネ効果がある。

3.室温の均一性

住宅を高断熱・高気密化することで、暖房時の室温が均一化し、足元の寒さ防止などの効果もある。そこで、住宅の高断熱・高気密化による室温の均一効果について検討する。前述モデル住宅の一階居間・食堂(床面積20m2、南面窓2つ、西面窓1つ)において、東京の真冬

(外気温-0.7℃)に20℃設定で空調した場合の床上30cm の水平面温度分布を図6に示す。

旧基準住宅では断熱性能や気密性能が低いため、エアコンの吹出温度を34.2℃まで高める必要がある。また、エアコンの暖風が届きにくいところやすきま風の影響を受けるところでは、暖まりにくくなっている。一方、R2000住宅では、エアコンの吹出温度が26.7℃でよい。また、室温もほぼ20℃に均一化されている。

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図5 暖冷房エネルギーの削減

(平均室温20℃に設定)�旧基準住宅の室温� R2000住宅の室温�

図6 室温の水平面分布(床上30cm)

図4 住宅建設費の増加

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発表2- 「ヒートポンプと蓄熱技術」

エネルギー技術研究所 上席研究員 斎川 路之

目   次

1.家庭用CO2冷媒ヒートポンプ給湯機(エコキュート)の開発 

2.水冷媒ヒートポンプ用製氷熱交換器開発への挑戦3.氷核活性細菌を利用した過冷却解除剤の開発4.暖房用などの新しい蓄熱材開発への挑戦 

1.家庭用CO2冷媒ヒートポンプ給湯機(エコキュート)の開発

当所は、1995年からCO2冷媒に関する基礎的な研究を進めてきたが、この成果を基に、東京

電力、デンソーと共同で、2001年5月、世界で初めて、家庭用CO2冷媒ヒートポンプ給湯機

(エコキュート)を開発・商品化した(図1)。開発機は、お湯を作るヒートポンプユニットと作ったお湯を貯める貯湯ユニットから構成され、安価な深夜電力を使ってお湯を蓄え利用するシステムである。

エコキュートの省エネルギー性を図2に示す。従来型の燃焼式給湯器では、100の一次エネルギーを投入すると78のお湯が得られる。一方、エコキュートではこの78のお湯を得るために26の電気が必要となるが、これを発電効率で割り戻して一次エネルギーに換算すると70になる。従って、エコキュートでは、従来型の給湯器に比べて約3割の省エネルギーが可能である。また、運用に伴うCO

2排出量に関し

ても、約5割削減できる。このような省エネルギー性・環境性が高く評価され、省エネ大賞経済産業大臣賞やEPAの賞など多数の賞を受賞した。

エコキュートの普及動向を図3に示す。初年度(2001年度)は6千台程度の出荷であったが、国の補助金制度や他メーカーの市場参入により普及が進展し、昨年度(2003年度)は約8万台出荷され、今年度(2004年度)は10万台以上の出荷が見込まれている。家庭用の給湯

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図2 エコキュートの省エネルギー性

図1 エコキュートの概要

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機市場は年間330万台程度と言われており、今後のさらなる普及を期待したい。普及に伴い、技術も進展している。集合住宅向けに小型化されたものや、寒冷地でも使用で

きるもの、また、給湯機能に浴室乾燥や床暖房機能を付加したものが商品化されている。さらに、静音化や高効率化、設置先の負荷を学習して最適な量を沸き上げる運転制御方式の開発も進んでいる。当所では、これらの取り組みをサポートするとともに、さらなる高効率化・小型化を目指して、CO

2冷媒の伝熱基礎特性の解明とこれに基づく高性能熱交換器の開発を実施中

である(図4)。

2.水冷媒ヒートポンプ用製氷熱交換器開発への挑戦

水冷媒は、オゾン層破壊係数も地球温暖化係数もゼロで、毒性も可燃性もなく、究極の自然冷媒である。水冷媒ヒートポンプサイクルの特徴を図5に示す。通常の冷媒では、蒸発器や凝縮器などの熱交換器において、伝熱面(壁)を介して熱が伝わるが、水冷媒では、冷媒と冷水あるいは冷却水が同じ水であるため、伝熱面を介さずに直接接触熱交換が可能である。このため、熱交換温度差をほぼゼロにすることができ、高効率化が可能である。

このような特徴を有する水冷媒について、国外では、金鉱山の空調や玩具工場のプロセス冷却などで実用化されているが、我が国で利用するためには、性能、大きさ、コストの点で課題

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図5 水冷媒ヒートポンプサイクルの特徴 

図4 エコキュートの技術的な進展 図3 エコキュートの普及動向

図6 氷の生成・成長の様子

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が多い。当所では、水冷媒ヒートポンプ製氷システムの高性能化とコンパクト化を目指して、氷を直接作る蒸発製氷器(製氷熱交換器)の開発に挑戦している。現在、基礎実験装置を製作し、氷の生成・成長の様子を把握している(図6)。これまでの実験結果から判断して、蒸発製氷器の形式としては、水平貯氷パネル方式が有望ではないかと考えている。

3.氷核活性細菌を利用した過冷却解除剤の開発

水は0℃で凍ると一般に思われているが、容器に入れた水を実際に凍らせると、-10℃ぐらいにならないと氷はできない。この現象を過冷却といい、氷が実際にできる温度を過冷却解除温度(この場合は-10℃)という。この過冷却解除温度を0℃に近づけることができれば、蓄熱システム全体の効率向上が可能になる。そこで当所では、水に混ぜて使う過冷却解除剤として氷核活性細菌に着目し開発を進めてきた(図7)。

氷核活性細菌とは、日本では、茶葉などに生じる霜害の原因を究明する過程で発見されたもので、エルビニアアナナスなど約10種類が見つかっており、降雪剤や越冬害虫の駆除などに利用されている(図8)。

これらの用途では、細菌の利用は1回だけであるが、氷蓄熱システムへの利用を考えた場合、凍結・融解の繰返しの利用に耐えることが必要となる。当所では、実験装置を製作し、先ず、繰返し試験を実施した。その結果、生菌では繰返しの使用により過冷却解除能力

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図7 水の凍り方と過冷却解除

図8 氷核活性細菌とは

図9 過冷却解除剤の長期性能評価  図10 氷核活性細菌を利用した過冷却解除剤

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(温度)が低下することが判明した。そこで、過冷却解除能力を失わない殺菌方法について検討した結果、紫外線殺菌などが有望であることを見出し、確認のため、長期性能試験を実施した

(図9)。その結果、2000回以上の繰返し利用が可能な過冷却解除剤の開発に成功し、2003年7月に和

光純薬工業から試薬としての販売を開始した(図10)。現在は、解除剤を安定に製造する技術の開発を進めているが、ほぼ目処が得られている。

4.暖房用などの新しい蓄熱材開発への挑戦

暖房などの加熱目的に使われる潜熱蓄熱材には、無機水和塩と有機化合物があるが、前者は過冷却や相分離という欠点を、後者は融解潜熱が小さいという欠点を有する。そこで、当所では、既存物質をベースとする新しい蓄熱物質の創製を目指して、コンピューターシミュレーション(分子動力学計算)による新物質の融点と融解潜熱を予測する手法の開発を進めている。

これまでに、暖房用の蓄熱材として検討されているアルカン(C

nH

n+2)などを対象にシミュ

レーションによる融点と融解潜熱の予測に挑戦し、これらの熱物性を精度よく予測できることを確認した。熱物性の予測手法について、ほぼ確立できたと考えている(図11)。

今後は、確立した手法を駆使して置換基を考慮した有機系のポリマー材を中心に融解潜熱の大きい新たな蓄熱物質の探索に挑戦する。

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図11 蓄熱材の熱物性予測手法の確立

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発表3「エネルギー効率化社会への提言」

社会経済研究所 上席研究員 浅野 浩志

目   次

1.変わる省エネルギーの意味2.省エネルギーのギャップ3.生活者への提言4.地域への提言5.国の政策に対する提言6.産業分野に対する提言7.まとめ

1.変わる省エネルギーの意味

わが国は省エネルギーによりエネルギー価格変動に強い産業構造に転換してきた。そのため、2004年度に入ってからの投機的な原油価格高騰も短期に収束すれば国内経済へのマイナスの影響は小さい。当所のシミュレーションによれば、バレル40-45ドルの高価格は2004年度7月以降の実質GDPを2004年度内は0.1%押し下げる程度である1。第一次石油危機時の1973年と2001年を比較すると、最終消費エネルギーに占める電力のシェアは13.4%から22.3%に増加し、供給側も発電部門における石油火力の割合は73%から11%に大幅に低下させた。原子力発電など燃料費割合の低い電源の導入で、化石燃料価格変動に強い電力価格を実現してきた。このため、電力依存度の高い需要部門は化石燃料価格変動に対してあまり影響を受けない。原油価格高騰の経済影響は70、80年代に比べると明らかに低下しているといえる。

さらにエネルギー価格変動や環境制約に強い社会を実現することがわが国の大きな政策目標である。そうした中、輸送部門で9割以上、産業部門で5割と依然として石油系エネルギーへの依存度が高く、社会全体として、エネルギー源、調達多様化でバランスのとれたエネルギーミックス(2003年度の当所提言:危機に強い柔軟な対応力をもつ、強靭なエネルギー政策の実現)に変革するように需要構造も誘導することが今回の主な提言の狙いである。

わが国は元来世界で最もGDPあたりエネルギー原単位の低い水準にあったが、二度の石油危機を経てさらに1990年には3割近く改善した。これには乾いた雑巾を絞るという譬えが使われる。しかし、1990年代以降むしろエネルギー原単位は悪化しており、水準は異なるものの、11%改善している欧州や13%改善しているアメリカとの差は縮まる傾向にある。さらなる努力なしには世界一といわれている省エネルギー先進国の座を維持することは難しい。

国民や企業、行政それぞれが考える省エネルギーはさまざまである。1970-80年代はじめのエネルギー使用に窮屈な制約を課せられた生活の記憶のある世代には省エネルギーは我慢を強

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1 原油価格の高騰が長期間にわたる場合、状況は一変する。中国やアメリカの景気が減速し、世界貿易数量の鈍化により、2005年度の実質GDPは0.5%減少する。

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いる負のイメージがある。エアコンのない生活が考えられない世の中、効用を落とすような省エネルギーはエネルギー供給が途絶しない限り、受け入られない社会になっている。むしろ、日本のエネルギー供給は停電時間が世界で最も短いことに象徴されるように極めて質が高く、高信頼度供給を前提に生活し、産業活動を行っている。中国等で輪番停電があると最もクレームするのは日本企業といわれている。また、長期の停電の経験が少ないことから、当所の意識調査からも多くの消費者は長時間の停電に備えていないことがわかる。

消費者が家庭で直接消費するエネルギーは国全体の14%を占める。これに通勤、通学、外食、上下水道などの間接に消費しているものも含めると国全体の50%近くに達するという推計もある。消費者が自家用車や住宅内で直接消費するエネルギー以外に、くらしの安全・安心、利便性を維持するためにいかに多くの間接的なエネルギー消費に依存しているか理解されよう。このように考えると、生活者の視点から社会のさまざまな分野でのエネルギーの使い方に思いをはせることができる。自分の生活や仕事の場である街全体のシステム、国のシステムなどはとかく、行政や企業が考えることとして、意識の外においてしまうことがある。ここでは私たちの暮らしを守る社会システムとしてのエネルギーシステムを考える。わが国にとって、社会システムとして実現すべきエネルギー効率化社会(高効率エネルギー社会)とはどのような社会であろうか。社会システムには生活者、生産者、行政を含み、ここではこの各アクター毎に向けて提言する(図1)。

われわれはエネルギー生産の現場から流通をへて、自分達が受けている恩恵を正しく評価しているであろうか。エネルギーの採取から最終利用まで見て、効率的なエネルギーの利用を考える必要がある。例えば、業務用コージェネレーションシステムの普及はそれを設置する事務所では電力のCO

2原単位を火力平均でCO

2削減

を評価すれば、環境報告書に環境貢献していると記載できるかもしれないが、国全体の電力供給構成まで考えた上で、大量にコージェネレーションが導入されると、供給サイドの高効率ガス火力の導入を遅らせることになり、必ずしもCO

2削減に寄与しない[1]。エネルギーの利用と環

境影響の問題はローカルに、あるいは短期でみていては十分でなく、視野を拡げて社会システム全体として考える必要がある。

2.省エネルギーのギャップ

産業部門は省エネが進んでいるとされる一方で、その他の部門で、なぜ、省エネルギーがもっと市場で自律的に進まないのか。図2に示すように省エネルギーを実践する上で、環境意識の浸透の難しさ、技術の利用可能性、情報不足、資金不足という障壁、すなわち省エネルギーのギャップがある。そこで、日本をエネルギー効率化された

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図2 省エネルギーのギャップ

図1 高効率エネルギー社会への道筋

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社会にするためには、次が必要である。一つ目は利便性や快適性を向上させながら、低コストで適用できる新しい省エネルギー技術の開発である。二つ目は省エネルギー行動を引き起こすに足る信頼でき、個別の生活様式やビジネスにあった省エネルギー情報が提供されることである。また、開発された省エネルギー技術は製品として市場に出回り、ユーザに選択されなければ意味がない。そのためには情報提供とともに初期費用の回収に時間のかかる省エネルギー対策にはESCO(エネルギーサービスカンパニー)のような資金調達を含む省エネルギービジネスが社会に定着することである。

3.生活者への提言:我が家の使い方を知ること

まず、われわれ生活者全員が環境意識をもつことが省エネルギー行動の大前提としなくてはならない。エネルギーの消費を通して環境にどのような影響を及ぼすか気にするところから始めなければならない。

実際にエネルギー機器の使い方を変えて省エネルギーを図ろうとするが、達成感がすぐ得られないと継続しにくい。自らのエネルギー消費を知って、省エネルギー行動の結果を知ることが省エネルギー行動を継続させる動機になる。エネルギー使用量が目でみてわかるような計測・表示装置が簡単に利用できるようになればもっとやる気になろう(図3)。「あなたの家では、あなたの部屋ではこのようにエネルギーを消費していて、こんな省エネルギーの余地がありますよ」というエネルギー診断は一般的な省エネルギーキャンペーンより説得力があり、行動に結び付く。エアコンや冷蔵庫など家電製品の監視制御なら実証試験中のホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)で技術的には対応できる。ただし、現状ではガスや灯油の使用量を暖房や厨房など用途別に知ることは難しい。そこで安価なセンサーや計測装置が機器に組み込まれるようになるとよい。

また、同居人数が多い世帯では、世帯全員の協調した行動がないと、大幅な省エネルギーは難しい(図4)。エネルギーマネジメントシステムをうまく活用すれば、どんな家庭でも手間隙かけなくとも、快適性や利便性を犠牲にすることなく光熱費を削減できる。ただし、標準的な住宅に装備されるようになり、さらに数万円で設置できるようにならないと国が目標とする普及率3割など本格的な普及は難しい。政府の普及目標を実現するには技術開発だけでは十分でなく、思い切った普及支援策が必要である。

省エネルギーを徹底するにはエネルギー効率の高い製品を選択することが最も効果的である(図5)。国だけでなく東京都など自治体もわかりやすい表示法の普及に取組んでいる。

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図4 家族全員での省エネルギー行動

図3 リアルタイムでの省エネルギー効果の確認

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これらの取組みに対する消費者の反応が注目される。

消費者もエネルギーの採取から最終利用まで見て、効率的なエネルギーの利用を考えてみると視点が広がり、自らの選択が環境にどのような影響を及ぼすか正しく把握できる。電力中央研究所はエネルギーチェーン[2]、すなわち、エネルギー資源の採掘段階からエネルギーサービスの効用(快適な環境や照明など)までトータルで省エネ・省CO

2を評価することを提案して

いる。例えば、国の長期エネルギー需給展望によれば2030年にはCOP2が5を超える超高効率給湯器が開発され、全国で1150万台普及し、260万kl(石油換算)の省エネルギー効果が期待されている。このとき当所試算では、ガス給湯器からヒートポンプ給湯器への代替により、CO

2は850-900万トン-CO

2ほど削減される見込

である。消費者の選択が国全体の大幅な省CO2に結びつく例である。このような高効率機器が

競って開発され、省エネ・省CO2機器が普及していく社会の基礎を生活者が築き上げる。

4.地域への提言:省エネルギー対策を交通、ごみ処理など地域の環境問題とリンクさせる

個々の世帯で機器レベル、住宅レベルのエネルギー効率化が図れれば、次は住まいの環境を見直すことが重要である。自動車交通やエネルギーシステムなど人工排熱の多い都市部ではヒートアイランド現象による熱環境の悪化が健康問題を引き起こすなど深刻度を増している。業務地区でも住宅地区でも街区での緑化が環境の温度を緩和する。近隣で協力して緑化や雨水の打ち水などに取り組むことにより、コミュニティレベルでのエネルギー効率化が図れる上に快適な環境づくりに貢献できる(図6)。大阪府の調査では街路樹のある地点はない地点に比べて0.4~1.5℃ほど気温が低くなる傾向がみられた。

今夏は記録的な猛暑であり、7月には都心で最低気温が30℃を上回るという超熱帯夜が初めて観測された。東京都は熱帯夜日数の削減目標を定め、ヒートアイランド対策に乗り出している。エネルギーシステムの選択により夏季の都市内の気温上昇を緩和できる。ヒートポンプ給湯器は屋外大気から熱を吸収し、貯湯し、この吸収分が省エネルギーになる上、屋外気温を有意に下げる。自治体はユーザのエネルギー選択が地域環境にどのような影響を与えるか定量的に把握した上で、環境対策やエネルギー施策を設計する必要がある。

自治体は庁舎や公共施設における省エネル

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2 消費電力あたりの加熱能力を表す成績係数。現在COPは4程度である。

図5 省エネルギー情報と高効率機器の選択

図6 コミュニティーでの効率化

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ギーや再生可能エネルギーの導入などは進んでいるものの、地域住民に対して環境共生住宅の建設補助やESCO等の活用など金融的なエネルギー効率化策はあまり進んでいないのが実状である。また、従来のエコタウン事業は自治体が取組みやすい廃棄物対策などに片寄っているが、まちづくりにエネルギー効率化の観点をもっととりいれるとよい。省エネルギー法など法制度上、エネルギー効率化における自治体の役割は小さいように理解されているが、地域環境対策、建物や都市計画などエネルギー以外の施策の中で省エネルギーと関連するものがあり、地域エネルギー環境政策の主体として自治体は自動車交通量の抑制などに取り組んでいる。パークアンドライドなど公共交通の利用促進など交通需要管理(TDM)施策を推進する動きもみられる。交通問題への取組みは広域の自治体が連携して取り組む必要がある。財政的な問題の他、連携体制の構築に労力がかかるため、現在の行政の枠組みでは限界があることは事実であるが、今後の重点的な政策領域である。

住宅はビルのエネルギー消費は建築性能で大きく変わる。発表2の省エネルギー効果分析から住宅の高気密・高断熱化で温熱快適性が増し、冷暖房エネルギーを2割から3割も削減できることがわかる。課題は建設費の増分をいかにまかなうかであるが、高性能住宅に対する優遇金利の適用や割増し融資が利用できる。日本の気候に適した高気密・高断熱住宅の普及促進には国と自治体が連携して誘導することが望ましい(図7)。

現在、国は自治体がNPO(非営利活動法人)や企業と協力しながら、省エネルギー・新エネルギー推進の主体になるよう財政的な支援を始めたところであるが、これまでは各省庁がばらばらに支援制度をつくってきたため、自治体からは活用しにくいという声もあった。行政の窓口の一本化や関係者間の連携をはかり、支援制度終了後も同様の省エネルギー事業が自立、持続するように制度を整備することが望ましい(図8)。

地域住民が中心となって低公害車を用いたカーシェアリングなど地域の環境負荷を低減しながら、利便性を高めたり、観光客増加による経済効果を期待できるなどエネルギー・環境以外のメリットも同時に実現できる事業を自治体が国と連携して(規制緩和を図るなど)、積極的に支援することも大事である。

一般に消費者がそれぞれの企業スタイルやライフスタイルの中で、好ましい省エネルギー住宅、製品を選択することは容易ではない。表示制度の普及に加えて、地域住民に対してきめ細かく相談に乗る省エネルギー相談窓口はこれからの地域にあった活動であろう。メーカーOBなど専門知識のあるボランテイアのNPO化により「省エネ支援セミナー」を整備することを提案する(図9)。

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図7 省エネルギー住宅の推進 図8 エネルギー効率化事業の推進 

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2002年夏から東京都は温暖化防止策として省エネルギーラベルの普及に取組み始め、首都圏に拡げようとしている。京都市は2003年に実験を開始し、2004年から省エネラベル協議会が設立され、京都府大での販売店の参加に広がっている。京都市における実験(7大型店舗データ)では、消費者は長期的にエネルギーコストを下げ、8%の省エネルギー効果をあげ、利益率の高い省エネルギー製品シェアがあがり販売店にもメリットがある。自治体の自発的な取組みが競いあい、ベストプラクテイスが水平展開するのが望ましい。

5.国の政策に対する提言:省エネルギー政策のグローバル化に向けて省庁を超えて結集

国が果たすべき役割の第一はエネルギー・環境教育を充実させることである(図10)。2004年10月から環境教育法が施行され、関係省庁が連携して実行することになった。学校教育はもちろん、家庭、職場、地域でのエネルギーや環境学習を支援する質の高い教材、良い人材を充実させるには財政的な措置が不可欠である。

長期的な視点で国全体のエネルギー効率化を図るためにはどのような政策が必要であろうか。エネルギーは社会の重要なインフラ、経済の基礎的な投入物であり、これからの望ましい社会のあり方と不可分である。経済や生活の活動指標そのものの削減を強制するような環境規制社会は持続可能ではない。現在、エネルギー政策や温暖化対応策の中で省エネルギーは大きな期待が寄せられている。エネルギー利用の効率化およびエネルギー選択の高効率化を通じて国全体のエネルギー原単位の改善を図ることが後悔のない温暖化対策である。2004年6月に発表された「長期エネルギー需給展望」は、2030年までを視野に長期的な政策を志向している。その中で省エネルギー進展ケースは5000万kl

(石油換算)という現在家庭部門で消費されている全エネルギーを削減するくらいの思い切った量をうちだしている。ただし、この数字は技術的な可能性から最大限導入された場合の省エネルギー効果を見積もっており、将来のユーザの経済性を十分考慮していない。重要なのは省エネルギー技術に強く依存している需要削減シナリオを実現するにはわれわれ最終消費者がどのような行動をとらなければならないか考えることである。

幸い、省エネルギー予算の特徴として日米とも共通しているのは技術開発を最重視している点である(図11)。問題は開発された高効率技術が商品となって市場に普及し、実際に省エネルギー効果を上げているかを定量的に検証する必要がある。一部の補助事業ではそのような補助制度の費用対効果を試算しているが、本格的な政策評価は始まったばかりである(図12)。日米では最終エ

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図9 省エネルギー相談窓口の設立 

図10 エネルギー・環境教育の推進

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ネルギー消費規模が5倍も異なるにもかかわらず、省エネルギー予算は同水準である。アメリカの現政権は供給側対策重視であり、一部の州政府が比較的積極的に省エネルギー対策を進めている。また、我が国の省エネルギーが相対的に進んでいるため、対策の限界費用が高いという側面もある。日本の特徴としては建物の省エネルギー化および地域での取組みを増強している点である。

政府各機関はグリーン購入(環境負荷低減に資する物品等を優先的に購入すること)を通して現時点の市場で調達できるもののなかからある一定の基準をクリアした資材を調達している。国等の公的機関が率先して環境物品等(環境負荷低減に資する製品・サービス)の調達を推進するとともに、環境物品等に関する適切な情報提供を促進することにより、需要の転換を図り,持続的発展が可能な社会の構築を推進することを目指している。将来、グリーン購入のリストに載るようなスーパー効率機器の開発を後押しすることも国の重要な役割である。政府のスーパー効率機器の一括買上げにより、民間では導入しにくい機器の初期市場をつくることを提案する(図13)。

グローバルな視点でエネルギー効率化推進におけるわが国の役割を位置付けたい。欧州は温暖化防止策として風力やバイオマスなど再生可能エネルギーを重視し、2020年までに再生可能エネルギー起源の電力供給を7000億kWh増加させる目標を掲げている。アメリカは国産の石炭など化石燃料をクリーン化し、電力や水素エネルギーの形で利用する計画を打ち出している。風力資源や在来エネルギー資源にも恵まれない我が国としては技術力を活かしてエネルギー効率化技術とその普及支援策を地球温暖化対策の中でも最優先する姿勢を内外に強くアピールし、エネルギー効率化の先進国として世界の手本になることを目指すことを提案する(図14)。

我が国の周囲にはクリーンなエネルギー資源に恵まれず、鉄道など社会インフラの整備が経済成長、エネルギー供給に追い付かない地域が多い。我が国のエネルギー効率化政策をアジア諸国に移転し、中国などアジアでの省エネルギー基準策定をリードすることは地域全体のエネ

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図11 省エネルギー対策費の日米比較 図12 省庁の枠を超えて予算を重点配分

図13 省エネルギー調達の推進

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ルギー需給安定にも貢献する。実際、中国のエネルギー中長期発展計画要綱(2004年7月)によると、民生用空調の平均効率を10%引き上げれば年間555億kWh、白熱電灯を省エネルギー型照明に置き換えれば1000億kWh節約できるとされている。我が国で開発、商品化された高効率機器がこれらの地域で普及し、電力供給不足や燃料逼迫にも貢献し、かつ省エネルギービジネスの国際展開にもつながり、双方にメリットがある。

6.産業分野への提言:さらなる取組みで世界を大きくリードする気構えで

産業部門は素材企業を中心に民生部門に比べて省エネルギーが進んでいる。さらなる取組みで世界を大きくリードできる分野である。しかし、第2種エネルギー管理指定工場などある程度の規模の事業所においても燃料を中心に消費量が伸びている。省エネルギーの徹底が十分でない中堅工場において省エネルギー診断で改善提案を実施すれば、1-3割の省エネルギー、年間1000万円のオーダーで費用削減が可能である。会議室、事務室など使用ゾーン別の快適性指標に従う空調制御で、建物全体の6%の省エネルギー達成した事例がある。また、エネルギー消費比較のしやすいチェーン店において、大きな投資を必要とせず、エネルギー計測に基づくベンチマーキングで支店間を競わせている外食店舗もある。

省エネルギー投資は短期でも回収できる仕組みを工夫しないと中小事業所に浸透しない。政府系金融機関による高効率機器のリース会社への低利融資など実効性のある政府の支援策を充実させていくことが有効である。産業界は環境経営の一環として積極的に高効率設備を導入していけば、消費者の支持を得て、経営の安定化にも寄与する(図15)[3]。

電力中央研究所の調査では床面積、売上(予算)の大きい事業所ほど省エネ投資に意欲的であり、今後中小事業所への啓発・支援が必要である。省エネルギー診断・改善業務のビジネス化であるESCOの浸透が一段と必要である。残念ながら、東京都の調査ではまだESCOの認知度が低い。エネルギー診断士が専門資格として公的に認定され、広く社会から信頼されるようになることが望まれる。

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図14 省エネルギー技術・政策の国際展開

図15 更なる効率化への取り組み

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7.まとめ

エネルギーの安定供給と環境保全を図るにはエネルギーの生産効率、利用効率の改善が不可欠である。省エネルギーギャップを埋めるためにはまず、意識の浸透が前提となる(図16)。第二にたゆまない技術開発と製品化である。トップランナー制度導入以降、家電機器の効率化は急速に進んでいる。冷蔵庫の内容積1リットルあたりの年間消費電力量は1995年から2003年にかけて1/4と驚異的な性能向上がみられる。これらはさまざま効率改善技術の積み重ねの成果である。今後ともインバータ制御など汎用的な省エネルギー技術手法、その基盤となる半導体デバイス技術の進歩が期待され、エネルギー機器にすみやかに適用されることが望ましい。炭化珪素など新しい半導体を用いたインバータ制御技術は家電製品から大型空調設備、分散型電源対応、新幹線などはば広い分野で数百万klの省エネルギー効果が期待される。そのほかにも人感センサーによる照明の自動制御、大気中のエネルギーを利用するヒートポンプ技術、LED、有機EL素子等の発光材料、HEMSなどユビキタス社会でのネットワークを活用した統合的なエネルギーマネージメントが有望な技術である。

第三に省エネルギー行動を起こす情報提供と適正なインセンティブが必要である。そのためには、情報と資金のギャップも同時に小さくし、広い層で購入され、実際にエネルギー削減効果をあげなくてはならない。供給技術の置き換えには30年以上の長期を要するが、利用技術の多くは10年オーダーで高効率機器に置き換えることができる。建物の場合は既築でも簡単に断熱化できる工法やその経済的支援が有効である。

今、世界に先駆けて、省エネルギー社会を構築するための社会システムを構築するための主人公は、我々生活者であり、生活者が中心となってこうした社会をつくり上げていくことを提言する(図17)。重要なのはエネルギー効率化を規制中心ではなく、自主的に取り組めるようにいかにビジネスに乗せるか、長期的に利益を生み出すものであるという認識を共有することである。行政や産業界を動かすために、国民一人一人が、エネルギーのことを良く知り、環境のことを良く知り、それぞれが行動し、政策を決めていくプレーヤーになることではないか。その政策の下で、個人の努力や企業の自主的取組みが評価され、報われる仕組の構築が必要である。これを実現する方策の実現可能性、コスト、便益を定量的に明らかにした上で、省エネルギー方策を決定し、実践するところまで意識の高い生活者主導の省エネルギー型社会へと転換すべきである。

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図16 省エネルギーギャップを克服 

図17 エネルギー効率化社会の実現 

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文献

[1]H. Asano, M.Takahashi and E.Imamura(2004). Can Penetration of Distributed Generation SystemsContribute Emission Reduction in Japan? - Policy Implications to Coming Long - Term EnergySupply And Demand Outlook 2030, 6 th IAEE European Conference, Zurich, 2-3 Sep. 2004

[2]高橋雅仁、今村栄一、浅野浩志:冷凍空調分野におけるCO2排出抑制技術のマクロ普及影

響分析、日本冷凍空調学会学術講演会シンポジウム「CO2排出抑制と冷凍空調」、2003年10

月[3]高橋雅仁、浅野浩志:業務用需要家の省エネ投資選好の分析、電中研研究報告 Y01004、

2001年7月

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