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II-1 H24 二国間オフセット・クレジット制度の MRV モデル実証調査 最終報告書'概要版( 様式・記入要領 「ビルエネルギー管理システム'BEMS(による省エネ」 '調査実施団体:プライスウォーターハウスクーパース株式会社( 調査協力機関 代替エネルギー開発・効率局( Department of Alternative Energy Development and Energy: DEDE)、PricewaterhouseCoopers Thailandアズビル株式会社、三菱 UFJ リース株式会社、 Bright Management Consulting Co.,Ltd 調査対象国・地域 タイ・バンコク 対象技術分野 省エネルギー 事業・活動の概要 本事業・活動は、業務用ビルに導入された BEMS により建物全体のエネル ギー使用量を計測し、ビル内のエネルギー使用設備を制御しながら運転効 率を改善し、エネルギー使用量の削減、CO 2 排出削減を図るものである。過 去のエネルギー使用量等を省エネ診断により調査し、デフォルト値の作成を 検討するとともにプロジェクトの CO 2 排出量は BEMS 導入後のビル全体の エネルギー使用量から算定・評価する。事業・活動は、タイ・バンコク首都圏 のホテル、オフィス、病院、商業施設の 4 部門を対象とする。プロジェクトの 稼働開始時期は、稼働中の案件を含めて、本事業期間の 2012 年を予定 し、GHG 削減量は 12 件で 11,538tCO 2 /年を目指すものである。 MRV 方法論適用の 適格性要件 要件 1 BEMS を導入する対象が、既存の建築物であること。 要件 2 BEMS によって室内環境に応じた機器又は設備等の運転管理がな され、エネルギー使用量が削減されること。 要件 3 BEMS 導入後、ビル所有者等の BEMS によるエネルギー削減効 果の受益者に対して、BEMS プロバイダー等により、定期的(最低でも半年 1 回)に効率改善効果実績を報告することが、契約等で担保されているこ と。 リファレンスシナリオ 及びバウンダリーの 設定 リファレンスシナリオの検討にあたっては、次の 2 つのシナリオを設定した。 ・シナリオ 1 BaU であり、BEMS が導入されない現状が継続するシナリオ ・シナリオ 2 ビルが BEMS 以外の要素により高効率化するシナリオ シナリオ 1 の設定理由としては、タイにおいて BEMS の導入実績はほとんど なく、また BEMS を導入する経済的インセンティブが十分にない現状が当面 維持されると想定されるためである。 シナリオ 2 は、ビルが BEMS 以外の要素、具体的にはビル内の設備が高効 率化されたり、断熱が強化されたりすることにより、BEMS を導入した場合の 省エネ量や排出削減量が BaU よりも小さくなるシナリオである。BEMS は導 入されないものの設備自体が高度に高効率化すると、BEMS を導入した場 合に最適制御による省エネ量は現状や BaU と比べて小さくなることが想定 される。このシナリオを想定できる根拠はタイの MOE が提示した「Thailand 20-Year Energy Efficiency Development Plan2011-2030)」である。

「ビルエネルギー管理システム'BEMS(による省エネ」gec.jp/gec/jp/Activities/fs_newmex/2012/2012_mrvds11_jPwC_thainalnd_sum.pdf · a ビル 524 1回目:算定は適正。clとして、導入されたbemsの

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II-1

H24 二国間オフセット・クレジット制度のMRVモデル実証調査

最終報告書'概要版( 様式・記入要領

「ビルエネルギー管理システム'BEMS(による省エネ」

'調査実施団体:プライスウォーターハウスクーパース株式会社(

調査協力機関 代替エネルギー開発・効率局( Department of Alternative Energy

Development and Energy: DEDE)、PricewaterhouseCoopers Thailand、

アズビル株式会社、三菱 UFJ リース株式会社、Bright Management

Consulting Co.,Ltd

調査対象国・地域 タイ・バンコク

対象技術分野 省エネルギー

事業・活動の概要 本事業・活動は、業務用ビルに導入された BEMS により建物全体のエネル

ギー使用量を計測し、ビル内のエネルギー使用設備を制御しながら運転効

率を改善し、エネルギー使用量の削減、CO2 排出削減を図るものである。過

去のエネルギー使用量等を省エネ診断により調査し、デフォルト値の作成を

検討するとともにプロジェクトの CO2排出量は BEMS 導入後のビル全体の

エネルギー使用量から算定・評価する。事業・活動は、タイ・バンコク首都圏

のホテル、オフィス、病院、商業施設の 4 部門を対象とする。プロジェクトの

稼働開始時期は、稼働中の案件を含めて、本事業期間の 2012 年を予定

し、GHG削減量は 12件で 11,538tCO2/年を目指すものである。

MRV方法論適用の

適格性要件

要件 1 BEMS を導入する対象が、既存の建築物であること。

要件 2 BEMS によって室内環境に応じた機器又は設備等の運転管理がな

され、エネルギー使用量が削減されること。

要件 3 BEMS 導入後、ビル所有者等の BEMS によるエネルギー削減効

果の受益者に対して、BEMS プロバイダー等により、定期的(最低でも半年

に 1 回)に効率改善効果実績を報告することが、契約等で担保されているこ

と。

リファレンスシナリオ

及びバウンダリーの

設定

リファレンスシナリオの検討にあたっては、次の 2つのシナリオを設定した。

・シナリオ 1 BaUであり、BEMSが導入されない現状が継続するシナリオ

・シナリオ 2 ビルが BEMS以外の要素により高効率化するシナリオ

シナリオ 1の設定理由としては、タイにおいてBEMSの導入実績はほとんど

なく、また BEMS を導入する経済的インセンティブが十分にない現状が当面

維持されると想定されるためである。

シナリオ 2は、ビルが BEMS以外の要素、具体的にはビル内の設備が高効

率化されたり、断熱が強化されたりすることにより、BEMSを導入した場合の

省エネ量や排出削減量が BaUよりも小さくなるシナリオである。BEMSは導

入されないものの設備自体が高度に高効率化すると、BEMS を導入した場

合に最適制御による省エネ量は現状や BaU と比べて小さくなることが想定

される。このシナリオを想定できる根拠はタイの MOE が提示した「Thailand

20-Year Energy Efficiency Development Plan(2011-2030)」である。

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-2

算定方法オプション

デフォルト値の設定 デフォルト値を定量的に把握し、統計的に評価することで保守的な値を選定

できると考え、タイにおける業務用ビルの設備運用状況・エネルギー使用状

況を詳細把握する省エネ診断を行い、デフォルト値を収集した。タイにおいて

は BEMS が導入された事例は尐なく、かつ長期間経過したビルは存在して

いないのが実態である。このため調査では、過去のビル全体のエネルギー

使用量を正確に把握し、BEMS 導入による省エネ効果の診断をビルの稼働

情報を詳細に把握し、診断結果を多数収集することで、定量的かつ保守性

の高いデフォルト値(エネルギー使用効率改善率)を設定した。

モニタリング手法 BEMS導入後のビルのエネルギー使用量

モニタリング実施結

Monitoring reportを作成し、試行のMRV検証を実施するため、4サイトでモニタ

リングの実施を依頼し、協力の承諾を得た。これらのサイトには BEMS が設置さ

れており、モニタリングはビルオーナーや設備管理者に BEMS 導入時点からの

モニタリングを依頼した。

モニタリング実施ビル ビル セクター モニタリング期間

Aビル ホテル

2012年 4月 1日- 2012年 10月 31日(7 ヵ月)

Bビル 商業施設 2011年 5月 1日- 2011年 12月 31日(8 ヵ月)

Cビル オフィス 2010年 1月 31日- 2011年 1月 31日(13 ヵ月)

Dビル 商業施設 2009年 1月 1日- 2011年 11月 31日(23 ヵ月)

GHG排出量及び削

減量

GHG排出量及び削減量

ビル 延床面積[m2]

リファレンス 排出量 [t-CO2]

排出削減量 [t-CO2]

BEMS導入 排出削減率

Aビル 67,562 4,995 524 10.5%で実施 Bビル 213,311 27,917 6,554 10.5%で実施 Cビル 9,952 1,693 18 1.1%で実施 Dビル 27,886 49,349 5,335 10.8%で実施

算定方法 3

算定に必要なデータ

を過去 3年分入手可

効率改善率について

デフォルト値を使用す

PJ後に算定で必要な

ビルのデータを使用

可能

効率改善率を自ら設

定して算定する 算定方法 2

算定方法 1

いいえ

はい

はい

はい

いいえ

はい

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-3

第三者検証の結果

及び概要

検証結果

ビル 検証排出 削減量 [t-CO2]

検証結果

Aビル 524 1回目:算定は適正。CLとして、導入されたBEMSの個別技術の根拠資料が十分に明確ではないことが指摘事項。

Bビル 2,931 1回目:適切にデータ入力され、算定がなされておらず、修正要求。 2回目:適正。CARは適切にデータ入力がなされたことにより解決された。

Cビル 18 1回目:適切なモニタリング期間での算定がなされておらず、修正要求。 2回目:算定は適正。CARは適切にデータ入力されたことにより解決された。CL として導入された BEMSの個別技術の導入確認資料とLPGの実測精度情報の不足が指摘事項。

Dビル 5,329 1回目:適切にデータ入力され、算定がなされておらず、修正要求。 2回目:適正。CARは適切にデータ入力がなされたことにより解決された。

環境影響等 BEMS 導入はタイにおける環境影響評価の対象とはなっていない。また、

BEMS 製品の生産過程で生じる環境リスクは、他の製品に比べ負荷が大き

いものではない。同様に BEMS の導入・設置工事・運用段階などライフサイ

クル全般においても、留意すべき化学物質、排出量の増大、公害・災害リス

クが問題になる可能性も極めて低い。

日本技術の導入可

能性

現地ユーザーの囲い込みのため、タイの不動産流通企業、デベロッパー、

建設コンサルタントへのアプローチの重要性、現地ユーザーが低コストのフ

ァイナンス・スキームを利用できるよう日系メーカーのキャパシティ・ビルディ

ング実施、BEMS 運用オペレーターの育成の 3 点により導入可能性が高ま

ると考えられた。

ホスト国における持

続可能な開発への

寄与

BEMS導入の促進はBEMS導入によるピーク電力削減、BEMSを活用した

省エネ技術移転と人材育成、環境汚染改善に寄与するが、これらはタイの

中期の開発政策・戦略に整合していることを確認した。

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II-4

調査名:二国間オフセット・クレジット制度のMRV実証調査

「ビルエネルギー管理システム'BEMS(による省エネ」 団体名:プライスウォーターハウスクーパース株式会社

1.調査実施体制: プライスウォーターハウスクーパース株式会社:プロジェクト統括、MRV方法論構築、MRV協議、

削減効果の評価等。

PricewaterhouseCoopers Thailand【協力機関・外注先】:検証機関選定、検証取りまとめ、ポテン

シャル案件発掘、公官庁インタビューアレンジ

アズビル株式会社【協力機関・外注先】:H23 年度調査の主幹会社として、Azbil Thailand と連

携し、建物データ収集を行う。主に、実証案件のアレンジ、BEMS 導入及び実証、MRV データ

収集・計測

三菱 UFJ リース株式会社【協力機関・外注先】:Bangkok Mitsubishi UFJ Lease と連携し、実証

案件のアレンジ、MRVデータ収集・計測の補佐、ファイナンス面の事業性評価

第三者検証機関【外注先】'Bright Management Consulting Co. Ltd(:タイ国内第三者検証機関

として、MRV方法論案に基づく GHG排出削減量の検証、及び検証結果のフィードバック

2.事業・活動の概要:

'1(事業・活動の内容: 本事業・活動は、ビルエネルギー管理システム'BEMS(を業務用ビルに導入し、建物全体のエネルギ

ー使用量を計測し、ビル内のエネルギー使用設備を制御しながら運転効率の改善によるエネルギー使

用量削減、CO2 排出量の削減を図るものである。過去のエネルギー使用量をリファレンスシナリオとし、省

エネ診断等によりエネルギー・CO2排出削減計画値を推計し、プロジェクトの CO2排出量は BEMS 導入

後のビル全体のエネルギー使用量から CO2排出量の実績を算定・評価する。

事業・活動は、タイ・バンコク首都圏を対象とし、ホテル、オフィス、病院、商業施設の 4部門に対して実

施する。プロジェクトの稼働開始時期は、稼働中の案件を含めて、本事業期間の 2012 年を予定し、GHG

削減量は 12件で 11,538tCO2/年を目指すものである。

'2(ホスト国の状況: 近年タイにおいては、オフィスなど業務部門のビルにおけるエネルギー起源の CO2排出量の増加が著

しく、ビルオーナーの省エネの関心が高まっている。また、ローカル企業においても ESCO 事業や省エネ

の自主的取り組みがみられるようになっている。

2011 年に発足したタイの新政権は、その所信表明において積極的なエネルギー政策を発表し、今後

20 年の電力エネルギーを現在の水準から 25%削減するため、省エネ機器導入やビルの省エネ推進、

CDM活用に積極的な姿勢を示した。2012年 3月に行われた日・タイ首脳会談においても、タイと日本は

二国間オフセット・クレジット制度'JCM/BOCM(に共に取り組んでいくとの共同声明をだしている。現在、

JCM/BOCMは、タイ温室効果ガス管理組織'TGO(が窓口となり日本政府が交渉を続けている。

省エネ政策については、1992 年に省エネルギー推進法が制定されており、現在は業務用ビル・施設

のエネルギー使用量を 6 カ月ごとに報告し、使用量・コストの把握による省エネ・コスト削減の推進が行わ

れている。また、タイの省エネ支援策は、民間の省エネ対策'建物・工場(を促進する支援・優遇策として

ESCOファンドの設立、税制優遇策などが講じられている。

'3(CDMの補完性: 当該事業は、BEMS によって業務部門のビルで用いられる設備のエネルギー使用を合理化し、ビル全

体のエネルギー起源のCO2排出量を削減する活動である。CDMにおけるビルのエネルギー使用効率を

改善する方法論は AMS-II.E.: Energy efficiency and fuel switching measures for buildings がある。この

方法論は、本事業の BEMS で想定する設備更新・制御によるエネルギー使用効率の改善で得られる排

出削減をプロジェクト対象にできる。しかし、ビル内の設備を複合的に制御し、更新するプロジェクトでは、

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-5

次のような課題がある。

第一に、現行の CDM では設備単体の省エネ対策による排出削減を厳密に積み上げて算定する必

要がある。AMS-II.Eの方法論を用いた登録済・申請中のプロジェクトでは、一貫してビルに導入する設備

のベースライン・エネルギー使用量とプロジェクト・エネルギー使用量が積算され、ビル全体としての排出

削減量が試算されている。このことは、個別の排出削減量の算定のために、設備ごとに固有の多数のパ

ラメータを導入し、ベースラインを設定する必要性を示している。またプロジェクト実施後にも多数のパラメ

ータを用いたモニタリングと排出量の算定が必要になり、プロジェクト参加者の負担が大きく、検証の手続

きも複雑になる。

設備単体の省エネ対策を積み上げる方法は、BEMS のビル全体の総合的な管理・制御によって得ら

れる追加的な省エネ効果を排出削減量として取り込めないことにつながる。例えば、照明と空調の制御に

おいて、照明の点灯時間を BEMS 制御によって短縮すると、照明される部屋の熱負荷が下がり、空調の

運用改善の効果が上がる。こうしたビル内の設備間の組み合わせによる省エネ効果は、設備のみに着目

した算定の方法論では、効果を取り込めない。

第二に、BEMS は設備による直接的な対策'ハード対策(と、導入後の人による運用改善'ソフト対策(

の両方による省エネ対策を包含するが、CDM では、後者の人による運用改善で得られる省エネ量が排

出削減量として評価されにくいと考えられる。BEMS の導入実績によれば、BEMS によるエネルギー使用

量や設備の稼働状況の計測'見える化(は、人による運用改善による省エネ効果が得られることがわかっ

ている。こうした運用による省エネは AMS-II.E を含め、現状の CDM では省エネ効果として排出削減量

に含めることは想定されていない。しかし、こうした運用改善は BEMS 導入後のオペレーターの育成やメ

ンテナンス、データ分析・評価サポートを綿密に実施する日本企業が蓄積してきた BEMS 技術を含むも

のであり、日本製技術の普及促進として考慮すべきものであると考えられる。

以上のような理由から、BEMS による省エネを JCM/BOCMにおいて推進していくことは、CDM を補完

し、業務部門の排出量が増大している新興国・途上国の排出削減に大きく貢献できると考えられる。同種

のBEMSによる省エネは、タイのみならず、他の国々への展開が可能であり、当該事業においてMRV方

法論を構築していくことが多くの国々で省エネと排出削減を推進することにつながるものと考えられる。

'4(初期投資額について: 平成 23年度新メカニズム実現可能調査に基づいた初期投資は、想定初期投資額は ビル 12件で

1,304百万円と試算している。これに基づき、BEMSのメンテナンス等のランニングコストを含めたビルの導

入規模に対する普及コストを試算した。この結果を下表に示す。

バンコク市内のビルへの投資額規模と CO2排出削減コスト

年間 20件の普及 年間 50件の普及 年間 100件の普及

イニシャルコスト [百万円] 2,173 5,433 10,867

年間排出削減量 [t-CO2/年] 19,230 48,075 96,150

10年間排出削減量 [t-CO2/年] 192,300 480,750 961,500

10年間ランニングコスト [百万円] 200 500 1,000

CO2削減コスト [円/t-CO2] 12,342 12,342 12,342

3. 調査の内容

'1(調査課題: MRV方法論の作成関連

- マクロ分析'DEDE データ(:タイの省エネルギー推進法における定期報告データに関し、2011

年度分の提供を DEDEに依頼する必要がある。

- デフォルト値の作成'DEDE セミナー(:DEDE からセミナー共催の提案があった。セミナー内容

等の詳細について交渉し、DEDEから承認を得て、開催の準備をする必要がある。

- デフォルト値の作成'アンケート(:4 セクターのビルオーナー、設備担当者へアンケート調査を

実施し、アンケートを回収・集計してバンコクの各セクター別省エネ制御に関するニーズを把握

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-6

する必要がある。

- MRV 方法論の作成:第三者検証機関による BEMS 導入サイトにおける試行検証を行うため、

MRV方法論案を作成する必要がある。

- MRV方法論の環境省案との整合・調整:環境省事業の委託調査会社'三菱 UFJ リサーチ&コ

ンサルティング(と協議し、MRV方法論の作成・開発を協働していく必要がある。

- デフォルト値・MRV 方法論作成のための省エネ診断:BEMS 導入効果の定量的把握と効果の

検証のための調査として省エネ診断を実施中である。最終報告書提出までに約 40件の省エネ

診断を実施する予定である。

- BEMSの導入実証:実証調査対象先として、商業施設における BEMSデモ機の実証データ取

得が必要である。このデータを用いて、省エネ診断結果との差異を確認し、省エネ診断により取

得した BEMS導入による保守的な効率改善率'デフォルト値(を設定する必要がある。

モニタリングについて

- モニタリングデータ入手・保管状況の確認:ビルのエネルギー使用量、稼働情報等の計測が確

実・簡易に実施できるデータと証憑、実際の保管状況の実態を把握するとともに、施設管理者

によって計測・算定が可能かどうかを調査する必要がある。

- モニタリングデータの精度の確認:エネルギー使用量等の実測においてタイで使用される計測

器、計量法を調査し、必要な精度等を把握する必要がある。

第三者検証の実施について

- 検証対応について:JCM/BOCM 検証マニュアルに基づき行われる検証について、タイの検証

機関の要求事項に現地管理者が検証対応可能かどうかを確認する必要がある。

- 検証の実施可能性:JCM/BOCM検証マニュアルに基づき行われる検証が、現地において実施

可能かどうか、マニュアル運用上の改善点を提示する必要がある。

'2(調査内容: 現地調査

- 第一回現地調査:政府関係機関タイ・エネルギー省 代替エネルギー開発・効率局

'Department of Alternative Energy Development and Efficiency: DEDE(を訪問し、MRVモデル

実証事業の説明と協力依頼、省エネルギー推進法定期報告書データの提供依頼を行った。ま

た、金融機関・民間企業等を訪問し事業の説明と協力依頼を行った。

- 第二回現地調査:現地外注先との進捗ミーティングを実施した。また 10 月に実施を予定してい

る DEDE セミナーについて、DEDE を訪問し詳細について打合せを行った。サイト・サーベイで

は、バンコク市内の業務部門ビルのエネルギー使用設備の把握、エネルギー使用量等のモニ

タリング状況、排出源の特定、タイの省エネ推進法対応状況のヒアリングを目的とした調査の実

施により、MRVの実施可能性、方法論案の適用可能性を調査した。 - 第三回現地調査:省エネ診断希望企業・デフォルト値収集対象企業を募ることを目的とした、

PwC 主催、GEC と政府関係機関 DEDE'タイ・エネルギー省代替エネルギー開発・効率局(後

援のセミナー準備及び開催を実施した。第三者検証機関との打ち合わせを実施し、契約関連、

業務内容を確認した。

- 第四回現地調査:第三者検証機関による検証の準備及び検証の実施。DEDE、Thai Green

Building Institute 'TGBI(へのインタビュー調査の実施、現地外注先との打ち合わせ・進捗確

認を実施した。 MRV方法論の作成関連

- マクロ分析'DEDEデータ(: DEDE より 2011年度の省エネ推進法における定期報告データを

入手した。業務部門 4 セクターのエネルギー使用量の推移を把握し、ビルの延床面積等の情

報を把握することで CO2排出原単位を分析した。

- デフォルト値の作成'DEDEセミナー(:DEDEからデフォルト値作成を目的とした省エネ診断希

望者を募るセミナーを共催した。セミナー参加申込数は 160 名、実際のセミナー参加者数は

103 名となった。このうち、参加企業数は 51社'オフィス、ホテル、商業施設、病院(となった。

- デフォルト値の作成'アンケート(:省エネ推進法報告対象ビルの中から 275件を抽出し、アンケ

ートを実施した。アンケートが回収できたビルは、デフォルト値作成を目的とした省エネ診断をア

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-7

レンジし、この省エネ診断は、最終報告書に向けて多数サイトで実施した。

アンケート送付先、回収済み回答

セクター 配布先リスト 回収済み

オフィス 148 30 件

商業施設 21 10 件

ホテル 74 16 件

病院 32 10 件

計 275 件 66 件

- MRV方法論の作成:現地調査結果、タイの省エネ推進法をベースとしたモニタリング実施可能

性調査により、MRV方法論案を作成した。

- MRV方法論の環境省案との整合・調整:環境省事業の委託調査会社'三菱 UFJ リサーチ&コ

ンサルティング㈱(と2回面談し、MRV方法論の作成・開発にあたっての双方の考え方、情報の

交換をおこない、方法論案に反映させた。

- デフォルト値・MRV方法論作成のための省エネ診断:BEMS導入効果の定量的把握と効果検

証のための省エネ診断について、30件の診断結果を得た。

- BEMS の導入実証:実証調査対象先として、商業施設における BEMS デモ機の実証データを

取得した。

モニタリングについて

- モニタリングデータ入手・保管状況の確認:ビルのエネルギー使用量、稼働情報等の計測が確

実・簡易に実施できるデータと証憑、実際の保管状況の実態を現地調査により把握し、モニタリ

ング項目としてまとめた。

- モニタリングデータの精度の確認:エネルギー使用量等の実測においてタイで使用される計測

器の標準について調査し、Thai Industrial Standard 'TIS(を参照すべきことが把握された。

第三者検証の実施関について

- 検証対応について:JCM/BOCM 検証マニュアルに基づき 4 サイトで検証を行った。タイの検証

機関の要求事項に現地管理者が検証対応可能かどうかを確認した。

- 検証の実施可能性:JCM/BOCM 検証マニュアルに基づき検証を実施した。最終報告において、

現地における実施可能性、マニュアル運用上の改善点を検証機関と議論しまとめた。

4. 二国間オフセット・クレジット制度の事業・活動についての調査結果

'1(事業・活動の実施による排出削減効果: 本調査における BEMS の定義は、計測・計量装置、制御装置、監視装置、データ保存・分析・診断装

置などで構成されるシステムであり、業務用ビル等において、室内環境・エネルギー使用状況を把握し、

かつ、室内環境に応じた機器又は設備等の運転管理によってエネルギー使用量の削減を図るためのシ

ステムを指す。単に「見える化」のみを行うシステムの場合、直接的に排出削減が行われるものではない

ため、BEMS には含めないものとする。

日本における BEMS の導入では、平均で 12.4%の省エネを達成しており、CO2 の排出削減量は

10.3%の実績が得られている'NEDO の平成 17 年~20 年度'BEMS(補助事業者実施状況に関する分

析(。平成 23 年度の新メカニズム実現可能性調査では、タイの業務用ビルにおいて現地調査を行い、省

エネ削減ポテンシャルは日本と同程度の省エネと排出削減が可能であることが確認された。

BEMS 導入による排出削減は、BEMS 導入後の運用の重要性が明らかになるとともにタイの気候にあ

わせた BEMS技術の導入が重要であることが把握された。

方法論の作成にあたっては、BEMS の技術が排出削減に最大限活用できること、日本の技術普

及を促進すること、簡易な方法と実態に合った方法とを選択できること、合理的に排出削減を算

定できることなどを基本事項として作成することとした。作成の方針は下表のとおりである。

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-8

MRV 方法論の作成にあたっての方針

方針 方法論案への反映

BEMS の普及促進 多くのビルが対象となるようにビルの規模などの要件を方法論には含めない。

BEMS による省エネ・排出削

減の促進

BEMS 導入効果の大きい、オフィス、商業施設、ホテル、病院を対象とする。

デフォルト値をプロジェクト参加者自らの努力と実績で設定できる柔軟な算

定方法を用意。

簡易に算定できる方法論 デフォルト値(BEMS が導入されることによる排出削減割合)の作成を検討。

デフォルト値を使用する場合、モニタリング項目は、プロジェクト実施後

(BEMS 導入後)のエネルギー使用量のみで算定が可能。

必要なデータはビル全体のエネルギー使用量とし、電力会社の請求書等の証

憑、BEMS による実測で収集可能とする。

プロジェクト参加者による

省エネ努力が適切に反映さ

れること

算定方法は保守的な削減量となるデフォルト値を用いる方法のみならず、過去

のエネルギー使用量や延床面積等の稼働情報を用いて、実際に削減できたエネ

ルギー使用量から排出削減量が算定できるよう算定方法を用意。

BEMS による省エネ・排出削

減が維持・継続されること

BEMS 導入後に運用・管理体制が維持されることを要件とする。

算定方法が合理的であるこ

リファレンス排出量の算定において過去の実績が不明な新設ビルは対象とせ

ず、既設ビルのみを対象とする。

'2(MRV方法論適用の適格性要件: 本MRVの適格性基準は、次の 3つの条件'ポジティブリスト(を設定する。

要件 1 BEMS を導入する対象が、既存の建築物であること。

過去の新設ビルは過去の排出量実績に基づくリファレンス排出量が把握できないため既設ビルを対象

とする。

要件 2 BEMSによって室内環境に応じた機器又は設備等の運転管理がなされ、エネルギー使用量が削

減されること。

BEMS 導入によるエネルギー使用量の見える化と設備・機器の制御による省エネを対象とすることによ

り、追加的な省エネが可能となることを条件とする。計測'見える化(のみで行われる省エネは、コスト削減

のために行われる通常実行されるべき行為であるため対象としない。

要件 3 BEMS 導入後、ビル所有者等の BEMS によるエネルギー削減効果の受益者に対して、BEMS

プロバイダー等により、定期的'最低でも半年に 1 回(に効率改善効果実績を報告することが、契

約等で担保されていること。

EMS は導入するだけでは省エネと排出削減が維持されないことが多い。定期的な省エネ効果の

確認と対策を検討することが必要である。このため、BEMS 導入事業者(BEMS プロバイダー)

により、BEMS 導入後に半年に 1 回程度のエネルギー使用量や対策等の内容を含んだレポーティ

ングが行われていることを要件とする。具体的には、プロジェクト提案者への BEMS プロバイダ

ーによるオペレーター育成訓練、データマネジメントサービス、分析・評価レポート提供サービ

スなどの契約が結ばれていることを条件とする。

以上の適格性条件を満たすことは、現在のタイの実態を勘案し、タイ国内において導入されて

いない BEMS が導入され、それによる追加的な排出削減がもたらされるプロジェクトを採用でき

ることになるものと考えられる。条件 3 は、BEMS 導入後のメンテナンスやデータ活用の支援サ

ービスの提供であり、日本企業が得意とする要件である。これを条件に加えることは日本の BEMS

技術の普及に寄与することにつながる。

'3(算定方法オプション: 算定方法オプション選択のフローを以下に示す。

Page 9: 「ビルエネルギー管理システム'BEMS(による省エネ」gec.jp/gec/jp/Activities/fs_newmex/2012/2012_mrvds11_jPwC_thainalnd_sum.pdf · a ビル 524 1回目:算定は適正。clとして、導入されたbemsの

H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-9

算定方法オプション選択のフロー

※ここでの算定に必要なデータとは、対象となる建築物における過去 3 年分のエネルギー使用量と延

床面積、ならびにプロジェクト実施後のエネルギー使用量と延床面積、施設の稼働率'オフィス、商業施

設の場合)である。

算定方法 1は、デフォルト値を用いた算定方法であり、BEMS導入後のビル全体のエネルギー使用量

を用いて、BEMS導入による効率改善率を組み合わせて簡易に算定ができる方法である。

算定方法 2は、算定方法 1と同様にBEMS導入後のビル全体のエネルギー使用量を用いて算定する

方法であるが、デフォルト値を用いず、代わりに同種のビルで同種の技術導入による効率改善率の実績

値を用いて算定する方法である。

算定方法 3は、過去のエネルギー使用量や延床面積、稼働率を用いて、よりビルのエネルギー使用実

態を反映した算定方法である。

'4(算定のための情報・データ: 各算定方法オプションに基づいて、CO2 排出量の算定に必要となる情報・データを、表形式で整理し

た。表では、デフォルト値、プロジェクト実施後にモニタリングするべき情報・データを示し、当該事業・活

動においての整備状況を記載した。

CO2排出量の算定に必要となる情報・データ

情報・データ

モニタリング'M(/

事業固有値設定'S(/

デフォルト値設定'D(

当該事業・活動における整備状況

対象ビルの電力量 [kWh] M(算定方法 1,2,3) 毎月の購入伝票が整理されており、3 年間分の

保管も多くの場合実施されている。 対象ビルの化石燃料使用量 [kl, t,

1000Nm3/y]

M(算定方法 1,2,3)

延床面積[m3] M(算定方法.3) 建物建築申請書が多くの場合保管されており、

申請書の複写書面の提示が可能である。

稼働面積比率[%] M(算定方法 3) テナント契約書、建物図面。

個別設備導入によるエネルギー使

用効率改善率 [%]

D(算定方法 1)

ビルタイプの EMS によるエネル

ギー使用効率改善率 [%]

D(算定方法 1)

電力の CO2排出係数[tCO2/MWh] S(算定方法 1,2,3)

DEDE の Thailand Energy Statistics 2011 をベー

スに現地の設備管理者等によりモニタリング

が可能。

算定方法 3

算定に必要なデータ※

を過去 3 年分入手可能

効率改善率についてデ

フォルト値を使用する

PJ後に算定で必要なビ

ルのデータ※を使用可

効率改善率を自ら設定

して算定する 算定方法 2

算定方法 1

いいえ

はい

はい

はい

いいえ

はい

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II-10

NCVi,y:化石燃料 i の真発熱量[GJ/Nm3, t, etc]

S(算定方法 1,2,3)

タイの省エネルギー推進法での算定のための

係数をデフォルト値として利用可能。また、

IPCC 等のデフォルト値(固定)を用いた。

EFf,i,y:化石燃料 i の CO2排出係数[tCO2/GJ]

S(算定方法 1,2,3)

同上

'5(デフォルト値の設定: BEMS が導入されるビルの省エネ効果をデフォルト値として設定することで、排出削減量の算定・報

告・検証のプロセスは効率化可能となる。すなわち、BEMS導入によるビル全体の効率改善値がデフォル

ト値となるため、プロジェクト実施後のエネルギー使用量を把握すれば、これにデフォルト値で割りかえす

ことでリファレンス排出量が算定でき、排出削減量が算定できる。

本調査では、デフォルト値を定量的に把握し、統計的に評価することで保守的な値を選定できると考え、

タイにおける業務用ビルの設備運用状況・エネルギー使用状況を詳細把握する省エネ診断を行い、デフ

ォルト値を収集した。タイにおいてはBEMSが導入された事例は少なく、かつ長期間経過したビルは存在

していないのが実態である。このため、調査では、過去のビル全体のエネルギー使用量を正確に把握し、

BEMS 導入による省エネ効果をビルの稼働情報を詳細把握し、診断結果を多数収集することで、定量的

かつ保守性の高いデフォルト値'エネルギー使用効率改善率(を設定することとした。

BEMS の導入効果は、運用改善'ソフト面での対策(と設備の自動制御・更新'ハード面での対策(によ

る省エネがある。前者の運用改善の効果とは、人によってより効率的な設備運用を検討し、実施すること

で得られる効果である。BEMS によりエネルギー使用量や設備稼働状況など、これまで把握できなかった

実態が見える化されることにより、運用改善が実施され、省エネが推進する。後者の設備の自動制御・更

新による効果とは、エネルギー消費設備を機械的に最適運転したり、高効率な設備に更新したりすること

による省エネ効果である。調査では、BEMSによるCO2排出削減の個別技術を省エネ診断において一貫

した方法で削減量を調査・定量化した。

下図は、BEMS 導入による省エネの内訳である。実際の省エネ診断では、診断結果の確実性と精度を

重視する必要があることから、始めに設備更新による効率改善率を評価し、続いて BEMS 制御による効

率改善率を算定、最後に運用改善で可能な効率改善率を検討した。

BEMS 導入による効率改善率の内訳

運用改善による省エネ効果のデフォルト値は、エネルギー使用量のリアルタイムの計測装置が

導入されたビルにおいて得られた省エネ効果のデータ収集を行い、提示したものである。下表に

運用改善によるデフォルト値を示す。

ここでのエネルギー使用効率改善率は、人による運用改善効果であるため、厳密な技術的根拠

を示すことは困難である。しかしながら、省エネ診断を実施した 30 サイトでは、エネルギー使用

量が見える化されていた 13 サイトの省エネ可能割合が 9.7%であったのに対し、見える化されて

いない 17 サイトの省エネ可能割合が 15.8%であったため、エネルギー使用量の見える化による運

用改善は一定量の省エネ効果を見込むべきであると考えた。

さらに、日本製の BEMS を導入する前提に立てば、日本では過去に行われた BEMS 導入補助事

業における見える化の省エネ効果が 4.7%得られた実績が報告されている。このため BEMS 導入に

Before After

効率改善率[%]

BEMS導入

③オペレーション変更等の運用改善による効率改善率 [%]

②BEMS制御による効率改善率 [%]

①設備更新による効率改善率 [%]

効率改善率は、①⇒②⇒③の順で検討

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II-11

よる運用改善の効果を一定量考慮することは BEMS 普及が促進する機会になり得る。一方で、過

剰に運用改善によるエネルギー使用効率改善率を期待することも避けるべきである。このため、

ここでは運用改善のデフォルト値を保守的に 1%と設定した。過去の BEMS 導入補助事業におい

て運用改善による省エネ効果として補助事業申請時に加味することのできる値として用いられて

いた値である。なお、運用改善による省エネ効果は BEMS 普及に伴って、運用改善効果を把握し、

定期的な見直しを行う必要があることも付記しておく。

運用改善によるエネルギー使用効率改善率'デフォルト値( エネルギー使用効率改善率

1 %

運用改善項目(オフィス)

■空調・冷房

・不使用エリア、不要時の空調機、換気ファンのこまめな停止(空調・換気時間の短縮)・温度設定緩和の啓蒙

及び実施

・窓からの熱の流入を防止するためブラインドなどを効果的に使用

・フィルタの定期的な清掃

・配管摩擦低減剤の使用

■照明

・不要時の照明のこまめな消灯(点灯時間の短縮)

・照明の照度基準に配慮しつつ窓際や廊下などの照明を間引きする

・昼休み時間帯の消灯

■その他

・省エネ啓蒙ポスター、エネルギー消費状況などを掲示し、省エネ意識の向上を図る

・省エネ行動を建物内居住者全員参加で取り組むために、部門代表者で構成される省エネルギー委員会を設置

し、定期的に委員会を開催して省エネ行動の周知徹底を図る

・パソコン、コピー機、その他オフィス機器、給茶器、自動販売機等の不要時の電源オフ

・閑散時間帯のエスカレータ・エレベータの間引き運転

・コンセント使用機器の台数制限管理

オフィスの運用改善項目の例

設備の自動制御・更新によるエネルギー使用効率改善率'デフォルト値( 用途 項目 実施内容 効率改善率

平均

デフォルト値

設定範囲*

サンプル

1.照明

1.1 高効率照照明への更新

(LED)

LED への更新 3.0 % 1.56%~4.43% 23

1.2 照明の運転制御 スケジュール制御、人感セ

ンサー等

0.2 % 0.05%~0.40% 10

2.熱源 2.1 熱源最適運転制御 台数制御、最適起動制御、1

次ポンプインバータ制御等

2.1 % 1.47%~2.75% 28

2.2 高効率冷凍機の採用 高効率冷凍機への更新 6.8 % 3.83%~9.70% 11

2.3 冷却水最適運転制御 冷却水変流量制御、冷却塔

発停制御、冷却塔ファンイ

ンバータ制御、冷却水温度

適正化等

2.7 % 1.64%~3.83% 28

2.4 搬送ポンプ変流量制御 2 次ポンプインバータ制御 2.1 % - 9

3.空調 3.1 空調機外気取入量制御 CO2 濃度制御 1.0 % - 6

3.2 変風量空調機 ファンインバータ制御 2.4 % 1.07%~3.72% 15

3.3 節電運転制御(間欠運転) 間欠運転制御 1.5 % 0.40%~2.59% 11

3.4 温度設定値緩和 室内温度設定の適正化 1.0 % - 7

3.5 高効率 PAC への更新 高効率パッケージ空調機へ

の更新

17.2 % - 2

4.換気 4.1 換気ファンの運転制御 CO 濃度制御、スケジュー

ル制御、機器連動制御等

0.7 % - 4

*: サンプル数 10以上の個別技術の効率改善率について、母集団平均の 95%信頼区間を算出。

事業固有値は燃料発熱量、燃料の排出係数、電気の排出係数である。燃料発熱量は DEDE の省

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II-12

エネ推進法の固有値を使用し、燃料の排出係数は IPCC の値を、電気の排出係数は Thai Greenhouse

Gas Management Organization(TGO)の値とした。

MRV 検証実証サイトにおける個別技術の省エネ診断結果と実機を用いた省エネ効果の実測値

とを比較した。省エネ診断により調査した BEMS 導入効果が実機において実現可能であるかの確

認を行うためである。

実証の結果から、BEMS 導入による削減量は必要なチューニングを加えることにより、省エネ

診断で得られた結果と同等の結果となることを確認した。

省エネ実証結果

実証 チューニング後

削減電力量'実測期間中 32日間( 37,231 kWh 78,175 kWh

削減電力量(365日間試算値( 424,663 kWh 891,680 kWh

CO2排出削減量 221 tCO2/Y 463 tCO2/Y

CO2排出削減率 0.6% 1.16%

'6(リファレンスシナリオ及びバウンダリーの設定: リファレンスシナリオの検討にあたっては、次の 2 つのシナリオを設定した。

シナリオ 1 BaU であり、BEMS が導入されない現状が継続するシナリオ

シナリオ 2 ビルが BEMS 以外の要素により高効率化するシナリオ

シナリオ 1 の設定理由としては、タイにおいて BEMS の導入実績はほとんどなく、また BEMS

を導入する経済的インセンティブが十分にない現状が当面維持されると想定されるためである。

日本と異なり、エネルギーコストが安価なタイでは、設備の最適運転を高度に行う BEMS の導入

によっても、エネルギーコストの削減は小さく、BEMS 導入のイニシャルコストに対し、ランニ

ングコスト(エネルギーコスト)の削減による投資回収年数は日本と比べて長い傾向にある。タ

イの BEMS 導入による投資回収年数は 7 年から 10 年ほどであり、ビルオーナーにとって設備投

資の魅力は現状大きくない。BEMS が省エネ政策上で補助対象となるかどうかについても確認し

たが、DEDE によれば、BEMS の補助金は計画しておらず、当面、BEMS が政策的に導入促進さ

れることは想定されない。

シナリオ 2 は、ビルが BEMS 以外の要素、具体的にはビル内の設備が高効率化されたり、断熱

が強化されたりすることにより、BEMS を導入した場合の省エネ量や排出削減量が BaU よりも小

さくなるシナリオである。BEMS は導入されないものの設備自体が高度に高効率化すると、BEMS

を導入した場合に最適制御による省エネ量は現状や BaU と比べて小さくなることが想定される。

このシナリオを想定できる根拠はタイのエネルギー省が提示した「エネルギー効率開発計画

(2011-2030 年)」である。この計画ではビルを高効率化するためのタイの戦略が提示され、特に

設備の高効率化や断熱の強化にフォーカスしている。

下図は業務用ビルにおけるシナリオ 1と 2を表現したものである。排出量が上昇しているのは、

業務用ビルがタイにおいて増加していくことによる。本調査では方法論案を含めて新設ビルを対

象とはしていないが、新設の数年後にはエネルギー使用量の実績値が得られる既設ビルとなるた

め、BEMS 導入対象となるビルは増加していくものとしている。

シナリオ 1 の BaU の場合は現状の排出量の増加が継続していく。シナリオ 2 のリファレンス排

出量としたビルが高効率化していく場合には BaU よりも小さな傾きで排出量が増加していく。

2013 年に JCM/BOCM により BEMS が導入し、プロジェクトとして普及開始した場合、プロジェ

クト排出量はリファレンス排出量よりも尐なく推移していくことが想定される。

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-13

リファレンスシナリオ

JCM/BOCM が簡素な手法によるものの排出削減量はより保守的とすべきであるとの観点に立

てば、BaU よりもさらに保守的となるシナリオ 2 をリファレンスシナリオとして設定することが

必要になると考えられる。

シナリオ 2 をリファレンスシナリオに設定し、BEMS 導入による排出削減量がリファレンスシ

ナリオを参照して定量化されるためには、JCM/BOCM の BEMS 普及に伴い増大する BEMS の導

入実績から、次のような変更を定期的に実施する必要があると考えられる。

デフォルト値の定期的な修正

業務部門ビルの排出原単位の定期的なモニタリング

デフォルト値の定期的な修正はビルが高効率化していく中で、BEMS 導入による省エネ可能量

が減尐していくことが想定され、2013 年時点でのデフォルト値をそのまま長期間用いると保守的

でない省エネおよび排出削減量が定量化されるリスクがあるためである。デフォルト値の修正に

は BEMS 導入による個別技術の省エネ実績値を蓄積していくことが必要であるため、JCM/BOCM

開始当初に補助制度を創設し、補助の要件として BEMS の個別技術によるエネルギー使用量等の

個別計測値を提供させることでデータ収集していくことが考えられる。このデフォルト値の修正

は、4 の(3)で述べた算定方法 1 を保守的にカバーすることになる。

業務部門ビルの排出原単位は、JCM/BOCM の制度運営サイドにおいて 3 年ごとにモニタリング

を実施するなどが考えられる。シナリオ 2 として設定したビルの高効率化が進捗しているのかを

モニタリングすることで、過去のエネルギー使用量を用いて BEMS 導入後の排出削減量を定量化

する算定方法 3 の補正等に用いることができる。例えば、リファレンスシナリオの図のようにタ

イの業務部門ビルの排出量が増大している場合、2013 年時点に BEMS を導入したビルの 5 年後の

リファレンス排出量は他のビルが BEMS 以外の要素で高効率化し、排出量を低減している可能性

があることから、保守的なリファレンス排出量とするためにはモニタリング結果を反映し、2013

年に設定した過去のリファレンス排出量よりも低減する方向での補正を検討する必要がある。タ

イの業務部門ビルの排出原単位を特定の値に高精度でモニタリングすることは容易ではないが、

補正の程度については本調査において分析したような DEDE の省エネ推進法定期報告データを用

いて統計的に評価することで一定の判断が可能になると想定される。

バウンダリーの設定はビル全体とした。これは BEMS の導入が、ビル内のエネルギー使用の全体最適

化を意図しているためである。バウンダリーをビル全体とした場合のメリットは、排出削減量の最大化及び

プロジェクトで行う様々な対策・モニタリング・検証などの効率の最大化が期待できるためである。排出削

減量の最大化は、運用改善や多数機器の自動制御等による相乗効果、副次効果'照明改修による空調

負荷の低減、断熱強化による空調負荷の低減(を取り込むことが可能となるためである。バウンダリーをビ

ル全体とすることによりモニタリングポイントが増える可能性も考えられるが、提案するモニタリングプラン

は、ビル全体の電力使用量や燃料使用量を一括で計測することで、モニタリングコストや検証の労力・コ

ストを削減できる。

対象とする温室効果ガスの種別は、エネルギー起源の CO2 である。これは、タイの業務部門施設から

BaU

Reference emission

Project emission

業務用ビルのG

HG

排出量

2013年

BEMS普及開始

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II-14

排出される温室効果ガスのほとんどがエネルギー起源の CO2 のためである。

タイ・バンコクのビルにおけるエネルギー使用量は電気が 90%以上を占める'平成 23 年度新メカニズ

ム実現可能性調査でのエネルギー使用量の統計調査結果(。このため、主に電気の排出源を確認するこ

とが非常に重要となるが、電気はバンコクであれば電気の供給を行う配電会社のMetropolitan Electricity

Authorityの取引用メータで、バンコク圏以外であれば、Provincial Electricity Authorityの取引用メータで

計量されている。

'7(モニタリング手法: 4.'3(の算定方法オプションに基づき、当該事業・活動におけるモニタリング項目及びモニタリング頻

度を検討した。結果を下表に示す。

想定されるモニタリングの実施体制は上記のモニタリング項目を設備管理者であれば実施可能である

ことが現地調査・ヒアリングより確認できている。これはタイの省エネルギー推進法で報告するエネルギー

データがモニタリング項目と同じであり、設備管理者がデータの集計や算定に慣れていることがあげられ

る。想定されるモニタリング頻度は、同法の定期報告が 6ヵ月に 1回あり、エネルギー使用量については、

同法定期報告のタイミングと同じ時期・周期とすることで、モニタリング担当者の作業負担を軽減できると

考えられる。

なお、ビルオーナー等のモニタリングコストを低減させる目的から、BEMS による実測データをそのまま

使用するため、要求される計量器の精度を調査した。タイには日本の JIS にあたる TIS が存在し、このな

かで計量機器の精度、検査検定基準が定められている。TISの 1030で計量機器の検査基準が定められ、

TISの 2336で精度や計量器等級による仕様が定められていることが確認された。TIS1030は IECなど国

際的な標準をベースに作成され、2008年に改訂されている。TIS2026は 2009年に改訂されている。なお、

BEMS で用いる電力量計等の計量器が現地の日系メーカーから調達される場合、これらの標準に計量

器は適合しているため問題とはならない。仮に問題となるとすれば、日系メーカー以外が使用する計測器

や、既設のビル管理用途の旧式計測器を BEMS に接続するなどの流用の場合であるが、BEMS への計

測データ送信の必要性から、計測器は更新または新設されるため、問題とはならないと考えられる。

MRV 検証を実施する対象建物に関するモニタリングレポートは、11 月に環境省作成によるモニタリン

グガイドラインを参照し作成し、検証を受審した。

モニタリング手法

モニタリング項目 モニタリング

頻度

省エネ

推進法

報告項目

実施可能性

PECy:プロジェクトにおける対象施設の電力使用

量[MWh/y]

1 回/6 ヵ月 ○ 光熱費の購入伝票は、タイで

は会計法上 5 年の証憑保管

義務がある。

多くの設備管理部署等で省

エネルギー推進法対応を目

的に保管・管理している。

延床面積の証憑はバンコク

都庁への建物建築申請書が

あり、確認が可能。比較的多

くの設備管理部署等で保管

されている。

PFCi,y:プロジェクトにおける対象施設の化石燃料

i の使用量[kl, t, 1000Nm3/y]

1 回/6 ヵ月 ○

REC3y:過去 3 年間における対象施設の平均電力使

用量[MWh/y]

プロジェクト

計画時のみ

RFCi,3y:過去 3 年間における対象施設の化石燃料 i

の使用量[kl, t, 1000Nm3/y]

プロジェクト

計画時のみ

RAG3y:リファレンスにおけるビルの過去 3 年間

の平均延床面積[m2]

プロジェクト

計画時のみ

ROR3y:リファレンスにおけるビルの稼働面積比率[%]

プロジェクト

計画時のみ

PAGy:プロジェクトにおけるビルの延床面積[m2] 1 回/年 ○

PORy:プロジェクトにおけるビルの稼働面積比率[%]

1 回/年

EERk:ビルタイプに係らない個別設備 k 導入によ

るエネルギー使用効率改善率 [%]

1 回/年 -(デフォルト値)

EERi:ビルタイプ j の EMS によるエネルギー使用

効率改善率 [%]

1 回/年

EFe,y:電力の CO2排出係数[tCO2/MWh] 1 回/年

NCVi,y:化石燃料 i の真発熱量[GJ/Nm3, t, etc] 1 回/年

EFf,i,y:化石燃料 i の CO2排出係数[tCO2/GJ] 1 回/年

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H24 MRV DS 最終報告書(概要版)

II-15

'8( 温室効果ガス排出量及び削減量: MRV 実証サイトでの CO2 排出量を把握し、MRV 方法論に基づいてリファレンス排出量と排出

削減量を算定した結果を下表に示す。排出削減量は当初の Monitoring report 作成時の排出削減量

である。算定が適切かどうか、この排出削減量が検証の対象となる。なお、表の CO2排出原単位

は DEDE の省エネ推進法データより求めた値であり、本調査の MRV 方法論で求めたリファレン

ス排出量と延床面積により得られる排出原単位とは一致しない。

MRV 実証サイト

ビル

名称

延床

面積

[m2]

リファレン

ス排出量

[t-CO2]

排出

削減量

[t-CO2]

BEMS 導入

排出削減率

(デフォルト値)

モニタリング

期間

A ビル 67,562 4,995 524 10.5%で実施 2012 年 4 月 1 日-2012 年 10 月 31 日(7 ヵ月)

B ビル 213,311 27,917 6,554 10.5%で実施 2011 年 5 月 1 日-2011 年 12 月 31 日(8 ヵ月)

C ビル 9,952 1,693 18 1.1%で実施 2010 年 1 月 31 日-2011 年 1 月 31 日(13 ヵ月)

D ビル 27,886 49,349 5,335 10.8%で実施 2009 年 1 月 1 日-2011 年 11 月 31 日(23 ヵ月)

温室効果ガス排出量及び削減量は、事業・活動実施時排出量をベースに、リファレンス排出量を設定

し、事業・活動実施時排出量との差を排出削減量として定量化する'添付の方法論案を参照(。リーケー

ジ排出量は BEMS が管理するエネルギー使用設備全てを含むビル全体をバウンダリーに含めるため、リ

ーケージ排出量は想定されない。

'9(排出削減量の第三者検証: 下表は、試行 MRV 検証を実施した概要である。検証機関へは、オンサイト・レビューとデス

クトップ・レビューを依頼した。また、MRV 方法論の算定方法もプロジェクト参加者からのモニ

タリングデータの提供状況を踏まえて 2 通りを実施することとし、特に簡易な検証手法による精

度確保の確認に主眼をおいて方法論の実施可能性を確認した。なお、算定方法 2 はタイにおいて

BEMS の導入実績がほとんどない状況を鑑みて、実績値を援用することが困難であったため、こ

こでは選択していないが、基本的な算定の考え方は算定方法 1 と同じであり、算定方法 1 の検証

により評価が可能である。

試行 MRV 検証の実施

ビル名称 検証種別 実施日

(Monitoring report 提出日)

Verification report

提出日

A ビル オンサイト・レビュー

算定方法 1

2012 年 11 月 26 日 2012 年 12 月 7 日

B ビル デスクトップ・レビュー

算定方法 1

1 回目:2012 年 11 月 30 日

2 回目:2012 年 12 月 12 日

2012 年 12 月 17 日

C ビル デスクトップ・レビュー

算定方法 3

1 回目:2012 年 12 月 3 日

2 回目:2012 年 12 月 12 日

2012 年 12 月 17 日

D ビル デスクトップ・レビュー

算定方法 1

1 回目:2012 年 12 月 4 日

2 回目:2012 年 12 月 12 日

2012 年 12 月 17 日

A ビルは、オンサイト・レビューにおいて、電気、LPG、軽油の使用量の証憑を基に作成した

Monitoring report を検証機関が現地において証憑の確認、設備確認を行った。算定に問題はなく、

適正に行われていることが検証機関により確認された。導入済みの BEMS の熱源最適制御の根拠

資料が十分に明確でないとの指摘を受けた。

B ビルは、電気と LPG の使用量の証憑に基づき Monitoring report へのデータ入力を行った。1

回目の検証では、BEMS 導入後に受電電力メータが不良となり、メータの交換の事象が発生して

いた。しかし、Monitoring report にはメータの不良期間を含めた電力使用量が入力されており、こ

れを検証機関が検出したものである。モニタリングが確実に行われているメータの交換以降の期

間を BEMS が導入された以降のモニタリング期間とし、この期間を算定対象とするよう指摘を受

けた。この対応は、排出削減量が尐なく算定される保守的な算定となる手法であったため対応し、

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修正した。これにより、2 回目の検証では、算定が適正に行われているとの確認を受けた。

C ビルは電気の請求書と LPG が実測されたデータが提供され、これを Monitoring report に入力

し、検証を受けた。1 回目の検証では、BEMS 導入時点(モニタリング開始時点)は全ての個別

技術の導入が完了した時点とすべきであるところを、個別技術が導入された途中の時点を BEMS

導入時点として算定していたため、モニタリングの期間の修正が要求された。2 回目の検証では、

これを修正し、算定が適正に行われているとの確認を受けた。BEMS の個別技術導入の根拠資料

が不十分であること、LPG の実測精度に関する根拠資料が不足していることが指摘事項となった。

D ビルは、電気の使用量の証憑に基づき Monitoring report を作成し、検証を受けた。1 回目の検

証では、BEMS の制御対象外エリアにある食堂や臨時で仮設使用したと思われるポンプの電力使

用量の請求書が BEMS 導入後の電力使用量として入力され、算定されていることが検出され、修

正要求を受けた。2 回目の検証では、これらを除いた Monitoring report が確認され、適正に算定

が行われていることの確認を検証機関より受けた。

検証を通して得られた課題は、①BEMS による管理範囲・計量範囲の明確化、②BEMS のプロ

ジェクト開始日の設定、③モニタリング支援ツール、④検証チェックリストの作成、⑤オンサイ

ト・レビューの実施の必要性、である。

①は複合施設(e.g. 商業施設とホテルが1建築物)の場合にエネルギー使用量が用途ごとに区

分できること、BEMS が管理している範囲を明確化することが必要だが、そのための根拠資料は

膨大であり、現地確認にも時間を要する。②は BEMS が導入後にチューニングを要するシステム

であることに起因する。BEMS は個別技術を一度にではなく、複数回にわけて導入していくこと

が一般的であり、いつの時点を BEMS が導入された日とするのかの判断を要する。チューニング

が完了した日の作業報告書を根拠資料とするなど、予め事例を提示しておくことが必要である。

③はプロジェクト参加者が Monitoring report を作成するためのモニタリング支援ツールを作成し、

配布することで入力ミスや集計ミスを防ぐことにつながる。④は検証機関が効率的に BEMS の方

法論をベースとした検証が実施できるよう、検証ポイントをまとめたチェックリストを事前作成

しておくことが重要である。これにより一定水準の品質保持につながる。⑤は検証はオンサイト・

レビューを原則とすることである。ビルのエネルギー使用種別の網羅的な確認や個別メータ類の

精度、設置位置確認は現地での実査によって確認することが確実である。

'10(排出削減効果の分配: ビルオーナーや設備管理者等への JCM/BOCM の説明とヒアリングにより、適切な排出削減効果の配

分割合をヒアリングした。現時点では、「排出削減量の取引・売却が可能であることが、BEMS 導入のイン

センティブになる」こと、「排出削減量がいつごろから取引・売却できるようになるのかに大きな関心がある」

こと、「どのようなプロジェクトが対象になるのかが知りたい」ことなどを把握した。排出削減量は分配するよ

りも、全量を取引でき、また売却可能であるとの認識が強いことが確認された。これは排出削減量の分配

によって、タイ側での利用・用途が具体的に想定できないためと考えられる。

'11(環境十全性の確保: BEMS の普及拡大による環境面での影響として、BEMS の製品が生産される過程で生じる環境へのリ

スクは、他の製品に比べ負荷が高いものではないと考えられる。同様にBEMSの導入・設置工事・運用段

階などライフサイクル全般において問題を生じるものではないと判断している。

また、タイにおいては、1992 年に国家環境保全推進法を制定しており、対象となるプロジェク

トに対して環境アセスメントの実施を義務付けている。対象となるプロジェクトは、ダム・貯水池や民

用空港建設など23 種類であり、建物改修段階でのBEMS導入は、環境影響評価の対象とはなっていな

い。

'12(日本製技術の導入促進策: 日本製 BEMS 技術の導入・普及を目指すにあたり、日系企業および日本政府が考慮すべき点は、

在タイ日系企業や現地不動産・建物事業関係者のコメントを踏まえると以下の三点に集約される。

第一に、「現地ユーザーの囲い込み策の検討」である。BEMS を含む大型設備・装置等社会イン

フラ市場の特性として、リプレイスの困難さ(あるサプライヤーがひとたび顧客を押さえてしま

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うと、他社が当該顧客に製品を供給するのが困難となる)がある。タイの既存建物設備・装置市

場についても「先行する欧州企業が顧客を押さえてしまっており、なかなか入り込めない」とタ

イの日系電機メーカーからの指摘があった。

このような局面で新規参入者である日系企業がタイのユーザーを囲い込む方策としては、①「新

規案件」「新市場」を開拓すること、②設備・装置の優秀性を顧客の前で実証し、かつ顧客に体感

してもらうこと、③価格および性能が現地顧客のニーズにマッチする商品・サービスを設計する

ことが鍵となる。

このうち①については、タイの不動産流通企業は、露天市場が商業モールに再開発される流れ

を踏まえ、「新規に開業する商業施設」をターゲットとし、有力商業施設デベロッパーないしチェ

ーン・オペレータにアプローチすることを推奨していた。また②および③については、建物所有

者や管理運営受託者のみならず、設計時に発言力を有する現地建設コンサルタントへの営業強化

の必要性も指摘された。

第二に、「現地ユーザーが低コストのファイナンス・スキームを利用できるようにすること」で

ある。タイを含めた新興国では、前出③で述べた「価格のマッチング」は必須だが、省エネ効果

を担保できる品質(およびサプライヤーの採算)を維持するための最低価格が現地企業よりも高

くなることが有り得る。従って、④融資・リース等の資金調達手段に加え、⑤助成金・税額控除

等の公的制度を活用できることが望ましい。

④について、既に在タイ日系・現地金融機関が、国際金融公社(International Finance Corporation)

等の公的資金を利用しつつ、BEMS 導入に資する商品・サービスを提供している。今後も商品・

サービスのプロモーションや案件実施体制の拡充に取り組むことが期待されるが、欧米競合メー

カーのように、日系メーカー自身もファイナンス・スキームを提案できるキャパシティ・ビルデ

ィングが重要になると言えそうである。

第三に、「日・タイ両政府主導で、BEMS 導入および MRV 認知の機運を作ること」である。タ

イの建物オーナーにおける BEMS の認知度は高いとは言えない状況であるが、バンコクでの

DEDE セミナーでは多数の現地建物オーナーから BEMS に対する強い関心が寄せられ、潜在需要

があることを窺わせた。

潜在需要を掘り起こし、タイ国レベルでの省エネの動きに結びつけるには日・タイ政府レベル

でのアクションが求められる。日本の BEMS にかかる経験(BEMS の普及プロセス、MRV 方法論

の構築、市場関係者のタイプや動き方、政府の技術普及支援策等)をタイ政府にインプットしつ

つ、「日タイ・官民連携」によって BEMS 普及事業を実施することが考えられる。

とりわけ、BEMS 普及においては BEMS 技術者の育成が必要不可欠である。本調査で訪問した

建物に関しては BEMS 運用を一任することが可能なスタッフが不在であるケースもあった。人材

育成コストを建物オーナーが個別に負うことは考え難く、タイ政府ないし日本政府が人材育成支

援策を設定することが求められているといえる。

'13(今後の見込みと課題: MRV 方法論案の算定方法 3 は、排出量の計算の際に、ビルの稼働データとして、延床面積を使

用し、また、オフィスや商業施設においては、稼働率にテナント占有率のデータを入手してエネ

ルギー使用量への BEMS 導入以外の影響をコントロールする方法を採用している。これは調査開

始当初に、比較的大きなテナントがビルから退出した際にエネルギー使用量が著しく低減し、ビ

ルの過去のエネルギー使用量からリファレンス排出量を算出するような算定方法の場合に過剰な

排出削減量が得られてしまうことを懸念したものであった。

しかしながら、ビルの稼働率の正確性を向上させること、例えばテナントの業種を詳細に把握

し、その比率を算出したり、年間のテナントの営業時間を把握したりすることは、モニタリング

の負担を大幅に増大させることにつながり、BEMS を普及させることが極めて困難となる。

このため、算定方法 3 を用いる場合のビルの稼働データのさらなる追求では、算定方法 3 を選

択した場合にも、算定方法 1 のデフォルト値を用いる方法が考えられる。プロジェクト排出量が

リファレンス排出量に比較して、全てのデフォルト値(ただし、運用改善と制御のみとし、設備

更新分を含めない)の合計値よりも大きな削減となった場合に、ビルの稼働率を詳細検討する検

証の仕組みとすることが望ましい。つまり、BEMS による省エネ技術を全て導入するビルよりも

大きな排出削減が実現するビルは、可能な省エネ対策以上の削減がなされていると考えるべきで

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あり、こうしたビルはビルの稼働自体が大きく低下しているビルであると考えることができる。

したがって、検証において稼働データの詳細確認を実施することを JCM/BOCM の BEMS の検証

マニュアル等で事前に要件化しておくことが必要になると考えられる。

5. 持続可能な開発への貢献に関する調査結果

タイの持続可能な開発に貢献する事項として、以下の 3 点が挙げられる。

①ホスト国の開発政策・戦略への整合:タイの 2015 年までの中期計画と BEMS 導入に伴う省

エネの実現と省エネ効果の見える化の促進は共進できることが明らかになった。タイでは省エネ

分野の専門家育成やエネルギー消費原単位の低減を計画しているが、BEMS 導入の促進による個

別設備の省エネとエネルギー使用量や稼働情報の見える化が促進することで、タイの計画をバッ

クアップすることになるとともに共進化が可能である。

②BEMS 導入によるピーク電力削減:タイの 2010 年のピーク電力は、25,089MW と 2006 年

度比 12.6%増となっている。ピーク電力削減はタイの電力供給システムの開発重点課題である。

BEMS導入によってピーク電力が削減されることは、既に日本等で実績が示されていることから、

タイでの具体的なピーク電力削減効果について実績を積み重ねることで、BEMS 導入の促進と開

発重点課題の克服に寄与することになる。

③BEMS を活用した省エネ技術移転と人材育成:BEMS を活用した省エネ運用のトレーニング

を通して、省エネ設備改善のための技術的検討や資金計画の立案が可能な人材育成に必要な要件

と効果的な育成方法について、ニーズがあり、これに寄与する。