10
兵庫教育大学 研究紀要 第502017 2 pp 95 104 教職大学院におけ る ボ ト ムア ッ プ型 FD 活動の試み - 兵庫教育大学授業実践開発 コ ースの自主的 ・ 協働的授業研究活動の取り 組み一 The Practice of Bottom-up Faculty Development in the Professional School of Teacher Education : A Case Study of the Curriculum and Instruction Development Course at Hyogo University of Teacher Education 伊 藤 博 之 ****** 大 西 義 則 ** 奥 村 好 美 ******* 黒 岩 **** ITO Hiroyuki ONISHI Yoshinori OKUMURA Yoshimi KUROIWA Masaru 米 田 * 長 澤 意 保 **** 永 田 智 子 ***** 松 本 伸 示 **** KOMEDA Yutaka NAGASAWA Noriyasu NAGATA Tomoko M ATSUMOTO Shinji 溝 邊 和 成 **** 宮 田 佳緒里 ******* 森 山 ***** 山 内 敏 男 ****** M IZOBE Kazushige MIYATA Kaori MORIYAMA Jun YAM AUCHI Toshio 吉 田 和 志*** 吉 水 裕 也**** YOSHIDA Kazushi YOSHIMIZU Hiroya (50 音順) 本稿は, 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース (以下, 本コースと略記) において実践されたボ ト ムア ッ プ型 FD 活動 を紹介 ・ 分析するこ とを通して, 現状と課題, さ ら にはその課題の克服の方向性 を探 る中で, 教職 大学院における今後の FD 活動のあり方を提案しようとするものである . 前半 で, 現在の教職大学院の FD 活動が抱えて いる共通の課題 (義務化や制度化の弊害 と し て, FD 活動がイベント的になっている) を確認した. そして, そ れが本学 においても自覚されており , アクティ ・ ラ ーニ ン グ研究会やベ ス ト ク ラ ス選定 と い っ た形 で 組織的, 協働的な FD 活動 の模索 が為 さ れて い る も のの, その取り組みは公設の FD 推進委員会が主導するがゆえにト ップダウン型になら ざるを得 ないという矛盾を抱えていることを確認した. そして後半では, このよう な課題を克服すること も視野に入れて始められ た本 コ ース におけ る ボ ト ムア ッ プ型 FD と称す る自主的 ・ 協働的授業研究活動について紹介 ・ 分析 した. その結果, 初年 度 の成果 と し て, 個々の授業改善が行われた上, 本 コ ース教員の考え方が共有 さ れ, 同僚性の高まりのもと , 本コースの カリキュラム改善にまで着手できた. このことは, FD 活動をボトムアップ的に自己組織化することによって, こ れま で の課題を克服する糸口を得たものと考えられる . キ ーワ ー ド : ボ ト ムア ッ プ型 FD, 教職大学院, カ リ キ ュ ラ ム改善, 授業研究 Key words : bottom-up FD, Professional School of Teacher Education, curriculum improvement, lesson study はじめに ものではなかった. 1998 年の大学審答申で, 自己点検 ・ 本稿は, 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業 自己評価の導入の限界が指摘 さ れ, その曖昧性, 甘え, 実践開発 コ ース ( 以下, 本コースと略記) において実践 専門家の不在等が問題視 さ れた. 他者評価, 第三者評価 さ れた ボ ト ムア ッ プ型 FD 活動 を紹介 ・ 分析するこ とを の必要性が唱え ら れ, 日本の大学では1999年より FD 通して, 現状 と 課題, さ ら にはその課題の克服の方向性 努力義務 と し て組織的 に展開 さ れる こ と と な る. その後, を探る中で, 教職大学院におけ る今後の FD 活動のあり 2004 年 には機関別認証評価制度が導入 さ れ, 全ての大学 方を提案しようとするものである. で第三者評価を受けるこ とになった. 認証評価制度では 学生によ る授業評価の実施が点検項目 と し て明記 さ れた 1 . FD を巡る動向 こともあり , FD も実質的に義務化 さ れてい く . 同時に, 1-1. 全国の FD 動向 FD の中心は学生によ る授業評価という 図式ができあがっ 元来 FD は大学教員の自主性に委ねられ, 強制 さ れた ていくことになる . * 兵庫教育大学 副学長 * * 小野東小学校 * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース 特任教授 * * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース 教授 * * * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース, 教科教育実践開発専攻生活 ・ 健康 ・ 情報系教育 コ ース 教授 * * * * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース 准教授 * * * * * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース 講師 平成28 1026 日受理 95

The Practice of Bottom-up Faculty Development in the

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

兵庫教育大学 研究紀要 第50巻 2017年 2 月 pp 95 104

教職大学院におけ るボト ムア ッ プ型 FD 活動の試み- 兵庫教育大学授業実践開発コ ースの自主的 ・ 協働的授業研究活動の取り 組み一

The Practice of Bottom-up Faculty Development in the Professional School of Teacher Education : A Case Study of the Curriculum and Instruction Development Course at Hyogo University of Teacher Education

伊 藤 博 之****** 大 西 義 則** 奥 村 好 美******* 黒 岩 督****ITO Hiroyuki ONISHI Yoshinori OKUMURA Yoshimi KUROIWA Masaru

米 田 豊* 長 澤 意 保**** 永 田 智 子***** 松 本 伸 示****KOMEDA Yutaka NAGASAWA Noriyasu NAGATA Tomoko MATSUMOTO Shinji

溝 邊 和 成**** 宮 田 佳緒里******* 森 山 潤***** 山 内 敏 男****** MIZOBE Kazushige MIYATA Kaori MORIYAMA Jun YAMAUCHI Toshio

吉 田 和 志*** 吉 水 裕 也****YOSHIDA Kazushi YOSHIMIZU Hiroya (50音順)

本稿は, 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース (以下, 本 コ ースと略記) において実践 さ れたボ

ト ムア ッ プ型 FD 活動 を紹介 ・ 分析す るこ と を通し て, 現状と課題, さ ら にはその課題の克服の方向性 を探 る中で , 教職

大学院におけ る今後の FD 活動のあり 方 を提案 し よ う と する ものである . 前半で , 現在の教職大学院の FD 活動が抱えて

いる共通の課題 (義務化や制度化の弊害 と し て, FD 活動がイ ベ ン ト的にな っ ている) を確認 し た. そ し て, それが本学

において も自覚 さ れており , アク テ ィ ブ ・ ラ ーニ ング研究会やベス ト ク ラ ス選定 と い っ た形で組織的 , 協働的な FD 活動

の模索が為 さ れてい る ものの, その取り 組みは公設の FD 推進委員会が主導す るがゆえ に ト ッ プ ダウ ン型にな ら ざる を得

ないと いう 矛盾 を抱え てい るこ と を確認 し た. そ し て後半では, こ のよ う な課題 を克服す るこ と も視野に入れて始めら れ

た本 コ ースにおけ るボト ムア ッ プ型 FD と称す る自主的 ・ 協働的授業研究活動について紹介 ・ 分析 し た. その結果, 初年

度の成果 と し て , 個々の授業改善が行われた上, 本 コ ース教員の考え方が共有 さ れ, 同僚性の高ま り のも と , 本 コ ースの

カ リ キュ ラ ム改善にま で着手で き た . こ のこ と は , FD 活動 を ボ ト ムア ッ プ的に自己組織化す るこ と によ っ て , こ れま で

の課題 を克服す る糸口 を得たものと考え ら れる .

キーワ ー ド : ボト ムア ッ プ型 FD, 教職大学院, カ リ キュ ラ ム改善 , 授業研究

Key words : bottom-up FD, Professional School of Teacher Education, curriculum improvement, lesson study

は じ めに ものではなかっ た. 1998年の大学審答申で, 自己点検 ・

本稿は, 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業 自己評価の導入の限界が指摘 さ れ, その曖昧性, 甘え , 実践開発 コ ース (以下, 本 コ ースと 略記) において実践 専門家の不在等が問題視さ れた. 他者評価, 第三者評価

さ れたボ ト ムア ッ プ型 FD 活動 を紹介 ・ 分析するこ と を の必要性が唱え ら れ, 日本の大学では1999年よ り FD が

通 し て, 現状 と課題, さ ら にはその課題の克服の方向性 努力義務と し て組織的に展開さ れるこ と と な る . その後, を探る中で, 教職大学院におけ る今後の FD 活動のあり 2004年には機関別認証評価制度が導入さ れ, 全ての大学

方を提案 し よ う と す るも のである . で第三者評価を受け るこ と にな っ た. 認証評価制度では

学生によ る授業評価の実施が点検項目と し て明記さ れた

1 . FD を巡 る動向 こ と も あり , FD も実質的に義務化 さ れてい く . 同時に, 1 -1 . 全国の FD 動向 FD の中心は学生によ る授業評価という 図式ができあがっ

元来 FD は大学教員の自主性に委ねら れ, 強制 さ れた てい く こ と にな る .

* 兵庫教育大学 副学長 * * 小野東小学校 * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース 特任教授

* * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発コ ース 教授

* * * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース, 教科教育実践開発専攻生活 ・ 健康 ・ 情報系教育 コ ース 教授

* * * * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発 コ ース 准教授

* * * * * * * 兵庫教育大学大学院教育実践高度化専攻授業実践開発コ ース 講師 平成28年10月26 日受理

95

之示

博伸

藤本

伊松

則成

義和

西

大溝

奧 村 好 美宮 田 佳緒里

岩山

黒森

2003年に制定された 「専門職大学院設置基準」 の第11 条には, 「一授業の内容及び方法の改善 を図 るための組

織的な研修及び研究を実施す るも のとす る」 と記 さ れて

い る . 専門職大学院の一つである教職大学院で も , 当然

FD が義務化さ れている. しかし , 田中 (2011) は, FD の法制義務化以降の日常化について, 講演, 合宿研修, 学生によ る授業評価, 授業の相互参観と い っ たス テレ オ

タイ プの出現を挙げ, それらが個々の教員 レベルに留ま

り , 学生集団に向き合う 教員集団レベルにまで至っ てい

ない こ と を課題 と し て指摘 し てい る . FD の理想は, イ

ベ ン ト的でな く , また, 教員個人での取組ではな く , 継

続的 ・ 組織的に行われる も のであ ろ う . こ のよ う に, 義

務化や制度化の弊害と し て, FD 活動がイベ ント的になっ

ており , また自己組織化が困難になっ ていると いう のが, 現在の FD の課題と いえ る .

1-2. 本学における FD 活動

兵庫教育大学 (以下 「本学」 と 略記) においては, ①

大学 ・ 大学院 (従来課程) の取り 組みと , 後発の②教職

大学院 (新設課程) の取り 組みという 2 本立てで FD 活

動が取り 組まれてき てい る . 以下, それぞれの活動 を概

説 し た後, 現在, 両者がどのよ う な関係を持 っ て取り 組

ま れてき たか, さ ら にそ れが今日 どのよ う に統合 さ れつ

つあ るのかを述べ る .

1-2-1. 大学 ・ 大学院 (従来課程) の取り組み

(1) 概要

本学においては, 2000年度前後から , 先導的試行と し

て, 授業公開や部分的 「学生によ る授業評価」 ( 3 年一

括り で全科目において実施) の導入が行われた. 当時は

FD と いう 用語自体が大学教員には十分浸透し ていない

状況であり , と り わけ 「学生によ る授業評価」 に対する

抵抗感は大きかっ た. しかし ながら , 制度的実施は着々

と行われ, 2012年度には, 「学生によ る授業評価」 の毎

年全科目での実施, 加えてその結果の学内外への公表が

行われるよ う になり , こ れらの活動が全面的展開するに

至 っ た .そ し て さ ら に, 2013年度には 「 ア ク テ ィ ブ ・ ラ ーニ ン

グ研究会」 が立ち上げら れ, 本学なり のアク ティ ブ ・ ラ ー

ニ ン グのあり 方 を検討す る取り 組みが始ま っ た . そ れと

平行 し て, 「ベス ト ク ラ ス賞」 創設の議論も開始 さ れた. こ こ に至 っ て, 個別の科目の改善からの脱皮が模索 さ れ

る フ ェ ーズへと 移行 し たと言え る . こ れらの活動は主と

し て FD 推進委員会と いう 公設の学内委員会 (各 コース

からの代表者と学長指名によ る委員によ って構成) が担っ

てい る .

(2) 個別の取 り組みについて

① 「学生によ る授業評価」 について

「学生によ る授業評価」 は, 科目ごと にその最終回に

96

督潤

豊男敏

田内

米山

保志

意和

澤田

長吉

田水

永吉

受講者 1 名につき 1 枚特製のマ ーク シー ト 票へ記入を求

め, 回収し , 集計 (マー ク シート作製と集計は外部業者

への委託) さ れる. 各科日の集計結果は各々担当教員に

のみ通知 さ れる一方 , 数値 につい てのみ本学ホ ームペ ー

ジに掲載 さ れる .

表 1 「学生によ る授業評価」 の質問項目

①こ の授業は, 日的がはっ き り し ていた.②授業内容は, 目的にふさ わしい内容だっ た.③教員の説明は, わかり やすかっ た .④ テキス ト ・ プリ ン ト 等や教材 ・ 教具は役だ っ た .⑤教員は, 学生が質問や意見を述べら れるよ う 配慮 し

てい た .⑥成績評価の基準 ・ 手続きが示 さ れた.⑦こ の授業から ものの見方や考え方について知的刺激

を受け た.

評価項目は大き く 2 つに分かれており , 上部はマーク

シート形式 ( 1 ~ 4 の 4 件法によ る選択) , 下部は自由

記述形式であ る . マ ーク シー ト形式の評価項日は表 1 の通り であ る . 一方 , 自由記述形式 の評価につい ては, 「良かっ た点及び改善すべき点」 およ び 「複数の教員が

分担 し てい る授業で , 個別の評価な どがあれば, 記入 し

て く だ さ い . 」 「 なお , こ の欄に記入 さ れた良かっ た点 に

ついては, 『ベス ト ク ラ ス』 選定の参考と し ます. 欄が

足 り ない場合は裏面に記入 し て く だ さ い . 」 と の但 し書

き がつけ ら れてい る .② 「 ア ク テ ィ ブ ・ ラ ーニ ング研究会」 について

FD 推進委員会が主催す る形で , 2013年度以来現在ま

で 3 回の研究会が行われている. 参加対象は学内外の教

員 , 職員 , 学生等である . また, 各回の開催目的は表 2 の通り で あ る . こ の会は , ア ク テ ィ ブ ・ ラ ーニ ン グと い

う 概念をすでに固ま っ たものと し て捉え るのではな く , それを批判的に吟味する過程を通 じて 「授業のあるべき

姿」 を創造的に探究 ・ 構築し ていこ う と していると こ ろ , そ れに加え て , FD への取り 組みが制度的なお仕着せに

な るこ と をでき るだけ避け , 自主的な営みを活性化 させ

よ う と の配慮が行われてい る と こ ろに特徴があ る . さ ら

に, 第 1 回と第 3 回は, 特定の授業の公開の後に, 受講

学生にも参加をお願い し , その授業に関する授業検討会

を行う こ と によ っ て, それまで取り 組ま れていた授業公

開 を一歩進めよ う と す る も のと捉え るこ と がで き る . こ

れらのこ とは教員個々の中だけで授業改革を企図すると

いう 枠を越え よ う し てい る と見るこ と も でき る .表 2 「 ア ク テ ィ ブ ・ ラ ーニング研究会」 の開催目的

0 第 1 回 : ア ク テ ィ ブ ・ ラ ーニ ングを実践 し てい る教

員の授業を参観するこ と によ っ て, 授業改善のアイ ディ

アを共有し , 個々の教員及び大学全体の授業改善を推進す るこ と

0 第 2 回 : 学外から専門家を招き , 「学生 ・ 教職員 FD 活動交流会」 で検討 し た内容 を中心に, 本学の FD活動内容に対する客観的な評価 ・ 批判を受け るこ と で,

教職大学院におけ るボト ムア ッ プ型 FD 活動の試み

FD活動の方向性を確認すると と も に今後に活かすこ と0 第 3 回 : 平成26年度授業科目ベス ト ク ラ スに選定 された授業の一つを公開す るこ と によ っ て , 授業改善の

アイ ディ アや手法等の情報を共有 し , 本学におけ る教員相互の 「授業研究」 の場と し て, 個々の教員 , およ

び, 大学全体の授業改善を推進するこ と

③ 「 ペ ス ト ク ラ ス」 について

「選定目的」 と し て, 「本学の教育の質向上のために, よい授業 を教職員 と学生が共有す るこ と」 が掲げら れた

上で , 「選定手順」 が表3のよ う に示 さ れてい る .表 3 「ペ ス ト ク ラ ス」 選定のプロ セス

①FD 推進委員会によ る検討資料の作成前年度授業評価項目の平均値が3 . 5 以上の授業 を抽

出し リ ス ト化②①の授業に対する肯定的自由記述一覧の作成③FD 活動交流会 (教員 , 職員 , 院生 ・ 学部生によ り構成) によ る絞り 込みと イ ンタ ビュ ー (対 授業担当教員と受講者)④FD 推進委員会によ る決定

こ のよう に, 教員 , 職員 , 院生 ・ 学部生により 構成さ

れる 「FD 活動交流会」 が選定主体と し て位置づけ ら れ

ており , 教員 だけではな く , 職員や学生の参画が重視さ

れて い る .

授業評価項目の平均評定値が高得点の授業について自

由記述の内容を検討 し て , イ ン タ ビュ ーの候補 と な る授

業を選定する. つまり , 教員 , 職員 , 院生 ・ 学部生の対

話を通 じ て, 評価の高 さの背景と な る事柄を協働的に明

ら かに し よ う と す る取り 組みなのであ る .以上①~ ③まで, 各々の取り 組みが個別の授業改善の

大切さ を大学教員に意識づける上で重要な取り 組みと なっ

てい る こ と を見てき た . 一方で , こ れらは公設の FD 推

進委員会が主導す るがゆえ に ト ッ プ ダウ ン型にな ら ざる

を得ない と いう 矛盾 を抱え てい る . 実際に, 教員個々の

中だけで授業改革を企図す ると いう 枠を越え よ う と し て

設置 さ れた ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ研究会も , 開催 さ れ

た 3 回と も学生を含めて約50名の出席者が得ら れた反面, 大学教員も含めた参加者数は伸び悩んでおり , 全体と し

ての広がり を欠 く も のと な っ てい る . ま た, 研究会への

参加の単位が教員個別 と な っ てい る . そのため, そこ で

検討 さ れた成果を個人の授業改善には活かしやすい一方

で , そ れを交流 し ひいては教育の基礎単位であ る コ ース

等のカ リ キュ ラ ム改善につなげづ らいものと なっ て しま っ

て い る .

1-2-2. 教職大学院 (新設課程) の取り組み

本学教職大学院におけ る FD 活動は, 2007年度に先行

し て設置さ れた 「学校指導職専攻」 と 「教育実践高度化

専攻」 が設置 さ れた こ と に伴い実質的にス タ ー ト し てい

る .

現在までに全授業の教員 と学生によ る統一形式によ る,

97

年 2 回の授業評価と教員によ る改善案の提示, 年 1 回の

在学生へのフ イ ー ドバ ツク , 年 1 回の教育課程評価と , 年 1 回の在学生への フ イ ー ドバ ツク が行われる に至 っ て

い る . と り わけ教員 によ る改善案の提示では, カ リ キュ

ラ ムと授業にかかわる課題を発掘 し , その改善の具体策

を明示す るこ と が目指 さ れてい る .授業評価は質問紙を用いた 1 ~ 5 の 5 件法によ る評価

と自由記述から な っ てい る . 例えば学生によ る 5 件法の

評価の項目は表 4 の通り である .表 4 学生によ る授業評価の質問項目

①こ の科目では, 授業理解を促進させる資料や教材等が, 適宜, 配布 さ れ, わかり やすい授業が展開 さ れ

る よ う に工夫 さ れてい た .②こ の科目では, 授業のねらいや内容の理解 ・ 習得

のために, 必要に応 じて講義形式に加え , 適切な授業方法 ( プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ンや デ イ ス カ ツ シ ヨ ン , ロ ー

ルプ レイ 等) が工夫 さ れていた .③こ の科目では 「理論と実践の融合」 について充分

に配慮 し た授業が行われた.④こ の科目では, 授業の方法や内容に関し て教員間

の連携がな さ れており , 複数教員の担当であ っ て も , 授業内容等の重複がなかっ た.

⑤この科目では, 授業担当教員は授業をより よ く するために, 学生からの意見や提案 を取 り 入れる姿勢 を

示 し ていた .

評価結果の分析にあた っ ては, 数値の平均値 を求める

と と も に, 自由記述は肯定的意見と否定的意見に分類 さ

れた上で , 内容 と数量が一見 し てわかるま と めがな さ れ

てい る . 院生からの授業評価を得 るこ と で教員が自 らの

授業 を内省 し , 今後の授業で何を どのよ う に改善 し てい

けばよいのかを考え る手がかり と な っ てい る .次に, カ リ キュ ラ ム及び授業の改善に向け た取 り 組み

について述べる. この取り 組みは2007年, 文部科学省が

高等教育機関におけ る高度専門職業人養成等の一層の強

化を図るこ と を目的 と し て支援 し た 「専門職大学院等に

おけ る高度専門職業人養成教育推進プロ グラ ム」 に選定

さ れたこ と によ る , カ リ キュ ラ ムの中核 を担う 実習 と多

く の教職大学院が設定 し ている課題研究についての検証

に端 を発 し てい る . こ のこ と から , カ リ キュ ラ ムの中核

を担う 実習と多 く の教職大学院が設定 し ている課題研究

に焦点化 し た取り 組みがな さ れるこ と と な っ た (兵庫教

育大学, 上越教育大学, 鳴門教育大学, 2010) .こ のう ち実習に関 し ては PDCA サイ ク ルを確立 し ,

学生 ・ 教員 ・ 実習校によ る評価を行う こ と で, こ れまで

に次のよ う な課題が把握 さ れてい る .

①事前準備 ( テーマの焦点化や内容の検討等) が不十

分で あ る .

②実習目的に沿っ た実習内容 と な っ ていないケ ースが

あ る .

③共同研究的な取り 組みも満足のでき るレベルには至つ

之示

博伸

藤本

伊松

則成

義和

西

大溝

村田

奧宮

好 美佳緒里

岩山

黒森

ていない .④実習校への貢献も十分でき ていない学生が多 く 見受

け ら れる .

⑤ (実習校によ る評価と し て) 大学院生の実習内容の

あり 方に戸惑い , 共同研究ができ る レベルではない と感

じ てい る回答が見 ら れる .こ れらは主と し て学卒院生に対す る実習についてのも

のであり , その取り 組みの見直 しの方向性と し て次の点

が検討 さ れてい る .

①入学時の実習に対するオリ エ ンテーシ ョ ン (手引き

等を充実 させ実習目的や内容をス ト レート学生向けに別

途作成する等) を充実 させる .②実習に入る際の個別指導と事前準備の支援を行う .③実習中の学生に対するモニ タ リ ングと現場指導 を行

う .④実習校や指導 し ていただいてい る メ ンタ 一 と の密な

る連携を行う .こ れら の成果を も と に, 「実習の手引 き」 の改訂 と そ

の評価結果を集約 し , 実習を受け入れている連携協力校

に還元す る体制が整え ら れてい る .こ れらの実習や課題研究に係る取り 組みは, 大学教員

だけではな く , 院生の参画, 職員 と の協働的な カ リ キュ

ラ ム改善の機会と も な っ てい る . こ のこ と によ り , 現職

教員の院生にと っ ては, 指導的立場を加味 し た参画が期

待で き る も のと な っ た .

しかし , 各授業科目においては次のよ う な課題も生 じ

てい る . 第一に, 授業改善 , カ リ キュ ラ ム改善の主軸が

改善する方向性と課題の提示であり , 具体的に何を どう

変えてい く のかという 改善の具体化は各教員の個人的な

努力に任 さ れてい る と こ ろが大きい点である . 第二に, 仮説設定一 検証一 再仮説設定のサイ ク ルは, 中長期的な

ものになら ざる を得ず, 1 時間単位の授業 を どう 改善 し

ていけばよいのかな ど, 小回り のきいた授業改善が十分

でない点であ る .1-2-3. 大学 ・ 大学院 (従来課程) の取 り組みと教職大

学院 (新設課程) の取 り組みの関係性

以上のよ う に, 大学 ・ 大学院 (従来課程) において手

探り で始めら れた FD 活動は, 2007年度に教職大学院

(新設課程) の取り 組みが 「FD あり き」 で取り 組ま れ

たこ と に触発 さ れる形で進めら れるよ う にな っ た . そ れ

表 5 2015年度の授業研究科目注)

開催回

第 1 回第 2 回第 3 回第 4 回第 5 回

開催日

2015.06.24 2015.07.28 2015.11.25 2016.01.27 2016.03.22

督潤

豊男敏

田内

米山

保志

意和

澤田

長吉

田水

永吉

は, 個々の授業に対 して授業改善のために学生からのフイー

ドバ ツク を制度的に保障す るこ と (「学生によ る授業評

価」 ) と , ア ク テ ィ ブ ・ ラ ーニ ングと い う 概念 を集団的

に検討するこ と で 「授業のあるべき姿」 を創造的に探究 ・

構築 し てい く こ と (「 アク テ ィ ブ ・ ラ ーニ ング研究会」 ) , さ ら には学生の考え る 「 よい授業」 のイ メ ージと , そう

捉え る理由 を析出す るこ と (「 ベス ト ク ラ ス」 の選定 と

その選定理由の公表) を通 じて, 個々の教員の参考に資

す る も のに し よ う と いう 取り 組みであ っ た .こ れらは, 個別の授業改善に焦点づけ ら れるも のであ

り , 個別の授業改善の大切 さ を大学教員に意識づけ る上

で大切な取り 組みである と言え る . それに対 し て, 教職

大学院 (新設課程) の取り 組みは, カ リ キュ ラ ム改善を

も視野に入れて , そのための基礎資料と し て , 学生から

のフ イ ー ドバ ツク を制度的に保障 し よ う と する ものであっ

た . しか し ながら , 提供 さ れた情報を元に, どのよ う に

授業改善やカ リ キュ ラ ム改善 を進めてい く かは, やはり

各教員 , 各 コ ースに任 さ れる形 と な っ ており , そ れぞれ

の改善の工夫が求めら れてい る .そこ で , 本 コ ースでは, こ れら本学におけ る FD の取

組みにおけ る課題を乗り 越え るため, 2015年度より ボト

ムア ッ プ型の FD 活動 と し て , 本 コ ース担当教員 によ る

自主的 ・ 協働的な授業研究を開始するこ と と し た. 先に

触れた田中 (2011) は, FD には, 伝達講習か相互学習

かと いう 区分 と ト ッ プ ダウ ンによ る制度化かボト ムア ッ

プによ る自己組織化かと いう 区分がある と し , こ の 2 つの区分 を クロ ス させ 4 つの類型を見出 し てい る . こ の類

型のなかの, m型 (相互学習 ・ 自己組織化型) を本稿で

はボ ト ムア ッ プ型 FD と よぶこ と と し た . 以下にその取

り 組みを紹介 ・ 分析する .

2 . 自主的 ・ 協働的授業研究によ るボ ト ムア ッ プ

型 FD の試み

2-1. 自主的 ・ 協働的授業研究

本 コ ースにおけ る自主的 ・ 協働的授業研究の趣旨は, ①授業改善を目指す受講生を教えている教職大学院教員

と して, 自分たちも授業研究を通して授業改善に取り 組

む, ②授業研究での話 し合いを通し て, 教育心理学, 教

育方法学, 教育工学, 教科教育学な ど同 じ教育であって

も専門性が少 しずつ異な る本 コ ース担当教員の考え方の

区分 科目名 (授業担当者)専門科目 「授業実践における専門的技能」 (溝邊 ・ 大西 ・ 森山 ・ 永田)共通基礎科目 「授業におけ る学習支援と指導法に関する事例分析」 (長澤 ・ 音水 ・ 溝邊) 専門科目 「 ヵ リ キユラ ムデザイ ンの基礎」 (溝邊 ・ 大西 ・ 森山 ・ 永田)専門科目 「授業実践研究のためのデータ分析」 (森山 ・ 黒岩 ・ 宮田)共通基礎科目 「授業におけ る評価の基準作成理論と学力評価法」 (奥村 ・ 山本)

注) 共通基礎科日 : コ ース共通で履修すべき科目 (他コ ース院生と合同で受講) , 専門科目 : コ ースごと に設け られている科目 (原則 と し て同 じ コ ースの院生のみで受講)

98

教職大学院におけ る ボト ムア ッ プ型 FD 活動の試み

共通理解を図 る , と し た. 初年度と な る2015年度は, 2 か月に 1 回, 1 回 2 時間程度を目安に開催 し た. 話 しや

すい雰囲気 を演出す る ため輪番制で茶菓 を用意 し た . 2015年度に取り 組んだ授業研究は表 5 に示すと おり であ

る .

2-2. 各授業研究の様子

表 6 2015年度 「授業実践における専門的技能」 の流れ

第 1 回 オ リ エ ン テ ー シ ヨ ン

イ ンス ト ラ ク シ ヨナルデザイ ンの考

え方 (本時) 第 2 回 課題分析

第 3 回 学習評価のデザイ ン

第 4 回 教授 ・ 学習過程のデザイ ン

第 5 回 学習意欲 を高めるために

第 6 回 教授スキルと学習支援 (発問のスキ

ル)

第 7 回 教授スキルと学習支援 (板書のスキ

ルと ノ ート指導)

第 8 回 教授スキルと学習支援 (学習指導案

の書き方)

第 9 回 模擬授業の準備

第10~ 15回 模擬授業

第 1 回目の授業研究会で取り 上げた 「授業実践におけ

る専門的技能」 を事例に, 授業研究の方法や内容を紹介

す る . 授業研究では, まず授業者が シラバスや授業 を録

画 し た ビデオな どを用いて , 授業の流れや意図 を説明 し

た. 参加者全員で意見交換を行 っ た. 意見交換の際には, 特に観点な どは用意 し なかっ た. こ の科目は学卒院生を

対象と し , 授業実践に必要な指導技術について基礎的理

解を深める と と も に, 具体的な教材作り や指導案の作成

を始め, 発問 ・ 板書技術 を取り 入れた模擬授業型演習を

通 し て, 専門的技能の習得 ・ 向上をめざし たも のであっ

た. 90分15回で構成 さ れるこ の科目のシラバス (略) は

表 6 のよ う な流れと な っ てい る .

この授業研究で取り 上げた授業は, 第 1 回目のオリ エ

ン テ ー シ ョ ン終了 後の , 「 イ ンス ト ラ ク シ ヨナ ルデザイ

ンの考え方」 (60分) である . 本時の目標は, 授業づ く

り の基礎的な考え方を理解し , 自分がこ れから学ばなけ

ればな ら ない授業 ス キルは どのよ う な も のか考え , 授業

への意欲 を高める , と いう も のであ っ た . 授業の流れは

表 7 の通り であ る .

表 7 第 1 回 「 イ ン ス ト ラ ク シ ョ ナルデザイ ンの考え方」 の流れ

学習内容, 学習活動 指導上の留意点

①イ ンス ト ラ ク シ ヨナルデザイ ンの考え方 (森山) ・ 授業づ く り の考え方

・ 授業づ く り と イ ンス ト ラ ク シ ヨナルデザイ ン

・ ADDIEモデル

・ 受講生から 意見 を引 き出 し ながらすす

め る

・ ス ラ イ ド (配布資料) を用意す る

②自己評価と振り返り (永田) ・ 教員養成ス タ ン ダー ドに基づい て自己評価す る

・ う ま く い つたこ と , う ま く いかなかっ たこ と の具体例を書 く

・ う ま く い つたこ と について発表する

・ う ま く いかなかっ たこ と につい て , マ グネ ッ ト シー ト に書き出す

・ う ま く いかなかっ たこ と を発表す る

・ う ま く いかなかっ たこ と が ADDIE モ デルの どれかに当 てはま るこ と を

理解する

・ こ れから の本授業の意義 を理解す る

・ プリ ン ト 回収

・ 机間指導をする

・ 森山が進行 し , 永田がADDIE モデルに

合う よう 分類する

・ 永田が分類を解説し , 森山が板書する

・ タ ブレ ッ ト で本日の振り 返り を入力 し , e ポー ト フ ォリ オに記録す る ・ タ ブレ ッ ト の操作方法 を説明

第 1 回目授業研究で出 さ れた意見は以下のよ う なもの

であ っ た .

99

田水

保志

意和

澤田

長吉

豊男敏

田内

米山

督潤

岩山

黒森

美里緒

好佳

村田

奥宮

則成

義和

西

大溝

之示

博伸

藤本

③本 コ ース カ リ キ ュ ラ ムについ て

・ 現職院生と学卒院生の授業科目を分けたこ とでメ リ ット が生 じ た面 も あるが, 本授業においてはデメ リ ッ

ト と な っ た . デメ リ ッ ト を補う ための交流のバラ ン

スが大切.

①本時について・ 指名の仕方 , タ ブ レ ッ ト を使 っ て e ポー ト フ ォ リ オ

へ振り 返り を記入 させるこ と が良い .・ ス ラ イ ドの内容につい て , 「授業」 「 デザイ ン」 「設

計」 の定義は, 別の立場から みる と 疑問があ る .・ 今回, 受講生からでた意見を教員が分類し ているが,

ADDIE モ デルについ て講義済みなのだから , 受講生

に分類 さ せ る方法 も あ るのではないか.・ TT の コ ン ビネ ー シ ョ ンが良い . オ ムニバ ス授業 は

評判悪いが, T「 は打ち合わせに時間がかかるので負担があ る . 他科目で T「 については検討が必要であ る .

②本科目 「授業実践におけ る専門的技能」 について・ 現職院生にメ ンタ 一 と な っ ても ら っ たが, コ ラ ボレー

シ ョ ンがあま り う ま く いかなかっ た .

最初は, 本時の方法や内容についての意見交換がな さ

れていたが, 次第に議論の対象が広がり , 科目全体や本

コ ース全体のカ リ キ ュ ラ ムな どに発展 し てい つた . 第 2

回目以降の授業研究においても , 授業研究で取り 上げた

授業のみな ら ず , 科目全体や本 コ ースのカ リ キ ュ ラ ムの

話な どに展開する こ と が多かっ た (表 8 ) .

表 8 各授業研究での意見交換内容

①本時について ②本科目 につい て ③本 コ ース力 リ キ ユラ ムについ て

第 1 回

授業実践に

おけ る専門

的技能

・ 良い点 : 指名の仕方, タ ブレ ッ ト を

使って e ポート フ ォリ オへ振り 返り , TT

・ 課題 : スライ ドの内容, 受講生から

でた意見のま と め方

・ 現職院生に メ ン タ ー と な っ て も ら っ

たが, コ ラ ボレ ー シ ョ ンがあま り う

ま く いかなかっ た.

・ 現職院生と学卒院生の授業科目 を分

け たこ と で メ リ ッ ト が生 じ た面も あ

るが, 本授業 においてはデメ リ ッ ト

と な っ た . ・ デメ リ ッ ト を補 う ための交流のバ ラ

ンスが大切.

第 2 回

授業におけ

る学習支援

と 指導法に

関する事例

分析

・ ねらい : 資料 を分析的に読むこ と . 「 わか っ てい る つ も り」 を ひっ く り

返すこ と . ・ 良い点 : 教材研究の深み. ・ 課題 : どこ を授業の着地点にす るか

と いう こ と の自覚.

・ 院生同士の対話のあり方. そ もそ も

対話は必要か. ・ 科目同士の独自点と共通点は実際に

受講し なければ把握でき ない ? ・ 専門領域の微妙な距離 を , 誰が統合

す るのか ?

コ ー ドの増殖等の用語の扱い (授業実

践開発 コ ースの教員 と し て , 共通認識

し ておかなけ ればな ら ない幅 を どう 考

えるか) . ・ 共通科目ではどの科目で も , 当該分

野の入口程度の内容しか扱えない ? こ れら も カ リ キ ュ ラ ムマネ ジメ ン ト

す る際の視点 .

第 3 回

カ リ キ ュ ラ

ムデザイ ン

の基礎

・ 良い点 : 教育全体計画や年間指導計

画の具体を示し , 教育が計画的に行

われてい る こ と を と ら え やすい構成

にな っ てい る . ま た , 授業の略案 を

作成し , 指導内容を可視化 している. ・ 課題 : 受講生に と っ てな じ みの薄い

内容なので , 授業が説明的にな っ て

い る . ・ 受講生にい く つかの教育計画を示し ,

特徴 を見つけ るな どの工夫があ っ て

も良かっ た .

・ 教育全体計画に基づき , 各時間の授

業が行 われてい る事およ び, 各時間

の成果が教育全体計画の成果につな

が るこ と が確かめら れた . ・ 今後, 受講生が授業を計画すると き ,

授業する単元だけでな く , 前後のつ

ながり や広 く 他教科の計画な ども視

野に入れた授業計画の作成が期待 さ

れ る .

・ 学校におけ る教育活動の経験が, 教

育実習だけの受講生にと っ て , 学校

で行われてい る教育活動に どんなこ

と があ り , そ れぞれに どんな意味や

意義があ るのか を学ぶこ と は, 将来

教壇に立つ受講生にと っ て価値のあ

る こ と であ る . そのため , 知識 を増

やし ながら , その知識を具体的に使

う 場を設定し , 実習で使え るよ う に

す る こ と が大切であ る .

第 4 回授業

実践研究の

ためのデ ー

タ分析

・ 良い点 : Word フ ァイ ルを直接画面

に提示す る方法, ワーク シート 形式

の レ ジュ メ . ・ 課題 : 教師がパソ コ ンを操作 し てい

る時間を短 く する, 有効数字の桁数

を揃え る , 「母集団」 「標本」 な ど前

に出てき た言葉を積極的に使う .

・ 後期の授業期間中の実習を予定して

いた受講者から , 「尺度構成法の回

をも っ と早い時期にし てほしかった」

と の要望があ っ た .

・ 量的研究だけでな く , 質的研究のや

り 方 を扱 う 授業 も あ る と よ い . ・ 受講者から , 「前期のう ちから文献

研究が始ま るため, 前期のう ちに統

計記号の意味 を教え てほしい」 と い

う 要望があ っ た .

第 5 回

授業におけ

る評価の基

準作成理論

と学力評価

・本時 : ルーv リ ッ グ作成ワ ー ク シ ヨ ツ

プ . ・ 子 ども の作品が どのよ う な目標 ・ 指

導のも と 生み出 さ れたかを どこ まで

院生に伝え るか. ・ 授業後の作品 をも と にしたループリ ッ

O作り をループリ ッグ 「作り」 と呼

ぶこ と の妥当性.

・ 現職院生向けの授業ではあ るが, も

し学卒院生向けに実施するとすれば, どのよ う に差異化 し う るか.

・ 本授業は, 他 コ ースと の共通科目で

あ るため, そう し た議論はなかっ た. ただ し , コ ース と し て見 た際に , 量

的研究についての授業が多い中で , 本授業は質的研究での, 子 どもの学

力 を評価す る在り方についての授業

と 位置付け ら れる .

100

教職大学院におけ る ボト ムア ッ プ型 FD 活動の試み

2-2-3. 授業及びカ リ キュ ラ ムの改善

(1) 授業改善の取組み

授業研究で取り 上げた授業は個々の教員が改善に取り

組むこ と にな っ た. 各授業研究を受けての改善点は表 9 の通り で あ る . なお , 「 ヵ リ キ ユラ ムデザイ ンの基礎」

は担当者が転出と な っ たため, 授業改善には反映 さ れて

いない .表 9 各授業研究を受けての授業改善点

科目名 改善点

授業実 践にお

け る専

門的技 能

・ スライ ドの内容を再検討 し修正 し た. また, 受講生から でた意見のま と め方 を , 帰納法 的に分類する方法から演擇法的な ものへと

変更するこ と と した. ・ 現職院生によ る メ ン タ リ ン グについ ては ,

「 メ ン タ リ ン グの理論 と 実践」 と の連携 を さ ら に密に し , 実際のメ ン タ リ ン グ時間は

「教育実践課題解決研究」 において確保す るこ と と し た .

授業に おけ る

学習支 援と指 導法に 関する 事例分 析

課題は, コ ースの教員の専門性の幅を考慮に

入れ, でき るだけ多 く の教員に共通する知識 基盤に立脚でき るよう に授業内容を捉え直す こ と と し た . そのため, 今回の授業で扱 っ た

解釈 コ ー ドの増殖 と い う 概念や コ ー ド シス テ

ムの多元化は, 授業分析をすると きの枠組み と なり 得 るこ と から , その概念は授業内容と

し て残 し たが, 資料から コ ー ドの増殖等の概

念を帰納的に導 く のではな く , 予めコ ー ドの

増殖という 概念を提示 して, それを授業分析 に活用でき るかどう かを確認す る授業へと変

更 した.

授業実 践研究 のため

のデー

タ分析

①本時の課題の 3 点は, 授業技術を工夫する こ と で対応可能であっ たため, 直後の授業で

改善 し た. ②次年度の授業内容の順序 を入れ 替え, 尺度構成法を前半 (10月中) に扱う こ と に し た . ③統計記号の意味の解説について

は, 前期の課題解決研究の時間に 1 時間扱い で行う こ と に した . 質的研究法の解説につい ては, 課題解決研究の時間で扱う 案も あ っ た が, ま だ実現で き ていない .

授業に おけ る

評価の 基準作 成理論

と学力 評価法

・ ル ー v リ ッ グ作成ワ ー ク シ ヨ ツプの際に , 院生が, 授業者の目標に捉われずに評価 を

行う と し て も , その実践に関わる情報 (大 まかな目標 ・ 指導な ど) はも う 少 し丁寧に

伝えたい . ・ そのためにも , ループリ ッ グ作 り を行う 作

品 を , 自身が関わっ た授業のも のから 選び

たい .

(2) カ リ キュ ラ ム改善の取組み

さ ら に, 本 コ ース全体のカ リ キュ ラ ム改善 と し て2016 年度は次の点に取り 組むこ と と し た. まず, 現職院生向

け科目と学卒院生向け科目での交流の強化である . こ れ

まで も現職院生向け 「 メ ンタ リ ングの理論と実践」 と学

卒院生向け 「授業実践における専門的技能」 をコラボレー

ト さ せ, メ ン タ リ ン グを学修中の現職教員が, 「授業実

101

践におけ る専門的技能」 で模擬授業を準備中の学卒院生

のメ ンタ 一 と なり , ア ドバイ ス を し てき た . しか し両者

の交流の時間の確保の問題が指摘 さ れていた. そこ で , 2016年度は本 コースのコア科目である 「教育実践課題解

決研究」 の一部 を , メ ンタ リ ングの時間 と す るこ と と し

た .加えて, コア科日 「教育実践課題解決研究」 はメ ンタ

リ ン グの時間のみな ら ず, 全体的に内容や方法 を改善す

るこ と と し た. 2009年度からは, 共通の学びをでき るだ

け少な く し , 個別ゼミ を早めるこ と で個々の研究は進ん

だものの, 一方で院生同士の交流が薄れる と いう 問題が

指摘 さ れてき た. そこ で, 2016年度は, 個別ゼミ は例年

通り , 早 く 始める と と も に, それと並行 し て共通の学修

も前期 を通 し て実施する こ と と し た.

2-3. 授業研究の成果と課題

授業研究会に参加 し た教員に, その成果と課題につい

て自由記述で回答 を求めた. 回答 さ れた記述を帰納的に

分類 し , 授業研究会の成果と課題について検討 し た.2-3-1 . 授業改善やカ リ キュ ラ ム改善に関する成果

その結果, 最も直接的な成果と し て, 上述し た通り , 参加者の授業改善やカ リ キュ ラ ム改善に対す る意識を高

める効果が確認でき た. 授業改善に関する自由記述を以

下に示す .

教え る内容に関す る議論の他に, 技術的な ア ドバイス も受け ら れたため, 次の時間にす ぐに生かすこ と

ができ ま し た. 議論 さ れた内容に関 し ては, 授業改

善に役立てたい と考え ています .VTR を見るこ と で , 自分の話 し方のく せな どにも気づ く こ と ができ , 自分の未熟 さ を知るこ と ができ ま

し た.対象が同 じ院生たち なので , 各々の先生方の具体的工夫がほぼそのまま使え る (あ るいは少 し改変す る

と使え る) のであり がたい .同 じ場面でも , 先生方から多様な考え を教えて頂けたこ と が大変参考になり ま し た.一人で考えていると どう しても思考が単一化 して しまい, 新 しい発想 (工夫) が生ま れに く い . あるいは自己評価が過大評価にな っ たり 過小評価にな っ た

り するこ と を是正 しても らえ る. その点, 違っ たべ一

ス を持 っ た研究者の コ メ ン ト は , ブ レ ーク スルーを

得 るき っ かけ にな る .自分だけでは気が付かなかっ た点 (専門性の偏り ) を指摘 し て も ら え る .授業研究で様々な指摘を頂き , 新 しい視点をえたり , 異なる角度から自分の授業を振り 返るこ と ができ , 授業改善の具体的な方向性をつかむこ と ができま し

た .自分のこ だわり の相対化デイ ス カ ツシ ヨ ンす るこ と で , 授業に対す る羅針盤のよ う な も のが心の中に生ま れたよ う です .教材を改良 し たい . す ぐには無理かも し れないが.

之示

博伸

藤本

伊松

則成

義和

西

大溝

村田

奧宮

好 美佳緒里

カ リ キュ ラ ム改善に関す る自由記述を以下に示す

岩山

黒森

カ リ キュ ラ ムの全体像が少 しずつではあるが見え て

来た . → カ リ キュ ラ ム改善につながっ てい る

同 じ コ ースの教員での検討会なので , その結果を自

分の授業改善と いう 視点だけではな く , コ ース (専攻) のカ リ キュ ラ ム改革につなげるこ と がで き るこ

と .他の授業 について シラバスだけ で わから ない授業内

容の重複 ・ 欠落を知 るこ と ができ , その調整が可能に な る .大学の講義やカ リ キュ ラ ムが, 固定的な も のではな

く , ダイ ナ ミ ッ ク に変化 させう るこ と , また変化 させ改善 し てい く べき であ るこ と がわかり ま し た.私は教職大学院創設時からい るわけではないので , こ れまでのコ ースの様々な取り 組みや, 紆余曲折を

聞け るのが興味深いです.コ ースのカ リ キュ ラ ムと いう よ り 高次の視点で見 る

と , コ ースの他の先生方の考え方 も知 つてお く 必要

があり ます. 研究会では, そう し た個々の先生の教材観, 指導観を聞 く こ と ができ るため, 授業 をつ く

るう えで大変参考にな っ ています.

こ れらの自由記述からは, 授業研究会が参加者に授業

改善に対する自己省察と新 しい視点の獲得, 授業改善に

取り 組む意欲の高ま り を も た ら し てい たこ と が読み取 れ

る . また, 授業研究会での討議 を通 し て, 個々の授業の

位置づけが明確化 さ れ, 本 コ ース専門科目のカ リ キュ ラ

ム改善について具体的な方向性が確認でき たこ と が読み

取れる . こ れら の成果はと も に, 授業研究会のねら い と

直接的にリ ンク し たも のであり , その意味において得 ら

れた感想は所与の効果を示す ものであると考え るこ と が

で き る .

2-3-2. 教員集団の形成に関する成果

さ ら に, 上記以外にも , 教員集団の形成に関わる次の

よ う な成果を確認す るこ と ができ た .(1) 知識基盤の共有化

まず, 授業研究会が本コ ース担当教員 と し て持つべき

知識基盤を共有化 し たり , 各自の固有性を再確認し たり

す る機会にな っ ていた点であ る . 関連す る自由記述を以

下に示す .

共有でき る考え方が思いのほか, 多かっ たこ と , 同じよ う な意図の指導を他の先生方がご自身の授業でさ れてい るこ と を知 れたこ と な どが収穫で し た .有意義である. 自分の考え を整理し , 形を与え る点で も .何よ り 純粋に私自身の他分野についての知見が増え , 大変勉強にな っ てい る .教育研究者同士の集まり なので, 自分の授業をどのよ う な意図 (理論) で作 っ てい るのかを具体例と と

も に知 れるのは , 良い刺激にな る .自分が知 ら ない こ と を , みな さ んた く さ ん知 つてお

ら れるので , 勉強せねば, と思わさ れる し , 具体的

102

督潤

豊男敏

田内

米山

保志

意和

澤田

長吉

田水

永吉

な情報を得 るこ と ができ た.様々な意見を交流する中で, 自分の授業の役割を コースのカ リ キュ ラ ム全体の中で相対的に捉え る こ と ができ るよ う になり ま し た.自身の位置付けへの気づき . 他の先生方の専門性を理解す るこ と で , 自身の位置付け も少 しずつク リ アにな っ て き た .共通性への気づき .自分 と同様の内容を他の授業で も行っ てい るこ と の気づ き にな っ た. そ れを活かす形で , 授業 を組みた

こ れらの自由記述からは, 一人ひと り の教員が, 授業

研究会での議論を通し て, 本 コースの中で自ら果たすべ

き役割 を自覚するよ う にな っ ていたこ と が推察 さ れる . (2) 同償性の構築

次に, 授業研究会を通して教員間の人間関係が深まり , 本 コ ース担当教員 と し ての同僚性の構築が促 さ れた点で

あ る . 関連す る自由記述を以下に示す .

自主的にやっているという ボト ムア ッ プ感から, フ ォー

マルな会議 と は異なり , リ ラ ッ ク ス し た雰囲気の中

で 「時間 を忘 れて」 デイ ス カ ツシ ヨ ンがで き る こ と

が良かっ た と 思います .自分 (たち) だけであれば, 問題に気づいていても , 忙 し さ にかまけ て , まあいいかと放置 し たり 適当 に

す る可能性も あ るが, ご指摘いただいたこ と だけ に

き ち んと対応せねばと 思う .前よ り も , コ ースの先生方 と仲良 く な れたよ う な気

がします.研究会の場面だけでな く , 日常的に FD について色々話がで き るき っ かけ にな っ てい る .それぞれの授業に対す る先生方の思いや考え方を知るこ と ができ た し , 知 つても ら う こ と ができ た .以前に比べて対話の量が増え , それぞれの先生の良さやがんばり によ り 一層気づ く こ と ができ た.

こ れら の記述からは, 協働的な授業改善の取り 組みが

互いの認め合いにつながり , 日常的な会話の増加を伴っ

て同僚性 を高めたこ と が読み取 れる .(3) 院生に対する指導やア ドバイ スの的確 さ

さ ら に, 授業研究の討議の中で語ら れる院生の姿を共

有化す るこ と によ っ て, 個々の授業の中での院生に対す

る指導やア ドバイ スの的確 さが向上 し た点が挙げら れる . 関連す る自由記述を以下に示す.

学生の (把握し ていない) 様子を知 るこ とができ た. 教職大学院において , 学生 さ んに身 につけ てほ しい

力量や , 目指 さ れる姿のイ メ ー ジが様々なバリ エ ー

シ ョ ン を伴 っ て具体的にな っ た .強みを活かし た連携のしやす さ . 例えば, 学生に対し て も , こ う い っ た点はこ の先生に相談に行 く と いいよ な どの助言が しやす く な っ た .

教職大学院におけ る ボト ムア ッ プ型 FD 活動の試み

こ れら の自由記述からは, 知識基盤の共有化や同僚性

の高まり を背景に, 院生指導に対する目標観の共有化や

教員間の役割分担の自覚化が図られ, 教員が 「チーム」

と し て院生指導にあた る素地を生み出 し てい たのではな

いかと考え ら れる .2.3.3 授業研究会の課題

一方, 自由記述からは, 今後の展開に向けた課題も指

摘 さ れた .

(1 ) 授業研究の質の深まり に関する課題

第一 に, 授業研究の質の深まり に関す る課題である. 関連す る自由記述を以下に示す .

昨年検討 さ れなかっ た科目や, 同 じ科目の他の時間

の授業も引き続き検討 し ていき たいです. さ ら に, 昨年検討 さ れた授業について, どう 改善 しその結果どう だ っ たかについ て も , 議論 し てい き たいです . どう し ても授業者自身が意識し ている部分 しか示せない し , 従 っ て 「隠れた カ リ キュ ラ ム」 部分にまで

検討が及ばない .今の形態と平行 し て, 各授業への参与観察な ども盛り 込み, 担当教員の意識の及んでいない部分にメ ス

を入れら れるよ う に し てい く こ と を考え て も いいか

も し れない .「改」 の可能性はある程度見込むこ と はでき るが,

そ れが 「善」 と な るのか, 思案中.

上述し た通り , 授業研究会では, 教員の授業改善やカ

リ キュ ラ ム改善の意識を高める成果を得 るこ と ができ た. しかし , それは, FD 活動 と いう 観点から見れば PDCA サイ ク ルのス タ ー ト ラ イ ンに立 つたに過 ぎない . ま た ,

現状では, カ リ キュ ラ ムの改善 と い っ て も , 顕在的な学

習内容の重複の回避や系統的な積み上げ方に焦点 を当て

たケースが大半である . 上記の指摘にあるよ う に, 授業

研究会を継続す る中で , 授業改善やカ リ キュ ラ ム改善の

質 を さ ら に深めてい く こ と が重要であ る . その上で , 「隠れた カ リ キ ュ ラ ム」 や 「目指すべき授業やカ リ キュ

ラ ムの方向性」 (「改」 だけでな く 「善」 の部分) につい

て も検討 を進めてい く こ と が求めら れる .(2 ) 授業研究会への参加に関する課題

一方で, 教員全員が多忙な中で, 限ら れた時間にしか

授業研究会を開 く こ と ができ ないため, すべての授業研

究会にすべての教員が参加す るこ と ができ ないのが現状

である . こ のこ と について指摘 し た自由記述を以下に示

す .

多忙な中で時間を設定するため, 参加者がまちまちにな っ たり , 参加 しやすい方, さ れに く い方が生 じて し ま う こ と に課題を感 じ ていますが, そ れはそ れ

で仕方ないこ と かも し れません.理想的には (毎回でな く て も) 先生方みな さまに来ていただけ ると , よ り 良いのかなと は少 し だけ感 じます .

103

全員参加が難しい点. 勉強せねば, と思う け れども一人では難 しい新 しいこ と についてみんなで勉強会な どができ る と う れしい .

恒常的な全員参加が難しい状況では, 参加者が固定化さ

れたり , 参加頻度の高 く ない教員が, 授業研究会での議

論についていきづ ら く な っ たり す る可能性がある と危惧

さ れる . ボ ト ムア ッ プ型の FD 活動で あ るが ゆえ に , 参

加する教員の本務に支障をきたすよう な時間設定や負担

を強い るこ とはでき ない . 授業研究の質 を深めつつも , より多 く の教員が参加しやすい継続的な取り 組みへと発

展 させるこ と が, 次年度に向けた大き な課題である と考

え ら れる .

小結

以上, 本稿では, 前半で, 現在の教職大学院の FD 活

動が抱えている共通の課題 (義務化や制度化の弊害と し

て , FD 活動がイ ベ ン ト的にな っ てい るこ と ) を確認 し

た . そ し て , そ れが本学において も自覚 さ れており , ア

ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ研究会やベ ス ト ク ラ ス選定 と い っ

た形で組織的 , 協働的な FD 活動の模索が為 さ れてい る

ものの, その取り 組みは公設の FD 推進委員会が主導す

るがゆえ に ト ッ プ ダウ ン型にな ら ざる を得 ない と い う 矛

盾 を抱え てい るこ と を確認 し た . そ し て後半では, こ の

よ う な課題を克服す るこ と も 視野に入れて始めら れた本

コースにおけ る自主的 ・ 協働的授業研究活動について紹

介 ・ 分析 し た. その結果, 初年度の成果と し て, 個々の

授業改善が行われた上, 本 コース教員の考え方が共有 さ

れ, 同僚性の高ま り のも と , 本 コ ースのカ リ キュ ラ ム改

善にまで着手でき た. こ のこ とは, FD 活動をボト ムア ッ

プ的に自己組織化するこ と によ っ て, こ れまでの課題を

克服す る糸口 を得たものと考え ら れる.次年度は, 他大学の教職大学院での取り 組み事例も参

考に しつつ, 本年度に策定 し た授業やカ リ キュ ラ ムの改

善効果の検証, 授業研究の質の向上, 参加 しやすい継続

的な取り 組みの工夫等の課題について検討 を進めてい く

予定であ る .

附記

本稿の内容の一部は, 教育日標 ・ 評価学会2016年度中

間集会 (2016年 6 月, 兵庫教育大学) , 平成28年度日本

教職大学院協会研究大会 (2016年12月, 早稲田大学) に

て発表 し た.なお, 本研究では平成28 ~ 30年度科学研究費補助金

基盤研究 (c ) 「現職院生と学卒院生のシナ ジー 効果を通

し て授業力 を高め る現職大学院の カ リ キ ュ ラ ム開発」

(代表 : 伊藤博之 課題番号16K04473) の一部を使用 し

た .

参考 ・ 引用文献

田中毎実 (2011) 「日本の FD の現在一なせ ? , 相互

研修型 FD なのか? 」 , 京都大学高等教育研究開発セ ン

タ ー編 『大学教育のネ ッ ト ワーク を創る一 FD の明日へ』, 束信堂.

兵庫教育大学, 上越教育大学, 鳴門教育大学 (2010) 『教職大学院の実習等の FD システム共同開発~ 大学と

教育委員会 ・ 学校の 「互恵モデル」 の構築~ 成果報告書』, pp20-21

104