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応用力学研究所研究集会報告 No.18ME-S5 非線形波動現象における基礎理論,数値計算および実験のクロスオーバー(研究代表者 西成 活裕) Reports of RIAM Symposium No.18ME-S5 Crossover among theoretical, numerical and experimental studies on nonlinear waves Proceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy, Kasuga, Fukuoka, Japan, November 6 - 8, 2006 Research Institute for Applied Mechanics Kyushu University May, 2007 Article No. 32 超離散 QRT 系の性質と拡張 Newton 多角形の形状との対応 坂元琢治 (SAKAMOTO Takuji) Received February 28, 2007

QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

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応用力学研究所研究集会報告No.18ME-S5

「非線形波動現象における基礎理論,数値計算および実験のクロスオーバー」

(研究代表者 西成 活裕)

Reports of RIAM Symposium No.18ME-S5

Crossover among theoretical, numerical and experimental studies on nonlinear waves

Proceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy,Kasuga, Fukuoka, Japan, November 6 - 8, 2006

Research Institute for Applied Mechanics

Kyushu University

May, 2007

Article No. 32

超離散QRT系の性質と拡張Newton

多角形の形状との対応

坂元琢治 (SAKAMOTO Takuji)

(Received February 28, 2007)

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 超離散QRT系の性質と拡張Newton多角形の形状との対応

東京大学大学院総合文化研究科M2 坂元琢治† (SAKAMOTO Takuji)

概要

超離散QRT系の保存量を (tropical幾何学の意味で)逆 tropical化してできる拡張Newton

多角形を形状により分類した. その上で, 超離散 QRT系の性質をその拡張 Newton多角形の

形状との対応を利用して調べた. 更に拡張 Newton多角形の形状をもとに, 任意保存量での周

期に対する明示公式の予想も得た.

1 準備

1.1 tropical hypersurface と拡張 Newton多角形

1.1.1 tropical hypersurface

定義 1.1. tropical半環 (R ∪{−∞},⊕,⊙)による tropical多項式を

F (x) =⊕n∈Zk

an ⊙ xn := maxn∈Zk

(⟨n, x⟩ + an)  (1)

を Rk 上の区分線形関数と定義する.

区分線形の式を生成する操作を tropical化と呼ぶ∗1.

この定義の中の ⊕, ⊙を単純にそれぞれ +, ×であると考え, tropical化する前の多項式を “ ”で

囲んで表記する∗2. すると, tropical化という操作は大雑把に言うと, +を max, ×を +にする操

作であると言える. そのような意味では, ほぼ超離散化と同様の操作であるが, 係数に対する部分

が違う∗3. また, tropical化は可逆操作であり, tropical化の逆操作を逆 tropical化と呼ぶことにす

る. 以降, 区分線形関数 F を逆 tropical化してできた多項式を FQ と書くことにする.

定義 1.2. tropical 多項式が定める Rk 上の区分線形関数 F で微分不可能な点の集合 TF を F の

定める tropical hypersurfaceを定義する [7].

† E-mail: [email protected]∗1 tropical幾何学の世界では, 「tropical化」という用語が, tropical combinatoricsの世界 [2]とは正反対の意味で定義されている.

∗2 この記法を使うと (1)は, n ∈ Zの場合,

“X

n

anxn” := maxn

(nx + an)

と書ける.∗3 この係数の扱いの違いのおかげで, tropical 化は係数の値が負や 0 であってもできる. ただし, 多項式の計算には多少の注意が必要である. その注意の詳細は省略するが, 今回は逆 tropical化してできた多項式は単なる文字列であると考えることにすれば十分である.

1

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1.1.2 Newton多角形と拡張 Newton多角形

まず, Newton多角形を定義する.

定義 1.3. 与えられた多項式m = αxt11 xt2

2 · · ·xtd

d に対して, その次数を

deg(m) :=

t1...td

∈ MR ≃ Rd (2)

と定義する.

定義 1.4. αi ∈ Rと多項式mi で与えられる d変数の多項式

f =∑

i

αimi ∈ R[x1, · · · , xd] (3)

に対して, その Newton多角形を

¤(f) := conv(∪

i

deg(mi))

(4)

という実空間MR ≃ Rd での凸包と定義する∗4.

次に拡張 Newton多角形を定義する.

定義 1.5. 与えられた多項式m = αxt11 xt2

2 · · ·xtd

d (a ∈ R)に対して, その係数付き次数を

deg′(m) :=

t1...tdα

∈ MR ⊗ R ≃ Rd+1 (6)

と定義する.

定義 1.6. ai ∈ Rと多項式mi で与えられる d変数の多項式

f =∑

i

αimi ∈ R[x1, · · · , xd] (7)

に対して,¤(f) := conv

(∪i

deg′(mi))

(8)

∗4 ただし,

conv(K) :=\

{K′ ⊆ Rd : K ⊆ K′, K′は凸集合 } (5)

とする.

2

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という実空間MR ≃ Rd+1 での凸包を考える. ここで付け加えた Rの正方向からの射影

π : MR ⊗ R −→ MR

に対して, π(¤(f)

)を拡張 Newton多角形と定義する.

例 1.7. f = x2 + y2 + 2xy + 2x + 2y + 1のときの ¤(f)と π(¤(f)

)を描く. まず, 三次元空間で

(2, 0, 1), (0, 2, 1), (1, 1, 2), (1, 0, 2), (0, 1, 2), (0, 0, 1)によってできる凸多面体 ¤(f)を書き, それを

z軸の正の方向から見ると π(¤(f)

)が得られる (図 1参照). 

図 1: f = x2 + y2 + 2xy + 2x + 2y + 1の ˜ (f)(左)と π`

˜ (f)´

例 1.8. f = x2 + y2 + 2xy + 6x + 2y + 1のときの ¤(f)と π(¤(f)

)を書くと図 2 のようになる.

例 1.7と比べると係数の効果が図形に顕著に表れているのが分かる.

図 2: f = x2 + y2 + 2xy + 6x + 2y + 1の ˜ (f)(左)と π`

˜ (f)´

1.1.3 tropical hypersurface と拡張 Newton多角形

命題 1.9. TF は π(¤(FQ)

)の各辺との対応する部位を持ち,対応するもの同士は直交する [7].

例 1.10. F = max(−X − Y, 2 − X, 2 − Y, X − Y, −X + Y, X, Y )のとき,

F = “ FQ ” = “ 0X−1Y −1 + 2X−1 + 2Y −1 + 0XY −1 + 0X−1Y + 0X + 0Y ”

となり,これより π(¤(FQ)

)を描くことができる. π

(¤(FQ)

)と TF は図 3となった.

3

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-

6rrr rr

rr@@

@@

��

��

��

図 3: 例 1.10のときの π`

˜ (FQ)´

(左)と TF (右)

1.2 消去演算子

定義 1.11. 消去演算子 D0, D∞, D1, D を定義する.

D0: y = 0 (−1 ≤ x ≤ 1)があるとき, それを消去する.

D∞: x = 0 (−1 ≤ y ≤ 1)があるとき, それを消去する.

D±1: y = ±x (−1 ≤ x ≤ 1)があるとき, それを消去する.

D := D0 · D∞ · D1 · D−1

-

6rrr rrr

-D0

D−10

¾ -

6rrr rrr

図 4: D0と D−10

1.3 超離散 QRT系

{Xn+1 = −Xn + max(2Yn + κ, Yn + λ, µ) − max(2Yn + α, Yn + β, γ)Yn+1 = −Yn + max(2Xn+1 + γ, Xn+1 + ζ, µ) − max(2Xn+1 + α, Xn+1 + δ, κ)

(9)

上の 8個のパラメータを含んだ区分線形写像族は超離散 QRT系と呼ばれている. この写像には以

下の保存量が存在している.

H = max(α + X + Y, β + X, γ + X − Y, δ + Y, ζ − Y, κ−X + Y, λ−X, µ−X − Y ) (10)

また, これは差分方程式族の QRT系 [5]のパラメータを適当に落として超離散化することにより

4

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得られる [4]. この写像は以下のように変形できる.

Xn+1 = Xn + max(κ − Xn + Yn, λ − Xn, µ − Xn − Yn)

− max(α + Xn + Yn, β + Xn, γ + Xn − Yn)

= Xn + An,n − Bn,n (11)

となる∗5.同様にして,

Yn+1 = Yn + max(γ + Xn+1 − Yn, ζ − Yn, µ − Xn+1 − Yn)

− max(α + Xn+1 + Yn, δ + Yn, κ − Xn+1 + Yn)

= Yn + Cn+1,n − Dn+1,n (12)

となる∗6. また,H = Hn,n = max(An,n, Bn,n, Cn,n, Dn,n) (13)

となる∗7. また, [5]より Hn+1,n = Hn,n となることが知られている.

-

6rrr rr

rrrαβ

γ

δ

ζ

κ

λ

µ

A B

C

D

図 5: A, B, C, D のMR 上での対応

2 分類結果一覧

超離散 QRT 系の保存量からつくられる拡張 Newton 多角形を全て書き下した∗8[6]. 主に

tropical hypersurfaceが相図上で表している対象を考え, 拡張 Newton多角形の形をもとに 4つの

系に分類した.

ここで, 超離散 QRT 系に含まれる保存量 H に対して, その写像を P(H) と書くことにする. 以

下, 拡張 Newton多角形の形状で分類したものについて写像の性質を述べる.

∗5 An,m := max(κ − Xn + Ym, λ − Xn, µ − Xn − Ym)

Bn,m := max(α + Xn + Ym, β + Xn, γ + Xn − Ym)∗6 Cn,m := max(γ + Xn − Ym, ζ − Ym, µ − Xn − Ym)

Dn,m := max(α + Xn + Ym, δ + Ym, κ − Xn + Ym)∗7 Hn,m := max(An,m, Bn,m, Cn,m, Dn,m)∗8 ただし, 回転や対称などの操作によって一致するものは一つとして数えた.

5

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系 tropical hypersurfaceが表す対象

一様系 積分曲線が描く多角形の頂点の軌跡

擬一様系 積分曲線が描く多角形の頂点の軌跡無限非擬一様系 積分曲線が描く多角形の頂点の軌跡

and保存量が最小値をとるときの積分曲線そのもの

有限非擬一様系 積分曲線が描く多角形の頂点の軌跡and

保存量が最小値をとるときの積分曲線そのもの

表 1: tropical hypersurfaceが相図上で表す対象

2.1 一様系

定義 2.1. π(¤(HQ)

)= D

(¤(HQ)

)∗9となる系を一様系と定義する.

この系に属する拡張 Newton 多角形の一覧は付録 B.1 に示す. また, 一様系に含まれるものは,

拡張 Newton多角形を描くときに出てくる射影する前の図形が, 3次元上に浮かぶ一平面になって

いる. したがって, 明らかに次の補題が分かる.

補題 2.2. 一様系の場合, 独立な意味を持つパラメータ∗10の個数は最大で 3個である.

ちなみに, この系は変数変換により, 意味を持つパラメータの値を全て 0と置いたものに変形で

きる. このときの (X, Y )を (X, Y )とし, H を H と書くことにする. この (X, Y )による写像を

一様系の基本写像, H を基本保存量とそれぞれ呼ぶことにする∗11.

例 2.3. 5D のタイプとなるものを考える. 5D の一般系は以下のように書くことができる.

H = max(X + Y + α, X + β,−Y − 2α + 2β + δ, −X − Y − 3α + 2β + 2δ)Xn+1 = −Xn − 3α + 2β + 2δ − max(2Yn + α, Yn + β)Yn+1 = −Yn + max(Xn+1 − 2α + 2β + δ, −3α + 2β + 2δ)

−max(2Xn+1 + α, Xn+1 + δ)

∗9 拡張 Newton 多角形が外枠だけでできていて, 図形の中に線分が入っていない図形であり, 外枠の多角形を形成する線分が原点を通らないということである.

∗10 「意味を持つ」パラメータというのは, max の値として実現される可能性のある項に含まれているパラメータのことをいう. すなわち, F = max(X + Y + α, X + β, X − Y + γ) を考えると, 適当な (X, Y ) について

F = X + Y + α, F = −X + Y + γ となることはあるが, β <α + γ

2という条件を課すと F = X + β となる

(X, Y )は存在しなくなる. このとき, α, γ は「意味を持つ」パラメータであり, 逆に β は「意味を持たない」パラメータである.

∗11 他の系でも基本写像を (X, Y )の発展則, 基本保存量を H と呼ぶことにする.

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この写像について, (X, Y ) = (X − α, Y − α + β)という変換を施すと, 写像は,Xn+1 = −Xn − max(2Yn, Yn)Yn+1 = −Yn + max(Xn+1, 0) − max(2Xn+1, Xn+1)

= −Yn − Xn+1

となる. また保存量については,

H = max(X + Y , X, Y , −Y , −X − Y ) − α + β + δ

= H − α + β + δ

となる. このように基本写像, 基本保存量に変形できるので, それらについてのみ考えるだけで十分

であることがわかる.

定理 2.4. 一様系は固定点の 1点∗12を除いて, 全ての初期値に対して同一周期になる.

周期数をまとめると表 2のようになる.

一様系のタイプ T 周期数3A, 4A, 4B , 5A 2

3B , 4C , 6A 3

4D, 4E 4

5B 5

4F , 5C , 5D 7

4G 8

表 2: 一様系のタイプ Tと周期数

この系は, [3]で調べられた系である. また, この系は線形と極めて近い系であるので, [1]でされた

ように基本写像の解を 2つの独立な特殊解の重ねあわせとして一般解を書くことができる∗13.

2.2 擬一様系

定義 2.5. 非一様系で D(π(¤(HQ)

))= π

(¤(HQ)

)∗14となる系を擬一様系と定義する.

一様系以外の系の性質を考えるために局所保存量と局所写像を定義する.

定義 2.6. ある写像の区分線形の保存量 H を考える. An−1 ≤ H ≤ An のとき, H m Hn−1,

H m Hn∗15となるように, 関数列 {Hn}1≤n≤N = {Hn

∣∣ n = m ⇒ Hn m Hm} とある実数列

∗12 基本写像の相図上の原点が固定点となる.∗13 特殊解といっても, 完全に自由には選ぶことはできない. H = 1の積分曲線上の格子点を初期値とする特殊解を用いて一般解を構成する.

∗14 Newton多角形の中に線分があるが, その内部, 外部のどの線分も原点を通っていない図形である.∗15 mとは, maxの項の成分が全て一致するときに使う. すなわち,

max(X + Y, X + 2, Y + 1) m max(Y + 1, X + Y, X + 2)

7

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{An}0≤n≤N = {An

∣∣ Hmin = A0 < A1 < A2 < · · · < AN = +∞} を N が最大になるようにと

る. 更に Hn は H に含まれる項のみを使って記述する. そのとき, 第 n 局所保存量 H(n) と定義

する. また, An−1 ≤ H ≤ An のときの P(H)の写像を第 n局所写像 P(n)(H)と定義する. また,

H = A0 = Hmin を第 0局所保存量 H(0), そのときの写像を第 0局所写像 P(0)(H)と定義する.

例 2.7.

H = max(X + Y + 2, X − Y, −Y + 2, −X + 2){Xn+1 = −Xn + Yn − 2max(Yn, −1)Yn+1 = −Yn + max(−2, −Xn+1)

このとき, 相図を描くと, 図 6になる. したがって, H ≤ 3のときはH = X − Y とはならないので

第 1局所保存量 H(1) = max(X + Y,−Y,−X)となる. また第 1局所写像はXn+1 = −Xn − Yn

Yn+1 = −Yn − Xn+1

= Xn

となる.

-

6

-

6

rr

rr

rr r@

@@

@@

@@

@�

図 6: 例 2.7の積分曲線 (H = 3, 4)

注意 2.8. H(N) m H となることは定義より明らかである.

第 1局所保存量は拡張 Newton多角形に現れて, それから明らかに分かる∗16.

定理 2.9. 擬一様系の場合, Q ⊃ (0, 0)で拡張 Newton多角形の辺や内部の線分から作られる図形

Qの集合に対してQmin :=

∩Q⊂MR

Q

とすると, Qmin = ¤({Hh}Q)となる一様系の保存量 Hh が必ず存在することは明らかである. こ

のとき, H に含まれる項を使って書ける Hh が唯一つあり, H(1) = Hh となる.

であり,max(X + Y, X + 2, Y + 1) m max(Y + 1, X + Y, X + 2, X − Y )

となる.∗16 第 2局所保存量以降は拡張 Newton多角形だけでは, 候補となるものは分かるが, 完全に確定することはできない.

8

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例 2.10.H = max(X + Y + 2, X − Y, −Y + 2, −X + 2)

を考える. 図 7より, Qmin の形は 3B タイプである. したがって, 局所写像は

H(1) = max(X + Y + 2, −Y + 2, −X + 2)

となる.

-

6

-

6

r r rr r r

r@

@

����

����

@@�

���

����

図 7: 例 2.10の π`

˜ (HQ)´

と Qmin

補題 2.11. H(1) m Hh となるとき, P(1)(H) m P(Hh)となる.

定理 2.12. Qmin = ¤({Hh}Q)となる Hh とすると, 固定点に近い初期値では P(H)は P(Hh)と

同じ周期になる.

上の補題と定理は以下のように証明される.

証明. (11), (12), (13)の式から, 保存量の中の項と写像の中の項とは対応がある. ある値 Aに対し

て H ≤ Aで H(1) m Hh なので, 第 1局所写像 P(1)(H)と P(Hh)の写像の中の max の候補とし

てなる項, すなわち (11), (12)の A, B, C, Dの中身が完全に一致する. よって, P(1)(H) m P(Hh)

となる. よって, H ≤ Aのとき P(Hh)と同一周期になる.

注意 2.13. 補題 2.11を一般化して,

H(n) m H ′となるとき,P(n)(H) m P(H ′)となる

という命題も, 上と同様に証明できる.

事実 2.14. 擬一様系の場合, ある値より保存量の値が大きいとき∗17は初期値 (保存量の値)によっ

て, 周期が変わる∗18.

擬一様系の基本写像は第 1局所写像が一様系の基本写像となる写像とする. 第 2局所写像以降に

含まれるパラメータの値は特に問わないことにする∗19.

∗17 P(H) m P(n)(H) (n ≥ 2)となっているとき.∗18 値によっては, 無限周期になるようなものもある.∗19 第 2局所写像以降のパラメータの値まで決めて一般性を保つことは不可能である.

9

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2.3 無限非擬一様系

定義 2.15. D(¤(HQ)

)= ¤(HQ)∗20∗21のとき無限非擬一様系と定義する.

事実 2.16. この系は積分曲線を描いても, 閉曲線ができない.

事実 2.17. 保存量の最小値 Hmin 以外の保存量の値∗22のとき, 常に無限周期になっていることが

数値実験により確かめられる.

2.4 有限非擬一様系

定義 2.18. 今までの系に属さないものを有限非擬一様系と定義する. これは, 一様系や擬一様系の

拡張 Newton多角形 Tに対して, D−1(T)という形になっている.

擬一様系のように局所保存量と局所写像を考える.

定理 2.19. 第 0局所写像は D−1∞ (T)や D−1

0 (T)の場合は, 固定点 1点∗23を除いて, 2周期となる.

D−1±1(T)の場合は全て 1周期となる.

事実 2.20. 一様系のように常に一定周期になるもの∗24もあれば, 初期値によって変わるものも

ある.

また, 有限非擬一様系の第 1局所写像の基本保存量, 基本写像は以下のように決定する.

1. π(¤(HQ)

)\D

(π(¤(HQ)

))で得られる直線の端点にくる点のパラメータの値は 0とする.

2. D−1∞ (T)と D−1

0 (T)となっているものは, 上に該当しない点で意味をもつパラメータの値は

−1とする.

3. D−11 (T) となっているものは, γ, κ が意味を持つパラメータになっていれば −2, 他のパラ

メータが意味をもつパラメータであれば, −1 とする. D−1−1(T) については D−1

1 (T) タイプ

をMR 上でπ

2回転した状態を考えてパラメータをとることにする.

全ての有限非擬一様系のものについて, 第 1局所写像については基本写像に変形できることが可能

であることが実際の計算により示される.

∗20 Newton多角形が原点を通っている図形である.∗21 D を D±1 にしてもいい. なぜなら, D0

`

˜(HQ)´

= ˜(HQ), D∞`

˜(HQ)´

= ˜(HQ) が超離散 QRT 系では成り立つからである.

∗22 ちなみに最小値のときの写像, すなわち第 0局所写像は全て 1周期になっている.∗23 基本写像の相図上の原点が固定点になっている.∗24 D−1

∞ (3A), D−1∞ (4A), D−1

∞ (4B), D−1∞ (5A), D−1

0 (5A) と拡張 Newton 多角形がなるもの. ただし, D−10 (4A)

は D−1∞ (4A)を π

2回転したものになるので前述したように省略する. また, D−1

∞ (4A)と D−1∞ (4B)は一様系の 4A

と 4B と同じ写像になり, D−10 (5A)は一様系の 5A と同じ写像になっている. しかし, D−1

∞ (3A)とD−1∞ (5A)は同

じ写像になるが, 一様系と同一のものはない. 更に, 有限非擬一様系に含まれる常に一定周期の系の周期は, 全て 2周期になっている.

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例 2.21. D−1∞ (5D)について考える. このタイプの保存量と写像は

H = max(X + Y + α, X + β, Y + δ, −Y − 2α + 2β + δ, −X − Y + µ){Xn+1 = −Xn + µ − max(2Yn + α, Yn + β)Yn+1 = −Yn + max(Xn+1 − 2α + 2β + δ, µ) − max(2Xn+1 + α, Xn+1 + δ)

と書ける. ただし, µ < −3α + 2β + 2δ とする. (X, Y ) = (X +α − 2β + µ

2, Y − α + β)という

変数変換を施すと, 写像はXn+1 = −Xn − max(2Yn, Yn)

Yn+1 = −Yn + max(Xn+1,3α − 2β − 2δ + µ

2)

−max(2Xn+1 +3α − 2β − 2δ + µ

2, Xn+1)

となり, 保存量は

H = max(X + Y +3α − 2β − 2δ + µ

2, X +

3α − 2β − 2δ + µ

2, Y , −Y ,

− X − Y +3α − 2β − 2δ + µ

2) − α + β + δ

= H − α + β + δ

ここで条件より,−3α + 2β + 2δ − µ

2> 0より

−3α + 2β + 2δ − µ

2= 1として十分である. これ

らの操作より基本写像に変換することができる∗25.

擬一様系同様に第 1局所写像を基本写像とするようにしたもので, 他のパラメータについての状

態については特に問わない∗26.

3 周期の明示公式予想

以下, 写像の移り変わりを具体的に考え, 事実 2.14や事実 2.20での周期の違いに対する答えと

して周期の明示公式の予想をする.

3.1 相対的長さ

定義 3.1. ai ∈ R とする. 基本保存量の積分曲線について, X = a1, Y = a2 となる部分は長さ

をそれぞれ 1 倍, Y = X + a3, Y = −X + a4 となる部分はそれぞれ 1/√

2 倍する. ある拡張

∗25 ちなみに, 正確には

H =−3α + 2β + 2δ − µ

2H − α + β + δ (I)

というような, H と H の間の関係式が成り立つ. このような関係式は, 有限非擬一様系に含まれる系の全ての第 1

局所写像のタイプについて全て求めている [6].∗26 擬一様系と同様に第 2局所写像以降に含まれるパラメータの値を決定すると一般性が崩れてしまう.

11

Page 13: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

Newton多角形 Tの基本保存量の値 A ∈ R>0 についてのそれらの和を相対的長さRL(H = A)と

定義する.

注意 3.2. 基本保存量に含まれるパラメータの値が全て整数で, 基本保存量の値 Aが整数であれば,

相対的長さRL(H = A) は積分曲線上の格子点の数を表している.

一様系の基本保存量における相対的長さは表 3のようになる.

一様系のタイプ Th 相対的長さRLTh(H = A)4B 4A

5B 5A

4C , 5A, 6A 6A

4F , 5C , 5D 7A

3A, 4A, 4D, 4E , 4G 8A

3B 9A

表 3: 一様系のタイプと積分曲線の相対的長さRLTh(A)

定理 3.3. 基本保存量について, 一様系のタイプ Th について, D−1(Th)が存在するならば,

RLD−1(Th) = RLTh + 4 (14)

が成り立つ.

以上より, 擬一様系および有限非擬一様系の第 1局所保存量の相対的長さは求まった. これから

一般の場合の相対的長さを定式化できる.

命題 3.4. 一般に拡張 Newton多角形のタイプ Tの H(T) = A ∈ R>0 の相対的長さは,

RL(H = A) = mini

(RL(H(1) = A) −

i∑j=1

RLT′j(A − Aj)

)(15)

と表記される. Aj は tropical hypersurface の固定点以外の分岐点の保存量の値とする. ただし,

T′j は π

(¤(H(j)

Q ))\π

(¤(H(j−1)

Q ))となる図形のタイプであり, 種類としては, 図 8の 2通りを考え

るだけで十分であり, それぞれのタイプについて,

RLT′α(x) = RLT′

β(x) = x (16)

で与えられる.

12

Page 14: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

-

6

-

6

rrr

rr

rrr

rrr

rr

rrr

��

����

��

図 8: T′α(左)と T′

β(右)

以下, この式の使用した例を述べる.

例 3.5.H = H = max(X + Y, X − Y, Y, −X + Y − 3, −X, −X − Y )

について考える. 5B ∪ 4B∗27である. 図 9より拡張 Newton多角形は 5B ∪ 4B は 5B に T′

α を付け

た図形になっている. 明らかに, RL(H(1) = A) = 5Aで与えられる.

-

6

rrr r

rr

��

図 9: 5B ∪ 4B の拡張 Newton多角形

また A1 = 3となるので, 命題 3.4より

RL(H = A) = min(4A, 4A − (A − 3)

)= min(4A, 3A + 3)

となる.

また, ここで出てくる A1 = 3の値は tropical hypersurface にある分岐点の座標から求められる.

図 10のように, 第 0局所保存量上にない分岐点は (−3, 3)である. したがって (−3, 3)を H に代

入すると,max(−3 + 3, −3 − 3, 3, 3 + 3 − 3, 3, 3 − 3) = 3

となるので A1 = 3であると分かる∗28.

局所保存量として, 第 2局所保存量以上を考える場合もある.

∗27 名前の付け方については付録を参照.∗28 更に言えば, tropical hypersurfaceをよく見ると, (−3, 3)という点は, H = Y , H = −X, H = −X + Y − 3となる領域が重なっている点なので, その 3つの式のいずれかに (−3, 3)を代入するだけでよい.

13

Page 15: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

@@

Y = 3

X = −3

Y = 0

X = 0

図 10: 例 3.5の tropical hypersurface

例 3.6.

H = H = max(X + Y, X, X − Y − 2, Y, −Y, −X + Y − 1, −X, −X − Y )

について考える. このとき, 6A ∪ 4B であるので第 1局所保存量は 6A であり, RL(H(1)) = 6Aと

なる. また, A1 = 1, A2 = 2と分かるので, 命題 3.4より

-

6

rrr

rr

rrr

��

��

図 11: 6A ∪ 4B の拡張 Newton多角形

RL(H = A) = min(6A, 6A − (A − 1), 6A − (A − 1) − (A − 2)

)= min(6A, 5A + 1, 4A + 3)

となる.

また, 第 n + 1局所保存量の拡張 Newton多角形から第 n局所保存量の拡張 Newton多角形を取

り除いた図形が T′α + T′

β となる場合もある.

例 3.7.

H = H = max(X + Y, X. X − Y − 1, Y, −Y, −X + Y − 1, −X, −X − Y )

を考える. これも 6A ∪ 4B である. しかし, これは第 1局所保存量までしかない. なぜなら, 図 11

のように拡張 Newton多角形には右下と左上に T′α があるのだが, それをつくっている, X −Y − 1

と −X + Y − 1が H の候補となりうるのが, ともに H = 1のときだからである. この場合は縮退

していると考えて, RLT′1(A) = RLT′

α(A) + RLT′

α(A) = 2Aと考えればよく, 命題 3.4より,

RL(H = A) = min(6A, 6A − 2(A − 1)

)= min(6A, 4A + 2)

14

Page 16: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

となる.

事実 3.8. 4C ∪ 4B を考える. 図 12より明らかなように, T′1 = T′

α + T′β となっている. このとき

-

6

rr r

rr

����

図 12: 4C ∪ 4B の拡張 Newton多角形

も縮退していると考えて, RLT′1(A) = RLT′

α(A) + RLTβ

(A) = 2Aとすればよい.

3.2 速度

定義 3.9. 基本保存量の値 H = A ∈ R>0 で, 一回の写像で積分曲線上を反時計回りにどれくらい

の長さを動くかを表した値を速度 VT(A)とする. ここでの長さは相対的長さを使う.

まず, 一様系の速度は表 4になる.

一様系のタイプ Th 速度 VTh(A)4B , 4C , 4D, 4E , 5B , 5D, 6A 2A

3B , 4G, 5A, 5C 3A

3A, 4A, 4F 4A

表 4: 一様系の速度 VTh(A) の一覧

一様系 Th に対して, D−1∞ (Th)が存在するなら,

VD−1∞ (Th) = VTh + 2  (17)

となっている. D−10 (Th)についても (17)と同様の関係式が成り立っているようである. また,

VD−1±1(Th) = 2A (18)

と数値実験からは確認される. さらに, この速度は第 1局所写像の値が全体の写像の場合も適応さ

れているようである.

注意 3.10. この速度の値に関しては, 一様系以外は全て予想である. この速度の値が証明できれ

ば, 周期数は完全に求められる.

15

Page 17: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

3.3 周期に対する明示公式予想

定義 3.11. 零でない数 r1, r2, . . . , rn に対する最小公倍数 LCM(r1, r2, . . . , rn) を, Zr1 ∩ · · · ∩Zrn の中の正の最小有理数と定義する. 明らかに, r1, r2, . . . , rn のいずれかが無理数であれば,

LCM(r1, r2, . . . , rn) = +∞となる.

予想 3.12. 基本保存量 H = A ∈ R>0 のときの周期は

P(H = A) = LCM(1,

mini

(RL(H(1) = A) −

i∑j=1

RLT′j(A − Ai)

)VT(A)

)(19)

となる.

例 3.13.

H = max(X + Y, X − 2, X − Y − 6, Y, −Y, −X + Y − 2, −X − Y ){Xn+1 = −Xn + 2max(Yn − 1, 0) − max(2Yn, Yn − 2, −6)Yn+1 = −Yn + max(2Xn+1 − 6, Xn+1, 0) − max(2Xn+1, Xn+1, −2)

の写像を考える. このとき, 相対的長さは

RL(H = A) = min(8A, 8A − 2(A − 1), 8A − 2(A − 1) − (A − 2)

8A − 2(A − 1) − (A − 2) − (A − 4))

= min(8A, 6A + 2, 5A + 4, 4A + 8)

となる. (3,−2)からはじめると, (3,−2) → (1, 1) → (−3,−1) → (1,−2) → (3,−1) → (−1, 2) →(−1,−1) → (3,−2)となり, 7周期となる. このとき A = 2である. また, 予想 3.12より,

-

6

rr

rr

rrr

����

����

��

図 13: 例 3.13の拡張 Newton多角形

P(H = 2) = LCM(1,min(16, 14, 14, 16)

2 · 2) = LCM(1, 14/2) = 7

となり確かに一致する. 次に (3, 11) からはじめると, (3, 11) → (−5,−9) → (11, 3) →(−13,−1) → (15,−5) → (−9, 7) → (7,−13) → (−1, 14) → (−1,−13) → (7, 7) → (−9,−5) →

16

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(15,−1) → (−13, 3) → (11,−9) → (−5, 11) → (3,−14) → (3, 11) となり, 16周期となる. この

とき, A = 14であるので, 予想 3.12より,

P(H = 14) = LCM(1,min(112, 86, 74, 64)

2 · 14) = LCM(1, 16/7) = 16

となり成立する.

事実 3.14. この予想は無限非擬一様系の場合を含めることができる. 有限の A ∈ R>0 に対して,

RL(H = A) = +∞であるので, そのため P(H = A) = +∞となる∗29.

注意 3.15. 生の保存量と基本保存量について (I)のような関係式が, 全てのタイプについて求める

ことができる. そのため, 生の保存量の値を使って 速度と相対的長さの式をそれぞれ書く事ができ

る. その対応式について全ての系を網羅する一般式が現段階では見つかっていないので, 基本保存

量に変形した先の値を用いて明示式を考えた.

4 結論

• 超離散 QRT系の保存量からつくられる拡張 Newton多角形を全て描いた.

• 拡張 Newton多角形の形状から超離散 QRT系を 4つの系に分類した.

• 拡張 Newton 多角形と tropical hypersurface の形状から, 基本写像に変換したときの周期

数を求める明示公式を予想した.

∗29 無限非擬一様系の場合は, 基本保存量や基本写像が何であるかは示していないが, どのような形で書かれようともRL(H = A) = +∞となる.

17

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付録A 拡張 Newton多角形の命名

命名の前に 2つの演算子を定義する.

定義 A.1. 回転演算子 R2, R4 を以下のように定義する.

R2: 図形を原点について π 回転させる (原点対称).

R4: 図形を原点についてπ

2回転させる.

-

6

rr rrrr@

@�� -

R4

R−14

¾ -

6rr r rr

��

@@

図 14: R4と R−14

定義 A.2. 対称演算子 Sx, Sy を以下のように定義する.

Sx: 図形を x軸について折り返す.

Sy: 図形を y 軸について折り返す.

-

6

rr rr

��A

AAA

-Sx

S−1x

¾ -

6rr rr

@@�

���

図 15: Sxと S−1x

A.1 一様系

一様系に含まれている系は以下のルールによって命名する (結果は付録 B.1を参照).

• ¤(HQ)の形が何角形であるかで主部を決定する.

• 下付き添え字は主部が同じもののなかで周期数の小さいものから順に A,B, · · · と付ける.

ただし, 同一周期のものは ¤(HQ)が囲む面積の小さいものから順に付ける. また,面積も同

一のときは ¤(HQ)の対称性の良いものを優先する.

18

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A.2 擬一様系

擬一様系は, その拡張 Newton多角形がどの一様系の拡張 Newton多角形の合成になるかで命名

する.

例 A.3.

H = max(X + Y + 2, X + 1, X − Y − 1,−Y + 2,−X + Y + 2,−X,−X − Y − 2)

のとき, 拡張 Newton多角形は下のようになる.

-

6

-

6

-

6

-

6

r r rrr

rr

rr

rr r

rr rr r rr

@@

AAAA�

����� A

AAA�

���

@@�

4B 3A 5A

= ∪ ∪

したがって, このタイプを 4B ∪ 3A ∪ 5A と命名される.

ただし, この命名法は命名は一意ではない.

例 A.4. 例 A.3は,

-

6

-

6

-

6

-

6

r r rrr

rr

rr

rr r rr r r rr r

@@

AAAA�

�����

@@�

��� A

AAA�

4B Sy(4F ) 4F

= ∪ ∪

別のものの合成からも作れるので, 4B ∪ Sx(4F ) ∪ 4F と表すこともできる.

A.3 無限非擬一様系

無限非擬一様系となるものの中で, π(¤(HQ)

)= ¤(HQ)となるものに対して, 一様系と同様の方

法で命名する. 添え字については一様系の続きを使う.

また, その他のについてはそれらの合成として名前を付ける.

19

Page 21: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

A.4 有限非擬一様系

一様系と擬一様系の Tに対して, D−10 (T)などとする∗30.

付録B 超離散 QRT系からつくられる拡張 Newton多角形

B.1 一様系の拡張 Newton多角形の一覧

-

6r rr

AAAA�

���

3A

-

6 rr r����

@@�

���

3B

-

6

-

6

r rr r

4B

r rr r@

@�

@@

��

4A

-

6

-

6

r rr r

��

��

4C

-

6

r rr r

��

�� �

���

4D

-

6

-

6

rr

rrAAAA�

4F

-

6

rr

rr��

������

4E

-

6rr rr

��@

@

��

��

4G

rrrrr

��

5B

rr r rr�

�@

@

5A

-

6rr rrr�

�@

@��

5C

-

6

-

6r rrr

r�

��

� ��

5D

rrrrrr

��

��

6A

∗30 一様系や擬一様系と, 無限非擬一様系との合成として名前を付けることも可能である. 今回はその方法よりも,

D−10 (T)などとした方が分類をする際に分かりやすいので, こちらを採用した.

20

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B.2 擬一様系の拡張 Newton多角形

π(¤(H(1)

Q ))

π(¤(HQ)

)3A 3A ∪ 4B , 3A ∪ Sx(4C), 3A ∪ 4F , 3A ∪ 5A, 3A ∪ Sx(5B), 3A ∪ 4B ∪ 4F ,

3A ∪ 4B ∪ 5A, 3A ∪ Sx(4C) ∪ 4F , 3A ∪ Sx(5B) ∪ 5A

3B 3B ∪ 4B , 3B ∪ Sx(4C), 3B ∪ R2(4E), 3B ∪ Sy(4F ), 3B ∪ 4G, 3B ∪ 5A,

3B ∪ 5B , 3B ∪ Sx(5B), 3B ∪ 5C , 3B ∪ R2(5D), 3B ∪ 6A, 3B ∪ 4B ∪ 5A,

3B ∪ 4B ∪ 5C , 3B ∪ Sx(4C) ∪ 4G, 3B ∪ Sx(4F ) ∪ 4G, 3B ∪ 5A ∪ 4G,

3B ∪ 5B ∪ 5C , 3B ∪ Sx(5B) ∪ 5A, 3B ∪ Sx(5B) ∪ 5C

4A 4A ∪ 4B , 4A ∪ 5A, 4A ∪ 5B , 4A ∪ 5C , 4A ∪ 6A

4C 4C ∪ 4B , 4C ∪ 5B , 4C ∪ 4B ∪ 5B

4D 4D ∪ 4B , 4D ∪ 4C , 4D ∪ 5B , 4D ∪ 5D, 4D ∪ 6A,

4D ∪ 4B ∪ 5D, 4D ∪ 4B ∪ 6A, 4D ∪ 4C ∪ 5D, 4D ∪ 5B ∪ 5D

4E 4E ∪ 4B , 4E ∪ 4C , 4E ∪ 5B , 4E ∪ 5D, 4E ∪ 6A,

4E ∪ 4B ∪ 5D, 4E ∪ 4B ∪ 6A, 4E ∪ 4C ∪ 5D, 4E ∪ 5B ∪ 5D

4F 4F ∪ 4B , 4F ∪ Sx(4C), 4F ∪ 5A, 4F ∪ Sx(5B),4F ∪ R2(5B), 4F ∪ 4B ∪ 5A, 4F ∪ Sx(5B) ∪ 5A

4G 4G ∪ 4B , 4G ∪ R2(4C), 4G ∪ Sy(4F ), 4G ∪ 5A, 4G ∪ R−14 (5A),

4G ∪ 5B , 4G ∪ Sx(5B), 4G ∪ R2(5B), 4G ∪ 5C , 4G ∪ R2(5D), 4G ∪ 6A,

4G ∪ 4B ∪ 5C , 4G ∪ R−14 (5A) ∪ 5C , 4G ∪ 5B ∪ 5C , 4G ∪ Sx(5B) ∪ 5C

5A 5A ∪ 4B , 5A ∪ Sx(5B)

5B 5B ∪ 4B

5C 5C ∪ 4B , 5C ∪ 5A, 5C ∪ 5B , 5C ∪ Sx(5B), 5C ∪ 6A

5D 5D ∪ 4B , 5D ∪ 4C , 5D ∪ 5B , 5D ∪ R2(5B), 5D ∪ 6A,

5D ∪ 4B ∪ 6A, 5D ∪ R2(5B) ∪ 6A

6A 6A ∪ 4B , 6A ∪ 5B

21

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B.3 無限非擬一様系

-

6 rr

2A

��

��

-

6

rrr�

��

3D

-

6

rr

r��

��

����

3C

-

6

rr

r r�

��

��

4H

-

6

rrrr�

��

����

3D ∪ 3C

-

6

rrrr r

��

��

��

3D ∪ 4H

-

6

rrrr r

��

��

��

����

3D ∪ 3C ∪ 4H

-

6

rr

r r�

��

��

����

4H ∪ 3C

B.4 有限非擬一様系

B.4.1 D−1±1(T) type

π(¤(H(1)

Q ))

π(¤(HQ)

)D−1

±1(4B) D−11 (4B)

D−11 (4C) D−1

1 (4C ∪ 4B), D−11 (4C ∪ 5B), D−1

1 (4C ∪ 4B ∪ 5B), D−11 (4C)

D−11 (4D) D−1

1 (4D ∪ 4B), D−11 (4D ∪ 4C), D1(4D ∪ 5B), D−1

1 (4D ∪ 5D),D−1

1 (4D ∪ 6A), D−11 (4D ∪ 4B ∪ 5D), D−1

1 (4D ∪ 4B ∪ 6A), D−11 (4D ∪ 4C ∪ 5D),

D−11 (4D ∪ 5B ∪ 5D), D−1

1 (4D)

D−11 (4E) D−1

1 (4E ∪ 4B), D−11 (4E ∪ 4C), D−1

1 (4E ∪ 5B), D−11 (4E ∪ 5D),

D−11 (4E ∪ 6A), D−1

1 (4E ∪ 4B ∪ 5D), D−11 (4E ∪ 4B ∪ 6A), D−1

1 (4E ∪ 4C ∪ 5D),D−1

1 (4E ∪ 5B ∪ 5D), D−11 (4E)

D−11 (5B) D−1

1 (5B ∪ 4B), D−11 (5B)

D−11 (5D) D−1

1 (5D ∪ 4B), D−11 (5D ∪ 4C), D−1

1 (5D ∪ 5B), D−11

(5D ∪ R2(5B)

),

D−11 (5D ∪ 6A), D−1

1 (5D ∪ 4B ∪ 6A), D−11

(5D ∪ R2(5B) ∪ 6A

), D−1

1 (5D)

D−11 (6A) D−1

1 (6A ∪ 4B), D−11 (6A ∪ 5B), D−1

1 (6A)

22

Page 24: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

B.4.2 D−1∞ (T) or D−1

0 (T) タイプ

π(¤(H(1)

Q ))

π(¤(HQ)

)D−1

∞ (3A) D−1∞

(3A ∪ 4B

), D−1

∞(3A ∪ Sx(4C)

), D−1

∞ (3A ∪ 4F ), D−1∞ (4A ∪ 5A),

D−1∞

(3A ∪ Sx(5B)

), D−1

∞ (3A ∪ 4B ∪ 4F ), D−1∞ (3A ∪ 4B ∪ 5A),

D−1∞

(3A ∪ Sx(4C) ∪ 4F

), D−1

∞(3A ∪ Sx(5B) ∪ 5A)

), D−1

∞ (3A)

D−1∞ (4A) or D−1

∞ (4A ∪ 4B), D−1∞ (4A ∪ 5A), D−1

∞(4A ∪ R−1

4 (5A)), D−1

∞ (4A ∪ 5B),D−1

0 (4A) D−1∞ (4A ∪ 5C), D−1

∞ (4A ∪ 6A), D−1∞ (5A)

D−1∞ (4B) D−1

∞ (4B)

D−1∞ (4C) D−1

∞ (4C ∪ 4B), D−1∞ (4C ∪ 5B), D−1

∞ (4C ∪ 4B ∪ 5B), D−1∞ (4C)

D−1∞ (4D) D−1

∞ (4D ∪ 4B), D−1∞ (4D ∪ 4C), D−1

∞ (4D ∪ 5B), D−1∞ (4D ∪ 5D),

D−1∞ (4D ∪ 6A), D−1

∞ (4D ∪ 4B ∪ 5D), D−1∞ (4D ∪ 4B ∪ 6A), D−1

∞ (4D ∪ 4C ∪ 5D)

D−1∞ (4F ) D−1

∞ (4F ∪ 4B), D−1∞

(4F ∪ Sx(4C)

), D−1

∞ (4F ∪ 5A), D−1∞

(4F ∪ Sx(5B)

)D−1

∞(4F ∪ Sx(5B)

), D−1

∞ (4F ∪ 4B ∪ 5A), D−1∞

(4F ∪ 4B ∪ 5A

), D−1

∞ (4F )

D−1∞ (4G) D−1

∞ (4G ∪ 4B), D−1∞

(4G ∪ R2(4C)

), D−1

∞(4G ∪ Sy(4F )

), D−1

∞ (4G ∪ 5A),D−1

∞(4G ∪ R−1

4 (5A)), D−1

∞ (4G ∪ 5B), D−1∞

(4G ∪ Sx(5B)

), D−1

∞(4G ∪ R2(5B)

)D−1

∞ (4G ∪ 5C), D−1∞

(4G ∪ R2(5D)

), D−1

∞ (4G ∪ 6A), D−1∞ (4G ∪ 4B ∪ 5C)

D−1∞

(4G ∪ R−1

4 (5A) ∪ 5C

), D−1

∞ (4G ∪ 5B ∪ 5C), D−1∞

(4G ∪ Sx(5B) ∪ 5C

), D−1

∞ (4G)

D−1∞ (5A) or D−1

∞ (5A ∪ 4B), D−1∞

(5A ∪ Sx(5B)

), D−1

∞ (5A),D−1

0 (5A) D−10 (5A), D−1

0 (5A ∪ 4B), D−10

(5A ∪ Sx(5B)

), D−1

0 (5A)

D−1∞ (5B) D−1

∞ (5B ∪ 4B), D−1∞ (5B)

D−1∞ (5C) or D−1

∞ (5C ∪ 4B), D−1∞ (5C ∪ 5A), D−1

∞ (5C ∪ 5B), D−1∞

(5C ∪ Sx(5B)

)D−1

0 (5C) D−1∞ (5C ∪ 6A), D−1

∞ (5C), D−1∞ (5C ∪ 5A), D−1

0 (5C ∪ 5B)

D−1∞ (5D) D−1

∞ (5D ∪ 4B), D−1∞ (5D ∪ 4C), D−1

∞ (5D ∪ 5B), D−1∞

(5D ∪ R2(5B

),

D−1∞ (5D ∪ 6A), D−1

∞ (5D ∪ 4B ∪ 6A), D−1∞

(5D ∪ R2(5B) ∪ 6A

), D−1

∞ (5D)

D−1∞ (6A) or D−1

∞ (6A ∪ 4B), D−1∞ (6A ∪ 5B),

D−10 (6A) D−1

∞ (6A)

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Page 25: QRT Newton...1.1.2 Newton 多角形と拡張Newton 多角形 まず, Newton 多角形を定義する. 定義1.3. 与えられた多項式m = αxt1 1 x t2 2 ···x td d に対して,

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