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プログラムディレクター 佐々木 直哉 株式会社日立製作所 研究開発グループ 技師長 Profile 1982年株式会社日立製作所入社。2014年より現職。 メカトロ製品の開発、機械系基盤技術シミュレーション技術の普及、開発 に従事。工学博士。 日本機械学会フェロー。日本計算工学会副会長(理事)。日本トライボロ ジー学会会員。 国際競争の激化によって、日本のものづくり産業の輝きが失われつつある。 本プログラムは、「超上流デライト設計手法の確立」「革新的生産・製造技術の研究開発」とその実践、 普及を通じて産業を活性化し、グローバルトップを獲得できる新市場の創出を目指す。デライトとは 「喜び品質・満足等」であり、品質・機能にデライトを加えた価値を探索して製品・サービスに実現する革 新的設計・生産手法を確立する。このテーマのもと、公募による24件の取り組みが始まった。 革新的 設計生産技術 新しいものづくり 2020計画 Naoya Sasaki デライトなものづくり 超上流デライト設計手法と革新的生産技術 46

Sasaki - Cabinet OfficeNaoya Sasaki 「イノベーションスタイル」のイメージ 研究テーマの地域俯瞰(各研究テーマ、代表実施機関所在のみ掲示)

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Page 1: Sasaki - Cabinet OfficeNaoya Sasaki 「イノベーションスタイル」のイメージ 研究テーマの地域俯瞰(各研究テーマ、代表実施機関所在のみ掲示)

プログラムディレクター

佐々木 直哉株式会社日立製作所研究開発グループ 技師長

Profile1982年株式会社日立製作所入社。2014年より現職。メカトロ製品の開発、機械系基盤技術シミュレーション技術の普及、開発に従事。工学博士。日本機械学会フェロー。日本計算工学会副会長(理事)。日本トライボロジー学会会員。

国際競争の激化によって、日本のものづくり産業の輝きが失われつつある。本プログラムは、「超上流デライト設計手法の確立」「革新的生産・製造技術の研究開発」とその実践、普及を通じて産業を活性化し、グローバルトップを獲得できる新市場の創出を目指す。デライトとは

「喜び品質・満足等」であり、品質・機能にデライトを加えた価値を探索して製品・サービスに実現する革新的設計・生産手法を確立する。このテーマのもと、公募による24件の取り組みが始まった。

革新的 設計生産技術

新しいものづくり 2020計画

Naoya Sasaki

デライトなものづくり超上流デライト設計手法と革新的生産技術

46

Page 2: Sasaki - Cabinet OfficeNaoya Sasaki 「イノベーションスタイル」のイメージ 研究テーマの地域俯瞰(各研究テーマ、代表実施機関所在のみ掲示)

革新的設計生産

技術

新しいものづくり2020計画

価値設計・デザイン・発想領域と生産・製造領域の連携

我が国のものづくり産業は、高品質・高性能な材料・部品や高水準の加工技術のもとで、高い国際競争力を発揮してきた。しかし、近年は、製造現場の海外展開、新興国の躍進などにより、我が国が優位性を持っていた高度な製品のコモディティ化が進行し、とりわけ価格競争が熾烈な最終製品やサービスの市場において苦戦している。「私はシミュレーションを研究し、製

品設計に携わるなど、ものづくり全体に関わってきました。それだけに日本のものづくりの再生のために、グローバルで勝てる革新的なものづくりの必要性を痛感していました」と、プログラムディレクターの佐々木直哉氏は語る。

我が国のものづくりの課題として、川上領域(材料・部品等)と川下領域(製品・サービス・システム等)とのコミュニケーション不足があげられる。価値設計・デザイン・発想などの領域と、生産・製造領域の間においても同様の課題がある。「消費者が製品・サービスに求める

のは、品質や性能だけでなく、商品を手にした喜び・満足感です。高度成長期にはカラーテレビやマイカーを購入することが大きな喜びでした。しかし、ものが充足したいま、わくわくするような魅力的な商品を提供することはより困難になっています。喜びを提供するには、『ものやサービスを利用することによって生まれる新たな価値を想定して何を作るべきか』という視点を川上、川下が共有し、連携していく必要があります。

我が国には、優れた材料・部品技術を持つ地場企業、中堅中小企業が数多くあります。しかし、単独では優位技術を価値ある製品に生かすことは難しい。その強みを生かす連携ネットワークを形成することで新たな価値を創出

し、さらに、その連携の成功例を他の地域・製品分野に波及・展開することにより、我が国の産業全体の底力を向上させることが、『革新的設計生産技術

(新しいものづくり2020計画)』の目標です」と佐々木氏は説明する。

欧米でも、3Dプリンタ等に代表される分野の「積層造形システム」として国家機関と大学、企業の連携による研究開発、人材育成、先進的な工業生産技術の開発などが意欲的に推進されている。これに先んじて、我が国が世界をリードする「革新的なものづくりスタイル」を構築することが、グローバル競争においてきわめて重要となっている。

ニーズの先を見つける設計 手法、形にする高度生産技術

本プログラムは、「超上流デライト設計手法の確立」と「革新的生産・製造技術の研究開発」の2つの研究開発項目で推進される。「超上流デライト設計手法の確立」

では、①顧客にとってのグローバルで

多様な使用価値を想定した設計技術、②設計プロセスにおける多様な価値(顧客満足度、性能、コスト、品質等)を提案するための探索手法と評価、シミュレーションの連携技術、③コモディティ化を回避するための日本の強みである材料・部品を製品・システム・サービスに反映するシステム設計に取り組む。ニーズの先を探索する初期機能設計、製造条件や市場の反応などに基づいて柔軟な修正機能をもつ設計手法の確立がポイントとなる。「革新的生産・製造技術の研究開

発」は、開発した超上流デライト設計手法を使って迅速に製品・サービスの形にする高度技術として、①複雑な構造・形状の製品をスピーディーに製造・加工する技術、②従来の製造・加工技術の高度化に加え、他分野への応用、他技術との複合・システム化、③高度なシミュレーションや計測技術による複雑な製造・加工現象の解明と最適制御などの研究開発を進める。「三次元造形技術などの最新技術

を活用し、複雑で自由な形状の製品加工、多様な材料組成の選択、高品

●実施体制

管理法人

研究クラスター

内閣府PD(佐々木直哉) <推進委員会>・議長:佐々木PD・サブPD: 帯川利之(東京大学) 木村文彦(法政大学) 安井公治(三菱電機株式会社) 善本哲夫(立命館大学)・構成員: 経済産業省、文部科学省、     NEDO、JST、内閣府(事務局)

NEDO

最適化設計・生産

超上流デライト設計・生産

革新的材料3D造形

革新的複雑造形

加工技術の複合化・知能化

現場立脚型

研究テーマ

研究テーマ

研究テーマ

24研究テーマ

研究クラスター内WG

研究クラスター内WG

研究クラスター内WG

研究クラスター内WG

研究クラスター内WG

研究クラスター内WG

研究クラスター間連携WG・WS

全研究クラスター 情報共有とデライト試作評価のWS、シンポジウムによるテーマ間相互連携、公開シンポジウム

47戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)

Page 3: Sasaki - Cabinet OfficeNaoya Sasaki 「イノベーションスタイル」のイメージ 研究テーマの地域俯瞰(各研究テーマ、代表実施機関所在のみ掲示)

Naoya Sasaki

●「イノベーションスタイル」のイメージ ●研究テーマの地域俯瞰(各研究テーマ、代表実施機関所在のみ掲示)

質・低コスト・新機能を可能にする新技術・複合化技術の開発などにより、アイデアを迅速かつ容易に試作・評価できる生産・製造技術を確立し、実用化までもっていきたい」と佐々木氏はその狙いを語る。

多様なイノベーションスタイルの実証・実践

研究開発の推進でも、新たな仕組みとして「イノベーションスタイルの実証・実践」に取り組む。「イノベーションを実現するには、

ユーザー参加型の新たな仕組みが必要です。そこで、研究開発成果を実際のものづくりに適用し、成果を使用した企業や個人ユーザーの意見を得て新たな問題点を洗い出し、研究開発に迅速にフィードバックする仕組みとしてイノベーションスタイルの試行を行います。これにより、開発のブラッシュアップだけでなく、当初気付かなかった高付加価値のニーズの発掘が可能となります」と佐々木氏。

具体的には、基礎的な原理解明などに重点を置く大学、消費者や企業ユーザーとのコミュニケーションを重視する企業、地域社会を含め、広くユーザーに技術を展開する公的研究開発機関などが連携し、さまざまなイノベーションスタイルを展開していく。

プログラムの実施体制は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)を管理法人として、すでに公募により24件の研究テーマが選ばれている。「医療・福祉、産業製品、コンシュー

マー製品、エネルギーなど幅広い分野にわたって先進的なテーマを選ぶことができました。産業系から個人向け製品・サービスまでの幅広い研究開発が多く、地域の特色ある中小企業が参画するテーマも数多くあります。私たちが想定していなかった斬新なテーマもあって、大いに期待しています。

全体として、それぞれのテーマの特性とシナリオに沿って着実に推進していきます。ただ、現時点で確実な方法論があるわけでなく、このプログラムを

通してよりよい設計手法、革新的生産技術を新たに探索、提案していく研究開発が狙いです。繰り返し、仮説・試作・テスト・評価・フィードバックを最適に行うことで革新技術や新しいものづくりスタイルを確立し、5年後には当初シナリオの出口はもちろんのこと、そのものづくりスタイルを活かした新たな製品やサービスの実用化、普及に向けた取り組みにつなげたい」と佐々木氏は今後の展開について語っている。

高付加価値商品化・サービス化・産業化

販路開拓

価値探索・設計

試作・製造

物理・構造設計システム設計

デモ・実証ワークショップ・データ解析

シーズ革新的技術・独創的発想

大学、公的研究機関等

デザイン企業ベンチャー企業*

企業*

企業*公的試験研究機関

企業*・個人等

*地域企業の積極的な参画、企業間の連携など。

ユーザーの声

革新的複雑造形

加工技術の複合化・知能化

革新的材料3D造形

超上流デライト設計・生産

現場立脚型

最適化設計・生産

48 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)

Page 4: Sasaki - Cabinet OfficeNaoya Sasaki 「イノベーションスタイル」のイメージ 研究テーマの地域俯瞰(各研究テーマ、代表実施機関所在のみ掲示)

グローバルトップを獲得できる

新たな市場の創出を目指す

発想を素早く形にして、評価・フィードバックすることで、新たなものづくりスタイルを創造します。

研究開発テーマ

地域企業の好事例を展開、新産業を創生地域企業による事業化の好事例を他の地域や製品分野へ展開・普及させ、迅速に新産業を創生する。

企業・大学・公的機関を結ぶ「ものづくり連携システム」の構築開発した技術を先行実装可能な企業・大学・公的研究開発機関等に結びつけるものづくり連携システムを構築する。

公的研究開発機関への導入など成果普及活動の強化東京オリンピック・パラリンピックに向けて特徴ある商品化を図り、ものづくり技術をPR。 公的研究開発機関への導入などを通じて、研究開発成果の普及活動を強化・推進する。

出口戦略

1. 超上流デライト設計手法の確立ニーズ・価値・性能・デライト(喜び品質、満足等)をベースとした多様な機能設計および生産・製造条件や、

各種データを考慮し高品質な全体システム設計を可能とする超上流デライト設計手法の研究開発。

2. 革新的生産・製造技術の研究開発従来にない新しい構造や複雑形状、機能の発現、高品質・低コストを可能とする革新的生産・製造技術の研究開発。

革新的設計生産

技術

新しいものづくり2020計画

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