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PMDA小児ワークショップ (2016. 11.28) テーマ2: 小児用医薬品の開発開始時期を考える 小児におけるバイオ医薬品等の開発 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生涯免疫難病学講座 雅亮

PMDA小児ワークショップ (2016. 11.28)PMDA 小児ワークショップ (2016. 11.28) テーマ 2: 小児用医薬品の開発開始時期を考える 小児におけるバイオ医薬品等の開発

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PMDA小児ワークショップ(2016. 11.28)

テーマ2: 小児用医薬品の開発開始時期を考える

小児におけるバイオ医薬品等の開発

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座

森 雅亮

小児リウマチを取り巻く状況 小児期・膠原病は、発病の機構が明らかでない、治療方法が未確立のリウマチ、希少な疾病、長期の療養を必要とする、の4要素を満たす難病である。

小児リウマチ領域では、これまで本邦で抗リウマチ薬3剤のバイオ医薬品(トシリズマブ、エタネルセプト、アダリムマブ)が承認されたことで、診療は大きく変貌し、“CARE”から“CURE”の時代が到来した。

炎症学、リウマチ学における診断技術の著しい向上により、炎症病態は早期診断・早期治療介入の原則さえ貫けば臓器障害を成人期まで持ち越すことなく良好な予後を期待できる。

それを可能にしたのは、バイオ医薬品の登場であったと断言しても過言ではない。

研究目的

小児におけるバイオ医薬品等の開発、承認および臨床現場への早期実用化を目指すために、本邦での小児リウマチ薬としてのバイオ医薬品の開発から承認までの現状把握を行い、現在での課題を可視化し、将来に向けての提案を行うこと。

難治性JIAの治療

1. 関節型JIA・治療反応例(73%):MAP療法

・難治例(27%) : トシリズマブ,エタネセプト

アダリムマブ

2. 全身型JIA・治療反応例(50%):NSAIDS, ステロイド

・難治例 → トシリズマブ

5

若年性特発性関節炎(JIA)を対象とする生物学的製剤

抗TNF製剤 抗IL-1製剤 抗IL-6製剤

一般名 エタネルセプト インフリキシマブ アダリムマブ アナキンラ トシリズマブ

製品名 エンブレル レミケード ヒュミラ キネレット アクテムラ

構造IgG1:Fc+p75

レセプター抗TNFヒト/マウス

キメラ抗体完全ヒト抗TNF

抗体IL-1レセプターアンタゴニスト

ヒト化抗IL-6レセプター抗体

RA米国 1998認可 1999認可 2002認可 2002認可 2012認可

日本 2005認可 2003認可 2008認可 予定なし 2008認可

JIA

米国 1999認可 治験中 2008認可 ̶ 2011認可

日本2009認可

(多関節型)- 2011認可 ̶ 2008認可

(全身型・多関節型)

トシリズマブ(アクテムラ®)

ヒト型抗IL-6受容体モノクローナル抗体

IL-6受容体へIL-6と競合的に結合

全身型JIA : 8mg/kg 静脈内投与 2週毎

承認済み、市販後調査も終了

多関節型JIA :8mg/kg 静脈内投与 4週毎

承認済み、市販後調査も終了

治験導入から認可まで

非臨床試験:薬理作用・毒性・薬物動態↓

臨床試験・健康成人:第1相成人での治験~安全性・薬物動態の確認

↓・患者(成人):第2相試験での有効性・用法用量の検討

↓・小児

① 患者への投与計画の発案↓

② 医薬品機構への治験相談↓

③ 製薬会社内IRBでの確定↓

④ 治験届の提出と承認↓

⑤ 本院施設IRBでの審査↓

治験開始↓

第2相試験

成人とともに承認

② 医薬品機構への治験相談 ↓③ 製薬会社内IRBでの確定

↓④ 治験届の提出と承認

↓⑤ 本院施設IRBでの審査

↓治験開始

↓第3相試験(二重盲検試験)

トシリズマブ小児治験の流れ

治験外使用: 5 例

第Ⅱ相治験: 11 例(短期・長期)

方法:open-label, dose-escalating第Ⅲ相治験: 56 例(短期・長期)

方法:open-label → double-blind, placebo-controlled

審査機構へ適応症の申請

→ 薬剤として認可(24ヶ月)

全身型JIAに対するトシリズマブの効果

体温

CRP

34

35

36

37

38

39

40

41

-20 -10 0 10 20 30 40 50Days Open Period

BT(℃

0

2

4

6

8

10

12

CR

P(m

g/dL)

0週 最終観察

N = 56

N = 56N = 52

N = 50 N = 56

2週 6週4週

第II相臨床試験

全身型JIAに対するトシリズマブの効果第Ⅲ相臨床試験

0%

50%

100%

0 6 0 6 12 0 6 12 18 24 30 36 42 48 WEEKS

JIA

70

tocilizumabplacebo

0%

50%

100%

JIA

30

OPEN BLIND EXTENSION

0%

50%

100%

JIA

50

withdrawn

6 w 12 w 48 w

0%

50%

100%

0 6 0 6 12 0 6 12 18 24 30 36 42 48 WEEKS

JIA

70

tocilizumabplacebo

0%

50%

100%

JIA

30

OPEN BLIND EXTENSION

0%

50%

100%

JIA

50

withdrawn

6 w 12 w 48 w

トシリズマブによる効果<QOL>

Before rhMRA treatment( B.H.107cm, B.W.23 kg)

18 months after rhMRA( B.H.125.2cm, B.W.34 kg)

トシリズマブの開発

12

日本

グローバル

1986年IL-6の遺伝子クローニング成功(大阪大学)

2005年4月

キャッスルマン病承認

2008年4月関節リウマチpJIA,sJIA承認

2013年3月皮下注製剤承認

2009年1月

欧州:関節リウマチ承認

2010年1月

米国:関節リウマチ承認

2013年10月米国:皮下注承認

pJIA: 多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎sJIA: 全身型若年性特発性関節炎

pJIA米国(2013年4月)欧州(2013年5月)

sJIA米国(2011年4月)欧州(2011年8月)

2014年4月EU:皮下注承認

本剤は本邦で開発されたバイオ医薬品で、世界に先駆けて、また成人(関節リウマチ[RA])と同時に承認を受けた稀な薬剤である。

海外(米国/EU)では本邦承認直後から第Ⅲ相試験が開始され3年後に承認を取得した。臨床の場で必要性が高い薬剤は、海外では承認までの期間が極めて短い印象をもった。

Department of Pediatrics Yokohama City University School of Medicine

エタネルセプト(エンブレル® )

腫瘍壊死因子(TNF)は可溶性TNF受容体に結合し、過剰TNFが細胞上のTNF受容体に結合し炎症反応を生じる。

このTNFと受容体との結合をブロックすることで炎症を抑える。

1週間の2回皮下注

TNF可溶性TNF受容体

エタネルセプト

TNF受容体

標的細胞

Department of Pediatrics Yokohama City University School of Medicine

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国内長期投与試験-有効性(JIA改善率)JIA30 JIA50 JIA70

0週評価 96.9% 93.8% 84.4%

12~120週 90.6%~100% 90.6%~100% 80.6%~96.4%

* 120週評価日までのいずれの時点においても高い有効性の維持が認められた

エタネルセプトの開発

15

日本

グローバル

1998年米国:RA承認

2009年JIA承認

2005年RA承認

2001年豪州:JIA承認

2003年カナダ:JIA承認

RA: 関節リウマチJIA: 若年性特発性関節炎

1999年米国:JIA承認

2000年

スイス・欧州:RA,JIA承認

2000年豪州:RA承認

2000年カナダ:RA承認

米国においてRAで承認取得後、7年後に本邦で承認。米国での若年性特発性関節炎(JIA)の承認は、RA承認後1年であったが、本邦においては4年6か月を要した。本邦でのJIAの承認は、米国での同疾患の承認から10年後となった。

アダリムマブ(ヒュミラ® )

アダリムマブはTNFαと結合し,標的細胞の受

容体との結合を阻害するとともに,膜結合型TNFαと結合し,細胞のアポトーシスを誘導する。

2週間の1回皮下注

ACR Pedi30反応率 2週 4週 8週 16週 24週

ヒュミラ®+MTX群(20例) 11(55.0) 12(60.0) 14(70.0) 18(90.0) 17(85.0)

ヒュミラ®単独群(5例) 4(80.0) 4(80.0) 5(100) 5(100) 4(80.0)

ヒュミラ®全例群(25例) 15(60.0) 16(64.0) 19(76.0) 23(92.0) 21(84.0)

0週 2週 4週 8週 16週 24週

0

20

40

60

80

100

ACR反応率

(%)

アダリムマブ全例群(25例)

92.0%

FAS(最大の解析対象集団)を対象に,NRI(欠測値はノンレスポンダーとして扱う)にて解析P-HUR1149ASG#7

国内臨床試験-有効性(ACR Pedi30反応率)投与2週後60%を示し,投与16週後において92.0%を示した.

アダリムマブの開発

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日本

グローバル

2002年米国:RA承認

2012年UC/IBD承認

2008年Ps/PsA承認

2008年米国:JIA承認

2012年欧州:UC承認

RA: 関節リウマチ、PsA: 乾癬性関節炎、AS: 強直性脊椎炎JIA: 若年性特発性関節炎、CD: クローン病、UC: 潰瘍性大腸炎、IBD: 炎症性腸疾患

2005年欧州:PsA,RA関節破壊承認

2006年欧州:AS承認

2007年米国:CD承認

2007年欧州:Ps承認

2005年RA承認

2009年CD承認

2010年JIA承認

2011年RA関節破壊承認

米国で世界初のRA承認が取れた後、様々な類縁疾患に同時期に開発が進められたためか、JIA承認まで6年の月日を費やした。

米国承認から本邦承認まではRAが3年、JIAは2年と極めて短期間で取得している。また本邦では、申請から承認まで1年と諸外国と比べて遜色ない短期間での承認であった。

開発から承認までの「ドラッグ・ラグ」の検討-1

エタネルセプトとアダリムマブはいずれも海外で開発・承認され、後追いで本邦の臨床治験により承認に漕ぎ着けたバイオ医薬品であるが、海外との承認までの期間、あるいは申請から承認までの期間に大きな差異がみられた。

2011年は「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」の最終年度にあたり、当初設定されていた審査期間の目標値(中央値)の通常審査品目12か月(行政側9か月、申請者側3か月)、優先審査品目9か月(行政側6か月、申請者側3か月)を達成するため、様々な取り組みがされた年であった。 2011年の臨床開発期間の中央値は42.2か月(3.5年)、審査期間の中央値は10.1ヵ月(0.8年)であり、審査期間では2010年に比べ4.7か月短縮され、2000年の調査以来最も短い期間であったと報告されている。

検討の結果、以前と比較してPMDAが治験準備および承認に費やしている審査期間は明らかに短縮していることが判明した。

このことより、開発から承認までの律速段階は、小児ではむしろ治験開始から終了までの治験自体の施行期間であることが推測された。

今後のバイオ医薬品開発の推進に必要な点として、治験施行期間を短縮する「レジストリ」、「センター化」、「国際連携」が早期実用化の3つのキーワードであろう。

開発から承認までの「ドラッグ・ラグ」の検討-2

小児におけるバイオ医薬品等の開発に関する提言-1

1.「レジストリ(登録制度)」の確立 -1)• 日本小児リウマチ学会のレジストリの体制が漸く稼働する。その制度はPediatric Rheumatology International Collaboration Unit REgistry と命名され、略して“PRICURE” と呼称された。

• 今後1~2年間を登録期間とし、日本国内の小児および成人移行期のリウマチ性患者全登録を成就させ、国際登録制度への参入を図る予定にある。

• 世界に匹敵しうる整備された小児リウマチのレジストリ制度を確立するためには、そのソースとなる永続的かつ潤沢な資金調達が不可欠である。

1.「レジストリ(登録制度)」の確立 -2)• 小児リウマチの国際レジストリは、欧州と北米に存在するが、運営はNGO:non-government organization (NPO:non-profit organization)であり、明らかな政府からの直接援助は受けていない。

• しかし、NIHなどの公的機関や基金との関わりはあり、congressにFDAが召喚されていたりEMAの主宰するネットワークとの関連を保持したりして、「患者保護者の会」と共同し公共性を保ちながら運営している。

• CARRAにおいては、その資金を大手製薬会社7社の組織が公然と支援している。

小児におけるバイオ医薬品等の開発に関する提言-2

症例登録 新規入力画面

JIA登録-1

JIA登録-2

2.「センター化」の実現 -1)• Pediatric Rheumatology International Trials

Organization (PRINTO)は1996年にAlberto MartiniとNicolino Rupertoの個人的な資金調達から始まった小さな組織であったが、その後EU諸国を中心とした各国の政府が援助する国際間ネットワークへと発展し、2014年には59か国、490センター施設から1,189名のメンバーによって構成。

・ The Childhood Arthritis and Rheumatology Research alliance (CARRA)は425名以上の小児リウマチ医や研究者からなり、より良い小児リウマチ性疾患治療を目指して協力している北米の組織である。

小児におけるバイオ医薬品等の開発に関する提言-3

2.「センター化」の実現 -2)・ 臨床試験を行う際に、小児リウマチ性疾患のレジストリデータから、症例を多く有する基幹・中核施設が臨床試験の「センター」としての役割を担い強固に連携することで、円滑に臨床試験を推進することが可能となる。

・ 日本で推進を図るためには、PRINTOやCARRAのようにNPO化を実現するか、国が公認および何らかの資金調達に関わっていただけるようなシステム構築が必要。

・「センター化」に協力していただける施設には、何らかのインセンティブを付与することも重要。

小児におけるバイオ医薬品等の開発に関する提言-4

3.「国際連携」がもたらす恩恵~国際共同治験への参画-1)• PRINTOとCARRAは連携して世界規模の小児リウマチの共同レジストリを構築する計画に3年前から従事しており、2年後の完成を見込んでいる。

• 欧州と米国が世界規模のレジストリ構築に大きく乗り出している現状を鑑み、日本ではこの2年間に国内のレジストリを完成させ、かつ国際共同レジストリへ確実に参画していかなければ世界の波から完全に乗り遅れる。

• この計画に首尾よく参画できれば、国際共同治験への積極的な参加の道が開かれている。

小児におけるバイオ医薬品等の開発に関する提言-5

3.「国際連携」がもたらす恩恵~国際共同治験への参画 -2)• 成人と小児との、また諸外国と日本との開発・承認の時間的差異を解消するには、国際共同治験への参画とその治験による世界同時承認を目指すことが最も現実的かつ有効な手段である。

• 欧米で症例が十分に集まらないため本邦に治験参加を打診された、いわゆる「おこぼれ」枠としての参画が現状の姿であり、今後「レジストリ」、「センター化」が整備されないと、振り分けられた治験エントリーの担当数が埋まらずに「国際連携」の機会を逸し、国際共同治験を放棄せざるを得ない事態に直面する虞も十分ありうる。

小児におけるバイオ医薬品等の開発に関する提言-6

総 括I. 治験自体の施行期間を短縮するためには、小児リウマチ学

会が設立した登録制度「PRICURE」が「世界規模レジストリシステムの起動」までに完成することが不可欠であり、その産物を有してPRINTOやCARRA等の国際間ネットワークへの参画を綿密に企てることによって、日本枠を確実に確保できる国際共同治験を目指すことが肝要である。

II. 引き続き国際共同治験が進みきれない場合、その理由が他に存在しないかを綿密に探り、複数の国内成人での取り組みを参考に軌道修正を図っていくことも大きな課題である。

III.上記の取り組み施策が普遍的に成就した際には、小児他領域への医薬品承認に応用できないかを日本小児科学会およびその分科会に提案し、その方策を講じていく必要もある。