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2017 年度 上智大学経済学部経営学科
網倉ゼミ 卒業論文
なぜネット広告は嫌われるのか?
−デジタルネイティブ世代のネット広告の役割とは−
経済学部経営学科
川井智晴
A1442749
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目次
第1章 はじめに
第 2 章 ネット広告の現状
第3章 仮説と検証
第4章 結論
第5章 おわりに
参考文献
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第1章 はじめに
現在の私たちの生活には、広告が溢れている。生まれてから広告を目にしなかった
日はないだろう。広告ではテレビの CM が有名だが、最近の小学校中学校から携帯を
与えられたデジタルネイティブの私たちには、ネット上の広告がより身近な存在といえ
る。そんな中、私たちはテレビの CM は許せるのにネットの広告は鬱陶しいものだと思
っている。実際、この状況を LINE の上級執行役員の田端信太郎氏が IOS の有料ア
プリのダウンロードランキングの1位に広告ブロックのアプリがあることを取り上げ、ネッ
ト広告は嫌われ者だと述べた。(図1参照)
図1
(スクリーンショットを加⼯)
消費者は、お金を払ってでもネット広告を見たくない。そんな中で、なぜ生活者がテ
レビ CM は受け入れられるにも関わらず、ネット広告は嫌われるのか、また今後嫌われ
ずに生活者に広告を見せ、購買に繋げるにはどうすればいいのかを考えていきたい。
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第 2 章ネット広告市場の現状
2.1 インターネット広告とは
インターネット広告は、インターネット上のスペースに掲載される広告のことである。ウ
ェブサイトの左右に配置された広告やスマホアプリ内での広告などがある。
インターネット広告は、以下の図ように様々な業者を通して消費者に届けられる。
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より具体的に広告の配信方法について見てみると、インターネット広告は、運用型広
告と枠売り広告に大きく2つに分類される。運用型広告とは、アドテクノロジーを活用し
た運用によって、広告枠、入札額、ターゲット、クリエイティブ、コンテキストなどを、変
動させながら出稿する方式の広告を指し、枠売り広告とは、広告の配信に運用技術を
用いずに、従来の新聞や雑誌の広告のように枠で取引される広告を指している。この
2つの違いは3点あり、1つ目は枠売り広告よりも運用型の方が、運用技術を利用する
ことによってターゲティングの自由度が高い点、2つ目は広告主の予算に合わせた金
額で出稿できる点、3つ目はユーザーの関心に合わせた広告を配信することができる
点がある。
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〈リスティング広告〉
例えば、検索窓で「ネット広告」と入れ検索すると、ネット広告に関連した広告が検索
の上部の(オレンジ枠内)に表示される。これによって、より消費者の関心に沿った広
告を配信でき、購買意欲の高い消費者を誘導できる。
〈ディスプレイ広告〉
ウェブページの中でも目に付きやすい位置に配信されるため、多くの消費者に広告
を見てもらえ、ブランディングや認知啓発に向いている。
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〈ネイティブ広告〉
(Facebook タイムラインより引用)
コンテンツの邪魔にならないように、コンテンツと広告が自然と融合した広告のことを
いう。例えば、図のような Facebook 上のタイムラインで他の人の投稿に混じって自然
に広告を挟みサイトに誘導する広告である。
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2.2 インターネット広告の歴史
インターネット広告は、1996 年 4 月、商用検索サイトとして知られていた「Yahoo!
JAPAN」の純広告の 1 つであるバナー広告が始まりである。同時期に、数行程度のテ
キストメール広告も開始され、ここから日本のインターネット広告の歴史がスタートした。
2002 年ごろからは、ディスプレイ広告ではなく最初に紹介したような検索連動型広告
が Google Adwords や現 Yahoo!リスティングが開始した。これらは、能動的で購買に直
結し、しかも少額予算から可能という特徴が、多くの広告主にとって大きなメリットとな
り、「最も優れた広告」と言われている。2008 年ごろからは、アドネットワークという「広告
配信ネットワーク」に“入札”という形態で広告配信することで、広告主は多数の Web
サイトに一括で広告を配信することが可能になった。しかし、ブランディングとしては意
図せず世間的にマイナスなイメージのサイトに勝手に掲載されたり、自社のターゲット
とは全く関係のないサイトに掲載される恐れがあるといった問題も生まれた。そのた
め、特定のサイトに広告を掲載しないようにする仕組みなども整備されていった。2011
年はアドテク普及年とされ、広告配信の新しい仕組みが登場してきた年でもある。
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2.3 インターネット広告の特徴
現在配信されているインターネット広告の特徴について述べる。
〈メリット〉
細かいターゲティングが可能
高いインタラクティブ性
費用対効果が可視化できる
広告主の都合で広告配信が可能
手軽に予算に合わせた広告掲載ができる
〈デメリット〉
インターネットの広告は競合が多い
運用型広告には手間と知識が必要である
アドフラウドという不正アクセスによる詐欺が横行
配信するサイトをうまく選ばないと自ブランドの毀損が起こる可能性
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2.4 インターネット広告の現状と市場規模
(引用 電通報 日本の広告費 より)
図は 2014 年からの広告の市場規模の推移である。この図から、ますこみ四媒体の
広告費がわずかに減少する中で、インターネット広告は前年比110%を超えるなど堅
調な推移を見せています。この要因を分析してみると、消費者側と広告主側の2つの
観点から考える。消費者側の観点では以下の図からわかるように、スマートフォンの大
幅な普及とともに広告費が急増していることから、個人レベルでも発信することができ、
テレビよりも手元で気軽に楽しめるコンテンツが急激に増えたためテレビからスマホへ
シフトしたことが考えられる。2つ目には、広告主側の態度の変化が見られると考えら
れる。今まで、広告を新聞やテレビに出稿しても実際に広告の効果を把握しづらい点
があった。一方、インターネット広告は効果測定が容易でかつ、テレビに比べ低額の
予算でも出稿できる点から企業のマーケティング部門でも受け入られ易くシフトしてい
ったと考えられる。
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(引用 総務省 各媒体普及率の推移)
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2.5 インターネット広告のイメージ調査
<オンラインメディア上の広告に対する意識>
(引用 オプト グローバー 「スマートデバイス時代の情報・広告意識調査」2014 年
11 月 22 日(金)~11 月 24 日(日))
スマートデバイスを利用する消費者へのネット広告の意識調査から、上の図の緑枠
を注目してほしい、「バナー広告をわずらわしいと思う」「実際よりもよい面だけを強
調している広告は不快だ」「何度も同じ広告が出てくると不快だ」「誤って広告を
クリックしてしまった経験がある」、「スマートフォン上の広告は邪魔なものが多い」
と感じている消費者が80%以上いるのだ。(そう思う、どちらかといえばそう思うの合計)
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第3章 仮説検証
仮説⑴
「コンテンツのユーザー体験を意図的に阻害するような広告の配置や見
せる仕組みのため。」
インターネット、特にスマートフォンでコンテンツを楽しんでいて広告が表示されると
きは、コンテンツを中断させるだけでなく無理やりクリックをさせるようなあざとさが目に
見えてどうしても嫌になってしまう経験が多い。これは、広告の表示の仕方に問題があ
るのではないかと考えた。
検証⑴
これを検証する上で、まず下の図を注目すると、ほとんどの項目で広告に対する不
快なイメージが回答数を得ているが、緑枠で囲った全体で 2 位の回答数を得た約
31%の人々は広告の内容次第で内容を見るという意見もあった。
〈インターネット広告についての考え方〉
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(引用 「MyVoice」のアンケートモニター)
さらに掘り下げて不快に感じるものについて見ていくと、以下のアンケート結果を得
た。以下の項目からは不快な感情を生んでいるものに共通するのは、やはり自分が楽
しもうとするコンテンツを邪魔しているものは、消費者にとって異物感を感じ不快な感
情を生んでしまうのだ。
〈インターネット広告で不快に感じるもの〉
(引用 「MyVoice」のアンケートモニター)
考察⑴
以上のことから、ネット広告は基本的にクリックを稼ぐためにコンテンツを邪魔するよう
な配信方法がとられ、それによってコンテンツ体験を邪魔されたことで消費者は不快
に感じていることがわかった。また、基本的に不快ではあるが、広告次第では消費者
の目にとまり読まれるものだということもわかった。
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仮説⑵
「ネット広告が嫌われるのは消費者のインターネットとテレビへの接する態
度が違うため」
仮説⑴を検証する中でただ単に広告見せ方によるものだけで好き嫌いが決まって
いるとはどうしても納得感がなく、深く考える中で、テレビとインターネットの媒体に向か
う態度の違いがあるのではないかと考えた。というのもテレビは日本で普及し始めて 60
年、インターネットは 20 年とそれぞれの歴史があり、それぞれのあり方は私たちにとっ
て異なるものだと考えたためこれを検証していきたい。
検証⑵
(引用 ファストアスク モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査(2015 年 2 月度))
まずテレビの視聴態度について、調査結果からテレビを視聴する中で約 50 パーセ
ント(頻繁にする、時々するの合計)の視聴者が、ながらスマホをするという結果がわか
った。
さらに、1時間あたりの番組で何分スマホを閲覧しているのかも調査結果が出ている
ため下に紹介する。
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(引用 ファストアスク モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査(2015 年 2 月度))
このように、YouTube の動画メディアを 10 分以上閲覧するのに 30 パーセント、LINE
に関しては10分以上閲覧する人が約 50 パーセント存在する。1 時間あたりの CM 放
映時間が約8〜9 分であり、CM 中だからいじるだけでなく番組中であっても TV だけ
に集中するのではなくスマホのコンテンツを閲覧している。このことから、テレビが日本
に来た当初から一家団欒し、みんなで見るという役割に始まり、家に帰って暇つぶしに
とりあえずテレビをつけるという文化から、消費者が受動的にテレビに向かっていること
がわかる。
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一方、インターネットに関して、図のように、受動的にみるコンテンツは実際あるが、
気になるニュースの閲覧などインターネットでの検索が多く、基本的に利用する際は自
分でスマホやパソコンを開き自分が面白いと思うコンテンツを自分で探していくような
能動的な姿勢で画面に向かっていることがわかる。
考察⑵
以上のことから、テレビに比べインターネットの方が視聴者の態度が知りたい知ろうと
いう消費者の能動的な思いが強く、それに広告が邪魔をすることで不快感をうんでい
ることがわかった。
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第4章 結論と今後
4.1 結論
第3章の仮説検証を通して、根本的にテレビとインターネットという媒体への消費者
の向き合い方自体が異なることが分かった。ただ単にスマホの画面を覗いている人は
少ないだろう。テレビよりもインターネットに接するときのほうが、コンテンツを楽しみた
いという能動的な姿勢でいることがわかり、それをより妨害しているのがインターネット
広告である。
4.2 今後
インターネット広告に関わる人はこの媒体としての違いを自覚するべきだと思う。そし
てコンテンツを能動的に楽しみたいとする消費者の体験を邪魔しないような広告の配
置と、消費者の興味のある商材に関する広告を配信できるような広告配信技術の開発
を進めることで、コンテンツを楽しみたいという消費者と宣伝して購買に繋げたいという
広告主をうまく繋いだコンテンツとインターネット広告の共存が見えるのではないだろう
か。
さらに余談ではあるがファネルの考え方を持ち込むと、テレビを見ないデジタルネイ
ティブ世代にとってのネット広告が購入に特化しすぎているため、認知をする機会が
少なくなっている。これからのネット広告はただ単に購入につなげるだけでなく今まで
テレビ CM がになってきた認知のフェーズに踏み込むべきなのではないだろうか。
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5章 おわりに
ここまで卒論を書いて、世の中の疑問に仮説を立て検証していくことの難しさを再認
識し、論理の飛躍やデータ考察の甘さなど自分の至らなさに愕然とし反省しておりま
す。ある現象に対し自分でデータを集め考えて論理立てて説明することは社会人にな
ってもとても大切なことだと思います。これは常に意識し、生きていこうと思います。
そして網倉ゼミに対してですが、この2年間に関しては感謝しかございません。網倉
先生には、何が面白いのか常に投げかけられ、世の中の何事にも鵜呑みにせず疑い
自分で考える思考力を鍛える機会を多く提供していただき、大変勉強になりました。
最後に私をゼミに受け入れていただき様々なことを勉強させていただき、網倉先生、
後輩、同期、先輩方に深く感謝申し上げます。社会人になっても、OB として網倉ゼミ
に貢献できる堂々とした突破力のある社会人になって戻ってきたいと思っております。
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参考文献
徳久照彦、永松範之 ネット広告ハンドブック 日本能率協会マネジメントセンター
岸・田中・嶋村 現代広告論 第 3 版 有斐閣アルマ
フィリップコトラー コトラーのマーケティング 4.0 朝日新聞出版
マーク・ジェフリー データ・ドリブンマーケティング ダイヤモンド社
電通 ホームページ http://www.dentsu.co.jp/